かおるたん短期特訓計画

デレマスの二次創作。かわいい、けど無防備さが危うい龍崎薫をフリーのプロデューサーが面倒を見るお話。

 すねに傷を持つフリーのプロデューサーにとって、目の前でオーダーを待つ善澤(よしざわ)という男ほど避けたい記者はいない。この男は記者としては珍しくゴシップを嫌い、記事も誠実で誇張がないため評判は高く信頼もされている。その分、彼が過去の不祥事を取り上げればそれは覆らぬ証拠となり、不祥事の当事者……すなわちボクは、事実すべてを公表するまで世間から許されることはないだろう。
「ずいぶん構えているね。今日はキミを記事にするつもりで呼び出したわけじゃないんだ、楽にして欲しい……ああ、コーヒーを二つと何かつまめるものを。うん、ザワークラウトをもらおうかな」
 注文を取りに来た女性に柔らかい物腰で答え、善澤記者はやや大きめの椅子に腰掛け直した。
「たばこが吸えないと口寂しくて困るね」
 なかなか本題に入らない善澤記者にいらだち、ボクはやや強引に口火を切る。
「用件があるのでしょう、言うつもりがないならボクはコーヒーが来る前に消えますよ」
 それは困るな、と善澤はのんきに笑ったがボクの表情から冗談を言っていないことを悟ったのか、軽く身を乗り出しテーブルの上で手を組んだ。
「龍崎薫(りゅうざきかおる)、というアイドルを聞いたことはあるかい?」
 聞いたことのない名だった、マイナーなアイドルでもある程度は調べているつもりだったが。
「デビュー前ですか」
「その通り、美城プロの秘蔵っ子だよ」
 苦笑いを浮かべ、善澤記者は肘をテーブルの上に置いた。
「先生(せんじょう)くん、龍崎薫(りゅうざきかおる)というアイドルを知っているか
 なるほど美城か、あそこならデビュー前のアイドルも多く抱えている。噂が聞こえぬのも納得できる話だが、なぜそんな大手プロダクションの話が出てくる。
「で、美城のアイドルとボクに何の関係が」
「関係はこれから作ってもらおうと思ってね」
 何気ない、まるで当たり前のことように善澤記者がつぶやく。さも当然といったその態度が、ボクの思考を停止させる。
 言葉通りに考えれば、ボクが龍崎薫なるアイドルの卵に関わるということ。ボクはプロデューサーだ、当然プロデュースという形での関わりになるだろう。だが相手は天下の美城プロ所属のアイドル、あそこは有能なプロデューサーを多数抱えている。わざわざ過去に遺恨のあるフリーのプロデューサーに門を開けるメリットがあるものか。
「あり得ない、冗談はよしてくれ」
「気持ちは分かるけど、冗談かどうかはこれを付けて美城プロへ行ってから判断して欲しいね」
 善澤記者がテーブルの上に置いたのは、美城プロのエンブレムと社員ナンバー、それにどこかれ手に入れたのかボクの顔写真まで入ったネームプレートだった。なんでこんな手の込んだことを。
「どうしてここまでするんです、ボクに何をしろと?」
「龍崎薫はユニットとしてデビューが近い、でも彼女だけレッスンが遅れていてね。キミなりのやり方で、早期に使えるようにして欲しいんだ」

 善澤記者と激論を交わしてからの翌日、ボクは美城プロの受け付けから通され龍崎薫の新しいプロデューサーとして面会することになった。
 しかし、結局善澤からは従来のやり方を通せと念を押されてしまった。ボクの従来のやり方とは、アイドルに寄り添ったプロデュース。しかし、相手は若い少女たちだ。たとえボクが醜い怪物だったとしても、相手に寄り添って献身的にプロデュースすれば彼女たちは魔法にかかってしまう。プロデューサーに恋をするという、偽りの魔法に。
 ボクはプロデュース中のアイドルに関係を迫られ、受けてしまったことがある。善澤はそれを承知の上で「君と龍崎薫なら大丈夫だ」と断言したが、保障できるものか。人間そう簡単に変わりはしない、ボクという人間はいざとなれば過ちを繰り返す。
「ねえ」
 だからあの後は嫌われるくらい厳しいプロデュースに徹した。それがアイドルの真価を発揮させるやり方でないのは分かる、結果有望そうな候補生をアイドルの道から離れさせもした。だとしても、アイドルをプロデューサーのエゴに触れさせるよりマシだ。
「ねえ、ねえってば!」
「あ、ああ、すまないねお嬢ちゃん」
 目の前で小学校低学年とおぼしき女の子がバタバタと袖を振っている。子役の子だろうか、でもなぜボクに声をかける。
「何か用かい?」
「おにいさん、プロデューサーさん?」
 女の子は舌足らずな口調で聞いてくる。まったく、無遠慮というか警戒心がないというか……しかしプロダクションに出入りするだけあってかなりの器量よしじゃないか。腕が伴えば、将来はアイドルも女優もいけるだろう。
「ああ、おにいさんはプロデューサーだよ」
「じゃあ、あたらしいプロデューサーのせんせぇだね!」
 ボクは目の前で動き回る少女の両腕を掴む。
「ストップ! お嬢ちゃん、ボクが新しいプロデューサーだって?」
「うん、ああっ!」
 女の子は僕の手をふりほどき、膝の上にのしかかる。
「なふだにせんせぇってかいてある! ほんとぉにせんせぇなんだね」
 ボクは気合いを入れるように息を吐きながら女の子を抱き上げ、向かいの椅子に座らせた。流石に抱き上げられて驚いたのか、女の子は大人しく椅子に座っている。ボクは肩で息をしながら、少女に問いかけた。
「お嬢ちゃん、名前を教えてくれるかな? フルネームで」
「龍崎薫だよ!」
 女の子は元気よく答えた。まだ少女と呼ぶにも若すぎる彼女が龍崎薫? 善澤、謀ったな!

「せんせぇ、なんで機嫌悪そうなの?」
「放っておいてくれ、大人の事情だ」
 ボクは用意された龍崎薫の資料に目を通していた。くそう、今思えば疑うべきだった。善澤は龍崎薫の名前だけを告げ顔写真も渡さなかった。こんな子供と知ればボクが断ると分かっていたんだ。しかしここはもう美城プロの中、龍崎薫を置いて出ていけばそれこそこの業界では生きていけない、やるしかないんだ。
「ん、これは凄いな」
 初めは幼すぎるとバカにしていたが、資料を読み進めるとボクの認識は間違っていたと気がつく。九歳でアイドルに抜擢されるだけのことはあり、プロポーションはジュニアアイドルとして文句なし、歌も踊りも年齢平均以上で伸びしろを認む。しかもこの歳で特技は料理、これだけ揃えば奇をてらったアイドルという世間の評価も黙らせられるだろう。本人がプレッシャーに耐えられれば、だが。
「ねぇ、せんせぇ」
 横を見ると、かおるが手を後ろで組み心配そうな顔でこちらを伺っている。
「かおる、なにかわるいことしたのかな?」
「は?」
「だってせんせぇずっとこわいかおしてるよ、かおるが何かしたなら叱ってもいいから、きげんなおして」
 そうか、かおるはボクが怒ってると思ったのか。確かにこんな子が担当と知ったとき怒りはしたが、かおるに対してではないし、今は考え事をしていただけで怒ってなどいない。
 ボクはできうる限りの笑顔と優しい声を意識する。アイドルとプロデューサーは信頼関係が命、相手の目線に立つ必要がある。まして相手は子供、まず安心させなければ。
「怒ってないよ、ボクは難しいことを考えると顔が怖くなっちゃうんだ。誤解させちゃってごめんよ」
 かおるの表情がゆっくりと、そして際限なく晴れやかになっていく。
「やったーせんせぇおこってないー!」
「あとかおる、これはせんせいじゃなくてセンジョウと読むんだよ」
 かおるは椅子に座るボクの膝の上に飛び乗ってきた。
「知ってる! たたかうんだよね!」
「その戦場じゃない……こら、そんな姿勢じゃパンツが見えるだろ! お前無防備すぎるんだよ、アイドルはガードを堅くするのも仕事なんだ」
「だいじょうぶ! 変な人見たらこれ鳴らすから」
 かおるはポケットから自慢げに防犯ブザーを取り出した。何度もボクの目の前に指しだし、褒めて欲しそうに目を見開いている。
「そうじゃなくてな……いやそれも大事だけども! ボク、いや先生とかおるはさっき会ったばっかりだよな?」
 ボクはかおるを膝から下ろしながら説き続ける。
「でもせんせぇなんでしょ?」
 かおるはボクの膝の上に戻ろうと必死に腕をよじ登ってくる。
「まあ教えるって意味ではそうなんだが、参ったな……」
 再び膝の上に収まるかおるを見ながら、今後どう教えれば良いものかなんとも悩む。龍崎薫、素質はあってもアイドル、いや女性として致命的なものが足りてないんじゃなかろうか。この歳の子供に求めるのは酷、という考え方も出来るが。

 ダンスのレッスンを終えたかおるは少し眠そうな顔をしているものの、表情からやる気は衰えていない。九歳であのやる気はもはや才能だ。
「あの子は伸びますよ、プロデューサー」
 女性トレーナーは汗だくのかおるをを微笑みながら眺めている。レッスンを嫌がるジュニアアイドルは多い、彼女も若くひたむきな彼女には期待しているのだろう。
「ありがとうございます」
「ではプロデューサー、親御さんが迎えに来る前にシャワーを浴びさせてあげてくださいね」
「はい?」
「かおるちゃん、疲れると一人で着替えできないんです。汗をかくと余計に難しいみたいで……お願いしますね」
 当たり前のように言うトレーナーに、僕は追いすがる。
「待ってください、そういうのは女性の仕事では? プロデューサーがアイドルの衣装を脱がせるというのは問題があると思うのですが」
 ボクの言葉に、女性トレーナーは笑って応える。
「相手は子供ですよ、気にしすぎですって。じゃあ、わたしは次のレッスンがあるのでこれで」
「ああ待って! 前はどうやってたんですか!」
 他の子とレッスンの時間を合わせてましたーと言葉を残し、トレーナーは長い廊下を歩き去って行った。ボクは残されたかおるのほうに目をやる。
「はぁ、はぁ……せんせぇ、シャワーいこうよ」
 息の上がったかおるが、汗のしみこんだレオタードを引っ張り胸元に空気を送り込んでいた。ちらちらと乳首が見えていることに本人はまったく気付いていないのか、もしくは気にしていないのか。ボクは頭が痛かった。

 幸いシャワー室には個室があり、アイドルの衣装を考慮してか脱衣所も広かった。トレーナーはああ言っていたが、汗だくで息を荒くする眠そうな九歳女児のレオタードを脱がせる姿なんて見られたらプロデューサー以前に人間として何かが終わりそうな気がする。昨今の世論は子供と関わる大人はみな異常性愛者だと考えてる節さえある。
 レオタードは汗を吸ったためかやや伸縮性が落ちておりかおるの柔らかい肌に食い込んでいる。ボクはかおるの後ろに回り、なるべくかおるに触らぬよう指先でレオタードの肩紐を持ち上げると、かおるが汗ばんだ顔で見上げてきた。
「せんせぇ、もっとさわって」
「はあ?」
 思わず語気を荒くしてしまったが、かおるは何のことか分かっていないらしくきょとんとしている。
「せんせぇの手、冷たくてきもちいいの」
 なるほど、そういうことか。しかし一瞬とは言えこんな幼い子を異性と考え、以前のように突き放さなければなどと……頭が切り替わっていない、過去に縛られすぎている。
「くすぐったくても暴れるなよ」
 かおるに言われ、遠慮せず若い素肌と生地の間に手を入れてレオタードを脱がせていく。さすがは子供というか、体温が高い。また体が柔らかく、元気な見た目に反しもろさを感じさせる。父性本能とでも言うのか、いとおしさが沸いてくる。
「うわぁ!」
 腰元まで脱がせたところで、ボクは思わず手を離し飛び退いてしまった。支えを失ったかおるはそのまま床に転がり、かわいらしい声で痛いと訴えながら立ち上がり足下までずり下がったレオタードを脱ぎ捨てて近づいてくる。
「どうしたのせんせぇ、急にいなくなるからかおるあたまぶっちゃったよ」
 そんなことより、そんなことより……。
「お前、パンツ履いてなかったのか」
 裸のかおるは不思議そうな顔のまま股を開いてボクの膝の上に乗る。
「うん、レッスンの時はいつも汗かくから脱いでるよ。どうして?」
 どうしても何も、お前、子供でも男がそこを触ったらまずいんだよ。
「あ、いや……早くシャワーを浴びなさい」
「はーい! あ、せんせぇも服脱がなきゃだめだよ? 濡れちゃうもんね」
 ジュニアアイドルとプロデューサーが全裸でシャワー? かおるが何でも無いことと思っているが、いくらなんでもそれはまずい。
「もう小学生だろう、シャワーくらい一人で浴びなさい」
「かみのけは大人の人にあらってもらいなさいってこないだスタイリストさんに言われたんだ!」
 スタイリストめ、余計なことを……しかし一理ある分、かおるを説き伏せるのは難しい。
「その通りだが、先生の分のタオルがないぞ」
「そこの棚開けるとタオルいっぱいあるよ!」
 かおるの言うとおり大小のサイズが一通り揃っており量も多い、どうやら覚悟を決めるしかないようだ。
「せんせぇパンツの上にタオル巻いてる、水着みたい!」
「ああ、カッコイイだろ」
 ボクサーパンツの上にタオルの姿で全裸の女児と個室に二人。これが娘なら微笑ましい限りだが、ボクから見てかおるは娘と言うには大きすぎる。
「あはっ、きもちいいー」
 かおるは胸も股間も隠そうとしない。しかも隙があればべたべたと体を触ってくる。本人の言葉づかいや行動を見ていれば、それは子供の無邪気なじゃれつきだというのは分かる。だが、さすがは有望なジュニアアイドル。プロデュースをそれなりにこなしてきたボクが見てもかわいらしい。ここまで積極的にされると、相手が子供だろうとこっちは男の本能が高まりはじめる。ロリコンの気はない、と思っていたが意外と油断できないのだな。
「はい、シャンプー終わり。次は背中だな」
「せんせぇ、かおる眠くなってきた……」
 先ほどから眠そうにしていたが、シャワーを浴びたことでいよいよ疲れが出てきたらしい。
「もう少しの辛抱だ、体洗うから少し待ってろ」
「うん、わかった」
 スポンジを泡立て、素早くかおるの体を洗う。さて流そうかというときに、かおるは床に尻餅をついた。両足を広げたままきょとんとしている。
「おい、大丈夫か!」
「おまたもちゃんと洗いなさいってママが言われたの」
「なんだ、自分から落ちたのか」
 仕方なくスポンジを当てようとした手をかおるが掴む。
「せんせぇ、ごしごしすると痛いから手で洗って」
 手が止まった、ボクの本能はさっき高まりはじめたままうずいている。この場面、本当ならスポンジでこするのだってかおる本人にやらせたいのに素手?
 過去のトラウマが蘇る。アイドルから告白されたとき、ボクは受け入れてしまったこと。今、ボクは逆の立場に足を踏み込もうとしている。プロデューサーからアイドルへ。こんな幼い、恋愛感情なんて頭の隅にもなかった龍崎薫に喉を鳴らしている。おそらくこれは欲情、控えめに見ても異性としての意識。
「せんせぇ、きたないところはいや?」
「そんなことはない、気にするな」
 ボクは振り切った。こちらから恋して潰れる? ボクが一人で潰れる分には単なる自滅、因果応報と言うヤツだ。重要なのは表に出さないこと、仮に出そうになったときの去り際に相手へ遺恨を残さなければよいのだ。九歳の女の子じゃないか、今重要なのはプロデューサーたるボクが彼女を全面的に支えている、肯定していると感じさせること。
 ボクは極力雑念を捨てるよう意識し、かおるの膣を守る軟らかい肉とその周囲に手を当て、やさしくこすって汚れを落とした。心なしか、かおるが気持ちよさそうな顔をしているが見なかったことにする。
「せんせぇ、おしりのあなもきれいにして」
「お前、言ってて恥ずかしくないのか」
「だって手に力が入んないんだもん」
 仕方ない、なるようになれだ。
「せんせぇ洗うのじょうず~! かおる、なんか気持ちよくなってきた~」
「じゃ、さっさと上がって横になるといい。寝ればもっと気持ちいいぞ」
「ちぇ~」
 石鹸を流し終わると同時に、かおるの顔がボクの股ぐらに倒れ込んできた。彼女はよだれを垂らして眠っていた、疲れて気を失ったのかも知れない。ボクのチンコはかなり堅くなっていたが、この様子なら気付かれなかっただろう。ボクは自分に失望する。
「かわいいからって体が反応するなんて、ボクってヤツは」

「せんせぇ、かおるがんばるね」
「ああ、これからはユニット活動だ。今日までいっぱい練習したもんな、今まで通りやれば大丈夫だ、いってきなさい」
 ボクはかおるの頭を撫で、ポンポンと背中を押した。
「うん、いってきまー!」
 かおるを一緒に見守った女性トレーナーがボクの肩を叩く。
「かおるちゃんのレッスン、間に合いましたねプロデューサー」
「ええ、ご協力ありがとうございました」
 女性トレーナーは首を横に振る。
「プロデューサーの力ですよ。かおるちゃん、なんていうか、元気なんだけど少し落ち着きが出たって言うか、大人びたって言うか……元は損なってないんだけど、節操がある感じって言うんですか? プロデューサーに会ってから、そんな風になったと思うんですよ」 節操、か。やはり習慣化したレッスン終わりのシャワーで異性であるボクとふれあうことで、幼いなりにも無意識に欲求が満たされているのだろう。
 だとすれば、自覚になったとき危うい。長い付き合いで、ボクはかおるがよい子であることがよく分かってしまった、好意を持ったと言っていい。そんな彼女に今とは別の好意を振り向けられでもしたら、振り切れるわけがない、かといって以前のように受け入れたりなんかしたら……。
 ボクはかおるを見送り、かおるが入るユニットのプロデューサーに声をかけた。

 美城プロの外へ出て、ボクは携帯電話を手にした。
「久しぶりですね、善澤さん」
『やあ、活躍は聞いているよ。プロデューサーを降りるそうじゃないか、どうしてだい?』
「龍崎薫が魅力的すぎたからですよ。それより、どうしてボクに彼女をあてがったのか教えてもらえませんか」
 電話越しにも分かる緊張感。だが、これを聞かなければ引き下がれない。
『以前、キミに恋したアイドルに頼まれたんだよ。先生プロデューサーは自分のことを負い目に感じている、以前のようなやさしいプロデューサーに戻れるよう力を貸して欲しい、なんでもするから、とね。そんな頼まれ方をしたら、断れないだろう?』
「かおるは生け贄ですか」
 電話の向こうで善澤は笑った。
『まさか。キミの噂を聞いたから、伸び悩んでる彼女にぴったりだと思ったのさ。あの子はありのまま伸ばしてやったほうが伸びる、子供を枠にはめないプロデューサーが必要だった』
 なるほど、そこまでボクのことを。善澤は十分に値踏みし、足ると判断してボクを使った訳か。
「じゃあ彼女に伝えてください、先生は十分元に戻ったと」
 ボクは電話を切って駅に向かい歩き始める。
「せんせぇー!」
 声にぎょっとして振り返ると、かおるがステージ衣装のまま走ってこちらに向かってくるのが見えた。なぜだ、ボクの退社は口止めしておいたはずだしリハーサルが終わるには早すぎる。
「わっぷ!」
 勢いを殺さず突っ込んでくるかおるを抱き留め、足下を見る。ステージ用の靴のままじゃないか、こんなに汚して……って、こんな走りにくい靴でずっと走ってきたのか!
「かおる、なんでここにいる。リハーサルはどうした!」
「あのね、あたらしくておっきいぷろでゅーさーがせんせぇがやめちゃうっておしえてくれて、かおるがおいかけるっていったらいいよっていってくれたの」
 あの巨漢プロデューサー! 口止めしたのにかおるまで差し向けるなんて!
「せんせぇ、なんでやめちゃうの?」
「うっ」
 恋に落ちそうだからなんて言えない。でも、なんて言えば納得してくれるだろうか。
「かおるしってるよ、かおるだけレッスンおくれてたからせんせぇがきたんだよね? かおるががんばったからせんせぇやめちゃうの? せんせぇいなくなったらがんばれないよ、これからもずっとそばにいてよ! もっともっとがんばるから!」
 大丈夫、かおるのひたむきさがあればせんせぇがいなくてもやっていけるよ。大人の男なら、そう言うべきだったのだろう。
 でもボクは、かおるを抱きしめていた。近くに居たいという思いが勝ってしまった。
「心配させてすまなかったね、かおるの言うとおりだ。一緒に美城へ帰ろう」
「うん!」
 かおるの泣き顔がとたんに晴れやかになる。ボクが自制すれば済む話なんだ、大丈夫、彼女がボクへの好意に気付くのは何年も先のはず。なるようになれだ。
「ねぇせんせぇ」
 手を繋いでの帰り道、かおるが唐突に口を開く。
「ロリコンってなあに?」
 ボクは思わず吹き出した、加えて周囲から視線が集まるのを感じる。
「どこで覚えたんだそんな言葉」
「んー、どこだったかなぁ……あたらしくておっきいプロデューサーに聞いたら、せんせぇに聞きなさいって言われたの。どういういみ?」
 あ、あいつまさか感づいて! ボクは荒れる呼吸を悟られぬよう冷静を装って答える。
「大人の男の人がずっと年下の女の人を好きになっちゃうことを言うんだよ」
「へぇ~そうなんだ! じゃあせんせぇがロリコンだったらいいなぁ」
 ボクは体が硬くなるのを感じた。足を止め、かおるの肩を掴み諭すように言う。
「かおる、人をロリコンって呼んじゃダメだよ」
「なんで? せんせぇとししたきらい?」
「そういう意味じゃない、とにかくロリコンは禁止。いいな?」
「うん、わかった、せんせ……うわぁ!」
 ボクはかおるを背中に乗せて美城プロへ走った。なんというか、こんな気持ちで二人で歩くのがいたたまれなかった。かおるを差し向けたプロデューサー、名をなんと言ったか……わざわざかおるを差し向けたということは、ボクが何を考えているか感づいているかもしれない。注意したほうがいいだろう。
「あはははは! せんせぇはやーい!」
 だが、同時に利用価値も認めたと言うことだ、やってやろうじゃないか。こっちは敏腕でもなんでもないが、一人のアイドルを鍛え上げるくらいの意地は持ってるんだ。 ボクの全部をくれてやる、龍崎薫をトップアイドルにするために。

かおるたん短期特訓計画

かおるたん短期特訓計画

アイドルマスターシンデレラガールズの二次創作です。 善澤記者に謀られ、何も知らないまま龍崎薫を担当することになった訳ありプロデューサー。初めはただの子供と高をくくるも、薫の魅力に自身はロリコンではと疑問を抱くようになる。 龍崎薫をひたすら愛でるお話ですが、シャワーシーン等、ちょっと薫さんが無防備すぎるためR-18としました。 祝、アイマス12周年!

  • 小説
  • 短編
  • 成人向け
  • 強い性的表現
更新日
登録日
2017-07-26

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二次創作物であり、原作に関わる一切の権利は原作権利者が所有します。

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