問題用紙
《1時間目:古文》
カズキはテストを受けていた。
そう、カズキの高校では期末テストが開催されていたのだ。
シーンと張り詰めた空気の中、チャイムが鳴ると同時に教師が「止め!」と声をかけ、緊張の糸が切れたように皆それぞれ手を休めた。カズキは後ろを振り向き後ろの席のトキヤへ話しかけた。
「今のテスト、おかしくなかった?」
「別に。簡単だったじゃん…」
「いや、そういうことじゃなくて。問題用紙見てて本当に変だと思わなかった?」
「別に。あっ何か問題に間違いでも合った? 最近あのじーさんボケてきてるらしいからここで点数ごまかせられるんだったら…」
「そういう意味でもないんだけど…」
「そっ」
「あの先生こんなことしないと思うんだけどなー」
「何が?」
「気づいてないんだ。やっぱ」
「だから何がだよ」
「テスト」
「は?」
「この問題用紙さ変だと思わない」
と言いながらカズキはトキヤに自分の問題用紙を渡した。
「これのどこが変なんだよ」
「ここだよ。こーこ」
とカズキが指さす場所をトキヤは自分の問題用紙と照らし合わせながら言った。
「やっぱ、俺のと同じじゃん…」
「だから、そう見るんじゃなくて、この問1から問9までの頭文字、和文の『わ』、すべての『す』、レ点の『れ』、何をの『な』、如何様の『い』、出語りの『で』、傍線の『ぼ』、句読点の『く』、御伽草子の『お』はくっつきの『を』にすれば『忘れないでボクを』になるんだ。ちゃんとした文章になるだろ?」
「偶然文字がつながっただけだって気にすんなよ」
「そうかな…」
「それより現国の範囲教えてよ…」
「ん…。教科書の37ページから53ページの漢字全て…」
「はぁ?」
《2時間目:現代国語》
カズキはやっぱり次の問題用紙でも頭文字を続けて読んでいた。テストが終わるとトキヤは声のトーンを下げて言った。
「なぁ、今の『夢を叶えることを』だろ」
「たぶん…」
「20分も余ったから解いてはみたけど、誰がこんなイタズラしてんだろ」
「分かんないよ。でも…」
急にカズキは喋らなくなった。
「何だよ急に黙って」
「いや、つなげて読むとさ『忘れないで僕を。夢を叶えることを』だろ。ってことは誰に向けて言ってるんだろうなーと思って」
「さぁな? 次日本史だろ。お前のことだから出る場所マーカーつけてるんだろ。教科書借りるぞ」
「え? あっいいけど。ほとんどノートから出るらしいよ」
「なんだそれ!」
「トキオみたいにノートとらない奴が多いからだよ」
「そういうことか…」
「納得できんの?」
「あっ」
《3時間目:日本史》
終了のチャイムが鳴ったというの二人はピクリとも動かず問題用紙をじっと見つめていた。
「おい、カズキ。部活さー」
と友人のシンジはカズキに近付き言うがやっぱりピクリとも動かない。
「カズキ。おいカズキ…」
シンジはその後ろにいるトキヤも同じ体勢で動かないことを気づき
「おいトキヤ。おい!」
と激しく揺するとトキヤは椅子から転げ落ちたが動くことはなかった。
「だっ、誰か保健の先生呼んで来てくれー」 とシンジは騒ぎだす。
二人はメッセージを解いてしまった。
決して解いてはいけないメッセージを…。
『忘れないでボクを。夢を叶えることを。君の扉は今開かれた…』
-end-
問題用紙