オーガンジースカート

ああ、よりにもよって

許せない。信じられない。
私のお気に入りのスカートに、とまってる。
その汚い脚を、早く、どけてよ。

ーーー

小蝿が飛んでる。
どこから入ったの?私だけのこの、素晴らしいワンルームに。
誰にも気兼ねしない、好きな服で、どんなぐうたらな姿をしてたって構わない。空間。
この前買ったコロンのいい香りだってする。
あなたは、本当に、不似合いよ。

仕事の時は常に自分を演じてる。
玄関を開けた瞬間、私はもう一人の私とすり替わる。
どんなマジックなんだろう。
私が私に、意識の奥底でかける魔法。
定時が来ればそれが解かれる。
通勤電車の人混みに塗れながら、帰り途を歩きながら、少しずついつもの自分を取り戻していく。

ああ、やっと帰ってきたのに。
どうして、目に入ってしまったの。

ーーー

彼女の怪訝な目。
そうか、当たり前か。
そんな世界だと、忘れていた。
よりにもよってこんな姿だ。いたたまれない。
だけど、これが何よりの現実だった。

彼女からすれば未来の力を使って、僕はここを訪れた。
どんな姿かは選べない。
強運なやつはヒトの形になっていたっけ。
僕には運があったのか、なかったのか。
いや、ないほうか。
下手をすれば殺される、なんて。
ずっと、逢いたかった人に。
躊躇もなく、一瞬で。
素手か新聞紙、はたまたティッシュ。

ああ、やっと逢えたのに。
どうして、話すこともできないんだ。


オーガンジースカート

オーガンジースカート

オーガンジースカート

短編です。 日常に少し疲れた彼女の、ただ取り留めのない想いを彼だけは知っていました。

  • 小説
  • 掌編
  • ファンタジー
  • 恋愛
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2017-07-25

Copyrighted
著作権法内での利用のみを許可します。

Copyrighted