貧血に砂糖を溶かして、生きる。

貧血に砂糖を溶かして、生きる。

貧血に砂糖を溶かして、生きる。


朝。
朝が来てしまったことよりも
朝に追われながら
無理矢理にブラックコーヒーを飲んで
案の定の胃痛をぶら提げて
あの訳の分からない臭いが立ちこめる
密室空間へ飛び移ることが嫌で
嗚呼、このまま目の前が真っ暗になって
どうにでもなってしまえばいいのにって
思いながらなんとか踏ん張っている自分がもっと嫌で。

私の味覚は何を食べてもおいしい
一人で食べてもおいしい
どこで食べてもおいしい
なのにあなたは味がしないなんて言うから
私はすかさず
「ブラックコーヒーの飲み過ぎだ」なんて言う

そう、もう、大人に成ってしまったのだから
どうしようもなく大人に成ってしまったのだから
あれもこれもどれもそれも
みんな全部が当たり前

その当たり前が出来ていないことに気づいて
私の視界は霞み始める

「大丈夫ですか」なんて
知らない人に言わせたくない
身近な人にも言わせたくない
遠慮と罪悪感は私の左心房史上最強だ

だから握る
右手で、左の手首を
握ってひねって時々つまんで
角砂糖がほろほろと崩れていくように
私の左手はほろほろと崩壊する

少し肩が軽くなった


夜。
普段はあまり乗らない電車に乗って
体感時間1時間半揺られて
朝とは打って変わった様な静けさなのに
私はまた何故か踏ん張っている

そしてまた何故か
視界がぼんやりと霞んでいく

味がしないなんて言ったあなたが
私と食べると何でもおいしいと言った

その瞬間、左手首を握る事なく
私の貧血に角砂糖が
ほろほろと溶けて消えて行った

こんな朝も
こんな夜も
どうにか生きれそうな気がしてしまった

貧血に砂糖を溶かして、生きる。

貧血に砂糖を溶かして、生きる。

  • 自由詩
  • 掌編
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2017-08-05

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