Memory of Youth

Y2180

男はいきつけの珈琲店にいた。その店は静かな音楽が流れ、観葉植物が感じよく配置され、ほどよい照明が店内を支配している。というような気の利いた店ではなく、FMラジオが流れ、枯れたサボテンが存在感を示し、照明などは皆無であった。しかし、その男は毎日そこにいる。いや、そこにいなければならなかった。一週間、一ヶ月、もしかしたら何年もかかるかも知れない。だが、男は目的を達成するまで待つつもりだった。深くシワの刻みこまれた手でコーヒーカップを持ち上げ、口に運ぶ。薄く、ぬるいコーヒーだ。ちらりと腕時計に目をやった。もう正午から4時間も経っている。男はきしむ腰をあげ、客の回転数をあげるために寒いくらい冷房の効いた店を出ることにした。昔から大事にしている、年季の入った黒い帽子をかぶり、コーヒーとモーニング代を支払い、家路についた。その喫茶店から歩いて5分、昔ながらのアパートの3階が彼の住処だ。家賃4万6畳2部屋風呂トイレ付きのしがない家だ。もう住んで5年になる。その借家の唯一の良いところは夕日が部屋から見えることだけだった。ちょうど、ビルとビルの隙間から夕日の沈むところが見られる。もちろん、季節によって沈む位置も変わるので一年中とはいかないが。夏と冬は夕日が綺麗に見ることが出来た。男は帰宅すると、まずペットの猫に餌をやった。ある日、アパートの裏で見つけた猫だ。まだそのときは仔猫で夜中の2時に猫の鳴き声がうるさいので目が覚めてしまった。寝汗をぐっしょりかいていてしまっていた。夕日の見える窓から男の部屋から漏れた薄暗い明かりをたよりに見てみると親猫と思われる猫がまだ小さなお弁当箱くらいの仔猫3匹の隣で死んでいた。よく目を凝らすと、カラスが3匹がこちらを見上げていた。愛猫家の男はすぐに下へ向かった。階段をミシミシと音をたてながら駆け下りる。着いたときには仔猫の3匹のうち2匹はカラスに餌食にされてしまったようだ。取り残された1匹の仔猫を持っていたハンカチでくるみ、部屋へと連れ帰った。まだ目も開いていないその未熟者はミー、ミー、と意味のない鳴き声を発するだけであった。取りあえずミルクでも与えてやるか、と独り言を言った。男は自転車にまたがり、コンビニへと漕ぎ出す。夜風が火照った身体を横に自転車を止め、店内に足を踏み入れる。男が購入したのは、赤ちゃん用の粉ミルクとりんごジュースの500mlのペットボトル。男はさっそく帰路につき、いつもの決まった位置に自転車をとめる。階段をいつもより少し早く上がると、鍵の閉めていないドアを開ける。「ミー、ミー、英語で、私、私か。」 沸かしたおいたお湯をポットからお皿に注ぎ、買ってきた粉ミルクを少しうすめに溶かし、人肌になるまで待つ。いい具合の温度になったミルクを与えると、ペロペロと舐めた。もう飼うことに決めていたのだ、「名前はなんにするか…」ふとカレンダーに目をやると、8月も折り返しを迎えていた。「もう8月も18日経ったか…早いもんだな。よし、名前はライにしよう。julyのライだ。」男は安易な名前をつけると、繰り返し名前を呼んだ。そんな感じで2人(1人と1匹)の生活が始まった。

Memory of Youth

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  • 小説
  • 掌編
  • 青春
  • 全年齢対象
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