喪女が人生やり直したら? 9話
現代編4です。
9話
27
ベッドに正座をしている私の前には、枕の上にスマホが置かれている。
まずコインで電話をかける順番を決めた。
表が望月くんで裏が飯田くん。
結果は表だった。
番号はキミに聞いている。
あとは通話を押すだけ。
「はぁ~•••」
肩を落とす。
ぶっちゃけ足がしびれてきた。
ほっぺたを両手で叩き、気合いを入れると、スマホに手をのばした。
画面の名前を確認し、通話を押す。
「望月です」
ワンコールもしないうちにつながって、アワアワとなる。
「あれ? 大丈夫? おーい」
「ご、ごめんなさい。秋野です」
「あ、良かった。本当にかかってきた」
望月くんの明るいテンションに戸惑いながらも、なんとか伝えるべきことを伝えようとする。
「あ、あの•••、この間は、ごめんなさい」
思わず頭を下げる。
「あぁ。まぁ、びっくりしたよ。嫌われたと思って、焦った」
明るく答える望月くん。
リ、リア充オーラ、ぱねぇ•••。
「あれ? 秋野さ~ん」
「ご、ごめんなさい」
「アハッ。なんか秋野さん、さっきから謝ってばっか」
ごめんなさい、と言いかけて踏みとどまる。
私はシンジくんか!
自分で突っ込みを入れると、本題に入る。
「そ、それで、あの•••。この間、言っていた•••」
「ああ、付き合って、って言ったこと?」
フゴッ!
あまりの切り込みの鋭さに、思わず鼻がなってしまった。
「そ、そ、そうです」
「あれは俺たちが悪かったよ。ごめんね。あんなこと、お酒の席でいきなり言うなんて。秋野さんが怒るのも仕方ないよ」
「あぁ、え? い、いや、あれはそういうことじゃなくて、私の気持ちというか•••」
「それで、近いうちにちゃんと謝らせて欲しいんだけど?」
うまく自分の言いたいことが伝わらないだけじゃなく、逆に謝られてしまった。どうしようか考えていると
「ダメかな?」
「い、いえ。こちらこそ謝りたいので、お願いします!」
反射的に答えてしまった。
「本当? やった! じゃあ、いつにしようか?」
も、望月、落ち着け!
リア充スピードは私にとって、加速装置並みなんだよ!
深呼吸してから
「日にちは、ちょっと予定見てからでいいですか?」
「あ、ゴメン。俺、なんか焦ってた。了解。じゃあ、また連絡、待ってればいいのかな?」
「はい、それで」
「わかった。それじゃあね!」
•••まっ白に燃えつきた•••。
ベッドに仰向けで倒れ込む。こんなにエネルギーを消費するなんて、リア充の世界、やはりワシには無理じゃ•••。
左の手首に目をやる。
青色の輪ゴムを見つめてから、
パチン。
深呼吸をする。
立て! 立つんだ、ジョ~!
再びムクッと起きる。
時計を見ると九分だった。
十分になったらゴングだぜ。
時計をにらみながら、飯田くんの電話番号を表示する。そして•••
十分だ!
通話を押した。
28
「飯田です」
「あ、秋野です」
「どうも」
「こんにちは」
「••••••」
「••••••」
望月くんとは全く違うテンションなんですが•••。もしかして怒ってるのかな•••。戸惑っていると飯田くんの方から
「あの•••」
「は、はい!」
緊張して、声がおかしくなっている。
話さなきゃ、話さなきゃ•••
でも、先に話し始めたのは、焦っているだけの私ではなく、飯田くんだった。
「この間は、その•••、ゴメンな」
「え?」
「突然、あんなこと言って」
「あ、いや、わ、私こそ意味不明なこと言って帰っちゃって、ごめんなさい」
再び無言状態。今度は私から話し始めた。
「あの、それで、できたら会って謝りたいんだけど•••」
私にしては、ちゃんと伝えられた方だと思う。なんて返事がくるか、緊張して待っていると
「俺ももう一度ちゃんと話したいから•••、会ってくれるなら嬉しい」
ホッとする。
「じ、じゃあ、日にちとか細かいことは、またこちらから連絡する感じでいいですか?」
「あぁ、うん。じゃあ、待ってるから」
「はい、それじゃあ」
スマホを切ると、しばらく何も考えられなかった。
考えてみれば、昨日の私の誕生日に、サプライズで現れた同級生二人に、告白されて•••。
精神崩壊起こして勝手にキレて帰って•••。今日は、会社、休んじゃうし•••。と思ったら、なぜか宮野さんと友だちになっちゃったし•••。挙げ句『男の人』と会う約束、それも二人同時に•••。
明日、死なないよな、私•••。
アホなことが頭をよぎると、左手首の青色の輪ゴムが目に入る。少し苦笑いして
パチン!
頭をふった。
まず、謝ってからだ。それから二人と話を色々しよう。それでもし、二人が本当に私なんかに対して、そ、そういう気持ちを持っているなら、私も変な妄想に逃げるのは止めよう。
少し落ちついたところで、今のやりとりをラインで宮野さんにお礼と一緒に報告する。しばらく画面を見ていたけど、既読はつかない。忙しいのだろう。
というわけで、もう一人の方にも報告する。できたら今後のことも相談したかった。
キミからの返事はすぐにきた。
「すごい! お姉ちゃんとは思えない即時対応」
まぁ、宮野さんのせいで、強制的にだけどね。
「で、私はこれからどうすりゃいい?」
「は? 日にち決めて、会って、話すんでしょ?」
「会って、ご飯食べればいいのか?」
「そうそう。今回は食事メインの方がいいと思う」
「ファーストフードか弁当屋ぐらいしか知らないんだけど」
「さすが、お姉ちゃん」
「うるせー、教えてください」
「了解。URLいくつか送るよ」
さすがキミ。結婚し二人の子持ちとはいえ、私なんかより全然つかえる。数分後、今度はメールがきた。URLの下にはコメントまで入れてくれている。
ありがとう、妹よ。
さっそく店選びをはじめる。今回は私が謝るためだから、ご馳走を•••と思ったが、ちょっとツラいので、割り勘で。せめてセッティングくらいは頑張ろう。
私は定時であがれるから、二人の予定に合わせよう。仕事帰りならスタート時間も遅いし、次の日も仕事だから、時間的に私でもなんとかもつだろう•••、たぶん。
直接電話するエネルギーはなくなっていたので、ショートメールで今週、来週の予定をきく。
望月くん、速攻帰ってきたよ、はえぇ。急がないと電話が来そうだったので、すぐにOKメールを送る。
ちなみに明日•••。
謝るんだったら早い方がいい、とは思っていたけど、まさか月曜にやらかして、明日は水曜日。こんなすぐに機会が訪れるとは•••。
一方、飯田くんは、と言うと。望月くんとのやりとりが終わって数分後、返事がきた。
「いつでも大丈夫」
とのこと。シンプルだなぁ。というわけで、連チャンはツラい。でも、望月くんが明日なのに、飯田くんは来週というのは、何かひっかかるものがあった。ということで、一日あけた金曜日、飯田くんと会う予定にした。
一息つくと、ちょうど宮野さんからラインが入る。
「よく頑張った!」
ありがとう。ただ、一緒にきたスタンプがキモかった。どんな趣味なんだ。
とりあえず、明日の服でも選んでおこう。
29
今日もなんとか自分で決めたノルマをやり切れたので、気持ち的には前向きになれた。
今日の店は先日、私の誕生日をした店と同じ駅にあるエスニックな感じの店にした。キミのアドバイスに従って予約もしている。店の前に立っていると
「お待たせ、はやいね!」
スーツの望月くんの印象は、前回の軽い感じがなく、さわやか青年という感じだった。
「秋野さん?」
「あ、はい。じゃあ入りましょう」
私服よりスーツの方がイイ。私、スーツ属性だったのか?
などと考えながら入ったお店は、ベトナム料理のお店で、決めた理由はキミのおすすめだったから。
入って驚いた。入口からベトナム料理のお店っぽくないなぁ、と思っていたけど、店内もオシャレな感じでビックリした。本場のゴチャっとした雰囲気の店かなぁ、なんて思っていたけど、全然違った。
「雰囲気いいね。秋野さんはよく来るの?」
「ううん、初めて。キミに教えてもらったの」
変なマイナス思考にならないようにするのと同時に、見栄とか嘘はつかない、って決めていた。絶対すぐにボロがでるし。
「あれ? もっちーっ?」
お店の人の案内についていったら
「え? タカコ?」
声をかけてきたリア充女に望月くんが反応した。
「久しぶり! 元気?」
「おう、タカコも相変わらず元気そうじゃん!」
「あ? デート中?」
リア充女は向かいに座っている連れの男の人にはかまわず、望月くんに話しかけてくる。
「ま、そんな感じだ。じゃあな」
「今度遊ぼうよ」
「オッケー、じゃあな」
案内された席に座ると望月くんは少し申し訳なさそうに
「地元の友だち、だよ?」
「そうですか」
「•••なんか、怒ってる?」
え? そんな顔してる?
「ううん。怒ってないけど、そんな風に見えた?」
「いや、ごめん。勘違いだ」
望月くんは笑いながらフォローしてくれる。
そういえば昔、家族からも、会社入ったばかりの時に先輩たちにも、同じこと言われた気がする。私の普段の顔、無表情で怒っているように見えるらしい。
「私、昔から怒っている? とかよく聞かれて。決して怒ってはいないので」
「そうなんだ。じゃあ俺も正直に言うと、俺が女の子に話しかけられるの見て、秋野さん少し妬いたのかって思っちゃった」
「あ、勘違いです」
一瞬、望月くんは止まると、今度は笑い始めた。
「秋野さん、切れ味鋭いな!」
「え? そうですか?」
「あ、悪口じゃないからね」
望月くんはまだ笑っている。
この時、初めて望月くんがあの『小学校時代』の望月くんと重なって見えた。
「やっぱり望月くんだ」
思わず声に出してしまった。私としては、数ヶ月前に子供の頃の望月くんと会っているわけで。今まで大人の望月くんを見ても、どこかしっくりこなかった。でも、望月くんの笑った顔を見て、やっと自分的につながった感じがした。
「え? なに? どういう意味?」
ぐいぐいくる望月くんに気圧されながら
「あ、いや、笑った顔は、なんか小学校の時と同じだなぁ、って思って」
今度は顔を赤くする。そのまま真剣に私を見ると、本当に嬉しそうな顔をして
「秋野さん、俺のこと、覚えててくれたんだ」
私は赤い顔で真剣に見られて、先日のではなく、小学校時代に告白されたことを思いだした。
顔がみるみる熱くなる。
そこにお店の人がドリンクのオーダーを取りに来た。
先に立ち直ったのは、望月くんで
「ああ、えっと。俺は、これで。秋野さんは?」
「サングリアを」
お店の人が席を外すと、望月くんがメニューを広げて
「これ、なんて読むのか気になって頼んだんだけど、言ってくれなかったぁ」
「じゃあ、きたら聞いてみよう」
望月くんのかざらない態度に、いつのまにか私も緊張がとれていた。
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望月くんが頼んだのは、『333』というビールで、バーバービールというらしい。
乾杯すると、頼んだものが並び始めた。私は意を決すると
「この前はお祝いしに来てくれたのに、訳のわからないことを言って帰っちゃって、本当にごめんなさい」
頭を下げる。
すると、望月くんも姿勢を正して、
「俺も久しぶりだって言うのに、いきなり自分の気持ちぶつけて。おまけに酔った勢いで。こちらこそ、ごめん!」
二人して頭を下げている間に、お店の人が頼んだお皿を置いていく。同じタイミングで顔をあげて、お互い目が合うと、どちらともなく笑い始めた。
「食べよっか」
望月くんが笑いかける。
「う、うん」
自分の顔に手をあてて、熱さを確かめる。
うぅ、顔、赤くなっているかな•••。
数ヶ月前に経験した緊張を、また同じ人で感じていた。望月くんを見ると、望月くんも手でパタパタと顔を仰いでいる。
目が合うと、あははは•••、とお互いぎこちなく笑って、飲み物に口をつけた。
その後、望月くんは私の緊張をほぐそうと、何皿かテーブルを行き来する間、面白かった最近のことなどを話してくれている。そんな望月くんの気持ちがわかって、私は素直に嬉しかった。
おかげで私も気がつくと普通に話していた。
それにしても•••。
あらためてみると、今の状況は数ヶ月前までは考えられないものだった。男の人と二人きりで食事なんて。
「どうしたの?」
急に黙った私を心配する望月くん。無意識に笑うと、緊張がとれたからか、今の気持ちをストレートに口にしていた。
「なんか不思議で」
望月くんは頭にはてなマークを浮かべ、私を見ている。
「この前、突然帰っちゃって•••。あんなことしたのに、こんなに楽しく食事できるなんて思っていなかったから」
「それはお互いさまだって言ったでしょ? それも二人いっぺんにあんなこと。俺でもドッキリだと思うよ」
「ダヨネ!」
ウンウンと望月くんは頷く。私は一度、左手首を見てから望月くんに視線を移すと
「そ、それに、私•••。男の人と食事とか、したことなくって•••」
やっちゃったかな、と思った。そんなヤツ、普通は引くと思う。でも爆発する前に、できる限り普通に伝えよう、と思っていた。
私がドキドキで言ったことに対して、望月くんのリアクションは、それこそ普通な感じだった。
「俺の方も信じられなかったよ。秋野さん、彼氏いないなんて」
「い、いや。いないも何も今まで•••」
「秋野さん、自分でどう思っているかわからないけど、俺は好みだよ」
一気に頭の沸点を超えて、心臓が痛いほどバクバク状態になる。
「な、な、な•••」
「あー、またやっちゃった? ごめん! で、でも本当だから!」
望月くんも顔を赤くしながら、フォローしてくれた。私も大きく息を吸って深呼吸すると、少し落ちついた。その様子を見ていた望月くんが
「大丈夫?」
「は、はい。落ちつきました。でも、まだドキドキはしてるけど」
自分で動悸を確かめながら、なんとか望月くんに答える。
「なんか昔から俺、突然まわりが驚くようなこと言うらしくって。ごめんね」
『昔』という単語が出てきて、長年どうしても理由がわからなかったことが頭をよぎる。
小学校時代、なんで私に告白したんだろう?
「望月くん、聞いてもいい?」
「いいよ。なに?」
「小学生の時、その•••私にこ、こ、告白してくれたでしょ?」
望月くんの顔がみるみる赤くなる。
「その•••なんで、告白してくれたのかなって思ってて•••」
本来のルートでの唯一の救いだった『望月くんの告白』は、私にとって感謝してもしきれないほど、ありがたいものだった。
望月くんは照れながら手で顔をさすったあと、
「小学生の時の•••だよね?」
頷く私。
「おぼえてくれていたんだ?」
「わ、忘れるわけないよ。望月くんの告白が最初で最後だって思っていたんだから」
「本当? なんか嬉しいな」
私の表情に気づいた望月くんは
「なんで告白したか、だよね。まぁ、好きになったからなんだけど•••」
私の知りたいのは、なんで? どこが? というところで•••。
私の視線から逃げられない、と思ったからか、望月くんも話し始めてくれた。
「秋野さんさぁ、昔まじめだったよね?」
はい?
「い、今もふざけてはいないと•••」
「いや、そうじゃなくて」
頭をかく望月くん。
「そうだ。秋野さん、学級委員だったよね?」
「えーっと•••うん、確か」
言われてみれば、学級委員だった時もあった。何年生かは忘れたけど。
「それで、たまたま教室に忘れ物した時、秋野さん、一人で何かやっていたのを見て•••」
「え? それだけ?」
思わず拍子抜けする。
「いやいや、きっかけがそれってことで。それから、なんか秋野さんのこと、目で追うようになって」
あまり横やりを入れるのも、自分から聞いておきながら悪いので、オドオドする望月くんを黙って見ていた。
「そしたら結構、秋野さん、色々なことやってて。でもクラスの皆は知らなくって。俺だけが秋野さんのいい部分を知っている、って思ったんだろうな」
遠い目をしている望月くんに対して、今度は私が恥ずかしくなっていた。
たぶん、先生に言われてイヤイヤやってただけだろうな•••。
「言っちまおうかな•••」
望月くんが片手で顔を隠している。
「え? なに? 気になるよ!」
そこまで言っておいて、そりゃないだろう?
望月くんは真剣な顔で
「そん時、思ったのが、嫁にするんなら、こういう子がいいなぁ、って思ったの!」
沈黙•••。
「あ、秋野さん•••」
「そ、そうなんだぁ•••。も、望月くんは子どもの時からお嫁さんを想定していたなんて、すごいねぇ!」
今度は私が望月くんの視線に耐えられなくって、正直、はぐらかそうとした。
でも•••
「俺、こないだ秋野さんに会って、理屈抜きで、いいなって思ったんだ!」
望月くんの真剣さに圧倒される。
「久しぶりに会ったばかりなのに、こんなこと言われても無理だと思うけど•••」
ヤバい! わからないよ! まだ、これから考えようと思っていたのに•••。
「だから、その•••、まずは友だちとして、こんな風にごはん食べに行ったり、どこか遊びに行くところから•••、どうかな?」
頷くので精一杯だった。
喪女が人生やり直したら? 9話
次回は、現代編5です。