僕は。

始まりは一通の手紙からだった。

僕は普通でそこら辺にいるような高校生。
ちなみに17歳で来年受験だ。
平凡な僕は、見た目に反しないくらい平凡で特に目立ったことはない。
ちょっと他人と違うとすれば平均より身長が低いくらい。
 
 
「おーい、静!置いてくぞ!」

あぁ、忘れていたけど僕の名前は「緒方 静/オガタ シズカ」
女みたいな名前だけど、一応男。
ちなみに僕を呼んだのは「景山 陸/カゲヤマ リク」
頭脳明晰で運動神経抜群、おまけに背が高くて格好良いという完璧な高校生。
そして平凡な僕の同級生で幼馴染。
どうして僕と正反対の彼と幼馴染だって?
そんなの僕が知りたいくらいだよ。
 
「今行くよ、陸。」
 
まぁ、兎に角僕らは正反対な幼馴染だということは覚えててよ。
 
「おい、静!早くしろよ!」

「少し落ち着けって、急かすなよ。」
 
「何行ってんだよ!あんな摩訶不思議な手紙の招待状を受け取ったんだぜ?これが落ち着いて居られるかよ!」
 
そう、摩訶不思議な手紙。というより招待状。
ある日突然僕の家に届いたのさ。
真っ赤な封筒に黒い文字で「緒方 静 様」と書かれていた。
ご丁寧に蝋で封印されたその封筒。
差出人の名はなくただ分かるのは蝋印の紋章が鴉であること。
正直気持ち悪くて放っておいたら、何故か僕の部屋に良く遊びに来る陸に見つかり中身を見る羽目になった。
手紙の内容はこうだ

 
20**年07月31日に**県**市の***公園の北口に17時にお集まりください。
漆黒島に貴方様をご招待いたします。
なお同伴としてお一人様をご招待できます。
では、貴方様が漆黒島で私どもとお会いできることを祈っております。
 
真っ白な便箋にまるで血で書いたような真っ赤な文面。
そんな事を思い出しながら僕、いや僕らは指定された公園に向かっていた。
 
「ねぇ、陸。やっぱ止そうぜ?やっぱ可笑しいって。」
 
「ここまで来て言うかよ。つーか、***公園北口ってここだぜ?」
 
「え?」
 
目の前に見えた看板。
確かに***公園北口と書かれていた。
腕時計に目を向ければ16:56。
どうやらもう後戻りは出来ないようだ。
 
「あー、ギリギリだな。おい、静。あの手紙持ってきたか?」
 
「え、あ、うん。持ってきた。」
 
「見せろよ、もう一度確認するから。」
 
そう言って僕に手を伸ばす陸。
正直あの手紙もう見たくないんだけどな。
僕がごそごそ鞄をあさっていると一台の白い車、いやベンツが僕らの横に止まった。
何事かと思いベンツを見れば黒いスーツの男が2人降りてきて。
 
「緒方 静様でしょうか?」
 
「あ、はい。僕が緒方静です。」
 
「ではコチラは同伴の方でしょうか?」
 
「あ、はい。同伴の・・・。」
 
「景山陸です。」
 
「それでは、緒方様、景山様どうぞ車へ。」
 
そういいながらドアを開ける男、もう一人は僕らを押し込めるかのように背中を押してくる。
あっけなく車に押し込められた僕達。
少し不平を言いながらも車の中を見渡せば、呆気にとられる。
まるで車とは思えない内装に僕は少し驚く。
家のワゴン車ではしゃいでいた僕だ、こんな車に乗せられれば言葉も出ない。
それは陸も同じようで口をあけて車内を見ていた。
すると目の前のカーテンが自動的に開いた。 
 
「御機嫌よう、いきなりごめんなさいね。」
 
品のいい30代後半くらいいや、40代前半の女性が乗っていた。
金持ちというか、血筋がいいことは何と無く平凡な僕にも雰囲気で分かった。
 
こうして僕の日常が手紙によって壊された。

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「御機嫌よう、いきなりごめんなさいね。」
 
品のいい人の良さそうな目の前の女性は微笑みながら僕らを見ていた。
なんだか恥ずかしくなった僕は小さくなるようにモジモジながら、チラチラと陸を見る。
陸も同じ気持ちなのか少し顔を赤くしながらコチラもモジモジしていた。
こんな人があの気味の悪い悪趣味な手紙の差出人なのか。
僕はそんな事を考えながら目の前の女性を見ていた。
 
「ふふ、そんなに緊張なさらないで?こんなおばさんに緊張する必要はなくてよ?」
 
軽く微笑をもらしながら僕らを見ている女性。
どことなく安心できる雰囲気に自然と僕の肩から力が抜ける。
それにこの女性からだろうか、とても甘い香がする。

「あの・・・貴女が、その。言い方は悪いとは思いますが、あの趣味の悪い手紙の差出人でしょうか?」
 
僕が女性の雰囲気に酔っていると、隣で陸が唐突な質問を女性に突きつけた。
僕はきょとんとした女性を見て慌てて陸を小突きながら。
 
「馬鹿!失礼過ぎるだろ!」
 
僕はおそらく気を悪くしてしまったであろうと思いながら女性を見た。
しかし以外にも女性は少し肩を震わせながら笑っていて。
 
「ふふ、正直な方ね。でもそういう方は嫌いではないわ。そうね・・・残念ながら、あなた方のところに届いた手紙の差出人は私では ないわ。」
 
あぁ、なんていい人なんだ。
僕は完全に女性に対しての警戒心をといた。
なぜこんなに早く警戒心を解いたかは僕にも分からない。
でも一つ分かるのは、この女性は、この人は人を安心させる雰囲気を持っている。ということだけだった。

「すみません、こいつが。陸が失礼なことを。」
 
「気になさらないで、確かにあの手紙は趣味が悪かったものね。」
 
「そうですね。・・・あ、僕。」
 
「俺、景山陸っていいます。こっちが、手紙の届いた緒方静。ちなみに俺同伴なんすよ。・・・ところで貴女もあの手紙の招待客ですか?」
 
僕が自己紹介をしようとしたら割り込んできた陸。
しかもちゃっかり僕の紹介まで。
こいつ、僕が話そうとしたのに。
 
「景山さんに緒方さんね。私は島 薫子/シマ カオルコ。貴方方の案内役を任されている者よ。」
 
微笑みながら自己紹介をする島さん。
案内役って?
島さんって何者?
僕たちを呼んだ理由は?
僕は沢山、島さんに質問したいことがある。
でも何故か口に出ない、何故だろう。
 
「陸でいいですよ。えっと、島さんとお呼びしても良いですかね?」
 
「薫子で結構よ。さぁ、もうすぐ港に着くわね。続きは船の中で話しましょう?その時詳しいことを教えて差し上げるわ。」
 
島さん、・・・いや薫子さんがそういうと車が止まりドアが開いた。
先ほど僕たちを車に押し込んだ2人の黒いスーツの男が居た。
薫子さんは慣れた様にスーツの男に手を出し車から降りていった。
続いて陸も降りるのを見たので僕も慌てて車から降りた。
 
「さぁ、これで漆黒島までご案内するわ。」

目の前にある大きな船。
豪華客船を2周りほど小さくしたようなその船に薫子さんは歩いていく。
僕らは呆気に取られつつも置いていかれないように付いていく。
僕はやっと胸に突っかかっていた疑問を口に出来た。
 
「あの、・・・薫子さん。この船って薫子さんのものですか?」
 
「まぁ、私のものと言われれば私のものだし。そうじゃないと言われればそうじゃないわ。」
 
なんとも曖昧な返事。
僕は少し不安になり歩みが遅くなる。
なんで平凡な僕のところにこんな金持ちみたいな話が舞い込んできたのだろう。
始から可笑しかったんだ、何もかも。
でも、
 
「静さん、何をなさっていますの?船が出てしまいますわ。」
 
薫子さんの声がまるで呪文みたいに。
 
「はい、薫子さん。」
 
まるで暗示でもかけられたかのように僕を動かす。
 
 
僕はもう・・・戻れない。

「奥様、お待ちしておりました。」
 
見た目もさることながら、豪華な内装の船内。
そしてずらりと並んだ・・・おそらく使用人という人たちなのかそんな人たちがまるで僕たちを出迎えるように頭を垂れていた。
そんな中一人の男が歩み寄り薫子さんの手荷物を受け取っていた。
 
「奥様、出港なさいますがよろしいでしょうか?」
 
「構わないわ。・・・さぁ、静さん、陸さん中に入りましょう。風が出てきたことだし…。」
 
颯爽と歩き始めた薫子さん。
僕はまるで小説の中に居るような感じがした。
隣の陸を見れば物珍しそうに船内を見渡し薫子さんについていくように歩き始めた僕もそれに続くように歩き始めた。
 
「ねぇ、陸。」
 
「ん?何だよ静。」
 
「薫子さん、奥様って呼ばれてたよね?」
 
「そうだな。」
 
静かな船内、廊下は薄暗く壁についているセンスのいいランプが怪しく光っていた。
僕らはそんな中をただ真っ直ぐ、ただ真っ直ぐ歩いていた。
 
「奥様ってことは凄いお金持ちだよね?」
 
「まぁな。薫子さん、見た目もそんなんじゃん?」
 
僕は薫子さんの背中を見ながら陸に囁く。
確かに薫子さんの動きや言葉使いは洗礼されてたし、服装も華美じゃなく地味でもない品のいい金持ちのような服だった。
そのまま薫子さんの足元を見ればロングスカートの裾がまるで水のように動いていた。
 
「やっぱ僕ら場違いだよ。」
 
「俺もそう思う。」
 
そうこういってる間にも僕らの目の前に豪華な扉が現れた。
扉の前には二人の少年。
そのうちの片方に薫子さんが話しかけると、少年らは恭しく頭を下げ扉を開けた。
 
「どうぞ中へ、長旅でお疲れでしょう。」
 
薫子さんに進められて中に入ればまるで何処かの高級ホテルのロビーのような空間が広がっていた。
センスのいい調度品に埋め尽くされた部屋。
中には若いカップルであろう男女が1組、ホステスっぽい20代くらいの派手な女性がちょうど中央に置かれたソファーに座り談笑していた。
端のほうに目線を向ければ窓から外を眺めている老婆。
なにやらパソコンで調べ物をしているサラリーマンぽい男性。
おそらく僕らと同じ年であろう少し失礼だが地味な女の子が壁際の椅子に座り読書をしていた。
 
「さ、どうぞ。」
 
入り口で立ちすくんでいた僕たちに再度薫子さんが催促してきた。
僕らは言われるがままに中に入りちょうどソファーで談笑している人たちの下へ近づいていった。
 
「あら、新しいお客人ね?」
 
いち早く派手なホステスっぽい女性が僕らに話し掛けてきた。
その声に部屋の中から声は消え、すべての視線が僕らに集まっているような気がした。
内心僕は冷や汗をかきながら、少し震える声で。
 
「ぼ、僕っ緒方静っていいます。・・・一応高校生です。」
 
「お、同じく高校生の景山陸です。」
 
「あら、2人とも高校生なの?そっちの背の高い子は成人してるかと思ったわ。で、もう一人のほうは中学生かと。」

少々最後の言葉にむっと来たが頑張って顔に出さないようにした。 
派手な女性は真っ赤な唇に煙草を咥え、煙を吐き出してから。
 
「あたしは、西本 かんな/ニシモト カンナ。とある店でホステスをしてるわ、これでも人気あるのよ?」
 
見た目からしてホステスかと思えばやっぱりそうだった女性、いや西本さん。
正直いうとかなり無理というか頑張っているのか、真っ赤なミニスカートのタイトなワンピースを着ていた。
 
「へぇー、高校生なの。じゃあ、雅たちは年上だね。雅は雅、蔵元 雅/クラモト ミヤビだよ。でね、雅たちは恋人なのー。」
 
「こら、雅。・・・ごめんな、俺は雪那 雅史/セツナ マサシ。雅とは同じ大学で恋人だ。ちなみに学部は2人とも医学部だよ。」
 
ベタベタと眼鏡をかけたインテリ風の彼氏、雪那さんにくっ付いているロリータ系の彼女、蔵元さん。
仲がいいというか、くっ付きすぎというか。
見ててイチャイチャしすぎな気がするのは気のせいだろうか?
ていうか、蔵元さんが医学部。
うん…見えない。

「へー、倉本さんって医学部なんすね。」
 
おい、陸。お前失礼すぎるだろ!
僕がそう思って陸を小突こうとしたら。
 
「雅でいいよ、えっと陸くんだっけ?雅はねー、雅史とどうしても一緒に居たかったから頑張って勉強して医学部に入ったんだよ。」
 
凄い志望理由。
てか只者じゃないだろこの蔵元さんって。

「あら、ずいぶんと健気ね雅さんは。あたしにはとても真似は出来ないわ。・・・良い彼女ね、雪那くん?」
 
「そ、そうですかね。・・・恥ずかしいな。」
 
あーあ、惚気ちゃって。
いいなぁ、いつか僕にもこんな健気な彼女は出来るのであろうか。
 
「いいなー、雪那さんは。俺、なかなか彼女出来ないンスよ。」
 
「景山くんなら、カッコいいから直ぐ出来ると思うよ。」
 
「マヂッすか!」
 
陸は雪那さんと話し始めちゃったよ、西本さんは蔵元さんと。
僕は仕方ないから薫子さんに話しかけ様と後ろを振り返った。
すると薫子さんは居らず、豪華な扉がその存在を象徴していた。
 
「あの、品の良い女性なら5分くらい前に部屋を出たわよ。」
 
話し掛けてきたのは壁際の椅子に座って本を読んでいた女の子。
二つ縛りで少し地味な服装のその子は読んでいた本から目を離し、僕を見つめていた。
 
「あたしは、辻本 成美/ツジモト ナルミ。あそこで仕事をしている男の妹。ちなみに兄の名前は辻本 慶介/ツジモト ケイスケ。」
 
そう言って指差したのは、先ほどからずっとノートパソコンと向き合っている男性。
どうやら兄妹らしい。
 
「へぇ…、僕は」
 
「緒方君でしょ?アレだけ大きな声で話してれば聞こえたよ。」
 
再び本に目線を移した女の子、いや辻本さん。
なんか話し難いけど、まぁいいか。
 
「あの…、辻本さんの所にも来たんですか?あの薄気味悪い手紙。」
 
「手紙?…あぁ、兄の下に届いたのよ。薄気味悪いって、ただ便箋が赤かっただけじゃない。」
 
パタンと本を閉じた辻本さん、それと同時に先ほどまで閉じられた居た扉が開かれ一人の男が入ってきた。
 
「皆様、本日はようこそお出でくださいました。本船は明日の昼に漆黒島に到着いたします。それまではどうぞ、この船の中で寛いでくださいませ。」
 
そういって頭を下げる男。
なんだか…動きが綺麗というか洗礼されているというか。
無駄がないな…。
なんて思いながら僕は男を見ていた。
 
「申し遅れました、私本日皆様のお世話をさせて頂きます 猪俣/イノマタ と申します。さぁ、皆様ささやかではございますが晩餐のご用意がしてあります。これから食堂に案内させて頂きますので、付いてきてくださいませ。」
 
恭しく頭を下げる男、いや猪俣さん。
なんというか…、人形みたいに表情がないな。
 
 
僕らはそのまま猪俣さんの案内で広間へと案内された。
僕らはまだ知らなかったんだ。
まさかこ晩餐であんなことを知るなんて。

「奥様、本日の料理はいかがでしょう?」
 
「今日もとてもおいしいわ。でも…少しメインのソースが濃かったわ。薄くしてくださるかしら?」
 
「おいしー!雅、こんなおいしい料理初めて食べた。」
 
思い思いに料理を食べていく人たち。
僕の隣の陸も黙々と目の前の料理を食べている。
 
食堂に案内された僕たち。
どこかの映画のワンシーンのような長いテーブル。
目の前にあるのは、テレビとかでしか見たことの無いような料理の数々。
僕は目の前の肉料理・・・フルコースでいうメインの料理に手を付けながらあたりを見渡す。
忙しく給仕して回る使用人の人々、優雅に料理を食べる薫子さん。
談笑しながら目の前の料理を嬉嬉として食べる招待客もいれば、ただ黙々と食べる人もいる。
楽しい食事の風景。

でも。

この風景を壊すかのように、この部屋の上座に当たる席に鎮座する人形。
マネキンのような大きさで、不気味な仮面を付けた人形。
黒いスーツに白い仮面にかかれた真っ赤な唇が印象的な人形。

薫子さんがその近くで、平然に食事をしていることに驚きだ。

僕は。

僕は。

  • 小説
  • 短編
  • サスペンス
  • ミステリー
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2012-08-16

Copyrighted
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Copyrighted
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  2. 2ページ
  3. 3
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