冬子さん(日記)

冬子さん(日記1)

カメ太郎


5月10日(木曜)
 木曜日は一応休みになっているので、今日、冬子さんと会う約束を前回クルマの中でしていたが、急遽、午後4時から当直ということになり『会えない』と午前10時ごろ携帯に電話した。病院から午後6時ごろ電話した。比較的長く話した。今日、急に会えなくなったお詫びと、今度の日曜日、会おうということにした。今度の日曜日は長崎のピアノの先生が前原まで来ることになっているが、もう少しして電話を入れて今度の日曜日は急に当直になって会えない、と電話しようと考えている。やはり冬子さんと会いたい。とても会いたい。冬子さんと結婚しようと考えている。子供ももしかしたら産まれるかもしれない。また子供は居なくてもいい。
『鍵を渡さなければ。アパートの鍵を。渡すのを忘れていました』
『いえ、鍵は。先生は若い女の人と付き合って結婚しなければいけません』
『しかし、自分は冬子さん以外の女性を好きになることができないのです』


p.m.6:30
 今、ピアノの先生に電話した。今度の日曜日に前原まで来るようにしていたからだった。しかし自分は冬子さんと会いたい。すると父親が雲仙まで友達とサイクリングに行って事故して鎖骨を複雑骨折したという。声は爽やかで前回別れるときの少しの諍いのことは全く無かった。向こうは僕と結婚する予定にしているらしい。
 しかし冬子さんが恋しい。たしかにピアノの先生と結婚するのが世間の道理であろう。冷蔵庫の冷凍室に自分の精液を注射器に入れて保存しているのが6本ぐらいある。遅漏過ぎて膣内で射精できない故にそうしている。それを冬子さんに渡し、妊娠することを期待する。
 冬子さんが美しい。性的魅力が冬子さんにはたくさんある。しかしそのピアノの先生を捨てるのは可哀想だ。


5月26日(土曜)
 明日、冬子さんに会いたい。でも1000万の目標に向かって自分たち学会員は奮闘努力しなければならない。でも僕は友人・知人は少ないし、小説を書いて、そして大きく1000万の目標、および広宣流布に貢献してゆこうと思う。だから明日、人生勉強のためにも冬子さんと会おうと思う。そして今夜の創価学会の集まりにはみんなの志気を削ぐことになるから参加することは止めておこうと思う。
 小説を書いてそして広宣流布、そして今の緊急課題の1000万に役だってゆこうと思う。
 今からでも冬子さんに電話しようかと思う。自分は小説を書いて広宣流布に役だってゆこうと思う。
 創価学会の集まりに出たらとても元気になるけれど、でも元気になるからといってそうするのはダメだと思う。とにかく広宣流布が目標だから。社会で勝利して広宣流布に貢献しなければならない。また1000万も小説による方がより効果的に役立つと思う。
広宣流布も1000万も小説の方がより役に立つと思う。

 食用蛙の看護婦さんと結婚しようかとも思う。もし食用蛙の看護婦さんがO.K.したら自分は冬子さんをふって食用蛙の看護婦さんと結婚しようと思う。

 1000万、自分はみんなのように友人知人を訪問して選挙依頼をする勇気とやる気がない。それよりも小説で勝負した方が何百倍も何千倍も効果的な気がするから。卑怯な考えで選挙依頼をしないのではない。



 5月28日(月曜)
 昨日は前もって約束していたとおり12時50分頃、冬子さんが僕のアパートに来てとても楽しい日曜日を過ごした。昨夜、僕は一睡もしなかった。インターネットなどをしていると寝る暇がなかったし、コーヒーなどを飲まないのに全然眠くならなかった。そして全く寝ていないまま日曜日を過ごすことになった。
 冬子さんの来るのが少し遅いな、と思い12時45分ぐらいに冬子さんの携帯に電話した。するとすぐ近くまで来ていた。そして遅くなったので自転車に乗って来ているという。そしてすぐに冬子さんが来た。
 ある薬を飲み、すでにそれがとても効いてきていて早く冬子さんが来ないと困るな、この薬の効果が無くならないうちに早く冬子さんが来てくれないと困るな、と思い焦って冬子さんの携帯に電話した。
 今日もいろいろ話をした。共通の知人などのことが主な話題だった。いつものことだけど面白かった。
 そして4時近くからアパートを出てマンションや建て売りの住宅を見て回った。始めマンションの処へ行った。9階建てのマンションの9階の部屋に案内されてそこを見た。
 そのあと一戸建ての住宅を見に行った。今勤務しているところの給料が安すぎることと自分が目指す使命と少し食い違っているようなことが問題だから、ずっと福岡に居ることは考えがたい気がした。
 そしてそのあと、冬子さんの家の近くに最近できたというものすごく大きい家を見に行った。たしかに御殿のような家だった。また冬子さんの家も初めて見たし、家の裏で農作業をしている冬子さんのお父さんの姿を初めて見た。
 そのあとまだ明るく時間は5時半でしかなかったので、クルマで何処かに行こう、ということになりパソコンのプリンターのインクを買いに行きたかったので00の近くの大きな電気店まで買いに行った。そしてそのあと何か食べようということになりいろいろぐるぐる回った後、2千円で肉を食べ放題という処へ行った。制限時間90分で焼き肉を食べ放題だった。始め遠くから見たときにはこの店は良いのかな?とかなり疑問だったが、行ってみると客はまあまあ多かった。そこで肉を自分たちで焼いて食べた。制限時間90分で時計を持ってきてなかったこともありかなり急いで食べた。とにかく僕は呑み込むようにしてたくさん食べた。
 そこで食事したあと帰った。クルマの中では会話は楽しかった。やっぱり冬子さんといるといつも楽しい。

 人と一緒にいてこんなに楽しいのは本当に久しぶりのような気がする。冬子さんと一緒にいるととても楽しい。恋ゆえなのだろうか、と思う。こんなに楽しいからやっぱり冬子さんと結婚しようとますます考えてきた。
 この楽しさは恋ゆえなのだろうか? 冬子さんは性格が良いからなのだろうか?
 そして別れるときの冬子さんの後ろ姿が憧憬みたいなものとして一日経った今も僕の瞼に残っている。



 5月29日(火曜)
 冬子さんとマンションの9階から外を眺めたとき、ものすごく高くて目がクラクラして、でもとっても景色が良くて、可也山一帯が見渡せて、田園風景と海が見えた。ここで冬子さんとささやかな2人だけの家庭を持って、でも冬子さんの相手をするのにとても時間が取られるな、もし子供が居たら冬子さんは子供の世話でたいへんで僕は僕の自由な時間をたくさん持てて。
 二人だけでいい、二人だけでこのマンションに住んで、二人だけのささやかな家庭でいい。



 5月30日(水曜)
 昨日、会いたくて会いたくて、何度も電話をしようという誘惑に駆られた。性欲なのか、自分の甘ったれた性欲ゆえなのか。
 題目を11時半まではあげた。今は右か左か選択を迫られているせっぱ詰まった状況にある。御本尊様の前で御本尊様と長く長く対話した。
 冬子さんと結婚すると冬子さんの相手をしなければならないから題目もあまり上げられないような気もするし(でも朝、題目をあげたらいいな、と思った)どうしようか?と思った。
 休みの日は冬子さんの相手をしなければならないから、パソコンに向かう時間もかなり制限されるな、とも思った。
 信仰に打ち込めないな、また、研究にも打ち込まれないな、と思った。
 でも題目上げているときでも涌いてくる冬子さんの肉感、一日のうち3分の1は冬子さんのことを考えているような気がする。

 冬子さんは週2回当直なの、というと寂しそうな表情をした。週2回、独りぼっちで送らなければならないことを思ってのことだろうと思えた。


 5月31日(木曜)
 あの日、僕が見合いをすると言ったあの日、冬子さんは帰り際、いつまでも帰る僕のクルマを見遣っていた。もう会えないと思ったのだろう。いつまでもいつまでも僕の方を見遣っていた。
 あれは3月上旬のことだった。日曜日でその日、夕方、冬子さんを自宅のすぐ近くまで送っていったときのことだった。自宅の前の小さな駐車場の前だった。僕が冬子さんを下ろした後も、冬子さんは何故かそのまま降りたところに立って僕の方を見ていた。Uターンする僕のクルマを見続けていた。それに僕が気付いたのはUターンして冬子さんを下ろしたところを通り過ぎるときだった。僕は手を振るべきだったと非常に後悔した。
 僕の帰る姿を追っていた冬子さんの姿は小さな女の子のように思えた。小さな女の子がもう会えない、少なくとも長く長く会えない恋人か兄の姿を追う光景にとても似ていた。


 冬子さんを幸せにしてやらなければ、と思う。しかし他の女の子も幸せにしてやらねば。しかし僕は冬子さんを愛している。恋してしまっている。こんな恋心は初恋のときのような(あの中学生のときのはかない片思いのような)気がする。20歳になったばかりのとき、従妹に抱いた恋心以来と思う。
 冬子さんと会っているときのあの楽しさは冬子さんの心が末っ子であるし、まだ結婚していないから、とても純粋でそれでこんなに恋しさを覚えるし、会っているとき楽しいのだと思う。
 今日は木曜日で木曜日は2週間に1度は休みで今日は休みの日だから今日午後から会ってまた楽しい時を過ごしたいし、もう結婚を決めてしまおう、と思う。今夜にでも冬子さんの家に行って、冬子さんのお父さんやお母さんやお兄さんに冬子さんを下さい、結婚させて下さい、と言おうかと思う。時間を無駄にしてはいけないと思う。冬子さんとお遊びをしているのではいけない、そんな呑気なことをしていてはいけない、と思う。でもたしかに子供を造れる若い女の子と結婚しなければいけない気もする。でも冬子さん以外の女の子を愛せない。また冬子さんを幸せにしてやらなければいけないと思う。僕は冬子さんに恋に落ちてしまっている。冬子さんが僕を振ったら、そうしたら僕はものすごく悲しいと思う。


 僕はピアノの先生とは相性が会わない。そのことをピアノの先生も気付いていたから、ピアノの先生は電話をしなくなったと思う。ピアノの先生も可哀想だけど、愛せないから仕方がないし、結婚しても破局が見えている気がする。


 冬子さんととても幸せな夫婦になることができると思う。冬子さんの相手をしてやらなければいけないから、自分の時間があまり持てない、と心配だけれど。


6月1日(金曜)
 昨日、冬子さんと結婚の約束をした。昨日は2週に1度の木曜日の休みの日だった。午前中にいろんな雑用を済ませ、午後1時頃、冬子さんの携帯に電話した。そしてクルマで冬子さんを冬子さんの家のすぐ側まで迎えに行った。2時45分に冬子さんの家のすぐ側で待ち合わせるようにした。一度、アパートに帰り、勤行などをした後、再びクルマに乗って家を出た。2時45分ちょうどに冬子さんの家のすぐ側に着いた。冬子さんはすでに待っていた。もっと早く来るべきだったと反省した。そして僕のアパートへと向かった。
『私、あの日、いつまでも手を振っていたでしょう』
 それは僕が見合いをすると言い、置き時計のプレゼントをした日のようだった。あの日、冬子さんはいつまでも降りたすぐ側に立っている、とばかり思っていたが、実際は手を振ってもいたのを自分は気付かなかった。クルマの金属の部分が視界を遮っていたと思われる。
『このまま時が止まって貰いたい』
 冬子さんと一緒にいるときの楽しさは本当にそうだった。でも一緒に住んでいるのでないから別れなければならない。
 昨日は夕方6時45分頃、クルマで冬子さんを家に送っていった。昨夜から20時間近く経った今も冬子さんのことばかり考えている。自分は完全に冬子さんに夢中になっている。
 軽症うつ病はまだ続いている。抗うつ薬を飲んでいるから朝の遅刻はかなり良くなったが、今日は5時半に目が覚めた後、9時近くまで布団から起きられなかった。しかし冬子さんを抱いたため対人恐怖はかなり軽くなったような気がする。今まで2ヶ月に1度のことが多かったが、最近会う回数がかなり増えた。今回のように日曜日に会った後、木曜日に会うのは始めてだった。
 

 6月3日(日曜)
 今日、冬子さんと会う。今は午前12時19分だけれど、昨日、長崎の母に冬子さんと結婚することを伝えた。
 午後0時50分頃、冬子さんが僕のアパートに来た。それから2人きりの幸せな時間を5時間半ほど過ごした。時が止まって欲しい、5時間半を過ごした。僕たちの恋は炎になり、このままいつまでも2人きりのこの時が続いて欲しい、と思った。
 6時半頃、クルマ(僕の自慢の15年前、一世を風靡したプレリュード)で冬子さんを幼い頃からの友人宅へ送っていった。冬子さんの家のすぐ近くで、昨夜はその親友とカラオケに行ったそうだ。

  
 6月4日(月曜)
 2日連続で抗うつ薬を飲み忘れて寝てしまったけれど、朝ちゃんと起きれた。朝が暖かくなってきたからかもしれないが、あの抗うつ薬には社会恐怖にも効くということになっているので、“うつ”が治ったとしても飲み続けようと思う。まだまだ“うつ”は完全には治っていないし、抗うつ薬は“うつ”が治ってからも数ヶ月飲み続けるべきとなっている。
 しかし“うつ”は走って治せる。夜の48分のジョギングを土曜日行った。金曜日も20分、走った。問題は社会恐怖である。そのためだけに今の抗うつ薬を飲み続けるべきであるようだ。
 冬子さんは人が良い。僕も人が良い。2人とも末っ子なためなのだろうか?

 “うつ”に効くクスリは充分製造され世の中に出ている。でも社会恐怖に効くクスリはほとんど出ていない。“うつ”に効くクスリに社会恐怖にも効くと言われているクスリもあるが、社会恐怖に対する効果は弱い。社会恐怖に効くクスリが早く世の中に出なければならない。


 6月5日(火曜)
 雨が降っている。シトシトと静かに降っている。冬子さんの実家の近くにマンションか一軒家を買おうと思っている。僕が当直の時は実家に帰れるし、それに実家に近いし、冬子さんのためになると思うから。今のところは冬子さんの実家から少し遠いし、冬子さんが寂しがるような気がする。(冬子さんはクルマを運転できない)
 新築を買おうと思っている。少し小さくても良いから新築を買おうと思っている。しかし今のアパートでも充分でもある。
 2人だけで幸せな生活をするのだから、今のアパートでも充分だ。でも少なくともそのうちに冬子さんの実家の近くのマンションか一軒家に引っ越そうと考えている。
 今度の引っ越しは引っ越し屋を頼もうと思う。この前の引っ越しは疲れ果ててしまった。
 それでも引っ越しは大変だ。しかし体調が戻ってきているから大丈夫のような気もする。

 冬子さんと長崎へ向かうとき、きっととっても楽しいと思う。僕の隣に冬子さんが座っていてそうして長崎の親や親戚に冬子さんを会わせる。長崎までの150kmほどの長い道中、冬子さんはちょっと緊張すると思うけれど、でも緊張するような親や親戚ではないから、田舎者の親親族だから。 

  
 6月6日(水曜)
 冬子さんはマンションのことなど僕に任せると言った。今はただ、1000万へ向かってひた走って、そうして福運を付ける、冬子さんのために、自分のことは第二として、1000万にひた走って福運を付けることが大事と思う。
 今、moclobemideを2錠飲んだ。昼間飲むと具合が悪くなるが昨夜、飲むのを忘れていた。社会恐怖に効くとされているmoclobemideだから無理して飲んだ。これも冬子さんのためだ。
 冬子さんのために福運を付けなければいけない。冬子さんの幸福のため福運を付けなければならない。
 ここ太田脳神経外科は給料が低いから長崎の精神科の病院に移ることも考えている。でも冬子さんが実家から遠くなってしまう。給料が低くても良いから太田脳神経外科に居ようか、と思う。太田脳神経外科の方が患者さんの態度が良い。
 自分の使命、そのために仕事場を選ぶべきだ。
 でもとにかく今は1000万目指してひた走って福運を付けることに一生懸命になろう。それが冬子さんの幸せのためでもある。
 1000万目指してひた走ると自分の社会恐怖も治るかもしれない。でも仏法は道理である。moclobemideは忘れずに飲み続けよう。たとえ具合が悪くなっても。
 1000万目指してひた走ろう。冬子さんの幸せのためにも。

 またmoclobemideを2錠飲んだ。たしかさっき看護婦から呼ばれたときも更に2錠飲んでいるので午前中に6錠飲んだことになる。moclobemideを飲むと体が具合が悪くなり自然と態度は落ち着いてしまう。しかしそれは具合が悪くなるためだ。一日に6錠飲んだことは始めてではないかと思う。努力して6錠も飲んでしまった。冬子さんのために社会恐怖を軽くするか治すかしなければならないと思ったからだった。
 今日、6時には病院を出て、マックのホームページビルダーを買いに行こう。その前に、マック用のホームページビルダーが有るか電話で確かめよう。山田電気にはウィンドウ用しかないと言われた。
 福運を積まなければ。冬子さんのために。
 この頃は少しでも暇になると冬子さんのことを考えてしまう。

 冬子さんは言った。
『私、平凡な幸せでいいの』
 でも冬子さんの幸せのためお金を儲けるか偉くなるかしなければならない。福運を付けなければ。

 冬子さんが考えを変えて自分を振らないか、それが心配である。
 若い子にかわいい子もいる。でもこのどうしようもない冬子さんへの思慕。


6月7日(木曜)
『私で良いの? 本当に私で良いの?』
 それは僕が言うべき言葉だった。社会恐怖もクスリでごまかしながら、中等度か重度の間で今まで生きてきた。こんな僕と本当に結婚して冬子さんは幸せになるだろうか?
『親も納得しています。良いんです。本当に良いんです』
 子供は要らない。年上の10歳年上の美しい女性と結婚できる幸せを思い、自分は幸せだった。このままずっと冬子さんと一緒に暮らしてゆける。
 午後も電話した。病院から電話した。
『あの後、すぐに病院から電話がかかって、当直になりました。週2回か1回だから楽なものです。0先生は週2回です。それに当直したって何もありません』
『私、今、ゴミを出すのに踏んづけたりしていて元気になっちゃった』
と言って元気そうだった。僕も1000万目指してひた走ろう、でインターネット大作戦で今元気一杯である。マンションや一軒家のことはインターネット大作戦が終わってから考えるつもりでいる。


 6月13日(水曜)
 宗教的使命として子供をたくさん作らねばならない。自分の血を引く子供は頭が良いだろうから、広宣流布のために大きく役立つと思う。それに性格は素直な子供ができるだろうから、反逆なんてしないはずだ。広宣流布のため、しかし冬子さんは子供を産めない。それで今非常に悩んでいる。
 明日、冬子さんのお兄さんと会見の予定である。今の自分は冬子さんに夢中であるが、宗教的使命を果たさねばならない。宗教的使命を考えると冬子さんとは結婚するべきではないことになる。


 6月16日(土曜)
 一昨日、木曜日の夜、冬子さんの家で冬子さんのお兄さんと会見した。冬子さんの家は上等だった。僕もこのような上等な客間を最低でも備えた住居を持たなければいけない、と思った。
 帰るとき、玄関で僕は言った。
『必ず、冬子さんを幸せにします』
 もう、冬子さん一筋で行くしかない、と思っていた。子供はあきらめても冬子さん一筋で行くしかないと思った。広宣流布を担う子供はつくらなくても、その代わりに余計に広宣流布に貢献してゆこう、と決意していた。大きく広宣流布に貢献してゆく方法、それを思案している。


 6月18日(月曜)
 昨日、冬子さんを自宅まで送っていったとき、冬子さんのお父さんがちょうど道を歩いていた。そして二人でゆっくりと歩いてゆく姿を僕は悲しみと微笑みと一緒に見送った。父の日で今日は冬子さんが料理など全てするようにと母親から言われているにも拘わらず、僕は自分のアパートに冬子さんを長く引き留めていた。そして帰り、暑さのためだろう、エンジンがなかなか掛からなかった。
『今度、ホタルを見に行きましょう』
『うん。でもホタルは嬉野に多いんだ』
『今までホタル、あまり見たこと無い?』
『ええ、あんまり見たこと無い』
----アパートに帰ってきて、冬子さんの温もりを抱くようにしながら僕は思った。クルマのエンジンがなかなか掛からなくて冬子さんに迷惑をかけたこと、あのエンジンは一度エンストしたらなかなか再びかけることが難しいこと。
 アパートも今のアパートも綺麗だけど、マンションの方が良いこと。今のアパートは暑いこと。少なくとも涼しいアパートに移りたいこと。クーラーを買うよりも涼しいアパートに引っ越した方が良いようなこと。何処かとても洒落たアパートがないかな、と思った。
 とても洒落ていたらマンションでなくアパートでも良いこと。
 でも選挙が終わるまでは寸間を惜しみ、選挙のために戦わなければならない。でも自分の選挙の戦いは選挙の1週間前までには終わっていなければならないこと。クーラーは13畳のキッチンの部屋に置くので、それを買うか、アパートを探して移るかしなければならないこと。選挙は7月中旬であること。あと1ヶ月、あの部屋はあまり使うことはないから我慢しよう。そして選挙が終わってから福運とともにとても洒落た居心地の良いアパートを探そう。もうずっと住んでも良いような(でもそれならマンションの方が良いけど)とても良いアパートを探して引っ越そう。そうしてそこで冬子さんとずっと住んでゆこう。

 まだうつ病は続き、朝はなかなか起きれない。体は怠く、何かスポーツをしないことにはこの倦怠感からは逃れられそうにないようだ。それとも冬子さんと一緒に住むか、でもなかなか一緒に住めそうにない。ちゃんと結婚してからしか一緒には住めない。
 冬子さんが父親とともに敷地内の家へと向かっているとき僕は冬子さんの後ろ姿をずっと見送っていた。クルマのエンジンがなかなか掛からなかったので冬子さんはちょっと僕に愛想を附いたような不安感が有った。冬子さんともう会えないような不安感が有った。
 冬子さんの後ろ姿をだから僕はずっと見遣っていた。クルマを停めてずっと見遣っていた。僕が見合いをすると言ったとき冬子さんがいつまでも僕を見送っていたように今度は僕が見送っていた。もう、会えないような気がして僕は悲しく見送っていた。いつまでもいつまでも冬子さんの姿が見えなくなるまで見送っていた。


 6月23日(土曜)
 明日、会える。嬉しい。でも、週に2回は会いたい。昨夜、ホタルのことなどで電話があった。僕が学会の会合に出ているとき携帯に電話が掛かってきた。そのときはすぐ切った。そして会合が終わった後のクルマの中でまた掛かってきた。このときも今から病院まで会合に行く前にアクエリアスなどをたくさん買っていたので病院から掛けようとそのまま切った。
 病院からアクエリアスなどを自分の机の側に運んだ後、冬子さんの携帯に電話を掛けた。
『ホタルは嬉野によく居るんだ。僕が19のとき、博多から自転車で帰るとき間違えて海岸沿いの道でなくて嬉野へと行く道を通った。そのとき夜だった。周りには誰も居なかった。ホタルの大群に囲まれた。見渡す限り、ホタルだった。上り坂で苦しく、側に川があった。独りぼっちで真夜中で自転車で苦しく、怖かった。不気味だった。ホタルって火の玉みたいだった』
『ホタルって怖いの?』
『うん。ちょっぴり怖い』
『ちょっぴりならいいわ』
『でも、ちょっぴり怖い』
『でも、見に行きたいわ』
『でも、ちょっぴり怖いよ』


 6月25日(月曜)
 昨日、冬子さんといつものように僕のアパートで会った。12時半頃来て、6時15分ぐらいにクルマで送っていった。今、マンションか一軒家のことを考えている。アパートはもう自分が前原にずっと住むように思われるので止めにした方が良いように思える。冬子さんと結婚することはもう本決まりだ。きっと結婚すると思う。
 今までこれほどのことはない。冬子さんのため、冬子さんを悲しませないため、自分は浮気はしない。
 マンションかアパートに今の荷物のまま早く引っ越さないといけない。冬子さんに苦労を掛けないようにもう一生引っ越さないで良いようにマンションに引っ越すべきだ。引っ越しの苦労を冬子さんに掛けないためにそうすべきだ。
 参議院選挙は7月29日だけど、その前にもう引っ越しをするかもしれない。
『あの大きなマンションは沼地だったの。沼地の上に立っているの。前から住んでいる人はそのことを知っている。その沼地は自殺の名所だったの。あのマンションは夜になると悲鳴が聞こえたりするの。それにあのマンションの人たちは飛び降り自殺を良くするの。同じような悲鳴を上げながら飛び降りてゆくの』


 7月4日(水曜)
 長いこと書かなかった。7月29日の参議院選挙が終わるまで選挙活動に没頭しようと考えているからだ。でも今少し余裕がある。
 冬子さんをフルことはできない。ピアノの先生と見合いすると言ったとき、クルマで家まで乗せていって、そのとき、もう会えないと思って、いつまでも僕を見送って手を振っていた冬子さん。とても冬子さんを裏切ることはできない。若い子に心が動く。しかし冬子さんを裏切ることはできない。


 8月27日(月曜)
 冬子さんは言った。
『本当に私のようなので良いの? 子供ができる若い子が良いのじゃないの? 私、昨日、帰りがけ、00公園を4往復して帰りました。先生好みの女性になろうと思って。
 先生、私以外に、好みの女性たくさんたくさん居るでしょう。まだ結納も済ませていないし、今ならできるのよ。
 先生、私が可哀想と思って私と結婚されるんでしょ。私、解っています。私、先生に幸せになって貰いたいし、私のことなんてどうでも良いのよ』
『いえ、僕は今のままの冬子さんで良いんです。今のままの冬子さんで』
ーーtel にて。今週の終わり、結納とともに親兄弟で会食をしてそれで結婚式代わりにすることに決まっていた。たしかに自分もそのことを考えてもいた。ーー


 8月28日(火曜)
 僕もときどき冬子さんに子供ができないことに悲しくなる。
 でも、僕たちはこれほど気が合っているし、
 冬子さんはとっても僕好みだから
 僕はやっぱり今夜軽トラックで冬子さんの家に家財道具を取りに行く。
 病院の軽トラックを無断でだけど、
 だからちょっと勇気が要るけれど、
 今夜午後7時半頃から決行だ。
 2往復必要と思うけど、
 それにこれで僕と冬子さんの結婚が決まってしまうけれど、
 僕はたしかにとてもとても迷っているけど、
 今夜も御本尊様の前で2時間は題目をあげようと考えているけれど、
 たしかに迷うけれど。



 冬子さんは言った。
『本当に私で良いの? 若くて子供のできる女の子と結婚するべきではないの。まだ、結納を済ませてないから、今なら結婚しないようにすることもできるのよ。
 私、土曜日の夜、00公園を4回歩きました。先生の好みの女性になろうと思って。でもやっぱり若い子の方がいいのじゃないの? 私、子供を産めません。先生、子供を好きなようだし』
ーー当直の夜の電話だった。僕は迷った。



『今日、7時45分、ぴったりに来ます。病院の軽トラックで来ます。毛布はこちらで準備しましょうか? そして段ボール箱は必要ないでしょうか?』
 近田さんへ電話した直後だった。迷いは吹き飛んだ。努力して冬子さんの荷物を運ばねばならない。そして近田さんへは豚の貯金箱が段ボール箱一杯にあるから、それを持っていかなければならないし、dos/v の古い大きいパソコンも持っていかなければならない。それを行うのは今週の土曜日の深夜になる。そして日曜日、結納と親兄妹のみの会食、つまり結婚となる。


 8月29日(水曜)
 昨夜、冬子さんが来た。昨夜、冬子さんの家財道具を取りに行くと言っていたのに具合が悪くなり、具合いが悪くて今日はダメだ、と電話したからだった。10時間は寝た。今は、やはり自分は創価学会でガッチリと周りを固めてくれないと退転するという恐怖感だ。それで今日にも創価学会の女子部との見合いの話でも来ないかなと考えた。今ならまだ冬子さんとの結婚の話、反古にすることができるという考えがあった。
 でも、よく考えると冬子さんがすぐに創価学会に入ってくれたらこの心配は消えてしまう。
 冬子さんの家財道具を昨夜は病院の軽トラックで運ぶという計画だったが、その軽トラックを勝手に使うのはあまり良くないので、学会の男子部の部長か、力武さんのクルマで行こう、と考えて夜の勤行をしていた。すると具合が悪くなり、勤行も倒れかけながらやっとできる状態となり、冬子さんに今夜は具合が悪くてダメだ、と携帯の電話をした。夕方、病院で甘いものをたくさん食べ、その上にものすごく濃いコーヒーを大きなコップ一杯飲んだからだった。病院でもう具合が悪くなっていた。
 でも根性で今週アパートの荷物運びに使う段ボールを5個、病院から持って帰った。土曜日、冬子さんと一緒に歩いて病院まで行ったから歩いて段ボールを持って帰ってきた。
 今日、当直かもしれない。でも冬子さんの荷物はどうしよう。赤帽に任せるか、そっちの方が家具に傷が付かずに良いようでもある。
 今日は水曜日。明日は木曜日で一日中、フリーである。やはり冬子さんと結婚しようと思う。自分の心がしっかりしていたら退転することも信仰が惰性に陥ることも無い。
 昨夜、冬子さんは言った。『玄関に荷物をたくさん置いてたら、兄に五船先生が夜7時45分に病院の軽トラックで取りに来る、と言ったら、そんなことするな、と言われました』
ーーたしかに迷っている。信仰のしっかりした女子部と結婚したらどんなに心強いだろう。そして学会を継ぐ子供を何人も産んでそうして広宣流布に貢献してゆくことができる。今ならまだ間に合う。
 冬子さんは子供を産めない。養子を取っても、良い養子を取らなければダメである。自分の子供はきっと頭は非常に良くて性格も素直だろう。自分のように燃え尽きることをさせなければよい。
 しかし今さら冬子さんを振るのは可哀想だ。冬子さんを創価学会に入れよう。またそのためにも今夜か明日の夜か、いつかの夜、部長か力武さんのクルマで冬子さんの家財道具を運ぼう。そうして冬子さんに創価学会を良く思わせよう。

 今、僕がもう一つ心配しているのは僕が勤めから帰ってきて長時間題目をあげることだ。職場が精神的に厳しく、それでも負けないためには長時間の題目が必要だし、学会活動も必要だ。でもそうすると冬子さんの相手をあまりできない。でもこれは冬子さんも理解してくれるような気がする。

 今、ぶっちぎって、婚約を破棄して学会の女子部と見合い結婚するより、もう2年半も付き合っている冬子さんと結婚する方が良いような気がするが、やはり迷っている。

 そしてまた、もう一つ迷っていることがある。隣の薬局の33歳ぐらいになるとても美人の薬剤師さんが自分を狙い始めたことだ。とても美人で非の打ち所がないほど美人だ。ただ性格が少し悪いと自分が前原に来てしばらくして行った旅行でそう思った。でもそのときは何か自分に勘違いをしていたか、結婚する意志が全くなかったためか、そしておそらく自分を悪く思っていたためと最も思われる。
 とても魅力的で冬子さんを捨てようと思ってしまう。自分の弱い意志、しかし子供を残すためには大切だ。
 僕は迷う。薬剤師の女の子はとても魅力的だ。冬子さんよりずっと良い。しかし冬子さんが可哀想だ。

 昨日、一夜、具合が悪くて寝たこと、冬子さんが来た。しかし、信仰心がそれで薄れてはいけない。
 薬局の女の子が魅力的で僕は迷う。あと2ヶ月早く薬局の女の子が誘惑を示してくれたなら、そうしたら僕は子供を造れる女の子と、広布を任せる子供を産むことができたのに。


                 完

冬子さん(日記)

冬子さん(日記)

  • 小説
  • 短編
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2017-07-28

Public Domain
自由に複製、改変・翻案、配布することが出来ます。

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