三分間の世界

三分間の世界

いやはやなんともいかんし難い。
例えばあなた様が誰かと待ち合わせをしており、
なるほど、その中でも一番分かりやすいであろう
場所に立っているにも関わらず、
その誰かが来なかったとしたら。
あなた様は何分の間なら待つことができるか。

三十分。
私たちはそんなに待っていられない。
というのも一日どころか一週間以上が過ぎてしまう。

私たちが住む世界では、一日が
あなた様が住む世界の三分間に当たるのだ。
パスタの茹で時間は。
むろん六分。
いや、ものによっては八分か。
しかし、私たちは二日間もパスタを茹でている訳にはいかないのだ。

今日私があなた様をお呼びしたのは他でもない、
この度私たちの世界では三分間のダンスショーを
企画しているのだ。
あなた様にとって三分間踊るなんて、
容易いことであろう。
しかし私たちは丸一日も踊り続けることができない。
そこであなた様にこのショーで踊っていただきたい。

むろん報酬も用意する。
そうだな・・・。二十一分間分の米でどうだろうか。
それでは朝食にしかならないと。
しかし私たちにとっては一週間分の食糧、
いやはやなんともありがたい話であるのだが・・・。
やはりお気に召していただけないだろうか。
では別の報酬を用意させていただこう。
そうだな・・・。三分間の愛でどうだろうか。
そんなもの容易く手に入ると。
しかし私たちにとってそれは、一日の間ずっと
自分のことだけを愛してもらえるということであり、もはや手に入れるのが不可能に近い代物であるのだが。
いや、あなた様の世界でも
なかなか手に入れられないものではないだろうか。
三分の間ずっと、自分のことだけを愛してもらったことがあるだろうか。
そんなこと何度でもあると。
いやはや、しかし本当にそうであろうか。
その三分の間、相手が一瞬たりとも
あなた様以外の事を考えたことがないという
保証はあるだろうか。

たかが三分、されど三分であるのだ。

俯いていないで顔をあげてくださいませ。
あなた様の答えはもう分かっております。

さあ皆さま、ご起立願います。
三分間のダンスショーのはじまりだ!

三分間の世界

三分間の世界

  • 自由詩
  • 掌編
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2017-08-05

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