喪女が人生やり直したら? 7話
現代編2です。
7話
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とりあえず席に着く。
「えー、本日はセリ姉のためにお二人とも、ありがとうございます。開いた口がふさがらない姉にこの状況を説明しますと」
キミに代わって、飯田くんが若干緊張しながら、でもしっかりと話し始める。
「今、俺が働いている会社で島田さん、妹さんも働いていて。この間、中学校の時の同級生が俺に話しがあるっていうのを、取り持ってくれんだ」
バトン形式で今度は望月くん。
「俺と飯田は今でも飲み友で、飯田から今の話を聞いたら、秋野さんの話になって。まあ、その時、酔ってた勢いもあって•••」
再び飯田くん。
「島田さんに電話して、秋野さんが元気か聞いたら、今日の会に誘ってもらったんだ•••」
やっと頭が動き出したよ。つまり、飯田くんの会社にキミも働いていて、飯田くんと望月くんは今でも会っていて、キミと話したさいに、私の誕生日の話も出たと。なるほど、なるほど。一回、深呼吸をする。いつまでも、ぼーっとしているわけにもいかないので
「二人のことは覚えているよ。なんか懐かしいね」
私からも話しかける。私としては七ヶ月ぶりだったが、本当に懐かしい気がした。それに対して彼らは私と会うの、中学校以来のはずだから十五年ぶり? 私もだろうけど、言われなければ、お互いにわからなかったと思う。それくらいみんな大人になっていた。それにしても•••。
やせた後で良かった•••。
横でニヤニヤしているキミにはムカつくが、一応ダイエット協力には感謝。でも考えてみれば、服まで指定してきて、おかしいとは思ったんだよ•••。でもまさか、サプライズどころか、こんなスペシャルドッキリをしかけてくるとは思わなかった。ただし! まだ、一つだけ引っかかっていることがあった。
「ところで、キミ」
「な、なあに、お姉さん?」
「キミが飯田くんとの連絡を手助けした人って、だぁれ?」
明らかにゲッとしたキミ。男性二人のキョトン顔を見るからに、彼らにも秘密にしているな。そう、ヤツだ。天然おとぼけスーパーウーマンが•••。 私がキミにニジリよっていると
「乾杯しちゃった?」
サングラスに帽子の、えらくスタイルのいい姉ちゃんが私たちの席に入ってきた。
やはり•••。
「まだ。だけど、お姉ちゃんには今、感づかれました」
「やっぱり。秋野さん、昔から謎の予知能力みたいのあったからなぁ」
そう言って、そのナイスバディは帽子とグラサンを外す。
「「み、宮野?」」
今や芸能人となった宮野優希がお誕生日席に座った。男性陣は完全に舞い上がってらっしゃる。あの•••私の誕生日を祝うんでは•••。
「ヤッホー、キミ。久しぶり!」
陽気に手を振る宮野について、キミは平然と説明を始める。
「開いた口がふさがらないみなさんにこの状況を説明しますと、私とユーキは友だちで、先ほどの飯田さんにお話があったというのも、ユーキです」
キミめ、あの後『あれ』を実行したんだ。やっぱりチョロいじゃねーか、宮野さん!
「というわけで、二段階ドッキリでしたー」
勝手にオチみたいにまとめやがって。この可愛いければ何でも許されると思っているリア充どもよ。男性陣、完全にびびっているぞ。不意に宮野さんが私に話しかけてきた。
「秋野さん、久しぶり~。元気だった?」
「おかげ様で。そちらこそテレビで見ぬ日はないほどのご活躍」
「あー•••、キミ。お姉ちゃん、怒っているんですけど」
馴れ馴れしいぞ、宮野。このっ!
まとわりついてくる宮野さんを払いながら、男性陣をうかがうと、目が点になっていた。ちょっと待て、この会、誰が仕切るんだ?
「あぁ、アルコール与えればおとなしくなりますから。すいません、オーダー」
キミめ、淡々とこなしやがって。本当に大丈夫なのか、この飲み会•••もとい、私のバースデーパーティー!
そして、乾杯から三時間後。
あの•••、私以外、みなさんデキあがってらっしゃるみたいなんですが•••。
「秋野さん! ありがとうな、あの時は! クラス全員が半信半疑だったのに、秋野さんは100%俺じゃないって信じてくれて。逆に謝られた時はびっくりしたくらいで」
「い、いえ。どういたしまして」
興奮して私の手を握り、熱く語る飯田くんをなだめながら、改めて場を見回す。
ヤバいぞ。このカオスを鎮められるヤツ、いるのか?
22
最初はビールで始まった会も、宮野さんが二回目オーダーでワイン一本をたのんだ。この時は酔いながらも、みんな良い感じだったのだが•••。三回目オーダーの二本目を宮野さん、男性陣の三名で空けると、雲行きが怪しくなってきた。
ちなみに私はダイエット以来、一貫して緑茶割りかウーロン茶割りだったので、酔ってはいたけどいつものペース。キミは明らかに宮野さんの酒豪ぶりを知っていた感じで、一人だけ安全な場所でカクテルを上手そうに平らげている。
可哀想なのは男性陣。宮野さん、何と本日四回目オーダー、しかも日本酒にチェンジという大技に出た。今から思えば、この段階で男性陣はボーダーラインを超えていたようだった。
その結果、今、現在進行形で飯田くんの熱い感謝を受け止めるハメになっているわけで。やれやれ•••。しつこいようだが、今日は私の誕生日だったはず•••。
「そうだ、秋野さん!」
「は、はい」
「宮野さんに聞いたんだけど、真犯人を見つけたの、秋野さんだったんだって?」
宮野さん、自分で詮索しないで、とか言っておいて•••。宮野さんを見ると、なにやら望月くんが宮野さんとキミに語っていた。宮野さんと目が合うと、それはそれは妖艶な悪女の笑いを浮かべてらっしゃる。
おい、望月くん。なに話しているの? お前は自分が何をしているのかわかっているのか!
「秋野さん、聞いてる?」
「あ、はいはい。聞いてますよ」
「俺、それを宮野さんに今回教えてもらって、それで改めて秋野さんにお礼を言いたくて!」
「そ、そうなんだ。でも、あれは私自身のためだったんで、気にしないで」
いきなり飯田くんは立ち上がると
「秋野さん、俺、秋野さんに聞きたいことがあるんだ」
「びっくりした、な、なんでしょう?」
飯田くんは、立ったまま硬直している。
ち、ちょっと! 誕生日にまさかの○○シャワーなんて、いくら喪女でもイヤだからな!
慌てて逃げようとする私の手首をつかんだ飯田くんは意を決したように
「今、秋野さん、付き合っている男、いる?」
お、なんだ? テメー、ケンカ売ってんのか! って、おっとっと、危ない危ない。ブチキレちゃうとこだった。それにしても何が悲しくて自分の誕生日に、彼氏いない宣言をしなきゃならないんだ! 神様、私、何か悪いことしましたか?
「秋野さん•••、やっぱり、いるよな•••」
私が言うのを戸惑っていると、勝手に勘違いしたみたい。ま、私は嘘は申してません。私の手首を握っていた手を飯田くんは離すと、崩れるように座った。
「いやいや、飯田さん。セリ姉、彼氏いないよ」
「「「え?」」」
私と飯田くん、そして望月くんまでハモった。
テメー、キミ。あとでトイレでシメちゃる!
私が血走った目で妹を睨みつけていると、飯田くんと望月くんが私を挟み込んだ。
な、なんだ? 殺られるのは私か?
私がキョドっていると宮野さんが
「秋野さんて予知能力みたいな力あるくせに、こっち系ニブいんだね」
「あははは、だってセリ姉、今まで•••」
眼力でキミを石化させる。宮野さんは石化したキミと私を交互に見てから口の動きだけで
マ・ジ?
マ・ジ!
テレパシー能力を持つ妖怪人間に、私も同じように返事をする。ただ、その間も私は二人に挟まれたままなのだが•••。二人を見てみると、互いに視線で火花を散らしていた。なんで、私を挟んでやるんだよ。よそでやってくれ、よそで!
「あの、お二人は何しているんですか?」
「「ごめん!」」
はっ、とした二人は慌てて私から離れる。あー、もう何が起こっているのか全くわからない。そこで頬杖ついてニヤケている二人! どっちか説明しろ!
「ね~、ユーキ。セリ姉、なんか目で訴えていますけど」
「ん~、だからって、私たちから言うことじゃないでしょ」
「確かに。じゃあ、どうすんの?」
「そこの男ども。とりあえずジャンケンしなさい。勝った方から•••一分でいっか、秋野さんに言いたいこと言うこと!」
ウンウンとキミは感心している。宮野さんはニヤケ方が段々オヤジのソレになっていった。で、男二人はジャンケンする気満々で、背を向け、自分の出す手を占っていた。
あぁ、もう好きにして。
「「ジャ~ンケ~ン、ポン!」」
勝ったのは、望月くんだった。そこに宮野さんが声をかける。
「はい、じゃあスタート!」
「え? もう? えーと。小四の時、俺が告白したの、もう忘れたと思うけど•••」
な、何を言い出すんだ! みんなの前で!
「あの時は確かに人を好きになるってこと、俺もわかってなかった。当たり前だよな、小学生じゃあ。でも、あれから色々な女の人と出会って、付き合う関係にもなったけど、秋野さんに言われた『好き』に当てはまる人なのか自然に考えちゃって。で、情けない話、まだ出会えてないんだよね。でも今日、秋野さんを見た時、長い間モヤモヤしていた気持ちが、なくなった感じがして•••。秋野さんがやっぱり俺の『好き』だったのか?って気持ちになって•••」
「はーい、しゅーりょー」
「え? まだ、途中なのに•••」
••••••。有馬さん、頭がぼーっとしちゃって、何がなにやら、わからない時はどうすればいいんですか? 私の頭の中の有馬さんもニヤニヤするだけで答えてくれない。
「はい、つぎ。飯田くーん、よーい、スタート!」
え? 何? 今度は飯田くん?
「あー。中一のはじめ、あの時、クラスで疑われた時の帰り、走って追いかけてきてくれたの、覚えてるか? その時の秋野さんを見た時、自分でも呆れたんだけど、可愛いって思っちまったんだ。そして信じてくれたことがすごく嬉しかった。そして真犯人見つけたのが、秋野さんだって知って•••。俺はすごく単純だから、はっきり言って、もっと好きになった。まずは友だちからでいいから、俺と付き合ってくれないか? •••あれ•••まだ?」
「はい、しゅーりょー」
だ、誰か、この状況を説明してくれ•••。
23
「セリ姉、モテ期キター!」
「おっし、男ども。とりあえず伝えたな? お疲れ!」
道場の師範のように男性陣を労う宮野さんに、こちらも門下生ばりに、オッスと礼をしていた。
あ、ヤバい。頭がグルグルする•••。
「ごめん、私、ちょっと•••」
化粧室で頭を整理したかった。立ち上がると、フラつく。飯田くんが反応し、私の肩をガシッと持ってくれる。
あ、アカン•••。
かえって腰が砕けた。
「キミ、ちょっと付き合って•••」
「私が行くよ」
宮野さんが全くフラつきなく私の横に寄り添ってくれた。あ、なんかいいニオイ•••。そりゃあ、だいたいの男はこういう美人にいくわな。宮野さんの非の打ち所がない美しい横顔を見ていたら、なんかツラくなってきた•••。
あぁ、私って、どこまでいっても、喪女なんだな。
気がつくと美人に卑屈になり、男の前だと緊張しまくりで。最近、よくなってきたと思ったんだけどな•••。
「大丈夫? ごめん、やり過ぎた」
鏡の前で心配そうにしている宮野さんは、私の知っている宮野さんだった。そう感じたからか、自分から話していた。
「宮野さん•••、私、告白されたの?」
「そうだね、二人とも真剣だったね」
「あ、あのさ•••」
「ん?」
「これもドッキリ?」
「そんなわけ、ないよ」
「でも、私、好かれるもの、なにも持ってない」
「そんなこと言う秋野さん、秋野さんらしくないよ。まわりの人は•••、私だって、まだ友だちになりたいんだから!」
鏡の宮野さんを見る。心配そうに私を見つめていた。私のことを心配してくれている。これは本当のことだ。頭ではわかっている。でも、それと同時に、喪女が夢を見れば見るほど、後でイヤな思いするぞ、と頭の中で囁く私がいる。それに宮野さんが言う私らしさって•••。
今、告白してくれた二人。私が喪女だなんて知らないんじゃん。 宮野さんだって!
この時、黒くてドロッとして、絶対にいいものではないモノが私の中に流れてきた。最近見なかったけど、それは懐かしくて、よく知っているモノ。自分は不幸になる人間、他人から好かれる価値のない人間、誰にも必要とされず、むしろ迷惑をかけてしまう人間•••。
「秋野さん?」
宮野さんに揺すられて、我にかえる。鏡には世の中を嫌い、自分を嫌う醜い顔が映っている。
「宮野さん、私、みんなに喪女だから帰るって言ってくる」
「ちょっと、なにを•••」
宮野さんの制止も聞かず、みんなの前に戻ってくると、まわりを見渡す。
そうだよ、私のこと好きって言ってくれても、いずれ嫌われるし。そうなったら、私、自分がどうなるかわからない•••。
全員、私を心配そうに見ている。
すいませんね。一言だけ伝えたら帰りますんで。
「えー、いきなりですいません。私、この年まで一人も彼氏いませんでした。かなりイタいオンナなので。いわゆる喪女ってやつです。望月くん、飯田くん。なんか、ありがとうございました。でも、そういうことなんで。私には無理なんで。じゃあキミ、私、帰るから」
「え? なに? お姉ちゃん?」
この後、どうやって家に帰ったか、わからなかった。
明日は有休、もらおう•••
そのまま、ベッドに倒れ込んだ。
喪女が人生やり直したら? 7話
次回は、現代編3です。