壊れた鏡

初投稿になります。
小説は趣味程度にしか書いたことが無いのですが、この物語は前々から書きたいと思っていたものなので楽しんで書くことができました。
少し病み表現がありますので苦手な方はご注意ください。

 14年前のふわふわと雪が舞う夜、私たちは名家、クライン家の娘として生まれた。
私たちは双子だった。一卵性双生児で髪の毛も目の色も顔も何もかもがお揃いだった。その筈だったのに…。
神さまは私たちに残酷なことをした。アビィ…私のお姉ちゃんは遺伝子異常のアルビノ。雪のように真っ白な肌と髪、血のように真っ赤な瞳、という外見で…最初見たときママはショックで気絶してしまったらしい。
一方私は金髪に青目でパパとママと同じ色をもらった。
顔は同じなのに色だけが違う私たち二人は両親から差別されて育つことになる。
 
 5歳の頃――「ねぇママ、私もニコルと一緒にお外で遊びたい」
「ダメよ。あなたは外に出てはいけないってお医者様に言われてるのよ。それにあともう少しでピアノの先生がいらっしゃるわ」
「…はい…」
「ねぇねぇお姉ちゃん見て!キレイなお花だよーっ!」
私がそう言うとお姉ちゃんはガラスの窓の向こうで寂しそうに手を振った。
そう…お姉ちゃんはお日様に当たると病気になってしまう体…。
外に出られないお姉ちゃんはいつもお家の中で勉強ばかりさせられていた。
私は欲しいものは何でも買ってもらえて好きなだけ遊ぶことができたけど、お姉ちゃんのことを考えるとそんなのちっとも嬉しくなかった。
私はお姉ちゃんとお揃いがいいのに…。

 7歳の頃――「わーいっランドセルだっ!パパ、ママ、ありがとう!」
「素敵よ、ニコル」
「よく似合っているぞ、ニコル」
小学生になる頃、私はランドセルを買ってもらった。お嬢様学校指定のランドセルはキレイな茶色でかっこ良かった。
姉と共同の自室に戻っても嬉しくて何度も肩にかけては鏡を見た。そんなとき…
「あれ?そういえばお姉ちゃんのは?」
「私は…学校には行けないの…。」
そう言うとお姉ちゃんはわっとその場で泣き崩れた。
「どうして?どうしたの、お姉ちゃん」
「マ…マがね、アビィはお外に出ちゃダメだからっ…学校にも行っちゃダメなんだって…。」
「えっ?じゃあお勉強はどうなるの?」
「家庭教師の先生を…特別に雇ってあげるからっ…安心しなさいって…。でも…私もニコルと一緒に学校に行きたいよぉぉ…」
ショックだった。お姉ちゃんと2人で一緒に学校に行くことは私も待ち望んでいたことだったから。泣くお姉ちゃんを見ているうちに嬉しさはどこかへ吹っ飛び、気が付くと私も泣いていた。2人で泣き疲れて眠るまで泣いた。

 そんな不幸な私たちもそれぞれの生活を歩み始めることになる。
私は毎日学校に通い、勉強や部活動に打ち込んだ。お姉ちゃんはお姉ちゃんで家庭教師の先生との日々をお家で過ごした。
私は学校から帰ってくると友達とも遊ばずによくお姉ちゃんに勉強を教えてもらった。
私より早く勉強を始めたお姉ちゃんはとても頭が良くて、いつも私の憧れだった。
お姉ちゃんの真白な髪も真っ赤な瞳もとてもきれいで大好きだった。
色は違うけど顔は同じ。完璧にお揃いになれなくっても一緒にいるだけで私は幸せだった。
 
 13歳のある日――「ねぇ、ニコル、ボ…僕と付き合ってくれないかな…?」
「えっ!?」
学校の門を出て家に帰ろうとすると隣にある男子校のピーターと言う男の子が話しかけてきた。ピーターとは私の通うお嬢様学校とその隣にある名門男子校が共同で開催したダンスパーティで会って以来だ。そういえば一緒に踊ったかしら…。
「あの…えと…その…あのとき君に一目惚れしちゃって…。ねぇ、ダメかな…?」
恋愛か…顔も悪くないしいいかもね。
「え…ええ、いいわよ」
言ってしまった。
「本当に!?やったぁ!!!」
すかさずピーターがこう叫んだ。
私は笑った。ピーターも笑った。

 それからというものピーターは学校の帰り私の家まで付いてくるようになった。
いつも門の前までおしゃべりして「じゃあね」と手を振って別れた。
そんな私たちの様子をお姉ちゃんも見ていたらしい。
「あの男の子は誰?」
「えっ、ピーターのこと?私のボーイフレンドよ」
「ふーん、やるじゃないニコルったら!」
「やめてよお姉ちゃんてば!告白は向こうからだったのよ。私は話に乗ってあげただけよ」
「それにしては楽しそうだったじゃないの。あっそうだ、今度あの子、家に入れてあげなさいよ」
「うーん、考えとく」
「もーっニコルったら!!」
そんなことを話しながらキャアキャアはしゃぐ。
きっと双子にしか出来ないことだよね。
 そしてピーターが家に来る日。私はなんだか落ち着かなかった。
髪の毛は乱れてないかしら?この服変じゃないかしら?
鏡の前でそわそわする私をお姉ちゃんはただ笑った。
 ピンポーン!玄関のチャイムが鳴る。ドアを開けるとバラの花束を持ったピーターが緊張した顔で立っていた。
「や、やあニコル」
「ハーイ、ピーター、いらっしゃい」
「こちらへどうぞー」
「ど…どうも…」
ピーターを客間に通してしばらく他愛のないおしゃべりが続いた。でもしばらく経つと話題もなくなり、気まずい雰囲気が流れ始めた。そんなとき…。
コンコン、というドアをノックする音。「どうぞ」と私が言うと、お姉ちゃんがお茶とお菓子を持って入ってきた。
「初めましてピーターくん。ニコルの双子の姉のアビィです」
お姉ちゃんは自己紹介をするとニコッと笑った。
「ど…どうも、初めまして」
ピーターの顔が赤くなっている。突然の双子の姉登場に驚いたのだろうか。それとも…。…ううん、そんなこと考えちゃダメ。
「ありがとうお姉ちゃん。ねぇ、よかったら一緒にお茶しない?」
「あら、そんなの2人に悪いわ…」するとピーターが
「どうぞ座って下さい。お姉さんともお話してみたいです」と言った。
 それから2時間くらい私たちは3人で楽しくお茶をした。
ピーターはお姉ちゃんの外見が珍しかったのだろう。じーっと見つめては目を伏せ、を繰り返していた。
でもあえてその外見について聞くことはなかった。
 そしてピーターが帰る時間。
「今日は楽しかったよ、ありがとう。あの、よかったらコレ…」
「まあ、ありがとう」
それは来たときに持っていたバラの花束だった。
「それじゃあまた!!」
こういうのに慣れていないのだろう。ピーターはまたもや顔を真っ赤にして帰っていった。
「カワイイじゃない、彼」
「そうかしら?」
私はこのときお姉ちゃんの気持ちに気付いてあげられなかった。いや、気付くべきだった。そのことを私は後々後悔することになる。

 14歳の誕生日――「ハッピバースデートゥーユー」の歌の後、私たち双子は一緒にローソクの火を吹き消した。
パパとママ、そしてピーターや学校の友達を招いての誕生日パーティ。
1年の中でも一番大好きな日…。私たちは14歳になった。
「ねぇパパ、プレゼントは?」
「ああ、もちろんあるよ。はい、こっちがアビィのでこっちがニコルのだ。約束していたお揃いのワンピースだよ」
手渡された包みを開けると可愛いリボン付きのグリーンのワンピースが入っていた。お姉ちゃんのは真白でドレスのようだ。
「もうっ!色もお揃いにしてって言ったじゃない、パパったら…」と私がだだっ子っぽく言ってみると、
「いや、お前たちそれぞれの髪と目の色に映えると思ってな。ホラ、アビィは赤目だから赤いリボンがよく似合うだろう?」とパパが言った。
確かに――そうかもしれない…。
まあお姉ちゃんも喜んでるみたいだしいいか…。
私はすぐに忘れてパーティを楽しんだ。
 夜、パーティも終盤になったころ、私はトイレに行きたくなってクライン家の長い廊下を歩いていた。
と、急にかすかな話し声が聞こえた。私は話し声が聞こえる部屋のドアを小さく開けてのぞいた。
そこにはピーターとお姉ちゃんがいた。
「ねぇ、どうして私じゃダメなの?」
「君は確かに素敵だよ。その銀色の髪も真っ赤な瞳も大好きだ」
「じゃあどうして?私は…私はこんなにあなたのことを愛しているのに…」と泣き崩れるお姉ちゃん。
「…ごめん。いくら双子で同じ顔でもボクの初恋の人はニコルなんだ。だからこれでゆるして…」
ピーターはそう言うとお姉ちゃんのほっぺにキスをした。
ピーターがこっちに向かってくる…。早く隠れなきゃ。
私は素早く隣の誰もいない部屋に隠れた。
…そうか、お姉ちゃんもピーターのことが好きだったんだ…。
隣の部屋でお姉ちゃんが泣いてる声がする。
何で…何でもっと早く気付いてあげられなかったのだろう。
私の幸せなんていくらでもお姉ちゃんにあげる。お姉ちゃんの幸せが私の幸せなのに…。
私は恋人という甘い存在に浮かれたいた自分を呪った。

次の日あたりぐらいだろうか、お姉ちゃんの様子がおかしくなり始めたのは。
初めはブツブツ独り言を言うだけだったのにだんだんそれもひどくなって、しまいにはカミソリで自分の腕を切るようになってしまった。
私が「何でそんなことするの…?痛いでしょ?」と言うと、虚ろな目で笑っては
「痛くなんかないわよ…。こうしてるとね、落ち着くの…」と言った。
そして次第にそれもなくなっていき、ついにはベッドで寝込むようになってしまった。
私が学校から帰ってきても「お帰り」も言ってくれないし何も話してくれない…。
ただただ、ベッドで虚ろな目をして横になってるだけ…。
そんなお姉ちゃんを見てると私は悲しくなった。
お姉ちゃんをこんな風にしてしまったのは私のせいだ…。
そう思ってただひたすらに自分を責めた。

 そしてある日、学校から帰ってくると…何故か家の中はシーンと静まり返っていた。
パパとママが仕事で家にいないのはいつものことだが使用人とかお姉ちゃんがいるはずだ。それにしても静か過ぎる…。
私は胸騒ぎがしてあわてて家の中に入った。すると…
「ヒッ!!な…何よ…コレ…!!」
使用人が胸から血を流して倒れていた。すでに息は無い。
「い…一体誰がこんなことを…!!」
「私よ」
その声に振り向くとお姉ちゃんが包丁を持って私のすぐ後ろに立っていた。
誕生日にもらったあの白いドレスのようなワンピースは返り血で襟元ののリボンと同じ赤色に染まっている。
どこを見ても赤、赤、赤…。
「どうして?何でこんなこと…ヒッ!!」
お姉ちゃんが私の喉に包丁を突き立てた。
「ニコル、愛してる…。だから死んで?」
お姉ちゃんの笑顔そして私の喉から飛び散る赤色…。
そうか、私は死ぬんだ。ごめん、お姉ちゃん。お姉ちゃんの気持ちわかってあげられなくって…ごめん…ごめん…ごめん…。
薄れゆく意識の中で私は何度もお姉ちゃんに謝った。


――まぶしい…。誰かの話し声がする…。ここは…どこ?
そっと目を開けるとママがわっと泣きながら抱きついてきた。パパも泣いている。
「良かった…。本当に良かった…!このままもう目を覚まさないかと思ったのよ…。」
「え…?私、死んだんじゃなかったの?ここは…どこ?」
「奇跡的に助かったんだそうだ。ここは病院だ。お前は生きているんだよ」
「お姉…ちゃんは…?」
私がそう言うとパパもママも口をつぐんでうつむいてしまった。
「死んだよ」とパパ。
「お前を刺した後自分で自分の喉を包丁で刺して…な…。」
「えっ…えええっ…そ…そんなっ…う…うわぁぁあんお姉ちゃん…!!」
涙が止まらなかった。双子の片割れを失った悲しみと、お姉ちゃんがどんな思いで死んでいったのかを想うと…。

 退院後、お姉ちゃんのいなくなったクライン家は重い空気に包まれていた。
パパの表情も暗く、ママは毎日のように泣いている。
きっと後悔しているのだろう。何でもっと愛情を持って育ててやれなかったのかと。
今頃わかってももうお姉ちゃんはこの世にいない。
私もお姉ちゃんの悲しみに気付いてあげられなかったことを後悔した。
そして、それは全てこの恵まれた外見に生まれたばかりに姉以上に愛されて育った私自信が元凶なんだとも思った。

だから―――私もお姉ちゃんのところに行こう。
私たち双子は壊れた鏡。こんな鏡割れてしまえばいい。
ごめんね、ごめん、お姉ちゃん。全部私のせいだね…。
今から私もそっちに行くからゆるして…。

私は14階建てのアパートの屋上にのぼった。

青い空。よく晴れてるのに粉雪が降っている。そういえば私たちが生まれたときも雪が降ってたんだっけ…。風が…気持ちいいなぁ…。
ああ…なんて私は幸せなんだろう。
これでまたお姉ちゃんと会える。
お揃いだね。

私は屋上から地上めがけてジャンプした。

―――ねえお姉ちゃん、次に生れてくるときは私たち、全部お揃いがいいね―――

壊れた鏡

まず最初に一言。
こんなに拙い作品を読んで下さってありがとうございます。
この作品は生まれつき髪や瞳の色が違うがために不幸な人生を歩むことになる双子の物語なのですが、
作品を書くまでこの作品に出てくる「アルビノ」が人間にも存在することを私は存じませんでした。
そしてそういった人たちが日光に当たることができないということも…。
小説を書く上で下調べは大切なことなのいだなぁと実感させられました。
 この作品に出てくるアビィとニコルという双子姉妹は私のオリジナルキャラクターですでにどういう容姿なのかもイラストに描いて決定しています。
私のサイトでもこの姉妹は人気者で特に姉の方のアビィが「ヤンデレ」という設定のせいか人気があります。
私自身あんまり明るい性格ではないので暗い設定や死ネタ、悲劇などが好きだったりします。
これからもこういった作品を書いて行くかもしれませんが、どうぞ私、夢路るいをよろしくお願いします。

壊れた鏡

雪の降る夜、名家、クライン家の娘として生まれた双子の女の子たち。 しかしその運命は残酷なものでした…。

  • 小説
  • 短編
  • ファンタジー
  • ホラー
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2011-02-13

Copyrighted
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