翠碧色の虹(1)

翠碧色の虹(1)

虹は七色だと思っていた・・・不思議な少女に出逢うまでは・・・

---あらすじ---

虹の撮影に興味を持った主人公は、不思議な虹がよく現れる街の事を知り、撮影旅行に出かける。その街で、今までに見た事も無い不思議な「ふたつの虹」を持つ少女と出逢い、旅行の目的が大きく変わってゆく事に・・・。

虹は、どんな色に見えますか?
今までに無い特徴を持つ少女と、心揺られるほのぼの恋物語。

----------

↓「翠碧色の虹」登場人物紹介動画です☆
https://youtu.be/GYsJxMBn36w
↓小説本編紹介動画です♪
https://youtu.be/0WKqkkbhVN4s

「翠碧色の虹」は完結いたしております!
閉幕まで何卒よろしくお願いいたします!

「翠碧色の虹」アンケートを実施いたしておりますので、ご協力頂ければ嬉しく思います。
アンケートご協力者様へは「翠碧色の虹」オリジナル壁紙(1920 X 1080 Full-HD)のフルカラー版をプレゼントいたします!壁紙サンプルは下記アンケートページにございます!
http://nanatsuiro.my.coocan.jp/nnt_frma_a.htm
ご協力くだされば嬉しく思います!

↓原作者のWebサイト
WebSite : ななついろひととき
http://nanatsuiro.my.coocan.jp/


ご注意/ご留意事項

この物語は、フィクション(作り話)となります。
世界、舞台、登場する人物(キャラクター)、組織、団体、地域は全て架空となります。
実在するものとは一切関係ございません。

本小説に、実在する商標や物と同名の商標や物が登場した場合、そのオリジナルの商標は、各社、各権利者様の商標、または登録商標となります。作中内の商標や物とは、一切関係ございません。

本小説で登場する人物(キャラクター)の台詞に関しては、それぞれの人物(キャラクター)の個人的な心境を表しているに過ぎず、実在する事柄に対して宛てたものではございません。また、洒落や冗談へのご理解を頂けますよう、お願いいたします。

本小説の著作権は当方「T.MONDEN」にあります。事前に権利者の許可無く、複製、転載、放送、配信を行わないよう、お願い申し上げます。

本小説は、下記小説投稿サイト様にて重複投稿(マルチ投稿)を行っております。
pixiv 様
小説投稿サイト「カクヨム」 様
小説家になろう 様
星空文庫 様
エブリスタ 様
暁~小説投稿サイト~ 様
その他、サイト様(下記URLに記載)
http://nanatsuiro.my.coocan.jp/nnt_frma_a.htm

十分ご注意/ご留意願います。

序幕:不思議な虹を追いかけて

写真撮影・・・今は、多くの人がその気になれば、いつでも写真を撮影できると言える。携帯端末に写真撮影機能が備わっているからだ。そんな俺も、携帯端末を手にした時から写真撮影を行う機会が増え、カメラ専用機(コンデジ)を手にするまでに至った。カメラ専用機の方が手ぶれに強かったり、画角が広かったり、ズーム倍率が大きかったり・・・と、多機能な為である。これまでは主に風景/空/雲の写真を撮影してきた。その理由は、見知らぬ他人様を主体に撮影するのは気が引けるし、何よりご本人様への撮影許可も必要だからだ。風景写真は、そのような事を気にせずに撮影できる上、後で見返してみても、その時の記憶に彩を添えてくれる。また、気軽にデジタル素材として扱えるのも、風景写真の魅力のひとつだと思っている。

そんな風景写真の中でも、特に最近は虹の撮影を行いたいと思っていた。何せ自然の虹は、それ自体が滅多に出逢えない存在。その上、虹を綺麗に撮影するのはなかなか難しく・・・そもそも、虹全体をファインダー内に収める事自体も、携帯端末や標準的なカメラでは困難だったりと、なかなか奥が深い。それゆえ、綺麗な虹が撮影できた時の手ごたえや達成感は、かなり大きいと言えそうだ。

ところで「ブロッケンの虹」というのを、ご存知だろうか? 一般的な虹は、地平線を跨ぐような大きな半円形であるのに対し、ブロッケンの虹は小さく、条件によっては全円だったりする。ブロッケンの虹は、カメラのファインダー内にその姿を全て捉える事も可能であり、今回はそれを撮影できればと、思っている。

ブロッケンの虹がよく現れるという街。その街を目指す列車の揺れは心地よく、高鳴る気持ちを、落ち着かせてくれるかのようであった。

序幕 完

第一幕:ふたつの虹に魅せられて

流石に希少な存在である虹・・・それも、ブロッケンの虹にそう簡単に出逢えるはずもなく、疲労感だけが残る・・・こんな事は、虹の撮影を始めてから然程珍しい訳ではないが、期待感だけまだ残っているのが、なんとも言えない。虹は撮影できなかったが、都会より少し離れた、懐かしさを感じるこの街の風景や、空を撮影する事はできたから、空振りではない。

今日泊まる宿の事を考えながら駅前へ向かう。特に事前に宿を予約している訳ではなく、飛び込みだ。しかし、宿が全くないと困るので、予めいくつか宿の場所は確認している。道中、少し古びれたバス停と長椅子が目に留まる。疲れた足が意思を持つかのように、その椅子まで誘導され拝借する。その場所は、ちょうど木陰になっており、思っていた以上に涼しく、心地よかった。バスに乗るつもりはなかったのだが、とりあえず時刻表を確認してみる・・・次のバスの到着時刻まで一時間以上はあるようだ。バスが来るまでに、ここを離れるつもりではいるが、もし早くバスが着たら、それに乗ってみるのもありだろうか・・・そのまま目を閉じる・・・遠くから蝉の声が耳に届いてきた・・・。

 ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆

・・・どのくらいの時が経過したのだろう・・・・・。再び目を開けると、そこには先ほどと然程変わらない風景・・・当然である。いくらなんでも、そこに虹が存在した・・・というような好都合な事は、考えもしないし、そうそう起きるはずもない。ただ、さっきと違うのは隣(と言っても、少し離れている)に、一人の少女が座っていた。紺色と白のセーラー服姿で、髪は椅子に届くくらい長い・・・。中学生か、高校生くらいだろうか。その少女は、本を読んでいるのに夢中なのか、こちらには気付いていない様子で・・・と、少女が此方の動きに気付き、視線を送ってきた。俺は、少女の目を見る事が出来ず、反射的に視線を逸らしそうになる。しかし、ここで完全に視線をそらしては失礼だ・・・何せ俺の方が先に少女を見ていたから・・・そう思い、逸らしかけた視線のまま少女に軽く会釈をする・・・。多分、引かれるだろうな・・・と思いつつ、再び視線を少女に戻すと、会釈を返してくれたようだ。少女の顔は長い髪の奥にある為、よく見えないままだが、少しホッとする・・・が、何か気まずい・・・。更に話しかけるべきかどうか躊躇している間に、その少女は椅子から離れる。何か悪い事をした気になってしまう・・・。恐らく、少女も気まずくなったのだろうと、考えたりしていると---

少女「しばらく・・・来ない・・・です」
主 「!?」
少女「えっと・・・バス・・・待っています?」
主 「あ、バス!」
少女「・・・さっき、バスが・・・ごめんなさい」
主 「!? どうして謝るの?」
少女「そのバスに乗るはずで・・・だから・・・」

少女は、バス停の時刻表を見つめている為、後姿でその表情は分からない。言葉を詰まらせている様子から、申し訳ないと思う気持ちだけは伝わってくる。どうやら、バスが来たのに、眠っていた俺を、起こせなかった事を、気にしているらしい。

主 「なるほど、ありがとう。気にしなくていいよ」
少女「・・・・・」
主 「ここで、少し休んでいただけだから」
少女「え!? 休んでいた・・・」
主 「少し椅子を借りただけで・・・」
少女「椅子を・・・私と同じ・・・」

少女は、俺の言葉にホッとしたのか、少し言葉が柔らかくなる。そして、少女が此方に振り返った時-----

主 「虹!?」

見間違いか、まだ寝ぼけているのかとも思ったが、その少女の瞳は、虹のように七色に変化した。瞳の事を「虹彩」と言うが、彼女こそ、本当の意味での虹彩の持ち主かも知れない。七色に変化するその瞳に我を忘れかけた時、

少女「えっと・・・ご旅行・・・ですか!?」

少女の問いかけに、我を取り戻す。

主 「あ、ごめん。旅行・・・というよりも、写真撮影・・・かな」
少女「写真・・・」
主 「そう! 虹の写真を撮影できればと思ってね」
少女「・・・いい写真、撮れました?」
主 「まあ、虹は撮れなかったけど・・・」

ここで、思い出す。そうだ!! 虹!!! 今までに出逢った事のない不思議な虹が、ここにあるではないか! しかし、その虹は初対面の少女である。いきなり写真撮影をお願いするのは、あまりにも勇気が必要だ。どうする? どうするっ!? そんな葛藤の中、

少女「虹・・・」

少女が呟く。
慌てて、少女の呟きに歯車を合わせる。

主 「そ、そう、虹! この街は、ブロッケンの虹がよく現れると聞いてね」
少女「ぶろっけん?」

少女は、ブロッケンの虹の事を知らないようである。確かに、一般的な虹ほど有名とは言えない。
そこで、携帯端末(MyPad)を取り出し、ブロッケンの虹が、どのような虹なのかを、少女に見せてみる。少女は少し近付き、携帯端末に視線を送る。

少女「・・・・・綺麗な景色です」

写真を見て綺麗とは言ってくれたが、肝心の虹に関しては、いまいちな反応である。まあ、興味の対象は、人それぞれなので、ここで虹の事を押し付けるべきではないだろう。初対面の相手に対しては、反応があった内容に話を合わせる方が無難だと思う。それよりも、大切な事を忘れていた・・・まだ自己紹介をしていない。

主 「そう言えば、自己紹介がまだだった。俺は、時崎(ときさき)柚樹(ゆた)。よろしく」
少女「えっと、私は、七夏(ななつ)。あ、水風(みずかぜ)七夏(ななつ)と申します」

最初に「ななつ」と苗字ではなく名前を答えたこと。「申します」と随分丁寧な言い方といい、少し不思議な印象を受けたが、自己紹介なので、改まった言い方になったのかなと、俺は思った。

時崎「水風さん・・・で、いいのかな。ありがとう」
水風「はい。よろしく・・・です」

水風さんは、初対面の人に対して冷たい感じはしない。しかし、なんとなく、ぎこちない感がする。初対面なのだから距離をとっているのは当然なのだが、それが少し切ない。

時崎「この街には、しばらくいるつもりなので、また会えたらよろしく」
水風「はい」

水風さんは「はい」と言ってはくれたが、これは、所謂社交辞令だろう。ここで別れると、次に会えるかどうかは分からない・・・むしろ、会えない確率の方が遥かに高いだろう。そう思うと、ここで写真撮影のお願いをしなければ、後で激しく後悔するという未来が待っている。「勇気は一瞬、後悔は一生」という言葉がある。元々、人物の撮影は色々あって避けていたけど、今回だけは・・・今回だけはっ!!

時崎「み、水風さんっ!!」
水風「は、はい!?」
時崎「写真・・・お願いしてもいいかな!?」

回りくどい言い方は、逆効果だと思ったので、頭を下げてストレートにお願いする・・・断られたら、潔く諦める覚悟でいた。何だろこれ、まるで告白でもしたかのように、心拍数が上がっている。そして、返事を待つこの間、早まる鼓動とは反比例のごとく、時間経過は遅くなっている感覚だ。

水風「えっと、写真・・・いいですよ」

なんと、許可が貰えた。写真撮影のお願いで、こんなにドキドキするなんて・・・「写真撮影は命がけだっ!」なんて聞いて、大袈裟だなと思った事があるが、今回は、その言葉が骨身にしみるようだ。

時崎「ありがとう。水風さん!!」

水風七夏さん・・・思いがけず出逢えた「不思議なふたつの虹」をファインダーが優しく包み込む。バス停の前で佇むような水風七夏さんが印象的で、のどかな(静かな)風景の中、聞き慣れたはずの機械的なシャッター音が、不思議な音色であるかのように、耳へ届いてきた。

 ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆

宿にて、今日撮影した写真を確認する。水風七夏さんの写真だ。しかし、撮影した写真に、虹は存在しなかった。水風さんの瞳は、見る角度によって色が変化していたのに、撮影した写真5枚とも翠碧色(緑青色)の瞳である(正確には7枚撮影しているが、2枚は目を閉じた表情なので、虹は彼女の中に隠れている)。撮影した時、偶然翠碧色だったのか・・・。撮影した直後に、確認すれば良かったのかも知れないが、本人を目の前にして小さな液晶画面の中の水風さんを、まじまじと拡大して確認なんて、できなかった。やはり、虹はそう簡単に撮影できないようで、その事が水風さんの虹への魅力と関心をより強くしてくれた。あと、撮影した写真の表情が、少し硬いのも気になった・・・緊張していたのかも知れないが、できれば笑顔の水風さんが撮りたかった。

もう一度、水風さんに会う事ができるかどうか・・・気が付くと隣にいたあのバス停・・・明日も、そこにいるかどうかは分からない。しかし、水風さんの「ふたつの虹」の撮影が満足にできなかった事が、水風さんにもう一度会いたいという想いとなって、俺の記憶に、より深く刻み込まれてゆくのであった。

第一幕 完

----------

次回予告

虹は、幻とは違う・・・俺が見た「ふたつの虹」・・・幻ではないと信じたい。

次回、翠碧色の虹、第二幕

「ふたつの虹に逢いたくて」

今は、ふたつの虹を追いかけたい・・・。

第二幕:ふたつの虹に逢いたくて

ブロッケンの虹が撮影できる場所へ再び足を運ぶ。虹について少し考えてみる。人工的に虹を作り出す事は、然程難しくはない。光を背にして水を霧状にしてまくと、見る角度によって虹が現れる。他にも、プリズムを用いて分光させるのも、虹と言えるだろうか。しかし、人工的に作り出した虹は、それほど魅力的に思えない。これは、天然ダイヤと人工ダイヤのような関係と同じなのだろうか。分子的な構造で言えば同じはずなのに、違う物のように判断されている辺り、分子の構造だけが魅力に関連しているのではなさそうだ。

時崎「ん? あれは、虹!?」

非常に小振りではあるが、朝霧の中にブロッケンの虹が現れた。俺は急いで三脚を準備し、その虹を撮影する。カメラの色々な設定で一通り虹を撮影しようと試みるが、その虹は直ぐに見えなくなってしまった。撮影した結果をすぐ確認する・・・大丈夫だ。虹は微かではあるが写っていた! こんなに簡単にブロッケンの虹の撮影が出来た事は凄く嬉しく、感動的・・・な、はずなのに、何か物足りない・・・その理由は、はっきり分かっている。水風七夏さんの「ふたつの虹」の存在である。それ程大きな街ではないとはいえ、名前だけの情報で水風さんを探すのは難しそうだ。最初に出逢ったのはバス停なので、この街に住んでいるのかどうかも・・・いや、水風さんはバスには乗っていなかった。そして別れた際に歩いていた道までは分かる。とりあえず、バス亭に向かうことにする。

時崎「まだ朝の時間帯だが、通学しているとすれば、このバス亭のある道を通るかも知れない」

・・・しかし、1時間くらい待ってみたが、水風さんは現れなかった。昨日と同じ時間帯でないと出逢える可能性は低いので、出直すことにした。

商店街を見て回る。昨日もなんとなく見て回ったが、この街の事をより知っておいた方が良いと思った。もし、水風さんと再会できた時に、昨日のように言葉が上手く出てこない状態では情けないからだ。この街のはずれに綺麗な砂浜と海があると情報を得たのでその場所へ向かう。心地よい潮風と波音・・・いい眺めの中に見覚えのある学生服姿の少女が目に留まる。急に心拍数が高くなった。その少女に近付くと、砂浜を歩く俺の足音に気付いたのか、少女がこちらに振り返る・・・。

少女「!? どなたですか?」
時崎「え!? あっ!!! ・・・し、失礼!!! 人違いです!!!」

・・・その可能性の方が遥かに高いのに、期待した自分が情けない・・・しかも、心拍数まで上げて。確かに長い髪の少女の後姿だけで考えると、似ている人が結構いるので注意が必要かも知れない。しかし、完全な空振りではない、なぜなら、人違い少女さん(ゴメン)の制服は、水風さんと同じみたいだったので、水風さんの事を知っているかも知れない。俺は人違い少女さんに訊いてみる・・・水風さんの写真画像を見せて---

時崎「すみません。この人を知りませんか?」

人違い少女さんは、その写真を覗き込む。

少女「・・・ごめんなさい。知らないです」
時崎「どうもありがとう」
少女「確かに、雰囲気は私と似ていますね」
時崎「そうですね。なので、さっきは・・・すみません」
少女「いえ。私と同じ制服なら、学校で会えるかも?」
時崎「なるほど! 学校か・・・」

・・・人違い少女さんから学校の場所を教えてもらった。俺は、人違い少女さんにお礼を言い、その学校へ向かう事にした。

学校の校門前まで来たが、時期的に夏休みが始まったのか、部活をしている人以外は学校には来ていないようだ。水風さんは昨日制服姿だったが、何らかの部活を行っている可能性はある。一応グランドも見てみたが、それらしい人はいない。自分の母校でもないのに、突然「人を探してます」って尋ねても、個人情報とかの問題で、すんなり教えてくれる可能性は低そうだ。なんとなく、学校とその周辺の風景写真を撮影しながら水風さんを探している間に、昨日水風さんとバス停で出逢った時間が迫りつつある。どうするか悩んだが、とりあえず、バス亭に向かう事にした。
水風さんが毎日通っていたとすれば、ここで待っていれば出逢えるはずだが、昨日の同じ時間帯になっても水風さんは来なかった。来たのはバスだけである。
茜色に染まり始めた西空の方に目を向けると、昨日この場所で撮影した水風さんの事が鮮明に蘇って来た。水風さんの「ふたつの虹」をもう一度確かめたい・・・そう思って今日一日水風さんを探してみたが、これは虹の撮影以上に困難な気がしてきた。しかし、今までもそんな事がなかった訳ではないので、まだ諦めるという考えは俺の中にはなかった。

 ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆

この街に来て三日目、今日の目標は水風さん(と、その不思議なふたつの虹)のみである!!この街への滞在は一週間程度(7~9日)を予定していたが、それは、虹がそう簡単に撮影できないと思っていたからで、まさか二日目で当初の目的であった「ブロッケンの虹」の撮影が出来るとは思っていなかったのだ。しかし、俺の中では「虹の撮影は出来ていない」事になっている。そう、この街に来た初日に出逢った不思議なふたつの虹・・・水風さんの撮影に思い残す事と、確かめたい事があるからだ。水風さんに出会えるまでこの街に張り付いていようか、とか、いっそこの街に住もうかとか、そこまでは思っていないが、それに近い想いではある。街役場で戸籍・住民票を確認すれば確実かも知れないが、それを履行してまで探し出したとすると、水風さんはきっと怯えるだろう。もっとも水風七夏という名前が彼女の本名かどうかさえ分からない・・・警戒して仮名やペンネーム等を伝える人もいるからだ。現時点での手がかりは、制服と学校とバス亭か・・・。ひとつ気になっている事がある。水風さんが七色に変化する瞳の少女だとすると、この街で話題になって、それなりに有名人なのかも知れないということ。しかし、虹に対する水風さんの反応がイマイチだった事を考えると、水風さん自身はその事を気にしているのかも知れない。「虹色の瞳の少女を探してます」なんて訊いて回るのも、水風さんを傷つけてしまう可能性がある為、それはできないと思っていた。そもそも、俺が撮影した水風さんの写真7枚(のうち、瞳が写っている5枚)の瞳は、全て翠碧色(緑青色)の瞳として写っている。・・・あの時は、寝起きだったので、俺の見間違いの可能性も、十分に有り得る。だから確かめたいっ!!!

水風さんと出逢ったバス停近くまで来てはみたけど、どうしようか・・・。昨日と同じ事をしても、同じ事の繰り返しになりかねない。水風さんと出逢った日の事を思い出してみる。地図を確認しながら水風さんを見送って見えなくなった交差点まで来た。そのまま水風さんが歩いていた方向へと足を進める。

時崎「三叉路か・・・ここは恐らく、左だろう」

水風さんが歩いていた方向を考えると、三叉路の右は駅へ戻る道になるから左へ向かう。踏切を渡ると、また三叉路。今度はどっちだろうか?
三叉路の左は住宅街になっているようなので、左側を選んで進む。小さな住宅街のようなので期待感が高まる。携帯端末での地図は流石に個人の家の名前まで分からない・・・そもそも、歩きながら携帯端末の地図を見るのは危険だ。俺は、携帯端末の地図を頭に叩き込み、住宅の表札に「みずかぜ」と読める文字がないか見て回る。二~三十件程度見て回った所で、袋小路とご対面。

時崎「こっちでは、なかったか・・・」

しかし、さっきの三叉路のもう一方がこっち側のように数十件規模の住宅街だったとしたら、かなり限定できると思う。この街が比較的小さな街であった事に感謝しつつ、俺は再び先ほどの三叉路まで戻ってきた。勿論、戻る際も表札は再度チェックしてきた。もう一方の道へ進む。

時崎「今度は十字路か・・・もう少しだと思ったのに・・・どっちだろう?」

しかし、この十字路、携帯端末の地図情報によると、右は駅へ戻る道で真っ直ぐは山へと向かっている。携帯端末を閉じ、残った左の道を目視すると、その先は小さな商店街のような印象を受けた。昨日見て回った駅前の商店街よりも規模は小さく・・・って、いうより、少し寂れているようだ・・・以前は活気があったが、現在は、駅前の商店街が主になっている印象である。

時崎「可能性が低くなってきたな・・・」

ここまで歩いて、夏の強い日差しの為か、思ったよりも早く喉も渇いてきたので、この商店街で飲み物を頂こうと思う。小さな商店街だが、それぞれのお店は営業しているようだ。
俺は喫茶店で渇いた喉を潤し、もう少し商店街を歩いてみる。商店街の中に混ざって民家らしき建物も存在する。俺は表札を確認しながら、更に足を進める。商店街からの道は、まばらに点在する民家へと続いており、もうこの道も先はそう長くはない息切れ感がしてきた。そんな時、一枚の看板が目に留まる・・・。

時崎「『民宿風水』・・・みんしゅくふうすい・・・宿の事か・・・」
時崎「風水!!! ・・・って、おいおい!!! 惜しいっ・・・惜しすぎる!!!」

何のイタズラか、確かに「風水(ふうすい)」って縁起良さそうな名前なのに、この仕打ちは何なのだと思ってしまう。まあ、この民宿には何の非もないので、さっき思った事を取り消し、心の中で謝罪する。風水とは縁起良い名前なので、今日の宿はここにしようかな。縁起の力(?)で水風さんに出会えるかも知れない・・・。その民宿に空きがあるか確認に向かう事にした。「民宿風水」の前に着いたけど、営業してる・・・かな? 見たところ、そこそこ年期の入った建物だが、玄関付近の草花を見る限り、手入れはされているようだ。

時崎「すみませーん!」
??「はーい」

奥から女将さんらしき人が現れた。「風水」という文字が入った和装姿。表情は穏やかで髪は後で結っている。

女将「いらっしゃいませ! あら? ご予約でしょうか?」
時崎「突然予約も無しで、すみません。予約しないと無理でしょうか?」
女将「いえ! お部屋は空いておりますので、ご予約はなくても大丈夫です!」
時崎「では、今晩よろしいでしょうか?」
女将「はい! あ、当宿は禁煙になりますけど、よろしいでしょうか?」
時崎「はい。大丈夫です」
女将「ありがとうございます! ようこそ、民宿風水(かざみ)へ!!」
時崎「あ、『ふうすい』では、なかったのですね」
女将「そう読まれる方が多いですね」
時崎「まだ、準備中・・・でしょうか?」
女将「はい。お昼前からなら大丈夫です! よろしければ、昼食も用意できます!」
時崎「ありがとうございます! それでは、お言葉に甘えて昼食もお願いいたします」
女将「はい! ありがとうございます!」

昼食まで少し時間があるので、写真撮影も兼ねて少し散歩してみよう。
水風さんも探さなくては・・・。

??「ただいまぁー」

・・・聞き覚えのある声・・・俺は自然と声の方向に意識を持って行かれ・・・っ!

時崎「みっ、水風さんっ!!!」
女将「!?」

・・・あまりに突然の事だったので驚いた・・・その驚きに、声の音量が比例していた。
水風さんは、女将さんと同じく「風水」という文字の入った和装・・・というよりも、浴衣姿だった。髪は後で結っていて、初対面の時の学生服姿とは随分印象は違うけど、その瞳には「ふたつの虹」が輝いており、水風さん本人だという事は確実だった。

水風「あっ、えっと、時崎さん!? どおしてここに?」
時崎「水風さんこそ、どうして!?」
水風「どおしてって、ここは、私のお家ですので・・・」

・・・冷静に考えれば、すぐ分かる事だった。ついさっき、水風さんは「ただいまぁー」と言っていたのに、こんなに動揺しているなんて・・・。

女将「あら!? 七夏、お知り合いの方なの?」
水風「はい。前に少し、お話した事があって・・・」
女将「そうなの!? じゃ、少し早いけど、こちらのお客様を、お部屋に案内してあげて」
水風「はーい」
時崎「水風さん!!」
水風&女将「はい!」

俺の言葉に、水風さんと女将さんが同時に返事をしてきた。

水風「あ、私の事は『ななつ』で、いいですよ」
時崎「じゃ、じゃあ、な、ななつ・・・ちゃん。お世話になります!」
七夏「はい! こちらこそ!」
時崎「俺の事も名前でいいから!」
七夏「ありがとうございます! えっと・・・柚樹さん、ようこそ、風水へ!」

七夏ちゃんは、俺の名前を覚えてくれていた・・・素直に嬉しく思える。

女将「私は『凪咲(なぎさ)』と申します・・・凪咲でいいわ」
時崎「お世話になります。凪咲さん」
凪咲「こちらこそ! ごゆっくりなさってくださいね。柚樹君・・・で、いいかしら?」
時崎「はい!」
七夏「では、柚樹さん! こちらへ!」
時崎「ありがとう。凪咲さん、七夏ちゃん」

・・・こうして、俺は水風七夏さんと再会する事ができた。
七夏ちゃんが、俺の方をじっと見つめて待っている。俺の記憶に間違い無く、七夏ちゃんは、七色に変化するの瞳・・・ふたつの虹を持つ少女であった。しかし、俺は初めて出逢った時の七夏ちゃんの虹に対する反応が気になった為、今は瞳の事は何も聞かないことにした。

第二幕 完

----------

次回予告

ふたつの虹は幻ではなかった。けど、とても繊細で近づく事(触れる事)すら躊躇ってしまう・・・。

次回、翠碧色の虹、第三幕

「ふたつの虹とふたつの心」

俺は、ふたつの虹と心・・・どちらを優先すべきなのだろうか・・・。

第三幕:ふたつの虹とふたつの心

ふたつの虹を持つ少女、水風七夏さん。彼女は、民宿風水の女将である水風凪咲さんの娘だった。俺は、民宿風水でお世話になる事になり、七夏ちゃんに、お部屋を案内される。

七夏「えっと、お部屋は、こちらになります」
時崎「ありがとう。七夏ちゃん」

七夏ちゃんに案内されたお部屋は、二階にある小さな和室であったが、居心地は良い。一人の場合は、このくらいの広さの方が落ち着く。部屋の襖が少し揺らめいている・・・窓の外から見える遠くの海の光が届いているという事か・・・そう意識すると、微かに波音も追いかけてくるのが分かる。

七夏「私は、こちらのお部屋に居ますので、何かありましたら、お声をかけてくださいね」

俺は、七夏ちゃんに、先日撮影した七夏ちゃんの写真を、見せてあげたいと思っていた。

時崎「七夏ちゃん」
七夏「はい?」
時崎「先日撮影させてもらった七夏ちゃんの写真、見てほしいんだけど、時間あるかな?」
七夏「はい。少しなら大丈夫です」

「少しなら」・・・やはり忙しいのか、今は七夏ちゃんとのんびりお話は、難しそうかも知れない。

時崎「忙しかったら、また時間がある時でいいよ」
七夏「はい。このあと用事がありますので、それが終わってからでも、いいですか?」
時崎「もちろん。ありがとう」
七夏「はい! それでは、ごゆっくりどうぞです☆」

そう言うと、七夏ちゃんは軽くお辞儀をして、自分のお部屋に入ってゆく・・・なんとも心地よい香りが残る中、その姿を見送る。さて、後で七夏ちゃんに見せる写真と、この街で撮影できた「ブロッケンの虹」や「綺麗な風景」など、俺のお勧めを、まとめておこうかな。まだ撮影した写真の一部は写真機の中にあるだけだ。このままでは小さな液晶画面でしか確認できないので、タブレット端末「MyPad」に撮影した写真画像を転送する。写真撮影機には無線通信可能なメモリーカード「Flash WiFi」が搭載されているので、データの転送は手軽だ・・・が、写真データが大きい為、データ転送に少し時間がかかるのが難点だ・・・。しばらくすると転送が完了した。俺はお勧めの写真をフォルダーを作成して分けて行く。振り分ける中で、七夏ちゃんの写真を再び見てみると、やはり、何度見ても瞳の色は翠碧色だ。もう一度、七夏ちゃんを写真に撮りたいと、改めて思ってしまう・・・その理由は---

・・・トントン・・・ドアをノックする音がした。

時崎「はい!」
七夏「柚樹さん。七夏です」
時崎「あ、七夏ちゃん!」

・・・俺は、すぐにドアを開ける。

七夏「あの、お昼の用意が出来ました。今、大丈夫ですか!?」
時崎「ああ。大丈夫」
七夏「それでは、ご案内いたしますね」
時崎「ありがとう」

七夏ちゃんに案内されて一階の食堂・・・と、言っても少し広い和室なのだが、そこには既に色々な前菜が並んでいて民宿と言うよりも、旅館/料亭のコースメニューのようだ。

七夏「柚樹さん。お席は、こちらになります☆」
時崎「これは、豪華! 料亭みたいだ!」
七夏「ありがとうございます。お料理を持って参りますね」
時崎「ありがとう」

凪咲さんと七夏ちゃんがお料理を持ってくる。

凪咲「いらっしゃいませ。今、火を入れますね」
七夏「はい。柚樹さん。どうぞ☆」

七夏ちゃんは、お茶を煎れて、次に「おにぎり」を用意してくれた。

凪咲「それでは、ごゆっくりなさってくださいね」
七夏「おかわりは、ご遠慮なくです☆」
時崎「ありがとうございます。お二人は、お昼食べないのですか?」

凪咲「ありがとうございます。私は、先に頂いております」
七夏「えっと、私はこの後、頂きますので」
時崎「じゃあ、七夏ちゃん。一緒にお昼食べない!?」
七夏「え!?」

七夏ちゃんは、少し驚いた様子だが、その後、凪咲さんの方へ視線を送る。
その行動は、俺をお客様と認識しているからだろうか・・・少し切ない気持ちになるのは、何故だろう・・・。凪咲さんは、優しく笑みを浮かべる。

凪咲「柚樹君、ありがとうございます。七夏、一緒にお昼、頂きなさい」
七夏「はい!」

その後、七夏ちゃんは笑顔で返事をしてくれた事が、先ほどの切なさを、こそばゆさに変えてくれた・・・嬉しいが、これはこれでなんとも言えない感覚だ。
七夏ちゃんは、手際よく自分の料理も用意し、こちらに視線を送ってきた。最初、その視線の意味が分からなかったが、こちらの「いただきます」を、待っているという事に気付いて、なんか自分の気の利かなさが情けなくなってくる。

時崎「いただきます!!」
七夏「いただきまーす♪」

俺の声に続いて、七夏ちゃんも挨拶をする。

時崎「おいしい!! 凪咲さん流石、料理上手だね」
七夏「はい! ありがとうございます!」

・・・続いて、おにぎりも食べてみる。
・・・!! これも、良い味加減だ。

時崎「この、おにぎりも良い味加減で、おいしいよ!!」

七夏ちゃんも、おにぎりを口に運び、

七夏「よかった! 上手くできてます!」

その言葉に、俺は反応する。

時崎「このおにぎり、七夏ちゃんが作ったの?」
七夏「はい! おいしく出来てよかったです!」

・・・何か急に胸が熱くなった・・・。

時崎「七夏ちゃんも、お料理得意なんだね」
七夏「私は、まだまだです」
時崎「他にも何か作っているの?」
七夏「はい。えっと、こちらの玉子焼きと、ほうれん草のおひたしになります」

それを訊いて、早速俺は玉子焼きと、おひたしを食べてみる。

時崎「どっちもおいしいよ! 七夏ちゃん!」
七夏「ありがとうございます! よかったです!」

俺は、食事をしながら、以前に撮影した写真の事を考える。

時崎「七夏ちゃん。この近くに、写真屋さんって、あるかな?」
七夏「写真屋さんですか!? えっと、駅前の商店街にあったと思います」
時崎「ありがとう。後で出掛けてみるよ」
七夏「お買い物ですか!?」
時崎「この前撮らせてもらった七夏ちゃんを、写真にして渡そうと思ってね」
七夏「私の写真・・・ありがとう・・・ございます・・・」

俺は、単純に七夏ちゃんを撮影した写真を渡したいと思っただけなのだが、やはりイマイチな反応である。
七夏ちゃんは写真があまり好きではないのかと、訊いてみたかったが、俺はちょっと話題を逸らす。

時崎「あと、Flash WiFiも買っておこうかなと」
七夏「ふらっしゅ・・・?」
時崎「あ、メモリーカードの事」
七夏「あ、メモリーカード、分かりました。私も駅前の方に、お買い物がありますので、もし良かったら、写真屋さんに案内いたします」
時崎「え? いいの?」
七夏「はい!」

俺と七夏ちゃんは、食事を済ませる。

時崎「ごちそうさまでした」
七夏「はい。ごちそうさまです。私、お片づけがありますので、後でお部屋に参りますね」
時崎「ありがとう」
凪咲「あら、もうおしまいなの?」
時崎「あ、凪咲さん。ごちそうさまでした」
凪咲「いえいえ。お粗末さまでした」

俺は、挨拶をした後、部屋に戻り、出かける準備をする・・・と言っても、大してする事がないので、MyPadでこの街の情報を集めてみる・・・。この街は、比較的小さな街で一言で言うなら田舎だが、隣町(列車で一駅)は色々と賑やかそうで都市近郊という印象だ。その事は、この街に来るまでに列車内からも見ていたはずだが、何せ駅間が結構長い・・・。トンネルも長く、誰かの言葉を借りるなら『長いトンネルを抜けると、そこは碧い港町だった』という印象で、隣の駅まで20分くらいかかっていた。列車の速度が遅い・・・というのもあるかも知れない。何せ、時間がゆったりと過ぎてゆく感覚で、それが心地よい。田舎に来て「何もない」という言葉を聞く事があるが、それは、何にも気付いていないだけなのではないだろうか・・・。俺はこの街に来て不思議なふたつの虹に出逢えた。その不思議な虹は、とても繊細で、俺自身まだ動揺している。いつ、その虹の事について話そうかと言う事に・・・。今までの七夏ちゃんの写真に対する反応からすると、過去にその瞳の事で色々と質問攻めにあっていても不思議ではない。俺は、そのような自分の要求を満たす為だけの質問攻めの人になってまで、七夏ちゃんの虹に迫りたくはないと思っている。あまり人物の写真を積極的に撮影しようと思わなかったが、七夏ちゃんと出会ってその考えを払拭させられそうである。しかし、七夏ちゃんを撮影したいという想いと、七夏ちゃんの写真に対する反応を考え、気を使わなければならないという相反する感情とが衝突し、どうしたら良いのか分からなくなってきた。

あれから、結構な時間が経過しているような気がする・・・が、この街の時間は「ゆったり」なので、俺が単に焦っているだけなのかも知れない。何か七夏ちゃんが喜んでくれそうな事はないか考え・・・

・・・トントン・・・ドアをノックする音がした。

七夏「七夏です。柚樹さん居ますか!?」
時崎「はい!」

俺は、少し慌て気味にドアを開ける。

七夏「すみません。お待たせしました」

七夏ちゃんは民宿風水の浴衣から薄緑色のワンピースに着替えていた。

時崎「あ、わざわざ、着替えてたんだね」
七夏「はい。街へお出掛けですので♪」

七夏ちゃん自身にとっては、何時もの事なのかも知れないが、俺は嬉しく思う。今朝、再会した時、七夏ちゃんは浴衣姿で「ただいまぁー」と言っていたから、浴衣姿のまま外出でも不自然ではないからだ。

七夏「? どうかしました?」
時崎「あ、ごめん。その服、よく似合っているよ」
七夏「ありがとうございます! では、案内いたしますね!」

俺の言葉を素直に受け入れてくれる。流石と言うか、褒められ慣れしているかのように。俺は七夏ちゃんの心が少し分かってきた。それと同時に、七夏ちゃんの少し思わせぶりな心が分からなくなってきた。二重人格とは違う「ふたつの心」に、俺はどのように接したらよいのかという想いに揺られながら・・・もう少し「このまま」を望むのだった。

第三幕 完

----------

次回予告

自然な事を自然であると意識した時点で、それは、本当に自然な事と言えるのだろうか?

次回、翠碧色の虹、第四幕

「自然な虹の輝き」

自然に振舞う少女と、自然になれない自分・・・この距離間が、もどかしい!!!

第四幕:自然な虹の輝き

七夏ちゃんがこの街の写真屋さんへ案内してくれる事になり、一緒に写真屋さんへ向かう・・・。その間に気の利いた話題をするはずで、その準備時間もあったのに、上手く進まない。七夏ちゃんに初めて逢ったあの時、雑念を捨てて写真撮影をお願い出来た理由が分かった気がする。そう、あの時は、断られたら潔く諦めるつもりだったからだ。今は、断られるのが怖いという想いがリミッターとなっている。とにかく今は七夏ちゃんの好きそうな話題を考える・・・何か良い話題はないかな・・・そう言えば---

時崎「七夏ちゃんは、本を読むの好きだったりする?」

俺の、突然且つ不器用な話の振り方に驚いたのか、少し前を歩いた七夏ちゃんは、立ち止まって、目を丸くしつつ視線を送ってきた。

七夏「突然どおしたのですか?」

そりゃ、そうなるよ・・・。しかし、七夏ちゃんは、すぐに状況を理解してくれたらしく・・・

七夏「えっと、本は、よく読みます! 特に小説が好きです!」

俺の話に合わせてくれる。こういう気の利かせ方ができる事が、羨ましく思える。

時崎「小説か・・・。そう言えば、初めて出逢った時、バス亭でも、本を読んでいたよね」
七夏「はい! 買ったばかりの小説だったので、家まで待ちきれなくて・・・」
時崎「なるほど。それでバスに乗る訳でもないのに、バス亭の椅子に・・・」
七夏「はい!」
時崎「バスではなく、イスを!?」
七夏「くすっ☆ 勿論、バスも時々利用してます!」
時崎「確かに、歩きながら本を読むのは危険だからね」
七夏「はい。私、歩きながら本を読まないように気をつけていますので。あの時は、バス亭の椅子を借りてしまいました」
時崎「なるほど。歩きながらの携帯端末の操作も、結構危険だからね」
七夏「そうですね。転んだりしないかと、心配になります」
時崎「俺も気をつけないと・・・」
七夏「そう言えば、あの時は、起こせなくて、すみません」
時崎「別に七夏ちゃんが、謝る事はないよ。元々寝てた俺が問題なだけで」
七夏「私、夢中になると周りが見えなくなっている時があって、バスが来た事は気付いたのですけど、隣に寝ている人が居た事までは・・・」
時崎「無理もないよ。いつもは、そのバス亭に俺は居ないからね。でも、バスに乗らないのなら、あまり長い時間バス停の椅子を借りるのは・・・って、俺も人の事を言えないな・・・」
七夏「くすっ☆ 私も気をつけます」
時崎「まあ、歩きながら本を読む危険性を考えると・・・バスがしばらく来ないのなら・・・いいとするかな」
七夏「本当は、バスが来る前に帰るつもりだったのですけど、小説のお話がいい所だったのでつい・・・あ、写真屋さん、こちらになります!」
時崎「あ、もう着いたの?」

せっかく、七夏ちゃんとの会話が暖まってきたというのに、このタイミング・・・別に写真屋さんに一切非は無いし、俺自身も写真屋さんが主目的だったはずだ。どうも今回は主目的以外の事・・・つまり、七夏ちゃんが主に置き換わるようである。この街に来たのも主目的は「ブロッケンの虹」だったのだが、それは既に七夏ちゃんの「ふたつの虹」に置き換えられた。・・・などと、写真屋さんを前にして考えたりしていると---

七夏「それでは、私は、お買い物に参りますね」

・・・そうだった。七夏ちゃんは、写真の話題が苦手かも知れないので、写真屋さんにまで付き添ってもらう理由がない。あくまで「写真屋さんまでのご案内」だったという事。
わざわざワンピースに着替えてくれてた事もあって、俺が勝手に舞い上がってしまっていただけだ。ここは潔く七夏ちゃんを見送ろ・・・ん?

時崎「七夏ちゃん? どうかしたの?」

七夏ちゃんは、写真屋さんの店内の一点を見つめている。俺もその視線の先をトレースして見る。トレース先にはフォトスタンド・・・写真立てが、いくつか並んでいた。何か気になるフォトスタンドでもあるのだろうか?

七夏「あれ、セブンリーフ(Seven Leaf)かな?」
時崎「セブンリーフ?」
七夏「はい! ちょっと近くで見てもいいですか?」

いいも何も、俺がどうこう言える事ではない。

時崎「ちょっと寄ってみる?」
七夏「はい!」

写真屋さんの店内に入ると、七夏ちゃんは迷う事なく、フォトスタンドの前に向かう。

七夏「やっぱり、セブンリーフです! 写真立ては、初めて見ました!」
時崎「セブンリーフって確か、アクセサリーブランドの!?」

七夏「はいっ☆ そうですっ!!」

そう言うと、七夏ちゃんは目を輝かせていた。どうやら、このセブンリーフというブランドは、七夏ちゃんの相当なお気に入りらしい。

七夏「この靴もセブンリーフです☆」

そう言うと、七夏ちゃんは自分の足元を指差し、俺はその誘導に従った。白くて綺麗な足・・・その足元には、三葉と四葉の模様がついた靴。七夏ちゃんが話を続ける。

七夏「セブンリーフは、三葉と四葉のクローバの葉で・・・」

何か、七夏ちゃんのスイッチを押してしまったらしい・・・。その後、七夏ちゃんお気に入りのセブンリーフについて、結構熱く語ってくれた。内容を要約すると、以下の通り。

「Seven Leaf」は、三葉と四葉のクローバがシンボルマークのアクセサリーブランド。シングルアクセサリー(ブローチ等の単品物)では、三葉と四葉が一つのデザインになっているが、セパレートアクセサリー(イヤリング等の複数物)では、三葉と四葉が、それぞれ分かれている意匠となる。その為、ヘアピンやヘアバンド、イヤリング、靴等は左右非対称デザインとなる。七夏ちゃん超お気に入りのアクセサリーブランドで、主に複数物のアクセサリーをよく見につけているようだ。「7つの葉」と自分の名前をかけているのだろうか!?

七夏「あ、すみません。沢山お話してしまって!!」

スイッチが押されていた事にようやく気付いたのか、少し恥ずかしそうに謝ってくる。このくらいの年の女の子ならではのお話に思えて、少し安心する。改めてセブンリーフのフォトスタンドを見てみる。七夏ちゃん風に言うと、このフォトスタンドは、セパレートアイテムのようだ。確かに、夫婦茶碗のように大小二つのフォトスタンドがセットになっている。一つは三葉のシンボルマーク、もう一つは四葉のシンボルマークが付いており、片方にしか値札が付いていない事からも、セット物だという事が分かる。七夏ちゃんは、そのフォトスタンドを見て、買おうかどうか、考えている様子だ。

七夏「(うぅ・・・これ買っちゃうと、小説分のお小遣いが・・・)」

確かに、このセブンリーフのフォトスタンドは、七夏ちゃんくらいの歳の平均的なお小遣いの額を考えると、少し高額だと言える。今こそ「潔く」を決行する時だ! 俺はそう考え---

時崎「七夏ちゃん、それ(フォトスタンド)買ってあげるよ」
七夏「え!?」

七夏ちゃんは驚いた様子で、目を丸くしてこちらを見てきた。その綺麗なふたつの瞳は、翠碧色となって、確実に俺の瞳を捉えていた。七夏ちゃんと、ばっちり目が合うと、その時の瞳の色は、翠碧色になっている事が分かってきた。

七夏「そんな! 私、買うなら自分で・・・」

予想通り、七夏ちゃんは遠慮してきたが、俺は七夏ちゃんに何もお礼をしていないので、ここは、こちらからお願いしたいと思った。

時崎「七夏ちゃん! 俺は、七夏ちゃんに何も御礼が出来ていない」
七夏「お礼?」
時崎「そう。初めて会った時、俺の突然の写真撮影のお願いを聞いてくれた事。手作りの料理をご馳走してくれた事。ここの写真屋さんまで案内してくれた事。これらに対して、ちゃんと御礼がしたい!」

そう言うと、七夏ちゃんは少し考え、真っ直ぐにこちらを見つめてきた。そして、

七夏「ありがとうございます☆・・・じゃあ、お言葉に甘え・・・ます☆」

その表情は、とても柔らかく、嬉しさが溢れている事が伝わってきて、これでは御礼にならないのでは・・・と思ってしまうくらいだ。七夏ちゃんの気が変わらない間に俺はセブンリーフのフォトスタンドを手にしてレジへ向かう・・・すると七夏ちゃんが、

七夏「あの・・・メモリーカード・・・忘れてませんか?」
時崎「あ、すっかり忘れてた」
七夏「くすっ☆」

七夏ちゃんは、とても冷静だと感心してしまう。俺はメモリーカード(フラッシュWiFi/大容量タイプ)を手に取り、レジへと向かう。

購入したセブンリーフのフォトスタンドを、七夏ちゃんに手渡す。

七夏「わぁ☆ ありがとうございます☆ 大切にします!!」
時崎「こんな形でも、お礼が出来てよかったよ」
七夏「私、あまり写真屋さんに来なかったから、セブンリーフの写真立てがある事を、知りませんでした☆」

その言葉からも、溢れる嬉しさが伝わってくるのだが、『あまり写真屋さんに来なかったから』という言葉から、やはり・・・まだはっきりとは分からないけど、俺は七夏ちゃんに、写真も好きになってもらいたいと思う。

時崎「そのフォトスタンドに似合う写真が、早く見つかるといいね」

なんとなく言った俺の言葉に、七夏ちゃんは、

七夏「はい☆ えっと、良かったら、また、私の写真・・・撮ってくれませんか!?」
時崎「え!?」
七夏「・・・・・」

思いがけない申し出に俺は驚きつつも、二つ返事でOKした。また、七夏ちゃんの写真が撮影できる!! しかも、今度は七夏ちゃんからのお願いである。七夏ちゃんの為にも綺麗な写真を撮らなければ・・・と気合が入ってきた。

時崎「勿論OKだよ。できれば、景色の綺麗な所で撮影ができれば・・・」
七夏「景色の綺麗な場所・・・私のお気に入りの場所でも、いいですか?」
時崎「お気に入りの場所・・・勿論!! その方がいいと思う!!」
七夏「では、私、案内いたしますね!」

俺は七夏ちゃんの予定があった事を確認しておく。プレゼントをした事で七夏ちゃんの予定が変わってしまうと、プレゼントの意味が薄れてしまう。

時崎「七夏ちゃんの用事は大丈夫!?」
七夏「あ、そうでした!! お心遣い、ありがとうございます☆」

七夏ちゃんの予定を先に済ませる・・・どうやら、書店と、後は凪咲さんから頼まれた買い物もあるらしい。早速書店に向かう。

七夏「柚樹さん、何かご予定があれば、私はここで・・・」

やはり、七夏ちゃんは距離を置いているのか、そう切り出してきた。俺の予定は特にない。強いて言えば、さっきお話した七夏ちゃんとの写真撮影の約束だけだ。

時崎「特に予定はないので、俺も書店に寄ってみるよ」
七夏「はい。では、私、本を探してきますね」

そう言うと、七夏ちゃんは、小説コーナーへ向かったようだ。俺は、写真関連の書籍を探してみる。ふと一冊の書籍が目に留まる。「空」と「虹」をテーマにした写真集だ。俺は自然とその写真集を手に取り、その世界へ飛び込む。その世界の写真は、俺が思っていたよりも鮮明に虹を捉えていた。虹ってこんなにコントラストがはっきりしているのか。何か後から写真を加工しているのではないかと思えるほどだ。この書籍の虹と比べたら、自分の撮影した虹は「見えていない虹」のように思えてきて、少し切ない。

時崎「ん? これは・・・?」

その写真集のはっきりとしたコントラストの虹の一つ外側にもう一つの虹が写っていた。その外側の虹は「副虹(ふくにじ)」と言うらしい。俺の撮影した虹のコントラストはまさに「副虹レベル」だ。その写真集の他の虹の写真にも目を凝らしてみると、いくつかの写真で副虹か確認できた。

時崎「意識しないと、見えない虹もあるのか・・・」

さっき見た時は、全く副虹の存在に気付かなかった写真もいくつかあったが、意識して見てみると、見えていなかった虹・・・副虹が浮かび上がってきた。俺は思った・・・機会があれば、この副虹も撮影してみ・・・っ

七夏「柚樹さん。柚樹さん!!」

気が付くと、隣に七夏ちゃんが居た。

時崎「あ、ごめん。七夏ちゃん」
七夏「くすっ☆ とても夢中になってたみたいですね」

そう言われて妙に恥ずかしいが、否定は出来ない。結構な時間、その写真集に噛り付いていた事は確かだ。

七夏「私も、夢中になったりする事がありますので」

七夏ちゃんは、本に夢中になっていた俺の姿を見て、自分と同じ心境である事を、すぐに理解してくれた。

時崎「ありがとう。七夏ちゃん。用事は済んだ?」
七夏「はい♪ お待たせしました」

実際に待たせたのは俺の方だ。七夏ちゃんは、購入した小説を手に持っており、とてもご機嫌な様子に安心する。

時崎「じゃあ、後の用事も済ませよう」
七夏「はい☆」

後は、凪咲さんに頼まれたお買い物があるようだ。その中でも「お醤油が3本、お酢が2本」と言うのは、民宿ならではだと思ってしまう。

時崎「お醤油が3本とか凄いね。俺なんて、お醤油1本あれば1年くらい持ちそうだけど」
七夏「そうですね。でも、砂糖醤油で煮込んだりするお料理だと、結構お醤油が必要になりますので」
時崎「なるほど」

俺は、七夏ちゃんのお買い物で、お醤油とお酢の入った袋を手に持つ。

七夏「あ、えっと、ありがとう・・・ございます」

お礼を言われるほどの事ではない。

時崎「他に買い物や用事はある?」
七夏「いえ。これでお買い物はおしまいですので、私はお家に戻りますけど、柚樹さんはどうされますか?」
時崎「俺も戻るよ。お醤油とか持ってるから」

冷静に考えると、重たいものは最後に買うだろうから、七夏ちゃんに聞くまでも無かったな・・・。

七夏「ありがとうございます!」

俺と七夏ちゃんは、七夏ちゃんの家(民宿風水)へ戻る。七夏ちゃんは、いつも自然に振舞ってくれている。一方、俺はこの帰り道の中でも、常に話題を考えながら受け答えをしている・・・自然に、自然に・・・と、思えば思うほど、不自然な話し方になっている気がする。
意識を他の所に持ってゆくと、二人の長くなった影法師が、夕暮れ時を伝えてくれているように思えた。七夏ちゃんを見ていると、不自然さを取り除こうとするのではなく、それを受け入れる事が、自然な事になってゆくのではないかな・・・そんな気がしてきた。

第四幕 完

----------

次回予告

一定とは言えない可変的な要素、これを何と比喩すれば良いのだろうか?

次回、翠碧色の虹、第五幕

「虹色ってドンナ色?」

伝えられない事こそ、率先して理解する必要がありそうだ。

第五幕:虹色ってドンナ色?

七夏ちゃんとお買い物を済ませて民宿風水に戻る中、一枚の看板が目に留まる。そう言えば「水風さん」を探していた時に、この民宿風水の看板を目にして、なんとも言えない感覚になった事が、随分前の事に思える。

七夏「? どおしたのですか?」
時崎「この民宿風水の看板を見て『ふうすい』だと思ってね」
七夏「普通はそう読みますから・・・読み仮名、必要でしょうか?」
時崎「俺の場合『ふうすい』から『かざみ』は、良い思い出になってるよ」
七夏「くすっ☆ ありがとうございます♪」

七夏ちゃんと一緒に、民宿風水へ戻る。

七夏「ただいまぁー」
凪咲「おかえりなさい。七夏、お遣いありがとう」
時崎「こんばんは」

俺は、お醤油とお酢の入った袋を凪咲さんに差し出す。

凪咲「あら、柚樹君、お使いの荷物を持ってくれて、ありがとうございます」
時崎「いえ。このくらいは当然です!」
凪咲「七夏、お客様にあまり荷物を持たせてはダメよ」
七夏「あっ、ごめんなさい」

凪咲さんは七夏ちゃんに優しく注意したが、七夏ちゃんから荷物を持ってほしいと頼まれた訳ではない・・・あの時、七夏ちゃんは自分で荷物を持とうとしていたのは確かだ。

時崎「凪咲さん、それは俺が勝手に持っただけで、七夏ちゃんは悪くないです」
凪咲「ありがとう。別に七夏が悪いとは思ってないわ。時には男の人に頼っても全然構わないのだけど、女将としては・・・ね」

その後に続く言葉の意味を、俺はすぐに理解した。凪咲さんは七夏ちゃんも一人の女将として見ているという事だ。自営業の家庭って、そういう考え方なのかも知れない。

七夏「柚樹さん、ありがとうございます」
時崎「こちらこそ、余計なことをしてしまって、申し訳ない」
七夏「いえ。それでは、私、着替えてまいりますね」
時崎「ああ」
七夏「では、失礼いたします」

凪咲「柚樹君も、ごゆっくりなさってくださいませ」
時崎「はい。ありがとうございます」

俺は、七夏ちゃんが案内してくれた自分の部屋へと戻る・・・

時崎「あ、七夏ちゃんと写真撮影の話がまだ途中だった。写真と言えば、写真屋さんで七夏ちゃんの写真のプリント依頼も忘れていた・・・何をしているんだ・・・俺」

・・・思わず、つぶやいてしまった・・・。
とりあえず、七夏ちゃんに明日の予定を聞いておこうかな。

・・・と、その時、トントンと扉から音がした。

七夏「七夏です。柚樹さん、居ますか?」
時崎「あ、七夏ちゃん! どうぞ!」
七夏「失礼いたします」

・・・浴衣姿の七夏ちゃんが現れた。

時崎「七夏ちゃんは、普段は浴衣姿が多いの?」
七夏「はい。お母さんのお手伝いをする時は、浴衣姿です。お客様にも分かるように・・・」
時崎「なるほど。俺なんて、お料理とか家の手伝いをあまりした記憶が無いよ。もっと遊びたいとか思ったりしない?」
七夏「お料理は、楽しいです! お手伝いをすると、お母さん、とっても喜んでくれます! それに、ちょっとお小遣いも増えたりしますので!」
時崎「なるほど。流石、凪咲さん! そう言えば、さっきも見たけど、その浴衣、よく似合ってるよ。言うの遅くなってゴメン」
七夏「くすっ☆ ありがとうございます!」
時崎「そうそう、七夏ちゃん。写真撮影のことなんだけど。明日は何か予定ある?」
七夏「明日は・・・えっと、午前中は、ここちゃ・・・あ、お友達が来ますので、午後からでしたら、大丈夫です!」
時崎「じゃあ、午後からで都合が良くなったら、声を掛けてくれる?」
七夏「はい。よろしくお願いします!」
時崎「七夏ちゃんは、俺に何か用事があったんだっけ!?」
七夏「はい。えっと、撮影の事で・・・今、お話しました」
時崎「なるほど」

俺は、七夏ちゃんも、写真撮影の件を気にかけてくれていた事が、素直に嬉しかった。七夏ちゃんは、写真の話題が苦手なのではないかと思っていたが、本当はどうなのだろう?

七夏「それでは、失礼いたします」
時崎「わざわざありがとう!」
七夏「はい。あ、柚樹さん、後でお風呂のご案内いたしますね」
時崎「そう言えば、まだ聞いてなかったね」
七夏「今から案内いたしましょうか?」
時崎「後でいいよ。七夏ちゃん、疲れてるでしょ?」
七夏「ありがとうございます。それでは、後で伺いますね」
時崎「ありがとう」

・・・七夏ちゃんを見送った後、少し考える・・・。俺はここまで、気になっている事を言い出せないままだ。七夏ちゃんの七色の瞳が翠碧色のイメージに感覚されてきている。この理由は、はっきりと分かる。それは、七夏ちゃんと話をする時、目が合う機会が多くなったからだ。初めて会った時の印象が大き過ぎたのも考えられるが、その時の七夏ちゃんは、俺と視線を合わせる事が少なかったから、瞳も劇的に色が変化したのだろう。これは嬉しくもあり、ちょっと切ない感覚でもある。この事について、七夏ちゃんにどのように話をするべきなのか、そして、なんとなくだが、瞳や虹、写真の話題を避けているように思えるのも気になる。これらの事を自分の興味本位で聞いてしまうと、七夏ちゃんを傷つけてしまう可能性もあるため、なかなか切り出せない。本人から話してもらえるのが一番なのだが・・・うーん。ただ、写真に関しては撮影をお願いされたので、これはセブンリーフの影響が大きいと言える。七夏ちゃんの事を知るには、セブンリーフについて、もっと知っておく必要がありそうだ。俺は「MyPad」で、セブンリーフについて調べることにした。概ね七夏ちゃんの説明通りで、女の子に人気のアクセサリーブランドである。多くが二つ一組になっており、それを友達同士や大切な人とペアにできる所もポイントらしい。友達同士で同じアクセサリーを買って、敢えて左右対称とする使い方もあるらしい・・・この場合、6リーフシェア、8リーフシェアと呼んでいるようだ。しかし、一人で同じアクセサリーを二つ買って、左右対称にする使い方は、あまりされないようだ・・・何故なのだろう。七夏ちゃんに聞いてみるのも良いのかも知れない。

・・・と、その時、トントンと音がした。

七夏「七夏です。柚樹さん、居ますか?」
時崎「あ、七夏ちゃん! どうぞ!」
七夏「失礼いたします」

・・・さっきもあったけど、妙に堅苦しくなる。

七夏「? どうかしました?」
時崎「あ、いや。さっきと全く同じだなと思って」

・・・調べ事をしていた為か、ついさっきと思っていたが、そこそこの時間が経過していたようだ。

七夏「くすっ☆ ここからは違います☆ えっと、お風呂のご案内に参りました」
時崎「ありがとう。今ちょっと調べ物してるから、七夏ちゃん、お風呂まだなら、先にどうぞ」
七夏「えっ? いいんですか?」
時崎「ああ」
七夏「お心遣いありがとうございます。では、また後でご案内いたしますね」
時崎「こっちこそ、わざわざありがとう。もし、返事が無かったら、部屋に入ってきてくれていいから」
七夏「え!?」
時崎「その・・・ヘッドホンで音楽を聴いていたり、眠っていたりする事もあるから・・・バス停の時みたいに」
七夏「はいっ☆ 分かりました」

再び七夏ちゃんを見送った後、先ほどのアクセサリーのページを眺めていて、気になる物を見つけた。「色が変わります!」と表記されているアクセサリーだ。更に調べてみると液晶が使われており、温度によって色が変わるようだ。

時崎「温度・・・か。このアクセサリー、七夏ちゃんは喜ぶかな?」

見る角度で色が変わる仕組みとは違うようだけど、色が変わるというキーワードは共通している。しかし、このアクセサリーを、わざわざプレゼントするのはどうかと思う。もっと自然な方法はないものか・・・。このアクセサリーに限らず、世の中には色が変化する物が他にもあるはずだ。もっと身近でそのような物がないかな・・・。しばらく考えてはみたが、すぐには思い付かなかった。

時崎「少し、疲れたかな・・・」

俺は、横になって、そのまま目を閉じる・・・。

 ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆

・・・どのくらいの時が経過したのだろう・・・・・再び目を開けると、そこには先ほどと然程変わらない風景・・・当然である。ただ、さっきと違うのは隣(と言っても少し離れている)に一人の少女が座っていた。見た所、中学生か高校生くらいか、その少女は本を読んでいるのに夢中なのか、こちらには気付いていない様子で・・・と、言った所で、その少女が、此方の動きに気付き、視線を送ってきた。

七夏「あ、起きました?」
時崎「ん・・・少し眠ってしまった」
七夏「お疲れみたいですから、今日は早めにお休みくださいね」
時崎「ありがとう・・・七夏ちゃん」

バス亭で、初めて七夏ちゃんと出逢った時の記憶と重なり、少し落ち着かない。

七夏「すみません」
時崎「ん?」
七夏「勝手にお部屋に入ってしまって・・・呼んでも、お返事がなかったので」
時崎「あ、気にしなくていいよ。部屋に入ってきていいって言ったの俺だし」
七夏「ありがとうございます。えっと、お風呂の案内がまだでしたので」
時崎「そうだった。じゃあ、お願いするよ」
七夏「はい。では、参りましょう!」

七夏ちゃんに案内されて、お風呂場まで来る。民宿とはいえ、立派な銭湯だと思う。時間で、男湯と女湯が決められているので、注意が必要だということ。しかし、今日みたいに俺一人しか泊まり客がいない場合は、相談すれば融通も利くそうだ。

時崎「あ、露天もあるんだね」
七夏「はい。こちらは混浴になりますので、お時間に関係なくご利用できます!」
時崎「なるほど。了解!」

露天のお風呂を見て、民宿風見のお風呂について、ひとつの疑問が頭を過ぎる・・・。

時崎「露天と普通のお風呂を、それぞれ男湯と女湯に分ける事はしないの?」

七夏「はい。今すぐお風呂に入りたいというご要望にも、お答えできるように、露天は、どなた様でもご利用できるようにしてあります」
時崎「なるほど・・・ちゃんとした理由があるんだね」
七夏「ありがとうございます! これから、お風呂にいたしますか?」
時崎「そうさせてもらうよ」
七夏「はい。あ、柚樹さんの浴衣。持ってまいりますね」
時崎「ありがとう」

いきなり露天でも良かったのかも知れないが、今回は室内銭湯を利用した。お風呂上りの七夏ちゃんと同じ香りがする銭湯は、なんともこそばゆい感覚になりつつも、それが少し嬉しかったりもした。

・・・湯船に浸かり目を閉じる・・・今日一日、結構色々な事があったな・・・。七夏ちゃんと再会できた事を、改めて嬉しく思う。今までの旅館やホテル泊と違うのは、七夏ちゃんが、よくお部屋に来てくれた事・・・民宿は、そういう点で親しみを覚えた。

お風呂から上がり、七夏ちゃんが用意してくれた浴衣(風水浴衣)を羽織る。旅館や民宿では特別珍しい事ではないのだが、七夏ちゃんとお揃いの浴衣(とは言っても全く同じではないが)と言うだけで、何か特別な感じがする。俺は昼食を頂いた時の和室へ向かうと、そこで、お皿を並べていた七夏ちゃんがこちらに気付き、冷たい飲み物を用意してくれた。

七夏「もうすぐ、お夕食が出来ますので、少し待っててくださいね」

そう言うと、七夏ちゃんは、台所の凪咲さんの居る所へ戻って行った。
俺が居ない時は、もっとのんびり過ごしているのかなと、考えてしまい、申し訳なくなる。七夏ちゃんは、俺の事を「お客様」だと思っている事は確かだ・・・それは、確かに間違いではないのだが、俺としては、もっと気軽であってほしいと思ったりもする。手際よく夕食が並べられる中、俺は夕食も七夏ちゃんや凪咲さんと一緒に頂きたい事を申し出た。

七夏「え!? ご一緒いいんですか?」
凪咲「あら、私もよろしいのですか?」
時崎「はい。是非お願いします!!!」
凪咲&七夏「ありがとうございます!」

凪咲さん、七夏ちゃんと一緒に夕食を頂きながら、七夏ちゃんが、どんな色(性格/心)なのか、ある程度分かってきた。そんな中、俺は七夏ちゃんとは別件で、ある事が気になったが、それを話せずにいた。話してしまうと、せっかく暖かくなってきたこの場が、一気に凍りつくかも知れないからだ。今は、この暖かい雰囲気を大切にしたいと思うのだった。

第五幕 完

----------

次回予告

虹は光り輝いているが、光が無ければ存在できない。

次回、翠碧色の虹、第六幕

「太陽があって虹は輝く」

俺は、不思議な少女にとって大切な光源が、何であったのかを知る事になる。

第六幕:太陽があって虹は輝く

大きな音で目を覚ます。「蝉の目覚まし」は、なかなか破壊力があると思うが、不思議と、目覚まし時計の音のような嫌な印象は受けない。

時崎「ん、もう朝か・・・」

布団から出て、部屋の窓を開ける。蝉の声が一気に押し寄せ、加えて強い朝日が眠気を吹き飛ばしてくれる。これは、なかなか心地よい。ふと下を見ると人影があった。視線を合わせると、七夏ちゃんが、お花に水をあげていた。俺が窓を開けた音に気付いたのか、こちらに視線を送ってきて微笑んでくれた。

時崎「おはよう! 七夏ちゃん!」
七夏「えっ? あっ、おはようございます!」

俺の少し大きな声に驚いたようだ。顔を洗う為、一階の洗面所へ向かう。

凪咲「おはようございます」
時崎「おはようございます! 凪咲さん!」
凪咲「朝食、もう少し待ってくださいね」
時崎「はい。ありがとうございます!」

今日は、七夏ちゃんは、お庭での用事なのか、朝食は凪咲さん一人で準備しているようだ。そこへ、七夏ちゃんが戻ってきた。

時崎「お疲れ様。七夏ちゃん」

俺の言葉に七夏ちゃんは微笑みを返してくれた。

七夏「柚樹さん。今日は、お友達が来ますので、ちょっと騒がしくなるかもです」
時崎「全然、構わないよ」
七夏「ありがとうございます。なるべく静かにするように心がけますので」
時崎「気にしなくていいよ」

昨日の夕食時のように、朝食も七夏ちゃんと一緒に・・・と、思ったが、七夏ちゃんと凪咲さんは既に済ませていたようだ。朝食を頂いていると、台所に居た七夏ちゃんが話しかけてきた。

七夏「柚樹さん。お部屋のお布団、干したいので、お部屋に入ってもいいですか?」
時崎「あ、ああ。勿論構わないよ! ありがとう」
七夏「ありがとうございます☆」

七夏ちゃんはそう話すと、二階の俺の居た部屋へ向かったようだ。そう言えば、昨日、部屋に七夏ちゃんが来てくれて、お布団を準備してくれた。民宿風水では、宿泊客が食事を済ませている間に、お布団を用意してくれるようなのだが、昨日の夕食は七夏ちゃんと一緒に頂いた為、後からお布団の準備に来てくれた・・・という事らしい。

朝食を終え、居間で少しくつろぎつつ、目を閉じる・・・近くからは、凪咲さんが朝食の後片付けをしている音だろうか・・・食器が楽器のような音色を奏でている・・・規則性の無い無秩序な響きが逆に心地よい。トットットッと階段から音もする。これは七夏ちゃんの足音だろうか。普段意識しない生活音が民宿風水に居ると、意識の対象となっている事に気付く・・・これは、慣れない場所に居る為、感覚神経が研ぎ澄まされている為だろうか。聞き慣れつつあった蝉の声と遠くの波の音に耳を預ける・・・何か聞き逃している事は無いだろうか・・・そんな事を考えつつ、しばらくすると・・・。

??「おはよーございまーす! つっちゃーいる?」

玄関の方から明るく元気な声がした。その声のした方向に目を運ぶと、一人の少女が居た。初対面時の七夏ちゃんと同じ青と白のセーラー服姿。茶色のショートヘアで、明るく元気そうな印象であるその少女と、俺は目が合ってしまう。

時崎「えっと、こんにちは」

俺の言葉に、少女さんの表情は、少し固くなりつつ、

少女「ど、どうも~」

さっきの大きな声とは、打って変わって小声だ。俺は次の言葉に詰まっていると、

七夏「あ、ここちゃー。いらっしゃいです!」
心桜「あ、つっちゃー! おはよー」

七夏ちゃんが顔を見せる・・・助かった。その少女さんの表情も明るくなった様子で、俺はホッとした。

七夏「柚樹さん。えっと、お友達の天美(あまみ)心桜(ここな)さんです!」

七夏ちゃんの取り計らいで、俺も天美さんに自己紹介をする。

時崎「時崎(ときさき)柚樹(ゆた)です。民宿風水で、お世話になってます」
心桜「天美(あまみ)心桜(ここな)です」

やはり、俺と話す天美さんの表情は、少し固い印象だ。まあ、初対面なのだから当然だと言える。何やら、小声で七夏ちゃんと話しているようだ。

心桜「(つっちゃー)」
七夏「(なぁに、ここちゃー)」
心桜「(今日、お客さん居ないって聞いてたんだけど)」
七夏「(あ、ごめんなさい。昨日、来られまして)」
心桜「(そっか。あたし、大きな声出してたら注意して)」
七夏「(柚樹さんには、騒がしくなるかもっていう事は話してます。『気にしないで』って)」
心桜「(・・・ふーん。話の分かりそうな人で良かったよ。だけど、あたしが居ると騒がしくなる前提っていうのは、素直に喜べないかなー)」
七夏「(あ、ごめんなさい)」
心桜「(冗談だよ。つっちゃー、ありがと)」

しばらくすると、七夏ちゃんがこっちに来る・・・

七夏「それじゃ、柚樹さん。私たちは、お部屋に居ますので、また後で」
心桜「?」
時崎「ああ、じゃ、用事が済んだら声かけて」
七夏「はい☆」
心桜「???」

天美さんは、俺と七夏ちゃんの会話を聞きつつ、俺の手元をじっと見ている。その視線の先には、写真機があった。写真を撮ってほしいのかとも思ったが、天美さんの表情から、その逆の意思である事は明らかだ。完全に警戒されている。天美さんも写真に対して、あまり良い印象を持っていないのかも知れない。俺はその真意が分かるまで、天美さんの前では写真機や写真の話題は控えようと思った。俺が天美さんに会釈すると、天美さんは、ちょっと困惑気味の表情を浮かべつつも、軽く会釈を返してくれた。
七夏ちゃんとは随分印象が異なる天美さん。民宿育ちで、凪咲さんのお手伝いをしている七夏ちゃんは、人当たりがよく、気も利くので、それに慣れてしまっていた。冷静に考えると、天美さんの反応の方が一般的だと言える。七夏ちゃんと話す天美さんの様子から、本当の天美さんは、明るくて元気な女の子だと俺は思っているし、それは間違ってはいないだろう。

七夏ちゃんと天美さんを見送った後、隣の広間を見渡すと大きなテレビ・・・お客様用だろうか。テーブルの上には、そのテレビ用と思われるリモコンが置いてある。俺はそのリモコンを手に取り、眺めていると・・・

凪咲「テレビ、ご自由にご覧くださいね」
時崎「ありがとうございます。随分大きなテレビですね」
凪咲「はい。少し前まで小さなテレビだったのですけど、故障してしまって・・・」
時崎「そうなのですか?」

確かに、大きなテレビは、年季の入った部屋に対して、明らかに時代が異なる印象を受けた。

凪咲「それで、遠くからでも見れるように考えたら、この大きさになりました」
時崎「なるほど」
凪咲「あと、七夏がテレビに近づき過ぎないように・・・という意味もあるかしら」
時崎「七夏ちゃんは、そんなに視力が弱いイメージはないですけど」
凪咲「七夏は視力は弱くないですけど、時々テレビに近づいている事があるの」
時崎「そうなのですか? 興味のある放送だったとか?」
凪咲「それもあるかも知れないですけど、真面目なニュース番組とかでもそんな時があって、そういう時は目を細めて見えにくそうにしていたかしら」
時崎「その時のニュース番組の内容は?」
凪咲「特に決まってはないみたい。この前は天気予報だったかしら?」
時崎「その時、七夏ちゃんは見えにくいとか話してました?」
凪咲「特にそういう事は・・・私が話しかけると、すぐにテレビとの距離をとっていたから」
時崎「そうですか」
凪咲「あ、すみません長々と。テレビ、ご自由にご覧くださいね」
時崎「いえいえ。ありがとうございます!」
凪咲「あ、あと、テレビの音量は少し控えてくださると、助かります」
時崎「はい」

俺は、七夏ちゃんがテレビに近づいている事があるという理由が気になるが、突然そんな事を本人に訊く事は出来ない。もし、七夏ちゃんがテレビに近づいている事があったら、その時にでも訊いてみる事にしよう。
改めて、俺はテレビの電源を入れようとして・・・ある物に目が行く。

時崎「ん!? これは、PS!!」

「PS」とは「Power Station」の略で、いわゆる家庭用ビデオゲーム機である。大きなテレビといい民宿風水、侮りがたし。俺の言葉に居間へ戻りかけていた凪咲さんが答える。

凪咲「あ、ごめんなさい。その機械は調子が悪いみたいで」
時崎「そうなのですか? ちょっと見させてもらっていいですか?」
凪咲「ええ。ただ、ぼやけた感じに見えて、目を悪くするかも知れないので。あまり長時間にならないように、なさってくださいね」
時崎「はい」

俺は、テレビとそのPSの電源を入れ、テレビの入力切替を行う。PS本体の近くにあったコントローラーを手に取る。しばらくするとPSの映像が映る。

時崎「うわっ!! これは・・・映像がぼやけてる!」

この原因がすぐに分かった。このPSはコンポジット(RCA)・アナログ接続されているのだと。テレビとPS本体の背面を覗き込んでみると、予想通り「黄・白・赤」の三色のケーブルで接続されていた。大きなテレビに旧式のアナログ接続は映像がぼやけてしまう事を凪咲さんは知らないのだろう。くっきりと映るテレビ放送を見た後では、なおさらの事である。さっき凪咲さんはテレビを買い換えたと話していたから、PSに使っているこのケーブルが、アナログ接続のままというのはすぐに理解できた。せっかくのPSが、これではかわいそうだ。七夏ちゃんがこのぼやけた画像を見ているかも知れないと思うと、色々と心配だ。俺は凪咲さんに相談してみる事にした。

時崎「すみません」
凪咲「はい。どうかなさいました?」
時崎「テレビに繋がっているPSの事なのですけど。取扱説明書や付属品ってありますか?」
凪咲「PS? あ、テレビゲーム機の? えっと、こちらにあったかしら?」

俺は凪咲さんに付いて行く。

凪咲「これかしら?」
時崎「はい、そうです! ちょっとお借りしても良いですか?」
凪咲「はい。どうぞ」
時崎「ありがとうございます」

凪咲さんからPSの元箱一式を受け取り、テレビの置いてある広間に戻る。PSの元箱の中には、取り扱い説明書の他に縦置き用スタンド、他に付属品は見当たらない。俺は取扱説明書を見る・・・確認したかったのは付属品だ。どうやらデジタルケーブルは付属していないようである。何故PSにデジタルケーブルが付属していないのか、疑問に思う。この説明書通りに付属しているアナログケーブルで接続したら映像は、ぼやけるのだが、それを「そんなものである」と思う人も居るという事だ。

デジタルケーブルがあれば「ぼやけた映像」ではなく「はっきりと映る映像」が得られるだろう。テレビ側にはデジタル入力端子の空きもあるので、後はデジタルケーブルのみあれば、解決できそうである。俺は、PSの元箱一式を元の場所に戻しに行く。

時崎「凪咲さん、ありがとうございます。元の場所に置いておきますね」
凪咲「はい」
時崎「映像のぼやけた感じがする原因が、分かったのですけど、こちらで調整させてもらってもよろしいですか?」
凪咲「まあ、よろしいのですか?」
時崎「はい。ちょっとテレビの裏側の配線を変えさせてもらいますけど、基本的にテレビの操作方法が変わる事はないですので」
凪咲「ありがとうございます!」

俺は凪咲さんの了解を得たので、早速デジタルケーブルを買いに出掛ける事にした。テレビとPSの電源を切り、PSコントローラーも元の場所に戻す。

時崎「ちょっと出掛けてきますね」
凪咲「はい。お気をつけて」

商店街の電気店へ向かう。昨日、七夏ちゃんが写真屋さんを案内してくれている時に電気店を見かけていたので、場所は分かる。その電気店でデジタルケーブルを購入する。少々高額でもパッケージにはPS対応と書かれている商品を選んだ・・・。そして、足早に民宿風水へ戻る。

凪咲「あら、おかえりなさい。お買い物かしら?」
時崎「ええ。まあ、そんなところです。ちょっとテレビを動かして裏側を見ますね」
凪咲「ありがとうございます。ご無理はなさらないでくださいね」
時崎「はい」

俺は広間の大きなテレビを少し動かす。凪咲さんは「ご無理は~」と話していたが、薄型のテレビで、キャスター付きのテレビ台に乗っている為、然程苦労は無い。俺はPSとテレビに接続されている三色のアナログケーブルを外し、購入してきたデジタルケーブルでPSとテレビを接続する。

時崎「これで大丈夫のはず」

俺はテレビとPSの電源を入れる・・・。

時崎「ん? 何も映らない。あっ、そっか」

直ぐにその原因が分かった。デジタル入力に切り替えなければならない。早速デジタル入力に切り替えてみると、そこには驚くほど鮮明に映った文字が表示されていた。文字の内容を確認してみると「テレビ側のデジタル入力を検出しました。この設定に切り替えますか?」と表示されている。勿論「はい」を選択だ。PSが再起動し、先程とは比較にならないくらい鮮明な映像が表示された。デジタルケーブルに変えれば良い事だと分かっていても、ケーブル交換だけでこの差はちょっと感動的である。さて、このPS対応のソフトがあるのかとちょっと周りを見回すと、それらしいケースが目に留まる。俺はそのソフトのラインナップにちょっと驚く。「トランプ」「将棋」「花札」の類は、なんとなく分かるが・・・その他にも「車」「電車」「飛行機」「音楽」と、なかなかマニアックなソフトも置いてあった。そんな中から、俺は「音楽ゲーム」を選択してみる。これはリズムに合わせてボタンを押す割と単純で、分かりやすいルールのジャンルだ。

時崎「む、難しい・・・」

単に俺が下手なのか、思ったようにタイミングが合わない。元々、そんなにゲームは得意ではないが、どうもボタンを押すタイミングが遅い傾向にあるようだ。改めて、音楽ゲームの取扱説明書に目を通す・・・

時崎「遅延現象!?」

テレビの機種によっては倍速技術によって、映像を作り変える際に時間的なズレが生じる事があるらしい。この音楽ソフトにはその遅延現象への配慮があるようで、設定で調整できるようだ。これで先程の入力タイミングが遅い傾向は改善されたのだが、点数は然程良くならない・・・。俺はこの手のゲームは苦手なのかも知れない・・・下手な理由は、遅延現象だという事にしておいた方が、良かったような気がしてきた。俺が音楽ゲームにてこずっていると、

??「あ、PS直ってる!?」

声のした方に振り返ると、天美さんが少し遠くからテレビの画面を見ていた。続いて、七夏ちゃんも顔を見せた。

七夏「ここちゃー。どしたの?」
天美「つっちゃー。PS直ったの?」
七夏「え?」
天美「だって、ほら! あれ!」

天美さんがテレビ画面を指差す。七夏ちゃんもテレビ画面を見て驚いた様子。

七夏「わー。とても綺麗に映ってます! どおして?」
天美「いや、どおしてって、あたしが訊いてるんだけど?」
七夏「あ、そうでした」

そんな二人の会話に、俺は合わせる。

時崎「このPS、コンポジット(アナログ)接続されていたみたいだよ」
七夏「こんぽ・・・じっと?」

七夏ちゃんが不思議そうな表情を浮かべているが、俺は話を続ける。

時崎「コンポジット接続だと、大きなテレビでは映像がぼやけてくるので、HDMI接続に変えさせてもらったんだ。勿論、凪咲さんのご了解を得て」
七夏「えいちでぃー・・・えむ・・・?」
時崎「要するに、ここにある三色のRCAケーブルを交換したって事」
七夏「三色のあーる・・・しーえー?」

何か、七夏ちゃんの様子がおかしい。俺の言葉が通じていないのだろうか? ちょっと困っていた俺・・・どう説明しようか・・・すると、

天美「つっちゃー。要するに、このお兄さんがPSを直してくれたって事だよ」
七夏「・・・そうなのですね。柚樹さん、ありがとうございます!」

凄い「要するに」ではあるが、一応間違ってはいない・・・か。正確にはPSは故障していた訳ではなく、単にケーブルの問題だったのだが、細かい事はどうでもいい。天美さんは、テレビ画面と俺を交互に見て、少し笑みを浮かべる。ちょっとした微笑ではあったが、それはとても眩しく思えた。そして、

天美「お兄さん、機械の修理は得意でもゲームは苦手?」
七夏「こ、ここちゃー!! 柚樹さん、すみませんっ!」
時崎「・・・実は、今、それを実感していた所で・・・天美さんはゲーム得意なの?」
天美「まあ、お兄さんよりは良い点数取れると思うけど」

天美さんが乗ってきたので、俺は無言のままPSコントローラーを天美さんに差し出す。天美さんはPSコントローラーと俺とを交互に眺めつつ・・・少し考えた後、笑みを浮かべながらPSコントローラーを受け取る・・・そして、

天美「ざっと、こんな所かなー」
時崎「う、上手い!」
七夏「ここちゃー凄いです!」

言うだけの事はあって、天美さんは俺より遥かに高い点数を叩き出し、頑張ってやっとランクインしたばかりであった俺の点数は、ランク外に蹴り出された。

時崎「・・・参りました」
天美「お兄さんも、ガンバレー」
時崎「がんばれー・・・って、言われても」
天美「じゃ、あたしに勝てたら、いいのあげるよ♪」
時崎「え? いいのって?」
天美「それは、あたしに勝ってからのお楽しみって事で!」
時崎「勝てそうな気がしない・・・」

天美さんの叩き出した点数によって「新楽曲」と「新衣装アイテム」が開放されたようである。新楽曲は遊べる楽曲が増え、新衣装アイテムは、このゲームに登場するキャラクターに着せるアイテムのようだ。

天美「おっ、何か新アイテム来たよー」
七夏「わぁ、可愛いくて綺麗ー!」

何やら二人でこの新衣装アイテムのコーディネートについて、色々試し始めた様子。ゲーム本編そっちのけで、衣装コーディネートに夢中になるのは、やっぱり女の子らしいなーと思ってしまう。

凪咲「あら、みんな揃って楽しそうね!」
七夏「あ、柚樹さんが直してくれたみたいで、とても綺麗に映ってます!」
凪咲「まあ、本当! ありがとうございます! 改めてお礼させて頂きますね」
時崎「いえいえ。簡単な事でしたので、お構いなく」
凪咲「ありがとうございます!」

台所に戻る凪咲さんを見ていると、天美さんが話しかけてきた。

天美「あ、お兄さん、ごめん」
時崎「ん?」

俺は何故、天美さんが謝ってきたのか分からなかったが、少し考えると思い当たる事があった。「機械の修理は得意でもゲームは苦手?」と言われた事。

時崎「俺は確かにゲームは得意じゃないから、気にしなくていいよ」
天美「んー、そうじゃなくて、今朝の事」
時崎「今朝?」
天美「あたし、ちょっと冷たい対応したかなーっと思って」
時崎「初対面だと、そんな所じゃないの?」

俺がそう言うと、天美さんは少し何かを考えているようだ。

天美「・・・つっちゃーの言ったとおりの人で良かった」
時崎「?」

今までの流れから「つっちゃー」が、七夏ちゃんの事・・・つまり、あだ名であるという事は、なんとなく理解できているが、何故その呼び方なのか気になったので、それとなく訊いてみる。

時崎「つっちゃー!?」
七夏「えっ!? は、はいっ!」

俺の言葉に七夏ちゃんが驚き、反応する。しかも、結構恥ずかしそうだ。この事で「つっちゃー」が七夏ちゃんの、あだ名である事は確実となった。

天美「『つっちゃー』は七夏の事」
七夏「・・・・・」
天美「『ななつちゃん』→『つちゃん』→『つっちゃー』かな?」
時崎「なるほど」
七夏「えっと、ここちゃーは『ここなちゃん』→『ここちゃん』→『ここちゃー』です☆」
時崎「そっちは、直ぐに分かったよ」
天美「つっちゃーの他にも『みのちゃー』とかも、あったかなー?」
七夏「こ、ここちゃー! それは忘れて!」
時崎「? みのちゃー?」
七夏「なっ、なんでもないですっ!!!」

俺は七夏ちゃん非公認のあだ名「みのちゃー」が気になったが、七夏ちゃんの様子から、この事には触れてほしく無さそうなので、これ以上追求するのは止めておく事にした。

天美「まあ、そんな訳で、また会えたらよろしくねっ! お兄さんっ!」
時崎「ああ。こちらこそ。・・・って、もう帰るの?」
天美「うん。午後から部活の練習あるから」
時崎「部活?」
天美「そっ!」

天美さんは、鞄の端から飛び出している「ラケット」と、筒のような物の中から羽根を取り出して見せてくれた。

時崎「あ、バトミントン!?」
天美「あ、お兄さん『バドミントン』ね」
時崎「あ、バドミントンなのか・・・」
天美「そうそう、あっ『羽根つき』って思った!?」
時崎「いや、羽根つきの印象もあるけど、スポーツ競技としては、スピード感があるよね。スマッシュなんかは目に見えない速さだよ」
天美「おー、お兄さんっ! 分かってる!」
時崎「いや、今、バドミントンで知ってる事を全てさらけ出したんで、これ以上は無いよ」
天美「あははー。それだけで十分だよー」
七夏「えっと、羽根つきは、羽子板になりますね」
時崎「羽子板! 確かに!」
天美「ちなみに、羽根の事はシャトルって言うんだよ」
時崎「シャトルか・・・なるほど」
天美「それじゃ、失礼しまーす!」

天美さんの大きな声で、凪咲さんが姿を現す。

凪咲「天美さん、またいらしてね」
天美「はい。凪咲さん! つっちゃーも、またねっ!」
七夏「はい☆」
天美「お兄さんも、また会えたらねっ!」
時崎「あ、ああ」

天美さんが帰ると急に静かになった・・・と思うが、こんな事を考えては天美さんに失礼かな。俺の思ったとおり、天美さんは、とても明るく爽快な女の子で、天美さんと一緒に過ごす七夏ちゃんは、俺と話す時とはまた違って、とても自然に輝いて見えた。また天美さんとも楽しく過ごせる機会があるといいなと思った。

凪咲「柚樹くん、七夏。お昼にしましょう」

凪咲さんの言葉で、壁の時計を見ると、長針と短針が縦一直線になっていた。

第六幕 完

----------

次回予告

虹は七色だと思っていた・・・不思議な少女に出逢うまでは・・・

次回、翠碧色の虹、第七幕

「翠碧色の虹」

自分が正しいと思う事なんて、自分の中だけでしかない・・・俺はそれに気付かされた。

幕間一:魅力点(チャームポイント)

幕間一:魅力点(チャームポイント)

心桜「はじめまして。天美心桜です! やっとあたしの出番来たよー・・・じゃなくて、『翠碧色の虹』、ここまで読んでくれてありがとー。これから、どんな展開になるのか、気になっちゃうよー」
七夏「ここちゃー。これは?」
心桜「あ、つっちゃーはこっち。お兄さんはここ。んで、はい! お弁当!」
時崎「あ、ありがとう、天美さん。幕の内か・・・おぉ! これは豪華だ!」
心桜「それ、つっちゃーの手作りだから、ちゃんと味わってよねっ!」
七夏「・・・・・」
心桜「~♪」
時崎「!!! いただきます!!!」
心桜「そうそう、幕の内って、幕間に頂くお食事が名前の由来なんだって」
七夏「それって幕間の間に、食べ終わらないとダメなのかな?」
心桜「そんな事はないと思うけど。なんで?」
七夏「えっと、お食事は、ゆっくり頂いた方がいいかなって思って」
心桜「ゆっくり、味わって食べてもらいたいもんね~っ!(ニヤリ)」
七夏「そ、そういう意味じゃなくてっ」
心桜「はいはい、ごちそーさま。んで、本題に戻すね」
七夏「本題?」
心桜「そう、つっちゃーのこと」
七夏「わたし!?」
心桜「ずばり、つっちゃーのチャームポイント・・・略して、つっチャームポイントって、何!?」
七夏「え? チャームポイント!? ・・・えっと・・・えーっと・・・」
心桜「やっぱり・・・瞳だよね! 綺麗ー」
七夏「こっ、ここちゃー(顔近いってばっ!)」
心桜「もう! ここでは、つっちゃーの虹色の瞳についてが本題だよ! 本編ではなかなか触れられなくて、あたし、やきもきしていたんだからね!」
時崎「そう言えば、俺もなかなか七夏ちゃんに瞳のこと言いにくくて・・・」
七夏「うぅ・・・すみません」
心桜「ホント、綺麗な瞳なんだから、もっと自信持ちなよ!」
七夏「自信とかそういうのじゃなくて・・・」
心桜「で、この幕間で、つっちゃーの瞳の事を何て呼ぼうか決めようと思ったの!」
七夏「瞳の名前?」
時崎「虹色の瞳・・・じゃなくて?」
心桜「それだとそのまま過ぎだから・・・例えば、左右で瞳の色が異なる『オッドアイ』ってあるよね。そんな感じの呼び名で」
七夏「呼び名なんて、なくてもいいよー」
心桜「正確に言うと、つっちゃーは『虹色の瞳』のような七色では無いんだよね。瞬間的には三色くらいって感じだから、『三色の瞳』という方が正しいかも。でも、これも単純過ぎかな・・・三色弁当みたいだし」
時崎「虹色の瞳の少女か・・・小説とかで、既にありそうなタイトルだな」
心桜「んー、そだねー」
時崎「少しひねってマルチカラーアイ(多彩色眼)とか?」
心桜「んー、それだと色が変化するって要素が無いような・・・」
時崎「玉虫色の瞳とか!? でも、玉虫って、地の色も変化したかな?」
心桜「変化する色・・・じゃあ、『マジョーラアイ(魔女-羅眼)』」
七夏「ま、魔女っ!?」
時崎「マジョーラ・・・偏光・・・か。確かに、近いかも知れない。ん? でも、マジョーラって、登録商標じゃなかった?」
※マジョーラは、日本ペイント株式会社の登録商標です
心桜「もー、急に厳しい現実を突きつけられたよー。じゃあ『オーロラアイ』」
時崎「オーロラときたら、『ホログラムアイ』」
心桜「おっ、いいねー。ホログラムときたら『プリズムアイ』」
時崎「プリズムか・・・じゃあ『カラーシフトアイ』」
心桜「カラーシフト・・・言えてるかも! ねっ、つっちゃーは、どう思う?」
七夏「からーしふとって、なぁに?」
心桜「・・・・・(忘れてた! つっちゃー英語苦手だった)。カラーシフトっていうのは・・・カラーは、分かるよね?」
七夏「えっと、色の事かな?」
心桜「で、シフトは、移動っていう意味になるんだけど・・・・・えーっと・・・あれ? なんで移動なんだろ?」
時崎「移動と言うよりも、色相の変化という事になるかな?」
心桜「色相・・・なるほど!!」

・・・カラーシフトについて、天美さんは、七夏ちゃんに説明しているようだが、これは、ある程度コンピューターグラフィックスの知識がないと、すぐに理解するのは難しいかな。画像編集ソフトで、色相を変更する事によって色が変化するのだが、その仕組みを説明するのは難しい。でも、実際、七夏ちゃんの瞳は「見る視点(或いは注視点)」が移動すれば、瞳の色が変わるから、それを説明すれば良いのかな・・・。天美さん、結構熱く語っているみたいだけど、七夏ちゃんにはちゃんと伝わっているのだろうか・・・。長くなりそうだな・・・そうだ! この間に俺は大切な事が・・・

心桜「・・・っていうのが、カラーシフト。分かった?」
七夏「・・・なんとなく」
心桜「で、どう思う?」
七夏「私は、『キラキラアイ』かな?」
心桜「それ、今までの候補にあった?(しかも『少女漫画たいむキラキラ』が元ネタか)」
七夏「じゃあ、『レインボーアイ』」
心桜「レインボー! 何故、今までこの言葉が出てこなかったの!? ・・・しかも、つっちゃーから・・・って、思ったけど、それだと最初の虹色の瞳に戻っちゃうし、虹とは、ちょっと違う気がするし・・・うーん・・・」
七夏「やっぱり、今すぐ決めなくても、いいんじゃないかな?」
心桜「えーなんで? ・・・んじゃ、みんなに決めてもらうのは?」
七夏「え!? みんなって!?」
心桜「私たちのお話を読んでくれている、ありがたい読者様の事だよ!」
七夏「なるほど☆ 読者様、いつもありがとうございます☆」
心桜「それじゃ、これから、ゆっくり、みんなで考えよう!」
七夏「でも・・・私は、今までどおりでもいいよー」
心桜「ではでは、本当は今回、つっちゃーの瞳の愛称を決めたかった、あたしたち『ココナッツ』で、お届けしましたー」
七夏「・・・ましたー・・・って、『ここなっつ』って!?」
心桜「ん!? あたしとつっちゃーの事だけど?」
七夏「そ、そうなんだ」
心桜「うん。ダメ?」
七夏「えっと、いいと思います☆」
心桜「よかった、こっちはすぐ決まって。・・・という事で、つっちゃーの瞳、良い呼び方があったら、あたしたち『ココナッツ』まで、お便り/メッセージ、待ってまーす!」
七夏「それ以外のお便り/メッセージも待ってますね♪」
心桜「そうそう!『お悩み事』とか『人生相談』などなど、あたしたち『ココナッツ』がサクッと解決!!」
七夏「できるといいな♪」
心桜「・・・って、ちょっと、つっちゃー!! そこはできると言い切らないの?」
七夏「わ、私、頑張ります!!」
心桜「ホント、頑張ってよねっ! あ、そうそう! 大切な事を忘れてた!」
七夏「大切な事って、なぁに?」
心桜「本編の次回予告!!!」
七夏「あ、そうでした☆」
心桜「んじゃ、つっちゃーお願い!!」
七夏「はい☆ えっと・・・次回、翠碧色の虹・・・翠碧色の虹・・・です。ご期待くださいね♪」
心桜「ん? なんで同じ事2回言ったの? 念押し?」
七夏「え? なんでって言われても・・・」
心桜「ちょっと、お兄さんからも、何か言ってやってよ!」
時崎「モグモグ・・・ん、美味しいよ! 七夏ちゃん!!」
七夏「え!?」
心桜「・・・って、弁当食べてたんかいっ!!!」

幕間一 完

------

幕間一をお読みくださり、ありがとうございました!
本編の方も、どうぞよろしくお願い申しあげます!

第七幕:翠碧色の虹

第七幕:翠碧色の虹

昼食を済ませた後、お出かけの準備をする七夏ちゃんを、俺は居間で待っていた。これから七夏ちゃんお気に入りの場所で、写真を撮影する事になっている。ちょっと緊張してきた。

七夏「柚樹さん、お待たせしました☆」

七夏ちゃんは、青いラインの入った白いワンピース姿で現れる。手には大きな帽子を持っていた。

時崎「こちらこそ! よろしく!」
七夏「はい☆ では、参りましょう!!」

七夏ちゃんお勧めの場所へ向かう・・・。舗装されていない、轍のある道のりは、多くの木々が揺れる小高い丘へと続いている。その場所まで然程遠くは無いようだ。日差しは高く、影は短いながらも、ふんわりとしたワンピースのゆらめきを、はっきりと地面に投影している。

時崎「大きな帽子だね」
七夏「はい☆ 上手く使えば、体まるごと日差しから守ってくれます♪」

そう言うと、七夏ちゃんは、帽子に手を当て角度を調節し、その場にしゃがみ込んだ。その姿は、確かに夏の強い日差しから七夏ちゃんの肌と全身を、しっかりと守っている。

時崎「なるほど」
七夏「柚樹さんも日射病には気をつけてくださ・・・どおかしました?」
時崎「いや・・・なんでもない」

俺は、七夏ちゃんの咄嗟の行動が予想外だったので、込み上がってくる笑いを堪えていた・・・今思うと、写真として記録したい構図だったかも知れない。もう一度、七夏ちゃんに、さっきのポーズをお願いしたくなってきたが、再び前を歩き始めた七夏ちゃんに、そんな事をお願いするのは、無粋だと思って諦めた。

七夏「えっと、この先になります♪」

七夏ちゃんが指差す丘の方を眺めつつ、歩みを進めてゆく・・・。すると、木々の先にある深緑の草原がキラキラと輝き始め、海が浮かび上がってきた。これは素晴らしい光景だ。俺は歩みを止め、写真機のファインダーを覗き込む。空の青、水平線の白、キラキラと輝く海の碧、深緑の草原・・・その中に前を歩く七夏ちゃんが入ってきた。俺は今、写真機に流れ込んでくるこの素晴らしい光の束に、手が震えているのを実感しつつ、確実にシャッターを切った。

七夏ちゃんが此方に振り返る・・・少し遅れて、ワンピースもふわりと七夏ちゃんに付いてくる。その動きがとても印象的で、これは写真では表せないであろう。

七夏「お疲れ様です☆ 到着です♪」
時崎「お疲れ様! 七夏ちゃん! ありがとう!」
七夏「はい☆」

七夏ちゃんお勧めの場所は、街と海が見渡せ、空も高く、とても良い眺めの場所だった。

時崎「とても良い場所だね! 気に入ったよ! 七夏ちゃん!!」
七夏「柚樹さん、気に入ってくれて、よかったです♪」
時崎「じゃあ、何枚か撮影するから、自然にしてて」
七夏「はい☆ お願いいたします♪」
時崎「七夏ちゃんは、この場所、よく来るの?」
七夏「はい♪ ここを通る海風、心地よくて好きです♪」

まだ、日差しは高い事から、普通に考えれば「初夏の暑い時間」のはずだが、ここを通る海風の影響か、暑いという感覚は殆ど無い。

時崎「確かに、風が涼しくて心地良い」
七夏「くすっ☆」

俺は、海風に長い髪を乗せて涼しそうな七夏ちゃんを、しばらく眺めてしまった・・・。

時崎「七夏ちゃん!!」
七夏「???」

七夏ちゃんがこちらに視線を送ってくる。俺は七夏ちゃんを確実に捕らえる・・・綺麗な翠碧色の瞳と、ファインダー越しに目が合い「ドキッ!」としつつ、シャッターを切る。

七夏「ひゃっ!!」

急に風向きが変わり、七夏ちゃんの長い髪とワンピースが、大きく舞う。この瞬間も俺は、すかさず切り取る。

時崎「おっ・・・と!!」

俺は七夏ちゃんから離れた帽子を素早く受け止める・・・風向きが変わり、俺の方に上手く飛んできてくれたのは運が良かった。

七夏「あっ、帽子! ・・・ありがとうです☆」
時崎「こっちに飛んで来てくれて良かったよ」
七夏「はい☆」

帽子に次いで、こちらに寄ってきた七夏ちゃんとの距離が近い・・・綺麗な瞳に圧倒されそうになりつつも、負けじと写真機を七夏ちゃんとの間に挟み、綺麗な瞳を捉える。写真機を目の前にした七夏ちゃんは、視線を逸らしてしまう・・・。

時崎「あれ?」
七夏「・・・・・」

今、俺の目に映っている七夏ちゃんの瞳は、翠碧色ではない・・・しかし、写真機の液晶モニターに映っている七夏ちゃんの瞳は、翠碧色のままだ・・・これは、どういう事だ!?
ファインダーを通して七夏ちゃんを見ると、瞳の色は裸眼で見たときと同じように変化して見える。
・・・大切な事を思い出した。最初に七夏ちゃんの写真を撮らせてもらった時、七夏ちゃんの瞳の色が、虹色/七色ではなかった事・・・撮影した全ての七夏ちゃんの写真の瞳が翠碧色になっていた事。俺は七夏ちゃんの本当の瞳の色を確かめたくて、もう一度会いたいと思った。しかし、七夏ちゃんと再会出来て、一緒に過ごす時間の中で、瞳の色の事よりも七夏ちゃんの心の方が印象深くなってしまっていた。今、写真機の液晶画面に映っている七夏ちゃんの瞳の色こそが、撮影した時に記録される色だという事・・・つまり、本当の七夏ちゃんの瞳の色を撮影し、記録する事は出来ないという事になるのか・・・そんな事を考えていると、七夏ちゃんは写真機と俺から少し距離をとった。

時崎「七夏ちゃん」
七夏「・・・・・」

七夏ちゃんは無言のままだ。先程まで涼しいと思っていた海風が、少し肌寒く感じる。恐らく、七夏ちゃんは過去にもこの様な事があり、写真に良い思い出がないのかも知れない。考えられる事は、七夏ちゃんの目の前で何かの実験のように、興味本位で写真を撮りまくり、見せ物感を七夏ちゃんに与えてしまう事・・・。ここで俺が、更に上塗りしてはならない。写真機をケースにしまう。撮影は、これでおしまいにしようと思った。

七夏「あっ!」

無言で佇む七夏ちゃんの頭に、大きな帽子をそっとかぶせてあげる・・・。七夏ちゃんがこちらに振り返り、視線を大きく動かす・・・瞳の色も大きく変化する・・・どうやら、写真機を探しているようだ。

七夏「柚樹さん・・・写真・・・」
時崎「ん? 写真なら、もう良いのが撮れたから」
七夏「・・・・・」

七夏ちゃんは、不思議そうな顔で此方に視線を送ってくる。俺は、その翠碧色の瞳を見て安心する・・・七夏ちゃんが、しっかりと此方を見てくれている事が伝わってくるから。

時崎「そうだ、七夏ちゃん!」
七夏「は、はい!」
時崎「可愛い七夏ちゃん撮れたよ!」

俺は、さっきケースにしまった写真機を取り出し、先程撮影した七夏ちゃんの写真を表示して、七夏ちゃんに見せてあげる。七夏ちゃんが、写真機の液晶画面を覗き込ん・・・

時崎「うぇーっ!!」
七夏「ひゃっ!? 柚樹さんっ!! ごめんなさいっ!!」

写真機の液晶モニターに映る七夏ちゃんに、気を取られていた俺の瞼に、七夏ちゃんの帽子のツバが当たる・・・突然の事に変な声を上げてしまった。

七夏「ゆ、柚樹さんっ! 大丈夫ですか!?」
時崎「あ、いや、大丈夫。大袈裟な声を出して、ごめん」
七夏「そんなっ! 私のほうこそ、すみませんっ!! 目に入ってませんか?」
時崎「目には入ってないよ、瞼だから大丈夫」
七夏「良かった・・・ホントにすみません・・・」
時崎「くくっ・・・」
七夏「柚樹さん!?」
時崎「あははっ!!」

何か、七夏ちゃんには、いつも驚かされつつも、今回は大きな帽子に感謝する。

時崎「ごめん。ちょっと可笑しくて・・・。で、はい。これ!」

今度は、かぶっていた帽子を手に取り、七夏ちゃんが写真機の液晶画面を覗き込む。そこには笑顔の七夏ちゃん。

七夏「良い写真って、これですか?」

七夏ちゃんが改めて訊いて来る。何故改めて訊いてきたのか疑問に思うが、今、液晶画面に映っている七夏ちゃんは良い表情なので、良い写真である事に間違いは無い。俺は七夏ちゃんの顔を拡大表示して、

時崎「七夏ちゃん、とても良い表情で、可愛いよ!」

勢いで「可愛いよ」なんて言ってしまっているが、冷静に考えれば、かなり恥ずかしい・・・。けど、七夏ちゃんなら、素直に受け止めてくれる事が分かっているからこそ、躊躇いも無く出てきた言葉なのだと思う。俺は他の写真も七夏ちゃんに見せる。

時崎「これも良い写真だよ!」
七夏「あっ、帽子が飛んだ時の!?」

この写真は、俺が思う所、翠碧色の瞳にはなっていなかったハズだ・・・その理由は、七夏ちゃんがカメラ目線ではないからだ。七夏ちゃんの顔を拡大して見ると、やはり瞳は翠碧色で映っている。それを七夏ちゃんにも見せ、

時崎「これも良い表情だよ!」
七夏「これ、良い表情なのですか!?」

七夏ちゃんがまた改めて訊いて来る。俺は、その理由がなんとなく分かった気がする。

時崎「この写真は、自然な七夏ちゃんの姿を捉えていると思うよ」
七夏「自然な私・・・」

俺は写真機を七夏ちゃんに渡す。七夏ちゃんは、しばらくその写真を眺めている・・・何か思う所があるのだろう・・・。俺が良い写真と言った事に対して、七夏ちゃんが改めて訊いてきた理由がここにある。

七夏「柚樹さん・・・ありがと・・・です♪」
時崎「え?」
七夏「好きです!」
時崎「!!!!!」
七夏「こ、この写真・・・」
時崎「なっ、しゃっ、写真・・・か・・・」
七夏「??? どうしたの?・・・ですか?」
時崎「いや、なんでもない」

あーびっくりした・・・どうせなら一気に言ってほしかったよ・・・倒置法で会話に間が開く事の恐ろしさを実感する。さて、ここまで放ったらかしにしている理由・・・それは、恐らく・・・

七夏「この写真、自然な私・・・伝わってきます」

七夏ちゃんの瞳の色に関係なく、七夏ちゃん自身を良い写真だと思った事・・・それが七夏ちゃんにも伝わってくれていると、信じている。恐らく、他の人は撮影した七夏ちゃんの写真の瞳の色が違うとか言って、七夏ちゃん自身の事よりも、疑問を投げかける事の方が多かったのではないだろうか。そんな疑問・・・七夏ちゃんが喜ぶはずがない。

七夏「私、分からない事があります」
時崎「え? 分からない事?」
七夏「柚樹さん、この写真の私・・・」

そう言って、七夏ちゃんが自分の映った写真の液晶画面を俺に見せた時、

時崎「え? どの写真?」
七夏「え? えっと、この写真・・・あれ?」

一定時間、操作されなかった為か、画面が消えてしまったようだ。なんというタイミングだ。

時崎「くくっ・・・」
七夏「ど、どうしたのですか? ・・・柚樹さん?」
時崎「さっきから思ったんだけど、まさか狙って・・・ないよね?」
七夏「? 何を・・・ですか?」
時崎「いや、なんでもない・・・ちょっと確認したかっただけ」
七夏「???」

俺は、七夏ちゃんから写真機を受け取り、先程の写真を液晶画面に表示させる。

時崎「この写真でいいのかな?」

七夏ちゃんが写真機を覗き込む。

七夏「はい☆」
時崎「この写真がどうかしたの?」
七夏「この時の私・・・この写真と目の色が・・・違ってませんでしたか?」
時崎「!!!!!!!」

衝撃が走った・・・七夏ちゃん自身から、その言葉が出て来た事。この写真を撮影した時は、そんな事を意識してなかったので、今となっては分からないが、今までの条件で言えば、七夏ちゃんはカメラ目線ではないので、翠碧色以外の色の瞳になっていた可能性が高い。俺は、この写真を撮影した時の事を素直に言葉にする。

時崎「正直なところ、分からない」
七夏「え?」
時崎「この写真を撮った時は、自然な七夏ちゃんの姿しか考えてなかったから・・・」
七夏「自然な・・・ありがと・・・です」

そう言うと、七夏ちゃんは、とても優しい表情で此方を見つめてくる。

七夏「私、自分の目の色が変わるらしいのですけど、それが分からなくて・・・」

・・・「分からなくて」・・・一瞬、目の色が変わる理由が・・・とも思ったが「目の色が変わるらしい」という言葉から、七夏ちゃん自身は七色の瞳には、感覚されていないという事のようだ。

時崎「分からない?」
七夏「はい・・・」
時崎「ひとつ、訊いてもいいかな? あ、無理して答えなくてもいいよ」
七夏「はい」
時崎「七夏ちゃんは、自分の瞳の色は何色に見えるの?」
七夏「えっと・・・柚樹さんの撮ってくれた、この写真の色と同じです」
時崎「・・・翠碧色か・・・」
七夏「すいへきいろ???」
時崎「あ、緑青のような色の事」
七夏「私・・・目の色が虹色に見えるって言われても、分からないのです・・・」
時崎「虹色・・・」

俺は、七夏ちゃんの「ふたつの虹」に魅せられた事を思い出す。そこから不思議な虹を追いかけ始めた事も・・・。虹色という言葉は、特定の色を指す言葉ではないが、不思議な虹の持ち主は、その事が分からない・・・こんな事って・・・・・。

七夏「私には、虹色・・・本当の虹の色も、分からないみたいで・・・」
時崎「え?」

今、七夏ちゃんが話した事は、自分の瞳の色の事だけでなく虹色そのもの、つまりは、本当の虹の事も含まれている!? そうか! 七夏ちゃんが、虹に対してあまり良い素振りを見せなかった理由が、ここにあったのかっ!!! だとしたら、七夏ちゃんと初めて出逢ったあの時、俺は、とんでもなく失礼な事を、七夏ちゃんにしていた事になる・・・。

時崎「七夏ちゃん! ごめん!!!」

考えるよりも、先に言葉が出ていた。

七夏「え?」
時崎「七夏ちゃんと初めて逢った時、いきなり虹の話とか写真とか見せたりして・・・」
七夏「あ、だって、柚樹さん知らなかった事ですから・・・」
時崎「ホントごめん!!!」
七夏「それに、あの時、柚樹さんが気を遣ってくれている事は、伝わってきましたから」
時崎「・・・ありがとう・・・七夏ちゃん」
七夏「くすっ☆」
時崎「今度から、虹の話、控えるようにするよ」

俺がそう言うと、七夏ちゃんは、

七夏「控えなくても、今までどおりでいいです☆ 柚樹さん!」
時崎「え?」
七夏「柚樹さんは、虹・・・どんな色に見えますか?」

七夏ちゃんから、質問をされた。これは答えない訳にはゆかない。

時崎「虹は・・・七色に見えるよ」
七夏「なないろ・・・普通そうみたい・・・ですね」

「普通」・・・何に対して普通なのかという事だが、ここでは「一般的に」とか「多くの人が」とかいう解釈だろう。七夏ちゃんが、ここで「普通」という言葉を使ってきたという事は、自分は普通じゃないという事を認識した上での事だろう・・・そして、この「普通じゃない」は、劣等感であろう。俺にとって普通とは、自分自身のものさしでしかない。七夏ちゃんが見た虹は、七夏ちゃんにとって、それが普通の事だと思う。そこに優劣なんて存在しないと思う。

時崎「七夏ちゃんは、虹・・・どんな色に見えるの?」
七夏「えっと、緑色・・・ちょっと青色もあるかな・・・」
時崎「という事は、翠碧色か・・・」
七夏「翠碧色・・・」
時崎「七夏ちゃんが見ている自分の瞳と同じ色・・・という事になるのかな?」
七夏「私、虹が虹色に見えなくて・・・それで、他の人とも意見が合わなくて・・・」

七夏ちゃんが昔の出来事を話し出した。

七夏ちゃんが、虹に対してあまり良い反応をしないのは、七夏ちゃん本人には虹は七色に見えず、翠碧色に感覚される為であり、他の人と意見が合わないから。七夏ちゃんが、小学生の時に、学校の野外授業で風景画を描いていたら、偶然、虹が現れた。クラスの皆は、描いた風景画に虹を描き込む・・・七夏ちゃんも同じく・・・。ところが、クラスの一人が七夏ちゃんの描いた虹を見て「なんだ? その色、おいっ! 水風の虹が変だ」と言い、からかわれ始める。そんな七夏ちゃんをかばったのが、天美心桜さんであった事。以降、二人は親友となっているようだ。
七夏ちゃんは、虹が七色に見えていない。緑・青緑・青の3色程度らしい。虹以外の色についてはどうなのだろうか?

時崎「でも、七夏ちゃんにとっては、翠碧色の虹って、普通の事なんでしょ?」
七夏「翠碧色の虹・・・」
時崎「俺は、七夏ちゃんにしか見えない翠碧色の虹、見てみたいなーって、思うよ!」
七夏「・・・・・」

七夏ちゃんは、遠くの水平線を眺めている。俺も遠くの水平線を眺めてみる・・・。
そのまま、どのくらいの時間が経過したのか分からないが、遠くから学校のチャイム音が耳に届き、空の色が茜色になりかけている事に気付かされる。

七夏「柚樹さん・・・ありがとう・・・です」

七夏ちゃんの小さなその言葉は、すぐ波音にかき消されたが、俺には深く刻み込まれた。
ここまで話してくれた七夏ちゃんの力になれる事はないかと思い始めている自分に、大きな波音が、後押ししてくれるように思えるのだった。

第七幕 完 

----------

次回予告

虹の心が繊細な存在であると気付いた時、本当の心は見えなくなっていた。

次回、翠碧色の虹、第八幕

「閉ざされた虹」

過去を取り戻す事はできない・・・けど、思い出の上書きは出来ると信じたい!!

幕間二:恋するキモチ

幕間二:恋するキモチ

心桜「つっちゃー。あたしたち『ココナッツ』宛に、お便りがきてるよ!」
七夏「わぁ! お便りですか?」
心桜「早速、読んでみよう!」
七夏「はいっ☆」
心桜「えー、なになに。『私、好きな人が居るんですけど、その人とは友達みたいに仲良くて、気軽に話せるんだけど、好きって言っても、本気で受け取ってもらえません。どうすれば本気だっていうキモチが伝わるでしょうか?』・・・あれだね。友達以上・・・で」
七夏「こ、恋人未満・・・」
心桜「友達異常なんじゃないの!?」
七夏「こ、ここちゃー!」
心桜「だって、本気で好きだって告白しているのに、それに気付けないなんて、感覚がどうかしてる・・・従って異常! 以上!」
七夏「まじめに考えようよ・・・」
心桜「あはは。ごめん。じゃあ、まじめに本気で考えるよ」
七夏「はい☆」
心桜「まず、その相手に『私、好きな人が出来ちゃった』って真剣に伝える」
七夏「それで?」
心桜「伝えた相手から『好きな人って誰だよ!?』って、本気で問われたら、脈ありっていう事」
七夏「本気で問われなかったら?」
心桜「恋人未満のまま・・・かな」
七夏「そ、そんな・・・」
心桜「あ、でも、仲良しの友達に好きな人が出来るって言うのは、結構ショック大きいと思うから、間違いなく本音が聞けると思うよ。いつまでも、悩み続けるのは良い事だとは思わないから。頑張って!」
七夏「なるほど☆ ここちゃー凄いです!」
心桜「次のステップ『恋人以上、花嫁未満』へ進む為には、大胆な行動も必要!!」
七夏「は、花嫁未満!!!」
心桜「ん? つっちゃーどしたの?」
七夏「えっ? な、なんでもないよ」
心桜「じゃあ、早速実践してみよう! つっちゃーは、お便りの女の子さん役ねっ!」
七夏「えっ、えぇ!?」
心桜「はいっ! スタート!」
七夏「えっと、わ、私・・・好きなひ」
心桜「ごめんなさいっ!(脊髄反射!)」
七夏「こ、ここちゃー! まだ最後まで言えてないよ・・・」
心桜「これは、私たちの予想通りに事が進まない可能性も考えられる訳で・・・」
七夏「でも、私はお便りの女の子さんの想いが伝わるように祈ってます☆」
心桜「それは、私も同じだよ! 真面目な話、友達以上で、しかも『好き』って言えてるんだから、つっちゃーよりはるかに前進していると思う」
七夏「素直に喜べないのだけど・・・(待ってるだけじゃ進まない・・・か・・・)」
心桜「何よりも恋するキモチが一番大切だと思う私たち、心桜と七夏。『ココナッツ』でしたっ!」
七夏「・・・でしたー・・・はぅぁー」

幕間二 完

------

幕間二をお読みくださり、ありがとうございました!
本編の方も、どうぞよろしくお願い申しあげます!

第八幕:閉ざされた虹

七夏ちゃんとの撮影が終わり、民宿風水に戻る。

七夏「ただいまぁー」
凪咲「おかえりなさい、七夏、柚樹君」
時崎「ただいま・・・で、いいのかな?」
七夏「くすっ☆」
凪咲「いいと思うわ♪」

一時は、どうなるかと思ったが、七夏ちゃんも普段どおり・・・っていう程、まだ普段の七夏ちゃんを知っている訳ではないが、元気になってくれたみたいで安心する。

七夏「柚樹さん、今日は、ありがとうございました☆」
時崎「ああ、こちらこそ、ありがとう。七夏ちゃん!」
七夏「それじゃ、私、海風に長くあたったので、流してきますね☆」
時崎「え? 流すって?」

今日の出来事を、全て水に流されてしまうのかと思い、少し焦る。

凪咲「お風呂の事よ」
時崎「お風呂・・・なるほど!」
凪咲「柚樹君も潮風に当たったのなら、早めに流しておくといいわ」
時崎「はい。そうさせて頂きます!」

俺は、七夏ちゃんがお風呂に入っている間、居間で今日撮影した七夏ちゃんの写真を確認する。写真機からMyPadへ写真データを転送する。しばらくすると、画像の転送が終わったようだ。七夏ちゃんの写真がMyPadに表示される。写真の液晶画面よりも大きく高解像度に映し出された七夏ちゃんは、拡大操作をしなくても、瞳の色は、はっきりと確認できた。

時崎「やはり・・・翠碧色の瞳だ・・・」

撮影した七夏ちゃんの写真のどれもが、翠碧色の瞳として記録されている。ある程度、そんな気はしていたが、少し残念な感覚を覚えるのは、心のどこかに「もしかしたら」という期待もあったからだろう。その期待は、単に俺の要求を満たす為ではない。七夏ちゃんの瞳が、翠碧色以外の色で映っている写真が1枚でもあれば、七夏ちゃん自身に見てもらいたいと思っていたからだ。七夏ちゃんは、自分の瞳の色が翠碧色以外に見えた事が無いと話していた。そんなの写真に写ればすぐに分かると思っていたが、何故今まで見えた事が無いのかを理解できた。俺は、見る角度が変わった時に変化する七夏ちゃんの瞳を思い出しながら、MyPadの角度を変えてみる・・・変わったのは、ジャイロセンサーが反応して画像が90度回転しただけだ。当然、この写真では瞳の色が変化するはずが無い・・・。

時崎「七夏ちゃんの瞳の色の変化は、記録に残せない・・・という事なのか・・・」

俺がMyPadを眺めていると、

凪咲「あら? 七夏の写真!?」

後を振り返ると、凪咲さんがMyPadの画像を見つめていた。

凪咲「ごめんなさい。ちょっと通りかかったら、七夏だったみたいだから・・・」
時崎「あ、いえいえ。今日、七夏ちゃんと写真を撮影してきましたので・・・」

俺は、そう言いながら七夏ちゃんが映し出されたMyPadを、凪咲さんに見せる。すると、凪咲さんの表情が一変する。

時崎「凪咲さん、どうかしましたか?」
凪咲「七夏が・・・笑顔で写ってる!?」
時崎「え?」
凪咲「七夏の写真、他にもあるのかしら?」
時崎「はっ、はい!」

凪咲さんに今日撮影した七夏ちゃんの画像を、順番に見せる。画像を見つめる凪咲さんは少し震えているようで、その瞳には、涙が浮かんでいるように見えた。

凪咲「七夏が・・・笑顔で写ってる!!!」
時崎「え!?」
凪咲「こんなに沢山・・・」

俺は、凪咲さんの言葉の意味を、すぐに理解できなかった。

時崎「凪咲さん、それって、どういう事ですか?」
凪咲「ちょっと、待っててもらえるかしら?」
時崎「はい」

そう言うと、凪咲さんは、俺の場を離れ、奥からアルバムを持ってきた。

凪咲「このアルバム、七夏の写真を記録しているのですけど、見て頂けますか?」
時崎「はい! もちろん!!!」

凪咲さんからアルバムを受け取り、眺めてみる・・・。そこには幼い七夏ちゃんの姿が沢山あった。アルバムの時代を進めてゆくと、ある事に気が付いた。更に時代を進めて、それは確信に近くなってゆく。自然と俺の表情が険しくなっていた事を、凪咲さんは見逃さなかった。

凪咲「分かった・・・かしら・・・」
時崎「・・・はい」

アルバムに写る子供が成長するにつれて、写真の枚数が減ってくるのは、然程珍しい事ではない。しかし、このアルバムはそれに加えて、笑顔も無くなっている・・・それ所か、ある時期からの七夏ちゃんの写真は、殆どが目を閉じている。唯一、瞳が確認できる入学式や卒業式らしき写真でも、その表情は険しい。今日俺が撮影した七夏ちゃんの笑顔の写真・・・それは、凪咲さんにとっては、すぐに考えられない事だったのかも知れない。

凪咲「七夏、ある時期から写真を撮られるのを拒むようになって・・・・・」

七夏ちゃんが写真に対して良い思いをしない事は、何となくだが理解できている。そこで俺は提案する。

時崎「今日撮影した七夏ちゃんの写真、このアルバムに加えてもいいですか?」
凪咲「ありがとう・・・ございます・・・是非・・・お願い申し上げます・・・」

なんとか、言葉を絞り出してきた凪咲さんに、俺の心も大きく揺さぶられた。

時崎「な、凪咲さん、そんなに改まらないでください!!」
凪咲「ありがとう・・・ございます・・・」

俺は、このアルバムの中の閉ざされた虹・・・失われた七夏ちゃんの笑顔を、取り戻してあげたいと、強く思うのだった。

時崎「凪咲さん!」
凪咲「はい」
時崎「今日、七夏ちゃんを撮影してて、思った事があるのですけど・・・」
凪咲「瞳の色・・・の事かしら?」

凪咲さんは、俺の次の言葉よりも先に切り出してきた。七夏ちゃんの瞳の色の事も気になるが、それは俺の興味本位なだけだ。七夏ちゃんの事で、もっと気になる事がある。

時崎「・・・いえ、七夏ちゃんの見ている虹の色について・・・です」
凪咲「え!? 虹の色?」
時崎「はい。七夏ちゃんは、虹色が他の人と違って見えるって話してくれて・・・」
凪咲「そう・・・七夏が・・・」

凪咲さんの話によると、虹の他にも他の人と違って感覚される物があるらしい。「シャボン玉」や「眼鏡」といった、条件によっては七色に見える色が当てはまるようだ。

凪咲「ありがとう・・・柚樹くん」
時崎「え!?」
凪咲「七夏の事を、第一に考えてくれて・・・」

七夏ちゃんの事を第一に・・・。俺は凪咲さんの「ありがとう」がすぐに理解できた。凪咲さんの表情から、七夏ちゃんの瞳の事を訊かなかった事だと。七夏ちゃんの瞳の事を聞くのは『自分が第一』な考え方だからだ。凪咲さんも、アルバムを見て、七夏ちゃんの瞳の色の事ではなく、笑顔が無い事を気にしている。凪咲さんにとって、七夏ちゃんの瞳の色よりも、七夏ちゃんの心の方が大切だと言う事なのだろう。

七夏「あ、柚樹さん・・・と、お母さん!?」

七夏ちゃんがお風呂から上がったようだ。そう言えば、結構な時間が経過している。

時崎「お、七夏ちゃん、結構長風呂さんだったね」
七夏「はい☆ 今日は、のんびりです♪」
凪咲「な、七夏!」
七夏「は、はい!?」
凪咲「お風呂上りなら、ちゃんと水分取らないと・・・今、冷茶煎れるから・・・」

そう言うと、凪咲さんは、七夏ちゃんの方を見る事無く、台所へ移動する。

七夏「お母さん、どうしたのかな?」
時崎「さ、さぁ・・・」

俺は、気の効かない返事をしてしまい、七夏ちゃんに状況を悟られないか少し焦る。

七夏「あっ! 私のアルバム!?」
時崎「え!? ああ、さっき凪咲さんが見せてくれて・・・」
七夏「な、中を見たのですか?」
時崎「ま、まあ・・・その・・・まずかったかな?」
七夏「・・・いえ。ただ・・・・・」

ただ・・・その言葉の先は、鈍い俺でも分かる・・・ので、俺は話題を変える。

時崎「七夏ちゃん!!」
七夏「は、はい!?」
時崎「今日撮った写真、七夏ちゃんにも渡すから!」
七夏「ありがとうです☆」

とは言ったものの、今、手元にプリンターが無い・・・。デジタルの写真機は便利だが、こういう時の機動力/瞬発力の無さは進化していない・・・。最も、プリンターのインクで印刷した写真は、長期保存に適さないので、俺は写真屋さんでプリント依頼をする事が多い。プリントするのに写真屋さんへ出かけるのは、写真を現像する事と然程変わらないのだが、良い写真は、ひと手間を惜しんではならないと思っている。

時崎「明日、写真屋さんに、プリント依頼してくるよ」
七夏「ぷりんと・・・あ、はい☆ 楽しみにしてます♪」
凪咲「七夏、柚樹君。はい、どうぞ!」

凪咲さんが、よく冷えたお茶と、和菓子を持ってきてくれた。

時崎「ありがとうございます。凪咲さん」
七夏「ありがと。お母さん! あ、今日は和菓子もあります!」
凪咲「それじゃ、夕食の準備いたしますね」
七夏「あ、私も・・・」

・・・と、七夏ちゃんが言いかけた時、

凪咲「七夏、お茶を飲んで、今日は、ゆっくりしてなさい」
七夏「あ、はい」
凪咲「柚樹君、ありがとう」
時崎「あ、はい」
七夏「???」

七夏ちゃんと全く同じような返事をした俺を、不思議そうな目で七夏ちゃんが見てくる。

時崎「? 七夏ちゃんどうしたの?」
七夏「え? あ、この和菓子、色が綺麗だなって・・・」
時崎「確かに、色鮮やかで、見て楽しめる工夫がされているね」
七夏「はい☆」

ん? ちょっと待てよ。ここにある和菓子は色々な色が使われている、それこそ、ぱっと見では7色あるけど・・・七夏ちゃんは、どのように見えているのだろうか?

時崎「七夏ちゃん!」
七夏「はい!?」
時崎「ちょっと、訊いてもいいかな?」
七夏「はい☆」
時崎「この和菓子、何種類ある?」
七夏「えっと、七種類・・・かな?」
時崎「そう・・・七種類・・・か・・・ありがとう」
七夏「???」

俺は、色の事を悟られないように種類で聞いてみたが、今の答えから、七夏ちゃんは、虹以外の色の判別については特に、問題は無い様子で、ここにある七つの色の和菓子は、俺と同じように七つの色として感覚できているようだ。なぜ、虹の色だけは見え方が違うのだろうか・・・。考えても仕方が無いか・・・俺は更に話題を変える。

時崎「七夏ちゃんは、好きな色ってある?」
七夏「えっと、青色・・・かな」
時崎「青色か・・・俺も、空の青とか水色が好きかな」
七夏「くすっ☆」

七夏ちゃんと、共通の好みがあった事が嬉しい。視線を感じ、七夏ちゃんの方を見ると、ばっちりと目が合ったが、なぜか七夏ちゃんは慌てて視線を逸らしてしまった。大きく変化する瞳の色がとても印象的/魅力的に思う。写真には記録できない「ふたつの虹」を、俺はこれからも追いかけたいと思うようになっていた。

第八幕 完

----------

次回予告

虹は、いつも見えている・・・少し角度が変わると、見えなくなるだけで・・・

次回、翠碧色の虹、第九幕

「見えていない虹」

ご期待ください!!!

幕間三:なぜ髪を切ったら失恋扱いになるの?

幕間三:なぜ髪を切ったら失恋扱いになるの?

心桜「つっちゃー。あたしたち『ココナッツ』宛にお便りがきてるよ!」
七夏「わぁ☆ お便りですか? ありがとうございます!」
心桜「早速、読んでみよう!」
七夏「はいっ☆」
心桜「えーっと、『こんにちは。私、思い切って長い髪を切ったら「失恋したの?」って、言われたのですけど、これってどうしてなのでしょうか?』」
心桜「そう言われれば、その理由ってなんだろ?」
七夏「なんでしょう?」
心桜「つっちゃー、それじゃ話が進まないって! あたしは髪が短めだから、失恋しても髪を切る事は考えないかなー・・・坊主になっちゃうし。つっちゃーは、どう? 髪切る?」
七夏「実際に失恋してみないと分からな・・・あ、失恋はしたくないです!」
心桜「つまり、髪を切る事が無いに越した事は無いということ?」
七夏「切る理由によると思います。長い髪を切るというのは、それだけ大きな決断が必要だと思います」
心桜「大きな決断・・・そっか!」
七夏「? ここちゃー、何か分かったの?」
心桜「うん。つまり、大きな決断で自分のイメージを変える・・・という事は、すぐに思いついたんだけど、実際、失恋したからって、すぐに自分のイメージを変えたいと思う?」
七夏「それって、今までの自分を否定する事になりそうで、もっと悲しくなります」
心桜「うん。どうせなら、もっと楽しく自分を変えたいよねー」
七夏「はい☆」
心桜「つまり、失恋して髪を切るという事は、自分のイメージを変えるのではなく、元の自分のイメージに戻る・・・という事なのかなーって、思ってみたの」
七夏「元の自分のイメージ?・・・イメージって?」
心桜「・・・そこですか・・・ここでのイメージとは、容姿/印象!」
七夏「さ、さすがにその意味は分かりますっ!! 私が訊きたいのは、元のイメージに戻る事の意味です」
心桜「あ、ごめん。つい・・・」
七夏「私、英語頑張ります!!」
心桜「ガ、ガンバッテー」
七夏「その、期待していない空応援・・・ホントに頑張りますから!!」
心桜「つっちゃー、人間って得て不得手あるよ。あたしは苦手な事を克服して平均的な人間になるより、その時間を使って長所を伸ばし、より個性的な人間になった方が魅力的に思えていいなーと思ったりして」
七夏「ここちゃー、妙に説得力があって困ります」
心桜「まあ、私ならって事で。よって数学は頑張らないっ!」
七夏「ここちゃー、数学は私も協力しますから、一緒に頑張りま…」
心桜「わぁー大変!! つっちゃー話が脱線してる!!」
七夏「え? あ、元の自分に戻るお話でした・・・すみません」
心桜「微妙にズレてるけど、まあ、いっか」
七夏「それで?」
心桜「うん。あたし、好きな人が出来たみたい」
七夏「え!? えっーーー!!!」
心桜「あ、例えばの話」
七夏「はぅぁ、驚きました」
心桜「その反応、あたしに好きな人が出来る事って、そんなに考えられない?」
七夏「そ、そうじゃなくて、全然気付けなかったから」
心桜「まあ、例えばの話だからね。んで、あたしに好きな人が出来て、その相手の好きな人がつっちゃー…」
七夏「え!? えっーーー!!!」
心桜「つっちゃー、例えばの話だってばっ! あと、話は最後まで聞いてよ」
七夏「うぅ、すみません・・・」
心桜「その相手の好きな人が、つっちゃーみたいな髪の長い人だったとする」
七夏「・・・・・」
心桜「あたしは、好きになった人の好みになろうと、髪を伸ばす事を決意する!」
七夏「自分のイメージを変えるという事?」
心桜「そう! 恋は女の子のイメージを変えてしまう事も多いの。あたしは長い時間をかけて長い髪になった。好きになった人の為に」
七夏「長い髪のここちゃー素敵です☆」
心桜「単に髪を伸ばすって言うけど、短い髪の人からすると、とても大変。まず、髪が重たい、纏まらない、静電気で大変、寝返りで髪引っ張られて夜中に目が覚めたり・・・ってこれは、つっちゃーが言ってた事だよねー、あたしは分かんないや」
七夏「まあ、それなりに大変かな。静電気はリンスを使うと大丈夫です!」
心桜「なるほどねー・・・んで、それだけ苦労して髪を伸ばしたにも関わらず、失恋してしまった」
七夏「・・・・・」
心桜「この長い髪は、好きになった人の為に伸ばしたんだから、失恋してしまったら伸ばしておく意味が無い。好きになった人の為に変えた自分を、元の自分に戻そう! つまり、髪を切ってしまおう!!・・・という事」
七夏「なるほど☆」
心桜「これなら、前向きな考え方だから、少なくとも悲しい想いで髪を切る・・・という事にはならないよね!」
七夏「はいっ☆」
心桜「失恋で十分悲しいのに、更に髪まで悲しい想いで切る事は無いよ」
七夏「私、失恋したとしても、髪は大切にします!」
心桜「うんうん! つっちゃーは元々、長い髪のイメージだからね☆」
七夏「はい☆」
心桜「ん? という事は、逆の場合は、髪を伸ばすの大変だねー。時間かかるよー」
七夏「ですから、髪は大切にします!」
心桜「そうだったね。失恋してお坊さんになりましたーとか、目も当てられないよ」
七夏「それは、流石に・・・あっ、でも、お坊さんになって悟りを開いたりされるとか!?」
心桜「ついに冗談が通じなくなったか・・・」
七夏「わ、私、色々頑張ります!」
心桜「ガ、ガンバッテー」
七夏「だから、数学も頑張りましょうね☆ ここちゃー☆」
心桜「うっ!(成長してるっ!)、ガ、ガンバロ~! アタシィ~」
七夏「まあ、そんな訳で、失恋してしまった場合でも、元の自分のイメージを大切にしたいなーと思う私たち・・・・・(こ、ここちゃー)」
心桜「ハッ! コ、ココナッツでしたっ!」
七夏「でしたー☆・・・はぅぁー」

幕間三 完

------

幕間三をお読みくださり、ありがとうございました!
本編の方も、どうぞよろしくお願い申しあげます!

第九幕:見えていない虹

昨日、凪咲さんに見せてもらった七夏ちゃんのアルバムには、ある時期から七夏ちゃんの笑顔が無くなっていた・・・。無い物は補えばいい。だったら、これから笑顔の写真を沢山撮影すれば良いという事だ。勿論、七夏ちゃんが、その事を望んでいる事が大前提なのは言うまでもない。笑顔という単語で、ある事を思い出す。俺が使っている写真機は顔認識や笑顔認識機能が備わっている。普段あまり人の写真を撮らなかった俺は、この機能を「OFF」にしていたが、人の笑顔を積極的に撮ろうと考えると、この機能を「ON」にしてみるのも良いかも知れない。忘れないうちに写真機の顔認識、笑顔認識機能を「ON」にした。

時崎「よし! これで七夏ちゃんの笑顔、沢山撮影できるかな」

そう言えば、七夏ちゃんは、自分の瞳の色が変わるのが分からないと、話してくれた。そんな事は、鏡を見ればすぐに分かりそうな事だけど・・・。俺は、七夏ちゃんの部屋の前に移動する。

時崎「七夏ちゃん居るかな?」

俺は、七夏ちゃんの部屋の扉をノックした。しかし、返事が返ってこない。

時崎「居ないかな・・・」
七夏「柚樹さん!? どおしたのですか?」
時崎「あ、七夏ちゃん。今、部屋に居るかなと思って」
七夏「すみません。一階に居ました。何か御用ですか!?」
時崎「ちょっとお話ししたいなって」
七夏「わぁ☆ ありがとうございます!」
時崎「いいの?」
七夏「はい☆ それでは、私のお部屋へ・・・どうぞ♪」

そう言うと、七夏ちゃんは、お部屋の扉を開けてくれた。

時崎「ありがとう」
七夏「あ、ごめんなさい。さっきまでの宿題が・・・」

俺に「どうぞ」と言ってくれた七夏ちゃんは、少し慌てた様子で俺より先に部屋に入って、机の上の教科書やノートを片付けはじめた。

時崎「気にしなくていいよ。午前中に宿題とは・・・真面目だなー」
七夏「午後になると暑くなりますから・・・頭も、ぼーっとしてきちゃって・・・」
時崎「なるほど。でも、夜も涼しくなると思うけど」
七夏「夜は疲れたり、眠たくなったりしますから・・・」

七夏ちゃんが、午前中に宿題を行うのは、理にかなっていると思った。

時崎「七夏ちゃんは偉いね。午前中に宿題を済ませて、民宿のお手伝いもして。俺なんて、宿題は夏休みの後半に追い込まれないと手を付けなかったし、家の手伝いも殆ど行ったことないよ」

七夏「じゃあ、これから沢山お手伝いしてあげると、良いと思います☆」
時崎「そう考えられるのが、俺と根本的に違うところか・・・」
七夏「私、変わってるのかなぁ・・・」

七夏ちゃんはそう呟いた。確かに七夏ちゃんは少し変わっている。けど、それは良い意味なので、気にする事はないと思う。

時崎「七夏ちゃんは変わっていないよ。変わっているとしたら、それは、とても魅力的な方向だから・・・俺はそんな七夏ちゃんが羨ましいよ」
七夏「羨ましい・・・」

そう呟いた七夏ちゃんは、少し複雑な表情になってしまった。

時崎「ん? 俺、何か、気に障る事を言ったなら謝るよ」
七夏「いえ、その『羨ましい』って言う言葉。私にはちょっと重たくて・・・」
時崎「ごめん。気をつけるよ。良かったら理由を聞かせてくれるかな?」
七夏「えっと、私、目が羨ましいって、言われる事があって・・・」

七夏ちゃんの瞳が羨ましい・・・そりゃ、多くの人がそう思っても不思議ではないだろう。かく言う俺も、七夏ちゃんの瞳に魅せられているのは確かだ。

七夏「私、自分の目の事は良く分かっていなくて・・・」
時崎「分かっていない?」
七夏「はい。みんなは、私の目の色が変わるって言うのですけど、私には・・・」

その続きは俺にも分かる。それは前に七夏ちゃんが話してくれた事。自分の目の色が変わる事を、自分では確認できないという事らしい。鏡を見れば、すぐに分かりそうだが、そんな事は、既に実行しているだろう。第一、お洒落な女の子が、鏡で自分の姿を見ないなんて、考えにくい。

時崎「七夏ちゃんは、自分の目の色は、いつも翠碧色に見えているんだよね」
七夏「翠碧色・・・あ、柚樹さんが撮ってくれた私の写真の色?」
時崎「そう、その色が翠碧色」
七夏「はい・・・。私、自分で鏡を見ても、目の色が変わるようには、見えないです」

やっぱり、既に鏡で確認しようとしていたみたいだ。ん? そう言えば七夏ちゃんと目が合うと瞳の色は翠碧色・・・という事は、七夏ちゃん自身が鏡で自分の目を見ても、その時の瞳の色は、当然翠碧色になっているのでは? 七夏ちゃん自身が鏡から視線を逸らしつつ瞳を見る方法・・・三面鏡だ!

時崎「七夏ちゃん!」
七夏「は、はいっ!」
時崎「三面鏡ってある?」
七夏「三面鏡・・・えっと、一階の和室にあります」
時崎「ちょっと借りてもいいかな?」
七夏「はい。では、案内しますね」

俺は、七夏ちゃんに案内され、一階の和室へ向かう。

凪咲「あら、七夏、柚樹君。どおしたのかしら?」
七夏「お母さん。三面鏡借りてもいい?」
凪咲「いいわよ」
時崎「凪咲さん、ありがとうございます」
凪咲「はい。どうぞ」

七夏ちゃんと三面鏡の前まで来た。

七夏「柚樹さん?」

七夏ちゃんが、どうすればいいのか分からず、視線を送ってきた。

時崎「七夏ちゃん、三面鏡の前に座って」
七夏「はい」

七夏ちゃんを三面鏡の前に座らせて、三面鏡の左右の鏡扉を開ける。

七夏「・・・・・」

俺は、三面鏡の左右の鏡扉の角度を変え、七夏ちゃんの瞳の色が変わる角度を探す。鏡扉に瞳の色が変わっている七夏ちゃんが映し出される。

時崎「七夏ちゃん、あっちに映ってるっ!」
七夏「えっ?」

七夏ちゃんはその方向を見てしまう・・・すると、せっかく色が変わっていた瞳が翠碧色になってしまった」

七夏「えっと・・・」
時崎「七夏ちゃん、そのまま正面見てて」
七夏「はい」

俺は、もう一度、鏡扉の角度を変え、瞳の色が変わった所で、

時崎「七夏ちゃん、ほらっ!」
七夏「え!?」
時崎「この方向・・・」
七夏「え? どこですか?」
時崎「ここ・・・」

俺は七夏ちゃんの目線に近くなるように、自分の目線を近づける。

七夏「柚樹さん?」
時崎「ん? おわぁっ!!」
七夏「ひゃっ!!」

此方に振り返った七夏ちゃんの顔が、俺の目の前にあって、かなり驚いた。もうひとつ驚いたのは、間近で見た七夏ちゃんの瞳の色が、左右で異なっていた事だ。この理由は分かる。見る角度によって色が変わる「ふたつの虹」に近づけば、視点に対し、ふたつの目の注視点の間隔は広くなる。「オッドアイ」のように見えたふたつの虹・・・これは、今までは「見えていない虹」であった。

時崎「ごめんっ!」
七夏「いえ、私こそ、びっくりしちゃって」
凪咲「七夏!? どうしたの?」

今の大きな声で、凪咲さんが声をかけてきた。

七夏「な、なんでもないですっ! 柚樹さん、ごめんなさい。また後でっ!」

そう言うと、七夏ちゃんは慌てて自分のお部屋に戻ってしまった。後で謝っておかないと。

時崎「凪咲さん。三面鏡、ありがとうございました」
凪咲「はい」
時崎「ちょっと、七夏ちゃんに謝ってきます」
凪咲「大丈夫じゃないかしら? 七夏、恥ずかしがっているだけみたいだから」
時崎「え? そうなのですか?」
凪咲「七夏、『また後で』って、言ってたから」

そう言えば、ちょっと焦ってて気が付かなかったが、確かに「また後で」と言われた気がする。

時崎「ありがとうございます」
凪咲「柚樹君。和菓子があるから、どうぞ。後で七夏にも渡してくれるかしら?」
時崎「はい。ありがとうございます」

結局、七夏ちゃん自身は、瞳の色が変わる事・・・「ふたつの虹」は「見えていない虹」となっている。俺は、七夏ちゃんに本当の瞳の色を伝えてあげたいと思い、なんとかその方法がないか考える事にした。

☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆

しばらく考えてはみたが、瞳の色が変わる原理は分かっても、それが何故、七夏ちゃんには分からないのか、わからない・・・。

「カラン」と、音がした・・・凪咲さんから貰った緑茶の氷が解けてゆく・・・。
凪咲さんに、七夏ちゃんの分の緑茶を貰い、和菓子を持って、七夏ちゃんのお部屋に向かう。七夏ちゃん・・・落ち着いたかな・・・軽くドアをノックする。

七夏「はーい☆」
時崎「七夏ちゃん!」
七夏「あっ、ちょっと待ってください」

すぐに扉がそっと開いた。

時崎「七夏ちゃん、さっきはごめん」
七夏「いえ、柚樹さんの顔がとても近かったから、ちょっと恥ずかしくなって・・・」
時崎「これ、凪咲さんから」

俺は、和菓子と緑茶を乗せたお盆を七夏ちゃんに渡す。

七夏「ありがとうございます。あれ? 柚樹さんの分は?」
時崎「ああ、俺はさっき頂いたから。これは七夏ちゃんの分」
七夏「私のお部屋で、ご一緒できれば良かったのに・・・あ、私がお部屋に駆け込まなければ良かったんですよね」

今の言葉で、凪咲さんの言ったとおりであった事に、ほっとした。

七夏「柚樹さん。どうぞ♪」

七夏ちゃんは、お部屋に案内してくれた。けど、七夏ちゃんは、しばらく一人の方が良いだろうと思った。それに、俺が七夏ちゃんの部屋に居ると、七夏ちゃんの性格からして自分の分しかない和菓子は食べないだろう。

時崎「ありがとう、七夏ちゃん。ちょっと調べたい事があるから、俺は部屋に戻るよ」
七夏「・・・はい。それじゃ、また・・・」
時崎「ああ」

七夏ちゃんは、自分の目の色が変わる様子を、自分でも確認したいと思っているという事が分かった。もし、それを望んでいないのなら、これ以上、踏み込む事は、七夏ちゃんを悲しませてしまう事になりかねない。三面鏡では七夏ちゃん自身は確認できなかったようだが、俺は七夏ちゃんに、七色に変化する瞳が確認できる別の方法が無いかを探す事にした。三面鏡は、七夏ちゃんに同じ思いをさせてしまう事になるだけだから・・・。

時崎「そうだ、笑顔!!」

三面鏡の件に気を取られてしまったが、七夏ちゃんの笑顔を撮影する事の方が今は大切だと思う。今回俺が行ってしまった事は、一歩間違えれば七夏ちゃんを悲しませてしまう事になりかねない・・・。七夏ちゃんの笑顔を撮ろうと考えていたはずなのに、真逆の事をしてどおするんだ!? 今は、瞳の色の事とかは忘れて、七夏ちゃんが喜ぶ事を最優先に考え、俺の撮った写真に戻ってきた七夏ちゃんの笑顔の灯火を、守ってゆかなければならないと思うのだった。

第九幕 完

----------

次回予告

過去に戻りたい・・・そう考えるよりも『これから過去になる今』を、考えるべきである・・・

次回、翠碧色の虹、第十幕

「虹へ未来の贈り物」

ご期待ください!!

幕間四:恋のトライアングル(三角関係)

幕間四:恋のトライアングル(三角関係)

心桜「つっちゃー」
七夏「なぁに? ここちゃー」
心桜「何読んでんの?」
七夏「あ、えっと『トライアングル・トライ』です♪」
心桜「おぉー! トラトラかぁー。しかも、つっちゃーから滑らかな英単語が出てきたよ!」
七夏「もぅ・・・英語も頑張ります!」
心桜「あははー。ゴメンッ!」
七夏「トラトラの主人公さん・・・恋の行方が気になります!」
心桜「んー・・・でもさ、トラトラって、いわゆる三角関係物でしょ。だから、正確に言うと『トラトラトラ』になるんじゃないのかなー」
七夏「え?」
心桜「トラトラトラァー!!!『皇国ノ興廃、コノ一戦ニ在リ』ってヤツですか!?」
七夏「何のお話です?」
心桜「ん?『海これ』」
七夏「かいこれ?」
心桜「そう! 海これ・・・海軍これくしょん」
七夏「はぅぁー・・・ここちゃーから『皇国』なんて言葉が出てきたから、またお爺ちゃんの影響かと思いました」
心桜「そう! 真珠湾を押さえし者が、この戦いを制するって・・・」
七夏「何のお話です???」
心桜「まっ、それはともかくとして、トラトラの話!」
七夏「えっと、恋の行方が気になるお話!?」
心桜「そ。トラトラは、主人公の女の子とライバルの女の子が、一人の男の子を奪い合う三角関係物なんだけど」
七夏「う、奪い合うって・・・」
心桜「実際、そうだよ。んで、あたしが思うに、この二人の女の子って見た目も性格も結構違うでしょ・・・と言うよりも、ほぼ真逆だよね」
七夏「そうですね。お互いに、自分には無い相手の魅力に、いつも悩まされています・・・その気持ち、分かります!」
心桜「主人公の女の子はロングヘアで控えめ、ライバルの女の子はショートヘアで積極的・・・んー、どこかで見たような・・・って言うか、つっちゃーと、あたし?」
七夏「え!?」
心桜「さて、ここで問題の男の子・・・二人の女の子の魅力に惑わされている訳だけど、この形式の三角関係の場合、一発で男の子の好みが分かる方法があるよ」
七夏「え? ええ!?」
心桜「知りたい??」
七夏「はい☆ とても気になります!」
笹夜「私も気になります!!」
心桜「うわぁ!!!」
七夏「あ、笹夜先輩! こんにちわです☆」
笹夜「はい☆ こんにちは。七夏ちゃん♪ 心桜さん♪」
心桜「さ、笹夜先輩!!! まさかの『本編より先に、こっちに登場』ですかっ!」
笹夜「? 本編? こっち? 何のお話かしら?」
心桜「あ、いや・・・そ、そのうち分かるかなー・・・なんて。・・・あー焦った・・・焦って挨拶忘れてたよ・・・笹夜先輩! こんちわっ!」
笹夜「はい☆ こんにちは♪ 心桜さん♪」
七夏「ここちゃー」
心桜「ん? なーに? つっちゃー」
七夏「えっと・・・さっきのお話・・・」
心桜「ん?」
七夏「トラトラの・・・」
心桜「あっ! 笹夜先輩の不意打ちで忘れかけてたよ・・・笹夜先輩、全然気配が分からなかったんですけど、なんかステルスパーツとか付けてたり?」
七夏「こ、ここちゃー!! 笹夜先輩、すみませんっ!」
笹夜「いえいえ。お二人のお話が気になって・・・私の方こそ、お話に割り込んでしまって、すみません」
心桜「ところで、つっちゃー」
七夏「はい!?」
心桜「あたしが言ったステルスパーツって、意味分かんの?」
七夏「え・・・えっと、分からないですけど・・・なんとなく笹夜先輩に謝らなきゃって」
心桜「そういう感覚って、英語よりも大切かもねー。ある意味才能だよ」
七夏「もう・・・」
笹夜「心桜さん!!」
心桜「は、はいっ!」
笹夜「その・・・トラトラの・・・」
心桜「わぁービックリした・・・てっきり注意されるのかと・・・」
七夏「ここちゃー。自覚あるのなら、ちょっとは・・・」
心桜「あははー」
笹夜「まあ、心桜さんは自覚あるの、私も分かってますから」
心桜「笹夜先輩には敵わないなぁー」
七夏「だって先輩ですから♪」
心桜「つっちゃー『だって』の意味が分かんない」
笹夜「まあまあ、お二人とも・・・それで、その方法とは!?」
心桜「その方法とは・・・」
七夏「・・・・・」
笹夜「・・・・・」
心桜「CMの後でっ! ・・・って言ったら怒る?」
七夏「こ、ここちゃー!!!」
心桜「つっちゃー、CMの意味は!?」
七夏「えっと、コマーシャルです!!」
心桜「おぉー、つっちゃー正解!!!」
七夏「そのくらいは・・・分かります☆」
笹夜「七夏ちゃん、CMはコマーシャルではなくて、コマーシャル・メッセージの略です」
七夏「え? そうなのですか?」
心桜「あらら・・・つっちゃー残念!!!」
笹夜「心桜さんも・・・です」
心桜「う・・・。CMってコ・マーシャルじゃ無かったんだ」
笹夜「その『コ』って何かしら?」
心桜「え? コ・ドライバーみたいな?」
笹夜「???」
心桜「つまり、自動車の運転手の横に居て、地図を見て運転手に道案内をする人で、確かコ・ドライバーの『コ』って『尊敬する』って意味合いがあったような・・・」
笹夜「そうなの・・・ですか?」
心桜「まあ、いいや。それにしても、そこを突っ込めるあたり、流石! 笹夜先輩!!」
七夏「私、もっと英語頑張ります!!」
笹夜「そう言えば、テレビ放送を見ていて、『続きはCMの後で』って言われると、何故だか、どおして、とても、たいへん、この上なく、極めて、非常に、がっかりしますよねー」
心桜「うぅ、すみません・・・」
笹夜「わ、私はテレビ放送のお話で、心桜さんの事ではなくって・・・」
心桜「いやいやいや。このままだと、つっちゃーや笹夜先輩は許してくれても、第三者様は無理でしょ!」
七夏「ここちゃー、その手の動き・・・」
心桜「今でし・・・じゃなくて、無理でしょジェスチャー!!!」
七夏「はぅぁ・・・」
心桜「さて、ここで、トラトラの話に戻して、その方法とは---」
七夏「・・・・・」
笹夜「・・・・・」
心桜「二人の女の子の心・・・つまり人格が入れ替わる事!!」
七夏「え!?」
笹夜「まあ! トラトラって、この先そのような展開になるのですか!?」
心桜「あ、いやいや。笹夜先輩、そういう事じゃなくて」
笹夜「え・・・あ、すみません」
心桜「つまりさ。人の好みって単純に考えると半分は外見で、半分は性格って事になるでしょ?」
七夏「そうなの?」
心桜「単純に考えると・・・なんだけどね。実際、初対面での好みは、外見100%から始まって、徐々に性格の方に%が割り振られて行く事になるよね」
笹夜「なるほど・・・分かります!」
心桜「トラトラの男の子が、二人の女の子の間で揺れているという事は、外見はライバルの女の子の方が好みで、性格は主人公の女の子の方が好みって事が考えられない? あ、逆の可能性もあるかな・・・」
七夏「それで二人の女の子の心が入れ替わると?」
心桜「外見と性格が100%好みの女の子と、0%好みの女の子が誕生する!!!」
笹夜「ぜ、0%好みの女の子って・・・」
心桜「はっきり言えば『タイプじゃない』」
七夏「こ、ここちゃー」
心桜「あ、でも『0%好み』は恋の対象にならないだけで『嫌い』とはまた違うからね」
笹夜「では『100%好みじゃない』という言い方も、できますよね」
心桜「笹夜先輩。それ、ツンデレ」
七夏「え?」
心桜「『勘違いしてよね! あんたの事なんて、100%好みじゃないんだからねっ!』」
笹夜「言い回しにとても歪みを覚えます」
心桜「まさに、次世代のツンデレだねー」
七夏「そうなの?」
心桜「まあ、ツンデレは置いといて、トラトラの結論としては100%好みになった方と恋が実るって事」
笹夜「そうですけど、トラトラは女の子の人格や心が入れ替わるお話ではないのですよね?」
心桜「んー、今の所は・・・」
七夏「今の所って・・・入れ替わってほしくないです・・・」
心桜「先の事は分からないよー」
七夏「それは否定できませんけど・・・」
心桜「でもさ、今あたしが話した性格が入れ替わるお話・・・これ、結構重要な要素なんだよ」
七夏「え!? どういうことなの?」
笹夜「見た目や性格は演じる事が出来る・・・かしら?」
心桜「さすが! 笹夜先輩!! つまり、ライバルの女の子にしかない要素を自分に加えてみて、男の子の反応を見ると、答えが見つかる・・・かもね!」
七夏「でもそれって、失敗したら0%に近づく可能性も・・・」
笹夜「七夏ちゃん」
七夏「はい!?」
笹夜「相手の男の子の事が本当に好きなら、その好みは分かるはず・・・いえ、分かってあげなくては、恋人にはなれないです」
七夏「そ、そうですよね・・・私・・・」
心桜「だからさ、つっちゃー。案外、諸刃の剣ではないって事だよ」
七夏「よかった・・・」
心桜「だけどさー、ひとつ大きな問題があるんだよねー」
笹夜「問題・・・ですか!?」
心桜「その問題とは・・・またしても、ここでCMで~す!!!」
七夏「はい☆ ちょっとお話が長くなりましたので、少し休憩です☆」
心桜「あ、あら~食いつかれなかった・・・ちょっと予想外~」
七夏「私、お茶煎れて、まいりますね」
笹夜「ありがと。七夏ちゃん☆」
心桜「ありがとー。つっちゃー」
笹夜「七夏ちゃんも流石な所、ありますよね」
心桜「つっちゃーの場合、天然な時もあるから、正直分かんないよ」

 ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆

七夏「お待たせです☆ はい、どうぞ♪」
心桜「ありがとー。つっちゃー」
笹夜「ありがと。七夏ちゃん♪」
心桜「さて、その問題とは、見た目も性格も100%好みの女の子が、新たに登場する事!これで、完全に持ってかれるねー」
七夏「・・・・・」
笹夜「・・・・・」
心桜「あ、あれ!?」
七夏「私、神様はそんな問題を起こさないと思います!」
笹夜「七夏ちゃんと同じく・・・」
心桜「えー!? なんで? じゃあさ、その神様とやらにとって、三角関係は問題じゃないの? 想定内って事!?」
笹夜「なぜって・・・それではトラトラ(三角関係)にならないです」
七夏「トラトラの世界・・・三角関係の神様が見守るお話だから」
心桜「んー、そういうことか。ま、そうやってトラトラ星人の一生は、トラトラ神のきまぐれとやらに弄ばれて、終わって行くのかぁー」
七夏「せ、星人・・・って」
笹夜「い、一生・・・って」
心桜「あ、三角関係に限って言えば、決着が付いたら、トラトラ神とやらは別の所で三角関係を発生させる訳か・・・」
($)
七夏「ど、どんな訳です?」
心桜「たわけっ!!!」
笹夜「ま、まさか、それが言いたかっただけで、こんな長い仕込を・・・」
心桜「そんな訳ないです!!」
D.S.($に戻る)
心桜「・・・って、永久ループに入りかけたよ・・・」
七夏「ここちゃー、大丈夫?」
心桜「ま、トラトラに限らず、三角関係に関しては、他にも物申したい事があるんだ」
笹夜「どんな事かしら?」
心桜「んー、三角関係って『恋のトライアングル』って言うけど・・・」
七夏「とらいあんぐる・・・」
笹夜「打楽器ですね♪」
心桜「トライアングルってさぁ・・・一箇所だけ切れ目あるよね!?」
七夏「切れ目・・・」
笹夜「はい。ありますね」
心桜「って事はさ、切れ目に居る人が振られるって事にならない!?」
七夏「もし、その切れ目に、恋の対象の男の子が居たら?」
心桜「いつまでも優柔不断な男の子に愛想を尽かして、女の子二人とも去って行くという、どんでん返し!!!」
笹夜「まあ!!!」
心桜「・・・って事で、登場人物の人気は確保されて、めでたし、めでたしぃ~」
七夏「そんな・・・」
笹夜「トラトラじゃないような・・・」
心桜「まっ、普通に考えれば、どっちかの女の子に、切れ目フラグが立ってるんだけど、それを覆せるかどうか・・・」
笹夜「心桜さん!」
心桜「なんですか? 笹夜先輩?」
笹夜「トライアングルって、切れ目があるから、綺麗な響きが得られるのです♪」
心桜「!!!!!」
七夏「!!!!!」
心桜「・・・って事は!!! 切れ目フラグはもしかして!?」
笹夜「まだ、諦めてはダメ・・・という事ですね☆」
心桜「そうかー・・・そうだよねっ! すっきりしたよ!」
七夏「笹夜先輩! さすがです!」
心桜「笹夜先輩! ありがとー!」
笹夜「いえいえ、こちらこそ。楽しかったです♪」
心桜「トラトラの女の子も応援するよ!」
七夏「ここちゃー、お疲れ様です☆」
心桜「笹夜先輩って鋭いから、緊張したぁ~」
笹夜「す、すみません」
心桜「いえいえ。今後の為にも、鋭い突込み耐性を上げておきます!!」
七夏「ここちゃーは、今でも耐性あると思います☆」
心桜「つっちゃー、それ褒め貶し?」
七夏「え!?」
心桜「・・・な、訳ないか。という訳で、私たちの三角関係(?)は、これからも続きますので、応援よろしくねっ!!」
笹夜「私、応援いたします!」
心桜「ありがとー。笹夜先輩!」
七夏「お便りも待ってますね♪」
心桜「ではでは、今回は私たち『ココナッツ』と・・・」
七夏「素敵な笹夜先輩で、お届けいたしました☆」

幕間四 完

------

幕間四をお読みくださり、ありがとうございました!
本編の方も、どうぞよろしくお願い申しあげます!

第十幕:虹へ未来の贈り物

自分の部屋で少し考え事をしているのだが、どうも落ち着かない・・・俺は、気分転換に居間へと移動する。テレビでも見ようかと思い・・・PSとソフトに目が留まる・・・昨日も確認したが、やはりソフトのラインナップが結構マニアックだ・・・七夏ちゃんの趣味とは思えない・・・ましてや、凪咲さんの趣味・・・とは、もっと思えない・・・という事は!?

??「ただいま」

玄関から声がした。

凪咲「あら、あなた!? お帰りなさい」

台所から、凪咲さんが顔を見せる。居間に居た俺も慌てて挨拶を・・・。

時崎「あ、えっと・・・」
??「いらっしゃいませ。水風直弥と申します」
時崎「あ、と、時崎柚樹と申します」
直弥「ごゆっくりどうぞ」
時崎「あ、ありがとうございます」

声が聞こえたのか、二階に居た七夏ちゃんも、姿を見せた。

七夏「あれ? お父さん!? お帰りなさいです☆」
直弥「ただいま。七夏」

「水風」という名前から、すぐに民宿風水のご主人、つまり、七夏ちゃんのお父さんだという事は分かった。というよりも、七夏ちゃんが「お父さん」って話している。突然の七夏ちゃんのお父さんの登場に、俺は少し動揺している。

凪咲「あなた? 来月になるまで、研修で帰ってこれないって話してたけど・・・」
直弥「ちょっと臨時が入って、こっちまで戻ってきただけで、またすぐ出発しないと」
凪咲「まあ、今日くらいは、ゆっくりできないのかしら?」
直弥「すまない。今日の夕方からまた出発なんだよ」
凪咲「そう・・・なの・・・」
直弥「まあ、来週には予定通り、戻ってこれるから」
凪咲「はい! あ、すみません。今、お茶を煎れますね」
直弥「ありがとう、凪咲。ちょっと荷物置いてくるよ」
凪咲「はい」

凪咲さんは台所へ、七夏ちゃんのお父さん・・・直哉さんは、自分の部屋に向かったのだろうか・・・。七夏ちゃんと二人きりになる。

時崎「七夏ちゃん」
七夏「はい!?」
時崎「臨時とか出発って、七夏ちゃんのお父さんって、何のお仕事なの?」
七夏「えっと、車掌さん・・・です☆」
時崎「車掌さん・・・」
七夏「列車の一番後ろに居る人です」
時崎「なるほど」
七夏「今は、何かの研修みたいですけど、長距離列車の時や、遠くの駅でのお仕事の場合、しばらく家には戻って来れない事があって・・・」
時崎「出張・・・みたいな感じかな?」
七夏「はい☆ そう・・・ですね。」
時崎「そうか・・・ふぅー・・・」

俺は、何か力が抜けたかのように、ぐったりと床に座り込んだ・・・。

七夏「ゆ、柚樹さん!? ど、どおしたのですか!?」

氷が解けた・・・。俺は、今まで七夏ちゃんのお父さんを見かけなかったし、七夏ちゃんや凪咲さんも、お父さんの話をしなかったので、もしかしたら・・・という思いがあって、なかなかその事・・・七夏ちゃんのお父さんの事を、切り出せなかったのだ。

時崎「いや、なんでもない」
七夏「???」

・・・と、そこへ、七夏ちゃんのお父さんが、何か手にして、こちらに来た。

直弥「七夏・・・これ・・・」
七夏「なぁに?」
直弥「少し遅くなったけど、お誕生日、おめでとう!」
七夏「わぁ☆ ありがとう!!」

今日は、七夏ちゃんの誕生日!? ・・・いや、少し遅くなったという事は、数日前か・・・。知らなかったとはいえ、ちょっと悔しい気持ちになっている自分に気付く・・・。

直弥「開けてごらん」
七夏「はい!」

七夏ちゃんは、高くなっている感情とは逆に丁寧に包みを開ける。俺も、自分のプレゼントではないのに、その中身に意識と視線が吸い込まれる。

七夏「こ、これはっ!!」
時崎「おぉー!!」

それは「MyPad Little」というタブレット端末。七夏ちゃんくらいの年の子にしては、とても高価なプレゼントだった。

七夏「お、お父さん! いいの?」
直弥「ああ、七夏。前からほしがっていただろ?」
七夏「ありがとうです!!!」
時崎「七夏ちゃん! 良かったね!」
七夏「はい!!!」

・・・と、そこへ凪咲さんも現れる。

七夏「あ、お母さん!! お父さんがこれ!!」

その一言だけ聞くと、何の事か分からないが、七夏ちゃんが、それだけ喜んでいるという事が伝わってくる。

凪咲「まあ、良かったわね! 七夏!」
七夏「はい!!」

「MyPad Little」を嬉しそうに眺めている七夏ちゃんに気付かれないように、凪咲さんが、お父さんに小声で何か話しているようだ。

凪咲「(ちょっと、あなた・・・あれ、高かったのではないの?)」
直弥「(まあ、それなりに高価な商品だけど・・・)」
凪咲「(もうー・・・)」
直弥「(実は、携帯電話のポイントが知らない間に結構増えてて、そのポイントに少し足しただけで、買えたんだよ)」
凪咲「(まあ! そうだったの!?)」
直弥「(ポイントの有効期限も迫ってたみたいだし、ちょうど良かったんだ・・・おっと、この事は、七夏には内緒で頼むよ)」
凪咲「(はい!!)」

俺は、七夏ちゃんのご両親の話がなんとなく聞こえてきたが、聞かなかった事にする。それより、俺も、七夏ちゃんに何かプレゼントをしてあげたいと思った。

時崎「七夏ちゃん!!」
七夏「はい!?」
時崎「俺も、七夏ちゃんに何かプレゼントするよ!」
七夏「柚樹さんからは、お誕生日にプレゼント、貰ってます☆」
時崎「え!?」
七夏「えっと、セブンリーフの写真立て・・・」
時崎「あっ、あの時の・・・」

俺は思い出す・・・七夏ちゃんと再会できたあの日、七夏ちゃんが写真屋さんへと案内してくれて、その時、七夏ちゃんが見つけたセブンリーフの写真立て・・・。

時崎「あの日、七夏ちゃんお誕生日だったんだ・・・話してくれれば良かったのに・・・」
七夏「そんな・・・ほぼ初対面のお客様に『今日お誕生日です』なんて言えません・・・」

確かに、七夏ちゃんの言うとおりだ。「今日、お誕生日です」なんて言うと、プレゼントを催促する事になる。七夏ちゃんの性格から、それは考えられない・・・と納得した。

七夏「あの時、柚樹さんが写真立てをプレゼントしてくれて、とっても嬉しかったです!」
時崎「まあ、結果的に・・・なんだけど、七夏ちゃんのお誕生日にプレゼントできていたみたいで、良かったよ・・・過去へのプレゼントみたいで、ちょっとくやしいけど」
七夏「くすっ☆ 今は過去でも、お誕生日の時は未来です!」
時崎「そうか・・・。そうだ、七夏ちゃん!」
七夏「はい!?」
時崎「その『MyPad』に七夏ちゃんの写真を送るよ」
七夏「わぁ☆ ありがとうです!」
時崎「それから、その『MyPad』用のカバーも見に行かない?」
七夏「え!? いいのですか?」
時崎「勿論! 七夏ちゃんさえ都合がよければ」
七夏「はい! ありがとうございます!」

直弥「(凪咲)」
凪咲「(はい?)」
直弥「(七夏は、あのお客様とよく話しているみたいだが)」
凪咲「(そうね。気になるの?)」
直弥「(ま、まあ・・・一応・・・)」
凪咲「(七夏が、あなた以外の男の人に懐いているのは、私も見た事ないから)」
直弥「(時崎君だったかな・・・また、話す機会があるかも知れないな・・・)」
凪咲「(七夏にとっては、もう普通のお客様じゃないかも知れないわね。心配?)」
直弥「(心配というよりも、俺は、七夏の直感を信じるよ)」
凪咲「(それは、私も同じ・・・かしら?)」
直弥「(凪咲の直感には感謝してるからね)」
凪咲「(あら、昔の事を思い出すわ・・・)」

七夏ちゃんの「MyPad Little」は「WiFiモデル」で記憶容量も最小限のようだが、それでも最新モデルの為、俺の「MyPad」に迫るスペックだ。電化製品の進歩の凄さを、改めて実感する。

七夏「柚樹さん?」
時崎「どおしたの?」
七夏「説明書がありません・・・」
時崎「あー、説明書か」

そう、この製品にはいわゆる分厚い「取扱説明書」は無い。実際に操作しながら覚えろという事だ。これは、俺がMyPadを手にした時、同じような事を思ったりした。小説を読む事が好きな七夏ちゃんは、最初にしっかり説明書を読むタイプなのだろうか・・・。

七夏「説明書ってないのですか?」
時崎「MyPadは実際に操作しながら直感的に覚える人が多いみたいだよ。俺もそうだったし・・・でも、最初は戸惑ったな」
七夏「そうなのですね・・・」
時崎「あ、不安だったら、使い方を解説した本も沢山あるはずだから、それも見てみる?」
七夏「はい! 色々ありがとうです!」
時崎「操作方法とか分からなかったら、いつでも訊いてくれていいから」
七夏「はい! 頼りにしてます!」

七夏ちゃんのお誕生日は、7月23日という事が分かった。という事は、七夏ちゃんと初めて出逢った日は7月21日・・・終業式の日だろうか。そう考えると、次の日、学校やバス停で七夏ちゃんを見つけられなかった理由も納得できる。当時、何故その事に気付かなかったのだろう・・・。これからは、もっと、色々な事に神経を使うべきだと思った。

俺は、七夏ちゃんの「MyPad Little」の初期設定を行ってあげる。七夏ちゃんは目を輝かせながら、その様子を見ている。とりあえず、動くようになったが、通信関係の設定が出来ていない・・・これでは、タブレット端末としての魅力が半減してしまう。「WiFiモデル」の為、通信関係は、ネットワーク機器が必要になる。とりあえず、俺の持っている通信機器と接続し、オンラインの世界に繋いでおく。

時崎「これでいいかな・・・。はい! 七夏ちゃん!」
七夏「ありがとうです♪ 柚樹さんって、電気屋さんみたいです☆」
時崎「え!?」
七夏「だって、テレビゲームも直してくれました♪」
時崎「あー、PSの事か!」
七夏「はい☆」
時崎「まあ、それなりに知っているくらいだけど、七夏ちゃんのお役に立ててよかったよ」
七夏「くすっ☆ 頼りになります」
時崎「七夏ちゃんは、小説読むの、好きなんだよね?」
七夏「はい☆」
時崎「この『MyPad Little』で気軽に電子小説が読めるから」
七夏「わぁ☆ 楽しみです!」
時崎「まだ、色々と設定する事は残っているけど、少しずつ説明して覚えてもらう方がいいかな」
七夏「はい☆ お世話になります!」

俺は、七夏ちゃんに「MyPad Little」の基本的な使い方を説明した。電子小説の所で、七夏ちゃんが夢中になってしまったので、説明を終える頃には、結構な時間が経過していた。

 ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆

直弥「それじゃ、凪咲、七夏」
凪咲「はい。お気をつけて、行ってらっしゃいませ」
七夏「お父さん、次はいつ戻ってこれるの?」
直弥「来週の中頃の予定かな・・・それじゃ!」
七夏「はい☆」
直弥「時崎くん・・・ごゆっくりどうぞ!」
時崎「は、はい!! お気をつけて!」

七夏ちゃんのお父さんを三人で見送る・・・。半日ほどの事だったが、妙に疲れた感がする・・・。俺はひとまず居間で一息つく・・・そこで、目に付いたのはPSとソフト。・・・なるほど・・・この電車のソフトとかは、七夏ちゃんのお父さんの趣味か・・・と、勝手に納得した。少しずつではあるが、七夏ちゃんの家庭の色が見えてくるのを嬉しく思ってしまうのは、あつかましい事なのかも知れない。でも、民宿風水には、不思議な魅力があって、今まで形式的に過ごしていた宿泊施設とは明らかに違う。民宿っていいなと、改めて実感するのだった。

第十幕 完

----------

次回予告

太陽から生まれる虹は、とても暖かな光に見える。自然な虹の存在は、自然な光・・・太陽があってこそだと思う。

次回、翠碧色の虹、第十一幕

「ふたつの虹と太陽と」

俺は、自然な光源に照らされて、再び輝く虹の光をしっかりと受け留めたい・・・。自然な虹を知るには、太陽を知る必要がありそうだ。

幕間五:横着しないで!

幕間五:横着しないで!

心桜「つっちゃー、今日もお便りが届いたよ!」
七夏「わぁ☆ お便りありがとうです♪」
心桜「今回は、つっちゃーが読んでみなよ!」
七夏「え!?」
心桜「だって、今まであたしが読んでるから」
七夏「はい☆ では読んでみますね♪」
心桜「うんうんっ!」
七夏「えっと『ココナッツさん、こんにちは。私には娘がいるのですけど、少し横着・・・お行儀の悪い所があって・・・つい最近も扇風機のスイッチを足で押して電源を入れたりしてたから注意したんですけど、上手くそういう事をやめさせる方法って無いでしょうか?』・・・足で扇風機さんのスイッチ・・・どおしてそうなってしまったのかな・・・ね? ここちゃーはどう思います?」
心桜「・・・・・」
七夏「? こ、ここちゃー?」
心桜「え? えっと、あははー」
七夏「こ、ここちゃー、まさか!?」
心桜「うぅー、今回はあたし、何も言えないよ・・・」
七夏「こ、ここちゃーも・・・なのですか!?」
心桜「だって、扇風機の電源スイッチの位置を考えると、絶対足にならない!?」
七夏「な、なりませんっ!」
心桜「ホントに?」
七夏「ちゃんと、手を使って電源を入れます!」
心桜「それって面倒じゃない?」
七夏「面倒とかそういう事ではなくって」
心桜「あたしなんか、なんであんなにスイッチが小さいのかと思うよ・・・もっとスイッチが大きければ・・・って、う・・・」
七夏「ここちゃー・・・はぅぁー」
心桜「おかしいなぁ~」
七夏「なにがおかしいの?」
心桜「あたしのブーメランは一投目から『ブーメランがっ!』のはずなのにぃ~」
七夏「何のお話です?」
心桜「さ、さぁ・・・」
七夏「と、とにかく、扇風機さんのスイッチが小さいという事は、足で押してほしくないっていう事だと思います」
心桜「・・・すみません・・・」
七夏「ここちゃーも、横着しないでくださいね」
心桜「横着かー、ある意味最適化なんだけどねー・・・という事は扇風機のスイッチが足では押しにくく、手で押した方が楽という状況になれば、良い訳だよね」
七夏「そう・・・なるのでしょうか? それだと扇風機さんに非があるみたいに思えます」
心桜「ある意味そうじゃない?」
七夏「根本的な解決にはならないです・・・扇風機さんのスイッチが足では押しにくいから手を使うのではなくて、やっぱり人の方が最初から手を使うべきだと思います。お手紙の方も、そう思っていると思います」
心桜「やっぱり、そうか・・・。あたしは言う権利ないからなー」
七夏「大丈夫です。ここちゃー!」
心桜「なんで?」
七夏「今から、ちゃんと手を使ってスイッチを押すって約束してくれれば、大丈夫です!」
心桜「つっちゃー・・・ありがと。うぉしっ! 今からそう約束するよ!」
七夏「はい☆」
心桜「でも、お手紙の娘さんも、そう約束してくれるかなー」
七夏「それは、ちょっと分からないです」
心桜「例えば、扇風機を床に置かないで、何かしっかりとした台の上に置いて、足より手の方が操作しやすいような状況を作れば良いと思う・・・とりあえず」
七夏「そうなのですけど、お手紙の方の娘さんが、自主的にそのような事をしないと思える事が大切だと思います」
心桜「んー・・・どうすれば? 例えば、つっちゃーがそういう事をしたら、お母さんに怒られる?」
七夏「私は、しませんけど、もしそんな事をしてたら、注意はされると思います」
心桜「そもそも、つっちゃーって怒られる事あるの?」
七夏「怒られるっていうよりも、『そういう事をすると、お母さんは悲しい』って言われます。だから、私はお母さんを悲しませる事はやめようって思います」
心桜「それだっ!」
七夏「え!?」
心桜「怒って叱ると逆効果になるかも知れないから、今つっちゃーが言ったお母さんの注意の仕方を実践する・・・っていう事!」
七夏「え!? みんなそのように注意されてないの?」
心桜「ないないないっ!」
七夏「そんな、思いっきり否定しなくても・・・」
心桜「まぁ、そんな訳で、今回はつっちゃーのお母さんの考え方が全面的にいいなと思う私たち『ココナッツ』でしたっ!」
七夏「な、なんかすごく急なまとめ方のような・・・」
心桜「そんなことないないないっ!」
七夏「・・・・・」
心桜「んじゃ、そのお便りの子に、好きな人が出来たら、改まると思うけど・・・」
七夏「! なるほど☆ そうなるといいな♪」
心桜「だねっ☆」
七夏「私、応援します!」
心桜「うんうん。あたしも!」

幕間五 完

------------

幕間五をお読みくださり、ありがとうございました!
本編の方も、どうぞよろしくお願い申しあげます!

第十一幕:ふたつの虹と太陽と

民宿風水にお世話になって三日目の朝。蝉の目覚ましに急かされるが、その声を掻き消すように布団の中に潜り込み、少し考える。
当初の目的から大きく予定が変更されている。主目的であったブロッケンの虹は、撮影できている・・・けど、今思うと、かなりコントラストが低く満足はしていない。そして、七夏ちゃんの「ふたつの虹」・・・目視では、はっきりと分かるのに、虹としては撮影できていない事。それよりも、七夏ちゃん自身の虹の見え方の方が気になる。「ふたつの虹」の撮影はできなくてもいい。けど、その持ち主には本当の虹を知ってもらいたい・・・一体どうすればいいのだろうか・・・。

蝉の目覚ましに混ざって、トントンと物音がする。

七夏「柚樹さん!」

扉を叩く音と、七夏ちゃんの声がする。

時崎「七夏ちゃん! どうぞ!」

俺は、少し慌てて布団から飛び起きる。

七夏「おはようございます! って、まだ、おやすみでした?」
時崎「おはよう! ちょっと布団の中で考え事してて・・・」
七夏「くすっ☆ もうすぐ朝食できますので!」
時崎「ありがとう!」
七夏「えっと、今日もここちゃー・・・あ、お友達が来ますので・・・」
時崎「天美さん!?」
七夏「はい☆ ちょっと騒がしくなるかも・・・です」
時崎「いや、天美さんならきっと、楽しくなるよ!」
七夏「ありがとうです! それじゃ、失礼します」

部屋を出てゆく七夏ちゃんを見送る。「ふたつの虹」・・・こんなに近くに存在するのに、触れる事が出来ない。まあ、虹自体が触れる事が出来ない存在だと思い、無理矢理納得する。見えるのに触れられない存在なんて、この世界には沢山ある。太陽や月、空に浮かぶ雲だってそうじゃないか。七夏ちゃんの虹も、その中のひとつだと思う。普通の事のように自然に接する事が大切なのではないだろうか。

浴衣姿のまま、一階の和室へ向かう。

七夏「あ、柚樹さん、おはようございます☆」
時崎「おはよう、七夏ちゃん!」
七夏「朝食、もう少し待っててくださいね」
時崎「ありがとう」

ふと、机を見ると、今出来上がったばかりと思わしき目玉焼きが二つ置いてあった。しかし、いつも七夏ちゃんが座っている席の前にある目玉焼きは、黄身が崩れており「目玉焼き」としては失敗作と言えるかも・・・。その黄身が崩れた目玉焼きを手に取り、俺の前に置いてあった綺麗な形の目玉焼きと交換する。

七夏「柚樹さん、お待たせです。今、ごはんを用意いたしますね」

そう言うと七夏ちゃんは、ご飯をよそって、手渡してくれた。

時崎「ありがとう。七夏ちゃん」
七夏「はい☆ あれ? 柚樹さん、えっと、その・・・ありがとうございます」

七夏ちゃんは、俺の前にあった目玉焼きに気付き、事を察してくれたようだ。

時崎「凪咲さんは?」
七夏「お母さんは、先に頂いてます。お心遣い、ありがとうございます」
時崎「普段は一緒に食べないの?」
七夏「えっと、お客様が居る時は別々に頂いてます。お客様から声がかかった時に、二人とも食事中というのはちょっと・・・ですので」
時崎「なるほど。じゃあ、この前みたいに三人で食事は困るのかな?」
七夏「いえ、他にお客様が居なければ、大丈夫です」

七夏ちゃんのしっかりとした答えに、感心させられるばかりだ。

時崎「いただきます!」
七夏「いただきまーす☆」
時崎「ん・・・この目玉焼き美味しい!」
七夏「すみません・・・ちょっと失敗しちゃって・・・柚樹さんは、目玉焼きと玉子焼き、どっちが好きですか?」
時崎「どっちも好きだよ。でも、焼きたては目玉焼きで、冷めた場合は、玉子焼き・・・かな」
七夏「なるほど・・・分かります! 私も作り置きの場合は玉子焼きや、ダシ巻きの方が好みです!」
時崎「そうそう、目玉焼きを後で電子レンジで暖めると黄身がポンッ! って、破裂する事があるから」
七夏「くすっ☆ あ、ゆでたまごは、もっと危険かもです!」
時崎「いわゆる玉子爆弾ってやつだね」
七夏「そういう名前があるんですか?」
時崎「いや、なんとなく・・・」
七夏「ゆでたまごは、出来たては美味しくて、作り置きもできるから便利です!」
時崎「おでんに入れても美味しいよね」
七夏「はい☆」
時崎「で・・・おでんの中で、ゆでたまごを潰して、ダシを濁らせてしまう・・・と」
七夏「見た目はともかく、それはそれで美味しくなると思います!」
時崎「俺は、自分の皿の中で、先にゆでたまごを潰す事もあるけど」
七夏「くすっ☆」

・・・七夏ちゃんと、玉子料理の話題が弾む。お料理の話をする七夏ちゃんは、いつも以上に楽しそうだ。セブンリーフの事を話してた七夏ちゃんの笑顔と重なる。俺は今の七夏ちゃんの笑顔を、普通で自然な事にしたいと思う。

凪咲「柚樹君。おはようございます!」
時崎「あ、凪咲さん! おはようございます!」
凪咲「七夏。お母さん、ちょっとお出掛けするから、お留守番お願いね。午前中には戻るから」
七夏「はい☆」

・・・朝食を済ませ、居間でのんびりとくつろぐ・・・七夏ちゃんは台所で食器を洗っているのだろうか、不規則だが心地よい音を奏でている・・・この一時が心地よい・・・。しかし、のんびりしている事が少し申し訳なく思えてきた。

??「おはよーございます!」

玄関から、大きく元気な声・・・この声は既に知っている・・・。俺は臨戦態勢に入り、先手を打つ事にする。

時崎「あ、天美さん! おはよう!」
心桜「お! お兄さん! 二度目まして! また会えたね!」
時崎「・・・・・」
心桜「ん? どしたの?」
時崎「いや、てっきり『まだ居たんだ』って、言われるかなーって」
心桜「あははっ! 一瞬、そう思ったけどって、あ゛・・・」
時崎「・・・やっぱり」
心桜「まあまあ、また会えて嬉しいよ・・・ホントに・・・」
時崎「まあ、それは俺も同じだよ」
七夏「ここちゃー、いらっしゃいです!」
心桜「お! つっちゃーおはよー!」
七夏「おはようです☆」
心桜「んじゃ、ぱぱっと済ませちゃおっか!!」
七夏「はい☆」
時崎「宿題・・・か、偉いなー」
心桜「んー、別に偉くは無いよ、どっちにしても結局は、済ませないと・・・ってだけで」
七夏「それじゃ、柚樹さん! またあとで☆」
時崎「ああ、俺で分かる事があったら協力するよ!」
七夏「はい☆ ありがとうございます!」

二人は二階の七夏ちゃんの部屋へ向かったのだろうか・・・。俺は再び虹について考える事にする。そして、今回の撮影旅行のスケジュールも再検討する事にした。俺が追いかけ始めた虹は、すぐそこにある・・・それこそ、手で触れる事もできる距離だ。さっき、無理矢理納得して押さえつけたけど、やっぱり何かが引っかかって飲み込みきれない・・・。もう一度考える。「ふたつの虹」に触れる事は簡単な事ではない。そもそも、ふたつの虹を持つ七夏ちゃんが、本当の虹を知らない・・・本人すら知らない事に、他人が触れていいはずが無い。虹を知る方法、世の中にある様々な虹の中に、七夏ちゃんにも七色に感覚できる虹があると信じたい。まずは、その虹から追いかけるべきだと思う。
少し考えがまとまりかけたので、部屋に戻って、MyPadにメモとして記録する。浴衣から普段着に着替えつつ、写真機を手に取り、撮影した七夏ちゃんの写真を表示させる。

時崎「翠碧色・・・」

七夏ちゃんにとって普通の虹・・・それを普通じゃない事にするのなら、七夏ちゃんが望んでくれなければならない・・・。

何か、鈍い物音がする・・・。耳を澄ませると、七夏ちゃんと天美さんが何か話しているようだが、二人の声は七夏ちゃんの部屋からではないようだ。鈍い物音が気になったので、俺は部屋を出る。廊下に出ると、二人の声は会話として認識できるようになってくる。

心桜「あっ、つっちゃー!!」
七夏「なぁに? ここちゃー」
心桜「あれ!」
七夏「え? わっ!」
心桜「天井に何か居るよ~!」
七夏「ど、どおしよ・・・」
心桜「棒かなんかで突付いてみる?」
七夏「えっと、棒ですね。ちょっと待っててください」
心桜「あたし、逃げないように見てるから」
七夏「はい!」

七夏ちゃんが、部屋から出てきた。少し慌てている様子だ。

七夏「あ、柚樹さん!!」
時崎「七夏ちゃん! 何か慌ててるみたいだけど、どうしたの?」
七夏「えっと、お部屋の天井に虫さんが居て・・・」
時崎「え? どこ?」
七夏「えっと、こっちです!」
心桜「あっ、お兄さんっ!」
時崎「虫が居るって?」
心桜「うん。あれ!」
時崎「ん? 確かになんか居るけど、なんだろ? そうだっ!」

俺は手に持っていた写真機で、虫を捕らえ、ズームインしてみる・・・その虫は体長2~3センチ程度の黒褐色で細身の甲虫のようだった。

心桜「お兄さんさぁ・・・なんで写真撮ろうとするかなぁ~」
時崎「いや、ズーム機能でちょっとした双眼鏡のように、虫の詳細が見れるかと思って」
心桜「ふーん、そうなんだ」
七夏「柚樹さんっ! これ!」

七夏ちゃんは俺に「はたき棒」を手渡してくれた。そのはたき側を手にし、ターゲットの虫に棒の先端を近づける・・・。

時崎「あっ!」
七夏「ひゃっ!」
心桜「わわっ!」

棒が近づく気配を感じたのか、その虫は突然落下し、机の上に落ちてきた。俺はその虫を間近で確認して、あれだ・・・面白い特性がある虫だと分かったので、カメラの動画撮影モードで録画撮影を開始してみる。

心桜「あははー、この虫、ひっくり返って身動き取れてないよー」
七夏「ちょっと、可哀相です」

しばらくすると、その虫は、ばたつかせていた足を動かさなくなった。

心桜「ん? 動かなくなったよ・・・死んだふり???」
七夏「ど、どうすれば・・・」
心桜「んー」

その動かなくなった虫に、天美さんが顔を近づけて覗き込む・・・七夏ちゃんも少し近づいてきたその時、

七夏「ひゃっ!」
心桜「どわぁ!」

その虫は、突然跳ね上がり、顔を近づけていた天美さんの頬っぺたにタックルをして、床の方へ吹っ飛んでいった。

心桜「なっ、何!? 今の!?」
七夏「びっくりしました!!」
心桜「あいつ~!! どこ行った!?」
七夏「あっちです・・・」

その虫は、床の上でまだひっくり返っていて、足をバタつかせていた。それを見た天美さんは、机の上にあったレポート用紙を一枚ちぎって二つ折りにした。その虫は先程と同じように、足を動かさなくなった。天美さんは、その様子をじっと見つめている。

虫 「プツッ!」
心桜「よっ! ・・・と!」

その虫が跳ね上がり、天美さんは二つ折りのレポート用紙でその虫を受け止める。その虫は、天美さんのレポート用紙の上でひっくり返ったまま足をバタつかせていた。

心桜「つっちゃー、窓っ!」
七夏「はいっ!」

七夏ちゃんが急いで窓を開ける。

心桜「ぽいっ!」

天美さんは、その虫を窓の外へ・・・その虫は、空中で羽を広げてそのまま飛び去ってゆく。その様子を見ていた俺は、ちょっと面白くて、こみ上がってくる笑いを堪えていた。

心桜「ふー、任務完了ー! んで、あいつ、何だったの?」
時崎「あれは、コメツキムシだよ」
心桜「こめつきむし!? お兄さん知ってたの?」
時崎「まあ、一応」
心桜「つっちゃー、知ってる? こめつきむし」
七夏「いえ、初めて見ました」
心桜「その『こめつきむし』はいいとして、なんで突然跳ねるの? ・・・いや、あたしが覗き込んだ時、あの虫、どう見ても跳ねる体勢じゃなかったよ、仰向けになって死んだフリしてたし・・・・」
時崎「あの虫は足を使って跳ねるんじゃなくて、首の力を使って跳ね上がるんだったかな」
心桜「く、首!?」
時崎「そうだ、さっきの様子、この写真機で録画していたから見てみる?」
心桜「え!? 録画?? 見る見るっ!」
時崎「七夏ちゃん」
七夏「はい!?」
時崎「居間の大きなテレビを借りていいかな?」
七夏「はい☆ どうぞ」

一階の居間へ移動し、大きなテレビと写真機を映像ケーブルで繋ぐ。

心桜「へー・・・写真機って、テレビに繋げられるんだ」
時崎「まあ、そういう機種もあるよ。じゃ、再生してみるよ」
心桜「うんうん!」

先程撮影していた動画を再生してみる。

《心桜「あははー、この虫、ひっくり返って身動き取れてないよー」》
《七夏「ちょっと、可哀相です」》

《七夏「ひゃっ!」》
《心桜「どわぁ!」》

心桜「ほら! やっぱり、仰向けで死んだフリしてたのに急に跳ねた! ・・・って、お兄さん!」
時崎「な、なに?」
心桜「あのさー、笑いたければ、笑っていいよ・・・つっちゃーも!」
七夏「え? えっと・・・その・・・」
時崎「う、ごめん・・・。ちょっと、ゆっくり再生してみようか」

俺は、笑いを堪えつつその録画をコマ送りで再生してみた。その虫は跳ね上がる直前に首を大きく曲げ、跳ね上がり、覗き込んでいた天美さんの頬っぺたにタックル・・・。

心桜「なんで首が曲がるだけで跳ねんのよ!! ・・・訳分かんないんだけど!」
時崎「くくっ・・・」
七夏「ゆ、柚樹さん!!」
時崎「ごめん・・・しかも、ゆっくり見ると、七夏ちゃんの方が少し反応が速い」
心桜「え~!!! 反射神経ではつっちゃーに負けないと思ってたのに・・・」
七夏「ぐ、偶然です!」
心桜「あ~、なんかもう、色々とショックだよー、ショック過ぎて顔洗うの忘れてたから洗ってくる~」

そう言って、天美さんは顔を洗いに行く。

時崎「七夏ちゃん」
七夏「はい?」
時崎「ごめんね・・・あとで天美さんにも謝るから」
七夏「ここちゃーなら大丈夫だと思います! それに、私もちょっと笑ってしまったから・・・謝っとかないと・・・」
時崎「やっぱり、あの虫のタックルはキツイよね」
七夏「はい。まさかここちゃーを驚かせるなんて」
心桜「ん? あたしが何?」
七夏「あ、ここちゃー、さっきはごめんなさい」
時崎「俺も、申し訳ない」
心桜「いやいや、あたしが油断してただけだから・・・あいつ、今度会ったらどうしてやろかな・・・」
七夏「こ、ここちゃー! もう・・・」
時崎「しかし、その後の天美さんの対応は流石という感じがしたよ」
心桜「あははっ、あたしに同じ手は通用しないよ。ありがと。お兄さん!」
七夏「ここちゃーの凄いところです!」
心桜「最初から窓が開いてたら、直接スマッシュをお見舞いしてあげる所だったかなー」
時崎「あはは、天美さんらしい!」
心桜「で、気になったのが、なんで首を曲げるだけで、あんなに勢い良く跳ねるのかなんだけど・・・バッタとかが足を使って跳ねるのは理解できるんだけど、あいつは・・・」
時崎「それを説明するには『慣性の法則』から入らないと」
心桜「完成の法則? あいつの技は完成されているという事?」
時崎「いや、その『完成』じゃなくて『慣性』なんだけど、七夏ちゃんは知ってる?」
七夏「はい。なんとなくでしたら」
心桜「わわっ! つっちゃー!!!」
七夏「どしたの? ここちゃー?」
心桜「あたし時間がっ!!」
七夏「あ・・・ちょっと、急がないと」
心桜「お兄さん、ゴメン!」
時崎「え?」
心桜「その、慣性とかはまた、機会があればっ!」
時崎「あ、ああ。別に大した話じゃないから」
心桜「ありがと!」
時崎「天美さん、午後から部活?」
心桜「そっ!」
七夏「柚樹さん。ありがとうございます!」
時崎「七夏ちゃん!」
七夏「はい!?」
時崎「後で、時間あるかな?」
七夏「はい☆ では、あとで、お部屋に伺いますね♪」
時崎「ああ。よろしく」
心桜「???」

慌てて二階の部屋へ戻ってゆく二人を見送る。七夏ちゃんにとって太陽と言える天美さん・・・これは俺の勝手な解釈だが、間違ってないと思う。天美さんと居る七夏ちゃんは、とても自然だ。今朝、俺と玉子料理の話で楽しそうにしていた笑顔とはまた違う。この自然な笑顔を生み出せる天美さんが少し羨ましく思える。俺は、七夏ちゃんの笑顔を撮影したいと思っていた。でも、それは間違いで、本当は「自然な笑顔」を撮影しなければならないと気付かされるのだった。

第十一幕 完

----------

次回予告

不思議な虹、もっと深く知りたい・・・俺は見えている間に手掛かりを探し続ける・・・。何か共通点は見出せないだろうか・・・。

次回、翠碧色の虹、第十二幕

「お揃いの虹」

少しでも「ふたつの虹」に近づきたい・・・けど、虹は近付き過ぎると見えなくなってしまうので、思うように動けない・・・。

幕間六:難しい選択

幕間六:難しい選択

心桜「つっちゃー」
七夏「なぁに? ここちゃー」
心桜「お手紙届いてるよー」
七夏「わぁ☆ いつもありがとうございます♪」
心桜「じゃ、読んでみるね」
七夏「はい☆」
心桜「『ココナッツさん、こんにちわ。私には6歳と4歳になる2人の娘がいるのですけど、姉の方が困った質問をしてきて、お返事に困ってます。その質問とは、妹とどっちが好きかって・・・。私はどっちも好きだよって答えるのですけど、それでは納得できないみたいで、何回も聞いてきます・・・。上手く納得させる方法ってないでしょうか?』だって」
七夏「これは、難しいですね」
心桜「答えは決まってて『どっちも好き』で、その姉娘さんが納得できない所が、事を難しくしているんだよね」
七夏「そうですね」
心桜「こういう時は、切れ味ゲージが白の領域に達している笹夜先輩に頼んでみると、サクッと解決できそうだけど・・・」
笹夜「私が何かしら!?」
心桜「どわぁ! 笹夜先輩!! いつからここに!?」
笹夜「今、私の名前が聞こえたみたいでしたので」
七夏「笹夜先輩! こんにちわです☆」
心桜「こんちわー! 笹夜先輩!」
笹夜「はい☆ こんにちは♪」
心桜「(つっちゃー)」
七夏「(なぁに?)」
心桜「(やっぱ、笹夜先輩って、ステルスパーツLとか付けてるんじゃない?)」
七夏「(もう・・・Lってなぁに?)」
心桜「(L、L、LはLargeのL、L、LLLL・・・)」
七夏「(???)」
笹夜「それで・・・私に何かご用かしら?」
心桜「あ、そうそう。笹夜先輩にちょっと相談があって・・・」
笹夜「何かしら?」

 ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆

心桜「・・・っと、言うことで・・・」
七夏「何か良い方法って、ないかなーって」
笹夜「なるほど」
心桜「笹夜先輩なら、なんて答えます?」
笹夜「私なら、『お母さんを困らせない子が好き』って答えるかしら!?」
心桜「おぉ! 流石!!」
七夏「笹夜先輩、なるほどです!!」
笹夜「その姉娘さんは、きっと妹さんばかり可愛がられているように、思ってしまっている可能性がありそうですね。お手紙の相談者さんは、姉娘さんに普段から『お姉ちゃんだから我慢しなさい』と言ってたりしてないかしら? 生まれてくる順番は、本人にはどうする事も出来ないですから、今回のような場合は、あまり本人の努力と関係のないところで注意なさらないよう、ご配慮が必要かも知れません」
心桜「そうだよね。子供の頃って、親の何気ない一言を重く受け止めたりするからねー」
七夏「笹夜先輩って、素敵なお母さんになります!」
笹夜「え!? な、七夏ちゃん!?」
心桜「うんうん。あたしも笹夜先輩の子供がいいっ!!」
笹夜「え!? こっ、心桜さん!?」
心桜「なーんてね!! でも、子供の気持ちを、ちゃんと分かってあげる事って大切だよ」
笹夜「そうですね。お子さんが色々と聞いてくるのは、それだけ色々な事に関心を持つ年になったという事。お手紙の相談者さんにも、幼い頃そんな時期ってなかったかしら?」
七夏「私、お母さんとお父さんに色々聞いて、困らせた事あったかも・・・」
心桜「あたしも、あるかなー。笹夜先輩は?」
笹夜「ありますね♪」
心桜「じゃ、皆通る道って事でっ!! 思い詰めないように、いたしましょー!!」
七夏「え!? 今の、まとめ!?」
心桜「今回は、軽めだね~」
七夏「え?」
心桜「そっか! LはLightのLだ!」
笹夜「まあ!」
七夏「???」

幕間六 完

------------

幕間六をお読みくださり、ありがとうございました!
本編の方も、どうぞよろしくお願い申しあげます!

第十二幕:お揃いの虹

不思議なふたつの虹・・・自然に撮影するには・・・。俺は、先ほど録画した七夏ちゃんと天美さんの動画を眺めながら考える。動画内では自然な七夏ちゃんが存在するが、瞳の色は自然とは言えない・・・俺の記憶に残っている七夏ちゃんの瞳の色と異なるからだ。自然な七夏ちゃんの笑顔と虹のセットは、今のところ俺の記憶の中でしか存在していない。七夏ちゃん本人ですら、分かっていない事なのに・・・。

---玄関から物音がした---

??「ただいま」
時崎「あ、凪咲さん! お帰りなさい!」
凪咲「柚樹君! お留守番ありがとうございます!」
時崎「いえ・・・」
凪咲「僭越ですが、せっかくのご旅行なのに、どこかお出掛けなさらないのかしら?」
時崎「ありがとうございます。ここが居心地良くて! それに、七夏ちゃんの笑顔を撮影する約束もありますので!」
凪咲「まあ! ありがとうございます!」
時崎「午後からは、ちょっと出掛けます」
凪咲「はい。では、昼食を用意しますので・・・ごゆっくりなさってくださいね」
時崎「ありがとうございます!」
凪咲「では、失礼いたします」

凪咲さんは、台所へと向かう。
別の方向から階段を降りてくるような音がする。

心桜「ふー。なんとか、間に合ったね!」
七夏「はい☆ よかったです☆」
時崎「七夏ちゃん! 天美さん!」
心桜「あ、お兄さん! さっきはどうもー!」
七夏「柚樹さん、さっきは、ありがとうございます!」
時崎「いや、大した事はしてないよ」
凪咲「あら、心桜さん! いらっしゃい!」
心桜「あ、凪咲さん! お邪魔してます! ・・・って、もうすぐ部活なんだけど」
凪咲「そうなの・・・お昼、良かったら、ご一緒に如何ですか?」
心桜「ありがとうございます! でも、お弁当ありますので!!」
凪咲「あら、残念・・・では、これを・・・」
心桜「わ! 風水大福! ありがとうございます!」
時崎「風水大福!?」
七夏「あ、えっと、お母さんが作ってます☆」

風水大福・・・見たところ「水大福」なのだけど、水色と緑色の二種類があるようだ。それぞれ、水大福と風大福というのかも知れない。どんな味なのだろうか?

凪咲「柚樹君も良かったら、食後に如何ですか?」
時崎「え? いいんですか?」
凪咲「はい」
時崎「ありがとうございます!」
心桜「それじゃ、つっちゃー、凪咲さん! ・・・あと、お兄さんも!」
時崎「・・・俺は後付か・・・」
心桜「あははっ! あたしの恋人にでもなれたら、先に呼んであげてもいいけど!」
時崎「え!?」
七夏「こっ! ここちゃー!?」
心桜「・・・って、冗談だよ! お兄さんっ! また会えたらねっ!」
時崎「あ、ああ・・・」
七夏「もう・・・ここちゃー!!」
時崎「天美さんには勝てないなぁ・・・」
凪咲「心桜さん、またいらしてね!」
心桜「はい! では失礼します!!」
凪咲「七夏、お留守番ありがとう」
七夏「はい☆ あ、お昼の準備、私も手伝います!」
凪咲「ありがとう。七夏」
七夏「柚樹さん、少し待っててくださいね」
時崎「あ、ああ。ありがとう」

二人が台所に戻ると、時計の秒針音が耳に届き始める・・・先ほどまで賑やかだった蝉もお昼休みのようだ。午後からは七夏ちゃんとお出掛けしたいと思っている。七夏ちゃんのMyPadのカバーを見に行こうという話をしているからだ。

 ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆

昼食を済ませ、七夏ちゃんと商店街へお出掛けする。七夏ちゃんのMyPadのカバー、良いのが見つかるといいなと思いながら・・・。店内には結構沢山の種類があって七夏ちゃんはどれが対応しているのか分からない様子だ。確かに、似たような機種が多い為、間違って買うと合わなかった・・・という事は避けなければならない。

七夏「どういうのがいいのかな・・・」
時崎「汎用のカバーもあるけど、七夏ちゃんのは『MyPad Little』という機種になるから、それに対応したカバーの中から選ぶといいよ」
七夏「はい☆ えっと・・・。あ、これ可愛いな♪」
時崎「それは、機種が一致しないみたいだよ」
七夏「そうなのですね・・・」
時崎「同じので対応した物があるかも知れないよ」
七夏「はい☆ ちょっと探してみますね♪」

そう言えば、俺の持っている「MyPad」のカバーも結構痛んできているから、自分のもついでに見てみるか・・・。

時崎「おや!? これは、セブンリーフじゃないか!?」

七夏ちゃんが、セブンリーフに目が無い事は知っていたので、これは喜んでくれると思う。早速俺は七夏ちゃんの所へ・・・と、七夏ちゃんがこちらに駆け寄ってきた。手にはカバーを持っている。

七夏「柚樹さん! これ! セブンリーフです!」
時崎「あ、セブンリーフ! いいの見つかって良かったね!」
七夏「はい☆」

七夏ちゃんも、セブンリーフのカバーを見つけたようだ。ここで、俺が同じカバーを見せるとマヌケな気がして、自分の手にしていたカバーを反射的に背後に隠していた。既に無用になってしまったカバーの感触が空しく、ちょっと残念な俺の思いとは対照的に、とても嬉しそうにカバーを見つめる七夏ちゃん・・・ん?

時崎「な、七夏ちゃん!」
七夏「え!?」
時崎「そのカバー、ちょっと見せてくれる?」
七夏「はい☆」

七夏ちゃんは、カバーを俺の前に差し出してくる。俺はそのカバーの対象機種を確認した。

時崎「七夏ちゃん・・・それ、七夏ちゃんのには使えない・・・」
七夏「え!? そんな・・・」
時崎「それ、俺の持ってる『MyPad』には対応してるんだけど・・・」
七夏「そうなのですか・・・。じゃあ、これ、柚樹さんにプレゼントします♪」
時崎「え!?」
七夏「柚樹さんのは、結構年期が入っているみたいですから」

七夏ちゃんの意外な申し出に、どう答えるべきか俺は焦った。その時、背後に持っていた物の存在を思い出す。一度、無用になったと思った物が、凄く心強い存在に思える。

時崎「ありがとう! じゃあ、俺は七夏ちゃんに、これをプレゼントするよ!」
七夏「え!?」

さっきの俺と同じような返事をする七夏ちゃんの前に、背後に持っていたカバーを見せる。

七夏「あ! セブンリーフ! でもそれって・・・」
時崎「大丈夫! 似ているけど、これは七夏ちゃんの機種に対応してるよ!」
七夏「わぁ☆ 本当ですか!?」
時崎「これでよければ、プレゼントするよ!」
七夏「はい☆ ありがとうございます!」

こうして、俺と七夏ちゃんは、お互いにMyPadのカバーを買って、プレゼントし合った。偶然にも、その金額は全く同じで、若干サイズの大きい俺のカバーの方は、旧モデル商品という事で割引率が高かったようである。

時崎「それにしても、お互いに同じ金額でプラスマイナスゼロだったね!」
七夏「ぷらすまいなす?」
時崎「あ、損得なしって事!」
七夏「あ、でしたら、お得だと思います!」
時崎「え!?」
七夏「金額は同じでも、プレゼントする人の気持ちがあります☆」
時崎「なるほど」

確かに、七夏ちゃんの言うとおりだ。このカバーをお互いに自分で買った場合と、相手にプレゼントするつもりで買った場合、金額だけでは測れない気持ちや想いがあるという事だ。

七夏「柚樹さん!」
時崎「ん?」
七夏「大切にします・・・」
時崎「俺も、大切にするよ」
七夏「お揃い・・・です・・・」
時崎「え?」

七夏ちゃんの顔が少し赤い・・・。そう言えば、俺もセブンリーフデビューをした事になって・・・そうじゃなくて、七夏ちゃんとお揃いのカバーになって・・・。そう思うと、急に顔が熱くなってきた。

七夏「柚樹さん、お顔・・・少し赤いです・・・」
時崎「な、七夏ちゃんこそ!」
七夏「くすっ☆」

先に、七夏ちゃんに指摘されてしまったが、この少しこそばゆい感覚・・・七夏ちゃんも同じ感覚なのだろうか? ともかく、俺はこのこそばゆい感覚を掻き消す!!

時崎「七夏ちゃん!」
七夏「はい☆」
時崎「他に買い物はないの?」
七夏「えっと・・・ちょっと寄りたいところがあります。いいですか?」
時崎「勿論!」
七夏「ありがとうございます♪」

俺は敢えて何処に行くのかは聞かず、七夏ちゃんに付いて行く事にした。そう言えば先日、写真屋さんへ案内してもらった時は、話題を探す事に気を取られていて気が回らなかったのかも知れないが、七夏ちゃんが案内してくれる時は、俺より前を歩こうとせず、ほぼ横を歩いている。以前より余裕が出てきた為か、自分のぎこちなく歩くさまが目につくようになった。俺は歩く速度を抑えて七夏ちゃんが先導する形を取ろうとすると、結果的に二人の歩く速度が遅くなる・・・。

時崎「七夏ちゃん!」
七夏「はい☆ あ・・・ごめんなさい。私が案内していたのですよね」

俺の『ぎこちない歩き方』に気付いてくれたようだ。七夏ちゃんは少しだけ歩く速度を上げてくれる。俺の歩みが滑らかになる速度を確認しているようだ。この辺りの配慮は民宿育ちだからなのかも知れない。

七夏「えっと、こちらのお店になります!」
時崎「喫茶店!?」
七夏「はい☆」

俺はてっきり、お買い物かと思っていたが、喫茶店という事は、七夏ちゃんは休憩したいという事なのかも知れない。そう言えば、今日は七夏ちゃんと商店街を結構歩いている・・・俺は写真撮影で結構歩き慣れているけど・・・この辺りの配慮ができないとダメだな・・・。

時崎「七夏ちゃん、ごめん!!」
七夏「え!?」
時崎「今日、結構歩かせたから・・・ここで休憩しよう!」
七夏「休憩・・・はい! お心遣いありがとうございます☆」

七夏ちゃんと喫茶店に入る。

七夏「こんにちは♪」
店主「あら、なっちゃん! いらっしゃい!」
七夏「はい☆ いつもの・・・お願いします」
店主「毎度ありがとう。ところで、そちらのお方は?」
七夏「あ、えっと・・・お客様です☆」
時崎「はじめまして。ご挨拶が遅くなってすみません」
店主「いえ、ごゆっくりどうぞ」
時崎「ありがとうございます。 七夏ちゃん!」
七夏「はい!?」
時崎「ここで休憩・・・」
七夏「あ・・・はい♪」

こちらの喫茶店では「なっちゃん」と呼ばれているようである。この喫茶店で、紅茶の葉とコーヒー豆を注文している。恐らく民宿風水で扱う業務用だろう。
七夏ちゃん本人はココアを注文したので、俺も同じ物を頼んだ。普段はココアを頼む事なんてなかったのだが、少しでも七夏ちゃんとの共通点を増やしたいと思ったからだ。

七夏「柚樹さんも好きですか?」
時崎「え!?」
七夏「えっと、ココア・・・」
時崎「あ、ああ・・・ココアの事ね」

前にもこんな事があった・・・『好きです! この写真!』・・・七夏ちゃんは、時々倒置法で話す事がある。どのような時なのかまでは、まだ分からないが、共感できた時がそうなのかも知れない。

七夏「はい。なかなか無くて・・・」
時崎「無いって、ココアが?」
七夏「はい。紅茶やコーヒーは他の喫茶店でもあるのですけど・・・」
時崎「なるほど」

七夏ちゃん曰く、紅茶やコーヒーは種類も豊富で、取り扱っているお店や、喫茶店のメニューにも普通にあるけど、ココアとなるとかなり限定される上、喫茶店のメニューに無かったりする事が多いらしい。確かに言われてみれば、喫茶店でココアを頼んだ記憶が無い。ココア好きの七夏ちゃんにとっては、この喫茶店は貴重な存在のようで、お買い物ついでに、その場で休憩も兼ねてココアを頂いているようである。

喫茶店を後にする時、七夏ちゃんは注文した商品を受け取る際に店主から新商品のココアの、お試しサンプルを頂いたみたいで、とてもご機嫌な様子。なんと、一緒に居た俺の分まで頂いたようで「後で一緒に頂きましょう!」と、心躍っているようだが、今、二人が飲んでいたのはココアなんだけど・・・まあ、ここ愛情(ココア以上)に甘い一時もいいかな・・・って、こんな洒落を思いついてしまい、慌てて掻き消す。

七夏「柚樹さん、お耳・・・少し赤いです・・・」
時崎「え!?」
七夏「くすっ☆」

今度は「な、七夏ちゃんこそ!」と反撃できなかったが、そんな俺の様子を楽しそうに見つめる七夏ちゃん。今回は「お揃い」とはならなかったが、今後も七夏ちゃんとの共通点を見つけ出したいと思うようになっていた。

第十二幕 完

----------

次回予告

いつの間にか現れている虹・・・そしていつの間にか見えなくなっている虹。俺は「ふたつの虹」が、いつまでも見えていてほしいと願う。

次回、翠碧色の虹、第十三幕

「虹はいつまで見えている?」

虹は見えなくなるのではない。誰も見なくなった時、人知れず姿を消してゆくのだと思う。

幕間七:記念写真撮影で失敗しない方法

幕間七:記念写真撮影で失敗しない方法

心桜「つっちゃー、今日もお便りが届いてるよ!」
七夏「わぁ☆ いつもお便りありがとうです♪」
心桜「じゃ、早速、読んでみよー」
七夏「はい☆」
心桜「えー『心桜さん、七夏さん、こんにちは。私、写真がどうも苦手で・・・記念写真でもよく目を瞑った状態になってしまうし・・・。そうならないように目を開け続けていると、目が乾燥して痛くなってきて、そんな状態で撮影された写真は、表情が固かったり怖かったり・・・。写真写りの良い人が羨ましいです。写真に自然に写れるような方法って無いでしょうか?』・・・だって。あたしも分かるよー。早く撮ってーって思ったり。つっちゃーは、写真、ちょっと苦手だよね!?」
七夏「えっと・・・写真苦手・・・でしたけど、最近は、写真もいいなって思えるようになれました♪」
心桜「ほー・・・やっぱ、彼の存在が大きいかなー」
七夏「えっと、柚樹さんは、いつも写真機持ってますけど、いきなり撮影される事は無くて、ちゃんと一言ありますから☆」
心桜「・・・(ニヤリ)」
七夏「??? な、なーに? ここちゃー?」
心桜「あたし『彼』ってしか言ってないよぉー」
七夏「!!! こ、ここちゃー!!!」
心桜「まっ、まあまあ、写真の事なら、お兄さんにも聞いてみよーよ」
七夏「うぅー・・・今はちょっと・・・」
心桜「え? なんで?」
七夏「な、なんでもです!!!」
時崎「あれ? 二人でどおしたの?」
七夏「ゆっ!!」
心桜「あっ、お兄さん!! 丁度良かった。ちょっと聞きたい事があるんだけど、今いいかな?」
時崎「聞きたい事? 勿論構わないよ」
心桜「写真の事なんだけど、例えば記念写真とかで、目を瞑ってしまうあれを回避する方法ってないかなーと思って」
時崎「確かに、撮影が終わるまで目を開け続けると、力が入って不自然な表情で写されてしまう事になるからね」
心桜「そうそう! 流石お兄さん! 分かってる!! んで、それを回避する方法ってあるの?」
時崎「俺なりに考えた方法だけど、まず、写真機の場所を確認する。そして、撮影者が何かしらの合図を送ってくれると思うんだけど、例えば撮影者の合図が『3、2、1、0』だったとすると、「3、2、1」までは目を閉じておいて「0」の少し前で目を開けるようにすると、目を閉じた状態で撮影される事は回避できるはず」
心桜「おぉー!!」
時崎「そして、表情が固くならないように、目を閉じる時も軽く目を閉じて力を入れ過ぎないようにすると、自然に写ると思う」
心桜「なるほどぉー!!」
時崎「後は、所謂カメラ目線が気になる場合は、写真機のレンズの少し下、20cm位の位置を見つめると良いかな」
心桜「よーし、今度からお兄さんのそれを実践してみるよー。ありがとー!!!」
時崎「ところで、さっきから気になっているんだけど、七夏ちゃんはなんで蹲(うずくま)ってるの?」
心桜「えっと、あははー。つっちゃー!!」
七夏「は、はい!!」
時崎「七夏ちゃん!? どおしたの?」
七夏「ゆ、柚樹さん・・・私、おかしくないですか?」
時崎「いや、別に・・・って、言いたいんだけど、耳押さえたりして、何かあったの?」
七夏「いえ、なんでも・・・ない・・・です」
心桜「はぁー・・・なんか、もどかしぃ~」
時崎「まあ、七夏ちゃんが大丈夫ならいいんだけど」
七夏「すみません・・・。ここちゃーも、ごめんなさいです」
心桜「あたしは、別にいいんだけど。そだっ! 早速ここでお兄さんに一枚撮ってもらおう!」
時崎「撮るって、写真を!?」
心桜「そうそう、お兄さんの方法を実践してみるよ。つっちゃーもこっちに来て!」
七夏「え!? 私も??」
心桜「もちろん! じゃ、お兄さん! お願いしてもいいかな!?」
時崎「勿論!! じゃ、合図は「3、2、1、0」で撮るからね」
心桜「はーい。じゃ目を閉じるよー。つっちゃーも目を閉じて」
七夏「は、はい!」
時崎「それじゃ、3、2、1・・・ゼロ!!(パシャッ!)」
心桜「さてさて、どおかなー」
時崎「二人とも自然な表情で撮れたよ!」
心桜「ホント!? 見せて見せて! わ! バッチリじゃない! つっちゃーも見てみなよ!」
七夏「わぁ! 上手く撮れました☆」
時崎「じゃあ、この写真、後で二人に渡すから」
心桜「ありがとーお兄さんっ!」
七夏「柚樹さん、ありがとうです♪」
時崎「七夏ちゃんも、いつもの七夏ちゃんに戻ったみたいで良かったよ」
七夏「・・・・・」
時崎「ん? 七夏ちゃん・・・あれ?」
心桜「んもぅー!! お兄さんっ!!!」
時崎「え!?」
心桜「まあ、今の方法で、あたしたちとしては、自然な写真が上手く撮れたので、お手紙のお方も是非、お兄さんの方法を試してみてねー『ココナッツ』としてもお奨めだよー。ねー! つっちゃー!?」
七夏「え!? なっ、なーに?」
心桜「はぁー・・・あたしも『ココナッツ』宛に、お手紙書こうかなぁ・・・」

幕間七 完

------------

幕間七をお読みくださり、ありがとうございました!
本編の方も、どうぞよろしくお願い申しあげます!

第十三幕:虹はいつまで見えている?

虹はいつまで見えているのか・・・。そんな事を考えるようになってきた。今までは、虹の撮影さえ出来れば、それ以上追いかける事はなく、その後、虹が消えてしまっても特に何も思う事は無かった。つまり、そこで終わっていたという事になる。しかし、今回は違う。不思議な「ふたつの虹」は、写真撮影が出来たとしても、いつまでも消えないでほしいと思う。

今回の虹の撮影旅行/目的について改めて考える。この街への滞在期間は、一週間程度の予定だったので、そろそろ滞在の期限が迫っている。滞在期間を延長する事も可能だが、旅費/予算の事を考えると、延長できてもあと2、3日くらいだろうか・・・。正直な所、俺はもっと民宿風水・・・いや、七夏ちゃんと一緒に居たいと思うようになっていた。七夏ちゃんの不思議な「ふたつの虹」に俺の方から背を向けたくないのだが・・・。俺は、凪咲さんに滞在期間の事を告げた。

凪咲「・・・そうなの・・・あと3日・・・柚樹君が居なくなると寂しくなるわね・・・」
時崎「すみません。それまでに、七夏ちゃんの写真はお渡ししますから」
凪咲「ありがとうございます」
時崎「俺も本当は、もっと民主風水で過ごしたいのですけど・・・」
凪咲「でも、柚樹君にもご予定があるでしょうから・・・」
時崎「時間ならまだあるのですけど・・・その、旅費予算的に・・・(苦笑)」
凪咲「まあ、そうなの!? 時間はまだあるのかしら?」
時崎「はい・・・時間だけですけど・・・」
凪咲「では、私からひとつ、いいかしら?」
時崎「え!? 何でしょうか?」

凪咲さんは、ある条件で、宿泊費用を免除してくれると提案してくれた。その条件とは、これからも七夏ちゃんの笑顔を撮影する事、民宿風水での力仕事を手伝う事・・・たったそれだけだ。こんな条件でいいのかと再確認してみたが、それで十分との事。俺は凪咲さんに感謝し、お礼を言う。

時崎「え!? たったそれだけでいいのですか?」
凪咲「はい。柚樹君が来てから、七夏も楽しそうにしていますから・・・。それに、七夏の楽しそうな笑顔をアルバムに残せるのは、柚樹君のおがけです。ですから、柚樹君さえ良ければ・・・私からお願いしてもいいかしら?」
時崎「あ、ありがとうございます!」
凪咲「これからも、七夏の事、よろしくお願いいたします!!!」
時崎「はい!!! こちらこそ!!!」

今までの事と、これからの事をまとめてみる。俺の撮影した笑顔の七夏ちゃん・・・その写真を見た凪咲さんから、改まって写真撮影のお願いをされた。その理由を訊いてみると、ある時期から七夏ちゃんは写真撮影に対して消極的になり(拒む訳ではない)、レンズに視線を送らなくなったり、目を合わせなくなったり、目を閉じる事が多くなったらしい。過去の七夏ちゃんのアルバムを見せてもらうと、ある時期(小学3年くらい)から枚数減っているのが分かる。凪咲さんはその事をずっと気にしていたようで、俺の撮影した写真に存在する「凪咲さんにとって、久々に見た七夏ちゃんの笑顔の写真」を、じっと見入っていた。七夏ちゃんが何故俺に対して写真撮影を拒まなかったのか、その理由は今は分からない・・・いずれ七夏ちゃん自身から話してくれるまで、その事はそっとしておくべきだろうと思った。

滞在期間の延長と、風水でのお手伝いをする事を七夏ちゃんに伝える為、俺は七夏ちゃんの部屋へ向かう。

時崎「七夏ちゃん!」
七夏「はーい☆」

七夏ちゃんが部屋から顔を見せる。

時崎「七夏ちゃん。今、いいかな?」
七夏「はい☆ あ、どうぞです♪」
時崎「ありがとう」
七夏「えっと・・・」
時崎「あ、ごめん。今回の旅行の滞在期間の事なんだけど・・・」
七夏「あ・・・」

七夏ちゃんの顔が少し曇る・・・これは一瞬嬉しく思ってしまったが、人の悲しみを嬉しく思ってはならない。ましてや、大切な存在であれば、尚の事である。

時崎「七夏ちゃん?」
七夏「えっと、柚樹さん・・・バス停で、一週間くらいって話してました」
時崎「確かに、そう話してたね」
七夏「今日・・・お帰りになるのですか?」

民宿育ちの七夏ちゃんにとって、お客様との突然のお別れは、そう珍しい事ではないのだろう・・・突然帰ってしまう心積もりが出来ていての『今日』なのだと思った。

時崎「いや、もう少し、ここでお世話になるよ」
七夏「え!?」

俺がそう言うと、七夏ちゃんは不思議そうな表情を浮かべ、その後から嬉しさが追いかけてくるのが伝わってきた。これは一瞬だけではなく、しっかりと嬉しく思う。俺は、凪咲さんと話した事を七夏ちゃんに伝え、今回の旅行の目的に七夏ちゃんの笑顔を撮影する事を正式に依頼された事も話した。

七夏「ほ、ほんとですか?」
時崎「ああ、これからもよろしくお願いします!」
七夏「わぁ☆ こちらこそです!」
時崎「あ、写真の件もよろしく!」
七夏「くすっ☆ はい!」
時崎「これからは、雑用も言ってくれていいから!」
七夏「はい! ・・・あ、えっと、すみません!」
時崎「謝る事はないよ」
七夏「ありがとうです! 頼りにしてますね☆」
時崎「ああ。それじゃ、用があったら、いつでも声をかけてくれていいから」
七夏「はい☆」
時崎「あ、用が無くても声をかけてくれていいから!」
七夏「くすっ☆ はい♪」

七夏ちゃんとの距離が、また少し近くなったような気がして嬉しい。俺は自分の部屋に戻り、考える。これからも、七夏ちゃんの力になり、喜んでくれるような事を考え、写真に残せるようにしたい。滞在期間の延長と言っても俺自身にも期限があるが、いつまで民宿風水でお世話になるかは話さないことにした。七夏ちゃんもその事を分かっているのか、いつまで俺がここに居るかという事を訊いてこなかった。その日を伝えるという事は、カウントダウンが始まってしまうからだ。

『虹は、いつまでも見えているわけではない』

忘れかけていた言葉が神経を揺さぶる。虹を追いかけ始めた時、この言葉を意識して撮影してきた。いつしか、虹を見ると「綺麗」という感覚よりも「急がなければ」という感覚の方が大きくなっていた。

俺が出逢った不思議な「ふたつの虹」を持つ七夏ちゃんは、のんびりとした性格だから、その影響で俺自身ものんびりと過ごしていた・・・。これは、虹に対する考え方を大きく変えてくれたのだが、これからは、もう少し気を引き締めるべきだと思う・・・けど、何から手を付ければ良いのだろうか・・・。民宿風水の事で七夏ちゃんに案内された事は、基本的な事のみだ。だから民宿風水の事をもっと知る必要がありそうだ。

そう言えば気になる事がある・・・。この一週間、民宿風水で人の出入りは多少あったが、俺以外の泊り客が居ないという事・・・。今後、俺の宿泊費を免除してくれるという事を考えると、おせっかいかも知れないが、民宿としては大丈夫なのだろうか?
俺は、凪咲さんに訊いてみることにした。

時崎「凪咲さん」
凪咲「あら、柚樹君、何かしら?」
時崎「ちょっと訊きたい事があるんですけど、少しお時間いいですか?」
凪咲「はい。少し、待っててくれますか?」
時崎「はい。すみません」

俺は、居間で、凪咲さんを待つ---

凪咲「お待たせしました」

凪咲さんは、お茶と和菓子を持ってきてくれた。

時崎「わざわざ、すみません」
凪咲「いえ。 お話って何かしら?」
時崎「はい。先ほどのお話なんですけど、宿泊費用、本当によろしいのですか?」
凪咲「ええ。七夏の笑顔・・・私からのお願いになりますので。私にとって七夏の笑顔は、宿泊費よりも、もっと大切な事ですから」
時崎「ありがとうございます・・・ただ・・・」

その時、電話の音がした。

凪咲「すみません。ちょっといいかしら?」
時崎「はい」

凪咲「お電話ありがとうございます。民宿風水です」

凪咲さんは電話に応対する。待っている間、特にする事も無いので、どうしても凪咲さんの声に意識を持ってゆかれてしまう。

凪咲「・・・はい。そうです。当宿は、全室禁煙となっております。申し訳ございません。お煙草をご利用頂ける場所は、ございません・・・」

全室禁煙・・・俺が民宿風水に来た時も聞かれた事だ。民宿で禁煙は珍しいと思う。のんびりと過ごせるひとときを楽しむ場所なのに、制限を設けている理由は・・・。以前、七夏ちゃんが電話で話していた事を思い出す。

<<七夏「・・・当宿は、全室禁煙になりますけど・・・え? はい・・・申し訳ございません。はい。お電話ありがとうございました。失礼いたします」>>

その時は、特に何も思わなかったが、民宿風水が禁煙という事で、お客様がキャンセルされたという事だろう。

凪咲「ご希望に添えず、申し訳ございません。お電話ありがとうございました。失礼いたします」

凪咲さんの電話対応が終わったようだ。

凪咲「すみません。お待たせしました」
時崎「いえ。今の電話は・・・」
凪咲「お客様からのお問い合わせですけど、当宿が禁煙という事で・・・」
時崎「その・・・禁煙の民宿って、珍しいですよね」
凪咲「ええ。ですから、お泊りのお客様はそんなに多いわけでは・・・。七夏が大きくなって、少し余裕が出来たら、民宿を始めたいと思ってて・・・民宿なら七夏のすぐ側に居ながら出来ますので、主人に相談したの。その時、主人の希望が禁煙の民宿にする事だったの」

凪咲さんは、話を続ける。民宿風水が禁煙なのは、七夏ちゃんのお父さんの希望だという事・・・これは、凪咲さんや七夏ちゃんの健康を想っての事だろう。七夏ちゃんは、たばこは苦手・・・というよりも、咳き込んでしまうという事だ。俺はたばこは吸わないけど、今後、気を付けなければならない。

凪咲「・・・ですから、お泊りのお客様が居なくても、特に生活に困る事はないの。これは主人に感謝してます! 柚樹君も、気にしてくれて、ありがとうございます」
時崎「いえ・・・」
凪咲「でも、お泊りのお客様が居ないと、民宿としては寂しいですので、そういう意味では困るかしら? ですから、柚樹君が居てくれると賑やかになって助かります!」
時崎「そんな・・・」
凪咲「あ、すみません。お話って何かしら?」
時崎「今、訊きたかった事を全て聞けました。ありがとうございます!」
凪咲「あら。柚樹君も気にかけてくれて、ありがとうございます!」
七夏「お母さん! あっ! 柚樹さん!?」
時崎「七夏ちゃん。どうしたの?」
七夏「えっと、さっき、電話が鳴ってたみたいだから・・・お客様かなって」
凪咲「お問い合わせがあっただけよ」
七夏「やっぱり、民宿で禁煙って・・・難しいのかな・・・」

凪咲さんは、はっきりと言わなかったが、七夏ちゃんはすぐに察したようだ。このような事が結構あるのかな・・・。

時崎「俺は、禁煙の民宿って良いと思うよ!」
七夏「え!?」
時崎「だって、たばこの煙が苦手な人もいるでしょ?」
七夏「あっ・・・」
時崎「別にたばこを吸う人の宿泊がダメって訳じゃないよね?」
七夏「はい! 勿論です! 私、ここで過ごす間、少し、おたばこを我慢してくれれば・・・その方が、ご飯もおいしくいただけます!」
時崎「なるほど。確かに! ご飯だけでなく、空気も美味しいよ」
七夏「くすっ☆」
凪咲「それでは、私はいいかしら?」
時崎「あ、すみません! 凪咲さん」
凪咲「いえ。何かありましたら、お声を掛けてくださいね」
時崎「はい」
凪咲「失礼いたします」

凪咲さんは、台所へ戻ってゆく。俺は七夏ちゃんの笑顔を撮影しなければならない。その為に、七夏ちゃんが喜ぶ事を考える・・・喜ぶ事・・・。

時崎「七夏ちゃん!」
七夏「はい!?」
時崎「今日は、時間あるのかな?」
七夏「えっと、今日の分の宿題も終わりましたから、大丈夫です!」
時崎「どこか、お出掛けしない?」
七夏「え!?」
時崎「この前みたいに、七夏ちゃんのお勧めの場所とか、お買い物でも付き合うよ」
七夏「わぁ☆ いいんですか!?」
時崎「勿論!! あ、写真撮影もお願いする事になるけど、いいかな?」
七夏「はい♪ よろしくお願いします☆」
時崎「じゃ、今すぐ出掛ける?」
七夏「えっと、ちょっと準備しますから、少し待ってくれませんか?」
時崎「ああ。分かったよ」

俺は、七夏ちゃんのお出掛け準備を待っている。突然のお出掛けとなったので、特に何も調べていなかったから、この街の事を調べておこうかな。そう言えば、俺がこの街に来た目的の場所・・・ブロッケンの虹がよく現れる場所・・・七夏ちゃんは知っているのだろうか・・・。七夏ちゃんは、ブロッケンの虹の事を知らなかったみたいだけど、この街に住んでいない俺が知っているくらい、有名な場所だから、知らない方が不自然のような気がする。七夏ちゃんが虹の事を避けている可能性を考えると、今、この事は聞かないほうがよさそうだ。

七夏「柚樹さん、お待たせです☆」
時崎「お、気合入ってるねっ!」
七夏「くすっ☆ ありがとうございます☆」

 ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆

俺と七夏ちゃんは、とりあえず、駅前の新しい商店街を目指す。

時崎「七夏ちゃん」
七夏「はい!?」
時崎「この街で、七夏ちゃんお勧めの場所ってある?」
七夏「お勧めの場所ですか?」
時崎「そう、この前、七夏ちゃんが教えてくれた、海が一望できる場所のような所」
七夏「海・・・と言えば、この先に海岸と砂浜があります☆」
時崎「あ、その海岸ならこの街に来た初日に見たかも知れない」
七夏「そうなのですか?」
時崎「恐らく・・・」

確か、海岸で後姿が七夏ちゃんに似ている少女とお話した・・・その時は、七夏ちゃんを探す事ばかり考えていたので、あまり海や砂浜の事をよく見ていなかった。

七夏「海・・・見てみます?」
時崎「そうだね。せっかくだから、海で七夏ちゃんを撮影したい」
七夏「くすっ☆ では、私、案内しますね♪」

 ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆

七夏ちゃんの先に海が広がる。やはり、以前に来た事がある場所だ。けど今は、あの時よりも落ち着いて海を見渡せる為か、色鮮やかさが増している気がする・・・探していた人が目の前に居るからかも知れない。

七夏「人が、結構居ますね☆」
時崎「皆、楽しそうだね!!」
七夏「はい☆」
時崎「七夏ちゃんは、海に遊びに来る事はないの?」
七夏「今年は、海に来たの、初めてになります」
時崎「海に入れないのが、ちょっと残念かな・・・」
七夏「くすっ☆ 水着、持ってきてませんので」
時崎「せっかくだから、この近くで買うとか!?」
七夏「はい☆」
時崎「え!?」

・・・何となく言ってみたけど、否定されない事に驚いた。海で七夏ちゃんの水着姿が撮影できれば、それはとても魅力的だと思う。けど、あからさまに、それを望むのはどうかと思う。ここでこの話題に乗るのは、考え物かも知れない。

七夏「!? どうかしました?」
時崎「い、いや・・・七夏ちゃんに、否定されると思ってたから」
七夏「くすっ☆ 丁度、新しいのがあってもいいなって、思ってましたので☆」
時崎「そ、そうなんだ」
七夏「ここちゃーと、海に来るお話もありますので☆」
時崎「天美さんと?」
七夏「はい☆ だから、その時用に・・・って、思って・・・」
時崎「それじゃ、今から見に行く?」
七夏「えっと、いいんですか?」
時崎「勿論、構わないよ」
七夏「ありがとうです♪」
時崎「あ、その前に、ここで写真いいかな?」
七夏「はい☆」

俺は、海を背景に七夏ちゃんを撮影する。強い日差しを受けた七夏ちゃんは、少し眩しそうな表情だが、これも素敵な思い出になるはずだ。

 ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆

写真撮影の後、七夏ちゃんの水着選びに付き合うことになった。水着姿の七夏ちゃんは、魅力的だと思うけど、もっと大切な事は、七夏ちゃんの好みを知る事だと思う。

七夏ちゃんは、水着をいくつか選んでいるが、どれも「可愛い系」のタイプだと思う。色の好みは青、緑、桃、白といった所か・・・。予想はしていたが、やはり結構時間が掛かりそうだ。

七夏「えっと・・・どれがいいかなぁ・・・」

独り言なのだろうか・・・。ここで俺が答えてしまうと、七夏ちゃんの好みが分からなくなってしまう。七夏ちゃんは俺の意見に合わせてくる可能性があるからだ。

七夏「柚樹さん!」
時崎「え?」
七夏「どう・・・かな?」

独り言ではなかったようだ・・・七夏ちゃんは、自分の前に水着を重ね合わせて、はっきりと訊いてきている。この場合、どう答えるべきなのか。

時崎「七夏ちゃんは、どれがいいと思うの?」
七夏「えっと・・・私は、この優しい緑色がいいかなって、思ったんですけど、こっちの青色も可愛いなって・・・でも、青色のは持ってるから・・・」
時崎「優しい緑色、セブンリーフみたいだねっ!」
七夏「はいっ!!!」
時崎「わっ! びっくりした!」
七夏「わ、私!!! これにします!!!」
時崎「な、なんかよく分からないけど、決まったみたいで良かったよ」
七夏「えっと・・・ちょっと試着・・・してみますね」
時崎「え!? 試着・・・あ、ああ」

・・・水着と言っても、衣装だから試着してからでないと決められない・・・か。七夏ちゃんは、店員さんに試着を申し出てから、試着室に入ってゆく・・・。
俺は、七夏ちゃんの着替えを待っている間、店内を見て回る・・・おっ! これは!

七夏「柚樹さん・・・」

七夏ちゃんの小さな声が耳に届く。振り返ると、試着室のカーテンから顔だけ覗かせていて、これが結構可愛い。一枚撮影したくなる気持ちを堪え、これは俺だけの脳内に留めて独占しておこう。

時崎「七夏ちゃん! サイズとかどう?」
七夏「えっと・・・」

七夏ちゃんは、カーテンをそっと開けて、試着した水着姿を見せてくれた。これは可愛い!!! ・・・けど、それよりも俺は、下着の上から身につけている水着姿の女の子というのを初めて見たので、そっちの方が気になってしまった・・・。七夏ちゃんの下着姿と水着姿を同時に見てしまった事になって動揺を隠し切れない。七夏ちゃんは恥ずかしくないのだろうか? と、とにかく、あまり黙っている時間が長くなるのは良くない。

七夏「ど、どうかな?」
時崎「可愛い!!! よく似合ってるよ!!!」
七夏「良かった♪ 大きさも丁度良くて、とっても動きやすいです♪」

そう言うと、七夏ちゃんはその場で、くるっと一回転して見せてくれた。

七夏「おかしくないですか?」
時崎「とっても可愛いと思うよ!」
七夏「じゃあ、これにしま・・・ひゃっ☆」

俺は七夏ちゃんの頭に、店内で見つけた帽子をかぶせてみる。今日、海で強い日差しの中、少し眩しそうな表情が多かったから、帽子があった方が良いと思った。

時崎「うん! よく似合ってるよ!」
七夏「柚樹さん・・・この帽子・・・優しい緑色・・・」
時崎「その帽子、気に入ったのなら、買ってあげるよ!!」
七夏「え!? いいんですか!?」
時崎「どっちかって言うと、俺のお願い・・・かな?」
七夏「え!?」
時崎「その帽子をかぶった七夏ちゃんを、撮影したいっていうお願い」
七夏「あっ!」
時崎「七夏ちゃん、帽子が似合うのは、よく知っているから!!」
七夏「くすっ☆ ありがとうです!!」
時崎「じゃ、帽子は買ってあげるから!!」
七夏「あ、そういう意味の『ありがとう』じゃなくて・・・」
時崎「『そういう意味』にしておいてよ」
七夏「・・・はい! そういう意味でも、ありがとうです☆」
時崎「こちらこそ!」
七夏「くすっ☆ それじゃ、私、着替えますね☆」
時崎「ああ」

七夏ちゃんは、試着室のカーテンを閉めた。
まだ七夏ちゃんの水着姿が頭から離れず、顔が熱い・・・。

七夏「柚樹さん! お待たせです☆」
時崎「お疲れ様!」
七夏「くすっ☆ あっ!」

俺は七夏ちゃんが、かぶったままの帽子を取り、そのままレジへ持ってゆく。七夏ちゃんも後を付いて来て、水着を購入した。

時崎「はい! 七夏ちゃん!」

俺は、再び帽子を七夏ちゃんの頭にかぶせてあげる。

七夏「わぁ☆ ありがとうございます! 大切にします!!」

・・・前にも聞いたこの言葉、そして嬉しそうな七夏ちゃん。これは今後も味わいたいなと思う。店を出ると、優しい光の太陽と目が合う、日は傾いて、あの時から結構な時間が経過しており、これから海へ戻るのは無理だと思う。

時崎「七夏ちゃん! 夕日綺麗だよ!」
七夏「はい☆ えっと・・・ごめんなさい」
時崎「え!?」
七夏「私のお買い物で、時間が無くなっちゃったから・・・」
時崎「俺は楽しかったよ!! また、七夏ちゃんと海に来れるといいなって思うよ」
七夏「はい☆ ありがとうです☆」
時崎「七夏ちゃん! 一枚いいかな?」
七夏「はい♪」

夕日を眺める七夏ちゃん・・・先ほどよりも表情は優しく思える。今日はもう帽子をかぶってなくても良さそうだが、「夕日と帽子をかぶる少女」という組み合わせも良い思い出だ。俺は、後になっても話題が弾んでくるような写真を、沢山撮りたいと思う。

時崎「ありがとう。七夏ちゃん!」
七夏「はい☆」
時崎「他に何かお買い物とかある?」
七夏「えっと・・・少しお買い物が・・・」
時崎「じゃ、それを買って帰ろう」
七夏「はい☆ ありがとうございます!」
時崎「あっ、『帰ろう』って俺が言うのも変だね」
七夏「くすっ☆ そんな事はないです☆」

七夏ちゃんの、お買い物・・・「海苔」「あおさ海苔」「あさり」等・・・夕飯の材料のようだ・・・。

時崎「お味噌汁の材料?」
七夏「はい☆ お味噌汁には、あおさ海苔とあさり、こっちは、おむすびの海苔で、一番摘みの○印がお勧めです☆」
時崎「そ、そうなの!?」

詳しくは分からないが、楽しみなのは確かだ。

七夏「今日は、あおさ海苔とあさり・・・どっちにしようかな? 柚樹さんはどっちがいいですか?」
時崎「あおさって!?」
七夏「お味噌汁によく合います☆ 香りも楽しめます♪」
時崎「そうなんだ」
七夏「では、今日は、あおさ海苔でいいですか!?」
時崎「俺は、あおさでもあさりでも、その両方でも!!」
七夏「くすっ☆ では今日は、あおさ海苔で、明日はあさりにしますね!」
時崎「ありがとう。楽しみにしてるよ!」
七夏「はい☆」

七夏ちゃんのお料理も楽しみになってきているのか、早く民宿風水へと帰りたいと思うようになってきた。そんな中、あの言葉が頭を過ぎる---

『虹はいつまで見えている?』

不思議な「ふたつの虹」は、俺が見たいと思い続けている間、きっといつまでもその姿を見せてくれると思う。相手の事を気遣える七夏ちゃんは、そんな女の子なのだから・・・。

第十三幕 完

----------

第十三幕 おまけです!
ここまで、お読みくださった方へ、感謝を込めて・・・。

第十三幕 おまけ:七夏ちゃん、お部屋で水着の試着!?

七夏ちゃんと今日撮影した写真の事で少しお話しようと思い、俺は七夏ちゃんの部屋の扉の前に居る・・・。

時崎「七夏ちゃん!」
七夏「はーい☆ ちょっと待ってください!」
時崎「分かったよ」

俺は、しばらく待つと、扉の向こうから声がかかる」

七夏「柚樹さん! どうぞです☆」
時崎「お邪魔しま・・・おわっ!!!」
七夏「ひゃっ!!!」
時崎「な、七夏ちゃん!! ご、ごめんっ!!!」

俺は慌てて扉を閉めた。七夏ちゃんは、今日買った水着を着ていたみたいだが、これは・・・どういう事だ!? 慌てた俺が落ち着きを取り戻すよりも先に扉が再び開く。

七夏「ゆ、柚樹さん・・・」
時崎「な、七夏ちゃん! ・・・その・・・」
七夏「ごめんなさい。柚樹さんの大きな声に驚いちゃって・・・」
時崎「い、いや・・・こっちこそ・・・ごめんっ!」

七夏ちゃんをまともに見れない。

七夏「私、『どうぞ』って、言いましたから・・・謝らなくていいです」
時崎「な、七夏ちゃん!! ど、どおして、水着姿なの?」
七夏「えっと・・・ちゃんと確認しておきたいなって、思って・・・」

ちゃんと確認・・・そうか、試着時は、下着の上から着ていたからだと理解した。

七夏「お、おかしくないですか?」
時崎「え!?」

そう言われて、改めて七夏ちゃんを見てみると、ちゃんとした水着姿で、よく似合ってて、やっぱり、可愛いと思う。

時崎「よく似合ってて、可愛いと思うよ!」
七夏「良かった♪」
時崎「試着時にも同じ事を話したけど」
七夏「くすっ☆」
時崎「なんか、その・・・ごめん」
七夏「いえ・・・私、柚樹さんから呼ばれて、どおしようかなって、思ったんですけど、今着替えたばっかりで・・・その・・・また服に着替えると、柚樹さんを待たせる事になりそうだったから・・・あと、ちゃんと着たのも見てもらった方がいいかなって」
時崎「そ、そう・・・」

やはり、俺は動揺してしまう。そんな俺を気遣ってか、七夏ちゃんは、水着の上から浴衣を身に羽織った。ん? 最初からそうしてくれれば良かったのでは!?

七夏「浴衣がありました☆ 最初から、こうしておけば、良かったのかもです☆」
時崎「今、同じ事を考えてた」
七夏「くすっ☆」
時崎「でも、七夏ちゃんの水着姿も見れて良かったよ!」
七夏「ありがとうです☆」
時崎「七夏ちゃん、後で、今日撮影した写真を見てみない?」
七夏「はい♪」
時崎「それじゃ、また後で声をかけて!」
七夏「はい☆」

俺は、七夏ちゃんの部屋を後にして思う・・・さっきの可愛い水着姿の七夏ちゃん・・・撮影したかったなぁ・・・なんて思うのは、やっぱり欲張りなのだろうか・・・。

第十三幕 おまけ 完

----------

次回予告

不思議なふたつの虹・・・虹の方から歩み寄って来てくれるのだが・・・

次回、翠碧色の虹、第十四幕

「寄り添う虹と距離を取る心」

虹に近づく事はできない。近づき過ぎると、見えなくなってしまいそうだから・・・。

幕間八:昆虫に例えると

幕間八:昆虫に例えると

心桜「それにしても、この前のアイツ!!」
七夏「どしたの? ここちゃー?」
心桜「あたしに、タックル決めてったあの虫・・・コメツキムシだっけ?」
七夏「あ、あの虫さん!?」
心桜「っそ!」
七夏「それで、昆虫図鑑を見てたの?」
心桜「うん!・・・で、見つけたよ。アイツ、これじゃない?」
七夏「あ、確かに」
心桜「オオナガコメツキ・・・か」
七夏「黒くて、ツヤツヤさんですね!」
心桜「そだねー、黒くてツヤツヤした笹夜先輩の黒髪みた・・・はっ!」
七夏「ど、どしたの? ここちゃー?」
心桜「い、いや・・・一応、周囲を確認しとこうかなーって・・・右よーし、左よーし」
七夏「???」
心桜「つっちゃーの、お父さんの真似~」
七夏「くすっ☆」
心桜「んで、コイツ、あたしの頬っぺたにタックルしてった訳だけど、もう少しであたしのファースト持ってかれる所だったよー・・・あーアブナイ!!」
七夏「ふぁーすとって、なぁに???」
心桜「いや、なんでもないっ!・・・で、コイツ、お兄さんの言ったとおり、首の力で跳ね上がる能力があるみたいだね・・・不思議なヤツだよ」
七夏「そうですね・・・私もびっくりしました。昆虫さんって、不思議が沢山です!」
心桜「つっちゃーも、なかなかの不思議さんだけどねっ!」
七夏「え!?」
心桜「そうですなー。昆虫に例えると・・・つっちゃーは、ふわふわ飛んでく蝶々さん~」
七夏「じゃあ、ここちゃーは、スイスイ飛ぶトンボさん~」
心桜「んで、笹夜先輩は、切れ味抜群!!! オオカマキ・・・」
笹夜「私が何かしら!?」
心桜「どわぁ!!!」
七夏「あ、笹夜先輩!! こんにちわです☆」
笹夜「はい! こんにちは、七夏ちゃん♪」
心桜「さ、笹夜先輩!こんちわー・・・い、いつからそこに!?」
笹夜「え? たった今ですけど・・・な、何かしら?」
心桜「んー、どこにステルスパーツ付いてんのかなーって?」
七夏「こ、ここちゃー!!」
笹夜「で、心桜さん!?」
心桜「は、はい!?」
笹夜「私が・・・何かしら?」
心桜「う・・・す、すみません・・・」
笹夜「はい♪」
心桜「あれ? 笹夜先輩、怒らないのですか?」
笹夜「謝って反省している人に、怒る必要ってあります?」
七夏「私、笹夜先輩のそういう所・・・素敵だと思います!」
心桜「うぅ・・・笹夜先輩が女神様に見えるよ~」
笹夜「まぁ☆」
心桜「笹夜先輩は、これ!! カラスアゲハ・・・かな!?」
七夏「あ、綺麗な黒髪のイメージに、ぴったりです☆」
笹夜「ありがと。七夏ちゃん、心桜さん!」
心桜「んで、こいつ、オオナガコメツキなんだけど」
七夏「はい」
心桜「なんで、仰向けになった体制からあんなに勢いよく跳ね上がれるんだろうって?」
七夏「確か、柚樹さんが、慣性の法則が・・・って、お話してました」
笹夜「慣性の法則は、物が同じ運動状態を維持しようとする事かしら?」
心桜「同じ運動状態ねぇ・・・」
笹夜「止まっている物は、止まり続け、動いている物は、動き続けようとする性質です」
心桜「それは、なんとなく分かるんですけど・・・この昆虫図鑑には、コメツキムシが跳ねる事の説明はあるんだけど、どうやって跳ねているのかの解説はされてないみたいだね」
七夏「確かに・・・」
心桜「蟹カニ~・・・だから、肝心な所で『おあずけ』食らっているみたいな、やりきれない感がハンパないんだよね~」
笹夜「心桜さん。慣性の法則と、その昆虫の体の構造を考えてみてはどうかしら?」
心桜「体の構造!?」
笹夜「ええ」
心桜「んと、まず『仰向けに寝る』・・・そして首を勢いよく曲げて頭を持ち上げる?」
七夏「こ、ここちゃー!!」
心桜「ん? どしたの? つっちゃー?」
七夏「ここちゃーが頭を起こした時に・・・えっと・・・あ、あれ!?」
笹夜「七夏ちゃん、頭を起こした運動エネルギー・・・関節の限界によって頭の動きが固定された時、その運動エネルギーが体全体を持ち上げる・・・かしら!?」
心桜「な、なるほど~、でも、あたしは同じ事をしても、跳ねれないよ?」
笹夜「それは、体積と体重が大きく違いますから・・・」
心桜「ん? どういう事ですか?」
笹夜「体積と体重が小さくなれば、重力の影響を受けにくくなって、小さなエネルギーでも大きな運動が出来るという事になります」
心桜「じゃ、あたしがコメツキムシくらいに小さくなれば、同じ事が出来るって事ですか?」
笹夜「体の構造が違いますから、大きさだけの問題ではないと思います」
心桜「体の構造・・・強靭な首の力が必要って事か・・・アメフト選手が適任かもね?」
笹夜「アメフト選手・・・そうなのですか?」
心桜「いや、なんとなくってだけです」
笹夜「体の構造と大きさが同じになれば、理論上は可能かしら?」
七夏「それって、コメツキムシさんそのものって事かな?」
笹夜「はい♪ そうなりますね♪」
心桜「んな・・・んー・・・そっか・・・でも、なんとなくだけど、理解できてスッキリしたよ! 笹夜先輩! ありがとうございます!」
七夏「ここちゃーがすっきり出来て良かったです☆ 笹夜先輩! ありがとうございます☆」
笹夜「いえ、どういたしまして♪」
心桜「という訳で、みんなも昆虫に例えてみようー!!! ただし、その結果についてあたしたち『ココナッツ』と笹夜先輩は一切、責任を持ちませんので、あしからず~」
七夏「もー・・・ここちゃー・・・はぅぁ・・・」

幕間八 完

------------

幕間八をお読みくださり、ありがとうございました!
本編の方も、どうぞよろしくお願い申しあげます!

第十四幕:寄り添う虹と距離を取る心

民宿風水でお世話になってから、初めて聴く音で目が覚める・・・。

時崎「ん? 雨・・・か・・・」

民宿風水での生活も、今日で一週間を終える事になる。一週間前、このような事になるとは思わなかった。不思議なふたつの虹・・・今まで追いかけてきたどんな虹とも違う。そして、ふたつの虹は、いつでも姿を見せてくれる。見せてはくれるのだが、七夏ちゃん本人にはそれは---

トントン・・・と、扉から音がした。

七夏「柚樹さん! 起きてますか!?」

七夏ちゃんだ。俺が起きるのが遅いからか、起こしに来てくれたようだ。

時崎「七夏ちゃん! どうぞ!」

俺が返事をすると、七夏ちゃんは扉を開けて、姿を見せる。

七夏「おはようございます☆」
時崎「おはよう! 七夏ちゃん!」
七夏「はい☆ 昨夜は、夜更かしさんですか!?」
時崎「あ、ああ。ちょっと調べ事があってね」
七夏「くすっ☆ 今日は雨が降ってますから、お洗濯物は、お部屋で干しますね☆」
時崎「ありがとう。雨、午後には上がるみたいだよ」
七夏「そうなのですか?」
時崎「昨日の天気予報の情報だけど」
七夏「明後日は晴れるかなぁ・・・」
時崎「明後日!? 何かあるの?」
七夏「はい☆ ここちゃーと海に遊びに行く予定です♪」
時崎「あ、そう話してたよね! 晴れるといいね!」
七夏「はい♪」
時崎「七夏ちゃん、今日は、時間あるのかな?」
七夏「えっと、宿題があります。今日はいつもより進めておきたくて」
時崎「何か手伝える事があったら、協力するから」
七夏「ありがとうです☆ 本当は土曜と日曜は、宿題もお休みなのですけど、明後日と次の日の分も進めておこうかなって」
時崎「なるほど」

前にも思った事だけど、七夏ちゃんは、とても計画的だ。となると、七夏ちゃんの言動も、ある程度は計画的なのかも知れない。無計画な俺とは対称的だが、無計画でなければ七夏ちゃんとこうしてお話しすることも無かったと思うと、少し複雑な気分だ。

七夏「柚樹さん!」
時崎「え!?」
七夏「朝食、出来てますから、居間に来てくださいね♪」
時崎「ありがとう」
七夏「それでは、失礼いたします」

 ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆

時崎「凪咲さん、おはようございます!」
凪咲「おはようございます! 朝食、出来てますからどうぞ!」
時崎「ありがとうございます!」

居間で、朝食を頂く・・・凪咲さんと七夏ちゃんは、先に朝食を頂いていたようだ。俺も早起きを心掛けなくては・・・。

テレビで今日の天気を確認する。やはり、午前中は雨のようだ。週間天気予報では、明日以降、しばらく晴れのようだ。

時崎「七夏ちゃん!」
七夏「はーい☆」

七夏ちゃんが台所から姿を見せた。

時崎「明後日は、晴れみたいだよ!」
七夏「良かった♪ 柚樹さん、ありがとうです☆」
時崎「お礼を言われるほどの事では」
七夏「くすっ☆ それじゃ、柚樹さん。何かあったら、声をかけてくださいね☆」
時崎「ありがとう、七夏ちゃんも・・・ね!」
七夏「はい☆ それじゃ、柚樹さん! また後で☆」
時崎「ああ」

七夏ちゃんは、自分の部屋で宿題のようだ。俺は、何か出来る事がないかな・・・。午前中は雨みたいだから、外出しての撮影は難しいな・・・。台所に居る凪咲さんに声を掛ける。

時崎「凪咲さん!」
凪咲「あら!? 柚樹君! 何かしら!?」
時崎「えっと、何か手伝える事って無いですか!?」
凪咲「え!?」
時崎「午前中は雨で、外での撮影も難しいので・・・」
凪咲「ありがとうございます。今は特には・・・」
時崎「そうですか・・・何か出来る事があったら、何でも手伝いますので!」
凪咲「柚樹君、そんなに気になさらなくてもいいわ!」
時崎「でも・・・」
凪咲「何かあったら、お願いしますから、その時は、お力を貸してくれるかしら?」
時崎「は、はい!」

今は特に手伝える事が無い・・・か。このまま、だらだらとテレビを見るのも・・・ん? テレビの側にあるPS・・・テレビゲーム機が目に留まる。 そう言えば、デジタルケーブルに変えたのが、随分前の事のように思えた。あの時、七夏ちゃんの様子が少しおかしかった事を思い出す。何か俺の言葉が伝わっていなかったような・・・なんだったんだろ? 更に記憶が甦って来た。

<<天美「じゃ、あたしに勝てたら、いいのあげるよ♪」>>
<<時崎「え? いいのって?」>>
<<天美「それは、あたしに勝ってからのお楽しみって事で!」>>

時崎「そう言えば・・・この音楽ゲーム、天美さんが話してた『いいの』って何だろ?」

・・・特にする事も無いので、これ、挑戦してみるかな・・・。俺はPSの音楽ゲームを起動した。映し出されたタイトル画面を見ると、以前の記憶がより色鮮やかになってくる。

時崎「とりあえず、説明書を確認しておこうかな」

説明書を見ていると、テレビの方から音楽が鳴り始めた。ゲームのデモが始まったようだ。俺は思い出すかのように、画面を眺める。しばらくすると、ハイスコア画面が表示され、1位には「KOKONA」という文字があった。この場所を俺が陣取れば、天美さんに勝ったという事になると言える。天美さんの『いいの』が気になリ始める・・・なぜなら、天美さんは俺よりも七夏ちゃんの事を知っている。天美さんの事を知る事は、七夏ちゃんを知る事に繋がると思うから。

・・・一時間経過・・・

時崎「これは、なかなか・・・」

・・・二時間経過・・・

時崎「なんとか、3位になった・・・もう少しだ!」

・・・3位以下は全て俺の名前を刻み込めたが、既に結構手が痛い・・・。こんな事をしていて良いのだろうか? その時---

七夏「柚樹さん!?」

七夏ちゃんが、顔を見せた。

時崎「七夏ちゃん!!」
七夏「えっと、それ・・・この前の?」
時崎「ああ。ごめんね。七夏ちゃん宿題してるのに・・・あ、宿題で何か分からない事とか?」
七夏「いえ。少し休憩です。喉も渇いてきましたので☆」
時崎「お茶でいいかな?」
七夏「あ、いいですよ。自分で煎れますから♪ 柚樹さんの分も用意しますね☆」
時崎「色々、申し訳ない・・・」

七夏ちゃんの事を知る事に繋がると思って頑張ってみたけど、このままゲームを続けていて、本当に良いのだろうか・・・。

七夏「柚樹さん、どうぞです♪」
時崎「ありがとう。七夏ちゃん」
七夏「柚樹さん、好きなのですか?」
時崎「え!?」
七夏「えっと、ゲーム・・・」
時崎「あ、ゲームか・・・まあ、それなり・・・かな? どおして?」
七夏「えっと、ここちゃーが、とってもゲーム好きなのですけど、私、あんまり得意じゃなくて・・・ここちゃーと一緒に楽しめたらなーって」
時崎「俺も、天美さんとゲームで渡り合える気がしないと思ってた所で・・・」
七夏「くすっ☆」
時崎「で、天美さんに勝てたら『いいの』くれるって話してた事を思い出して・・・」
七夏「あ、そう言えば、ここちゃーそんな事、話してました」
時崎「七夏ちゃんも、覚えてたんだ」
七夏「・・・それで柚樹さん・・・」
時崎「まあ・・・ね」
七夏「柚樹さん、ここちゃーの事が気になるのですか?」
時崎「え!?」

七夏ちゃんは、涼しい顔でそう話してきた。餅を焼いている様子は無い。それが、なんとなく寂しく思えたのは、今までの寄り添ってきてくれているかのような振る舞いを、涼しい顔で否定されたような気がしたからだ。

七夏「・・・・・」

七夏ちゃんは、涼しい顔のまま、瞳を閉じて、お茶をゆっくりと飲んでいる・・・。

時崎「天美さんの事が気になるのは確かだよ」
七夏「え!?」

七夏ちゃんが少し驚いたような顔を見せる。さっきまでの涼しい顔は何処へ・・・これは、続きを急ぐ必要がありそうだ。

時崎「天美さんを知る事は、七夏ちゃんを知る事になるからね!」
七夏「あっ!」

七夏ちゃんは、複雑な顔をしているが、俺は続ける。

時崎「もう少し、だと思う」
七夏「え!?」
時崎「得点・・・」
七夏「あっ! 私、応援しますから、頑張ってくださいね☆」
時崎「え? あ、ありがとう」

・・・それから、数回、七夏ちゃんの応援もあってか、何とか、天美さん超えを達成した。

時崎「や、やった! K点超えたぞ!」
七夏「柚樹さん、凄いです!」
時崎「七夏ちゃんの応援のおかげだよ!」
七夏「くすっ☆ 私、見てただけです☆」
時崎「後は、天美さんが確認してくれるといいんだけど・・・」
七夏「私、ここちゃーに電話で話してみます♪」
時崎「いやいや。七夏ちゃん! わざわざこんな事で電話しなくても・・・」
七夏「あ、えっと、明後日の事で、お話する事がありますので、その時に・・・」
時崎「なるほど・・・そういう事か」
七夏「ところで、柚樹さん?」
時崎「何?」
七夏「さっきお話してた『けーてん』って何かなって?」
時崎「K点の事か・・・単純に天美さんの『KOKONA』の頭文字だけど」
七夏「K点・・・そうだったのですね!」
時崎「ごめん。通じてたと思ってた」
七夏「くすっ☆」
凪咲「柚樹君。あら、七夏も一緒なの!?」
時崎「あ、凪咲さん! 何か手伝える事、ありますか?」
凪咲「ありがとう、柚樹君。これから、お昼の準備をしますから、何かあったら声をかけてもいいかしら?」
時崎「はい! もちろんです! あ、ここも片付けますね」
凪咲「そのままでもいいわ。ごゆっくりなさっててくださいね」
時崎「すみません」
七夏「柚樹さん、それじゃ、私もお昼の準備を始めますね☆」
時崎「ありがとう。七夏ちゃん」

・・・民宿風水で宿泊費を免除してもらう事になったのに、今までと同じように過ごしてしまっている・・・。待っているだけでは、このままになってしまいそうだ。なんとか、自分から手伝える事を見つけないと・・・。手伝える事が見つからないのなら、七夏ちゃんや、凪咲さんが喜んでくれる事を考えなければ・・・。

 ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆

凪咲さん、七夏ちゃんと頂く昼食中も、色々考えていると、どうしても口数が少なくなってしまう。

七夏「柚樹さん? どうかしましたか?」
時崎「え!?」
七夏「難しい顔・・・しているみたいですから・・・」
時崎「え!? ごめん」
凪咲「雨・・・降っていると、お出掛けも難しいからかしら?」
時崎「まあ、それもありますけど・・・。ここは居心地が良いですから・・・って、これは、前にも話したかな?」
凪咲「はい♪ ありがとうございます!」

・・・七夏ちゃんの事をもっと知りたい。そう思って、今日は天美さんの記録に挑んだけど、七夏ちゃん本人は、あまり俺自身の事を訊いて来ない。この理由はなんとなく分かる。七夏ちゃんは民宿育ちだから、お客様の個人的な事を、あまり自分からは聞かないようにしているようだ。だから、俺もそんな七夏ちゃんの事をあまり訊きたくても訊けないままとなっている。でも、七夏ちゃんは、訊いてこない分、行動で表す事がある。寄り添ってくるような言動がそれだ。七夏ちゃんは、訊きたい事があると、それを相手に気付かせ、相手から話してもらえるように振舞う事が過去に何度かあった。俺が七夏ちゃんに訊きたい事も、同じように、七夏ちゃんから話して貰える様にならなければ、七夏ちゃんの気持ちを知る事は難しいだろう。

七夏「それじゃ、私、宿題を進めますので」
時崎「ありがとう。頑張って!!」
七夏「はい☆ ありがとうです♪」

・・・七夏ちゃんは、今日はずっと宿題を進めるのかも知れない・・・。民宿風水で、何か出来る事はないか・・・とりあえず、部屋に戻って、考える事にする。MyPadで今まで撮影した七夏ちゃんの画像を眺めていると、その時の出来事が甦ってくる。

時崎「あ、そう言えば!」

「セブンリーフのフォトスタンド」用に、七夏ちゃんの写真を渡す事・・・その写真のプリント依頼を忘れていた。雨が上がったら、写真屋さんに依頼にゆこうと思う。それと、凪咲さんから頼まれているアルバムの件、撮影した写真を、そのままプリントして渡すだけでは味気ない。せっかくだから、民宿風水での日常を、アルバムとして纏めてみるのはどうだろうか? その方が、自然な七夏ちゃんを撮影できる事になりそうだ。
俺は、今まで撮影してきた七夏ちゃんの写真画像を、レイアウトデザインソフトで、時系列に並べてみる。これを編集/装飾して、賑やかなアルバムにしてみるのはどうだろうか。その方が七夏ちゃんや凪咲さんも喜んでくれると思う。このレイアウトデザインソフトで作ったアルバムデータは、そのままデジタル入稿で、本物のアルバムに製本できるのが売りなのだけど、今までそれを行った事は無いから、これに挑戦してみようかと考える。
七夏ちゃんの写真をトリミングして、レイアウトしてゆく・・・ちょっとしたアクセントに「小物」や「ふきだし」も配置できるが、ふきだしは、七夏ちゃんの協力が必要になりそうだ。

七夏ちゃんの写真と別の背景を合成しようとすると、単純なトリミングではなく、輪郭を切り抜く作業となる。これが中々骨の折れる作業になる為、時間の事を考えると、選ぶ写真は厳選する必要がある。俺は、七夏ちゃんお勧めの場所で撮影した七夏ちゃんの写真から、凪咲さんが喜んでくれて、今回の写真撮影の「かけ橋」となった七夏ちゃんの笑顔の写真・・・この一枚を選んでみようと思う。

時崎「これは・・・なかなか大変な作業だ・・・」

大変な作業だけど、七夏ちゃんとずっと目が合っているような気がして・・・それが応援してくれているように思えて楽しい。時間の経過を忘れて切り抜き作業に没頭した。

 ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆

切り抜き作業に集中していると、急にMyPadの画面が見えにくくなった。その理由は、窓から日の光が差してきたからで、雨は上がったようだ。

時崎「ん・・・ちょっと疲れたな・・・」

・・・ずっと、同じ姿勢で作業をしていたので、肩と首に痛みを覚える。雨も上がったみたいだから、写真屋さんへ出かける事にする。

時崎「凪咲さん!」
凪咲「あら。柚樹君。雨は上がったみたいね」
時崎「俺、これから出掛けますけど、何かお使いとかありますか?」
凪咲「ありがとうございます。では、お願いしてもいいかしら?」
時崎「はい!」

俺は凪咲さんから買い物メモを受け取る。

凪咲「本当は、七夏に頼もうと思っていたのですけど・・・」
時崎「七夏ちゃんは、今日、ずっと宿題進めているみたいですから・・・」
凪咲「そうなの?」
時崎「はい。七夏ちゃん、明後日、天美さんと海へお出掛けするらしいので」
凪咲「あ、その事なのですけど、柚樹君にお願いしてもいいかしら?」
時崎「え!?」
凪咲「七夏に付き添ってもらえないかしら?」
時崎「いいんですか!?」
凪咲「はい。やはり、高校生になったとはいえ、女の子だけで海って言うのは、ちょっと心配もあって・・・」
時崎「俺は、構わないですけど、七夏ちゃんたちがどう言うか・・・」
凪咲「ありがとうございます! 七夏には、私から話しておきますので」
時崎「分かりました。七夏ちゃんの笑顔も撮影しますので!」
凪咲「まあ! ありがとうございます!」
時崎「それでは、出かけてきます!」
凪咲「はい。あっ!」
時崎「え!?」
凪咲「お買い物で分からなかったら、無理しなくていいですから」
時崎「はい。その時は、電話で連絡します・・・って、電話番号は・・・」

・・・今まで、民宿風水の電話番号を知らない事に色々な意味で驚く・・・

凪咲さんから電話番号を聞いて、携帯端末に登録した。

時崎「それじゃ。行ってきます!」
凪咲「はい。お気をつけて!」

俺は、写真屋さんで、七夏ちゃんの写真のプリント依頼を行った。レイアウトデザインソフトでのデジタル入稿が可能かどうかも確認した所、完成サンプル品を見せてもらえた。やはり、実際にアルバムになると、デジタルデータとは違って存在感と、温かみが増すように思える。俺が作ろうとしているアルバムも、こんな形で凪咲さんに渡せるといいなと、改めて思った。アルバムを賑やかにするには、七夏ちゃんの協力も必要だ。けど、七夏ちゃんと一緒にアルバムを作ると、七夏ちゃんを驚かせる事は出来ない・・・。俺は、七夏ちゃん用にも、別の形でアルバムを作ろうと計画する事にした。七夏ちゃん用のアルバムは普通のアルバムではなく、何かもっと印象に残るようなアルバムに出来ないだろうか?

凪咲さんから頼まれたお買い物は「玉子」「牛乳」といった、馴染みの食材だったので、特に迷う事はなかった。俺は買い物を済ませて、民宿風水へと戻る。

時崎「ただいまー」

留守って事はないと思うが・・・返事がない。俺は台所へと移動し、買ってきた食材を冷蔵庫に入れておく。

時崎「ん? これは・・・今日は、あさりの味噌汁かな?」

そこにはボールの上にザルをかぶせて水が張ってあり、あさりと包丁が一緒に入っていた。どうやら、あさりに砂吐きをさせているようだが、包丁を入れっぱなしとは、物騒だなと思ったりしていると---

七夏「あ、柚樹さん。おかえりなさいです☆ どうかしました!?」
時崎「七夏ちゃん、これは!?」
七夏「あ、今夜のお夕食は、あさりのおすましもありますので☆」
時崎「そうじゃなくて、この包丁、置きっぱなしは、危険だなと思って」
七夏「えっと、あさりさんの砂吐きの時は、いつもこうしてます♪」
時崎「そうなの?」
七夏「はい☆ お母さんが作る時もそうしてます☆」
時崎「という事は、包丁をしまい忘れてた訳ではないのか・・・」
七夏「くすっ☆ 知らなかった場合は、そう思ってしまいますよね」
時崎「で、包丁を入れると、どんな効果があるの?」
七夏「えっと、あさりさんの砂吐きが捗ると聞いてます」
時崎「確かに、あさりを食べた時にジャリってなると、少しイラッ! とするかも?」
七夏「そ、そうならないように気をつけます・・・なったら、すみません」
時崎「あ、いやいや、それはそれで、いい思い出になるよ!」
七夏「くすっ☆」
時崎「凪咲さんは?」
七夏「えっと、お母さんは、お風呂場で、お洗濯を取り込んでると思います☆ 今日は雨だったので」
時崎「なるほど・・・凪咲さんからのお買い物は、冷蔵庫に入れておいたから」
七夏「はい☆ ありがとうです♪」

夕食の時間まで、まだ少しある。凪咲さんに、お買い物の事を話しておこうと思い、風呂場へ移動する。

時崎「凪咲さん!」
凪咲「あ、柚樹君! お帰りなさいませ!」
時崎「ただいまです」
凪咲「ごめんなさいね。気が付かなくて」
時崎「いえ。お買い物は、冷蔵庫に入れて、七夏ちゃんにも伝えてますから」
凪咲「ありがとうございます!」
時崎「あと、お買い物メモ、レシートと、おつりです」
凪咲「はい」
時崎「他に何か手伝える事は無いですか?」
凪咲「ありがとうございます。では、ここにあるのを、和室に運んでくれるかしら?」
時崎「分かりました。場所は・・・」
凪咲「押入れの前にお願いします」
時崎「はい!」

凪咲さんに頼まれた物を運ぶ。お布団のシーツやタオル、浴衣だろうか・・・。

時崎「凪咲さん、他には・・・」
凪咲「ありがとう。後は大丈夫ですから、七夏のお手伝いがあれば、お願いできるかしら?」
時崎「はい!」

俺は、七夏ちゃんの居る台所へと戻る。

七夏「あ、柚樹さん♪ お夕飯、もう少し待ってくださいね☆」
時崎「ありがとう。七夏ちゃん!」
七夏「昨日は、『あおさのお味噌汁』でしたので、今日は『おすまし』にしますね☆ おすましの方が、あさりの香りと風味をしっかりと楽しめます♪

七夏ちゃんは先ほどのあさりで、「おすまし」を作っているようだ。お玉から小皿へと、ダシを移して味見をしている。

七夏「えーっと・・・」

その様子を見ていた俺と目が合う。翠碧色になったその瞳に少し動揺する。

時崎「あ、ゴメン・・・じろじろと見てしまって・・・」
七夏「いえ・・・。あ、柚樹さん!」
時崎「え!?」
七夏「良かったら、味見してくれませんか!?」
時崎「いいの?」
七夏「はい☆」

そう話すと、七夏ちゃんは、お玉から小皿へとダシを移して、俺の方に差し出してきた。これは、今、七夏ちゃんが味見をしていた時に使っていた小皿だ・・・つまり・・・これは・・・所謂・・・更に動揺が大きくなってきた。

七夏「??? どうかしました?」
時崎「あ・・・いや・・・なんでも・・・」

七夏ちゃんの翠碧色の瞳を間近にすると、視線を逸らしてしまいそうになるが、差し出してきた小皿に視線を移し、手を伸ばす。

七夏「はい☆ どうぞ♪」
時崎「ありがとう」
七夏「どう・・・かな?」
時崎「いい味・・・だけど、ちょっと薄味かな?」
七夏「味・・・薄いですか?」
時崎「まあ、ほんの少しだけ・・・」
七夏「では、もう少し味を強めにしますね♪」
時崎「七夏ちゃんの、好みの味で構わないよ」
七夏「ありがとうございます! 私も少し味が弱いかなって、思ってましたので」
時崎「そうなの?」
七夏「はい☆ この本の通りに作ってみたのですけど・・・」
時崎「なるほど、分量は間違って無いけど、結果が思っていたのと違うという事か・・・」

俺は、小皿を七夏ちゃんに渡す。七夏ちゃんは、調味料を計量スプーンにとり、加える。そして、何やらノートにメモを取っているようだ。その後、お玉から小皿へと、ダシを移して再び味見をする・・・先ほど俺が渡した小皿だと思うと、顔が熱くなってきた。

七夏「えっと・・・このくらいかな・・・柚樹さん?」

そう話すと、七夏ちゃんは、お玉から小皿へダシを移して、俺の方に差し出してきた。この小皿は、七夏ちゃん→俺→七夏ちゃん・・・と、既に一往復達成している・・・だけど、熱くなった俺の顔をよそに、涼しそうな表情で小皿を差し出してくる七夏ちゃん・・・七夏ちゃんは、気にならないのだろうか?

七夏「??? どうかしました?」
時崎「あ・・・いや・・・なんでも・・・」

先ほどと同じような会話・・・。だけど、熱くなった顔に気持ちが持ってゆかれているからなのか、先程よりも何故か心の動揺は少なくなっている気がする。

七夏「はい☆ どうぞ♪」
時崎「ありがとう」
七夏「どう・・・かな?」
時崎「いい味・・・美味しいよ! 七夏ちゃん!」
七夏「良かった♪」

七夏ちゃんは、先ほどと同じように何かをノートに記しているようだ。

時崎「何を書いているの?」
七夏「えっと、お料理の記録です♪」
時崎「毎回、記録してるの?」
七夏「えっと、お手本に書かれている事と違う事をした場合、記録してます☆ 同じ材料でも季節によって味が変わりますから」
時崎「なるほどねー。そこまで考えた事が無かったよ」
七夏「くすっ☆ これは、お母さんの受け売りです☆」
時崎「それでも、さすがというべきだよ」
七夏「他には、柚樹さんが美味しいって話してくれた事も記録しています♪」
時崎「え!?」
七夏「えっと、私だけの判断ではなくて、客観的に判断できるように・・・って・・・その・・・柚樹さんの好みも、覚えておきたいなって・・・」

七夏ちゃんの顔が少し赤くなっているような気がした。このままでは二人とも熱膨張で蒸発してしまいそうだ。俺は気持ちを切り替える。

時崎「七夏ちゃん! 今日の夕食、楽しみにしてるよ!」
七夏「え!? はい☆」

俺は居間へと移動した。このままここに居ると、息が詰まりそうになりそうで、つい距離を取ってしまう・・・。七夏ちゃんとの程よい距離感が分からないままだ。虹は近づき過ぎると見えなくなる・・・一度見えなくなると、虹の方から歩み寄ってくれないと、見つけるのは難しい。俺は、虹がもっとも輝いて見える距離を探し続けていた。

第十四幕 完 

----------

次回予告

虹が見える所に居たい・・・一緒の時を過ごせる喜びは、いつしか幸せへと変わる。

次回、翠碧色の虹、第十五幕

「ふたつの虹と一緒に」

無関心な事でも、大切な存在の関心事であれば「無」ではなくなってゆくのだと思う。

幕間九:女性専用車両ってどう?

幕間九:女性専用車両ってどう?

心桜「つっちゃー! 知ってる!?」
七夏「え!? なあに? ここちゃー?」
心桜「10月14日は『鉄道の日』なんだって!」
七夏「そう・・・なの?」
心桜「・・・という事は、つっちゃーは、知らないって事か」
七夏「???」
心桜「だって、つっちゃーのお父さん、車掌さんだから!」
七夏「そうですけど、特にそんなお話はなかったです」
心桜「鉄道と言えば、つっちゃー、あの車両『女性専用車両』って、どう思う?」
七夏「どう・・・って、言われても・・・」
心桜「やっぱ、つっちゃーが乗る分には何も思わないけど、あたしが乗ると自意識過剰とか言われそうだから、積極的には乗らない・・・かなぁ~」
七夏「ここちゃーが乗っても、何も思わないです☆」
心桜「やっぱ、根本的に間違っているんだよねー」
七夏「え!?」
心桜「女性専用車両があると、困る事も多くない?」
七夏「困る事?」
心桜「そう、さっき言った自意識過剰とか思われたりして、乗りにくいなーという問題とか?」
七夏「でも、その車両で安心できる人も居ますから」
心桜「本来なら、どの車両も安心して利用できないとならないと思う!」
七夏「それは・・・言えてます!」
心桜「更に、女性専用車両って新快速や特急、新幹線には無いよね・・・多分だけど」
七夏「そうなの?」
心桜「どの列車にも1つあるのならまだしも・・・あったりなかったりと、中途半端なんだよねー。女の子は新快速とか乗るなってか!?」
七夏「それは・・・ないと思いますけど・・・」
心桜「そもそも、残念な事をする人が居なければ、こんな車両は必要ないし、あの車両を見ると、安心して乗れるスペースはここだけですよーって、言われてる気がして、切なくなるんだよね」
七夏「・・・・・」
心桜「あの車両、男の人もいい気しないんじゃないかな?」
七夏「そうですよね・・・・・」
心桜「例えばさ、デートの時に、あの車両が目の前に来たら、別れて別々に乗る?」
七夏「そんなの悲しいです」
心桜「もっと大切な事、あの車両に乗らない女の人は、どう思われてるかって事!」
七夏「え!?」
心桜「あの車両に乗らないで悲しい事された場合、あの車両に乗らないからだよ・・・なんて言われたら、あたしは本気で怒るよ!」
七夏「みんなが安心して過ごせる世の中になってほしいです」
心桜「他の車両は、ほぼ満員で、あの車両だけ『がら空き』だった場合、あの車両を利用しても、なんか罪悪感のような物を覚えそうだよ」
七夏「難しい所です」
心桜「そう言えば、あの車両、男の人が車内を通過するのは大丈夫なのかな?」
七夏「駅でわざわざホームに出て、後ろの車両へ移動されている男の人なら、何度か見かけた事があります」
心桜「走行中だと、それ出来ないからね・・・男の人はあの車両に入る事すら禁止されている印象だよ。実際どうなんだろ? あたしは車内を通過するのはいいと思う。その車両に留まるのはご遠慮下さいって認識かな?」
七夏「私も、ここちゃーと同じ考えです」
心桜「そもそも、あたし個人的には、あの車両はいらないと思う派かな? つっちゃーは?」
七夏「私は、あの車両さんの出番が必要ない世の中になってほしいなと思います☆」
心桜「おぉー、綺麗に纏めてきた。でも、ホントそうだよね!」
七夏「はい☆」
心桜「・・・っと、ここで、この件に関してのお便りが届いてるから紹介するね!」
七夏「わぁ☆ お便り、ありがとーです☆」
心桜「男の人からだよ。これは期待できるかもっ!」
七夏「心強いです☆」
心桜「んじゃ、読んでみるねっ!」
七夏「はい☆」
心桜「えっと『こんにちは。僕は女性専用車両については正直あまり良い印象はありません。あの車両が登場してから色々と大変なんですよ。』・・・だって」
七夏「やっぱり、男の人は、私たちよりも、もっと深刻な問題なのですね」
心桜「続き、読むね」
七夏「はい☆」
心桜「『あの車両が登場した為、僕の列車コレクションにも、あのデカールを貼りまくらなければならなくなって、出費はかさむし面倒だし・・・』・・・って、鉄道マニアかよっ!!!」
七夏「ここちゃー?」
心桜「ん?」
七夏「でかーるって、なあに???」
心桜「・・・つっちゃーは、そっちか・・・あ゛ーっ! 一気に面倒になってきた。デカールっていうのは簡単に言うとシールの事。ここでは女性専用車両って印刷されたシールを、列車コレクションに貼ってゆかなければならないという事で、それが面倒で・・・もう、あたしも面倒だよ・・・」
七夏「シール・・・あっ! あのシールの事ですね☆」
心桜「あのシールって・・・あのシール以外にどんなシールがあんのよ?」
七夏「えっと、セシールとか!? 通販の・・・」
心桜「ちょっ! つっちゃー! マジで勘弁して~! シノズカコンフィヨンセソネム!」
七夏「???」
心桜「あぁ・・・貴重なご意見になるはずだったのにぃ~」
七夏「でも、大変な思いをされているという事に変わりはないですよね」
心桜「まあ、あたし達じゃまず気付かない所にまで影響があったという事は、新たな発見と言えるかも知れないけど・・・なんか違う感が拭えないんだよねー」
七夏「まあ、ともかく貴重なお便り、ありがとうございます!」
心桜「それじゃ、今回はつっちゃーが纏めた、あの車両が必要ない世の中になるといいなと思う、私たち『ココナッツ』でしたっ!」
七夏「でしたぁ☆」
心桜「みんなはどう思う?」
七夏「お便りもらえると嬉しいな☆」

幕間九 完

------------

幕間九をお読みくださり、ありがとうございました!
本編の方も、どうぞよろしくお願い申しあげます!

第十五幕:ふたつの虹と一緒に

昨日は、布団に入ってもなかなか眠れなかった・・・。考え事をしていたからだ。七夏ちゃんが起こしに来てくれて、朝食を頂いて・・・これが「いつもの事」のようになりつつある喜びとは裏腹に、気になる事も大きくなってくる。光が明るく強くなれば、落ちる影も、よりはっきりと形作られるという事だ。俺は七夏ちゃんに今の心境を悟られないよう、足早に自分の部屋に戻ってきた。

一緒に居ると、分かる事と、分からなくなる事がある。民宿風水でお世話になり一週間。ふたつの虹を持つ七夏ちゃんの性格が、ある程度分かってきたつもりではいたが、その本心は分からなくなってきている。近づき過ぎると見えなくなる事以外にも、一緒に過ごす時間が長くなると、見えなくなってくる事もあると言えるのかも知れない。全てを知りたいと追い求めるのは、贅沢な事なのだろうか?
七夏ちゃんの事をもっと知れば、結論が出るのかも知れない。とにかく、ここでの明確な目的が見えてきた事は確かだ。七夏ちゃんの笑顔の写真を撮って、アルバムを作る事。その為には、七夏ちゃんにとって、本当に楽しくて幸せに思ってもらえる事を探す必要がある。

七夏ちゃんにとって、幸せな事とは、何なのだろうか?
とにかく、七夏ちゃんと一緒に過ごす時間を増やせば、見えてくると信じたい。

しばらく考えて、気持ちの整理も出来たので「いつもの事」のように、七夏ちゃんの顔を見にゆくことにする。
居間へ移動すると、七夏ちゃんが何かを作っているようだ。

時崎「おや? 七夏ちゃん、おにぎり作ってるの?」
七夏「はい♪ おむすびです☆ 柚樹さん、お腹空きました?」
時崎「いや、それは、まだ大丈夫だけど・・・」
七夏「もう少し、待っててくださいね☆」
時崎「ああ。ありがとう」

俺は、七夏ちゃんが、手際よくおにぎりを作っている様子に、少し興味を持った。

七夏「??? えっと、どうかしました???」
時崎「とても、手際がいいなと思って」
七夏「くすっ☆」

おにぎりを作っている七夏ちゃんは、とても楽しそうだ・・・それを見ていると俺も何か出来ないかなと、机の周りをぐるりと見回す・・・おにぎりの具は梅干、かつお、こんぶ、たらこ・・・と定番のものから、ジャコ? と・・・これは、なんだろう? その具を覗き込んでいると、

七夏「あ、えっと、それは、刻みうなぎさんです♪」
時崎「う、うなぎ!?」
七夏「土用ですので♪」
時崎「ん? 今日土曜日だったかな?」
七夏「そうじゃなくて、夏の土用(丑の日)です♪」
時崎「なるほど!」

うなぎのおにぎりは食べたことが無いので、今からちょっと楽しみなのだけど、いつも作ってもらってばっかりで、申し訳なくなってきた。俺にも何か出来る事はないかな・・・。

時崎「七夏ちゃん!」
七夏「はい!?」
時崎「俺にも何か手伝える事ってないかな?」
七夏「え?」
時崎「いつも見てるばっかりで申し訳なくて・・・」
七夏「それは、柚樹さんは一応、お客様ですから♪」
時崎「そ、それはそうなんだけど・・・」

俺は、七夏ちゃんから「お客様」って言われると、少し切なくなる事に気付き始めていた。

七夏「柚樹さん?」
時崎「え?」
七夏「柚樹さんも、作ってみます? おむすび・・・」

俺の表情の変化から心を読まれたのか、七夏ちゃんはそう尋ねてきた。

時崎「手伝ってもいいの?」
七夏「はい♪ 助かります☆」
時崎「ありがとう。失敗したら自分で食べるから」
七夏「失敗しないように、私が頑張ります!」
時崎「じゃあ、よろしくお願いします」
七夏「はい☆ よろしくです☆ では、柚樹さん、手をよく洗って来てください」
時崎「分かったよ」

こうして、七夏ちゃんと一緒におにぎり・・・いや、おむすびを作る事になった。台所で手を洗いながら、七夏ちゃんが作っていたおむすびの手順を思い出す。ごはんをにぎり、具を入れて、更に、にぎり固めて海苔を巻く・・・これだけの事だから余程の事が無い限り、形はともかく大幅に味を損ねる事は無いだろう・・・そう思っていた。

七夏「じゃあ、柚樹さん、ここに来てください」
時崎「ああ」

俺は、七夏ちゃんの隣に来て、辺りの様子を再確認する。

七夏「柚樹さん! 手を出してください」
時崎「こ、こう?」
七夏「はい♪」

七夏ちゃんは、俺の差し出した手に軽く塩を振ってくれた。お料理レベルが1上がったような気がした。

七夏「えっと、ごはんをよそって、こんな形の窪みを作って、その窪みに具を入れて、ご飯を包むように結びます。そして、最後に海苔を巻きます♪」

さっきも見ていたけど、とても手際がいい。俺が手伝うと確実に足を引っ張るなーと思ってしまうが、もう前進しかないっ!

七夏「海苔の巻き方は、入れた具によって変えておくと、後で迷わなくて済みますけど、柚樹さんは、ご自由に巻いてくださいね♪」
時崎「ありがとう」

俺は、七夏ちゃんが行っていたように、桶からご飯をしゃもじですくい、手に乗せた。

時崎「あ、熱っ!!」
七夏「ひゃっ!!」

予想以上のごはんの温度に驚き、俺は反射的にご飯を桶の中に放り戻してしまった。

七夏「ゆ、柚樹さん! 大丈夫ですか!?」
時崎「す、すまない。ちょっと驚いて大声を出してしまった」
七夏「すみません。『ごはん熱いですから気をつけてください』って言うのを忘れてました」
時崎「いや、七夏ちゃんを見てると、ごはんがこんなに熱いなんて思えなかったよ」
七夏「私は慣れてますから・・・本当にすみません。火傷しませんでしたか?」
時崎「それは大丈夫」
七夏「良かった」
時崎「しかし、このままでは・・・」
七夏「柚樹さん、こうしてください」

そう言うと、七夏ちゃんは、手をパチパチと叩き出した。それは、いわゆる拍手だ。俺はその拍手の意味が分からなかったけど、ここでは七夏ちゃんに言われたとおり一緒に拍手をする。
パチパチパチパチパチパチパチ・・・・・。

七夏「そのまま、続けててくださいね☆」
時崎「あ、ああ」

俺がパチパチと拍手を続けている間に七夏ちゃんは、再びおむすびを作りはじめる・・・なんだこれは? 俺は七夏ちゃんがおむすびを作るのを拍手で応援しろという事なのか!?この構図を他人が見ると、そういう風にしか見えないよ・・・いや、どう考えてもっ!!!

七夏「柚樹さんっ!」

おむすびをひとつ作り終えた七夏ちゃんが、声を掛けてきた。

時崎「え!? な、何?」
七夏「ごはん、よそってください!」
時崎「あ、ああ」

何かもう訳が分からなくなってきたけど、俺は七夏ちゃんに言われたとおり、桶からご飯をよそう・・・

時崎「あれ? 熱くない!?」

先程から、多少の時間経過はあるが、そんなにすぐに桶の中のご飯が冷めるとは考えにくい・・・これは一体・・・そう考えていると---

七夏「柚樹さんっ! 急いでごはん、むすんでください!」
時崎「え!? あ、ああ。すまない」

俺は、七夏ちゃんが行っていたようにむすんで、窪みを作る・・・。

七夏「具は何にしますか?」
時崎「じゃあ、うなぎで」

俺がそう言うと、七夏ちゃんは、具の刻みうなぎを手に取り、俺の作った窪みに乗せてくれた。

七夏「はい☆」
時崎「ありがとう」
七夏「後は、こうして・・・」

そう言いながら七夏ちゃんは、俺の手を外から優しく包むように補助してくれた。七夏ちゃんの手の温もりが伝わってくるのが心地よい・・・その手の温もりが、おむすびの温もりと混ざってしまうのが、勿体無いと思ってしまう。

七夏「はい♪ こんな感じです☆」
時崎「・・・・・」
七夏「??? 柚樹さん? どうかしましたか?」
時崎「いや、手を添えてくれて、ありがとう」
七夏「くすっ☆ 力加減を伝える為には、この方法が一番なのです☆」
時崎「なるほど」

今までも色々な意味で七夏ちゃんには驚かされているが、その行動一つひとつに、ちゃんと意味があるんだなと、改めて思ってしまう。

七夏「後は海苔を巻いてくださいね。あ、海苔は無くてもいいですよ☆」
時崎「ああ、分かったよ」

こうして、俺は七夏ちゃんのおむすび作り、なんとか手伝えたかな。おむすび作りが単純で簡単だという思いは払拭された。七夏ちゃんくらい手際よく作るには相当な訓練が必要だと実感した。

凪咲「あら、柚樹君?」
時崎「あ、凪咲さん。お疲れ様です」
七夏「今日は柚樹さんが、おむすびを作るの手伝ってくれて、助かってます♪」
凪咲「まあ、ありがとう。柚樹君!」
時崎「いえいえ。手伝うどころか、七夏ちゃんの足を引っ張ってしまって・・・」
七夏「そんなことは・・・感謝してます!」
凪咲「それで、台所が賑やかだったのね」
時崎「騒がしくて、すみません」
凪咲「賑やかな事は歓迎します!」
時崎「ありがとうございます」

・・・で、結果的に七夏ちゃんの作ったおむすびと、俺の作ったおむすびは、一目瞭然で分かる差がある・・・というか時間の経過で差が出てしまった。形の不揃いもそうだが、俺の作ったおむすびは巻いた海苔が剥がれかけている・・・。七夏ちゃんが素早く作っていた理由がここにあったのかも知れない。ごはんが冷めない間に海苔を巻く工程まで辿り着けないと、ご飯と海苔がしっかりとくっつかないという事か・・・七夏ちゃんにコツを聞いてみようかと思ったが、おむすび作りだけでなく、七夏ちゃんの事を聞かなくても分かるように努力しようと思う。

 ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆

昼食は「おむすび」・・・今回は、俺の作ったおむすびも一緒に並んでいるが、いつも七夏ちゃんが作ってくれていたのだと、改めて感謝する。

七夏「いただきまーす♪」
凪咲「では、頂きますね」

凪咲さん、七夏ちゃんは、俺の作った不揃いで海苔が剥がれかけているおむすびを手に取り口に運んでくれている・・・俺は、申し訳ないと思いつつも、感謝の気持ちが上書きされてゆく喜びを実感した。

七夏「ん! 美味しく出来てます☆」
凪咲「あら、美味しい! うなぎ!?」
七夏「はい☆ あ、柚樹さんもどうぞ!」
時崎「ありがとう」

自分で作ったおむすびを「美味しい」と言って食べてくれる・・・今まで味わった事のない、こそばゆく、恥ずかしい感覚に、どうコメントしたらいいのか分からなくなる。七夏ちゃんが作ってくれたお料理を、俺が美味しいと言った時の、七夏ちゃんの嬉しくも恥ずかしそうな表情と、同じ気持ちと感覚であろう何かが、俺の心の内側から満たされてきた。

<<七夏「お料理は楽しいです♪」>>

以前そう話してた、七夏ちゃんの気持ちが、心の内側から分かった事が、何よりも嬉しかった。

七夏「柚樹さん? どうかしました?」
時崎「おむすび作りって、面白いなと思って」
七夏「え?」
時崎「まさか、拍手するとは思ってなかったから」
七夏「くすっ☆ 拍手をすると、ごはんが熱く思えなくなりますので」
時崎「拍手にそんな意味があったとは・・・」
凪咲「柚樹君、拍手で七夏の応援だと思ったのかしら?」
時崎「はい!! まさにそれです!!!」
七夏「お、お母さん!!!」
凪咲「懐かしいなーと思ってね」
七夏「・・・・・」

なるほど。おむすび作りに拍手は、凪咲さんから七夏ちゃんへのバトン・・・という事か。そして、俺は七夏ちゃんからバトンを受け取った事になる・・・このバトンは誰にも渡したくない・・・そんな事を考えている自分に気付き、心拍数が追いついてくるようだった。俺が本当に追いかけたいのは虹ではなく・・・それは---

時崎「ところで『おむすび』なんだね?」
七夏「え!?」
時崎「『おにぎり』じゃなくて・・・」
七夏「あ、はい☆ おむすびです♪ ご、ご縁を結ぶという意味です♪」
時崎「なるほど・・・」
七夏「えっと、お母さんの受け売り・・・です・・・」
時崎「な、なるほど・・・」

七夏ちゃんや、凪咲さんとのご縁が今後も続いてほしいと思う。七夏ちゃんと一緒に結んだおむすびは、形は不揃いでも、味はとても優しかった。

時崎「ごちそうさまでした」
七夏「はい☆ ごちそうさまです♪」
凪咲「柚樹君、ありがとう。美味しかったわ!」
時崎「そんな・・・お粗末さまです」
七夏「くすっ☆」
時崎「七夏ちゃん?」
七夏「はい?」
時崎「午後から時間あるかな?」
七夏「えっと・・・ごめんなさい。まだちょっと宿題が残ってて・・・」
時崎「そう・・・じゃあ、俺は、ちょっと出掛けてくるよ」
七夏「はい☆」

俺は、アルバムの素材として使える写真を撮影しに、出かける事にした。

☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ 

時崎「昼過ぎに虹は現れない・・・か・・・」

ブロッケンの虹がよく現れる場所・・・ここで、ブロッケンの虹を撮影したのが随分前の事のように思える。七夏ちゃんは、ブロッケンの虹の事を知らないようだった。この街に住んでいるのなら、この場所の事は知っていると思うのだが、虹に関する場所なので、七夏ちゃんにとって辛い思い出がある可能性も否定できない。とりあえず俺は、コントラストが良いこの風景を撮影しておく。七夏ちゃんがこの場所に辛い思い出が無い場合、アルバムの素材として使えるかも知れない。

どのくらい空を眺めていたのだろう・・・本来の予定なら、この場所に結構来る事を覚悟していたのだが、今はもっと大切な事がある。必要な素材を撮影し、買い物を済ませた俺は、民宿風水に戻る事にした。

☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ 

民宿風水に戻る。居間に七夏ちゃんが居るようだ・・・と、同時に鼻を突く薬品のような香りを微かに感じた。

七夏「あ、柚樹さん、お帰りなさい」
時崎「ただいま。七夏ちゃん。何をしているの?」
七夏「えっと、お掃除です」
時崎「お掃除?」

七夏ちゃんの手元には、小さな蒸気機関車と綿棒・・・これは、鉄道模型というやつかな・・・それを、七夏ちゃんが掃除しているという事は、もしかして・・・。

七夏「??? 柚樹さん、どうかしました?」
時崎「ちょっと、訊いていいかな?」
七夏「はい」
時崎「七夏ちゃんって、鉄道好き?」
七夏「え? まあ、好きか嫌いかで言えば、好き・・・かな?」
時崎「じゃあ、好きか嫌いか普通で言えば?」
七夏「えっと・・・普通・・・です」
時崎「そ、そう・・・普通・・・か・・・」
七夏「あ、これは、お父さんの趣味で、お掃除は、時々私もお手伝いしてます☆」

七夏ちゃんは、俺の質問の意図を理解したらしく、そう答えてくれた。なるほど、鉄道模型は、七夏ちゃんのお父さんの趣味・・・という事か。いや、別に七夏ちゃんの趣味が鉄道模型だったとしても、構わないと思うけど。七夏ちゃんは、お父さんのお手伝いとして模型の掃除を行っているようだ。凪咲さんのお手伝いも行っている事を考えると、然程不自然な事ではない・・・か。模型の掃除をしている七夏ちゃんを見ると、特に模型の底面・・・車輪を入念に掃除しているようだ。

時崎「車体の底面も入念に掃除するんだね」
七夏「え?」
時崎「底面ってあまり見えないのに・・・と、思ってね」
七夏「あ、この模型さんは、車輪から電気を受けて走りますので」
時崎「車輪から電気?」
七夏「はい。線路に電気が流れていて、それを車輪で受けて走ります」

俺は、七夏ちゃんの言っている事が、ちょっと分からなかった。

七夏「柚樹さん。こっちに来てくれますか?」
時崎「あ、ああ」

七夏ちゃんについて行くと、そこは、七夏ちゃんのお父さんの部屋だろうか・・・今まで入った事が無い部屋だ。民宿とは言っても、自分が案内された場所以外は入らないから、そう考えると、まだ知らない事が沢山ありそうだ。

七夏「柚樹さん。どうぞ☆」
時崎「おっ! これは!?」

そこには、部屋の片隅、畳一畳ほどの大きさの場所に、小さな線路が敷かれていた。それを見た俺は、幼い頃に、青色のレールの上を走る電車のおもちゃで遊んでいた記憶が蘇ってきたが、ここにあるのは、もっと本格的なやつだ。七夏ちゃんが、先程掃除していた蒸気機関車の模型を、何かヘラのような物を使って線路に乗せる。そして、手元にあるコントローラーのようなつまみをゆっくり動かすと、先程の蒸気機関車が、ゆっくりと走り出した。

時崎「あ、動いた!」

精密な模型が、ゆっくりと動き出した時は、ちょっとした感動を覚えた。模型をよく見ると、ヘッドライトも光っているようで、小型ながら、なかなかの迫力がある。しばらく、その模型に見入ってしまっていた。

七夏「柚樹さんも、動かしてみます?」
時崎「え?」

俺は、七夏ちゃんから動かし方を教えてもらい、ゆっくり走っている蒸気機関車の操作を行ってみる。なるほど、この模型は線路に電気が流れ、機関車の中にあるモーターを回して走るようだ。俺が知っている電車のおもちゃは、機関車の中に電池とモーターが入っていた為、外部から制御する事は出来なかったが、この方式なら外部から速度や進行方向の制御ができるという事か・・・。機関車の動かし方と言っても、速度の調節と、進行方向くらいなので、覚えるという程の事ではない。俺は、しばらくその蒸気機関車を動かし、眺めていると、童心に帰る感覚を覚えた。

七夏「柚樹さん?」
時崎「え!?」

しばらく、その模型に夢中になっていたようだ。

七夏「くすっ☆ 男の人って、こういうの・・・好きなのですね☆」
時崎「うぅ・・・すまない」
七夏「私は、別にいいと思います♪」
時崎「七夏ちゃんは、鉄道模型の掃除を頼まれたりしてるの?」
七夏「はい。出来る時に、時々ですけど」
時崎「特に鉄道模型が好きという訳ではないのに?」

俺がそう言うと、七夏ちゃんは奥の棚から、ひとつの蒸気機関車の模型を持ってきた。ぱっと見では今、俺が動かしている模型とそんなに変わらないように見えたが、注意深く見てみると、機関車の先頭付近、片方の部品が折れていて、修復を試みた形跡がある。

時崎「これは・・・?」
七夏「この模型さん、幼い頃に、私が落として壊してしまって・・・」

七夏ちゃんが続ける・・・。昔、お父さんの部屋で遊んでいた時に、過ってこの模型を落としてしまったらしい。それを、なんとか修復しようと試みたが、当時の七夏ちゃんでは無理だったようで・・・

-----当時の回想1-----

七夏「ひゃっ! あっ! ど、どうしよう・・・」

落としてしまった模型は、一部が破損していた。七夏ちゃんは、それを接着剤で修復しようとするが、上手く行かない。色々と手を尽くしてはみるが、時間ばかりが経過してゆく・・・七夏ちゃんは、どうしたらいいのか分からず、その場で今にも泣きそうな状態を必死に堪えていた・・・。

直弥「ただいま」
七夏「!!!」

七夏ちゃんのお父さんが帰って来た事が分かり、一気に涙が溢れてきた。

直弥「七夏!? どおした?」
七夏「お父さん・・・ごめんなさい・・・これ・・・」

七夏ちゃんが、壊してしまった模型を、お父さんに見せる・・・。

直弥「あっー! 門デフがっ!」
七夏「ご、ごめんなさいっ!!!」

----------------

七夏「私、お父さんが大切にしている模型さんを壊してしまったから、絶対怒られると思って・・・」
時崎「え? 怒られなかったの?」
七夏「えっと、怒られました・・・」
時崎「やっぱり・・・」
七夏「でも・・・」

七夏ちゃんが続ける。

-----当時の回想2------

直弥「七夏」
七夏「はい・・・っ!」

七夏ちゃんのお父さんは、七夏ちゃんをギュッと抱きしめる。

七夏「っ! お、お父さん!?」
直弥「七夏、壊してしまった事は良くない事だけど、その後の行動が大切なんだよ。七夏は、なんとか修復しようとしてくれたみたいだし、何より、今まで辛かったんじゃない?」
七夏「・・・ごめんなさい・・・お父さんの大切な模型さん・・・」
直弥「模型も大切だけど、七夏の方がもっと大切だから、もう泣かないで、これからの事を考えよう」
七夏「・・・これからの事・・・?」

 ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆

直弥「・・・という訳で、これを、修理しようと思うんだけど・・・」
七夏「お母さん・・・ごめんなさい」
凪咲「仕方がないわねー」

-----------------

時崎「あれ? ちょっと待って。修理したはずなのに、手元にある模型は壊れたままだけど!?」
七夏「はい。この模型さんは、修理されなかったのです」

-----当時の回想3------

直弥「ただいま」
凪咲「お帰りなさい。どうだったのかしら?」
直弥「結論から言うと、新しいのを買った」
凪咲「え!?」
直弥「実は、相談したら、車体の交換になってしまうとの事で」
凪咲「新しいのって、結構高くついたのでは?」
直弥「ま、まあそうなんだが・・・」
凪咲「もぅー」
直弥「修理しようかと考えたんだが、これは、七夏の直そうとしてくれた想いが詰まっているから、交換されてしまうのはちょっと・・・って、思ったんだよ」
凪咲「そう・・・なら、七夏に少し感謝ね」
直弥「まあ、そういう事になるかな・・・」
七夏「あ、お父さん。おかえりなさい。模型さん直ったのかな?」
直弥「いや、新しいのを買って、壊れた模型は大切に取って置く事にしたよ」
七夏「え!? どおして? あんなに大切にしていたのに、直さなくていいの?」
直弥「ま、まあ・・・その・・・あれだ」
凪咲「~♪」
七夏「???」
直弥「まあ、新しいのは門デフじゃない壊れにくいのを選んだよ。七夏もちょっと模型の扱い方を覚えてもらおうかな」
七夏「・・・はい」

----------------

七夏「・・・という事で、時々、模型さんのお掃除をお手伝いするようになりました」
時崎「なるほど。良いお話をありがとう。鉄道模型にも、ちょっと興味が出てきたよ」
七夏「くすっ☆」
時崎「七夏ちゃんのお父さんは、車掌さんだったよね」
七夏「はい☆ お父さん・・・本当は列車の運転士さんに、なりたかったみたい」
時崎「そうか・・・それで・・・」
七夏「でも、車掌さんのお仕事も充実してるって話してます☆」
時崎「列車に関われるお仕事だからかな?」
七夏「はい☆」

七夏ちゃんの家に、鉄道模型や列車の運転ゲームがある理由が分かった。どちらも列車の運転が出来るという共通点がある。七夏ちゃんのお父さんが、列車の運転士になれなかった理由・・・なんとなくの憶測ではあるが、それは、七夏ちゃんの虹の色への認識が答えになっているのかも知れない。そうだとしても、俺が訊く必要は無い事だ。

時崎「ところで、どおして模型の掃除をここじゃなくて、居間でしていたの?」
七夏「それは、居間の方が、風通しが良いからです♪」
時崎「風通し?」
七夏「はい。お掃除には薬品も使いますので」
時崎「なるほど!」

民宿風水に帰って来た時、鼻を突いた香りの理由が分かった。
・・・七夏ちゃんが、ガチの鉄道マニアでなかった事に、ちょっと安心感を覚えたのは、内緒にしておこうと思ったりした・・・。いや、別に鉄道マニアでも構わないんだけどね。

七夏「明日と明後日は、出来そうに無いから今日、模型さんのお掃除なのです♪」
時崎「確か、天美さんと海へ遊びに行くんだったね」
七夏「はい♪ あっ、その事でお母さんから聞いたのですけど、柚樹さんも一緒に来てくれるのですか?」
時崎「ああ。邪魔にならなければ・・・荷物持ちでも何でもするよ!」
七夏「ありがとうございます!」
時崎「あと、写真をお願いすると思うけど、大丈夫かな?」
七夏「はい♪ 明日は、ここちゃーと、もう一人、お泊りに来ますから、ちょっと騒がしくなるかもです」
時崎「え!? もう一人???」
七夏「はい♪ とっても優しくて、綺麗な先輩です!」
時崎「そうなんだ。七夏ちゃんが綺麗って言うくらいだから相当なんだろうね」
七夏「くすっ☆ はい♪ 柚樹さん、見惚れてしまうかもです☆」
時崎「そこまでとは! 楽しみにしておくよ!」
七夏「はい♪ またその時に、紹介しますね☆」

ちょっと気になる事が・・・この場合、一般的には・・・と、言ってしまっていいのか分からないが、女の子が自分よりも可愛い子を「可愛い」と言うかどうか・・・だ。「綺麗」の場合は、どうなのだろう・・・まあ、それ以前に、七夏ちゃんは素直なタイプだから期待するなという方が無理だと思う。先輩と言う事は、七夏ちゃんより年上って事になる。いずれにしても、七夏ちゃんの大切な人の事を知るという事は、俺にとっても大切な事になってくると、思うようになっていた。

第十五幕 完

----------

次回予告

ふたつの虹は十分魅力的だ。そんな、ふたつの虹を持つ少女が魅力的だという存在とは?

次回、翠碧色の虹、第十六幕

「虹を映す少女」

俺は、みっつめの不思議な虹に出逢う事になる。

幕間十:物忘れがヒドイ

幕間十:物忘れがヒドイ

心桜「つっちゃー、今日もお便りが届いてるよ!」
七夏「わぁ☆ いつもお便りありがとうです♪」
心桜「じゃ、早速読んでみるよ!」
七夏「はい☆」
心桜「えーっと『七夏さん心桜さん、こんにちは。私、物忘れが凄くひどくて、例えばお出かけした直後に、家の鍵閉めたかなーって不安になったり、封筒にお手紙入れたのに、ポストの前でお手紙入れたか不安になったり・・・他にも、二階から一階に物を取りに行って、一階で何を取りに来たか思い出せなくなったり・・・どうすれば物忘れが直ると思いますか?』・・・んー、物忘れかー。つっちゃーはどう思う?」
七夏「私も物忘れはあります。お買い物帳を忘れて、お店で何を買えばいいのか分からなくなったり・・・」
心桜「それ、なんか微妙ーに違う気がするけど・・・なんだろ?」
七夏「忘れ物?」
心桜「それだっ! 物忘れって言うのはあれだよあれ・・・みたいに思い出せないような事」
七夏「実体が無い事?」
心桜「思い出せたら実体はあるんだけどね・・・そう、あれだよ、ほら、あれ・・・分かるでしょ?」
七夏「あっ、あれの事ですね!」
心桜「そうそう! ・・・って、分かるんかいっ!!」
七夏「物忘れの事ですよね!」
心桜「そうなんだけど、あーなんかもう、訳が分からなくなってきたよ」
七夏「そう言えば、この前、知らない人に声を掛けられて・・・」
心桜「うぉー!! つっちゃーナンパされたの!?」
七夏「そ、そうじゃなくて、私は知らない人なのですけど、声を掛けてきた人は私の事を知っているみたいで・・・私、その人の事忘れているのかなーって思って一生懸命思い出そうとしたのですけど・・・」
心桜「あー、あたしだよ、あたしっ!!・・・って、言われても、相手の名前が出てこない・・・ってやつか」
七夏「はい。一生懸命思い出そうとしたのですけど・・・」
心桜「そういう時は、単刀直入に『名前』を訊くといいよ」
七夏「それって、失礼にならないかなー」
心桜「ここでのポイントは『名前』なんだよ」
七夏「???」
心桜「まず、『ごめん、なんて名前だったっけ?』と訊くと、例えば『時崎です』・・・と、苗字が分かるよね?」
七夏「はい・・・って、どおして柚樹さんの名前が!?」
心桜「まあまあ・・・そこで、『あ、苗字は分かってるんだけど、名前が思い出せなくて・・・ごめん』と続け、名前も教えてもらう」
七夏「なるほど☆」
心桜「『名前が分からない』という事なら、相手もそんなに傷つかないと思うよ。さらに随分変わった(綺麗になった/格好よくなった等)から分からなかったよ・・・と彩を添えてあげれば完璧!」
七夏「ここちゃー、凄いです!」
心桜「しかし、この方法は弱点もあるよ」
七夏「え!?」
心桜「同じ相手に二度使えない」
七夏「さすがにそれは・・・」
心桜「んで、つっちゃーは、その人の事、思い出せたの?」
七夏「いえ・・・。以前にご宿泊くださったお客様だったのですけど、私はお話した記憶が無くて、でも、その人は私の事を覚えててくれたみたいで・・・」
心桜「なるほどねー。つっちゃーは、一度見たら忘れられない魅力があるからね~」
七夏「そんなのないよー」
心桜「あるよーって・・・ちょっと本題に戻さないと」
七夏「本題?」
心桜「つっちゃー、まさかの物忘れですか!?」
七夏「えっと・・・物忘れがひどいという事でお悩みのご相談ですね」
心桜「なんとか、首の皮一枚つながっていたか・・・」
七夏「ここちゃー、それって、事実上つながってないって意味になります」
心桜「あははー。だからこそ、あたしが繋げてしんぜよう!」
七夏「いつの時代の人なの?」
心桜「まあまあ、んで、物忘れにはもうひとつあって『忘れるという事は、今の自分にとって必要の無い事』と考える事もできるよね。大切な事って忘れないはずだから。忘れる事も成長なんだよ」
七夏「忘れる事を記憶される・・・のかな?」
心桜「なかなか難しいね。他にも忘れている方が良い事もあるよ」
七夏「どんな事?」
心桜「例えば、懸賞! 応募した事を忘れている方が当選したりしない?」
七夏「そう言われれば・・・」
心桜「ま、懸賞に関しての確証はないんだけど、あたし個人的にはそんな気がするよ」
七夏「意識しない方が、滑らかに事が進みそうですね!」
心桜「そうそう、幸運の女神様は無欲な心の人に惹かれるんだと思うよ」
七夏「忘れる事で良い事もあるんですね☆」
心桜「そゆこと! そんな訳で、ちょっと物忘れるくらいの方が可愛くて親近感があるなーと思う私たち『ココナッツ』でした!」
七夏「お便り、ありがとうございました♪」

幕間十 完

------------

幕間十をお読みくださり、ありがとうございました!
本編の方も、どうぞよろしくお願い申しあげます!

第十六幕:虹を映す少女

蝉の目覚ましに起こされる・・・民宿風水の朝は、目覚まし時計よりも先に蝉が鳴き始める・・・。夏限定の事だろうけど、蝉が元気な季節は、目覚まし時計にも夏休みがあってもいいのかも知れない。
蝉は元気そうだが、俺は夜遅くまでフォトアルバムの作成/編集作業を行っていた為か、まだ少し眠い・・・二度寝をするのも考え物か・・・とにかく起きるっ!

七夏「あ、柚樹さん! おはようございます!」
時崎「おはよう! 七夏ちゃん!」

部屋から出て、一階の居間へと向かう・・・階段を下りた所で、七夏ちゃんと、今日初めて出逢う・・・。

七夏「くすっ☆」
時崎「? どうかした?」
七夏「えっと、柚樹さん・・・頭にねぐせ・・・あります☆」
時崎「え? 寝癖・・・直してくるよ」
七夏「はい☆」

洗面所で顔を洗う・・・鏡を見ると頭にフックのような寝癖が出来ているので整える・・・が、これが、なかなかの曲者で・・・さすが「癖」と言われるだけの事はある。俺が寝癖と戦っていると---

七夏「柚樹さん! これ、どうぞ☆」
時崎「え?」

七夏ちゃんが蒸しタオルを用意してくれた。

七夏「蒸しタオルを使うと効果的です♪」
時崎「ありがとう」

七夏ちゃんも寝癖は蒸しタオルで整えているのだろうか・・・。

七夏「朝食、もうすぐですので☆」
時崎「ありがとう」

蒸しタオルで寝癖を整える・・・確かにこれは効果的なようで、寝癖はすんなりと収まってくれた。

凪咲「おはようございます」
時崎「おはようございます! 凪咲さん!」
凪咲「七夏なら、お庭かしら♪」
時崎「え!?」

俺は無意識に七夏ちゃんを目で探していたようだ。

凪咲「朝食、出来てますから、どうぞ!」
時崎「ありがとうございます!」

七夏ちゃんがお庭から戻ってきた。

七夏「あ、柚樹さん! ねぐせ、直りました♪」
時崎「ありがとう! 七夏ちゃん、助かったよ」
七夏「くすっ☆」

七夏ちゃんから借りていたタオルを返す。

時崎「七夏ちゃん!」
七夏「はい!?」
時崎「朝食、まだなら一緒にどうかな?」
七夏「はい☆ ありがとうございます!」

七夏ちゃんと一緒に朝食を頂く・・・毎日、こんなに「朝食らしい朝食」を頂ける事に感謝する。この中に七夏ちゃんが作ってくれたお料理もあるのだろうか? いちいち訊くのもどうかと思うので、自分の舌で判断する。

時崎「このタマゴ焼き、柔らかくておいしい!」
七夏「はい♪ お母さんのダシ巻き、とってもふんわりです☆」

なるほど。これは凪咲さん作のダシ巻き・・・という事か。

時崎「毎日、これだけの朝食を用意するのって大変じゃない?」
七夏「えっと、ご飯とお味噌汁は、毎朝作りますけど、いくつかは予め作っているお料理もあります」
時崎「そうなんだ」
七夏「ひじき、お魚、お豆腐・・・かまぼこは、切るだけですし、お漬物は、そのまま盛りつけるだけで・・・」
凪咲「七夏!」
七夏「ひゃっ☆ ごめんなさい!」

凪咲さんが苦笑いしながら、七夏ちゃんに声を掛けた。恐らく七夏ちゃんの話した内容に対する注意・・・という事だろう。七夏ちゃんは俺が「毎朝大変じゃない?」と話した事に対して「心配しないで」という意味で答えてくれたのだと思う。

凪咲「柚樹君、ごめんなさいね!」
時崎「いえいえ。ちょっと安心しました」
七夏「・・・す、すみません」

凪咲さんに、軽く注意された七夏ちゃんを見て、ちょっと可愛いと思ってしまったが、この原因を作ったのは俺だ。

時崎「こっちこそ、余計な事を訊いてしまってごめん」
七夏「いえ・・・」

このままでは、よろしくないので、話題を変える!

時崎「そう言えば、今日は、天美さんが来るんだよね!」
七夏「え? あっ、はい☆」
時崎「何時ごろに来るの?」
七夏「えっと、お昼前だと思うのですけど・・・」
時崎「・・・と、いう事は・・・」
七夏「???」

俺は、急いで朝食を食べ始める・・・。

七夏「ゆ、柚樹さん? 急にどおしたのですか?」
時崎「ごめん、ちょっと急ぐ・・・」
七夏「え!?」

今日、天美さんが来るという事は、あの時、言われた事を証明する機会だ。

<<天美「じゃ、あたしに勝てたら、いいのあげるよ♪」>>

先日、音楽ゲームで天美さんの点数より高い記録を出してはいるが、天美さんに勝つというのが点数の事をさしているのかどうか分からない・・・もしかすると「対戦で勝つ」という意味かも知れないからだ。

時崎「ごちそうさま! 七夏ちゃん!」
七夏「は、はい!?」

七夏ちゃんは、不思議そうな目で俺を見ている。

時崎「七夏ちゃん! 居間のテレビとPS、借りていいかな?」
七夏「え!? えっと、はい! どうぞです☆」
時崎「ありがとう!」

俺は、居間の大きなテレビへと移動した。
早速、PSの電源を投入して、「あの音楽ゲーム」を起動する。

時崎「確か、この曲だったな・・・」

あの時の楽曲を確認する・・・点数も、天美さんに勝っている・・・それ以外の楽曲は、言うまでも無く、天美さんが1位のままだ。もう一曲くらい天美さんに勝っておこうかな。一回だけだと「まぐれ」だと言われかねない。

俺は、楽曲の中から、天美さんの点数の低い音楽を選んだ。この選択は後で誤りだったと気付かされる。天美さんの点数が低いという事は、難易度が高いという事だ。

時崎「うー・・・」

俺が高難易度の音楽に苦戦していると、七夏ちゃんが隣に来てくれた。

七夏「その音楽、ここちゃーも難しいって話してました」
時崎「そうなんだ」
七夏「この音楽で良い点数が取れると、可愛い衣装が貰えるのですけど・・・」
時崎「天美さんでも、無理だったと・・・」
七夏「はい。ここちゃーは10回くらい挑戦しないと無理そうと話してました」
時崎「じ、10回・・・俺もう10回以上、挑戦してるんだけど・・・」

俺は、本気で、この楽曲と向き合う事にした。七夏ちゃんが応援してくれるのが心強い。もっとも七夏ちゃんは、新しいコーディネート用アイテムを試したいというのが、本音らしい。それから1時間程頑張って、なんとか天美さんの記録よりも高い得点を叩き出した。

七夏「柚樹さんっ! 凄いです! ここちゃーを超えました!!!」
時崎「あー、手が痛い・・・天美さん、よくもまあ、1回さらっと遊んだだけで、こんな点数を叩き出したもんだと、今、実感してるところだよ」
七夏「ここちゃーは、運動神経が鋭いですから☆」
時崎「おや、七夏ちゃん! お待ちかねの新アイテムが来たみたいだよ!」
七夏「わぁ☆ とっても、可愛いです!」

俺は、七夏ちゃんにコントローラーを渡す。

七夏「~♪」
時崎「ん? どうしたの?」
七夏「これ、ぽかぽかです♪」

PSのコントローラーは、俺の体温でかなり暖かくなっていたようで、ちょっと大人気なかったかなーと恥ずかしく思ってしまう。
七夏ちゃんは、新しい衣装アイテム・・・『チェック柄のスカート』に合うコーディネートを模索している様子。

時崎「これで、天美さんが来ても、とりあえず大丈夫か・・・」
七夏「柚樹さん、お疲れ様です♪ ここちゃー遅いですね」

七夏ちゃんに言われて時計を見る・・・11時を過ぎていた。すると---

心桜「こんにちわー! つ、つっちゃー。ごめん・・・ちょっと、遅れたっ!」
七夏「ここちゃー、いらっしゃいです! 大丈夫? 息が荒れてます」
心桜「大丈夫、ちょっと走ってきただけだからっ!」
七夏「・・・今、冷たいお茶煎れますね♪」
心桜「はは・・・ありがとー。つっちゃー!」
時崎「天美さん。お疲れ様」
心桜「おっ! お兄さん・・・こんちわー!」
七夏「ここちゃー。はいどうぞ☆」
心桜「ありがと。つっちゃー! ん~生き返るぅ~!」
七夏「くすっ☆」
心桜「んで、二人で何してたの?」
時崎「そうそう! 天美さんに勝ったよ!!」
心桜「ん? あたしに勝ったって? 何の事?」

俺は、テレビの画面を指差す。

心桜「おぉー!! お兄さん! 頑張ったね~!」
時崎「今、ちょっと手が痛いけど・・・」
心桜「あはは! んじゃ、お兄さんっ! 約束どうり、あたしのナイスショットあげる!」
時崎「ん? ナイスショット?」
心桜「そ。家宝推奨だよ!」

そう言って天美さんは、写真を一枚くれた。バドミントンのユニフォーム姿で、体育座りの天美さん・・・短いスカートだが、脚で上手く下着が見えない定番のショットと言えるが、何故この写真を・・・などと考えていると、

心桜「ご安心ください! 穿いてますから!!!」
時崎「ぶっ!!」
七夏「ゆ、柚樹さっ、こ、ここちゃー!!」
心桜「あははっ!!」
時崎「あー、せっかく勝ったのに、勝った気がしない・・・」
心桜「でも、お兄さんは、あたしのより、つっちゃーの方がいいよねっ!!」
七夏「こ、ここちゃー!」

・・・俺は天美さんの第二波に備える・・・もう、その手には乗らない・・・

時崎「もうっ! ガマン・・・するっ!」
心桜「え!? ガ、ガマンするんだ~・・・意外~・・・お兄さん、なかなかの忍耐力だね!!」
時崎「という訳で、この天美さんの写真、スキャンしてMyPadの壁紙に決定~!!」
心桜「げ!? ま、マジ!?」
七夏「ゆ、柚樹さんっ!!!」

七夏ちゃんが少し膨れた顔をしている・・・ちょっと珍しい・・・。

時崎「七夏ちゃんの写真もMyPadの壁紙にするよ!!!」
七夏「え!? そ、そういう事じゃなくって・・・えっと・・・その・・・もう、知りませんっ!!!」

そう言うと、七夏ちゃんは台所へ移動してしまった。

心桜「はーい。ごちうさ~!(ごちそうさま~!)」
時崎「え!?」
心桜「ま、その写真はホントにあげるよ。大切にしてよねっ!」
時崎「あ、ありがとう」
心桜「んじゃ、ちょっと失礼して~・・・つっちゃー! 凪咲さーん」

天美さんも、七夏ちゃんの居る台所へ向かった。

凪咲「心桜さん、いらっしゃいませ!」
心桜「今日は、お世話になります!」
凪咲「こちらこそ! いつも七夏と仲良くしてくれて、ありがとう!」
心桜「いえいえ」

天美さんは凪咲さんに挨拶をしているようだ。今日は宿泊するからなのかも知れないが、そういう所はしっかりしているなーと思う。

テレビの画面に視線を戻すと、俺の叩き出した点数と七夏ちゃんがコーディネートしたキャラクターが表示されていた。ある程度七夏ちゃんの好みが分かればと思い、何となくPSのコントローラーで、そのキャラクターの見る角度を変えたりしていると---

心桜「お兄さん! このキャラクターが好みとか?」
時崎「うわっ!?」

いつの間にか隣に居た天美さんに驚く。

心桜「あははっ!」
時崎「さっき、七夏ちゃんがコーディネートしてたから・・・」
心桜「ふーん・・・なるほどねー。つっちゃー!!」
七夏「はーい☆」

台所から七夏ちゃんの声がする・・・と、七夏ちゃんが和菓子とお茶を持ってきてくれた。

七夏「はい☆ 柚樹さん、ここちゃー、どうぞ♪」
時崎「ありがとう、七夏ちゃん」
心桜「ありがとー!」
七夏「くすっ☆」
心桜「ところで、笹夜(ささよ)先輩は?」
七夏「えっと、お昼過ぎになるって聞いてます」
心桜「そっか。じゃ、それまでどうする?」
七夏「私は、お着替え・・・かな」
心桜「つっちゃー浴衣姿のままだもんねー」
七夏「はい☆ あ、ここちゃー」
心桜「ん?」
七夏「お部屋、案内します☆」
心桜「案内って・・・いつもの部屋でしょ?」
七夏「そのお部屋は今、柚樹さんが・・・」
心桜「あ、そっか!」
時崎「俺、部屋、変わろうか?」
心桜「え!? いいよいいよ別に! ありがと。お兄さん!」
七夏「では、ここちゃー、案内します☆」
心桜「ありがと。つっちゃー! んじゃ、お兄さん、またね~♪」
時崎「ああ」

二人は二階の部屋へ移動する。俺はここで、これ以上ゲームをしている場合ではないな・・・。七夏ちゃんの力になれる事は無いか考える事にしたけど・・・すぐに思い付かない・・・。今すぐに出来て七夏ちゃんが喜んでくれそうな事は、このゲームで高得点を出して、コーディネートアイテムを増やす事くらいか・・・。しかし、今は手が痛い・・・。それよりも、七夏ちゃんに本当の虹を見せる方法が無いか考えを巡らせる・・・。七夏ちゃんにとって本当の虹は「翠碧色の虹」って事になるから、そもそもの言い方が正しくない。七色の虹が七色に見える方法って事になる・・・色が色として感覚されるのは・・・これは目/瞳・・・いや網膜の仕組みを知る必要がありそうだ。

二階から七夏ちゃんたちの会話が聞こえてくる・・・。

七夏「ここちゃー」
心桜「ん?」
七夏「このお部屋でいいかな?」
心桜「お、この部屋は確か・・・」
七夏「? どしたの?」
心桜「えーっと、なんだっけ、アイツは・・・いないか・・・」
七夏「あいつって?」
心桜「あの虫! あたしにタックルしてった奴!」
七夏「あっ、えっと、コメツキムシさん?」
心桜「そう! それ! コメツキムシ!!!」
七夏「別のお部屋にする?」
心桜「いいよいいよ、ここで! 笹夜先輩にコメツキ会わせる訳にはゆかないからね・・・それに別のお部屋って、もうひとつしかないし、笹夜先輩はそっちの部屋で」
七夏「はい☆」
心桜「なんだったら、あたし、つっちゃーと同じ部屋でもいいよ!」
七夏「くすっ☆ はい☆」

普段の七夏ちゃんと天美さんの様子が、少し分かってきた気がする・・・その時---

??「ごめんください♪」

玄関から声がした。お客さんかな?
とりあえず、俺は玄関へ向かう。そこには、白い肌に長い黒髪の綺麗な少女が居た。手には日傘を持っている。

時崎「い、いらっしゃいませ!」
少女「!? は、はい」

その少女は、少し驚いた様子で・・・ん? 黒髪の上で何かが動いた! これは虹!? その少女は、黒髪の上に虹・・・逆さ虹が映っていて、とても綺麗だ。髪に反射した光のハイライト・・・天使の輪なら知っているが、そこに虹を映す人を、俺は今まで見た事が無く、見とれてしまう・・・。

少女「あ、あの・・・」
時崎「!!! す、すみません!!!」
少女「いえ・・・」

少女の声に、自分を取り戻す。その時、

心桜「あっ! 笹夜先輩!!」

天美さんが現れた。助かった・・・前にもこんな事があったような・・・。

少女「心桜さん! こんにちは!」
心桜「こんちわー、笹夜先輩!!」
凪咲「いらっしゃいませ。高月(たかつき)さん、ようこそ風水(かざみ)へ!」
笹夜「この度は、お世話になります♪」
凪咲「こちらこそ、お世話になります。ごゆっくりなさってくださいませ」
笹夜「ありがとうございます♪」
凪咲「それでは、失礼いたします」

凪咲さんは台所へ戻ってゆく。

笹夜「ところで、七夏ちゃんは?」
心桜「つっちゃー今、着替え中・・・」
笹夜「あら、そうなの?」
心桜「んで」

天美さんは、俺の方を見てきた。その意味は、俺でも分かる。

時崎「えっと、時崎(ときさき)柚樹(ゆた)と申します。民宿風水でお世話になってます」
笹夜「はじめまして。高月(たかつき)笹夜(ささよ)と申します。お世話になります」
時崎「よろしくお願いします」
笹夜「こちらこそ、ご挨拶が遅れてすみません」
時崎「いえ」
心桜「あたし! 天美(あまみ)心桜(ここな)って言---」
時崎「それは知ってる!」
心桜「あははーっ!!」
笹夜「???」
七夏「ここちゃー、あ、笹夜先輩! いらっしゃいです☆」

七夏ちゃんが二階から降りて来た。

笹夜「七夏ちゃん、こんにちわ♪ お世話になります♪」
七夏「こちらこそです♪ あ、柚樹さん! えっと、高月笹夜先輩です! 笹夜先輩! えっと、お客様の時崎柚樹さんです☆」
時崎「あ、ああ。よ、よろしく」
笹夜「は、はい。よろしくお願いします!」

七夏ちゃんが、俺と高月さんを紹介してくれた・・・のだが・・・

七夏「???」

さっき、お互いに自己紹介をしたばかりなので、不自然な空気が漂う・・・その時、

心桜「あたし! 天美(あまみ)心桜(ここな)って言---」
時崎「それは知ってる! しかもさっき聞いた」
心桜「あははーっ!!」
笹夜「くすっ♪」
七夏「?????」

俺と天美さんの会話を聞いて、高月さんの表情が、少し柔らかくなった。天美さん、今のは狙ったのだと思う・・・流石という印象だ。

心桜「(ねねっ! お兄さん!)」
時崎「え!?」

天美さんが小声で話してくる。

心桜「(笹夜先輩、とっても綺麗でしょ!!!)」
時崎「(た、確かに・・・七夏ちゃんからは聞いてたけど)」
心桜「(笹夜先輩って、綺麗なだけじゃないよ!!!)」
時崎「(え? どういう事!?)」
七夏「ここちゃー!!」
心桜「え!?」
七夏「笹夜先輩を、お部屋に・・・」
心桜「あ、すいません。笹夜先輩!!」
笹夜「いえいえ」
七夏「笹夜先輩、こちらへどうぞです☆」
笹夜「ありがとう♪ 七夏ちゃん。それでは、時崎さん」
時崎「は、はい!!」
笹夜「失礼いたします」

高月さんは、とてもおしとやかで清楚な印象だ。そして、髪に虹を映す魅力的な少女だ。彼女を一度見たら、忘れられないだろう・・・。

時崎「天美さん?」
心桜「ん?」
時崎「さっき、天美さんが話してた、高月さんが綺麗なだけじゃないっていうのは?」
心桜「あ、それは、そのうち分かると思うよ」
時崎「そのうち・・・か」
心桜「そ。あたしたち、この後、お出掛けなんだ♪」
時崎「そうなの?」
心桜「笹夜先輩、今来たばかりだから、少し休憩してからだけど」
七夏「ここちゃー!」
心桜「おっ! つっちゃーが呼んでるみたい・・・」
時崎「ああ」
心桜「それじゃ!」

そう言うと、天美さんは、二階へと上がってゆく。
明日は七夏ちゃんたちが海へ出かけるのに、俺も同行させてもらう事になっているけど、高月さんに、その事は伝わっているのだろうか・・・。その辺りは七夏ちゃんや天美さんが話をしてくれると思うけど・・・。高月さんとは、たった今、会ったばかりだ・・・見たところ、物静かで人見知りするような印象を受けたが・・・高月さんの事も、もっと知っておく必要がある・・・というか、天美さんの話してた事も気になるので、もっと知りたいというのが本音だ。天美さんや、高月さんを知る事は、七夏ちゃんを知る事になると思う。

さて、とりあえず、居間のPSを片付けておこうかな・・・。俺は玄関から居間へ移動する。PSのゲーム画面は七夏ちゃんがコーデ中の状態だったので、俺は現在の状態を保存し、PSはスタンバイモードにして、テレビの電源を切った。

凪咲「柚樹君!」
時崎「はい!?」
凪咲「今日、お昼食は、どうなさいますか?」
時崎「え?」
凪咲「七夏は、天美さん、高月さんと、外で食べるって話してたから・・・」
時崎「そうなのですか?」
凪咲「はい。ですから、柚樹君も、一緒かしら・・・と思って」
時崎「いえ、明日はともかく、今日は一緒に七夏ちゃんと出掛ける話はしていないので・・・」
凪咲「そう・・・では、こちらで昼食、用意しますね」
時崎「ありがとうございます!」
心桜「お兄さん! 今日はつっちゃーと一緒に来ないの?」

天美さんが二階から降りて来ていたようで、声を掛けてきた。

時崎「今日は特に、七夏ちゃんと出かける約束はしてないけど?」
心桜「え!? なんで?」
時崎「なんでって言われても? なんで?」
心桜「だってさ、さっき、つっちゃーが、これからお兄さんも一緒にお出掛けするみたいな感じで、笹夜先輩に話してたよ?」
時崎「え? そうなの?」
心桜「うん」
七夏「ここちゃー、お出掛けの準備はできたの?」
心桜「あたしは、このまま出かけるつもりだけど、つっちゃー」
七夏「なぁに?」
心桜「お兄さんも、一緒に来るの?」
七夏「はい☆」
時崎「え!?」
七夏「え!?」
時崎「俺も・・・一緒なの!?」
七夏「えっと、そのつもりで、笹夜先輩にもお話したのですけど・・・柚樹さん、何かご予定がありました?」
時崎「それは無いけど、今日、一緒に出掛ける話は聞いてなかったから・・・明日なら聞いてたけど」
七夏「明日・・・あっ! そうでした!! 私・・・すみませんっ!!!」
時崎「いや、別に謝らなくてもいいよ」
心桜「つっちゃー・・・今日も明日もごっちゃになってるね・・・」
七夏「うぅ・・・すみません・・・」
心桜「んじゃ、今日は、お兄さんも一緒って事で!」
時崎「そういう事なら、よろしく! 七夏ちゃん!」
七夏「はい☆ ありがとうございます☆」
時崎「荷物持ちでも何でもするよ!」
七夏「くすっ☆ 頼りにしてます☆」

俺は凪咲さんに、お昼は七夏ちゃんと一緒に外で頂く事を話した。

笹夜「お待たせしました♪」

高月さんも姿を見せた。黒髪に映る虹が気になるけど、俺はその事には触れない事にする。理由は、七夏ちゃんには高月さんの虹が、どのように見えているのか分からないから・・・。

七夏「笹夜先輩! 少しお休みしてからにしますか?」
心桜「確かに、笹夜先輩、さっき着いたばっかりだからね」
笹夜「ありがとう。七夏ちゃん、心桜さん」

高月さんに何を話せばいいのか分からず・・・困っていると、

心桜「お兄さん!」
時崎「え!?」
心桜「笹夜先輩があまりにも綺麗だからって、見とれてちゃダメだよ!」
七夏「こ、ここちゃー!」
時崎「なっ!」
笹夜「こ、心桜さん!!」
心桜「あははー!」
笹夜「す、すみません。時崎・・・さん」
時崎「いえ。全然構いません。天美さん、ありがとう!」
笹夜「!?」
心桜「ん?」

俺は、天美さんが助け舟を出してくれた事くらい分かるので感謝とお礼を言う。

七夏「柚樹さん、私たち、これから外食しますけど、何か食べたいお料理ってありますか?」
時崎「何でもいいよ。七夏ちゃんのお勧めがあったら、それで!」
七夏「はい☆ ここちゃーと笹夜先輩は、何か食べたいお料理は、ありますか?」
心桜「あたし、ハンバーガーがいいな・・・なんてね! なんでもいいよ!」
笹夜「私も七夏ちゃんにお任せします!」
時崎「天美さん、ハンバーガーが好きなの?」
心桜「まあ、好きだけど・・・なんで?」
時崎「どうしてハンバーガーが出てきたのかなって?」
心桜「だって、今日の晩ご飯は、和食って聞いてるから、昼は洋食がいいかなーって思っただけ・・・」
時崎「なるほど。今晩のメニューって?」
心桜「蟹料理!!! だよねっ!!! つっちゃー!!!」
七夏「はい♪」
時崎「おぉ!!! 蟹料理!!!」
心桜「んー、今から楽しみぃ~♪ ・・・って、まだお昼食べてないけど」
七夏「くすっ☆ では、お昼は洋食で♪ 柚樹さん、笹夜先輩、いいですか?」
笹夜「はい♪」/時崎「ああ」

高月さんと同時に返事をしてしまった。

笹夜「す、すみません・・・」
時崎「こっちこそ、かぶせてしまって・・・」
心桜「おぉー! 相性ぴった---」
笹夜「心桜さん!!!」
心桜「あははっ! すみませんっ!」

虹を映す少女、高月笹夜さん・・・七夏ちゃんには、高月さんの虹は、どのように見えているのだろうか? 三人とも虹の事に付いて全く触れないので、ここは流れに合わせようと思う。

笹夜「・・・・・あ、すみません」
時崎「え!? あ、いや・・・こちらこそ・・・」

高月さんと、目が合う。高月さんの写真を撮る事を考えると、逆に自分が写されてるような感覚になりそうだ。
高月さんが映す人の心・・・七夏ちゃんや天美さんの心は、自然に映っているのだと思うけど、俺はどのように映ってゆくのだろうか・・・。

第十六幕 完

----------

次回予告

動かなくても魅力的な存在・・・それが弾みだすと、楽しい時間となってくるようだ。

次回、翠碧色の虹、第十七幕

「夏の街に弾む虹」

楽しい一時に、目的を忘れてしまいそうになるが、目的よりも大切な事もあると思う。

幕間十一:なぜ語尾が特徴的な話し方なの?

幕間十一:なぜ語尾が特徴的な話し方なの?

心桜「こんにゅちわ!」
七夏「あ、ここちゃー、いらっしゃいです☆」
心桜「今日も暑いにゅー・・・」
七夏「??? ・・・はい☆ とっても暑いですー」
心桜「つっちゃー、ラムネソーダあるかにゅ?」
七夏「え? あっ、ラムネソーダ。あります☆」
心桜「ひとつくださいにゅ!」
七夏「・・・こ、ここちゃー?」
心桜「ん? なーにゅ?」
七夏「あの・・・えっと・・・」
心桜「どしたにゅ?」
七夏「そ、その・・・に、『にゅ』って、なぁに?」
心桜「・・・・・」
七夏「・・・・・」
心桜「終了ー!!!」
七夏「ひゃっ!?」
心桜「ただいまの記録、37秒!!!」
七夏「え!? なぁに???」
心桜「いやー、やっぱ5分すらもたないねー」
七夏「こ、ここちゃー?」
心桜「ほら、語尾に『~にゅ』とか独特の言い回しが付く人っているよねっ?」
七夏「え!? 居ないと思いますけど」
心桜「あ、漫画やアニメのキャラクターとかの話」
七夏「あ、それなら居ますね☆」
心桜「んで、その独特な語尾に対して、なんで誰も突っ込まないのかなーって」
七夏「そう言われれば・・・」
心桜「あたしだったら絶対突っ込むよ・・・『なんで語尾に『にゅ』がつくの?』って」
七夏「個性・・・なのかな?」
心桜「つっちゃーですら、1分もしないうちに突っ込んできたし」
七夏「だって、ここちゃー急に語尾に『にゅ』が付いてたから・・・」
心桜「じゃあ、あたしと初めて会った時、語尾に『にゅ』が付いてたら、つっちゃー突っ込む?」
七夏「え?・・・えっと、ちょっと無理・・・かな?」
心桜「初対面は、無理・・・か。あたしなら突っ込むね。その語尾が付く事よりも、その語尾を付けて話してくる理由が知りたい」
七夏「一芸とか?」
心桜「一芸だとしたら、別のを探す方がいいかも?」
七夏「え!?」
心桜「だって、いずれ『なめとんかぁー!!!』」
七夏「ひゃっ!」
心桜「・・・って、言われる時が来る!!!」
七夏「びっくりしました・・・ここちゃー急に大声出すから・・・」
心桜「ごめん。んで『なめてない・・・にゅ』って、言ってしまって人生のゲームオーバー!」
七夏「・・・・・」
心桜「『芸は身を滅ぼす』とは、よく言ったものだなーと思ったりして」
七夏「ここちゃー、それ『芸は身を助ける』だよ」
心桜「滅ぼす芸もあるって事で!」
七夏「そのような一芸は、とても悲しく切ないです」
心桜「ホント『口は災いの元』だよねー」
七夏「微妙に違う気がします」
心桜「悲しく切ない一芸・・・にゅ」
七夏「こ、ここちゃー!?」
心桜「語尾に変なのが付くと、一気に悲しくも切なくも無く『やっぱ、なめてんだろー!』になるねっ!」
七夏「はぅぁー・・・」
心桜「という事で結論! 語尾に個性的な言い回しは、なめられる可能性大なので気をつけよう!」
七夏「そんな人いない・・・と思います」
心桜「いたら、あたしが突っ込んで真相解明!」
七夏「はい♪ ここちゃー、どうぞ☆」
心桜「ん?」
七夏「ラムネソーダです☆」
心桜「あ、ありがとー・・・にゅ」
七夏「・・・・・」
心桜「・・・・・」
七夏「そ、そう言えば、昨日テレビで夏のマキシワンピ特集があったのですけど・・・」
心桜「つっちゃーにスルーされたにゅ~」
七夏「え? スルーって?」
心桜「なんで『マキシワンピ』は知ってて『スルー』が伝わらないのかなぁ・・・」
七夏「えっと・・・その・・・」
心桜「through・・・ある物を通過するって事だけど、ここでは『にゅ』に関わらず通過するということかな」
七夏「つうか!?」
心桜「そうか!?」
七夏「え!?」
心桜「あの世界の人たちも、今のつっちゃーみたいにスルーしているって事か!!!」
七夏「え!? 私?」
心桜「真の結論! 語尾に個性的な言い回しをしても、みんなにスルーされるようになるから、別の個性を探そう!!!」
七夏「別の個性?」
心桜「あースッキリした! ラムネソーダーも美味しぃ~。ありがと! つっちゃー☆」
七夏「えっと、何だかよく分からないですけど、ここちゃーがスッキリできて良かったです♪」
心桜「それでは、今回もスッキリ解決!!! 心桜と七夏。『ココナッツ』でしたっ!」
七夏「お便りも待ってますね♪」
心桜「そういえば、今回はお便りではなくて、あたしが火付け役か?」
七夏「それでね、昨日テレビで見たマキシワンピが、ここちゃーに似合いそうだなーって思って♪」
心桜「あたしはロングなワンピはいいってば・・・」

幕間十一 完

------------

幕間十一をお読みくださり、ありがとうございました!
本編の方も、どうぞよろしくお願い申しあげます!

第十七幕:夏の街に弾む虹

第十七幕:夏の街に弾む虹

七夏ちゃん、天美さん、高月さんの三人と一緒に商店街へ向かう。
天美さんのストレートな気遣いで、少しずつだが、高月さんと自然に話せるようになれそうだと思う。天美さんは、七夏ちゃん、高月さん、そして俺の方にも満遍なく話をしてくれる。七夏ちゃんと高月さんが話し込むと、俺の方に話しかけてくれるし、俺と七夏ちゃんが話し込むと、高月さんと話をしている。その振る舞い方がとても自然でこれは、なかなか簡単にはできない事だと思う。

七夏「えっと、到着ですっ☆ 柚樹さん♪」
時崎「ありがとう、七夏ちゃん!」
笹夜「ファーストフード店・・・」
心桜「そ。寄ってりあ☆ つっちゃー!」
七夏「どしたの? ここちゃー?」
心桜「速い食べ物・・・じゃないよ!」
七夏「もう・・・分かってます!」
時崎「???」

ファーストフード店「寄ってりあ☆」は、学生さんがお茶する場として人気がある。今は夏休み期間だからか、私服姿の人が多い。七夏ちゃんたちは、普段よく利用しているのだろうか。

心桜「あたし、テリヤキセット!! つっちゃーは!?」
七夏「えっと、お魚さんの・・・」
心桜「フィレオフィッシュのセット!?」
七夏「はい☆ 笹夜先輩は、何にしますか?」
笹夜「わたしも、七夏ちゃんと同じので♪」
七夏「はい☆ えっと・・・」

七夏ちゃんの瞳の色が翠碧色になる。

時崎「俺も、七夏ちゃんと同じので」
七夏「はい☆」
心桜「え!? ・・・って事は、あたしだけテリヤキセット!?」
時崎「みたいだね・・・一人だけ違うと何かあるの!?」
心桜「いや、みんな同じの頼んだら同時に来るから、揃って『いただきます』出来るかなーって」
時崎「まあ、ファーストフード店だから気にしなくても・・・じゃ、俺、頼んで来るから」
七夏「え!?」
心桜「おっ! お兄さんありがとー!」
七夏「こ、ここちゃー!!!」
時崎「七夏ちゃん、構わないから」
七夏「ありがとうございます。柚樹さん」
笹夜「時崎さん、ありがとうございます」

注文の為、カウンターへ向かう。

主「テリヤキセットひとつと、フィレオフィッシュセットをみっつ、お願いします」
店員「フィレオフィッシュセットをみっつですか!?」

何故か店員さんが聞き返してきた。

時崎「はい、みっつお願いします」
七夏「わたしたちの分も一緒です」
時崎「え!?」

後ろを振り返ると、七夏ちゃんが居た。

店員「はい! ありがとうございます!」
時崎「七夏ちゃん!?」
七夏「柚樹さん、四人分持つのは危ないです」

七夏ちゃんに言われて気づく。

時崎「た、確かに・・・」
七夏「くすっ☆」

天美さんと高月さんは、場所を確保してくれているようだ。恐らく、天美さんが高月さんを一人にさせないように気をつかっているのだろう。三人の時はどうしているのだろうか。

店員「テリヤキセットになります!」
時崎「あ、はい!」

俺はテリヤキセットを受け取る。

七夏「お支払いは、私がまとめます」
店員「ありがとうございます!」
時崎「ありがとう、七夏ちゃん。後で払うから」

俺は、テリヤキセットを天美さんの所に持ってゆく。天美さんは俺に気づくと、その場を立ち、俺の方・・・を通り越してしまう。

主「あれ!?」

振り返ると、天美さんはフィレオフィッシュのセットを両手に二つ持っていた。

心桜「お兄さん、早く座りなよ!」
主「あ、ああ」

天美さんに言われるがまま、四人掛けの窓際の席につく。正面には高月さんなので、少し緊張する。天美さんは高月さんの隣に座った。

心桜「よっと、はい! 笹夜先輩!」
笹夜「ありがとう、心桜さん。あら!? 心桜さん!?」
心桜「なんですか?」
笹夜「心桜さん、フィレオフィッシュだったかしら!?」
心桜「それは、こうすればっ!」

そう言いながら天美さんは、俺の前にあるハンバーガー「だけ」交換した。

笹夜「まあ!」
時崎「おっ!」
心桜「ねっ☆」

まだまだ、天美さんの行動が読めない。

笹夜「心桜さん!」
心桜「なんですか?」
笹夜「時崎さん、すみません」
時崎「え!? あ、いえ、天美さん面白くて」
心桜「楽しいって、言ってよねっ!」
笹夜「もう、心桜さん・・・」
時崎「高月さん、ありがとう」
笹夜「いえ」
七夏「ここちゃーは、いつも楽しいです☆」
時崎「七夏ちゃん!」
七夏「お待たせしました☆」

七夏ちゃんが俺の隣に座ってきた。それが自然に見えた事が嬉しい。

心桜「んじゃ、み~んな揃って『ご挨拶!』」
笹夜「ご挨拶って!?」
七夏「ここちゃー、顔、ちょっと怖いです」
心桜「あははっ!」

天美さんは、割と駄洒落好きなのかも知れない。

 ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆

心桜「あー、美味しかった~! ごちうさ~!」
七夏「ごちそうさまです☆」
笹夜「ごちそうさまでした♪」
心桜「テリヤキ美味しいんだけど、かぶりついた時に、中身飛び出すから、気をつかっちゃうよ」
七夏「くすっ☆」
笹夜「心桜さん、他の事にも・・・」
心桜「分かってます!」

天美さんは、心配りは出来ていると思う。七夏ちゃんとはその表現の仕方が違うだけ。それだけは確実だと思う。

時崎「三人は、この後どうするの?」
七夏「えっと、雑貨屋さんと、本屋さんかな? ここちゃーは?」
心桜「あたしはスポーツ店!」
時崎「なるほど」
七夏「柚樹さんは、どこか寄りたい所ありますか?」
時崎「いや、特には・・・三人に合わせるよ」
心桜「お兄さんも、遠慮しなくていいよ」
時崎「いや、別に・・・」
心桜「写真屋さんとか、用事な---」
笹夜「こ、心桜さん!!!」
七夏「ひゃっ!」
心桜「わっ!」
時崎「!?」
笹夜「あっ、す、すみません・・・」
時崎「あ、いや・・・」

高月さんの少し力強い声に驚いた。理由は何となく分かる。三人の中で「写真」と言う言葉は御法度なのだろう。それは高月さんが、七夏ちゃんを思っての事だと思う。いづれにしても、あまり写真の話題はしない方が良さそうだ。

心桜「笹夜先輩!」
笹夜「はい、何かしら?」
心桜「つっちゃーなら、もう大丈夫だよ!」
笹夜「え!? 大丈夫?」
七夏「はい☆」
心桜「少なくとも、お兄さんの写真なら・・・ねっ!」
七夏「えっと・・・」
笹夜「そう・・・なの? ・・・七夏ちゃん!?」
七夏「その・・・」

高月さんは七夏ちゃんの表情から、何かを感じ取った様子で、その表情も穏やかになった。

笹夜「すみません。大きな声を出してしまって」
時崎「いや・・・気にしなくていいよ」
心桜「んじゃ、次、行きますか!」
七夏「はい☆」

 ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆

三人と一緒にスポーツ店の前に来た。

心桜「それじゃ、パパッと見てくるね!」
七夏「はい☆」
笹夜「心桜さん、ゆっくりでいいですよ♪」
心桜「ありがとうございます!」

天美さんはスポーツ店の中へ・・・バドミントン部って話してたから、その関係かな・・・。

時崎「ところで、二人は入らないの!?」
七夏「え!?」
笹夜「はい。私が入っても、場違いな気がしますから・・・」
時崎「そんな事はないと思うよ」
笹夜「ありがとうございます。でも、全く買うつもりもないお店に入るのは・・・」
時崎「天美さんと一緒に入って、天美さんが何か買えば・・・」
笹夜「そうなのですけど・・・」
七夏「ここちゃー、見るだけで何も買わない事が多いから・・・」
時崎「そ、そう・・・それは確かに・・・」

人の出入りがそれ程多くなさそうなお店(失礼かな?)で、女の子三人組の冷やかしは問題かも知れない。

心桜「お待たせっ!」

天美さんは何か筒のようなものを手にしていた。

時崎「ん? ポテトチップス!?」
心桜「お兄さん、シャトルだよ!?」
時崎「シャトル・・・羽!?」
心桜「そ。さすがに、スポーツ店でポテトチップスは無いわ~!」
時崎「そ、そうか・・・」
心桜「次は、雑貨屋だったかな?」
七夏「はい」

 ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆

三人と一緒に雑貨屋の前に来た。

雑貨屋へは三人とも入ってゆく・・・。それぞれ、何か、買うものがあるのだろうか!?
俺は特に何か買う物はないが、三人に同行する。それぞれの好みが分かるかも知れない。特に高月さんの好みが分かるように、目を光らせてみる。少しでも高月さんの心が見えるように・・・。

三人は、小物・・・アクセサリーの所で話し込んでいる。

七夏「あっ、これ可愛いな☆」
心桜「ん? 絵葉書!?」
七夏「はい☆」
心桜「出す相手いるの!?」
七夏「えっと、いない・・・です」
笹夜「絵葉書は、まず『絵を楽しむこと』かしら?」
七夏「笹夜先輩! ありがとうございます!」
心桜「そう言いう考え方か~。確かに!!」

絵葉書か・・・七夏ちゃんに絵葉書を送ると、きっと喜んでくれると思う。俺は七夏ちゃんの好きそうな商品がないか辺りを見回す。セブンリーフは確実だろうけど、それ以外で何か無いかな?

主「これは・・・」

七夏ちゃんの好きそうな物・・・では無く、俺の関心を惹く物があった。それは、七色に輝く小さな石のペンダントトップだった。

主「ラブラドライド・・・か・・・」

見る角度によって光り方や色が変わるこの石は「ラブラドライド」と記されていた。ペンダントならちょっと買いにくいが、ペンダントトップなら石みたいな感覚で買えそうだ。このラブラドライド、七夏ちゃんの瞳のイメージにぴったりだけど、七夏ちゃんにはどのように見えるのか分からない。俺は、三人に気付かれないように、このラブラドライドのペンダントトップを購入しておいた。

心桜「つっちゃー! 花火あったよ! 皆で花火しない?」
七夏「はい☆ 私も、これ買っておきますね☆」
心桜「線香花火! いいね!」
七夏「笹夜先輩! それは!?」
笹夜「本のカバーですね♪」
七夏「はい☆ 本屋さんでもあります☆」
笹夜「ええ♪」
心桜「本を買ったら『カバーお付けしますか?』って聞かれるよね?」
七夏「はい☆」
心桜「だから、ちゃんとしたブックカバーを買う事って無いかな~」
笹夜「心桜さん、ひとつ買ってみては如何かしら!?」
心桜「え!? あたしはいいです! こんな綺麗なカバー付けてて、その中身が漫画だったりしたら・・・ちょっとハズカシイ~!」
七夏「私は漫画でもいいと思います☆」
心桜「なんで?」
七夏「えっと、本が大切にされている事が伝わってきますから♪」
心桜「つっちゃーや笹夜先輩の場合は、そうなるよね・・・イメージ的に・・・本と言えば、この後、本屋さんにも寄るよね」
七夏「はい☆」
笹夜「では、本屋さんへ参りましょう♪」
心桜「で、お兄さんは?」
七夏「えっと・・・あっ!」

他に、ラブラドライドのような石が無いか見て回ったが、購入したペンダントトップだけのようだ。これは、いい買い物が出来たかも知れない。

七夏「柚樹さん!」
時崎「七夏ちゃん! お買い物は済んだ?」
七夏「はい☆ 花火を買いました☆」
時崎「花火か・・・買うものがあってよかったね!」

スポーツ店の事があったからか、七夏ちゃんは少し苦笑いをしている。

七夏「後は本屋さんに寄りますけど・・・」
時崎「分かったよ」

 ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆

前にも来た事がある書店・・・そう言えば、ここで「空」と「虹」をテーマにした写真集を見かけた・・・まだ置いてあるかな。
書店で三人はそれぞれ別の方向に向かったようだ。七夏ちゃんは小説のコーナー、天美さんは・・・漫画のコーナーで、高月さんは・・・音楽のコーナー・・・手にしたのは楽譜かな? 高月さんは楽器の演奏でもするのだろうか? あまり詮索するのも良くないかな・・・とりあえず、あの「空」と「虹」の写真集があった所に向かう事にした。

時崎「あれ!? ・・・売れてしまったのかな・・・」

なんだか急に寒気がした。「虹はいつか消えてしまう」・・・そんな事は分かっている。だから見えている間に、出来る限りの事をするべきだ。恐らく、「空」と「虹」の写真集は、注文すれば手に入れる事ができるだろう。たけど、それはあの時、俺が手にしていた写真集・・・

<<七夏「くすっ☆ とても夢中になってたみたいですね」>>

七夏ちゃんとの思い出となっている写真集ではない・・・失ってしまってからでは、どうする事も出来ないという事だ。本当にあの時の写真集が無いか、くまなく探してみる・・・あの時一冊しか無かったからやはり・・・。念の為、店員さんに聞いてみようかとレジの方へ向かうと、書店の外で見覚えのある人の姿が・・・高月さんだ。何やら男の人に話しかけられているみたいだが・・・。

高月さんの隣に見知らぬ男・・・。俺は高月さんの様子からナンパされていると気付いたので足を急がせる。

笹夜「は、離してください!」
男 「だから、話してるんじゃ・・・」
笹夜「そういう事ではなくて、手を・・・」
時崎「高月さん!!」

高月さんは、俺の存在に気付き、こちらに来ようとしたが、ナンパ男に手を掴まれてしまっていた。状況はあまりよろしくないと思ったその時!

男 「アイタタッ!」

ナンパ男は声を出して高月さんの手を離す。俺は何が起こったのか分からない。ナンパ男の大きな声で天美さんも、この事に気付いたようで、一気に高月さんの元へ駆け寄る・・・流石足が速い! 天美さんは高月さんのそばに駆け寄り、ナンパ男を睨み付ける。俺も高月さんのそばに駆け寄る・・・。

男 「チッ! 男付きかよ!」
心桜「なにぃ~!!」
男 「ちょっと、道を聞いただけだろ?」
時崎「そうは、見えなかったが・・・」
男 「フンッ! この怪力女!!」
笹夜「っ!!!」
時崎「おいっ!」

ナンパ男はそう言い捨てて、その場を後にした。

時崎「大丈夫!? 高月さん!」
笹夜「・・・・・」

高月さんは、無言のまま目元が涙ぐんでいた。

心桜「あいつ~!!」

俺はナンパ男の捨て台詞である「怪力女」という言葉から、高月さんは結構手の力が強いという事を理解した。見たところ、言い方は悪いかも知れないが、華奢な印象だったので意外に思う。高月さんは手の力が強い事を悩んでいるのかも知れない。

そう言えば、ファーストフード店を出る前、先に支払いを済ませてくれていた七夏ちゃんへお金を渡す時、同じメニューを頼んでいた高月さんの分も一緒にまとめる事になり、高月さんからお金を受け取ろうとして、手が少し触れてしまった。高月さんは驚いて素早く手を引っ込め、その勢いでお金を落としてしまい、俺に謝ってきた。手が触れて驚かれた事は、ほぼ初対面だからそんなものかと思って気にも止めなかったけど、もしかすると・・・手の力が強いという事が関係しているのかも知れない。高月さんは、雑貨店で七夏ちゃんや天美さんに手を繋がれたりしても、特に拒む様子ではなかったので、あの反射的な行動は俺に対してだけという事になる。俺は、高月さんの手の力が強くても気にならないが、高月さん本人が気にしているのなら、今後、気を付けなければならない。

笹夜「と、時崎さん・・・」
時崎「え!?」
笹夜「すみません・・・駅までの道を聞かれたから、駅の方角を教えるつもりだったのですけど・・・」
時崎「駅の方角なんて、訊かなくても分ると思うけど・・・よくあるナンパの手口だよ・・・。とにかく気をつけないと!」
笹夜「ありがとうございます・・・」
心桜「笹夜先輩! 大丈夫ですか!?」
笹夜「え、ええ・・・ありがとう。心桜さん」
七夏「どしたの? ここちゃ・・・笹夜先輩!?」

七夏ちゃんも書店から出て来た。

笹夜「な、なんでもないわ。七夏ちゃん」
時崎「七夏ちゃん、お買い物は済んだの?」

俺は、笹夜先輩の意思を読み取って、七夏ちゃんを巻き込まないように話題を変える。

七夏「はい☆ あと、これ☆」
心桜「おっ! ブックカバー!!」
七夏「四人分あります!」
時崎「四人分って!?」
七夏「えっと、みんなの分・・・です☆ もし、誰も要らなかったら、私が・・・」
心桜「いるいる! ありがとー! つっちゃー!」
笹夜「私も! ありがとう! 七夏ちゃん♪」

七夏ちゃんの瞳の色が綺麗な翠碧色になっている・・・。

時崎「俺も、喜んで頂くよ! ありがとう! 七夏ちゃん!」
七夏「・・・はい☆」
心桜「お兄さん、ブックカバーに入れる本・・・持ってるの?」
時崎「あ、天美さんこそ!」
心桜「あたしは、持ってるよ!」
時崎「漫画とか?」
心桜「あははー! あったりぃ~☆」
七夏「くすっ☆」
笹夜「~♪」

なんとか、高月さんも俺の知っている限りでの普段の様子に落ち着いてくれたみたいだ。高月さんは、人目を惹く容姿だから、特に気をつけなければならないと思った。

心桜「後は、何かあったっけ?」
七夏「えっと、特には・・・」
心桜「笹夜先輩!?」
笹夜「夕陽・・・綺麗です!」
心桜「ほんとだ! 何か大きくみえるねー」
七夏「はい☆ 柚樹さん!」
時崎「え!?」
七夏「他に寄るとこ、ありますか?」
時崎「いや、無いから、風水に帰ろう。余り遅くなると凪咲さんも心配すると思うから」
心桜「お兄さん!」
時崎「え!?」

天美さんは、夕陽を眺めている高月さんを指差し、写真を撮るようなポーズをする。俺は、写真機を構え、初めて高月さんを撮影した。そして、天美さんも入るように手を動かす。天美さんと七夏ちゃんがファインダーに入って来た所を記録した。

虹を映す少女、高月笹夜さん・・・七夏ちゃんには、高月さんの虹は、どのように見えているのだろうか?
高月さんが映す人の心・・・七夏ちゃんや天美さんの心は、自然に映っているのだと思うけど、俺はどのように映っているのだろうか・・・。

 ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆

七夏「ただいまぁ☆」
凪咲「お帰りなさい」
七夏「ちょっと遅くなっちゃったけど、今からお手伝いします」
凪咲「ありがとう、七夏。でも、今日はいいわ!」
七夏「え!?」
凪咲「七夏のお友達がいらしてるから、今日は七夏もお客様!」
七夏「いいの?」
凪咲「ええ! 先に流してらっしゃい!」
七夏「はい☆ ありがとう、お母さん!」
心桜「つっちゃー今からお風呂?」
七夏「はい☆」
心桜「んじゃ、あたしも! 笹夜先輩は?」
笹夜「私は後で♪」
心桜「えーーー! 一緒がいい!」
笹夜「でも、三人だと狭くならないかしら?」
心桜「つっちゃー家のお風呂、広いよー! 三人なんて余裕余裕!」
笹夜「まあ、そうなの?」
心桜「なんだったら、もっと広い混浴露天風呂もあるんだから!」
笹夜「こ、混浴!?」
心桜「まあ、露天の方は広いけど、お兄さんが入ってきても『キャー!!!』って言えないよねっ!」
時崎「な、入らないって!」
心桜「えー!!! もったいない!!!」
笹夜「こ、心桜さんっ!!」
心桜「あはは! すみませーん!」
七夏「・・・・・」
時崎「凪咲さん!」
凪咲「何かしら?」
時崎「何か手伝える事ってないですか?」
凪咲「ありがとう、柚樹くん。では、お願いいいかしら?」
時崎「はい! 天美さんたちは早くお風呂に入る事!」
心桜「は~い!」
笹夜「時崎さん、失礼いたします」
時崎「七夏ちゃん!? どうしたの?」
七夏「え!? えっと・・・ゆ、柚樹さん! また後で!」
時崎「あ、ああ」
凪咲「柚樹くん、今日はありがとう」
時崎「え!?」
凪咲「明日も、七夏たちの事、よろしくお願いいたします」
時崎「あ、はい!」
凪咲「では、これを、こちらに運んでくれるかしら?」
時崎「はい!」

お米の袋を運ぶようだ。一袋10kgが三つ、大したことはない。

凪咲「後は、これを吹きこぼれないように、見ていてくれるかしら?」
時崎「はい」

鍋で何かの出汁を取っているのだろうか。最初はなんて事無かったが、次第に暑くなってきた。俺が鍋をかき混ぜている間、凪咲さんは野菜を切っている。七夏ちゃんも、普段はこんな感じなのだろうか。

凪咲「ありがとう、柚樹くん。次はこれ、いいかしら?」
時崎「はい、それをおろせばいいのですね」
凪咲「はい」

凪咲さんから、大根と、おろし用の陶器を受け取る。大根はおろされると意外と少なくなるな・・・なんて思っていたら、凪咲さんが、更に大根を持ってきた。

天美さんが、今日は蟹料理って話してたけど、この大根は関係あるのかな。

時崎「凪咲さん、これでいいですか?」
凪咲「はい。ありがとうございます」
時崎「後は・・・」
凪咲「では、このお皿を・・・」
時崎「分かりました」

和室のテーブルにお皿を運ぶ。いつも七夏ちゃんがしてくれている事・・・改めて感謝する。

心桜「ん~! サッパリ~!」
時崎「あ、天美さん! どうぞ!」

俺は冷茶を、渡す。

心桜「おっ! ありがとー! お兄さん! 気が利くね~!」
時崎「いつも、七夏ちゃんが・・・」
七夏「私!?」
時崎「おっ! 七夏ちゃん!」

七夏ちゃんに次いで、高月さんも姿を見せた。三人共、風水の浴衣姿だ。七夏ちゃんの浴衣姿は見慣れていたけど、三人揃うと絵になるなーと思ってしまう。

時崎「はい! 七夏ちゃん! 高月さんも!」

七夏ちゃんと高月さんに冷茶を渡す。

七夏「ありがとうです☆ 柚樹さん!」
笹夜「ありがとうございます♪ 時崎さん♪」
心桜「んー、お兄さん! もう一杯!!」
時崎「はい!」
七夏「くすっ☆ 柚樹さん、ありがとうです☆ 後は私が手伝いますから、柚樹さんも流してきてください☆」
時崎「ありがとう、七夏ちゃん」

凪咲さんに断って、お風呂場へ向かった。

 ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆

七夏ちゃんたちと同じ香りがするお風呂・・・まだ慣れないのか、すぐにのぼせてしまいそうだ・・・俺は、ささっと軽く流すだけにしておいた。

 ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆

心桜「お兄さん! 早かったね!」
時崎「まあ、さっと流しただけだから」
七夏「柚樹さん、どうぞ!」

七夏ちゃんが冷茶を用意してくれた。

時崎「ありがとう、七夏ちゃん!」
七夏「はい☆」
心桜「お兄さん! 早く座りなよ!」
時崎「あ、ああ」

いつも座っている場所に座る。

心桜「お兄さんも、あたしたちとおんなじ香りで、お揃いだね~」
時崎「え!?」

<<七夏「お揃い・・・です・・・」>>

先日、七夏ちゃんに「お揃い」と言われた時の事を思い出してしまう。

心桜「ん!? どしたの? お兄さん!?」
七夏「柚樹さん、お顔・・・少し赤いです・・・」
時崎「な、なんでもないっ!」
心桜「なんでもあるっ! ・・・って感じだけど?」
笹夜「心桜さん!!!」
心桜「あははっ!!!」

俺の正面には高月さんが座って居る。ファーストフード店の時と同じ状態だ。

笹夜「時崎さん」
時崎「え!?」
笹夜「今日は、色々とありがとうございました」
時崎「こちらこそ、楽しかったよ!」
笹夜「はい♪」

高月さんの方から話しかけてくれて、少しホッとしてしまう。高月さんを前にすると、何を話したらいいのか分からないから・・・。

心桜「まだまだ、お楽しみはこれからだよ!」
笹夜「え!?」
心桜「かにカニ蟹!!!」
時崎「今日は蟹料理だったね!」
七夏「お待たせです!」

七夏ちゃんが蟹のお料理を持ってきてくれた。

心桜「おー!! きたきた~♪ 待ってたよ~」
笹夜「色鮮やかですね♪」
時崎「これは豪華だ!」

蟹のお料理を食べだすと、何故か会話が無くなりがちになるけど、この三人はどうなのかなと様子を見てみる事に・・・。

天美さんは関節から脚を引っ張って筋だけ出てきている。

心桜「あらー・・・。蟹の身って、なんで筋だけ出てくんだろ?」
七夏「え?」
心桜「どうせなら、身だけ出てきて、筋が残ればいいのに」
七夏「ここちゃー、こうすると、いいです☆」

七夏ちゃんはニッパーのような道具を使って蟹の足から身を取り出す。

心桜「おぉ! 流石! つっちゃー! 若女将!」
七夏「え!?」
心桜「やっぱ、かに座は伊達じゃないねー!」
七夏「それって、関係あるのかな?」
心桜「あるよ。つっちゃー、共食い!」
七夏「え!? どおして?」
心桜「だって、つっちゃー蟹座だから!」
七夏「そ、そんな・・・」
心桜「んじゃ、語尾にカニって付けてみるとか!?」
七夏「つ、付けません!!」
心桜「漬物は?」
七夏「漬けま・・・す」
心桜「語尾は?」
七夏「付けません!!」
心桜「お・・・」
七夏「付けません!!」
心桜「き・・・」
七夏「付けません!!」
心桜「今日は手ごわ・・・」
七夏「付けま・・・って、ここちゃー!」
心桜「あははー・・・ごめん」
笹夜「心桜さん!」
心桜「あははー。ま、 あたしは、ふたご座だから、蟹とは無縁かな・・・」
七夏「ふたごの蟹さんなら、相性いいかも?」
心桜「たしカニ!!」
七夏「え!?」
心桜「な、なんでもないっ! 笹夜先輩は、おとめ座だから---」
笹夜「~♪」
心桜「さ、笹夜先輩!!!」

高月さんは、素手で蟹の関節の少し手前を折って、蟹の足から身を引きずり出していた。

笹夜「はい!? 心桜さん、どうかしましたか?」
心桜「おとめ座なのに力技・・・あ、いや・・・なんでもないです」
七夏「笹夜先輩、この道具、使わないの?」
笹夜「え? この道具は、どのように使うのかしら?」
心桜「ま、笹夜先輩には不要な道具・・・みたいだね~」
笹夜「???」
心桜「そう言えば、蟹もそうだけど、海老も大概だよねー」
七夏「え!?」
笹夜「び!?」
心桜「何!? その妙な連携!?」
七夏「えっと・・・」
笹夜「・・・すみません」
心桜「だから、なんでセパレートークしてんの?」
七夏「せぱれえとおく?」
心桜「あー、もういいっ! 海老ですよ、エ・ビ・ッ!!!」
笹夜「その・・・海老が大概っていうお話だったかしら!?」
心桜「そうそう、海老が丸ごと出てくると、なんか億劫になるんだよねー」
七夏「ここちゃーは、海老さん嫌いだったの?」
心桜「つっちゃーさ、その妙な『さん付け』って・・・色々と誤解を招きかねないよ!」
笹夜「丁寧にお話して誤解を頂く・・・日本語って難しい所がありますね」
心桜「そだね・・・呼び捨ての方がいい場合もあるって事で! ・・・って事で、つっちゃー!!」
七夏「はい!?」
心桜「もう一度、言い直してみよう!!」
七夏「ここちゃーは、海老って嫌いだったの?」
心桜「・・・・・」
七夏「どしたの!? ここちゃー!?」
心桜「んー、なんかさー『さん付け』の後味が残ってるんだよねー」
笹夜「最初に受ける印象って大切・・・という事かしら!?」
心桜「そうですね! んで、あたしは別に海老は嫌いじゃないよ」
七夏「良かった☆」
心桜「たださ、海老がそのまま出てくると、頂くまでが面倒で、結局最後まで残るんだよねー」
笹夜「なるほど・・・確かにその傾向はありますよね」
七夏「お料理の時に、すぐ頂けるようにすればいいのかな?」
心桜「あたし的にはそうなんだけど、現実はそうじゃないみたいで・・・このズレは無くならない気がする・・・なんで、すぐ食べれる状態で出てこないのかなーって」
七夏「えっと、お料理を頂く前に、見て楽しめるように・・・って」
心桜「!!!!!」
七夏「ひゃっ☆ どしたの!? ここちゃー!?」
心桜「いや、今のつっちゃーコメント・・・まじ、やられた感がした!!」
七夏「え!? えっと、お母さんも、そう話してました☆」
心桜「流石! 凪咲さん!」
七夏「くすっ☆」
笹夜「お食事は食べるだけが楽しみじゃない・・・という事ですね♪」
七夏「はいっ☆」
心桜「うぅ・・・あたし、ちょっとハズカシイ・・・」
笹夜「まあ、心桜さんの言う事も一理ありますけど・・・」
心桜「さ、笹夜センパイ~(うるうる・・・)」
笹夜「一理、ありますけど、海老が、わざわざ心桜さんに食べられやすくなるように進化する事は、退化とも言えますから、考えにくいかしら!?」
心桜「がっくし・・・OTL 持ち上げといて、落としますか!?」
笹夜「え!?」
心桜「まあ、いいや! あたしはこれからも『葉っぱえびせん』食べまくるからっ!!」
七夏「葉っぱえびせん・・・サラダにも合います!!」
心桜「アイマス・・・商法・・・」
七夏「え!?」
心桜「いや、なんでもないっ!」

三人は盛り上がっているみたいだ・・・割と面白い。

心桜「ちょっと、お兄さん!」
時崎「え!?」
心桜「さっきから黙ってるみたいだけど、もしかして、蟹の身相手にすると黙り込むタイプ?」
時崎「そうじゃなくて、三人の会話が面白かったので・・・」
心桜「どうせなら楽しいって言ってよねっ!」
時崎「それ、前にも聞いた」
心桜「あははー。前にも話したね~」

 ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆

心桜「いや~、沢山食べたよ~食べ過ぎだよ~」
時崎「いつもご馳走だけど、今日はより豪華だった!」
笹夜「ご馳走さまでした。とっても美味しかったわ! 七夏ちゃん♪」
七夏「良かったです☆」
心桜「ごちうさー!」
時崎「ご馳走さま。七夏ちゃん!」
七夏「はい☆ 私もご馳走さまでした☆」
笹夜「この後、どうされます?」
時崎「そう言えば、天美さん花火、買ってたよね」
心桜「買ったけど、今は動きたくないかも~」
七夏「もう、ここちゃーったら・・・」
凪咲「あら、みんな沢山食べたわね!」
時崎「凪咲さん、ご馳走さまでした!」
心桜「ごちそうさまでした!」
笹夜「ごちそうさまでした♪」
凪咲「ありがとう。お粗末さまでした」

凪咲さんはテーブルの上を片付け始めた。

七夏「あ、私も!」

七夏ちゃんも凪咲さんに続く。

笹夜「七夏ちゃん、しっかりしてるわね」
心桜「そりゃ『若女将』だからね~」

寝っ転がりながら、天美さんが話す。

笹夜「心桜さん! あなたはくつろぎ過ぎです!」
心桜「だって笹夜先輩! ここ『民宿』だよ! くつろぐところですって!」
笹夜「そ、そうですけど・・・」
七夏「笹夜先輩も、ごゆっくりどうぞです☆」
笹夜「ありがとう。七夏ちゃん♪」

夕食の片付けがある程度済んだみたいで、七夏ちゃんもテーブルの前に座ってきた。

時崎「七夏ちゃん! お疲れ様!」
七夏「はい☆ 柚樹さん☆ 私、お部屋にもどりますね☆」
時崎「もうお休み?」
七夏「いえ、ここちゃーと、笹夜先輩のお布団の準備がありますので♪」
時崎「俺も手伝うよ!」
七夏「ありがとうです☆」
心桜「あたしも、二階で休む~! 笹夜先輩も!」
笹夜「ええ♪」

三人と一緒に二階へ上がる。

七夏「柚樹さん、お部屋、入ってもいいですか?」
時崎「ああ。もちろん!」
七夏「失礼します!」
心桜「あたしも、失礼しますー!」
笹夜「こ、心桜さん!」
心桜「いいよねっ! お兄さん! ・・・って、もう入っちゃってるけど」
七夏「くすっ☆」
笹夜「もう・・・すみません、時崎さん」
時崎「全然構わないよ! ありがとう。高月さん」

廊下に居る高月さんを見ていると、なんとなく、この三人の関係が見えてきた気がする。

心桜「んー冷たくて気持ちいぃー!」

天美さんは、押し入れの中の布団に、両腕を突っ込んでいた。天美さんらしいな。

七夏「もう☆ ここちゃー!」

七夏ちゃんが少し困ったような笑みを浮かべる。

七夏「柚樹さん、すみません。今、お布団を用意しますね♪」
時崎「ありがとう。天美さんの部屋から準備しないの?」
七夏「ここちゃーの泊まるお部屋は、押し入れがありませんので、お布団はここに一緒なのです☆」
時崎「なるほど」

七夏ちゃんは、俺の部屋のお布団を準備してくれている。俺も押し入れからお布団を取り、そのまま天美さんの泊まる部屋に運ぶ。

心桜「お兄さん! ありがとう!」

天美さんは手に枕を持ったまま、扉を開けてくれた。

時崎「お邪魔します」
心桜「その辺に適当でいいから!」
時崎「ああ」

お布団を置いて、自室に戻る。
七夏ちゃんは、高月さんの泊まる部屋に居るようだ。部屋を見ると、お布団が敷かれている・・・もう見慣れた風景に思える。
まだ寝るには早いので、「七夏ちゃんのアルバム作り」を再開する。今日からは、高月さんもアルバムに参加する事になり、より賑やかになりそうだ。高月さんの虹は、現実と写真が一致しているみたいだ。写真に写っている高月さんの虹・・・七夏ちゃんには、どんな色に見えているのだろうか?
アルバムに写真を配置しながらも、その事が気になってしまう。今日一日、高月さんと一緒に居たけど、七夏ちゃんや天美さんは、高月さんの虹の事については一切話していなかった。既に知っている事だからかも知れないけど、七夏ちゃんと初対面の時のように、虹の事を何でも話すのは考えものだと思う。考え込むと、手が止まってしまう。再び、アルバム作りに集中する。

MyPadで、今日撮影した写真を、デジタルフォトアルバムに追加する。写真のレイアウト自体は簡単だが、普通に並べただけではセンスがない。どうすれば楽しそうに見えるだろうか。
四角い写真を並べるのではなく、色々な形にトリミングをしてみると、少し楽しそうに見えてきた。これに「ふきだし」を追加して・・・この時、七夏ちゃんが話していた言葉を・・・と、思ったけど、これは、七夏ちゃん達にお願いする方が良いかも知れない。俺の思っている事と、七夏ちゃんが思っていた事が同じとは限らないからだ。このフォトアルバムは、七夏ちゃんの思い出を主にしたい。
トリミングで、写真を円や星の形にするのは簡単だが、輪郭を綺麗に縁取るのは、中々骨が折れる作業になるので、とっておきの一枚で行おうと思っている。今の所、その一枚の候補は、七夏ちゃんお気に入りの場所、海と街が見渡せる丘で撮影した七夏ちゃん・・・。

・・・白いワンピースと大きな帽子がよく似合ってて、可愛いかった。七夏ちゃんの見ている虹が翠碧色の虹だという事を知ったのも、この時だった。この七夏ちゃんの写真を凪咲さんが見て、今のフォトアルバム作りに繋がっている訳か・・・。

さっきまで、天美さんの声(だと思う)が聞こえていたが、静かになっている・・・三人ともお休みしたのだろうか・・・。
しばらくの間、集中して「とっておきの七夏ちゃんの写真」をトリミングしていると、目が疲れてきたのか、なんだか眠たくなってきた。俺はそのまま机にうつぶせになり、目を閉じた。

 ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆

時崎「ん・・・今、何時・・・かな?」

どのくらいの時間が経過したのだろうか・・・。MyPadの時計を見ようとするが、眩しくて時間がすぐに分からない・・・しばらくすると時刻の数字が認識できるようになってきた。

時崎「0時半過ぎ・・・か・・・ん?」

意識がはっきりしてくると、肩にお布団が掛けられている事に気付く・・・これは、きっと七夏ちゃんだろう。ちょっとうたた寝するつもりだったのだが、結構な時間寝ていた事になる・・・。今日は、このままお休みする事にしよう・・・俺は七夏ちゃんの心遣いに小さな声で「ありがとう」と、お礼を言い、楽しかった今日という日を閉じる事にした。

第十七幕 完

----------

次回予告

ふたつの虹が出逢った不思議な虹・・・それは、大切な存在となってゆくにつれて、少しずつ見え方も変わってゆくのだろうか?

次回、翠碧色の虹、第十八幕

「ふたつの虹へ重なる虹」

ふたつの虹が大切な存在へと色付くにつれ、ふたつの虹が認識する虹から目を逸らしている・・・このままでいいはずがないのだが・・・

幕間十二:悩ましき消費税

幕間十二:悩ましき消費税

七夏「ここちゃー」
心桜「ん?」
七夏「何を読んでるの?」
心桜「ごちうさー」
七夏「ごちうさ?」
心桜「そ。『ごちそうさまです!』略して『ごちうさ』」
七夏「え?『ごちさま』じゃなくて?」
心桜「それだとまんまだからねー」
七夏「くすっ☆ 『ごちさま』は幸せのお裾分けみたいなお話ですよね♪」
心桜「つっちゃーは、そういう解釈か・・・」
七夏「え?」
心桜「あたしは『のろけ話』を沢山聞かされて、そういうの『ごちそうさまです!』って突っぱねるのが、この話の本筋だと思ったんだけど」
七夏「幸せなお話で心が満たされて『ごちそうさまです☆』ですよね?」
心桜「・・・伝わってないかー・・・この通称『おのろけ姫』の、のろけ話が始まる前に先手を打って自分がのろけまくってたら、いつの間にか自分が『おのろけ姫』になってたっていう展開になりそうな勢いだけどなー」
七夏「それって、ミイラ取りが・・・」
心桜「魅入られる・・・なんつって!」
七夏「なんか、間違っていないような気がしてきました」
心桜「でしょ!! ミイラに魅入られ、ミイラになったよ」
七夏「ミイラさんのお話は、本当は怖いお話なのに・・・」
心桜「ま、ミイラはこのくらいにしといて、今日の本題!!!」
七夏「はいっ!」
心桜「・・・の前に、つっちゃー・・・ソーダラムネ1つくださいなっ!」
七夏「はい☆ ちょっと待っててくださいね♪」

 ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆

七夏「はい☆ ここちゃー。どうぞ♪」
心桜「ありがとー、つっちゃー。はい!」
七夏「ありがとうです♪」
心桜「そう言えば、つっちゃーの所は取らないんだよねー」
七夏「とらない?」
心桜「うん、消費税」
七夏「あ、お母さんから必要が無いって言われてますので」
心桜「そうなんだ。あたし個人的には助かるなーって思うけど、つっちゃーの家計は大変なんじゃないの?」
七夏「詳しくは分からないです・・・でも、それほど影響は無いみたいです」
心桜「で、今回はその消費税についてなんだけど、つっちゃーどう思う?」
七夏「どう・・・って言われても・・・あ、計算が大変かな」
心桜「確かに、計算が面倒になるよねー・・・そう言えば!」
七夏「え!?」
心桜「5円玉チョコレートってあるよね?」
七夏「えっと・・・あったかなー・・・ちょっと待っててくださいね♪」
心桜「あ、いやいや、つっちゃー。そういう商品が存在するよねって意味」
七夏「あ・・・そういう事なの?」
心桜「そ。んで、その5円チョコってさ、一個5円だよね」
七夏「はい・・・確か」
心桜「今、消費税が8%だから、2個までは非課税で、3個目から課税される事にならない?」
七夏「はい。ひとつ5円で、ふたつだと10円・・・みっつだと16円になりますね」
心桜「・・・って事はさ、2個ずつ買えば課税されないよね・・・まあ、つっちゃーの所では変わらないけど」
七夏「そうですけど・・・何回も買いに来られると、お店の人は困るかも・・・です」
心桜「まあ、そうなんだけど・・・理屈では・・・って事で」
七夏「くすっ☆」
心桜「それより、あたしが思うに消費税上げる前にもっと節約できる所があるんじゃないかなって」
七夏「節約?」
心桜「そ。真っ先に思いつくのは、政治家の給料多過ぎだと思わない?」
七夏「多いって言われても、いくら貰っているのか分からないです」
心桜「それは、なかなか的を得た回答だねー」
七夏「え?」
心桜「一般的な社会人の平均的なお給料より、はるかに多い事は確からしいよ。その上、見えない収入もあったりしてそう」
七夏「見えない収入?」
心桜「そ。一般に公表されていない収入・・・それはまあ、分からないからなんとも言えないけど、あたしが思うに税金の流れをもっと『見える化』してほしいという事!」
七夏「見える化?」
心桜「このままでは『見えるかっ!』って事になっている今、税金の流れを細かく知っている人は殆ど居ないと思うよ」
七夏「具体的にはどうすれば・・・」
心桜「集まった税金をどのように使うのかを決めているのが政治家なんだから、当然自分たちが不利にならないようにすると思うよ」
七夏「お国の為に最善を尽くされているのでは?」
心桜「ホントにそう思う?」
七夏「本当のところは・・・分からないです」
心桜「分からない・・・それが問題なんだよ。税金は『お小遣い』じゃないんだから、どのような事にいくら使ったのかを国民は、もっと知る必要があると思うよ」
七夏「具体的にはどうすればいいのかな?」
心桜「簡単なことだよ。集まった税金の使い道を公表すればいいだけ。例えばみんなが良く見るWebサイト(予報:Yohoo!/クゥール:Cooool)に税金の配分をざっくりと円グラフにして公開するだけでも、随分見える化ができると思うよ」
七夏「なるほど☆」
心桜「ここであたしが知りたいのは税金の何パーセントが政治家のお給料になっているかという事。絞れるトコを絞って、それでもダメなら増税って事なら、あたしは何も思わないよ。安易に消費税上げたら、そのまま政治家の浪費税になりそうだよ。ちなみに国民の為の政治を行わず、自分の為の政治を行う人の事を「政治屋」っておじいちゃんが言ってたなー」
七夏「私たちはまだ、税金を納めてませんから・・・」
心桜「消費税として納めてるでしょ!!」
七夏「そうですけど・・・」
心桜「特に、つっちゃーは家のお手伝いとはいえ、お仕事をしている事になるんだから、もっと税金について感心を持たないと!!」
七夏「うぅ、すみません」
笹夜「エンゲル係数の高いご家庭は、生活に影響が大きいですからね」
心桜「わわっ! びっくりしたぁ~!」
笹夜「すみません。心桜さん」
心桜「いえいえ」
七夏「笹夜先輩! こんにちわです☆」
心桜「こんちわー! 笹夜先輩!」
笹夜「はい♪ こんにちわ!」
七夏「えんげるけいすうって何です?」
笹夜「エンゲル係数は家計の消費支出に占める飲食費の割合(パーセント単位)の事で、この割合が高いほど、生活が苦しいという事になります」
七夏「なるほど☆」
心桜「エンゼル係数は自分の心や感情に占める天使度の割合(パーセント単位)の事で、この割合が高いほど、性格が清らかという事になりま・・・止めてよ、つっちゃー」
七夏「え!?」
笹夜「まぁ♪ エンゼル係数・・・高いと素敵ですね♪」
心桜「さ、笹夜先輩ぃ~・・・いつもの切れ味が・・・つっちゃー砥石ある?」
七夏「えっと、台所にありますけど・・・」
笹夜「コホンッ! まあ、エンゼルさんは素敵ですけど、エンゲルさんは深刻な問題になったりしますので、消費税はエンゲル係数の高いご家庭に配慮してほしいと願います」
心桜「そだねー」
笹夜「でも、エンゲル係数だけで計れない問題もあります」
七夏「え?」
笹夜「エンゲル係数は食費の割合に過ぎないので、高価な食べ物ばかりを食べているご家庭は自然とエンゲル係数が高くなってしまいます」
七夏「高級品は大きく課税する事になるのかな?」
笹夜「それもひとつの方法ですけど、高く課税すると売れなくなる可能性が大きくなります。売れなければ、税金も生まれません」
心桜「あ゛ー色々、難しいねー」
笹夜「そうですね。ですから、政治家さんがこれらの事を決めるのが、どれだけ大変な事なのか、少しでも分かったかしら?」
心桜「う・・・そうきたか・・・。でも、笹夜先輩に言われたら確かに分かるよ」
笹夜「私は、心桜さんの話してた『税金の流れの見える化』は、とても大切な事だと思います」
心桜「ありがとー! 笹夜先輩!」
七夏「みんなが協力/助け合う気持ちで納税できたらいいな♪」
笹夜「素敵な考え方ですね。そうなると、いいですね♪」
心桜「あたし、消費税めんどくてやだなーと思ってたけど、つっちゃーの考え方なら不満はないよ・・・あ、消費税見える化前提での話ね」
七夏「くすっ☆」
心桜「という事で、みんなも消費税をなんとなく支払うのではなく、もっと関心を持とうという事が、言いたかったのでしたっ!」
七夏「私も意識しておきますね♪」

幕間十二 完

------------

幕間十二をお読みくださり、ありがとうございました!
本編の方も、どうぞよろしくお願い申しあげます!

第十八幕:ふたつの虹へ重なる虹

・・・賑やかな声で今日が始まる・・・あの声は天美さんだな。話の内容までは分からないが・・・。

扉からトントンと音が聞こえた。

七夏「柚樹さん、起きてますか?」

七夏ちゃんが声を掛けてくれる。

時崎「七夏ちゃん! どうぞ!」
七夏「おはようございます!」
心桜「お兄さん! おはようー!」

七夏ちゃんの後から天美さんも顔を見せる。

時崎「おはよう! 七夏ちゃん! 天美さん!」
心桜「やっぱ、つっちゃーが先かぁ~」
七夏「え!?」
時崎「七夏ちゃんが、先に挨拶してくれたからね」
心桜「それだけ?」
時崎「それだけって、他に何かあるの?」
七夏「・・・・・」
心桜「そりゃー・・・」
笹夜「おはようございます♪」
時崎「おはようございます! 高月さん!」
七夏「おはようございます! 笹夜先輩!」
心桜「おはようございます!」
笹夜「みんな揃って、どうしたのかしら?」
七夏「柚樹さん、起きてるかなって、思って」
心桜「お兄さんって、朝弱いの?」
時崎「え!?」
七夏「えっと、柚樹さん、昨日は夜ふかしさんだったみたいだから・・・」
時崎「七夏ちゃん、ありがとう!」
七夏「え!?」
時崎「お布団、掛けてくれたみたいだから」
七夏「あ・・・はい☆」
心桜「つっちゃー、夜遅く、お兄さんの部屋に潜入ですか!?」
七夏「え!?」
笹夜「こ、心桜さん!」
心桜「なんですか? 笹夜先輩?」
笹夜「ええっと・・・」
七夏「えっと、夜遅くに、柚樹さんのお部屋の灯りが点いていたみたいだから、まだ起きてるのかなって」
時崎「ごめん。七夏ちゃん・・・気をつけるよ」
七夏「くすっ☆」
心桜「んー、おかしいなー」
笹夜「心桜さん!?」
心桜「昨日、あんなに沢山食べたのに、お腹減ってる!」
笹夜「お料理が美味しかったからかしら!?」
心桜「そだねー、また美味しい料理が食べられると思うとね~」
時崎「確かに! 俺も普段より食べている気がする」
七夏「では私、朝食の準備がありますので」
時崎「俺も手伝うよ」
七夏「ありがとです☆ ここちゃーと、笹夜先輩は、ごゆっくりどうぞです☆」
心桜「ありがとー、つっちゃー!」
笹夜「ありがとう。七夏ちゃん♪」
心桜「ねねっ! 笹夜先輩!」
笹夜「何かしら?」
心桜「ちょっと、今日の予定を~」
笹夜「そうですね♪」

七夏ちゃんは、朝食の準備の為、台所へ・・・俺も七夏ちゃんを手伝う。

心桜「今日は、午後から海へお出掛けだよね!」
笹夜「ええ♪」
心桜「念の為、持ち物を確認しておきますか」
笹夜「はい。日焼け止め、基礎化粧品、帽子、バスタオルに救急箱もあります」
心桜「あとは、水筒! ラップタオルとビーチサンダルは、つっちゃーが用意するって話してた」
笹夜「はい♪ 助かります♪」
心桜「お菓子や飲み物は、つっちゃーのとこでも買えるよ!」
笹夜「はい♪」
心桜「他に何か買っておく物とか、ありますか?」
笹夜「特には・・・大丈夫・・・かしら?」
心桜「んじゃ、それまで、のんびりと過ごしますか!」
笹夜「そうですね♪ でも、私達だけのんびり過ごしていいのかしら?」
心桜「つっちゃーは、いつもあんな感じだからね~、あたしが手伝おうとすると『私にまかせて!』って言って、なかなか手伝わせてくれないから」
笹夜「まあ! 七夏ちゃんらしい♪」
心桜「ま、つっちゃーは、手伝ってほしい時はすぐ分かるから!」
笹夜「なるほど♪」
心桜「・・・と言う事で!」
笹夜「???」
心桜「今からこれ!」
笹夜「それは、トランプ!?」
心桜「っそ! 定番だけどね。みんなで遊べるし・・・他に何か遊べる事ないかなー」
笹夜「意外と思い付かないものですね♪」
心桜「笹夜先輩は、普段どんな事して遊んでます?」
笹夜「本を読んでいたり・・・かしら?」
心桜「つっちゃーと一緒か・・・ま、つっちゃーと笹夜先輩は『小説繋がり』だって聞いてるけど、もしここで二人が小説を読み始めたら、あたし孤立かも~」
笹夜「さすがにそれは・・・」
心桜「でも、つっちゃーなら有り得るから、笑えないんだよね~」
笹夜「あら!」
心桜「つっちゃー本読み始めたら、ちょっと声かけても気付いてくれない事あるから」
笹夜「分からなくはないですけど・・・確かに・・・」
心桜「おっ! 笹夜先輩もですか?」
笹夜「私が七夏ちゃんと、初めて出逢った時・・・学校の音楽室だったかしら・・・その時の七夏ちゃんは本を読んでいて---」

-----当時の回想1-----

私が放課後の音楽室の隣・・・音楽資料室に入った時、そこに一人の女の子が居たの・・・でも、その女の子・・・七夏ちゃんは、本を読む事に集中しているのか、私の事に気付いてないみたいで・・・。

笹夜「!?」
七夏「・・・・・」

私も本に集中している事があるから、邪魔してはダメかなと、そのままその場所で、本を読む事にしたの・・・。それから30分くらい経過したかしら・・・チャイムの音で二人は、それぞれの本の世界から現実世界へ・・・。

七夏「あ、えっと・・・」
笹夜「こんにちは♪」
七夏「こ、こんにちは・・・です」
笹夜「こちらに、何か御用だったのかしら?」
七夏「えっと、音楽で、ちょっと調べたい事があって・・・すみません」
笹夜「謝らなくてもいいわ。放課後はどなたでも入っていい事になってますので♪」
七夏「ありがとう・・・ございます」

----------------

笹夜「その時の七夏ちゃんは、夕日の光で顔がよく見えなかったけど、挨拶で私の前に来た時、その瞳に驚いたわ」
心桜「やっぱり、最初はそうなりますよね」
笹夜「ええ。だけど、私はその事を敢えて言わなかったの」
心桜「どうしてですか?」
笹夜「人と違う特徴に気付いても、安易に言わない事・・・その特徴を本人が気に入っているかどうか分かるまでは・・・」
心桜「それって、笹夜先輩にとって髪の・・・」
笹夜「・・・・・」
心桜「あ、すみません」
笹夜「いえ・・・私・・・七夏ちゃんが自分の髪の事を話してきたら、私も訊いてみようかなって・・・でも、七夏ちゃんは話してこなかったの」
心桜「つっちゃーなら、そう・・・なる・・・か」
笹夜「ですから、私は七夏ちゃんの瞳の事は言わない事にしたの。その方が七夏ちゃんと、これから先も繋がってゆける気がして・・・」
心桜「初対面時の言葉って、その後に大きな影響を与えるって事ですよね?」
笹夜「そうですね。私が良いと思った事でも、本人にとっては良い事かどうか分からないから・・・かしら?」
心桜「本当に見てほしいのは、そこじゃなくて・・・って事ですよね?」
笹夜「・・・・・はい♪」

-----当時の回想2-----

笹夜「調べたい事は見つかったのかしら?」
七夏「えっと・・・その・・・」

七夏ちゃんは、読んでいた本・・・小説に登場する作曲家の事について調べようと思って音楽資料室へ来たらしいの。でも、そこで作曲家の事を確認する為に小説を読み始めて、そのまま小説の世界へ・・・という事だったみたい。七夏ちゃんが読んでいた小説を見て、また驚いたわ・・・それは、私が読んでいた小説と同じだったの・・・。

笹夜「フレデリック・フランソワ・ショパン・・・かしら?」
七夏「え!? ど、どおして!?」

七夏ちゃんは目を大きく見開いて驚いていたけど、その綺麗な瞳に改めて驚いたわ。
私は、さっき自分が読んでいた小説を、七夏ちゃんに見せました。

笹夜「これ・・・かしら?」
七夏「あっ! はっ! はい!!!」
笹夜「あなたも、この小説、好きなのかしら?」
七夏「はい! でも、小説では音楽の事までよく分からなくて・・・この小説の少女さんがよく聴いているショパンさんの事について、少しでも分かればと思って・・・」
笹夜「なるほど♪」

私は、七夏ちゃんがショパンの音楽がどんな音楽なのか・・・恐らく、聞けば一度は聞いた事がある曲だと思うのですけど、この小説でよく書かれている曲のピースを本棚から取り、七夏ちゃんに見せてあげました。

七夏「えっと・・・それは?」
笹夜「ピアノピースです!」
七夏「ぴあのぴーす?」
笹夜「ピアノの楽譜の事です♪」
七夏「あっ、楽譜! はい☆」
笹夜「ショパンの有名なノクターン」
七夏「のくたーん?」
笹夜「夜想曲第2番OP9-2」
七夏「???」
笹夜「ちょっと、こちらへ、いいかしら?」
七夏「え!? は、はい!」

私は、隣の音楽室にあるピアノの前に七夏ちゃんを連れてきて、夜想曲を演奏したの。

笹夜「これが、夜想曲第2番OP9-2です・・・伝わったかしら?」
七夏「・・・すごいです・・・音楽は聴いた事がありますけど、今の演奏、とっても心地よく響いてきました☆」
笹夜「ショパンご本人が、どのようにこの曲を演奏されたかは分からないですので、私なりの解釈が入っていますけど・・・」
七夏「私は今の演奏、とっても良かったと思います!」
笹夜「ありがとう」
七夏「こちらこそ・・・えっと・・・」
笹夜「高月笹夜と言います」
七夏「私、水風七夏と申します! すみません。先輩に対して、ご挨拶が遅くなってしまいました」
笹夜「気にしないで♪」
七夏「ありがとうございます! えっと、高月・・・先輩!」
笹夜「はい♪」
七夏「これからも、ここに来てもいいですか?」
笹夜「ええ! 是非! 水風さんなら歓迎するわ♪」
七夏「ありがとうございます☆」

----------------

笹夜「その日以来、七夏ちゃんは時々、音楽室に来てくれるようになって、小説のお話をしたり、ピアノ演奏を聴いてくれたり・・・かしら?」
心桜「そっか。あたしは放課後、部活がある時は、つっちゃーいつも先に家に帰ってたけど、最近、あたしと帰りが同じになる事があったのは、笹夜先輩と一緒だったということかぁ」
笹夜「七夏ちゃん、帰り遅くなって大丈夫? って私が訊くと『もうすぐ、お友達と一緒に帰れるから』って話してたわ♪」
心桜「え!? そうだったの!?」
笹夜「七夏ちゃん、きっと心桜さんと一緒に帰りたかったのだと思うわ」
心桜「もう! つっちゃー、一言もそんなこと言わないんだから・・・」
笹夜「そうなの?」
心桜「うん『小説読んでたら、遅くなっちゃった☆』って!」
笹夜「まあ! 七夏ちゃんらしいわね♪」
心桜「でも、まさか、つっちゃーが、笹夜先輩と仲良しになってたなんて、あの時は驚いたよ!」
笹夜「あの時?」
心桜「あたし達の音楽の授業が終わった後、笹夜先輩、音楽室に来た事あるでしょ!?」
笹夜「ええ、音楽の授業がありましたので」
心桜「んで、その時、つっちゃーから笹夜先輩に話し掛けてたから・・・」
笹夜「なるほど♪」
心桜「あたしは、笹夜先輩の事、前から知ってました!」
笹夜「え!?」
心桜「今は気軽に言えますけど、髪・・・とっても綺麗な人だなーって」
笹夜「ありがとう。心桜さん・・・あれから、3ヶ月・・・になるのですね」
心桜「まだ、3ヶ月なんですよね・・・笹夜先輩とは、もっと昔から一緒だったような気がするよ!」
笹夜「これからも、よろしくお願いいたします♪」
心桜「え!? こ、こちらこそ末永くよろしくお願いいたします!」
笹夜「はい♪」
心桜「んで、トランプなんですけど、定番の『ババ抜き』とか!?」
笹夜「今は2人ですから、どっちがジョーカーを持ってるか、分かってしまうのではないかしら?」
心桜「そだねー。そこで! ちょっとアレンジして『ジジ抜き』にしてみよー!」
笹夜「???」
心桜「笹夜先輩! この中から一枚選んで! 選んだら表面を見ないでここに置いて」
笹夜「え!? ええ」
心桜「そのカードが『ジジ』だから!」
笹夜「なるほど♪」
心桜「ジョーカーが2枚ある理由は『およびでない』ということでは無かったのだ!」
笹夜「???」
心桜「あー、やっぱ無理だったかぁ~」
笹夜「お呼びでない・・・あ、『予備でない』かしら?」
心桜「そゆこと!」
七夏「ここちゃー、笹夜先輩☆」
心桜「お、つっちゃーいいところに!」
七夏「えっと、朝食の準備が出来ました☆」
心桜「おー! そうだった!」
笹夜「七夏ちゃん、ありがとう♪」
七夏「一階に降りてきてくださいませ☆」
心桜「はーい! んじゃ行こ! 笹夜先輩!」
笹夜「ええ♪」

 ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆

時崎「七夏ちゃん! これは?」
七夏「あ、こっちにお願いします☆」
心桜「つっちゃーいつもありがと!」
七夏「くすっ☆」
笹夜「失礼します♪」

昨日と同じように天美さんと高月さんが座る。

七夏「柚樹さんも、座ってください☆」
時崎「ありがとう! 七夏ちゃん!」
心桜「うぉーし! いただきまーす!」
笹夜「いただきます♪」
心桜「んー、やっぱ和食はいいね~」
七夏「くすっ☆」
心桜「ねねっ! 笹夜先輩!」
笹夜「なにかしら?」
心桜「笹夜先輩って、朝は洋食が多かったりします?」
笹夜「洋食の時もありますけど、どおしてかしら?」
心桜「いえ、なんとなく、あんまり食べてないなーって」
七夏「笹夜先輩、苦手な食べ物、ありましたか?」
笹夜「いえ、ただ・・・」
心桜「ただ?」
笹夜「昨日、少し食べ過ぎたからその・・・」
心桜「そんな事なら心配ないよ! 笹夜先輩スタイル抜群だから! ねっ! つっちゃー!?」
七夏「はい☆」
笹夜「そうではなくて・・・その・・・」
心桜「?」
時崎「高月さん、まだそんなにって事かな?」
笹夜「・・・はい」
心桜「何がそんなに?」
笹夜「時崎さん、よかったらこれ・・・」
時崎「ありがとう! いただくよ!」
心桜「おやおやー? 笹夜先輩? 玉子焼き苦手でしたっけ?」
七夏「ここちゃー、そうではなくて」
心桜「なになに!? みんなして『そうじゃない』って!?」
笹夜「心桜さん・・・昨日、あんなに沢山食べていたのに・・・」
心桜「昨日!? あーそう言う事かっ!! ようやく分かったよ!」
七夏「笹夜先輩! 梨はどうですか? あっさりしてます☆」
笹夜「まあ! ありがとう♪ 七夏ちゃん♪」

七夏ちゃんは笹夜先輩にデザート用の果物を持ってきたみたいだ。

心桜「えーと、お醤油、お醤油・・・」

天美さんが、お醤油を探しているのに気付いた高月さんは、前屈みの姿勢で手を伸ばし、お醤油を取ろうとする。その時、高月さんの服の一部がお料理に触れそうになり---

時崎「高月さん! 危ない!」
笹夜「きゃっ!」

俺は咄嗟に高月さんの服を手の甲で押さえたが、勢い余って、あろう事か、高月さんの「柔らかいの」に触れてしまった!

時崎「あっ! ご、ゴメン! 高月さんっ!」
笹夜「・・・いえ・・・」

これは気まずい! どうするっ!?

心桜「笹夜先輩が、お醤油取ってくれようとして、お兄さんが、笹夜先輩の服を守ったって事だよね!」
時崎「え!? あ、ああ」
笹夜「時崎さん・・・すみません」
時崎「いや、こっちこそ」
心桜「んで、笹夜先輩の服を守った、お兄さんに与えられた報酬が、柔らかい笹夜先輩の---」
笹夜「こ、心桜さんっ!」
心桜「あははっ!」
笹夜「時崎さん・・・ありがとう・・・ございます」
時崎「いや・・・申し訳ない」
笹夜「・・・はい♪」
時崎「天美さん、ありがとう!」
心桜「ん? 何が?」

天美さんの言葉に助けられた・・・自分の事に対しては鈍くても、他人への気遣いはとても鋭い・・・七夏ちゃんとは、また違う、ストレートな気遣いだ。

 ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆

心桜「うー、ちょっと食べ過ぎたー」
笹夜「心桜さん、昨日も同じ事を・・・」
心桜「だって、美味しいんだもん!」
七夏「くすっ☆」
時崎「七夏ちゃん! ごちそうさま!」
笹夜「ごちそうさまでした♪」
七夏「はい☆」
心桜「つっちゃーゴメン! あたし、ちょっと部屋で横になるよ」
笹夜「私も、お部屋に戻ります♪」
七夏「はい☆」
心桜「んじゃ!」
笹夜「失礼いたします♪」

天美さんと高月さんは二階へと上がってゆく。

時崎「七夏ちゃん!」
七夏「はい!?」
時崎「天美さんと高月さんは、風水によくお泊まりに来るの?」
七夏「えっと、ここちゃーは、夏休みに毎年ですけど、笹夜先輩は初めてです」
時崎「そうなんだ」
七夏「はい☆ どうかしましたか?」
時崎「天美さんと高月さん、反応が違ってたから」
七夏「笹夜先輩とは出逢ってまだ三ヶ月くらいですので」
時崎「え!? そんな風には見えなかったけど?」
七夏「くすっ☆ 私も笹夜先輩とは、もっと前から一緒だったように思えます☆」
時崎「高月さんは、七夏ちゃんの先輩なんだよね?」
七夏「はい☆」
時崎「部活かな?」
七夏「いえ、笹夜先輩とは今年の春、私が小説の事で調べたい事があって、音楽資料室で・・・」
凪咲「七夏、ちょっといいかしら?」
七夏「あ、はーい! 柚樹さん、いいですか?」
時崎「ああ」
七夏「ちょっと、失礼しますね☆」

七夏ちゃんは、凪咲さんの所へ・・・。
七夏ちゃんと高月さんは、音楽資料室で出逢ったのだろうか?
ある事が頭を過ぎる・・・七夏ちゃんの事を訊くのは躊躇っていたのに、高月さんの事は七夏ちゃんにすんなり訊いている・・・まあ、これは本人に直接訊いている訳ではないからなのだが、天美さんや高月さんと仲良くなれば、七夏ちゃんの事をもっと知る機会は自然と増えるだろう。
七夏ちゃんが「俺は知らないと思っている事」を、俺が事前に知っていると、七夏ちゃんはどう思うだろうか・・・。
午後からは七夏ちゃんたちと海へお出かけなので、俺も準備のため、自部屋へと戻る事にした。

 ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆

この街の海へは前にも出かけた事がある・・・その時、七夏ちゃんの水着と帽子を買った事を思い出す。そう、七夏ちゃんの水着姿は、今のところ俺の記憶にしかない。出来れば凪咲さんに渡すアルバムに添えたい所だ。

出かける準備を進めながら、そんな事を考える自分に違和感を覚える。

・・・俺は、人物の写真撮影を避けていたのではないのか!?

七夏ちゃん、天美さん、そして、高月さんの写真は、撮影したいと思うようになってきている。俺の気持ちが変わってゆくように、七夏ちゃんの写真に対する思いも良い方向に変わってくれる事を願う。
さて、写真機の電池、予備の電池の充電も完了している。写真機のメモリーカード内のデータをMyPadに移動させておく。これで、メモリーカードの残容量も十分確保された。写真関係以外でも何か持ってゆく物が無いか確認しておいた方が良いかも知れない。

俺は、一階へ移動した。

時崎「七夏ちゃん! それは!?」
七夏「えっと、今日のお昼用にと思って☆」

七夏ちゃんは「サンドイッチ」を作っているようだ。前の「おむすび」の時みたいに手伝おうかと思ったが、既にほぼ作り終えているようだ。

凪咲「柚樹君。ちょっといいかしら?」
時崎「はい!」

凪咲さんに呼ばれ、改めて今日のお礼と、お願いをされる。女の子三人だけで海へ出かける事は色々と危険な要素もあるから、その点について気をつけてほしいと頼まれた。これは言われなくても分かっているつもりだけど、昨日、高月さんがナンパされた事を考えると、本当に気を配らなければならないと思う。

七夏「柚樹さん!」
時崎「七夏ちゃん、どうしたの?」
七夏「お昼のお弁当、みんなの分もありますので、ここに置いておきますね☆」
時崎「ありがとう!」
七夏「それでは、私、お出掛けの準備、いたしますね☆」
時崎「あ、ああ」

七夏ちゃんは、お出掛けの準備・・・お着替かな・・・自分のお部屋に戻ったようだ。

この後、七夏ちゃん、天美さん、高月さんと海へお出掛けだ。俺は高鳴る気持ちを抑えつつ、三人が安心して楽しめるように、改めて気合を入れるのだった。

第十八幕 完

----------

次回予告

砂浜の上で弾む少女たちは、とても楽しく輝いている・・・。これは良い思い出へとなってくれると思っていたのだが・・・

次回、翠碧色の虹、第十九幕

「夏の海と弾む虹」

俺は、弾む虹が落とす影の存在に気付かされる事となる。

幕間十三:お客様は神様デス!?

幕間十三:お客様は神様デス!?

七夏「ここちゃー!」
心桜「ん? どしたの? つっちゃー?」
七夏「これ☆」
心桜「おぉ! お手紙かっ!」
七夏「はい☆」
心桜「よし! そのままつっちゃーが読んでみよー」
七夏「はい♪ では読んでみますね! あ、お手紙ありがとうございます☆」
心桜「ありがとねー!」
七夏「えっと、『ココナッツさん、こんにちは。この前、お買い物の時にレジで並んでいたんですけど、その時、私の前にいたお客さんが何か店員さんと揉めてしまって、その時に「お客様は神様じゃないの?」とか話してました。しばらくすると、他の店員さんが来てくれて「こちらのレジへどうぞ」と声を掛けてくれたので、そちらでお買い物を済ませたのですけど、「お客様は神様」という言葉が少し引っかかって・・・このような使い方なのでしょうか?』・・・ですって」
心桜「んー・・・お客様は神様か・・・今回の場合、間違った使い方だと思うね」
七夏「どおして? 私は、お泊りに来てくださるお客様は神様だと言う考え方、良いと思います☆」
心桜「それだよ・・・つっちゃー!」
七夏「え?」
心桜「つまりさ、『お客様は神様』って言葉は、店員さん側が相手のお客様を立てて使う言葉なんだよ」
七夏「謙譲語・・・という事?」
心桜「そうそう、それそれ。お客様は神様のようにありがたい存在だと思って、おもてなしをする・・・というのが、あたしの考え方かな」
七夏「なるほど♪」
心桜「という事で結論! ココナッツ的には『お客様は神様です』は、お客側が使うべき言葉ではないという事・・・で、良いかな?」
七夏「はい☆ 私、これからも、その気持ちを忘れないように心掛けます!」
心桜「うんうん。いい心掛けだよ♪」
笹夜「こんにちは♪」
心桜「あ、こんにちはー! 笹夜先輩!!」
七夏「笹夜先輩! こんにちはです♪」
心桜「んー・・・・・」
七夏「どしたの? ここちゃー?」
心桜「(いや、今回は普通だなーと思って・・・よく考えたら普通登場は初かも!?)」
七夏「え!?」
笹夜「何のお話をしていたのかしら?」
七夏「えっと・・・」
心桜「お客様は神様です!!」
笹夜「え!?」

 ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆

七夏「・・・って、いうお話です☆」
笹夜「なるほど♪」
心桜「もしも、笹夜先輩が店員さんなら『お客様は神様じゃないの?』って言われたら、どう思いますか?」
笹夜「そうですねー。そのとおりだと思います♪」
心桜「え!? お客様がその言葉を使っても良いって事!?」
笹夜「はい。店員さんの視点では間違いでは無いですから」
七夏「そうなりますと・・・少し纏めるのが難しくなってきます」
心桜「んー、さっき『ココナッツ的結論』話しちゃったんだけど」
七夏「どおしよ・・・ここちゃー?」
笹夜「大丈夫♪ 七夏ちゃん♪」
七夏「え!?」
笹夜「店員さんの視点で『お客様は神様』で、間違いはないですけど、神様が良い神様ばかりとは限りませんから」
心桜「!!! 疫病神かっ!!!」
笹夜「はい♪ いくらお客様だったとしても、店員を困らせたり、ましてや他のお客様のご迷惑になるような言動は、慎むべきだと言う事かしら?」
七夏「なるほど♪」
心桜「流石、笹夜先輩!!!」
笹夜「ですから店員としては教育上、言えませんけど、お手紙の方のような状況だった場合『お客様は神様、お客様は疫病神ではないですよね?』と話すかも知れません」
心桜「確かに、他のお客さんにとってはレジで待たされる時間が長くなって厄になる要素あるよねー」
七夏「私、お買い物の時、レジ前で、もたつかないように気をつけます!!」
心桜「つっちゃー、それ微妙に違う気がするけど・・・まぁ、いいか!」
七夏「お客様は神様です♪」
心桜「お客様は神様デス!(DEATH!)・・・なんつって」
笹夜「まあ☆」
七夏「???」
心桜「と、ともかく、今回は疫病神が『いい役』だったよねー」
七夏「もぅ・・・ここちゃー」
心桜「という事で、真のココナッツ的結論!!『お客様は神様だけど、疫病神には気をつけよう!!』という事で!!」
七夏「皆様に『いい益』ありますように♪」
心桜「・・・っ!」
笹夜「まあ☆」
心桜「うぅ・・・駄洒落でつっちゃーに負けた・・・」
七夏「え!? 駄洒落???」
心桜「しかも、天然と来ましたか、これがっ!」
七夏「???」
心桜「まあ、何とか纏まったから、これでいっか!」
七夏「お手紙、ありがとうございました♪」
心桜「笹夜先輩!! ありがとうございます!」
笹夜「はい☆ こちらこそ、楽しい一時、ありがとうございます♪」
心桜「ではでは、今回もあたしたち『ココナッツ』とー」
七夏「素敵な笹夜先輩で、お届けいたしました☆」

幕間十三 完

------------

幕間十三をお読みくださり、ありがとうございました!
本編の方も、どうぞよろしくお願い申しあげます!

第十九幕:夏の海に弾む虹

これから、七夏ちゃん、天美さん、高月さんと海へお出掛けだ。三人はとても楽しそうで何よりだが、俺は手荷物が多い為、自然と三人の後を付いてゆく形に・・・。夏の暑い日差しの為か、思っていたよりも暑苦しい・・・クーラーボックスが結構負担かも・・・。七夏ちゃんを始め、天美さんや高月さんも俺の事を気に掛けてくれるが、荷物持ち役だから、ここは気合を入れる!

 ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆

心桜「ふー、やっとついたよー・・・って、ここ、普通に地元なんだけどね」
七夏「お疲れ様です。あっ、笹夜先輩! こちらの場所がお勧めです!」
笹夜「ありがと。七夏ちゃん。でも、どおしてここがお勧めなのかしら?」
七夏「えっと、この場所が一番早く日陰になります」
心桜「笹夜先輩って肌が白くて綺麗だもんねー。日焼けしない方がいいと思う」
七夏「はい。私もそう思います☆」
笹夜「ありがと。心桜さん七夏ちゃん♪」
心桜「笹夜先輩って、日焼けしないタイプかな?」
七夏「そう言えば、夏でも長袖が多いですよね」
笹夜「私、日焼けすると、肌が真っ赤になって、また元の色に戻るだけみたいですので」
心桜「あたしは割りと焼けてしまうから、白い肌がうらやましぃ~」
笹夜「私は、心桜さんみたいに焼けた肌に憧れたりします」
心桜「なるほどねー。いわゆる『無い物ねだり』だよね~」
時崎「よいしょっと。七夏ちゃん、この辺りでいいかな?」
七夏「あ、柚樹さん。はい。ありがとうです☆ お疲れ様です☆」

俺は、借りてきたパラソルをセットし、日陰を作る。見たところ、高月さんは日差しに弱そうなので、パラソルがある方がいいだろう。

時崎「七夏ちゃん。その浮き輪も膨らますよ」
七夏「あ、ありがとうです♪」

俺は、七夏ちゃんから浮き輪を受け取り、膨らます・・・と同時に、七夏ちゃんは泳ぐのが苦手なのかなと、思ったりもした。天美さんや高月さんは、海で泳ぐ事に特に問題は無さそうだ。

心桜「それじゃ、お兄さん。あたしたち、着替えてくるから!」
時崎「ああ、荷物は見ておくから」
心桜「ありがとー。お兄さん!」
七夏「柚樹さん、また後で☆」
笹夜「一度、失礼いたします」

三人が、着替えている間、俺は七夏ちゃんの瞳の事について考える。天美さんや高月さんは、七夏ちゃんの瞳の事については、一切話している様子が無い。まあ、これは三人がそれなりに長い付き合いだからなのかも知れないが、初対面の時には一度は話題になっているはずだ。もしかすると、七夏ちゃんは、初対面の時に、瞳の話題をされなかった人に対しては、特に好意的なのかも知れない。確証は無いが、俺自身も初対面の時、七夏ちゃんの瞳には驚いたが、その事については話さなかった。ただ「写真を撮って良いかな?」とお願いしたけど、その時その理由を訊かれ「瞳が印象的だから」と正直に答えたら、写真撮影自体を断られたかも知れない。正直に答える事で相手を傷つけてしまうのなら、正直でない事の方が正解というケースも、あるかも知れない。俺は今後、七夏ちゃんに対してどう接してゆくべきなのか・・・考えが上手く纏まらない・・・。

 ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆

心桜「おっ! つっちゃー それ! 新しいの!?」
七夏「はい☆ どう・・・かな?」
笹夜「七夏ちゃん。とっても可愛いわ♪」
心桜「うんうん! つっちゃーその色、セブンリーフみたいだね!」
七夏「はい♪」
心桜「んで、笹夜先輩は・・・ストラッピーにパレオと着ましたか!」
七夏「笹夜先輩! とっても素敵です☆」
心桜「ホント、笹夜先輩! 眩しすぎ!」
笹夜「ありがとう。七夏ちゃん♪ 心桜さん♪」
心桜「うんうん。でも、笹夜先輩。パレオは取った方が、もっと受けるかも~なんてね~」
笹夜「そうなのかしら?」
七夏「ここちゃーも、スッキリしていて素敵です!」
心桜「あははー。ありがと。あたしはどっちかって言うと、動きやすさ、泳ぎやすさ重視だからねっ! つっちゃーや笹夜先輩の水着みたいな『ひらひら~』なんか付いてると似合わなそうだし」
七夏「そんな事ないと思います☆」
笹夜「心桜さんもフリル、似合うと思います♪」
心桜「だといいけどねー・・・お兄さん! お待たせー」
七夏「えっと・・・・・」
笹夜「お待たせいたしました♪」

時崎「あっ! ああ・・・」

俺は三人の水着姿にかなり動揺する。七夏ちゃんのセブンリーフのようなデザインの水着姿は、以前にも見た事があるけど、夏の強い日差しと海の効果なのか、若葉色がより色鮮やかで可愛らしく見えた。さっき、荷物を持っていた時は、ちょっと憎く思えた夏の強い日差しだったが、今は感謝の気持ちが押し寄せてくる。
天美さんは泳ぎやすそうな赤色とオレンジ色のスポーツタイプ・・・というのだろうか・・・可愛いというよりも格好良く決まっている。高月さんは、藤色と白色のとても優美な水着姿だ・・・なんて言うタイプの水着なのだろうか・・・風に揺れるパレオが可憐だ。

心桜「つっちゃー! お兄さん見とれてるよ~」
時崎「なっ!」
七夏「え!?」
笹夜「心桜さんっ! すみません! 時崎さん」
心桜「あははー! んじゃ、ここで記念撮影~♪ お兄さんっ!」

天美さんは、俺の方を見て決めポーズ(?)を作ってきた。

時崎「それじゃ!」

俺は、三人の眩しさに負けないよう、しっかりと焦点を合わせる。

心桜「んじゃ! いっただっき・・・まーす!」

変わった掛け声だなと思ったが、三人をしっかりと記録した。

七夏「ここちゃー?」
心桜「ん?」
笹夜「今の掛け声は・・・」
心桜「お兄さんの心の気持ち~」
時崎「んなっ!」
七夏「え!?」
笹夜「心桜さんっ! すみません! 時崎さん」
心桜「あははー! お兄さんも、早く着替えてきなよー」
時崎「いや、俺はいいよ。一応、三人の保護者的な位置付けだから」
心桜「え!? そうなの?」
時崎「凪咲さんに、そう言って来てるから」
心桜「ふーん・・・つっちゃー、お兄さん『保護者』だって! それでいいの?」
七夏「えっと・・・私はいいと思います☆ 頼りにしてます♪」
心桜「はぁー・・・前途多難な気がしてきた・・・」
七夏「え? なーに? ここちゃー?」
心桜「よし! 前途多難な二人は放っといて、笹夜先輩! 泳ごっ!」
笹夜「え!? ちょっ、心桜さんっ!!!」

天美さんに手を引かれた高月さんの様子が、少しおかしい・・・。何か泳ぐのを拒んでいるかのように見える。

心桜「ん? 笹夜先輩、どおしたんですか?」
笹夜「・・・えっと・・・その・・・」
心桜「???・・・!!! ・・・もしかして、笹夜先輩って、カナズチとか?」
七夏「こ、ここちゃー!!! 笹夜先輩っ! すみません!!!」
笹夜「うぅ・・・すみません。足の届かない所で泳ぐのは、ちょっと苦手でして・・・」
七夏「笹夜先輩! 私、浮き輪ありますから、使ってください!」
笹夜「でも、それだと七夏ちゃんが・・・」
七夏「私、浮き輪でゆらゆらするのが、好きなだけで、泳げない事はないですので・・・」
笹夜「そ、そうだったの・・・私、てっきり・・・」
心桜「つっちゃー・・・人の事言えないよ・・・」
七夏「え!? あっ、すみません! 笹夜先輩! と、とにかく浮き輪どうぞです!」
笹夜「ありがとう。七夏ちゃん♪」
心桜「じゃ、笹夜先輩! あたしが足がつかない所でも大丈夫な泳ぎ方ってのを教えてあげるよ!」
七夏「私も協力します!」
笹夜「はい。お手柔らかに、お願いいたします」

海水浴・・・というよりも高月さんの泳ぎの練習みたいになってしまっているが、三人ともとても楽しそうだ。三人を包む優しい海と砂浜は煌びやかで、虹色のような輝きを放っており、しばらくの間、その光をぼんやりと眺めている・・・と、七夏ちゃんが此方に戻って来た。

時崎「七夏ちゃん、お疲れ様。ココアでいいかな?」

俺は、クーラーボックスからココアを取り出し、開栓して七夏ちゃんに渡す。

七夏「はい☆ ありがとうございます! どおして分かったのですか?」
時崎「なんとなく、七夏ちゃん、喉渇いたんじゃないかなと思って」
七夏「・・・・・」

ココアを受け取ると、七夏ちゃんは無言のまま俺の隣に座ってきた。こうした七夏ちゃんの無言の行動を読めるようになる必要がありそうだ。恐らく、俺が七夏ちゃんの考えている事を読んでココアを渡した事が影響しているのだろう。七夏ちゃんは嬉しい事があった時、無言で行動に表すのではないかなと思ったりしたが、まだ確証はなくこれは可能性のひとつに過ぎない。俺は遠くを眺めている無言の七夏ちゃんの視線を追いかける。天美さんと高月さんは、まだ泳ぐ練習を続けているようだ。

心桜「笹夜先輩、随分飲み込みが早いっ! 驚きだよ!」
笹夜「ありがとう。心桜さんが教えるの上手だからかしら?」
心桜「あはは! 笹夜先輩にそう言われるとちょっと照れるよ」
笹夜「心桜さんが照れるのは、初めて見るかしら?」
心桜「笹夜先輩! 一通り泳げるようになったら、つっちゃーに潜行も教えてもらったら?」
笹夜「潜行?」
心桜「っそ! 素もぐり・・・かな? 泳ぎはあたしの方が得意だけど、潜行はつっちゃーの方が得意だから」
笹夜「はい☆ 上手く泳げるようになれましたら、七夏ちゃんにお願いしてみます」
心桜「うんうん! ・・・海の中も綺麗だよー」
笹夜「そう言えば? 七夏ちゃんは?」
心桜「ん? あっちに居るみたいだよ」
笹夜「あら、いつの間に・・・」
心桜「笹夜先輩! あたしたちも、つっちゃーや、お兄さんの所に戻りますか?」
笹夜「いえ、私はもう少しこのままで・・・」
心桜「!? ・・・笹夜先輩!?」
笹夜「・・・七夏ちゃん・・・『初恋双葉』みたいですから・・・」
心桜「初恋双葉!?」
笹夜「ええ♪ 初恋双葉。大切に応援して、育てて実れば、七夏ちゃんなら、私たちにも幸せをお裾分けしてくれると思います!」
心桜「・・・そっか、あたしたちが大切に見守って育ててあげるって事か!」
笹夜「はい♪」
心桜「いいなぁ~。そういう考え方。笹夜先輩らしい~」
笹夜「そ、そうかしら?」
心桜「じゃ、そろそろ・・・その浮き輪をあたしに貸して? ちょっと疲れちゃった・・・」
笹夜「え!? えぇ!?」
心桜「笹夜先輩! もう十分泳げてますから、浮き輪無くても大丈夫だよ!」
笹夜「そ、そうでしょうか・・・まだ不安です」
心桜「あたしがちゃんと笹夜先輩を見てるから、頑張って!」
笹夜「・・・はい。お手柔らかにお願いします」

 ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆

七夏「あっ!」

突然、七夏ちゃんが声を上げる。

時崎「七夏ちゃん、どおしたの?」
七夏「笹夜先輩が、浮き輪無しで泳いでます!」
時崎「おっ! 本当だ。逆に天美さんが浮き輪を付けてる・・・一体どういう事だ!?」
七夏「柚樹さん、今の笹夜先輩と、ここちゃーの写真・・・お願いできますか?」
時崎「え!? あ、ああ。勿論!」

俺は、遠くで泳ぐ天美さんと高月さんを、ズームしながらファインダー内に収め、シャッターを切った。

七夏「ありがとうございます! 柚樹さん!」
時崎「七夏ちゃんも、一緒に!」
七夏「え!?」
時崎「ここに来て」
七夏「は、はいっ!」

俺は、浮き輪をした天美さん、浮き輪なしで泳ぐ高月さんと、七夏ちゃんをファインダーに収め、シャッターを切った。

しばらくすると、天美さんと高月さんも、戻って来た。

時崎「お疲れ様。天美さん、高月さん」
笹夜「お疲れ様です♪」
心桜「ありがとーお兄さん! ・・・はいっ! 笹夜先輩! 紅茶!」
笹夜「ありがとう。天美さん♪」
七夏「少し遅くなりましたけど、お弁当もありますから、どうぞです♪」
心桜「確かに、泳いだらお腹減ったよー! ありがとー! つっちゃー!」
笹夜「・・・少し疲れました・・・」
時崎「高月さん、ここへ座って」
笹夜「ありがとうございます♪ 時崎さん」

俺は、パラソルの日陰の多い場所へ高月さんを案内した。

心桜「おー! お兄さん、紳士だね~」
七夏「くすっ☆」

みんなで、七夏ちゃん手作りのお弁当を美味しく頂いた。高月さんは、少しウトウトしている様子だ。

笹夜「・・・・・」
時崎「高月さん?」
笹夜「・・・はい?」
時崎「少し、横になる?」
笹夜「・・・すみません・・・」
時崎「これ、使って!」

俺は、バスタオルを高月さんに渡した。七夏ちゃんもタオルを折って枕を作り、笹夜先輩に渡す。

笹夜「ありがとう・・・ございます・・・」
七夏「くすっ☆」
笹夜「・・・・・」

そのまま高月さんは目を閉じた。天美さんが小声で話しかけてきた。

心桜「お兄さん!」
時崎「え!?」
心桜「あたし、もう少し泳いでくるから、笹夜先輩のこと、よろしくねっ!」
時崎「ああ、もちろん!」
心桜「つっちゃー、いこっ!」
七夏「え!? 私も?」
心桜「だって、今日つっちゃーあんまり泳いでないでしょ!?」
七夏「・・・・・」

七夏ちゃんの瞳が綺麗な翠碧色になる。

時崎「七夏ちゃん! 泳いできたら?」
七夏「えっと、いいの?」
時崎「もちろん!」
七夏「ありがとうです☆」
心桜「それじゃ! お兄さん!」
七夏「また後で♪」

天美さんに手を引かれながら七夏ちゃんも海へ掛けてゆく・・・。海で楽しそうに泳いでいる二人と、側で休んでいる高月さんを見守りながら、俺はこれからの事を考える・・・。七夏ちゃんに七色の虹を見せてあげたいと思っても、どうすれば良いのだろうか・・・本物の虹自体がそう滅多に出逢えないから、本物の七色の虹を七夏ちゃんに見せてあげる事は、とても困難な気がしてきた。だったら、他の方法は無いだろうか・・・・・。

笹夜「ん・・・」

高月さんが少し寝返りを打つ・・・パラソルから落ちる影も移動してきており、高月さんの体に夏の強い日差しが当たりそうになっていた。俺は、高月さんの体全体が日影で覆われるようにパラソルの向きを調整した。

☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ 

心桜「つっちゃー、何見てんの?」
七夏「あ、ここちゃー。えっと、ヤドカリさんです♪」
心桜「あ、ホントだ。二匹いるね~」
七夏「はい☆ 仲良さそうです♪」
心桜「ん?」
七夏「どしたの? ここちゃー?」
心桜「これは・・・仲良さそうに見えるの?」
七夏「え? 違うの?」
心桜「なんか、嫌な予感がする・・・」
七夏「え!?」
心桜「あ゛っ!」
七夏「ひゃっ!」
心桜「うわぁー、コイツ、相手をヤドから引きずり出したよー」
七夏「ど、どおして?」
心桜「ヤドの強奪!!!」
七夏「えっ!? そんな・・・」
心桜「やっぱり・・・コイツ、相手から強奪したヤドに入ったよ・・・」
七夏「仲良しさんじゃなかったの?」
心桜「残念ながら、そうじゃないみた・・・ん?」
七夏「まだ何かあるの?」
心桜「強奪された方が、強奪した方のヤドに入った!!!」
七夏「これって、お家の交換なの!?」
心桜「そうだろうけど、見たところ、お互い合意じゃないのは確かだよね」
七夏「ちょっと、可哀相・・・です」
心桜「んー、まあ、そうなんだけど、弱肉強食の世界だからね・・・。皆、生きる為の行動だから・・・」
七夏「それは、そうなのですけど・・・」
心桜「可哀相だけど、命を狙われなかっただけまだ・・・ん?」
七夏「あれ?」
心桜「コイツ、さっき強奪したやつから、また強奪しようとしてない?」
七夏「えっと・・・私たちのお話が通じたのかな?」
心桜「いやいやいやいや・・・さすがに、それはない!」
七夏「じゃあ、どおして・・・」
心桜「あ゛っ!」
七夏「ひゃっ!」
心桜「うわぁー、コイツ、また同じ相手をヤドから引きずり出したよー」
七夏「ど、どおして?」
心桜「ヤドの再強奪!!!」
七夏「そんな・・・」
心桜「きっと、強奪したヤドが思ったよりも、しっくり来なかったんだろうねー」
七夏「だからって・・・」
心桜「やっぱり・・・コイツ、相手から再強奪したヤドに入った・・・んで、強奪された方が、強奪した方のヤドに入った!!!」
七夏「元のお家に戻りました・・・良かった」
心桜「なんというか・・・」
七夏「どしたの? ここちゃー?」
心桜「コイツッ!!!」
七夏「ひゃっ!!!」
心桜「どっか行けぇーーー!!!」
七夏「こ、ここちゃー!!!」
心桜「ふー、かなり遠くまで飛んでったねー・・・海へぽちゃ~ん!」
七夏「そんなに、思いっきり投げなくても・・・」
心桜「さすがに、今のは身勝手過ぎて、イラッときた!」
七夏「もう・・・」
心桜「もう・・・一生出遭うことがないように、お手伝いしてあげた訳ですなぁ~」
七夏「その『もう』じゃなくて、さっき、弱肉強食とか話してたのに・・・」
心桜「ん? だから、あたしが遠くに飛ばしてあげたんだよ」
七夏「え!?」
心桜「だって、たぶん人間の方が、ヤドカリより強いよ・・・あたしは、食べないけどね☆」
笹夜「心桜さん・・・この場合、流石・・・で、いいのかしら?」
心桜「あ! 笹夜先輩! お疲れ様です!」
七夏「笹夜先輩! 疲れは取れましたか?」
笹夜「ありがとう。お休みして、少し楽になりました♪」
七夏「良かった☆」
笹夜「時崎さんが、そろそろ帰る時間だから、二人を呼んできて・・・って」
心桜「え!? もうそんな時間? お兄さんは?」
笹夜「お片付けをしてくれてます♪」
七夏「あ、私もお手伝いしなきゃ!」
心桜「そっか。んじゃ、戻るとしますか!」

 ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆

時崎「お! 三人とも、お疲れ様!」
七夏「お疲れ様です☆」
心桜「お疲れ様ー!」
笹夜「お疲れ様です♪」
七夏「柚樹さん、私も手伝いますね!」
時崎「七夏ちゃん、ここは俺一人で大丈夫だから、三人とも着替えてきなよ」
七夏「え!? お手伝いしなくて、いいのですか?」
時崎「ああ。もう殆ど片付けてるから」
七夏「ありがとうございます☆」
心桜「お兄さん、ありがとね!」
笹夜「ありがとうございます♪」

海への名残惜しさは・・・また、こんな風に四人でお出かけできればいいな・・・と、思う俺の気持ちと重なるのを実感する。そんな俺の思いを余所に、民宿風水に戻る三人は、とても楽しそうにお話していたが、しばらく見ていると、高月さんが時折少し曇った表情を見せている事に気付いた。

時崎「高月さん?」
笹夜「はい!?」
時崎「今日は、疲れた?」
笹夜「いえ、とても楽しかったです♪」
時崎「そ、そう・・・良かった」
笹夜「すみません・・・少し、考え事をしてしまって・・・」

高月さんは、俺が気に掛けたことを読み取っていた。もしかすると手の力が強い事と関係があるのかも知れない・・・。

時崎「考え事!?」
笹夜「ええ。私、今日、時崎さんと一緒にいる七夏ちゃんを見ていて、私達と居る時と少し違うなって・・・」
時崎「え!?」

それは、俺が天美さんや高月さんと居る時の七夏ちゃんを見て、同じような事を思っていたのと通ずる。

笹夜「上手く言えないのですけど、幸せと、少し不安を合わせたような感じ・・・かしら?」
時崎「不安!?」
笹夜「・・・はい」

幸せと不安・・・幸せだけなら素直に喜べたのだが、その後の不安という言葉が引っかかった。俺は七夏ちゃんには幸せであってほしいと思っている。そして、そうなるように意識して行動したつもりだ。七夏ちゃん自身も楽しそうなので、これでいいと思っていたが、高月さんは、七夏ちゃんが不安がっているかも知れないと話す。

時崎「・・・・・」
笹夜「時崎さん!」
時崎「え!?」
笹夜「私の思い込みかも知れませんので・・・その・・・すみません」
時崎「ありがとう。高月さん」

高月さんは俺なんかよりもずっと七夏ちゃんの事を知っているはずなので、この事は間違いではないだろう。

心桜「ん? お兄さん・・・どしたの?」
時崎「あ、いや・・・なんでも・・・。天美さん、帰ったら花火があるよね?」
心桜「あー! ほんとだ。結局、昨日は花火できなかったから、今日しとかないとね」
七夏「まだ、少し明るいですから、花火は夕食後にしますか?」
心桜「そだね~」

 ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆

笹夜「七夏ちゃんのお家に到着・・・かしら?」
心桜「笹夜先輩、お疲れさま!」
七夏「お疲れ様です! ただいまぁ☆」
凪咲「お帰りなさいませ。お夕食はもうすぐできますので・・・七夏、みんなと流してらっしゃい」
七夏「はーい☆」
心桜「では、ひとっ風呂とまいりますかっ!」
笹夜「はい♪」
時崎「凪咲さん、荷物、ここに置いておきますね。後で片付けますから」
凪咲「柚樹君。今日はありがとうございます。七夏たち、とっても楽しそうで柚樹君にお願いして良かったわ♪」
時崎「いえ、こちらこそ。とても楽しかったです!」
凪咲「お疲れ様でした」

凪咲さんは、そう話すと、冷たいお茶を用意してくれた。

時崎「ありがとうございます」
凪咲「柚樹君も潮風に長くあたっていたのでしたら、早めに流してきてくださいね」
時崎「はい」
凪咲「あ、露天の方なら、今すぐでも大丈夫かしら?」
時崎「では、そうさせてもらいます」

早速、俺は露天で軽く流す・・・今日一日の疲れが軽くなってくるのを実感する。天美さんたちの声が聞こえてくる・・・

天美「イヤー! ・・・肩がヒリヒリする~」
笹夜「確かに、お肌が少し痛むかしら?」
七夏「少し、お水を足しますか? えっと、冷たいタオルで冷やした方がいいのかな?」

・・・が、会話の内容までは分からない・・・。この露天風呂は混浴の為、七夏ちゃんたちが入って来る可能性もあるけど、既に屋内のお風呂を利用しているから、それは無いだろう。俺はささっと流して、露天風呂を後にした。

凪咲「あら、柚樹君。少し待っててくださいね」

凪咲さんは、そう話すと、冷たいお茶を用意してくれた。

時崎「ありがとうございます」

俺は、今日使った荷物を元の場所に戻す事にした。

心桜「ふーさっぱりー! すっきりー! でも、ちょっと肩がヒリヒリ~」
時崎「天美さん、お疲れ!」
七夏「柚樹さんも、流してきてくださ・・・って、浴衣?」
時崎「ああ、もう流してきたよ・・・露天の方で」
七夏「そうなのですね♪」
心桜「お兄さん! 露天に居たの!?」
時崎「まあ、軽く・・・だけど」
心桜「あー、居るんだったら突撃しとけば---」
笹夜「心桜さんっ!」
心桜「わわっ! 笹夜先輩! 早いですねっ!」
笹夜「え!?」
心桜「髪乾かすのに、もう少し時間掛かると思ってたんですけど」
笹夜「もう・・・」
七夏「くすっ☆」
凪咲「お料理、できましたから、どうぞこちらへ」
心桜「ありがとうございますー!」

 ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆

夕食を頂いた後、少し休憩して、みんなで花火を楽しむ。

七夏「これ、どうするのかな?」
時崎「あ、それは吊るして使うんだよ。物干し竿、使っていいかな?」
七夏「はい☆」

俺は物干し竿に花火を吊るす・・・。

時崎「えっと・・・火は・・・」
心桜「お~に~ぃ~さ~ぁ~ん~」
時崎「うぉわ!」
心桜「こ~れ~つ~か~い~な~よ~ぉ~」
時崎「あ、天美さん・・・」
七夏「もう・・・ここちゃー!」
笹夜「それ・・・花火・・・なのかしら?」

天美さんは青白い不気味な光を手元でゆらゆらさせていた・・・その光の影響か「それらしい顔」になってて、ちょっと怖い。

時崎「ひとだま花火・・・か」
心桜「っそ! 火種にどぞー」
時崎「あ、ありがとう」

ひとだま花火から命を貰った吊るし花火は、回転しながら、華やかな光を放ち、みんなでその花火を眺めていたのだけど、様々な色に変化するこの花火、七夏ちゃんにはどのように見えているのだろうか?

七夏「綺麗・・・」
笹夜「・・・ですね♪」

七夏ちゃんが、花火を見ている表情からは、この花火がどのように見えていても「綺麗な花火である事に変わりはない」と話してくれているように思えた。

心桜「あ、終わっちゃった・・・綺麗なんだけど、一瞬なんだよね~」
笹夜「ですから、その一時をより大切に思えるのです♪」
七夏「はい☆」
心桜「んで、不気味なだけあって、そっちの方はしぶといね~」
時崎「ん?」

そう言いながら、天美さんは俺が持っている「ひとだま花火」を指差した。

笹夜「心桜さん・・・」

高月さんが、呆れた様子で苦笑いしている。

心桜「なんかこう、未練がたらたらあるような不気味さもあって、なかなか秀逸な花火だよ・・・それ」
時崎「未練か・・・自縛霊みたいな・・・あっ!」
心桜「・・・落ちた! ここまでか~・・・たまや~ならぬ、くちおしや~」
笹夜「心桜さん・・・どこでそんな言葉を・・・」
心桜「ん? お爺ちゃん!」
時崎「とりあえず、これは成仏させとくか・・・」
心桜「え!?」

俺は、ひとだま花火の亡骸の切れた糸の部分から持ち上げて、水の入ったバケツに入れた。

ひとだま花火「ジュワブッ!」

七夏「ひゃっ☆」
心桜「うわぁ!」
笹夜「きゃっ!」
心桜「なんか、この燃えカス、『成仏』って言わなかった!?」
七夏「そ、空耳です!」
笹夜「き、気のせいです!」
時崎「くくっ・・・」

俺は、込み上がってくる笑いを堪えていたんだけど・・・。

心桜「つっちゃー! お兄さん、余りにも恐ろしくて、体が震えてるよ~」
七夏「え!?」
時崎「違う! 可笑しくて笑いを堪えてたんだよ!」
心桜「あ、そなんだ!? 怖かったら、つっちゃーに抱きついたっていいんだよ~! ねっ!? つっちゃー!」
七夏「え・・・えっと・・・ま、まだ、せ、線香花火もありますからっ☆」

七夏ちゃんは線香花火が置いてある縁側の方へ掛けてゆく・・・。

心桜「はぐらかしたか~」
笹夜「心桜さんっ!」
凪咲「みんな楽しそうね♪」
時崎「凪咲さんもご一緒にどうですか?」
凪咲「あら、いいのかしら?」
時崎「はい是非!」
凪咲「ありがとうございます」

凪咲さんも線香花火を楽しむ・・・また一人、(いろどり)が加わった。

心桜「そういえば、7月も今日で終わりだねー」
笹夜「『7月』なら、来年もあります♪」
心桜「笹夜先輩・・・相変わらず鋭いですねー」
笹夜「来年も楽しい夏でありますように♪」
七夏「そうなるといいな♪」
心桜「うんうん!」
凪咲「天美さん、高月さん。また是非、風水にいらしてくださいませ」
心桜「もちろん!」
笹夜「ありがとうございます♪」
七夏「くすっ☆」

みんなで線香花火を楽しむ姿は、定番だけど、やっぱり絵になるなーと思う。凪咲さんと一緒に花火を楽しんでいる三人の様子を、俺は写真として記録した。

 ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆

今日、一日とても楽しかったが、俺は高月さんの話していた、七夏ちゃんの不安そうな表情の事が気になっている。高月さんに言われてから、七夏ちゃんの事を注意して見ていたけど、不安そうな表情を読み取れなかった。もし、七夏ちゃんが不安に思っている事があるのなら、取り除いてあげたいと思う。俺は高月さんにその事を聞かずに自力でなんとかしようと決意するのだった。

第十九幕 完

----------

次回予告

大切な存在が大切に想っている事・・・それが自分には関係ない事であったとしても、その想いが変わらずにいられるだろうか?

次回、翠碧色の虹、第二十幕

「ふたつの虹の大切な夢」

一緒に大切に想ってようになってこそ、その気持ちは本物なのかも知れない。

幕間十四:「マナー違反!」はマナー違反!?

幕間十四:「マナー違反!」はマナー違反!?

心桜「んー」
七夏「どしたの? ここちゃー?」
心桜「これ・・・なんだけど」
七夏「あ、お手紙!?」
心桜「そ。つっちゃーが、用事済ましている間に読んだんだけどさ・・・」
七夏「あ、ごめんなさい」
心桜「いやいや、待ってる間、暇だったから」
七夏「くすっ☆」
心桜「んで、このお手紙の内容なんだけどさぁー」
七夏「あ、お手紙、ありがとうございます!」
心桜「おっと、ありがとうございまーす!! 読むね!」
七夏「はい☆」
心桜「えっと、『ココナッツさん、こんにちは。私はこの前、友達に「マナー違反!!」って注意されたんですけど、この言葉が引っかかって、その後も全然楽しめませんでした。確かにマナー違反かも知れない行動を、私が行ったのかも知れませんが、私は決して故意ではなかったのです。ココナッツさんはこのマナー違反という言葉、どのように思いますか?』・・・だって。マナー違反ねー。つっちゃーどう思う?」
七夏「えっと、マナーは相手の事を考えて行う行儀、作法、礼儀ですよね」
心桜「お、流石、若女将さんっ!」
七夏「え!? 私はまだお手伝いしているだけで・・・。ですから、お手紙主さんのお友達の言葉にマナーが感じ取れるかどうか・・・という事かな?」
心桜「なるほど。という事は『マナー違反!!』は、マナー違反だね」
七夏「え!?」
心桜「だってさ、お手紙の主さんは、注意されて気分が悪くなった訳でしょ!?」
七夏「この言葉を使うこと自体が、マナー違反だとしたら、何故存在するのかな?」
心桜「んー・・・それは、マナーを守らな・・・はっ!!!」
七夏「え!? どしたの?」
心桜「マナー違反!! って言葉、割と自分勝手な事を言う人が言ってるんじゃない!?」
七夏「そ、そうなの?」
心桜「空気読め・・・という事と、似てない!?」
七夏「空気って、その場の!?」
心桜「そうそう!! あたし『空気読め』って言われたことあるよ!」
七夏「え!?」
心桜「だからさ『は? あんたにとって都合のいい空気ってだけだろ!』って反撃した」
七夏「ここちゃーは、読めてますよ☆」
心桜「ともかく、マナー違反! や、空気読め! は、大抵自分勝手な言葉だよ。ある意味可愛そうに思う」
七夏「どおして?」
心桜「だって、自分勝手な考えを、その言葉に押し付けている事にならない?」
七夏「言葉に・・・押し付ける?」
心桜「あたしさ、家でテレビの音が大きい時『静かにしなさい! ご近所に迷惑!』って、親に注意される事あるけど、あれは『自分が迷惑してる』っていう意味の方が強くない!?」
七夏「そう言われれば・・・でも、全てでは無いですよね」
心桜「ま、そうなんだけどさ。『静かにして! あたしが迷惑!』って、言ってくれた方が納得できるよ」
七夏「言葉を使う人が、まず『マナーを守って伝えようね』って、言う事かな?」
心桜「そだねー。だから、注意の仕方なんだよ。お手紙主さんの場合、マナー違反!!って注意された時の『言われ方』が引っかかったんじゃないかな?」
七夏「そっと『マナーとして守ろうね』って伝えられたとしたら、受ける印象も違ったはずですよね」
心桜「うんうん!! 相手の事を本当に考えれば、マナー違反!! なんて突っぱねた言葉にはならないよね!」
七夏「はい☆」
心桜「という事で、ココナッツ的結論! マナー違反!!は、マナー違反!! 相手の気持ちを考えられるマナーと気配りのできる言い方を身に付けよう!!」
七夏「私も気をつけなくちゃ☆」

幕間十四 完

------------

幕間十四をお読みくださり、ありがとうございました!
本編の方も、どうぞよろしくお願い申しあげます!

第二十幕:ふたつの虹の大切な夢

風景写真を撮影していたら、女の人から声を掛けられた。

女の人「すみません。今、撮りました?」
時崎「え!?」
女の人「そのカメラ、見せてもらえますか?」
時崎「はい」

俺は、風景写真を撮影していたのだが、女の人が、自分を撮影されたと思い、声を掛けてきたようだ。風景の中にその女の人が映っていた。

女の人「すみません。勝手に撮影されるのは、困ります」
時崎「風景を撮影したつもりだったんですけど、不愉快な思いをさせてしまってすみません」
女の人「そうでしたか・・・」
時崎「この写真、消しますので」
女の人「はい。勝手に撮影しないように、気をつけてください」
時崎「はい。すみません」

俺は、その写真のデータを、女の人の見ている前で消した。女の人はそれを確認して、その場を去ってゆく。俺は風景を撮影していたつもりだったのだが、この場合、必要以上に言い訳すると余計にややこしくなる・・・それに、実際、女の人が写っていたのは事実だから、女の人の言う事も最もだと思う。突然写真を撮影されると不安になる人も居るという事だ。気をつけなければ・・・改めて、その風景のみを撮影しなおす・・・。

ピピッ!

時崎「ん・・・」

時計の音が何時か分からないけど「00分」を告げる・・・わずかな音に目が覚める・・・。

時崎「夢・・・か・・・」

以前に実際にあった事だが、あまり気分の良い夢とは言えない・・・なんでこんな夢を見たのだろうか・・・。時計を見る・・・時刻は5時01分・・・。夢の内容は、その時の心理状態と関係があるという・・・昨日、高月さんが話していた七夏ちゃんの不安要素・・・この引っ掛かりが、俺の見た夢にも影響しているのだろうか?

写真を撮られて、気分が悪くなる人が居るのは確かだ。七夏ちゃんも「以前」はそうだったと思っていたけど、もしかすると・・・。七夏ちゃんが写真を撮られる事を嫌だと思っていて、俺が人物の撮影を拒んでいたとすると、何も問題は無い・・・。だけど、俺は七夏ちゃんや、天美さん、高月さんの写真は撮りたいと思うようになっている・・・この事が問題とならないようにしなければならない。

時崎「もうすぐ日の出か・・・」

俺は、今の気分を紛らわす為、日の出を撮影しようと思い、風水の庭に向かう・・・昨日、みんなで花火を行った事を思い出す。あの時の七夏ちゃんは普段どおり楽しそうだった・・・でも、高月さんが話していた「七夏ちゃんの不安」も本当の事だと思う。
東の空が明るくなってきた。俺は、三脚を固定し、写真機で「今日の太陽」をお迎えする。数分後、太陽が少し顔を見せる・・・辺りが急に明るくなり「今日と言う一日」の始まりを実感する。日の光は、俺のもやもやとした気持ちを洗い流してくれるように思えた。

時崎「もっと、絞らないと眩しすぎるか・・・」

写真機の絞り/露出を調整する・・・急に明るく眩しくなった太陽に写真機と目が追いつかない・・・。この感覚・・・どこかで・・・天美さん!?
天美さんが居ると、急に明るく楽しくなる事と、今の太陽とが重なった。

時崎「天美さんって、太陽みたいな女の子だな・・・」
心桜「あたしが何!?」
時崎「え!? うぉあっ!」
心桜「おはよ! お兄さん!」
時崎「ああ・・・お、おはよう・・・びっくりした!」

・・・いつの間にか天美さんが居た事に驚いた。太陽に照らされた天美さんは、いつも以上に輝いて見えた。

心桜「お兄さん、今日は早いね!」
時崎「あ、天美さん、いつから居たの?」
心桜「ん? たった今だよ! お兄さん、写真機にかぶりついてて全然気付かないんだから・・・隙だらけだねっ!」
時崎「すまない・・・朝日を撮ろうと思ってね」
心桜「そなんだ。今日ってなんか特別な日なの?」
時崎「いや・・・特には・・・ここで朝日を撮影してなかったなってだけで」
心桜「ま、特別な日でなくても、朝日はいつもと変わらず綺麗だからねっ!」
時崎「それには同意するよ」
心桜「あはは・・・あれ?」
時崎「どうしたの?」
心桜「昨日の花火の燃えカスがまだ落ちてる・・・」
時崎「本当だ。拾っておこう」
心桜「ん~」

太陽に照らされて背伸びをする天美さんは、キラキラと輝いてとても魅力的だ。

時崎「天美さん!」
心桜「ん?」
時崎「そのままで、一枚いいかな?」
心桜「どぞー♪」
時崎「ありがとう!」

俺は背伸びをする天美さんを撮影した。

心桜「ありがと! お兄さんっ!」
時崎「こっちこそ!」
心桜「そうじゃなくてさっ!」
時崎「え!?」
心桜「あたしの事、太陽みたいだって思ってくれて!」
時崎「あっ・・・」
心桜「それじゃ! またねっ!」

天美さんはそう言うと、風水へと掛けてゆく・・・。太陽みたいな女の子・・・聞かれていたか・・・そう思うと、急に恥ずかしくなってきた・・・。天美さんがすぐ風水に戻ったのは・・・恐らく天美さんなりの・・・改めて自然な気遣いができる人なのだと思う。そんな天美さんと、より明るく輝いている太陽を重ねながら、撮影を続けた。

 ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆

七夏「あ、柚樹さん☆」
時崎「おはよう! 七夏ちゃん!」
七夏「はい☆ おはようございます☆」

・・・今日の七夏ちゃんも、普段と変わらず、元気そうで安心する。七夏ちゃんはお花に水をあげている・・・いつもの事なのだけど、まだ普段の七夏ちゃんをそれほど多く記録はしていなかった。

時崎「七夏ちゃん、一枚いいかな?」
七夏「え!? あっ! はい☆」
時崎「ありがとう!」

旅行やイベントでの思い出も大切だけど、普段の七夏ちゃんの様子も大切に想いたい。

笹夜「おはようございます♪」
時崎「おはようございます! 高月さん!」
笹夜「七夏ちゃんと撮影・・・かしら?」
時崎「え!? まあ、そのなんというか成り行きで・・・」
笹夜「~♪」
時崎「高月さんも、一枚いいですか?」
笹夜「え!? 今・・・ですか!?」
時崎「はい。是非!」
笹夜「今、起きたばかりで・・・髪も整ってなくて・・・その・・・」
時崎「無理なら、断ってください」

高月さんは、少し考えた後、七夏ちゃんの方を見て・・・

笹夜「時崎さん・・・写真、お願いします♪」
時崎「え!? いいの?」
笹夜「・・・はい♪ お願いします♪」
時崎「ありがとう! 高月さん!」

・・・高月さんは、何かを気にしている様子・・・それは恐らく・・・高月さんがここで写真撮影を拒めば、七夏ちゃんに影響があると思ったのだろうか・・・。

笹夜「それでは、失礼いたします♪」
七夏「朝食、用意しますね☆」
時崎「ありがとう! 七夏ちゃん!」

 ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆

凪咲「おはようございます」
心桜「おはようございます! あれ? 今日は洋食なんだ」
七夏「くすっ☆ ここちゃー昨日、洋食の事をお話してましたから☆」
心桜「あはは! わざわざありがとー! つっちゃー」
凪咲「ごはんもありますので、よろしければどうぞ!」
心桜「あたし、今日はパンにする!」
七夏「はい☆」
笹夜「おはようございます♪」
心桜「笹夜先輩! 今朝は洋食みたいだから沢山食べれますよねっ!」
笹夜「え!?」
七夏「ここちゃー、笹夜先輩は特に和食が苦手な訳ではないと思います」
笹夜「ありがとう。七夏ちゃん♪」
時崎「ここでの洋食は初めてかも・・・いただきます!」
七夏「くすっ☆」

朝食を頂いている間も、俺は七夏ちゃんの様子を気にしていたけど、特に今までと変わった様子は無い。このまま、特に変わる事がなければ良いのかも知れないけど、何か引っ掛かりがあってすっきりとしない。もう少し様子を見てみようと思う。

心桜「あっと言う間だったね~」
七夏「はい☆」
笹夜「とっても楽しかったです♪」
心桜「次は花火大会の時だねっ!」
七夏「くすっ☆」

花火大会・・・か。また三人で集まる予定でもあるのかな? いずれにしても、この三人と一緒に過ごす一時を大切にしたい。
朝食を頂いた後、自室に戻り、デジタルアルバム作成作業に入る・・・。午前中は三人ともお部屋でのんびり過ごしているのだろうか?

しばらく、アルバム制作に集中していると、トントンと扉が鳴った。

七夏「柚樹さん!」
時崎「七夏ちゃん!」

扉を開けると、七夏ちゃんと天美さんが居た。

心桜「お兄さん!」
時崎「あ、天美さん。どうしたの?」
心桜「あたし、今日はこれで帰るから!」
時崎「え!? もう帰るの?」
心桜「うん。笹夜先輩を駅まで送ってから帰るよ!」
時崎「そうなんだ。駅なら俺も一緒していいかな?」
心桜「ん? もちろんいいよ!」
時崎「七夏ちゃんも一緒にどうかな?」
七夏「えっと、ごめんなさい。ちょっと済ませておきたい事があって・・・」
時崎「そう・・・」
七夏「柚樹さん、ここちゃーと笹夜先輩のこと、よろしくお願いします☆」
時崎「え!? あ、ああ。分かったよ」

七夏ちゃんの用事を聞いて手伝っても良かったのかも知れないけど、天美さんと高月さんの見送りを頼まれたので、それに従う・・・駅の撮影も行っておきたかったので、二人を見送った後に撮影を行おうと思う。

 ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆

笹夜「お世話になりました♪」
凪咲「こちらこそ、ありがとうございました」
心桜「また、花火大会の時は、よろしくお願いします!」
凪咲「ええ。是非!」
七夏「柚樹さん! ここちゃーと、笹夜先輩のこと、よろしくです☆」
時崎「了解!」
心桜「それじゃ!」
笹夜「失礼いたします」
凪咲「また、いらしてくださいませ!」

 ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆

心桜「んー・・・まだちょっと、肩がヒリヒリするよ~」
笹夜「心桜さん、日焼け止め、使います?」
心桜「ありがとうございます! でも、それって日焼け前に使う方が・・・」
笹夜「さらに日焼けしないように・・・です♪」
心桜「そっか。でも今は服着てるから大丈夫!」
笹夜「心桜さんも、日傘を使えばいいと思うわ♪」
心桜「あはは・・・あたしに日傘は似合わないと思います」
笹夜「そうかしら?」
心桜「それに、身動き取りにくくなるし」
笹夜「なるほど♪心桜さんらしい♪」
心桜「お兄さん!」
時崎「え!?」
心桜「どしたの? さっきから黙ってるけど?」

天美さんのフォローが入る。

時崎「ありがとう。天美さん!」
心桜「ん?」
時崎「高月さんも!」
笹夜「え!?」
時崎「この三日間、とても楽しかったよ!」
笹夜「・・・はい♪」
心桜「そう言えば、お兄さんと、笹夜先輩って、まだ会って三日なんだよね~」
時崎「そう言われれば・・・まだ、ほぼ初対面って事か・・・」
笹夜「そう・・・ですね。色々と失礼があってすみません」
時崎「いや。こっちこそ・・・」
心桜「花火大会の時までお兄さんがこの街に居れば、また会えると思うよ!」
笹夜「時崎さんは、ご旅行ですよね・・・いつまでこの街に?」
時崎「旅行自体は、当初一週間の予定だったけど、予定を変更して延長・・・かな」
心桜「そうなんだ?」
時崎「凪咲さんのご支援もあって・・・」

・・・俺は、これまでの経緯を天美さんと高月さんに説明した。

心桜「なるほど・・・そういう事か!」
笹夜「七夏ちゃんのアルバム作り・・・素敵です♪」
心桜「そういう事なら、あたしたちも協力しない訳には!」
笹夜「ええ♪ そうですね♪」
時崎「ありがとう! 天美さん、高月さん」

・・・二人が協力してくれると、心強い。

心桜「つっちゃーの笑顔・・・」
笹夜「凪咲さんの夢・・・いえ、願いなら・・・」
心桜「そだね! おっと、駅に着いた!」
時崎「ここで一枚いいかな?」
心桜「もちろん!」
笹夜「・・・はい♪」

駅を背に、二人を撮影した。
高月さんは、駅から列車でひと駅・・・隣街に住んでいるらしい。一駅で隣町といっても駅と駅の区間が長いので、それなりの距離がある事は知っている。
七夏ちゃんのお話によると3ヶ月くらい前に高月さんと知り合ったという事は、4月に学年が上がった頃という事になる。その頃に、七夏ちゃんの「ふたつの虹」や高月さんの「髪に映る虹」の事が話されていた可能性はある。自然とその事を知る方法は無いだろうか・・・。

心桜「おっ! 笹夜先輩! 列車来たよ!」
笹夜「はい♪ ありがとう。心桜さん♪」

高月さんは、改札の前でこちらに振り返る。長い黒髪がその後を追うようにふわりと広がる・・・その瞬間を撮影して記録したかったが、常に写真機を構えているなんて無理だ。

笹夜「時崎さん! 色々とありがとうございました♪」
時崎「高月さん! お気をつけて! また・・・」
笹夜「・・・はい♪ また・・・」
心桜「それじゃ、笹夜先輩! また連絡します!」
笹夜「ええ♪ 心桜さん! 七夏ちゃんと凪咲さんにもよろしくお願いします♪」
心桜「うん♪ もちろん!」
笹夜「それでは、失礼いたします♪」

高月さんは、列車内へ・・・。
俺と天美さんは、列車が見えなくなるまで見送った。

心桜「さーて、んじゃ! あたしも帰るとしますか! お兄さんは?」
時崎「俺は、ちょっとこの駅を撮影してから、風水に戻るつもりだけど」
心桜「そっか。駅を撮影するって、大掛かりなの?」
時崎「いや、数枚撮影するだけ・・・」
心桜「あはは! んじゃ、あたしがこの駅の撮影ポイントを教えてあげるよ!」
時崎「え!? 撮影ポイント!?」
心桜「うん。 つっちゃー・・・というより、つっちゃーのお父さんから聞いたんだけどね!」
時崎「それはありがたい! 是非お願いするよ!」
心桜「んじゃ、あたしに付いて来て!」

天美さんの後を付いて行く・・・駅から少し離れた場所にある線路を跨ぐ歩道橋へと案内された。

時崎「ここは・・・」
心桜「この歩道橋を上って、駅の方を見る!」
時崎「なるほど!」

俺は天美さんについてゆき、歩道橋を上る。

時崎「これは、確かに!」
心桜「ね♪」

その場所は、駅全体を見渡せ、背後には深い緑の山と、海がキラキラと輝いていた。

心桜「ここは夕日も綺麗だし、撮り鉄の人もよく居るよ! 今日は居ないみたいだけど」
時崎「分かる気がする!」
心桜「っね!」」
時崎「天美さん!」
心桜「ん?」
時崎「ここで、一枚いいかな?」
心桜「うん、いいよ!」

俺は、この景色と天美さんを撮影した。

時崎「ありがとう、ありがとう。天美さん!」
心桜「ん? なんで二回言ったの?」
時崎「一回目は、この場所へご案内のお礼。二回目は撮影のお礼!」
心桜「あははっ! なかなか面白いね! それっ!」
時崎「そ、そう?」
心桜「ありがとうは、何回言われても嬉しいからねっ!」

何枚か、この風景も撮影しておく・・・そんな俺を天美さんは黙って待ってくれていた。

時崎「天美さん、ありがとう!」
心桜「撮影はもういいの?」
時崎「ああ、天美さんのおかげで良い写真が撮れたよ!」
心桜「そっか! んじゃ、あたしは帰るから!」
時崎「送ってゆくよ」
心桜「え!? いいよ別にっ!」
時崎「このまま、風水に帰るだけだから・・・」
心桜「お兄さん、暇なの?」
時崎「ま、旅行中は・・・念の為」
心桜「あははっ!」
時崎「さっきも話したけど、七夏ちゃんのアルバム作りに、天美さんや高月さんの写真も沢山撮りたいからね」
心桜「そういう事なら、ま、よしとしますかっ!」
時崎「ありがとう、天美さん」
心桜「いえいえ!」

俺は、天美さんを家まで送る・・・というよりも、単に付いて行くだけのような気がするけど・・・まあいいか。そう言えば、天美さんと二人きりになるのはこれが初めてだ。

心桜「そう言えば、お兄さん!」
時崎「え!?」
心桜「つっちゃーから聞いたんだけど、風水で出会ったんじゃないんだってね!」
時崎「あ、ああ。バス停で・・・正確には出逢ったというよりも、気付いたら隣に七夏ちゃんが座って居た・・・かな?」
心桜「お兄さん、バス停で寝てたんだってね?」
時崎「そう・・・なるね」
心桜「つっちゃーさ、お兄さんの寝顔『ちょっと可愛いな☆』って話してたよ!」
時崎「なっ!」
心桜「あははっ!」
時崎「でも、あの時の俺、初対面の七夏ちゃんに失礼な事をしたからなぁ・・・」
心桜「え!? 失礼な事って?」
時崎「そもそも、俺がこの街に来た本来の目的は『ブロッケンの虹』を撮影する事だったんだよ」
心桜「ブロッケンの虹・・・確かに、この街ではちょっと有名かな・・・」

天美さんは、ブロッケンの虹の事を知っているようだ。

時崎「そんな訳で、俺は七夏ちゃんに虹の事とか嬉しそうに話してしまったんだよ・・・」
心桜「でも、お兄さんは、つっちゃーの事、知らなかったんだから仕方がないよ」
時崎「それは、七夏ちゃんもそう話してくれて救われる思いだったよ」
心桜「そっか・・・お兄さんさぁ・・・」
時崎「え!?」

天美さんから、衝撃的な言葉が飛び出してきた。その言葉が突然すぎた為、反応が遅れる。

心桜「どしたの? お兄さん? そんなに驚いて?」
時崎「い、いや・・・あ、天美さん!?」
心桜「ん? つっちゃーの瞳を見て、何も思わなかったの?」

・・・聞き間違いではない・・・何も思わない訳が無い。七夏ちゃんの「ふたつの虹」の事だ。この出逢いが無ければ、こうして天美さんと話をする事も無かったはずだ・・・。

時崎「・・・・・思ったよ・・・・・とても不思議な『ふたつの虹』だと思った・・・」
心桜「ふたつの虹!?」
時崎「七夏ちゃんの不思議な瞳の事・・・」
心桜「なるほど・・・ふたつの虹か・・・」
時崎「あの時の俺は、七夏ちゃんの『ふたつの虹』の撮影をお願いしてしまったんだ」
心桜「そうらしいね・・・」
時崎「本当に、俺は失礼だと思ったよ・・・だけど、七夏ちゃんは撮影を許可してくれた・・・今考えても、それが何故なのかは分からない」
心桜「そうなんだ。お兄さんなら、そのうち分かる時が来ると思うよ!」
時崎「そう・・・なのか?」
心桜「ま、それは、これからのお兄さん次第かな?」

天美さんは、七夏ちゃんが何故、あの時、俺の失礼な撮影依頼を許可してくれたのか、その理由を知っているのかも知れない。けど、天美さんの「お兄さん次第」という言葉・・・これは、その理由は自分で探って確かめろという事なのだと理解した。

時崎「ありがとう! 頑張ってみるよ!」
心桜「うんうん! 『ふたつの虹』・・・あたし気に入ったよ!」
時崎「ありがとう! 七夏ちゃんと付き合いの長い天美さんのご支援は心強いよ!」
心桜「あははっ! 確かに、つっちゃーとはそれなりに長い事一緒だからねー」
時崎「七夏ちゃんから聞いたけど、天美さんが七夏ちゃんを助けたんだってね!」
心桜「そっか。お兄さんつっちゃーから聞いてたんだ」
時崎「ああ」

天美さんが、立ち止まり、すぐ横のガードレールに座りながら、話し始める・・・俺も、その隣に並ぶ形で座った・・・

 ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆

あたしがつっちゃー・・・水風さんと出会ったのは小学3年生の時、クラスメイトになったっていう事。最初は、瞳の色が変わるという事が珍しくて、他の子達がつっちゃーを取り囲んでいたかな。あたしは気にはなったけど、近づかなかった。つっちゃーは、いわゆる「もてはやされる女の子」だったけど、瞳の事を言われるつっちゃーは、愛想笑いしているようで、本音は別の所にあるように思えたんだ。そんなつっちゃーのツレナイ態度に、次第に周りの人は話しかけなくなり、一ヶ月もしないうちに、ほぼ孤立していたかな。瞳の色が変わると言っても、慣れてしまえば、なんとも思われないという事。つっちゃーも、それを望んでいるように見えたかな。つっちゃーは、いつも一人で本を読んでいる事が多く、話しかけにくいイメージだったかな。その時のあたしは、つっちゃーに話しかけても、ツレナイ態度を取られるだけだと勝手に思ってたから、特に話しかける事は無かったんだ。

だけどある日、学校の野外授業で、街の絵を描く事になって、つっちゃーは、あたしの前で絵を描き始めたんだ。なんとなく空を見上げると、いつの間にか、大きな虹が現れていたっけ。あたしは、しばらくその虹を、ぼんやりと眺めていたんだけど、ふと、目の前のつっちゃーの絵を見ると、虹は緑色に描かれていたんだ。あたしは、これから他の色を足すのかなって思っていたんだけど、絵の中の緑色の線が少し太くなっただけで、他の色が足される事は無かった。虹としては、それで完成なのかなと思った時、他の男の子が、つっちゃーの絵を見て「なんだその虹、おい、水風の虹が変だぞ」と、からかい始めたんだ。周りの子も、その絵を見ようと寄ってきたんだけど、人が集まってきたのを拒むように、つっちゃーは絵を抱き抱え込む。後姿でも、これは辛そうだと言う事くらいあたしでも分かるので、あたしも自分の絵の中に緑色の虹をビシッと描いて、

心桜「あたしも、こう見えるんだけどっ!」
水風「え!?」

まあ、結果的に2人とも「変な虹の絵だ」と言われたんだけど、からかってきた男の子の絵が、あたしよりも下手だったので、反撃してやった。

心桜「そう言うあんたの絵は、どーなのよ? あははっ! あたしよりも下手・・・水風さんの方が、絵としてのセンスあるよ!」

あたしが他に寄って来ていた人の絵も見ようとすると、他の人は自然と去って行く・・・。

水風「天美さん。ありがとう・・・です」
心桜「いやいや。あーいうの、ちょっと許せなくてね」

あたしは、虹は七色に見えていたんだけど、この時はつっちゃーと同じ色に見えるという事にしておいたんだ。つっちゃーは、自分と同じ人がいるという事に安心した様子で、その時の笑顔は今まで見てきた愛想笑いとは、明らかに違っていたなぁ。それ以降、あたしとつっちゃーはよく話すようになったかな。だけど、あたしは、つっちゃーに嘘をついている自分が許せなくて、本当の事を話した。でも、つっちゃーは既にその事を見抜いていたようで、それでも「嬉しかった」と言ってくれた事。最初、つっちゃーはツレナイ印象だと思っていた事も謝ったら、それは気付いていなかったらしく、少しショックだったみたい・・・。

 ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆

時崎「なるほど・・・いい思い出を、ありがとう!」
心桜「よっ! ・・・っと!」

天美さんは、座っていたガードレールから「ぴょんっ!」と跳び離れて、こちらへ振り返った。さっき高月さんが振り返った姿と重なる。天美さんも高月さんに負けない魅力があると思った。そのまま天美さんは再び歩き出したので、俺も歩みを合わせる。

時崎「・・・七夏ちゃんに、本当の虹を見せてあげたいと思っているんだけど・・・」
心桜「つっちゃーの瞳、写真では、ちゃんと写らないみたいだからね」
時崎「それは、別にいいんだよ・・・」
心桜「え!?」
時崎「俺は、七夏ちゃんに本当の虹の色を分かってもらえれば・・・それが、七夏ちゃんの瞳・・・ふたつの虹であってもいいというだけの事で・・・」
心桜「お兄さん・・・」
時崎「七夏ちゃんの『ふたつの虹』は十分に魅力的だと分かっている。その事を七夏ちゃんにも伝えられて分かってもらえれば・・・と思ってる」
心桜「・・・つっちゃーと似てるところがあるよねっ!」
時崎「そ、そうかな?」
心桜「うんうん! どおりでつっちゃーが・・・おっと!」
時崎「え!?」
心桜「お兄さん、ありがと!」

家の表札を見ると「天美」とあった。天美さんは、家のポストの中を確認して、広告を手に取っていた。

時崎「ああ。こっちこそ、色々とありがとう!」
心桜「いえいえ。お礼に、いい事教えてあげるよ!」
時崎「え!? いい事!?」
心桜「っそ! つっちゃーの好きな食べ物!」
時崎「ココアとか!?」
心桜「おっ! お兄さん! つっちゃーがココア好きなのは知ってたんだ!」
時崎「ま、まあ・・・」
心桜「でも、それ飲み物だよ!」
時崎「あ、そう言われれば・・・」
心桜「つっちゃーさ・・・」

そう言うと、天美さんは、こちらへ駆け寄ってきて・・・

心桜「ブルーベリーのタルトに目が無いよっ!」

・・・そう、囁いた。天美さんと二人だけなのに、何故、囁かれたのかは分からないが、それだけ天美さんが七夏ちゃんの事を大切に想っているという事なのだろう。

時崎「なるほど・・・それは知らなかったよ! ありがとう!」
心桜「それじゃ! お兄さん! またねっ!」
時崎「ああ」

俺は、天美さんから得た、七夏ちゃんの「ブルーベリーのタルトに目が無い」が、どのくらいなのかという事を確かめたくなったので、早速商店街へ探しにゆく事にした。少しお腹も減ったので、喫茶店で軽く食事を頂く・・・。そう言えば七夏ちゃんが前に話していた事を思い出す・・・確かにココアはメニューに無いようだ・・・何故なのだろう? デザートにブルーベリーのパフェは、あるみたいだけど、これは注文して持って帰ることは出来ないな・・・。
軽く食事を済ませ、七夏ちゃんの好きな食べ物・・・ブルーベリーのタルトを探す。一般的にはケーキ屋さんにゆけばあると思っていたが、そこでは見つからなかった。だけど、ケーキ屋さんの近くにあったスーパーマーケットのスイーツコーナーで、なんとか見つける事が出来た・・・出来たのだけど・・・。

時崎「これは! 結構高い!」

さっきケーキ屋さんで見たショートケーキの平均的な値段の2倍以上している・・・ちょっと迷ったけど、七夏ちゃんの喜ぶ姿を見たいという思いに後押しされた俺は、ブルーベリーのタルトをひとつ買い、風水へと急ぐのだった。

第二十幕 完

----------

次回予告

夢はいくつあっても構わない。大切な存在の大切な夢・・・できる事なら全て叶えてあげたいと思う。

次回、翠碧色の虹、第二十一幕

「ふたつの虹のふたつの夢」

大切な存在を大切に想うのは、俺だけではない・・・いや、それは、俺以上に大切に想っているはずだ。

幕間十五:将来の夢・・・憧れの職業!

幕間十五:将来の夢・・・憧れの職業!

心桜「つっちゃー! 大変!! 大変だよー!!!」
七夏「どしたの? ここちゃー?」
心桜「あたしたちの未来がないっ!」
七夏「え!? どゆこと?」
心桜「原作者の制作に追いついちゃったって事! あたしが素早過ぎ?」
七夏「追いついたって!?」
心桜「っそ! ・・・って、事で、あたしたちの未来を守るべく、あたしたち『ココナッツ』が、この場を繋ぐ事になったんだ!」
七夏「えっと、どゆことなの?」
心桜「つまり、今まで幕間だったのが、随筆になるって事!」
七夏「随筆・・・幕間はどうなるのかな?」
心桜「幕間は、今の所、なくならないみたいだけど・・・まあ、本編が出来上がらない事にはね」
七夏「良かった☆」
心桜「いや、そんなに喜んでられないと思うんだけど・・・」
七夏「それは、そうなのですけど・・・」
心桜「・・・って事で、あたしたちも頑張るけど、はやくしろよ『R3-D3』・・・じゃなくて原作者!!! もうのんきに仕事なんかしてる場合じゃないよ!!!」
七夏「え!?」
笹夜「のんきに・・・って、心桜さん!」
七夏「あっ! 笹夜先輩! こんにちわです☆」
心桜「こんちわー! 笹夜先輩!」
笹夜「なんだか、大変な事になってるのかしら?」
七夏「えっと・・・」
心桜「っそ! あたしたちの未来・・・笹夜先輩の未来でもあるからねっ!」
笹夜「まあ!」
心桜「・・・笹夜先輩も協力してくださいっ!」
七夏「えっと、お願いしてもいいのかな?」
笹夜「はい♪ 私でよろしければ♪」
心桜「ありがとうございます!」
七夏「ありがとうです☆」
笹夜「これから、どうすればいいのかしら?」
心桜「そうですね・・・まあ、随筆と言っても、今までの幕間とそんなに変わらないから、お手紙が届いたら、それを紹介して、お手紙が無かったら、あたしたちが何かテーマを決めて、しゃべって、しゃべって、この場を凌ぐ!」
七夏「凌ぐって・・・」
笹夜「繋げる・・・ですよね?」
心桜「あははー!」
七夏「ここちゃー、本当に大変な状態なの!?」
心桜「大変だよ・・・でも、未来が無くても、落胆するのはまだ早い!」
笹夜「未来を私たちで作ってゆけばいいって事かしら?」
心桜「そゆことです!」
七夏「私も頑張ります!」
心桜「という事で、これからも『翠碧色の虹』を---」

七夏「どうぞよろしくです☆」
心桜「よろしくねっ!」
笹夜「よろしくお願い申しあげます♪」

心桜「あー、もうバラバラのグタグダ・・・なんで揃わないかなぁー」
七夏「ご、ごめんなさい」
笹夜「突然のことでしたので・・・すみません」
心桜「ま、いいや! って事で、今日のお題~」
七夏「お題?」
心桜「つっちゃー! 何か話題ない?」
七夏「えっと・・・ちょっと待ってください☆」

 ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆

七夏「ここちゃー!」
心桜「ん? なんかいい話題思い付いた? つっちゃー?」
七夏「はい☆ ここちゃーは将来の夢って、あったりするの?」
心桜「将来の夢? んー特にないよ」
七夏「え?」
心桜「だって、今を楽しく生きる事が、あたしの考え方だから」
七夏「今を楽しく・・・・・」
心桜「ま、その延長が将来の夢とも言えるかなー」
七夏「なるほど☆」
心桜「未来も楽しく過ごせる事・・・それが将来の夢って事かな?」
笹夜「心桜さんらしくて、素敵な考え方ですね♪」
七夏「くすっ☆ あっ、笹夜先輩はありますか?」
笹夜「え?」
心桜「将来の夢とか」
笹夜「将来の夢・・・そうですね・・・」
心桜「やっぱり、ピアニスト・・・あ、ピアノ奏者とか?」
七夏「ピアノ奏者・・・素敵です!」
笹夜「ピアニスト・・・までは考えた事が無いですけど、そうですねー。ピアノと関われるお仕事が出来るといいですね♪」
心桜「という事は、音楽の先生とか!?」
笹夜「音楽の先生・・・なれるといいですねー」
心桜「んな、他人事みたいな・・・笹夜先輩のお話なのに」
笹夜「すみません・・・まだそこまで具体的な事を考えていなくて」
心桜「笹夜先輩なら、モデルとか女優になれるかも・・・憧れちゃうよ~♪」
七夏「モデルさん・・・笹夜先輩、とても綺麗ですから☆」
笹夜「そんな・・・モデルさんや女優さんは私には無理です」
心桜「なんでです?」
笹夜「自分に嘘をつかないと、出来ないお仕事ですから・・・」
七夏「!!!」
心桜「!!! ささせせ、先輩!!」
七夏「こ、ここちゃー落ち着いて!!!」
心桜「笹夜先輩!! 今のコメントはモデルさんや女優さんを敵に回す事になりかねないよー・・・と思うけど、ちょっと分かる気がする!!」
七夏「ここちゃーまで・・・」
笹夜「すみません。私は別に嘘をつく事が悪い事ばかりではないと思っています」
心桜「ん? どーゆー事ですか?」
笹夜「例えば、相手を想って、かばう為についてしまうやさしい嘘・・・」
心桜「!!!!!(思い当たる節があった)」
笹夜「モデルさんや女優さんも、読者さんや視聴者さんを楽しませる為に、自分自身に嘘をついて笑顔を作ったり、演技をしたり・・・それって、とても凄い事だと思います!」
七夏「なるほど・・・今の自分の心境とは違う事をしなければならない・・・という事になりますよね」
笹夜「はい。例えば、今、自分が悲しくても、撮影や演技で笑顔を作らなければならないとか・・・私にはとても出来そうにありません」
七夏「そう考えると、モデルさんや女優さんって、本当に大変なお仕事です」
笹夜「華やかなお仕事って、その裏側では私たちが思っている以上に、とても大変なものだと思います」
七夏「ここちゃー、どうしたの?」
心桜「・・・・・いや、笹夜先輩にはとても敵わないなーと思って」
笹夜「え?」
七夏「それは・・・先輩ですから!」
心桜「いや、そうじゃなくて・・・いや、そ、そうなんだけど」
七夏「どしたの? ここちゃー?」
心桜「ちょっと、昔の事を思い出しちゃってさ・・・」
七夏「昔の事?」
心桜「ま、それはまた機会があれば話すよ・・・ってことで、つっちゃー!」
七夏「はい!?」
心桜「つっちゃーの将来の夢は!?」
笹夜「私も気になります! 七夏ちゃんの将来の夢♪」
七夏「わ、私ですか・・・えーっと・・・お、お嫁さん・・・」
心桜「・・・それ、今咄嗟に考えたでしょ!」
七夏「え? どおして?」
心桜「だって、あまりにも定番で平凡だから」
笹夜「私は素敵な夢だと思います♪」
心桜「え? 平凡な夢がですか?」
笹夜「はい♪ 大きな夢は、叶えるのがとても大変ですよね」
心桜「確かに!」
笹夜「大きな夢は叶えるのが大変ですから、そのうち小さくなって無くなってしまう事も少なくないです。平凡な夢だからこそ、ずっと安定して持ち続ける事が出来のではないかしら?」
心桜「なるほど・・・今は平凡な夢でも、これからどんどん大きくなる可能性もあるって事か!」
笹夜「そうですね・・・そうなると素敵ですね♪」
心桜「正に未来の夢って感じ!! つっちゃーごめん」
七夏「え?」
心桜「いや、その・・・定番で平凡なんて言って」
七夏「別に気にしてないです♪」
心桜「良かった。ありがと☆」
七夏「はい☆」
心桜「しかーし! そのつっちゃーの夢は一人では叶えられないのだっ!」
七夏「え!?」
笹夜「こ、心桜さん!!」
心桜「はい! 笹夜先輩!!」
笹夜「これ以上は無粋です!」
心桜「う、すみません・・・」
七夏「??? どしたの???」
心桜「ま、まあ、笹夜先輩には、やっぱ敵わないなーと思ったよ」
七夏「それは、先輩ですから!」
心桜「ホント、今回の笹夜先輩の言葉には驚かされたし、色々考えさせられたよ」
笹夜「そんな・・・」
心桜「あー結構大声出しちゃったよ・・・」
七夏「私、お茶を入れて参りますね☆」
心桜「ありがとー、つっちゃー!」
笹夜「七夏ちゃん、ありがとう♪」
七夏「はい☆」
心桜「みんなは、どんな夢、持ってるのかな?」
笹夜「素敵な夢、追いかけ続けてほしいですね♪」
心桜「あたしも、何か夢を持って、追いかけてみようかなぁ・・・」
笹夜「はい♪ 是非♪」
七夏「ここちゃー、笹夜先輩、どうぞです☆」
心桜「ありがと、つっちゃー!」
笹夜「ありがとう♪ 七夏ちゃん♪」
心桜「・・・という事で、つっちゃー!」
七夏「はい☆」
心桜「次回は今の所『随筆』って事になってるから、何か話題を考えておかないと・・・あたしもこれから考えるから!」
七夏「そうですね☆」
笹夜「私も、協力いたします♪」
心桜「ありがとうございます! 笹夜先輩!」
七夏「ありがとうです! 笹夜先輩☆」
心桜「お手紙やメッセージ、悩み事や人生相談があれば、その内容を紹介して、どうすればよいかあたし達で考えるから、何かあったら『ココナッツ宛』で、メッセージよろしくね!」
七夏「お便り、待ってますね☆」
笹夜「私からも、お待ちいたしております♪」
心桜「それじゃ! また会おうねっ! きっとだよ!」

幕間十五 完

------------

幕間十五をお読みくださり、ありがとうございました!
本編の方も、どうぞよろしくお願い申しあげます!

随筆一:恋のABCって!?

随筆一:恋のABCって!?

心桜「ずいずい随筆っ!」
七夏「ひゃっ☆ どしたの? ここちゃー?」
心桜「おっ! つっちゃー! 今日は髪結ってんだ!」
七夏「はい☆」
心桜「新コーナーで気合入ってますなぁ! ありがたや~!」
七夏「くすっ☆」
心桜「んで、ついに始まった随筆! あたしのコーナー! ・・・って、新しい感じがまったくしないんだけど・・・」
七夏「えっと、幕間があったからかな?」
心桜「そだね! という事で、あまり変わり映えしない随筆もよろしく!」
七夏「宣伝もいいけど、楽しくなるお話しをしなくちゃ☆」
心桜「うっ・・・そ、そだねー」
七夏「えっと、何のお話しようかな・・・」

 ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆

心桜「つっちゃー!」
七夏「なぁに? ここちゃー?」
心桜「恋のABCってあるよねっ! ・・・って、英語はつっちゃー分からないか」
七夏「え、ABCくらい分かります!!」
心桜「ほほぅー(ニヤリ)。んじゃ、恋のABC解説、どぞー」
七夏「え!? えーっと、ABC・・・そ、そう言えば血液型ってABCではなくてABOってなってますよね・・・どおしてC型って無いのかな!?」
心桜「ご・ま・か・さ・な・いっ!」
七夏「うぅ・・・」
心桜「はいっ! Aから順番にどうぞー!」
七夏「えっと、Aは好きな人と・・・手を・・・繋ぐ・・・」
心桜「じゃ、Bは?」
七夏「えーっと、Bは好きな人に・・・ぎゅっとされる・・・」
心桜「期待のC!!」
七夏「し、Cは、す、好きな人と・・・キ・・・キス・・・・・」
心桜「・・・・・・・・・・」
七夏「・・・・・・・・・・」
心桜「なぁーんだ、つっちゃーも知ってたんだ!!!」
七夏「ま、まぁ・・・」
心桜「そだ! 笹夜先輩にも訊いてみよーっと!!」
七夏「こ、ここちゃー!!!」
心桜「笹夜センパーイ!」
笹夜「あら、心桜さん、こんにちは!」
心桜「こんちはー、ねねっ! 笹夜先輩!!」
笹夜「? 何かしら?」
心桜「ズバリ、ABCの意味って分かりますか!?」
七夏「こ、ここちゃー!!!」
笹夜「ABC・・・ラシド・・・かしら!? あ、七夏ちゃん、こんにちは♪」
七夏「笹夜先輩、こんにちはです!」
心桜「ラシド・・・なんですかそれ?」
笹夜「音階名・・・です♪」
七夏「ここちゃー、ドレミファソラシドの・・・」
心桜「あっ、そのラシドか・・・んで、なんでそれがABCなんですか?」
笹夜「ドレミファソラシドはCDEFGABCとなりますので♪」
心桜「なるほど、そうきたかー・・・まあ、笹夜先輩らしい答えだねー」
七夏「はい☆」

 ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆

心桜「しかーし! あたしはまだ諦めてないっ!!! ここで、あたしが訊きたいのは、愛のABCなのだ!」
七夏「愛? 恋ではなくて?」
心桜「ちょっと言い方を変えてみただけ。ねねっ! 笹夜先輩!」
笹夜「はい!?」
心桜「愛のABCってあるよねっ!」
笹夜「愛のABC・・・確か・・・Aは想い人と唇を重ねる事・・・だったかしら!?」
心桜&七夏「!!!!!!!」
心桜「ささ、ささささ笹夜先輩っ!!!」
七夏「こ、ここちゃー、お、お、落ち着いてっ!!!」
心桜「つつ、つっちゃーこそ!!!」
七夏「だだ、だってAが既に・・・」
心桜「そそ、そうだけど・・・・・ええいっ! ここまで来たらなんとでもなれー!」
笹夜「???」
心桜「さ、笹夜先輩!!!」
笹夜「はい?」
心桜「じ、じゃあ、びっ・・・Bは?」
笹夜「Bは・・・えっと・・・想い人と、心地良い一時を過ごす事かしら!?」
七夏「・・・・・」
心桜「じゃあ、し、ししっ・・・C・・・は?」
笹夜「Cは・・・想い人と新しい命を授かれるように、一緒に頑張る事かしら?」
心桜「・・・・・」
七夏「・・・・・」
笹夜「? どうかしました?」
心桜「・・・・・言い方って大切だなーって、改めて思ったよ。笹夜先輩、さらっとそういう言い方が出来る所が、凄いなーと思ってね」
七夏「そこは、先輩ですから!」
心桜「そうなんだけど、今は、あたしたちと年齢変わんないんだよー(涙)」
七夏「そ、そう言われれば!!」
笹夜「私も、七夏ちゃんや、心桜さんと同じ学年が良かったかな♪」
七夏「私、笹夜先輩が同級生だったらいいなって、思います!」
心桜「笹夜先輩がクラスメートって事は『ささちゃー』だねっ☆」
笹夜「まあ♪」
七夏「こ、ここちゃー! 笹夜先輩すみませんっ!」
笹夜「そう呼んで貰えると嬉しいです♪」
心桜「おぉ! 笹夜先輩から許可が貰えたよー」
七夏「さ、笹夜先輩、本当にいいのですか?」
笹夜「はい♪」
心桜「じゃ、今度から『ささちゃー』って呼ばせて頂きます!!!」
笹夜「よろしくお願いいたします」
七夏「・・・・・」
心桜「ん? どしたの? つっちゃー」
七夏「今は同じ年ですけど、笹夜先輩がお誕生日を迎えて、私達より1歳上になったら・・・」
心桜「だったら、あたしの事も期間限定だけど『心桜先輩』と呼んでくれるの?」
七夏「あ、そう言われれば・・・今まですみませんっ! 心桜先輩!!」
心桜「いやいやいやいや、そっち方面じゃないでしょ!」
笹夜「まあ、この件で細かい事は、そんなに気にしなくてもいいのではないかしら?」
心桜「ささちゃー・・・先輩がそう言ってくださるのなら・・・ねっ、つっちゃー!」
七夏「はっ、はい!」
笹夜「心桜さんも、あまり答えるのに困るようなご質問は控えてくださいね♪」
心桜「うぅ・・・すみません・・・出過ぎたまねを・・・やっぱり、今までどおり笹夜先輩って呼ばせて頂きます!!!」
七夏「私も気をつけなきゃ!」
心桜「という事で、皆様も、ちょっと答えに困るような質問に対しても、笹夜先輩のように綺麗に対応できる術を身に着けよう講座でしたっ!」
七夏「え!? 随筆ではなくて講座だったの?」
心桜「っそ! ココナッツ講座は為になってナンボだからね~♪」
笹夜「こんなかたちで、いいのかしら?」
心桜「とりあえず、繋いでゆかないとって事だからねっ!」
七夏「私も頑張らなくちゃ!」
心桜「あたしたち『ココナッツ』へのお便りも待ってまーす!」
笹夜「お便りって、どうすればいいのかしら?」
心桜「『翠碧色の虹』のアンケートページに、あたし達宛のコーナーを捩じ込んでもらったから、そこからお便りをお願いします!」
七夏「ね、捩じ込んだって・・・」
心桜「笹夜先輩も、何かありましたら、あたしたち宛のコーナーからどうぞ!」
笹夜「はい♪」
七夏「ここちゃー」
心桜「ん?」
七夏「笹夜先輩の場合は、直接、私たちにお話でいいような気がします」
心桜「そ、そうだった! と、とにかく、あたし達に聞いてほしい事や、お悩み事、人生相談など、何でも聞くからねっ!」
七夏「お気軽に、お便り待ってますね☆」
心桜「んじゃ、そういう事で、これからも『翠碧色の虹』を---」

心桜「よろしくねっ!」
七夏「どうぞよろしくです☆」
笹夜「よろしくお願い申しあげます♪」

心桜「あー、またバラバラのグタグダ・・・なんで揃わないかなぁー」
七夏「ご、ごめんなさい」
笹夜「す、すみません・・・」

心桜「次回は、ちゃんとビシッ!っと決めようね!」
七夏「はい☆ 頑張ります☆」
笹夜「はい♪ 心得ておきます♪」

随筆一 完

------------

随筆一をお読みくださり、ありがとうございました!
本編の方も鋭意制作中ですので、どうぞよろしくお願い申しあげます!

随筆二:くっつき虫?ひっつき虫?

随筆二:くっつき虫?ひっつき虫?

心桜「つっちゃー! お待たせっ!」
七夏「ここちゃー☆ いらっしゃいです☆」
笹夜「こんにちは♪ 心桜さん♪」
心桜「笹夜先輩! こんちわ! 今回もご協力ありがとうございます!」
笹夜「いえいえ♪」
七夏「ここちゃー」
心桜「ん? どしたの? つっちゃー」
七夏「靴下に何か付いてます!」
心桜「え? あっ! くっつき虫!! いつの間にっ!」
笹夜「あら? ひっつき虫ではなくて?」
心桜「ひっつき虫!? なるほど・・・多少のゆらぎってヤツかな?」
七夏「あっ、確か『オナモミ』だったと思います!」
笹夜「おなもみ?」
心桜「おなもみ・・・・・」
笹夜「こっ、心桜さんっ! 何を考えて・・・」
心桜「さっ、笹夜先輩こそっ!」
七夏「???」
笹夜「・・・コホンッ!」
心桜「とっ、とにかく、あたしはつっちゃーに、くっつき虫ぃ~☆」
七夏「ひゃっ☆ こっ、ここちゃー!!! 急にひっつかないで☆」
笹夜「わっ、私も七夏ちゃんに、ひっつき虫ぃ♪」
七夏「さ、笹夜先輩まで☆」
時崎「おや!? 三人で何してるの?」
七夏&心桜&笹夜「!!!!!」
七夏「ゆっ!!!」
心桜「あははー!」
笹夜「え、えっと・・・その・・・」
時崎「何かの遊び?」
七夏「そ、そういう訳ではなくて・・・」
心桜「そだ! つっちゃーは、お兄さんにくっつき---」
七夏「ませんっ!!!」
時崎「?」
心桜「えー、なんで?」
七夏「(そんな事して嫌われたら困ります!)」
心桜「(お兄さんなら喜んでくれると思うよ)」
七夏「(どおして、そう思えるの?)」
心桜「(あたしだったら嬉しいもん)」
七夏「(そういうことじゃなくて)」
笹夜「あの、時崎さん、これ・・・」
時崎「あ、高月さん、これは、オナモミ!?」
笹夜「そう呼ばれているのですね・・・」
時崎「『ひっつき虫』とも呼ばれていたりするよ」
心桜「あー、お兄さんは『ひっつき虫派』だったかぁ~」
時崎「え!? 何の話?」
心桜「くっつき虫か、ひっつき虫!」
時崎「くっつき虫は聞いた事が無いけど、まあ、意味は通じるよ」
心桜「さすがお兄さん! 理解あるっ!」
心桜「(だから大丈夫だよっ♪ つっちゃー!)」
七夏「大丈夫の意味が分かりませんっ!」
時崎「七夏ちゃん? どおしたの?」
七夏「な、なんでもないですっ!」
時崎「でも、このオナモミ、今は絶滅寸前らしいよ」
笹夜「まぁ、そうなのですか?」
心桜「でも、わりと見かけるような気がするけど・・・」
時崎「その多くは外来種の方じゃないかな?」
心桜「そうなんだ・・・」
笹夜「外来種は見てすぐ分かるのかしら?」
心桜「お兄さん、じゃあ、このくっつき虫は?」
時崎「棘の数が少なめだから、絶滅危惧種の方かも知れない・・・詳しい事は、図鑑とかで調べてみないと分からないけど」
心桜「そうなんだ・・・つっちゃーーー・・・えいっ!!」
七夏「ひゃっ☆ こ、ここちゃー! オナモミさん投げないで、大切にしないと」
心桜「うん! だから、つっちゃーなら大切に受け止めてくれるかな・・・って!」
七夏「そ、そういう返し方って・・・もう・・・」
時崎「どこでひっついて来たのか、分かればいいんだけどね」
笹夜「心桜さん? 分かるかしら?」
心桜「え? んー・・・・・分かんないや・・・」
時崎「七夏ちゃんっ!」
七夏「はい!?」
時崎「そのオナモミ、庭に植えてみたら!?」
七夏「えっと・・・はい☆ そうしてみます☆」
笹夜「芽生えて・・・沢山実るといいですね♪」
心桜「沢山実れば、みんなでオナモミ合戦できるよ~!」
七夏「もぅ・・・ここちゃー」
心桜「という事で、みんなの身の回りにも、割と稀少な物が存在するかも知れないよ!?」
笹夜「そうですね♪ 常に色々な事に意識を傾けてみるのも大切な事かしら?」
心桜「そだね~ あれ? 今日は何の話で集まったんだっけ?」
七夏「そう言えば・・・」
心桜「まあいっか! 1回得した感じがするから!」
七夏「くすっ☆」
心桜「それじゃ、あたしたち『ココナッツ』へのお便りも待ってまーす!」
七夏「お気軽にどうぞです☆」
心桜「んではっ! そういう事で! 今後も『翠碧色の虹』を---」

七夏&心桜&笹夜「よろしくお願いいたします☆!♪」
時崎「!? よ、よろしく・・・」

心桜「も~!!! お兄さんっ!!!」
時崎「す、すまない・・・」
笹夜「心桜さん・・・さすがに今のは無理もないと思います・・・」
時崎「高月さん。ありがとう」
笹夜「いえ♪」

心桜「次回こそは、ちゃんとビシッ!っと決めようね! 三度目の正直だよ!」
七夏「はい☆ 頑張ります☆」
笹夜「はい♪ 心得ておきます♪」
時崎「あ、ああ。意識しておくよ」

・・・この後、早速、三人はオナモミを庭に植えたようです・・・

随筆二 完

------------

随筆二をお読みくださり、ありがとうございました!
本編の方も鋭意制作中ですので、どうぞよろしくお願い申しあげます!

------------------------------------------------------------------
「オナモミ」とは
1.植物の名前。キク科オナモミ属の一年草。
  「ひっつき虫」とも呼ばれ、触れると衣服などにひっつく。
  最初は緑であるが、熟すと灰褐色になり、灰褐色のものは取り辛い。
2.女の子をモミモミすること。
  ※元ネタはリトルバスターズの登場人物「来ヶ谷唯湖」の台詞
------------------------------------------------------------------

随筆三:ニワトリが先か?タマゴが先か?

随筆三:ニワトリが先か?タマゴが先か?

心桜「んー」
七夏「どしたの? ここちゃー? 玉子焼き、ちょっと失敗しちゃったかな?」
心桜「え!? あ、いやいや、美味しいよ! つっちゃー!」
七夏「良かった☆」
心桜「今日はお手紙が届いてるんだ!」
笹夜「まあ♪」
七夏「お便り、ありがとうございます☆」
心桜「んじゃ! 読んでみるよ! 因みに、タマゴと関係のあるお話しだったよ!」
七夏「え!? ここちゃーもう読んでたの?」
心桜「まあね! 事前準備ってやつかな!?」
七夏「くすっ☆」
心桜「んでは! ペンネーム、プライドチキンさん!」
七夏「ぷらいど? フライドチキンかな?」
笹夜「七夏ちゃん、掛け言葉だと思います♪」
心桜「そこですか・・・もー、つまり『プライドが高いわりに根性が無いヤツ』って事!」
笹夜「心桜さんっ! 失礼です! それにプライドが高いなんて記されてないです!」
心桜「あっ・・・つい・・・ごめんなさいっ!」
笹夜「勝手に背びれや尾びれを足さないでくださいね♪」
七夏「今夜は、フライドチキンにしようかなぁ☆」
心桜「軌道修正! ホントに読むよ! 『ココナッツさん、こんにちは! 私、友達とニワトリが先か、タマゴが先かの話をしていたのですけど、結局どっちが先なのか分からなくて・・・なんかスッキリとしないのです。どっちが先だと思いますか?』・・・だって」
七夏「ニワトリさんが先か、タマゴが先か・・・難しいですね」
心桜「んー・・・どっちなんだろ・・・」
笹夜「結論が難しい事の例え・・・かしら?」
七夏「なるほど☆」
心桜「笹夜先輩は、どっちだと思いますか?」
笹夜「ニワトリかしら?」
心桜「おぉ! 迷わず即答!!! んで、その心は!?」
笹夜「『ニワトリ』と名付けた時から、ニワトリが始まります・・・かしら?」
心桜「おぉー!! なるほどー!!」
七夏「でも、『タマゴ』という言葉は、ニワトリさんよりも前に名付けられていますよね?」
心桜「おっ! つっちゃー鋭い!」
笹夜「はい♪ 『ニワトリのタマゴ』と『ニワトリ』の関係だけを考えた場合に限れば、私はニワトリが先・・・そう考えます♪」
心桜「『ニワトリのタマゴ』は、『ニワトリ』があってこそ・・・って事か!」
笹夜「言葉の上では、そうなりますね。ただ、このお話の真意は、どちらが先かという事ではないと思います」
心桜「え!?」
笹夜「先ほどもお話しましたけど、決める事が出来ない事柄の例え・・・が、真意かしら?」
七夏「はい♪」
心桜「でも、お手紙の人はどっちが先かと訊いてきてるよ?」
笹夜「そうですね・・・では生物学上で、どちらが先なのか・・・」
七夏「それって・・・」
笹夜「どこで線引きをするか・・・なのですけど、『ニワトリ』で線を引く場合、『ニワトリのたまご』は、その後になります」
心桜「そっか! キミが『初代ニワトリ』に決定!! コケ!?」
七夏「くすっ☆」
心桜「確かに、タマゴが先の場合、単にタマゴだけ見て『これがニワトリのタマゴか!?』なんていう方が不自然だよね・・・だって、ニワトリが存在しないんだから!」
七夏「ここちゃー」
心桜「ん?」
七夏「『これがニワトリのタマゴ』・・・って、話してる時点で既に・・・」
心桜「あ゛っ!」
笹夜「つまり『タマゴ』が先で『ニワトリ』がその次で、その後に『ニワトリのタマゴ』という関係になりますね♪」
心桜「おぉ!!! なるほど納得!!! すっきりしたよ~♪」
七夏「ここちゃー! 良かったです☆」
心桜「困った時は、頼れる笹夜先輩!!! だねっ☆」
笹夜「まぁ!」
心桜「あたし、イイコト思いついた!」
七夏「え!?」
笹夜「どんな事かしら?」
心桜「質問のされ方で、答えが変わるって事!!!」
七夏「質問のされ方!?」
笹夜「なるほど♪」
心桜「『ニワトリが先か、タマゴが先か?』の答えは、ニワトリが先で、『タマゴが先か、ニワトリが先か』の答えは、タマゴが先・・・って事!!!」
笹夜「その心は?」
心桜「その心桜・・・あ、いや、心は!!!」
七夏「・・・・・」
心桜「CMの後で・・・って、のはダメ!?」
笹夜「あら!?」
七夏「もう・・・ここちゃー!!!」
心桜「あはは・・・ごめん・・・んで、その心は!!!」
笹夜「・・・・・」
心桜「さ、笹夜先輩!!! 目が鋭くてちょっと怖いぃ~」
笹夜「え!? すみません・・・」
七夏「ここちゃー、早く!!!」
心桜「三度目の正直! その心は!!!」
七夏「・・・・・」
心桜「『あんた既に答え話してんだよ!!!』って事!」
笹夜「まあ! 確かに!」
七夏「良かった・・・」
心桜「でしょ!?」
七夏「これ以上、お話を引っ張られたら、どうしようかなぁーって☆」
心桜「・・・そっちですか!?」
笹夜「私も『そっち』を気にします・・・」
心桜「次は~、鶏ヶ崎~・・・鶏ヶ崎~・・・とか、あったりしてねっ!」
笹夜「心桜さん、何ですか!?」
七夏「車掌さん!? ・・・と、駅の名前!?」
心桜「おっ! つっちゃー流石!!」
七夏「くすっ☆」
笹夜「素直に喜んでいいのかしら!?」
心桜「まあまあ!・・・って事で、あたしたちの結論は---

七夏「ニワトリさん♪」
笹夜「タマゴかしら?」
心桜「先に言った方!」

心桜「あー、またバラバラのグタグダ・・・なんで揃わないかなぁー」
七夏「ご、ごめんなさい」
笹夜「す、すみません・・・」
七夏「結論が出ないのも答えのひとつ・・・かな?」
心桜「ま、そういう意味では揃っているって事か!?」
笹夜「今回のもさすがにちょっと・・・」
心桜「よし! では! 今後も『翠碧色の虹』を---」

七夏&心桜&笹夜「よろしくお願いいたします☆!♪」

心桜「よっしゃー!!! 決まったぁ~!!!」
七夏「くすっ☆」
笹夜「ちょっと安心しました♪」
心桜「ではでは、次回ものんびりグダクダするからよろしくねっ!」
笹夜「グダグダ・・・って、いいのかしら?」
七夏「お便り、ありがとうございました☆」

随筆三 完

------------

随筆三をお読みくださり、ありがとうございました!
本編の方も鋭意制作中ですので、どうぞよろしくお願い申しあげます!

随筆四:幸せのハッピートーン♪

随筆四:幸せのハッピートーン♪

七夏「メリークリスマス!」
心桜「Merry X'mas」
笹夜「Merry Christmas」
七夏「皆様にとって幸せなクリスマスでありますように☆」
笹夜「心桜さん!『X'mas』は正しい言い方ではないみたいです」
心桜「え!? なんで!?」
笹夜「なんで・・・って言われましても・・・」
心桜「あたしがなんで『X'mas』って言った事になってるの!?」
笹夜「そう言われれば・・・・・確かに・・・・・」
七夏「小説でなければ伝わらない事もあるのかな?」
心桜「ま、そういう事にしておきますか!」
七夏「あっ☆」
心桜「ん? どしたの? つっちゃー?」
七夏「ハートの形のハッピートーンです☆」
心桜「おぉ! つっちゃー! 今日はいい事あるかも!・・・根拠は無いけど」
七夏「くすっ☆」
心桜「んー・・・」
七夏「どしたの? ここちゃー?」
心桜「ハッピートーンって言えば、異様にパウダーの付いたヤツがあるでしょ?」
七夏「確かに、とても味が濃厚ですよね☆」
心桜「あたし的にはハート形よりも、そっちの方が当たりのような気がするんだけど」
七夏「なるほど☆」
心桜「あの異様にパウダーの付いたヤツは、どうやってできるんだろ?」
七夏「そう言われれば・・・謎です」
心桜「例えば、普通のヤツは上からパウダーを振りかけられる・・・んで、異様なヤツは、何かの手違いでパウダーがドバーッ・・・っと」
七夏「そうなの?」
心桜「ほら、よくあるでしょ!? ラーメンに胡椒を少々・・・と思ったら、フタが取れてドバーッ!! ・・・って、なって」
七夏「そんなによくはないと思いますけど」
心桜「確かに、製造工場で、そんなにドバーッが多発すると、色々問題か・・・にしては、そこそこいるよね・・・あの異様なヤツ」
七夏「一袋に2、3個はあるかな?」
心桜「という事は確信的・・・か。工場の機械にリズムがあるとか?」
七夏「リズム?」
心桜「そ。ちょろちょろ、ちょろろ・・・ドバーッ! みたいな」
七夏「一体何の為に?」
心桜「マンネリ化を防ぐ為!」
七夏「え!?」
心桜「或いは、工場の機械がノリノリとか?」
七夏「そんな事は・・・」
心桜「じゃあ、工場の機械を操作している作業員がノリノリィ~とか?」
七夏「なんだか楽しそうですね☆」
心桜「でしょ!! やっぱ、同じ事するなら楽しまないと!!!」
七夏「はい☆」
心桜「んで、ノリノリで作業してて、クライマックスでドバーッ! が連発!! あーそのドバーッ! が連発の袋がいいなー、お値段据え置きで」
七夏「それって大当たり! ですね☆」
心桜「その大当たりのハッピートーンの中では、パウダーちょろっとの方が希少価値があるという事になって・・・状況が一変したりして」
七夏「それって、うすあじ?」
心桜「そそ。キャールのうすあじみたいに」
七夏「あ、ここちゃー! ありました☆ これかな?」
心桜「おぉーそれそれ!!! あたし的当たりの異様ちゃん♪」
七夏「凄い呼ばれ方・・・はい☆ ここちゃーどうぞ☆」
心桜「え? いいの? わぁー☆ つっちゃーありがとー!」
七夏「もっとないかなー・・・」
心桜「いいよいいよ・・・ひとつで十分!!!」
七夏「ハートの形も見つかったし、これからもみんなに良い事が、たくさんあるといいな♪」
心桜「そだね。よし! つっちゃー!!!」
七夏「は、はいっ!」
心桜「次は、ハート型の異様ちゃんを目標にしよう!!!」
七夏「その凄い呼ばれ方・・・確定なの!?」
心桜「ところで、さっきから笹夜先輩が黙り込んでるんだけど・・・」
七夏「笹夜先輩!?」
笹夜「え!? は、はい!?」
心桜「どうかしたのですか?」
笹夜「どおして心桜さんが『X'mas』と話された事になったのかを考えていたのですけど・・・その理由が分からなくて・・・」
心桜「え!? まだ考えてたのですか?」
七夏「笹夜先輩! 今は随筆ですので☆」
笹夜「随筆・・・」
心桜「そそ。だから、そんなに深く悩まれなくても、お気楽にっ!」
七夏「・・・です☆」
笹夜「ありがとう♪ 心桜さん♪ 七夏ちゃん♪」
七夏「笹夜先輩もどうぞです☆」
笹夜「これは・・・」
七夏「ハートの形のハッピートーンです☆」
笹夜「ハッピートーン・・・幸せの音・・・」
心桜「今ならジングルベルが幸せの音かも?」
七夏「くすっ☆」
心桜「今日はこのままだらだらと過ごしますかっ!」
笹夜「それも良いかも知れませんね♪」
心桜「おお! 笹夜先輩がだらだら過ごす事を認めてくれた! さすがクリスマス効果!!」
七夏「今日はのんびりです☆」
心桜「つっちゃーは『いつものんびりさん』だけどねっ!」
七夏「はい☆」
心桜「んじゃ、みんなものんびりと、ちょっとした幸せをみつけてみようね!」
七夏「はい☆」
笹夜「皆様にとって素敵なクリスマスでありますように♪」

随筆四 完

------------

随筆四をお読みくださり、ありがとうございました!
本編の方も鋭意制作中ですので、どうぞよろしくお願い申しあげます!

------------------------------------------------------------------
ハッピートーンの、異様なヤツの存在理由。原作者の見解。
1.パウダーがない素体と、パウダーが異様なヤツが、別々のラインで製造される
2.その二つが混ざり合う。比率は、「素体:異様=12:1」位!?
3.混ざり合う中で、素体に異様なヤツのパウダーが伝播する
4.一定時間混ぜた後、梱包工程へ

もし、この流れで製造されていたとしたら、残念ながら心桜さん曰く「ハート型の異様ちゃん」とは出逢えない事になりそうです。でも、可能性が無くても、存在すると思える事自体に存在意義があるのかも知れません。
------------------------------------------------------------------

随筆五:オバチャンって何歳から!?

随筆五:オバチャンって何歳から!?

心桜「こんばんはー!」
七夏「あ、ここちゃー! いらっしゃいです!」
笹夜「こんばんは♪ 心桜さん♪」
心桜「今年も、もうすぐお終いなんだよね~」
七夏「はい☆ 大掃除も終わりました☆」
心桜「おお! 掃除!!」
七夏「くすっ☆」
心桜「またひとつ、歳をとっちゃうね~」
笹夜「心桜さん『歳』ではなくて『年』なのではないかしら?」
心桜「笹夜先輩・・・どおして『歳』って分かるのですか? 前回もあったよね・・・なにこの流れ?」
笹夜「まあ、『年』でも間違いでは無いかも知れませんね」
心桜「また一歩『オバチャン』に近づいたよ~」
七夏「そう言えば、おばちゃんっていくつからなのかなぁ?」
心桜「んー、あたしの感覚では35歳!」
笹夜「まあ、何故かしら?」
心桜「さ、笹夜先輩! 『感覚』に理由を求められても・・・なんとなくとしか・・・」
笹夜「そ、そうですね・・・すみません」
心桜「つっちゃーは?」
七夏「え?」
心桜「何歳から?」
七夏「えっと・・・周りから『おばちゃん』って、呼ばれ始めた時からかな・・・」
心桜「なるほど・・・という事は見た目の印象?」
笹夜「見た目の印象で言えば、髪が短い傾向かしら?」
心桜「え!? んじゃ、この中であたしがおばちゃんに最も近いって事!?」
笹夜「あくまでも、傾向ですので♪」
七夏「髪の長い人は『おねえさん』っていう印象があります☆」
心桜「んー・・・あたしも伸ばそうかなぁ・・・髪・・・」
七夏「長い髪のここちゃーも素敵です♪」
笹夜「私も、長い髪の心桜さんを見てみたいかしら?」
心桜「でも、髪伸ばすと色々面倒なんだよね・・・動きにくくなるし・・・」
笹夜「エクステっていう方法もあります♪」
心桜「それも面倒なんだよね・・・あ、つっちゃー、エクステは追加する髪の事ね!」
七夏「はい☆」
心桜「そう言えば、『ロング→ショート=オバチャン』という謎の式があって、元々ショートのあたしは、セーフになるよね?」
笹夜「まあ! 何の式かしら?」
心桜「式と言うより、これも傾向になるのかも? 長い髪の人が髪を短くすると急におばちゃんぽく見えた・・・なんて思った事があって」
笹夜「なるほど」
心桜「他にも、『自分の年齢+5歳=オバチャン』っていう式もあるね!」
笹夜「それでは、永遠にオバチャンにならないですね」
七夏「オバチャンになりたくないって事!?」
笹夜「私は『オバチャン』じゃなくて『オバサン』ならいいかしら?」
心桜「その違いって何ですか?」
笹夜「『品』って事になるかしら? あ、でも、ある程度歳を重ねてからのお話です」
心桜「それが、35歳って事!?」
七夏「ここちゃー、何も、無理して線を引かなくても・・・」
心桜「そうなんだけどさ・・・はっきりさせて、スッキリしたいんだよね」
笹夜「心桜さん的にオバチャンとは?」
心桜「たわしがオバチャンになっても全然構わないんだけどねー」
七夏「え!? たわし!?」
心桜「オバチャン、オバチャン・・・オーバーチャン!」
七夏「???」
心桜「OVER-CHAN!!!」
笹夜「え!?」
心桜「35歳! OVER-CHAN!!!」
笹夜「まあ!?」
心桜「35歳に至ったらオーバーチャン・・・って事でっ!!!」
七夏「えっと・・・」
心桜「おばちゃんじゃないんだからねっ! オーバーチャンなだけだからねっ!」
笹夜「心桜さん・・・それって」
心桜「つょっと、ツンデレ」
笹夜「え?」
心桜「舌噛んだ・・・ちょっと、ツンデレ!」
七夏「え?」
心桜「あ、ツンデレって言うのは、普段はツンツンと素っ気無いのに、ある程度仲良くなると急にデレデレし始める性格の事!」
七夏「それは・・・分かりますけど・・・」
心桜「因みに、ツンデレキャラの髪型は、ツインテ率が高い!!!」
笹夜「そうかしら?」
心桜「ツンデレオーバーチャン・・・はレアだ! ・・・ってか需要無さそうー」
笹夜「何の需要かしら?」
七夏「結局、いくつからオバチャンなのかなぁ?」
心桜「おばあちゃんなら、はっきりと分かるんだけどね・・・」
笹夜「孫を授かった時・・・かしら?」
心桜「そう! それです!」
七夏「えっと・・・ここちゃーは、さっき35歳からって話してました」
心桜「今の感覚では・・・だけど、実際35歳になった時にどうなのかは、分かんないや」
笹夜「さっき、七夏ちゃんも話してましたけど、無理に線を引く必要はないのではないかしら?」
心桜「高校二年生!!!」
七夏「ひゃっ☆ どしたの? ここちゃー?」
心桜「・・・みたいに、明確な区切りがないんだよね~」
笹夜「まあ、明確な区切りはないですけど、自然と周りから呼ばれるようになったら・・・って言う七夏ちゃんの考え方で良いのではないかしら?」
心桜「周りから自然に・・・ですか?」
笹夜「ええ。そうしますと、なるべく長く『おねえさん』を続けれるように意識も出来ますので♪」
七夏「なるほど☆」
心桜「ま、普段から意識する事は大切な事だというのは分かります!」
笹夜「では、そういう事で♪」
心桜「なんか笹夜先輩、今日は妙に早く纏めにはいっているみたいですけど、何かあるのですか?」
笹夜「え!? 今日は大晦日ですから、皆さんも色々とご予定があるのではないかしら?」
心桜「予定? あたしは紅白を見るくらいですけど・・・つっちゃーもだよね?」
七夏「はい☆」
笹夜「まあ! 二人とも紅白だったのですね!」
心桜「笹夜先輩は!?」
笹夜「私も・・・紅白かしら?」
心桜「そっか。もうすぐ紅白が始まるからね! んじゃ、みんなで見ますか!」
七夏「はい☆」
笹夜「ええ♪」
心桜「おっと、大切な事! 今年も大変お世話になりました!」
七夏「お世話になりました☆」
笹夜「はい♪ お世話になりました♪ 皆様も良いお年を!」
心桜「それじゃあ! また会おうね!」
七夏「皆様にとって素敵なお正月でありますように☆」

随筆五 完

------------

随筆五をお読みくださり、ありがとうございました!
本編の方も鋭意制作中ですので、どうぞよろしくお願い申しあげます!

随筆六:もっとよくばっていいんだよ!?

随筆六:もっとよくばっていいんだよ!?

七夏「新年、明けまして、おめでとうございます☆」
心桜「あけまして、おめでとうございます!」
七夏「今年もどうぞよろしくお願いいたします!」
心桜「どうぞよろしくお願いします!」
七夏「ここちゃー! これ☆」
心桜「ん!? おぉ! ゴバディ高級チョコセットじゃん!」
七夏「はい♪ お好きなのをどうぞです☆」
心桜「わぁー! ありがとーつっちゃー! じゃ、あたし、これがいいっ!」
七夏「はい☆ 私は、これにしようかな♪」
心桜「あっ、それもいいねー、あたしもそっちが良かったかなー」
七夏「じゃあ、ここちゃー、こっちにします?」
心桜「んー・・・・・」
七夏「??? どしたの? ここちゃー?」
心桜「つっちゃーさ、もう少し自分がほしい物は、ほしいって言うべきだよ」
七夏「そ、そうかな?」
心桜「じゃないと、厳しい生存競争で生き残れないよ!」
七夏「生存競争って・・・」
心桜「思うんだけど、今回のチョコセットさあ、なんで白いチョコが1個しか入ってないんだろうね?」
七夏「えっと、それは・・・」
心桜「こんなの、絶対に白いチョコを巡って、争いが始まるのが目に見えてるよ・・・わざと狙ってるよ・・・確信犯だよ」
七夏「そうなの?」
心桜「まぁ、つっちゃーみたいに一人っ子だと、分かんないかなぁ」
七夏「兄弟がいますと、毎日が楽しく、賑やかになりそうです☆」
心桜「そうかなー、あたしの家で、こんな高級チョコセットが出てくると、弟と白いチョコ争奪戦の幕開けだよ」
七夏「くすっ☆、ゆーちゃん、とても可愛いです♪」
心桜「いやいやいやいや、あれは猫かぶってるだけで、家ではもう・・・はぁー」
七夏「そうなの?」
心桜「そだよ。毎日何かしら戦争があるからね・・・島争奪戦の日々だよ」
七夏「???」
心桜「例えば、朝の洗面所争奪戦や、テレビのチャンネル争奪戦、お菓子争奪戦・・・まったく、共同戦役にならんのかと思うよ」
七夏「それは・・・ちょっと大変ですね」
心桜「でしょ!! つっちゃー家みたいに洗面所とかが2箇所あるだけで、だいぶ違うんだけどなー」
七夏「ひとつしかないと、そうなりますよね」
心桜「みんなと同じ時間に同じ事をする・・・日本教育の悪い所が影響してるよね」
七夏「また、凄い所へお話が・・・」
心桜「だってさぁ。食事時の混雑とか、連休中の渋滞とか・・・少し時間をずらせば、お互いに快適にならない?」
七夏「それは・・・そうなのですけど、お休みの日が同じにならないと一緒に遊べなくなったりすると思います」
心桜「だから、グループ単位でずらせばいいと思うんだけどなぁ・・・」
笹夜「こんにちは♪ 明けましておめでとうございます♪」
七夏「笹夜先輩! 明けまして、おめでとうございます!」
心桜「あけましておめでとうございます! 笹夜先輩! それ、なんですか?」
笹夜「おみやげです♪」
心桜「え!? おみやげ?」
笹夜「ええ。お裾分けになりますけど」
心桜「わぁー! 餅朗のおせんべいじゃないですかっ!」
七夏「ここちゃー、そのおせんべい、好きですよね♪」
心桜「うんうん! 高級チョコといい、やっぱり、お正月は最高だぜっ!!」
七夏「くすっ☆ 笹夜先輩! どうぞです!」
笹夜「まあ、これは!」
心桜「ゴバディ高級チョコセット!」
七夏「はい♪ お好きなのをどうぞです☆」
笹夜「ありがとう♪ 七夏ちゃん♪」
心桜「・・・あれ?」
笹夜「え!? どうかされましたか? 心桜さん?」
心桜「・・・笹夜先輩って一人っ子でしたっけ?」
笹夜「いえ、妹が居ますけど、どおしてかしら?」
心桜「ひとつしかない白いチョコレートを選ばなかったから」
笹夜「ひとつしかないと、かえって選びにくいです」
心桜「そっか・・・兄弟が居ても必ずしも戦争にはならないって事か」
笹夜「戦争?」
心桜「うん。あたしの場合は、弟と、このひとつしかない白いチョコレートを巡って戦争が始まったりするけど」
笹夜「でも、今は、その白いチョコレートが残っていますよね!?」
心桜「そ、そう言われれば・・・」
笹夜「相手の出かた次第って所かしら?」
心桜「出かた・・・確かに仕掛けられる可能性がある相手の場合は、仕掛けられる前に先手を取る傾向があるなぁ」
笹夜「恐らく、心桜さんの弟さんが白いチョコレートを取る可能性があると心桜さんが思っているからです」
心桜「でも、実際そうだもん! 弟はいつも真っ先にいいのを取るからね!」
笹夜「そして、いつも弟さんの思い通りに事が進む事を、羨ましく思ってしまうのかも知れませんね」
心桜「そりゃーね・・・時々でいいからさ、あたしにも譲ってくれたらなぁ・・・なんてね」
七夏「でも、ゆーちゃん、私にはよく譲ってくれます☆」
心桜「まっ! それがあるから相殺して、あたしは譲ってるけどね」
七夏「くすっ☆」
笹夜「心桜さん、あまり弟さんに意地悪はダメですよ♪」
心桜「・・・はい・・・すみません・・・」
笹夜「あら!? 今回は妙に素直ですね?」
心桜「うん・・・昔、ちょっと弟に意地悪した事があったから・・・」
七夏「意地悪?」
心桜「小学生の頃の話だけど、弟とよくお菓子の交換をしてたんだよね。その時もポテトチップの交換をしたんだ。あたしはコンソメ味、弟はのりしお味だったんだけど、あたしが『のりしお味ほしいな』って言ったんだ。弟は『じゃあ交換!』と言ってきたから、交換する事にしたんだ。その時、弟は『形の壊れていない綺麗なヤツをあげる』って話してきた・・・まあ、両親が側に居たからかも知れないけど・・・。あたしはいい子ぶっている弟に、ちょっといたずらしてやろうと思い、形の壊れていない綺麗なポテトチップを袋の中から手にとって『んじゃ、あたしは形の壊れたヤツを選んであげよう!』と言ったら、それを聞いたお父さんが凄く怒った。普段滅多に怒らなかったから、あたしは泣いた・・・手に形の壊れていない綺麗なポテトチップを持ちながら・・・・・弟もびっくりして一緒に泣いてたっけ・・・」
笹夜「まあ・・・すみません・・・」
心桜「いやいや、今となってはいい思い出・・・かな?」
七夏「そんな事があったの・・・」
心桜「んでさ、その時、一緒に泣いていた弟の手に形の壊れたヤツが握られてたら・・・コノヤロー! なんだけど、実際はどうだったのか・・・本人しか分からないね」
七夏「ゆーちゃんも、形の綺麗なのを持っていたと思います☆」
心桜「・・・つっちゃーに免じてそういう事にしておくよ」
七夏「くすっ☆ 私、お茶を持ってきますね☆」
心桜「ありがと、つっちゃー!」
笹夜「七夏ちゃん♪ ありがとう♪」

 ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆

七夏「笹夜先輩! ここちゃー! どうぞです☆」
心桜「ありがと、つっちゃー!」
笹夜「ありがとう♪ 七夏ちゃん♪」
心桜「んー、餅朗のおせんべい、おいしぃ~」
七夏「ここちゃー、本当にそのおせんべい、好きですよね♪」
心桜「まあね! このおせんべいと、つっちゃーの煎れてくれる緑茶の組み合わせがサイコー!」
七夏「くすっ☆」
時崎「おや!? 天美さん、高月さん、いらっしゃい! あけましておめでとう!」
心桜「あ、どもーお兄さんっ! あけましておめでとう!」
笹夜「明けまして、おめでとうございます♪」
七夏「あ、柚樹さん♪ 今、お茶煎れますね☆」
時崎「ありがとう、七夏ちゃん!」
心桜「そだ! お兄さんにも一枚あげるよ! はいっ!!!」

天美さんは、おせんべいの外袋に手を入れ、そこから俺の方にパスを送ってきた。俺は慌てて受け取る・・・が・・・

時崎「こ、これは・・・」
七夏「こ、ここちゃー!!」
心桜「げっ! お兄さんゴメンッ! わざとじゃないんだ!」

俺の手には「たべられません!(DO NOT EAT)」と書かれた物体が・・・石灰乾燥剤/脱酸素剤ってヤツか!!!

時崎「うぅ、やられた~!」
心桜「あはは・・・ま、まあ、ある意味『特別な一枚』って事で!!!」
笹夜「心桜さんっ! もう・・・すみません、時崎さん」
七夏「はぅぁ・・・」
心桜「ではでは、みんな揃ったところで! 今年も『翠碧色の虹』を---」

七夏&心桜&笹夜&時崎「よろしくお願いいたします☆!♪」

七夏「お便りも、待ってますね☆」
心桜「おっ、つっちゃー! ちゃっかり、お願い事を捩じ込んできたね~」
七夏「くすっ☆」

随筆六 完

------------

随筆六をお読みくださり、ありがとうございました!
本編の方も鋭意制作中ですので、どうぞよろしくお願い申しあげます!

随筆七:先に出来た人を待たす訳にはゆきませんから!

随筆七:先に出来た人を待たす訳にはゆきませんから!

心桜「つっちゃー! 何読んでんの?」
七夏「えっと、バラサイユノベルです☆」
心桜「バラベルかぁー・・・なんかゾクゾクするよねっ!」
七夏「え!?」
心桜「あの曲!『ベルはベルは~♪』ってヤツ」
七夏「くすっ☆」
心桜「この前、テレビで宝島歌劇団のバラベルCMがあったよ!」
七夏「そうなの!?」
心桜「見てみたいよねー」
七夏「はい☆」
心桜「そうそう、今日はお手紙が届いてるんだ!」
七夏「わぁ! お便りありがとうございます☆」
心桜「早速、読んでみるね!」
七夏「はい☆」
心桜「ペンネーム『モンキーミミ』さん! モンキーミミ!?」
七夏「どしたの? ここちゃー?」
心桜「どっかで聞いた事があるんだけど・・・モンキーミミ、猿の耳って事だよね?」
笹夜「それは、モンキーイヤー」
心桜「イヤーーーッ!!!」
七夏「ひゃっ☆」
心桜「・・・って、びっくりしたぁ!」
七夏「笹夜先輩! こんにちはです☆」
心桜「こんちはー! 笹夜先輩!」
笹夜「こんにちは♪ 七夏ちゃん、心桜さん」
心桜「いや~、このパターン、久々だったから油断してたよ」
笹夜「すみません・・・どこからお話に加われば良いのか分からなくて・・・」
心桜「確かに、仲良し二人組みの会話に割って入るのは、勇気が必要かもね・・・本当はあたしたちが気付かないとダメなんですけど、笹夜先輩のステルスレベルが高過ぎて・・・」
七夏「こ、ここちゃー! すみません! 笹夜先輩!」
笹夜「いえいえ♪」
心桜「・・・って、そうではなくて、確かに猿の耳は『モンキーイヤー』ですよね・・・モンキーミミ・・・なぜミミだけ日本語なのかなぁ?」
笹夜「ペンネームに意味や理由を求めても・・・」
心桜「でも、名前を考えた人は、なんか意味があっての事だと思うんだけど・・・あっ!」
七夏「どしたの?」
心桜「ラブラブモンキーミミィー♪ お願い聞いてぇ~♪」
七夏「???」
心桜「ラブラブモンキーミミィー♪ お願い聞いてぇ~♪ 魔法のプリンセ~ス~♪」
七夏「!!! それって、ミンキーモ…」
心桜「さあーて! 読むよ!」
七夏「は、はいっ!」
心桜「えー『ココナッツさん、こんにちは。私、昔からトロくて、みんなについて行けない事が多くて困ってます。そして、今の学校の教師が「先に出来た人を待たす訳にはゆきませんから!」と言って、どんどんと先に授業を進めてしまいます・・・当然私は付いてゆけなくて・・・トロい人を置いてきぼりにする教育の方針に疑問を抱いてます。これってトロい私が悪いのでしょうか? その教師に、その考え方が間違っていると思わせるような返しが出来ないか考えてみましたが、なかなか良い返し方が思いつきません。何か良い方法はないでしょうか?』・・・だって」
笹夜「まあ、少し特殊なお考えの教師ですね」
心桜「そだね。『先に出来た人を待たす訳にはゆきませんから!』・・・こんな事を言う教師って、つっちゃーはどう思う!?」
七夏「え!? どうって言われても・・・」
心桜「これってさ、出来ていない人は、確実に置いてゆかれるよね」
七夏「・・・はい」
心桜「冗談なら笑えるけど・・・。なんかこうさ、これに対するカウンターって、あてれないかなー」
七夏「カウンターって!?」
心桜「あ、ごめん。ここでは、カウンターアタックって意味で『反撃/逆襲』かな?」
七夏「・・・聞かない方がよかったかも・・・」
心桜「つっちゃーは、平和主義だもんねー」
七夏「平和主義って!?」
心桜「平和主義・・・真っ先にターゲット・・・標的にされるから、気をつけなされや~!」
七夏「???」
心桜「まっ、そのカウンターを考えてるんだけど、お手紙の人も話してるとおり、これがなかなかこう良い切り返しが思い浮かばないよね・・・」
七夏「良い切り返し???」
心桜「まだ出来てない人がいるのに、先に進むんかよっ!!!」
七夏「ひゃっ!」
心桜「・・・って、言うような思いを込めつつ、その教師の話した事が正しくなかったと導けるような気の利いた返し!」
七夏「ここちゃー、急に大声出すから・・・」
心桜「あ、ごめん。つっちゃーなら先に出来たらどうする?」
七夏「えっと、出来ていない人を待ちます」
心桜「それで結構、待たされたらどうする?」
七夏「出来ていない人の為に、何かできる事は無いか考えます」
心桜「さすが、女将の子だね~」
七夏「もう・・・」
心桜「笹夜先輩は?」
笹夜「そうですね・・・出来ていない人の力になれないか考えます♪」
心桜「つっちゃーと同じか・・・でも、それだと、その教師をギャフンとは言わせられないからなぁ・・・」
七夏「無理しなくても・・・」
心桜「でも、お手紙の人は『ギャフンッ!』と言わせたいんだよ!」
笹夜「先に出来て、待っている人が何か意見をすれば良いのですよね」
七夏「先に出来ても『出来ました!』って話さなければいいのかなぁ?」
心桜「そうだけど、残念ながら先に出来た人は『先に出来た!』って主張する傾向があるからなぁ」
笹夜「予め教師に出来た人は、申告するように言われていたら、そうなりますね」
心桜「深刻だねー。そうでなくても、先に出来た人は主張する傾向はあるよね・・・自己顕示欲が強いとか?」
笹夜「まあ、生き残りや競争されているような状況ではそうなってしまいますよね」
七夏「ちょっと、切ないですね」
心桜「平和主義のつっちゃーには厳しい現実だね!」
七夏「えっと・・・まだ出来ていない人は、どうなっちゃうのかなぁ?」
心桜「単純に切り捨てられるだけ・・・」
七夏「そんな・・・」
心桜「でも、その教師の教育方針がそれなら、そうなるよね・・・間引かれ教育とか?」
笹夜「つまり、その教師の世界は、自分には適合していないという事になるのかしら?」
心桜「だね・・・だけど、そこをなんとかするのが、あたしたちなんだよ!」
七夏「はいっ!」
笹夜「なんとか・・・してあげたいですけど・・・」
心桜「そうかっ!!」
七夏「どしたの!?」
心桜「先に出来た人を待たす訳にはゆかないって事はさぁ・・・」
七夏「はい」
心桜「先に出来ても休憩すら貰えず、次々と課題を積み重ねられるだけにならない?」
笹夜「そう・・・なりますね」
心桜「って事なら、一生懸命物事をこなそうとしなくなる・・・賢い人ほどそうなると思うなぁ」
七夏「なるほど☆」
心桜「従って『ダメ人間を増やす教育方針だねっ!!!』これでどうだぁ~!!!」
笹夜「ダメ人間って・・・心桜さんっ!」
心桜「だってさあ、行っても行っても次々と課題を積まれる状況が続くと、どうなるか考えるまでもないでしょ!?」
笹夜「まあ、確かにそうですけど、何事も『ほどほど』が大切ですね♪」
心桜「結局、その言葉に尽きるよね!」
七夏「先に出来た人は、『復習しましょう』が、いいな☆」
心桜「ふっ復讐!?」
笹夜「心桜さん『復習』です!?」
心桜「え!? その違い分かんないんですけど!」
笹夜「七夏ちゃんの言葉ですよ!?」
心桜「あははっ! 分かってますって!」
七夏「お便りの人も、先に出来なくても、頑張っていれば、いずれ良いことがあると思います☆ どうしてもダメなら、ここちゃーの話してた内容で相談してみるといいかもです☆」
心桜「そだねー。先に出来た人は、まだ出来ていない人の事を考える気配りを養う機会だと心得よ!」
笹夜「人間、得て不得手があります。お便りの人もきっと他の人よりも得意な事があるはずです♪ そんな時、お便りの人はきっとまだ出来ていない人の事を気遣える心が芽生えると思います。『先に出来た人を待たせない教育』から反面教師的に芽生えたのが優しい心なら、このような教育方針も無意味ではなさそうですね♪」
心桜「笹夜先輩・・・遠まわしな皮肉ですねー」
笹夜「そ、そうかしら? すみません」
心桜「いやいや、まとめてくださって、ありがとうございます! つっちゃーもねっ!」
七夏「はい☆」
心桜「という事で、あたしたちの考え方はこんな感じです! あくまでも回答ではなく、助言ですので、ご参考程度に!」
七夏「お便り、ありがとうございました☆」
笹夜「頑張ってくださいね♪ モンキーミミさん♪」
心桜「モンキーミミ!! そうだったっ!!」
七夏「え!?」
心桜「・・・いや、なんでもないっ!」

随筆七 完

------------

随筆七をお読みくださり、ありがとうございました!
本編の方も鋭意制作中ですので、どうぞよろしくお願い申しあげます!

随筆八:ラーメン大好き心桜さん!

随筆八:ラーメン大好き心桜さん!

七夏「ここちゃー、何を読んでるの?」
心桜「ん?『ラーメン大好きっ!泉さん!』」
七夏「らーめん?」
心桜「っそ! 流行に乗ってみよーと思って!」
七夏「???」
心桜「あーかいみどりときつねのた・ぬ・きっ♪」
七夏「それって、らーめんではなくて、おうどんと、おそば・・・」
心桜「そっちの突っ込みですか!?」
七夏「えっと・・・」
心桜「えっと、豚色黄いカレー! もあるねっ!」
七夏「そうなの?」
心桜「確か・・・あったはず・・・。あーなんか食べたくなってきた」
七夏「くすっ☆ らーめん作る?」
心桜「それもいいけど、せっかくだから本場ってヤツ・・・専門店で食べてみない?」
七夏「専門店?」
心桜「そう! 笹夜先輩も誘ってさっ!」
七夏「はい☆」

 ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆

心桜「んー、今日も暑いねー」
七夏「はい☆」
心桜「笹夜先輩は来れなくて残念・・・」
七夏「用事があるみたいです」
心桜「そっか、随筆出演よりも大切な用事って何だろ?」
七夏「???」
心桜「つっちゃー、着いたよ!」
七夏「えっと、『指折りラーメン』!?」
心桜「ここのラーメン店、ちょっと変わった所が、マニアに評判なんだって!」
七夏「そうなの?」
心桜「じゃ、早速頂きますか!!!」
七夏「はい☆」

---ガラガラ(扉音)---

店員「いらっしゃいませ。お二人様ですか?」
心桜「はい!」
店員「こちらの席にどうぞ!」
七夏「ありがとうございます☆」
店員「ご注文が決まりましたら、お申し付けくださいませ」
心桜「はーい!」
店員「では、ごゆっくりどうぞ」
七夏「はい☆」
心桜「つっちゃー、何にする?」
七夏「えっと・・・あ、私、これにしようかな☆」
心桜「んーどれどれ・・・おっ! 冷やし中華! いいねー!」
七夏「はい☆」
心桜「こっちの癒し中華も涼しそうで、いいなー」
七夏「くすっ☆ そんなのないですよ☆」

---ガラガラ(扉音)---

店員「いらっしゃいませ。お一人様ですか?」
客 「うむ」
店員「こちらの席にどうぞ!」
客 「ふむ」
心桜「(つっちゃー)」
七夏「なぁに、ここちゃー」
心桜「(あのお客さん、ラーメンマンじゃない!?)」
七夏「え!?」
心桜「(ほら、金肉マンに出てくる・・・)」
七夏「(あっ! 似てますね!)」
心桜「(でしょ! 異世界から現実世界に迷い込みマンじゃない!?)」
七夏「(なんですか? それ?)」
心桜「(あ、ラーメンマンが手を上げた)」
七夏「(ここちゃー、あんまり見たら失礼ですよ)」
心桜「(分かってるよ・・・でも、気になって・・・)」
店員「ご注文は、お決まりでしょうか?」
客 「ふむ・・・餃子定食を・・・」
心桜「そこは『ラー定』じゃないのかよっ!!!」
七夏「こっ! ここちゃー!!」
心桜「あっ! ・・・つい・・・」
店員「お客様、どうかなさいましたか?」
心桜「い、いやー、ここに来たら『ラー定』一択かなぁ・・・って!! あはは・・・」
店員「ラーメン定食ですね! かしこまりました」
心桜「え!? あ・・・はい」
店員「そちらのお客様は、お決まりですか?」
七夏「え、えっと・・・冷やし中華、お願いします」
店員「かしこまりました。しばらくお待ちください」
心桜「ふー・・・焦った」
七夏「もう・・・」
心桜「(なんで、餃子なんだろうね)」
七夏「(まだ、続けるの?)」
心桜「(だって、あたし、癒し中華にしようかなって、思いかけてたのにぃ~)」
七夏「(はぅぁ・・・そんなのないですよ)」
心桜「まあ、癒し中華は、また今度にしますかっ!」
七夏「はい☆ ってないですって」
心桜「そだ! つっちゃーなら作れるんじゃない? 癒し中華!」
七夏「む、無理です!」
心桜「なんで?」
七夏「どんなのか、分からないから」
心桜「それは、つっちゃーが、冷やし中華を作ってくれるだけでいいんじゃない?」
七夏「どおして?」
心桜「学生服+エプロン姿のつっちゃーに、癒されて・・・」
七夏「どおしてそうなるの?」
心桜「あはは・・・癒し中華を想像してたら・・・」
店員「お待たせいたしました。餃子定食になります」
客 「ふむ・・・」
心桜「(食べ方は・・・普通・・・だね)」
七夏「ここちゃー!!」
心桜「だってさ・・・なんかこう---」
店員「お待たせいたしました。冷やし中華になります」
七夏「わぁ☆ ありがとうございます!」
心桜「おぉ!! 冷やし中華、美味しそうだねー!!」
七夏「ここちゃー。少し食べます?」
心桜「ありがと、つっちゃー。でもあたしは今日『ラー定一択宣言』をしてしまっ---」
店員「お待たせいたしました。ラーメン定食のごはんとお漬物になります! ラーメンもすぐに持ってまいります!」
心桜「はい!」
七夏「? どしたの? ここちゃー?」
心桜「いや~主役を最後に持ってくる所が粋だなーって」
七夏「くすっ☆」

 ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆

店員「お待たせいたしました。ラーメン定食のラーメンになります」
心桜「おぉ! 待ちわびたよー・・・って、あれ? 店員さん?」
店員「どうかなさいましたか?」
心桜「いや・・・その、ラーメンに店員さんの親指が・・・」
店員「あ゛!! これは、失礼いたしました! すぐに替わりを持ってまいります!!!」
心桜「いえ、こちらこそ、細かくてすみません」
七夏「今のって・・・」
心桜「ん?」
七夏「その・・・店員さん熱くなかったのかな・・・火傷してないか心配で・・・」
心桜「そう言われれば・・・スープに親指ガッツリ浸かってたのに、自然過ぎだったよね。なんだろ?」
店員「大変お待たせいたしました。替わりのラーメンになります」
心桜「おぉ! 今度こそ・・・って、おいっ!!」
店員「あ゛!! またしても!! 大変失礼いたしました!!」
心桜「あのー、店員さんさぁ・・・その・・・指、熱くないの?」
店員「申し訳ございません。いつも熱いラーメン鉢を触っているもので・・・指の感覚が鈍ってきているのかも知れません」
心桜「・・・にしてもさぁ」
店員「お怒りはごもっともです。以前に何度も熱いラーメン鉢を落としてしまって・・・落とさないように、しっかり持つよう意識するあまり・・・申し訳ございませんっ!!!」
七夏「ここちゃー。あまり責めたら・・・」
心桜「分かってるって」
??「お客様、どうかいたしましたか?」
店員「あ、店長! ・・・実は・・・」
店長「あ゛っ! お前! またやらかしたのかっ!」
店員「す、すいませんっ!」
店長「あれほど、親指を入れるなって、言ってんだろ! 何度言ったら分かるんだ!」
心桜「て、店長さん! あたしは別に怒ってませんので」
店長「申し訳ございません。今度は店長の私が責任をもって準備してまいりますので」
心桜「よ、よろしく・・・です」
店員「申し訳ございません!!」
心桜「あー、もう何なんだろ・・・」
七夏「店員さん、ちょっと可哀想・・・」
心桜「まあ、仕方がない点はあるよね・・・つっちゃー」
七夏「なぁに? ここちゃー?」
心桜「先に食べなよ・・・冷やし中華」
七夏「え、でも・・・」
心桜「麺が伸びちゃうよ」
七夏「ありがとです。ここちゃー。じゃあ、お先に・・・いただきまーす☆」
心桜「うんうん♪」
店長「大変お待たせしました」
心桜「今度こそっ!! ・・・って、こぉらぁー!!!」
七夏「ひゃっ☆」

 ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆

心桜「まったく、なめとんか!? ってか、なめてんだろ!!」
七夏「確かに、驚きました!」
心桜「つっちゃー、()せてたけど大丈夫!?」
七夏「はい・・・ちょっと苦しかったですけど・・・大丈夫です」
心桜「あの店長、確かに親指は入ってなかったけど『親指以外』が全部だよ!! 4本とも!! 仲良く浸水式とキタコレがっ!」
七夏「コホッコホッ・・・」
心桜「ご、こめん! つっちゃー! 大丈夫!?」
七夏「うぅ・・・は、はい」
心桜「普通、ラーメン鉢をあんな掴み方するか? わざとだろ?」
七夏「確かに・・・個性的な持ち方でした」
心桜「あーなんか、すっきりしないぃー」
七夏「どしたの? ここちゃー?」
心桜「何が『指折りラーメン』だよ!『指入りラーメン』の間違いじゃないのか!?」
七夏「もう・・・振り返ってお店の看板を見たと思ったら・・・」
心桜「はっ!」
七夏「え!?」
心桜「あのお客!! ラーメンマン!!」
七夏「・・・が、どうかしたの? ・・・って、ラーメンマン確定なの?」
心桜「やっと、分かったよ!!!」
七夏「え!?」
心桜「なんで『ラー定』じゃなくて『餃子定食』だったのかって事がっ!!!」
七夏「えっと・・・それは・・・」
心桜「あー、ちょっとすっきりした~」
七夏「まあ、ここちゃーがすっきりなら、いいかな♪」
心桜「でもさ、4度目の『心桜完全監修セルフ式ラー定』は美味しかったから、終わりよければって事にしておきますか!」
七夏「くすっ☆」
心桜「今度は『つっちゃー特製癒し中華』を---」
七夏「謹んで、辞退させて頂きます☆」
心桜「えーーー!!!」

随筆八 完

------------

随筆八をお読みくださり、ありがとうございました!
本編の方も鋭意制作中ですので、どうぞよろしくお願い申しあげます!

随筆九:鬼は外!福は内!って言うけどさぁ

随筆九:鬼は外!福は内!って言うけどさぁ

心桜「つっちゃー! こんちはっ!」
七夏「ここちゃー☆ いらっしゃいです☆」
心桜「ん? それはっ! 大豆?」
七夏「はい☆ 福豆です☆ もうすぐ節分ですので☆」
心桜「節分かぁ・・・」
七夏「どしたの?」
心桜「豆まきで『鬼は外!福は内!』ってあるよね?」
七夏「はい☆」
心桜「あれさ・・・結構残酷だと思って」
七夏「えっと・・・」
笹夜「こんにちは♪」
七夏「笹夜先輩! こんにちはです☆」
心桜「こんちわー! 笹夜先輩っ!」
笹夜「こんにちは♪ 七夏ちゃん、心桜さん。すみません、この前は、せっかく誘ってくださったのに・・・でも、凄かったらしいですね?」
心桜「あー、ラーメンの件ね」
笹夜「ええ」
心桜「んー、実はさぁ・・・あの話には続きがあって---」
七夏「・・・えっと、私なら大丈夫です☆」
笹夜「???」
心桜「あれさぁー。ドッキリだったんだよねー」
笹夜「まあ!」
心桜「お店を出た後、知らない人に呼び止められてさ・・・おかしいなとは思ったんだけど」
七夏「・・・・・」
笹夜「そうだったの・・・」
心桜「地元のイベントで使わせてほしいって言われたんだけど、つっちゃーの事があるから断った」
笹夜「七夏ちゃん?」
七夏「・・・・・」
心桜「(笹夜先輩、つっちゃーは、あまりドッキリに良い思い出が無いから)」
笹夜「(なるほど。ありがとう。心桜さん♪)」
七夏「???」
笹夜「七夏ちゃん! それは福豆かしら?」
七夏「え!? はい☆ もうすぐ節分です☆」
笹夜「なるほど♪」
心桜「そうそう、節分! 笹夜先輩! 豆まきって残酷だなーって思いませんか?」
笹夜「え!? 確かに、大豆が勿体無いですよね♪」
心桜「え!? あ、大豆? た、確かに!」
笹夜「あ、すみません。『鬼は外、福は内』の事かしら?」
心桜「そうそう! それです! 昔、弟と一緒になって、鬼のお面を付けたお父さんに向かって思いっきり豆を投げつけてたんだけど、その後さ、弟がふざけてお母さんにまで豆を投げつけ始めて、あたしはそれを見てイラッときて弟に豆を投げつけたら、弟が反撃してきて喧嘩になった。弟が思いっきり投げてくる豆が顔に当たると結構痛いんだよ。それで、お父さんに悪い事したなーって」
笹夜「まあ、そんな事が・・・」
七夏「ゆーちゃん、そんな子には見えないですけど」
心桜「だからさ、それは猫かぶりだって! そだ! 節分の日につっちゃーがあたしん家に居てくれれば平和だよ!」
七夏「くすっ☆ 節分の豆まきは控えて、恵方巻きを頂くといいかもです☆」
心桜「それなんだけどさぁ・・・恵方巻きを食べてる時に、あたしを何とか喋らそうとして弟がくすぐって来て、喧嘩になった」
笹夜「まあ!」
七夏「ゆーちゃん、そんな子には見えないで---」
心桜「だからさ! それは猫かぶりなんだってば!」
七夏「ひゃっ☆」
心桜「節分なんだからさ、文字通り『節度を分けろ!』って言いたいよねっ!」
笹夜「少し違うような気がしますけど、まあ確かに言えてるかしら?」
心桜「鬼は外!福は内! 鬼を外に追い出して、福は家に呼び入れる・・・これって残酷だよね」
七夏「ここちゃー『福は家』ではなくて『福は内』です☆」
心桜「なんで、『家』だって分かんのよっ!」
七夏「えっと・・・なんとなく」
心桜「まあ、いいや。で、あたし思うんだけど、優しい鬼って居ないのかな?」
笹夜「私は居ると思います♪」
七夏「私も笹夜先輩と同じです☆」
心桜「ほほうー、そう言うからには何か根拠があるはずだよねっ!」
笹夜「はい♪」
七夏「え!? えっと・・・」
笹夜「(七夏ちゃん! ○○○○○○)」
七夏「(あっ! なるほど☆)
心桜「何ひそひそ話してんの!? その根拠とは!?」
笹夜「鬼の目にも涙・・・かしら?」
七夏「ことわざにあります☆」
心桜「うわぁ! それがあったかぁ~!」
七夏「くすっ☆」
笹夜「でも、鬼とは必ずしも悪い事ばかりではないです♪」
心桜「例えば?」
笹夜「そうですね・・・仕事の鬼とか?」
心桜「あー、職人ってヤツだねー」
笹夜「他には、文学の鬼・・・」
心桜「それ、つっちゃーかも!?」
七夏「え!? そんな・・・」
笹夜「心桜さん! 仕事の鬼や文学の鬼は、非情なまでに行うという意味を持ってますので、七夏ちゃんはあてはまりません」
心桜「じゃ、つっちゃーは小説の鬼・・・だね!?」
笹夜「ええっと・・・優しさがあるから大丈夫です♪」
心桜「笹夜先輩、一瞬、躊躇わなかった!?」
笹夜「すみません・・・」
七夏「もう! ここちゃー! 笹夜先輩を困らせてはダメです!」
心桜「はい! すみません!」
七夏「くすっ☆」
心桜「そう言えば、凄い事の例えに『鬼』が使われてたりするよね?」
笹夜「凄い事?」
心桜「鬼武者とか」
笹夜「確かに!」
心桜「他にも何かの広告で『鬼!買い取り!』って見たんだけど、どこで鬼を調達してくるかが問題だよね~」
七夏「ここちゃー!!」
心桜「あははっ!!! でも、心の中の鬼を買い取ってくれるのなら・・・一石二鳥じゃない?」
七夏「えっと・・・」
笹夜「え!? 七夏ちゃん!? そ、そうですね・・・確かに心の中の鬼を買い取ってくださればと思う事もありますけど、それも含めて自分なのです。鬼はとても強いですので大きな決断を迫られた時に、その力を発揮してもらえると思います!」
心桜「なるほどね~。やっぱ笹夜先輩には適わないか・・・」
七夏「笹夜先輩! ありがとうございます☆」
心桜「んじゃ、他にも『鬼嫁』はどうです!?」
笹夜「え!? ええっと・・・」
七夏「え!? 笹夜先輩!? えっと・・・あっ! 鬼族の優しいお嫁さん!」
心桜「苦し紛れだけど・・・それもあり・・・か」
笹夜「七夏ちゃん。すみません」
七夏「いえいえ。ここちゃーの攻めが鬼怖いです☆」
心桜「え!? あたしが鬼って事!?」
笹夜「まあ、とにかく『恐い鬼は外!優しい鬼は内!』って事でどうかしら?」
心桜「笹夜先輩・・・節分ならぬ鬼分ですか!?」
笹夜「ええ♪」
心桜「んじゃ、福は!?」
笹夜「福は内でも外でも♪」
心桜「ん!? どういう事ですか?」
七夏「福は、自分にもみんなにもって事かな?」
心桜「なるほど・・・参りました。でも、本当の鬼・・・実は、鬼以外の人の方かも知れないよ!?」
七夏「え!?」
心桜「鬼ごっこで『鬼さんこちら!手の鳴る方へ!』って言う人間っ!!!」
笹夜「それは、お遊びの事ですから・・・でも、遊びの域を超えてはなりませんね」
心桜「そだね! ・・・って事で、鬼さんに対して、もう少し優しくなりたいと思うあたしたちでした! 鬼のお面を付けた優しいお父さんには特にっ!」
七夏「くすっ☆ 今日は巻きのお寿司にしようかなぁ☆」

随筆九 完

------------

随筆九をお読みくださり、ありがとうございました!
本編の方も鋭意制作中ですので、どうぞよろしくお願い申しあげます!

随筆十:本当の鬼とはいったい・・・

随筆十:本当の鬼とはいったい・・・

心桜「んー・・・」
七夏「どしたの? ここちゃー?」
心桜「なんかさぁ、おかしくなってない!?」
七夏「え!?」
心桜「前々回と前回の繋がり!」
七夏「えっと・・・」
心桜「前々回が『らーめん』で、前回が『節分』・・・一気に夏から冬だよ!?」
七夏「そう言われれば、確かにそうですね」
心桜「でしょ!? んで、笹夜先輩が前回『凄かったらしいですね?』と話されています・・・これは、大きな問題にならない!?」
七夏「らーめんを冬に頂いたという事にすればいいのかな?」
心桜「でも、あたし、『今日も暑いねー』って話してるし、つっちゃーは『冷やし中華』頼んでたでしょ!?」
七夏「そう・・・ですね」
心桜「おーい! 原作者! どうすんだ!?」
笹夜「こんにちは♪」
心桜「おおっ! 笹夜先輩! こんにちは!」
七夏「笹夜先輩! こんにちはです☆」
心桜「いいところに来てくださいました!」
笹夜「どうかしたのかしら?」
心桜「実はですね・・・」

 ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆

笹夜「・・・確かに、時系列が飛んでますね」
心桜「でしょ!?」
笹夜「では、節分の方を動かしてみるというのはどうかしら?」
心桜「でも、つっちゃーが『もうすぐ節分ですので☆』って話しているよ」
笹夜「ええ。それを『もうすぐ、読者様の世界では節分ですので☆』とすればどうかしら?」
心桜「読者様の世界・・・なるほど! 今流行の異世界ってヤツか! よし! つっちゃー!!」
七夏「はい!?」
心桜「井伊(いい)直弼(なおすけ)みよー」
七夏「???」
心桜「ではなくて、言い直してみよう!」
七夏「は、はい☆」
心桜「因みに、井伊直弼氏は『井伊の赤鬼』の一人ですじゃ!」
七夏「くすっ☆ なるほど☆」

 ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆

心桜「つっちゃー! こんちはっ!」
七夏「ここちゃー☆ いらっしゃいです☆」
心桜「ん? それはっ! 大豆?」
七夏「はい☆ 福豆です☆ もうすぐ読者様の世界では節分ですので☆」
心桜「節分かぁ・・・なるほどねー。それで季節外れなのに福豆を・・・って、よく福豆が手に入ったね!?」
七夏「え!? えっと・・・」

 ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆

心桜「やっぱ、無理があるよねー」
七夏「福豆は、大豆を煎ればできますので、大丈夫です☆」
心桜「福豆は大丈夫なんだけどさ・・・やっぱ、慎重に考えないとね。あたしたちでもカバーしきれないよ・・・分かったか! 原作者!」
笹夜「でも・・・」
心桜「ん? どうかしましたか? 笹夜先輩?」
笹夜「前回、七夏ちゃんが最後に『恵方巻き』とは話していないですよね・・・」
心桜「そう言われれば『巻きのお寿司にしようかなぁ☆』だね? つっちゃーなんで?」
七夏「え!? えっと・・・なんとなく、その方がいいかなって」
心桜「はっ! もしかして、これって計算されてるとか!? いやいやいやいや・・・そんなはずは・・・」
笹夜「とりあえず、季節のイベントと、本編のイベントは別物ということにいたしましょう!」
心桜「そだね。本編でもこんなことがあったら、目も当てられないよ。んじゃ、早速、今日の話題を・・・」
七夏「話題・・・えっと・・・」
心桜「そう言えば、つっちゃーって『エットマン』だよねっ!」
七夏「え!? えっと・・・」
心桜「ほらっ! それそれ!」
笹夜「心桜さん!」
心桜「はい! では、もう異世界では過ぎちゃったけど、前回の続きと参りますか!」
七夏「前回の続き!?」
心桜「そう! これ! お便り! 節分のお話だよ!」
七夏「あっ! お便り! ありがとうございます!」
心桜「んじゃ、早速読んでみるよ! 『ペンネーム、マツコリラックスさん!』」
七夏「まつこりらっくす?」
心桜「つっちゃー、ペンネームだから、あまり深く考えないっ!」
七夏「は、はい☆」
心桜「『ココナッツさん、こんにちは! 前回の節分のお話、確かに鬼は大変だなーって思いました。心桜さんも大変ですね。私も昔、小学生時代に節分の豆まきイベントが学校であって先生が鬼のお面を付けて登場し、クラスのみんなで鬼に向かって豆を投げるんだけど、私はクラスの中でいつも意地悪してくるヤツにターゲットを変更して、そいつに豆を投げつけ続けたら、そいつが気付いて、取っ組み合いの喧嘩になった。そしたら、先生が止めに入ったんだけど、その時、鬼のお面を付けたままだったので、絵的に滑稽でした』・・・って、あっはっはー!」
笹夜「こ、心桜さん!?」
心桜「あー、ゴメン! あたしは先に読んでたけど、やっぱ想像したら、笑っちゃうよ~!」
七夏「でも、鬼さんが人間の争いを止める事もあるのですね☆」
心桜「いや、本当の鬼は、人間同士が争っていたら、どっちかが倒れるまで邪魔をして来ないと思うよ」
七夏「もう・・・」
心桜「お手紙の続き!『で、その後、喧嘩の原因が私にあったという事で、先生が本当の鬼と化しました! その時も先生はずっと鬼のお面を付けたままだったので、私は可笑しくて、怒られている事よりも、笑いを堪える事の方が辛かったです・・・あの時の先生!ごめんなさい。心桜さんも弟さんと仲良くなさってくださいね!』・・・だって。弟が余計な事をしなければ仲良くするけどさぁ」
七夏「くすっ☆ ここちゃーは、ゆーちゃんと仲良しさんです☆」
心桜「そういう事にしときますかっ!」
笹夜「でも、皆さま、色々な節分の思い出があるのですね♪」
七夏「はい☆」
笹夜「前回もお話しましたけど、鬼とは人の心の中に存在する感情の一つが実体化したとも言えます。従って、鬼も含めて自分なのです♪」
心桜「って、事は、ずっとのんびりしてる、つっちゃーにも鬼は存在するって事!?」
七夏「え!?」
笹夜「そうなりますね♪ 七夏ちゃんの場合は、心の鬼さんも、のんびりされているのかしら?」
七夏「えっと・・・」
心桜「それって鬼って言えるのかな?」
笹夜「いつかは、鬼さんの力に助けられる事があるかも知れませんね♪」
心桜「ま、つっちゃーは、このまま、のんびりでいいんじゃないかな?」
七夏「くすっ☆」
心桜「今、本当に『鬼化』しなければならないのは・・・原作者っ!!!」
七夏「ひゃっ☆」
笹夜「心桜さん、コメントに困ります」
心桜「今回の件、色々とカバーするのが大変だったんだからねっ! もっとしっかりしてよねっ! ・・・と、言っておこう!」
笹夜「心桜さんの鬼さんは元気ですね♪」
心桜「んなっ! こーわ! なんつって!」
七夏「???」
笹夜「お手紙、ありがとうございました♪」
七夏「あっ! ありがとうございました☆」
心桜「ありがとうございました! また面白いお話があったら、よろしくねっ!」

随筆十 完

------------

随筆十をお読みくださり、ありがとうございました!
本編の方も鋭意制作中ですので、どうぞよろしくお願い申しあげます!

随筆十一:バレンタインに想いを込めて!?

随筆十一:バレンタインに想いを込めて!?

笹夜「七夏ちゃん♪ こんにちは♪」
心桜「つっちゃー! こんちはっ!」
七夏「笹夜先輩、ここちゃー☆ いらっしゃいです☆」
心桜「今日もこれが届いてるよ!」
七夏「わあ☆ お手紙ありがとうございます☆」
心桜「・・・という事で、はい! 笹夜先輩っ!」
笹夜「え!? 私!?」
心桜「そうです! 今回は最初からいらっしゃってくれる笹夜先輩にこのありがたいお手紙を託します!」
笹夜「お手紙を読めばいいのかしら?」
心桜「はい! お願いします!」
七夏「私、お飲み物を用意しますね☆」
心桜「ありがと! つっちゃー!」
笹夜「七夏ちゃん、ありがとうございます♪」

 ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆

心桜「ん? 笹夜先輩、どうかされました?」
笹夜「一度、リハーサルを行っておいたほうが良いのかしら?」
心桜「いやいや、直接で大丈夫です!」
七夏「笹夜先輩☆ お願いします☆」
笹夜「ええ。では『ペンネーム、ちょコミックスさん? 七夏さん、心桜さん、笹夜さん、こんにちは、私にはちょっと気になる人が居て、もうすぐバレンタインデーですから思いきってチョコレートを渡そうかなって考えてます。だけど、その人は他の女の子からも人気があって、「お友達とチョコレートをいくつもらえるか勝負」みたいな話をされていました。もし、私がチョコレートを渡したら、その勝負の数の一つになってしまうだけになるような気がして・・・それでも、気持ちを伝えるべきでしょうか?』・・・まあ!」
心桜「んー、異世界ではバレンタインの季節か・・・」
七夏「異世界!?」
心桜「あ、いや、ま、居るよね・・・そういう男の人」
笹夜「心桜さんは、どう思われますか?」
心桜「あたしは、まあ別に構わないけど!」
笹夜「まあ!」
心桜「だって、そんな事を言う人、あたしにとっては『どうでもいい人』だから!」
七夏「こ、ここちゃー!」
心桜「まあ、せいぜい義理チョコで十分じゃない!?」
笹夜「義理・・・って」
心桜「ひとつ、大切な事、言っておくよ!」
七夏「大切な事?」
心桜「っそ! 義理チョコがいくら寄って集っても、本命チョコ1個に敵わないからね!」
笹夜「それは・・・そうですけど」
七夏「でも、お手紙の人は本命かも?」
心桜「そう? 本命なら、渡すのを迷わないと思うけど?」
笹夜「気持ちを伝えたいのですけど、その気持ちが相手の心にしっかりと届くかどうかが分からないから、迷われているように思えますね」
心桜「なるほどね~」
七夏「えっと、どうすればいいのかな?」
心桜「渡さない!」
七夏「え!?」
心桜「渡すのを迷っている不安定な気持ちで、渡しても、相手の心には届かないと思う!」
笹夜「まあ! 心桜さん! なかなかしっかりとしたご意見ですね♪」
七夏「まずは、自分の気持ちをしっかりと持ってから・・・という事かな?」
笹夜「そうですね♪」
心桜「それにしても、男ってさぁ・・・なんでそうなんだろうね?」
七夏「え!?」
心桜「まあ、今回、あたしは渡さないで揺るがないけど、つっちゃーと笹夜先輩は?」
七夏「えっと、私もここちゃーと同じかな☆」
笹夜「私は、気持ちがしっかりと持てたら渡す。持てなければ渡さない・・・かしら?」
心桜「・・・という事で『チョコを渡せない気持ちを伝える』という事でいい?」
七夏「渡せない気持ち?」
心桜「そう! 『想いを込めて渡したチョコレートが、渡した人の勝負ステータスの一部にだけなるのは切ないから、チョコレートは渡せない』という気持ちを伝える!」
笹夜「なるほど♪」
心桜「何もチョコレートに頼らなくても、自分の気持ちをしっかりと伝えられる事が大切なことなんだよ! そして、相手にも女の子の気持ちを軽く考えないように釘を刺すっ!」
七夏「ここちゃー! 釘は刺さなくても!」
心桜「んだけど、バレンタインデーというイベント自体は大いに利用すればいいと思う!」
笹夜「利用?」
心桜「はい! バレンタインデーの少し前から、その話題をして、渡したい人が居る事をアピールする。そして、『○○君ってイチゴとか大丈夫?』と訊いて、チョコを渡そうとしているかのように仕掛ける。んで、バレンタインデー当日、何もしないっ!」
七夏「え!?」
笹夜「まあ!」
心桜「この『仕込みだけしておいて渡さない戦術』は、それなりに相手に精神的ダメージを与えると思うよ。もし自分が本命だったとしたら、しばらく立ち直れないくらいになるかもね!」
七夏「ここちゃー怖いです・・・」
笹夜「そこまでしなくても・・・」
心桜「怖いって『想いを込めて』の事なんだけど!? あくまでも、釘を刺す必要があるなと思った時の場合だよ!」
笹夜「では・・・」
心桜「最初から、素直に喜んでくれる人なら、わざわざそんな事はしないよ・・・あたしが気持ちを伝えたい人って、そういう人って事!」
七夏「こ、ここちゃー!! 気持ちを伝えたい人が居るの!?」
心桜「え!? なんでそうなんの?」
笹夜「七夏ちゃん、例え話です♪」
心桜「笹夜先輩! そう決め付けられるのもちょっと・・・」
笹夜「あ、すみません・・・」
心桜「まあ、いいや。だけどね、あたしが『イチゴとか大丈夫?』って訊いたんだったら、バレンタインデーが過ぎて2~3ヶ月後に『新鮮なイチゴ』を渡すよ!」
七夏「2~3ヶ月後?」
笹夜「イチゴの旬の季節ですね♪」
心桜「そう! 『おいしいイチゴだよ!』ってね!」
七夏「なるほど♪」
心桜「自分が話した事は守らないとねっ!」
笹夜「その辺りは、さすがですね♪」
心桜「という事で、ココナッツ的結論!『相手によっては渡せないという気持ち』を渡そう!」
七夏「えっと、いいのかな?」
笹夜「まあ、そういう事なら」
心桜「それと、義理チョコなら渡さない! 友チョコまでなら渡す!」
七夏「それって!?」
心桜「だって、義理なんて面倒なだけだもん」
笹夜「なんと申せばよいのかしら?」
心桜「つっちゃーが義理チョコ渡してるの見た事ないし・・・本命も見た事無いけど」
七夏「えっと・・・その・・・」
心桜「という事で! ちょコミックスさんもご参考になったかな? あくまでもあたしたちの個人的な意見だから、最終的には、ちょコミックスさんが決断してよねっ!」
笹夜「助言ではないという事かしら?」
心桜「っそ! あたしたちが決める事じゃないからね!」
七夏「・・・・・」
心桜「ん!? どしたの? つっちゃー?」
笹夜「七夏ちゃん♪ 頑張ってね♪」
七夏「え!? えっと・・・」
心桜「おぉ! そうか! ちょコミックスさんも、つっちゃーも、ガンバレンタイン~♪」
笹夜「まあ♪」

随筆十一 完

------------

随筆十一をお読みくださり、ありがとうございました!
本編の方も鋭意制作中ですので、どうぞよろしくお願い申しあげます!

随筆十二:人は何の為に生きてるの?

随筆十二:人は何の為に生きてるの?

七夏「えっと・・・」
心桜「ん? どしたの? つっちゃー?」
笹夜「七夏ちゃん、悩み事かしら?」
七夏「その・・・これなのですけど」
心桜「あ! お手紙!?」
笹夜「なんて書いてあったのかしら?」
心桜「ちょっと、見せて!」
七夏「はい」
心桜「えー、なになに・・・『ペンネーム、リンスーハットさん』 つっちゃーもしかしてリンスーハットが分からないとか?」
七夏「え!? それは、お名前ですよね」
心桜「そうだけど、ここが引っかかってるわけでは無いって事か」
笹夜「シャンプーハットならありますよね?」
心桜「あー、居るねーそういう人が!」
笹夜「人!?」
心桜「え!?」
笹夜「お家にもあったような・・・まだあるかしら?」
心桜「お家!?」
七夏「ここちゃー、頭を洗う時の・・・」
心桜「! あーそっちかー! んで、リンスーハットは、シャンプーに非対応だから、頭を洗う時は、シャンプーハットからリンスーハットに被り直さないと! 面倒だね!」
笹夜「そうかしら?」
心桜「流石、髪のお手入れを面倒がらない! 笹夜先輩!」
笹夜「そうではなくて、私はシャンプーハットを使う必要はありませんでしたので」
心桜「え!? んじゃ、なんでお家にあるんですか?」
笹夜「どおしてかしら?」
心桜「相変わらず、謎が多いねー。でも、あたしも何でこれがあるんだろ? って思う時あるからね。その時はいいなって思って買ったんだろうけどね」
七夏「ここちゃー、買う前によく考えないと」
心桜「あはは! そだね! で、ちょっと脱線したけど、お手紙の続き、読むね!『こんにちは! 人って何の為に生きていると思いますか?』・・・え!? これだけ?」
七夏「人は何の為に生きているのか・・・難しいです」
心桜「え!? 別に難しくないよ?」
笹夜「まあ! 心桜さん! 頼もしいです♪」
心桜「難しく考えるから、難しくなってくるんだよ」
笹夜「では、人は何の為に生きてるのかしら?」
心桜「死ぬのが怖いから!」
七夏&笹夜「・・・・・」
心桜「ん? 何? この間!?」
七夏「た、確かにそうかも知れません」
笹夜「こ、心桜さんらしいですけど」
心桜「違ってる?」
七夏「いえ、そんな事は・・・」
笹夜「でも、人は何の為に生きているのか・・・こんな事を考えれるのは、高度な考え方だと思います」
心桜「え? 高度な考え方?」
笹夜「ええ。他の生き物は、何の為に生きているのかなんて、考えていない可能性の方が高いです。ですので深い心を持った人間らしい考え方です」
七夏「なるほど」
笹夜「何の為に生きているのかを考えるときは、心が傷ついていたり、生きる価値を見出せない時が多いようですね」
心桜「だったら、何の為に生きるのか、その答えを見つける為に行き続けなくちゃね!」
笹夜「まあ!」
七夏「ここちゃー! 凄いです☆」
笹夜「そうですね♪ 素敵な考え方です!」
心桜「いやいや、だから、そんなに難しく考える必要ないんだってば!!」
七夏「くすっ☆」
笹夜「人は未来の事を考えられますから」
心桜「未来ですか?」
笹夜「はい。他の生き物と違うところです♪」
心桜「どういう事ですか?」
笹夜「例えば、動物の作る道具。この道具は、目的を果たすと、殆ど再利用はされません。でも、人は先の事を考えて、作った道具を手元に残します」
心桜「なるほど・・・後先の事を考えて・・・ん? じゃあ、蟻もそうならない?」
笹夜「え?」
心桜「だってさ、後の事を考えて、食料蓄えてるよね! 割とキリギリスでもそういうお話なかった?」
七夏「ここちゃー『蟻さん』」
心桜「マークの・・・じゃなくて『アリトキリギリス』」
笹夜「それは、後先の事を考えているのではなく、本能らしいです」
心桜「え? 本能!?」
笹夜「教わらなくても、生まれつき持っている性質の事かしら?」
心桜「それは分かるんですけど・・・あれ、本能なんですか?」
笹夜「蟻の行動を見て、人が後先の事を考えていると勝手に解釈しているだけです」
心桜「思い込みってやつですか?」
笹夜「はい。そうなりますね」
心桜「なんで先の事を考えないんだろうね?」
笹夜「なんでって言われても・・・でも、それがバランスを保っていると言えます」
心桜「バランス?」
笹夜「ええ。例えば、肉食動物のライオンは、おなかがいっぱいの時は獲物を襲いません。もし、ライオンが未来の事を考えれたとすると・・・」
心桜「乱獲になる」
笹夜「はい。未来を考えるという事は、欲張りになるとも言えます。他にも、リスが木の実を地面に埋めたりするのも本能的な行動かしら?」
心桜「なるほどねー」
笹夜「本能ではなく、先の事を考えて自分の身を守る事は、人の心の特徴なのです」
七夏「自分の身・・・ですか?」
笹夜「先の事を考えて色々と心配をする事・・・心配性がその代表かしら?」
心桜「ああー・・・」
七夏「どしたの? ここちゃー」
心桜「あたし、苦手だ。心配性過ぎるヤツ!」
笹夜「どおしてかしら?」
心桜「だってさ、あれって周りに多大なストレスを与えてるよね」
笹夜「確かに、その傾向はあるかも知れません」
心桜「そんなに心配なら、全部自分でなんとかしろ!」
笹夜「心配事の内容によりますけど」
心桜「例えばさ、出掛けた後に『鍵かけたっけ?』って思った事ない?」
七夏「あります」
心桜「そんな時、あたしは心配するくらいなら、戻ってもう一度確認する!」
七夏「戻っている時間が無い時は?」
心桜「その時は、鍵と予定との優先度を考えて、どっちにするか決める! 鍵が開いてたとしても、よほどの事が無い限りなんともないよ」
七夏「・・・だといいのですけど」
心桜「ま、なんかあった時は自己責任だけど」
笹夜「まあ、そうならないように、出掛ける前にしっかりと確認したいですね♪」
心桜「だねっ! んで、確認する為に家に戻ると、大抵鍵閉まってるんだよね!」
七夏「鍵を閉めた後に、指差し確認するといいかもです☆」
心桜「指差し確認!?」
七夏「はい☆ お父さん、よく指差し確認してます☆」
心桜「なるほど! 流石車掌さん!『鍵よーし!』今度からやってみよっと!」
七夏「くすっ☆」
心桜「んで、『人は何の為に生きているか?』なんですけど」
笹夜「既に結論は出ています♪」
七夏「え!?」
笹夜「自分の未来の為です♪ 心桜さんも、そう話されてます♪」
心桜「あたしは『死ぬのが怖いから!』って言っただけだよ!」
笹夜「同じ事です♪」
心桜「言い方ってヤツか・・・」
七夏「くすっ☆」
笹夜「大きな失敗をしてしまったりした時に『何の為に生きているの?』と、考えてしまう事もありますね」
心桜「ま、失敗の無い人生こそ失敗だと思うから、あんまり気にしない方がいいよ」
七夏「はい☆」
心桜「でもさ、今回のお手紙、一言だけさらっと書いてくる。そんなドライな所、妙に好感が持てるよ!」
笹夜「心桜さんは、とてもさっぱりとお考えですね♪」
心桜「今を楽しく生きる事! それでいいよねっ!」
七夏「えっと、リンスーハットさん☆ ここちゃーみたいに楽しくなる事を、沢山考えてみてくださいね☆ お便り、ありがとうございました☆」
心桜「つっちゃー、急にたたみかけたねー」
七夏「そうかな?」
笹夜「七夏ちゃんも、しっかりしている所がありますから♪」
心桜「確かに、今回だらだらと話してるだけって、随筆だから別にいいって事だよね!?」
七夏「くすっ☆」

随筆十二 完

------------

随筆十二をお読みくださり、ありがとうございました!
本編の方も鋭意制作中ですので、どうぞよろしくお願い申しあげます!

随筆十三:人も動物も大切!同じです!

随筆十三:人も動物も大切!同じです!

心桜「んー」
七夏「どしたの? ここちゃー?」
心桜「つっちゃー! 答えて! ヤザワ!」
七夏「え!? えっと・・・えーちゃん!?」
心桜「セーフ!!」
七夏「なぁに? 今の?」
心桜「良かったー。つっちゃーが『にっこにっこに~!』とか言い出したらどうしようかと思ったよ」
七夏「??? いつもにっこにこ~は良いことです☆」
心桜「・・・やっぱアウトォ!!」
七夏「え!? どおして???」
笹夜「こんにちは♪」
心桜「こんちわー! 笹夜先輩!」
七夏「こんにちはです☆」
笹夜「何をお話していたのかしら?」
心桜「つっちゃー! 笹夜先輩! 答えて! みーそーしー」
七夏「るー?」
笹夜「れー?」
心桜「やっぱ揃わない・・・もう一度! みーそーしー」
七夏「れー?」
笹夜「るー?」
心桜「あーもうっ!」
七夏「ごめんなさい。笹夜先輩に合わせようと思って・・・」
笹夜「すみません。私は七夏ちゃんに合わせようとして・・・」
心桜「ま、いっか・・・」
笹夜「心桜さんは、合わせられるのかしら?」
心桜「もちろんっ!」
笹夜「では、七夏ちゃん、頑張って!」
七夏「は、はい☆」
笹夜「みーそーしー」
七夏「れー」
心桜「るれー」
笹夜「・・・心桜さん! 言い直しませんでした?」
心桜「るれるれるれるれるれるれるれるれー・・・あたしは両対応なのだ!」
笹夜「まあ! トリル♪」
七夏「はぅぁ~」
心桜「さて、笹夜先輩も来てくださったところで『本日のお題』!」
七夏「あ、えっと、お便りです☆ ありがとうございます☆」
心桜「んじゃ、今回は、つっちゃーがそのまま読んでみよう!」
七夏「はい☆ えっとペンネーム、犬負けさん。『こんにちは。僕には嫁と犬がいるのですが、どう考えても犬の方を優先している嫁に切なさを覚えています。嫁にその事を話したら、犬は自分の体調が悪くなってもその事を伝えられないから優先している、あなたは自分の体調が悪くなったら自分で医者に相談できるでしょ? と言われました。確かにそうなのですけど、これってどう思いますか?』・・・えっと・・・」
心桜「あれだね・・・亭主よりもペットを溺愛するタイプだね」
七夏「確かに、犬さんは言葉を話せないから、しっかりと気を配ってあげる方がいいかなと思いますけど」
笹夜「ペンネームからも、お手紙主さんは犬よりも人間の方が粗末に思われている事でお悩みのようですね」
心桜「というより犬に嫉妬してる?」
笹夜「本来なら、犬も人間も同じように接してあげるべきですね♪」
七夏「そうですね☆」
心桜「でも、この関係をなんとかするには、どうすればいいんだろ?」
笹夜「少なくとも、この先は安心ですね♪」
七夏「え!?」
心桜「どういう事ですか?」
笹夜「もし、お手紙の主さんが、なんらかの形で自分の意思が伝えられなくなったら、お嫁さんはしっかりと面倒を見てくださる事が保証されています♪」
心桜「おお! なるほど! スパッ! と斬りましたね~流石!」
笹夜「ですので、お手紙の主さんは、お嫁さんと犬さんをどちらも大切になさってくださいね♪」
心桜「でもさぁ、人と動物ってどうしても人が優先される世の中だからなぁ」
笹夜「人を中心とした世界の視点ではそうなりますね。同種、同族を優先するのは、生き物の持つ性質なのでしょうね♪」
七夏「そう言えば」
心桜「ん?」
七夏「えっと、昔ね、幼稚園の遠足ではぐれちゃって・・・その時、私と同じ制服を着た子が話しかけてくれて、安心したのですけど、その子もはぐれちゃってたみたいで・・・」
心桜「・・・ちょっと、違うかなぁ~」
笹夜「でも、同じ制服の子が居ると安心する・・・という点では共通しています」
心桜「生き物は群れたがるって事?」
笹夜「必ずしもそうとは限りませんけど、自分が心細い状態や不安な状態に置かれている場合は、同じ人が居ると安心するのです」
心桜「赤信号---」
笹夜「皆でもダメです!」
心桜「うぅ! 速っ!」
七夏「私、その子としばらく一緒に居ましたけど安心できました☆ それ以来、その子とは会ってませんけど感謝しています☆」
心桜「名前は?」
七夏「えっと、分からないです」
心桜「んじゃ『一匹狼』って言葉があるけど、これは?」
笹夜「ある程度の所までは一匹ではないはずです」
心桜「なんで一匹になるんだろう?」
笹夜「詳しくは分かりませんが、一人になって初めて気付く事ってないかしら?」
心桜「つっちゃーは一人っ子だけど、どう?」
七夏「え!? どうって言われても・・・」
笹夜「七夏ちゃんは、一人で居る事が多いのかしら?」
七夏「お母さん、お父さんが居ます☆ それに、ここちゃーや笹夜先輩も♪」
心桜「あれ? もう一人居ない?」
七夏「え!? えっと・・・」
笹夜「とにかく、一人で考えたり、みんなで一緒に過ごしたり、そういう事が心を豊かに育ててくれます♪」
心桜「という事は、犬負けさんも一匹犬になってみると、何か変化があるかもね?」
七夏「そうなの?」
心桜「ま、あたしなら、対戦相手の犬をどうにかして一匹犬化させる事ができないか考えるけどねっ!」
七夏「それって」
笹夜「追い出す事かしら?」
心桜「犬はー外! 人はー家!」
七夏「???」
笹夜「以前のお話に引っ掛けなくても・・・」
心桜「あ、でも、殆ど犬は外だよね。略して『殆犬外』!」
笹夜「なんて読むのかしら?」
心桜「ほとけんがい」
七夏「そのまま?」
心桜「犬は喜び庭駆けまくるんだよ!」
七夏「猫さんはこたつで丸くなる、です☆」
笹夜「まあ!」
心桜「ん? 笹夜先輩? どうかしましたか?」
笹夜「猫はこたつで丸くなる・・・とても秀逸な表現ですね♪」
心桜「秀逸!?」
笹夜「情景が浮かびませんか?」
心桜「確かに、猫が丸くなるって日本語としては違和感があるけど、情景はすぐに浮かぶね!」
七夏「可愛い猫さんが浮かびました☆」
心桜「あたしが猫なら、丸くなって、そのまま犬にタックルして一匹犬化させるけどね!」
七夏「え!?」
心桜「ほら、格闘ゲームとかの技であるよね? クルクルっと! 野生の力を思い知ったか!」
七夏「もう・・・」
笹夜「野生の力なのかしら?」
心桜「さ、笹夜先輩! 深く考える所ではないです!」
笹夜「え!? ええ」
心桜「とにかくさ、犬負けさんも、あまり深く考えないで、対戦相手犬と本気で戦うといいと思うよ!」
七夏「こんなのでいいのかなぁ」
笹夜「どうかしら?」
心桜「いいいいっ! そこ! 深く考えないっ!」
七夏「ひゃっ☆」
笹夜「は、はい!」
心桜「さて、次、参りますか!」
七夏「え!? まだあるの?」
心桜「もちろん! ダメ原作者が本編の続きを作っている間はね♪」
七夏「本編の続き・・・」
心桜「つっちゃー! 頑張りなよ!」
七夏「え!? えっと・・・」
心桜「って事で、今後も『翠碧色の虹』を---」

心桜「よろしくねっ!」
七夏「どうぞよろしくです☆」
笹夜「よろしくお願い申しあげます♪」

心桜「あー、またバラバラのグタグダ・・・なんで揃わないかなぁー」
七夏「ご、ごめんなさい」
笹夜「すみません・・・」
心桜「やっぱ、毎回、儀式として行わなければダメか・・・」
七夏「お便り、ありがとうございました☆」
心桜「そうそう、あたしたち『ココナッツ』宛てのお便りはこちら!」
心桜「http://nanatsuiro.my.coocan.jp/nnt_suiheki_novel.htm#QUESTIONNAIRE」
心桜「んで、本編はこちら!」
心桜「http://nanatsuiro.my.coocan.jp/nnt_frma_a.htm」
笹夜「心桜さん、捻じ込んできましたね」
心桜「あははっ! 宣伝も大切だよ!」
七夏「どうぞよろしくお願いいたします☆」

随筆十三 完

------------

随筆十三をお読みくださり、ありがとうございました!
本編の方も鋭意制作中ですので、どうぞよろしくお願い申しあげます!

随筆十四:話に花を咲かせましょう!

随筆十四:話に花を咲かせましょう!

七夏「~♪」
心桜「つっちゃー!」
七夏「はい♪」
心桜「なんか、嬉しそうだね~良い事あった?」
七夏「良いこと? えっと・・・」
心桜「・・・・・」
七夏「!? どしたの? ここちゃー?」
心桜「・・・・・」
七夏「???」
心桜「ハックション!」
七夏「ひゃっ☆」
心桜「ごめん」
七夏「大丈夫?」
心桜「大丈夫、大丈夫・・・花粉の季節でもないのに、今日はくしゃみがよく襲ってくるな~」
七夏「そうなの?」
心桜「しゃっくりみたいに連続で」
七夏「風邪になったとか?」
心桜「それは大丈夫!」
七夏「良かった☆」
心桜「あたし、ちょっと思ったんだけど」
七夏「え!?」
心桜「くしゃみの前の『ハ』とか『ヘ』って必要なの?」
七夏「えっと・・・どおしてかな?」
心桜「別に無くてもいいよね?」
七夏「なくても、いいとは思いますけど」
心桜「大魔王なんかさ、『ハ、ハ、ハクショ~ン!』って二回も予備動作があるよね!?」
七夏「大魔王!?」
心桜「うん。『フィクション大魔王』 この物語はフィクションの提供でお届けします!」
七夏「???」
心桜「あっ! そうかっ!」
七夏「え!?」
心桜「予備動作が無いと、回避が難しくなるのか! なるほど!」
七夏「なんか、どうしたらいいのか分からなくなってきました」
心桜「あはは、ごめん。そう言えばさ、授業中に『くしゃみ』は何も言われないけど、『あくび』は注意される事があるよね?」
七夏「はい」
心桜「なんで、あたしだけ注意されんのよっ!」
七夏「ひゃっ☆ 何!?」
心桜「『あくびちゃん』 心の叫び!」
七夏「???」
心桜「世の中、公平に出来ていないって事だよね~」
七夏「みんな平等だといいなって思いますけど」
心桜「女の子は可愛く、男の子は格好よく生まれると、色々とお得だよね~」
七夏「くすっ☆ ここちゃーは可愛いです☆」
心桜「なっ! そういうハズイ事をサラッと言えるからなぁ~つっちゃーは!」
七夏「素直になれると、お得です☆」
心桜「ぐはっ! 言いえて妙! あたし、年上なんだよ!」
七夏「ここちゃーとは同級生です☆」
心桜「うーん・・・機嫌が良い時のつっちゃーは、なかなか手強いなぁ」
七夏「くすっ☆」
心桜「んでさぁ、そんな頼もしいつっちゃーに相談なんだけど、なんとかならない? このどーでもいい流れ!」
七夏「え!?」
心桜「無いんだよ・・・お話に花がっ!」
七夏「ありますよ☆」
心桜「え!? どこに?」
七夏「おはなし」
心桜「それって、『お花し』って事かっ! つっちゃー今日はどしたのさ?」
七夏「えっと、特には・・・」
心桜「うーん(なんかあるな、これは)」
七夏「枯れ木に花を咲かせましょう☆ っていうお話がありました☆」
心桜「花咲か爺さん!?」
七夏「はい☆」
心桜「枯れている木に花を咲かせるというのは・・・蘇生!?」
七夏「どおしてそうなるの?」
心桜「枯れているから!」
七夏「枯れているというのは、葉が落ちた状態なだけです☆」
心桜「って事は生きてる?」
七夏「また葉や花が咲くのなら、生きてます☆」
心桜「そっか」
七夏「ですから、花咲かお爺さんのお話で花が咲いたというのは、その木は生きているという事になると思います」
心桜「なんか、今日のつっちゃーは笹夜先輩みたいだねっ!」
七夏「え!? そ、そうかな!?」
心桜「おっ! 今、ちょっと隙が見えた気がするっ!」
七夏「私も、笹夜先輩みたいに素敵な考え方が出来るといいな☆」
心桜「そう言えば、笹夜先輩は? ハッ!」
七夏「どしたの? くしゃみかな?」
心桜「いや、真後ろに居るとか、そんな事無いかなって思って」
七夏「もう・・・えっと、今日は笹夜先輩、お休みだそうです」
心桜「ほんとに?」
七夏「はい。だから今日は私が頑張らないとって、思ったのですけど」
心桜「そうか・・・それで・・・」
七夏「私、笹夜先輩に頼っちゃう事が多いから」
心桜「それは、まあ、先輩なんだから頼っていいと思うよ!」
七夏「でも、あんまり、頼りすぎると、迷惑にならないかなーって」
心桜「それはないっ!」
七夏「え!? どおして?」
心桜「つっちゃーが笹夜先輩に頼っている時って、笹夜先輩はとても嬉しそうに見えるよ。あたしが、つっちゃーに頼ったら、つっちゃーとても嬉しそうにしてくれるよねっ!」
七夏「あ・・・」
心桜「人は『誰かに頼ってもらえると嬉しいんだよ』。それは、自分を必要としてくれる人が居るという事になるからね!」
七夏「はい☆」
心桜「前にさぁ『人は何の為に生きてるの?』って言うような、話題があったよね?」
七夏「ありました☆」
心桜「つまり、あれは、誰かに頼ってもらえていると、そう思う事が無くなるんじゃないかなーって」
七夏「人は人のために生きています☆」
心桜「おっ! 今日の花が咲いたね!」
七夏「くすっ☆ みんなにも沢山の花が訪れますように☆」
心桜「そだねっ!」

随筆十四 完

------------

随筆十四をお読みくださり、ありがとうございました!
本編の方も鋭意制作中ですので、どうぞよろしくお願い申しあげます!

随筆十五:借りたら返しましょう!

随筆十五:借りたら返しましょう!

心桜「こんちわー! つっちゃー!」
七夏「あ、ここちゃー☆ いらっしゃいです☆」
笹夜「こんにちは♪ 心桜さん♪」
心桜「笹夜先輩! 前回はどうされたのですか?」
笹夜「あ、すみません。ちょっと所用がありまして・・・」
心桜「笹夜先輩も、お忙しそうですよね」
笹夜「いえ、そんな事は・・・ただ、日によるかしら?」
心桜「ま、それはあるよねっ!」
七夏「ここちゃー! 冷茶どうぞです☆」
心桜「おっ! いつもありがと。つっちゃー! んじゃ、あたしからはこれっ!」
笹夜「まあ、お便りかしら?」
心桜「っそ!」
七夏「お便り、ありがとうございます☆」
心桜「早速、読んでみるねっ!」
七夏「はい☆」
心桜「えーっと、ペンネーム『禁煙ポパイ』さん」
笹夜「あら? 禁煙パイポ・・・かしら!?」
七夏「え!?」
心桜「いや、本当に『禁煙ポパイ』って・・・」
七夏「ぽぱい・・・」
笹夜「ポパイ・・・」
心桜「いやーいいねいいね! 禁煙ポパイ!」
七夏「えっと・・・」
心桜「なかった? 何故かモンスターから追われているパックマンが、パワーボールを食べて反撃する・・・みたいなヤツ!」
笹夜「あ、ゲームのお話かしら?」
心桜「笹夜先輩! 知ってるんですか? 意外かも!?」
笹夜「詳しくは分かりませんけど・・・」
心桜「んで、ポパイはパックマンのパワーボールが『ほうれん草』になっているんだよ」
七夏「ほうれんそう☆ おひたしとか胡麻和えが美味しいです☆」
笹夜「ほうれん草は健康的ですね♪」
心桜「確かに、ほうれん草を食べるのは健康的なんだけど・・・」
七夏「???」
心桜「ハマキ吸ってる時点でアウトォッ!!!」
七夏「ひゃっ☆」
笹夜「心桜さんっ!」
心桜「あはは! あーーー本題に入るね!『ココナッツさん、笹夜さん、こんにちは。私は友達に頼まれてお金を貸したのですけど、その友達からお金が帰ってきません。貸した金額は大した事がないのですけど、これって返してほしいと伝えるべきでしょうか?』・・・お金の貸し借りかー・・・結局、相手次第だね」
七夏「相手次第!?」
心桜「っそ。これに関しては三種類の人に分けられる。お金を貸す人、お金を借りる人、お金を借りるだけの人・・・」
七夏「え!? お金を借りるだけの人って!?」
心桜「文字どおり、返さない人だよ。ついでにお金を返さない人も、三種類に分けられそうだね。返し忘れてる人、返せない人、返す気のない人」
七夏「えっと・・・」
心桜「いずれにしても、返さないのは問題だよ」
笹夜「そうですね。返す人は、こちらが何も言わなくても、すぐに返しに来ます」
心桜「そだね。返し忘れている人も、話せばごめんっと言って返してくれる事が多いかな」
七夏「返せない人は・・・」
笹夜「返せない人は、返せるようになったら、返しに来るかどうか・・・かしら?」
心桜「問題は、返す気のない人・・・こういう人にお金を貸してはダメだね・・・貸す方は、それを見極める力が問われるよね」
七夏「見極められなかったら・・・」
笹夜「貸さない方がいいと私は思います」
七夏「その人が困っていたとしても?」
笹夜「相手や状況にも依りますけど、他に方法が無いかを考えて、お金を貸す事は最終手段とする事かしら?」
心桜「そだね。金額に関わらず、貸した方は貸した事を絶対に忘れないよ! 例え一円でもね。返さない人は大きく信用を損なう事になるよ」
笹夜「貸した人は、なかなか返してと言いにくい事もあるでしょうから、借りた人は催促された時点でお金の扱い方に関しては失格・・・かしら?」
心桜「笹夜先輩、なかなか手厳しいですなぁー」
七夏「でも、笹夜先輩なら、困ってたら貸してくれると思います」
笹夜「七夏ちゃんや、心桜さんなら、迷う必要はないですので♪」
心桜「んじゃ、笹夜先輩、お金貸して!!!」
七夏「こ、ここちゃー!!!」
笹夜「え!? えーっと・・・」
心桜「笹夜先輩、迷ってません?」
笹夜「す、すみません・・・」
七夏「こ、ここちゃーっ!! 笹夜先輩っ! すみませんっ!!」
笹夜「いえいえ」
心桜「ま、冗談はともかくとして、お金の貸し借りは、貸す側が覚悟を決めなければならないのが、現実の残念なところなんだよ」
七夏「困っている人を信用できない考え方はちょっと・・・」
笹夜「七夏ちゃん、お金を貸す事が必ずしも人を助ける事にはなりません」
七夏「え!?」
笹夜「例えば、賭け事で失ったお金を取り返したいという理由で、お金を貸してと言われたら、それは人助けと言えるかしら?」
七夏「あ・・・」
笹夜「お金の利用目的も、よく考える事が大切です。例えば、お金を貸すのではなく、相手がそのお金で得ようとしている事を支援する事」
心桜「支援ですか?」
笹夜「ええ。例えば、街でお金に困っている人から声を掛けられました。その人は列車で帰りたいけど、お金が足りないと話しています。貸してほしい金額はそれ程高額ではありません。この場合、お金を貸しますか?」
七夏「えっと、私は相手の連絡先を教えてもらってから貸します」
笹夜「七夏ちゃん、もし相手の連絡先が偽りだったらどうします?」
七夏「え!? ど、どうしようかな・・・」
心桜「あたしは、とりあえず交番に連れてゆく!」
笹夜「心桜さん、なるほど♪ 確かに交番や派出所、警察署へ相談すれば、ある一定の金額までなら貸してくれます」
心桜「え!? そうなの!?」
笹夜「ええ。でも、その人が『既に交番に相談したけど、ダメだった』って話したらどうしますか?」
心桜「えー、そんな事はないっ! ついでにあたしもお金ないっ! って断る!」
笹夜「心桜さん、正しい選択です♪ 警察官の人に相談してダメなはずがありませんので、その時点で関わらないのが正解です。ただし、身の危険を感じたら、無理はしない事を忘れてはなりません」
七夏「でも、本当に困っていたら・・・」
笹夜「その時はお金ではなく、最寄の駅まで案内して、目的地までの切符を買ってあげる事です」
心桜「なるほど! お金の悪用ができないって事か!!!」
笹夜「そうなりますね。残念ですけど、お金を借りようとする人が、何故お金が必要なのかを偽っている可能性もありますから・・・。心桜さんの話した『貸す側の覚悟』かしら?」
心桜「だね・・・それに、警察署にでも連れてけば、パトカーで家まで送って貰えるかも知れないし」
笹夜「そうですね。自分一人では対処が困難な場合は、すぐに判断してしまわないで誰かに頼る事がとても大切です。七夏ちゃんも気をつけて♪」
七夏「は、はい! ありがとうございます☆」
心桜「あたし、良いこと思いついた!」
笹夜「何かしら?」
心桜「家に帰るんだったら、タクシー乗り場へ連れて行く!」
笹夜「まあ! なるほど♪」
心桜「流石に家にはお金あるだろうし、緊急事態なんだから、多少は高くついても仕方が無いと思うよ」
笹夜「タクシーの運転手さんが、事情をご理解くださるかどうかですけど」
心桜「タクシーの運転手の眼力が問われるわけだね!」
笹夜「そうですね。誰かに相談するという事の一つとして有効な方法ですね♪」
心桜「んでさ、お手紙の禁煙ポパイさんへの回答なんだけど・・・どう?」
七夏「えっと、返してって訊いてみる方がいいかな?」
笹夜「私も七夏ちゃんと同じです♪」
心桜「なんでですか?」
笹夜「返してほしいという意思を伝える事は、とても大切な事です。言わなければ、返してもらえなくても構わないと認めた事になります」
心桜「なるほどねー。でもさ、本来なら借りた方が自主的に返すべきだよね! あたしだったら『3倍返しだっ!!!』」
笹夜「きゃっ!」
心桜「あ、すみませんっ!」
七夏「と、とにかく、返してほしいなって伝える事かな?」
心桜「それでも、返って来なかったら・・・」
七夏「えっと・・・」
笹夜「その人には、二度とお金は貸さない。お友達を続けるかどうかは、その人次第ですけど、今後あまり関わらない方が良いかも知れませんね」
心桜「あっ! あたし、良いこと思いついた!」
笹夜「まあ! 何かしら?」
心桜「その友達に『お金貸して』って言う! 『お金返して』ではなく『お金貸して』って! その友達が行った事と同じ事をすればいいんじゃないかな?」
七夏「ここちゃー凄いです☆」
心桜「お金を借りてた事を忘れたとしても、お金を貸してと頼んだ事まで忘れられるかなー・・・忘れたとしたら、ちょっと神経を疑うよね」
笹夜「なるほど♪ それは私も思いつきませんでした♪」
心桜「何事も、自分に当てはめると、結構刺さるもんだよ! グサッ! ・・・っとね!」
七夏「私も今度から意識しておきます☆」
心桜「そうそう! つっちゃーが一番引っかかりやすいタイプだから、ホント気をつけなされや~」
七夏「はい☆」
心桜「って、事で、あたしたち『ココナッツ』の結論は---」

七夏「貸す前に相談☆」
心桜「お金貸してっ!」
笹夜「貸さない勇気♪」

七夏「ごめんなさい!」
笹夜「すみません!」
心桜「・・・やっぱり・・・こうなるか・・・。いや、もう驚かないよ」
七夏「あ、お便りありがとうございました☆」
笹夜「ありがとうございました」
心桜「ありがとねー! あたしたち『ココナッツ』宛てのお便りはこちら!」
心桜「http://nanatsuiro.my.coocan.jp/nnt_suiheki_novel.htm#QUESTIONNAIRE」
心桜「んで、本編はこちら!」
心桜「http://nanatsuiro.my.coocan.jp/nnt_frma_a.htm」
笹夜「心桜さん、また捻じ込んできましたね」
心桜「あははっ! 宣伝も大切なんだよ!」
七夏「どうぞよろしくお願いいたします☆」

随筆十五 完

------------

随筆十五をお読みくださり、ありがとうございました!
本編の方も鋭意制作中ですので、どうぞよろしくお願い申しあげます!

随筆十六:りゅうこうのおしごと!?

随筆十六:りゅうこうのおしごと!?

七夏「ここちゃー☆ それ!?」
心桜「ん? あー漫画だけど?」
七夏「えっと、ありがとです☆」
心桜「漫画には、合わないかなーと思ったけど、意外といいね!」
七夏「くすっ☆」
心桜「それに、車内で、こういう風に脚を斜めに揃えて優美なポーズを取りながら読むと、あたしも文学少女になれるっ!」
七夏「ええっと・・・はい☆ 優美な文学少女さんです☆」
心桜「つっちゃー、ちょっと今、迷った!?」
七夏「はわっ! そんな事はっ!」
心桜「分かりやすいなぁ・・・でもまあ、いくら着飾っても、そのうち本当の事は分かってしまうから、最初に気付かされるほうがいいかもね!?」
七夏「ごめんなさい」
心桜「いやいや。謝らなくていいよ。優美なポーズは疲れるから」
七夏「確かに、常に優雅さを維持するのは、とても大変そうですね」
心桜「そだね。笹夜先輩は、なんで維持できてるんだろうね?」
七夏「それは、維持していないからだと思います☆」
心桜「え!?」
七夏「笹夜先輩はもともと---」
心桜「モトクロス! いや、モト冬着! じゃなくて、そういう事かぁっ!」
七夏「ひゃっ☆」
心桜「いやー、あの姿が元々だったら、確かに着飾る必要はないよね・・・って言うか、着崩れしない所が凄い!」
七夏「着崩れ?」
心桜「なんかさ。ちょっと、からかって、普段よりも崩れた笹夜先輩を見てみたくなってきた」
七夏「それは、だめですよ☆」
心桜「もし、『からかい上手の高見さん』と『受け身上手な高月さん』がぶつかると、これは見物かも知れない!」
七夏「たかみさん?」
心桜「あー、これこれ! この漫画! ブックカバーしてたから気付かなかった?」
七夏「なるほど☆ 使ってくれてありがとです☆」
心桜「こっちこそ、あの時、ブックカバーくれてありがとね!」
七夏「♪」
心桜「んでさ、この漫画を読んでると、高見さんが小憎らしくも可愛くて巧妙なんだよね・・・からかう前に相手の反応をいくつか予測しておいて、さらにその反応ごとに返しを用意している感じ・・・これって「馬のおしごと」だよね!?」
七夏「お馬さん!?」
心桜「いや、ウマい事つながったぁー♪」
七夏「??? お馬さんのお仕事・・・馬車!?」
心桜「そう、有名なRPGにも出てくるよねっ!」
七夏「あーるぴーじー?」
心桜「んー、ゲームの事だけど、つっちゃー大丈夫!?」
七夏「え!? ええっと・・・」
心桜「これは『馬』も分かってない!?」
七夏「え!? お馬さんのお仕事は馬車で---」
心桜「あ゛ーーーウマい事いかんなぁー!」
七夏「ご、ごめんなさいっ!」
心桜「まあいいけど、あたしが話した『馬』は『角行』の事! 将棋!」
七夏「あ! 将棋・・・駒の事かな?」
心桜「そうそう! その『角行』が成ると『馬』になるんだよ!」
七夏「なると?」
心桜「なるとは『ラーメン大好きの泉さん』に多分登場すると思うけど、そうじゃなくて!」
七夏「えっと・・・」
心桜「つまり、将棋の『角行』を使いこなせるかどうかが、とても大きいんだよ。因みにもう一つ強い駒は『飛車』で、こっちは、成ると『龍』になるよ!」
七夏「えっと『りゅうのおしごと』もあるの?」
心桜「惜しいっ! リオザウス!」
七夏「ひゃっ☆」
心桜「あー、もうなんか、ぐだぐだになってきた。ちょっと話しを戻して、えーっとなんだっけ?」
七夏「お馬さんのお仕事?」
心桜「あ、そっちね・・・RPGはロールプレイングゲーム、勇者様が活躍して竜王を倒すお話!」
七夏「それが、りゅうおうの---」
心桜「違う! 竜王は敵! アブナ~イ!」
七夏「???」
心桜「んで、その勇者様が伝説に成る!(誤変換じゃないよ!)」
七夏「一人だと大変そうです」
心桜「そう! だから『馬車』が出てくるんだよ!」
七夏「お馬さんも一緒に竜王さんと戦うの?」
心桜「いや、そう言われれば、馬は戦わないし、敵に狙われる事もないなあ・・・今まで気付かなかった!」
七夏「そうなの?」
心桜「あたしが敵側なら、馬車から潰す!」
七夏「潰すって・・・ちょっとひどいです」
心桜「悪魔でも(誤変換じゃないよ!)ゲームの世界だからね~」
七夏「まあ、ゲームの世界なら」
心桜「基本だよ基本! 一方的に叩けるヤツを狙うのは! 将棋の世界だって浮きゴマがあったら、真っ先に狙われるよ。更に輸送機、偵察機、輸送船、空母等、あまり反撃してこない敵を発見したら、そいつらから狙う!」
七夏「戦術!?」
心桜「そうそう! つっちゃー分かってきた? 特に空母なんて大きくて目立つ上、移動も遅く、中には艦載機がぎっしり詰まっている! 艦載機が飛び立つ前に空母を沈めれれば、一方的に敵側の戦力を大きく削る事が出来るからね!」
七夏「なるほど☆」
心桜「んで、RPGの馬車は『空母』みたいな役割だから、あたしが敵なら馬車から潰すという事! 分かった?」
七夏「はい☆」
心桜「だけど、馬車は攻撃を受けない! これはステルスか!? 敵側にとっては不利だけど、そんな事を考えてるとこっちが危なくなるからね」
七夏「私は戦わなくてもいいような世界がいいな☆」
心桜「つっちゃーは平和主義だからなぁ」
七夏「そうかな?」
心桜「或いは、護るタイプかな?」
七夏「まもる?」
心桜「まもるさんだと、呪われてしまうかも知れないね~」
七夏「それは、ちょっと怖いです」
心桜「そこで、伝説の防御アイテム『ゆうしゃのよこ』を手に入れた!」
七夏「え!? 盾じゃなくて!?」
心桜「っそ! 勇者の横! 勇者は王子様だから、将来は腰巾着経由、側近確定!! これは盾なんかより、遥かに美味しい!!」
七夏「あはは・・・はぅぁ」
心桜「他には『刀の剣』を手に入れた・・・とか!?」
七夏「かたなのつるぎ?」
心桜「うん。兼用。或いは二刀流!?」
七夏「なんか、凄そうですね♪」
心桜「でも、刀の剣による二刀流でも・・・笹夜先輩には敵わないかなー」
七夏「???」
心桜「笹夜先輩って、斬れ味抜群だから☆」
笹夜「そうかしら?」
心桜「どわぁ!! さ、笹夜先輩! いつから居たんですか!? 超怖い~♪」
笹夜「もし、相手が心桜さんだと分かったら---寸止めか、あっても峰打ちまで・・・かしら?」
心桜「はは・・・なんか、笑えないんですけど!」
七夏「こんにちはです♪ 笹夜先輩☆」
笹夜「はい♪ こんにちは♪」
心桜「笹夜先輩! どうせだったら、もっと上の方面で登場してほしかったなぁ~」
七夏「上野方面? 夜行列車?」
心桜「流石つっちゃー、車掌の子! まあ、それもあるんだけど『優雅さを維持する必要がない』という箇所!」
笹夜「心桜さん、私は冗談のつもりだったのですけど・・・」
心桜「笹夜先輩! それは、勿論分かっております!」
笹夜「安心しました♪」
心桜「ところでさ、勇者って・・・勇気ある者って事だよね?」
七夏「はい☆」
心桜「うーん・・・なるほど! 確かに・・・」
七夏「??? どしたの? ここちゃー?」
心桜「いやさ、いきなり他人の家に入って、宝箱を開ける・・・確かに勇気がいるなぁ・・・あたしには無理っ!」
七夏「・・・・・」
心桜「他にも『返事がない。ただの屍のようだ』流石勇者様! メンタル伝説級!」
笹夜「・・・・・」
心桜「屍だよ。しかばねっ! 一般人なら話かけるどころか、悲鳴あげて腰抜かすと思う。流石勇者殿! メンタル最上級!」
七夏「(笹夜先輩! どうすれば)」
笹夜「(すみません。まだ状況が分からなくて)」
心桜「そこ! ひそひそ話さないっ!」
七夏「ひゃっ☆」
笹夜「すみません!」
心桜「今回のこれ、何だろ? 終始グダグダ状態で、笹夜先輩は終盤の寄せ状態でご登場だし、あたしが何とかしないとダメなの?」
七夏「ここちゃー、頼りにしています☆」
笹夜「私も、七夏ちゃんと同じくです♪」
心桜「同じくって、そういう所は揃うんですよね(苦笑)。まあ、いいや」
笹夜「あら? 心桜さん? それは小説かしら?」
心桜「え!? いやいや、漫画です!」
笹夜「心桜さんも、小説を読んでみると良いと思います♪」
心桜「あたしは、文字ばっかりは、ちょっと堅苦しくて」
七夏「挿絵の多い小説がいいのかな?」
心桜「そういうのがあればいいんだけど」
笹夜「七夏ちゃんの応援は?」
七夏「え!?」
心桜「それは勿論! って事で、皆も応援してくれるよね!?」
笹夜「この流れは---」
心桜「つっちゃーが頑張る『翠碧色の虹』本編はこちら!」
心桜「http://nanatsuiro.my.coocan.jp/nnt_frma_a.htm」
心桜「んで、あたしたち『ココナッツ』宛てのお便りはこちら!」
心桜「http://nanatsuiro.my.coocan.jp/nnt_suiheki_novel.htm#QUESTIONNAIRE」
笹夜「心桜さん、今回も捻じ込んできましたね」
心桜「まあねっ! 定期宣伝も大切なんだよ!」
七夏「えっと、どうぞよろしくお願いいたします☆」
心桜「今回は、色々と流行に乗ってみた」
七夏「え!?」
心桜「りゅうこうのおしごと!」
笹夜「まあ♪」

随筆十六 完

------------

随筆十六をお読みくださり、ありがとうございました!
本編の方も鋭意制作中ですので、どうぞよろしくお願い申しあげます!

随筆十七:似てる!似てない?

随筆十七:似てる!似てない?

心桜「つっちゃー! こんちわー!」
七夏「あ、ここちゃー☆ いらっしゃいです☆」
心桜「ねねっ! つっちゃー知ってる!? 今さ、めだかがちょっと人気みたいだよ!」
七夏「めだかさん? ・・・お笑い芸人さん?」
心桜「いや、そっちも人気だけど、そうじゃなくて、魚の方!!」
七夏「あ、歌にもあるめだかさん♪」
心桜「歌?」
七夏「はい☆ 『めだかの学校』って♪」
心桜「あー。学校の音楽の授業でも歌ったよね~」
七夏「はい♪」
心桜「め~だ~か~の学校は~♪」
心桜&七夏「川の~中~♪」
心桜&七夏「そ~っと覗いて見てごらん♪」
七夏「そ~っと覗いて・・・って、どしたの? ここちゃー?」
心桜「・・・・・」
七夏「???」
心桜「キャー覗きぃー!!!」
七夏「ひゃっ!」
心桜「・・・って、ならない?」
七夏「えっと・・・」
心桜「覗きは駄目だよね~」
七夏「その・・・」
心桜「やっぱ、ここは正々堂々と---」
笹夜「もっと駄目です!」
心桜「おわっ!!」
七夏「笹夜先輩! こんにちわです☆」
心桜「あーびっくりした。こんちわ! 笹夜先パイ!」
笹夜「はい♪ こんにちわ♪」
心桜「そ~っと覗くから駄目なんだよね~。なんか別の言い方で良いの無いかなー」
七夏「そーっと優しく・・・って、言うのはどうかな?」
心桜「それだ! さすが文芸部!」
笹夜「そ~っと眺めて見てごらん♪ はどうかしら?」
心桜「おぉー綺麗・・・だけど、何か片想いみたいだね~」
七夏「・・・・・」
心桜「ん? どしたの? つっちゃー?」
七夏「えっと・・・」
笹夜「心桜さんっ!」
心桜「わ、分かってるって! 笹夜先パイ!!」
笹夜「その『パイ』だけカタカナなのは、何か意味があるのかしら?」
心桜「なっ、なんでカタカナって分かんの!? 対ステルスレーダーか!?」
笹夜「なんか『パイ』だけ強調されてるような気がして・・・」
心桜「んー確かに『パイ』だけ強調されてるよね~」
笹夜「な、何かしら? こ、心桜さん!?」
心桜「視線の先には・・・って事で、いただきまーす!!」
笹夜「え!?」
七夏「笹夜先輩もどうぞです♪」
笹夜「まあ! アップルパイ!」

 ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆

心桜「あたしさー、めだかに似てるって言われた事あるんだよねー」
七夏「え!? そうなの?」
笹夜「小柄で、素早く、元気なところ・・・かしら?」
心桜「さすが! 笹夜先パイッ!!」
笹夜「まだ、それ続けるのかしら?」
心桜「あはは! んでもさ、めだかに似てるって言われても、なんか微妙なんだよねー」
七夏「ここちゃーは、誰に似てると嬉しいのかな?」
心桜「あたしは誰に似てるかな? ここで、ご注意!!」
七夏「え!?」
心桜「これから先、今回の随筆内で異世界のキャラクターと同じ名前が登場しても、それは同姓同名って事で、私たちの世界とは直接関係無い事を、お断りしておきますっ!」
笹夜「心桜さん、手堅いですね♪」
七夏「えっと・・・どゆこと!?」
心桜「まあ、似てると思うキャラクターを自由に言えるように呪文を唱えたって事! だから、あたしに似ていると思うキャラクターを自由に言ってみてよ!」
七夏「はい☆ 『西住みほ』さん☆」
心桜「おっ! ガルパンのヒロインさんか! 確かに似ているかも! これはめだかより遥かに嬉しいね~」
笹夜「『平沢ゆい』さん♪ かしら?」
心桜「なるほど! けいおんのヒロインさんか! 似てるって言われると嬉しいね!」
七夏「くすっ☆」
心桜「笹夜先輩は『司波深雪』殿に似てます! 魔法科高校~の!」
笹夜「まあ! 光栄です♪」
心桜「本日、3月25日は、司波深雪殿のお誕生日だそうです! おめでとう!」
七夏&笹夜「お誕生日、おめでとうございます♪」
心桜「つっちゃーは? 笹夜先輩!」
七夏「笹夜先輩はアリスさん☆」
心桜「え!? アリスさん!?」
七夏「えっと『神様のメモ帳』のアリスさん☆」
笹夜「まあ♪ 嬉しいです♪」
心桜「長い黒髪、白い肌、確かに共通点は多いね! つっちゃーは・・・」
七夏「え!? 私?」
心桜「グレーから青系の長い髪の人か・・・」
七夏「髪で決まるの?」
心桜「髪の持つ印象は大きいからねっ! ・・・って居る?」
笹夜「えーっと・・・」
心桜「ちょっと検索かけてみようか! 灰髪ロング、青髪ロング・・・見つからないなぁ」
七夏「無理に探さなくても・・・」
心桜「きっと、似ている人が居るはず! これは原作者の妨害工作か!?」
笹夜「確かに、なかなか見つからないですね」
心桜「おかしいなぁ。こうなったら、オンラインゲームとかで、キャラクターを作ってみますかっ!」
笹夜「それですと、そのキャラクターさんが、七夏ちゃんに似ているという事になります」
心桜「あ、そっか! つっちゃーは誰かに似てるって言われた事ない?」
七夏「えっと、お母さんに似ているって言われます☆」
心桜「・・・・・あ、あはは・・・お母さん・・・凪咲さんね・・・」
笹夜「確かに、似ていますね♪」
心桜「そうなんだけど、それじゃ、今のところ、あたしたち以外分かんないよ!」
七夏「ひゃっ☆」
心桜「おーいっ! 原作者! 凪咲さんの絵も描けよー!」
七夏「???」
心桜「・・・っと、圧力をかけておく! ついでに、本編の続きも早くしろよー!」
笹夜「こ、心桜さんっ!」
心桜「でもさ。そろそろ、あたしたちだけではカバーしきれないよ。現状、時が止まってる事になってるからね」
七夏「私は、のんびりできて、いいなと思ってます☆」
笹夜「確かに楽しい一時は長く続く方が良いですね♪」
心桜「さ、笹夜先輩! ここは、バシッ! っと決めてくださるのかと思ったのにぃ~」
笹夜「す、すみません」
心桜「まあ、いいや。さて皆さん! つっちゃーが頑張る『翠碧色の虹』本編はこちら!」
心桜「http://nanatsuiro.my.coocan.jp/nnt_frma_a.htm」
心桜「でで、あたしたち『ココナッツ』宛てのお便りはこちら!」
心桜「http://nanatsuiro.my.coocan.jp/nnt_suiheki_novel.htm#QUESTIONNAIRE」
笹夜「心桜さん、しっかりとしていますね♪」
心桜「まあねっ! 定期宣伝も大切なんだよ!」
七夏「えっと、どうぞよろしくお願いいたします☆」
心桜「あたしが舵取りしないと、どうにも事が進まないからね」
七夏「ここちゃー☆ 頼りにしてます☆」
笹夜「七夏ちゃんと同じく♪」
心桜「(この二人、甘い物食べると、脳まで溶けるのか?)」

随筆十七 完

------------

随筆十七をお読みくださり、ありがとうございました!
本編の方も鋭意制作中ですので、どうぞよろしくお願い申しあげます!

第二十一幕:ふたつの虹のふたつの夢

第二十一幕:ふたつの虹のふたつの夢

買い物を済ませて民宿風水に戻る。お庭で洗濯物を干している凪咲さんが目に留まる。

時崎「凪咲さん、ただいま!」
凪咲「あら、柚樹君。お帰りなさいませ。お昼は頂いたのかしら?」
時崎「はい。喫茶店で軽く頂きました」
凪咲「そうなの・・・七夏がおむすびを作っていますので、お腹が空きましたらどうぞ」
時崎「ありがとうございます!」

俺は、風水の台所へと移動する。七夏ちゃんの姿は見えない。とりあえず、買ってきた「ブルーベリーのタルト」を冷蔵庫の中へ入れておく。
そう言えば、今日、七夏ちゃんは用事があるって話していた。もし、まだその用事が片付いていないのなら、俺も手伝おうと思う。手伝える事ならだけど。
七夏ちゃんの部屋の前に来て、この前の出来事を思い出してしまう。七夏ちゃんが水着姿で出てきた事。今回はそんな事は無いと思うけど・・・。

七夏「柚樹さん!?」
時崎「え? うわぁ!」
七夏「ひゃっ☆」

隣の部屋から突然現れた七夏ちゃんに驚いてしまった。

時崎「な、七夏ちゃん!? ごめん!」
七夏「いえ、柚樹さん! 私の方こそ驚かせてしまって、すみません」
時崎「七夏ちゃん、用事は済んだの?」
七夏「えっと、まだ少し残ってます」
時崎「俺に出来る事があれば手伝うよ!」
七夏「え!? いいのですか?」
時崎「もちろん!」
七夏「わぁ☆ ありがとうです!
時崎「何を手伝えば?」
七夏「えっと、こちらへ・・・」
時崎「了解!」

俺は、七夏ちゃんに付いてゆく・・・その場所は、七夏ちゃんのお父さんの部屋だ。

時崎「ここは、七夏ちゃんのお父さんの部屋?」
七夏「はい☆ お父さん、今夜、帰ってくる予定ですので、お部屋のお掃除は、もう済ませたのですけど・・・あ、どうぞです!」

七夏ちゃんに案内されて、部屋に入る。前にも入った事がある部屋だ。この部屋には畳一畳ほどの場所に鉄道模型の線路が敷かれてあった。以前に七夏ちゃんが模型機関車のお掃除を行っていた事と、思い出話を聞かせてくれた。

七夏「えっと、これです」
時崎「これは、踏切?」
七夏「はい。お父さんから、この踏切をここに置いてほしいって頼まれていたのですけど、私にはちょっと難しくて・・・」
時崎「難しい?」
七夏「電気の配線が必要みたいで・・・柚樹さんは、この前、テレビゲームを直してくれましたから、そういうの詳しいかなって思って・・・」
時崎「なるほど。でも、どおして七夏ちゃんが?」

俺は、七夏ちゃんに訊いてみた。踏切とかは七夏ちゃんのお父さんが設置すれば良いと思うし、普通は列車好きの七夏ちゃんのお父さんが率先して行うだろうと思ったけど・・・その時、俺は、ある事を思い出した。

七夏「えっと・・・」
時崎「七夏ちゃんに『鉄道模型の事を知ってもらう為』だったね!」
七夏「あっ! はい☆ 本当は、お父さん、とても楽しみにしていたのですけど、私にお願いしたからって・・・」
時崎「七夏ちゃんも大変だね。色々と」
七夏「でも、いい事もあります!」
時崎「いい事!?」
七夏「はい☆ この踏切さんを設置できたら、ご褒美あります!」

そう言うと、七夏ちゃんは、お父さんの机の上に置かれていた、封筒を見せてくれた。その封筒には「七夏へ 踏切達成お礼 図書券」と書かれていた。

時崎「な、なるほど! さすが、七夏ちゃんのお父さん!」

小説好きの七夏ちゃんにとって「図書券」は魅力的な報酬だ。ここは、七夏ちゃんが喜んでくれるように俺も頑張ってみようと思う。

七夏「くすっ☆」
時崎「じゃ、早速、その踏切を設置してみようか!」
七夏「はい☆ よろしくお願いします☆」
時崎「えーっと、どこに設置するのかな?」
七夏「この辺りです☆」

七夏ちゃんが指差したところには既に線路が敷かれているので、先ずはこの線路を撤去しなければならないのかな。とりあえず、踏切セットの説明書を読んでみる。

時崎「なるほど・・・これは、なかなか本格的だな。しかも部品が細かい・・・」
七夏「柚樹さん、分かりますか? まず、ここの線路を外さないと・・・」
時崎「七夏ちゃん、この踏切は線路を外す必要がないみたいだよ」
七夏「え!? でも踏切さんには、線路があると思うのですけど・・・」
時崎「踏切本体には線路は無くて、既に敷かれている線路を使うみたいだよ」
七夏「では、この線路は・・・」
時崎「それは、センサーの役割をする線路みたいだね」
七夏「せんさー?」
時崎「恐らく、列車の踏切内への進入と脱出を検出する為の線路だと思う」
七夏「そうだったのですね☆」
時崎「そのセンサーの線路の方を、既に敷いてある線路と交換になるみたいだね」

俺は、踏切セットの説明書を見ながら、線路の工事を行った。七夏ちゃんはその様子を見ていたけど、複線のうちの一本を実際に七夏ちゃんに実施してもらった。後は説明書に書かれてあるとおり電気的な配線を行う。この作業を行ってみて、確かにある程度慣れていないと大変かなと思った。七夏ちゃんが実施を後回しにしていた理由が分かった気がする。

七夏「柚樹さん! ありがとうです! ようやく出来ました☆」
時崎「なんか、手伝いというよりも、遊んでいたみたいで申し訳ない」
七夏「そんな事はないです☆ 柚樹さんと一緒に出来てよかったです☆」
時崎「早速、動作確認してみたら?」
七夏「はい☆」

七夏ちゃんは、ヘラのような物を使って、機関車を線路に乗せる。以前にも見た光景だ。そして七夏ちゃんがコントローラーのつまみを少し回すと、機関車のヘッドライトが点灯した。

七夏「柚樹さん☆ どうぞです♪」
時崎「え!?」
七夏「機関車・・・動かしてみてください☆」
時崎「あ、ああ!」

俺がコントローラーのつまみをゆっくりと回すと、七夏ちゃんも手を添えてきた。

時崎「な、七夏ちゃん!?」
七夏「くすっ☆」

七夏ちゃんと二人でコントローラーのつまみを回す・・・小さな機関車が力強く動き出した。

時崎「おっ! 動いた!」
七夏「はい☆」

七夏ちゃんの手の温もりが伝わってくる・・・とても心地が良い。
機関車がセンサーのレールの上を通過すると、踏切の警報機と遮断機が実物同様に作動し始める。

時崎「おおっ! これは本格的だ!」
七夏「本物みたいです☆」

機関車はそのまま踏切を通過し、その先のセンサーの線路の上を通過する。踏切の警報音が解除され、遮断機が上がった。

時崎「問題ないみたいだね」
七夏「はい☆ 良かったです♪」
時崎「七夏ちゃん・・・」
七夏「はい♪」
時崎「その・・・手・・・」
七夏「え!? あっ! えっと、ごめんなさい!」
時崎「いや、嬉しいんだけど・・・その・・・」
七夏「・・・・・柚樹さん、ありがとうです・・・」
時崎「これで、七夏ちゃんは図書券が貰えるね!」
七夏「はい☆ でも、殆ど柚樹さんが行ってくれましたから、この図書券は柚樹さんが・・・」
時崎「俺は十分楽しかったよ・・・だから、図書券は七夏ちゃんにプレゼントするよ!」
七夏「いいの?」
時崎「手も繋いでくれたし♪」
七夏「あっ!」
時崎「ん? どうかしたの?」
七夏「いえ・・・その・・・ありがとうです・・・」
時崎「じゃ、そういう事で!」

俺は、踏切セットの箱を片付けようとして、箱の裏に貼り付けられていた値札を見て驚いた。

時崎「た、高っ!!!」
七夏「ひゃっ☆」
時崎「あ、ごめん!」
七夏「びっくりしました。どおしたのですか?」
時崎「この踏切、細かくてよく出来ているなーと思ったけど、とっても高価な商品だったんだね」
七夏「・・・はい。ですから、私はなかなか手が出せませんでした。壊しちゃったら大変だなって思うと・・・」
時崎「ほんと、知らない方が良い事もあるよね」
七夏「くすっ☆ 幸せ・・・です☆」
時崎「え!?」
七夏「ありがとうございます☆」

七夏ちゃんがどういう意味で「幸せ」と話したのか・・・多分俺の話した事の指摘なのだろうけど、七夏ちゃんが幸せに思える事を、これからも考えたいと思う。

七夏「柚樹さん、もう少し繋いでみますか?」
時崎「え!?」

七夏ちゃんの言葉に心拍数が上がる。七夏ちゃんと手を繋げる事は素直に嬉しい・・・嬉しいのだけど・・・なんて考えていると---

七夏「??? 柚樹さん?」
時崎「な、なに?」
七夏「こうして、列車をもっと繋いでみますね☆」
時崎「え!? 列車!?」

七夏ちゃんはヘラのような物を線路に置き、機関車の後ろに列車を繋げてゆく。「繋ぐ」って「手」ではなく「列車」の事だったのか・・・。まだまだ七夏ちゃんの言動が読めていない・・・というよりも俺が誤解していただけか・・・。冷静に考えると「ヒント」はあった。七夏ちゃんは「倒置法」で話していた。それに気付けるようになる事が、七夏ちゃんを知る事に繋がると思う。

七夏「~♪」
時崎「それは、客車かな?」
七夏「はい☆ これは、お父さんが乗ってます!」

七夏ちゃんはそう話すと、客車の一番後ろに、とても小さな車両を繋げた。

<<時崎「臨時とか出発って、七夏ちゃんのお父さんって、何のお仕事なの?」>>
<<七夏「えっと、車掌さん・・・です☆」>>
<<時崎「車掌さん・・・」>>
<<七夏「列車の一番後ろに居る人です」>>
<<時崎「なるほど」>>

以前、七夏ちゃんが話していた記憶が甦る。

時崎「その小さい車両は、車掌車かな?」
七夏「はい☆」
時崎「七夏ちゃんのお父さんの仕事場なんだね」
七夏「くすっ☆」

七夏ちゃんは列車を動かすコントローラーのつまみを再び回す。小さな車掌車から、ふたつの赤い光が灯る・・・。

七夏「柚樹さん♪ どうぞです♪」

先ほどと同じように、七夏ちゃんと一緒に列車を動かす。長くなった列車は先程よりも「らしく」なり、車掌車の赤い光に懐かしさを覚えた。今、七夏ちゃんが手を添えてくれているのだが、先程よりは落ち着いていて、七夏ちゃんの温もりがよりはっきりと伝わってくる事が分かって嬉しかった。俺は再び童心に帰ったかのように走る列車を眺めていた。

時崎「・・・・・」
七夏「・・・・・」
時崎「・・・・・」
七夏「・・・・・柚樹さん♪」
時崎「え!?」
七夏「私、飲み物を持ってきますね☆」
時崎「あ、ああ。ありがとう!」

七夏ちゃんは、飲み物を取りに台所へ向かったようだ。さっきまで七夏ちゃんが手を添えてくれていた感覚が残っている・・・この感覚と鉄道模型とが紐付いてしまいそうだ。俺は、走っている列車を止めて、写真撮影を行う。しかし、距離が近いのか、なかなか綺麗に列車全体を撮影する事が出来ない。

時崎「これは意外と難しいな・・・」

一箇所に焦点が合うと、他がぼやけてしまう。現実の列車撮影では起こらない現象だ。写真撮影をそれなりに行ってきたが、こんな壁があったとは・・・。俺が目の前の列車の撮影に苦戦していると---

七夏「ゆっ! 柚樹さんっ!! 柚樹さんっ!!!」
時崎「え!? わぁ!」

七夏ちゃんが凄い勢いで話しかけてきた! とても慌てた様子で一体どうしたのだろう!? 見たところ、飲み物は持っていないようだ。

時崎「な、七夏ちゃん!? どうしたの!?」
七夏「えっと、れ、冷蔵庫の中にっ!!」
時崎「冷蔵庫の中!?」

思い出した・・・七夏ちゃんが目がないというあれだ。こんなに慌てて、まさかここまでとは・・・。俺はちょっと知らないふりをして様子を見る事にした。

七夏「は、はい! ちょっと一緒に来てくれませんか?」
時崎「あ、ああ」

七夏ちゃんと一緒に台所の冷蔵庫の前に来た。七夏ちゃんは冷蔵庫をそっと開けて・・・中を覗いて・・・そして勢いよく閉めた。

時崎「な、七夏ちゃん!?」
七夏「ゆ、柚樹さん! やっぱり中にあります!!!」
時崎「中に!?」

俺は、冷蔵庫を開けて「ブルーベリーのタルト」を取り出した。

七夏「ゆ、柚樹さん! そ、それ!!!」
時崎「これ? 七夏ちゃん喜ぶかなって思って!」
七夏「ど、どおして!?」
時崎「街で見かけて、美味しそうだったから!」
七夏「・・・・・そ、それ・・・と、とっても美味しいです!!!」
時崎「そう! じゃ! はい! 七夏ちゃん!」
七夏「え!? えー!? い、いいの?」
時崎「もちろん! その為に買ってきたから!」
七夏「わぁ☆ ありがとうです!!!」
時崎「喜んでくれて良かったよ!」
七夏「はい☆ あ、ごめんなさいっ! 今、お茶を用意・・・あっ、紅茶の方がいいかな?」
時崎「七夏ちゃん! ちょっと落ち着いて!」
七夏「はい☆ すみませんっ!」

まさか「ブルーベリーのタルト」で、七夏ちゃんがここまで取り乱すとは思っていなかったけど、とても可愛い一面を知る事が出来た。これは天美さんに感謝だな。

七夏「柚樹さん♪ 本当にありがとうです☆」
時崎「いや、こっちこそ、いつもありがとう!」
七夏「これ、とっても高価ですから、ほしくても、お小遣いではなかなか買えなくて・・・」
時崎「そうなんだ」

確かにこの「ブルーベリーのタルト」は、七夏ちゃんくらいの歳の女の子のお小遣いからすると、高価な食べ物だと思う。俺もひとつしか買わなかったからなぁ。

七夏「柚樹さんと半分ずつです♪」
時崎「え!? 俺はいいよ。七夏ちゃん、好きなら全部食べていいよ」
七夏「七夏ね♪ 柚樹さんと一緒に半分ずつがいいな♪」
時崎「そ、そう・・・」

・・・七夏ちゃんの希望に従う事にする。その表情から遠慮しているようには見えなかったから・・・。ん? 今、七夏ちゃん自分の事を「ななつ」と話したな。これは、どういう事なのだろう? 初対面の時以来の事なので、どこか懐かしさを覚えた。

七夏「はい♪ 柚樹さん♪」
時崎「あ、ありがとう!」

七夏ちゃんは、ブルーベリーのタルトを半分、俺の方に取り分けてくれた。

七夏「いただきまーす♪」
時崎「いただきます!」
七夏「ん♪ おいしい♪」
時崎「おっ!」

七夏ちゃんがブルーベリーのタルトに目がない理由を、俺の舌が教えてくれた。

七夏「~♪」
時崎「これは、美味しい!」

あまりスイーツを食べる方ではなかったが、これは別格の美味しさだった。
七夏ちゃんの好きなものだから・・・という理由ではなく、七夏ちゃんが好きなものを、純粋に同じように好きになれた事が嬉しい。
俺と七夏ちゃんは、ゆっくりと「ブルーベリーのタルト」を楽しんだ。

 ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆

??「ただいま」

玄関から声がした。聞いた事のある声・・・七夏ちゃんのお父さんの声だ。

七夏「あ、お父さん! お帰りなさい!」
凪咲「おかえりなさい。あなた」
直弥「ただいま。七夏、凪咲」

自然と挨拶をする二人に対して、俺は少し出遅れた。

時崎「えっと、お邪魔しております」
直弥「いらっしゃい。時崎君だね。凪咲から話は聞いてるよ。色々とお世話になってるそうで」
時崎「いえ、こちらこそ、お世話になっております!」
直弥「ごゆっくりどうぞ!」
時崎「すみません。ありがとうございます!」

七夏ちゃんのお父さんとの会話は緊張してしまう。まだ、ほぼ初対面に近いからなのかも知れないが、自然に話せるように努めたい。

凪咲「あなた、お疲れ様。研修は終わったのかしら?」
直弥「ああ。その事なんだけど、後で少し話しておきたい事があるから!」
凪咲「はい」
七夏「お父さん!」
直弥「七夏、どおした?」
七夏「えっと、踏切さん、完成してます☆」
直弥「お! 本当か?」

そう言うと、七夏ちゃんのお父さん、直弥さんは、真っ直ぐ自分の部屋へ向かってゆく・・・七夏ちゃんもその後を付いてゆく。

凪咲「あらあら、挨拶もなしに・・・ごめんなさいね。柚樹君」
時崎「いえ、お気持ちはとっても分かりますので!」
凪咲「ありがとうございます」

七夏ちゃんのお父さん、直弥さんは車掌のお仕事をしていて、鉄道模型が趣味という事はなかなかの鉄道好きという事だ。この辺りの事を切り口にすれば、会話も弾むかも知れないと思った。

時崎「七夏ちゃんのお父さんは、結構な鉄道好きみたいですね」
凪咲「そうね。でも、その事には感謝しています」
時崎「感謝・・・ですか?」
凪咲「はい。よろしければ、こちらへどうぞ」
時崎「え!? あ、ありがとうございます」

凪咲さんに案内されて居間へ移動した。

凪咲「ナオ・・・主人との出逢いは、私が今の七夏と同じ歳くらいの頃・・・」

凪咲さんは直弥さんとの出逢った時の事を話してくれた。

凪咲さんと直弥さんの出逢いは、通学中の列車の中、お互いに存在は知っていたけど、凪咲さんは車内で本を読んでいる事が多かったので、二人が話す機会は無かった。そんな列車の線路のように、等間隔状態のままの二人を引き寄せる出来事が起こる。
凪咲さんは、いつも降りている駅で降りようと列車の扉付近に居た。扉が開きかけた時、戸袋内に鞄が挟まり、扉が少ししか開かない。周りの人は、助ける事無く、ささっと他の扉へ向かってしまう。凪咲さんが立ち往生している間に扉は閉まり始め、鞄が戸袋から外れるが、そのまま扉は閉まりそうになる。その時、一人の男の人・・・直弥さんが閉まりかけた扉の間に腕を入れ、押さえる。しばらくすると、扉が再び開く。
直弥さんの「降りて! 早く!」という言葉に、凪咲さんは慌てて降りたが、咄嗟の事でお礼が言えなかった。凪咲さんは翌日、直弥さんにお礼を言う。通学中、何度か見かける事があった二人・・・凪咲さんから話しかけたのは、この時が初めてだった。直弥さんは、列車の事に詳しく、将来は列車の運転士になりたいらしい。それゆえ、列車の扉の仕組みも詳しく知っていたようだ。

-----当時の回想1-----

凪咲「昨日は、ありがとうございました」
直弥「え!? あ、昨日戸袋の・・・」
凪咲「手・・・大丈夫でしょうか?」
直弥「手?」
凪咲「はい。扉に挟まれてましたので・・・その・・・すみません」
直弥「あ、扉はそんなに強く閉まらないから大丈夫!」
凪咲「そうなのですか?」
直弥「列車の扉は、空気の力で閉まるからね」
凪咲「え? 空気?」
直弥「扉が開く時に、空気が抜ける音がすると思うんだけど」
凪咲「そう言われれば・・・お詳しいのですね」
直弥「まあ、一応、将来は列車の運転士志望だから!」
凪咲「まあ!」
直弥「あ、僕は水風(みずかぜ)直弥(なおや)と言います」
凪咲「私は、星丘(ほしおか)凪咲(なぎさ)と申します」

----------------

凪咲「ナオが鉄道の事に詳しかったから助けてもらえた。そうでなかったら、ナオとの出逢いはなかったと思うし、七夏とも・・・・・ですから、ナオの鉄道好きには感謝しています!」
時崎「そうだったのですね」
凪咲「ナオは運転士には、なれなかったのですけど・・・」
時崎「え!?」

そう言えば、さっきのお話で、直弥さんは「列車の運転士になりたい」と話してくれたけど・・・。

凪咲「色覚特性が合わなかったの・・・」
時崎「それって・・・」

色覚特性・・・色の見え方の特性の事だが、直弥さんは色が多くの人と異なって見える特性の持ち主なのだと理解した。「色盲」という事になるのだが、あまり好きな言葉ではない。確か、男の人で20人に一人、女の人で500人に一人くらいの割合だったと思う。

凪咲「ナオの色の見え方は、私とは違うみたいで、特に赤色が見えにくいみたい・・・でも、それは個性だと思っているの」
時崎「個性・・・ですか?」
凪咲「ええ。得て不得手とか、好き嫌いみたいなこと・・・かしら?」
時崎「なるほど」
凪咲「だけど、色覚特性が合わないと運転士のお仕事は難しいみたいで・・・」
時崎「確かに、赤色が見えにくいと辛いですね」
凪咲「ええ。特に遠くの小さな信号の光の色が、すぐに判断できない場合は・・・」

-----当時の回想2-----

直弥「なんでだよ! なんでダメなんだよ・・・なんで分からないんだよ!」
凪咲「ナオ・・・」
直弥「なんで赤が分らないんだよ!」

<<上司「列車の運転士は沢山の人の命を預かる仕事だ。信号の見間違いがあってはならんのだよ」>>

直弥「運転士になって、凪咲を乗せてあげるからって約束したのに・・・この視力じゃ、車掌までだなんて・・・・・」
凪咲「車掌さん・・・素敵だと思うわ!」
直弥「気休めならいいよ!」
凪咲「気休めじゃないわ!」
直弥「・・・・・」
凪咲「もし、ナオが運転士さんだったら乗車中は会えないけど、車掌さんなら会えるから!」
直弥「・・・会えるって?」
凪咲「ほら! 切符の拝見で♪」
直弥「!」
凪咲「車掌さんの方が、お客様との接点が多いと思うの♪」
直弥「・・・凪咲・・・」
凪咲「だからね、車掌さん・・・とっても素敵なお仕事だと思うの♪」
直弥「・・・・・」
凪咲「私、乗車中に寂しくなったら、ナオの事、呼ぶからね!」
直弥「・・・え!?」
凪咲「車内で困ってるお客様を助けるのは、車掌さんのお仕事だから・・・くすっ☆」
直弥「・・・・・ありがとう・・・凪咲・・・・・」

----------------

凪咲「・・・それで、ナオは車掌さんになる事を決意してくれたの・・・」
時崎「車掌さん、格好いいお仕事だと思います!」
凪咲「ありがとうございます!」
時崎「こちらこそ、素敵なお話、ありがとうございます!」
凪咲「・・・でも、七夏は今でもナオが運転士になれたらいいなって思っているみたい」
時崎「七夏ちゃんらしいですね」
凪咲「そんな事もあってか、七夏はナオに少し甘え過ぎな所もあるのが・・・ね」

凪咲さんは苦笑する・・・これは、少し「やきもち」が入っているのかも知れない。

時崎「それは、構わないと思いますけど」
凪咲「最近は、柚樹君にも甘え過ぎているみたいだから・・・」
時崎「え!?」
凪咲「七夏がご迷惑かけてるのではないかしら・・・って」
時崎「七夏ちゃんが甘えてくれるのは、とても嬉しいです!」
凪咲「ありがとう・・・・・良かったわね! 七夏!」
七夏「ひゃっ☆」
時崎「え!?」

居間の入口に七夏ちゃんが居たみたいだ・・・今の話、聞かれていたのかな。俺は七夏ちゃんの居る所に移動する。

時崎「な、七夏ちゃん!?」
七夏「ご、ごめんなさい・・・えっと・・・その・・・私の事とか、お話してたみたいだから、入りづらくて・・・」
時崎「いいよ、別に! 聞かれて困る事でもないし」
七夏「ありがとう・・・です」
時崎「まあ、ちょっと恥ずかしいけど」
七夏「くすっ☆ でも・・・私、知らなかったなぁ☆ お父さんとお母さんの出逢い♪」
時崎「え!? そうなの!?」
七夏「だって、私が訊いても、お母さんもお父さんも答えてくれなくて・・・」
時崎「なるほど。まあ、それは恥ずかしさもあるからかな?」
七夏「くすっ☆ 柚樹さんのおかげで、素敵なお話、聞けました♪」
凪咲「七夏!」
七夏「ひゃっ☆」
凪咲「あまり、隠れてお話を聞くのはダメよ!」
七夏「ご、ごめんなさいっ!」

凪咲さんは、少し苦笑いしながら、七夏ちゃんに軽く注意をするが、直弥さんとの思い出話を聞かれたことの恥ずかしさも入っているのだと思う。

七夏「お母さんは、どおしてお父さんの事が好きになったの?」
凪咲「そうね・・・直感・・・かしら?」
七夏「くすっ☆」

凪咲さんの答えは、はぐらかすかのような一言だけだった。

凪咲「ナオは?」
七夏「えっと、まだお部屋に居ます☆ お母さんにお話があるって」
凪咲「そう言えば、さっきそんな事を話してたわね。ちょっと失礼しますね」
時崎「え!? あ、はい」

凪咲さんは、七夏ちゃんのお父さんの部屋へ向かった。

七夏「柚樹さん! ありがとうです!」
時崎「え!?」
七夏「お父さん、とっても喜んでました☆」
時崎「喜んで!? あ、踏切の事?」
七夏「はい☆」
時崎「ところで、七夏ちゃんは、お父さんのお話し聞かなくていいの?」
七夏「大切なお話しみたいだったから、お母さんと二人っきりでお話がいいかなって☆」
時崎「そうなんだ」

七夏ちゃんは、ご両親にも気を遣っているようだけど、今更、驚く事でもない・・・か。子供が「親の顔色を伺っている負の気遣い」とは明らかに違うので、こういう気遣いは微笑ましい。七夏ちゃんと居間でのんびり過ごす。七夏ちゃんは、お父さんの事を少し話して聞かせてくれた。

七夏「・・・お父さんね、本当は運転士さんになりたかったみたい・・・」
時崎「そうみたいだね」
七夏「でも、車掌さんのお仕事も、とっても充実してるって♪」
時崎「素敵で誇れるお仕事だと思うよ!」
七夏「ありがとうです☆」
時崎「それで、列車の運転するゲームがあったんだね!」
七夏「はい☆ でも、ゲームはここちゃーの方がお父さんより上手いみたいです☆」
時崎「あ、天美さん・・・将来は運転士さん!?」
七夏「くすっ☆」

 ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆

直弥「七夏!」
七夏「あ、お父さん! お母さんとのお話はすんだの?」
凪咲「ナオね! 運転士さんになれるんだって!」
七夏「え!?」
直弥「今度の日曜日に、蒸気機関車を運転できる事になったんだ!」
凪咲「列車の展示イベントで、ナオが運転するのよ♪」
七夏「本当・・・なの!?」
直弥「もちろん! だから、七夏も見に来てほしい!」
七夏「わぁ☆」
時崎「よかったね! 七夏ちゃん!」
七夏「はい♪」

直弥さんの視力の適性問題で、運転士になる事は難しいというお話を聞いたばかりなので疑問が残るが、ここでその理由を訊くのは無粋だ。皆が幸せそうにしているのなら・・・。
七夏ちゃんと凪咲さんは展示イベント当日は、民宿をお休みにするらしい。俺もその展示イベントに興味を持ったので、参加させてもらえないかお願いをしてみた。

凪咲「まあ! 柚樹君も来てくださるの?」
時崎「ええ! とても面白そうですので是非! それに、七夏ちゃんの写真の件もありますから!」
凪咲「ありがとうございます!」
直弥「時崎くん!」
時崎「はっ! はいっ!」
直弥「踏切の設置、七夏を手伝ってくれたみたいでありがとう!」
時崎「いえ、俺も楽しめましたので」
直弥「よろしければイベント当日、凪咲と七夏の事、よろしくお願いします!」
時崎「こ、こちらこそ!」
直弥「では、失礼いたします!」
時崎「はい!」

その場を立ち去る直弥さん・・・が、こちらに振り返る。

直弥「凪咲!」
凪咲「え!?」
直弥「僕はまだ諦めてないよ! 運転士として、凪咲と列車旅!」
凪咲「まあ!」

そう言い残して直弥さんは自分の部屋へ向かった。

凪咲「・・・ナオ、運転士になりたいっていう夢・・・諦めてなかったのね・・・」
時崎「七夏ちゃんのお父さん、芯が強い人なんですね!」
凪咲「・・・うぅ・・・ご、ごめんなさい・・・」
七夏「お、お母さん!?」

・・・凪咲さんは、よほど嬉しかったのだろう・・・。

<<凪咲「・・・でも、七夏は今でもナオが運転士になれたらいいなって思っているみたい」>>

さっき凪咲さんが話していた言葉・・・凪咲さんも七夏ちゃんと同じく、直弥さんの夢を誰よりも応援している事が伝わってきた。
俺は、凪咲さんが自分の部屋へ向かうよりも先に、一礼をして、そのまま自分の部屋へと移動した。

夢を追いかけ続けている事・・・それが人として最も輝いていると言える。夢を達成してしまったら、その先には、一体どんな事が待っているのだろうか・・・。
「ふたつの虹」を追いかけて・・・追いかけている今が、最も充実しているのかも知れないと思うのだった。

第二十一幕 完

----------

次回予告

虹はいつから七色になったのだろう・・・ふたつの虹を持つ少女が想う七色とは!?

次回、翠碧色の虹、第二十二幕

「ふたつの虹を宿した少女」

俺は七色と虹色の違いに気付かされる事になる。

幕間十六:夢の世界で会いましょう!

幕間十六:夢の世界で会いましょう!

心桜「こんちわー☆」
笹夜「こんにちは♪ 心桜さん♪」
心桜「え!? 笹夜先輩が、最初から居る!?」
笹夜「す、すみません・・・」
心桜「いやいやいや! 大歓迎です!」
笹夜「まあ♪ 良かったです♪」
心桜「(途中から割り込まれて驚かされるよりはよっぽどいい!)
笹夜「・・・!? 心桜さん? 何かお話されました?」
心桜「え!? いえ! なんでもないっ! そう言えばつっちゃーは?」
笹夜「もうすぐ来ると思います♪」
心桜「まあ、久々の大役だったからねー!」
笹夜「『幕間』も久々ですね♪」
心桜「そだね! けど、殆ど『随筆』と変わんないよねっ!」
笹夜「そうですけど、まあ、細かな所は気になさらなくても・・・」
心桜「へぇー・・・笹夜先輩って、そういう所、気にするのかなって思ったのですけど」
笹夜「私、そんなに堅いイメージがあるのでしょうか!?」
心桜「んー、堅いって言うよりも、生真面目な印象かな?」
笹夜「すみません」
心桜「それは、いいと思うんですけど」
七夏「笹夜先輩はとっても柔らかくて優しいです♪」
心桜「わぁ! つっちゃー! びっくりしたぁ~!」
笹夜「七夏ちゃん♪ お疲れ様♪」
七夏「はい☆」
心桜「お疲れーつっちゃー! んで、今回は『夢』がテーマなんだねっ!」
七夏「くすっ☆」
心桜「あたし、前にも話したけど、これという夢が無いんだよねー」
笹夜「心桜さん、それは夢というよりも目標かしら!?」
心桜「どっちかって言うと、そうなるねー。あたしは将来というよりも『今を楽しく』が目標だからねっ!」
笹夜「素敵な事だと思います♪」
心桜「その夢、叶えて見せます・・・って、言われても、自分で叶えるよ!」
七夏「ここちゃーは、いつもそうです☆」
心桜「夢はよく見るんだけどねー」
七夏「え!?」
笹夜「眠っている時の夢・・・かしら?」
心桜「そうです、そうです!」
七夏「どんな夢を見たの?」
心桜「え!? ・・・言わないとダメ?」
七夏「えっと、聞きたいなぁって☆」
笹夜「私も、聞いてみたいです♪」
心桜「さ、笹夜先輩まで・・・うーん・・・どうしようかなぁ」
笹夜「無理なら私は・・・」
心桜「まあ、いいや! つっちゃーも聞きたいってんなら!」
七夏「え!?」
心桜「怒んないでよ、つっちゃー!」
七夏「ええ!?」
笹夜「七夏ちゃんが心桜さんの夢に出て来るのかしら?」
心桜「まあね!」
七夏「・・・・・」
心桜「夢の世界のつっちゃーは、もっと天然が入っている事が多くて---」

-----心桜の夢-----

ファーストフード店にて。

心桜「つっちゃー、何にする?」
七夏「えっと、どうしようかな・・・」
心桜「あたし、これ! 『のむちゃセット』にするっ!」
七夏「それって、そう読むの?」
心桜「そだよっ! え!? つっちゃーまさか『ヤムチャセット』だと思った!?」
七夏「はい。違うの?」
心桜「国内だからねー。海外では『ヤムチャセット』なのかも知れないけど・・・」
七夏「そうなんだ☆ 私、頼んできますね☆」
心桜「え!? ちょっ、ちょっとつっちゃー!」
七夏「私に任せて☆ すみませーん『のむちゃせっと』ふたつください☆」
心桜「っ!!!」
店員「え!?」
七夏「えっと『のむちゃせっと』・・・あ、『いんちゃせっと』かな!?」
店員「えっと、『ヤムチャセット』ふたつでよろしいですか?」
七夏「・・・・・」
心桜「くくっ・・・」
七夏「こ、ここちゃー!!!」
心桜「わわわっ!!!」

--------------

七夏「こ、ここちゃー!!!」
心桜「わわわっ!!!」
笹夜「まあ!」
心桜「ごめんごめん! つっちゃーが聞きたいって言うから!」
七夏「私、そんな間違いしないです!」
心桜「だよねー。だから夢のお話だってば・・・」
笹夜「これは、心桜さんの心に問題がありそうですね」
心桜「だけどさー、夢なんだから、どうしようもな・・・あっ!」
笹夜「どうかしました?」
心桜「最後の所だけ『正夢』になってる!」
七夏「もう~! ここちゃー!」
心桜「んでもさ。あたし、夢の中のつっちゃーに会えると嬉しいんだよ!」
七夏「え!?」
心桜「だって、無意識につっちゃーが出てくるって、それだけ繋がりが深いって事になるからね!」
七夏「・・・・・」
笹夜「良かったわね♪ 七夏ちゃん♪」
七夏「素直に、喜んでいいのかなぁ・・・」
心桜「いいいいっ! つっちゃーの夢の世界に、あたしが殴り込んでる事って無い!?」
七夏「えっと・・・殴り込んできます・・・」
心桜「でしょ!? ・・・って、殴り込んでるんかいっ!」
笹夜「心桜さん、自分でそう話してます」
心桜「あははっ! さて皆さん! 今回はつっちゃーが頑張ってた『翠碧色の虹』本編はこちら!」
心桜「http://nanatsuiro.my.coocan.jp/nnt_frma_a.htm」
心桜「つっちゃー、今後も頑張るんだよ!」
七夏「え!? はい!」
心桜「んで、あたしたち『ココナッツ』宛てのお便りはこちら!」
心桜「http://nanatsuiro.my.coocan.jp/nnt_suiheki_novel.htm#QUESTIONNAIRE」
笹夜「心桜さんも、しっかりとしていますね♪」
心桜「定期宣伝はとっても大切な事なんだよ!」
七夏「えっと、どうぞよろしくお願いいたします☆」
笹夜「七夏ちゃんの未来が順風満帆でありますように♪」
心桜「あたしの夢って『それ』かもねっ!」
笹夜「まあ!」
七夏「ここちゃー☆ 笹夜先輩☆ ありがとです☆」

幕間十六 完

------------

幕間十六 をお読みくださり、ありがとうございました!
本編の方も鋭意制作中ですので、どうぞよろしくお願い申しあげます!

第二十二幕:ふたつの虹を宿した少女

第二十二幕:ふたつの虹を宿した少女

夢・・・眠っている時に見る幻覚体験。そして、自分が思い描き、そうなりたいと願う未来・・・もうひとつ、現実的でない考えや空想も夢と言う事がある。昨日、七夏ちゃんのお父さん、直弥さんは夢を追いかけ続けている事、そして七夏ちゃんや凪咲さんも直弥さんを応援している事が分かった。俺も夢と言うと大袈裟だが、目標をしっかりと持つべきだと思う反面、七夏ちゃんはのんびり屋さんの傾向なので、結論を急ぐような行動も考え物だとも思ってしまう。

蝉の声が早朝を告げる・・・すっかり聞き慣れてしまった為か、蝉の目覚まし効果が薄れてきた気がする。慣れてしまうという事は、ある意味、ちょっとした事に気付けなくなってしまうという事でもある。民宿風水での生活に慣れてしまい過ぎないように意識しなおしたい。俺は七夏ちゃんが起こしに来てくれるよりも前に起きる。

七夏「あ、柚樹さん☆ おはようございます☆」
時崎「おはよう! 七夏ちゃん! あれ?」

今日の七夏ちゃんは、久々に見る制服姿だった。そう言えば初めて出逢った時も制服姿だった。色々と当時の事が甦る。

七夏「くすっ☆」
時崎「今日は、制服なんだね」
七夏「はい☆ 登校日です☆」
時崎「なるほど」
七夏「朝食、もう少し待っててくださいね☆」
時崎「ありがとう」

顔を洗って、居間へと移動する。

凪咲「おはようございます」
直弥「おはよう! 時崎君!」
時崎「おはようございます!」

今日は、七夏ちゃんのお父さん、直弥さんも居るので少し緊張してしまう。直弥さんはこれからお仕事へ出かけるみたいだ。

凪咲「あなた、今日は早く帰れるのかしら?」
直弥「すまない。少し遅くなると思うよ」
凪咲「そうなの・・・はい。お気をつけて!」
七夏「お父さん、いってらっしゃい☆」
直弥「ありがとう」

七夏ちゃんも姿を見せた。制服の上に着たエプロン姿が可愛い。

七夏「??? 柚樹さん?」
時崎「え!? ああ、ごめん」
七夏「くすっ☆ 朝食どうぞです☆」
時崎「ありがとう! 七夏ちゃん!」

七夏ちゃんと一緒に朝食を頂く。いつもはのんびりしている七夏ちゃんが、今日はどことなく急いでいる様子で、少し身動きが機敏な感じがする。今の七夏ちゃんが普段の七夏ちゃんの姿なのだとすると、俺は七夏ちゃんの事をまだまだ分かっていない事になる。俺も七夏ちゃんに合わせて少し急ぐ。

七夏「柚樹さん!? どおしたのですか?」
時崎「え!?」
七夏「えっと、いつもより少し慌ててるみたいです」

俺のちょっとした変化に七夏ちゃんはすぐに気付いた。人を良く見ているという点においては七夏ちゃんの方が上だ。民宿育ちという事で、今までも色々な人を見てきているからだろうか。

時崎「なんとなく七夏ちゃん、急いでいるみたいだから」
七夏「くすっ☆ 私に合わせなくても・・・ごゆっくりどうぞです☆」

「七夏ちゃんに合わせたい」と思ったが、さすがに恥ずかしいので、その気持ちを抑える。

時崎「これから学校だよね?」
七夏「はい☆」
時崎「俺も途中まで一緒いいかな?」
七夏「え!?」
時崎「通学中の七夏ちゃんをアルバムにと思って」
七夏「くすっ☆ はい♪」

朝食を済ませ、俺は急いで出かける準備をした。
玄関で、七夏ちゃんを待つ。

七夏「柚樹さん! お待たせです☆」
時崎「ああ。おや? 今日は髪を結ったんだね!」
七夏「はい☆ おかしいですか?」
時崎「いや・・・ただ・・・」
七夏「???」
時崎「今の七夏ちゃん、凪咲さんに似てるなって」
七夏「くすっ☆」
凪咲「七夏、気をつけてね。柚樹君も!」
時崎「はい!」
七夏「いってきまーす☆」

 ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆

七夏ちゃんと二人で登校する・・・って、俺は登校ではないのだが。少し早足の七夏ちゃんの後を付いてゆく形となる。

時崎「登校日・・・か」
七夏「どうかしましたか?」
時崎「夏休み期間中の登校日ってなんの為にあるのかなって」
七夏「くすっ☆ 8月に一度はクラスの人と会うため・・・かな?」
時崎「なるほど」
七夏「今日はこの鞄、筆記用具以外は何も入っていないですので、いつもより軽いです♪」

七夏ちゃんは身軽そうに鞄を軽く持ち上げつつ振り返る・・・俺はその瞬間を記録した。

時崎「突然の撮影でごめん」
七夏「くすっ☆ えっと、部活がある人は、夏休み期間も学校みたいですけど、私は文芸部ですので♪」
時崎「文芸部・・・七夏ちゃん小説好きだからかな?」
七夏「はい☆ ですので、今日は学校の図書室にも寄ってから帰ります♪」
時崎「帰り、遅くなるの?」
七夏「えっと、お昼過ぎには帰れると思います☆」

学校へと近づくにつれ、辺りに七夏ちゃんと同じ制服姿の学生さんが目に入ってくる。

時崎「七夏ちゃん!」
七夏「はい☆」
時崎「ちょっと用事があるから、俺はここで! ありがとう!」
七夏「はい☆ 柚樹さん、また後で☆」
時崎「ああ」

このまま学校前まで七夏ちゃんと一緒に居ると、噂になってしまいかねないので、俺はここで七夏ちゃんと別れることにした。
さて、用事があるのは確かだ。以前、写真屋さんにお願いしておいた現像・・・2~3日後には出来上がるみたいなので、受け取りに行く。写真屋さんで現像された写真を確認する。家庭用プリンターで印刷したのと然程変わらないように思えるが、これは月日が経てば明らかな違いとなってくる。家庭用プリンターで印刷した写真はすぐに色褪せてしまうので、大切な思い出のアルバムには、現像された写真の方が適している。俺は、新たに追加でプリント依頼を行った。「セブンリーフの写真立て」が目に留まる。

<<七夏「やっぱり、セブンリーフです! 写真立ては、初めて見ました!」>>

この写真立てのおかげで、今、七夏ちゃんが現像された写真を手にしている事になる。改めて「セブンリーフの写真立て」に感謝する。そう言えば七夏ちゃん、この写真立てに入れる写真、見つかったのだろうか? セブンリーフの写真立てに、七夏ちゃんの写真を重ねてみる・・・とてもよく似合っている。似合っているんだけど、俺にとってこれは真実ではあるが「写真」とは言えない。その理由は、七夏ちゃんの瞳・・・「ふたつの虹」が違って見えるから。なんとか「写真」として、七夏ちゃんの「ふたつの虹」を表現できないだろうか。

虹の本・・・写真集が書店にあったな。この前は売り切れていた為か見つからなかったけど、あの時、高月さんがナンパされる一件があって、結局、書店に虹の写真集の事については問い合わせていないままだ。書店へと移動する。虹の写真集が置いてあった場所へ向かうと---

時崎「おっ! あった!」

前は見つけられなかったけど、今日は虹の写真集が置いてあった・・・と言っても、厳密には「再会」ではないのだろうけど。改めてこの写真集を眺める。思っている以上に色鮮やかで綺麗な虹と副虹がその世界には在った。こんな風に七夏ちゃんの「ふたつの虹」が撮影できたらなと思ってしまう。しばらく虹の写真集を眺めていると、すぐ隣で何かが動く。視線を移すと、幼い女の子が絵本を見ているようだ。視線を虹の写真集に戻しかけた時、その女の子の絵本に再び視線を持ってゆかれた。その絵本はいわゆる「とびだす絵本」で、本を広げると立体的に見える仕掛けが施されていた。その本から「とびだす立体」が思っている以上に豪華で驚く。女の子はお母さんに呼ばれたようで、絵本をその場に置いて立ち去った。俺はその「とびだす絵本」を手にとって見る。絵本のページを進めると次々と、想像よりも一回り大きな驚きがあった。

時崎「今の『とびだす絵本』は、こんなに凄いのか!」

俺の知っている「とびだす絵本」よりも、かなりとびだしてくるその世界を眺めていると、七夏ちゃんの写真集にも、この絵本のような驚きがほしいなと思うようになってきた。七夏ちゃんに喜んでもらうひとつの方法が見えたようで、嬉しくなる。七夏ちゃんへのアルバムにこの「とびだす絵本」のような驚きを加えたい。俺は「とびだす絵本」を購入して、早速、アルバム制作用の材料を探しに雑貨屋へ移動した。

雑貨屋でアルバム制作に使えそうな材料を探す。「とびだす絵本」を作る場合、ハサミやカッター、糊といった基本的な工作用具・・・まあ、これは七夏ちゃんに聞けば貸してくれるかも知れないが、何に使うか訊かれる可能性が高い。七夏ちゃんに驚いてもらう為には、このアルバム作りは水面下で行う必要がある。アルバム作りの為の工作用具と材料を見て回る。

時崎「おっ! これは!」

セブンリーフ・・・七夏ちゃんお気に入りのブランド。そのセブンリーフのレターセットが目に留まる。しかし、七夏ちゃんは既にこのレターセットを持っている可能性が非常に高い。本人に聞く事もできないし、どうしようか迷ったけど、とりあえずひとつ購入することにした。あと目に付いたのは「カラーセロファン」・・・色々な色があってアルバムに彩を添えてくれそうだ。ただ、沢山の色を買うのは非効率なので、透明なカラーセロファンを選び、色は油性のペンで付ける事にした。数色の油性ペンも合わせて購入する。アルバムのベース素材は、厚紙を使う・・・色々なデザイン厚紙が置いてあったので、その中からセブンリーフのレターセットと合うデザインを選んだ。この材料と一緒に購入した「とびだす絵本」から、その仕組みを理解して、アルバム制作を行えば、上手く出来ると思う。必要な材料を買って民宿風水へ戻る。

時崎「ただいま」
凪咲「あら、柚樹君! お帰りなさい。七夏と一緒じゃなかったの?」
時崎「さすがに、学校まで一緒って訳には・・・」
凪咲「そう言われればそうね。いつも七夏と一緒に居るように思えてきて・・・」

凪咲さんは苦笑している。俺も少しこそばゆくなった。

時崎「七夏ちゃんは、図書室によってから帰るって話してました」
凪咲「そうなの?」
時崎「はい。お昼過ぎには帰るって話してましたから、もうすぐ帰ってくると思いますけど」
凪咲「ありがとう。柚樹君」

電話から音が鳴った。

凪咲「ちょっとごめんなさいね」
時崎「はい。どうぞ」

凪咲さんが電話に応答する

凪咲「お電話ありがとうございます。民宿風水でございます。あら? 七夏?」

・・・どうやら、電話の先に七夏ちゃんが居るようだ。

凪咲「・・・そう。分かったわ。気をつけてね」

凪咲さんは電話を置く。

時崎「七夏ちゃんからですか?」
凪咲「ええ。まだ学校に居るみたいで、商店街にも寄るみたいだから、帰りは夕方頃になるって」
時崎「夕方・・・ですか」
凪咲「また、本に夢中になっているのかしら?」
時崎「なるほど」
凪咲「柚樹君、お茶煎れますね」
時崎「ありがとうございます」

凪咲さんが煎れてくれたお茶を頂く。

凪咲「お昼、もう少し待っててくださいね」
時崎「ありがとうございます」

昼食を頂いて、少しくつろぎたくなるが、アルバム制作を行うため部屋に戻る。

時崎「凪咲さん、ごちそうさまでした!」
凪咲「あら? もういいのかしら?」
時崎「はい」
凪咲「今日は何かあるのかしら?」
時崎「え!?」
凪咲「柚樹君も七夏も、いつもよりも少しお急ぎみたいですから」
時崎「はい。ちょっと行いたい用事がありまして・・・でも、部屋に居ますから、何か手伝えることがありましたら、声をかけてください」
凪咲「はい。ありがとうございます」

部屋に移動して早速、アルバム作りに取り掛かる。まずは「とびだす絵本」の構造を理解する事から始める。

時崎「・・・なるほど。このように折り曲げて折りたたまれているのか・・・」

「とびだす絵本」を見る事はあっても、その構造まで注意深く意識して見た事はなかったので色々な発見があった。意識しないと見えてこないのは「副虹」だけではないという事だ。

しばらく「とびだす絵本」を眺めてから、自分でも試作を行ってみる。手元にあるメモ用紙に折り目を入れ、別に飛び出す箇所を切り取った紙を糊で貼り付ける。そのメモ用紙を二つ折りに閉じて開いてみる・・・すると、飛び出す箇所は浮き上がってきた! これはなかなか楽しい・・・が、固定した糊の力が弱かったのか、すぐにとびだす箇所が外れてしまった。何度も閉じたり開いたりする事を考えると、接着面をもっと広く取らなければならない。ただ、あまり広く取りすぎると見た目の印象にも影響するので、そのあたりのバランスは難しそうだ。

しばらく、いくつかの試作品を作って「とびだす感覚」を覚える。どうすれば、大きくとびだしてくるのか・・・。ここで、飛び出す部分にどんなデザインを行うかという問題にぶつかる。今の試作品は無地の紙がとびだしてくるだけだ。この箇所のデザインを考えなければならない。再び「とびだす絵本」を眺める。この本は「お城」「お花」「動物」が飛び出してくる。この本のような仕上りにするためには、相当なセンスが必要だ。絵を描くのは大変だから、素材を使ってデザインを行いたい。MyPadでデジタル素材や、七夏ちゃんの写真画像を眺めてイメージを膨らませる。いくつかの素材を選び、これを印刷しなければならない。

時崎「何度か、写真屋さんに出かける事になりそうだな・・・」

MyPadを眺めていて、凪咲さんから頼まれている七夏ちゃんの写真集も制作を進めなければならない。これは、七夏ちゃんにも協力してもらえるはずだ。あとで相談してみよう。七夏ちゃんの「ふたつの虹」については、まだ分からない事が多い・・・何より、七夏ちゃん本人が分かっていない。これを何とかすることは出来ないだろうか・・・。

七夏ちゃんの瞳の中に存在する「ふたつの虹」は、とても魅力的だ。だけど、その代償なのか、七夏ちゃん本人は、その事が分からないと話している。それは、瞳の色が変化する様子を、七夏ちゃんが確認出来ないからだ。写真には写らない、録画しても写らない・・・何故なのか・・・理由は分からないが、写真には写らない物があるという事だ。その逆の現象なら、現実としてある。肉眼では見えないのに写真には写る「たまゆら(レンズフレア)」がそのひとつだ。他にも心霊写真もあてはまるかも知れない。だから、逆の事があっても不思議ではない。写真とは違うが、鏡に映っている七夏ちゃんの瞳は、俺が見る限り現実の七夏ちゃんと同じだった。以前に、三面鏡に映った七夏ちゃんの瞳を見た時、現実と同じ「ふたつの虹」を、俺は、はっきりと確認できた。だけど、三面鏡でも七夏ちゃんが「ふたつの虹」を確認出来ていないのは、間違いない。そして、七夏ちゃん本人も他の人から言われた事を、何度も確認しようとしたに違いない。

待てよ・・・七夏ちゃんが生まれた時、「七色の瞳の女の子」として、世間から騒がれる事は無かったのだろうか? 俺がこの街に来て七夏ちゃんと出逢って、再会するまでの間に一度思ったことのある疑問・・・時間は限られている。七夏ちゃんが居ない今、俺は意を決して凪咲さんに訊いてみる事にした。

 ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆

時崎「凪咲さん!」
凪咲「あら? 柚樹君! 何かしら?」
時崎「今、ちょっとお時間よろしいですか?」
凪咲「!? え、ええ」
時崎「すみません」
凪咲「柚樹君! ちょっと、こちらへ・・・いいかしら?」
時崎「あ、はい」

俺の表情から考えている事を読み取ったのか、凪咲さんは別の部屋へ案内してくれた。

凪咲「お話って・・・七夏の事かしら?」

凪咲さんに先手を打たれる。凪咲さんのお部屋に案内された時点で、なんとなく分かってはいたのだが・・・。

時崎「・・・はい。とても失礼な事を訊いてしまうかも知れません」
凪咲「・・・・・」

恐らく、凪咲さんは俺が今から訊こうとしている事を分かっている・・・そんな表情でじっと俺の目を見て、次の言葉を待っている。

時崎「初めて七夏ちゃんの瞳を見た時、驚きませんでしたか?」
凪咲「やっぱり、その事・・・ね」
時崎「すみません」
凪咲「いえ、いいのよ。いずれ話す機会が来ると思ってましたので」
時崎「・・・・・」
凪咲「七夏と初めて目が合った時・・・その時は、特に目の色が変化するようには、見えなかったわ」
時崎「え!?」

七夏ちゃんの瞳の色が変化するのは、生まれつきではないという事・・・凪咲さんが話しを続ける。

凪咲「七夏が5、6歳の頃かしら・・・ほのかに瞳の色が変わるように見えてきて・・・」
時崎「つまり、成長過程で目の色が変化する様になってきた・・・という事でしょうか?」
凪咲「そう・・・なりますね」

成長過程で色が変化する・・・「ディスカス」や「アジアアロワナ」を思い浮かべた。自然界では特に珍しい事ではない。色どころか、成長過程で姿形が変わる生き物も沢山居るからだ。七夏ちゃんが生まれた時から瞳の色が変化していたら、病院内で話題になって、有名になっていたかも知れない・・・けど、そうではなかったという事が分かった。

時崎「という事は、今後の事も、分からないという事ですよね」
凪咲「そうね。先天的でないとしたら、今後、瞳の色が今のままなのか、変化しなくなるのか・・・それは分からないですけど、どっちにしても、七夏は私の大切な七夏・・・」

成長過程で七色に変化するようになった七夏ちゃんの瞳・・・「ふたつの虹」。それを自分で確認できない七夏ちゃんからすれば、最初は周りの人が口を揃えて、嘘を付いていると思っても不思議ではない。凪咲さんの話によると、ちょうどその当時、TVで「ドッキリ番組」が流行っていた事が、追い討ちをかけてしまったらしい。七夏ちゃんは、いつ「ドッキリだよ」って言ってくれるのか、最初は期待していたみたいだけど、いつまでも来ないその答えを待つのに、疲れてしまったみたいだ。七夏ちゃんが虹や、自分の瞳の話を避けるように振舞うのは、あまり良い思い出が無いからなのだろう。七夏ちゃんが「ふたつの虹」を確認できても、瞳に関する今までの事全てが、良い思い出に変わるとは思えない。だけど七夏ちゃんが「ふたつの虹」を見る事が出来れば「周りの人は最初から本当の事を話していたんだよ」という大切な思い出として、上書きされる事は、間違いないと思っている。

凪咲「七夏も、少し他の人と見え方が違うことがあるみたいで・・・」
時崎「色覚特性・・・でしょうか?」
凪咲「そう・・・かも知れないわね」

凪咲さんは、タンスの中から一枚の絵を持ってきて見せてくれた。

時崎「これは・・・」

少しくしゃくしゃになった紙に描かれた似顔絵・・・七夏ちゃんのお父さんだと思われる。描いたのは、幼い頃の七夏ちゃんだろう。七夏ちゃんの目の特性について、凪咲さんは話してくれた。

凪咲「七夏が生まれてきてくれて、私もそうですけど、ナオ・・・主人は、とても喜んだわ。女の子なら、主人が抱えている目の特性も、現れる確率がとても低くなるから」
時崎「確率・・・ですか!?」
凪咲「ええ。前にもお話しましたけど、主人の目の特性は、多くの人とは少し異なっていて、赤と緑の判断が難しいらしいの」

<<七夏「おとうさん、本当は運転士さんになりたかったんだって」>>

俺は、以前に七夏ちゃんが、お父さんの事を話していた事を思い出した。列車の運転士の場合、遠くの信号の色を早く正確に判断できなければならないらしいから、適性はないという事だった。

時崎「それは、赤緑色弱特性・・・」
凪咲「そうね。男の人の場合は、20人に1人くらいが、その特性を持っていて、女の人は500人に1人くらいになるらしいの」
時崎「男女で25倍も差があるのですか!?」
凪咲「はい。主人はそう話していたわ。だけど・・・七夏が描いた主人の顔・・・眼鏡のレンズの色を見て、私は自分の部屋へ駆け込んでしまったの・・・」
時崎「それって・・・」
凪咲「今思うと、血の気が引いてゆく自分の表情を、七夏や主人に悟られないようにする為だったのかもしれないわ」

-----当時の回想1-----

七夏「おとうさんっ! 今日、おとうさんの絵、描きました☆」
直弥「どれどれ・・・」
七夏「上手く描けたかな☆」
直弥「これは、よく似てるよ! 七夏!」
七夏「くすっ☆ お母さんにはまだ見せてないの」
直弥「どうして?」
七夏「えっと、お父さんに最初に見てもらいたくて♪」
直弥「ありがとう! 七夏!」
七夏「はい☆」
凪咲「あら、どうしたの七夏?」
七夏「あ、お母さん! 今日ね。お父さんの絵を描いたの♪」
直弥「よく似てて驚いたよ!」
凪咲「まぁ! 七夏、私にも見せてくれるかしら?」
七夏「はい♪」

七夏ちゃんは両手を大きく広げて「お父さんの似顔絵」を凪咲さんに見せる。

凪咲「っ! ・・・七夏! 上手く描けてるわ! ちょ、ちょっと、ごめんなさい」
七夏「???」
直弥「凪咲!?」

凪咲さんは、言葉を置き去りにして、足早にその場を離れてしまう。

七夏「お母さん、どうしたのかな?」
直弥「きっと、嬉しくて、自分の部屋で泣いてるんじゃないかな?」
七夏「くすっ☆ 私、お母さんに、この絵あげてきてもいいかな☆」
直弥「ああ。もちろん! きっと喜ぶよ♪」

 ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆

七夏「・・・・・」
直弥「七夏!? どおした!?」
七夏「えっと、お、おかあさん・・・ほんとに泣いてて・・・」
直弥「え!?」
七夏「わたし、どおしたらいいのか、分からなくなって・・・」
直弥「七夏!!!」
七夏「おとうさんっ!」

直弥さんは今にも泣き出しそうな七夏ちゃんを、ぎゅっと抱きしめたけど、七夏ちゃんは、そのまま泣いてしまう。直弥さんは七夏ちゃんが落ち着くまで抱きしめていると、七夏ちゃんは、そのまま安心した様子で眠ってしまった。
直弥さんは、眠った七夏ちゃんをお部屋のベッドに寝かせた後、凪咲さんの所へ向かった。

----------------

凪咲「自分の部屋で心を落ち着かせようとしていた私の所へ、主人は理由を聞きに来たの」
時崎「・・・・・」

-----当時の回想2-----

直弥「凪咲・・・」
凪咲「あなた・・・七夏は?」
直弥「部屋で、寝ているよ」
凪咲「そう・・・ごめんなさい」
直弥「七夏の描いた、この絵がどうかしたのか?」
凪咲「眼鏡の色が・・・違ってて・・・」
直弥「眼鏡の色・・・そうなのか?」
凪咲「七夏、もしかしたら・・・1/500の確率・・・」
直弥「凪咲・・・そうだとしても、七夏は僕たちの大切な・・・」
凪咲「分かってるわ。分かってるけど・・・こんな特別なんて・・・」
直弥「その特別も含めての大切な七夏・・・じゃないのか?」
凪咲「・・・・・」
直弥「しっかり頼むよ! 七夏の特性をしっかり支えてあげられるのは、凪咲だけなのかも知れないから・・・そんな凪咲がちょっと羨ましい」
凪咲「・・・・・あなた・・・・・ありがとう・・・」
直弥「俺も凪咲にはできない事で、七夏をしっかり支えてゆくつもりだから、その事に関しては負けないよ!」
凪咲「・・・はい! ちょっと七夏の顔を見てきます」
直弥「ああ」

 ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆

七夏「・・・・・」

凪咲さんと直弥さんは、眠っている七夏ちゃんの手を優しく包んであげる。

七夏「んん・・・。お・・・とうさん、おかあさん・・・」

七夏ちゃんが目を覚ます。

凪咲「七夏、ありがとう」
七夏「え!?」
凪咲「おかあさんね。少し大袈裟に泣き過ぎだったみたい」

凪咲さんは、七夏ちゃんの頭を優しく撫でる。

七夏「あっ、くすっ☆」
凪咲「この絵、貰ってもいいかな?」
七夏「はい☆ でも、ちょっと、お父さんの顔が、くしゃくしゃ・・・」
直弥「七夏が、絵を握り締めていたからだな」
七夏「うぅ・・・ごめんなさい」
凪咲「いいわよ、この方がさっきよりも男前さんになったと思うわ! ねっ? あなた?」
直弥「う・・・。そ、そうなのか!?」
凪咲「ありがとう。七夏、大切にするわ!」
七夏「えっと・・・はい♪」

----------------

時崎「それで、この絵は、くしゃくしゃだったんですか・・・」
凪咲「そうね。でも七夏の大切な想いが込められてますから」
時崎「はい! そう思います!」

俺は、七夏ちゃんの目の特性が少し個性的である事を、なんとなく分かっていた。赤緑型色弱とは少し異なる特性のようだが、いずれにしても、七夏ちゃんが持って生まれた個性だ。七夏ちゃんがその特性を負い目に思ってしまわないよう、凪咲さんと直弥さんは配慮されている・・・というよりも、普通の事として認識している。俺は七夏ちゃんの力になれるかと思い、赤緑型色弱について、少し調べていた。これは知っておく方が良いのか、知らない方が良いのか・・・。それとも、知っていて知らない事にするのが良いのか・・・いや、しっかりと知った上で、自然に接する事が大切なのだと思う。それは、凪咲さんと直弥さんが、七夏ちゃんにそうしているのが答えだと思う。俺は、それに加えて、七夏ちゃんが、もっと喜んでくれる事を考えるべきだと思った。

凪咲「虹の色は七色って言うでしょ?」
時崎「え!? は、はい」
凪咲「七色って、色が特定できないとも言えるわ」
時崎「そう・・・なりますね」
凪咲「だから、見た人の数だけ、虹の色はあると思っているの」
時崎「確かに、俺が見た虹色と凪咲さんが見た虹色が同じだと証明するのは難しいですよね」
凪咲「そうね。でも、それを証明する必要って、あるのかしら?」
時崎「え!?」

凪咲さんの言葉に、神経が掻き毟られるような思いを覚える。俺が行おうとしている事を否定されたような気がして・・・。七夏ちゃんに本当の虹を見せてあげたいと思うのは間違っているのだろうか・・・。

凪咲「昔、七夏を抱きながら虹を見たことがあるの。私は『きれいね!』って七夏に話したけど、まだ七夏は幼かったから、虹そのものを分かっていなかったかも知れないわね。あの時、一緒に見上げた虹・・・七夏にはどんな色に見えていたのかしら?」

時崎「・・・・・」
凪咲「私には、私の虹色があって、七夏には七夏の虹色がある・・・それだけの事よ」
時崎「・・・・・」
凪咲「でもね。七夏が、他人の虹に触れたいと望むのなら、母として応援しなければならないと思ってるの・・・それが、柚樹君だったら、協力をお願いしても、いいかしら?」
時崎「凪咲さん・・・もちろんです!」
凪咲「ありがとうございます」

少し安心しつつも、まだ、神経が震えている・・・。俺は、震える神経を宥めるのに手間取り、次の言葉を探し損ねていた。

凪咲「ごめんなさいね」
時崎「え!?」
凪咲「七夏の事になると、ちょっと遠慮がなくなってしまって・・・」
時崎「いえ、そんな事は! 色々ありがとうございます!」

俺は、凪咲さんにお礼をして、自分の部屋に戻った。
「とびだすアルバム」で七夏ちゃんを驚かせたいという思いはあるが、これは少し違う気がしてきた。七夏ちゃんは驚いてくれるかもしれないが、本当は喜んで貰いたい。
アルバムで七夏ちゃんが本当に喜んでくれる事が出来ないか考えを巡らせている。「本当の七夏ちゃん」を七夏ちゃんに知ってもらいたいから・・・。

しばらく「とびだす絵本」を眺めるが、良い考えが思い浮かばない。とりあえず前に進まなければならないので、凪咲さんへのアルバム制作を行う事にした。以前にトリミング編集していた七夏ちゃんの写真・・・その瞳をじっと見つめる・・・。

時崎「・・・そうかっ! もしかしたらっ!」

俺は「とびだす絵本」と「七夏ちゃんの瞳」から、ある考えを思い付いた。

時崎「うまく出来れば、七夏ちゃんが喜んでくれるかも知れないっ!」

俺は、思い付いた考えを素早くメモしておく。後はその考えたことが現実として制作、履行できるかどうかだ。思った事の半分でも実現する事は難しい。考えが暖かい間に、デジタル編集で素材を制作する。

制作作業に没頭していると、扉から音がした。

凪咲「柚樹君! ちょっといいかしら?」
時崎「はい!」

凪咲さんは少し慌てた様子だ。

凪咲「柚樹君! 七夏がまだ帰って来ないの! 何か聞いてないかしら?」
時崎「え!?」

時計を見て驚く。

時崎「もう19時半!?」
凪咲「いつもよりもちょっと、帰りが遅いから・・・」
時崎「七夏ちゃんから連絡は?」
凪咲「お昼に一度あったきり・・・」
時崎「俺、ちょっと探してきます!」
凪咲「ありがとう。柚樹君! 七夏が帰ってきたら、すぐ連絡します!」
時崎「お願いします! こっちも何かあったら連絡しますので!」

凪咲さんに俺の連絡先のメモを渡した。

凪咲「はい。ありがとうございます」

俺は急いで出かける準備をして、民宿風水を後にする。辺りは暗くなりかけて、少し不安な気持ちになりつつも、足を急がせた。

第二十二幕 完

----------

次回予告

虹は光が無ければ存在できないと思っていた。

次回、翠碧色の虹、第二十三幕

「光りなくとも輝く虹」

七色が色を特定しないのなら、光の無い虹という存在があっても不思議ではない。

幕間十七:真実はいつもひとつ…も放送されない!?

幕間十七:真実はいつもひとつ…も放送されない!?

心桜「つっちゃー! 今回もお疲れ~!」
七夏「お疲れ様です☆ ここちゃー! はい☆ 冷茶どうぞです☆」
心桜「ありがとー、つっちゃー!」
七夏「~♪」
心桜「んー、おいしー!! やっぱ休み期間は、のんびり出来て幸せ~」
七夏「はい☆ のんびりは、とっても心地よいです♪」

TV放送「---夏休みに入って、子供達は、おおはしゃぎです---」

心桜「そう言えば、今は『おおはしゃぎ』かもだけど、休みの終わりが近づくにつれて廃人に・・・」
七夏「え!? でも、その頃には『学校が始まって、友達に会えて嬉しい』とか話してたりしているのを、見たことがあります☆」
心桜「つっちゃー、それ、ホントにそう思ってる?」
七夏「え?」
心桜「あのインタビュー・・・あっ、インタビューの意味は、分かるよね?」
七夏「はい!」
心桜「あのインタビュー・・・あたしン家に来ないかなー・・・って言うか、あたしントコに来いっ!!!」
七夏「ひゃっ☆ どしたの!? ここちゃー?」
心桜「あたしなら『あー学校メンドイ、授業ダルイ~・・・夏休み終わって切ない~』って答えるね!」
七夏「こ、ここちゃ~!!」
心桜「んで、あたしの心のこもった本音コメントは、例外なくカットされて、放送される事はないっ!」
七夏「それは、放送できなさそうですね」
心桜「でしょ!? あたしからすると『なんで?』って思うわけさ。つまり、この事からもTV放送は、事実を捻じ曲げて都合よく放送しているって事なんだよ」
七夏「問題を残しそうな放送は、控えているのではないのかな?」
心桜「ん!? あたしの本音が問題なの!? あたしは『学校メンドイ~』とか言っても、ちゃんと学校へ通うし、授業も受けるよ! ここまで含めての本音ってわけ。誤解しないようにねっ!」
七夏「はい☆ もちろん、ここちゃーの考えは分かってます☆」
心桜「ありがと、つっちゃー! TV放送では『外面用コメント』しか放送されていない。学校へ行きたいと思う人も居るだろうけど、その逆の人もいるはず。その逆の方のコメントはTV放送で見た事が無い。そこが引っかかるんだよねー。あたしは平等にみんなの意見を取り扱ってほしいだけなんだよ」
七夏「そうなると、いいなって思います☆」
心桜「ま、TV放送の多くは真実を放送してんだろうけどねっ! みんなはどう思う?」
七夏「逆に訊くの?」
心桜「っそ! たまにはねっ!!」
七夏「くすっ☆」
心桜「あー、テレビで遊園地の白熊が、氷を受け取っている話題が放送され続けないかなー」
七夏「え!? ここちゃー、白熊さん好きなの!?」
心桜「いや、別に・・・あ、白熊氷アイスは好きかな?」
七夏「くすっ☆ じゃあ、どおして白熊さんをテレビで見たいの?」
心桜「その白熊ネタが放送されてるって事は、特に大きな話題は無い・・・つまり世の中が平和って事になるからねっ!」
七夏「なるほど☆」
心桜「あの白熊の映像・・・過去に撮影した映像を使いまわしていたりして・・・」
七夏「???」
心桜「世の中が平和なのは歓迎だけど、白熊も今年撮影した分で真実を放送してほしいところですなー」
七夏「さすがに・・・きっと、そうだと思います☆」
心桜「なんか、ちょっとしゃべり過ぎたかなー」
七夏「ここちゃー、白熊氷アイスでいいかな?」
心桜「え!? あるの?」
七夏「はい☆ 持ってきますから、ここちゃーと半分ずつ・・・で、いいかな♪」
心桜「わぁ! ありがと! つっちゃー!」
七夏「~♪」

 ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆

心桜「白熊氷アイスってさぁ。割と色々な種類があるよね?」
七夏「はい☆」
心桜「黒熊氷アイスは無いのかなぁ?」
七夏「え!?」
心桜「だってさ。白熊ばかり取り上げられて黒熊も主張していいんじゃないかなーって」
七夏「でも、黒いアイスって・・・」
心桜「イカ墨使えばいいんじゃない?」
七夏「そういう事ではなくて・・・その・・・」
心桜「何?」
七夏「えっと、見た目・・・」
心桜「ええー黒だよ! 黒! 魅惑の黒っ!!!」
七夏「魅惑!?」
心桜「笹夜先輩の黒髪っ!」
七夏「あ♪ 素敵です☆」
心桜「でしょ!?」
七夏「はい☆」
心桜「んで、その魅惑の笹夜先輩はっ!・・・って振り返ってみたけど居ない・・・」
七夏「今日は笹夜先輩、所用があるそうです」
心桜「そっか。残念! でも、魅惑の黒髪アイスは是非食べてみたいね~」
七夏「あれ? 黒熊じゃなくて黒髪なの!?」
心桜「どっちかって言うと、黒髪の方がいいかなーって、なんとなく」
七夏「黒髪アイス・・・」
心桜「あ、念の為に釘刺しとくけど、黒髪は入ってないからねっ! あくまでもイメージのお話ですっ!」
七夏「はい☆」
心桜「あれ? つっちゃー真面目に考えてるのかなーって思ってたんだけど」
七夏「白熊さんアイスに、白熊さんが入っている訳ではありませんから♪」
心桜「んー、そうなんだけど、だったら、何で考え込んでたの?」
七夏「えっと、黒熊アイスが、イカさんの墨なら、黒髪アイスは黒蜜かなぁーって♪」
心桜「おぉー! そう来たか!」
七夏「くすっ☆ 今度、アイスに黒蜜を添えてみますか?」
心桜「いいねー!」
七夏「では、笹夜先輩が来られる時までに、考えておきますね♪」
心桜「ありがとー! つっちゃー! これで、黒熊も一応納得かな?」
七夏「え!?」
心桜「やっぱり、片方だけ話題にするのは、不公平だからねっ!」
七夏「はい☆」
心桜「そろそろ、あたしも本編に登場できないのかなぁ?」
七夏「えっと・・・私からお願いしておきますね♪」
心桜「え!? つっちゃー、そんな事できるの!?」
七夏「お願いじゃなくて、お祈りでした☆」
心桜「あははっ! さて皆さん! 今回もつっちゃーが頑張ってた『翠碧色の虹』本編はこちら!」
心桜「http://nanatsuiro.my.coocan.jp/nnt_frma_a.htm」
心桜「つっちゃー、今後も頑張るんだよ! あたしも本編に殴り込めるように頑張るから!」
七夏「え!? 普通に登場がいいな☆」
心桜「冗談だって! んで、あたしたち『ココナッツ』宛てのお便りはこちら!」
心桜「http://nanatsuiro.my.coocan.jp/nnt_suiheki_novel.htm#QUESTIONNAIRE」
七夏「ここちゃー、頼りにしてます☆」
心桜「任せて! 定期宣伝は、とっても大切な事だからね!」
七夏「くすっ☆」

幕間十七 完

------------

幕間十七 をお読みくださり、ありがとうございました!
本編の方も鋭意制作中ですので、どうぞよろしくお願い申しあげます!

第二十三幕:光りなくとも輝く虹

第二十三幕:光りなくとも輝く虹

<<凪咲「柚樹君! 七夏が帰って来ないの! 何か聞いてないかしら?」>>

七夏ちゃんの帰りが遅いと凪咲さんが心配している。俺は七夏ちゃんを探しに民宿風水を後にする。

七夏ちゃんは学校の図書室・・・は、もう閉まっているかな。学校までの途中、書店、喫茶店、雑貨屋、写真屋・・・と、今まで七夏ちゃんと一緒に出かけたことのある場所を貫くように見て回る。書店の小説コーナーは、特に入念に探してみたけど居ないようだ。七夏ちゃんが携帯端末を持っていれば、すぐに連絡が付くのだが・・・そうだ! 七夏ちゃんのMyPad宛てにもメッセージを送っておこう。WiFiなので届かないかも知れないけど・・・。商店街を一通り小走ってみたが、見つからない。俺は一旦民宿風水へ連絡する。

凪咲「お電話、ありがとうございます! 民宿風水です!」
時崎「あ、凪咲さん! 時崎です!」
凪咲「あ、柚樹君! 七夏、見つかりました?」
時崎「いえ、すみません。心当たりのある場所を探してはみたんですが・・・」
凪咲「いえいえ。こちらこそ、ご迷惑をおかけしてしまって・・・」

七夏ちゃんは、まだ風水には帰っていないようだ。

時崎「俺、もう少し探してみます!」
凪咲「ありがとうございます」

この商店街に居ないとなると、駅前の大きな商店街か、学校か・・・もしかすると・・・。

時崎「・・・居ない・・・か・・・」

俺は、七夏ちゃんと初めて出逢った場所まで来た。辺りは、かなり暗く、光の残っている空を見ると、遠くの山とバス停がシルエットのように浮かび上がるのを見て、少し寒気を覚える。俺は、更に学校の方へ急ぐ。学校までの道のりに居なかったら、心当たりがなくなってしまう。焦る気持ちに足が追いつかなくなりそうだ。次第に早くなってゆく足音と荒くなる息に混じって自分以外の音が割り込んできた。

「ギギギ・・・」

時崎「!?」

俺は、足を止めて、音のした方に意識を送る。

「ギギギギ・・・カシャカシャ・・・」

時崎「この音は!?」

少し遠くから聞こえてくる機械的な音・・・。俺はその音のする方へ足を進める。

「カシシュワーシュワー・・・」

更に音が大きく、はっきりとしてきた。

??「だめだ!」
??「えっと、こう・・・かな?」

機械音に混ざって、会話が聞こえてきた。その声の中に聞き覚えのある声!!! 俺は声のする場所へと急ぐ。

時崎「七夏ちゃんっ!!!」
七夏「!!! ゆ、柚樹さん!?」

角を曲がった先、外灯が照らす小さな公園前・・・七夏ちゃんが居たことに安心したが、見知らぬ男の人も居る事に一瞬の安心が吹き飛ぶ。

時崎「七夏ちゃん!! 大丈夫!?」
七夏「え!? はい。大丈夫です」

七夏ちゃんが、こちらに駆け寄ってきた。その様子から、少し冷静になる。見知らぬ男の人も、こちらに声をかけてきた。

男性「すみません。彼女さんのお知り合いの方ですか?」
時崎「え!? あ、はい・・・一応」
男性「自転車のチェーンが外れてしまって・・・」
七夏「えっと、困ってたみたいで、私、なんとかならないかなって」

男の人が自転車のトラブルに見舞われ、困っている所に、七夏ちゃんが通りかかって声を掛けたらしい。それを聞いて、ようやく俺は本当の安心を実感した。凪咲さんにも七夏ちゃんの無事を連絡しておく。

時崎「七夏ちゃん、帰りが遅いから心配したよ」
七夏「えっと、ごめんなさい」
男性「引き止めてしまって、すみません」
時崎「あ、いえ。ちょっと自転車を見せてもらっていいですか?」
男性「はい。ありがとうございます」
時崎「七夏ちゃん、この辺りを照らしてくれるかな?」
七夏「はい」

七夏ちゃんの照らしてくれる小型の懐中電灯の灯りを頼りに、自転車のチェーンをかけなおす。

時崎「・・・よし! これで上手くかかったかな?」

ところが、少しペダルを回すと、再びチェーンが外れてしまった。

時崎「あっ!」
男性「やっぱり、だめか!」
七夏「すぐに外れてしまうみたいなのです」
時崎「これは、変速機の故障かな?」

今の様子から、リヤ側の変速機に不調があるように思えた。変速機をよく見ると、繋がっているワイヤーと固定ボルトの辺りに原因があるようだ。

時崎「ここのボルトを調整すれば、なんとかなるかな?」
七夏「え!?」
時崎「まず、変速機をトップにして・・・六角ボルトをしっかりと回せるもの・・・」

写真機のメンテナンス用に小道具を持っていたので、その中から小型のラジオペンチで固定用のボルトを一度緩めて、ワイヤーを引っ張る。

時崎「七夏ちゃん、この方向から照らしてくれるかな?」
七夏「はい!」

七夏ちゃんからの光に照らされたワイヤーをよく見ると、本来固定されていた所が潰れて平たくなっていたので、その場所が固定用ボルトの位置にくるように調整して、ボルトを固定しなおす。あとは、さっきみたいにチェーンを掛け直す。

時崎「これで、大丈夫かな・・・」

少しペダルを回してみる。

男性「おお、凄い! チェーンが勝手に外れなくなった!」
時崎「あ、いえ」
七夏「柚樹さん、凄いです! あんなに苦労したのに・・・」
時崎「ただ、応急処置ですので、自転車屋さんに調整をご依頼ください」
男性「ありがとうございます!」
時崎「あと、変速はしないでください。チェーンが外れてしまうかも知れませんので」
男性「はい。分かりました」
時崎「ちょっと上り坂は辛いかも知れませんけど」
男性「いえ。その時は押してゆきますので」
時崎「はい。お気をつけて! 七夏ちゃん、急いで帰ろう! 凪咲さんも心配してるから!」
七夏「はい!」
時崎「それでは、ちょっと急ぎますので、これで失礼します」
男性「どうもありがとうございました。彼女さんもありがとう!」
七夏「え!? は、はい!」
時崎「七夏ちゃん!?」
七夏「・・・・・彼女・・・さん」
時崎「え!?」
七夏「い、いえ! 何でもないです!」

俺は風水へと急ぐ。七夏ちゃんは少し後ろを付いてくる形となる。少し歩いた所で七夏ちゃんが声を掛けてきた。

七夏「柚樹さん。はい☆」
時崎「え!?」

振り返ると七夏ちゃんは、ハンカチを差し出してくれていた。

七夏「えっと、手の油・・・」
時崎「あ、ああ。ありがとう」
七夏「柚樹さんが来てくれて、良かったです☆」
時崎「七夏ちゃん、帰りが遅くなる時は---」
七夏「はい。ごめんなさいです」

言い切る前に謝ってきた。

時崎「七夏ちゃんは人助けをしていたから、謝らなくてもいいけど」
七夏「すみません。でも、柚樹さん色々と詳しくて頼りになります!」
時崎「今回の場合は、スプロケットのトップギヤより外側にチェーンが移動して外れてたみたいだから・・・以前に自分も同じ事があってね」
七夏「すぷろけっと?」
時崎「え!? ああ、後ろの歯車の事」
七夏「歯車・・・はい! 分かります☆」
時崎「七夏ちゃんって、英語、苦手だったりする!?」
七夏「え!? えっと・・・はい・・・」
時崎「やっぱり・・・なんとなくそう思ってたけど」
七夏「うぅ・・・私、なかなか英語の言葉が覚えられなくて」
時崎「そうなんだ。ま、得意不得意はあるからね」
七夏「昔、国外のお客様がお泊りに来られて、それで英語でたくさん話しかけられて、私、全然分からなくて・・・」
時崎「それは、大変だね」
七夏「その時は、お母さんがなんとか伝えてくれたんですけど、私、それからそのお客様と話す事が怖くて、結局何も話せないままになってしまったのです」
時崎「なるほど」
七夏「だから、英語が怖くて避けるようになっちゃって」
時崎「そうか・・・」
七夏「あ、柚樹さん、足元に気をつけてください!」
時崎「え!? ああ、段差か!」
七夏「はい」

俺は、思った。

時崎「でも、『セブンリーフ』って英語じゃない?」
七夏「はいっ☆ ここちゃーが、そんな私の為に教えてくれました☆」

-----当時の回想------

心桜「つっちゃー!」
七夏「なぁに? ここちゃー」
心桜「あたし、いいの見つけたよ!」
七夏「え!?」
心桜「これ!」
七夏「あ、可愛い☆」
心桜「セブンリーフ!」
七夏「せぶんりーふ?」
心桜「っそ! ななつの葉!」
七夏「え!? わたし?」
心桜「つっちゃーの為にあるような気がして!」
七夏「くすっ☆」
心桜「最近できたブランドみたいだけど、これから色々な商品展開があるんだって!」
七夏「そうなの?」
心桜「という事で、このセブンリーフのノートをつっちゃーにあげる!」
七夏「え!? いいの?」
心桜「ふたつ買ったから、お揃いだよ!」
七夏「わぁ☆ ありがとです!」

----------------

七夏「それから、色々と『セブンリーフ』を集めるようになって♪」
時崎「そうだったんだ」

俺は時計を見る・・・。

時崎「20時半・・・」
七夏「え!? もうそんな時間なのですか!?」

いつもは、遅くなる時は連絡しているようだけど、今回の場合は七夏ちゃんも時間経過の感覚を見失っていたようだ。俺と七夏ちゃんは民宿風水へ急いだ。

 ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆

時崎「ただいま!」
七夏「・・・・・ただいま」
凪咲「七夏! 心配したわ!」
七夏「ごめんなさい!」
凪咲「良かった! ナオには連絡しておいたから!」
七夏「・・・はい」

七夏ちゃんのお父さんも、帰りに七夏ちゃんを探していたようだ。

凪咲「七夏、帰りが遅くなる時は---」
時崎「凪咲さん! 七夏ちゃんは、困っている人を助けてて」
凪咲「え!?」

俺は、事の顛末を凪咲さんに説明した。

時崎「・・・という事です」
凪咲「そうなの・・・でも、連絡はしてくれないと」
七夏「ごめんなさい!」
凪咲「柚樹君、ありがとう。いつも助けていただいてばかりで」
時崎「いえ、七夏ちゃん。見つかって良かったです」

その後、七夏ちゃんは夕食を早々に切り上げて、部屋に戻ったようだ。今日は色々な事があって、七夏ちゃんも疲れているのだろう。俺も、自分の部屋に戻って、今日撮影した写真の確認とアルバム制作の続きを行う事にした。

 ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆

どのくらいの時間が経過したのだろうか・・・トントンと扉が鳴る。

七夏「柚樹さん」
時崎「七夏ちゃん!?」

俺は、扉を開けた。

七夏「こんばんはです☆ 柚樹さん、まだ起きているのですか?」
時崎「え!?」

時計を見ると日付が変わりかけていた。

時崎「もうこんな時間なのか・・・」
七夏「くすっ☆」

七夏ちゃんから、いい香りが広がってくる。

時崎「七夏ちゃんも、今日は夜更かしさんみたいだね」
七夏「はい☆ 今日の分の宿題を済ませて、今お風呂に入ってきたところです☆」
時崎「なるほど。今日の午前中は学校だったからかな?」
七夏「はい☆ えっと、MyPadのメッセージを見ました♪」
時崎「ああ・・・今となっては意味がないけど」
七夏「意味はあります! 今とっても嬉しい気持ちです☆」
時崎「そ、そう?」
七夏「はい☆ えっと、今日は色々とありがとうです☆」

七夏ちゃんは間違っていない。人として正しい行動をしただけだから。

時崎「気にしなくていいよ。でも、あまり凪咲さんに心配を掛けないようにね」
七夏「はい。気をつけます☆ お父さんにも、さっき同じ事を言われました」
時崎「あはは」

七夏「私は、これでお休みしますね☆ 柚樹さんも、あまり夜更かしさんにならないように、お気をつけくださいね☆」
時崎「ああ、もう少ししたら休むよ」
七夏「はい☆ では、おやすみなさいませ」
時崎「おやすみ。あっ! 七夏ちゃん!」
七夏「はい!?」

部屋に戻りかけた七夏ちゃんを、呼び止めた。

時崎「七夏ちゃん!」
七夏「え!?」
時崎「明日は時間あるかな? 午前中は宿題かな?」
七夏「えっと、明日は土曜日ですので、宿題はお休みです♪」
時崎「そっか。土曜と日曜は宿題お休みだったね。時間はあるかな?」
七夏「はい☆ いつもよりはあります♪」
時崎「もしよかったら、凪咲さんへのアルバム作りで協力してもらえないかな?」
七夏「はい♪ もちろんです☆」
時崎「ありがとう。じゃ、明日、声をかけるよ」
七夏「はい☆」
時崎「ごめんね。呼び止めちゃって」
七夏「いえ。それでは、おやすみなさいです☆」
時崎「ああ。おやすみ、七夏ちゃん!」
七夏「はい☆」

七夏ちゃん、今日は俺に探させた事からか、声を掛けてくれたのかも知れないけど、普段からわりと声を掛けてくれている事に気付く。民宿ってそういうものなのかも知れないけど、人によっては・・・いや、そういう場合は旅館にすればいいだけか。とにかく、俺は七夏ちゃんが声を掛けてくれる事は嬉しく思う。そう言えば、今日、七夏ちゃんと一緒に風水へ帰る夜道、心なしか七夏ちゃんの瞳が明るく輝いているように見えた。暗闇で猫の目が明るく光って見えるイメージだろうか・・・猫の目ほど明るくは無かったけど、とても綺麗な翠碧色の瞳だった。そう言えば、暗闇では七夏ちゃんの瞳の色が大きく変わることは無かったように思える。

<<七夏「あ、柚樹さん、足元に気をつけてください!」>>
<<時崎「え!? ああ、段差か!」>>

俺は暗くて段差が全く見えていなかったけど、七夏ちゃんには見えていた事から、暗闇での物の認識力は俺よりありそうだ。

<<時崎「20時半・・・」>>
<<七夏「え!? もうそんな時間なのですか!?」>>

これも、人よりも周囲が明るく感覚されているとしたら、不思議な事ではない。
七夏ちゃんの瞳が「光が無くても輝ける」のだとしたら・・・俺は、今頃になって改めて「ふたつの虹」の魅力に引き込まれてゆく。その持ち主である七夏ちゃんには、やっぱり本当の虹を届けてあげたいと思う。それが、今回の撮影旅行の一番の目的になっている事に間違いは無いだろう。凪咲さんへのアルバム作りと並走しながらアルバム制作を進めてゆきたい。
今日、撮影した七夏ちゃんの写真は笑顔だ。この笑顔が本当に写真であってほしい。いつか「ふたつの虹」が写真となるように、俺がするべき事は・・・。
明後日は七夏ちゃんのお父さんが運転士となって、蒸気機関車を運転するイベントがある。一応、当日の予定とか段取りを凪咲さんに聞いておくほうがいいだろう。現地の場所は地図で確認している。列車で一駅の場所だ。この街の事はある程度分かってきたけど、旅費の節約もあってあまり遠出はしていない。現状、凪咲さんのご好意に甘えており、七夏ちゃんの写真をたくさん撮るという目的があるから、俺単独での行動はなるべく節約しなければならない。地図でしか場所を確認しなかったのも、そのような理由があるからだ。

時崎「蒸気機関車・・・か」

俺は、それほど鉄道には詳しくは無いけど、蒸気機関車は分かる。イメージとしては黒くて複雑な形・・・煙突があって煙を出しながら走る、今の列車から見ると異型な姿だ。以前に、七夏ちゃんと一緒に楽しんだ鉄道模型の蒸気機関車を見ていたので、そのイメージなら、はっきりと出来ている。模型の蒸気機関車は電気で走るので煙は出なかったけど、小さいながらも、なかなかの迫力があった。あの時、七夏ちゃんが手を添えてくれた事が蒸気機関車の模型と強く結びついてしまっている。またあの時の感覚を楽しめたらいいなと思うのは、よくばりな事なのだろうか?
七夏ちゃんが、お父さんの蒸気機関車の模型を誤って壊してしまったお話があったな。俺は、壊れた物は直せる場合は直して使う考え方だったけど、直さないで思い出とする考え方もあるんだなと、あの時は思ったりした。
七夏ちゃんと出逢ってから本当に色々と、考え方が変わってきている。七夏ちゃんの瞳の色が変わるように、俺もまだまだ変わってゆくのだろうか。

時崎「・・・おやすみ。七夏ちゃん」

俺は、MyPadに写っている「昨日の七夏ちゃん」に挨拶をして、今日一日を閉じた。

第二十三幕 完

----------

次回予告

虹は半透明で輪郭もはっきりせず、ふわっとしている。俺はそんな虹をのんびりと眺めたいと思っていた。

次回、翠碧色の虹、第二十四幕

「のんびりさんの虹」

「ふたつの虹」を持つ七夏ちゃんは、虹以上にのんびりさんだと思っていたけど、それは俺の勝手な思い込みに過ぎないのかも知れない。

幕間十八:ホットドッグって熱い犬!?

幕間十八:ホットドッグって熱い犬!?

心桜「つっちゃー!」
七夏「はーい☆」
心桜「おっ! 居た居た!」
七夏「どしたの? 前から居ますけど・・・」
心桜「いや、なんでもないっ!」
七夏「くすっ☆」
心桜「さて、今日のお昼は『ホットドッグ』!!!・・・つまり、熱い犬!!!」
七夏「え!?」
心桜「この前さー、やたらと吼えてくる『吼えまくり犬』と遭遇したんだ」
七夏「そうなの!?」
心桜「んでさー、『そう熱くなんなヨ』って思った時に、もしかしてコイツが真の『ホットドッグ』とか思ったら・・・ククッ! ・・・ってなって、急にどうでもよくなった」
七夏「それって『ホットドッグと冷めた私』!?」
心桜「え!? 何それ?」
七夏「えっと、小説・・・」
心桜「あ、そんな小説あんの?」
七夏「はい☆」※原作者注意:実際はありません・・・多分
心桜「どんなお話?」
七夏「えっと、心が冷めてしまった主人公さんに、子犬さんが家族になって---」
笹夜「こんにちわ♪」
七夏「あ、笹夜先輩! こんにちわです♪」
心桜「こんにちは~! 笹夜先輩!」
笹夜「はい♪ こんにちは♪ 何をお話していたのかしら?」
心桜「えっとですね・・・なんでこれ『ホットドッグ』って、いうんだろうねって」
笹夜「ホットドッグ・・・直訳すると『熱い犬』かしら?」
心桜「やっぱ、笹夜先輩でも、そう解釈されますよねー」
七夏「くすっ☆」
心桜「犬界の松岡正三って感じかな☆」
笹夜「まあ!」
心桜「この番組は、選挙戦の時『だけ』熱い犬界議員の提供で、お送りいたしました!」
七夏「何のお話です?」
笹夜「他には、ソーセージを挟んだ見た目が、ドックにある船のように見えるから、という言われもあったと思います」
心桜「そうなんですか?」
笹夜「ええ。でも、その場合の『ドック』のスペルは『dock』なので、犬にはなりません」
心桜「犬は『ドッグ』で、スペルは『dog』ですよね?」
笹夜「そうですね。でも『ホットドッグ』は『ドッグ』みたいですから、やはり直訳しますと」
心桜「熱い犬・・・つっちゃー!」
七夏「は、はい!?」
心桜「大丈夫!?」
七夏「え!?」
心桜「つっちゃーが置いてきぼりになってないかなーって」
七夏「あ、大丈夫です♪」
笹夜「~♪」
心桜「? 笹夜先輩!? どうかしましたか?」
笹夜「いえ♪ なんでもありません♪」
心桜「熱い犬・・・つまり、犬は熱い内に食え!!! って、事で頂きまーす!!!」
七夏「くすっ☆」
心桜「う・・・」
七夏「どしたの?」
心桜「冷めてるっ!」
笹夜「あらまあ・・・」
心桜「もー、あたしたちが熱くなってる間に、肝心のホットドッグは冷めてしまったじゃあーりませんかっ! もう、ホットドッグじゃないよコレ・・・コールドッグか!?」
笹夜「コールドッグ?」
心桜「犬が呼ぶっ!?」
笹夜「コールドドッグかしら?」
七夏「ここちゃー、それ、温めます?」
心桜「そだね!このままだと冷め続けて凍るドック一直線・・・熱くなりたいからお願いっ!」
七夏「はい☆」

---七夏ちゃんは、ホッドドッグを台所のオーブンへ持ってゆく---

笹夜「七夏ちゃん流石です!」
心桜「まあ、つっちゃーとは、それなりに付き合い長いからねー・・・って、すみません」
笹夜「いえいえ。心桜さんの気配りが出来てる所・・・私も見習わなくては」
心桜「気配りなんてしてるつもりは無いんですけど・・・なんか照れるよ」
笹夜「してるつもりは無い気配り・・・本当は、それが大切な事なのです♪」
心桜「もう、いいですってばっ!」
笹夜「私は、せいぜい意識した気配りしかできてませんので・・・」
心桜「そんな事はないですよ」
笹夜「・・・だと、いいのですけど」
心桜「笹夜先輩は、咄嗟な気配りが出来てます。これって意識してないって事じゃないですか?」
笹夜「まあ! ありがとう。心桜さん♪」
七夏「ここちゃー☆ どうぞ♪」
心桜「ありがとー、つっちゃー!」
七夏「笹夜先輩も、どうぞです♪」
笹夜「まあ! ホットサンド!」
七夏「はい☆」
心桜「んじゃ、いっただっきまー・・・ん?」
七夏「どしたの? ここちゃー?」
心桜「こ、ここ、このホッドドッグ、既に齧られてる!! 犯人はきっと熱い犬だなっ!!何処だ!!」
七夏「その歯型、熱い犬じゃなくて、熱いここちゃーです!」
笹夜「犬なら犯人ではなく犯犬かしら!?」
心桜「うぅ・・・ツッコミのダブルス来たー!!!」
七夏「くすっ☆」
心桜「つっちゃー、頑張るんだよ!」
七夏「はい☆ 私、英語頑張ります!」
心桜「え!? 英語!? あ・・・そうだねー英語もねー」
笹夜「心桜さん? どうかしたのかしら?」
心桜「いえ! これからも、つっちゃーが頑張る予定の『翠碧色の虹』本編はこちら!」
心桜「http://nanatsuiro.my.coocan.jp/nnt_frma_a.htm」
心桜「つっちゃー! 英語もだけど、こっちも頑張るんだよ!」
七夏「はい☆」
心桜「そして、あたしも頑張る『ココナッツ』宛てのお便りはこちら!」
心桜「http://nanatsuiro.my.coocan.jp/nnt_suiheki_novel.htm#QUESTIONNAIRE」
七夏「ここちゃーも頑張って☆」
心桜「もちろん! 定期宣伝『だけ』は頑張るよ!」
笹夜「定期宣伝だけって、心桜さん・・・」
心桜「あははっ! 冗談だってば!」

幕間十八 完

------------

幕間十八 をお読みくださり、ありがとうございました!
本編の方も鋭意制作中ですので、どうぞよろしくお願い申しあげます!

第二十四幕:のんびりさんの虹

第二十四幕:のんびりさんの虹

民宿風水で何度目かになる朝・・・聞き慣れた声に目が覚めてくる。

七夏「・・さん! これ!」
直弥「ああ。すまない。ありがとう、七夏」
七夏「くすっ☆」
直弥「よし! いよいよ明日だな!」
凪咲「そうね!」
直弥「そういえば、お客さん・・・時崎君は・・・」
七夏「えっと、柚樹さんは昨日、夜更かしさんだったみたい・・・」
直弥「そうか」
七夏「くすっ☆ 私から、お話しておきますので☆」
直弥「すまない、よろしく頼むよ」
凪咲「あなた、お気をつけて!」
七夏「お父さん! いってらっしゃいです☆」
凪咲「七夏、そろそろ柚樹君も起きてるかしら?」
七夏「私、おはようです☆ してきます♪」

何か会話が聞こえるが、その内容までは分からない。けど、トットットッという音が大きくなってくるのは分かった。次いでトントンと扉が鳴る。

時崎「七夏ちゃん! おはよう!」
七夏「え!? 柚樹さん?」

俺は、七夏ちゃんから呼ばれるよりも先に声を掛けて、扉を開けた。

時崎「おはよう! 七夏ちゃん、さっきも言ったけど」
七夏「くすっ☆ おはようございます☆」

昨夜も同じような事があったが、寝巻き姿だった七夏ちゃんは、見慣れた風水の浴衣姿になっている。

時崎「なんか、安心する」
七夏「え!?」
時崎「七夏ちゃんの浴衣姿」
七夏「あっ! えっと、ありがとです☆」
時崎「わざわざ、起こしに来てくれてありがとう!」
七夏「はい☆ 朝食、出来てます☆」
時崎「わかった、顔を洗ってくるよ」
七夏「はい☆」

七夏ちゃんと、朝食を頂く。俺が来るのを待ってくれていたと思うと、嬉しい反面、もっとしっかりとしなければと思うけど、七夏ちゃんが起こしに来てくれるのは嬉しいから、複雑な気分だ。

七夏「? 柚樹さん? どうかしましたか?」
時崎「え!? あ、いや・・・」
七夏「おかわりありますので♪」
時崎「ありがとう」
七夏「はい☆」

昨日とは違って、俺が知っている「いつもの七夏ちゃん」だ。のんびりとしている七夏ちゃんに合わせて、俺もゆっくりと朝食を楽しんだ。

時崎「ごちそうさまでした」
七夏「ごちそうさまです☆ 柚樹さん、後で少しお話があるのですけど・・・」
時崎「お話?」
七夏「えっと、明日の事で」
時崎「ああ、蒸気機関車のイベントかな?」
七夏「はい☆」
時崎「俺も、昨日話したけど、アルバムの件でいいかな?」
七夏「はい☆ では、後で柚樹さんのお部屋に伺いますね☆」
時崎「ああ。よろしく」

お片づけを始めた七夏ちゃん・・・俺も手伝うと申し出たが「いつもの事ですので☆」と言われてしまった。俺が手伝うとかえって邪魔になりかねないと思ったので、部屋に戻る事にした。
自分の部屋に戻り、敷かれたままのお布団を畳む。身の回りの事も少しは自発的に行わなければならないな。

MyPadを開く。ロックを解除すると「昨日の七夏ちゃん」と目が合った。

時崎「この写真、後で七夏ちゃんのMyPadにも送ってあげよう!」

「昨日の七夏ちゃん」の後ろに、昨夜調べて残っていた蒸気機関車イベントのページが現われたので確認をする。それ程、派手なイベントではないみたいだが、鉄道好きの人や、小さなお子様も一緒に家族で楽しめるような内容だ。その中でも「C11蒸気機関車 動体展示」というのが、七夏ちゃんのお父さんと関係があるのだと思う。蒸気機関車と七夏ちゃん、直弥さん、そして凪咲さんも一緒に撮影できれば良いのだけど、それって難しいのだろうか? 当日の状況次第かも知れないけど、できれば実現させたい。イベントのスケジュールと、イベント会場内の地図を頭に叩き込んでおく。

七夏「柚樹さん!」

扉の方から声がした。

時崎「七夏ちゃん! どうぞ!」
七夏「こんにちわです☆」
凪咲「柚樹君、私もいいかしら?」
時崎「凪咲さん!? ええ。勿論かまいません」
凪咲「失礼いたします」

凪咲さんはそう言いながら、お布団を運び始める。

時崎「あ、すみません。俺も手伝います!」
凪咲「ありがとう」

俺は敷布団を持って、凪咲さんのあとについて行く。

凪咲「ここでいいわ。ありがとう。柚樹君」
時崎「いえ」
凪咲「七夏から、明日の事でお話があると思いますので」
時崎「はい。では!」

部屋に戻ると、七夏ちゃんが机を拭いてくれていた。

時崎「ごめんね。七夏ちゃん。散らかってて」
七夏「くすっ☆ この机を見ると、なんだか楽しそうに思えます☆」
時崎「そう? だといいんだけど」
七夏「えっと、明日の事で---」

七夏ちゃんから、明日の行動予定を聞き、確認しておく。七夏ちゃんのお父さんの蒸気機関車展示イベントは午前中は10時、午後は2時に行われるらしい。七夏ちゃんたちは午前中の10時のイベント参加で、その後、お父さんとお昼を一緒して、そのまま午後からは風水に戻るそうだ。という事は、蒸気機関車と七夏ちゃん、凪咲さん、直弥さんを一緒に撮影する機会は一度しかない。ちょっと気合を入れなければ!

時崎「午後からは帰るの?」
七夏「はい☆ イベントは同じ事を繰り返して行うみたいですので☆」
凪咲「ナオ・・・主人が少しでも、多くのお客様に楽しんで貰える様にって話してましたから」
時崎「あ、凪咲さん!」
七夏「私たちが2度も座席を塞ぐのは・・・って事です☆」
時崎「座席を塞ぐ!?」
七夏「当日、お父さんが運転する列車に乗れます!」
時崎「え!? そうなの!?」
七夏「はい☆ あ、でも、少しの距離だけみたいですけど」
凪咲「私も驚いたのですけど」
時崎「それって・・・大丈夫なのですか?」
凪咲「ええ! 主人の話では---」

七夏ちゃんのお父さん、直弥さんは、運転士にはなれない目の適性だという事を以前に聞いた。だけど、展示会で、一時的に列車を運転する事は、条件付きで可能らしい。その条件とは、機関区内の範囲、訓練線や保守線等である事・・・。なるほど、自動車の運転免許が無くても、私有地なら運転ができるという事と同じ理屈である。遊園地にある鉄道でお客様を乗せて運転するイメージだろうか。だけど運転するのは本物の蒸気機関車だということだ。その為、長期間の研修に参加していたらしい。凪咲さんも研修と聞いていただけで、詳細は聞かされていなかった様子だ。

七夏「今までは蒸気機関車の誘導とか、回転させたりする役だったのですけど、明日は運転士さんです!」
時崎「回転!?」
七夏「はい☆」

蒸気機関車の回転とは、転車台(ターンテーブル)と呼ばれる線路が回転する場所に蒸気機関車を乗せて機関車の方向を変える事。蒸気機関車は進行方向が決まっているため、向きを変える必要があるらしい。

時崎「なるほど! なんか凄そうだね!」
凪咲「蒸気機関車の回転・・・今では、あまり見られなくなったわね・・・」
七夏「お母さん!?」
凪咲「昔、ナオがよく私を誘ってくれて『機関車が回るよ!』ってね♪ その当時、私はあまり興味は無かったけど、楽しそうなナオを見るのが嬉しくてね・・・」
七夏「くすっ☆」
凪咲「あ、ごめんなさいね。少しの距離だけど、ナオが運転士としての列車に乗車できるなんて思わなかったから」
時崎「いえいえ。俺も凄く楽しみになってきました!」
凪咲「柚樹君。明日は、改めてよろしくお願いいたしますね」
時崎「はい! こちらこそ!」
凪咲「それでは、失礼いたします」
七夏「お母さん、とても嬉しそうです♪」
時崎「七夏ちゃんもね!」
七夏「え!? そ、そうかな?」
時崎「俺は楽しみだよ!」
七夏「くすっ☆ あ、そう言えば柚樹さん! 昨日のご連絡で・・・」
時崎「連絡?」
七夏「えっと、MyPadに・・・」
時崎「ああ、メッセージの事か」
七夏「えっと、お返事の方法が分からなくて、すみません」
時崎「それは、構わないよ。お返事は昨夜に直接聞いたから! MyPadの使い方が分からなかったらいつでも訊いてくれていいからね!」
七夏「はい☆ 頼りにしてます☆ あと、アルバムのお手伝い・・・」
時崎「あ、そうだったね! じゃ、今からお願いしてもいいかな?」
七夏「はい♪」

俺は、七夏ちゃんにデジタルアルバムを見てもらいながら、コメントを考えて貰う。

七夏「えっと・・・柚樹さん?」
時崎「え!?」
七夏「これは、ここちゃーや笹夜先輩も一緒の方がいいかなって思って」
時崎「ああ、三人でお出かけした時の写真か」
七夏「はい☆」
時崎「天美さんや、高月さんも、協力してくれる事になってるから!」
七夏「え!? そうなのですか?」
時崎「天美さんと高月さんを送ってゆく時に、二人にアルバムの事を話したから」
七夏「そうだったのですね☆」
時崎「・・・だけど、よく考えると俺から直接、天美さんや高月さんに連絡を取るのは・・・そもそも連絡先を聞いてないから、それを七夏ちゃんにお願いできないかなって」
七夏「はい☆ では、私から連絡してみますね☆」
時崎「ありがとう。七夏ちゃん!」
七夏「こちらこそです♪」

一通り、七夏ちゃんにコメントをもらったので、あとはそれをMyPadへデジタル入力してゆくだけだ。

時崎「ありがとう。これから七夏ちゃんのメッセージを入力してゆくよ。天美さんと高月さんの分はまた後ほどという事で!」
七夏「はい☆」
時崎「これから撮影した分も、お願いする事になると思うけどいいかな?」
七夏「はい! もちろんです!」
時崎「ありがとう!」
七夏「私、お部屋に居ますから、何かあったらお声をかけてくださいね♪」
時崎「ああ!」
七夏「それでは、失礼いたします☆」

七夏ちゃんを見送った後、早速MyPadへコメントの入力作業を行う。それと同時に、もう一つのアルバムの事も考えながら、明日のイベントの事も頭に入れる。色々と慌しくなってきたが、とても充実してきているのを実感する。

 ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆

七夏ちゃんからのコメントを一通り入力し、全体を確認する。

時崎「あ、ここにもコメントがほしいな」

何箇所か、更にコメントがほしいと思える所がでてきたので、七夏ちゃんにお願いするため、部屋に向かう。

トントンと扉を軽く鳴らす。

時崎「七夏ちゃん! 居るかな?」
七夏「はーい☆」

扉が開き、七夏ちゃんが姿を見せた。

七夏「柚樹さん☆ お待たせです☆」
時崎「七夏ちゃん。今、大丈夫かな?」
七夏「はい☆ えっと、どうぞです☆」
時崎「ありがとう。お邪魔します」

七夏ちゃんは、MyPadを使っていたようだ。

時崎「MyPadの操作とか、分からない事ない?」
七夏「はい☆ とても便利ですね☆ 小説も沢山あって楽しいです☆」
時崎「小説・・・読んでたんだ。ごめんね」
七夏「いえ。えっと・・・」
時崎「今作ってるアルバムに追加でコメントを貰えないかなと思って」
七夏「はい☆」
時崎「それと、七夏ちゃんのMyPadにも写真を送ろうと思って」
七夏「ありがとうございます☆」
時崎「MyPad使ってるんだったら、後でもいいよ」
七夏「はい☆」

七夏ちゃんから、アルバム用にコメントを貰う。その間、改めて七夏ちゃんの部屋を見ると本棚には結構な数の本が並んでいる。小説が多いみたいだが、七夏ちゃん、これ全部読んだのだろうか? 更に本棚を眺めていると---

七夏「はい☆ 柚樹さんっコメントです☆」
時崎「ありがとう、七夏ちゃん!」
七夏「柚樹さん。何か気になる本、ありますか?」
時崎「え!? あ、いや。凄い数の本だなと思って」
七夏「くすっ☆」
時崎「逆に、七夏ちゃんがお勧めの本ってある?」
七夏「お勧めの本・・・えっと・・・」

七夏ちゃんは、本棚から一冊の本を手に取り、俺に渡してくれた。

時崎「これは!」
七夏「はい☆」
時崎「七色の虹が掛かる街!?」
七夏「柚樹さん、こういうの好きそうですので☆」

七夏ちゃんから、虹をテーマにした本を渡されるなんて思ってもいなかったので、意外だった。その本の扉絵は、街に掛かる大きくて鮮やかな七色の虹がくっきりと描かれていた。はっきりと七色に色分けされた「誇張された虹」だ。俺は迷った。この絵本の虹、七夏ちゃんにはどのように見えているのだろうか?

時崎「ありがとう」
七夏「はい☆ 絵本ですから、すぐに読めて楽しめると思います☆」
時崎「そうなの?」
七夏「はい☆ ゆっくり読んでも、30分くらいで読み終わると思いますから、ここで読んでみますか?」
時崎「じゃ、借りるのもなんだから、お言葉に甘えさせてもらうよ」
七夏「はい☆」

七夏ちゃんと、一緒に本を読む。お互いに無言の状態が続くが、落ち着かない訳ではない。しばらくすると七夏ちゃんが動く。

時崎「七夏ちゃん!?」
七夏「柚樹さん。私、お飲み物を持ってきますね☆」
時崎「ありがとう」

絵本の続きを読む。仲良しのお友達と喧嘩してしまって会わない状態が続く・・・そんな時、突然その友達が引越しする事を聞いて、なんとかしなければ・・・と。

七夏「柚樹さん、どうぞです☆」
時崎「あ、ありがとう」
七夏「くすっ☆」

さらに絵本を読み進める。友達の家に急ぐ途中で大きな虹が現われて、気がつくとその友達も一緒に虹を眺めていた。「離れかけた二人を繋ぐかのように現われた大きな虹・・・虹を見ると幸せになれる。離れ離れになっても、二人を繋いでくれる」そんな内容だった。

時崎「・・・・・」

絵本を閉じた事に気付いた七夏ちゃんが、声を掛けてきた。

七夏「読み終わりました?」
時崎「ああ。七夏ちゃん、ありがとう!」
七夏「くすっ☆ 虹を見ると幸せになれるのですよね?」
時崎「え!? ああ・・・そ、そうだね・・・」

複雑な気分だ。七夏ちゃんが虹をどんな風に思っているのか、分からなくなってきた。

七夏「私も虹を見て幸せになれるといいな☆」
時崎「・・・・・」
七夏「こんなに綺麗な七色の虹。私も見れるといいな☆」
時崎「え!?」

七色の虹・・・七夏ちゃんから「七色の虹」という言葉が出てきた!

時崎「七夏ちゃん! この絵本の虹は七色に見えるの!?」
七夏「え!? はい☆ 本当の虹もこんな風に綺麗に見えるのですよね?」

違う! 本当の虹はもっと優しくて、暖かくて、こんな嫌味なほどはっきりと色分けされた「誇張された虹」ではない!

時崎「・・・・・」
七夏「どうしたの? 柚樹さん!?」
時崎「いや、なんでもない」
七夏「・・・・・」
時崎「七夏ちゃん、虹のお話は苦手なんだよね」
七夏「え!? ・・・はい・・・」
時崎「どおして、この絵本を?」
七夏「柚樹さんは、好きですよね・・・虹」
時崎「え!? ま、まあ・・・」
七夏「他の人が好きな事を否定するのって、良くないと思います」
時崎「でも、それだと七夏ちゃんが」
七夏「私は、苦手な事でも、好きになれたらいいなって思ってます☆」
時崎「・・・・・」
七夏「柚樹さんが夢中になる綺麗な七色の虹。私も見れるといいなって思ったのは、本当の事です」
時崎「・・・七夏ちゃん・・・ありがとう。そろそろ、アルバム制作の続きを行いたいから、俺はこれで」
七夏「はい☆ また何かあったら、お声を掛けてくださいね☆」
時崎「ああ」

俺は、七夏ちゃんの部屋を後にした。「アルバム制作の続きを行いたい」というのもあるが、本当はこの場の空気に耐え切れなくなったからだ。七夏ちゃんが今までどんな想いで虹を見てきたのかは、考えるまでもないことだ。だけど、希望も見えてきた。七夏ちゃんは絵本の虹は七色に見えていると話していたからだ。
アルバムに七夏ちゃんからのメッセージを入力し、レイアウトする。次に七夏ちゃんへのアルバム制作に取り掛かる。まず「とびだすアルバム」をどうするか・・・とりあえず、素材だけは集めておく。いくつかの素材の中から候補を選び、フォルダー分けしてゆく。そして、七夏ちゃんの写真をトリミングしてゆきながら、最終的なイメージを思い描いてゆく。骨の折れる作業の為、集中して行った。

 ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆

どのくらい時間が経過しただろう。

時崎「んー、少し疲れたな・・・」

俺は、気分転換のため、一階に下りた。

七夏「あ、柚樹さん! お腹すきました?」

七夏ちゃんが声を掛けてきてくれた。

時崎「え!? あ、そう言えば」
七夏「くすっ☆ えっと、おむすびあります。良かったらどうぞです☆」
時崎「ああ。ありがとう!」

七夏ちゃんの作ってくれたおむすびを頂く。おむすびの程よい塩味は、七夏ちゃんと一緒に作った事や、拍手した事を思い出させてくれた。

七夏「柚樹さんと一緒に作れるといいな♪」
時崎「え!?」
七夏「えっと、おむすび☆」
時崎「あ、おむすび・・・そうだね」
七夏「はい☆」

この心拍数を上げてくれる七夏ちゃんの倒置法に、不意打ちされてしまう。でも、七夏ちゃんの表情はとても嬉しそうだ。このような状況を、沢山の思い出として作ってゆきたくなった・・・これからも七夏ちゃんと一緒に・・・。

七夏「??? どうしたの? 柚樹さん?」
時崎「え!? いや、なんでも。おむすび、とっても美味しいよ!」
七夏「くすっ☆ ありがとうです♪」
時崎「凪咲さんは?」
七夏「えっと、少しの間、お出掛けみたいです☆」
時崎「そう」
七夏「お母さんに何かご用ですか?」
時崎「いや、特には・・・」

・・・やっぱり、さっきとは少し違う「気まずさ」を覚えたため、俺はさっと昼食を済ませて部屋に戻る事にする。

時崎「七夏ちゃん、ごちそうさま!」
七夏「はい☆」

再び部屋に戻って、とびだすアルバムの制作作業の続きを行う。必要な素材から最終的な候補をレイアウトしてゆく。素材は印刷して使うので、なるべく無駄がないように隙間を埋めてゆく。

時崎「これを、印刷しなければならないな」

これから先も七夏ちゃんとの思い出や素材は増えてゆくと思うので、まだ現状の状態で完成させるのは早い。ただ、とびだすアルバムとして、考えたデザインが本当に上手く出来るか確認するという意味で、試作は作っておきたいと思った。俺は、写真屋さんへ出かける為に再び一階へ降りる。七夏ちゃんは、和室でのんびり過ごしているようだ。小説を読んでいるのかな?

時崎「七夏ちゃん!」
七夏「あ、柚樹さん☆」
時崎「あれ? お出掛けするの?」
七夏「いえ、そういうわけでは・・・どおして?」
時崎「七夏ちゃん、浴衣姿から着替えているみたいだから」
七夏「くすっ☆」

七夏ちゃんは青い花柄のワンピースに着替えていたので、お出掛けでもするのかと思ったのだけど、違ったみたいだ。

時崎「俺は、ちょっと出掛けてくるよ!」
七夏「はい☆」
時崎「七夏ちゃんも、一緒にどうかな? すぐお出掛けできる格好みたいだし」
七夏「えっと、ごめんなさい。お留守番・・・お母さんが帰ってくるまで」
時崎「お留守番か・・・それで、ここで本を読んでたんだね」
七夏「はい☆」
時崎「何か買ってくる物とかあるかな?」
七夏「ありがとうです☆ 今は特に大丈夫です☆」
時崎「そう、じゃ、出掛けてくるよ」
七夏「はい☆ お気をつけて」
時崎「すぐ戻るよ」
七夏「くすっ☆」

写真屋さんへと急ぐ。
MyPadでレイアウトした素材を印刷できるか相談してみる。

時崎「すみません」
店員「いらっしゃいませ。あ、申し訳ございません。写真はまだ届いていなくて」
時崎「あ、いえ。追加で現像をお願いしたいなと思いまして・・・あと、この素材をここで印刷する事って出来ますか?」
店員「現像ではなくて、プリンターでの印刷でしょうか?」
時崎「はい」
店員「でしたら、こちらのプリンターをお使いください」
時崎「ありがとうございます」

MyPadとプリンターをWiFiで接続し、素材の印刷を行った。

時崎「よし、これで早速試してみよう。すみません!」
店員「はい」
時崎「デジタルアルバムを製本するサービスについてなのですが・・・」

俺は、店員さんに、費用と必要な期間を確認しておいた。凪咲さんへ渡すアルバムは製本したアルバムにするためだ。MyPadでのデジタルアルバムデータは、七夏ちゃんにも送るつもりなので、事実上二種類の制作となる。物理的なアルバムに現像された写真をレイアウトするのも良いかもしれないな。製本依頼後に追加で撮影した写真を後から加えられる予備のページも用意されていると店員さんは話してくれた。

店員「毎度、ありがとうございました」
時崎「また、お世話になると思います」
店員「こちらこそ」

写真屋さんから風水へと急ぐ。ちょっと出掛けて印刷するだけのつもりが、結構店員さんと話し込んでしまった。デジタルアルバムを製本する期間を考えると、少し急がなければならない事も分かった。この街への滞在期間の3日前には製本依頼を行わなければならないだろう。

時崎「ただいま」

誰からも返事がなかった。いつもなら、七夏ちゃんか凪咲さんが返事をしてくれるのだが。
俺は、さっきまで七夏ちゃんが居た和室へと向かった。

時崎「ん? 七夏ちゃん!?」
七夏「・・・・・」

和室で七夏ちゃんが「うたた寝」している。とても穏やかで心地良さそうな表情に魅せられ、俺は写真を一枚撮影させてもらった。後で七夏ちゃんに撮影許可を貰い、許可が貰えなかったら写真は破棄するつもりだけど、そうならない事を祈っておこう。
七夏ちゃん、このままだと風邪をひく原因になるかも知れないので、俺は毛布を取って来る事にした。一階のお布団がある部屋へ向かうと丁度、凪咲さんがその部屋から姿を見せた。

凪咲「あら、柚樹くん。おかえりなさい。どうかなさったの?」
時崎「あ、凪咲さん。ただいま。毛布ってあります?」
凪咲「はい。こちらにありま・・・」

俺が凪咲さんに小声で話しているのを、凪咲さんは察してくれたようだ。
凪咲さんが小声で話す。

凪咲「柚樹君? どうしたのかしら?」
時崎「七夏ちゃん、和室で寝ているみたいですから」
凪咲「あら? 七夏が? しょうがないわね」

凪咲さんは和室へ向かう。

時崎「凪咲さん、起こさないであげてください。昨日夜遅くまで宿題をしていたみたいですから」
凪咲「ええ。七夏がうたた寝なんて珍しいから、様子を見ただけで」
時崎「そうなのですか?」
凪咲「普段はお昼寝でしっかりと休む子ですので・・・ありがとう、柚樹くん」
時崎「いえいえ。俺に出来る事なんてお布団をかけてあげることくらいです」
凪咲「あ、毛布はこちらになります」
時崎「ありがとうございます。凪咲さん」

俺は七夏ちゃんに、そっと毛布を掛けてあげた。

七夏「ん・・・」

七夏ちゃんが起きてしまったかと思ったが、そうではないようで少しほっとした。
俺が色々と七夏ちゃんに負担をかけていたのかも知れないな。

時崎「七夏ちゃん。いつもありがとう。おやすみ」
七夏「・・・・・」

俺はそっとその場を離れ、自分の部屋に戻る。写真屋さんでプリントした素材を切りながら「とびだすアルバム」の試作品を作ってゆく。ページを開けると、虹が立体的に飛び出す仕掛けを作ってはみたが、これはどうなのか・・・。七夏ちゃんは、虹の話題があまり好きではない。だけど、虹を好きになろうと努力をしてくれているのも分かる。そんな不安定な心の状態の時に、虹をテーマにしたアルバム、しかも、その虹が飛び出してくるというのは「押し付け」になってしまわないか? 七夏ちゃんに相談したいけど、これは、渡す時まで秘密にしておきたい。虹以外で飛び出す要素を考える方が良いのかもしれないな。俺は、七夏ちゃんに虹を見て幸せな気持ちになってもらいたい。どうすればいいのだろうか。1時間くらい考えを巡らせているだけで、作業は殆ど進まない。喉が渇いてきたので飲み物を頂きに一階へ下り、和室を通りかかる。七夏ちゃんは、まだうたた寝しているようだ。よく見ると、さっき俺が掛けた毛布が体にきっちりと巻きついている・・・って、これは・・・その時---

七夏「んん・・・」

七夏ちゃんが目を覚ましたようで、うっすらとした眼差しで辺りの様子を確認しているようだ。

時崎「おはよう。みのちゃー?」
七夏「・・・っ!!!」

俺は、以前に天美さんが話していた、七夏ちゃんのあだ名の意味が分かった気がしたので、試しにそう呼んでみたら、当たりだったようだ。七夏ちゃんは、毛布の中に一度顔を埋めてから、再び目だけ覗かせて此方を伺ってきた。

七夏「・・・その呼び方・・・どおして!?」
時崎「見た印象がそうだったので。気を悪くしたのなら謝るよ」
七夏「うぅー」
時崎「その・・・ごめん」
七夏「いえ。別に・・・ちょっと、恥ずかしいなーって・・・」
時崎「この前、天美さんが話していた事を思い出して・・・」
七夏「そうだったのですね。あ、毛布、ありがとうです☆」
時崎「あと、眠っている七夏ちゃん。とても心地良さそうだったので、一枚写真を撮らせて貰ったんだけど」
七夏「え!? 今の姿をですか!?」
時崎「いや、俺が毛布を持ってくる前の七夏ちゃん」

俺は、うたた寝している七夏ちゃんを撮影した画像を、七夏ちゃんに見せる。

七夏「あ・・・眠っている姿って、自分では分からないので不思議です」
時崎「で、この写真の撮影許可を貰えないかと思って」
七夏「撮影許可・・・って、既に撮影されています☆」
時崎「そうなんだけど、無許可での撮影だったから、もし、七夏ちゃんが撮影許可をくれなかったら、この写真撮影はなかった事にしようかと」
七夏「くすっ☆ 許可します・・・。なかった事にされる方が、悲しくなります」
時崎「ありがとう。七夏ちゃん。俺も七夏ちゃんを撮影した事を、無かった事にはしたくないと思っているよ。だけど、撮影された本人にとって、嫌な思い出になる写真撮影は、本位ではないので」
七夏「柚樹さんの撮影する写真は、どれも良い思い出になると思ってます♪」
時崎「ありがとう。七夏ちゃん!」
七夏「はい☆ んんー」

七夏ちゃんは、大きく背伸びをしている。

時崎「よく眠れたみたいだね!」
七夏「はい☆ でも、ちょっと背中が痛いです」
時崎「あ、分かる。うたた寝も気を付けないと」
七夏「くすっ☆ え!? もう夕方なの?」
時崎「そうみたいだね」
七夏「明日の準備とかしないと」
時崎「そんなに慌てなくても」
七夏「どのお洋服にしようか、これから考えます☆」
時崎「なるほど☆ 七夏ちゃん!」
七夏「はい?」
時崎「髪・・・跳ねてる」
七夏「え!? あ、ちょっと、整えてきますっ!」

慌てた様子で、七夏ちゃんは洗面所へ移動してしまった。もう少し、跳ねた髪の七夏ちゃんを見ていたかったかなーなんて思ってしまった。俺は目の前に残されたくしゃくしゃのお布団をたたむ・・・いい香りが広がってくる。さっきまで七夏ちゃんが包まっていた温もりも残っていて、少し動揺する。

凪咲「あら? 柚樹君?」
時崎「え!? な、凪咲さん!」
凪咲「どうしたのかしら? そんなに慌てて」
時崎「あ、いえ、すみません!」
凪咲「七夏は起きたみたいね」
時崎「はい。今は洗面所に居ると思います」
凪咲「もう、しょうがないわね。柚樹君、ごめんなさいね」
時崎「え!? 何がですか?」
凪咲「七夏、お布団をそのままにしているみたいですから」
時崎「それに関しては、俺にも責任がありますので」
凪咲「え!?」
時崎「七夏ちゃんの髪が乱れてるって話したら急に・・・」
凪咲「もう、しょうがない子ね」
時崎「すみません」
凪咲「いえ。あ、お布団は私が片付けますので」
時崎「ありがとうございます」

その後、七夏ちゃんは普段どおり、凪咲さんとお話をしているみたいだけど、凪咲さんは少し注意をしていたみたいだ。

七夏「柚樹さん!」
時崎「ん?」
七夏「えっと、その・・・色々とすみません」
時崎「気にしなくていいよ。いい写真も撮れたから」
七夏「・・・ありがとうです」
時崎「七夏ちゃん!」
七夏「はい?」
時崎「明日も、よろしくね!」
七夏「あ・・・はい☆ えっと、明日のお洋服・・・」
時崎「楽しみにしてるよ!」
七夏「くすっ☆ では、今から考えますから、これで☆」
時崎「ああ」

明日は、蒸気機関車展示のイベントがある。七夏ちゃん、凪咲さん、そして直弥さんにとって楽しい日となるように、そして良い思い出が残せるようにしなければ!
「とびだすアルバム」の件も気になるが、今は、明日のイベントの事に集中しようと思う。七夏ちゃんの衣装準備に負けないよう、俺も事前準備をしっかりと行う事にした。

第二十四幕 完

----------

次回予告

大きな夢が一つ叶う時、とても幸せに満ちた思い出となるはずだ。俺はその瞬間を残せるのだろうか?

次回、翠碧色の虹、第二十五幕

「蒸気と舞う虹」

大切な人には、いつも幸せであってほしい。そう思っている人を、大切に想いたい。

幕間十九:どおして複数形にならないの?

幕間十九:どおして複数形にならないの?

七夏「ここちゃー?」
心桜「ん?」
七夏「SEVEN LEAF(セブンリーフ)って、七枚の葉っていう意味ですよね?」
心桜「そうだけど? 今更どしたの?」
七夏「えっと、どおして複数形じゃないのかなぁーって」
心桜「・・・っ!!!」
七夏「こ、ここちゃー!?」
心桜「つ、つつ、つっちゃーから予想外の質問が来て驚いたぁ!」
七夏「そんなに驚かなくても・・・私、英語も頑張ってます・・・多分」
心桜「そ、そだねー。確かに普通に考えると『leaf』の複数形は『leaves』になるから『seven leaves』って、なるよね・・・」
七夏「どおして『leafs』にならないのかなぁ」
心桜「また、ややこしくなってきたなぁ」
笹夜「『SEVEN LEAF』で、ひとつの固有名詞になっているからかしら!?」
心桜「おぉ!! 笹夜先輩!! こんちわ!!」
七夏「こんにちわです☆」
笹夜「こんにちは♪」
心桜「んで、笹夜先輩の白ゲージ割り込み・・・いや、助け舟に納得だよ!!!」
笹夜「白ゲージ割り込みって何かしら!?」
心桜「切れ味、最高!!! ・・・って事!!」
七夏「セブンリーフで、ひとつの言葉なのですね♪」
笹夜「そう考えれば、自然かしら!?」
心桜「なるほどねー。セブンリーフのアイテムが2つ以上で『seven leaves』って事か」
笹夜「『SEVEN LEAF』が、ひとつの固有名詞なら複数形は『SEVEN LEAF’S』って考える事もできますね♪」
七夏「笹夜先輩の考え方、納得です☆」
笹夜「それと、七夏ちゃん『leafs』ではなくて『leves』です」
七夏「あ、そうですね☆」
心桜「あ、それはあたしも分かる!」
笹夜「あと、元々『leaf』の複数形が『leves』っていうのは、決まり事です」
七夏「『fish』に複数形が無いのと同じかな?」
心桜「おおっ! つっちゃー凄い!」
笹夜「そうですね。『fishs』と、ならないのも決まり事ですね・・・ですから、既に決められたルール自体に疑問を持つと、答えが見つからなくなります」
心桜「つっちゃーも、今日は紫ゲージの領域だね~」
七夏「紫ゲージ!?」
心桜「切れ味が鋭利やん・・・って事!! エイリヤン・・・平城京にも!?」
七夏「?????」
笹夜「まあ、ルール同士の衝突で疑問に思う事は、多々ありそうですね」
心桜「そだね。つっちゃーもセブンリーフの事になると妙に鋭くなるから・・・これつまり、属性!? ブランド効果!?」
七夏「もう・・・」
笹夜「まあ、でも好きな事なら、楽しく早く覚えられますので、苦手な事も好きな事に関連付けて覚えてしまうという方法は、とても効果的で良い事です♪」
心桜「それって、つまり、苦手な食べ物を、好きな食べ物で包んで食べる・・・つまり、ごまかして無理矢理口に詰め込むって事!?」
七夏「こ、ここちゃー・・・もう・・・」
笹夜「ごまかすのではなくて、嫌いな食べ物も、どうすれば美味しく頂けるか、考えて工夫をする事が大切かしら!?」
七夏「美味しくなるように考える事・・・私、頑張ります!!」
心桜「つっちゃーの手作り料理なら、なんでも美味しく頂くよ!」
七夏「くすっ☆」
笹夜「七夏ちゃんのお料理・・・とても楽しみです♪」
七夏「さ、笹夜先輩まで☆」
心桜「んで、つっちゃーから『fishsのムニエル』とか出てきたりして」
笹夜「まあ!」
七夏「ここちゃー・・・はぁ☆」
心桜「前回の『ホッドドッグ』と言い、英語は不思議に思う事があるよね」
笹夜「そうですね。特に英語の印象は動詞が先に来ますから積極的な印象ですね♪」
心桜「動詞が先・・・確かに! これってつまり、倒置法!?」
笹夜「日本語で言うとそうなるかしら?」
心桜「つっちゃー! 倒置法だよ、倒置法!」
七夏「はい☆」
心桜「つっちゃー英語が苦手な分を、倒置法でカバーしているとか!?」
七夏「えっと、そんなつもりはないです」
笹夜「英語は必要最低限で効率よく意思を伝える事ができますね」
心桜「確かに、漢字とか無いからね」
笹夜「例えば『私』を表す言葉は『I』ですけど、日本語は『私』以外にも色々とありますよね」
心桜「アタシ、ワタクシ、アッシ、ワシ、ボク、オレ、オラ、オイドン、セッシャ、ワレ、ワラワ、ソレガシ、ショウセイ、ジブン、ショウショク・・・」
笹夜「まあ! 心桜さん! 随分たくさん思いつきましたね♪」
七夏「ここちゃー凄いです!」
心桜「よくよく考えたら、星の数ほどあるんじゃないかな?」
七夏「え!?」
笹夜「流石に、星の数までは無いのではないかしら?」
心桜「ホントにそう思います?」
七夏「えっと・・・」
笹夜「星の数っていう事は、相当な数になると思いますけど・・・七夏ちゃん、分かりますか?」
七夏「いえ、さっきここちゃーが話した一人称でも凄いと思ったのですけど・・・」
心桜「分かんないかなー」
笹夜「星の数は思い付かないです・・・『なぞなぞ』かしら?」
心桜「いえ、違います! 笹夜先輩、正解が知りたいですか?」
笹夜「・・・ええ。お願いします♪」
心桜「つっちゃーは?」
七夏「はい☆ 私も答えが知りたいです☆」
心桜「正解は、CMの後でっ! ・・・って言ったら怒る?」
七夏「こ、ここちゃー!」
笹夜「怒りませんけど、前にも同じような事が無かったかしら?」
心桜「そうそう!『コ・マーシャル』とかあって『コ』って何よ? ってあったよね?」
七夏「CMはコマーシャル・メッセージです☆」
心桜「おっ! つっちゃーしっかり覚えてるね!」
七夏「はい☆」
心桜「真面目に正解を言うと『心桜』」
笹夜「まあ♪」
七夏「なるほど☆」
心桜「ねっ! 星の数ほどありそうでしょ?」
笹夜「確かに、一人称を自分の名前で言うと星の数ほどになりそうですね。参りました」
心桜「おぉ! 遂に笹夜先輩を参らせたよ! ・・・ここまで長かった!」
七夏「もう! ここちゃー! 笹夜先輩、すみませんっ!」
笹夜「いえいえ、今回の心桜さんの正解は、思い付かなかったですので♪」
心桜「更に、あだ名なんかも入れると、もっと多くなるよねっ!?」
笹夜「ええ♪」
心桜「いや~日本語って本当に奥が深い!」
七夏「私も、お言葉遣いとか、もっと日本語も頑張ります!」
心桜「つっちゃーは、日本語もだけど、こっちも頑張るんだよ!」
七夏「え!? こっちって?」
心桜「って事で、つっちゃーがまだまだ頑張る『翠碧色の虹』本編はこちら!」
心桜「http://nanatsuiro.my.coocan.jp/nnt_frma_a.htm」
七夏「あ、こっちって、こっちの事なのですね☆」
心桜「そう! そして、あたしと笹夜先輩も頑張る『ココナッツ』宛てのお便りはこちら!」
心桜「http://nanatsuiro.my.coocan.jp/nnt_suiheki_novel.htm#QUESTIONNAIRE」
笹夜「私も・・・なのですか?」
心桜「もちろんです! 笹夜先輩の鋭い切れ味も欠かせませんので!」
七夏「笹夜先輩! 頼りにしています☆」
笹夜「は、はい♪ 私も頑張ります♪」

幕間十九 完

------------

幕間十九 をお読みくださり、ありがとうございました!
本編の方も鋭意制作中ですので、どうぞよろしくお願い申しあげます!

第二十五幕:蒸気と舞う虹

第二十五幕:蒸気と舞う虹

いつもより早く目が覚めた。昨夜は、早めにお休みしたからだろうか。いつも起こされているのもどうかと思う。せめて今の季節限定ではあるが、蝉の目覚ましで起きれるように意識したい。
コンセントに刺さっている写真機の充電機器を取り外す。今、写真機に入っている電池の残量は十分である事を確認する。
しばらくすると、昨日と同じように一階から話し声が聞こえてきた。俺は、七夏ちゃんが起こしに来てくれる前に一階へ向かう。

七夏「あ、柚樹さん☆ おはようございます☆」
時崎「七夏ちゃん、おはよう!」
七夏「くすっ☆」
凪咲「おはようございます。柚樹君」
時崎「凪咲さん、おはようございます」
直弥「おはようございます。時崎君、今日はよろしく」
時崎「あ、はい! おはようございます!」

突然、現われた直弥さんに、少し動揺してしまう。

七夏「お父さん、鞄!」
直弥「ありがとう! 七夏!」
凪咲「あなた、いってらっしゃいませ。また後で♪」
直弥「ああ。楽しみにしてるよ!」
凪咲「はい♪」
七夏「くすっ☆」
時崎「七夏ちゃん? どうかしたの?」
七夏「えっと、お母さん、とても嬉しそうです☆」
時崎「なるほど☆ 七夏ちゃんも嬉しそうだよ!」
七夏「はい☆ 柚樹さん、朝食の準備できてますので、どうぞです☆」
時崎「七夏ちゃんは?」
七夏「私も、これから頂きます☆」

七夏ちゃんと一緒に朝食を頂く。この後の事を話しながら---

七夏「今日も、お天気で良かったです!」
時崎「そうだけど、日差しが強いから、気をつけないと」
七夏「はい☆」

時崎「そう言えば、今日のイベントは初めてなの?」
七夏「えっと、時々あるみたいです」
時崎「そうなんだ。七夏ちゃんは、いつも参加してるの?」
七夏「いえ、私はあまり・・・。でも、今回は、お父さんが運転士さんですから☆」
時崎「なるほど」
七夏「お母さんも、久々かな。お泊まりのお客様が居ると難しいから・・・そう言えば、ここ最近お泊まりのお客様も居ないですから、丁度良かったのかもです☆」
時崎「そ、そうなんだ」
七夏「あ、ごめんなさい。柚樹さん、お客様でした」
時崎「いやいや、今の俺は宿泊代を免除してもらってるから、こっちこそごめん」
七夏「くすっ☆ 柚樹さん居ると楽しいです☆」
時崎「ありがとう」

楽しいと話てくれた七夏ちゃん。その言葉が本心かどうかは分からない。だけど、それを本心に変えてみせる事が、七夏ちゃんや凪咲さん、何より俺にとっても大切な事だ。

七夏「ご馳走様です。柚樹さん、おかわりはいいですか?」
時崎「ありがとう」

七夏ちゃんは、ごはんをお茶碗に少しだけよそってくれた。何度かこのような事があると、どのくらいの量が丁度良いか分かってくれている事が嬉しい。

七夏「はい☆ どうぞです☆ では、ごゆっくりどうぞです☆」
時崎「七夏ちゃんはもういいの?」
七夏「はい。この後、お出かけの準備がありますので」
時崎「俺も急ぐよ!」
七夏「くすっ☆」

 ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆

時崎「凪咲さん、ご馳走さまでした」
凪咲「はい。お粗末さまでした」

朝食を済ませ、出かける準備をする・・・といっても、今朝、準備は殆ど済ませていたので、持ち物の再確認くらいだ。
出かける準備をしている七夏ちゃんと凪咲さんを待つ。

手荷物を確認して、居間へ向かうと凪咲さんが待ってくれて居たようだ。

凪咲「柚樹くん、準備は出来たかしら?」
時崎「はい。七夏ちゃんは、まだ準備中かな?」
凪咲「そうみたいね。そうそう。これ、ナオから今日のイベントの招待状と案内状。さっと見ておくといいかも知れないわ」
時崎「ありがとうございます!」

凪咲さんから、イベントの招待状と案内状を受け取る。案内状には七夏ちゃんのお父さんの予定がメモ書きされていたので確認しておく。招待状は「きっぷ」をイメージした乗車券が付いており、イベント列車に乗車出来るみたいだ。

凪咲「七夏、遅いわね」
七夏「ごめんなさいっ! 遅くなりました!」
時崎「おっ! 可愛い!」
七夏「え!? あ、ありがとう・・・です」
時崎「!?」
凪咲「では、参りましょう」
時崎「はい」

七夏ちゃん、凪咲さんと駅へ向かう。道中、写真を撮る機会があれば良かったのかも知れないけど、少し急いでいたので、二人の足を止めてもらう機会がなかった。

凪咲「間に合いそうね」
七夏「良かった☆」

駅前に着く。急いだ事によって列車の到着まで少し時間ができたので、ここで落ち着けそうだ。

時崎「七夏ちゃん、凪咲さん!」

凪咲「はい」
七夏「くすっ☆」

俺は駅を背景に二人を写真に収めた。

凪咲「七夏・・・」

駅舎内に入ると大きなエンジン音が周囲に広がる。丁度列車が到着したようだ。七夏ちゃんは列車の方へ駆けて・・・と思ったら振り返って---

七夏「柚樹さん! お母さんも早く!」
時崎「あ、ああ」

七夏ちゃんを見る凪咲さんは、どこか懐かしそうな表情に思えた。

列車に乗ると、七夏ちゃんは先導して4人掛けの椅子の前に移動し、こちらに振り返る。

七夏「柚樹さん! この席へどうぞ☆」

七夏ちゃんは、窓側の席を譲ってくれる。七夏ちゃんの行動はある程度予想できるようになったと思っている事と重なって嬉しく思う。

時崎「ありがとう。七夏ちゃん」
七夏「くすっ☆」

七夏ちゃんは、俺の正面に座って、その隣に凪咲さんが座る。しばらくすると窓の景色がゆっくりと流れ始めた。
イベント会場までは列車で一駅だ、俺がこの街に来た方向とは逆方向になるので、初めて見る車窓の景色を眺めておく。七夏ちゃんは小説を読み始め、凪咲さんはイベント案内状を眺めている。列車内で殆ど話をしないのは周囲への配慮なのだろうか。
車窓を眺めていると急に暗くなった。列車がトンネルに入ったようだ。窓にはっきりと映って見えるようになった七夏ちゃんと凪咲さんを、そのまま眺めていると、耳に少し圧力を感じる。列車は勾配を登っているようだ。

時崎「結構長いトンネルだな」

俺のつぶやきに、凪咲さんが答えてくれた。

凪咲「新線は、景色が楽しめなくなってしまったから」
時崎「新線!?」
凪咲「ええ。以前は、山沿いに列車が走っていたのよ」
時崎「そうなのですか?」
凪咲「時間と景色、柚樹くんは、どちらをとるかしら?」
時崎「今は、景色ですね」
凪咲「そう♪ 良かったわ♪」
時崎「旧線からの景色も見てみたかったです」
凪咲「見れると思うわ♪」
主 「え!?」

凪咲さんは窓の方を眺める。俺も凪咲さんに合わせる。真っ暗だった車窓がパッと明るくなり、大きな音が鳴り響く。列車がトンネルを越え、鉄橋に差しかかったようだ。急に眩しくなったので反射的に目を瞑ってしまう。

七夏「柚樹さん!」

小説を読んでいた七夏ちゃんが窓を指差す。その少し先に旧線と思われる鉄橋が見えた。その下は谷と渓流が広がっていて、絵葉書のような世界が飛び込んできた。

時崎「凄い景色だ」
七夏「くすっ☆」

なるほど、凪咲さんの「見れると思う」は、旧線の面影が新線にも受け継がれているのだなと思っていたら、再び景色が真っ暗になった。
その後も何度か黒い世界と眩しい世界が交互に訪れ、それに慣れてきた頃に車内放送が耳に届く。しかし、トンネル内に響くエンジン音が大きく、よく聞きとれない。
窓に映る七夏ちゃんが小説を閉じると同時に列車は減速を始めたのを感覚する。次いで明るい世界が車窓にゆっくりと広がった。

列車は隣街の駅に定刻どうり到着する。
凪咲さんと七夏ちゃんに付いて行く形で列車を降りる。いいひと時を分けてくれた列車に感謝を込めて撮影する。丁度、七夏ちゃんが此方に振り返ってくれたので、列車と一緒に記録した。

七夏「柚樹さん!?」
時崎「あ、ああ」
七夏「くすっ☆」
時崎「9時7分・・・」
七夏「え!?」
時崎「改めて正確に到着するなーって思ってね」
七夏「はい☆」

☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ 

イベント会場は、駅に隣接している。人もそれなりに居て賑やかだ。大きな建物とターンテーブル(転車台)が一際目立ち、存在感がある。それを囲むような扇型の建物、機関庫と機関車が目を引く。七夏ちゃんのお父さんは、機関庫に並んでいるどの機関車を運転するのだろうか?

凪咲「七夏、ナオの所に参りましょう♪」
七夏「はい☆ 柚樹さん!?」
時崎「え!? ああ」
七夏「柚樹さんは、ここに居ますか?」
時崎「いや、七夏ちゃんと一緒に付いてくよ!」
七夏「くすっ☆」

イベント会場全体を撮影し、機関庫に並んでいる機関車を撮影しようとしていると、七夏ちゃんたちに遅れを取りそうになった。気をつけなければ。
凪咲さん、七夏ちゃんに付いてゆく形で大きな建物の中に入る。建物内には新旧車両、見た事ない車両も展示してあった。鉄道模型も展示してあるが、七夏ちゃんの家にある模型よりも数倍の大きさがあるようだ。

直弥「凪咲、七夏!」
凪咲「あなた。お疲れ様!」
七夏「あ、お父さん!」
時崎「こんにちは!」
直弥「時崎君、ようこそ!」
時崎「これは、随分大きな模型ですね」
直弥「16番は迫力が違うからね! 家にも置きたいけど」
時崎「16番!?」
凪咲「もう、あなた!」
直弥「おっと、すまないっ!」

凪咲さんは苦笑気味だけど、どういう意味なのか分からない。

七夏「大きな模型さんは、場所を取りますから」
時崎「なるほど」

七夏ちゃんが、状況を補足してくれた。

凪咲「場所だけの問題では無いのですけど」
直弥「それは、分かってるよ。それに、16番はここに来れば見れるからね!」
時崎「その、『16番』って言うのは?」
直弥「模型の大きさの規格の事だよ。線路の幅が16.5ミリなので16番って言われているんだよ。HOゲージとも呼ばれているね」
時崎「そ、そうなのですか?」
直弥「ちなみに、家にあるのは線路の幅が9ミリの9番、Nゲージと呼ばれていて、国内の鉄道模型としては最も普及しているんだよ」
時崎「な、なるほど」
凪咲「色々な大きさがあるって事ね」
時崎「ありがとうございます」

凪咲さんの「まとめ」でなんとなくだけど、理解できた。

七夏「お父さん、今日のお昼の場所・・・」
直弥「ああ、あっちの窓側の休憩所。12時10分頃に居るから」
七夏「はい☆」
直弥「それじゃ、そろそろ準備があるから僕はこれで」
凪咲「あなた。頑張ってね!」
直弥「ありがとう。凪咲!」

直弥さんは、乗務員室へと向かった。

凪咲「私たちも、広場の前に参りましょう」
七夏「はい☆ 柚樹さんも☆」
時崎「ああ」

俺は建物内全体と模型の写真も一枚記録しておいた。
広場の前に向かう、さっき見た転車台のすぐそばまで来た。近くで見ると、思っていたよりも大きく感じる。

凪咲「ここにしましょうか」
七夏「はい☆」

凪咲さんと七夏ちゃんは、場所を決めてくれたようなので、俺は改めて、転車台と機関庫を撮影する。ちょっと距離が近すぎて、全体を収めるのは無理だ。何枚かに分けて撮影する。凪咲さんと七夏ちゃんも一緒に撮影した。時間が経過するにつれ、人が集まってきた。

凪咲「もうすぐかしら」
七夏「♪」

時刻は10時00分。大きな音と同時に、蒸気機関車がゆっくりと前進してきた。周囲の人からも歓声が上がる。

時崎「おっ!」

蒸気機関車が転車台の前で一度停止する。続いて放送が入る。

放送「本日は、当イベントにお越しくださり、ありがとうございます! 今、皆様がご覧の蒸気機関車は『C11形蒸気機関車』と呼ばれており、石炭を搭載する専用のテンダー車を持たないタンク式蒸気機関車で小型で小回りが効くのが特徴です」

時崎「これで、小型なのか?」

俺には随分大きく、そして呼吸するかのような躍動感が伝わってきた。

放送「こちらの『C11機関車』は、動体保存ではなく、今も現役で活躍しております。本日のイベントの為に特別に遠くの街から応援に来てくれました! それでは、『C11機関車』の勇姿をお楽しみくださいませ!」

一瞬、「C11機関車」が汽笛のような音を鳴らし、ゆっくりと転車台へと入ってくる。俺はその様子を何枚かに分けて撮影した。
「C11機関車」が転車台に入ると、機関車内から乗務員が降りてきた。七夏ちゃんのお父さんではないみたいだ。そして、近くに居た他の乗務員と一緒に転車台をゆっくりと回転させはじめる。

七夏「あっ! おとーさーん!」

転車台に乗った「C11機関車」が回転し、中に乗っている七夏ちゃんのお父さんが俺にも見えた。直弥さんが七夏ちゃんに気付いたようだ。俺は大きく手を振る七夏ちゃんを撮影し、直弥さんも撮影しようとすると、タイミングよく直弥さんも手を振ってくれ、更に敬礼のポーズをとってくれた。再び、七夏ちゃんを見ると、七夏ちゃんも敬礼のポーズをとったので、その様子を押さえた。これは、いい写真が撮れたと思う!

時崎「あれ? 向きを変えるのではなくて、一回転以上してない!?」
七夏「そうみたいですね☆」
凪咲「イベントでは、一回転以上させて機関車全体を見てもらうためなの」
時崎「なるほど」

そのまま見ていると機関車を二回転させていた。通常は機関車の方向を変える場合半回転で良いが、展示会では一回以上回転させ、機関車の全体を見てもらう事になっているらしい。

七夏「柚樹さん! くすっ☆」
時崎「え!?」
七夏「あっち見たり、こっち見たりしてます☆」
時崎「あはは。確かに慌しいけど楽しいよ!」
七夏「はい☆」

その時、大きな汽笛音が轟く。

時崎「うわっ!」
七夏「ひゃっ☆」

驚く七夏ちゃんとは対照的に、凪咲さんは、いたって冷静に機関車を眺めていた。

七夏「お母さん、驚かないの!?」
凪咲「汽笛が鳴るって分かってたから♪」
時崎「そうなのですか?」
凪咲「ええ♪」

「C11機関車」はそのまま、ゆっくりと転車台を後にし、その先にある客車の方へ進んでゆく。

凪咲「では、私たちも駅に参りましょう♪」
七夏「はい☆ 柚樹さん☆」
時崎「ああ」

「C11機関車」は、小さなイベント用の駅を通り過ぎた所で停車した。そして、その手前にある分岐レールを乗務員が操作して、駅方面へと切り替える。「C11機関車」がゆっくりと後退して、客車に連結された。

小さな駅に到着すると、「C11機関車」から七夏ちゃんのお父さんが姿を見せた。

凪咲「あなた。いよいよね♪」
直弥「ああ。凪咲、七夏、ご乗車ありがとうございます!」
七夏「はい☆」

凪咲さんと、七夏ちゃんに付いてゆく形で、俺も客車に乗り込んだ。

直弥「時崎君も、本日はご乗車ありがとうございます!」
時崎「はい!」

客車は3両で観光用らしく、小型で窓は無く開放的だ。他のお客様も次々と乗り込んできた。これから、イベント会場を一周するのだろう。なるほど、そういう事か。七夏ちゃんのお父さんが運転士として機関車を運転する場合、限られた範囲なら可能なのだと理解した。そう、遊園地の機関車を運転するような事・・・しかし、七夏ちゃんのお父さんが運転する機関車は「本物」だ。これは間違いなく「本物の運転士」だと思う。

「C11機関車」は、大きな汽笛を鳴らし、ゆっくりと動き出した。俺の予想とは異なる方向へ・・・。

時崎「あれ!?」
七夏「どうしたの? 柚樹さん?」
時崎「イベント会場を出てるよね?」
凪咲「旧線を走っているのよ」
時崎「旧線・・・大丈夫なのですか?」
凪咲「ええ。旧線は今は訓練や観光用に使われている区間になりますので」
時崎「なるほど」

以前に、訓練線や保守線では七夏ちゃんのお父さんでも運転が出来るという事を聞いていたので納得した。これは「限定的な用途」の範囲内なのだろう。

凪咲「蒸気機関車は2人で一緒に運転するので、もう一人が正式な運転士ですから、万一の事があっても大丈夫です」
時崎「すみません。そこまでは心配していませんので」
七夏「柚樹さん! 景色、とっても綺麗です☆」

旧線は、山沿いを走るため、景色は素晴らしかった。列車は大きく長い鉄橋に差し掛かると、何故か速度を落とし、そのまま停車した。

時崎「あれ!? 鉄橋の真ん中で停車!?」
凪咲「観光列車ですから」
時崎「なるほど。確かにここからの景色は絶景だ」

眼下に広がる世界。街と海・・・列車からではないと見れない視点。観光列車でなければその景色もすぐに流れてゆく事になったであろう。じっくりと今しか見れない景色を眺め、写真にも納める。

七夏「あ、船が見えます☆」
時崎「え!? どれ?」
七夏「えっと・・・ひゃっ☆」
時崎「わっ! ごめん!」
七夏「・・・・・」

七夏ちゃんの視線に合わせようとして、俺は七夏ちゃんにぴったりくっつく形になってしまっていた。前にも三面鏡の前でこんな事があったけど、今の七夏ちゃんは驚きよりも、少し照れているみたいに見えた。

再び列車はゆっくりと動き出す。流れる景色が突然暗くなる。山沿いを走っているので、旧線と言ってもトンネルはあるが、すぐに明るい景色が戻って来る。

時崎「これは!」
七夏「くすっ☆」
凪咲「あれが新線ね!」

<<時崎「旧線からの景色も見てみたかったです」>>
<<凪咲「見れると思うわ♪」>>

あの時の凪咲さんの言葉・・・本当の意味を理解出来た。

七夏「!? どうしたの? 柚樹さん?」
時崎「え!? いや、なんでもないよ」
七夏「ひゃっ☆」

列車が減速し始める。

時崎「七夏ちゃん、大丈夫!?」
七夏「はい☆」

そのまま列車は速度を落とし続け、こじんまりとした駅に到着した。見た所、無人駅・・・と言うよりも、既に駅としては使われていないようだ。七夏ちゃんのお父さんが駅におりた。

直弥「ご乗車ありがとうございます! 当駅は現在一般のお客様とのご縁はございませんが、運転士の停車訓練としては現役の駅となります。こちらで記念撮影はいかがでしょうか?」

凪咲「私たちも参りましょう!」
七夏「はい☆」

七夏ちゃんのお父さんは、他のお客様に写真撮影を頼まれており、快く応じている。

時崎「七夏ちゃん! 凪咲さん!」

俺も二人を撮影する。

七夏「お父さんっ!」
直弥「七夏!」
凪咲「あなた!」
時崎「すみませーん!」

俺は、七夏ちゃん、凪咲さん、直弥さんの三人が揃った所を撮影した。
七夏ちゃんが俺の写真撮影に笑顔で応えてくれるようになってきている事に、凪咲さんだけでなく、直弥さんも気付いたようだ。

直弥「時崎君も一緒にどうぞ!」
時崎「ありがとうございます!」

俺は写真機を直弥さんに渡す。七夏ちゃん、凪咲さんと一緒に撮影してもらう。

時崎「!? 凪咲さん!?」

凪咲さんは、直弥さんの方へ駆け寄った。

直弥「時崎君!」
時崎「え!?」
七夏「くすっ☆」

七夏ちゃんと二人だけになった所を撮影してもらった。少し恥ずかしい気持ちと、こそばゆさが後から追いついてくる。

凪咲「柚樹君!」
時崎「え!?」
凪咲「私たちもお願い!」
時崎「あ、はいっ!」
直弥「な、凪咲!」
凪咲「あなた!」
直弥「あ、ああ」

俺は直弥さんから写真機を受け取り、凪咲さんと直弥さん二人を撮影した。

七夏「くすっ☆ お母さんとっても嬉しそうです♪」
時崎「七夏ちゃんのお父さんも!」
七夏「はい☆」

途中駅での写真撮影が終わった後、再び客車に乗り込む。

直弥「失礼いたします! 乗車券の拝見をさせて頂きます!」

七夏ちゃんのお父さんが乗車券の拝見に回ってくる。

凪咲「あなた!」
七夏「お父さん!」

俺も、イベント用の乗車券を直弥さんに見せると、本日の日付が入った記念スタンプを押してくれた。
乗車券の拝見が終わると、再び列車は動き出す・・・またしても俺の予想とは異なる方向に・・・。

時崎「あれ!? このまま後退してる!?」
七夏「くすっ☆」

今来た線路を列車はそのまま後ろに進み始めた。「C11機関車」が客車を押す形になっている。機関車が客車を引っ張るイメージしかなかったので、とても不思議な光景だ。

凪咲「推進運転って言うのよ」
時崎「え!? すいしんうんてん?」
凪咲「ええ♪」

凪咲さんのお話によると、用途は限定的だが、機関車が客車を押す運転を「推進運転」というらしい。「C11機関車はテンダー車を持たないタンク式機関車なので、推進運転も行いやすいらしい。小回りが効き推進運転も行いやすいため、今回のイベント牽引機関車として選ばれたそうだ。

凪咲「蒸気機関車の場合は推進運転の方が、お客様に優しいのよ。風向きにもよりますけど」
時崎「風向き・・・なるほど! 煙ですか?」
凪咲「ええ♪」
時崎「凪咲さんも、列車にお詳しいのですね」
凪咲「ナオ・・・主人の影響かしら?」
七夏「♪」
凪咲「私は、あまり列車には関心が無いのですけど・・・」

凪咲さんは少し照れるような表情をしながら、そう話してくれた。「関心が無い」と言いながらも、俺の知らなかった列車の事を次々と話してくれる凪咲さん・・・好きな人が好きな事、それを自然と一緒に好きになっている事が伺えた。

時崎「逆方向に走っていると、今まで後ろ側だった客車は景色が良さそうだね!」
七夏「くすっ☆」

列車はゆっくりとイベント会場へと戻る。数十分程の事だったが、俺自身とても楽しめた。

七夏「駅に到着です☆」
凪咲「柚樹君、お疲れ様!」
時崎「はい! とても楽しかったです!」
直弥「ご乗車、ありがとうございました!」
凪咲「あなた! お疲れ様♪」
直弥「ああ。今日はありがとう!」
七夏「お父さんっ! また後で☆」
時崎「ありがとうございました。とても楽しかったです!」
直弥「こちらこそ! 嬉しいお言葉、ありがとうございます!」

再び、イベント会場の本館へと向かう。直弥さんは「C11機関車」を機関庫へ戻し、午後からもう一度、同じイベントを行う予定だそうだ。
今、俺の居る場所からはイベント会場、転車台と扇形の機関庫が全て一度に撮影できそうだ。俺はそのまま写真機を構えた。丁度その時、大きな音が背後から迫ってきたが、それが何なのかは分かっていたので、そのまま転車台の方に写真機を構えて待つ。「C11機関車」が後退しながら写真のフレーム内に入ってきたと同時に、前を歩く七夏ちゃんと凪咲さんが、立ち止まりこちらへ振り返った所を撮影する!

時崎「よし!」

イベント会場全体と七夏ちゃん、凪咲さん、「C11機関車」とそれを運転する直弥さん全てをこの一枚に納める事が出来た!

七夏「柚樹さーん!」

七夏ちゃんが呼んでくれている。俺にとって嬉しいその表情も一枚撮影しておく。

時崎「ごめん。いい写真撮れたよ!」
七夏「くすっ☆ 良かったです♪」

時刻はお昼前。この後、直弥さんの休憩時間に合わせて一緒にお昼を頂く予定だ。
今朝、直弥さんとお話した場所・・・窓際の休憩所へと向かう。

凪咲「柚樹君、七夏、お疲れ様」
七夏「はい☆」
時崎「お疲れ様です・・・っていうより、とても楽しめました!」
凪咲「そう♪ 良かったわ♪」
時崎「鉄道に関して知らなかった事が沢山ありました!」
七夏「くすっ☆ 柚樹さん!」
時崎「え!?」
七夏「まだ、お父さんとの約束まで時間がありますから、会場内を見てくるといいかもです♪」
時崎「ありがとう。七夏ちゃんは?」
七夏「私は、ここで少しお休みいたします」
時崎「分かったよ。じゃ、少し見てくるよ」
七夏「はい☆」

俺は、会場内をさっと見て回る。やはり一際目立っているのは、本物の列車の展示だろうか。壁に会場内の地図があったので、写真としてメモを残す。他には「列車でGO!」という運転シミュレーターは人気のようで列が出来ていた。これは天美さんなら得意そうだな。
お土産品や即売している所もあるみたいだが、今お土産を買うと手荷物になるから帰る時に寄る事にしようと思った。

七夏ちゃんと凪咲さんの所に戻る。丁度、直弥さんも姿を見せた。
みんな揃った所で、昼食を頂く。お弁当は凪咲さんと七夏ちゃんの手作りだ。

七夏「いただきまーす☆」
凪咲「あなた、お疲れ様♪」
時崎「お疲れ様です!」
直弥「ありがとう! 時崎くん、楽しめたかい?」
時崎「はい! とっても!」
直弥「ずばり、訊くけど好きかね?」
時崎「えっ!?」

あまりにも直球過ぎて焦る。

時崎「あっ! えっと・・・」
直弥「先日、七夏と一緒に踏切を組み立ててくれたから!」
時崎「あっ! 踏切・・・」
直弥「そう! だから鉄道好きかと思ったのだが・・・」

直弥さんの「好き」は「鉄道」の事か・・・。

時崎「ま、まあ、好きか嫌いかで言えば好き・・・ですね」
七夏「くすっ☆」
直弥「そうか! それは頼もしい!」
凪咲「もう、あなた!」
直弥「おっと、すまない」

直弥さんの隣で七夏ちゃんがクスクスと笑っている。

時崎「そう言えば、『C11機関車』が初走行という事は、旧線の観光走行も今回のイベントが初めてなのですか?」
直弥「蒸気機関車は初になるね。今までは『DE10』というディーゼル機関車が牽引機だったんだよ」
時崎「なるほど。七夏ちゃんは知ってるの?」
七夏「はい☆ 昔、お父さんと、お母さんと一緒に乗った事があります☆」
時崎「そうか。という事は七夏ちゃん、今回の旧線観光は初めてでは無かったのか・・・」
七夏「初めてです♪」
時崎「えっ!?」
七夏「えっと、柚樹さんとは・・・」

またやられた。七夏ちゃんの倒置法。これは七夏ちゃんのお父さん譲りなのかも知れないな。何とか先回りすることは出来ないだろうか。

時崎「旧線の景色はとても良かったです!」
直弥「観光線として残ってくれるのは嬉しい。旧線には、色々と思い出もあるからね」
凪咲「あなた!」
直弥「おっと、すまない」

凪咲さんは、少し照れているのだろうか? いずれにしても、皆がとても楽しそうにしている。これからもこうであってほしいと望んでしまう。

三人で昼食を済ませる。直弥さんは、この後も午前中と同じスケジュールでイベントを行うらしい。凪咲さんと、七夏ちゃんは午後からは風水に戻る予定だったな。

凪咲「あなた、私はこれで帰るわね」
直弥「ありがとう。凪咲」
七夏「お父さん! 頑張って!」
直弥「ああ! 七夏! では、失礼いたします」
時崎「お疲れ様です!」
七夏「柚樹さんは、もう少しここに居ますか?」
時崎「七夏ちゃんも帰るの?」
七夏「えっと、お買い物をしてから帰ろうかなって思ってます☆」
時崎「そうか」

七夏ちゃんと一緒に帰ろうかと思ったが、せっかくイベント会場に来ているから、もう少し見て回ろうと思った。七夏ちゃんが知らない事が見つけられたらいいなと思っていると

七夏「柚樹さんは、もう少し会場を見て回るといいかもです☆」
時崎「え!?」

・・・心を読まれたみたいで焦る。

七夏「??? どうしたの?」
時崎「え!? いや、なんでもない」
七夏「くすっ☆ 私は何度か来てますけど、柚樹さんは初めてみたいですから、まだ新しい発見があると思います!」

・・・やっぱり、心を読まれているみたいな感覚に陥る。七夏ちゃんは、それだけ俺の考えている事を理解してくれているんだなという事が分かって嬉しい。

時崎「ありがとう。七夏ちゃん! じゃあ、もう少し楽しんでから帰るよ!」
七夏「はいっ☆」
凪咲「七夏!」
七夏「はーい☆」
凪咲「では、柚樹君。失礼いたします」
七夏「柚樹さん! また後で!」
時崎「ああ!」

今日の七夏ちゃん、弾んでて楽しそうで、とても可愛かった。そしていつもより輝いて幸せそうに見えた事が嬉しい。
これからも、七夏ちゃんが楽しく、幸せに思えるように心掛けたい。俺の求めてる虹は輝く存在だったはずだ。「ふたつの虹」もそうあるべきだと思う。

会場を出て、改めて扇型機関庫を眺める、「C11機関車」もお休みしている様子だ。
他の機関車も眺めてゆくと「DE10」と書かれた機関車もあった。

時崎「これが『DE10』・・・直弥さんが話していた機関車か」

「DE10」をしばらく眺めていると、放送が入り、「C11機関車」が再び動き始めた。イベントプログラムは前回と同じだったが、二度目という事と、七夏ちゃんや凪咲さんの写真撮影を強く意識する必要が無かった為、じっくりと「C11機関車」を見る事が出来た。

<<七夏「柚樹さん!あっち見たりこっち見たり慌しいです☆」>>
<<七夏「柚樹さんは初めてみたいですから、まだ新しい発見があると思います!」>>

時崎「七夏ちゃん・・・それで・・・」

・・・俺は、改めて七夏ちゃんの心遣いに気付かされた。

そして、「C11機関車」が旧線観光へと出発するのを見送った後。放送が再び入り、扇型機関庫から他の蒸気機関車が転車台へと入って来る。

時崎「なるほど」

旧線観光と他の機関車の展示は同時に楽しめない為、午後からも居る方が十分楽しめるという事だと分かった。俺は転車台に入ってきた他の機関車も撮影しておいた。

機関車を撮影していると徐々に逆光になる機会が増えてきた。一通り展示イベントを楽しんでいたら、陽が結構傾いてきたようだ。
あまり暗くならないうちに、風水に戻る事にした。少し前に七夏ちゃんに「あまり帰りが遅くならないように」と話したばかりだ。帰る前に、再び会場内のお土産コーナーに寄る。七夏ちゃんや凪咲さんが喜んでくれそうなお土産がないかなと眺めてゆくと、その中で目を惹くものがあった。

時崎「これはっ!」

今日、七夏ちゃんのお父さんが運転していた「C11機関車」。その鉄道模型が販売されていた。見たところ、七夏ちゃんの家にある鉄道模型と同じ大きさみたいだ。

<<直弥「ちなみに、家にあるのは線路の幅が9ミリの9番、Nゲージと呼ばれていて、国内の鉄道模型としては最も普及しているんだよ」>>

直弥さんの言葉を思い出す。「9ミリの9番、Nゲージ」という規格であればよい訳だ。
俺が、その「C11機関車」の鉄道模型を眺めていると---

店員「いらっしゃいませ! ご記念にいかがでしょうか?」
時崎「え!?」
店員「こちらは、本日のイベントで活躍中の『C11機関車』になります!」
時崎「これは、9ミリの9番・・・でしょうか?」
店員「はい! 9ミリのNゲージ規格になります!」

この「C11機関車」の鉄道模型・・・記念にほしいと思った。しかし、値段が結構するので迷う・・・どうしようかな。

時崎「お値段が結構しますよね」
店員「そうですね。それだけ精密に出来ていますので。こちらの『C11機関車』は、後退や推進運転用に後ろ側のライトも点くようになっています!」
時崎「そ、そうなのですか!?」

さっき、凪咲さんから聞いたキーワードに背中を押され、買ってしまった。けど、いい思い出になると思う。

店員「ありがとうございます! こちら、『C11機関車』お買い上げ特典。当イベント協賛の水族館入場チケットをお付けいたしますね!」
時崎「え!? 水族館!?」
店員「はい! 2つ隣の駅になります。よろしければ是非!」
時崎「ありがとうございます!」

「C11機関車」の鉄道模型の購入で思ってもいなかった特典「水族館の入場チケット」を2枚貰えた。七夏ちゃんと一緒に見にゆけるといいなと思ってしまう。
あと、他のイベントの案内のパンフレットもいくつか頂いた。

 ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆

民宿風水に戻る前に写真屋さんへ寄り、今日撮影した写真を現像依頼する。全て依頼したいところだか、結構な枚数になる為、良いと思う写真を選ぶ。以前はフィルムごと渡していた為、実際に写真が出来上がるまでどんな状態か確認出来なかった。今はメモリーカードを機械に読み込ませると、撮影した写真が機械の大きな画面に表示されるので、その中から現像依頼したい写真を選らんでゆくだけだ。大きな画面に映し出された七夏ちゃんや凪咲さん、直弥さん・・・そして俺・・・。直弥さんに「七夏ちゃんと二人っきり」を撮影してもらった写真を見て、周囲が気になってしまった・・・俺と店員さん以外は居ない事は分かっていたのに。
写真の中で蒸気機関車と一緒に楽しく弾んでくれた「ふたつの虹」・・・俺の記憶の中にある「ふたつの虹」とは違うけど、どっちの虹も真実だと思う。

時崎「ありがとう。七夏ちゃん」

どうしてか分からないけど、感謝の気持ちが溢れ出て来て言葉になっていた。選んだ写真をプリント依頼する。仕上がりが楽しみだ。

これからも「ふたつの虹」・・・七夏ちゃんが楽しく弾んでくれる事を願っていると、民宿風水へ戻る足が急かすかのように早くなってゆくのだった。

第二十五幕 完

----------

次回予告

いつも優しく手を差し伸べてくれる「ふたつの虹」。俺の手は震えて上手くつなげなくなりそうだ。

次回、翠碧色の虹、第二十六幕

「虹をつないで」

つなぎ止めておきたいと思う気持ちが見え始めると、思うようにゆかなくなってくるものなのか。

幕間二十:笹夜先輩とクラシックピアノ

幕間二十:笹夜先輩とクラシックピアノ

心桜「今日は、笹夜先輩のお家にお邪魔するよ!」
七夏「はい☆ とっても楽しみです☆」
笹夜「いらっしゃい。七夏ちゃん、心桜さん♪」
心桜「こんちわー! 笹夜先輩!」
七夏「笹夜先輩! こんにちわです☆」
笹夜「こんにちわ♪ どうぞ♪」
心桜「お邪魔しまーす!」
七夏「お邪魔しまーす☆」

 ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆

七夏「? どしたの? ここちゃー」
心桜「いやー、何といいますか。想像通りって感じで・・・」
七夏「え!?」
心桜「笹夜先輩の部屋って、綺麗に片付いてるなー」
七夏「はい☆」
心桜「見てよ! このクッション!! ふかふかサラサラだよ!!」
七夏「こ、ここちゃー!!」
笹夜「お待たせいたしました。どうぞ♪」
七夏「ありがとうございます☆」
心桜「ありがとうございます! んー冷たくておいし~♪」

 ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆

心桜「つっちゃーから聞いてるんだけど、笹夜先輩ってピアノ上手いんだって!?」
七夏「はい☆ 笹夜先輩はピアノ演奏とても上手です☆」
笹夜「上手・・・かどうかは分からないですけど、幼い頃から習ってます」
心桜「聴いてみたいなー、笹夜先輩!!」
七夏「こ、ここちゃー!!! 笹夜先輩! すみません!!」
笹夜「いえいえ♪」
心桜「笹夜先輩!」
笹夜「え!?」
心桜「ピアノ演奏~」
笹夜「えっと、演奏は構わないのですけど・・・今すぐでしょうか?」
心桜「もちろんっ!」
笹夜「では、こちらへ・・・」

七夏さんと心桜さんは、ピアノの置いてあるお部屋へと案内される。
そして、笹夜先輩は軽く何かの楽曲を演奏した。

心桜「おぉー! 凄い!」
七夏「笹夜先輩! 素敵です☆」
心桜「笹夜先輩! 今の曲はなんていう曲なんですか?」
笹夜「今のは、思いついたコードに旋律を乗せただけで・・・」
心桜「え!? ・・・って事はテキトー演奏!?」
七夏「こ、ここちゃー!!! 笹夜先輩! すみません!!」
心桜「あははっ!」
笹夜「まあ、適当と言えなくも無いですけど、正確には即興と言います」
心桜「そっきょう?」
笹夜「その場で創作する事。アドリブという言い方もありますね♪」
七夏「あどりぶ・・・は分かります!!」
心桜「つっちゃー、そんなに身構えなくても」
七夏「だって、今までの流れだと・・・ここちゃーが・・・」
心桜「まあまあ、それは、否定出来ないけど、今は笹夜先輩の演奏だよ! 思い付きであんな綺麗な曲が作れるなんて」
七夏「ここちゃー、思い付きって・・・」
笹夜「心桜さんの真っ直ぐな言葉、七夏ちゃんの優しい言葉、私は素敵で嬉しいです♪」
心桜「わわっ! 笹夜先輩! ありがとぉー!」
七夏「笹夜先輩! 私も嬉しいです☆ ありがとうです☆」
心桜「笹夜先輩! もっと聴かせてほしい~!!」
七夏「私も聴きたいです☆」
笹夜「ありがとう。じゃ、今度は二人も聴いた事があると思う曲を演奏しますね♪」
心桜「わぁー♪」
七夏「お願いします☆」

笹夜先輩はクラシック楽曲を演奏した。

心桜「あ、聴いたことある! ・・・けど、曲名が分からない~。『クラシックあるある』のひとつだね!」
七夏「くすっ☆ 何度聞いても綺麗な曲です☆」
心桜「笹夜先輩! なんて曲なんですか?」
笹夜「ノクターン 変ホ長調 op.9-2/フレデリック・ショパンになります♪」
心桜「そ、そうなんだ~」
七夏「どしたの? ここちゃー?」
心桜「曲は流れるように綺麗なのに、曲名は何か固いなーと思って」
七夏「こ、ここちゃー・・・もう・・・」
笹夜「なるほど。心桜さんらしい面白い解釈だと思います♪」
心桜「ねねっ! 笹夜先輩! もっと、聴きたいなー」
笹夜「ありがとう♪ では・・・」

笹夜先輩はクラシック楽曲を演奏した。

七夏「笹夜先輩! 凄いです! 今のは幻想即興曲ですよね☆」
笹夜「ありがとう、七夏ちゃん♪ さっき即興のお話があったので、この曲『幻想即興曲 op.66/フレデリック・ショパン』にしてみました」
心桜「情熱的だと思ったら途中は穏やかになるんだねー」
七夏「私もこの曲の穏やかなところが好きです☆」
心桜「ねねっ! 笹夜先輩! もっと、凄いの聴きたいなー」
笹夜「凄いの・・・ですか!? では・・・」

笹夜先輩はクラシック楽曲を演奏した。

七夏「笹夜先輩! 凄いです♪」
心桜「・・・・・」
七夏「どしたの? ここちゃー?」
心桜「うん、凄い・・・んだけど」
七夏「・・・けど?」
心桜「演奏している時の笹夜先輩の表情が、さっきと違うなーって」
七夏「表情?」
笹夜「・・・・・」
七夏「それは、真剣に演奏してるからで・・・」
心桜「それは、分かってるんだけど、音楽って言うよりも、『スポーツ競技』みたいな印象を受けちゃって・・・その・・・」
笹夜「スポーツ競技・・・」
心桜「あたしは、最初のノクターンだっけ・・・の時の笹夜先輩の方が、音楽してて、楽しく優しい、いつもの笹夜先輩って感じがしたんだ」
笹夜「心桜さん・・・素直な感想ありがとう。確かに演奏技量を披露するだけなら、それは音楽ではなくてスポーツ競技。演奏者も楽しまなければ音楽とは言えないですよね」
心桜「そうそう! それそれ! それが伝えたかった事!」
笹夜「すみません。演奏難易度の高い曲は、つい力が入ってしまって・・・」
七夏「私、笹夜先輩の演奏を素直に楽しんじゃったけど、演奏者の気持ちにも耳を傾けるようにします!」
笹夜「演奏者の『楽しいと思う気持ち』が、周りに広がって音楽・・・素敵な考え方です。ありがとう♪ 心桜さん、七夏ちゃん!」
心桜「いえいえー。笹夜先輩! また、演奏お願いします!」
笹夜「はい♪」
心桜「ちなみに、今のはなんて曲なんですか?」
笹夜「革命のエチュード op.10-12/フレデリック・ショパンです♪」
心桜「なるほど・・・よく分かんないけど、凄さは分かるよ!」
七夏「もう! ここちゃー!」
心桜「笹夜先輩! ありがとうございました!」
七夏「ありがとうございます☆ 笹夜先輩!」
笹夜「はい♪」
心桜「んでさー、ひとつ気になる事があるんだけど」
七夏「気になる事!?」
心桜「そう! 今、笹夜先輩が演奏してくれましたクラシック楽曲・・・えーっと」
七夏「ショパンさん!?」
心桜「そういえば、3曲とも同じ作曲者なんだね! 好きなんですか?」
笹夜「そうですね♪ フレデリック・ショパン氏はピアノの詩人と呼ばれています♪」
心桜「ピアノの詩人・・・なるほどね~」
笹夜「それに、私と七夏ちゃんを繋いでくれた人でもあります♪」
七夏「はい☆」
心桜「なるほど! そうだったね! だけど・・・」
七夏「? どしたの? ここちゃー」
心桜「いや、そのショパン氏の音楽は探せばCDとかあるから曲名だけで伝える事が出来るけど、最初に弾いてもらった『笹夜先輩の即興演奏』をどうやって伝えたらいいのかなーってさ」
七夏「え!? 伝える?」
心桜「っそ! あたしたちだけが楽しんでいるのはどうなの? ・・・って思ってね!」
笹夜「流石に文字だけで音楽を伝えるのは難しいですね」
心桜「だねっ! という事で、おーい! 原作者! なんとかしろ!」
七夏「ここちゃー!」
心桜「よし! これで原作者がなんとかしてくれるさ!」
七夏「そうなの?」
心桜「って事で、あたしもつっちゃーも頑張る『翠碧色の虹』本編はこちら!」
心桜「http://nanatsuiro.my.coocan.jp/nnt_frma_a.htm」
七夏「えっと、大丈夫なのかな?」
心桜「大丈夫! そして、あたしと笹夜先輩も頑張る『ココナッツ』宛てのお便りはこちら!」
心桜「http://nanatsuiro.my.coocan.jp/nnt_suiheki_novel.htm#QUESTIONNAIRE」
笹夜「私もお願いしておきますね♪」
心桜「ありがとうございます! 笹夜先輩! これでなんとかなるよ!」
七夏「私もお祈りいたします☆ 皆様に笹夜先輩の素敵な演奏が届きますように♪」
笹夜「まあ♪」

幕間二十 完

------------

幕間二十 をお読みくださり、ありがとうございました!
本編の方も鋭意制作中ですので、どうぞよろしくお願い申しあげます!

第二十六幕:虹をつないで

第二十六幕:虹をつないで

写真屋さんから民宿風水に戻る。結構帰りが遅くなってしまった。

七夏「柚樹さん☆ おかえりなさいです☆」
凪咲「柚樹君、お帰りなさいませ」
時崎「ただいま! 七夏ちゃん! 凪咲さん!」

七夏ちゃんは、MyPadを手にしていた。持ち歩ける端末ではあるが、七夏ちゃんがMyPadを持ち歩いている姿を今まであまり見た事がない。今日の蒸気機関車イベントにもMyPadは持ってきていなかったみたいだし、外で気軽に使うという感覚はないのかも知れないな。

時崎「どうしたの? MyPadで何か分からない事でもあった?」
七夏「えっと、今日は、いつも見てる小説のページに繋がらなくなっちゃって・・・」
時崎「え!? あっ! そうか!」

七夏ちゃんのMyPadはWiFiモデルの為、外のネットワークへのアクセスは、俺の携帯端末を経由する「テザリング」の設定になっている為だ。
今日、俺は午後からも蒸気機関車イベント会場に居た為、七夏ちゃんのMyPadとは接続が絶たれていた事になる。
七夏ちゃんの家にもネットワークルーターの設置が必要かも知れないな・・・けど、それを俺が決める事は出来ない。

時崎「今も繋がらない?」
七夏「え!? えっと、ちょっと待ってくださいね」
時崎「どうかな?」
七夏「あっ! 小説のページ、見れました☆」
時崎「良かった」
七夏「どおしてさっきまで見れなかったのかな?」
時崎「まあ、原因はいくつかあるけど、外のネットワーク側が混雑してたりすると、一時的に繋がらなくなったりするよ」
七夏「そうなのですね☆」

七夏ちゃんのMyPadは、俺の携帯端末を経由して外のネットワークに繋がるようになっているという事を今は言わない事にした。七夏ちゃんの性格から、その事を知ると使うのを遠慮してしまうかも知れないから。七夏ちゃんや凪咲さんのお世話になっているわけだから、このような形であってもお返しはしておきたい。

直弥「ただいま!」
凪咲「お帰りなさい、あなた。今日はお疲れ様!」
時崎「あ、お疲れ様です!」
直弥「時崎君! 今日はありがとう!」
時崎「いえ! こちらこそ!」
七夏「お父さん! お帰りなさいです☆」
直弥「ただいま、七夏!」
七夏「!? お父さん、どしたの?」
凪咲「今日は疲れたのよね」
直弥「それもあるんだが・・・少し残念な事もあってね」
凪咲「残念な事!?」
直弥「C11イベント限定モデルが売り切れていたんだ。無理かなーと思ってはいたんだが、やはり無いとなると残念だなと思って」
凪咲「もう~」

凪咲さんは少し苦笑している。

直弥「いや、凪咲! 今回のC11イベント限定モデルは、僕が初めて凪咲と七夏を『運転士』としてだな---」
凪咲「はい! 分かってますから!」
直弥「今日は、C11が買って帰れれば完璧だったのに!」
七夏「お父さんっ! もう~」

七夏ちゃんまで凪咲さんと同じように苦笑している・・・微笑ましい。俺は思った。

時崎「あの・・・」
七夏「どしたの? 柚樹さん?」
時崎「C11って、これだったりしますか?」
直弥「!!!」
七夏「ひゃっ☆」
凪咲「まあ!」

俺は、蒸気機関車イベント会場で見かけた「C11蒸気機関車の鉄道模型」を取り出して見せた。

直弥「と、とと時崎君っ!!!」
時崎「はっ! はい!」
直弥「ど、どうして君がっ!」
時崎「えっと、イベント会場で見かけて、七夏ちゃんのお父さんが運転している蒸気機関車の模型だと、店員さんに勧められて・・・」
直弥「素晴らしい!」
七夏「柚樹さん! 凄いです☆」
凪咲「あなた! よかったわね!」
直弥「ああ! 風水でC11と再会出来ただけでも!」
時崎「よかったら、これ、お譲りします!」
直弥「ほっ! 本当かね?」
凪咲「あなたっ!」

俺の申し出に対して、凪咲さんがすぐにブレーキをかけてきた。

時崎「凪咲さん! いつもお世話になってますから!」
凪咲「本当にいいのかしら?」
時崎「はい!」
七夏「でも、柚樹さん。その模型さん、結構高価ですよね」
時崎「ま、まあそれなりに買うのに勇気は必要だったけど」
直弥「その『勇気ごと』僕が買うよ!」
時崎「え!?」
直弥「元々、買おうと思ってたからね」
時崎「いえ、さすがにお金を頂こうとは・・・」
直弥「いやいや、タダで貰おうとは思ってないよ」

しばらく、俺と直弥さんとの「譲り合い」が続く・・・この千日手にストップをかけたのは、凪咲さんだった。

凪咲「しょうがないわねー。では、私も買うわ!」
七夏「私も♪」
時崎「え!?」
直弥「え!?」
凪咲「記念なのよね!」
七夏「みんなで一緒に買うの♪」

七夏ちゃんの言葉で、ようやく理解出来た。

時崎「なるほど! そういう事なら、喜んで!」
直弥「ありがとう! 時崎君!」

こうして、風水に来た「C11」は皆んなで4等分して買う事になった。七夏ちゃんの家族の一員のようになれた感覚がこそばゆくも嬉しい。

七夏「柚樹さん! ありがとうです! お父さん、とっても喜んでます☆」
時崎「良かったよ。それに、この機関車は七夏ちゃんの家に居る方がいいと思う」
七夏「どおして?」
時崎「本当にほしいと思ってくれる人の所にある方が、模型も幸せだと思うから」
七夏「・・・・・」
時崎「それに、俺は線路を持ってないから、走らせる事が出来ないし」
七夏「くすっ☆」
直弥「時崎君! 早速、走らせてもいいのかな?」
時崎「はい! もちろん! どうぞ!」
直弥「ありがとう!」

C11蒸気機関車の模型を直弥さんに渡すと、直弥さんはそのまま自分の部屋に向かってしまった。

凪咲「もう~、柚樹君、ごめんなさいね」
時崎「いえいえ!」
凪咲「ほんと、鉄道の事になると・・・ね」

俺は思った・・・機関車が繋ぐのは、客車だけではなく、人と人もそうなんだなと。七夏ちゃんみたいな倒置法的考えになっている事に気付き、少し嬉しくなった。

時崎「そういうこと・・・か」
七夏「え!?」
時崎「あ、いや、なんでもないっ!」
七夏「くすっ☆」

MyPadを抱きかかえている七夏ちゃん。俺はこれからも七夏ちゃんと繋がりを持っていたいと思う。

凪咲「柚樹君、よかったら、流してきてくださいませ!」
時崎「流す・・・あ、お風呂! ありがとうございます!」

 ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆

夕食前に、湯船に浸かる。今日一日結構歩き回ったので、足が一番喜んでくれているように思う。風水でお世話になって12日、この街に来て二週間経過している。当初一週間の予定だったから、大きく予定は変わっている。この街・・・いや、七夏ちゃんともっと一緒に過ごしたいと思うけど、自分の本来の生活の事を考えると、今の時点で折り返し地点に来ているのではないかと思う。俺がこの街で、七夏ちゃんや凪咲さんにしてあげられる事を、しっかりと計画しなければならないな。

お風呂で流した後、いつものように七夏ちゃんが冷たい飲み物を用意してくれた。

時崎「いつもありがとう。七夏ちゃん!」
七夏「え!?」
時崎「え!?」
七夏「あ、えっと、夕食も出来てますからどうぞです☆」
時崎「ありがとう」

アルバム制作の件があるので、夕食を少し急いで頂く。

凪咲「ナオは?」
七夏「お父さん、まだお部屋に居ます」
凪咲「しょうがないわね~」
七夏「くすっ☆」
凪咲「お風呂で流してくるように、伝えてくれるかしら?」
七夏「はいっ☆」

 ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆

時崎「ごちそうさまでした」
凪咲「あら、柚樹君、今日はもういいのかしら?」
時崎「はい。ちょっと行いたい事がありますので!」
凪咲「あまり、ご無理はなさらないでくださいね」
時崎「え!?」

凪咲さんは、アルバム制作の事を気にしてくれているようだ。

凪咲「今日は、色々とあって、お疲れみたいですから」
時崎「ありがとうございます!」

部屋に戻って、早速、アルバム制作の続きを行う。お風呂に浸かりながら考えたのだが、デジタルアルバムを製本するのに3日は必要な事を考えると、ある程度の所で線を引き、先に製本アルバムを依頼して、写真を追加できるページを多く用意してもらった方が良さそうだ。イメージとしては7割デジタルで、3割はアナログというハイブリットのようなアルバムになりそうだ。或いは、デジタルとアナログを別々に分けるという方法も考えられるけど、七夏ちゃんへのアルバムの制作も考えると、凪咲さんへのアルバムはハイブリットの方が良さそうかな。今日はあまり時間が無かったから、明日、改めてこの辺りの事を相談しに写真屋さんへ出かけようと思う。
アルバム制作作業を行っていると、いつもよりも早く瞼が重たくなってきている事に気付く。

<<凪咲「あまり、ご無理はなさらないでくださいね」>>

凪咲さんの言葉を思い出す。凪咲さんも、七夏ちゃんも、人の心を繊細に捉える事が出来ている。俺が疲れていると、心配をかけてしまうことになるな。それに、疲れた状態の作業は返って効率も悪くなるので、今日は早めにお休みする事にしようと思った。

敷かれているお布団に潜り込む。俺がお風呂か夕食を頂いている時に、お布団を準備してくれる七夏ちゃん・・・凪咲さんかも知れないけど。いずれにしても二人に感謝しつつ、重くなった瞼に従った。

時崎「おやすみ。七夏ちゃん、凪咲さん、直弥さん」

 ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆

小鳥の声が耳に届く。昨日は早めに休んだ為、その分早く目が覚めた。この後、蝉の合唱が始まる事になる。カーテンを開けて窓の外を見ると、まだ薄暗い。二度寝しても問題ない時間だが、このまま起きる事にした。以前に日の出を撮影した事を思い出す。突然後ろに居た天美さんに驚かされた事があったな。
洗面所で顔を洗う。まだ誰も起きていないみたいなので、あまり大きな音を立てないように気を使う。

??「おはようございます」
時崎「え!? あ、おはようございます! 凪咲さん!」
凪咲「昨夜はよく眠れたかしら?」
時崎「はい。早めにお休みしましたので。ありがとうございます!」
凪咲「いえいえ。本日もよろしくお願いいたします」
時崎「はい! こちらこそ!」

凪咲さんとの会話は、時々「リセット」されているような気がする。まあ、民宿風水の女将さんというお仕事柄なのだと理解はできている。親しき仲にも・・・という言葉があるように、凪咲さんはどこかで線を引いているようだ。
部屋に戻って、昨日の続き、アルバム制作を再開する。七夏ちゃんへの「とびだすアルバム」はどうしようかと思う。昨日見た「C11蒸気機関車」が飛び出してくるというのはどうだろうか? 迫力はあるのだが、女の子に渡すアルバムに黒い蒸気機関車はどうなのだろうか・・・いや、七夏ちゃんならきっと喜んではくれるだろうけど、もっと可愛いイメージで作れないだろうか? 虹が飛び出してくるというのは、止めておこうと思う。そもそも「とびだす」という事に拘らなくても良いのかも知れないな。以前にトリミングしていた七夏ちゃんの写真、その瞳を見ながらメモしておいた「もうひとつのアイデア」ひとつに絞ろうか、飛び出す要素を残すかで迷っている。

一階から物音が聞こえ始めた。恐らく、凪咲さんと直弥さんだと思う。次いで、トントンと扉が鳴った。

七夏「柚樹さん! 起きてますか?」
時崎「七夏ちゃん! どうぞ!」
七夏「おはようございます☆」
時崎「おはよう! 七夏ちゃん!」
七夏「昨夜は早くお休みだったみたいですね☆」
時崎「ああ、ごめん。何か用事でもあったかな?」
七夏「えっと、これ・・・」
時崎「これは、C11機関車?」
七夏「はい☆ お父さんが柚樹さんにって☆」

どういう事だろう? 昨夜、このC11機関車の模型を直弥さんに手渡したけど、それを七夏ちゃんが持ってきた理由が分からない。

時崎「どおして?」
七夏「えっと、お父さん、これからお仕事ですので、この模型さんは柚樹さんにって話してました☆」

七夏ちゃんの説明を聞いてようやく理解できた。直弥さんが風水に居ない間、この模型を皆でバトンのように繋いでゆくという事らしい。

時崎「なるほど!」
七夏「皆で一緒に買った模型さんですので♪」
時崎「そういう事ね! ありがとう! 七夏ちゃん!」
七夏「はいっ☆」

C11機関車の模型を受け取る。七夏ちゃんはとても嬉しそうだ。

時崎「俺はいつ、七夏ちゃんに渡せばいいのかな?」
七夏「いつでも大丈夫です☆」
時崎「じゃ、午後にでも持ってゆくよ!」
七夏「私が会いに来てもいいのかな?」
時崎「え!?」
七夏「えっと、模型さん・・・」
時崎「ああ、勿論構わないよ」
七夏「くすっ☆」

七夏ちゃんの倒置法・・・まだ慣れないな。どうすれば良いのだろうか?

七夏「柚樹さん、朝食も出来てますからどうぞです☆」
時崎「ありがとう!」

 ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆

七夏ちゃんと一緒に朝食を頂く。これがいつもの事のようになっているのが嬉しい。

時崎「七夏ちゃん、今日は午前中は宿題かな?」
七夏「はいっ☆」
時崎「俺は、この後、ちょっと出かけてくるよ!」
七夏「はい☆ 柚樹さん、午後には戻れますか?」
時崎「ああ。どうしたの?」
七夏「えっと、今日ね、午後からここちゃーと笹夜先輩が来てくれます☆」
時崎「え!? 天美さんと高月さんが?」
七夏「はい☆」
時崎「そうか・・・じゃあ、アルバムの件は別の日でもいいよ?」
七夏「え!?」
時崎「七夏ちゃん、お友達と遊ぶなら、その方が良いかと思って」
七夏「くすっ☆ ありがとうです☆ でも、今日は柚樹さんのアルバムの事で来てくれますので☆」
時崎「え!? そうなの?」
七夏「はい☆」
時崎「ありがとう! 助かるよ!」
七夏「よかったです☆ それまでに、私に出来る事があれば話してくださいね」
時崎「了解!」

朝食を終え、凪咲さんに何か手伝える事がないか訊いてみたけど、特に今は何もないようだ。ここ最近、すぐに自分の部屋に戻っていたので少しの間、居間でのんびり過ごす事にした。

七夏「柚樹さん、今日はのんびりさんですね☆」

早速、七夏ちゃんが声を掛けてきてくれる。いつもと違う事をすると、何か新しい事に気付けるかも知れないな。

時崎「少しだけ・・・ここに来た頃の事とか考えてた」
七夏「くすっ☆ 私は、お部屋に居ますから、何かあったらお声を掛けてくださいね☆」
時崎「ありがとう! 七夏ちゃん!」

新しい出来事はなかったけど、少し懐かしく思える出来事がそこにはあった。

部屋に戻って、写真屋さんへ出かける準備をする。七夏ちゃん、午前中は宿題をすると話していた。宿題の邪魔をしては悪いので、出掛ける前に声を掛けるかどうか少し迷ったけど、何か買い物とかあるかも知れない。

トントンと扉を軽く鳴らす。

時崎「七夏ちゃん! 今、いいかな?」
七夏「え!? ゆ、柚樹さん? ちょっと待ってくださいっ!」

七夏ちゃん、少し慌てている様子だけど、大丈夫なのだろうか?
しばらく待つと、扉が開いた。

七夏「ごめんなさい!」

七夏ちゃんを見て慌てていた理由が分かった。浴衣姿から私服に着替えていたようだ。

時崎「ごめん。着替えていたんだね」
七夏「はい・・・えっと、何かご用ですか?」
時崎「今から、出かけてくるけど、お使いとかあればと思って」
七夏「ありがとうです☆ 私は大丈夫です☆」
時崎「そう」
七夏「えっと、お母さんに訊いてもらえると助かります☆」
時崎「ああ。この後、訊くつもり」
七夏「くすっ☆ お気を付けて☆」
時崎「ありがとう!」

凪咲さんにも、何か買ってくるものが無いかを訊いてみたけど、特に何も無いようだ。俺は、写真屋さんへ急いだ。

 ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆

写真屋さんで、七夏ちゃんへのアルバム用に考えている事を実現できそうか相談してみる。

店員「いらっしゃいませ!」
時崎「おはようございます」
店員「あ、いつもありがとうございます!」
時崎「え!? あ、いえ。こちらこそ」

何度も写真屋さんに来ているので、店員さんも顔を覚えてくれたみたいだ。まあ、昨日も来てたからかも知れないけど、いずれにしても、店員さんと親しくなっておくと、色々と相談もしやすくなると思う。

店員「お客様は、いつも現像をご依頼なさってくださり、感謝しております」
時崎「写真の現像は数日かかるものなのですか?」
店員「申し訳ございません。現在は専門の業者様に依頼しておりますので。当店での現像サービスも検討しましたが、現在は、家庭用のプリンターをご利用なさるお客様が多くなりまして・・・」
時崎「現像の方が長期保存に適していますよね?」
店員「はい。デジタルデータもプリンターの印刷より、現像の方が色あせにくくなります」
時崎「なるほど。ありがとうございます。以前にお話くださいましたアルバムの製本についてですが---」

俺は、店員さんにデジタルアルバムの製本化の正式な依頼と、後から写真を追加できるページを多めに用意してもらうようにお願いした。

店員「はい。かしこまりました。デザインと色は如何いたしましょう?」
時崎「今すぐ決めなければならないでしょうか?」
店員「いえ、実際にご注文くださる時でも大丈夫です。デザインのサンプルをご紹介しておきますね」
時崎「ありがとうございます」

製本アルバムのサンプルが載ったパンフレットを頂いた。後で七夏ちゃんにも見てもらう方が良いと思う。

時崎「あと、相談なのですけど、透明なセロファンに印刷をする事は難しいでしょうか?」
店員「セロファンですか?」
時崎「はい。これなんですけど」

俺は、以前に購入していた透明なセロファンを店員に見せる。

店員「この素材への印刷は難しいですね」
時崎「やっぱり難しいですか?」
店員「透明で似た素材、OHPシートなら如何でしょうか?」
時崎「OHPシート! なるほど!」
店員「こちらのOHPシートでしたら、当店でも印刷に対応していますので」

店員さんが持ってきてくれた透明なOHPシートは、セロファンよりもしっかりとしていて、俺が考えている事が十分実現できそうだ。

時崎「では、印刷をお願いしてよろしいでしょうか?」
店員「ありがとうございます。ただ、透明の素材にインクを乗せますので白色の再現は特色となり、追加費用が発生いたします」
時崎「依頼するデータは、このような黒色の長円グラデーション図形のみですので」

俺は、MyPadから予め作成しておいた透明なセロファンに印刷を行いたい素材データを店員さんに見せた。

店員「かしこまりました。暫くお待ちくださいませ」

店員さんは、OHPシートをプリンターにセットし、OHP用の印刷設定を行ってくれた。

店員「お待たせいたしました。こちらのプリンターに接続して、印刷くださいませ」
時崎「ありがとうございます!」

OHPシートに黒い長円の図形が並んで印刷されてゆく。この印刷された図形が何なのか訊かれる事はなかったけど、店員さんは不思議そうな顔をしていた。

店員「如何でしょうか?」
時崎「十分! 良い出来です!」
店員「ありがとうございます」
時崎「後は、こちらの素材を光沢紙で印刷をお願いできますか?」
店員「光沢紙ですね。こちらから、印刷する光沢紙をお選びくださいませ」
時崎「ありがとうございます」

もうひとつの素材は、比較的しっかりとした、表面材質がサラッと滑りやすい感触の光沢紙を選んで、印刷依頼を行った。

時崎「無理を言ってすみません。今後も、こんな依頼をするかも知れません」
店員「いえ、当店で出来る事があれば、いつでもご用命くださいませ」
時崎「ありがとうございます」
店員「以前にご依頼くださった現像も、今日の夕方か明日には出来上がっていると思います」
時崎「はい。ありがとうございます」
店員「お急ぎでしたら、ご自宅へ連絡いたしましょうか?」
時崎「では、こちらの番号へお願いできますか?」
店員「はい」

俺は、店員さんに携帯電話の番号を伝えた。

時崎「製本アルバムの件でも、よろしくお願いいたします」
店員「かしこまりました」

写真屋さんを後にする頃には結構な時間が経過していた。けど、凪咲さんと七夏ちゃんへのアルバム制作で、具体的な事や素材も印刷できたので手ごたえはあった。少し急いで風水へ戻る。

時崎「ただいま」
凪咲「おかえりなさい。柚樹君、どうかしたのかしら?」
時崎「え!?」
凪咲「少し、慌てているみたいですので」
時崎「もうすぐ午後になるので、少し急いでました。七夏ちゃんに午前中には帰ると話してましたので」
凪咲「そうなの。七夏は自分のお部屋に居ますので。お昼、もう少し待っててくださいね」
時崎「はい。ありがとうございます」

自分の部屋に戻る。机の上に置かれた「C11蒸気機関車の模型」が目に留まる。模型自体は精密に出来ているが、透明な保護ケースに入っているので気軽に持ち運びはできる。

時崎「午後にこれを七夏ちゃんへ渡すんだったな」

俺は「C11蒸気機関車の模型」を手にして、七夏ちゃんの部屋に尋ねた。

七夏「あ、柚樹さん!」
時崎「な、七夏ちゃん!」

丁度、七夏ちゃんも自分のお部屋から姿を見せた。

七夏「お帰りなさい」
時崎「た、ただいま」
七夏「くすっ☆ ほぼ同時でした☆」
時崎「そうだね。七夏ちゃん、これ!」
七夏「あ、模型さん!」

俺は、七夏ちゃんに模型を手渡した。七夏ちゃんはそれを両手で包み込むように受け取る。

時崎「な、七夏ちゃん!?」
七夏「くすっ☆」

模型と一緒に俺の手も優しく包んでくれる七夏ちゃん。一緒に「おむすび」を作った時の事を思い出し、俺の手は少し震えはじめて次の言葉が上手く出てこない。突然現われる虹のように、突然優しく手を差し伸べてくれる「ふたつの虹」。これがどのような意味を持っているのかを考えるが、焦る気持ちの方が勝っていて上手くまとまらない。

時崎「ど、どうしたの? 七夏ちゃん!?」
七夏「えっと、私、お昼のお手伝いがありますので」
時崎「え!? あ、ああ」

七夏ちゃんは模型を部屋に置いて、そのまま一階へ降りてゆく。分からない・・・けど、七夏ちゃんの温もりだけは、はっきりと手に残っている。
素直な七夏ちゃんに対して、思うように言葉が出てこない自分・・・いつになったら、見えてくるようになるのかという不安もあるが、これもいつか自然に繋がってほしいと思うのだった。

第二十六幕 完

----------

第二十六幕をお読みくださり、ありがとうございました!
「次へ」ボタンで、次回予告です!

次回予告

虹を優しく見守る存在。俺もそんな虹と、より強い繋がりを持てる存在になれればと願う。

次回、翠碧色の虹、第二十七幕

「虹の華をつないで」

楽しく弾む「ふたつの虹」を見守る中、俺は、虹が落とす影の事を思い出した。

幕間二十一:小は大を兼ねる!?

幕間二十一:小は大を兼ねる!?

心桜「よしよし、あたしの圧力・・・じゃなくて、みんなのお願いは聞いてくれたみたいだね!」
七夏「???」
心桜「笹夜先輩! 前回は素敵なピアノ演奏、ありがとうございました!」
七夏「あっ! ありがとうです☆ 笹夜先輩!」
笹夜「いえいえ。どういたしまして♪」
心桜「笹夜先輩の演奏は以下の場所で聴けるから、是非聴いてみてねっ!」
心桜「https://twitter.com/SUIHEKIIRO/status/992037862026526720」
七夏「くすっ☆」

 ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆

心桜「話し変わるけど、あたしさー、割と小柄なんだよねー」
七夏「どしたの? ここちゃー?」
心桜「背が低いでしょ!?」
七夏「そうかな? 私よりも少しだけ低いくらいかな?」
笹夜「心桜さん? それって悩まれてるのかしら?」
心桜「いえいえ。そういう訳ではありません」
笹夜「良かった♪」
心桜「小は大を兼ねるからねっ!」
七夏「ここちゃー、それ、逆です」
心桜「そうとも限らないよ!」
七夏「え!?」
心桜「例えば、『メモリーカード』と『マイクロメモリーカード』」
笹夜「確かに、小は大を兼ねてますね・・・逆では使えませんから」
七夏「なるほど☆」
心桜「まさに、小は大を兼ね・・・兼ね・・・カネル~ン!!! ドッドドドッド、ここ! カメルーン!!」
笹夜「まぁ! コー★チャスさんですか?」
心桜「おぉ! 伝わった!」
七夏「ここちゃー、どこから地球儀を持ってきたの?」
心桜「まあ、細かい事は・・・にしても、メモリーカードとマイクロメモリーカードが、つっちゃーにすんなり伝わるとは!!!」
七夏「えっと、柚樹さんがよく使ってるみたいですから☆」
心桜「ほほうー(ニヤリ)。やっぱ恋は乙女を変えるんだねー」
笹夜「七夏ちゃん、頑張ってるって事かしら?」
七夏「はい! 私、頑張ってます! ・・・英語!」
心桜「え!? そっちじゃなくて・・・まあ、そっちも・・・か」
七夏「???」
心桜「そう言えば、マイクロメモリーカードよりもメモリーカードの方が、容量が大きい場合、どうなるんだろ?」
笹夜「まあ!」
心桜「小は大を兼ねて、大は小を兼ね・・・兼ね・・・そんなバカナ!!! ドッドドドッド・・・あ、あれ!? 地球儀どこ~!?」
笹夜「七夏ちゃんが、片付けました♪」
心桜「いつの間にぃ~・・・そんな、そんなバカナ!!! ドッドドドッド、これ! バナナ!!! あってよかった~バナナ!!!」
笹夜「まぁ! また、コー★チャスさんですか?」
心桜「いえ、ここちゃーっす!!!」
笹夜「・・・・・七夏ちゃーん! 助けてくださ~い!」
心桜「あー、笹夜先輩ぃ~引かないで・・・でもピアノは弾いて~」
笹夜「もう・・・心桜さん!!!」
七夏「はい☆ どうぞ♪」
心桜「お♪ 大福!! ありがと! つっちゃー!」
笹夜「七夏ちゃん、ありがとう♪」
心桜「んで、容量が小さい上に、サイズの大きいメモリーカードは、ちょっと切ないねー」
笹夜「そうかしら?」
心桜「え!? どういう事ですか?」
笹夜「大きいメモリーカードしか使えない場合もありますよ」
心桜「でも、メモリーカードアダプターを使えば・・・」
笹夜「ここでは、メモリーカードとマイクロメモリーカード単体の関係であって、アダプターが存在しない場合のお話です」
心桜「なるほど、マイクロメモリーカードとアダプターが協力して・・・大きいSDカードを駆逐する・・・『まったく、この駆逐感は最高だよ!』」
七夏「・・・・・」
心桜「つっちゃー、どしたの?」
七夏「え!?」
心桜「もしかして、『アダプター』は、分かるよね!?」
七夏「はい☆ 柚樹さんがよく使ってます☆」
心桜「ほほうー(ニヤリ)。やっぱ恋は乙女を変えるんだねー」
笹夜「七夏ちゃん、頑張ってるって事かしら?」
七夏「はい! 私、頑張ってます! ・・・英語!」
心桜「あれ? 何この流れ・・・」
七夏「え!?」
心桜「てっきり、笹夜先輩の鋭い切り込みが来ると思ったのに」
笹夜「D.C.かしら!?」
心桜「D.C.つっちゃー!!!」
七夏「DCは・・・ダイレクト・カレント!! 直流です☆」
心桜「違う・・・んだけど、違わない・・・か」
七夏「え!? お父さんがそう話してました」
笹夜「D.C.は、ダ・カーポの事です♪」
七夏「あ、最初に戻るの方ですね♪」
笹夜「正確には『最初から繰り返して』になりますね♪」
心桜「なんで、つっちゃーから直流が出てきたのか、分かんなかったよ」
七夏「え!? アダプターのお話で、D.C.が出てきましたから」
笹夜「なるほど♪ ACアダプターの事かしら?」
七夏「はい☆ いつもお世話になってます♪ 電気をACアダプターでDC・・・直流に変えてるって、お父さんが教えてくれました」
心桜「つっちゃーは、そのアダプターに思い入れでもあるの?」
七夏「えっと、昔、アダプターさんに足の小指をぶつけて・・・どおして、こんなに大きくて黒い塊なのかなーって」
心桜「・・・ごめん」
七夏「え!?」
心桜「悪い事訊いたかなーって」
七夏「そんな事は・・・。それで、アダプターさんが、頑張って電気を直流に変えてくれてるから、楽しく音楽が聴けるんだよって☆」
心桜「なるほどねー」
笹夜「素敵なお話ですね♪」
七夏「延長コードの先に大きなACアダプターさんを付けるのは、ちょっと危険かもです」
心桜「確かに、人が通るところで使うのは控えるべきかもね!」
七夏「はい☆」
心桜「そう言えば昔、テレビゲーム機のACアダプターに錠を付けられた事があったなぁー」
笹夜「まあ! どおしてかしら?」
心桜「テレビゲームで遊び過ぎたため」
七夏「アダプターさんに錠?」
心桜「そう! 金属の所に丸い穴が開いてるよね? その穴に錠を付けられてしまったとさ!」
七夏「えっと・・・」
笹夜「なるほど。ACアダプターが使えなくなるという事かしら?」
心桜「そうです! まずコンセントに挿せないし、無理して使おうとするとショートするというダブルトラップが待っています!」
七夏「とても危険です!」
心桜「あたしは、潔くあきらめたけど、弟は・・・ククッ・・・」
七夏「どしたの? ここちゃー?」
心桜「あははっ! 弟は見事に感電した!」
笹夜「まあ! 大丈夫かしら?」
心桜「大丈夫です! 家庭用電源ですから! 多少ビリビリしますけど、目を覚ますには丁度良いかもねっ!?」
七夏「その後、どうなったの?」
心桜「家のブレーカーが落ちて辺りが真っ暗になった! あたしはこっちで驚いた!」
七夏「もう~」
心桜「その後、二人揃って怒られたよ・・・あたし何もしてないのに!」
笹夜「本当にそうかしら?」
心桜「流石、笹夜先輩! 何もしなかった事で、怒られたんだ。弟が危ない事をしようとしているのを黙って見ていた事、弟が事故を起こす前に止めなければならないってね」
七夏「どおして、丸い穴が開いてるのかな?」
心桜「それなんだけどさ、調べてみたら、ロックをかけて外れないようにするコンセントに対応させるためなんだって!」
七夏「なるほど☆」
心桜「ACアダプターに錠を付けた親は、ある意味間違ってなかったという事か・・・」
笹夜「心桜さん、くれぐれも、お気をつけてくださいね♪」
心桜「はい! って事で、あたしもつっちゃーも頑張る『翠碧色の虹』本編はこちら!」
心桜「http://nanatsuiro.my.coocan.jp/nnt_frma_a.htm」
七夏「私も頑張ります☆」
心桜「うんうん! そして、あたしと笹夜先輩、つっちゃーも頑張る『ココナッツ』宛てのお便りはこちら!」
心桜「http://nanatsuiro.my.coocan.jp/nnt_suiheki_novel.htm#QUESTIONNAIRE」
笹夜「私も微力ながら頑張りますね♪」
心桜「よろしくお願いします! 笹夜先輩!」
七夏「くすっ☆」
心桜「ホントに頑張るべき人が、もう一人いるんだけどねー」
七夏「え!?」

幕間二十一 完

------------

幕間二十一 をお読みくださり、ありがとうございました!
本編の方も鋭意制作中ですので、どうぞよろしくお願い申しあげます!

第二十七幕:虹の華をつないで

第二十七幕:虹の華をつないで

七夏ちゃんと一緒に昼食を頂いた後、居間で少しゆっくりと過ごす。
のんびりさんの七夏ちゃんに合わせる事は、これから先も大切な事になりそうだから。

七夏「柚樹さん、あまりご無理はなさらないでくださいね」
時崎「え!?」
七夏「えっと、お母さんから聞きました」
時崎「凪咲さん、何か話してたの?」
七夏「柚樹さん、少し慌てて帰ってきたって」
時崎「あ、そういう事か! 七夏ちゃんに午前中には帰るって話してたからね」
七夏「連絡してくれれば、慌てなくても大丈夫ですから☆」
時崎「ありがとう。七夏ちゃん!」
七夏「はい?」
時崎「アルバムの件で見てもらいたいのがあるんだけど、いいかな?」
七夏「はい☆」
時崎「じゃあ、部屋で待ってるから!」
七夏「用事が済んだら、すぐに伺いますね☆」
時崎「ああ」

自分の部屋で七夏ちゃんを待つ間、写真屋さんで頂いた製本アルバムのパンフレットを眺める。色々な大きさと、デザインが並んでいる。撮影した写真を沢山収録できる方が良いのだろうけど、あまりよくばると、サイズが大きく重たくなってしまう。以前に凪咲さんから見せてもらった「七夏ちゃんのアルバム」と同じくらいの大きさが良いだろうか・・・。そう言えば、あの時のアルバムの七夏ちゃんと比べれば、随分と笑顔の写真が増えたと思う。アルバムの最初の一枚は、七夏ちゃんと初めて出逢った時に撮影した写真・・・決して笑顔とはいえない表情の硬い写真。凪咲さんへのアルバムだと言う事を考えると、この写真がアルバムの最初を飾るのはどうなのかと少し迷うが、俺にとっては、とても大切な一枚だと言えるので、このまま配置している。

トントンと扉が鳴った。

時崎「七夏ちゃん! どうぞ!」
七夏「え!? あ、はい☆」
時崎「いらっしゃい!」
七夏「くすっ☆ 柚樹さん、どおして分かったの?」
時崎「どおしてって、七夏ちゃんが来てくれるって分かってたからね!」
七夏「お母さんかも知れないです☆」
時崎「七夏ちゃんだって分かるよ!」
七夏「え!?」
時崎「階段を上がってくる音でね!」
七夏「あ、ごめんなさい! 急いで上ってきたので、音が大きかったですか?」
時崎「そうではなくて、その・・・リズムっていうのかな?」
七夏「りずむ?」
時崎「そう、凪咲さんとは違う足音って言うのかな?」
七夏「くすっ☆ 私だと分かってもらえるのは嬉しいです☆」
時崎「もし間違えたら、ごめんね」
七夏「それでも嬉しいです☆」
時崎「どおして?」
七夏「えっと、お母さんと似ているって事になりますので☆」
時崎「なるほど」

七夏ちゃんのこのような、どっちにしても相手を気遣える答え方が出来る所は、見習いたいと思う。

七夏「えっと、私に見てもらいたいものって?」
時崎「ああ、これ!」
七夏「えっと、これは?」
時崎「凪咲さんへの製本アルバムのデザイン。どれがいいかなって?」
七夏「柚樹さんは、どれがいいと思いましたか?」
時崎「俺?」
七夏「はい☆」

なんて答えよう・・・ここにきて先手を打たなかった事を悔やむ。七夏ちゃんは、俺の選んだデザインを反対するとは思えない。ここはやっぱり、七夏ちゃんが純粋にいいなと思えるデザインを選んでもらいたい。

時崎「どれも良さそうで、目移りしてしまって」
七夏「くすっ☆」
時崎「七夏ちゃんは、こういうの迷ったりしない?」
七夏「はい☆ 迷います☆」

七夏ちゃんは、製本アルバムのパンフレットを順番に眺めている。俺は七夏ちゃんの表情を注意深く観察していると、一瞬表情が変わったのを見逃さなかった。そして、その時のパンフレットのページを見て、目星が付いた!

時崎「七夏ちゃん! これ! どうかな?」
七夏「あ、私もいいなって思いました☆」

俺が七夏ちゃんに訊いてみたのは「セブンリーフ」のイメージに近いデザインだった。実は、パンフレットを見た時から、このデザインをマークはしていたけど、他に七夏ちゃんがいいと思うのがあれば、それにしようと思っていた。

時崎「セブンリーフみたいだね」
七夏「あ、柚樹さんもそう思いました?」
時崎「ああ。これにする?」
七夏「そうですね☆ あ、でも、ここちゃーと笹夜先輩にも見てもらって、みんなで一緒に選んだ方がいいかな?」
時崎「じゃあ、このデザインは最有力候補としておくよ!」
七夏「はい☆ 最有力なのですか?」
時崎「高月さんはともかく、天美さんは違うのを選びそうだから」
七夏「くすっ☆」

??「ごめんくださーい!」
??「こんにちは♪」
??「いらっしゃいませ、心桜さん! 高月さん! ちょっと待ってくださいね」

玄関の方から声がした。

七夏「あ、ここちゃーと笹夜先輩が来てくれました☆」
時崎「そうみたいだね!」

七夏ちゃんと俺は一階の玄関へと移動した。

七夏「ここちゃー、笹夜先輩! いらっしゃいです☆」
時崎「いらっしゃいませ! ・・・で、いいのかな?」
心桜「お! お兄さん! どうもー!」
笹夜「こんにちは♪ ご無沙汰いたしております」
時崎「二人一緒ってことは、どこかで待ち合わせでもしてたの?」
心桜「いや、ここへ来る途中で、あたしが笹夜先輩に追いついただけだよ」
時崎「そう」
七夏「お昼はもう済みました?」
笹夜「ええ、少し早めに頂きました♪」
心桜「あたしも同じ!」
凪咲「心桜さん、高月さん、ごゆっくりなさってくださいませ!」
笹夜「はい♪ お邪魔いたします」
心桜「あたしも同じく!」
七夏「くすっ☆」
心桜「んじゃ、早速、お兄さんの部屋でいいんだっけ?」
時崎「ああ。よろしく頼むよ」
七夏「私、お飲み物を持ってまいりますね☆」
時崎「では、こちらへどうぞ!」

天美さんと高月さんを自分の部屋へ招く。やっぱり七夏ちゃんが居ないと、少し落ち着かないな・・・二人は七夏ちゃんと強く繋がっている訳だから。この落ち着かない気持ちは俺と天美さん、高月さんの繋がりがまだ細い事を意味している。二人の様子を見ているとそれぞれの性格が現われてくる。天美さんは机の上に置いてあった製本アルバムのパンフレットに早速気付き、それを見つめている。高月さんは部屋の端に横座りをして、瞳を閉じて休憩している。どう声を掛ければいいのだろうか?

七夏「柚樹さん!」
時崎「七夏ちゃん!」

扉の向こうから七夏ちゃんが来てくれた。俺は扉を開けると同時に安心してしまう。

七夏「お邪魔します☆」
時崎「どうぞ!」

七夏ちゃんは、お飲み物と和菓子を乗せたお盆を持っていた。

七夏「はい☆ どうぞです☆」
心桜「つっちゃー!ありがと!」
笹夜「ありがとう♪ 七夏ちゃん♪」
七夏「くすっ☆」
心桜「お兄さん、これ?」
時崎「え?」

天美さんは、製本アルバムのパンフレットを指差す。

時崎「あ、そうそう、アルバムのデザインをどうしようかと思って。高月さんも、良かったら一緒に」
笹夜「はい♪」

二人は、製本アルバムのパンフレットを眺めながら、何か小声で話している。俺はMyPadのデジタルアルバムを表示して、二人からコメントをもらう準備をする。

心桜「これかな?」
笹夜「ええ♪」
心桜「お兄さん!」
時崎「え!?」
心桜「あたしたちは、これがいいと思ったんだけど」
笹夜「どうかしら?」

俺は二人が決めたデザインを見て嬉しくなった。

七夏「それ、私と柚樹さんもいいなって思ってました☆ ね? 柚樹さん?」
時崎「ああ。みんな一緒の意見で良かったよ!」
七夏「くすっ☆」
心桜「やっぱ、セブンリーフ好きなら、これ一択でしょ!?」
時崎「天美さんも、そう思ったんだ」
心桜「『も』って事は、お兄さんも?」
時崎「一応・・・」
心桜「うわっ!『お兄さんと一緒』かー」
時崎「嫌なのか?」
笹夜「心桜さんっ!」
心桜「いや、昔、そんなテレビ番組があったなーって」
七夏「くすっ☆」

・・・天美さんの言動も七夏ちゃんとは違う方向で読めない。

時崎「で、これに、二人のコメントを貰いたいんだ」
心桜「どれどれ?」
時崎「高月さんも」
笹夜「はい♪」

積極的な天美さんに対して、高月さんは控えめだ。高月さんは七夏ちゃんや天美さんの先輩だけど、実際、七夏ちゃんと高月さんを牽引しているのは天美さんかも知れない。

天美さんにMyPadを渡す。高月さんも一緒にアルバムの写真を眺め始める。

時崎「その、デジタルアルバムの写真で、思ったことに、二人のコメントを貰いたいんだ。特に天美さんと、高月さんが写っている所に」
心桜「なんでもいいの?」
時崎「ああ。でも、凪咲さんへのアルバムって事は意識しておいてほしい」
心桜「うっ、先手を打たれた!」
笹夜「もう! 心桜さん! すみません。時崎さん」
時崎「いや、多少は弾けてもらった方が楽しくなると思うから」
心桜「お兄さん! なかなか理解あるね!」
七夏「くすっ☆」
心桜「つっちゃーのコメントは、ところどころに入ってるんだね」
時崎「そうだね。あ、コメントはこの、ふきだし付箋に書いてもらえると助かるよ」
笹夜「後で、分からなくならないかしら?」
時崎「それは、画像の番号を付箋の裏に書いてもらえれば」
笹夜「なるほど♪」
心桜「つっちゃーも一緒に!」
七夏「はい☆」

三人は、MyPadを眺めながら、思い出話を楽しみはじめた。

心桜「これは?」
七夏「あ、それは柚樹さんと初めて出逢った時かな☆」
笹夜「ここから、始まったのかしら?」
七夏「え?」
笹夜「いえ♪」
心桜「このつっちゃー、あたしは見慣れてるけどさ、つっちゃーのコメントと表情が一致しないんだよねー」
七夏「・・・・・」

天美さんは、ストレートに思った事を話す。俺が思っても、なかなか訊けない事を天美さんは七夏ちゃんに話したりするので、七夏ちゃんの事をもっと知るには、天美さんの助けが必要だ。

笹夜「『初めて撮影してもらいました☆ 少し、とてもドキドキです☆』私は素敵だと思います♪」
七夏「笹夜先輩、ありがとです☆」
心桜「さ、笹夜先輩! そういうのさらっと読み上げますか!?」
時崎「くくっ!」
心桜「あ、お兄さんっ! 笑った?」
時崎「天美さんからは、まず出てこない台詞だなと思って」
心桜「『初めて撮影してもらいました☆ 少し、とてもドキドキです☆』どうだ!」
時崎「おっ! でも、天美さん耳、赤くなってるよ!」
心桜「うっ! つ、次だ次~」
七夏「もう! ここちゃー!」

天美さんの「弱点」が少しだけ見えた気がする。

心桜「おっ! これは! 岬で撮影?」
笹夜「まあ♪ 七夏ちゃん、素敵な表情♪」
七夏「くすっ☆」

俺からは、MyPadの画面が見えないので、どの写真の事か分からないが、天美さんの言葉でなんとなく想像ができた。七夏ちゃんお気に入りの場所で撮影した写真の事だろう。

心桜「これはみんなで、お出掛けした時か・・・笹夜先輩、この時、変な人にナンパされたんだよね?」
七夏「え!? そうなの?」
笹夜「こ、心桜さんっ!」
心桜「あっ、えっと・・・」
時崎「高月さんは、駅の場所を聞かれただけだよ。それを見た俺が、勝手に高月さんが絡まれていると勘違いしただけ」
七夏「そうなのですね☆」
心桜「そ、そうそう!」
笹夜「時崎さん。あの時は、すみませんでした」
時崎「いや、こっちこそ」
心桜「あたしも、ごめんなさい!」
時崎「ほんと、気をつけてよ!」
心桜「(ありがと。お兄さん!)」
七夏「???」
心桜「おっ! 笹夜先輩! 初登場! 遂にアルバムデビューだね!」
笹夜「え!?」

天美さんの話から「夕陽を眺めている高月さん」の写真の事だと分かった。

心桜「笹夜先輩!『初めて撮影してもらいました☆ 少し、とてもドキドキです☆』だね!」
笹夜「まあ!」
七夏「ここちゃー、夕日を眺めている笹夜先輩が、そんな事を話すの?」
心桜「あははっ! 冗談だって!」
笹夜「いつの間にか、撮影されていたのですね」
時崎「すまない」
笹夜「いえいえ♪」
心桜「あたしが、笹夜先輩の撮影をお願いしたんだよ」
笹夜「そうだったの・・・えっと・・・」
七夏「『素敵な笹夜先輩! これからもよろしくです☆』かな?」
笹夜「七夏ちゃん、ありがとう♪ こちらこそ♪」
心桜「これは、皆で海に出かけた時だね!」
七夏「はい☆」
心桜「三人決まってるねー! これは殿堂入りじゃない!?」
笹夜「大袈裟です」
心桜「笹夜先輩がパレオをキャストオフれば、間違いなく殿堂入だよ!」
笹夜「心桜さんっ!」
七夏「私、この写真の笹夜先輩、とっても素敵だと思います☆」
心桜「それは認めるよ! 笹夜先輩はホント、白い肌、長い黒髪、スタイル抜群な上にストラッピーでパレオ装備なんて、ラスボスの後に登場する女神様か何かですか!?」
笹夜「褒められてるのかしら?」
心桜「もちろん!」
笹夜「なんだか、複雑です」
心桜「あはは! そんな無敵の笹夜先輩にも、弱点があったんだよねー」
七夏「こ、ここちゃー!」
笹夜「あの時は、心桜さんと七夏ちゃんにお世話になりました♪」
心桜「いえいえ! でも、弱点が無くなったら、ますます無敵じゃないですかっ!」
笹夜「まだまだ、苦手な事も沢山あります」
心桜「お! これは、浮き輪をキャストオフって泳いでる笹夜先輩! ・・・よりも、つっちゃーの方が目立ってるんだけど」
七夏「えっと、ごめんなさい☆」
心桜「いやいや、面白い一枚だねー。なんてコメントしようかな?」
笹夜「『海で泳ぐ楽しさを教えてくれて、ありがとう♪』かしら?」
心桜「うんうん!」
七夏「くすっ☆」
心桜「これは、皆で花火だね!」
七夏「はい☆」
心桜「ひとだま花火の不気味さが蘇ってきたよ」
笹夜「心桜さん、そういうの好きなのかしら?」
心桜「ま、面白くて楽しければねっ!」
七夏「あ、これは、みんなで線香花火です☆」
心桜「この一枚も、殿堂入りだねー」
笹夜「ええ♪ 七夏ちゃんと凪咲さん、よく似ていて素敵です♪」
七夏「くすっ☆」
心桜「そういえば、花火で思い出したけど、今度どうする?」
七夏「え!?」
心桜「花火大会!」
七夏「みんなで浴衣がいいな」
心桜「え!?浴衣!?」
七夏「ここちゃー浴衣あまり着ないから・・・」
笹夜「心桜さん、この時は浴衣を着ていますけど」
心桜「まあ、つっちゃーの家の中ならいいんだけどね・・・浴衣で外を出歩くのは・・・」
七夏「くすっ☆」
笹夜「私も心桜さんと七夏ちゃんの浴衣が見てみたいかしら?」
心桜「あたしも笹夜先輩の浴衣姿、楽しみだよ!」
笹夜「でも、七夏ちゃんの家まで浴衣で来るのは・・・」
心桜「だったら、つっちゃーの家で着替えれば? そのままお泊りも!」
笹夜「まあ! いいのかしら?」
七夏「はい☆」
心桜「よし! またみんなで泊まろう!」
七夏「くすっ☆ 私、お母さんにお願いしてみますね☆」
笹夜「ありがとう。七夏ちゃん♪」
心桜「でも、浴衣、家にあったかなぁ」
七夏「私ので良かったら」
心桜「それもいいんだけど、昔みたいなことがあったら」
七夏「あ・・・」
時崎「?」
笹夜「何かあったのかしら!?」
心桜「うん。昔、つっちゃーの浴衣を借りて花火大会に出かけたんだけどさ。その時、屋台の隅で、鎖がからまって身動きが取れなくなっていた犬を見つけたんだ。けど、屋台の買い物で両手がふさがっていたから、足で鎖を解こうとしたら、その犬に噛まれた」
笹夜「まあ! 大丈夫だったの?」
心桜「噛まれたのは浴衣の裾のみで、怪我はなかったけど、驚いて足を振り回した時に裾がビリーッて裂けてしまったんだ。ま、おおちゃくしたあたしが悪いんだけどさ。あの時はごめん。つっちゃー」
七夏「いえ、ここちゃー怪我しなくて良かったです」
笹夜「そうなの・・・では、せっかくですから、心桜さんの浴衣を買いにゆくのはどうかしら?」
心桜「え!? わざわざ買うの?」
笹夜「(心桜さん、七夏ちゃんに協力するって・・・)」
心桜「(あ、そだったね)」
時崎「?」
心桜「よし! では、後日、見にゆく計画としますか!」

その後も三人は、MyPadを見て楽しそうに話しながら、ふきだし付箋にコメントを記してくれた。

七夏「柚樹さん☆ ひととおり出来ました☆」
時崎「みんなご協力、ありがとう!」
笹夜「どういたしまして♪ 私も楽しめました♪」
心桜「だねっ! でも、あたし思ったんだけどさ」
時崎「え!?」
心桜「このMyPadに直接コメントを書いてもよかったんじゃない?」

流石、鋭い天美さん。確かにデジタルアルバムに直接コメントを記してもらったほうが手っ取り早いけど、俺は製本アルバムにはデジタルとアナログを混在させようと計画している。

時崎「そうなんだけど、手書きのコメントも必要なんだよ」
心桜「そうなの? 後で、デジタル入力するんじゃないの?」
時崎「今、デジタルアルバムで見てもらっている写真のいくつかは、実際に現像した写真と置き換える予定なんだ」
笹夜「なるほど♪」
時崎「全ての写真を現像するのは費用がかかるから、印刷と、本物の写真、そしてコメントもデジタルとアナログで色々と詰め込みたいんだ」
心桜「そういう事ね・・・色々と考えてるんだね」
時崎「まあね。写真の現像やアルバムの製本は、3日くらいかかるらしいから、俺がこの街に居る期間よりも少し早めに仕上げなければならなくて」
七夏「・・・・・」
笹夜「七夏ちゃん!?」
心桜「製本依頼をした後に撮影した写真はどうなるの?」
時崎「アルバムの最後に、後から写真を追加できる余白のページを用意してもらえる事になってるから」
心桜「なるほど、流石! 写真の事になると隙がないね!」
時崎「まだ、完成してないから焦ってはいるんだけど」
心桜「ま、あたしたちで出来る事があれば、引き続き協力するから!」
時崎「ありがとう! 心強いよ!」
心桜「笹夜先輩! つっちゃーも同じだよねっ!」
笹夜「ええ♪」
七夏「え!? は、はいっ!」
時崎「デジタルアルバムは、完成したら七夏ちゃんのMyPadにも贈るつもりだから、そっちでも見れるようになるよ」
七夏「ありがとです☆」
心桜「んー! こんな作業をずっと続けると、肩が凝るよねー。体を動かしたくなってくるよ」
七夏「体を動かせる遊び・・・」
心桜「つっちゃー! ラケット持ってたよね?」
七夏「はい☆ お庭で遊びますか?」
心桜「そだね♪ お天気もいいし!」
七夏「柚樹さん! 笹夜先輩も、ご一緒にどうですか?」
笹夜「ラケットって?」
心桜「バドミントンだよ!」
時崎「なるほど、俺は構わないよ!」
笹夜「私にできるかしら?」
心桜「気軽に楽しめると思うよ!」

 ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆

皆で一階の庭まで移動する。

心桜「うんうん、いい天気! 風も吹いてないから、絶好のバドミントン日和だねっ!」
笹夜「そんな日和があるのかしら?」
心桜「あるある!」
七夏「ここちゃー! これかな?」
心桜「ほら! あった!」
笹夜「『ある』が別の方に繋がって---」
心桜「笹夜先輩! 難しい事考えないで気軽に参りましょー」
笹夜「は、はい!」

天美さんは、七夏ちゃんからラケットを受け取ると、軽く素振りを始める。その動きがとても素早いので、七夏ちゃんや他の人は付いてゆけるのかと思ってしまう。

心桜「うーん・・・」
七夏「どしたの? ここちゃー?」
心桜「やっぱ、普段使ってるのより重いなーと思って」
七夏「これじゃ無理かな?」
心桜「いやいや、ハンデにもなるし、これで丁度いいよ!」
七夏「くすっ☆」

天美さんは、七夏ちゃんから羽・・・シャトルを受け取ると、真上にめがけて打ち放った。

心桜「よっ!」
笹夜「まあ!」

天高く上ったシャトルは、再び天美さんのところに落ちてきた。

心桜「お帰りいてらっ!」
七夏「くすっ☆」

再びシャトルは天高く・・・これは、空を相手に一人でラリーしている事になる。

心桜「いらっしゃーい!」
時崎「凄いな」

俺は、そんな天美さんの様子を撮影した。
シャトルは天美さんと空とを何往復かした後、天美さんはシャトルを優しくラケットで受け止めた。それを見た俺は、天美さんには絶対勝てないなと思った。

心桜「うん、上空も風はないみたいだから、純粋に楽しめるよ!」

なるほど。天美さんの一人ラリーは、風の状態のチェックをしていたわけか。色々と俺の知らない事があって新鮮だ。

心桜「んじゃ、つっちゃーお願い!」
七夏「はい☆」

七夏ちゃん、大丈夫なのかな?

笹夜「七夏ちゃん、大丈夫かしら?」
時崎「高月さんも、そう思う?」
笹夜「時崎さんも?」
時崎「ああ。だって、さっきの天美さんを見たら・・・」
笹夜「ええ」

俺と高月さんは、縁側に座って、天美さんと七夏ちゃんの様子を眺める。七夏ちゃんが天美さんのように素早くラケットを振る姿は想像できないけど・・・。

心桜「よっ!」
七夏「わぁ!」
心桜「ほいっ!」
七夏「えいっ!」
心桜「ほっ!」
七夏「ひゃっ!」
心桜「それっ!」
七夏「えっと!」

なるほど。天美さんの打ち方を見ると、すくい上げるようにシャトルを七夏ちゃんへ送っている・・・これは、かなり手加減をしている事が素人目にも分かる。けど、七夏ちゃんはとても楽しそうだ。なんだかんだと言いながら、天美さんなりの気遣いが出来ているんだなと思う。その様子を眺めながら、俺は楽しそうな二人を撮影する。しばらくすると、七夏ちゃんがラケットを持ってこっちに来た。

心桜「笹夜先輩!」
七夏「どうぞです☆」
笹夜「え!? 私!? 時崎さんではなくて?」
心桜「お兄さんは、笹夜先輩を撮影!」
時崎「了解!」
七夏「くすっ☆」

高月さんが居た場所に七夏ちゃんが座ってきた。

時崎「七夏ちゃん、お疲れ様!」
七夏「はい☆ 体がぽかぽかです☆」

手で、顔をパタパタと扇ぐ七夏ちゃん・・・これも普段はあまり見られない姿で可愛いと思ったので、一枚撮影させてもらった。

七夏「ゆ、柚樹さん!」
時崎「あ、ごめん」
七夏「私よりも、笹夜先輩です!」
時崎「そ、そうだね!」

心桜「よっ!」
笹夜「まぁ!」
心桜「ほいっ!」
笹夜「えいっ!」
心桜「ほっ!」
笹夜「きゃっ!」
心桜「それっ!」
笹夜「えっと!」

天美さんと、高月さんを見ていると、七夏ちゃんの時と同じような状態だ。天美さんは七夏ちゃんの時よりも、もっと手加減しているように見え、シャトルはふわりと優しく高月さんに届けられている。それでも、高月さんは少し慌てているように見える。高月さんの長い髪とスカートが大きく舞って優美なんだけど、これは身動きが取りやすそうな格好の天美さんに対しても、バドミントンに対しても不利だろう。

七夏「笹夜先輩! 頑張って!」
笹夜「え!? あっ!」
七夏「あっ! ごめんなさい!」
笹夜「いえ」
心桜「笹夜先輩! 試合中によそ見したら命取りだよ!」
笹夜「すみません」
心桜「いやいや、今は試合中じゃないからね! 気楽に楽しみましょう!」
笹夜「はい♪」

しばらく眺めていると、高月さんは次第に慣れてきたのか、動きに余裕が出てき始めた。それはそのまま表情へと現われ、高月さんも楽しそうにシャトルを天美さんへ送っている。俺はそんな楽しそうな二人を撮影する。

笹夜「ふぅー」
心桜「笹夜先輩、お疲れ様! 海で一緒に泳いだ時も思ったけど、飲み込み早いね!」
笹夜「そ、そうかしら?」
心桜「うん。本格的にやれば、いいとこまで行きそうだけど?」
笹夜「でも、既に息が続かなくて・・・」

少し、疲れている様子の高月さんに対して、天美さんは全く疲れてる様子はない・・・そりゃ手加減してるから、余裕なんだろうな。

心桜「んじゃ、次! お兄さんっ!」
時崎「え!? 俺も!?」
心桜「もちろん! 写真機置いてこっちっ!」
笹夜「時崎さん、お願いします♪」
時崎「あ、ああ」

高月さんから、ラケットを受け取る。

七夏「柚樹さん、頑張ってください☆」
時崎「ありがとう!」
心桜「よくぞ、ここまで辿り着きましたな・・・ほいっ!」
時崎「え!? おっと」
心桜「よっ!」
時崎「うっと!」
心桜「ほっ!」
時崎「こう!」

天美さんは、俺に対しても手加減をしてくれているようだ。天美さんからのシャトルをアドリブでなんとか返している状態だ。

心桜「スマッ!」
時崎「うわぁ!」
七夏「あ!」
笹夜「まあ!」

・・・と思ったら、天美さんから鋭い一撃が放たれた。それまでの、ゆるくふわっとしたシャトルとは別物で、一直線に飛んできて俺の横をかすめてゆく・・・その時、シャトルから風を切るような音が耳に届いた。

七夏「ここちゃー!」
時崎「あ、天美さん・・・今のは、スマッシュ!?」
心桜「あはは! ラスボスには手加減無用!!!」
時崎「俺、そういうポジションなのか!? 高月さんは?」
心桜「ラスボス後の女神様だよ!? さっき言わなかった?」
時崎「そ、そうか・・・」
心桜「ごたごた言わないっ! はっ!」
時崎「よっ!」

俺は、いつ飛んでくるか分からない、天美さんのスマッシュに備えなければならなくなったようだ。

心桜「っ!」
時崎「おわぁ!」

・・・天美さんのスマッシュ! これは無理だ。早過ぎる! でも、今ので分かった事がある。天美さんがスマッシュを放つ時は、ラケットの構え方が違う・・・そう、大きな一撃には、それなりの予備動作を伴うのが世の常だ。

心桜「お兄さん! 頑張って打ち返してよ!」
時崎「あ、ああ! すまない」
心桜「ほいっ!」
時崎「よっ!」
心桜「はいっ!」
時崎「おっ! ・・・!!!」

・・・来る! 次は鋭い一撃が来ると分かったので、俺は身構えた!

心桜「スマッ!」
時崎「!!!」

・・・あれ!? シャトルが消えた!? 漫画の魔球とかじゃあるまいし、そんな事が現実にあるのか!?

心桜「あら!?」
時崎「え!?」
笹夜「まあ!」
七夏「えっと」
心桜「あーはは・・・だめだこりゃ!」
時崎「おお! 刺さってる!?」

天美さんのスマッシュによって、シャトルはラケットの網に突き刺さっていた。どおりで消えたように思えた訳だ。

心桜「ガットが、ゆるゆるになってるねー」
時崎「シャトルが消えたかと思ったよ」
心桜「あははっ! 消える魔シャトルだねっ!」
時崎「シャトルがラケットの網に突き刺さるとは・・・凄い」
心桜「競技用のラケットじゃないから、ガットもゆるめなんだよね」
時崎「ガットって?」
心桜「あ、ラケットの網の事だよ!」
時崎「なるほど」

天美さんはラケットに突き刺さったシャトルを丁寧に取りはずして、七夏ちゃんのところへ持ってゆく。

心桜「つっちゃー、頑張れ!」
七夏「え!?」
心桜「今度は、お兄さんと楽しみなよ!」
時崎「え!?」
笹夜「七夏ちゃん、頑張って♪」
七夏「は、はい☆」
時崎「よ、よろしく!」
七夏「で、では・・・えいっ!」
時崎「おっと・・・」
七夏「ひゃっ☆」
時崎「だ、大丈夫!?」
七夏「ごめんなさいっ!」

七夏ちゃんと一緒にバドミントンを楽しんで分かった事・・・俺と七夏ちゃんの場合、ラリーが殆ど続かないことから、天美さんは、かなり気を遣ってシャトルを相手に送っていたという事になる。

時崎「なんか、うまく打てなくてごめん」
七夏「いえ、私のほうこそ」
凪咲「七夏! ちょっといいかしら?」
七夏「あ、はーい! 柚樹さん!」
時崎「ああ、ありがとう。楽しかったよ!」
七夏「はい☆ ちょっと、失礼しますね☆」

七夏ちゃんからラケットを受け取る。

心桜「お疲れーお兄さん!」
笹夜「お疲れ様です♪」
時崎「天美さんが凄いという事が分かったよ」
心桜「あはは! ありがと。あたし、ラケット片付けてくるね!」
時崎「あ、すまない」

天美さんは、俺からラケットを受け取り、そのまま納屋のほうへ移動した。

笹夜「時崎さん」
時崎「え!?」
笹夜「七夏ちゃんの事、これからもよろしくお願いします」
時崎「それって?」
笹夜「七夏ちゃん、たぶんですけど、時崎さんがこの街から居なくなる日の事をずっと気にしているように思えて・・・その・・・」

以前に、高月さんが話していた七夏ちゃんの影の事だと分かった。確かに、いつまでこの街に居るかという事を七夏ちゃんにも、凪咲さんにも話していない。俺自身、具体的な日付を決めている訳ではないのだが、このままでは良くない事は分かっている。

時崎「ありがとう、高月さん。俺自身、まだいつまでこの街に居るかを決めかねているんだけど、限度は夏休みが終わる一週間くらい前になるかなと思ってる」
笹夜「七夏ちゃんには?」
時崎「まだ、話していない・・・具体的な日が決まったら話そうと思っている」
笹夜「そう・・・」
時崎「高月さん!」
笹夜「はい!?」
時崎「今後も、七夏ちゃんの事で相談する事があるかも知れないけど」
笹夜「ええ♪ わたしで良ければ♪」
時崎「ありがとう!」
心桜「ふー! あれ? つっちゃーは?」
時崎「凪咲さんと、まだ話しているみたいだけど」
七夏「お待たせしました どうぞです☆」
心桜「おっ! 冷茶! ありがとー!」
笹夜「ありがとう♪ 七夏ちゃん♪」
七夏「柚樹さんも、どうぞです☆」
時崎「ありがとう、七夏ちゃん!」
七夏「えっと、明日、お泊りのお客様が来る事になりました☆」
時崎「そうなんだ!」
七夏「あと、花火大会の時は、ここちゃーと笹夜先輩のお泊りも大丈夫です☆」
心桜「わーい!」
笹夜「まあ! ありがとう♪」
心桜「明日、お客さんが来るんだったら、今日はこれでお開きにしますか!」
笹夜「はい♪」
時崎「じゃ、二人を送ってゆくよ!」
心桜「いいよいいよ。まだ明るいから大丈夫!」
笹夜「私も大丈夫ですので♪」
時崎「そう?」
笹夜「(時崎さん、七夏ちゃんの事よろしくお願いします)」
時崎「え!?」

高月さんが囁いた事、それは、自分の事よりも七夏ちゃんと一緒に過ごす時間を大切にしてほしいという意味だと思った。

心桜「んじゃ、ささっと帰り支度しますか!」
笹夜「はい」

 ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆

心桜「お邪魔しましたー!」
凪咲「心桜さん、高月さん、またいらしてね!」
笹夜「はい♪ ありがとうございます!」
心桜「んじゃ、つっちゃーまたね! お兄さんも!」
七夏「はい☆」
時崎「ああ」

玄関で天美さんと高月さんを見送る。

七夏「私、明日のお客様の準備をしますね☆」
時崎「俺も手伝える事があったら声を掛けて!」
七夏「はい☆ ありがとうです☆」

明日は、俺以外のお客様が来る事になった。民宿風水としては、久々のお泊り客という事で、七夏ちゃんも張り切っているようだ。どんな人なのかは分からないけど、皆で楽しく過ごして、良い思い出が残せればいいなと思う。

時崎「俺も頑張らなくては!」

部屋に戻り、天美さん、高月さんから貰ったコメントをMyPadに入力する作業と、七夏ちゃんへのアルバム制作を行いながら、この街への滞在期間の事も考え、より一層、七夏ちゃんとの時間、そして、七夏ちゃんの大切なお友達である天美さん、高月さんとの繋がりも大切にしたいと思うのだった。

第二十七幕 完

----------

第二十七幕をお読みくださり、ありがとうございました!
「次へ」ボタンで、次回予告です!

次回予告

空はいつも晴れている訳ではない。雨の日だってある。そんな事は分かりきっているはずだったのに・・・。

次回、翠碧色の虹、第二十七幕

「曇り時々虹!?」

雨上がりに虹は現われる。「ふたつの虹」もそうであると信じたかったのだが・・・。

幕間二十二:得意な事ってありますか?

幕間二十二:得意な事ってありますか?

心桜「ふぅー、久々に本編殴り込み・・・じゃなくて登場だよ!」
七夏「ここちゃー! お疲れ様です!」
笹夜「はぁ・・・少し疲れました」
心桜「笹夜先輩! お疲れ様です!」
笹夜「いえいえ。心桜さん、バドミントンでは、かなり気を遣ってくださってありがとう♪」
心桜「あはは! みんなが楽しめないとねっ!」
七夏「ここちゃーは楽しめたの?」
心桜「もちろん! スマッシュも打てたし♪」
笹夜「見てたけど、本当に速かったです!」
七夏「あれは、打ち返せるのかな?」
心桜「うん。相手によっては普通に返って来るよ!」
笹夜「まあ!」
心桜「笹夜先輩だってピアノ演奏、凄いじゃないですか!」
笹夜「そうかしら!?」
七夏「笹夜先輩のピアノ、とっても素敵です☆」
心桜「あたしには笹夜先輩の真似は出来ないからね!」
笹夜「それは、私も・・・七夏ちゃん?」
心桜「どしたの? つっちゃー?」
七夏「ここちゃーはバドミントンが上手で、笹夜先輩はピアノが素敵で・・・でも、私には、そんな凄い特技がないなって思って・・・」
心桜「つっちゃーの特技・・・そう言われれば・・・無いかも!?」
笹夜「こ、心桜さんっ!」
七夏「うぅ・・・」
心桜「つっちゃーは、メインヒロインという特技があるよ!」
七夏「それって、特技ではなくて役割なのでは?」
心桜「あはは・・・そうだね、あ、お料理!」
笹夜「はい♪」
七夏「お料理は、まだまだお勉強中ですので・・・」
心桜「そう? 十分美味しいと思うよ!」
笹夜「ええ♪」
心桜「つっちゃーは小説の事・・・結構詳しいよねっ!」
七夏「それってあまり人の役には・・・」
笹夜「七夏ちゃん。特技って言うのは、人の役に立つかどうかではなくて、自分が他の人よりも優れていることであればいいの」
七夏「笹夜先輩・・・」
心桜「あ、つっちゃー潜行があった!」
笹夜「せんこう?」
心桜「素もぐりは得意だよね!」
七夏「えっと・・・そんなに得意では・・・」
心桜「でも、あたしよりも上手いよ!」
笹夜「そう言えば、七夏ちゃんに教えてもらいたいなって・・・いいかしら?」
七夏「え!? 笹夜先輩?」
心桜「ほら! つっちゃーの特技だって、笹夜先輩の為になるんだから、自信持ちなよ!」
七夏「ありがとです☆」
心桜「また、みんなで海に遊びに行きたいね!」
笹夜「ええ♪」
心桜「夏と言えば、海!!!」
笹夜「山も素敵だと思います♪」
心桜「え!? 笹夜先輩!? 登山されるのですか!?」
笹夜「いえ・・・ただ、海か山で意見が分かれたりしないかしら?」
心桜「確かにそれはあるけど、登山は結構キツイよ」
笹夜「そんな本格的な事ではなくて、近所の低い山とかかしら?」
心桜「山と言うよりも丘だね!?」
笹夜「はい♪ そうかも知れません♪」
心桜「つっちゃーお気に入りの場所で、のんびり過ごすのもいいかもね?」
七夏「え!?」
笹夜「七夏ちゃん、お気に入りの場所って!?」
心桜「ほら! さっき見た写真の中にあったでしょ!?」
笹夜「あ、街と海が見渡せる岬かしら?」
心桜「そうそう!」
七夏「くすっ☆」
心桜「あたしは、この場所、つっちゃーと何度も来てるからね」
七夏「今度は笹夜先輩と一緒がいいな♪」
笹夜「ありがとう♪ ぜひお願いします♪」
心桜「この場所だと、つっちゃーの素もぐりは発揮できないけど、手作りお弁当が楽しめるよ!」
笹夜「それは、とても楽しみです♪」
七夏「ありがとです♪」
心桜「つっちゃーだって、沢山いいところあるんだから、これからも頑張るんだよ!」
七夏「はい☆」
心桜「若女将としても期待してるよ!」
笹夜「まあ!」
七夏「え!? えっと・・・」
心桜「ついでに、お兄さんとも頑張るんだよ!」
七夏「あっ! その・・・」
笹夜「心桜さんっ!」
心桜「あははっ!」
時崎「呼んだ?」
七夏「ひゃっ☆」
時崎「うわっ!」
七夏「ゆ、柚樹さんっ! ご、ごめんなさいっ!」
時崎「七夏ちゃん!? どおしたの?」
心桜「あ、つっちゃー逃げた! お兄さんさぁ・・・それ、笹夜先輩の特技だよ!」
笹夜「え!?」
時崎「特技!? 高月さんの? 何のこと?」
笹夜「なんでもないです! 心桜さんっ!」
時崎「???」
心桜「ステルスお兄さん! これからも頑張るんだよ!」
時崎「え!? あ、ああ、勿論」
心桜「お兄さん、せっかく久々の幕間登場なんだから、何か言う事ないの?」
時崎「言う事?」
心桜「っそ!」
時崎「えっと、天美さん、高月さん、これからもよろしくお願いします!」
笹夜「はい♪ こちらこそ♪」
心桜「よろしくね! ・・・って、そうじゃなくてさぁ、なんかこうもっと・・・あ゛ー」
笹夜「こ、心桜さんっ!」
心桜「はいはい! って事で、お兄さんも頑張る『翠碧色の虹』本編はこちら!」
心桜「http://nanatsuiro.my.coocan.jp/nnt_frma_a.htm」
時崎「え!? 突然何!?」
心桜「宣伝だよ! 宣伝っ! そして、あたしと笹夜先輩、つっちゃーも頑張る『ココナッツ』宛てのお便りはこちら!」
心桜「http://nanatsuiro.my.coocan.jp/nnt_suiheki_novel.htm#QUESTIONNAIRE」
笹夜「時崎さんも頑張ってくださいね♪」
時崎「なんかよく分からないけど、頑張るよ!」
心桜「うんうん! 期待してるよ!」
笹夜「七夏ちゃん、居ないままなのですけど・・・」
心桜「おーい! つっちゃー! どこに~って、これ前にもなかったっけ!?」
時崎「おいおい天美さん! あの時は真面目に心配したんだよ!」
心桜「ごめん! お兄さんも、頑張ってるんだもんね!」
時崎「(七夏ちゃんの苦労が、少し分かった気がする)」
心桜「ん? 何か言った?」
時崎「いや、何も・・・」

幕間二十二 完

------------

幕間二十二 をお読みくださり、ありがとうございました!
本編の方も鋭意制作中ですので、どうぞよろしくお願い申しあげます!

第二十八幕:曇り時々虹!?

第二十八幕:曇り時々虹!?

蝉の目覚ましに起された。昨夜は早く布団に入ったが、七夏ちゃんの影の事を考えていたら、なかなか眠れなかった。高月さんは俺に「七夏ちゃんの事をお願いします」と話していた。七夏ちゃんが、俺の滞在期間の事を気にしてくれているとしたら、とても嬉しく思う。だからこそ、いつこの街を離れるかという事を切り出しにくいのだ。その時まで普段どおり一緒に過ごしたいと考える。具体的に帰る日を決めると、その時からカウントダウンが始まってしまう事になる・・・どうすればよいのだろうか?

トントンと扉がなった。

七夏「柚樹さん! おはようございます☆」

七夏ちゃんだ。俺が起きるのが遅いと起しに来てくれるようになった。今日は蝉の声にかき消されて、七夏ちゃんの足音が分からなかった。このまま布団の中に居るとどうなるのだろうか? 七夏ちゃんをあまり困らせてはならないと思いつつ、高月さんの話してた、少しでも一緒に過ごす時間を大切にするという事も考える・・・それ以前に正直、まだ瞼が重たい。

時崎「・・・・・」
七夏「えっと、柚樹さん! 起きてますか?」
時崎「・・・・・」
七夏「柚樹さん! お邪魔してもいいかな?」
時崎「・・・・・」

七夏ちゃん、何か小声で話してるみたいだけど、扉越し、蝉の声、布団の中という三つの壁があって、言葉として認識できない。

七夏「柚樹さん!」

すぐ近くで七夏ちゃんの声がした。

時崎「な、七夏ちゃん!?」
七夏「ひゃっ☆ ごめんなさいっ!」
時崎「いつの間に部屋に入ったの?」
七夏「えっと、今ですけど・・・その・・・柚樹さん、お返事が無いから・・・」

七夏ちゃんは、そっと扉を開けて入って来たようで、全然分からなかった。

時崎「ごめん。ちょっとまだ眠たくて・・・」
七夏「お体の具合が良くないの?」
時崎「それは、大丈夫。ありがとう」
七夏「よかった☆」
時崎「もう少し、休んだら起きるよ!」
七夏「はい☆ 朝食も出来てますから☆」
時崎「ありがとう! 七夏ちゃん、先に食べてていいから。ごめんね」
七夏「いえ。では、また後で☆」

敢えて、いつもと違う事をしてはみたけど、これでは七夏ちゃんに迷惑を掛けるだけだ。喜んでもらう事を考えなければならない。今日は、午後からお泊りのお客さんが来る事になっているから、七夏ちゃんと一緒に過ごせる時間は少なくなると思う。いや、俺も一緒に七夏ちゃんと凪咲さんを手伝えばいいのか・・・そうすれば、七夏ちゃんと一緒に過ごせる事になる。手伝える事があれば・・・だけど。

まだ眠たいけど、そんなにのんびりしてはいられないので、起きて一階へと向かう。直弥さんは、既にお仕事へ出かけているようだ。

時崎「おはようございます!」
七夏「あっ! 柚樹さん! おはようございます☆」
凪咲「柚樹君、おはようございます」
七夏「柚樹さん! どうぞこちらへ☆」
時崎「ありがとう! 七夏ちゃん!」

七夏ちゃんは、お料理を用意してくれる。今日はいつもよりも張りきっているように見えた。まあ、お客さんが来るから気合が入っているのかも知れない。民宿風水で「女将として働く七夏ちゃん」は普段の七夏ちゃんの一面でもあるから、アルバムに加えるのも大切な事かも知れないな。

七夏「柚樹さん、ごはん、おかわりしますか?」
時崎「ああ。ありがとう!」
七夏「くすっ☆」

七夏ちゃんは、ご飯をよそってくれる。その様子を一枚撮影した。

七夏「はい☆ どうぞです☆」
時崎「ありがとう!」
七夏「柚樹さんは、いつも写真機を持ってますよね☆」
時崎「今も、可愛い女将さんを見かけたから一枚撮影させて貰ったけど、大丈夫かな?」
七夏「あっ! ・・・えっと・・・大丈夫・・・だと思います・・・」

七夏ちゃんは、そう言い残しながら、台所の方へ戻ってしまった。無断での撮影は、ほどほどにしておかなければならないかも知れないな。

時崎「凪咲さん、ごちそうさまでした」
凪咲「いえ、どういたしまして」
時崎「今日は、お泊りのお客さんが来るのですよね?」
凪咲「ええ。2名様が昨日、ご予約をくださいました」
時崎「何か、手伝える事があったら、何でもしますので!」
凪咲「ありがとう、柚樹君。その時は、お願いします」
時崎「はい!」

朝食を頂いた後、のんびり過ごしたい所だが、昨日早く寝てしまったので、その分を埋める、具体的には「七夏ちゃんへのアルバム」の制作を行う。恐らく、七夏ちゃんも午前中は宿題を行うだろうから、俺もそれに合わせて制作作業を行うのが良いだろう。
しばらく、制作作業に集中する。以前に考えていた「とびだすアルバム」を、どうするか・・・蒸気機関車や虹を飛び出させる考えがあったが、やっぱりこれは止めておこうと思った。七夏ちゃんが驚き、喜んでくれる事・・・これを主テーマにしなければならない。とびだす考えはまとまらないが、もう一つのアイデアは、きっと上手く出来ると思っている。そのアイデアが、デジタルデータとして上手く出来るか検討しているが、概ね大丈夫だと思う。

しばらく、制作作業に没頭した。
蝉の合唱が控えめになった事で、部屋の外の物音が聞こえるようになってきた。午後が近づいている事を感覚する。いつもよりも大きな物音なので、俺はその音のする方へ向かう。

七夏「あ、柚樹さん! お腹すきました?」
時崎「いや、大丈夫。物音がしたので」

以前に高月さんが泊まった部屋から、七夏ちゃんが姿を見せた。

七夏「えっと、騒がしくてすみません。今日は、こちらのお部屋にお泊りのお客様が来られますので☆」
時崎「なるほど。何か手伝う事は無い?」
七夏「ありがとうです☆ 大丈夫です☆」
時崎「何か手伝える事があったら、いつでも声をかけて!」
七夏「はい☆」

今日の七夏ちゃんは、はりきっている様子だ。女将さんとしての良い表情の七夏ちゃんが撮影できると思うと、俺も嬉しくなってきた。

 ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆

七夏ちゃんと一緒に昼食を頂く。この後、七夏ちゃんとのんびり過ごす事もあるのだが、今日はそういう訳にはゆかない。凪咲さんと、七夏ちゃんは、今日と明日の予定を確認しているようだ。

凪咲「七夏、後でお買物お願いね」
七夏「はい☆」

打ち合わせをしているような凪咲さんと、七夏ちゃんを一枚撮影した。
自分の部屋に戻ろうかと思ったが、そろそろお泊りのお客さんが来る時間なので、このまま居間で待つ事にした。俺も挨拶をしておくべきだろう。
しばらくすると、玄関から声がした。

??「すいませーん」
時崎「はい!」

玄関に一番近い所に居た俺は、最初にお客様を迎える。

時崎「こんにちは! いらっしゃいませ!」
??「お世話になります」
??「どうも!」

見たところ、ご年配の女の人と、若い男の人・・・親子だろうか? 女の人は落ち着きのある雰囲気に対して、男の人は、今風・・・というか携帯端末を操作している。まあ、余計な詮索は良くないな。

七夏「いらっしゃいませ! ようこそ風水・・・ひゃっ!」

男の客に、いきなり携帯端末で写真を取られた七夏ちゃん。俺は何か嫌な予感がした。

男客「おっ! 可愛い女将さん!」

宿泊客は、続けて七夏ちゃんをパシャパシャと撮影する。

七夏「ひゃっ! ご、ごめんなさいっ!」

七夏ちゃんは、そのまま二階へ駆けて行く。
そこへ、凪咲さんが姿を見せた。

凪咲「すみません! 娘の失礼をお許しください。ようこそ風水へ!」

娘の失礼!? 失礼なのはどっちだ!? そんな感情が芽生え始めた事に気付きかけたその時---

凪咲「柚樹君、ちょっといいかしら?」
時崎「え!? はい」
凪咲「お客様を、お部屋に案内してあげて!」
時崎「あっ、どうぞこちらへ・・・」

お客さんをお部屋に案内する。七夏ちゃんが居なくなったので、俺が凪咲さんを手伝う事になった。それは全然構わないけど、俺は七夏ちゃんの事が気になって、なかなか手伝いに集中できない。

凪咲「柚樹君、それは私が行いますから、こちらを・・・」
時崎「は、はい! すみません!」

泊まり客のお世話を、凪咲さんが殆ど一人で行っている。俺も出来る限り凪咲さんを手伝うけど、女将として、七夏ちゃんが行っている事の大変さを、改めて知る事となった。
お客さんへの対応・・・当宿が禁煙である事や、夕食、朝食の場所と時間、お風呂場の場所とご利用時間、浴衣の場所とお布団の準備時間、外出される場合、鍵の預け先等、ここ風水での生活にある程度慣れていて、良かったと思った。ひととおり説明を終え、ようやくひと段落ついた。

凪咲「七夏、まだ自分のお部屋かしら・・・」
時崎「そう・・・みたいですね」
凪咲「困ったわね・・・おつかいを頼んでたのですけど・・・」
時崎「だったら、俺が代わります!」
凪咲「ありがとう。柚樹君」
時崎「いえ」

凪咲さんから、おつかいのメモを受け取ると、俺は商店街へと急いだ。買い物自体は食材が主で、今日の夕食や、明日の朝食に使うのだと思う。玉子はまだ沢山あったような気がするけど、お客様には新鮮な食材で・・・と言う事なのかも知れない。
買い物をしながら、七夏ちゃんの事を心配してしまう・・・俺が風水に帰る頃には、いつもの七夏ちゃんに戻ってくれる事を願ってしまう。

時崎「ただいま!」
凪咲「おかえりなさい。柚樹君、おつかいありがとう」
時崎「いえ」
凪咲「七夏は、まだ部屋に閉じ篭ったままで・・・すみません」
時崎「そう・・・ですか・・・」
凪咲「困ったわね・・・」
時崎「引き続き、俺、手伝いますので!」
凪咲「ありがとう。柚樹君」
時崎「ひとつ、訊いてもいいですか?」
凪咲「何かしら?」
時崎「過去にも、こんな事ってありましたか?」
凪咲「ええ」
時崎「ありがとうございます」

俺は、それ以上の事は訊かなかった。過去にもこのような事があったという事は、少なくともお客様が帰られれば、いつもの七夏ちゃんに戻ってくれると思えたから、今は波風を立てるのは良くないと思った。人は、初対面時に苦手な人かどうかを本能的に判断する。俺よりも色々な人と出逢ってきているであろう七夏ちゃんは、苦手な人と出会う機会も多いのかも知れない。

その後、凪咲さんは夕食の準備を行い、俺も手伝える事は手伝った。お泊りのお客様へ、夕食とお風呂のご案内をして、その間にお布団の準備も行う。

直弥「ただいま」
凪咲「おかえりなさい。あなた」
時崎「おかえりなさい」
直弥「七夏は?」
凪咲「ちょっと・・・色々あって・・・」
直弥「・・・そうか」

そう言えば、七夏ちゃん、夕食を食べていないな・・・俺は、七夏ちゃんの部屋の前まで移動した。七夏ちゃんを呼ぶかどうか少し迷ったが、このままだと心配なので、声を掛けてみる。

トントンと軽く扉を鳴らす。

時崎「七夏ちゃん!」

呼んでもみたけど、返事は無かった。寝ているのかも知れないな・・・。一人になりたい時もある・・・俺はもう少し時間を空けて様子を見ることにした。

直弥「時崎君!」
時崎「え!? はい!?」
直弥「ちょっと、いいかね?」
時崎「はい!」

直弥さんに呼ばれて、俺は直弥さんの部屋へ招かれた。

直弥「凪咲から話は聞いたよ。今日はすまなかったね」
時崎「いえ、全然たいした事が出来なくて・・・」
直弥「凪咲はとても感謝していたよ。時崎君が居なかったら大変だったと」
時崎「七夏ちゃんは、大丈夫なのでしょうか?」
直弥「心配かけてすまない。過去にも何度かこんな事があってね」
時崎「そうらしいですね。凪咲さんから聞きました」
直弥「ま、時間が解決してくれると思う」
時崎「そうですね。俺、七夏ちゃんにメッセージを送ってみます」
直弥「メッセージ!?」
時崎「七夏ちゃんのMyPadに・・・です!」
直弥「そう言えば、七夏のMyPadは外への通信ができないから、いずれ、なんとかしてあげたいとは思ってたんだけど、メッセージは送れるのかい?」
時崎「はい! 一応、俺の携帯端末経由で外への通信も出来るように設定させて頂いてます」
直弥「それは、時崎君にご負担をかけているのでは?」
時崎「いえ、大丈夫です! 通信費は定額で契約ですので・・・それ以上に七夏ちゃんや凪咲さんにお世話になってますので」
直弥「色々とすまない。すまないついでにひとつお願いしてもいいかね?」
時崎「はい!」
直弥「七夏のMyPadが外への通信が出来るように、家にも無線のネットワークを置きたいと思っているんだけど、それを時崎君に頼めないかな?」
時崎「もちろん! 俺でよければ!」
直弥「ありがとう。助かるよ! 凪咲から時崎君は家電に詳しいと聞いていたので」
時崎「詳しいかどうかは分かりませんが、無線ネットワークの事は分かりますので!」
直弥「ありがとう。必要な機械の費用は全て僕が用意するので、調べてくれると助かるよ」
時崎「分かりました」
直弥「七夏の事も含めて、お礼を言わせてもらうよ。ありがとう」
時崎「いえ」
直弥「時崎君が、七夏と写真との関係を良くしてくれると、僕はあの時、思ったんだ」
時崎「あの時・・・」

俺は、直弥さんの話した「あの時」がすぐに分かった。蒸気機関車イベントで、七夏ちゃんと一緒に写真を撮影してもらった時の事だろう。

直弥「これからも、七夏の事を支えてくれると嬉しく思うよ」
時崎「ありがとうございます。失礼します」

俺は直弥さんの部屋を後にした。自分の部屋に戻って考える。人の心はいつも晴れている事なんてない。俺は今まで七夏ちゃんの晴れの姿ばかり見てきた事を実感した。今、部屋に閉じ篭っている七夏ちゃんも、七夏ちゃんの心のひとつである事に変わりは無い。そういった曇りや雨の心も含めて、七夏ちゃんと向き合わなければ、本当の心は見えてこないと思う。立方体の面は一方向から見ているだけでは、どんなに頑張っても3面までしか見えない。俺の方が七夏ちゃんへの見方や理解を変えなければ、本当の七夏ちゃんは見えないだろう。

時崎「!?」

微かに、扉の方から音がした。今朝の出来事とは真逆で、俺は素早く扉へ飛びつく。

時崎「な、七夏ちゃんっ!」
七夏「・・・・・」
時崎「良かった!」
七夏「柚樹さん、今日はその・・・ごめんなさい」
時崎「あやまらなくていいよ! 七夏ちゃんは大丈夫?」
七夏「はい。少し休んで、落ち着きました」
時崎「そう・・・お腹すいてない?」
七夏「はい。少し・・・」

俺は、七夏ちゃんを手をとった。

七夏「あっ!」

七夏ちゃんも、繋いだ手に少し力を入れてくれた。

時崎「ごはん、一緒に食べよう!」
七夏「・・・くすっ☆」

ようやく、七夏ちゃんの曇り心から日の光が届いたような気がして、とても安心できた。
今日の午後から部屋に引き篭もっていた七夏ちゃん。たった半日の事だったけど、俺にはとても長い時間に思えた。

凪咲「七夏!!!」
七夏「お母さん・・・ごめんなさい」
凪咲「よかった。もう大丈夫なの?」
七夏「はい。明日はお母さんのお手伝い・・・しますので」
凪咲「ありがとう。でも、無理はしないようにね」
七夏「はい」
凪咲「お腹すいたでしょ? すぐに夕食用意するから!」
七夏「ありがとうです」

七夏ちゃんと一緒にいつもより遅い夕食を頂く。特に会話は無かったけど、俺はそれでも十分嬉しかった。いつも、俺の事を気に掛けてくれる七夏ちゃん・・・こういう事があった時こそ、俺が七夏ちゃんをしっかりと支えてあげられるようにならなければと思う。

夕食を済ませてお休みする前---

七夏「柚樹さん・・・」
時崎「え!?」
七夏「ごめんなさい。お夕食、遅くなっちゃって、柚樹さんにまで・・・」
時崎「いいよ! 気にしないで!」

今日、俺は色々と慌しかったため、夕食が遅くなっただけなのだが、七夏ちゃんは俺が待っていたと思っているようだ。まあ、この場合、わざわざ本当の事を言わなくてもいいだろう。

七夏「あと、今日は、ありがとうです・・・」
時崎「何が?」
七夏「えっと、一緒にごはん・・・と、手・・・」
時崎「おやすみっ! 七夏ちゃんっ!」
七夏「あっ、おやすみなさい・・・です」

俺は、恥ずかしくなったので、今日という日を強制的に終了させる事にした。
明日はいつもどおり、晴れた七夏ちゃんになっていると思う。

 ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆

今日は、蝉に勝った! 何も蝉と戦っている訳ではない・・・というよりも、少し雨が降っているみたいだから、蝉はお休みしているだけか・・・。

七夏「柚樹さん! おはようございます☆」
時崎「おはよう! 七夏ちゃん!」

俺は、飛び起きて、扉を開けた。

七夏「くすっ☆」

いつもの七夏ちゃん。良かった・・・外は雨だが、七夏ちゃんは晴れている! そんな事を思っていると---

七夏「柚樹さん!? どうかしましたか?」
時崎「いや、なんでもないよ」

昨夜の事を思い出して少し恥ずかしくなったけど、流石に今、今日という日を閉じる事は出来ない。俺が一階へ降りようとしても、七夏ちゃんはそのまま動く様子が無い・・・どうしたのだろう?

七夏「・・・・・」
時崎「七夏ちゃん!?」
七夏「あっ!」

俺は、昨日と同じように、七夏ちゃんの手を繋ぐ。

時崎「凪咲さん、待ってるよ!」
七夏「はいっ☆」

七夏ちゃんと手を繋いだまま、一階の玄関へ差し掛かると、お泊りのお客様の一人、若い男の客が居た。手には携帯端末を持っており、何かを操作している・・・。七夏ちゃんと手を繋いでいる所を見られるのは恥ずかしいと思っていると、それが七夏ちゃんにも伝わったのか、七夏ちゃんも手の力を緩めてくれ、自然と二人の手は離れる。少し名残惜しくもあるけど、二人の息が合っていると、逆に嬉しくも思えた。

時崎「おはようございます!」
男客「どうもです!」

男の客は携帯端末を見ながら、返事を返してきた。昨日の出来事があった為か、あまりいい気はしないけど、まあ仕方がない・・・か。

七夏「お、おはようございます」

俺に続き、七夏ちゃんも男の客に挨拶をする。

男客「お! 昨日の! やっぱり可愛いね!」

男の客はそう言いながら、また携帯端末で七夏ちゃんを撮影し始めた。また嫌な予感が蘇ってきた。

七夏「ひゃっ!」
時崎「ちょっ!」
七夏「す、すみません! 失礼します!」

七夏ちゃんは、再び二階へ駆けて行く・・・俺は男の客に申し出た。

時崎「すみません。今撮影した写真、消してもらえませんか?」
男客「え? なんで?」
時崎「七・・・さっきの女将さん、写真を撮られるの苦手でして・・・」
男客「別にいいでしょ? 減るもんでもないし!」
時崎「消してくれっ!!!」
男客「!!!」
凪咲「柚樹君っ!!!」

俺の大きな声に、凪咲さんが飛び出してくる。

凪咲「大変失礼いたしました。申し訳ございません。柚樹君も!」
時崎「・・・すみません。失礼いたしました」
男客「なんだよ! 消せばいいんだろ!」

「減るもんでもない」・・・それは、男の客からの視点に過ぎない。俺や七夏ちゃんから見れば「大減り」だ。昨日、七夏ちゃんが辛い思いをした事なんて、この男の客には分からないだろう。

凪咲「柚樹君、下がってくれるかしら?」
時崎「・・・はい。すみません」

凪咲さんと、男の客に頭を下げて、俺は自分の部屋に戻る。七夏ちゃんの事も気になるが、昨日の事を考えると、今、声をかけるべきではないと思った。
しばらく、部屋の窓から外の景色を眺める・・・。降り続ける雨と雨音が「まだ早かったのでは?」と問いかけてくるようにも思えた。こんな事が、続くのは嫌だ。これから先、七夏ちゃんと一緒に楽しく過ごしたい。昨日「俺が七夏ちゃんを支えてあげなければ」なんて思った事は、なんだったのか・・・思うだけなら簡単だ。実際にそうなった時に、思っていた事が実行に移せないのなら、思う事自体が罪な事になる。
そのまま、窓の外を眺めていると、大きな花が2つ咲いた。一つは赤い花、もう一つは黒い花だ。その2つの花は、雨水に流されるかのように風水を離れてゆき、お客さんが帰られたのだと理解できた。そのまま、しばらく景色を眺めていると---

トントンと扉が鳴った。

時崎「七夏ちゃんっ!」

俺は、扉へと急ぐ。

凪咲「柚樹くん、ちょっといいかしら?」
時崎「凪咲さん・・・・・はい・・・」

凪咲さんの後を付いてゆく・・・居間へ辿り着くまでに、凪咲さんから言われる事は既に分かっていた。俺は、先手を打つ。

時崎「凪咲さん。すみませんでした」
凪咲「・・・・・」

俺が先手を打って謝った事に対して、凪咲さんの表情は少し和らいだようにも見えた。

凪咲「分かっているとは思うけど、女将としては大切なお客様に失礼な事があってはならないの」

大切なお客様!? 何が大切なんだ? 七夏ちゃんが傷つけられても、それでもお客様の方が大切なのか? 分からない・・・分からないよ・・・。

時崎「でも、お客様が『失礼なこと』をしてもですか?」
凪咲「そうね」
時崎「そんなっ!」

七夏ちゃんが悲しんでもいいの!? 冷静になって考えてみたけど、やっぱり分からない。

時崎「凪咲さん、やっぱり俺・・・分からない・・・七夏ちゃんよりも、今日始めて会ったお客の方が大切だなんて・・・」
凪咲「女将としては、お客様が大切」
時崎「・・・・・」
凪咲「でも、母親としては、何よりも七夏の事が大切」
時崎「・・・・・え!?」
凪咲「ありがとう。柚樹君・・・分かってもらえるかしら?」

その言葉を聞いて、女将がどういうお仕事なのか理解・・・というよりも安心できた。俺は焦って「木を見て森を見ず」の状態になっていたようだ。
七夏ちゃんの事が大切な事に変わりはない。だけど、それだけではならないという事を凪咲さんは言いたかったのだと思う。

凪咲「お客様は知らない事ですから・・・」

<<時崎「七夏ちゃん、ごめん!」>>
<<七夏「仕方がないですよ。柚樹さんは、知らなかった事ですから」>>

以前に七夏ちゃんが俺に話してくれた事を思い出した。

時崎「・・・すみません」
凪咲「お客様が帰られる際に、お母様が謝ってくださったの・・・息子は珍しい事があると写真をすぐに撮ってしまうから・・・って」

凪咲さんの話を訊いて神経が揺さぶられた。ここ最近、許可無く七夏ちゃんを撮影していた俺も、人の事を言えないじゃないか! 少し調子に乗っていた事を反省した。

凪咲「ありがとう。柚樹君」
時崎「え!?」
凪咲「七夏の事を想ってくれて」
時崎「・・・・・」
凪咲「さっきも話したけど、女将としてはお客様は大切ですけど、母親としては七夏が何よりも大切ですから」
時崎「凪咲さん・・・」
凪咲「だから、柚樹君が七夏の事をかばってくれた事は、母親としてとても感謝しています。ありがとう」
時崎「・・・はい」
凪咲「私からのお話はこれでおしまい。ごめんなさいね」
時崎「いえ、こちらこそ」
凪咲「では、失礼いたします」

そう言うと、凪咲さんは、自分の部屋へ向かったようだ。俺はそのまましばらく考える・・・。今まで沢山の七夏ちゃんを撮影してきた。写真が苦手な七夏ちゃんは、無理をしていたのではないかなと思ってしまう。もしそうだとすると、今まで撮影してきた写真は、全て写真では無くなってしまうので、そうではないと信じたい。

時崎「いや、七夏ちゃんの笑顔は本当の心だ!」

自分にそう言い聞かせ、これからも七夏ちゃんの笑顔を撮影しなければと強く思う。今まで沢山の七夏ちゃんを撮影してきたこの写真機・・・俺は写真機のファインダーを覗き、七夏ちゃんを初めて撮影した時の事を思い出す。初心に戻る・・・というよりも、もう一度、あの時の感覚を呼び覚ましたい・・・。ファインダーの中に七夏ちゃんが居ると想像する・・・すると、ファインダーの中に七夏ちゃんが現れた。

七夏「柚樹さ・・・ひゃっ!」
時崎「あっ!」

七夏ちゃんは、俺の構えていた写真機に拒絶反応を示したけど、すぐにそれを掻き消した・・・でも、こんな時に限って、俺はその七夏ちゃんの一瞬の拒絶した表情が脳に焼きついた。

七夏「ご、ごめんなさいっ! ごめんなさいっ!」

俺は慌てて写真機を隠したが、七夏ちゃんは居なくなっていた。

これまで大切に築き上げてきた事が、一瞬で崩されたような感覚だ。
・・・治りかけた心の傷の「かさぶた」を、俺が取ってしまったような感覚を覚える・・・もう、この写真機で七夏ちゃんを撮影する事は出来ないのだろうか?

他人の事を気遣える七夏ちゃんに対して、他人を気遣えない自分が許せないという感情が芽生えた瞬間だった。

時崎「こんな事で、終わらせていいはずがないっ! こんな事で・・・・・」

ピピッ!パシャッ!

写真機から音が聞こえた・・・力強く握り絞めていた勢いでシャッターボタンを押してしまったんだろう・・・だけど、そんな事はどうでもいい。

時崎「・・・いや、そんなはずはないっ!」

俺よりも、七夏ちゃんの笑顔を知っているこの写真機だからこそ!
俺は再び、水風七夏という心優しい少女と出逢える事を強く願うのだった。

第二十八幕 完

----------

次回予告

人の心は変わってゆく・・・良いようにも悪いようにも・・・だったら俺はっ!

次回、翠碧色の虹、第二十九幕

「思い込みの虹」

良いように思い、その方向に舵を取る事。自分が相手にとって良い事をしなければっ!

幕間二十三:苦手な事ってありますか?

幕間二十三:苦手な事ってありますか?

心桜「つっちゃー! ・・・って、あれ? 居ない?」
笹夜「七夏ちゃん・・・大丈夫かしら?」
心桜「ま、大丈夫だと思うよ!」
笹夜「一人になりたい時もありますからね」
心桜「そだね! んじゃ、今日はこのまま進めますか!」
笹夜「ええ♪」
心桜「メインヒロインがお休みなんて、業界初なんじゃない!?」
笹夜「そうかしら?」
心桜「これで、笹夜先輩もお休みされたら、あたし一人で漫談!?」
笹夜「心桜さんも、ご無理はなさらないでくださいね♪」
心桜「あたしは今の所、皆勤賞を狙ってるからねっ!」
笹夜「まあ!」
心桜「だってさ、本編ではどう頑張ったって・・・第一幕からあたしは居なかったし」
笹夜「それは、仕方がありません・・・」
心桜「さて、今日のお題なんだけど、笹夜先輩は苦手な事ってありますか?」
笹夜「苦手な事・・・沢山ありますね」
心桜「えーーー!? 完璧憧れ癒し系無敵羨望眼差し対象少女だと思ってるんですけど!」
笹夜「それは、なにかしら?」
心桜「笹夜先輩」
笹夜「真面目な顔で言わないでください・・・お返事に困ります」
心桜「あはは! でも、笹夜先輩は高値の花ってイメージがあるよ」
七夏「ここちゃー、高嶺の花です☆」
心桜「おわっ! ・・・っと、つっちゃー! びっくりした~」
笹夜「七夏ちゃん、こんにちは♪」
七夏「はい☆ こんにちはです☆」
心桜「つっちゃー、今回はお休みかと思ったよ」
七夏「遅れてごめんなさい」
心桜「いやいや、それはいいんだけど・・・で、なんで高値って分かるの?」
七夏「えっと、なんとなく・・・」
心桜「相変わらず、そういう所はスルドイよねー」
七夏「そうかな?」
心桜「高嶺の花ならここまで落ちて来いっ!」
七夏「え!?」
笹夜「まあ!」
心桜「なんか、そんな言葉があったような気がして・・・でも、自然に落ちてくる頃には枯れ---」
笹夜「心桜さんっ!」
心桜「わわっ! すみませーん!」
七夏「もう・・・ここちゃー!」
心桜「んで、笹夜先輩の苦手な事は?」
笹夜「体を動かす事・・・かしら?」
心桜「あたしと真逆! あたしは、じっとしてる事が苦手!」
笹夜「それは、とてもよく分かります♪」
心桜「つっちゃー! 苦手な事は?」
七夏「え!? えっと・・・どういうことなの?」
心桜「今日のお題! 苦手な事がテーマ!」
七夏「えっと、苦手な事・・・」
心桜「英語とピーマン!」
七夏「こ、ここちゃー!」
心桜「いや~、小学生時代はピーマンだけだったのにね~。いつから英語が加わったんだろうね?」
七夏「中学生・・・小学生の時は英語の授業は無かったから・・・」
心桜「そんな真面目に答えなくても!」
七夏「ここちゃーだって、昔は数学嫌いじゃなかったのにいつから・・・」
心桜「中学生・・・小学生の時は数学の授業は無かったからね~」
七夏「え!?」
笹夜「小学生は数学ではなくて、算数ですからね♪」
七夏「あ、そうでした☆」
心桜「つっちゃー、ピーマン食べてしっかり頑張るんだよ!」
七夏「・・・・・」
心桜「返事が無い・・・ただの屍のようだ」
笹夜「心桜さんっ! それ、前にも話してました」
心桜「そだっけ?」
笹夜「確か、勇者様が登場して・・・」
心桜「んじゃ、ピーマンで展開しますか!?」
笹夜「え!?」
心桜「昔、商店街でピーマンを食べて元気をつけよう! って、ピーマンのキャラクターが登場して販売促進活動をしていたんだ。その時、つっちゃーが『ピーマン食べたら可哀想だよ』って話してたけど・・・本当は・・・」
笹夜「まあ、ふたつの想いがありそうですね♪」
心桜「建前と本音・・・だねっ!」
七夏「ここちゃー!」
心桜「おっ! 『ふっかつのじゅもん』を唱えてないのに復活してきた!」
七夏「そうじゃなくて・・・その・・・」
笹夜「まあ、苦手な事はあってもいいと思います♪」
心桜「苦手な事だらけでも!?」
笹夜「ええ♪ 得意な事もあれば・・・かしら?」
心桜「なるほどね~ 笹夜先輩! 今の保身入ってませんか?」
笹夜「え!? えっと・・・」
七夏「ここちゃー!!」
心桜「あははっ!」
七夏「笹夜先輩! すみませんっ!」
笹夜「いえいえ♪ 心桜さんの事も、ある程度分かっていますので♪」
心桜「なんと! パターンを見抜かれておられる・・・と!」
笹夜「どうかしら?」
心桜「でもまあ、確かに苦手な事は、皆で補えあえばいいよねっ!」
笹夜「ええ♪」
七夏「・・・・・」
心桜「ん? どしたの? つっちゃー?」
七夏「えっと、みんな苦手だったら・・・」
心桜「うっ・・・その時は、みんなで仲良く戦術的撤退!!!」
笹夜「まあ!」
心桜「つっちゃーは、これから苦手な事を克服してゆかないと!」
七夏「はい☆」
心桜「って事で、つっちゃーが頑張る『翠碧色の虹』本編はこちら!」
心桜「http://nanatsuiro.my.coocan.jp/nnt_frma_a.htm」
七夏「え!? あ、もうそんな時間なの?」
心桜「そうだよ! つっちゃー来るの遅いからっ! そして、あたしと笹夜先輩も頑張る『ココナッツ』宛てのお便りはこちら!」
心桜「http://nanatsuiro.my.coocan.jp/nnt_suiheki_novel.htm#QUESTIONNAIRE」
笹夜「私も苦手な事・・・少しでも減らせるように頑張ります♪」
心桜「うんうん! 期待してます!」
笹夜「七夏ちゃんも頑張って♪」
七夏「はい☆ ありがとうございます☆」

幕間二十三 完

------------

幕間二十三 をお読みくださり、ありがとうございました!
本編の方も鋭意制作中ですので、どうぞよろしくお願い申しあげます!

第二十九幕:思い込みの虹

第二十九幕:思い込みの虹

いつからだろうか・・・いや、そんなに遠い過去の事ではない。俺がこの街に来てからの出来事、「ふたつの虹」を持つ水風七夏という少女と出逢ってから、その少女を通して「人を撮影する事」が多くなった。この街へ来た目的は「ブロッケンの虹」という少し不思議な虹を撮影する事。それと、街の風景の写真も撮影する事であり、人を撮影するという事ではなかった。
部屋に戻ってから、制作途中のデジタルアルバム、そして写真機の中に入っている画像を見ると、人が主となった写真が多い事に改めて気付く。これは、言うまでも無く七夏ちゃんの影響だ。さっき、写真機のファインダーの中に偶然入ってきた七夏ちゃん・・・その時の表情が脳裏に焼きついたままだ。

時崎「どうすればいいのだろう・・・」

俺は、常に持ち歩いていた写真機と距離を置いてみる事にした。今、この写真機を持ったまま七夏ちゃんと会うのは、七夏ちゃんに辛い思いをさせてしまいかねない。かと言って写真機がなければ、凪咲さんとの約束も完遂できなくなってしまう。さらに、余り時間も無い。とりあえず、今日一日は写真撮影を行わない事にしよう。明日以降も七夏ちゃんの様子次第という事になる。七夏ちゃんの撮影は無理だとしても、七夏ちゃん以外の撮影は可能だと思う・・・ただ、それでは・・・。

時崎「とりあえず、制作を進めるか・・・」

俺は、アルバム制作作業を再開する。気分が晴れない影響か、なかなか思うように作業に集中できない。七夏ちゃんと出逢った時の写真から、ついこの前までの笑顔だった写真までを一つずつゆっくりと眺めてゆく。再びこの笑顔を取り戻さなければならない。凪咲さんへのアルバムだけにしか存在しない七夏ちゃんの笑顔・・・俺が望むのはそうではなく、これからの七夏ちゃんも、笑顔で思い出が残せるようになってもらう事だ。凪咲さんもそれを望んでいるのは間違いない。

時崎「!?」

窓の外から綺麗な声が聞こえてきた。その声は夕暮れ時と雨が上がった事を知らせてくれた。

時崎「ヒグラシ・・・か」

蝉の中では異例なほど美しく、儚いヒグラシの鳴き声・・・いや、これは「歌声」というべきだろうか。窓を開けて、しばらくその歌声に耳入る。今までの心のモヤモヤ感を流してくれるような感覚だ。ヒグラシは雨があがった事を、この街全体へ届けるかのように、その美しい歌声と共に遠くへと去ってゆく。

時崎「ありがとう・・・救われたよ」

届くはずがない事は分かっていても、届けたい気持ちがある。

時崎「そうか!」

七夏ちゃんには、想いを届ける事ができる。俺だけでなく、凪咲さん、直弥さん、天美さん、高月さんも、同じ気持ちのはずだ。みんなが同じ気持ちなら、七夏ちゃんはきっと答えてくれるだろう・・・みんなの事を大切に思える七夏ちゃんなら!

時崎「よし! アルバム制作に集中しよう!」

再び、凪咲さんへのアルバム制作に集中する。そして、もう一つ、七夏ちゃんへのアルバムも制作を行う。

トントンと扉が鳴った。

時崎「はい!」

俺は、既に分かっていた・・・扉の向こうに居る人が誰なのかを。

凪咲「柚樹君、夕食、出来てますので」
時崎「凪咲さん。ありがとうございます! すぐ頂きます!」

・・・分かっていても、どこかで期待している自分がいた事が後から感情となって追いかけてくる。

時崎「七夏ちゃん・・・」
凪咲「!?」
時崎「あ、いえ、なんでもありません」

凪咲さんの後を付いてゆく形で、居間へと向かう。

時崎「!!! な、七夏ちゃん!?」
七夏「あっ! 柚樹さん・・・」

驚いて、声に出てしまったが、そこには七夏ちゃんが居た。昨日のように部屋に閉じ篭っていた訳ではないみたいで、少し安心する・・・だけど、七夏ちゃんの表情を見る限り、完全に安心しきることは出来なかった。

時崎「よかった・・・」
七夏「えっと、ごめんなさい・・・」

七夏ちゃんと話したのはそれだけだ。その後、特に何も話す事は無く、夕食を進めていると---

七夏「ごちそうさまでした」
凪咲「あら? 七夏? もういいの?」
七夏「はい。少し休みます・・・」
凪咲「そう・・・」
時崎「・・・・・」
七夏「柚樹さん・・・」
時崎「え!?」
七夏「失礼・・・いたします・・・」
時崎「あ、ああ」

・・・リセット。以前に凪咲さんが会話をリセットしていたような感覚・・・七夏ちゃんに同じ事をされると、正直心に刺さった。凪咲さんの時は、女将としてお客様への対応と程よい距離を保つ為だと思っていたので、特に何も思わなかったが、今の七夏ちゃんは、凪咲さんの時とは同じように受け入れられない。今、七夏ちゃんと一緒に夕食を頂けた事は嬉しく思うけど、それ以上に堪えた感が残る。この状態で七夏ちゃんに俺の思いを伝えるのは無理だと思った。

凪咲「柚樹君、ごめんなさいね」
時崎「え!?」
凪咲「七夏、ご迷惑をかけてしまって」
時崎「いえ、全然そんな事は・・・それよりも、七夏ちゃんが大丈夫なのか心配で・・・」
凪咲「ありがとう。前にも話したけど、こんな事が今までになかった訳ではないから」
時崎「はい」
凪咲「柚樹君が、いつもどおりで居てくれる方が、七夏にとっても良い事だと思うの」
時崎「そう・・・ですか」
凪咲「ええ」

凪咲さんの表情を見る限り、今までと変わらない事から、七夏ちゃんへも普段どおり接している事が伝わってきた。

時崎「ありがとうございます」
??「ただいま!」
凪咲「おかえりなさい! あなた」
直弥「ただいま、凪咲」
時崎「こんばんは!」
直弥「時崎君! こんばんは! 七夏は、自分の部屋・・・か」
凪咲「ええ」
直弥「そう・・・か」
凪咲「あなた。それは?」
直弥「これは、模型用品!」
凪咲「そう。ほどほどに・・・ね」
直弥「ああ! 時崎君!」
時崎「はい!?」
直弥「ちょっと、時間あるかい?」
時崎「はい!」

俺は、直弥さんの部屋に案内された。しまった! 無線ネットワークの事を頼まれていたが、まだ何も調べていない。

直弥「すまないね」
時崎「いえ、こちらこそ、すみません」
直弥「どうかしたのかい?」
時崎「まだ、無線ネットワークの機材の事を調べていなくて・・・」
直弥「あ、いやいや。それは構わないよ」
時崎「え!? その事ではなかったのですか?」
直弥「まあ、それも話せればとは思ったんだけど、せっかくだから話しておこうか」
時崎「はい」
直弥「ここに、ネットワークの機器が置いてあるんだけど、これは無線ネットワークに対応していない機器だったと思う。結構前に購入した製品だからね」

直弥さんに言われて、机の隅の方を見ると、ネットワーク機器が置いてあり、機器から明かりが灯っていた。

時崎「確かに、有線のネットワーク機器のようですね」
直弥「この機器に無線機器を追加する方が良いのか、新しい無線機器に交換する方が良いのか、そういうのは時崎君、分かるかい?」
時崎「調べてみなければ、分かりませんが、今の機器が問題なく使えているのでしたら、無線用の機器を追加する方が良いと思います」
直弥「・・・・・なるほど」

直弥さんは、少し考えてから頷いた。

時崎「どうかされましたか?」
直弥「いや、時崎君の答えを聞いて安心したよ」
時崎「え!?」
直弥「すぐに買い換えてしまうという考え方は、物を大切に扱うという事を、ある意味では否定する事になるからね」
時崎「そう・・・ですね。使えるのにすぐに買い換えるという考え方の人もいますから」
直弥「物を大切に考える事が出来る人は、人に対しても同じ事が出来ると思う」
時崎「それは!?」
直弥「七夏と、何かあったのかい?」
時崎「えっ!?」

不意を突かれた! 直弥さんは帰宅してから、七夏ちゃんとは会っていない。にも関わらず、今の俺と七夏ちゃんの距離を、まるで測ったかのように把握しているようだった。俺は正直に今日の出来事を話した。

直弥「・・・そうか。タイミングが悪かったんだね」
時崎「すみません」
直弥「時崎君が謝る事はないよ」
時崎「七夏ちゃんの写真を撮る事が、七夏ちゃんに負担を掛けるのなら・・・って考えると・・・」
直弥「ここ数日、七夏の様子を見ていると、写真に対しての反応が以前と違うように思えたから、負担になっているようには思わないよ」
時崎「そう・・・だといいのですけど」
直弥「時崎君がいつもどおりに七夏と接してくれる事が、七夏にとっても大切な事になると思っている」

<<凪咲「柚樹君が、いつもどおりで居てくれる方が、七夏にとっても良い事だと思うの」>>

さっき、凪咲さんにも同じ事を言われた。七夏ちゃんの事をもっとも良く知っているご両親が同じ事を話されたという事は。それが答えじゃないか!

時崎「ありがとうございます! 七夏ちゃんには、今までどおり話てみます!」
直弥「そうか! よろしく頼むよ!」
時崎「はい!」
直弥「無線ネットワークの事も!」
時崎「あっ! はい!」
直弥「それと、もし可能だったらでいいのだけど---」

直弥さんは、紙袋の中から、小さな箱をひとつ差し出してきた。

時崎「これは?」
直弥「信号機だ」
時崎「信号機?」
直弥「正確には『3灯式信号機』と言って、鉄道模型の部品のひとつだ」
時崎「・・・はい」

直弥さんから手渡された箱の中身は、短い線路と小さな信号機が一体化された商品だった。

直弥「この信号機が全部で6個あるのだが・・・」
時崎「6個ですか!?」
直弥「それを、設置してもらえないかな?」
時崎「俺がですか!?」
直弥「この前、七夏と一緒に踏切を設置してくれたと聞いてるから」
時崎「そう言われれば」
直弥「本当は、七夏にお願いしようと思ってたのだけど・・・」

俺は、直弥さんの真意を理解した。七夏ちゃんと一緒に過ごせる機会を作ってくれているのだと。

時崎「ありがとうございます! ぜひ!」
直弥「そうか! では、よろしく頼むよ」
時崎「はい!」

直弥さんから、信号機のレイアウト上への設置場所を記したイラスト図を受け取った。

直弥「七夏を見ていて、僕も変わらなくてはと思ってね」
時崎「え!?」
直弥「信号機には、色々と思う所があってね」
時崎「あっ!」

直弥さんの鉄道模型のレイアウト・・・敷かれた線路上には、信号機がひとつも無い。俺はそれほど列車に詳しくないから気づかなかったけど、直弥さんくらい列車好きだと、レイアウトに信号機が無い方が不自然な事なのかも知れない。

直弥「鉄道模型の信号機は、趣味を楽しむ事を第一に考える僕にとっては『無意味な物』だと思ってたんだよ」
時崎「・・・・・」
直弥「だけど、それは僕の思い込みであって、他の人もそうとは限らない。自分にとっては無意味であっても、他の人にとっては大切な意味があるのなら、目を背けてはならない」
時崎「大切な人にとって意味があるのなら・・・」
直弥「・・・そういう事になるかな」

直弥さんは、この模型の信号機の灯りの色は、俺と見え方が違うと思う。そして、七夏ちゃんがどのように見えるかも・・・。この信号機を設置する事は、それぞれの感覚の違いを、よりはっきりとさせてしまう事を意味する。信号機が分けるのは「進め/注意/止まれ」だけでは無いという事だ。

時崎「この信号機の設置、急ぎますか?」
直弥「いや、特には・・・時崎君が出来る時で構わないよ」
時崎「分かりました!」
直弥「色々と、すまないね」
時崎「いえ。それでは、失礼します」
直弥「あ、時崎君!」
時崎「え!?」
直弥「これを・・・」

直弥さんは、俺が買ってきた「C11蒸気機関車」の模型を差し出してきた。

時崎「あっ! 七夏ちゃんに届けます!」
直弥「よろしく、頼むよ」
時崎「はい。では」

俺は、一礼して、直弥さんの部屋を後にした。そのまま、七夏ちゃんの部屋の前まで来たけど、今、声をかけるべきかどうか・・・いや、凪咲さんや直弥さんは、いつも通りに七夏ちゃんと接してほしいと話していた・・・だったら!

トントンと軽く扉を鳴らす。

時崎「七夏ちゃん! 居るかな?」

・・・少し待ってみたけど、返事は無かった。タイミングが合わない事だってある。そんな時は、自分から合わせにゆけば良いだけの事だ。俺は、後ほど声を掛けてみる事にした。

自分の部屋に戻って、アルバム制作・・・の前に、直弥さんから頼まれた無線ネットワーク機器の事を調べる。既に有るネットワークを無線化する機器があれば良い事になる。俺はMyPadでいくつかの無線ネットワーク機器の候補をブックマークしてゆく。単純に電波を飛ばすだけの機器でよさそうなので、費用もそれほど必要はなさそうだ。
ついでに、先ほど直弥さんから頼まれた模型の信号機についても調べてみたけど、相変わらず高価な商品だなと思ってしまう。信号機設置作業は慎重に行わなければならなさそうだ。無線機器の方は買う機器が決まったら、駅前の電気店へ出かけてみよう。

時崎「21時半・・・か」

少し、MyPadでWebサイトを眺めるつもりだったけど、関連するサイトを次々と見ていたら、結構な時間が経過していた。俺は、あまり遅くならないうちに、七夏ちゃんに声を掛けようと思ったその時---

トントンと扉が鳴る。

時崎「七夏ちゃんっ!」

俺は慌てて扉へと向う。今、扉の向こうに居るのは、七夏ちゃんだと分かるから!

七夏「柚樹さん・・・」
時崎「七夏ちゃん! 良かった!」
七夏「えっと・・・その・・・」
時崎「とにかく、中へ・・・」

七夏ちゃんは軽く頷いて部屋の中に入ってくれた。部屋に良い香りが広がる。七夏ちゃんは、お風呂あがりのようだ。

七夏「・・・ごめんなさい!」
時崎「え!?」
七夏「えっと・・・きょ、今日、写真機に驚いちゃって・・・その・・・」
時崎「謝らなくていいよ。こうして七夏ちゃんとお話できるだけでも嬉しいから」
七夏「柚樹さん、写真機持ってませんでした・・・」
時崎「え!?」

七夏ちゃんは気付いていた。俺が写真機と距離を置いていた事を・・・。七夏ちゃんの性格からすると、今更驚くことではない。

七夏「夕食の時・・・」
時崎「ああ、充電! 電池の残量が少なくなってたから、部屋で充電してたんだよ」
七夏「充電・・・」
時崎「だから、七夏ちゃんのせいで写真機を持ってなかった訳じゃないから!」
七夏「・・・・・」

七夏ちゃんに本心を読まれてしまわないかと焦る。その前にいつものように話仕掛ける!

時崎「俺、好きだから!」
七夏「えっ!?」
時崎「写真の事!」
七夏「あっ! ・・・くすっ☆」

七夏ちゃんが「いつも」を取り戻してくれて嬉しく思う。さらに話仕掛ける!

時崎「おかえり! 七夏ちゃん!」
七夏「え!? た、ただいま・・・です☆」
時崎「これからも、よろしく!」
七夏「くすっ☆ はい☆」
時崎「ふぅー・・・」
七夏「柚樹さん!? どおしたの?」
時崎「いや、なんでもないよ!」
七夏「私ね、写真を撮られるのは、あんまり好きじゃなくて・・・でも、柚樹さんが写真の楽しさを教えてくれて・・・私も変わらなくちゃって思って・・・」
時崎「七夏ちゃん・・・」
七夏「だからね、また七夏の写真・・・柚樹さんに撮ってほしい・・・です」
時崎「いいの?」
七夏「はい☆ えっと、今・・・お願いできますか?」
時崎「も、もちろん!」

七夏ちゃんから写真撮影を頼まれた。俺は、あの時・・・七夏ちゃんの事を良く知らなかった時と同じ感覚を再び覚え、写真機を持つ手が震え始めていた。

七夏「・・・・・」

写真機のファインダーの中に七夏ちゃんを捕らえる。写真機と目が合うと、一瞬険しい表情になり、俺はこのまま撮影して良いのか躊躇う。

七夏「柚樹さん! ただいま・・・です☆」
時崎「え!?」
七夏「くすっ☆」

改めて、写真機のファインダーの中には、少し懐かしい七夏ちゃんの笑顔があった。俺はその笑顔を無意識に撮影していた。

時崎「・・・・・」
七夏「どしたの? 柚樹さん?」
時崎「あ、いや。ありがとう!」
七夏「えっと、お帰りなさい・・・は?」
時崎「え!?」
七夏「くすっ☆ それじゃ、柚樹さん! おやすみなさいです☆」
時崎「あっ! 七夏ちゃん!」
七夏「はい!?」
時崎「これ!」
七夏「あっ!」

俺は、直弥さんから渡されたバトン「C11蒸気機関車」の模型を七夏ちゃんに渡す。

時崎「よろしく・・・これからも!」

俺は、模型を渡す時、七夏ちゃんの手も一緒に包む。

七夏「あっ! えっと・・・はい☆」

そのまま、しばらく手の温もりを伝え合った。

時崎「七夏ちゃん、おやすみ!」
七夏「はい☆ おやすみなさい☆」

七夏ちゃんは、軽くお辞儀をして、自分の部屋に戻った。それぞれ、色々な思い込みがあったけど、明日からは、いつもの七夏ちゃんと楽しく過ごせると思うと、今日一日がとても長く疲れた感が押し寄せてきた。

時崎「俺も、流してくるとするか」

今の疲れをお風呂で流す・・・。七夏ちゃんと同じ香りがすっと入ってくるようで、少し恥ずかしい。違うことを考える。そう言えば今日、直弥さんから頼まれた事を、七夏ちゃんにも協力してもらう方が良いと思う。明日、相談してみよう。

お風呂でさっと流して、今日も早めにお休みすることにした。

第二十九幕 完

----------

次回予告

迷い・・・人は常に迷うもの。ひとつの迷いが無くなった時、それは新たな迷いの始まりを意味する

次回、翠碧色の虹、第三十幕

「迷う心の虹」

迷う事から逃れられないのなら、自らが歩み寄れば良いだけなのかも知れない。

幕間二十四:お誕生日のお祝いで!

幕間二十四:お誕生日のお祝いで!

心桜「こんにちは! ・・・って、あれ?」
心桜「つっちゃー居る? ・・・居ない!?」
心桜「笹夜せんぱ~い! ・・・今日・・・だよね? あたし、場所間違えた?」

笹夜「心桜さんっ♪」
心桜「っ!!!」
七夏「お誕生日、おめでとうです☆」
心桜「えっ!?」
笹夜「おめでとう♪」
心桜「わわっ! つっちゃー! 笹夜先輩っ!」
七夏「くすっ☆」
心桜「ありがとおー!」
七夏「ここちゃー☆ どうぞです☆」
心桜「わぁ! 餅朗のお煎餅セット!!」
笹夜「ケーキもあります♪」
心桜「ケーキもあるのっ!? ・・・って、凄い組み合わせだね!」
七夏「くすっ☆ 」
笹夜「ハッピーバースデートゥーユー♪」
笹夜&七夏「ハッピーバースデートゥーユー♪」
笹夜&七夏「ハッピーバースデーディアーココチャー♪」
笹夜&七夏「ハッピーバースデートゥーユー♪」
心桜「ハッピーバースデートゥーミィー・・・って、フィードバァーック!」
笹夜「まあ!」
七夏「???」
心桜「なんか、照れるよね・・・でも、嬉しいっ! ありがとおぉ!」
七夏「くすっ☆」
心桜「今のお誕生日の歌ってさー」
七夏「どしたの?」
心桜「なんか、名前を置き換える箇所があるよね?」
笹夜「ええ♪」
心桜「その箇所って、グダグダになる事って無い?」
七夏「えっと・・・」
笹夜「まあ、お名前の文字数によっては、そういう事もあるかしら?」
心桜「例えばさ、名前がめっちゃ長い人の場合・・・じゅげむじゅげむごこうのすりきれ・・・だっけ?」
笹夜「たしかに・・・歌の歌詞よりも長いお名前!」
心桜「名前が歌詞を駆逐してるよねっ!」
笹夜「確かに、フェルマータの箇所ですが、それでも入りきらないですね」
心桜「もう! あんたの長過ぎて入んないよっ!」
笹夜「こ、心桜さんっ!?」
心桜「ん? なんですか?」
笹夜「い、いえ・・・コホンッ!」
七夏「笹夜先輩!?」
笹夜「ええっと、あまりに長いお名前の場合は、愛称とかあだ名があると思います♪」
心桜「そだね。つっちゃーみたいに、ぱっと聞いて分かんないあだ名もあるけど」
七夏「もう・・・」
心桜「そう言えば、笹夜先輩って、あだ名は無いんですか?」
笹夜「幼い頃は『さっちゃん』って呼ばれてたかしら?」
心桜「定番だねー歌にもなってたっけ?」
笹夜「ええ♪」
七夏「可愛いです☆」
心桜「そう言えば、前に『ささちゃー先輩』っていうのがあったよね?」
笹夜「ありましたね♪」
七夏「こ、ここちゃー!」
笹夜「私は、心桜さんや七夏ちゃんになら、そう呼ばれても嬉しいです♪」
心桜「あははっ! ありがとうございます! 考えておきますね!」
七夏「あれ?」
心桜「どした?」
七夏「てっきり、そのまま呼ぶのかと思って」
心桜「まっ、それは、ここぞという時のとっておきってやつかな?」
七夏「そうなの?」
笹夜「ところで、心桜さんは、今日でおいくつになったのかしら?」
心桜「!!!」
七夏「???」
心桜「さ、ささ、笹夜先輩! それを訊きますか! 16歳だよ! 16歳!!!」
笹夜「まあ!」
心桜「あたしは今の所、永遠に16歳なのだぁ~」
七夏「くすっ☆」
心桜「そう言えば・・・」
笹夜「何かしら?」
心桜「お誕生日の歌の名前の所、元々は誰の名前だったんだろうね?」
七夏「そう言われれば・・・」
笹夜「確か『dear children』だったと思います♪」
心桜「ディアーチルドレン・・・」
笹夜「親愛な子供たちへ」
七夏「素敵です☆」
笹夜「ええ♪」
心桜「でも、子供たちへ・・・って事は、大人相手に歌うのは間違い!?」
笹夜「そういう事ではないと思います♪ いくつになっても、お誕生日は素敵な日である事に変わりありません♪」
七夏「はいっ☆」
心桜「そっか・・・よし! つっちゃー!」
七夏「え!?」
心桜「次の誕生日は、つっちゃーだからねっ!」
七夏「は、はい!」
心桜「それまで、この場が続くかどうかだけど・・・それは、つっちゃーの頑張りに掛かってるんだからね! 頑張るんだよ!」
七夏「はいっ☆ 頑張ります☆」
心桜「って事で、つっちゃーが頑張る『翠碧色の虹』本編はこちら!」
心桜「http://nanatsuiro.my.coocan.jp/nnt_frma_a.htm」
七夏「私、お茶を用意しますね☆」
心桜「ありがと! そして、あたしと笹夜先輩も頑張る『ココナッツ』宛てのお便りはこちら!」
心桜「http://nanatsuiro.my.coocan.jp/nnt_suiheki_novel.htm#QUESTIONNAIRE」
笹夜「私も頑張ります♪」
心桜「はい! 期待してます!」
七夏「どうぞです☆」
心桜「ありがと! つっちゃー」
笹夜「ありがとう♪ 七夏ちゃん♪」
心桜「んでは、太陽お煎餅から! いっただっきまーす!」
七夏「くすっ☆」

幕間二十四 完

------------

幕間二十四 をお読みくださり、ありがとうございました!
本編の方も鋭意制作中ですので、どうぞよろしくお願い申しあげます!

随筆十八:無いっ!をテーマにしてみたら・・・

随筆十八:無いっ!をテーマにしてみたら・・・

心桜「こんにちは! ・・・って、あれ?」
心桜「つっちゃー居る? ・・・居ない!?」
心桜「笹夜せんぱ~い! ・・・今日・・・だよね? あたし、場所間違えた?」

七夏「あ、ここちゃー☆ いらっしゃいです☆」
心桜「あっ! つっちゃー! 良かった!」
七夏「くすっ☆」
心桜「良くないっ!!!」
七夏「ひゃっ☆ どしたの?」
心桜「今日、これって事は・・・『無い』って事だよね?」
七夏「え!?」
心桜「本編だよ! 本編っ!」
七夏「あ・・・えっと・・・」
心桜「ま、別にいいんだけどさ、流れをぶった切る事になるからねー」
七夏「流れ?」
心桜「そうそう! まあ、今回は区切りって言う意味ではまだましだけど」
七夏「え!?」
心桜「ほら! よくあるじゃない? いい所で引っ張るヤツ!」
七夏「引っ張る?」
心桜「例えばテレビで、いいところでCMが入って、先が気になるから待つでしょ!?」
七夏「あ、テレビ・・・はい☆」
心桜「んで、いよいよかって思ったら、『ここまでは、ご覧のスポンサーの提供で~』ってなって、また更にCMが入るヤツ!」
七夏「あ、それはありますね」
心桜「この時点で、だいぶイラッ! ・・・っと、くるんだけど!」
七夏「そうなの!?」
心桜「流れに流されて、ただ待ってる自分にっ!」
七夏「自分・・・ここちゃー?」
心桜「待ってる間に、他の番組を見てみるとか出来るよね!?」
七夏「あ! 確かに」
心桜「んで、他の番組をチェックしたら、他の番組も同じCMやってて『おっ!』ってなって、無意味にチャンネル間を行ったり来たりした事って無い?」
七夏「えっと、ない・・・かな」
心桜「無い!? 今日はやっぱ無いって事か!」
七夏「え!?」
心桜「あ、いやいや! んで、そのままチャンネル間を往復してたら、そのCMが終わってシンクロが解除されて・・・あーあ・・・って、なるよね!?」
七夏「なるの!?」
心桜「え!? あ、無いなら分かんないか」
七夏「くすっ☆」
心桜「ここまで来たらさ、もう一回『ご覧のCMは、ご覧のスポンサーの提供で~』って、もう一回被せて来いっ! そのくらいこだわれっ!」
七夏「え!?」
心桜「そういう、予想外な展開が待ってたなら、被ってもよし! とするっ!」
七夏「そうなの?」
心桜「だいたい、『被り』って良い事無いよね?」
七夏「どんな風にかな?」
心桜「例えば、キャラが被る」
七夏「キャラ?」
心桜「見た目が同じような感じで、性格も似てたら、うわっ! 被った! ・・・ってならない?」
七夏「お二人で一緒に何か行えば良いかもです☆」
心桜「役割としては、どっちかでいいとしたら、ふたりデスマッチ!」
七夏「えっと、それぞれが別の番組に出演されればいいのかな?」
心桜「んー・・・干渉回避・・・か。ま、それもひとつの方法か」
七夏「はい☆」
心桜「他にはさ、ガチャとかで同じアイテムが被りまくる・・・これもなかなか来るものがあるよね?」
七夏「がちゃ?」
心桜「がちゃがちゃの事!」
七夏「あ、はい! 昔、ここちゃーと一緒のが出て、お揃いだねっ! って、ここちゃー喜んでくれました☆」
心桜「うっ・・・そ、それは・・・あー! なんというかもうっ!」
七夏「私も、ここちゃーと一緒で良かったなって☆」
心桜「ガチャの件は無かった事にする!」
七夏「ここちゃー! お耳赤くなってます☆」
心桜「わわっ! つっちゃー! そういう事は言わないっ!」
七夏「でも話さないと伝わらないから・・・」
心桜「伝えなくていいっ! そ、そう言えば笹夜先輩は?」
七夏「えっと、用事があるみたいです☆」
心桜「今日は、こっちに来られれないのかな?」
七夏「どうなのかな?」
心桜「なんだかんだと言いながらも『随筆』は、少し久々だからね」
七夏「くすっ☆」
心桜「突然、ポンッ! とバトンを渡されても、どうすればいいのか・・・」
七夏「いつもと一緒でいいと思います☆」
心桜「そういう所は、流石というか・・・なんと言うか」
笹夜「こんにちは♪」
心桜「おっ! 笹夜先輩! こんにちは!」
七夏「こんにちはです☆」
笹夜「すみません。遅くなってしまって」
心桜「いえいえ、お忙しいみたいですから」
笹夜「今日は、どんなお話なのかしら?」
心桜「それが、無いんですよ!」
笹夜「ナイン!?」
心桜「あ、いえいえ『無い』です!」
笹夜「あ、『無』かしら?」
心桜「そうそう、特に何か話題があった訳では・・・ねっ! つっちゃー! ・・・って、居ないんかーい!」
七夏「え!? どしたの? ここちゃー?」
心桜「って、そっちに居るんかーい!」
七夏「??? えっと、はい☆ 冷茶どうぞです☆」
笹夜「ありがとう♪ 七夏ちゃん♪」
心桜「あっ! ありがとね!」
七夏「くすっ☆」
笹夜「それで、その『無い』って、どういう事かしら?」
心桜「色々と『無い』について話してただけで、特に深い意味は無くて」
笹夜「何かが無いという事かしら?」
心桜「あ、そうそう、元々は本編が無い・・・から始まったんだっけ?」
七夏「無いから始まる・・・そんな、お話があったかな?」
笹夜「『無』から始まったのは、この世界かしら?」
心桜「また、壮大な所に旗を立てましたね!」
七夏「この世界?」
笹夜「ええ♪ ビッグバンかしら?」
心桜「ビッグバン!?」
笹夜「宇宙の始まり・・・ビッグバン理論では、宇宙は『無』の状態から誕生した事になっています」
七夏「えっと、何も無いところから始まるのは分かりますけど・・・」
心桜「え!? つっちゃー分かるの!?」
七夏「『無い所から始まる事』についてです☆」
心桜「あ、そういう事ね」
笹夜「『無』から突然、この世界が始まった理由については、分かっていないですね」
心桜「もう、あたし付いてゆけない・・・」
笹夜「ですから『無い』という事は『有る』に繋がるのです♪」
心桜「無いと有るは表裏一体って事か!」
笹夜「そうなりますね♪」
心桜「って事は、今回の『本編無い』も、まあ分からなくも無いけど・・・」
笹夜「今までのお話が『有る』から、今回の『無い』も存在できた訳です♪」
心桜「なんか、上手く言えないけど、つっちゃー!!!」
七夏「はい!」
心桜「この世界が無くならない様に、頑張るんだよ!」
七夏「はい☆」
心桜「って事で、つっちゃーが頑張る『翠碧色の虹』本編はこちら!」
心桜「http://nanatsuiro.my.coocan.jp/nnt_frma_a.htm」
笹夜「私も、頑張って繋いでまいりますね♪」
心桜「ありがとうございます! あたしと笹夜先輩も頑張る『ココナッツ』宛てのお便りはこちら!」
心桜「http://nanatsuiro.my.coocan.jp/nnt_suiheki_novel.htm#QUESTIONNAIRE」
心桜「そして・・・おーい! 原作者! よろしく頼むよ! 次は『無い』からねっ!」
七夏「え!?」
笹夜「まあ!」
心桜「あははっ! 冗談だって!」
七夏「良かった☆」
心桜「良く無いっ!」
七夏「ひゃっ☆」
笹夜「まあ♪ D.C.かしら?」
心桜「え!?」

随筆十八 完

------------

随筆十八 をお読みくださり、ありがとうございました!
本編の方も鋭意制作中ですので、どうぞよろしくお願い申しあげます!

随筆十九:どおしてネタバレするの!?

随筆十九:どおしてネタバレするの!?

心桜「よいしょっと!」
七夏「くすっ☆」
笹夜「まあ♪」
心桜「ん?」
七夏「ここちゃー、今『よいしょっ!』って☆」
心桜「あはは・・・座る時に声になってたか」
七夏「はい☆」
笹夜「疲れていますと、つい、声になってしまいますね♪」
心桜「そだね。笹夜先輩も座る時に『よいしょっ!』って言いますか?」
笹夜「どうかしら?」
心桜「あ、かわした!?」
七夏「私、笹夜先輩が座る時『失礼いたします』は、よく聞きます☆」
笹夜「え!?」
心桜「まあ、無難なところだね~」
笹夜「こうして、のんびりと座っていると、心も落ち着きますね♪」
七夏「はい☆」
心桜「んー」
七夏「どしたの? ここちゃー」
心桜「まあ、のんびりもいいんだけどさ、なんか忘れてない!?」
笹夜「忘れ事!?」
七夏「えっと・・・」
心桜「お二人は基本的に『のんびり属性』だからね~」
笹夜「すみません」
心桜「あ、いえいえ。笹夜先輩は、時々鋭いですから!」
笹夜「すみません」
心桜「あ、いえいえ! 何!? この流れ!?」
七夏「今日は、何かあったのかな?」
心桜「あるよ! これこれ!」
笹夜「まあ!」
七夏「あっ! おたより!?」
心桜「そうそう! 久々だから忘れてるんじゃない!?」
七夏「うぅ・・・ごめんなさい」
心桜「ま、いいけどさ。とにかく、読んでみるよ!」
七夏「はい☆」
笹夜「ええ♪」
心桜「えーっと、『ココナッツさん、こんにちは。突然ですが「ネタバレ」する人について、どう思いますか? 私はドラマや小説、ゲームも楽しみますが、先の展開を知っている友達からネタバレされる事があります。これって楽しみを奪われてしまったみたいで切なくなります。ネタバレしないでってお願いしても、ネタバレされる事があります。何とかならないでしょうか?』・・・うーん、ネタバレか、つっちゃーどう思う?」
七夏「え!? えっと・・・もう一度、お友達さんにお願いしてみます」
笹夜「私なら、その話題は関心が無い振りをするかしら?」
心桜「あたしは、その友達よりも先に展開を知って、ネタバレ返すっ!」
七夏「ここちゃー! もう・・・」
心桜「いやいや、速さは命! 何事も初動が大切なんだよ!」
笹夜「心桜さん、確かに話している事はもっともですが、この場合は・・・」
心桜「ネタバレされたら、ネタバレ返す! 何事も自分の身に置き換えれば、よく分かるって事じゃない!?」
笹夜「そうですけど、それでは根本的な解決にはならないです」
七夏「相手の気持ちを考えて、お話しをする方がいいな」
心桜「でもさ、相手がネタバレ無差別爆撃してくるんでしょ!? 爆撃される前に何とか対処しないと」
笹夜「その前に、どおしてお手紙主さんのお友達さんが、先の展開を話されるのかを考えてみましょうか?」
七夏「えっと・・・」
心桜「それは、しったかでしょ!?」
笹夜「そうですね。人は既に知っている知識や出来事を、他の人に話したくなる心がありますから」
心桜「やっぱそうだよね?」
笹夜「でも、どうしてそうなのかという事かしら?」
心桜「え!?」
笹夜「自分を他の人よりも優位になるように、という保身的な心があるからかも知れません」
心桜「あんたより、あたしの方が物知りだよ・・・って事!?」
七夏「頼りになりそうですけど」
笹夜「それが、少し違う方向に歪んで現れているのかも知れません」
心桜「具体的に、ネタバレを防止するには?」
笹夜「そうね・・・七夏ちゃん! ちょっといいかしら?」
七夏「はいっ☆」
心桜「???」

 ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆

七夏「笹夜先輩! 昨日のお話、見られましたか!?」
笹夜「え!? ごめんなさい。まだ見れてなくて・・・七夏ちゃんは、私よりも先の事を知っているのね♪ 私も早く同じお話ができるようにしますね♪」
七夏「はいっ☆」

心桜「そんな上手くゆく訳がないっ!!!」

七夏「ひゃっ☆」
笹夜「きゃっ!」

心桜「つっちゃー! ちょっといい?」
七夏「はい☆」
笹夜「???」

 ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆

心桜「つっちゃー! 昨日のドラマ見た!? 凄かったよねーまさか、恋人が裏で操っていたとはっ!」
七夏「え!?」
心桜「恋人が真犯人!」
七夏「うぅ・・・」
心桜「これが戦争だ!」

笹夜「心桜さん・・・」
心桜「こうならない?」
笹夜「七夏ちゃん、可哀想です」
七夏「えっと、私は大丈夫です☆」
心桜「やっぱ、ネタバレ返すしかないんじゃないかな? どうですか? 皆さん?」
笹夜「誰に訊いているのかしら?」
心桜「ま、今のは寸劇だからいいけどさ。これが実際に問題となっているからね」
七夏「どうすればいいのかな?」
心桜「関わらない! 或いは距離を置く!」
七夏「え!?」
笹夜「まあ!」
心桜「友達がネタバレやめてってお願いしても、やめれないなんて、そんなの友達じゃないよ! あたしなら距離を置くよ」
七夏「・・・・・」
笹夜「・・・・・」
心桜「ん? 何!?」
七夏「・・・よかった☆」
笹夜「・・・ええ♪」
心桜「何がいいの?」
七夏「くすっ☆」
笹夜「~♪」
心桜「ま、まあいいや。とにかくさ、お手紙の主さんには、ネタバレ返して距離を置く一撃離脱をオススメするよ」
七夏「・・・・・」
笹夜「・・・・・」
心桜「ん? 何!?」
笹夜「ま、まあ、心桜さんの本心は、別の所にある事が分かりましたので♪」
七夏「そ、そういうことならいい・・・かな?」
心桜「ま、友達は選ぼう! そして、いい友達に選ばれるように努力しよう!」
笹夜「まあ♪」
七夏「ここちゃー☆」
心桜「ネタバレばかりして人の楽しみを奪うと、自分を友達として選んでもらえるって事は無くなるからね!」
笹夜「そうですね♪」
七夏「はい☆」
心桜「って事で、今回は、お手紙の主さんが頑張らなければならないって事で、つっちゃーも頑張る『翠碧色の虹』本編はこちら!」
心桜「http://nanatsuiro.my.coocan.jp/nnt_frma_a.htm」
七夏「え!?」
笹夜「まあ! 突然捻じ込んできました」
心桜「あははっ! あたしと笹夜先輩も頑張る『ココナッツ』宛てのお便りはこちら!」
心桜「http://nanatsuiro.my.coocan.jp/nnt_suiheki_novel.htm#QUESTIONNAIRE」
心桜「そして・・・おーい! 原作者! もっとしっかりしろー!」
七夏「もう! ここちゃー!」
笹夜「確かに、頑張ってもらいませんと」
心桜「だねっ!」
七夏「えっと、おたより、ありがとうです☆」
笹夜「ありがとうございます♪」
心桜「ありがとね!」

随筆十九 完

------------

随筆十九をお読みくださり、ありがとうございました!
本編の方も鋭意制作中ですので、どうぞよろしくお願い申しあげます!

随筆二十:どっちにする?って訊かれても・・・

随筆二十:どっちにする?って訊かれても・・・

七夏「ここちゃー☆ どっちにする?」
心桜「これはっ!」
七夏「くすっ☆」
心桜「ブルーベリーのケーキと、抹茶のケーキ!」
七夏「どっちにする?」
心桜「どっちってさぁ・・・この場合、あたしに選ばせますか!? ・・・って言うより、ある意味では試されてない!?」
七夏「え!?」
笹夜「心桜さん・・・どちらを選ばれるのかしら?」
心桜「わぁ! びっくりした!」
七夏「あ、笹夜先輩! こんにちはです☆」
心桜「こんちわー! 笹夜先輩!」
笹夜「はい♪ こんにちは♪」
心桜「んー・・・」
七夏「ここちゃー、そんなに悩まなくても・・・」
心桜「(あたしが抹茶を食べたかったら何も問題ないけど、今日はブルーベリーの方がいいかなーって思ったりしたから迷うんだよねー、つっちゃーは間違いなくブルーベリーが食べたいと思ってるはず。でも、あたしがブルーベリーを選んだら、あっさりと譲ってくるだろうし・・・自分をとるか、相手をとるか・・・)
笹夜「心桜さん・・・かなり悩まれてますね・・・」
心桜「因みに、笹夜先輩なら、どっちがいいで---」
笹夜「抹茶かしら?」
心桜「は、早っ! しかも言い切る前に被せられた! そりゃ、そうだよねー笹夜先輩ならそうなりますよね~」
笹夜「心桜さんが、頂きたい方を素直に選べば良いと思います♪ 七夏ちゃんは、好きな方を選んでねと話してます♪」
七夏「はい☆」
心桜「そ、そうなんだけどさぁ・・・」
笹夜「心桜さんが迷われているという事は---」
心桜「わぁー! わぁー!! もういいっ!!! どっちもにするっ!!!」
七夏「え!?」
笹夜「まあ!」
心桜「これを綺麗に三等分して、みんなで一緒がいいっ! それでいいよねっ!? つっちゃー!?」
七夏「えっと・・・はい☆ では、三等分してまいりますね☆」
心桜「ありがと! よろしく!」

 ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆

笹夜「心桜さんも、慌てる事があるのですね♪」
心桜「笹夜先輩・・・なんか今日は攻めてこられますね!」
笹夜「そうかしら? でも、心桜さんの心は伝わってきました♪」
心桜「勘弁してください・・・これ、カメラ回ってますから!」
笹夜「え!?」
心桜「本番じゃなかったら、『ブルーベリーゲットだぜっ!』になってたかも!?」
笹夜「本当にそうかしら?」
心桜「んー、さらに切り込んでこられますね!」
七夏「お待たせです☆」
心桜「おっ! 綺麗に三等分になったねー!」
七夏「くすっ☆ はい! どうぞです☆」
心桜「ありがと! つっちゃー!」
七夏「笹夜先輩もどうぞです☆」
笹夜「ありがとう♪ 七夏ちゃん♪」

 ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆

心桜「それにしても、凄い組み合わせだよねー」
七夏「え!?」
心桜「ブルーベリーと抹茶」
七夏「くすっ☆」
心桜「一緒に食べると、結構複雑な味だったよ」
笹夜「抹茶から頂けば、後味が良いです♪」
心桜「それを先に話してくださいよっ!」
七夏「私は抹茶の後味もいいなって思います☆」
心桜「え!? つっちゃーの場合、ブルーベリーが好きだから先に食べた結果、抹茶が後味になるだけじゃないの?」
七夏「え!? えっと・・・」
心桜「んで、笹夜先輩は緑色が好きだから、抹茶を先に食べて後味がブルーベリーって事だよね?」
笹夜「緑色は好きですけど、私、抹茶を選びますと話したかしら?」
心桜「あ、そうでしたね」
七夏「くすっ☆」
心桜「あー、なんでケーキを食べるだけで、こんなに気を使うんだろ? ってあっ!」
笹夜「心桜さんの本心が見えました♪」
心桜「・・・後味悪いのはケーキだけで十分だよ・・・もう・・・」
七夏「ここちゃー、そんなに落ち込まなくても・・・」
心桜「なんで今日は笹夜先輩がこんなに攻めて来るんだろう・・・」
笹夜「それは、前回の心桜さんの『これが戦争だ!』という発言かしら?」
心桜「んなっ!!! 根に持たれてましたか!?」
笹夜「いえいえ♪」
心桜「その笑顔・・・笹夜先輩、ちょー怖いんですけど!」
笹夜「でも、心桜さんは、しっかりと優しさがありましたので♪」
心桜「そりゃー相手がつっちゃーだからねっ!」
七夏「???」
笹夜「~♪」
心桜「ちなみにですけど、前回の『これが戦争だ!』は寸劇ですよ! 念のため!」
笹夜「ええ♪」
心桜「(笹夜先輩には、仕掛けない方が身の為かも?)」
笹夜「? 心桜さん? 何か話されました?」
心桜「いえ! なんでもないであります!」
七夏「ごちそうさまでした☆」
心桜「色々ありがとねっ! つっちゃー!」
七夏「はい☆」
心桜「笹夜先輩! 今後もお手柔らかに!」
笹夜「え!? 何かしら?」
心桜「あらー・・・なんかもう疲れたよ」
七夏「疲れた時は甘い食べ物が---」
心桜「いやいやいやいや! もーいい!! もー十分っ!!!」
笹夜「まあ♪」
心桜「今、甘い物(と苦い物まで)を食べたばかりだから、頑張るっ!」
七夏「くすっ☆」
心桜「って事で、つっちゃーも頑張る『翠碧色の虹』本編はこちら!」
心桜「http://nanatsuiro.my.coocan.jp/nnt_frma_a.htm」
七夏「はいっ☆ 私、頑張ります☆」
心桜「んで、あたしと笹夜先輩も頑張る『ココナッツ』宛てのお便りはこちら!」
心桜「http://nanatsuiro.my.coocan.jp/nnt_suiheki_novel.htm#QUESTIONNAIRE」
笹夜「私も頑張りますね♪」
心桜「いや~笹夜先輩は今のままで十分な気が・・・」
笹夜「そうかしら?」
心桜「そして・・・お~い! 原作者~! しっかり頼むよー!」

随筆二十 完

------------

随筆二十をお読みくださり、ありがとうございました!
本編の方も鋭意制作中ですので、どうぞよろしくお願い申しあげます!

随筆二十一:シングル派?アルバム派?

随筆二十一:シングル派?アルバム派?

心桜「こんちわ~♪」
七夏「こんにちは☆ どしたの? ここちゃー?」
心桜「これ! ここちゃんのシングル!」
七夏「あっ! 発売されてたの?」
心桜「そう! んで、これを聴いてみようかなーって」
七夏「はい☆」
笹夜「こんにちは♪」
七夏「笹夜先輩、こんにちはです☆」
心桜「こんちわー! 笹夜先輩!」
笹夜「あら? 心桜さん、それは?」
心桜「kokone(心響)さんのシングルです!」
笹夜「はい♪」
心桜「笹夜先輩、知ってるんですか?」
笹夜「ええ♪ でも、そのシングルは初めて見るかしら?」
心桜「先日、発売されたばかりだからね! んじゃ、早速聴いてみますか!」
七夏「ここちゃー、これでいいかな?」
心桜「あ、プレイヤー! ありがと、つっちゃー!」
七夏「はい☆」
心桜「ここで、お知らせです! kokone(心響)さんのシングルを以下のURLにて本当に試聴できます! どうぞよろしくお願いいたします!」

 ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆

「ラムネ色の空/kokone(心響)」試聴版
https://twitter.com/SUIHEKIIRO/status/1010826781358637061

「ラムネ色の空/kokone(心響)」ピアノスケッチ版
https://twitter.com/SUIHEKIIRO/status/1009379665578885122

 ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆

七夏「???」
笹夜「まあ! 心桜さん? どなた宛に話されているのかしら?」
心桜「この『言わされてる感』は何!?」
七夏「え!?」
心桜「まあいいや、んで、やっぱ、ここちゃんの歌声はいいね~!」
七夏「音楽はどうかな?」
心桜「音楽の事なら、専門の笹夜先輩にっ!」
笹夜「え!? まあ、音楽として楽しめました♪」
心桜「そう言えば、シングルとアルバムってあるよね!?」
笹夜「ええ♪」
心桜「どっち派とかあります? あたしはシングル派かな、早さが命っ!」
七夏「くすっ☆ 私はアルバムかな?」
笹夜「私も、アルバム派かしら?」
心桜「早く聴きたいとか、思ったりしませんか?」
七夏「はい☆ それは思いますけど、待つ事も楽しみます☆」
笹夜「気に入った音楽は、アルバムが発売されるまでピアノで演奏して楽しんだりしてます♪」
心桜「笹夜先輩ならではの楽しみ方ですねー」
笹夜「そ、そうかしら?」
心桜「そうそう!」
七夏「ピアノが演奏できるといいなって思います☆」
笹夜「ありがとう♪ 七夏ちゃん♪」
心桜「結局、後でアルバム発売される場合、最終的にはアルバムの方が『お得』なんだけどねっ!」
笹夜「心桜さんは、アルバムは買われないのかしら?」
心桜「半々・・・です。アルバムにしか無い価値があれば買うかな?」
七夏「価値!?」
心桜「そのアルバムにしか収録されていない音楽とか、アルバムそのもののジャケットとか、そういう所」
七夏「なるほど☆」
笹夜「まあ、シングルを発売して、ある程度の音楽作品が揃ったらアルバムとして発売する方法が、制作側と販売側にとって都合が良いですからね♪」
心桜「なるほどね! ま、あたしたちがシングルやアルバムを選択できるのは良い事だと思うよ!」
七夏「はい☆」
笹夜「ええ♪」
心桜「まあ、シングル対アルバムに関しては、そのような住み分けが出来てるけどさ、ほぼ同じような内容で複数同時発売とか、ちょっと困るよね!?」
七夏「え!?」
笹夜「それって!?」
心桜「具体的には言わないけど、コレクター泣かせの販売スタイルがあるわけで・・・まあ『金』と『銀』の二種類くらいなら分からなくもないけどさ・・・」
七夏「『金』と『銀』・・・」
心桜「わわっ! つっちゃー! あまり深く考えなくていいから!」
七夏「え!? は、はい!」
笹夜「心桜さん・・・」
心桜「ま、まあ、ファンなら12種類同時発売とかされても、付いてゆかなければならないわけでして・・・」
七夏「12種類?」
笹夜「どおして『12種類』なのかしら?」
心桜「まあ、それは調べれば分かるかも知れませんし、分からないままかも知れません!」
七夏「???」
心桜「とにかく、少ないおこずかいの範囲内で、上手く計画しなければならないからね」
笹夜「ええ♪」
心桜「笹夜先輩の『アルバムが発売されるまで待つ』を、節約できる計画としてあたしも考えてみようかなぁ・・・」
七夏「くすっ☆」
心桜「だけどさ、ほしいと思った物は、すぐに手に入れておきたい派だし、後からアルバムとして発売されるとは限らないからね」
笹夜「それを見極める力があると良いですよね♪」
心桜「未来を見る目を養うこと・・・か」
笹夜「予想通りに物事が進むという事は、それだけしっかりとした計画が出来ている事になります♪」
七夏「はい☆」
笹夜「自分の好きな事を通して、計画する事の大切さを学ぶ事が出来ますので、楽しむ事はとても大切ですね♪」
心桜「そうですね! あたしたち、楽しんでる場合だっ!!!」
七夏「ひゃっ☆」
笹夜「今のは何かしら?」
心桜「文字通りです!」
笹夜「文字通り!?」
心桜「あ、いえ、言葉通りです!」
笹夜「えっと、そういう意味ではなくて・・・」
心桜「笹夜先輩! 細かい事はお気になさらず、楽しんでる場合だっ!!!」
笹夜「きゃっ!」
七夏「ここちゃー、急に大きな声になるから・・・笹夜先輩、すみません!」
笹夜「いえいえ♪」
心桜「あはは・・・つっちゃー、ありがと。もっと楽しむんだよ!」
七夏「はいっ☆」
心桜「って事で、つっちゃーが楽しむ『翠碧色の虹』本編はこちら!」
心桜「http://nanatsuiro.my.coocan.jp/nnt_frma_a.htm」
七夏「はいっ☆ 私、楽しみます☆」
心桜「んで、あたしと笹夜先輩も楽しむ『ココナッツ』宛てのお便りはこちら!」
心桜「http://nanatsuiro.my.coocan.jp/nnt_suiheki_novel.htm#QUESTIONNAIRE」
笹夜「私も楽しませて頂きますね♪」
心桜「はい! あたしも同じくですっ!」

随筆二十一 完

------------

随筆二十一をお読みくださり、ありがとうございました!
本編の方も鋭意制作中ですので、どうぞよろしくお願い申しあげます!

随筆二十二:何歳からが良いのでしょう!?

随筆二十二:何歳からが良いのでしょう!?

心桜「こんにちわ~♪」
七夏「ここちゃー! いらっしゃいです☆」
心桜「おっ! これは!?」
七夏「おたより届いてます☆」
心桜「おお! ・・・で、読んだの?」
七夏「いえ、まだ・・・みんなで一緒にと思って☆」
心桜「あはは・・・なるほど。先に読んでてもいいのに、つっちゃー昔からそういう所あるよね」
七夏「くすっ☆」
笹夜「こんにちは♪」
心桜「笹夜先輩! こんちわー!」
七夏「こんにちはです☆」
笹夜「あら? それは!?」
七夏「おたより届いてます☆」
笹夜「まあ♪ 読まれました?」
七夏「いえ、まだです☆ みんなで一緒にと思って☆」
笹夜「ありがとう。でも、私に構わず、お先にどうぞ♪」
心桜「あたしと同じような展開になってる・・・」
笹夜「え!?」
心桜「まあ、つっちゃーは『みんなで一緒』が好きだからね!」
笹夜「七夏ちゃん、そういう所ありますね♪」
七夏「はい☆」
心桜「んじゃ、そのままつっちゃーに任せるよ!」
七夏「え!?」
笹夜「七夏ちゃん、よろしくお願いしますね♪」
七夏「はい☆ えっと・・・『ペンネーム、塩辛いトンボ・・・さん!?』」
心桜「ん? しおからい?」
笹夜「塩辛・・・食べ物かしら?」
心桜「あ! イカの塩辛!」
笹夜「ええ♪」
心桜「でもトンボ・・・おお! シオカラトンボか!?」
笹夜「そんな名前のトンボが居ますね♪」
心桜「水色のトンボだっけ?」
笹夜「ええ♪」
心桜「で、シオカラトンボは塩辛いの?」
笹夜「そこまでは分かりません・・・すみません」
七夏「えっと・・・」
心桜「あ、ゴメン! つっちゃー続けて!」
七夏「はい☆ 『ココナッツさん! こんにちは! 私には小学5年生の娘が居ます。最近、自分用の携帯端末をほしがるようになりまして、いつ頃に与えればよいのかと悩んでおります。一応、私の携帯端末を貸してはいるのですけど・・・ここ最近、娘は携帯端末を使っている時間が長くなってきて、このまま本人専用の携帯端末を与えてしまうと、依存してしまいそうで・・・何歳から与えるべきなのでしょうか?』ここちゃー? 何歳からがいいかな?」
心桜「んあまいっ!!!」
七夏「ひゃっ☆」
笹夜「きゃっ!」
七夏「ここちゃー! 急に大きな声になるから」
心桜「そこは塩辛くならないとっ! あ、そういう事か!?」
笹夜「え!?」
心桜「子供に携帯端末を与え渋っているペンネームって事!?」
七夏「そうなの?」
心桜「分かんないけど・・・でも、あたし、携帯端末持って無いよ。つっちゃーもだよね!?」
七夏「はい☆」
心桜「笹夜先輩は!?」
笹夜「一応、持ってはいます」
心桜「おお! 流石先輩!」
笹夜「流石の意味が分かりません」
心桜「あははっ!」
七夏「携帯端末って持つのは結構大変ですよね?」
笹夜「ええ。維持するのは大変です。学生さん用のご支援プランを上手く利用しても大変です」
心桜「ですよね・・・あたしはまあ、あると便利な事は分かってるけど、今は支払能力が無いからね」
七夏「私もここちゃーと同じかな?」
心桜「んで、『いつから携帯端末を与えるべきか?』なんだけど、これは人によるんじゃないかな?」
笹夜「・・・と、申されますと?」
心桜「世の中、そんなに甘くはないって事を、知っているかどうか・・・だね!」
七夏「???」
心桜「もう既に話しているけど、自分に携帯端末を支払い、維持できるだけの力があるかどうか・・・って事!」
七夏「なるほど☆」
心桜「そして、自分自身も携帯端末に依存し過ぎないようにコントロールできるかどうか・・・だねっ!」
笹夜「確かに、携帯端末に夢中になり過ぎますと、色々と健康にも良くないですからね」
心桜「まあ、支払い能力に関して、おこずかいを貰っている身としては、なんとも言えないんだけどさ。少なくとも、そのお小遣いの範囲内でならって事かな!?」
七夏「携帯端末を使う場合は、計画が大切ですね☆」
心桜「持っているだけで、何もしなくても維持費がかかるからね!」
笹夜「学生さんの平均的なお小遣いの金額を考えますと、小学生に専用の携帯端末を与えるのは早いかも知れませんね。ただ、連絡用とか、通信の時間帯や用途を限定するのでしたら、小学生以下でも私は良いかと思います♪」
心桜「小学生イカって塩辛ですか!?」
笹夜「え!? そうではなくて、えっと6歳以下のお子様でも・・・」
心桜「6歳イカって、やっぱり塩辛ですか!?」
七夏「ここちゃー!」
心桜「あはは! すみませんっ!」
笹夜「お手紙主さんの場合は、このまま携帯端末を与えてしまうのは危険かも知れません。お子様が、携帯端末をどのように使われておられるのかをしっかりと把握されて、その内容をお子様とよく話されてから、決められるとよいかと思います♪」
心桜「そだね・・・携帯端末には危険な罠がたくさんあるからね!」
七夏「危険な罠!?」
心桜「ほら、ゲームの課金とかで笑えない金額になって泣いた話とか聞いた事ない?」
七夏「あ、聞いた事はあります」
心桜「最初は無料で間口広いから特に気をつけなければっ!」
笹夜「一体、どのような使い方をすれば、あんなに大変な金額になるのかしら?」
心桜「そういう疑問が出てくる笹夜先輩は、安心な反面、引っ掛かる可能性もあり・・・かな!?」
笹夜「え!?」
心桜「まあ、笹夜先輩はゲームに夢中になるイメージは無いから、大丈夫だとは思いますけど」
笹夜「ゲームは時々・・・程度かしら?」
心桜「え!? ゲーム楽しまれるのですか?」
笹夜「まあ、ほどほどに・・・ですけど」
心桜「どんなゲームを!?」
笹夜「トランプとか、衣装コーディネートを楽しめるゲームかしら?」
心桜「トランプはまだしも、衣装コーデの方は危険な感じがしないでもない」
七夏「ここちゃー! あまり詮索はだめです☆」
心桜「あははっ! つい・・・すみません」
笹夜「いえ♪ いずれにしても、自分で管理ができなければなりません」
心桜「そだね。自分専用の携帯端末なんだから、その面倒も自分で見ろ! 以上だ!!!」
笹夜「きゃっ!」
七夏「ひゃっ☆」
心桜「ぬわっはっはっ!!!」
笹夜「心桜さん・・・」
心桜「という事で、お手紙の塩辛いトンボさんも、よくお子さんと話して決めてくださいませ! あたしは、何歳からとかそういう所で線を引くのではなく、お子さんの心を見据える事が大切だと思うよ!」
笹夜「まあ♪」
心桜「・・・って事だよね!?」
笹夜「ええ♪」
七夏「はい☆」
心桜「・・・ってことで、お手紙ありがとうございました!」
七夏「ありがとうです☆」
笹夜「ありがとうございました♪」
心桜「引き続き、あたしたち『ココナッツ』は、お手紙を待ってます!宛先はこちら!」
心桜「http://nanatsuiro.my.coocan.jp/nnt_suiheki_novel.htm#QUESTIONNAIRE」
七夏「お便りまってます☆」
心桜「んで、つっちゃーが待ってる『翠碧色の虹』本編はこちら!」
心桜「http://nanatsuiro.my.coocan.jp/nnt_frma_a.htm」
笹夜「私も楽しみにしています♪」
心桜「それじゃ! また来週~!」
七夏「くすっ☆」
心桜「え!? 何!?」
七夏「ここちゃーテレビ番組みたいです☆」
心桜「ああ、そういう事ね!」
笹夜「因みに『オオシオカラトンボ』も居るそうです♪」
心桜「おお! シオカラトンボ! ・・・って、笹夜先輩、携帯端末で何を調べてるんですか!?」

随筆二十二 完

------------

随筆二十二をお読みくださり、ありがとうございました!
本編の方も鋭意制作中ですので、どうぞよろしくお願い申しあげます!

随筆二十三:一人っ子と一人でないっ子

随筆二十三:一人っ子と一人でないっ子

心桜「つっちゃー! こんちわ!」
七夏「いらっしゃいです☆ ここちゃー☆」
心桜「何読んでたの?」
七夏「えっと・・・」
心桜「俺の妹がこんなに可愛くていいわけがないっ!」
七夏「はい☆」
心桜「『俺妹』かぁ・・・最近よくみられる長いタイトルだねー」
七夏「くすっ☆」
心桜「・・・で、つっちゃーが、それを読んでるって事は・・・」
七夏「とっても可愛い妹さんです☆」
心桜「可愛い妹・・・あたしは妹いないから分かんないや」
七夏「それは、私もここちゃーと同じかな?」
心桜「つっちゃーは一人っ子だもんね!」
七夏「はい」
心桜「それって、確か凄い妹なんだよね!?」
七夏「え!? 凄いっていうよりも、とっても可愛いです☆」
心桜「ん? ちょっと見せてくれる?」
七夏「はい☆」

 ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆

妹 「なぁに? お兄ちゃん?」
俺 「お前さー・・・なんで『俺の妹』なんかしてんだよ!?」
妹 「え!? 何でって言われても・・・私は、お兄ちゃんの後に生まれたから・・・」
俺 「何で俺の後に生まれてくんだよ!」
妹 「え!? お兄ちゃんより先の方が良かったの?」
俺 「そうじゃなくてっ!」

 ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆

心桜「・・・あれ? こんな話だったっけ?」
笹夜「妹さん---」
心桜「うわぁ!」
七夏「ひゃっ☆」
笹夜「す、すみませんっ」
心桜「びっくりしながらこんちわー! 笹夜先輩!」
七夏「笹夜先輩! こんにちわです☆」
笹夜「こんにちわ♪」
心桜「んで、妹がなんですか?」
笹夜「妹さんが可愛くて、兄の心が辛くなってゆくお話しかしら?」
心桜「そーなんですか!?」
笹夜「ええ♪」
心桜「あたしが思ってた妹とは違うけど」
笹夜「それは、どのような妹さんかしら?」
心桜「妹なのに妹属性!」
七夏「え!?」
笹夜「妹ですから、妹の属性は、生まれつきではないかしら?」
心桜「そうじゃなくて、あー何ていうかその・・・」
笹夜「美夜も可愛ければいいのに・・・」
七夏「美夜ちゃん可愛いです☆」
心桜「美夜って誰ですか?」
笹夜「私の妹ですけど・・・」
心桜「えー!? 笹夜先輩!! 妹居るんですか!?」
笹夜「え!? ええ」
七夏「ここちゃー!?」
心桜「・・・って、知ってましたけど」
笹夜「話したこと無かったかしら?」
心桜「いえいえ、今のは異世界の人の気持ちになってみただけです!」
七夏「???」
笹夜「異世界の人・・・」
心桜「ま、まあ、そんなに難しく考えるところではなくて」
七夏「私は、兄弟が居ないから、居たら楽しいなって思います☆」
心桜「まあ、楽しい・・・と言えば楽しい・・・かな?」
笹夜「ええ♪ 美夜は少し元気過ぎて困る事もありますけど、楽しいと言えば楽しいかしら?」
七夏「くすっ☆ いいなぁ☆」
笹夜「その『俺妹さん』みたいに、純粋に可愛ければいいのですけど」
心桜「ん? 何かあったんですか?」
笹夜「少し、イタズラ好きな所があって・・・」
心桜「なるほどねー。んで、今日は笹夜先輩がターゲットにされたと」
笹夜「え!?」
心桜「笹夜先輩、ちょっと後ろ姿見せてもらえます?」
笹夜「え!? はい」
心桜「これは・・・やっぱり・・・」
七夏「どしたの? ここちゃー?」
笹夜「え!? 何か付いてるのかしら!?」
心桜「髪にうっすらと型が付いてる!」
笹夜「ほぁー・・・」
心桜「笹夜先輩、頭にバンドでも被せられたんですか?」
笹夜「いえ・・・その・・・」

 ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆

美夜「お姉ちゃんお出掛け?」
笹夜「ええ♪」
美夜「いってらっしゃ~い!」
笹夜「はい♪」
美夜「あっ! お姉ちゃん帽子っ!」
笹夜「きゃっ!」
美夜「今日も日差し強いよー! あたしの帽子貸したげる!」
笹夜「これは・・・み、美夜っ!」
美夜「わぁー! お河童おねーちゃーん!」

 ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆

笹夜「美夜ったら、後ろからシャンプーハットを思いっきり被せてきて・・・」
七夏「・・・・・」
心桜「・・・・・くくっ! あっはっはー!」
七夏「こ、ここちゃー! 笹夜先輩! すみません!」
心桜「なかなかやりますなー! シャンプーハットは、美夜っちのだったのか!」
笹夜「まあ、私は使いませんから・・・」
心桜「随筆十二、伏線回収完了!」
七夏「え!?」
笹夜「心桜さんっ!?」
心桜「あはは! システム管理領域に割り込みをかける!」
笹夜「何のお話ですか?」
心桜「ここは、あたしが管理しなければ・・・と、思い始めててね」
七夏「ここちゃーは頼りになります☆」
心桜「でもまあ、笹夜先輩もよく引っ掛かりましたよね」
笹夜「それが、ここ最近、何度か同じようなことがあって・・・」
心桜「え!? シャンプーハットを何度もですか!?」
笹夜「いえ、普通の帽子を被せてくれて・・・」
心桜「ほほう~随分手の込んだ『仕込み』ですなぁ~」
笹夜「それで、私もすっかり油断してました」
七夏「今度は美夜ちゃんも一緒に---」
笹夜「いえいえいえいえ! 大変な事になりますからっ!」
心桜「さ、笹夜先輩が取り乱してる・・・」
笹夜「コホンッ! 少し、お話が脱線しましたけど、妹さんは居れば楽しいですけど、少し困る時もあります」
心桜「笹夜先輩!? そんな早口で・・・なんか、急にたたみ掛けてません!?」
笹夜「そ、そんな事はありませんっ!」
七夏「美夜ちゃんが居ればもっと楽しくなります☆」
笹夜「な、ななつちゃ~ん!!」
七夏「ひゃっ☆」
心桜「あ~、なんかもうグダグダ・・・どうしよこれ」
心桜「みんなグダグダだけど、まとめときますか!『翠碧色の虹』本編はこちら!」
心桜「http://nanatsuiro.my.coocan.jp/nnt_frma_a.htm」
心桜「あたしたち『ココナッツ』宛ての、お手紙はこちら!」
心桜「http://nanatsuiro.my.coocan.jp/nnt_suiheki_novel.htm#QUESTIONNAIRE」
心桜「まあ、美夜っちが来たら、あたしも歓迎するよ!」
笹夜「きっと大変な事になります!」
心桜「そうなりかけたら、あたしが駆逐するまでさ!」
七夏「もう! ここちゃー!」
心桜「んで、本当に大変なのは・・・お~い原作者! このままでいいのかぁ~?」
七夏「???」

随筆二十三 完

------------

随筆二十三をお読みくださり、ありがとうございました!
本編の方も鋭意制作中ですので、どうぞよろしくお願い申しあげます!

随筆二十四:無い物はねだれません!?

随筆二十四:無い物はねだれません!?

心桜「こんちわ! つっちゃー! 居る!?」
笹夜「こんにちわ♪」
心桜「おわっ! さ、笹夜先輩!!!」
笹夜「・・・どおしてそんなに驚かれるのかしら?」
心桜「す、すみません。まさか笹夜先輩が最初からいらっしゃるとは思ってなくて・・・」
笹夜「そう言われれば、こちらこそいつも遅れてしまって、すみません」
心桜「いえいえ・・・・・」
笹夜「??? 心桜さん!? どうかなさいました?」
心桜「笹夜先輩、お一人・・・ですよね?」
笹夜「え!? ええ♪」
心桜「ふぅー・・・」
笹夜「心桜さん!?」
七夏「あ! ここちゃー☆ いらっしゃいです☆」
心桜「こんちわー! つっちゃー!」
七夏「くすっ☆ はい☆ 笹夜先輩! 冷茶どうぞです☆」
笹夜「ありがとう♪ 七夏ちゃん♪」
七夏「ここちゃーも☆」
心桜「いつもありがとね! ・・・で、つっちゃーの分は?」
七夏「えっと、この後、和菓子と一緒に持ってまいります☆」
心桜「一緒に持ってくれば・・・って、あたしが手にしているのが、元々はつっちゃーの分なんだよね? ごめん」
七夏「くすっ☆ では、和菓子を持ってまいりますね☆」
心桜「ありがと、つっちゃー!」
笹夜「今日はのんびりと過ごしたいですね♪」
心桜「んー、確かに平和ですね・・・ある意味何も無くて暇ってヤツ!?」
笹夜「忙しい時は暇を求めて、実際にそうなると、今度は何か行い事を求めて・・・」
心桜「無いものねだりですか?」
笹夜「ええ♪」
心桜「分かる気がする」
笹夜「え!?」
心桜「自分がほしかった物が手に入ったら、急に熱が冷めてしまうんだよねー」
笹夜「例えば、どんな事かしら?」
心桜「そうですね。ゲームで、最強の武器を手に入れたら、その武器の威力を確かめてそこで終わっちゃうとか・・・って、こんな例えで分かりますか?」
笹夜「ええ♪ 私も難易度の高いピアノ演奏が出来た時、次にどの楽曲を練習しようかなって考えます♪」
心桜「・・・なんか例え負けた気がする・・・」
笹夜「え!?」
心桜「ゲームとピアノが戦ったら、色々な意味でピアノが勝つと思います!」
笹夜「何の戦いかしら?」
心桜「世間一般の評価です・・・『ゲームばっかりして!』って、言われるけど、『ピアノばっかりして!』とは言われないと思った・・・これってあたしの偏見!?」
笹夜「えーっと、確かにそのような傾向はありますね・・・残念ですけど」
心桜「おっ! 残念と? さすが! 笹夜先輩! 理解有る~」
笹夜「褒められるような事では・・・」
心桜「いえいえ、褒め事ですよ! 顔見るなり『宿題したの?』って言われ続けたら『他に言う事無いのか!?』って思ったりするよ」
笹夜「それは心桜さんが、宿題を後回しにするからかしら?」
心桜「あはは! そうかも! でも、後回しにしても宿題はしっかりこなしてるんだけどなぁ~ これが、こなせてないのなら言われても仕方が無いんだけどさ」
笹夜「では、先に済ませておくのは如何かしら?」
心桜「それも、実施してます!」
笹夜「そ、そうでしたか・・・すみません」
心桜「いえいえ! つっちゃーと一緒に宿題する時は、午前中に済ませてるよ」
笹夜「七夏ちゃんは、そういうタイプですからね♪」
心桜「そだね~。で、あたし一人の時は宿題を後回しにしてるから、親から見るとそんな風にしか見えてないんだよね」
笹夜「では、七夏ちゃんのお家で宿題を済ませるという事を、ご両親に話されてみては如何かしら?」
心桜「わざわざそんな事を話すと『シェ~~~!』になるからね!」
笹夜「し、しぇー!? 心桜さん? その手・・・何のポーズかしら?」
心桜「・・・無理だったか・・・」
笹夜「???」
心桜「出かける時に、親に『宿題しに行くから!』なんて話すのは粋じゃないよ!」
笹夜「なるほど♪ 心桜さんらしいです♪」
心桜「で、笹夜先輩は『ピアノばっかり弾いてないで!』・・・って、言われる事ってありますか?」
笹夜「ええ。あります」
心桜「えっ!? あるんですか!?」
笹夜「集中していると、時間の経過が分からなくなって、それで・・・」
心桜「ピアノばっかり弾いてないで、ピアノを弾きなさいっ!!!」
笹夜「きゃっ!」
心桜「あ、すみません! つい・・・」
笹夜「こ、心桜さん!!! 急に大きな声で驚きました」
心桜「あはは・・・」
笹夜「それで、時々『早くお夕食を頂きなさい』って注意されます」
心桜「なるほど・・・って、あたしのボケはスルーですか!?」
笹夜「え!? 何のことかしら?」
心桜「(き、気付いてない!?)」
笹夜「??? 心桜さん?」
心桜「あははー、いやーいいよいいよ・・・もう今から戻されてもハズカシイ・・・というより、ムナシイだけだから」
笹夜「???」
心桜「ちょっと、気分を変えてテレビでも見ますか!? ピッ!」
TV「・・・という結果だそうです。続きまして・・・あ、速報です! 怪盗ドッキ逮捕! 世間を騒がせていた怪盗ドッキが逮捕されました。怪盗ドッキは、犯行前に予告状を送付し、派手なパフォーマンスで警察官を翻弄しながら物を盗む事で世間を騒がせていましたが、先ほど、予告状を投げつける所を警察官に見つかり、脅迫の容疑で現行犯逮捕されました。自分が逮捕される事までは予告できなかったようですね」
心桜「・・・このしっくり来ない感は何!?」
笹夜「何!? って言われましても・・・」
心桜「何で予告状なんか投げつけてハードル上げるんだろうね!?」
笹夜「さあ・・・でも、より高難易度の事に挑戦してみたくなって・・・という例え方をされると分かるかしら?」
心桜「でもさぁ、怪盗ドッキ、捕まっちゃったら意味無いですよね!?」
笹夜「この場合は、逮捕されて良かったのではないかしら?」
心桜「え~~~!?」
笹夜「え!?」
心桜「予告状を放つタイプの怪盗って、本来の持ち主に届けるって言うのが基本じゃないの?」
笹夜「それって、キャッチアイ?」
七夏「ツインとテール?」
心桜「怪盗とんか・・・って、つっちゃー! 遅かったね!」
七夏「えっと、ごめんなさい。お母さんに、お使い頼まれて・・・」
心桜「お使い!? 逆に早くない!?」
七夏「くすっ☆ お使いは後でお出掛けします☆」
心桜「あ、そういう事ね!」
七夏「何のお話だったのかな☆」
心桜「あー、あたしが宿題を後回しにして、笹夜先輩がピアノばっかり弾くから、遂に怪盗ドッキが逮捕されたって所かな?」
七夏「くすっ☆」
笹夜「な、七夏ちゃん!? 今のお話で分かるのかしら!?」
心桜「そりゃーまあ、つっちゃーとはそれなりに長いからね・・・って、スミマセン!」
笹夜「え!? いえいえ♪」
心桜「ではでは、後は髪の長い者同士、仲良くねっ!」
七夏「あ、ここちゃー、もうそんな時間?」
心桜「うん! これから練習あるから! んでは、笹夜先輩!」
笹夜「は、はい!」
心桜「例の件、よろしくお願いいたします!」
笹夜「例の件!?」
心桜「笹夜先輩の先を見る力を信じます! では~!」
七夏「ここちゃー! お気をつけてです☆」
笹夜「ええっと・・・」
七夏「笹夜先輩!?
笹夜「七夏ちゃんが頑張っています『翠碧色の虹』本編はこちらになります♪」
笹夜「http://nanatsuiro.my.coocan.jp/nnt_frma_a.htm」
笹夜「心桜さんと七夏ちゃんが頑張る『ココナッツ』宛てへのお手紙は、こちらになります♪」
笹夜「http://nanatsuiro.my.coocan.jp/nnt_suiheki_novel.htm#QUESTIONNAIRE」
笹夜「今後ともどうぞ、よろしくお願い申し上げます♪」
七夏「どうぞ、よろしくです☆ 笹夜先輩! ありがとうございます☆」
笹夜「こんなのでいいのかしら?」
心桜「さすが! 笹夜先輩っ!」
笹夜「こ、心桜さん!? 居たのですか!?」
心桜「ちょっと忘れ物~」
笹夜「忘れ物?」
心桜「つっちゃー!」
七夏「はい☆」
心桜「ごちそうさまでした!」
七夏「くすっ☆」
心桜「笹夜先輩!」
笹夜「はい!」
心桜「例の件、どうもありがとうございました!」
笹夜「いえ・・・合ってて良かったです♪」
心桜「では、ホントに失礼いたします!」
七夏「くすっ☆」
笹夜「お気をつけて♪」

随筆二十四 完

------------

随筆二十四をお読みくださり、ありがとうございました!
本編の方も鋭意制作中ですので、どうぞよろしくお願い申しあげます!

第三十幕:迷う心の虹

第三十幕:迷う心の虹

時計のわずかな音に目が覚める。昨日は色々あったが、七夏ちゃんの笑顔が返ってきてくれた事に安心したのか、よく眠れて目覚めがいい。
窓から外を眺めると、まだ太陽は見えないが、東の空は明るく日の出を迎える準備ができているようだ。小鳥の声が太陽を呼んでいるようにも思える。俺も、この場所から太陽を待つ事に・・・と、強い光に視界の全てを支配される。この感覚、早起きしなければ味わう事ができないんだなと、改めて思う。

時崎「ん? あれは!?」

窓の下に人影が見えた。

時崎「おはよう! 七夏ちゃん!」
七夏「えっ!? あっ、柚樹さん! おはようございます☆」

七夏ちゃんは、お花にお水をあげているようだ。以前にも見た事がある光景。ひとつひとつが懐かしく思い始めている事に気付く。なぜ、懐かしく思ったのだろうか?
俺は、七夏ちゃんの居る所へ向かった。

七夏「おはようございます☆」
時崎「おはよう。七夏ちゃん!」
七夏「柚樹さん、今日は早起きさんです☆」
時崎「昨日はよく眠れたから」
七夏「くすっ☆ これでいいかな☆」
時崎「え!?」
七夏「昨日は雨が振ってましたので、お水は控えめです☆」
時崎「なるほど」

たわいもない会話だけど、そのひとつひとつを大切にしてゆかなければならないと思い始めている。

凪咲「柚樹君、おはようございます」
時崎「凪咲さん、おはようございます!」
凪咲「朝食、もう少し待っててくださいね」
時崎「はい! ありがとうございます」
直弥「時崎君! おはよう!」
時崎「あ、おはようございます!」
凪咲「あなた、お気をつけて!」
七夏「お父さん、いってらっしゃいです☆」
直弥「ああ!」
七夏「どしたの? 柚樹さん?」
時崎「え!? ああ。七夏ちゃんのお父さん、今日は朝早くお出かけなんだね」
七夏「くすっ☆ 日によって変わりますので☆」
時崎「そうなんだ。大変だね」
直弥「今の季節は、このくらいの時間の方が涼しいからね」
時崎「なるほど」
直弥「では、ごゆっくりどうぞ」
時崎「ありがとうございます」

俺も、七夏ちゃんと一緒に直弥さんを見送った。

 ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆

七夏ちゃんと一緒に朝食を頂いた後、自分の部屋に戻ろうとした時、民宿風水の電話が鳴った。どうしようかと思ったが、俺が一番近くに居たので出る事にした。

時崎「おはようございます! 民宿風水です」
??「あっ、えっと・・・」
時崎「高月さん!?」
笹夜「え!? 時崎さん?」
時崎「ああ。おはようございます!」
笹夜「あ、おはようございます♪」
時崎「驚いたよ」
笹夜「すみません。私も驚いて挨拶が遅れてしまって」
時崎「いやいや。構わないよ! 七夏ちゃんだよね?」
笹夜「はい♪ お願いいたします♪」
時崎「おわっ!」
七夏「ひゃっ☆」

七夏ちゃんを呼ぼうと振り返ると、すぐそばに七夏ちゃんが居てお互いに驚く。

七夏「ごめんなさい。お電話があったみたいですから」
時崎「高月さんから!」
七夏「え!? 笹夜先輩!?」
時崎「じゃ、代わるよ」
七夏「はい☆ ありがとうです☆」

七夏ちゃんに電話を手渡す。

七夏「お待たせしました。笹夜先輩、おはようございます☆ えっ!? あ、ちょっと驚いちゃってその・・・」

俺は、そのまま自分の部屋に移動した。
凪咲さんと七夏ちゃんへのアルバム制作もあるが、直弥さんから頼まれている案件も2件ある。一件目は無線ネットワーク機器を設置する事、二件目は鉄道模型の信号機・・・か。順番に行ってゆく事にする。無線ネットワーク機器は、電気店に行けはあると思うので、後で出かけるとするか。信号機の件は七夏ちゃんに相談してみよう。

トントンと扉が鳴る。七夏ちゃんだ。

時崎「七夏ちゃん! どうぞ!」
七夏「くすっ☆ 失礼します☆」
時崎「ああ」
七夏「えっと、笹夜先輩からお話があったのですけど、今日、ここちゃーの浴衣を一緒に買いに行く事になりました☆」
時崎「そうか・・・そんな話があったね」
七夏「はい☆ ここちゃーともさっきお話して・・・それで、その・・・柚樹さんも良かったらと思って」
時崎「ありがとう! 勿論構わないよ!」
七夏「みんなと一緒に写真を撮ってくれると嬉しいです☆」
時崎「ああ! まかせて!」
七夏「えっと、ここちゃーとは駅で待ち合わせて、隣街の駅で笹夜先輩と一緒になります☆」
時崎「え!? そうなの?」
七夏「はい☆ 隣街の方が浴衣も沢山あると笹夜先輩が教えてくれました☆」
時崎「なるほど。いつもと違う所で買い物をするのも新鮮でいいかも知れないな」
七夏「はい☆ 私、今から急いで宿題を済ませます。11時にお出かけで大丈夫ですか?」
時崎「俺は構わないよ。何か手伝える事があったら話して」
七夏「ありがとうございます☆ では、失礼します。また後で☆」
時崎「ああ」

七夏ちゃんは少し急ぎ気味に部屋を出てゆくけど、扉だけは最後まで両手を添えて閉めてくれた。直弥さんからの頼まれ事「鉄道模型の信号機設置」は後で相談しよう。俺は隣街の駅周辺の情報をMyPadで調べておく。電気店があれば、無線機器を一緒に購入できるかも知れない。隣街の駅前には大きな百貨店が何件かあるようだ。そう言えば、この街に来る時に、ひとつ前の駅周辺は結構都市近郊のイメージがあったな。大きな買い物は隣街の方が良いのかも知れない。
あと、高月さんは、隣街に住んでいるのだろうか? 本人に確認はしていないが、なんとなくそんな気がする。いや、駅で待ち合わせという事は、そうでもないのかな? まあ、そのうち見えてくると思う。もっとも、高月さんの住んでいる家が分かった所で、俺がお邪魔する機会はあるのだろうか。

 ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆

しばらくの間、調べ事を行っていると、トントンと扉が鳴る。

七夏「柚樹さん!」
時崎「七夏ちゃん!」

扉を開けると、いつもと少し違う雰囲気を感覚した。

七夏「お待たせです☆」
時崎「あ、ああ」
七夏「? どうかしましたか?」

七夏ちゃんの、お出掛け用の衣装と、髪を軽く三つ編みしている姿が、とても可愛い。

時崎「七夏ちゃん、今日はいつもと少し印象が違うなと思って」
七夏「え!? えっと、おかしいですか?」
時崎「いや、よく似合ってて可愛いよ!」
七夏「あっ・・・えっと・・・」
時崎「?」
七夏「ありがとう・・・です」

なんか、七夏ちゃんの反応が以前よりもよくない気がする。あまり軽率に「可愛い」とか言うべきではないのかも知れないな。可愛いと言えば言うほど、言葉は軽くなってしまうと言う事なのだろうか?

時崎「駅で天美さんと待ち合わせだったかな?」
七夏「はい☆」
時崎「いつもなら、天美さんが風水に来てくれる気がするけど」
七夏「くすっ☆ ここちゃーは、駅前で先にお買い物があるみたいです☆」
時崎「お買い物?」
七夏「たぶん漫画かな? 早く読みたい気持ち、とても分かります☆」
時崎「なるほど。じゃ、出掛けよう!」
七夏「はいっ☆」
凪咲「七夏、これからお出掛けかしら?」
七夏「はい☆ あ、お買い物あるかな?」
凪咲「特にはないわ! 気をつけて、いってらっしゃい!」
七夏「はーい☆」
凪咲「柚樹君、七夏の事、よろしくお願いしますね」
主「はい。分かりました」

七夏ちゃんと駅前まで歩く。この前は蒸気機関車イベントの時だったかな。あの時は少し急いでたけど、今日は時間にゆとりがあるのか、のんびりと歩く。そういえば、今日のお出掛け予定を細かく聞いてないけど、七夏ちゃんに合わせる形で動けばいいと思う。

時崎「今日は七夏ちゃんも浴衣を買うの?」
七夏「え!?」
時崎「天美さんの浴衣を見にゆくならと思ってね」
七夏「くすっ☆ えっと可愛い浴衣があれば、考えてみようかなぁ」

七夏ちゃんは普段からよく浴衣を着ている。まあそれは、民宿風水の浴衣だけど、十分可愛い。そんな七夏ちゃんが「可愛い」と思う浴衣ってどんなのだろう。できればアルバムに加えたいから、七夏ちゃんが気に入る浴衣が見つかってほしいと思う。

時崎「見つかるといいね!」
七夏「え!?」
時崎「浴衣!」
七夏「あっ、はい☆」
時崎「・・・・・」

・・・自分で驚いた。倒置法で話している。昨日の「俺、好きだから! 写真の事!」と話したのは意図的に狙った事・・・だけど、今のは自然に話してた。・・・そういう事なのか!? 自分の願う事が叶ってほしいと思う心は、先に結果から飛び出してくるのだろうか? いや、まだ分からない。だけど、無意識だったという事は、素直な心の表れなのだと思う。

七夏「??? 柚樹さん!? どうしたの?」
時崎「え!? あ、いや、なんでもないっ!」
七夏「考え事かな?」
時崎「あ、ごめん」

天美さんと合流するまでは、一人で考え込まないように気をつけなければならないな。そのまま歩いてゆくと駅前に天美さんの姿が見えた。七夏ちゃんも天美さんに気付いたようで、掛けてゆく。俺は七夏ちゃんの後をついてゆく形となる。

七夏「ここちゃー!」
心桜「おっ! つっちゃー!」
七夏「お待たせです☆」
心桜「おや? お兄さん!?」
時崎「どうも!」
心桜「どうもー! ・・・って、お兄さんも一緒に来るの!?」
時崎「え!?」
七夏「あっ!」
時崎「な、七夏ちゃん!?」
七夏「えっと、ごめんなさい!」
心桜「なるほどねー。あたしは構わないけどさ」

・・・どうやら、七夏ちゃんは俺が一緒に来る事を天美さんには話していなかったようだ。

七夏「笹夜先輩には話してますから!」
心桜「いや、そういう事ではなくて・・・って、まぁいいか! 列車来るから急ご!」
七夏「はい☆」
心桜「お兄さんも!」
時崎「あ、ああ」

天美さんについてゆく形で駅のプラットホームへ向かう。しばらくすると、線路から音が鳴り始め、遠くから列車が姿を見せる。

心桜「おっ! 新型!」
時崎「え!?」
心桜「お兄さん! 新型列車だよ!」
時崎「そうなの?」

天美さんが指差す先に列車が乗る。俺はその様子を一枚記録した。

またしても天美さんについてゆく形で列車に乗る。俺の後を七夏ちゃんがついてくる。どうやら、進行役は天美さんのような気がしてきた・・・今更だけど。車内は真新しく綺麗なので新型だという事は分かった。

心桜「よっと!」

天美さんは空いている四人掛けの椅子に座る。その隣に七夏ちゃんも続く。

七夏「柚樹さん!」
時崎「あ、ああ」

列車の扉が閉まり、ゆっくりと動き始めたけど、走行音も静かで快適だ。

心桜「笹夜先輩とは駅で待ち合わせだよね?」
七夏「はい☆」
心桜「駅に着いたら---」

天美さんと七夏ちゃんは、この後の事を話し始めた。俺は窓辺に頬ずえをつきながら流れる景色追いかける。高月さん・・・さっきも考えてた事だけど、以前に高月さんを駅まで送った事があるので、列車通学している事は分かるけど、隣街に住んでいるのだろうか? 今、七夏ちゃんに訊けば分かる事だけど、いずれ自然と分かる事は・・・それよりも、天美さんに感潜られる可能性が高い。

七夏「でも、ここちゃーが浴衣を着てお祭りは懐かしいなーって」
心桜「そだねー。小学生の時以来かなぁ」
七夏「私、とっても楽しみです☆」

二人は浴衣の話しをしているようだ。再び窓の外を眺める。景色は次第に山の色から都会の色へと変わってゆく。次いで列車は減速を始めた。

心桜「あ、そろそろかな」
七夏「はい☆」
心桜「お兄さん!」
時崎「え!?」
心桜「もうすぐ降りる駅に着くよ!」
時崎「あ、ああ」
七夏「くすっ☆」

天美さんを追いかけるように車内放送が後に続く。七夏ちゃんも天美さんに続く。
車窓の景色が止まり、列車の扉が開く。

心桜「よっと!」

天美さんは、少し飛び跳ねるようにホームへ降り、改札へと向かう。そのまま俺と七夏ちゃんも追いかける形で改札を通過する。

心桜「えーっと、笹夜先輩は・・・」
笹夜「心桜さん!」
心桜「うわっ!」
笹夜「そんなに驚かなくても・・・」
心桜「いや、柱の影から声掛けられると驚きますって!」
笹夜「すみません」
七夏「笹夜先輩! こんにちはです☆」
時崎「高月さん! こんにちは!」
笹夜「こんにちは♪」

俺は少し不思議に思った。高月さんは、皆んなが列車から降りて来る事を知っているはずだけど、改札からは見えない柱の影に隠れていた事・・・まさか、天美さんを驚かす為だったとか・・・いや、少なくとも俺の知っている高月さんは、そんな事をする性格ではない。

心桜「あはは! こんちわー! 笹夜先輩!」
笹夜「はい♪ こんにちは♪ 心桜さん ♪」
心桜「ところで、笹夜先輩、なんで柱の影に隠れてたんですか!?」

どうやら、天美さんも俺と同じ疑問を抱いたようだ。

笹夜「え!? それはその・・・」
心桜「まさか、あたしたちを驚かす為とか!?」
笹夜「いえ、そんなつもりは・・・」
七夏「ここちゃー」
時崎「高月さん、何かあったの?」
笹夜「すみません、先程まではこちら側で待っていたのですけど、降りて来る人の邪魔になっているかと思って・・・」

降りる人の邪魔に・・・そんなに通路が狭いように思わないけど。

時崎「どうしてそう思ったの?」
笹夜「通ってゆく人の多くが、私を見ている気がして、それで邪魔になっていると思って・・・」
心桜「なるほどねー。でも、それは笹夜先輩に別の要素があるからじゃない!?」
笹夜「え!?」

俺が思った事を天美さんに先越された。高月さんは「降りる人の邪魔になる」と話していたけど、人目を惹く容姿だという点も要因なのではないだろか? 人から見られていると思う心は、自然と人を避ける行動に繋がる可能性はある。

七夏「笹夜先輩! 今日はありがとうです☆」
笹夜「は、はい♪」
七夏「ご案内、よろしくです☆」
笹夜「では、参りましょう♪」

高月さんの事を想ってか、七夏ちゃんが駒を進めたようだ。今さらだけど、この三人は、上手くバランスが保てているなと思ってしまう。

七夏「柚樹さん☆」
心桜「お兄さん!」
時崎「あ、ああ!」

 ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆

高月さんに案内されたのは駅前の大型百貨店、デパートとも言うのだろうか? 建物内に入ると高級な雑貨類が目に飛び込んできた。主に女の人用のアクセサリーだろう。これは、大丈夫だろうか?

心桜「おっ! つっちゃー! セブンリーフのコーナーがあるっ!」
七夏「えっ!? わぁ☆」
心桜「これなんかどう?」
七夏「えっと、これは?」
心桜「ヘッドホン用のアクセサリーだって!」
七夏「ヘッドホン?」
心桜「ヘッドホン左右にそれぞれ付けると、イヤーアクセサリーみたいになってイヤー最高ー!」
七夏「なるほど☆ いいなぁ♪」
心桜「こっちも見て!」

高月さんのが俺の方を見て苦笑している。
・・・やっぱり、こうなってしまったかというような印象だ。

笹夜「二人とも---」
七夏「あっ! ごめんなさい!」
心桜「あはは! まずは浴衣が先だね!」
笹夜「ええ♪ 参りましょう♪」

高月さんに付いてゆく。浴衣の販売は3階のようだ。エスカレーターで登ってゆくその間も、天美さんは周囲を見回している様子。何か面白い事があればすぐに飛びつきそうだ。

笹夜「こちらです♪」
七夏「わぁ☆ たくさんあります☆」
心桜「こんなにある中から選ぶの!?」

たくさんの色とりどりの浴衣、小物類が並んでとても華やかだ。だけど・・・。

心桜「で、お兄さん!」
時崎「え!?」
心桜「これからどうするの?」
時崎「確かに、俺は場違いのようだな」
心桜「流石! 気付いてましたか!」
笹夜「すみません・・・時崎さん、私の気が利かなくて」
時崎「高月さん、俺は気にしてないから」
七夏「柚樹さんも一緒に見ますか?」
心桜「それでもいいんだけど、ほら! 分かるでしょ!? お兄さん!」

天美さんの「分かるでしょ!?」・・・なるほど、そういう事か!

時崎「ああ! 当日、楽しみにしてるよ! 天美さん!」
心桜「うんうん!」
七夏「・・・・・」
時崎「? 七夏ちゃん!? どうしたの?」
七夏「え!? えっと、柚樹さん、楽しみなんだ・・・」
時崎「ああ! もちろん!」
七夏「・・・・・」

七夏ちゃんの様子が少しおかしい。そうか!

時崎「もちろん、七夏ちゃんの浴衣姿も楽しみにしてるよ!」
七夏「え!? は、はい☆」
時崎「高月さんも!」
笹夜「まあ♪ ありがとうございます♪」
時崎「それじゃ、しばらくその辺を見て回ってくるよ」
心桜「ありがと、お兄さん! 1時間くらいで、サクッと決めるから!」
時崎「了解!」
笹夜「時崎さん、すみません」
時崎「いや、構わないよ」
七夏「柚樹さん、また後で☆」
時崎「ああ」

さて、1時間くらい建物の中を見てまわる。何かアルバム作りに使えるような物はないだろうか? 或いは、七夏ちゃんが喜びそうな事でもいい。

時崎「書店は7階か・・・」

多くの百貨店は、地下が食料品で、書店や喫茶店は上の方の階にあるけど、ここもそれは同じみたいだ。書店に何か良い情報がないか寄ってみる。新刊をなんとなく眺めていると、家電やパソコン関係の書籍が目に留まる。そういえば、直弥さんから頼まれていた無線ネットワーク機器の件があった。俺はその関連書籍を手にする。最新の機器の紹介はあるものの、パソコンや携帯端末というラインナップだ。無線ネットワーク機器は載ってなさそうだな。
百貨店内に家電販売の場所はあるのだろうか? 百貨店の外に出ればありそうだが・・・時計を見る。七夏ちゃん達との合流時間を考えると、百貨店の外へ出る時間はなさそうだ。そのまま書店を見回す。文房具コーナーが目に留まった。

時崎「これは・・・プリズム!?」

・・・のように見えたが、実際は「ペーパーウエイト」という事らしい。プリズムは光を七色に分ける事が出来るけど、七夏ちゃんにはどのように見えるのだろうか? 確かめたいけど、これを七夏ちゃんに見せるのは直接的過ぎる。七夏ちゃんがプリズムの分光が七色に見えてくれれば良いのだけど、七色に見えなければ辛い想いをさせてしまいかねない。もっと自然に優しく七色の光に触れる方法は無いだろうか!?

時崎「そういえば!」

ひとつ、心当たりがある。俺は書店コーナーを後にして、1階へ移動した。さっき、七夏ちゃんと天美さんが見ていたアクセサリー販売の場所・・・あった!

時崎「サンキャッチャー・・・そんな名前だったな」

サンキャッチャーとは、ガラスやアクリルを多面体にカットした素材に糸やチェーンを通して吊り下げれるようにしたアクセサリーだ。サンキャッチャーの名前が示す通り、太陽の光を受けて光を周囲に広げる効果がある。広がった光は分光され、七色に見える事もある。俺はサンキャッチャーを手にして考える。

時崎「プリズムほどではないが、これもまだ直接的かも知れないな」

サンキャッチャーを眺めて考えていると、涼しく心地よい音が耳に届いてきた。風鈴の音色か・・・その時、俺は考えついた。サンキャッチャーも風鈴も天井から吊るして楽しむ。サンキャッチャーは目を楽しませてくれ、風鈴は音を楽しませてくれる。この二つを組み合わせると面白そうだ。そして面白そうなものは、それを理由に自然と七夏ちゃんにも届ける事が出来そうだ。もし、七夏ちゃんが七色の光を感覚できなくても、風鈴の優しい音色が補ってくれると思う。俺はサンキャッチャーと風鈴を一緒に買う事にする。風鈴はガラス製と青銅製があるが、音色の響きがスッキリとした青銅製を選んだ。後でサンキャッチャーと風鈴を一緒に組み合わせる加工を行おう。

時計を見る・・・そろそろ約束の時間だ。俺は七夏ちゃんたちの居る3階の浴衣販売コーナーへと急いだ。

時崎「七夏ちゃんたちは・・・まだかな?」

一時間ほど前に別れた場所へと来てみたけど、三人の姿は無かった。もう少し待ってみるか。

心桜「お兄さんっ!」
時崎「え!?」

背後から声をかけられた。

七夏「お待たせです☆」
笹夜「すみません」
時崎「あ、そっち!?」
心桜「レジ、向こうだったからね!」
時崎「なるほど!」

三人を見たところ、天美さんだけ大きな袋を持っていた。どうやら浴衣を買ったのは天美さんだけのようだ。七夏ちゃんと、高月さんも何か買ったみたいだけど、浴衣ではなさそうだ。

心桜「ん!? お兄さんどうしたの?」
時崎「七夏ちゃんと高月さんは、浴衣を買わなかったの?」
七夏「はい☆ 私はお家にありますので☆」
笹夜「私は、髪留めで素敵なのがありました♪」
七夏「柚樹さんもお買い物ですか!?」

七夏ちゃんが俺の手元を見て訊いてきた。

時崎「え!? ああ、ちょっとね」
七夏「くすっ☆」

・・・だけど、何を買ったのかまでは訊いてこない。七夏ちゃんはいつもそうだ。あまり詮索してこないのは、民宿育ちだからなのかも知れないな。

心桜「浴衣10点セットなんて始めて買ったよ!」
時崎「10点セット!?」
笹夜「心桜さんの場合は、着付けセット5点も必要ですので♪」
時崎「着付けセット5点!?」
七夏「これです☆」

七夏ちゃんが手にしているのが「着付けセット」という事らしい。

笹夜「着付け5点は、ゆかた下着、ウエストベルト、伊達締め、着付けベルト、前板です♪」
七夏「浴衣5点は、浴衣、作り帯、腰紐が二本、髪飾り、下駄です☆」
時崎&心桜「色々いるんだねー」
時崎「あっ!」
心桜「おっ! 被った!」
笹夜「まあ!」
心桜「つっちゃー! 着付けセット持ってくれてありがと!」
七夏「くすっ☆」
笹夜「まだ、小物もあります♪」
七夏「ここちゃー、小物も見る?」
心桜「んー、小物はいいよ。団扇とかなら家にもあるし」
笹夜「心桜さん、小物は団扇の他に、籠とか巾着もあります♪」
心桜「あははっ! 団扇も小物だよ!」
笹夜「そうですけど、心桜さんの言う団扇って・・・」
心桜「街で配ってたヤツ!」
七夏「ここちゃー! もう・・・」
笹夜「心桜さんらしい・・・と話してしまっていいのかしら?」
心桜「あたらしいよね!」
七夏「え!?」
心桜「あたしらしいよねっ! 『し』が抜けてた」
七夏「くすっ☆」
心桜「お兄さん!? 大丈夫!?」
時崎「え!? あ、ああ」

なんか、今更ながら、三人の会話に圧倒されてしまった。

笹夜「でも、良かったです♪」
心桜「ん!? 笹夜先輩? 何がですか?」
笹夜「失礼かも知れないですけど、心桜さんの浴衣の予算が、私が思っていたよりも多くて、選べる浴衣の幅が増えましたので助かりました♪」
七夏「私も驚きました☆」
心桜「それは、あたしが浴衣を買うって話したら、お母さんが驚いて、とっても喜んでくれてさ。気に入った浴衣があっても、高くて買えないって事がないようにって、おもいっきり奮発してくれたってわけ!」
笹夜「なるほど☆」
七夏「くすっ☆」
心桜「改めて、ありがとうございます! 笹夜先輩! つっちゃー!」
笹夜「いえいえ♪」
七夏「はい☆」
心桜「あと、お兄さんもね!」
時崎「俺は後付け・・・か。まあ、何もしてないからな」
心桜「あははっ! これからどうする? 軽くお茶する?」
笹夜「心桜さんの浴衣、結構なお荷物ですので、今日はこれで・・・」
心桜「え!? あたしは大丈夫だけど。笹夜先輩、何か用事でもあるんですか?」
笹夜「すみません。ここまで来ましたから、少しピースを見にゆこうかと・・・」
心桜「ピース!? お兄さん!」
時崎「え!?」

天美さんがこちらに向かってピース・・・Vサインを送ってきたので、一枚撮影した。

笹夜「心桜さん、そのピースではなくて・・・」
心桜「え!?」
笹夜「ピースとはピアノ楽譜の事です♪」
心桜「楽譜!?」
笹夜「ええ♪」
心桜「それって、この百貨店内にあるんですか?」
笹夜「ええ♪ 5階の楽器店になります♪」
心桜「だったら、あたしたちも一緒に! ねっ! つっちゃー!」
七夏「はい☆」
笹夜「いいのかしら?」
心桜「もちろん! 笹夜先輩の用事が済んだら、一緒にお茶して解散! ・・・で、どうかな?」
七夏「はい☆」
笹夜「ありがとうございます♪」
七夏「柚樹さんっ!」
時崎「あ、ああ」

まあ、俺も三人に合わせるのは自然な流れだ。高月さんはピース・・・楽譜を見にゆくと話していた。以前に書店でも楽譜を見ていたな。ピアノ楽譜という事はピアノを演奏できるという事か。機会があれば高月さんのピアノ演奏を聴いてみたいなと思う。

高月さんに付いてゆくかたちで、5階の楽器店へと移動する。

心桜「笹夜先輩! ピアノがあるよ!」
笹夜「まあ! これはグランドピアノなのかしら?」
心桜「え!?」
笹夜「奥行きがとても小さいみたいですけど、形はグランドピアノかしら?」
心桜「ねねっ! 笹夜先輩! 弾いてみてよ!」
笹夜「え!? ここでですか!?」
七夏「私も聴いてみたいです☆」
笹夜「な、七夏ちゃんまで・・・」
心桜「んじゃ、あたしが弾いてみるっ! つっちゃー! これお願い!」
七夏「はい☆」
笹夜「え!? こ、心桜さん!?」

天美さんは七夏ちゃんに浴衣を手渡し、さらっとピアノ演奏を行った。

時崎「天美さん、その曲は『猫踏んじゃった』!?」

俺も弾いた事がある曲。というかそれしか弾けない・・・俺みたいな人は多そうだ。

心桜「これ、定番! つっちゃー浴衣ありがと!」
七夏「くすっ☆」
心桜「んじゃ、次! 笹夜先輩っ!」
笹夜「ええっと・・・」
心桜「お兄さんも!」
時崎「あ、ああ! 俺も是非聴いてみたい!」

高月さんは、しばらく考えて、ピアノを見つめて、そして俺の方を見てきた。

時崎「あ、高月さん、鞄、持つよ!」
笹夜「ありがとうございます♪」

高月さんは、そっとピアノの前にある椅子に腰を下ろした。俺は慌てて写真機の動画モードで録画を開始する。高月さんは、今まで聴いた事のないピアノ曲を演奏してくれた。

高月さんのピアノ演奏はとても繊細で綺麗だった。俺は音楽の事はよく分からないけど、周囲に少し人が集まってきており、これは明らかに高月さんのピアノ演奏が人を惹き付けている事を証明している。演奏を終えた高月さんが軽く会釈をしてくれた。

七夏「笹夜先輩! 素敵です☆」
心桜「流石!」

七夏ちゃんと天美さんが笹夜先輩に拍手をすると、周りの人も小さな拍手を贈ってくれ、高月さんは少し恥ずかしそうだ。

笹夜「・・・・・」
時崎「高月さん、とっても良かったよ!」
笹夜「ありがとうございます♪ お粗末さまでした」
時崎「いやいや、天美さんには悪いけど、同じピアノの音には聞えなかったよ!」
心桜「あはは! 同じピアノなのに、不思議だよねー」
七夏「くすっ☆」
心桜「でも、まさか本当に笹夜先輩が演奏してくれるとは思わなかったよ!」
七夏「ここちゃー・・・もう! すみません、笹夜先輩」
笹夜「いえいえ♪」
心桜「笹夜先輩、こういうの断ると思ってました」
笹夜「この可愛いグランドピアノ、心桜さんの演奏を聴いて、その音色が気になりましたから♪」
時崎「音色?」
笹夜「ピアノは、ひとつひとつ音色が異って個性があります♪」
時崎「なるほど」
笹夜「RunDraw社のピアノは、煌びやかな高音域と優しい中音域が特徴です♪」
時崎「ランドロー社?」
笹夜「ピアノのブランドです♪ このグランドピアノは電子ピアノみたいですけど、本物のグランドピアノように豊かな響きで驚きました♪」
時崎「なるほど、音楽の世界も奥が深い」
心桜「そりゃ、そうだよ! 突き詰めるとキリが無いよね!」
時崎「高月さん!」

俺は、持っていた高月さんの鞄を渡そうとした時---

笹夜「きゃっ!」
時崎「おわっ!」
心桜&七夏「!?」

高月さんと少し手が触れて、反射的に手を引っ込められた。その勢いで鞄を落としてしまい、中身が飛び出してしまった。

笹夜「す、すみませんっ!」
時崎「いや・・・こっちこそ!」

慌てて鞄と中身を拾う高月さん、七夏ちゃんもすぐに手伝う。

前にもあった。あれは確か、ファーストフード店の時だ。高月さんと手が触れた事に対する反応が、俺には拒絶されているように思えて切ない。

心桜「お兄さんっ!」

天美さんに声をかけられて我に返る。天美さんは大きな浴衣を手にしている為、身動きが取れないようだ。

時崎「え!? あ、すまないっ!」

俺も落とした荷物を拾うのを手伝う。すると、その様子を見ていたピアノの販売員さんも、高月さんの荷物を拾ってくれ、そのまま話しかけられた。

笹夜「すみません。ありがとうございます!」
店員「いえ。先ほどの演奏、とても良かったです! オリジナルの曲でしょうか?」
笹夜「え!? はい・・・このピアノ、音色がとても素敵でした♪」
店員「ありがとうございます!」
笹夜「え!?」
店員「申し遅れました。私、RunDraw社の者です」
笹夜「まあ! こちらのピアノは電子ピアノなのでしょうか?」
店員「はい。グランドピアノの持つ良さを、アップライトピアノのようにコンパクトにまとめた新製品となります」
笹夜「確かに奥行きがとても短いのに、音色はとても奥行きがあります♪」
心桜「おっ! 笹夜先輩がシャレたっ!」
七夏「ここちゃー!」
時崎「・・・・・」

俺は、さっきの高月さんとの出来事が引っかかって三人の会話がぼんやりとしか届かない状態だった。

店員「こちらのピアノが、今までの電子ピアノと物理的に異なるのは、グランドピアノの発音や構造をシミュレートする物理演算を行っております『ピアノ・モデリング音源』を搭載しています」
笹夜「えっと・・・」
店員「従来の電子ピアノとは仕組みが異なるという事です。グランドピアノの持つ優雅さを、お手軽にリビングで楽しめます」
笹夜「よく分からないですけど、音が素敵なのはよく分かります♪」
心桜「おっ! 笹夜先輩が!」
七夏「ここちゃー!」
時崎「・・・・・」
店員「先ほどの演奏は、オリジナル曲とおっしゃってましたね?」
笹夜「え!? はい」
店員「私たち、RunDraw社ではオリジナルのピアノのデモ演奏曲をご提供くださるお方を募集いたしておりまして---」
笹夜「まあ!」

高月さんと店員さんは、ピアノの事でしばらく話し込んでいるようだが、その詳細までは分からない。俺はこの後、高月さんとどのように接すればよいかという事ばかりに意識を持ってゆかれていた。

心桜「お兄さん!」
時崎「え!?」
心桜「笹夜先輩、なんか長くなりそうだよ!?」
時崎「そ、そう・・・か」
心桜「ん!? お兄さん!? 大丈夫?」
時崎「え!? ああ、すまない。七夏ちゃんは!?」
心桜「あっち!」

天美さんが指差した先に七夏ちゃんが居た。休憩コーナーの椅子に座って本を読んでいるようだ。

時崎「小説を読んでいるのかな?」
心桜「ま、良くあることだね。お兄さんもここで突っ立ってないで、つっちゃーの所で待ってたら?」
時崎「そうするか。ありがとう。天美さん」
心桜「いやいや。お兄さん、ちょっと笹夜先輩の事で気になってる事があるんじゃないかな?」
時崎「!!! なっ! なんでそれを!?」
心桜「あはは! あれだけの事があって、その後のお兄さんを見てたらすぐ分かるって!」
時崎「・・・・・」
心桜「ま、少なくとも笹夜先輩は、お兄さんのこと嫌ってないと思うから元気だしなよ」
時崎「え!?」

天美さんは、一連の様子を見てここまで読んでいた。そして、天美さんが「高月さんは俺の事を嫌っている訳ではない」と話してくれた事に随分と救われた。

心桜「まあ、そのうち笹夜先輩が話してくれると思うよ」
時崎「ありがとう。天美さん」

七夏ちゃんと天美さんと俺は、しばらく休憩コーナーで高月さんを待つ。七夏ちゃんと天美さんは本を読んでいる為、特に会話は無かった。俺は高月さんの事と、さっき天美さんが話してくれた事が上手く馴染まないもどかしさが頭から離れない。しばらくすると、高月さんがこちらに駆けてきた。

笹夜「すみませんっ! 大変お待たせしました」
心桜「お疲れ様です!」
七夏「くすっ☆」
時崎「・・・・・」
心桜「んじゃ、軽くお茶でもしますか! 喫茶店は8階だってさ!」
七夏「はい☆」

天美さんに付いてゆく形で8階の喫茶店に向かった。そこでも普段どおりの七夏ちゃんや天美さんに対して、俺は何か引っかかっている感があって、高月さんも同じように思える。この引っ掛かりをなんとかしなければならない。
喫茶店で飲み物を頂いた後も、俺と高月さんは平行状態のままだ。このまま別れてしまうのはお互いによくないが、どうすればいい?
俺から「何でそんなに凄い勢いで手を引っ込めたの?」と訊くのは高月さんを傷つけてしまいかねない。天美さんは「高月さんから話してくれる」と話してくれたが、そのまま待っていていいのだろうか?
そのまま三人についてゆく形で1階まで降りた所で---

心桜「おっ! つっちゃー! セブンリーフのコーナーがあるっ!」
七夏「えっ!? わぁ☆ って、さっきも見ました☆」
心桜「あはは! んで、これどうする?」
七夏「あ! ヘッドホン用のアクセサリー☆」
心桜「イヤー最高!」
七夏「くすっ☆ 私、買ってみようかな☆ ここちゃーと一緒に楽しめます☆」

七夏ちゃんと天美さんは、セブンリーフのコーナーに惹き寄せられた。
高月さんが俺の方を見ている。今度は苦笑ではなく、その表情は堅い。

笹夜「と、時崎さん!」
時崎「え!?」
笹夜「その・・・すみません!」
時崎「!?」
笹夜「手を急に引っ込めてしまって」
時崎「!!!」
笹夜「私、自分の手が他の人よりも---」

俺は、ようやく分かった。高月さんが手にコンプレックスを持っている事。以前、高月さんにナンパしてきた男の人を、手の力だけで撃退していた事、俺と手が触れて反射的に手を引っ込めた事・・・。それは、高月さんの手の力、握力がとても強い事を意味しており、高月さんはとても気にしているという事だ。なんと答えるべきだろうか。

時崎「さっきのピアノ演奏、とても良かったよ!」
笹夜「え!?」
時崎「そんなピアノ演奏ができる高月さんの手・・・俺はとても魅力的に思うよ」
笹夜「・・・・・」
時崎「上手く言えないけど」
笹夜「・・・ありがとう・・・ございます」
時崎「!? 高月さん!?」

高月さんは、手を俺の方にそっと差し出してきた。俺はその手に両手で答える。高月さんの手はとても柔らかく、優しい手・・・そして、本当は力強さを持っている手であるという事が伝わってきた。

笹夜「・・・・・」
時崎「・・・ありがとう。高月さん!」

俺は、手をそっと離す。

笹夜「これからも、よろしくお願いいたします♪」
時崎「こちらこそ!」

七夏ちゃんと天美さんが、こちらに駆けてきた。

七夏「柚樹さん☆ 私、これ買いました☆ どうかな?」
時崎「セブンリーフか! よく似合ってると思うよ!」
七夏「くすっ☆ ありがとです♪」

セブンリーフのヘッドホンを耳元に合わせる七夏ちゃんは、とても可愛かったけど、今朝の事があって「可愛い」とは言えなかった。

心桜「んじゃ! これで解散としますかっ!」
笹夜「ええ♪ 今日はすみませんでした」
心桜「いえいえ! ありがとうございました!」
七夏「笹夜先輩! ありがとうございます☆ 花火大会、楽しみです♪」
笹夜「またお世話になります♪ 私も楽しみです♪」
七夏「はい☆」
心桜「んじゃ、ここでお兄さん!」
時崎「了解!」

俺は、楽しそうな三人を撮影した。

心桜「流石! 分かってるねっ!」
七夏「くすっ☆」
笹夜「それでは、失礼いたします」

高月さんは、最後に俺の方を見て会釈をしてくれた。俺もそれに応える形で会釈を返す。

心桜「お兄さん!」
時崎「え!?」
心桜「(笹夜先輩とは、いつもどおりになれたみたいだね!)
時崎「!!!」
七夏「???」

天美さんに小声で話しかけられて驚く。天美さんの観察力には驚かされるけど、今回はとても助けられた。

時崎「ありがとう。天美さん!」
心桜「え!? 何が!?」
時崎「いや、なんでもない!」

今日は色々な迷いがあった。俺は七夏ちゃんへ「可愛い」と言うべきかどうか。七夏ちゃんと天美さんは浴衣選び。そして、高月さんの手の事・・・。これからも迷う事はたくさんあると思うけど、迷う心も大切に受け止めて、未来へと繋いでゆきたいと思うのだった。

第三十幕 完

----------

次回予告

何も無い日常、それまで何も無いと思っていた事を意識すると、沢山の有る事に気付くものである。

次回、翠碧色の虹、第三十一幕

「日常の虹」

俺はこの街での日常を、日常だと思えるようになれるのだろうか?

幕間二十五:猫踏んじゃった!

幕間二十五:猫踏んじゃった!

心桜「いや~! 久々だね!」
七夏「どしたの? ここちゃー!」
幕間「心桜がだよ!」
七夏「!?」
心桜「間違えた・・・『幕間』って誰だよ!」
七夏「驚きました☆」
心桜「『幕間』と『心桜』が入れ替わっても、何も面白くないね!」
七夏「くすっ☆」
心桜「今回、久々に浴衣を選んで、ピアノも弾いてみたんだけど、久々だと楽しいね!」

【翠碧色の虹】猫踏んじゃった【心桜式】HD版
https://youtu.be/I06zXlR6gRo

七夏「ここちゃー、とっても楽しそうでした♪」
心桜「んでさ、『猫踏んじゃった』ってピアノ販売コーナーで、わりとよく耳にするよね! まさに定番!!!」
笹夜「演奏し---」
心桜「うよぁ!」
七夏「ひゃっ☆」
笹夜「す、すみません!」
心桜「あはは・・・驚いたけど、これも定番!!!」
七夏「笹夜先輩、こんにちわです☆」
心桜「こんちわー! 笹夜先輩!」
笹夜「こんにちは♪」
心桜「笹夜先輩、続きをどうぞ!」
笹夜「ありがとう、心桜さん。『猫踏んじゃった』は、ピアノの鍵盤と、とても相性が良くて演奏しやすいのです♪」
心桜「確かに黒い鍵盤が『ガイド』になってるみたいだね!」
笹夜「でも、楽譜では#か♭が6個付きますので複雑に思えます」
心桜「え!? シャープとフラット!?」
笹夜「シャープ6個は嬰ヘ長調、フラット6個は変ト長調になります♪」
心桜「えーっと・・・あはは・・・よく分かんないや」
笹夜「でも、分からなくても音楽や演奏は楽しめますので♪」
心桜「そだね!」
笹夜「クラシックギターで『禁じられた遊び』と同じくらい、楽器の仕様を見据えたアレンジと言えるかしら?」
心桜「禁じられた遊び・・・親にゲーム機隠されたとか!?」
笹夜「え!? ・・・すみません。よく分かりません」
七夏「ここちゃー、笹夜先輩、どうぞです☆」
心桜「おっ! 紅茶! いつもありがとー!」
笹夜「ありがとう♪ 七夏ちゃん♪」

 ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆

心桜「あたしさー、昔、本当に踏んじゃった事、あるんだよねー」
七夏「え!?」
笹夜「まあ! 何をかしら?」
心桜「猫!」
七夏「え!?」
笹夜「まあ! 大丈夫だったのかしら?」
心桜「もちろん、わざとじゃないよ。事故だよ。椅子の裏側から突然尻尾が出てきて『おわっ!』ってなって避けようとしたんだけど、避けた先に尻尾が合わせてきやがって、もう無理って・・・ほら、よくあるでしょ!? 自転車同士、お互いに同じ方向に避けて・・・あーもう!」
七夏「猫さんは大丈夫だったの?」
心桜「に゛ゃっ!!!」
七夏「ひゃっ☆」
心桜「いや~鳴き声に濁点が入ってたね~」
笹夜「心桜さん・・・」
心桜「笹夜先輩、そんなに思いっきり踏んだわけじゃないですから!」
笹夜「そう・・・ですか」
心桜「猫踏んだっちゃ! 猫踏んだっちゃ!」
七夏「ここちゃー、それラミちゃん!?」
心桜「あはは・・・なんとなく。ちょっと言い方が違うだけだよ」
笹夜「でも『猫踏んじゃった』は事故でしょうけど、『猫踏んだっちゃ』は確信犯ですよね」
心桜&七夏「・・・・・・・・・・」
心桜「じ、じゃあ『ねこ踏んだっちゃ! てへペロッ!』で可愛らしく!」
笹夜「余計に確信犯度が上がります!!」
心桜「猫踏んずけないように、気をつけよ~♪」
七夏「ここちゃー!! す、すみません! 笹夜先輩っ!」
笹夜「いえいえ♪」
七夏「笹夜先輩のピアノ演奏、とっても素敵でした☆」
心桜「うんうん! あたし、笹夜先輩のピアノを聴いて、自分がちょっと恥ずかしくなったよ」
笹夜「どおしてかしら?」
心桜「品格の違いを見せ付けられた感じがしてさ」
笹夜「楽しく演奏する事に品格は関係ないと思います♪ 音楽の基本は楽しむ事です♪」
心桜「ありがとうございます! あたし、楽しい事は好きだからね!」
七夏「くすっ☆」
笹夜「楽しむ事に関しては、いつも心桜さんに品格の違いを見せてもらってます♪」
心桜「あはは!」
七夏「私も、ピアノ弾けたらいいなぁ☆」
心桜「つっちゃーも弾けるでしょ!?」
七夏「え!?」
心桜「猫ふんじゃった・・・昔、一緒に弾いた事あるよね!」
七夏「えっと・・・はい☆」
笹夜「七夏ちゃんのピアノ演奏、聴いてみたいです♪」
七夏「さ、笹夜先輩っ!」
心桜「おっと、これは、面白い展開に---」
七夏「こ、ここちゃー!」
心桜「さて、ここで大きな問題がっ!!!」
七夏「え!?」
心桜「『猫踏んじゃった』は問題なく伝わると思うんだけど、笹夜先輩!!!」
笹夜「え!? は、はい!」
心桜「笹夜先輩が演奏してくださった音楽は、今の所、あたしたちしか分からないわけだよね!? これって大きな問題だよね!?」
七夏「それって大きな問題なの?」
心桜「大きな問題だよっ!!!」
七夏「ひゃっ☆」
心桜「あ、ごめん。つっちゃー」
七夏「ここちゃー、急に大きな声だから驚きました☆」
笹夜「大きな問題なのかしら?」
心桜「そうなのです!!! あたしたち以外の人も、笹夜先輩の演奏を届けてあげたいっ!」
七夏「届けるって?」
心桜「ほら! 異世界の皆様に~♪」
笹夜「私は、そこまでされなくても・・・」
心桜「いやいや、ここはなんとかあたしがっ! ・・・って事で、お~い! 原作者! なんとかしろ~!!!」
笹夜「今のは、いったい何かしら?」
心桜「まあまあ、これでなんとかなるっ!」
七夏「???」
心桜「って事で、つっちゃーが頑張る『翠碧色の虹』本編はこちら!」
心桜「http://nanatsuiro.my.coocan.jp/nnt_frma_a.htm」
七夏「はい☆ 頑張ります☆」
心桜「そして、あたしと笹夜先輩も頑張る『ココナッツ』宛てのお便りはこちら!」
心桜「http://nanatsuiro.my.coocan.jp/nnt_suiheki_novel.htm#QUESTIONNAIRE」
七夏「大丈夫かなぁ」
心桜「大丈夫だよ! きっとね!」
笹夜「心桜さんが話されますと、本当にそんな気がしてきます♪」
七夏「くすっ☆」

幕間二十五 完

------------

幕間二十五 をお読みくださり、ありがとうございました!
本編の方も鋭意制作中ですので、どうぞよろしくお願い申しあげます!

随筆二十五:君が代(国歌)の調

随筆二十五:君が代(国歌)の調

七夏「ここちゃー☆」
心桜「つっちゃー、どしたの?」
七夏「えっと、これ☆」
心桜「おっ! 前回のお願い事!」
笹夜「こんにちは♪」
七夏「笹夜先輩、こんにちはです♪」
心桜「こんちわ! 笹夜先輩! ねねっ! 笹夜先輩のピアノ演奏!」
笹夜「え!?」
心桜「あの時の! 聴けるみたいだよ!」
笹夜「まあ♪」
心桜「では早速~♪」
心桜「https://youtu.be/I06zXlR6gRo」
心桜「https://twitter.com/SUIHEKIIRO/status/1023400742504161280」
七夏「♪」
心桜「あれ? ちょっと! そうじゃなくて!」
笹夜「これは、あの時の心桜さんのピアノ演奏です♪」
心桜「そ、そうなんですけど、違うんですよ! あたしが届けたかったのは、これではなくて、笹夜先輩のピアノ演奏だったのにぃ~」
笹夜「心桜さんのピアノ演奏、とても楽しそうでした♪」
七夏「はい☆」
笹夜「私、最初は心桜さんが『エリーゼのために』を演奏されるのかと思いました」
心桜「あはは! フェイントです!」
笹夜「あと、演奏が速いですね」
心桜「やっぱ、巻いてゆかないと」
七夏「巻いてゆくって?」
心桜「あ、お急ぎって事!」
七夏「くすっ☆」
心桜「んで、本当に頼みますよ!」
七夏「え!?」
心桜「笹夜先輩のピアノ演奏の方!」
笹夜「え!?」
心桜「ほら! つっちゃーからもお願いしてよ!」
七夏「えっと、お願いいたします☆」
心桜「今度こそ大丈夫だよねっ!?」
笹夜「私、心桜さんの他のピアノ演奏も聴いてみたいです♪」
心桜「え!? 『猫踏んじゃった』しか弾けませ・・・あ、『君が代』があった!」
笹夜「君が代・・・国歌かしら?」
心桜「そうそう、昔、学校の授業でも歌ったよねっ!」
七夏「はい☆」
心桜「あの曲、あたし的に何か違和感が残るんだよねー」
七夏「違和感?」
心桜「なんか、曲の最後が終わった感じがしなくてさ」
笹夜「なるほど・・・確かに解決している感じが、しませんね」
心桜「解決?」
笹夜「音楽が終わった印象を受けないという意味です♪」
心桜「ですよね。なんでだろ?」
笹夜「始まりの音が『レ』で終わりの音も『レ』ですから、曲としては解決していると思います・・・不思議ですね」
七夏「始まりの『レ』と、終わりの『レ』?」
笹夜「旋律の基本的な構成で、始まりの音階と、終わりの音階が同じなら、曲が終わった感が得られます♪」
七夏「なるほど☆」
心桜「その、旋律的には解決しているのに、終わった感がしないのが、違和感として残っているのか・・・」
七夏「終わった感がしない・・・終わりじゃないという事なのかなぁ!?」
心桜「!!! それだっ!!!」
七夏「ひゃっ!」
笹夜「まあ!!!」
心桜「君が代は、今後の繁栄の意も込められてるんじゃないかなーって」
笹夜「つまり、君が代は終わる事無く、永遠に続きます・・・という事かしら?」
心桜「そうです! 未来永劫!」
七夏「なるほど☆」
心桜「・・・って、つっちゃーが話した事だよ」
笹夜「七夏ちゃん、素敵な考え方です♪」
七夏「私、そんなに深く考えてなくて・・・」
心桜「まあ、その引き金になった事は確かだよ!」
笹夜「そう言えば、君が代の旋律は、白鍵のみで『ファ』だけが使われていません」
心桜「え? そうなの?」
七夏「レドレミソミレー・・・ラーソミレ・・・ホントです!」
心桜「なになに? それって『ファ』だけハブられてるの?」
笹夜「ハブられる?」
心桜「あ、仲間はずれにされてるって事です」
笹夜「なるほど」
心桜「『ファ』だけハブられて、ファーファーは怒るよ、きっと。名前全否定されたみたいで、いくら柔軟材が入ってても、これは受け流せないか・・・」
七夏「何のお話です?」
心桜「洗剤」
笹夜「これは、日本音階の特徴です♪」
心桜「日本音階!?」
笹夜「ええ♪ 他にも『レ』と『ラ』を使わない琉球音階も有名ですね♪」
七夏「ドミファソシ・・・」
心桜「!!! それ、辺のオジサン!!!」
七夏「え!?」
心桜「辺のオジサンだから、辺のオジサン♪」
笹夜「た、確かに調は違いますけど、同じ旋律ですね♪」
心桜「えぇっ! 笹夜先輩! 知ってるんですか!?」
笹夜「え!?」
心桜「辺のオジサン」
笹夜「テレビで見かけた事はあります♪」
心桜「決め台詞は『もう一辺言うてみぃー!!!』だよね!」
七夏「くすっ☆」
心桜「んで『一辺に言うなぁー!!!』って、自分で振っといて突っ返す! これ定番!!!」
笹夜「まぁー・・・」
七夏「笹夜先輩!? どうしたのですか?」
笹夜「心桜さん・・・美夜と同じ事を話してます・・・」
心桜「なっ、なんですとー!!!」
七夏「美夜ちゃん居ると、楽しくなりそうです♪」
心桜「いずれ、美夜っちとは、真っ向勝負する事になるかも知れない」
笹夜「心桜さんなら、美夜の事を任せられそうです♪」
心桜「ん? なんか歪んだ言い方に思えたりして」
笹夜「そんな事はありません♪」
心桜「つっちゃーも頑張るんだよ!」
七夏「え!?」
心桜「ここ最近、受け身な気がしてさ。何かあったの?」
七夏「えっと、特には・・・」
心桜「ま、幕間や随筆は、あたしが何とかするからさ、本編は頑張るんだよ!」
七夏「はい☆」
心桜「んじゃ、つっちゃーが頑張る『翠碧色の虹』本編はこちら!」
心桜「http://nanatsuiro.my.coocan.jp/nnt_frma_a.htm」
心桜「あたしたち『ココナッツ』宛ての、お手紙はこちら!」
心桜「http://nanatsuiro.my.coocan.jp/nnt_suiheki_novel.htm#QUESTIONNAIRE」
七夏「どうぞ、よろしくお願いいたします☆」
笹夜「七夏ちゃん、頑張って♪」
七夏「はい☆」

随筆二十五 完

------------

随筆二十五をお読みくださり、ありがとうございました!
本編の方も鋭意制作中ですので、どうぞよろしくお願い申しあげます!

随筆二十六:気楽に考えましょう!

随筆二十六:気楽に考えましょう!

笹夜「こんにちわ♪」
心桜「こんちわ! 笹夜先輩!」
七夏「笹夜先輩☆ こんにちわです☆」
心桜「・・・・・」
笹夜「心桜さん!? どうかしました?」
心桜「いえ、今更ですけど、笹夜先輩が最初のご挨拶として登場するのは『初』のような気がしてさ」
笹夜「まあ♪」
心桜「『まあ♪』って、自覚無かったのですか!?」
笹夜「ええっと・・・すみません」
心桜「いや、謝られても・・・そもそも謝って頂く必要はないです!」
七夏「ここちゃー・・・すみません、笹夜先輩」
笹夜「いえいえ♪ 七夏ちゃん、ありがとう♪ それは!?」
七夏「えっと、お便り届いてます☆」
心桜「お便り・・・ありがとうございます! んじゃ、つっちゃーそのままお願い!」
七夏「はい☆ えっと、お名前、赤坂サカナさん!?」
心桜「赤坂魚!?」
笹夜「観光スポットかしら!?」
心桜「観光スポットに居る魚さん!? ギョギョギョッ! スギョイッ!」
七夏「くすっ☆ えっと『ココナッツさん、こんにちは! 私は社会人なのですけど、慰安旅行とかそういう会社のイベントが苦手で、あまり心から楽しめないのです・・・。慰安旅行自体は任意参加ですので、本当は参加したくないのですけど、この考え方って問題でしょうか?』です・・・慰安旅行って楽しくないのかな?」
心桜「どうだろ? 修学旅行は楽しいよね!」
七夏「はい☆」
笹夜「これは、人に依りますね」
心桜「まあ、そうでしょうけど、なぜ苦手なのかですね?」
笹夜「ええ♪ まずお手紙の主さんが、会社で置かれている状況が影響するでしょうね」
心桜「置かれている状況? いわゆる役職ってヤツですか?」
笹夜「それも考えられますけど、もっと個人的な事・・・例えば、会社で孤立気味とか、気軽に話せる人が居ないとか、あまり会社の人と上手く馴染めていない可能性がありますね。七夏ちゃんはどうかしら?」
七夏「え!? えっと、ご自身やご家族との時間を大切に考えているのかな?」
笹夜「なるほど♪ それは大切な考え方です♪」
心桜「他にはありますか?」
笹夜「ご本人様が真面目過ぎる可能性もあります」
七夏「真面目!?」
笹夜「旅行とは言っても、会社の人と一緒に過ごすのは仕事の延長線上であって、自由に羽を伸ばせない事が多いみたいです」
心桜「そう考えると、なんか面倒ですよね」
七夏「こ、ここちゃー!」
心桜「まあ、自分と相性の合わない人がプライベートでも居たら、それがストレスになるのは確かな事だよ」
笹夜「まあ、全ての人と上手く相性が合うという事は、極めて稀だと思います。実は、相性が合っているようでも、自分が相手に合わせているだけ・・・という事も多そうです」
心桜「なんか、切ないね。あたしは、イヤな事はきっぱりと断るけど、会社のイベントとなると、そう単純な事ではなさそうですよね」
七夏「慰安旅行って、必ず参加しなければならないのかな?」
笹夜「それも、会社の方針に依るでしょうね。多くは任意でのご参加だと思います」
心桜「任意なんだったら、悩む必要なんてないと思うけど?」
笹夜「お手紙の主さんは、参加しなかった事による後々の影響を、お考えなのだと思います」
心桜「なるほど、後味が悪いって事ですか!?」
笹夜「後味・・・というよりも、後ろめたさ・・・かしら?」
七夏「他のみんながご参加されるかどうかも、あるのかな?」
笹夜「それもありそうですね。慰安旅行の参加率が低いという事は、純粋に楽しめないという事の表れかも知れません。この場合は、企画そのものというよりも、会社の風通しから見直す必要がありそうですね」
心桜「・・・ところで、笹夜先輩!」
笹夜「なにかしら?」
心桜「あたしたち、社会人じゃないのですけど、笹夜先輩は妙に詳しそうですよね?」
笹夜「まあ、確かに社会人ではないですから、本当の所は想像の範囲でしか分かりません。ですけど、学校での出来事を考えると、ある程度は見えてこないかしら?」
心桜「見えてくると言えば、見えてきますけど。学生と社会人とでは大きく違う所もあると思います」
笹夜「集団の中での行動や考え方は、共通している所も多いと思います」
七夏「私、なんとなくですけど、お手紙の方のお考えは分かります」
心桜「つっちゃーも苦手な人、居るもんね。まあ、あたしも居るけど」
七夏「えっと・・・」
笹夜「私も、苦手な人は居ます」
心桜「はは・・・結局、みんな居るって事だよね!」
七夏「私は、一人でのんびりと過ごしたり、小説を読んだり、そのような一人で過ごせる時間も大切だと思ってます☆」
心桜「そだねー。つっちゃーは、結構自分の時間・・・というか、いつの間にか自分だけの世界に入っている事があるよね」
七夏「えっと、ごめんなさい」
心桜「いやいや、あたしは全然構わないよ! つっちゃーは、そんなタイプだと思ってるから」
七夏「くすっ☆ ありがとです☆」
笹夜「苦手な人とも上手く、お付き合いしてゆかなければならない所が、お仕事以上に難しい所もありそうですね」
心桜「んー、結局、今回のテーマ、結論はどうなんだろ?」
七夏「難しいですね・・・」
笹夜「お手紙の主さんのお考えは、問題ではないと思います♪」
心桜「おっ! 笹夜先輩! バシッと言い切りましたね! その心は!?」
笹夜「人の心は、人それぞれであって、任意参加の慰安旅行にご参加されない事が問題とは思いません。それを後々、参加しなかったと責められる事があれば、その事の方が問題です」
心桜「なるほどねー」
笹夜「任意ではなく、強制参加の場合、それ自体も問題となりそうです。強制参加にする場合は、後日、その分の有給休暇を別にご用意するとか、そのくらいの事をしなければ、なかなか難しいと思います」
心桜「そんな事できるのですか!?」
笹夜「経営者様次第です♪」
心桜「あたし、無理だと思います!」
七夏「こ、ここちゃー! もう・・・」
心桜「って事で、あたしたちの結論は『慰安旅行、参加したくなければ不参加表明で問題なし!』・・・で、問題なし!?」
笹夜「ええ♪」
七夏「はい☆」
心桜「確かに、労う為の旅行でストレスを感じるのは本末転倒だね!」
笹夜「慰安旅行に皆様が参加したいと思える環境作り、これが慰安旅行の企画よりも優先して計画されなければなりませんね♪」
心桜「やっぱ、笹夜先輩って元社会人とか!?」
笹夜「え!? 社会人になるのは、もう少し先だと思いますけど・・・」
心桜「あはは、それは、あたしもそうだと思います! んで、つっちゃーは社会人ではなく、ここ、風水の女将さんかな!?」
七夏「くすっ☆」
心桜「んじゃ、今のところ若女将つっちゃーが頑張る『翠碧色の虹』本編はこちら!」
心桜「http://nanatsuiro.my.coocan.jp/nnt_frma_a.htm」
心桜「あたしたち『ココナッツ』宛ての、お手紙はこちら!」
心桜「http://nanatsuiro.my.coocan.jp/nnt_suiheki_novel.htm#QUESTIONNAIRE」
七夏「今のところって・・・」
心桜「あはは! これからも若くだね!」
七夏「はい☆」
笹夜「七夏ちゃん、頑張って♪」
七夏「ありがとうございます☆」
心桜「んー・・・」
七夏「どしたの? ここちゃー?」
心桜「なんか忘れてるような気がするんだけど・・・」
七夏「え!? あっ!」
心桜「ん!?」
七夏「お便り、ありがとうございました☆」
笹夜「ありがとうございます♪」
心桜「あたしは、既にお礼は話したよ・・・んー、なんだったかなぁー」
笹夜「そのうち思い出せると思います♪」
心桜「そういう事にしておきますかっ!」

随筆二十六 完

------------

随筆二十六をお読みくださり、ありがとうございました!
本編の方も鋭意制作中ですので、どうぞよろしくお願い申しあげます!

随筆二十七:つい話してしまう事!

随筆二十七:つい話してしまう事!

心桜「んー、なんだったかなぁ~」
七夏「どしたの? ここちゃー?」
心桜「前回から、何か忘れてる気がするんだけど・・・」
笹夜「まあ、そのうち思い出せると思います♪」
心桜「だね・・・と、思いながら一週間過ぎたんだけど」
七夏「くすっ☆」
笹夜「まあ! それは結構長い期間になりますね」
心桜「でしょ!?」
七夏「私も、忘れてしまって、思い出せなくなる事、ありますから☆」
心桜「いやいや、つっちゃー、それ慰めになってないって!」
七夏「え!? えっと・・・」
心桜「まあ、いいや! こういうのって、あまり意識しない方が『フッ!』と思い出したり出来るかも知れないからねっ!」
笹夜「ええ♪」
心桜「んで、話し変わるけどさ。なんか思わず言葉になってしまう事って無い?」
七夏「え!?」
笹夜「それって、どのような事かしら?」
心桜「例えば、エビを食べて『プリップリ!』みたいなヤツ!」
七夏「あ、お餅を頂いて『モチッモチ』かな♪」
笹夜「まあ♪」
心桜「あれのさ『プリップリ!』ってなんなんだろ?」
七夏「え!?」
心桜「テレビとかでもさ。エビを食べた人が大抵『プリップリ!』って言うよね!?」
笹夜「そう言われれば・・・そうなのかしら?」
心桜「そりゃ、あたしもエビから『プリップリ!』って音や鳴き声がするなら、分からなくもないけど」
笹夜「それは、きっとエビがプリッ! っとしているか---」
心桜「何がですかっ!?」
笹夜「きゃっ!」
七夏「ひゃっ☆ こ、ここちゃー!」
心桜「どっちかって言うと『シュッ!』って、イメージじゃないかなぁ?」
七夏「しゅっ?」
心桜「そう! 他は『シャッ!』・・・とか? なんかこう素早いイメージ」
笹夜「なるほど☆」
心桜「でも、エビを食べても『シュッ!』『シャッ!』って思わないよね?」
七夏「ここちゃー、エビせんはどうかな?」
心桜「えびせん食べて『パリッパリ!』」
七夏「くすっ☆」
心桜「うめぼし食べて、スッパ---うぉっ! コホン!」
七夏「こ、ここちゃー大丈夫!?」
笹夜「心桜さん、そんなに慌てなくても」
心桜「あははっ、ちょっとむせた」
七夏「私、お飲み物、持ってきますからっ!」
心桜「ありがと、つっちゃー!」
笹夜「~♪」
心桜「ん? どうかしましたか? 笹夜先輩?」
笹夜「エビではないですけど、みんなで蟹を頂いた事を思い出して♪」
心桜「あー、そう言えば、あの時、エビの話しもあったよね?」
笹夜「ええ♪」
心桜「蟹を食べても『カニッカニ!』とは言わないよね?」
笹夜「その方式でしたら、エビを頂いたら『エビッエビ!』にならないかしら!?」
心桜「え!?」
笹夜「え!? で、ですから『エビッエビ!』にならないかしら?」
心桜「えっ!?」
笹夜「こ、心桜さん!?」
心桜「あー、笹夜先輩! そこは『び!?』が来なければっ! つっちゃーの時は出来てたのにぃ~」
笹夜「す、すみませんっ!」
七夏「どうしたの? 笹夜先輩!?」
笹夜「いえ、何でもないです」
七夏「はい、冷茶です☆ ここちゃーも☆」
笹夜「ありがとう♪ 七夏ちゃん♪」
心桜「つっちゃーありがと!」
七夏「エビせんもありましたので、どうぞです☆」
心桜「おおっ!『葉っぱえびせん』! やっぱ『パリッパリ!』だね~」
七夏「くすっ☆」
笹夜「エビ以外で、このような事ってあるかしら?」
心桜「パリッパリ!」
笹夜「それは、そうですけど、テレビとかではあまり聞かないですので」
心桜「そう言われれば・・・つっちゃー! 他に何かある?」
七夏「他に!?」
心桜「っそ! つっちゃー、料理詳しいから!」
七夏「山葵を頂いて『ツーン』とか?」
心桜「確かに、何が『ツーン』なんだろうね?」
笹夜「氷菓を頂いて『キーン』かしら?」
心桜「あっ! それもあるね! 何が『キーン』なんだろうね?」
笹夜「イメージを言葉で表すのは、難しいですからね」
心桜「それは、そうですけど、エビの『プリップリ!』だけが、特にひとり歩きしている気がするよね」
笹夜「最初に、そのイメージで話した人は凄いですね♪」
七夏「はい☆」
心桜「なぜエビだけなのか!? 他にも『プリップリ!』なヤツってありそうだけど」
笹夜「まあ、エビがその代表という事かしら?」
心桜「だね♪!?」
七夏「今日はエビさんのお料理で、考えてみようかなぁ♪」
心桜「おっ! いいね!」
笹夜「七夏ちゃん、頑張って♪」
七夏「はい☆」
心桜「んじゃ、これからもつっちゃーが頑張る『翠碧色の虹』本編はこちら!」
心桜「http://nanatsuiro.my.coocan.jp/nnt_frma_a.htm」
心桜「あたしたち『ココナッツ』宛ての、お手紙はこちら!」
心桜「http://nanatsuiro.my.coocan.jp/nnt_suiheki_novel.htm#QUESTIONNAIRE」
心桜「んー・・・」
七夏「どしたの? ここちゃー?」
心桜「やっぱり思い出せないなぁ・・・」
七夏「え!?」
心桜「『思い出せない、何か忘れている』という事だけは忘れないから、タチが悪いなぁ」
笹夜「まあ、焦らずに参りましょう♪」
七夏「くすっ☆」

随筆二十七 完

------------

随筆二十七をお読みくださり、ありがとうございました!
本編の方も鋭意制作中ですので、どうぞよろしくお願い申しあげます!

第三十一幕:日常の虹

第三十一幕:日常の虹

ありふれた日常。わりと耳にする言葉だと思うけど、改めて考えるとよく分からない。何が「ありふれた」なのだろうか。

昨日、浴衣を持った天美さんと別れる時、七夏ちゃんから「着付け5点セット」を渡されて、少し大変そうだったけど、その表情はとても嬉しそうだったな。これから天美さんにとって浴衣も「ありふれた夏の一場面」になってほしいと思う。こういう使い方なのだろうか。

トントンと扉が鳴る。俺は扉を開ける。

七夏「おはようございます☆」
時崎「おはよう! 七夏ちゃん!」
七夏「昨日はありがとうです☆」
時崎「え!?」
七夏「一緒にお買い物☆」
時崎「ああ。俺でよければいつでも声を掛けてくれていいから」
七夏「はい☆ えっと、昨日の帰りに柚樹さんがお話ししてくれた事で---」
時崎「あ! 直弥さんの件!?」
七夏「はい☆ えっとお父さんの模型さんに信号を付けるの、一緒にお手伝い。今日の宿題が終わってからでいいですか?」
時崎「ありがとう! もちろん構わないよ!」
七夏「くすっ☆ あと、朝食も出来てますので☆」
時崎「ああ! すぐに降りるよ!」
七夏「はい☆」

七夏ちゃんと一緒に朝食を頂く。今はこれが日常になってきているけど、「ありふれた日常」とは思えない。この日常は「期限付き」だから、ひとつひとつを大切に受け止めたい。

七夏「!? 柚樹さん!?」
時崎「え!?」
七夏「どうしたの?」
時崎「いや、なんでもないよ。この玉子焼き、七夏ちゃんだよね!?」
七夏「え!? はい☆ どうして分かったの?」
時崎「凪咲さんの玉子焼きよりも、甘みが控えめな気がして」
七夏「くすっ☆ 柚樹さんは、このくらいの方がいいかなって☆」
時崎「ほんと、美味しいよ!」
七夏「良かったです☆」

この短い間に七夏ちゃんは、俺の好みをかなり分かってくれている。しかし、俺はというと七夏ちゃんの事をどの程度、理解出来ているのだろうか!?
俺の個人的な事を殆ど訊いてこない七夏ちゃんは、どのようにして人の心に触れているのだろうか?

 ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆

朝食を済ませ、自部屋に戻る。七夏ちゃんは宿題を済ませると話していた。俺の宿題は、凪咲さんと七夏ちゃんそれぞれへの、ふたつのアルバム作りと、直弥さんからのふたつの頼まれごと。七夏ちゃんのように、しっかりと計画しなければならないな。今日は直弥さんから頼まれた「鉄道模型の信号機」をレイアウトする。以前に踏切をレイアウトした事を思い出す。あの時、手を添えてくれた七夏ちゃん・・・昨日、高月さんからも手を差し伸べて貰っている俺は、いつも受け身気味だという事に気付いた。控えめだと思っていた七夏ちゃんや高月さんは、積極的な所もあるようだ。天美さんの方が積極的に手を出して来そうだけど、本当の事とイメージは、一致しない方が多い気がする。

昨日撮影した写真をデシタルアルバムに仮レイアウトする。また天美さんや高月さんにもコメントをお願いする事になりそうだけど、花火大会の時に風水に来てくれる予定だから、その時に頼んでみよう。

一通り写真の仮レイアウトを済ませる。次は鉄道模型の信号機のレイアウトだ。これは、七夏ちゃんと一緒に行う事になっているから、それまでに昨日買っていたサンキャッチャーと風鈴の組み合わせの工作を行っておく。作業自体は簡単だ。風鈴の風を受け止める短冊をサンキャッチャーと交換する。いつでも元の状態に戻せる程度の工作だ。出来上がった風鈴サンキャッチャーを窓辺から吊るして、窓を開けてみる。
しかし、サンキャッチャーが重過ぎて、風鈴の音が鳴らない。こんな事に気付けないなんて・・・。そこで、サンキャッチャーの下に風鈴を付け、その下に元の短冊を付け直した。すると、窓からの風を受け、風鈴が心地よい音色を奏で始めた。風鈴の上にあるサンキャッチャーは夏の強い太陽の光を受け止め、優しい光へと変えてお部屋に届けてくれている。俺が思ったイメージに近い結果にホッとする。しばらく、優しい音色と光を楽しむ。

トントンと扉が鳴る。

時崎「七夏ちゃん! どうぞ!」
七夏「はい☆ 失礼いたします」
時崎「宿題、お疲れさま!」
七夏「はい☆ あ、やっぱり風鈴です♪ 柚樹さん、昨日買ってました☆」
時崎「え!? 風鈴って気付いてたの?」

七夏ちゃんの洞察力に改めて驚く。

七夏「はい☆ 昨日、柚樹さんのお買い物から、少し音が鳴ってましたので☆」
時崎「なるほど。音、結構気になるかな?」
七夏「え!?」
時崎「七夏ちゃん、宿題をしてる時は、静かな方がいいかなって」
七夏「くすっ☆ ありがとです。宿題をしていると柚樹さんのお部屋の方から素敵な音が聞こえてきて、少し気になりました」
時崎「やっぱり・・・宿題の邪魔をしてしまってごめん」
七夏「いえ、返って捗りました☆」
時崎「え!?」
七夏「早く柚樹さんの風鈴を見たいなって☆」
時崎「そうなの!?」
七夏「はい☆」
時崎「でも、ずっとここに風鈴があると、七夏ちゃん気になるよね?」
七夏「くすっ☆ では、1階の縁側に飾るのはどうですか?」
時崎「え!? いいの?」
七夏「はい☆ お母さんも喜んでくれると思います☆」
時崎「では、早速!」

俺が風鈴を外すと、サンキャッチャーの光の粒が壁を大きく移動した。

七夏「あっ!」
時崎「え!?」
七夏「光が・・・七色の光!」
時崎「!!!」

聞き間違いではない! 今、七夏ちゃんは確実に「七色の光」と話した。サンキャッチャーの分光は、七夏ちゃんにも七色の光に見えているのだろうか? 確かめたいっ! だけど・・・迷っていると---

七夏「柚樹さん!? どしたの?」
時崎「え!?」
七夏「早く風鈴さん! 縁側に♪」
時崎「あ、ああ!」

タイミングを、逃してしまった。
七夏ちゃんと一緒に1階の縁側へと向かう。

七夏「柚樹さん! ここはどうかな?」

七夏ちゃんの指先に風鈴を飾るのに都合のいいフックがある。以前にも風鈴を吊るしていたのだろうか? そのフックに風鈴を吊るす。風鈴は先程と同じように心地よい音色を奏で始める。

七夏「くすっ☆」
時崎「これでいいかな?」
七夏「はい☆ 不思議です☆」
時崎「え!?」
七夏「風鈴の音で涼しい気持ちになれますから♪」
時崎「そうだね」
七夏「それに、柚樹さんの風鈴は優しい光も一緒です☆」
時崎「!!!」
七夏「どしたの? 柚樹さん?」

今だ! 今、訊かなくてどうする!?

時崎「な、七夏ちゃん!」
七夏「え!?」
時崎「さっき、七色の光って話してたけど・・・」

今、七夏ちゃんは「優しい光」としか話してなかったけど、その前は「七色の光」と話していたから、本当に知りたい事を訊いてみる。

七夏「七色?」
時崎「あ、ああ」
七夏「この優しい光は、七色の光です☆」
時崎「み、見えるの? 七色に?」
七夏「えっと・・・本当は・・・」
時崎「・・・・・」

俺は七夏ちゃんの言葉を待つ、七夏ちゃんの答え次第で、俺は謝る覚悟でいた。

七夏「・・・ご、ごめんなさい」
時崎「っ!」

やっぱり、七夏ちゃんには、この光が七色には見えていないのか・・・俺が謝ろうとした時---

七夏「三色・・・四色かな?」
時崎「え!?」
七夏「ごめんなさい! 私には『ななつの色』までは見えいなくて」
時崎「ななつの色!?」

言われてみれば「七色」と言っても、色がななつに見えるのか? 俺にもこのサンキャッチャーの分光は、七夏ちゃんと同じように三色か四色の光に見える。・・・と言う事は七夏ちゃんと俺は同じ色を見ているという事なのか!? そう思うと、急に嬉しくなってきた。

七夏「!? 柚樹さん!?」
時崎「一緒だよ! 七夏ちゃん!」
七夏「ひゃっ☆ 柚樹さん!?」
時崎「あ、ごめん。急に大きな声で」
七夏「くすっ☆」
凪咲「あら? 風鈴かしら?」
時崎「凪咲さん、はい」
七夏「お母さん、ここに風鈴さん飾ってもいいかな?」
凪咲「ええ。涼しくなる音色ね♪」
七夏「はい☆」
時崎「ありがとうございます」
凪咲「お昼も用意できてますので」
時崎「すみません。あまりお手伝い出来てなくて」
凪咲「いいのよ。柚樹君が居ると、風水も色々と変わってきて、七夏も・・・」
七夏「え!?」
凪咲「なんでもないわ。お昼、よろしければどうぞ」
時崎「ありがとうございます」

凪咲さんは、サンキャッチャーの光の事については触れなかった。七夏ちゃんの事を思っての事だろうか? だとしたら、俺は・・・。七夏ちゃんの事をもっと知りたいと焦ってしまった。

七夏「柚樹さん? どしたの?」
時崎「いや、なんでもない。お昼、一緒にいいかな? 七夏ちゃん!」
七夏「くすっ☆ はい☆」

七夏ちゃんと一緒に昼食を頂く。いつもの日常のように思えて嬉しく思う。
この後、鉄道模型の信号機を七夏ちゃんと一緒にレイアウトする事になっている。

時崎「ごちそうさま!」
七夏「はい☆」
時崎「七夏ちゃん、俺、先に直弥さんの部屋で準備してていいかな?」
七夏「はい☆ ありがとうです☆」

俺は直弥さんの部屋へ移動する。机の上には俺と七夏ちゃん宛ての封筒が置いてあった。七夏ちゃんが来たら、一緒に中身を確認しようと思う。まあ、今すぐ確認しなくても中身の予想はできる。きっと七夏ちゃんが喜んでくれる物だろう。

鉄道模型のレイアウトの隣にある袋から信号機を取り出して、中の説明書を読んでおく。「3灯式信号機」と記載されているが、詳しくは分からない。6個ある信号機をよく眺めてみると、灯が付く箇所が5灯ある物もあった。信号と言えば「青」「黄」「赤」の三色だと思うけど5灯と言う事は他の色もあるのだろうか? 更に説明書を読み進めると、黄が、三灯もあるようだ。よく分からなくて少し不安になってきた。

時崎「えっと・・・確か・・・」

直弥さんから受け取っていた信号を設置するイラスト図を取り出して確認する。その指示を見ておおよその設置場所を確認する。全部で6個ある信号機だか、駅に設置する信号は「出発信号」と記されており、これが3灯式信号機のようだ。同じように見える信号でも二種類あるようで、駅に設置する2個は3灯式、他の4個は5灯式となるらしい。レイアウト上に箱のまま、おおよその設置位置に信号を置いておく。

トントンと扉が鳴る。七夏ちゃんだろう。

時崎「七夏ちゃん!」
七夏「柚樹さん☆ お待たせです☆」
時崎「それは!」

七夏ちゃんは俺が蒸気機関車イベントで買った「C11蒸気機関車」を手にしていた。

七夏「みんなの模型さんです☆ 後で一緒にと思って☆」
時崎「ありがとう!」
七夏「くすっ☆ あ、柚樹さん宛てのお便りです!」

七夏ちゃんも直弥さんからの封筒に気付いたようだ。

時崎「七夏ちゃん宛てでもあるよ!」
七夏「くすっ☆ 一緒になってます♪」
時崎「そうみたいだね」

一緒と言われて、なんか妙に恥ずかしくなってくる。

七夏「えっと、どうすればいいのかな?」
時崎「七夏ちゃんは、俺よりも詳しいと思うけど、とりあえず、信号機を直弥さんの指示する場所に置いてみた・・・箱のままだけど。
七夏「くすっ☆」
時崎「ひとつ開けてみたんだけど、2種類あるようだよ」
七夏「え!? そうなの!?」
時崎「3灯式出発信号機と、5灯式信号機があるみたい」
七夏「あ、出発信号機は駅の側に置くのかな?」
時崎「さすが! そうみたいだね!」
七夏「えっと、信号機を・・・」
時崎「今、仮に並べてみたけど、この位置と方向で大丈夫かな?」
七夏「はい☆ 大丈夫だと思います☆」
時崎「後は電気的な配線かな?」
七夏「お父さんの絵にあるこれの事かな?」
時崎「ふたつあるコントローラーから線を取れるようだけど、ひとつはこの前、踏切を置いた時に使ってしまっている為、既に塞がっていた。」
七夏「線はこっちからしか取れないみたいです」
時崎「そうみたいだね。信号機は6個あるんだけど、線を分配する部品が必要なのかな?」

俺は信号機の説明書を読み進める。

七夏「部品が足りなかったら、お父さんに相談しないと」
時崎「なるほど。大丈夫みたいだよ、七夏ちゃん!」
七夏「え!?」
時崎「信号機の配線は、数珠繋ぎに出来るみたい」
七夏「そうなの?」
時崎「説明書によると---」

俺は信号機を手に取り、裏側を見ると、更に配線を繋げられる拡張用端子を確認し、七夏ちゃんに見せてあげる。

七夏「なるほど☆ よかったです☆」

七夏ちゃんと一緒に信号機を設置して行く。しかし、コントローラーから遠い場所にある信号機は線の長さが足りないようだ。

七夏「えっと、こっちの線が届かないかな」
時崎「延長コードのような部品が必要になるのかな?」

直弥さんのイラスト図には電気的な配線の指示はない。さらに信号機の説明書を読んでみると、拡張端子は踏切にもあるようで、そこからも信号機を接続する事ができるようだ。

時崎「なるほど!」
七夏「え!?」
時崎「この前、七夏ちゃんと一緒に設置した踏切にも、拡張端子があるみたいで、そこからも信号機を接続できるみたいだよ。踏切の近くの信号機はここから線を取れば大丈夫!」
七夏「よかったです☆」

七夏ちゃんと一緒に6個ある信号機を全て設置、配線も完了させた。

時崎「・・・よし! これで大丈夫かな?」
七夏「はい☆ お疲れ様です☆」
時崎「最初、3灯とか5灯とかあって不安になったけど、作業は結構楽しいと思ったよ」
七夏「くすっ☆ はい☆ 柚樹さん☆」

七夏ちゃんは「C11蒸気機関車」とヘラのような物を手渡してくれた。このヘラのような物は、列車を線路に乗せる為に使う物で「リレーラー」と言うらしい。

時崎「最初は、このリレーラーを見た時、なんでそうしているのか分からなかったよ」
七夏「くすっ☆ これが無いと、列車を線路に乗せにくいですので☆」

早速、「C11蒸気機関車」を線路に乗せる。

時崎「七夏ちゃん! 客車と車掌車も一緒に!」
七夏「はい☆」

C11に客車と車掌車を繋ぐと列車らしくなった。コントローラーの電源を入れると、6個の信号機の灯火も入る。レイアウトに光の彩が加わった。よく見ると、駅に設置した3灯式信号の灯は「赤」で、5灯式信号機は「青」の光だ。同じように見える信号機だったが、灯が入ると明確な違いとなって現れた。

七夏「駅の信号が赤で他の信号は青になってます☆」
時崎「え!?」

・・・聞き間違いではない。七夏ちゃんは確かに俺と同じ「赤」と「青」を認識できている。七夏ちゃんと俺は同じ色を見ているという事なのか!? サンキャッチャーの時も思ったけど、こういう事は何度あっても嬉しくなる。

七夏「? どうしたの? 柚樹さん?」
時崎「え!? いや、信号の灯が綺麗だなと思って」
七夏「くすっ☆ 柚樹さん、どうぞです☆」
時崎「ありがとう」

俺は、コントローラーのつまみに手を持ってくる。この前は七夏ちゃんが手を添えてくれた事を思い出す。七夏ちゃんは信号機と列車を眺めているだけで、この前のような展開にはならなさそうだ・・・だったら!

時崎「七夏ちゃん!」
七夏「え!?」

俺は、コントローラーのつまみと七夏ちゃんを交互に見ると、七夏ちゃんは察してくれたようだ。

七夏「~♪」

七夏ちゃんがあの時のように手を添えてくれた。これを「日常の事」のようにしたいと思う。一緒にコントローラーのつまみをゆっくりと回すと、駅の3等式信号機が「赤」から「青」に変わった。

時崎「おっ! 青になった!」
七夏「はい☆」

七夏ちゃんも信号の「青」を認識している! さらに、コントローラーのつまみをまわすとC11蒸気機関車のヘッドライトが点灯し、ゆっくりと動き出した。そのまま列車は信号機を通過すると、青だった灯は赤になって、しばらくすると黄になり、再び青に戻った。5灯式信号機を列車が通過すると信号は青、赤、黄色2灯、黄色1灯、青と黄色、青という順番で光るようだ。

時崎「列車の信号って逆なんだね」
七夏「え!? 逆って?」
時崎「青から赤になって黄色、青になるから、道路の信号と逆かなと」
七夏「そう言われれば、そうですね☆」
時崎「列車の信号って詳しくは分からないけど、青は『進め』で、黄色は『注意』、赤は『止まれ』かな?」
七夏「はい☆」
時崎「青と黄色が一緒の場合は・・・」
七夏「えっと、確か『減速』だったと思います」
時崎「げんそく?」
七夏「速度を落とす意味だったかな? お父さんに聞いてみれば分かるかもです☆」
時崎「あはは・・・」
七夏「どしたの?」
時崎「俺が直弥さんに訊くと、訊いた事以上に答えてくれそうだなと思ってね」
七夏「くすっ☆」

しばらく、七夏ちゃんと一緒に列車を運転させ、一通りの信号機の動作確認を行った。

時崎「問題ないみたいだね」
七夏「はい☆ ありがとうございます☆ お父さんも喜んでくれると思います☆」

俺は、直弥さんだけでなく、七夏ちゃんにも喜んでもらいたい。

時崎「七夏ちゃん! これ!」

俺は、机にあった直弥さんからの手紙を七夏ちゃんに手渡す。

七夏「ありがとうです☆ わぁ☆ 図書券です! こんなに沢山!」
時崎「良かったね、七夏ちゃん!」
七夏「はい☆ えっと、柚樹さんと半分ずつです☆」
時崎「全部、七夏ちゃんが貰うといいよ!」
七夏「え!? でも・・・」

普通に話すと、七夏ちゃんは遠慮してくるのは既に知っている。七夏ちゃんが喜んで全部受け取ってくれる話し方・・・それは、俺が望んでいる事であればいいはずだ。

時崎「いつも色々とお世話になっているから、俺からの『お願い』聞いてくれるかな?」
七夏「・・・はい☆ ありがとうです☆」

七夏ちゃんは、俺の事を良く知ってくれている。俺も七夏ちゃんよりはゆっくりだけど、少しずつ七夏ちゃんの心が分かってきている事を実感している。

ひとつひとつの小さな出来事の積み重ねが日常へと育つ。七夏ちゃんの「ふたつの虹」を今日は全く意識していない・・・これこそが---

七夏「柚樹さん☆」
時崎「え!?」

七夏ちゃんは、列車を駅に停車させて、こちらを見つめている・・・これは、俺にも分かる!

時崎「じゃ、一枚撮るよ!」
七夏「はい☆」

俺は、今日まったく意識していなかった「ふたつの虹」・・・いや、「日常の虹」を撮影する事が出来た。大切なのは、この「ふたつの虹」がどんな色なのかという事ではなく、七夏ちゃんが幸せに満たされていれば、どんな色でもいいのだと思うのだった。

第三十一幕 完

----------

次回予告

虹は珍しい自然現象のひとつである。「ふたつの虹」を持つ少女は、もっと珍しいと思うのだが・・・

次回、翠碧色の虹、第三十二幕

「不思議ふしぎの虹」

いや、珍しいかどうかは、その少女がその事を望んでいるかどうかだ。

幕間二十六:お好みの楽しみ方♪

幕間二十六:お好みの楽しみ方♪

笹夜「こんにちは♪」
七夏「笹夜先輩☆ いらっしゃいです☆」
笹夜「あら? 心桜さんは?」
七夏「今日は部活みたいです☆ もうすぐ来てくれると思います☆」
笹夜「なるほど♪」
七夏「えっと、笹夜先輩☆」
笹夜「なにかしら?」
七夏「私、お母さんのお手伝いが少し残ってますので、少し待っててもらってもいいですか?」
笹夜「ええ♪」
七夏「ありがとうです☆ 一度、失礼いたします☆」
笹夜「はい♪」

 ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆

七夏「笹夜先輩☆」
笹夜「え!? 七夏ちゃん? もう用事は済んだのかしら?」
七夏「えっと、まだですけど、冷茶どうぞです☆」
笹夜「まあ♪ ありがとう♪」
七夏「少し、お待ちくださいませ☆」
笹夜「はい♪」

 ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆

心桜「こんちわー!」
笹夜「こんにちは♪ 心桜さん♪」
心桜「おっ! 笹夜先輩が既にいらっしゃる・・・って、お一人ですか? つっちゃーは?」
笹夜「七夏ちゃんは、お手伝いで、私は小説を読んでました♪」
心桜「なるほどねー流石っ!」
笹夜「え!? 何が流石なのかしら?」
心桜「答える順番! あたしは笹夜先輩、つっちゃーの順に訊いたけど、笹夜先輩はつっちゃーの事を話してから、笹夜先輩ご本人の事を・・・と思ってね!」
笹夜「特に意識したわけでは無いのですけど・・・」
心桜「無意識に出来ている事の方が大切なんですって! あれ? 前にも話したかな?」
笹夜「お話したような気はしますけど、はっきりとした事までは・・・」
心桜「まあいいや。んで、笹夜先輩とつっちゃーが、一緒に小説を読み始めると、あたしは自動的に漫画を読む事になるからなぁ~。ま、それもいいんだけどね!」
笹夜「すみません。小説は一人の時は良いのですけど、みんなと一緒の時は、控える方がよいかも知れませんね」
心桜「小説に限らず、一人で遊ぶ系の娯楽全般に言える事だけどね!」
笹夜「ええ♪」
心桜「あたしは、みんなで遊ぶ系も好きだけど、つっちゃーは一人で遊ぶ方がいいのかなーって思う事もあるよ」
笹夜「なんとなく分かりますけど、心桜さんと一緒の時の七夏ちゃんは、とても楽しそうです♪」
心桜「あはは! スルドイ笹夜先輩のお墨付きが貰えたよ!」
笹夜「一人で過ごす時間も、みんなと過ごす時間もどちらも大切だと思います♪ その比率が人によって違うという事かしら?」
心桜「比率か・・・10:0とかにはならないって事だね!」
笹夜「ええ♪ 本当に一人だけで生きてゆかれない限りは、そうですね♪」
心桜「それって仙人!」
笹夜「え!?」
心桜「職業は専任の仙人です!」
笹夜「なんでしょうか?」
心桜「人生を楽しんでいそうだなーって」
笹夜「そうかしら?」
心桜「さあ・・・。あーなんかもう、グダグタしてて、このままだと内容に厚みが無いっ!」
笹夜「えっと、では、何かテーマを決めてみるのはどうかしら?」
心桜「そうそう! そういうの! んで、テーマは『お好みの楽しみ方♪』っていう事らしいよ!」
笹夜「お好みの楽しみ方・・・」
心桜「お好み焼きの楽しみ方・・・みたいな響きですね!」
笹夜「確かに♪」
心桜「お好み焼きが嫌いな人って居るのかな?」
笹夜「え!?」
心桜「お好まれない焼き!」
笹夜「まあ! でも、ご自身でお好みの状態に焼くから、お好みになるような気がしますけど」
心桜「果たして、本当にそうでしょうか?」
笹夜「え!?」
心桜「自分でお好みの状態に焼いたつもりが、ひっくり返してみると真っ黒に焦げててさ・・・もう、あたしのお好みじゃない焼きになっちゃってた・・・とかあるよねっ!」
笹夜「あるよねって、言われましても、お返事に困ります」
心桜「凪咲さんや、つっちゃーが作ってくれるお好み焼きは、本当にお好みなんだけど、なんか自分で焼くと、お好みにならなくて・・・なんでだろ?」
笹夜「七夏ちゃんに訊いてみてはいかがかしら?」
心桜「そうなんだけどさ、なんとか自力でなんとかしたいと思ってたら、今日までこのままの状態になってた」
笹夜「『なんとか』がひとつ多いかしら?」
心桜「そこ・・・ですか? この込み上げて来る気持ちが『なんとかなんとか』として現れてしまったんですよ!」
笹夜「まあ、分からなくはないですけど♪」
心桜「ドラマとかでもさ、感情高らかにあんな早口を、よく間違えずにスラスラと喋れるなーって思ってさ。見てるあたしは冷めた」
笹夜「心桜さん・・・」
心桜「だってさ! 言葉に詰まるって事がないのか!? って思いませんか?」
笹夜「既に予約されている台詞ですから♪ 言い間違いはNGでカットされますので」
心桜「笹夜先輩、わりと冷静ですよね・・・あたしが言いたいのは、そういう感情が高ぶって言葉に詰まる状態の方がリアルだと言うこと!」
笹夜「原則は、脚本の指示に従わなくてはなりませんので・・・でも、心桜さんの話されておられる事は、私も分かります♪」
心桜「ご理解くださり、ありがとうございます! ・・・って、お好み焼きから離れちゃった」
笹夜「テーマは、お好みの楽しみ方・・・ですけど」
心桜「あ、そだね!」
七夏「笹夜先輩☆ お待たせです☆ あ、ここちゃー、いらっしゃいです☆」
心桜「こんちわー! つっちゃー! ・・・って、顔見せたと思ったら、すぐ消えちゃったよ」
笹夜「七夏ちゃん、お忙しいのかしら?」
心桜「まあ、つっちゃーも忙しい時は、バタバタしてるよ」
笹夜「今日は何かあるのかしら?」
心桜「さあ? 特に何も聞いてないけど」
七夏「お待たせしました☆」
心桜「おっ! つっちゃー! それは『かき氷』!!!」
七夏「はい☆ みんなでどうぞです☆」
笹夜「ありがとう♪ 七夏ちゃん♪」
心桜「つっちゃーありがとー!」
七夏「くすっ☆ 蜜はどれにしますか?」
心桜「・・・って、既に、笹夜先輩の前にはメロン、あたしの前にはイチゴ、つっちゃーの前には・・・その水色の蜜は何?」
七夏「えっと、ラムネ味です☆ 他には『みぞれ』と『れもん』があります☆」
心桜「流石! 一通り揃えてあるねー そして、あたしたちのお好みもしっかりと押さえてきてる!」
笹夜「七夏ちゃんは『みぞれ』かと思ってました♪」
七夏「はい☆ 『みぞれ』も美味しいです☆」
心桜「だけど、みぞれって、どんだけ氷にかけたか分かりにくくて、ついかけ過ぎちゃって、激甘状態になるからなー」
七夏「ここちゃー、おさじで量れば大丈夫です☆」
心桜「わざわざその為に計量スプーン使うなんて面倒だよ」
七夏「えっと、頂く時に使うおさじ・・・これなら3杯くらいかな?」
心桜「おお! なるほど! このスプーンをそのまま使うのか!」
笹夜「七夏ちゃんのそういう所、私も見習いたいです♪」
七夏「蜜はこれでいいですか?」
笹夜「はい♪ メロンの蜜は好みです♪」
心桜「んじゃあたしは、お好みっくすで、イチゴとラムネを合わせてみるっ!」
七夏「え!? 大丈夫かな?」
心桜「大丈夫! よーーーっと!」
七夏「あっ! これは!」
心桜「おおっ! 紫色!」
笹夜「まあ♪」
七夏「ブルーベリーみたいですっ☆」
心桜「そだね! つっちゃーも、お好みっくする?」
七夏「はっ、はいっ☆」
心桜「んじゃ! よーーーっと! 笹夜先輩は?」
笹夜「私は、メロン味で大丈夫です♪」
心桜「了解! んではっ!」
心桜&七夏&笹夜「いただきまーす!☆♪」
心桜&七夏「っ!!!」
笹夜「~♪ 美味しい♪ 心桜さん? 七夏ちゃん?」
七夏「うぅ・・・ブルーベリーの味がしません・・・」
心桜「甘~い上に、キーンときた!」
笹夜「あらあら、二人とも大丈夫かしら?」
心桜「・・・・・」
笹夜「心桜さん!?」
心桜「・・・つい、話してしまった・・・」
笹夜「氷菓を頂いて『キーン』かしら?」
心桜「うぅ・・・言わないでおくれぇ~・・・」
七夏「これ、どうしよう・・・」
心桜「つっちゃーごめん! よく考えたら、あたしのを味見すれば良かったんだよね?」
七夏「私は大丈夫です♪ 味は少し甘いですけど、色は綺麗で見て楽しめます♪」
心桜「つっちゃーは、ブルーベリーに目がないからね!」
七夏「はい☆」
心桜「これからも『お好みの楽しみ方』を見つけてみよう!」
笹夜「ええ♪」
心桜「場合によっては『お好みではなくなる』かも知れないけどさ」
七夏「くすっ☆ 頑張って楽しく頂きます☆」
心桜「って事で、つっちゃーが楽しく頑張る『翠碧色の虹』本編はこちら!」
心桜「http://nanatsuiro.my.coocan.jp/nnt_frma_a.htm」
心桜「そして、あたしと笹夜先輩も頑張る『ココナッツ』宛てのお便りはこちら!」
心桜「http://nanatsuiro.my.coocan.jp/nnt_suiheki_novel.htm#QUESTIONNAIRE」
七夏「うぅ・・・やっぱり、甘いです」
心桜「あはは・・・あたしも頑張る!」
笹夜「わ、私も頑張ります♪」

幕間二十六 完

------------

幕間二十六 をお読みくださり、ありがとうございました!
本編の方も鋭意制作中ですので、どうぞよろしくお願い申しあげます!

随筆二十八:神経質過ぎやしませんか?

随筆二十八:神経質過ぎやしませんか?

心桜「こんちわー! つっちゃー居る?」
七夏「はーい☆ ここちゃー、いらっしゃいです☆」
心桜「ん? なんか今日は妙にご機嫌だねー」
七夏「くすっ☆ これです☆」
心桜「おー! お手紙か!」
七夏「はい☆」
心桜「早速、読んでみる?」
七夏「えっと、もうすぐ笹夜先輩もいらっしゃるので☆」
笹夜「ごめんください♪」
心桜「うわさをすれば! こんちわー! 笹夜先輩!」
七夏「笹夜先輩☆ いらっしゃいです☆」
笹夜「こんにちわ♪ 心桜さん、七夏ちゃん♪」
七夏「今日は、お便りが届いてます☆」
笹夜「まあ♪」
七夏「早速、読んでみますね☆」
心桜「んー・・・」
七夏「? どしたの? ここちゃー?」
心桜「なんかさ、お手紙を読む前から、内容が何となく見えたような気がしてさ」
七夏「え?」
笹夜「それは、どういう事かしら?」
心桜「いや、なんでもないっ! つっちゃーお願いっ!」
七夏「はい☆ えっと、ペンネーム、サクラサク小判さん☆」
心桜「桜咲く小判?」
七夏「小判以外は全部片仮名です☆」
笹夜「そのような昔話があったような気がします♪」
心桜「ホレ惚れワンワン?」
笹夜「そんなタイトルだったかしら?」
七夏「ここちゃ」
心桜「ここ惚れワンワンか!?」
笹夜「『惚れ』が違うような気がしますけど」
心桜「なんで違うって分かるんですか!?」
笹夜「なんとなくです♪ まあ、それよりも七夏ちゃん、続きをお願いします♪」
七夏「はい☆ えっと、『ココナッツさん、こんにちは。私には息子がいますけど、ちょっと神経質な所があって、困ってます。例えば家に帰ってきて手を洗うのは良いのですけど、かなり長い時間手を洗っていて、泡石鹸のボトルもすぐに空っぽになってしまいます。ドアノブもちり紙を使ったりしますし、本人に聞くとエスカレーターや電車の吊革を持つのも嫌みたいで・・・どうすれば改善されると思いますか?』・・・です。どうすればいいのかな?」
心桜「んー神経質と言うよりも潔癖症ってやつかなぁ・・・何がきっかけだったんだろうね?」
笹夜「手を触れる事ができない・・・お気持ちは分かります」
心桜「え!? あ! でも、笹夜先輩の場合は、また違う訳ですから!」
笹夜「すみません」
七夏「笹夜先輩☆」
笹夜「なっ七夏ちゃん!?」
心桜「お! んじゃ! あたしも!」
笹夜「こ、心桜さんまで・・・。ありがとう、こうして二人に手を添えてもらうと、とっても心地良いです♪」
七夏「くすっ☆」
心桜「あっ! もしかすると!」
七夏「え!?」
心桜「これ! 今、みんなで手を繋いでるよね?」
笹夜「はい♪」
心桜「こういう事で、克服できるかもしれないよね?」
七夏「! なるほど☆」
笹夜「確かに♪ でも、その為には、潔癖症のお方が好意を寄せるお方の存在が必要になります」
心桜「っそ! つまり、潔癖症克服の為には『恋』をする必要があるって事だね!」
七夏「恋・・・・・」
心桜「恋よ来いっ! こいこいっ!」
笹夜「心桜さん、その手つきは!?」
心桜「花札・・・こいこいしませんか?」
七夏「ここちゃー! もう・・・」
心桜「あ、つっちゃーが牛になった!」
七夏「もう! そうではなくて!」
心桜「妄想までする牛だったか!」
笹夜「心桜さんっ!」
心桜「わわっ! スミマセン!」
七夏「まあ、いいですけど。ここちゃー、恋で潔癖症が治るの?」
心桜「たぶん」
笹夜「どういうことかしら?」
心桜「恋をすると、その人と、こうして手を繋ぎたくなるよね?」
七夏「はい☆」
心桜「それってさ。他人と手を繋いでいるって事だよね?」
笹夜「ええ♪」
心桜「もう、その時点で、ほぼ潔癖症克服にならない?」
七夏「でも、苦手な人の手までは・・・」
心桜「それは、潔癖症に関係なくじゃない?」
笹夜「なるほど♪ 心桜さんが思うのは、無差別に拒否をしていた事に対しては、克服できているという事かしら?」
心桜「そうそう! まさにそれです!」
笹夜「思い人に優しく手を差し伸べられると、惹き寄せられますよね♪」
七夏「はい☆」
心桜「少しずつ・・・例えば好きな人の使っている物を貸してもらって、慣れてゆくといいんじゃないかな?」
笹夜「使っている物?」
心桜「っそ! 例えば、鉛筆とか傘とか」
七夏「なるほど☆」
心桜「いやー、潔癖症だと、ゲームのコントローラーを一緒に使えないから困るよね?」
笹夜「真っ先に困るのが、ゲームのコントローラーなのかしら?」
心桜「マイコンが必要になるから、高くつくよね!」
七夏「まいこん? 冷蔵庫?」
心桜「なんで、冷蔵庫が出てくるの? マイ・コントローラー! 私専用コントローラー!」
七夏「えっと、冷蔵庫の説明書に『まいこん』が入っているから、温度調整が自動で・・・みたいな事が載ってました☆」
心桜「あ・・・そのマイコンね・・・意外なのが舞い込んできたよ!」
笹夜「七夏ちゃんのは『マイクロ・コンピューター』の事かしら?」
心桜「そだねっ!」
七夏「まいくろこんぴゅーたー・・・はい☆」
心桜「・・・って、事で、ココナッツ的、結論は---」

七夏「恋を見つけましょう☆」
心桜「恋々で勝負だ!」
笹夜「恋をすることかしら?」

心桜「あー、もう分かってたけどさ。こうなるの」
七夏「ごめんなさい」
笹夜「さすがにリハーサル無しでは、難しいと思います」
心桜「でもさ、言いたい事は共通してるから!」
七夏「はい☆」
笹夜「ええ♪」
心桜「んじゃ、これからも恋するつっちゃーが頑張る『翠碧色の虹』本編はこちら!」
心桜「http://nanatsuiro.my.coocan.jp/nnt_frma_a.htm」
七夏「こ、恋・・・・・」
心桜「あたしたち『ココナッツ』宛ての、お手紙はこちら!」
心桜「http://nanatsuiro.my.coocan.jp/nnt_suiheki_novel.htm#QUESTIONNAIRE」
笹夜「七夏ちゃん♪ 頑張って♪」
七夏「は、はい☆」
心桜「んー・・・」
七夏「? どしたの? ここちゃー?」
心桜「よくよく考えたら、本当に潔癖症かどうか分かる方法があるよね?」
七夏「え!?」
笹夜「その方法は!?」
心桜「今回は、CM無しで進めるけど、潔癖症の人に『お金をあげる』と話して、お札を差し出した時に、受け取るのを躊躇ったら本物の潔癖症だと認めるよ」
笹夜「なるほど♪ 確かに、お札は色々な人の手に渡りますからね♪」
七夏「ここちゃー、凄いです!」
心桜「題して『おさつ、どきっ』!!!」
笹夜「まあ♪」
心桜「なんか、食べたくなってくるね!」
七夏「くすっ☆ あ、私、お飲み物を持ってまいりますね☆」
心桜「ありがと、つっちゃー!」
笹夜「七夏ちゃん♪ ありがとう♪」
七夏「あ、その前に大切な事☆」
心桜「大切な事?」
笹夜「心桜さん♪」
七夏「はい☆ えっと、おたより---」
七夏&心桜&笹夜「ありがとうございました☆!♪」

随筆二十八 完

------------

随筆二十八をお読みくださり、ありがとうございました!
本編の方も鋭意制作中ですので、どうぞよろしくお願い申しあげます!

第三十二幕:不思議ふしぎの虹

第三十二幕:不思議ふしぎの虹

??「あの、勝手に撮らないでもらえませんか?」
時崎「え!?」
??「写真・・・」
時崎「あ、すみません。そんなつもりではなかったのですけど」

ピピッ!

時崎「ん・・・夢・・・か・・・」

夢を見ていたという事は眠りが浅く、起きる準備が整っているという事・・・ちょっとした時計の音で目覚めるが、すっきりしない。

時崎「また、あの夢か・・・」

夢の中に登場した人物が、七夏ちゃんのように思えたけど、これはそうではないと信じたい。夢よりも、起きている時の意識と、七夏ちゃんからの言葉の方が真実だと思うから。しかし、人物を撮るという事に、神経を使わなければならないのも確かだ。俺は気持ちを切り替えて、1階へと降りる。

凪咲「あら? 柚樹君、おはようございます!」
時崎「凪咲さん、おはようございます!」
七夏「柚樹さん☆ おはようございます☆」
時崎「七夏ちゃん! おはようございます!」
七夏「くすっ☆」
時崎「ん?」
七夏「えっと、今から柚樹さんのお部屋にと思ってました☆」
時崎「そ、そう・・・いつもありがとう」
七夏「はい☆」
凪咲「今朝、ナオが、ありがとうって話してたわ」
時崎「え!? 直弥さんがですか?」
凪咲「信号機のことのお礼って」
時崎「あ、いえいえ。直弥さんは?」
七夏「えっと、お仕事にお出掛けしました」
時崎「そう・・・昨日、信号機の事を伝えようと思ってたのだけど、夜遅かったみたいだから」
凪咲「ごめんなさいね。会社の人と一緒に夕食を頂いていたみたいですから」
時崎「そういう日もありますよね」
凪咲「連絡してくれれば、助かるのですけど」
七夏「くすっ☆ 柚樹さん、朝食どうぞです☆」
時崎「ありがとう! 七夏ちゃんも一緒に!」
七夏「はい☆」

七夏ちゃんと一緒に朝食を頂く。

七夏「柚樹さん、今日のお昼はここで頂きますか?」
時崎「え!? ああ、ありがとう。是非! でも、どおして?」
七夏「えっと、柚樹さんお出掛けするのかなと思って」
時崎「七夏ちゃん、お出掛けするなら、合わせるよ」
七夏「ありがとうです☆ 私は午後からお買い物に出かけようかなって思ってます☆」
時崎「俺も、直弥さんからの頼まれ毎があるから、電気店へ出かけるつもりだけど、七夏ちゃんは、何を買うの?」
七夏「えっと、小説です☆」
時崎「なるほど、昨日、図書券を貰えたからね!」
七夏「はい♪ ありがとうです♪」
時崎「じゃ、午前中は宿題だよね? 用事が済んだら、声をかけて」
七夏「はい☆」
凪咲「七夏、午後からお出掛けかしら?」
七夏「あ、お買い物あったら、一緒に買ってきます☆」
凪咲「ありがとう、メモを用意しておくわ」
七夏「はい☆」

七夏ちゃんのお買い物に付き合う事を、主とした方が良さそうだ。七夏ちゃんが小説を選んでいる間に、俺は電気屋さんで無線ネットワークの機器を買えばいいかな?

朝食を済ませ、七夏ちゃんと一緒にお片づけを行う。七夏ちゃんや凪咲さんと一緒だと、自分の家では億劫だった事も、不思議と楽しく思える。凪咲さんや七夏ちゃんはとても手際が良く、二人とも楽しそうだという事に気付いた。俺とは根本的に考え方が違ったようだ。

一通りお片づけが終わり、七夏ちゃんは自分のお部屋で宿題、俺も自分の部屋でアルバム制作・・・これが、ここ最近の日常となってきている。七夏ちゃんには内緒のアルバム作りも少しずつ進めている。俺が思っている事が上手く実現できると良いのだが・・・いや、上手く作って七夏ちゃんに驚いて、喜んで貰わなければ意味がない。

しばらく、七夏ちゃんへの内緒のアルバム作りに集中していると---

七夏「柚樹さんっ!! 柚樹さん!!」
時崎「んなっ! 七夏ちゃん!?」

突然部屋に入ってきた七夏ちゃん。俺は慌てて作業中だった七夏ちゃんへのアルバムを隠す!

七夏「あ、ごめんなさいっ!」
時崎「い、いや! 驚いたけど・・・ど、どうしたの!?」
七夏「えっと、これ! 見てください!」

七夏ちゃんが、料理用のボールを見せてくれた。中には卵がふたつ・・・玉子焼きを作ろうとしているのかな? これが、どうかしたのだろうか?

時崎「これは・・・玉子!?」
七夏「はい☆ 双子さんです☆」
時崎「え!? 双子!?」

七夏ちゃんが、わざわざ見せてくれた理由が分かった。双子の卵・・・ひとつの卵の中に黄身がふたつ入っていた・・・という事らしい。

七夏「はい♪ 私、双子の卵さんと初めて出逢えました☆」
時崎「確かに、珍しいね! 俺も話しに聞いた事があるくらいで、実際に本物を見たのは初めてかも知れない」
七夏「くすっ☆」

七夏ちゃんは、とてもご機嫌よさそうだ。わざわざ双子の卵を見せる為に声を掛けてくれた事が嬉しい。

時崎「でも、どうして俺に?」
七夏「えっと、柚樹さん、珍しい現象とか、興味あるのかなーって思って♪」

七夏ちゃんからそう言われて、背筋に電気が走る。俺が七夏ちゃんに関心を持ったのは、不思議な瞳を持つ少女だったから・・・。それは、間違いではないから、今こうして七夏ちゃんとお話し出来ているのだ。けど、それだけじゃない。仮に七夏ちゃんが他の人と同じ瞳だったとしても---

七夏「ゆ、柚樹さん!?」
時崎「え!? ああ、ごめん」
七夏「どうしたの?」

しばらく考え込んでしまった為、七夏ちゃんが心配そうに見つめてくる。

時崎「いや、なんでもないよ。双子かぁ・・・」
七夏「私、一人っ子ですから、兄弟居ると楽しくなるなーって♪」
時崎「七夏ちゃんは、お姉さんだと、しっかり者で、妹さんだと、甘えん坊さんになるのかな?」
七夏「くすっ☆」

今の七夏ちゃんは、しっかり者と少し甘えん坊さんの二面性を持っていると思う。七夏ちゃんに兄弟が居たとすると、その兄弟さんの瞳の色は七夏ちゃんと同じになるのかとか、お互いに瞳を見ると、どのように見えるのかとか、そういった事を考えてしまうので、七夏ちゃんは、一人っ子で良かったのかも知れない。そして、その事が七夏ちゃんの心を「のんびりさん」にしているのかも知れないな。

凪咲「七夏!」

1階から凪咲さんの声が聞こえてくる。

七夏「はーい☆ それじゃ、柚樹さん! また後で☆」
時崎「ああ! お料理、楽しみにしてるよ!」
七夏「はい☆ 失礼します☆」

七夏ちゃんはボールを抱えて1階へ降りてゆく。突然の事で驚いた。いつもは扉を叩いてくれるんだけど、余程慌てていたのか、嬉しかったのかな。七夏ちゃんへのアルバムが、今見つかってしまわないように気を付けなければならないな。再びアルバム作りの続きを行う。

 ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆

お昼も七夏ちゃんと一緒に頂いた。おむすびと、玉子焼き・・・ではなく目玉焼きがあった。

時崎「あれ? これってさっきの双子の卵かな?」
七夏「はい☆」

見たところ、その目玉焼きの黄身はひとつしかなかった。なるほどそういう事か!

時崎「ありがとう! 七夏ちゃんと一緒に半分ずつになったんだね」
七夏「くすっ☆」

この不思議な玉子を七夏ちゃんと一緒に頂けるのは、この先、そうそう無いだろう。俺はゆっくりと味わって頂いた。

時崎「七夏ちゃん、この後、お買い物だよね?」
七夏「はい☆ お食事の後、急いで準備いたします」
時崎「そんなに慌てなくていいから。食事の後片付けは、俺に任せて!」
七夏「え? いいの?」
時崎「もちろん! 七夏ちゃんを待ってる間に、俺がお片づけを行えば効率的だからね!」
七夏「ありがとうです☆」

些細なことでも、少しずつ七夏ちゃんの助けになれるようになりたいと思う。
食事を終えて七夏ちゃんが出かける準備を行っている間に、お片づけを行う。凪咲さんから、少量の洗剤で効率よく片付ける方法を教わる。比較的汚れの少ない食器から洗ってゆくらしい・・・俺が思っていた事とは逆だ。他に見よう見まねで行っても、なかなか同じようには出来ないなと実感する。

凪咲「柚樹君、ありがとう」
時崎「いえ。色々とすみません」
凪咲「いいのよ。少しずつで。柚樹君は出かける準備、大丈夫かしら?」
時崎「はい。いつでも出かけられますので。部屋に戻って、荷物を取ってきます」
凪咲「ええ」

居間で、七夏ちゃんを待つ。浴衣姿の七夏ちゃんは、やはり出かける準備に時間が掛かってしまうのだろうけど、時間をかけてくれるという事も嬉しく思う。

 ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆

七夏「柚樹さん、ごめんなさいっ! 遅くなっちゃって!」
時崎「いや、おっ! 可愛い!」
七夏「あっ、えっと・・・」

しまった! つい、「可愛い」と話してしまった。あまり軽率に可愛いと言うと言葉が軽くなってしまうから、気をつけようと思ってたのに・・・。

時崎「あ、ごめん」
七夏「いえ・・・その・・・ありがとうです」
時崎「あ、ああ」

なんか歯切れが悪くなってしまった。

凪咲「七夏! これ、お買い物のメモ。お願いね!」
七夏「あ、はい☆」
凪咲「柚樹君、七夏の事、よろしくお願いします」
時崎「はい! こちらこそ! 七夏ちゃん!」
七夏「くすっ☆ はい☆」

七夏ちゃんと一緒に駅前まで歩く。以前よりお互いに程よい距離感が分かりあえてきているのか、自然に思える。何か話題を考えなければ・・・という焦りがあった事が懐かしく思える。会話がなくても心地よい。

時崎「凪咲さんのお買い物は先に済ませる?」
七夏「え!? えっと、重たい物がありますので、帰る前がいいかなって」
時崎「重たい物・・・お醤油が3本とか?」
七夏「くすっ☆ お醤油もありますけど、今日はひとつです☆」
時崎「そ。そう」
七夏「懐かしいなぁ♪」
時崎「え!?」
七夏「初めて柚樹さんと一緒にお買い物に出かけた事☆」

七夏ちゃんも「懐かしい」と思ってくれている。ついこの前の事のようにも思えるので、不思議な感覚だ。

時崎「お醤油以外にも沢山あるの?」
七夏「えっと、重たいのは、お醤油と、洗剤、後はシャンプーとリンスです♪」
時崎「なるほど、それ全部任せて!」
七夏「くすっ☆ ありがとです☆」

俺は思った。今の七夏ちゃんの「ありがとう」は、素直に言葉として帰ってきている。でも、「可愛い」と話した時の反応は、あまり良くない。本当に、気を付けなければならないな。

時崎「七夏ちゃんのお買い物は、小説・・・かな?」
七夏「はい☆」
時崎「じゃ、それから見にゆこう!」
七夏「えっと、柚樹さんのお買い物は?」
時崎「電気店。直弥さんからの頼まれ事だけど、その前に俺も本屋さんで面白そうな本がないか探してみるよ」
七夏「はい☆」

駅前の商店街まで来ると、以前よりも人が多い気がした。

七夏「今日は人が多いです☆」
時崎「そうだね。何かあるのかな?」
七夏「えっと、明日は花火大会がありますけど、今日は何かあるのかな? あ、ごめんなさい」
時崎「え!?」
七夏「私、柚樹さんに訊かれてました☆」
時崎「いや、こっちこそ」

商店街を見回すと、明日の準備で屋台が並び始めていた。幼い頃、この準備風景を見ると心が躍った記憶が後から追いついて来た。

七夏「~♪」
時崎「どうしたの? 七夏ちゃん!?」
七夏「明日、楽しみです☆」
時崎「花火大会か・・・俺も夜店とか久々だから楽しみだよ」
七夏「はい☆ でも、お小遣いを沢山使ってしまいそうで気をつけないと」
時崎「それは、よく分かるよ」
七夏「くすっ☆」

七夏ちゃんとお話をしながら、書店の前に着いた。

時崎「それじゃ、俺はこっちの写真関係の所に居るから!」
七夏「はい☆ 私は小説の所に居ますので☆」
時崎「ああ」

七夏ちゃんは、軽い足取りで小説コーナーへと移動する。俺も、写真関連の雑誌の所まで来て、並んでいる雑誌を眺める。

時崎「これは・・・」

「撮り鉄!」と記された鉄道関係の雑誌が目に留まった。直弥さんは、こういう雑誌も好きなのかな? 昨日、七夏ちゃんと鉄道模型の信号機をレイアウトした時に、鉄道模型関係の雑誌が置いてあった。そのような模型の雑誌も置いてあるのだろうか? さらに、雑誌関係を眺めていると「Nスケール」という鉄道模型の雑誌があった。それを、眺めてみると様々な列車の模型写真が載っており、近くも遠くも綺麗に撮影されている写真がいくつかあった。どのようにすれば、このような写真が撮れるのだろうか? 七夏ちゃんの家で鉄道模型を撮影するまでは「背景はぼやけている方が良い」と思っていたが、長い列車の模型の撮影では列車の先頭に焦点を合わせると後ろの方はぼやけてしまう。編成全体をぼやける事無く綺麗に撮影する方法は無いのかな? 鉄道模型を撮影した時に苦労した「背景がぼやけてしまう現象」に対する対処方法は載っていないか探してみるが、そのような情報は載っていないようだ。撮影テクニックは写真専門雑誌になるのかも知れない。

時崎「フォトテク・・・か」

「フォトテク」は、写真に関する雑誌なんだけど、どっちかっていうと人物の撮影に特化している傾向なので、人物の撮影を避けていた俺にとっては、あまり縁の無い雑誌だった。けど、何か情報が得られるかも知れないと思って眺めてみる。まあ、当然と言えばそうなるのかも知れないけど、内容は、グラビアモデルさんの写真が沢山載っていた。「デジタル一眼レフで女の子を魅力的に撮ってみよう!」というコピーが記されているくらいだから、そういう方向だ。確かに綺麗に女の子のモデルさんが撮影されている。ただ、やはり女の子の背景はぼやけている写真が多く、これは女の子の魅力を引き出す効果がある事は分かる・・・だけど、俺が今知りたい情報とは真逆だ。

時崎「お! これは!」

ひまわり畑の中で撮影された白いワンピース姿の女の子の写真・・・女の子も背景のひまわりや山と空までぼやける事無く撮影できている。このモデルさんと、七夏ちゃんが重なって見え、俺はその写真をしばらく眺めていると---

七夏「柚樹さん!」
時崎「えっ!? あ、七夏ちゃん!」
七夏「えっと・・・お待たせです」
時崎「あ、ああ。小説は買ったの?」
七夏「はい☆」
時崎「よし、じゃあ、電気店に寄ろうと思うんだけど、七夏ちゃんはどうする?」
七夏「一緒に見にゆきます☆」
時崎「了解! 何か買うものある?」
七夏「乾電池です☆」
時崎「なるほど! それじゃ!」
七夏「柚樹さん、もういいの?」
時崎「え!?」
七夏「えっと、本・・・読んでたみたいだから・・・」
時崎「ああ、眺めてただけだから」
七夏「眺めてた・・・」
時崎「? どうしたの?」
七夏「いえ、なんでも・・・ないです」

七夏ちゃんと電気店へ移動する。やはり人が多いな・・・七夏ちゃんとはぐれてしまわないように気を付けなければ。周りに気をつけながら歩いていると、一人の女の人が目に留まった。白いワンピース姿の女の人・・・さっき、写真雑誌「フォトテク」で見た女の人とイメージがよく似ている。とても清楚で綺麗だと思い、自然と視線で追いかけてしまっていた。

七夏「柚樹さん?」
時崎「えっ!?」
七夏「えっと・・・な、なんでもないです!」
時崎「七夏ちゃん? どうしたの?」
七夏「・・・・・」
時崎「七夏ちゃん?」
七夏「や、やっぱり、男の人って・・・胸の大きな人がいいのかな?」
時崎「え!? 胸?」
七夏「そ、その・・・柚樹さん、胸の大きな女の人を目で追いかけてました」
時崎「なっ!」
七夏「さっき、本屋さんでも、似たような女の人の写真を見てました・・・」
時崎「うっ!」

今更ながら、七夏ちゃんの人を見る観察力には驚かされる。俺はあまり意識していなかったけど、確かにあの写真のモデルさんも、今見た女の人も、ふくよかな胸の持ち主だったな・・・いや、今、大切な事はそうじゃないっ! 七夏ちゃんがどのような事を考えていて、どのように答えれば喜んでくれるかが大切だ。

七夏「・・・・・」
時崎「さっきの女の人が着ていた服」
七夏「・・・え!?」
時崎「白いワンピース、七夏ちゃんにとってもよく似合いそうだなーと思ってね!」
七夏「あっ・・・」
時崎「ありがとう! 七夏ちゃん!」
七夏「・・・はい☆」

察しの良い七夏ちゃんは、俺の話した「ありがとう」の意味を正しく受け取ってくれるはずだ。だけど、七夏ちゃんも胸の大きさを気にしているんだなと思ったりしながら、これ以上その話題には触れない事にする。俺は、話題を変えた。

時崎「電気店で、直弥さんから頼まれた無線ネットワーク機器を探すけど、ここで売ってなければ、隣町まで見にゆかなければならないかな?」
七夏「そうなの?」
時崎「少し、特殊な機器になるからね。七夏ちゃんは乾電池だったよね?」
七夏「はい☆」

俺は、店員さんに、予め調べておいた無線ネットワーク機器について尋ねてみると、無線ネットワーク化する機器はいくつか置いてあった。今の有線ネットワークを無線化できる物もあったけど、単体でネットワークを構築できる機器の方が値段が安かった。これは、よく売れる製品の方が安くなるという事らしい。その製品も、現在の有線ネットワークに追加して無線ネットワーク化できるとの事なので、もし、今使っている有線ネットワーク機器が故障しても、この無線ネットワーク機器を親機にする事で、ネットワーク全体が使えなくなる期間を極力抑える事ができるようだ。俺は、その親機としても使える無線ネットワーク機器を購入することにした。

時崎「えっと・・・七夏ちゃんは?」

結構長い事、店員さんと話しをしてしまっていた。辺りを見回すと、休憩コーナーの所で七夏ちゃんが座って小説を読んでいる姿を見て、安堵する。

時崎「七夏ちゃん! ごめん!」
七夏「・・・・・」
時崎「七夏ちゃん!?」
七夏「え!? あっ! 柚樹さん☆ 見つかりました?」
時崎「ああ、七夏ちゃんを見つけられて安心したよ」
七夏「私!?」
時崎「ごめんね。放ったらかしにしてしまって」
七夏「いえ・・・その、見つかったって言うのは、柚樹さんのお買い物で・・・」
時崎「え!?」
七夏「くすっ☆ ありがとです☆」

七夏ちゃんから「ありがとう」のお返し・・・これが、何を意味するのかは、俺でも分かるから、少し恥ずかしくなる。

時崎「七夏ちゃんのお買い物、乾電池はあったの?」
七夏「はい☆ でも、沢山の種類があって、せっかくだから柚樹さんに相談しようかなって思って☆」
時崎「え!? 相談?」
七夏「柚樹さん、そういうの詳しそうですから☆」
時崎「そういう事なら、任せてよ!」
七夏「はい☆」

七夏ちゃんと一緒に乾電池の売り場まで来る。「任せて!」と話しておきながら、先に売り場を把握していた七夏ちゃんに付いてゆく形になってしまう・・・しっかりしろ! 俺!

七夏「? どしたの? 柚樹さん?」
時崎「え!?」
七夏「くすっ☆ 乾電池は、ここにあります☆」
時崎「うわ! 沢山置いてあるね!」
七夏「はい☆ ですから、どれがいいのかなって思って」

なるほど。確かに、これだけ多くの種類があると俺も悩んでしまう。七夏ちゃんの話では、単三型と呼ばれるよく見られるタイプの乾電池が必要らしい。

時崎「乾電池は何に使うの?」
七夏「えっと、お部屋の壁掛け時計です☆」
時崎「アナログの時計だよね?」
七夏「あなろぐ?」
時崎「数字ではなく、針で時刻を指す時計の事」
七夏「はい☆」
時崎「だったら、この『マンガン乾電池』を使うといいよ!」
七夏「そうなの?」
時崎「大きく分けて乾電池には、アルカリとマンガンがあって、針が動く時計にはマンガンが適しているんだよ」
七夏「あ、アルカリ乾電池は、よくお世話になってます☆ アルカリ乾電池の方が長持ちするって聞いてます☆」
時崎「確かに、アルカリの方が長持ちするけど、アルカリ乾電池を針が動く時計に使っても、マンガン乾電池とそれほど差が無いんだよ」
七夏「そうなんだ・・・懐中電灯にはどっちがいいのかな?」
時崎「懐中電灯にはアルカリだね!」
七夏「えっと、判断の方法が分からないです」
時崎「基本的にマンガンは針で動く時計や、リモコン専門と考えておけばいいよ。それ以外はアルカリで大丈夫」
七夏「りもこん・・・テレビの番組を変える時のかな?」
時崎「そう! それそれ!」
七夏「くすっ☆ なるほど☆」
時崎「まあ、分からなかったら、いつでも訊いてもらっていいから!」
七夏「はい☆ 頼りにしてます☆」
時崎「時計と懐中電灯なら、マンガンとアルカリをそれぞれ買えば良いのだけど、それだったらアルカリ4本セットで良いと思う」
七夏「え!? 時計にはマンガン乾電池じゃなくてもいいの?」
時崎「アルカリでも時計には使えるからね。今、必要な本数と、お値段を考えると、アルカリ4本セットがいいと思う」
七夏「アルカリとマンガンの両方を買っておいても良い気がしますけど」
時崎「そうだけど、乾電池は使わなくても自然放電されてゆくから、必要な時に買うのがよいと思う」
七夏「自然放電?」
時崎「電池を見ると、推奨使用期限が記されているよ」
七夏「本当です! これって、食材の消費期限みたいな事かな?」
時崎「まあ、そうなるね。だから乾電池はあまり買い貯めしない方がいいと思うよ」
七夏「なるほど☆ よく分かりました☆」
時崎「それに、七夏ちゃん、明日の為に、お小遣いを少しでも節約しないとね!」
七夏「くすっ☆ そうでした☆ それじゃ、私、これを買ってきます☆」
時崎「ああ!」

電気店で俺と七夏ちゃんの用事を済ませた。無事、無線ネットワーク機器も見つかって良かった。後は凪咲さんからの「おつかい」だけだけど・・・。

時崎「七夏ちゃん!」
七夏「え!?」

俺は店内喫茶店で、ココアを見かけたので、それを指差す。

七夏「柚樹さん、喉が渇きました? ごめんなさい。気がつけなくて」
時崎「それもあるんだけど、七夏ちゃん、喉渇いてないかなと思ったのと、これ!」
七夏「あ♪ ココアです♪」

七夏ちゃんは俺の指差したココアに気付いたようだ。

時崎「少し、休憩しよう!」
七夏「くすっ☆ はい♪」

今日は、主にお買い物だけでのお出掛けだけど、荷物が増える前に、少しのんびりとできる時間も必要だと思う。

時崎「七夏ちゃん! ココアでいいかな?」
七夏「はい☆ ありがとです♪」
時崎「すみませーん!」
店員「いらっしゃいませ」
時崎「ココアをふたつ、お願いします」
店員「かしこまりました」
七夏「柚樹さんもココアなの?」
時崎「おかしいかな?」
七夏「いえ・・・七夏、柚樹さんと一緒で嬉しいです♪」
時崎「え!?」
七夏「くすっ☆」

七夏ちゃんが自分の事を「ななつ」と話した・・・前にもこんな事があったな。

<<七夏「七夏ね♪ 柚樹さんと一緒に半分ずつがいいな♪」>>

そう、七夏ちゃんと「ブルーベリーのタルト」を半分ずつにした時の事だ。七夏ちゃんが自分の事を「ななつ」と話す時、それは本当に喜んでくれている気持ちの表れなのかも知れない・・・だとしたら、俺は七夏ちゃんからの「ななつ」をもっと引き出してあげたい。

七夏「? どしたの? 柚樹さん?」
時崎「え、いや・・・」
店員「お待たせしました」
七夏「わぁ♪ ありがとです☆」

俺と七夏ちゃんは、のんびりとココアを楽しむ。この一時が、これからも沢山あるといいなと思う。お会計時、お財布を取り出した七夏ちゃんに対して---

時崎「ここは任せて!」
七夏「え!? くすっ☆」
時崎「え!?」
七夏「柚樹さん、ここちゃーみたいです☆」
時崎「天美さん?」
七夏「ココア任せてって、ここちゃーも話してました☆」
時崎「あっ! そういう事か・・・俺、ここ『わ』任せて! って話したんだけど」
七夏「ココアって聞こえました☆」
時崎「まあ、一緒にココアを頂いたから、間違いではない・・・か。とにかく、任せて!」
七夏「えっと・・・はい♪ ありがとうございます☆」

お会計を済ませると、七夏ちゃんが改めて御礼をしてくれた。

七夏「柚樹さん♪ ご馳走様でした☆」
時崎「こっちこそ、いつもお料理ありがとう!」
七夏「くすっ☆ はい☆」
時崎「それじゃ、凪咲さんからのお買い物も済ませよう!」
七夏「はい☆」
時崎「荷物持ちも任せて!」
七夏「くすっ☆ 頼りにしてます☆」

俺と七夏ちゃんは、凪咲さんからの「おつかい」をする為、生活用品と食品を販売する所へ移動する。生活用品販売の所で、凪咲さんからのお買い物を済ませている時---

時崎「あっ!」
七夏「? どしたの? 柚樹さん?」
時崎「あ、いや・・・今、いい香り・・・七夏ちゃんと同じ香りがしたなと思って」
七夏「くすっ☆ えっと、これ・・・かな?」

七夏ちゃんは、そう言いながら、リンスを手に取った。

時崎「あ、これか! 七夏ちゃんの香りと同じ」
七夏「このリンスかな?」
時崎「ほんとだ。この香り! 俺の中で自然と七夏ちゃんのイメージになってたみたいだ」
七夏「くすっ☆ このリンスと、こっちのシャンプーは、七夏のお気に入りです♪」
時崎「なるほど!」

まただ。七夏ちゃんが自分の事を「ななつ」と話した。嬉しくて、もっと七夏ちゃんの「ななつ」を聞きたくなってくる。

七夏「えっと、これを2本ずつ、よいしょ!」
時崎「あ、俺に任せて!」
七夏「ありがとです☆ 後は洗剤かな?」

リンスとシャンプーはたいした事無かったけど、洗剤5個は思っていたよりも重たく、七夏ちゃんは、一人でいつもこんなに買っているのかなと思ってしまう。

七夏「柚樹さん? 大丈夫ですか?」
時崎「え!? 俺は全然大丈夫だけど、普段、七夏ちゃんはこんなに沢山買うの?」
七夏「いえ。普段はリンスとシャンプーがひとつずつ、洗剤も1つか2つです」
時崎「なるほど。よかったよ」
七夏「え!?」
時崎「七夏ちゃん、いつもこんなに沢山買っているとしたら大変だと思って」
七夏「あ、ごめんなさい。重たかったら私も少し持ちますので」
時崎「俺は全然大丈夫だよ!」
七夏「お母さん、柚樹さんが一緒だからって・・・あんまり沢山にならないように、お話しておきますね」
時崎「このくらいなら全然大丈夫だから!」
七夏「ありがとうございます☆ 後のお買い物、急ぎますね」
時崎「そんなに慌てなくてもいいよ」

残りのお買い物を済ませると、七夏ちゃんは、重たいお醤油を持ってくれた。お醤油も俺が持とうとしたんだけど、そこは譲ってくれなかった。

七夏「男の人だけに重たい荷物を沢山持たせて、一緒に歩くのは、心が痛みます」

七夏ちゃんに「心が痛む」と言われては、俺も辛くなる。ここは素直に七夏ちゃんの言う事に従う。

時崎「ありがとう。七夏ちゃん!」
七夏「こちらこそです☆」

お店を出ると、二人の影法師が長くなっていた。七夏ちゃんと一緒に、風水へと急いだ。

 ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆

七夏「ただいまぁ☆」
時崎「ただいま」
凪咲「柚樹君、七夏、おかえりなさい。おつかい、ありがとう」
時崎「はい」
七夏「あれ? お客様?」

七夏ちゃんは下駄箱の中にある靴を見て、お客様が居る事に気付いたみたいだ。

凪咲「そうなの。二人が出掛けている間にいらして、今日お泊りくださる事になったの」
七夏「私、急いで準備いたします」
時崎「七夏ちゃん?」
七夏「柚樹さん、また後で☆」
時崎「あ、ああ」

七夏ちゃんが急に遠くなってしまったような気がした。気のせいだといいけど。

凪咲「柚樹君、冷茶ありますから」
時崎「ありがとうございます! 凪咲さん!」
凪咲「はい?」
時崎「俺も、手伝える事がありましたら、手伝いますので!」
凪咲「ありがとう! では、後でお風呂の準備をお願いできるかしら?」
時崎「はい!」
凪咲「明日は、七夏のお友達、心桜さんと、高月さんがいらしてくれますので、少し賑やかになりますね♪」

凪咲さんは、とても嬉しそうだ。

時崎「そうですね! 明日も、引き続きお手伝いいたしますので!」
凪咲「ありがとう! 柚樹君」

冷茶を頂いてから、今日のお買い物を凪咲さんに渡す。無線ネットワーク機器を直弥さんの部屋に持ってゆき、自分の荷物を置く為に一旦自分の部屋に戻る。

時崎「まずは、お風呂場の準備だな」

俺は、すぐに1階へと戻りお風呂の準備を行う・・・その前に---

時崎「凪咲さん!」
凪咲「はい」
時崎「今日、お泊りのお客様って」
凪咲「あ、そうね。ごめんなさい。若い男の人よ。柚樹君とそんなに年は離れていないかしら? 今は、お部屋でお夕食をお待ちいただいております」
時崎「そうですか。ありがとうございます。今からお風呂の準備をします」
凪咲「ありがとう! よろしくお願いします」

お風呂場の準備へ向かおうとすると、お泊りのお客様が階段から降りてきた。

時崎「こんばんは! いらっしゃいませ!」
泊客「こんばんは!」
時崎「今、お風呂の準備をいたしますので」
泊客「ありがとうございます!」

2階から足音が聞こえてきた。七夏ちゃんだ。いつもの浴衣姿に戻っている。

七夏「あっ! えっと、いらっしゃいませ☆ ようこそ風水へ♪」
時崎「七夏ちゃん!」
泊客「これは可愛い女将さん!」
七夏「くすっ☆ ありがとうございます♪」
時崎「!?」
七夏「夕食の準備をいたしますので、しばらくお待ちくださいませ☆」
泊客「ありがとうございます」
七夏「それでは、失礼いたします」

・・・今、七夏ちゃんはお泊りのお客様に「可愛い」と言われて「ありがとうございます♪」と自然に返事をしていたな・・・これはどういう事だ? まだまだ俺は、七夏ちゃんの事が分かっていないという事なのか? 不思議なふたつの虹を持つ少女の心は、不思議なままという事なのか・・・そう言えば、お泊りのお客様は七夏ちゃんの瞳の事は言わなかったけど、それと関係があるのかな? 不思議な事が増えてゆくもどかしさを抑えつつ、俺はお風呂の準備に取り掛かるのだった。

第三十二幕 完

----------

次回予告

不思議な虹の色は、これからも不思議なままなのだろうか?

次回、翠碧色の虹、第三十三幕

「移り変わる虹」

俺は不思議な「ふたつの虹」の、切ない思い出に触れる事になる。

幕間二十七:何がネイティブだ!?

幕間二十七:何がネイティブだ!?

心桜「はぁー・・・」
七夏「!? どしたの? ここちゃー」
心桜「昨日、テレビで見た事なんだけどさぁ」
七夏「テレビ?」
心桜「っそ! つっちゃーさ、テレビって何の略か分かる?」
七夏「えっと・・・テレビは番組の放送?」
心桜「番組放送・・・確かにそうなんだけど、テレビは『テレビジョン』の略だよ」
七夏「てれびじょん・・・はい☆ 聞いた事があります♪」
心桜「んじゃさ、『レヴォリューション』って分かる?」
七夏「えっと・・・コー★チャスさん!?」
心桜「あ・・・そっちね・・・」
七夏「くすっ☆」
心桜「レヴォリューション・・・あれ? 何だったっけ?」
七夏「え!? ここちゃー知ってて訊いたのではないの?」
心桜「あはは! よく聞く言葉も、その意味をよく分かってなかったりして」
笹夜「革命です♪」
心桜「わわっ! ・・・っと、油断してこのパターン、忘れかけてた!」
笹夜「油断って・・・」
七夏「笹夜先輩! いらっしゃいです☆」
心桜「こんちわ! 笹夜先輩!」
笹夜「こんにちは♪ 七夏ちゃん♪ 心桜さん♪」
心桜「レヴォリューションは革命・・・か」
七夏「ここちゃー、その・・・英語がどうしたの?」
心桜「おっ! 流石つっちゃー! そういう所の察しはいいね!」
七夏「なんとなく・・・です☆」
心桜「まあ、その英語なんだけどさ、『ネイティブ』って分かる?」
七夏「ねいてぃぶ? えっと・・・」
笹夜「!? 七夏ちゃん? あ、ネイティブは出生地、本来の、特有の、原産、かしら?」
心桜「なんとなくだけど、そんな感じだよね」
七夏「はい☆」
心桜「『はい☆』って、つっちゃー笹夜先輩に託してたよね!?」
七夏「うぅ・・・ごめんなさい!」
心桜「まあ、それはいいんだけどさ。昨日テレビで『ネイティブな英語』というのを取り上げていた番組があって、日本人が慣れない英語でなんとか意思を伝えようとしていたんだけど、現地の人がその言葉を聞いて冷たい視線を送ってたんだよね。まあ、これはネイティブな発音や話し方が出来てないからという事で、それを自然に話せるようになりましょう・・・というテーマの番組だったから仕方がない所もあるんだけど、何か納得できないんだよねっ!」
笹夜「納得できない?」
心桜「そう! その現地の人が、『ここではそんな言い方をしない』というようにあざ笑っているように思えてさ」
七夏「そんな言い方?」
心桜「例えば、方言ってあるよね?」
七夏「はい☆ 色々なお客様が来られて、色々なお話し方があるなぁって、私には分からない言葉もあって、そういう時は、私に分かる言葉でお話してくれたりします☆」
心桜「いいね! そういうの!」
笹夜「皆さん、素敵なお方ですね♪」
七夏「はい☆」
心桜「んでさ、その『ネイティブな英語の番組』は英語の方言みたいな言い方を心得ようというようなイメージ・・・って言えば分かるかな?」
笹夜「なるほど♪ 自然な会話ができるようにという事かしら?」
心桜「そそ! でも、その必要ってある?」
七夏「え!?」
心桜「自分が、相手に合わせてそう努力しようと思うのはありだと思うけどさ、一生懸命意思を伝えようとしている人に『ここではそんな言い方をしない』なんて返す人の神経を疑うね!」
笹夜「まあ!」
心桜「こっちだって、言葉を合わせようとしてるんだから、そっちも歩み寄れっ! 何がネイティブだっ!!!」
七夏「ひゃっ☆」
心桜「あ、ゴメン! つい・・・」
笹夜「なるほど。心桜さんが熱くなられる理由も分かります」
心桜「おお! 笹夜先輩は、ネイティブ推奨派かと思ってました!」
笹夜「何の『派』かしら?」
七夏「相手の気持ちを考えてほしいっていう事かな?」
笹夜「七夏ちゃんの話す通りだと思います♪ 相手が理解をしやすいように気を遣って話せるようになる『ネイティブ』でしたら、私も賛成です♪」
心桜「そだね! それだったら、あたしも文句はない・・・というより全面的に賛成だよ!」
笹夜「テレビの影響は大きいですから、放送内容には気を遣ってもらいたいですね」
七夏「はい☆」
笹夜「本来、言葉は自分の意思を伝える事ですからね♪」
心桜「あたしなら、言い返す!」
七夏「え!?」
笹夜「何をかしら?」
心桜「つっちゃー!」
七夏「はい☆」
笹夜「??? 心桜さん? 七夏ちゃん?」

七夏「(え? それ話すの?)」
心桜「(うん。お願い!)

七夏「えっと、ここではそんな話し方はしません」
心桜「なんですとー! んじゃ訊くけどさ!! テレビのニュースとかで標準語を話してるヤツ全員に、今の言葉を言って回って来やがれ!!!」
七夏「ひゃっ☆」
笹夜「きゃっ!」
心桜「あースッキリした~!」
笹夜「心桜さん・・・」
心桜「あはは!」
七夏「まあ、ちょっと驚きましたけど、ここちゃーがすっきりできて良かったです☆」
笹夜「(七夏ちゃん・・・素直に喜んでいいのかしら?)」
七夏「笹夜先輩? どうかしましたか?」
笹夜「いえ♪ なんでもありません♪」
心桜「つっちゃーも時には叫んで、スッキリしなよ」
七夏「え!? えっと・・・」
心桜「って事で、スッキリしないつっちゃーが頑張る『翠碧色の虹』本編はこちら!」
心桜「http://nanatsuiro.my.coocan.jp/nnt_frma_a.htm」
七夏「その・・・」
心桜「そして、あたしと笹夜先輩は頑張る『ココナッツ』宛てのお便りはこちら!」
心桜「http://nanatsuiro.my.coocan.jp/nnt_suiheki_novel.htm#QUESTIONNAIRE」
七夏「あ! おたより待ってます☆」
笹夜「私も、お待ちしております♪」
心桜「みんながスッキリできるように頑張りまっす!!!」

幕間二十七 完

------------

幕間二十七 をお読みくださり、ありがとうございました!
本編の方も鋭意制作中ですので、どうぞよろしくお願い申しあげます!

随筆二十九:まじ、やられた!

随筆二十九:まじ、やられた!

心桜「つっちゃー!」
七夏「あっ♪ ここちゃー、いらっしゃいです☆」
心桜「ちょっと、聞いてよー」
七夏「どしたの? ここちゃー?」
心桜「あたしのお爺ちゃんがさ---」

-----心桜 回想-----
お爺「心桜! お小遣いをあげよう!」
心桜「え? ホント!? わぁ~い! ありがとー!」

お爺ちゃんはそう言って、あたしの目の前で札束を扇子の様に広げ、1、2、3・・・とお札を数え始めた。

お爺「4、5、6、7・・・」
心桜「ちょっ、お爺ちゃん! そんなに沢山!?」
お爺「8、9!!」

・・・そう言って、お爺ちゃんは9枚を自分のお財布に戻し、手元に残った1枚をあたしにくれた。

心桜「あ・・・えっと、ありがと。お爺ちゃん・・・」
-----心桜 回想-----

七夏「わぁ☆ 良い事ありました☆」
心桜「まあ、良かったんだけど、何か悔しくてさ」
七夏「1枚でもお小遣いを貰えたのですから、そこは感謝しないと」
心桜「いや、1枚しか貰えなかった事が悔しいんじゃなくて、お爺ちゃんの作戦に舞い踊らされたあたし自身が情けなくて・・・しかも、その後のおじいちゃんの『してやったり感120%のドヤ顔』が脳裏に焼きついて・・・あ゛ーくやしーーー!」
七夏「ここちゃー落ち着いて!」
心桜「くやしぃ~んだけど、ま、何も労せずお小遣いを貰えたからよしとしますか!」
七夏「くすっ☆」
心桜「という訳で、つっちゃー!」
七夏「は、はい!?」
心桜「ソーダ・ラムネアイス、ふたつくださいな!」
七夏「え!? あ、ありがとうです☆ ちょっと待っててくださいね☆」

 ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆

七夏「お待たせしました。ここちゃー、いくら暑いからって、一気に2本もアイスを食べると、お腹がびっくりしますよ」
心桜「何言ってんの!? 1本はつっちゃーの分だよ!?」
七夏「え!?」
心桜「お小遣い貰った話だけしてそれで終わりだったら、あたし単にイヤミな奴だよ!」
七夏「そんな事、思わないです☆」
心桜「という訳で、1本はつっちゃーのね! 遠慮禁止!!」
七夏「はい☆ ありがとーです☆ ここちゃー☆」
笹夜「こんにちは♪」
七夏「笹夜先輩☆ いらっしゃいです☆」
心桜「ふごふご・・・」
笹夜「こ、心桜さん!? すみません。大丈夫かしら?」
心桜「あーいえいえ! アイスほうばってたから・・・こんちわ! 笹夜先輩!」
七夏「笹夜先輩もアイス、如何ですか?」
心桜「おっ! つっちゃーが営業してる?」
七夏「そういう訳ではなくて・・・」
笹夜「では、私も、おひとつお願いします♪」
七夏「はい☆ ありがとうです☆」
笹夜「いつも頂いてばかりですから、お礼も必要です♪」
七夏「笹夜先輩☆」
笹夜「はい?」
七夏「えっと、メロンアイスがあります☆」
笹夜「まあ♪ では、メロンアイスをお願いします♪」
七夏「はい☆」
笹夜「ところで、今日は何のお話をされていたのかしら?」
心桜「それがですね・・・」

 ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆

心桜「・・・という事なのです」
笹夜「なるほど」
心桜「まじ、やられた! って事になるんですけど、笹夜先輩は、そんな事あったりします?」
笹夜「え!? 私ですか? えっと・・・」
心桜「つっちゃーは?」
七夏「え!? 私!? えっと・・・」
心桜「あー、同じ反応か・・・お二人ってそういう共通点がありますよね?」
笹夜「あ、そう言えば・・・」
心桜「おっ! 何かありましたか?」
笹夜「美夜が私の櫛を勝手に使って、どこかに置き忘れてしまった事があって---」

-----笹夜 回想-----
笹夜「美夜、人の物を勝手に使ったらダメです!」
美夜「『人の物』だよね? お姉ちゃんのじゃないよね!?」
笹夜「そ、それは・・・」
美夜「ふふ~ん♪」
笹夜「もう! 美夜っ! 私の櫛です!」
美夜「わわっ! お姉ちゃんが怒ったぁ~!」
-----笹夜 回想-----

心桜「あははー! 美夜っち、なかなかやりますなぁ~」
七夏「こ、ここちゃー! 笹夜先輩、すみません!」
笹夜「いえいえ♪ でも、いつも美夜には振り回されてる気がします」
七夏「楽しそうでいいなと思います☆」
笹夜「苦労が絶えません・・・」
心桜「それにしても、笹夜先輩を打ちのめせる人って、そうそう居ないような気がしますけど」
笹夜「打ちのめすって・・・」
心桜「あ、手堅いっていう意味です。いつも鋭く切り込まれてますから」
笹夜「そうかしら?」
七夏「はい☆ 笹夜先輩は頼りになります☆」
笹夜「ありがとう♪ 自分の話した事に対して、返ってくる言葉を予測しながら話を進めるのは大切な事です」
心桜「なるほど」
笹夜「でも、自分が慌てていたり、冷静ではない状態では、返ってくる言葉の予測をしないまま話してしまう事があって、そのような時は、こちらも隙が大きい状態と言えます」
七夏「隙が大きい?」
笹夜「ええ。相手のお返事によっては対処できなくなってしまいます」
心桜「詰み・・・ですね?」
笹夜「そうならないように、気をつけたいですね♪」
七夏「はい☆」
心桜「んじゃ、これからも詰まないように、つっちゃーが頑張る『翠碧色の虹』本編はこちら!」
心桜「http://nanatsuiro.my.coocan.jp/nnt_frma_a.htm」
七夏「詰むって・・・」
心桜「あたしたち『ココナッツ』宛ての、お手紙はこちら!」
心桜「http://nanatsuiro.my.coocan.jp/nnt_suiheki_novel.htm#QUESTIONNAIRE」
笹夜「七夏ちゃん♪ 頑張って♪」
七夏「は、はい☆」
心桜「いや~、もう色々と詰んでるような気がしてさ」
笹夜「え!?」
七夏「もう・・・ここちゃー!」

随筆二十九 完

------------

随筆二十九をお読みくださり、ありがとうございました!
本編の方も鋭意制作中ですので、どうぞよろしくお願い申しあげます!

第三十三幕:移り変わる虹

第三十三幕:移り変わる虹

昨日の出来事の違和感が取れない。七夏ちゃんの心が分からないまま、俺は七夏ちゃんと一緒にお客様への朝食準備を手伝っていた。凪咲さんと直弥さんは、既に朝食を済ませている。お客様が居る時は皆、別々に朝食を頂く事になっている。直弥さんがお仕事へ出掛けるようなので、俺は声をかけた。

時崎「直弥さん!」
直弥「時崎君、いつもありがとう」
時崎「いえ。先日お話してました、無線ネットワークの設置を行っておきますので、お部屋にお邪魔します」
直弥「そうか! ありがとう。よろしく頼むよ」
時崎「はい!」
七夏「あ、お父さん! これ!」

七夏ちゃんは、お弁当を直弥さんに手渡した。

直弥「ありがとう! 七夏!」
凪咲「いってらっしゃい!」
直弥「ああ! それじゃ!」
七夏「くすっ☆」

七夏ちゃんの様子が特に変わっているようには思えない。俺の知っている限り、いつもの七夏ちゃんだと思うけど、引っ掛かりはある。俺は七夏ちゃんに可愛いと話すことを躊躇っている。

七夏「? どしたの? 柚樹さん?」
時崎「え!? あ、いやなんでもない」
七夏「あ、おはようございます☆」
時崎「え!?」

後ろを振り返ると、お泊りのお客様が階段から降りてきていた。

時崎「あ、おはようございます!」
泊客「おはようございます」
七夏「えっと、朝食、出来てますので、どうぞ!」
泊客「はい」

俺は、泊り客が七夏ちゃんに対して「可愛い女将さん」と話す事を期待したが、それは無かった。もし、その時の七夏ちゃんの反応が俺の時と違ったら・・・と思ってしまうけど、他人に頼らず、なんとか自力で引き出すことは出来ないだろうか?

七夏「柚樹さん☆」
時崎「え!?」
七夏「後は、任せてください☆」
時崎「俺も手伝える事は手伝うよ!」
七夏「ありがとです☆ えっと柚樹さんは、お父さんのお部屋で用事があるのですよね?」
時崎「あ、無線ネットワーク機器の件だよね?」
七夏「はい☆ えっと、今日は、午後からここちゃーと笹夜先輩が来てくださるので、柚樹さんの用事も午前中の方がいいかなって☆」
時崎「確かに、早い方がよさそうだな」
七夏「くすっ☆ 午後からは、みんな一緒がいいなって☆」
時崎「ありがとう! じゃあ、早速、直弥さんのお部屋で用事を済ませるよ」
七夏「はい☆」

直弥さんの部屋に向かう。部屋の中に置いてあった有線のネットワーク機器に追加する形で、無線ネットワーク機器を追加する。これは、説明書に従って行えばそれほど難しくは無いが、二つの機器を見なければならない点と、無線ネットワーク機器のセキュリティーの設定が少し複雑だ。説明書を見ながら、自分の持っている携帯端末と、MyPadを登録して接続してみる。

時崎「よし! ネットワークに接続できた!」

電波の状態も良好だ。更に説明書を読み進めると、ゲストユーザーアクセスの設定があった。これは、未登録のネットワーク端末を自由に接続できる設定だ。七夏ちゃんの家が民宿である事を考えると、お泊りのお客様にもネットワークが利用できるように設定しておく方が良いと思うので、設定しておく。とりあえず、IDとパスワードは「KAZAMI」としておいた。ゲストユーザーとしても無事接続できた。あとは、直弥さんにIDとパスワードと、ゲスト用のIDとパスワードを伝えておけばよい。

時崎「あ、七夏ちゃんのMyPad!」

七夏ちゃんのMyPadは、俺の携帯端末と接続されているので、ネットワークは利用できるが、俺がこの街を去る時には、設定を変更しなければならない。忘れないように、今設定を行っておこうと思う。居間へ向かうと、凪咲さんがひと息ついていた。

凪咲「柚樹君、お疲れさま」
時崎「お疲れ様です。無線ネットワーク機器の設置が終わりました」
凪咲「ありがとう」
時崎「これ、IDとパスワードのメモになります。直弥さんにも同じ物を渡しておきますので」
凪咲「これは、どうすればよいのかしら?」
時崎「大切な情報になりますので、無くさないような場所に保管をお願いします」
凪咲「わかりました。ナオにも伝えておくわ」
時崎「はい」
凪咲「七夏なら、自分のお部屋に居ると思うわ♪」
時崎「え!? あ、はい。ありがとうございます! お客様は?」
凪咲「先ほど、お帰りになられました」
時崎「あ、すみません。お見送りできなくて・・・」
凪咲「気にしなくていいのよ」
時崎「ありがとうございます」

俺は、会釈をして七夏ちゃんの部屋に移動する。トントンと軽く扉を叩く。

七夏「はーい☆ あ、柚樹さん☆」
時崎「七夏ちゃん! お疲れ様! 今、忙しいかな?」
七夏「えっと、お客様は帰られましたので、少しのんびり過ごしてました♪」
時崎「そう。少し、時間あるかな?」
七夏「はい☆ あ、どうぞです☆」
時崎「ありがとう」

七夏ちゃんに案内されて、部屋の中に入る。机を見ると宿題をしていた様子は無く、小説を読んでいたのだろうか? そうか! 今日は土曜日なので、宿題はお休みなのかも知れない。セブンリーフの写真立てが目に留まる。俺が七夏ちゃんへプレゼントした写真立てだ。後から知った事だが、結果的に「お誕生日プレゼント」になった思い出の品だ。しかし、その写真立てに写真は入っていなかった。まだ、七夏ちゃんにとって写真は重たい存在なのだろうか?

七夏「えっと・・・」
時崎「あ、ごめん。あまり女の子の部屋を眺めるのは良くないよね」
七夏「いえ。片付いてなくてその・・・」
時崎「充分、綺麗で可愛いと思うよ!」
七夏「え!? あっ・・・えっと・・・」

しまった! 俺は部屋の事を話したつもりだったが、間接的に七夏ちゃんの事を「可愛い」と話してしまった事になる。俺は慌てて話題を変える!

時崎「七夏ちゃん!」
七夏「え!?」
時崎「MyPad、あるかな?」
七夏「あ、はい☆」
時崎「直弥さんの部屋に無線ネットワーク機器を設置したから、七夏ちゃんのマイパッドも登録しておこうと思うんだけど、少し、借りてもいいかな?」
七夏「はい☆ どうぞです☆」
時崎「じゃ、少し借りるよ」

俺は、七夏ちゃんのMyPadの設定より、端末の固有番号(MACアドレス)を調べてメモをする。

時崎「ありがとう!」
七夏「え!? もういいの?」
時崎「後は、直弥さんの部屋で設定の追加を行うから、少し待ってて!」
七夏「はい☆」

俺は、直弥さんの部屋へ移動し、無線ネットワーク機器に七夏ちゃんのMyPadを追加登録する。そして、再び七夏ちゃんの部屋へと移動する。

時崎「うっ!」

扉の角で、足の小指だけぶつけた。時々、こういう事が起こるけど、何故小指「だけ」ぶつけるのだろうか? と、とにかく七夏ちゃんの部屋に急ごう!

時崎「七夏ちゃん!」
七夏「あ、柚樹さん☆ どうぞです☆」
時崎「お邪魔します!」
七夏「!? 柚樹さん? どうしたの?」
時崎「え!?」
七夏「えっと、足・・・」
時崎「あ、ちょっと小指をぶつけちゃって・・・」
七夏「大丈夫?」
時崎「ああ。大丈夫だよ!」

七夏ちゃんは、ちょっとした変化に鋭いなと思う。

七夏「私も、小指をぶつける事がありますから、気をつけないと」
時崎「七夏ちゃんもあるの?」
七夏「・・・はい。おかしいですか?」
時崎「いや、七夏ちゃんがそんなに慌てるような印象がなくて」
七夏「普通に歩いてて、ぶつける事があります。どおして小指だけぶつけるのかなぁ?」
時崎「っ! くくっ!」
七夏「え!? あ、柚樹さん笑うなんて・・・」
時崎「いや、ごめん! ついさっき、俺も七夏ちゃんと同じ事を思ったから!」
七夏「同じ事?」
時崎「小指だけ」
七夏「あっ! くすっ☆」
時崎「もう一度、MyPad借りていいかな?」
七夏「はい☆ どうぞです☆」
時崎「ありがとう」

七夏ちゃんのMyPadで、無線ネットワークの検索を行い、無事ネットワーク接続が完了した。

七夏「何か変わったのかな?」
時崎「ネットワークの接続を追加しただけだから、特に何も変わってないよ。今までと同じように使えるから!」
七夏「はい☆ ありがとうです☆」
時崎「今日は、午後から天美さんと、高月さんが来るんだよね?」
七夏「はい☆」
時崎「天美さんと、高月さんに、この前みたいにアルバム作りの協力をお願いしてもいいかな?」
七夏「はい☆ もちろんです☆ えっと、私からお話しておきますね☆」
時崎「ありがとう」
七夏「くすっ☆ 花火大会も楽しみです☆」
時崎「そうだね。花火大会の写真を撮ってから、お願いすると思うから、明日になると思うけど」
七夏「はい☆ 私も、そろそろお着替えしようかな?」
時崎「あ、七夏ちゃん、風水の浴衣のままだったね。じゃあ、俺はこれで部屋に戻るよ!」
七夏「はい☆ 柚樹さん、また後で☆」

部屋に戻り、時計を見る。もうすぐお昼の時間だ。少しの時間も無駄には出来ないので、俺はアルバム作りを再開した。

 ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆

七夏ちゃんと一緒に昼食を頂く。民宿風水の浴衣姿から私服に着替えている七夏ちゃんとの昼食は、いつもとは少し違う感覚を与えてくれる。でも俺は「可愛い」と話したくてもその言葉が言えなくなっていた。

昼食を済ませて、部屋へ戻ろうとした時---

心桜「こんちわー! つっ! あっ! お兄さん!」
時崎「天美さん! いらっしゃい!」
心桜「どうもー!」
時崎「つっ! あっ! お兄さんって何? ・・・って、なんとなく分かるけど」
心桜「あはは!」
時崎「七夏ちゃんなら、台所に居るはず」
心桜「そっか! よいしょっと!」

天美さんは、いつもよりも大き目の鞄を持ってきていた。恐らく浴衣が入っているのだろう。

時崎「お荷物、お持ちしましょう!」
心桜「いいよいいよ! 大丈夫だから!」
時崎「かしこまりました」
心桜「・・・やっぱ、お願い!」
時崎「え!?」
心桜「~♪」
時崎「あ、了解いたしました!」
七夏「ここちゃー☆ いらっしゃいです☆」
心桜「こんちわー! お邪魔します!」
七夏「くすっ☆ お荷物、2階のお部屋にどうぞです☆」
心桜「この前、泊った部屋でいいのかな?」
七夏「はい☆ ご案内しますね☆」
凪咲「心桜さん、いらっしゃいませ!」
心桜「凪咲さん、今日もお世話になります!」
凪咲「はい♪ こちらこそ!」

この前、天美さんが泊った部屋に荷物を運ぶ。七夏ちゃんが扉を開けてくれたけど、俺は一歩下がって天美さんが先に部屋に入るのを待つ。

心桜「ありがと。つっちゃー、お兄さん!」
七夏「くすっ☆」
時崎「天美さん、荷物、ここでいいかな?」
心桜「うん。適当でいいよ。ありがとね!」
時崎「それじゃ、用があったら声をかけてくれていいから」
心桜「なんかさ、お兄さん、つっちゃーと息が合ってきてるよね?」
七夏「え!?」
時崎「えっ!?」

七夏ちゃんと同じタイミングで言葉を返し、お互いに見つめ合う形となった。
七夏ちゃんの瞳の色が大きく変わる・・・見慣れている事だけど、意識するとやはり綺麗だなと思いつつ、俺も自分の瞳・・・ではなく耳の色が赤く変わってゆく感覚を覚えた。

七夏「・・・・・えっと」
時崎「あっ・・・と!」
心桜「何してんのさ!」
時崎「と、とにかく、ごゆっくりどうぞ!」

七夏ちゃんと天美さんを部屋に残して扉を閉める。相変わらず、天美さんの不意打ちは突然で慣れない。

七夏「もう! ここちゃー!」
心桜「あはは!」

扉から七夏ちゃんと天美さんの声が聞こえてきた。自分の部屋に戻ろうかと思ったけど、そろそろ高月さんも来ると思うから、そのまま1階の居間へと移動した。

凪咲「柚樹君、お疲れ様、七夏は?」
時崎「七夏ちゃんなら、2階で天美さんと一緒だと思います。呼んできましょうか?」
凪咲「いえ、前にも話したかも知れないけど、今日と明日は、七夏へお手伝いは頼まないつもりですので♪」
時崎「なるほど、俺は何かあったら手伝いますので!」
凪咲「ありがとう、柚樹君」

凪咲さんは、七夏ちゃんのお友達がお泊りに来る時は、七夏ちゃんもお泊りのお客様として見ている事、お友達と一緒に楽しむ時間の大切さを意識させられる。

??「ごめんください♪」
凪咲「はい!」

玄関から声がした、高月さんも来られたようだ。

凪咲「高月さん、いらっしゃいませ!」
笹夜「こんにちは♪ 今日もお世話になります♪」
凪咲「こちらこそ! ようこそ風水へ!」
時崎「こんにちは! 高月さん!」
笹夜「あ、時崎さん♪ こんにちは♪」
時崎「お荷物、お持ちいたします!」
笹夜「まあ♪ ありがとうございます♪」
心桜「お! 笹夜先輩! こんちわ!」
七夏「笹夜先輩☆ いらっしゃいです☆」
笹夜「こんにちは 心桜さん、七夏ちゃん♪ 今日はお世話になります♪」
凪咲「お茶とアイスは如何かしら?」
心桜「わー! ありがとうございます!」
凪咲「では、居間へいらしてくださいませ」
笹夜「ありがとうございます♪」
時崎「七夏ちゃん?」
七夏「はい?」
時崎「高月さんの荷物は、前にお泊り頂いたお部屋でいいのかな?」
七夏「はい☆」
時崎「ありがとう。高月さん!」
笹夜「はい!?」
時崎「どうぞ、こちらへ」
笹夜「ありがとうございます♪」

俺は、高月さんをお部屋に案内する。七夏ちゃんは、どうしようか迷ってたみたいだけど、天美さんに連れられて居間へと移動したようだ。

時崎「どうぞ!」
笹夜「ありがとう♪ 時崎さん♪」

荷物を置いて、高月さんと一緒に1階の居間へと移動する。

心桜「お、お兄さん! こっちこっち! 笹夜先輩も!」
時崎「ああ!」
笹夜「ええ♪」
心桜「なんかさ、お二人って、息ぴったりだよねっ!」
笹夜「え!?」
時崎「なっ!」

高月さんとお互いに見つめ合う形となったが、すぐに視線を逸らし合った。そのタイミングまで天美さんの思惑通りの形となっているのが、少し悔しい。

笹夜「こ、心桜さんっ!」
心桜「あははっ!」
笹夜「すみません! 時崎さん」
時崎「え!? あ、いや全然構わないよ」
七夏「どしたの?」

台所から七夏ちゃんが、お茶とアイスを持ってきてくれた。

心桜「おー! アイスちゃん♪」

なんとか、天美さんの独走を止める事は出来ないだろうか・・・なんて考えてしまうけど、まあ、これがいつもの三人なのかも知れないのなら、このままが良い・・・と思い込む事にする。

凪咲「柚樹君、少しいいかしら?」
時崎「はい!」
凪咲「今日の花火大会、帰りが遅くなると思うから、七夏たちの事をお願いしてもいいかしら?」
時崎「もちろんです! 頼まれなくても、そうさせてもらいます!」
凪咲「ありがとう♪ あとこれを!」

凪咲さんは封筒を俺に手渡してくれた。その中にはお金が入っていた。

時崎「これは・・・! こんなに沢山!?」
凪咲「今夜のお夕食代とお小遣い。みんな夜店で頂くと思いますので。七夏たちと一緒に柚樹君も楽しんで貰わないと!」
時崎「いいのですか?」
凪咲「そうしてほしいのよ。私からお願いいたします!」
時崎「ありがとうございます!」

七夏ちゃんたちの為に、頂いたお小遣いを有効に使いたいと思う。
居間に戻ると、三人は楽しくお話しに花を咲かせているようだ・・・けど、高月さんは少し疲れているのだろうか?

時崎「高月さん?」
笹夜「え!? は、はい!?」
時崎「大丈夫?」
心桜「ん? どうかしましたか? 笹夜先輩?」
七夏「柚樹さんも、そう思いました?」
時崎「ああ。なんとなくだけど」
笹夜「すみません。昨夜、なかなか眠れなくて・・・」
時崎「宿題でもしていたのかな?」
笹夜「そうではなくて・・・その、今日の事を考えてたら・・・」
時崎「なるほど! 分かるよ!」
心桜「遠足前も、なかなか眠れなかったよね!」
七夏「くすっ☆」

今夜は、花火大会があるから、少し心配だ。

時崎「高月さん! 少しお休みしたらどうかな?」
笹夜「・・・いいのかしら?」
時崎「もちろん!」
七夏「私、お布団の準備をしますね☆」
笹夜「すみません、では、少しお休みさせてもらいます」
時崎「ああ」
七夏「笹夜先輩☆ どうぞこちらへ☆」
心桜「おやすみなさい! 笹夜先輩!」
笹夜「おやすみなさい」

七夏ちゃんに付いてゆく形で、高月さんは2階へと移動した。

心桜「お兄さん、よく気付いたね!」
時崎「え?」
心桜「笹夜先輩の事!」
時崎「ああ、なんとなくだけど、七夏ちゃんも気付いてたみたいだったよ」
心桜「そっか・・・あたし、浮かれてて気付かなかったよ。ありがと。お兄さん!」
時崎「あ、ああ」

天美さんから、素直にお礼を言われると、少し恥ずかしくなった。

心桜「てっきり、笹夜先輩をお部屋まで案内するかと思ったけど」
時崎「それは七夏ちゃんに任せるつもり。お着替えとかあると思うから」
心桜「流石、手堅くなってますなー」
時崎「いやいや、天美さんには適わないよ!」
心桜「お着替えと言えば、あたしもこの後、浴衣なんだけど、これ完全につっちゃー頼りだからなー」
時崎「色々、大変みたいだね」
心桜「まあね! お兄さんは浴衣着ないの?」
時崎「俺は、このままの予定」
心桜「そっか! まだ花火大会まで時間あるよねー。何か楽しめる事はないかなー」

天美さんは、そう言いながらテレビの前の引き出しを物色し始める・・・この辺り、七夏ちゃんと友達暦の長い天美さんだからこそ出来る行動だと思う。

七夏「柚樹さん☆」

七夏ちゃんが戻ってきた。

時崎「七夏ちゃん、ありがとう!」
七夏「こちらこそ、ありがとうです☆ 笹夜先輩も、ありがとうって☆」
時崎「そう」
七夏「柚樹さんが声をかけてくれて良かったです☆」
時崎「七夏ちゃんも気付いてたでしょ?」
七夏「はい。どうしようかなって思ってたところでした☆」
時崎「少しでも休めば、だいぶ違うと思うから」
七夏「はい☆」
心桜「つっちゃー!!」
七夏「どしたの? ここちゃー!!」
心桜「これっ!!」
七夏「なぁに?」
心桜「ぴよぴよ!!!」
七夏「あ、ぴよぴよさん」
心桜「懐かしいー! 何年くらい前だっけ?」
七夏「えっと・・・5年くらい前・・・かな?」
心桜「5年くらい前・・・って事は、5年生の時か・・・5年5年だねっ☆」
七夏「くすっ☆」
心桜「ねねっ! 少し遊んでみない?」
七夏「はい☆ でも、本体がどこにあるのかな?」
心桜「ん? これPSって書いてあるから、このPSでも動くんじゃないの?」
七夏「そうなの?」
心桜「試してみよーよ」
七夏「はい☆」
心桜「お兄さんっ!」
時崎「え!? 天美さん、それは!?」
心桜「ぴよぴよ! お兄さん知ってる?」

天美さんは、何かゲームソフトを見つけたようだ。

時崎「いや、知らないけど、ゲーム?」
心桜「っそ。 対戦型パズルゲームなんだ」
時崎「テットリスみたいなゲーム?」
心桜「そうそう。お兄さん、テットリスは知ってるんだ」
時崎「まあ、一時ブームになってたからね」
心桜「んで。今から、この『ぴよぴよ』を、つっちゃーと遊ぼうかなと思って・・・そだ!お兄さん、あたしと対戦してみる?」
時崎「いや、遠慮しておくよ。この前の音楽ゲームの件もあるし・・・」
心桜「あははっ! 大丈夫だよ。あたしも『ぴよぴよ』はブランクあるから!」
時崎「七夏ちゃんと一緒なら・・・」
七夏「え!?」
時崎「あ、いや・・・その、2対1なら勝ち目あるかなーなんて」
七夏「・・・・・」
心桜「でも、これ、2対1はできなかったと思うよ」
時崎「まあ、俺は二人が遊んでいるのを見させてもらう事にするよ」
七夏「柚樹さん」
時崎「え?」
七夏「これって、使えるのかな?」
時崎「PSシリーズだから動くはずだよ。確か上位互換だったはずだから」
心桜「よし、早速、起動してみよう!!」
時崎「そうそう。二人が遊んでいるところ、写真に残してもいいかな?」
心桜「あたしはいいよ。可愛く撮ってくれるなら」
七夏「はい☆ 柚樹さん♪ よろしくです☆」
時崎「ありがとう」

 ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ 

心桜「お、映った・・・って、画面荒っ! こんなだったっけ?」
七夏「もう少し柔らかだった記憶がありますけど」
時崎「テレビが大きくなって、デジタル接続になったからじゃないかな? 写真を引き伸ばした感じ?」
心桜「なるほど。 ま、つっちゃーと遊べるなら!」
七夏「えっと・・・」
心桜「まずは、遊び方の再確認から・・・って、お兄さん、どしたの?」
時崎「あ、天美さんは説明書なんて見ないと思ってたから・・・って、すまない」
心桜「あははっ! 確かに! 一人の時はそうかもね」
時崎「え!? どういう事?」
心桜「あたしは、直感でなんとかする派だけど・・・」

そう言うと、天美さんは此方に近づいてきて、

心桜「(つっちゃーに、遊び方を思い出してもらう為!)」

小声で、俺にだけそっと教えてくれた。七夏ちゃんは、とてもよく気が利く女の子だと思っていたけど、天美さんもそれは変わらないという事か・・・違うのは、その表現の仕方だという事。ストレートに気を遣う七夏ちゃんに対して、天美さんは、こっそりと気を遣うタイプなんだなぁーと思う。自然にそのように振舞える二人が羨ましい。

七夏「??? どしたの? ここちゃー?」
心桜「いや、なんでも! んじゃ、遊び方の再確認から!」
七夏「はい☆」

---ぴよぴよの遊び方---

「ぴよぴよ」は、樹の枝にとまってくる色の異なる小鳥さんの場所を入れ替え、同じ色の小鳥さんを縦横3羽以上に揃えて飛ばす、対戦型パズルゲームです。

同じ色の小鳥さんが3羽以上揃うと、飛び去ってゆき、その数に応じて対戦相手の樹に白い小鳥さんが現れます。一度に沢山の小鳥さんを揃えるほど相手の木に沢山の白い小鳥さんがとまります。小鳥さんを沢山相手の樹にとまらせて、その重みで対戦相手の樹が一定の角度以上倒れると勝ちとなり、逆に自分の樹が倒されると負けとなります。

白い小鳥さんは横、縦に何羽並んでも飛び去りません。白い小鳥さんは他の同じ色の小鳥さんで挟むと一緒に飛び去ります。
ただし、白い小鳥さんを挟めるのは最大2までで、挟む羽数に応じて両隣に同じ色の小鳥さんを揃える必要があります。
(例)
赤白赤
青青白白青青

ゲーム開始時は赤青黄緑の4羽が木に止まっています(オプションで設定変更可能)。
自分の枝にとまっている小鳥さんは自由に入れ替えられますが、お互いの場所が離れているほど入れ替えに時間を要しますので、なるべく近い小鳥さん同士を入れ替える方が効率的です。

小鳥さんを入れ替えると「NEXT BIRDS」の上側に居る小鳥さんが、1羽自分の樹にとまってきます。とまる場所は小鳥さんにおまかせですが、自ら「NEXT BIRDS」の小鳥さんを呼ぶこともでき、その場合は、とまる場所を指定できます(既に小鳥さんが居る場所は指定できません)。また、「NEXT BIRDS」の2羽どちらの小鳥さんも呼べますので、手詰まりになりそうなら、積極的に呼んでみましょう。

時々、七色の小鳥さんが飛んでくる事があります。七色の小鳥さんは、樹に止まらず、空中を飛び続けます。上手くつかまえて、色の付いた小鳥さんと入れ替えることができれば、自分の樹にとまっている、その選んだ小鳥さんと同じ色の小鳥さん全てが飛び去ります。

自分の樹の小鳥さんが全て居なくなったら、その時点で完全勝利を選ぶか、対戦相手を完全に負かすかを選ぶ事ができます。試合を終了する場合は「勝利」を、続行する場合は「NEXT BIRDS」から小鳥さんを選んでください。

自分の樹がある程度倒されると、反対側に新たな小枝が出現します。そこにも一時的に小鳥さんをとまらせることができますので、上手く活用してください。樹の小鳥さんが減って、樹の傾きが回復すると新たな小枝も無くなり、そこにとまっていた小鳥さんは、他のとまれる場所に移動します。移動先は小鳥さんにお任せですが、そうなる前に自分で移動させる方が良いでしょう。

小鳥さんが枝に止まれず、地面に落下する事があります。優先的に枝にとまらせてあげると良い事があるかも知れません。少しだけ効果を紹介します。

・七色の小鳥さんの出現率が上がります
・風が吹いて、自分の樹の小鳥さんが一定数飛び去り、樹の傾きが回復します(オプション設定で「風の効果あり」の場合)

--------------

心桜「・・・だってさ、つっちゃー分かった?」
七夏「はい☆ なんとなくですけど」
心桜「よし、んじゃ、始めるよー」
七夏「はい♪」

二人は「ぴよぴよ」を始める。二人とも最初は操作がおぼつかなかったが、俺の予想通り天美さんの方が早く操作に慣れて行き、七夏ちゃんとの差は大きくなってゆく。

心桜「よっ! ほっ!」
七夏「えーっと・・・わぁ!」

まあ、二人とも楽しそうなので、その様子を写真として切り取る。

心桜「えいっ!」
七夏「ひゃっ☆ こ、ここちゃー!!」

どうやら、勝負あったようだ。天美さんが優勢だと思っていたが、七夏ちゃんには頑張ってほしかった。

心桜「あたしの勝ちだね!」
七夏「ここちゃー凄いです!」
心桜「じゃ、もう1回!!」
七夏「え、えーっと・・・」

七夏ちゃんは、俺の方を見てきた。その意図は分からないが、俺と代わってほしいという事なのだろうか。けど、俺はもう少し楽しそうな七夏ちゃんを撮影したい。

時崎「七夏ちゃん! 頑張って! いい表情撮るから!」
七夏「は、はい!」

二人は再び「ぴよる」・・・って、めまいがするみたいな言い回しだな。しかし、天美さんの勢いはそう簡単に覆せないようだ。

心桜「とう!」
七夏「あっ!」
心桜「飛んでけー!」
七夏「ひゃっ!」

必死に防戦して頑張っている七夏ちゃんを、俺は写真に残す。

心桜「よし! 2連勝!!」
七夏「うぅ・・・ここちゃー強過ぎです」
心桜「んじゃ、今度は、つっちゃーがどんな風に操作しているか見てみるよ」
七夏「え!?」
心桜「それで、つっちゃーの弱点が分かれば、それを克服して勝率も上がると思うんだ」
七夏「なるほど☆」
心桜「・・・って、これ、前につっちゃーが話してた事だよ。数学の宿題時に・・・」
七夏「あっ! はい☆ よろしくです♪」

天美さんは、勝負事には真剣で手を抜かないけど、七夏ちゃんへの配慮もしっかりと考えている。ゲームとはいえ、負け続けると楽しいとは思えないだろう。負け続ける人への配慮が出来てこそ、本当に強い人なのだろうなと・・・。そういう意味では、七夏ちゃんも負けてはいない。困っている人への配慮を忘れない事を俺は知っている。

時崎「七夏ちゃん!」
七夏「はい!」
時崎「俺も七夏ちゃんの、遊び方をよく見ておくから、頑張って!」
七夏「はい☆ 頼りにしてます♪」
心桜「よし! じゃあ、3回目!!!」

二人は3度目の「ぴよりんぐ」・・・。俺も七夏ちゃんの方の樹と小鳥の様子を見てはいるが、どうもこの手のゲームは苦手なのか、次々と天美さんの方から飛んでくる小鳥さんによって刻一刻と変化する状況が掴めない。七夏ちゃんもそれは同じなのか、上手く操作が出来ていない。俺は再び写真機で七夏ちゃんを捉える。

時崎「七夏ちゃん! 撮るよ!! 楽しんで!!!」
七夏「え!? は、はい!!!」
心桜「どばーっと!!!」
七夏「ひゃっ!!!」
心桜「よし!!! 3連勝!!!」
七夏「うぅ・・・」

やはり、天美さんには敵わないか・・・。俺は、七夏ちゃんには悪い気もするが、満面の笑みを浮かべている天美さんの写真も切り取る。とても楽しそうでいい表情だから、きっと七夏ちゃんも喜んでくれるはずだ。

心桜「見てて思ったんだけど、つっちゃーさぁ・・・もっと、こう真面目に・・・って、ゴメン!!!」
七夏「・・・・・え!?」

俺は勢いで撮影してしまった・・・七夏ちゃんの涙を・・・。

心桜「なっ、ま・・・つ、つっちゃーが泣くとは思わなかったから!」
七夏「え、えっと・・・」

俺も驚いた。七夏ちゃんは、悔し涙を流すタイプとは思えなかったからだ。

心桜「あたし、ちょっとつっちゃーの気持ち考えれてなかったよ。ごめん!!!」
七夏「そ、そうじゃなくて・・・その・・・」
心桜「え!? どういう事?」
七夏「ちょ、ちょっと、昔の事、色々と思い出しちゃって・・・」

昔の事・・・何があったのか俺は知りたいけど、七夏ちゃんが涙を浮かべる辺り、悲しい思い出なのだろう。本人にとって辛い思い出を無理に引き出す事なんて出来ない。俺は七夏ちゃんの笑顔を追いかけなければならない。

心桜「昔の事?」
七夏「はい」

七夏ちゃんはしばらく黙ったままだ。

---七夏の回想---

直弥「参った。七夏は『ぴよぴよ』強いな!」
七夏「お父さん! もっと真面目に・・・同じ色の小鳥さんを揃えて!」
直弥「え? そうしてるつもりなんだけど・・・」
七夏「時々、違う色の小鳥さんを合わせてるみたいだから・・・」

 ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆

凪咲「七夏、お父さんはね。七夏とは色覚特性が違うのよ」
七夏「しきかくとくせい?」
凪咲「七夏とお父さんとは、見えている色が違うかも知れないの」
七夏「え!?」
凪咲「七夏には七夏の、お父さんにはお父さんの世界があるの」
七夏「えっと・・・」
凪咲「七夏は、ピーマン苦手よね?」
七夏「う・・・はい」
凪咲「だけど、お父さんは、好きよね。ピーマン」
七夏「はい」
凪咲「同じピーマンでも、人それぞれ、受ける印象が違うの。それが個性なのよ」
七夏「・・・・・」
凪咲「大切なのは、自分には分かっても、他人はそうとは限らないという事。だから、自分が分かる事は支えてあげて、自分が分からない事は支えてもらって、そういうのが人なのよ」
七夏「はい☆」

 ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆

??「なんだその虹、おい! 水風の虹が変だぞ!」
七夏「え?」
心桜「あたしも、こう見えるんだけど!!!」

---七夏の回想---

突然、鳴り出した音に3人とも驚いた。放ったらかしにしていた「ぴよぴよ」のデモが、空気を読む事無く始まったのだ。

心桜「あーびっくりした!!! 背後から急に音が鳴るから」
七夏「くすっ☆」
時崎「七夏ちゃん!」
七夏「あ、ごめんなさい。大丈夫です☆」
心桜「つっちゃー、本当にごめん!!!」
七夏「ここちゃー、ありがとうです♪」
心桜「え!?」

涙の残る七夏ちゃんから「ありがとう」と言われて、目を丸くしている天美さん。俺はこの二人の今の表情を撮影した。七夏ちゃんの「ありがとう」という言葉と表情から、溢れ出た涙は、悲しみだけではない事が伝わってきたから・・・この一枚は大切な思い出になるはずだ。

その後、気を取り直して、再び「ぴよぴよ」で、天美さんに挑戦した七夏ちゃん。なんと、七夏ちゃんが天美さんに勝てた。唖然とする天美さんに、七夏ちゃん本人も何が起こったのか分かっていない様子。二人の呆然とした表情が面白く、これも写真に残しておく。

心桜「ちょっ! お兄さん!!! 今の撮った?」
時崎「くくっ、二人とも『いい表情』してたよ・・・色々な意味で!」
七夏「・・・・・」
心桜「あたし、『可愛く撮って』って言ったよね?」
時崎「可愛かったよ。二人とも!」
七夏「・・・・・」

天美さんと一緒なら「可愛い」と話してもいいかなと思ったけど、七夏ちゃんは色々と複雑な表情をしている。まずかったかな?

心桜「ま、まぁ、可愛いって言われて、嫌な気はしないけどさ・・・」
七夏「・・・・・」
心桜「・・・って言うか、つっちゃーどうやったの?」
七夏「え!? えっと、フクロウさんみたいな鳥さんが飛んできて・・・」
心桜「何? あの黒い鳥ってフクロウ? そんなの居たっけ?」
七夏「よく分からないのですけど・・・」

天美さんは「ぴよぴよ」の説明書を再確認する。

心桜「あ、これか!!! こんな所に追加の情報が!!!」
七夏「え!?」

---ぴよぴよの遊び方 追加---

天敵は見方!?
自分が不利になっても、最後まで諦めないでいると、ある条件が揃えば小鳥さんの天敵(フクロウ・ミミズク・ワシ・ハヤブサ)が現れます。小鳥さんの天敵が現れた場合、その天敵が苦手な小鳥さんは大パニックを起こし、一気に飛び去ります。どのような条件で天敵(見方?)が現れるかは、遊びながら見つけてみてください。ひとつ「フクロウ」だけ条件を紹介しておきます。

赤青黄白黄青赤・・・天敵フクロウ飛来!

-----------------

心桜「・・・だってさ。天敵は見方!? さっきのはフクロウだったのか・・・」
時崎「説明書は最後まで読みましょう!!!」
心桜「うぅ・・・参りました」
七夏「くすっ☆」
心桜「こうなったら、ぴよぴよの設定まで全部読んでやるっ!」
時崎「あ、天美さん・・・」

---ぴよぴよ 設定---

・CPUの強さ・・・コンピュータの強さを決めます(甘め/微糖/普通/苦い/無糖)
・進行速度・・・ゲーム全体の進行速度を決めます(のんびり/ふつう/おいそぎ)
・小鳥さんの移動速度・・・入れ替えた時の小鳥さんの移動速度を相対的に変更します(のんびり/ふつう/すばやい)
・ゲーム開始時の小鳥さんの数(4羽~8羽)
・樹の演出・・・樹が傾くか、背景が傾くかを選択します(樹は固定で背景が傾く/背景固定で樹が傾く)
 ↑樹が傾く設定は対戦中に姿勢が悪くならないようにお気をつけください
 ↑樹が傾かない設定では体は傾きにくいですが「新たな小枝」は出現しません
・樹の樹齢(耐久度)を選択します(5年~5000年)
 ↑樹齢が上がれば枝数や耐久度は高くなりますが、上げ過ぎると脆くなり、突然倒れるリスクが上がります
・風の設定・・・風の有無を選択します(風により、自分の樹の小鳥さんが一定数飛び去り、樹の傾きが回復します/対戦相手の樹が突然倒れる事もあります)
・音響設定・・・ゲーム内の様々な音の設定を行います

---ぴよぴよ 設定---

心桜「よし! 説明書読破完了!」

説明書を読破した天美さんは、敵無しと言う感じだったが、七夏ちゃんもある程度は慣れてきたのか健闘している。

心桜「よし! これで何連勝だったっけ!」
七夏「もう、ここちゃーには勝てません☆」
心桜「んじゃ、お兄さんっ!」
時崎「え!?」

天美さんは、コントローラーを俺に手渡してきた。そういう事か!

七夏「えっと・・・」
時崎「七夏ちゃん、一緒に頑張ろう!」
七夏「は、はい☆」

 ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆

時崎「うおぁ!」
心桜「おぉ! つっちゃー! お兄さんに勝った!」
七夏「ゆ、柚樹さん! ごめんなさいっ! 大丈夫ですか!?」
時崎「いや、謝らなくてもいいよ! 七夏ちゃん上手くなったね!」
七夏「ここちゃーのおかげです☆」
時崎「いやー実際、見てるのと操作するのでは随分と違うんだね」
心桜「そだね。簡単そうに見える事ほど、実際難しいよね!」
時崎「天美さん、その言葉、深いな」
心桜「あはは!」
笹夜「おはようございます♪」
七夏「あ、笹夜先輩☆ おはようです☆」
心桜「あ、笹夜先輩! すみません、騒がしくて。起こしちゃいました?」
笹夜「いえ♪」
時崎「高月さん、気分はどう?」
笹夜「はい♪ 少しお休みして、すっきりいたしました♪」
七夏「くすっ☆ 良かったです☆」
心桜「そろそろ、花火大会の準備の時間かな?」
七夏「はい☆ それじゃ、みんなで浴衣です☆」
心桜「つっちゃー! 今度は、お手柔らかによろしくです!」
七夏「はい☆」
笹夜「?」
心桜「笹夜先輩もご一緒に!」
笹夜「え!? ええ♪ それでは、失礼いたします♪」
七夏「柚樹さん☆ また後で☆」
心桜「楽しみにしてていいからねっ!」
時崎「ああ!」

三人は、2階へ移動した。俺はPS3(ゲーム機)と「ぴよぴよ」を片付けておく。そう言えば七夏ちゃんが見せた涙の理由が気になったが、その後の七夏ちゃんの様子から、何か思い出が移り変わったのかも知れないな。大切な人の過去の記憶を引き出すのは、本人にとって辛い事も考えられる。少しずつでも、良い思い出へと変わってくれる事を願う。

この後、いよいよ三人と花火大会だ。皆で楽しめるよう、俺は気合を入れるのだった。


第三十三幕 完

----------

次回予告

色とりどりの花火! 浴衣 ! ふたつの虹を持つ少女には、どのように映るのだろうか?

次回、翠碧色の虹、第三十四幕

「夜華に舞う虹」

「みんなと一緒」を特に喜ぶ少女にとって、同じ感覚だと思ってもらう事は大切な事だ。

幕間二十八:幕間に間に合わないっ!?

幕間二十八:幕間に間に合わないっ!?

心桜「ふぅー!」
七夏「ここちゃー☆ お疲れ様です☆」
心桜「つっちゃーもね! 色々とゴメンね!」
七夏「え!? 私は大丈夫です☆」
心桜「でもさ、今回の本編のお話し『第三十三幕:移り変わる虹』ってさ、後半は幕間か随筆っぽくなってない?」
七夏「え!? えっと・・・」
心桜「さては、本編と幕間を融合させて1回の投稿で済ませようって魂胆か!? そうなのか!?」
七夏「ひゃっ☆」
心桜「あ、ゴメン!」
笹夜「まあ、型にはまらない事をされるのも良いのではないかしら?」
心桜「笹夜先輩からそのようなお言葉が出てくるとは」
笹夜「変かしら?」
心桜「いえ、別にそういう訳では・・・」
七夏「笹夜先輩☆ ぐっすりお休みできましたか?」
笹夜「ええ♪ 風水に来て、すぐにお休みしてしまってすみません」
七夏「いえいえ☆」
笹夜「私がお休みしている間に何があったのかしら?」
心桜「これです!」
笹夜「それは、ぴよぴよ?」
心桜「対戦型パズルゲームです! つっちゃーと遊んでました!」
笹夜「まあ♪」
心桜「笹夜先輩は、こういうパズル得意そうですよね?」
七夏「はい☆」
笹夜「どうかしら? 前に『テットリス』なら遊んだ事がありますけど」
心桜「おぉ! お兄さんと一緒か!」
笹夜「え!? 時崎さん?」
時崎「俺が何か?」
笹夜「きゃっ!」
時崎「あ、ごめん!」
笹夜「いえ・・・その・・・心桜さんのお気持ち、色々とよく分かりました」
心桜「???」
七夏「柚樹さん☆ 今日はお時間あるの?」
時崎「いや、そんなになくて、ごめん。今、ちょっと通りかかっただけ」
七夏「そうなんだ」
時崎「だから、すぐに部屋に戻るつもり」
七夏「はい☆ 後で冷茶をお持ちしますね☆」
時崎「ああ! ありがとう! じゃ!」
心桜「あら~、お兄さん、久々の幕間登場なのに、そのままスルーですか」
笹夜「時崎さんも色々とお忙しいのかしら?」
心桜「だね・・・以前よりは、忙しそうな感じがするけど」
笹夜「アルバム作り、私たちも何かできる事はないかしら?」
七夏「柚樹さん、後で、前みたいにみんなのコメントがほしいって話してました☆」
笹夜「はい♪」
心桜「りょーかーい!」
笹夜「それで、その『ぴよぴよ』をみんなで遊んでいたのかしら?」
心桜「そそ! 笹夜先輩もぴよってみます?」
笹夜「え!? えっと、私は見てる方がいいかしら?」
心桜「ほほうー。笹夜先輩は、遠くから見つめるタイプ・・・っと」
七夏「ここちゃー! 笹夜先輩! すみません!」
笹夜「いえいえ♪ でも、心桜さんの話したこと、当たってるところがあると思います」
心桜「つまり、スナイパーだね!」
笹夜「え!?」
七夏「???」
心桜「あー、これは通じなかったか・・・まあいいや!」
笹夜「こういうパズルゲームは、美夜の方が得意かしら?」
心桜「美夜っちか! 分かる気がする!」
笹夜「集中して画面を見ていると、目が疲れてきますから・・・」
心桜「ゲームは1日一時間!」
七夏「くすっ☆」
心桜「勉強も1日一時間っ!」
七夏「え!?」
笹夜「まあ!」
心桜「だってさぁ、遊びと勉強の時間がイコールじゃないと不公平じゃない?」
笹夜「どうなのかしら?」
七夏「えっと・・・」
心桜「でも、今日は既に2時間くらいゲームで遊んで、宿題してないからなぁ・・・」
七夏「私も、ここちゃーと同じです・・・」
笹夜「でもまあ、土日は宿題お休みされてる訳ですから♪」
心桜「もっと、宿題が『ぴよぴよ』みたいに楽しかったらいいのになぁ」
七夏「くすっ☆」
笹夜「確かに、宿題に限らず、楽しくお勉強ができる方法を考えるのは、とても良い事だと思います♪」
心桜「だねっ!」
笹夜「楽しいと、積極的になれますので♪」
七夏「はいっ☆」
心桜「あたし、自由研究、それにしようかなぁ?」
七夏「え!?」
心桜「楽しくない勉強を廃止する方法を考える!」
笹夜「まあ! 言葉の選び方次第な所は、あるかも知れませんけど・・・」
心桜「覚える事だけではなくて、楽しく考える事が大切なんじゃないかな?」
七夏「楽しくなるお勉強方法・・・」
心桜「それを考えるのが教師の仕事なんじゃない?」
七夏「ここちゃー、凄いです!」
笹夜「確かに、そうなってくれるといいですね♪」
心桜「って事で、もう少し、つっちゃーとぴよってから、次の準備をいたしますか!」
七夏「え!? 私はもう沢山楽しめましたので☆」
心桜「本当のお楽しみは、これからもたくさんあるよ!」
七夏「はい☆」
心桜「つっちゃーも大変だろうけど、楽しんでゆこう! 笹夜先輩も!」
笹夜「ええ♪」
心桜「って事で、つっちゃーが楽しむ『翠碧色の虹』本編はこちら!」
心桜「http://nanatsuiro.my.coocan.jp/nnt_frma_a.htm」
七夏「楽しいこと☆ 楽しいこと☆」
心桜「そして、あたしと笹夜先輩も楽しむ『ココナッツ』宛てのお便りはこちら!」
心桜「http://nanatsuiro.my.coocan.jp/nnt_suiheki_novel.htm#QUESTIONNAIRE」
七夏「あ! おたよりも待ってますね☆」
笹夜「私も、お待ちしております♪」
心桜「よーし、なんだかテンション上がってきたぁ!!!」
七夏「くすっ☆」
心桜「なんとか幕間に間に合ったか!」
七夏「え!?」
笹夜「まあ♪」

幕間二十八 完

------------

幕間二十八 をお読みくださり、ありがとうございました!
本編の方も鋭意制作中ですので、どうぞよろしくお願い申しあげます!

随筆三十:どおして間違えられるの?

随筆三十:どおして間違えられるの?

七夏「ここちゃー☆」
心桜「ん?」
七夏「えっと、おたよりです☆」
心桜「おおっ! 今回もさくっとまいりますか!」
笹夜「おたより、ありがとうございます♪」
七夏「ありがとうです☆」
心桜「ありがとねっ! よし! つっちゃー! 読んでみよう!」
七夏「はい☆ えっと、ペンネーム『忘れな傘』さん」
心桜「わすれなかさ?」
笹夜「どのような文字かしら?」
七夏「えっと・・・」
笹夜「なるほど♪ 『忘れな草』からかしら?」
七夏「あっ☆」
心桜「どした? つっちゃー!?」
七夏「忘れな草・・・綺麗なお花です☆ 小説『この花』にも登場しました☆」
笹夜「ええ♪」
心桜「花の名前か・・・でも傘だよね?」
七夏「えっと・・・はい。あ、続きを読みますね☆『ココナッツ笹夜さん、こんにちは!』」
笹夜「え!?」
心桜「ちょっ、ココナッツ笹夜さんって何?」
笹夜「心桜さん、七夏ちゃんのココナッツと、私の事かしら♪ 七夏ちゃん、続きをお願いします♪」
七夏「はい☆ 『私はわりと不幸に合うタイプで、この前も喫茶店で傘を誰かに間違えられて持ってゆかれました。他にも靴を間違われて持ってゆかれたり、自転車が無かったり・・・一緒に居る友達はそんな事が全然無いので、何が違うのか分かりません。一応、厄払いもしてもらいましたが、傘を持ってゆかれたのはその矢先だったりします。どうすればこのような事が起こらないようになるのでしょう?』・・・えっと、どうすればいいのかな?」
心桜「んー・・・それで・・・か」
笹夜「心桜さん? 何か分かったのかしら?」
心桜「いえ、ペンネームの『忘れな傘』の意味に関してちょっと分かっただけです」
笹夜「まあ!」
心桜「これ、重たいね・・・さくっと解決できるかなぁ?」
七夏「どおして、傘を間違えられるのかなぁ?」
心桜「! それだ!」
七夏「ひゃっ☆」
笹夜「きゃっ!」
心桜「あ、ごめ! 今、つっちゃーが話した事!」
七夏「え!?」
心桜「つまりさ、傘を間違えられるって事は、平凡なデザインの傘を買うからじゃない?」
笹夜「なるほど♪」
心桜「誰でも持ってそうなコウモリ傘や、透明なビニール傘とかは、間違えられる可能性が大きいと思うよ」
笹夜「では、どのような傘が良いのかしら?」
心桜「魁! 忍塾! とか派手に記しとけばいいかもねっ!」
笹夜「何かしら? そのお名前は?」
心桜「え!? 笹夜先輩は『しのぶじゅく』をご存知で無いと申されますか!?」
笹夜「ええ・・・その・・・すみません」
七夏「『忍』という事は、余り目立ってはならないのかな?」
心桜「うっ!」
笹夜「まあ!」
心桜「時々、つっちゃーの切れ味が、笹夜先輩を超える事があるから恐ろしや~」
七夏「えっと・・・」
心桜「んじゃ、傘に盗難防止装置を付けるとか!?」
笹夜「そこまでされなくても」
心桜「持ってったら地獄の果てまで粘着します!」
七夏「ここちゃー怖いです」
笹夜「でも、間違われてるって事は、代わりに同じような傘が残っていたという事かしら?」
心桜「同じような傘ねぇ・・・」
七夏「どしたの? ここちゃー?」
心桜「多くの場合、ダウングレードになってると思う!」
七夏「だうんぐれーど?」
笹夜「それって・・・」
心桜「持ってかれた傘よりも質の悪い傘になってるって事! 持ってかれた靴に関しても同じ、自分のよりボロボロの靴しか残ってないっ! 自転車は、サドルでも取っておけば間違えられないんじゃない?」
七夏「自転車は『無かった』って記されてます」
心桜「そだっけ? まあ、同じような事だよ。あたしが言いたいのは、間違える奴は絶対自分のより良いやつを持ってゆくって事! これ確信的! しかも、靴に関しては間違えてったヤツの靴を履いて帰らなければならないなんて靴辱的! 何の罰ゲームだよこれ!?」
笹夜「心桜さん、屈辱的の間違いでは?」
心桜「あはは! 要するに綺麗なのはターゲットになりやすいって事! 笹夜先輩! お気をつけくださいませ!」
笹夜「え!? えっと・・・」
七夏「間違えられないようにするには、誰よりも早く帰ればいいのかな?」
心桜「お! それもひとつの方法だね! もっと攻めるなら、傘の持ち手に画鋲を、靴にはザリガニでも入れとけばいいんじゃない!?」
七夏「え!?」
心桜「そしてそして、自転車はサドルを取って、代わりにブッコロリーでも突っ込んどけば---」
笹夜「心桜さん・・・ブロッコリーでは?」
心桜「突っ込まれたぁー!」
七夏「もう、ここちゃー!」
心桜「あっ! ブロッコリーよりもカリフラワーの方が良いかも!? 『サドル(仮)』みたいな~」
七夏「えっと、どうすれば・・・」
心桜「んで、知らずに自転車持ってった人がカリフラワーを---」
笹夜「心桜さん! ふざけ過ぎです!」
心桜「あはは! すみませんっ! でもさ、ひとつひとつ真面目に対処すれば事故は起こりにくくなると思うよ」
笹夜「そうですね。傘は折りたたみ傘にして持っておくか雨合羽に変える。靴は鍵付のロッカーのあるお店を利用する。自転車は鍵を二つ以上かける。これで、結果は随分と変わってくると思います♪」
心桜「おぉ! さすが手堅い! ザリガニも結構手堅いと思うけど」
笹夜「それはザリガニの手が硬いだけで・・・って、あれは手なのかしら?」
心桜「さあ? 前足?」
七夏「確か、『ハサミ脚』って言われていような・・・」
心桜「あー確か、そんな素材あったような」
七夏「素材!?」
心桜「ザガニシリーズの武器を作るのに必要だった」
笹夜「何のお話かしら?」
心桜「まあ、とにかく、あたしたちからは、持ってゆかれた直後は、特に気を付けるべきだという事かな?」
七夏「どういうことなの?」
心桜「持ってゆかれる。→新しいのを買う。→周りよりも綺麗で目立つ。→ターゲットにされる。この悪循環が始まるからね」
笹夜「なるほど♪」
心桜「という事で、つっちゃーも気を付けるんだよ!」
七夏「え!? は、はい☆」
心桜「んじゃ、これからもつっちゃーが気を付ける『翠碧色の虹』本編はこちら!」
心桜「http://nanatsuiro.my.coocan.jp/nnt_frma_a.htm」
心桜「あたしたち『ココナッツ』宛ての、お手紙はこちら!」
心桜「http://nanatsuiro.my.coocan.jp/nnt_suiheki_novel.htm#QUESTIONNAIRE」
笹夜「心桜さんは、ふざけているのか、しっかりされているのか、分かりません」
心桜「あはは! 一応、自力で軌道修正は出来ると思ってます!」
笹夜「ええ♪」
七夏「くすっ☆ おたより、ありがとうございました☆」
笹夜「ありがとうございます♪」
心桜「ありがとうございました!」

随筆三十 完

------------

随筆三十をお読みくださり、ありがとうございました!
本編の方も鋭意制作中ですので、どうぞよろしくお願い申しあげます!

第三十四幕:夜華に舞う虹

第三十四幕:夜華に舞う虹

幼い頃は花火大会や夜店に心躍ったりしたけど、ここ数年はご無沙汰だった。その気になれば花火を見にゆく事だって出来たはずだけど、人が多い所で写真を撮影するのを拒もうとする自分が居た。写真を撮影する事を考えなければ良いのかも知れないけど・・・。でも、今日は今までと違ってとても楽しみにしている。七夏ちゃんたちに感謝しなければならないな。

七夏ちゃん、天美さん、高月さんの三人は浴衣に着替えている。その間に俺は写真機の準備と確認を行っておく。自分の部屋に荷物を取りに2階へ上がった時、楽しそうな三人の声が聞こえてきた。会話の内容が気にはなったが、盗み聞くのは良くないので、そのまま居間へ戻って七夏ちゃん達を待つ。

心桜「あ! お兄さん!」
時崎「え!? あっ!」
心桜「あはは! 絶句してる!」
時崎「なっ!」
心桜「慣れないと、ちょっと恥ずかしいね」

初めて見る天美さんの浴衣姿。いや、浴衣姿なら民宿風水の浴衣姿は見てはいたけど、今の天美さんの華やかな浴衣は、普段のイメージと大きく異なった。赤と橙を基調とした少し派手な浴衣だけど、膝くらいまでしかない短い丈に目を奪われる。

時崎「天美さん、その浴衣、膝丈が結構短いね」
心桜「そだね。今はこういう動きやすい浴衣もあるみたいだね!」
時崎「なるほど、動きやすさか・・・天美さんに良く似合ってると思うよ」
心桜「そうでしょ! ありがと!」

天美さんは手に持った下駄をその場で履いて見せてくれた。

心桜「見よ! これで、完全体だっ!」
時崎「え!?」

天美さんは、その場でポーズを取った。これは・・・そういう事か!

時崎「んじゃ、天美さん、そのままで!」
心桜「~♪」

俺は、華やかな天美さんの浴衣姿を一枚撮影した。

時崎「ありがとう! 天美さん!」
心桜「いやいや、こちらこそ!」
時崎「でも、ここは土足禁止だよ!」
心桜「下駄は初回限定で土禁免除だよ!」
時崎「まあ、確かにそうだけど」
心桜「この下駄はまだ、外の世界を知らない箱入り娘!」
笹夜「心桜さん! その言い方、なんとかならないかしら?」
心桜「あはは!」

天美さんに次いで、高月さんも姿を見せた。

笹夜「時崎さん♪ お待たせしました♪」
時崎「た、高月さん!」
心桜「あっ! お兄さんどもった!」
時崎「うっ!」

高月さんの浴衣姿は、優しい緑色基調で、天美さんの浴衣とは違う上品さが漂ってくる。裾丈も足首まで届く一般的な浴衣だ。控えめな髪飾りと相まって高月さんのイメージに良く似合っていると思う。

笹夜「おかしくないかしら?」
時崎「とても上品で、高月さんのイメージとよく合っていると思うよ!」
笹夜「まあ♪ ありがとうございます♪」
心桜「笹夜先輩も一枚撮ってもらうといいよ! お兄さん!」

天美さんが写真を撮るポーズをする。

時崎「あ、ああ。高月さん!」
笹夜「はい♪」

高月さんは、特にポーズを決める訳ではなかったけど、それが高月さんらしい所でもある。自然で上品な高月さんを一枚撮影した。

時崎「ありがとう! 高月さん!」
笹夜「はい♪」
心桜「つっちゃーは?」
笹夜「もうすぐだと思います♪」
心桜「お兄さん!」
時崎「え!?」
心桜「つっちゃーが、どんな浴衣か予想できる?」
時崎「七夏ちゃんの浴衣姿か・・・そうだな・・・」

七夏ちゃんがどんな浴衣姿なのか・・・それはつまり、七夏ちゃんの好みを理解できているかどうかという事になる。これまでの七夏ちゃんの行動や好みを振り返る。セブンリーフが好きだから若葉色基調かと思ったけど、高月さんが緑色基調の浴衣姿だから今回はそれはないだろう。他に思い付くのは・・・七夏ちゃんは何色が好きかという事が大きく影響するはずだ。

<<七夏「えっと・・・私は、この優しい緑色がいいかなって、思ったんですけど、こっちの青色も可愛いなって・・・でも、青色のは持ってるから・・・」>>

目を閉じて考えていると、何故か七夏ちゃんが水着を選んでいた時の記憶が蘇った。他にも白地に青いラインのワンピース姿、お部屋でうたた寝していた時の姿・・・これらを統合すると---

笹夜「時崎さん!?」
心桜「お兄さん、結構悩んでるねー」
時崎「七夏ちゃんは、青色の浴衣だと思う!」
七夏「え!?」

目を開けると、浴衣姿の七夏ちゃんが居た。浴衣の色は青色を基調とした涼しそうな印象で可愛い。

笹夜「まあ♪」
心桜「おお! お兄さん! すご!」
七夏「えっと・・・」
時崎「七夏ちゃん! 思ったとおり、とってもよく似合ってるよ!」

本当は「よく似合ってて可愛い」と言いたかったけど、言えなかった。

七夏「ありがとです☆」

七夏ちゃんの浴衣姿も裾丈は長く、一般的な浴衣姿と言える。普段の民宿風水の浴衣姿との共通する所もあるような、安心感を与えてくれる素敵な浴衣だと思う。

心桜「はい! つっちゃー! こっち!」
七夏「え!?」
心桜「お兄さんっ!」
時崎「了解! 七夏ちゃん!」
七夏「は、はい☆」

俺は、七夏ちゃんの浴衣姿を撮影した。

心桜「んで、笹夜先輩!」
笹夜「え!?」
七夏「ひゃっ☆ こ、ここちゃー☆」
心桜「お兄さん! もう一枚!」
時崎「ああ!」

天美さんが、七夏ちゃんと、高月さんを引き寄せて三人一緒になったところを撮影した。

心桜「ありがと! お兄さん!」
七夏「くすっ☆」
凪咲「あら! 三人とも、とっても素敵ね♪」
笹夜「ありがとうございます♪」
凪咲「心桜さんの浴衣は、裾丈が短くて珍しいわね」
心桜「はい! 動きやすさ重視です!」
七夏「今は、ここちゃーみたいな浴衣も人気みたいです☆」
心桜「これで、犬に裾を噛まれる事もないっ!」
笹夜「まあ! 心桜さん・・・それで丈の短い浴衣を?」
七夏「ここちゃー、気にしなくてもいいよ☆」
心桜「あはは! 今のは、そんな事もあったなーってだけで、どっちにしても動きやすい方がいいから!」
凪咲「柚樹君」
時崎「はい」
凪咲「七夏達のこと、よろしくお願いしますね」
時崎「はい! 任せてください!」
心桜「お兄さん! 頼りにしてるよ!」
笹夜「時崎さん、よろしくお願いします♪」
七夏「柚樹さん、よろしくです☆」
時崎「ああ! それじゃ!」
心桜「待ってろよ! 花火~!」
七夏「くすっ☆」

写真機を持って歩くのと、華やかな三人の様子を見ながらだと、自然と三人の後を付いてゆく形となる。七夏ちゃんが時々、俺の事を気遣ってくれる。この構図、以前、海に出掛けた時の事を思い出す・・・ん?
なんか、天美さんが蛇行というのだろうか? ジグザグと斜めに歩いているようだけど、これは?

時崎「天美さん、どうしたの?」
心桜「ん? 暑いから日影をなぞってただけ」
七夏「くすっ☆」
時崎「日影!?」
心桜「っそ!」
そう言うと天美さんは、長くなった電柱の影をなぞるように歩いては、次の電柱の影へ身を重ねる・・・それが結果的にジグザク歩きになっていたようだ。
時崎「なるほど」
笹夜「心桜さん、危ないですよ」

天美さんの事をを心配して高月さんが軽く注意をする。

心桜「あはは! 大丈夫ですって!」
七夏「昔みたいに家の近くの商店街でも、夜店があればなぁ☆」
笹夜「七夏ちゃんのお家の近くで夜店があったのかしら?」
七夏「はい☆」
心桜「そう言えば、昔はあったよね? いつから無くなったんだっけ?」
七夏「私たちが中学1年生の頃だったかなぁ?」
心桜「そんなに前の事でも無いんだよね?」
七夏「今は、駅前の商店街で夜店を行うようになりました」
笹夜「そうなの・・・」

七夏ちゃんは昔の事を想ってなのか、少し寂しそうな表情に思えた。

心桜「でもさ、駅前だってそんなに遠い訳じゃないし、夜店の規模も大きくなって花火も見れるようになったからね!」
七夏「はい☆」

七夏ちゃんたちの幼い頃の事を俺は知らないけど、以前に凪咲さんが見せてくれたアルバムの幼い七夏ちゃんの姿と、今のお話を重ねて考える。だけど、幼い頃の七夏ちゃんの笑顔を俺は知らないから、今の七夏ちゃんの笑顔をさらに重ねるしかない。何度も記憶を重ねると、もうそれは本当の思い出ではなく、都合良く合成された思い込みとなってしまう。凪咲さんが俺の撮影した笑顔の七夏ちゃんを見るまで、もしかすると凪咲さんは幼い頃の笑顔の無い七夏ちゃんの写真と、凪咲さんの記憶の中の七夏ちゃんの笑顔とを差し替えて見ていたという事になるのか・・・凪咲さんの涙の意味を少しだけ理解できたような気がする。

七夏「柚樹さん?」
時崎「え?」
七夏「どしたの?」
時崎「ああ、なんでもない」

七夏ちゃんが気にかけてくれる。三人の後ろを歩くのは、俺にとっては華やかで良いのだけど、一般的視点では問題なのかな? その事を読まれたかのように、俺の隣を七夏ちゃんが寄り添うように合わせてくれた。七夏ちゃんに心配をかけるような事にならないよう、気を付けなければならないな。

七夏「くすっ☆ 」
心桜「よっ! ご両人!」
笹夜「まあ♪」
時崎「え!?」
七夏「・・・・・」

・・・この場合、からかってきた天美さんを、高月さんが注意してくれそうな気がしたけど、高月さんも天美さん寄りの状況だ。

時崎「なんて返せばいいのだろうか?」
七夏「え!?」
心桜「お兄さん! 声に出てるよ!」
時崎「声に出してるんだよ!」
心桜「あはは!」

三人は、お互いにそれぞれの相手が孤立しないよう、気を遣っている。その中に俺も加わっていいのだろうか?

心桜「駅前はさすがに、人が多いね!」
笹夜「お昼頃は、まだそんなに人も多くは無かったのですけど」
時崎「はぐれないように気をつけないと・・・七夏ちゃん!」
七夏「はい☆」
時崎「何か見てみたいお店とかある?」
七夏「えっと、どんなお店があるか分からないから順番に見るのがいいかな?」
時崎「了解!」

夜店の会場に付くと、多くの人がいて混みあっている。三人の浴衣姿はとても目立っていたと思っていたけど、周りに浴衣姿の人が多い為、夜店の舞台と上手く馴染んでいる。逆に私服の俺の方が浮いているような気がした。

心桜「お兄さんも、浴衣で来れば良かったかもね!」
時崎「今、そう思ったりしたよ」
笹夜「時崎さんの浴衣。似合うと思います♪」
時崎「ありがとう、高月さん! 次に来る事があれば、浴衣を考えてみるよ」
七夏「え!?」
笹夜「はい♪」
時崎「それにしても、何から見て回るか・・・だけど」
心桜「まずは食べ物からかな!?」
時崎「天美さん、お腹すいたの?」
心桜「あはは! まあ、それもあるけど、食べ物系を後に回すと手が塞がるからね!」
時崎「手が塞がる?」
心桜「っそ! 例えば風船ヨーヨーとか先に遊ぶと---」
時崎「なるほど!」
心桜「昔、つっちゃーが先に風船ヨーヨー始めて、後でたこ焼きを食べにくそうにしてたよね!」
笹夜「まあ!」
七夏「もう・・・ここちゃー!」

天美さんから、昔の七夏ちゃんの事が聞けて嬉しく思う。やはり、七夏ちゃんの事を引き出すには天美さんの力が必要だと思った。

時崎「あ、そうそう! 凪咲さんから、今夜のお夕食代とおこずかいを預かってるから、会計は全て俺に任せて!」
七夏「え!? お母さんが?」
時崎「ああ! 俺も驚いたくらい、充分頂いてるから! みんなで、楽しんでほしいって!」
心桜「うわぁ~い!!」
笹夜「いいのかしら?」
時崎「高月さんもご遠慮なく!」
笹夜「ありがとうございます♪」
心桜「でも、お兄さん、凪咲さんからって言わない方が株上がったかもね!?」
時崎「黙ってても、いずれ分かる事だよ」
笹夜「話された事で、時崎さんの株は上がったと思います♪」
時崎「そ、そうかな?」
笹夜「ええ♪」
七夏「・・・・・」
時崎「七夏ちゃん? どうしたの?」
七夏「え!? いえ、何でもないです」
笹夜「?」
心桜「たこ焼き、焼きそば、いか焼き、お好み焼き・・・色々あるね~。笹夜先輩! どれにします?」
笹夜「少し喉が渇いたかしら?」
心桜「あ、かき氷があるよ! みんなでかき氷にしようよ!」
時崎「了解!」
心桜「あたし、イチゴ!」
笹夜「では、メロン味をお願いします♪」
七夏「えっと、この青いラムネ味をひとつ、柚樹さんは?」
時崎「俺? そうだな・・・みぞれ味で」
七夏「くすっ☆」

三人、それぞれの「かき氷」を頼んで、会計を済ませる。偶然なのか、三人の浴衣の色とかき氷の色とが一致しているのが印象的だったので、そのまま三人を撮影した。

心桜「お! お兄さん!?」
時崎「綺麗に揃ったなーと思ってね!」
心桜「揃うって何が?」
時崎「浴衣の色と、かき氷の色!」
七夏「くすっ☆」
笹夜「まあ♪」
心桜「ホントだ! お兄さんもだね!」
時崎「あ! 確かに、みぞれと白系のシャツか・・・」
七夏「みんな一緒です☆」

七夏ちゃんも普段どおりの笑顔で楽しんでくれているみたいで少し安心する。というのは、先ほど七夏ちゃんが少しだけ見せた影の表情・・・以前に高月さんが話してた事---

<<笹夜「上手く言えないのですけど、幸せと、少し不安を合わせたような感じ・・・かしら?」>>
<<時崎「不安!?」>>
<<笹夜「・・・はい」>>

もし、七夏ちゃんが不安に思う事があるなら、取り除いてあげたい。だけど、その事に気付いても、なかなかどうすれば良いのか分からないままだ。

心桜「お兄さん!」
時崎「え!?」
心桜「かき氷、早く食べないと、溶けちゃってるよ!」
時崎「あ、ああ」

確かに後半は、氷ではなく、甘く冷たい砂糖水となっていた。

その後、三人は、たこ焼き、焼きそば、お好み焼きをそれぞれ注文して、お互いに分け合って楽しんでいた。

七夏「あっ☆」
時崎「七夏ちゃん!? りんご飴か!」
七夏「はい☆」
時崎「ひとつ買ってみよう!」
七夏「え!? あっ! 柚樹さん!」
時崎「はい! 七夏ちゃん!」

七夏ちゃんに、りんご飴を手渡す。

七夏「えっと、ありがとです☆」
時崎「りんご飴と浴衣姿は絵になるよね! 一枚いいかな?」
七夏「くすっ☆ はい☆」
心桜「お! りんご飴か!」
七夏「はい☆ ここちゃーもどうぞです☆」
心桜「え!?」

七夏ちゃんが、りんご飴を天美さんに手渡す。

時崎「天美さん!」
心桜「なるほど、そういう事ね!」

そう話した天美さんは、りんご飴を持ってポーズを決めた。その様子を切り取る。

心桜「次は、笹夜先輩!」
笹夜「まあ♪ では♪」

天美さんから、りんご飴を受け取った高月さんは、とても上品に見えた。その様子をしっかりと納めた。

笹夜「はい♪ 七夏ちゃん♪」
七夏「くすっ☆」
心桜「りんご飴は夜店の定番だね~」
時崎「だけど、夜店でしか見ないよね?」
笹夜「そう言われると、見かけないかしら?」
七夏「綺麗な飴なのに」
心桜「でも、殆どりんごで飴ちょっとだよね?」
七夏「え!? えっと・・・」
心桜「つっちゃー、それ全部食べきれる?」
七夏「・・・が、頑張ってみます☆」

 ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆

七夏「うぅ・・・」
時崎「七夏ちゃん、無理しなくていいよ」

七夏ちゃんは、りんご飴を頑張って半分くらいは食べたみたいだけど、やっぱり一人では大変だろう。

七夏「でも・・・」
時崎「残りは俺が貰ってもいいかな?」
七夏「え? いいの?」
時崎「ああ。俺が勢いで買ったみたいな所もあるから、まかせて!」
七夏「ありがとう・・・です☆」

七夏ちゃんは、半分になったりんご飴を手渡してくれた。これって間接・・・と思ったりしたが、以前にも「あさりのおすまし」であった事なので、何を今さらと自分に言い聞かせる。俺がりんご飴を頂いている間、七夏ちゃんは少し申し訳なさそうな、恥ずかしそうな、ほのかに嬉しそうな・・・なんとも言えない表情を浮かべていた。

心桜「金魚すくいっ! ・・・は、やめとこう」
笹夜「まあ! 心桜さん好きそうな気がしましたけど」
心桜「あはは! 昔さ、つっちゃーと一緒に金魚すくって、あたしの家で金魚を飼ってたから、つっちゃーの分も一緒に持って帰ったんだけど、他の金魚が全て駆逐されたんだよ・・・食い意地が凄くてさ」
時崎「そんな事があったの?」
心桜「っそ。だから、フナ型の金魚は要注意なんだよね!」
時崎「なるほど」
心桜「って事で、こっちのスーパーボールすくいなら良いかもね!」
時崎「天美さん、チャレンジしてみる?」
心桜「そだね! んじゃ!」

スーパーボールすくい中の天美さんを撮影した。

心桜「大量だね~♪」
時崎「さすが天美さん!」
心桜「すくうのではなくて、流れてくるのを受け止めるのがポイントかな?」
時崎「そうなんだ」

天美さんは、獲得したスーパーボールと、景品のスーパーボールとを交換するようだ。

心桜「すみません。4個貰うとしたら、どの大きさになりますか?」

そう話して、スーパーボール4個を七夏ちゃんと高月さん、そして俺にも分けてくれた。

時崎「ありがとう。天美さん!」
心桜「いえいえ! そう言えば、これも昔、つっちゃーと一緒に遊んで、つっちゃーの景品のスーパーボールは、なんとラグビーボール型だったんだよね!」
七夏「あっ・・・」
心桜「んで、それを、あたしが地面にバイーンってしたら、見失っちゃってさ・・・ゴメン」
七夏「くすっ☆ 私は大丈夫です☆」
心桜「あの時は、必死で探してるあたしに対して、つっちゃーは放心状態だったよね」
笹夜「なんとなく、分かります♪」
七夏「あの時、ここちゃーが代わりにくれたのは、大切に持ってます♪」
心桜「そっか。フナ型、ラグビー型には警戒せよ!」
七夏「くすっ☆」
心桜「ゲームソフトかぁ・・・これは当たんないだろうなぁ~」
時崎「天美さん、挑戦してみる?」
心桜「いや、いい。やめとくよ」
時崎「お! 堅実だね!」
心桜「ゆう・・・あ、あたしの弟が結構はまってさ。その後、夜店で何も買えなくなったんだよ」
時崎「そ、そう」
心桜「結局、あたしが弟の分まで面倒見る事になってさっ!」
時崎「なかなか大変なんだね」
笹夜「あら?」
時崎「高月さん、何か気になるのあった?」
笹夜「このペンダント、綺麗です♪」

ペンダントはムーンストーンと記されていた。

時崎「ムーンストーン。月の石って、こんなに綺麗なの?」
笹夜「え!? あ、これは月の光のような石ですので、ムーンストーンって呼ばれてます♪」
時崎「・・・ごめん」
笹夜「いえ・・・」
時崎「ちょっとボケてみただけで・・・」
笹夜「まあ!」

ボケてみたのは俺の作戦であり、普通に買ってあげると話しても、高月さんは遠慮をしてくるだろう。

時崎「お詫びに、これ買ってあげるよ!」
笹夜「え!? でも・・・」
時崎「よく似合うと思うから、俺からのお願いで!」
笹夜「・・・ありがとうございます♪」
七夏「あ、笹夜先輩、素敵です♪」
笹夜「ありがとう、七夏ちゃん♪」
心桜「大判おせんべいがあるっ!」
時崎「お、懐かしいな! よし! 2枚ください」

大判おせんべいは、自分の名前を伝えると、ソースで名前を書いてくれ、その上に青海苔を振りかけてくれるのだが---

店主「お名前は?」
時崎「ベタでお願いします!」
心桜「お!? お兄さん!?」
時崎「なに?」
心桜「お兄さんの名前って『ユタ』だよね?」
時崎「そうだけど?」
心桜「今さ『ベタ』って言わなかった?」
時崎「ああ」
店主「あいよ! お待たせ!」
時崎「どうも!」
心桜「こ、これは!?」

「ベタ」と言うと、名前ではなく、おせんべいの表面全てにソースを塗って青海苔を振りかけてくれる「ベタ塗り仕様」となる。

時崎「この『ベタ』が一番、お得な気がする!」
心桜「し、知らなかった!」
時崎「はい! 天美さん! 一枚どうぞ!」
心桜「わぁー! ありがとー! ベタお兄さんっ!」
時崎「んなっ!」
心桜「あははっ!」

やっぱり、天美さんの方が一枚上のような気がする。

心桜「笹夜先輩! 大判おせんべいどうぞ!」
笹夜「まあ♪ ありがとう♪」

天美さんは、高月さんに半分大判おせんべいを手渡す。俺も七夏ちゃんにおせんべいを半分に割って渡す。

七夏「ありがとです☆ これって」
心桜「ベタお兄さんからだよ!」
笹夜「え!?」
七夏「ベタお兄さん?」
時崎「天美さんっ!」
心桜「あはは! 言い間違い・・・ユタお兄さんでした!」
七夏「ユタお兄さん☆ ありがとです☆」
時崎「え!?」
七夏「くすっ☆」
心桜「お! 飴細工があるっ! つっちゃー!」
七夏「はいっ☆」

天美さんに手を引かれ、七夏ちゃんたちは飴細工店へ駆けてゆく。

笹夜「二人ともっ!」
時崎「まあ、楽しそうだから、多少はいいんじゃないかな?」
笹夜「走るとあぶないですから」

確かに、天美さんは走りやすそうな浴衣だけど、七夏ちゃんは気を付けなければ転んでしまうかも知れないな。

時崎「人も多いから、あまり離れないように気を付けないと」
笹夜「ええ♪」

俺がそう話したからかどうか分からないけど、高月さんは少し俺の傍に寄ってきた。その時---

ドンッ!

笹夜「きゃっ!」

突然、大きな音に驚いた高月さんは、俺の腕に掴まってきた。高月さんの表情を大きな華が照らし出す。

笹夜「すっ、すみません!」
時崎「高月さん!」

恥ずかしさと申し訳なさの混じった表情で見つめてくる高月さんに対して、俺は夜空を指差し見上げた。

時崎「俺じゃなくて花火!」
笹夜「え!? ・・・はい♪」

天美さんと七夏ちゃんがこちらに戻ってきた。

心桜「花火! 始まったね!」
七夏「はい☆ とっても綺麗です☆」

色とりどりの花火の光は、三人を様々な色に変えてくれた。瞳の色が変わる「ふたつの虹」を持つ七夏ちゃんを不思議に思っていたけど、色が変わる現象そのものは世の中に沢山ある。珍しがる事は、見方によっては差別に繋がってしまう。他人と異なる特徴を気にしてしまうのは、誰にだってあるはずだ。三人と俺は、言葉無く花火の色に染まっていた。

 ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆

心桜「ふー、花火終わりかな?」
七夏「とっても綺麗でした☆」
笹夜「ええ♪ 音がとっても大きくて驚きました♪」
心桜「笹夜先輩! 飴細工店で凄く綺麗な飴があったよ!」
笹夜「そうなの?」
心桜「最後にみんなで『運試し』やってみない!? もちろん、お兄さんもっ!」
時崎「おっ! いいね!」

皆で飴細工店に向かう。そこに並ぶ飴は、とても細かい造形の動物や乗り物の飴・・・まるでガラス細工で出来たように綺麗だった。

時崎「これは、凄いな!」
心桜「でしょ! このくじ引いて、当たったら貰えるんだって!」
時崎「よし! すみません! 四人分お願いします!」
店主「ありがとう! では、こちらから引いてください」
時崎「七夏ちゃん! 高月さん!」
心桜「いっせーのーでっ!」

筒に入った棒状のくじを、四人一斉に引いた。

心桜「あら~」
七夏「えっと・・・」
時崎「これは・・・」
笹夜「まあ!」
心桜「さ、笹夜先輩のだけ、棒の先の形が違う!」
店主「お、お譲ちゃん! 当たりだよ! おめでとう! この中から好きなの選んで!」
笹夜「ええっと・・・」
七夏「笹夜先輩☆ 凄いです☆」
店主「他の三人は、残念! こっちからどうぞ」
心桜「あははーはぁ・・・」

こうして、高月さんは、見事にガラス細工のような飴を手にした。高月さんが選んだ飴は孔雀だろうか、長い羽はたたまれているが、その姿は優美で高月さんのイメージと重なった。高月さんが翼を広げて羽ばたく姿・・・百貨店でのピアノ演奏を思い浮かべる。
高月さん以外は、はずれの飴・・・これは、どう表現すればいいのだろうか? 割り箸の先に水飴を付けて、薄く丸い麩菓子で挟んだような物だ。

時崎「この『はずれ飴』も、りんご飴と同じく夜店でしか見かけないな」
心桜「そだねー」
七夏「ふわふわしてて可愛いです☆」
笹夜「すみません、私だけ・・・」
心桜「いえいえ、絵的には今の状態がいいんじゃない?」
時崎「絵的か・・・よし! 一枚撮るよ!」
七夏「はい☆」

俺は、飴を持つ三人を撮影した。

時崎「高月さん! 笑って!」
笹夜「は、はい!」

飴を持つ三人をもう一枚撮影した。

心桜「ありがとね。お兄さん!」
七夏「他に見ておきたいお店、ありますか?」
笹夜「私は十分に楽しめました♪」
心桜「あたしも! つっちゃーは?」
七夏「私も、たくさん楽しめました」
時崎「じゃ、風水に戻りますか」
七夏「はい☆」

夜店を見ながら駅前へと向かう。帰る途中、俺はある夜店に目が留まる。

七夏「柚樹さん? どしたの?」
心桜「ん? お兄さん?」
時崎「ちょっと、すまない。あれを買ってきていいかな?」
笹夜「はい♪ では、ここで待ってます♪」
時崎「ありがとう!」

俺は夜店で「プチカステラ」を買った。

心桜「お兄さん、プチカステラ?」
時崎「そう」
笹夜「まあ♪ 時崎さん、お好きなのかしら?」
七夏「・・・・・」
時崎「まあ、好きだけど、これは凪咲さんへのおみやげにと思ってね」
心桜「お兄さん、なかなかできてますなぁ!」
時崎「まあ、凪咲さんからご支援を頂いてるからね。勿論みんなの分もあるよ!」
心桜「わぁーい!」
七夏「柚樹さん!」
時崎「え!?」
七夏「色々、ありがとうです☆」
笹夜「~♪」

風水へ戻る帰り道、辺りはすっかり暗くなっていた。花火大会が終わった後の少し寂しい感覚・・・三人の浴衣を照らす光も少なくなって、華やかさが控えめになった事も寂しい感覚へと繋がってゆく。その代わり、静かな夜道を歩く三人の足音と、虫の音が心地良く、今度は耳を楽しませてくれる。

心桜「浴衣で夜店は久々だったけど、楽しかった!」
七夏「はい☆」
笹夜「私も楽しかったです♪」
心桜「そう言えば、笹夜先輩と一緒に夜店は初めてですよね!」
笹夜「ええ♪ 昔の七夏ちゃんと心桜さんのお話も聞けました♪」

その頃の七夏ちゃん達と高月さんは、まだ出会ってなかったんだな。

七夏「ここちゃー、あんまり昔の事は・・・」
心桜「え!? いつもとそんなに変わんないでしょ?」
七夏「そうじゃなくて、柚樹さんも一緒だから・・・」
時崎「俺!?」
七夏「えっと、昔の事は恥ずかしいから・・・」
時崎「じゃ、俺も昔の事を七夏ちゃんに話すよ!」
七夏「え!?」
時崎「それじゃ、ダメかな?」
七夏「くすっ☆ また、機会があれば♪」
心桜「つっちゃー、今訊かないの? チャンスだよ!」
笹夜「心桜さん!」
心桜「え!? あ、そういう事ね!」
時崎「?」
七夏「・・・・・」

 ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆

七夏「ただいまぁ☆」
凪咲「お帰りなさいませ」
笹夜「ただいま・・・でいいのかしら?」
心桜「いいと思います! ただいま!」
七夏「くすっ☆ 」
時崎「ただいま。凪咲さん! これ!」
凪咲「あら? カステラかしら?」
時崎「はい、よかったらどうぞ」
凪咲「ありがとうございます♪」
七夏「花火、とっても綺麗でした☆」
笹夜「ええ♪」
心桜「夜店も楽しかったよー!」
凪咲「よかったわ。お風呂の準備、できてますから、みんなで流してくださいませ」
七夏「はーい☆」
凪咲「柚樹君は後でいいかしら?」
時崎「はい」
心桜「んでは、早速お風呂と参りますか?」
七夏「くすっ☆  柚樹さん、また後で☆」
時崎「ああ!」
笹夜「失礼いたします♪」
心桜「お着替え、お着替えっと!」

三人は、2階の部屋へと移動する。

時崎「凪咲さん!」
凪咲「はい?」
時崎「今日は、ありがとうございました。これ!」

俺は、凪咲さんから預かっていたお小遣いの残りを返す。

凪咲「あら? 残りは柚樹君のお小遣いにって話さなかったかしら?」
時崎「え!? でも結構な金額ですので」
凪咲「いいのよ! これからも七夏の事、よろしくお願いします」
時崎「・・・ありがとうございます。では、七夏ちゃんたちの為に、大切に使わせて頂きます!」
凪咲「ええ♪ 是非♪」
直弥「ただいま」
凪咲「お帰りなさい、あなた」
時崎「お帰りなさい!」
直弥「おお! 時崎君! 信号機の件、ありがとう! 直接お礼が言えてなくてすまない。凪咲から聞いてるよ」
時崎「いえ。俺自身も楽しめましたので!」
直弥「そうか!」
時崎「あと、無線ネットワークの設置と設定も済ませてますので」
直弥「時崎君は仕事が早いな!」
時崎「いえいえ。あ、無線ネットワークのアクセス用IDとパスワードは、直弥さんのお部屋の机の引き出しにメモを入れてます。凪咲さんにも同じメモを渡しています」
直弥「何から何まですまないね」
時崎「それは俺も同じです。凪咲さんや七夏ちゃんには、いつもお世話になってますので」
凪咲「ありがとうございます。柚樹君。あら? ナオ、その紙袋は?」
直弥「これかね? 駅前近くで売ってたんだ。今日は花火大会だったからね。プチカステラのおみやげだ」
凪咲「まあ!」
時崎「・・・・・」
直弥「!? 時崎君? プチカステラは苦手だったかい?」
時崎「いえ、好きですけど・・・」
凪咲「これ・・・柚樹君も同じおみやげを・・・」
直弥「そ、そうか!」
凪咲「ありがとう。二人からおみやげをもらえて嬉しいわ♪」
直弥「七夏は?」
凪咲「今はお風呂よ。今日は七夏のお友達も一緒。花火大会とお泊まりの日よ」
直弥「そうだったな。七夏の外浴衣は見れたのかい?」
凪咲「ええ♪ お友達も一緒でとっても可愛いかったわ♪」
直弥「そうか・・・僕も七夏の外浴衣姿を見たかったな」
時崎「写真を、撮ってますのでそれでよければ」
直弥「写真! そうか! 今年は時崎君が居て写真があるんだったな! 是非! お願いするよ!」
時崎「はい! 後ほど、アルバムにまとめてお渡しします!」
直弥「そうか! 楽しみにしてるよ!」
凪咲「私も楽しみだわ♪」
時崎「では、今日の撮影分もまとめますので、部屋に戻ります」
凪咲「はい♪」

部屋に戻って今日撮影した七夏ちゃん達の画像を、写真機からMyPadへと転送する。MyPadの大きな画面に映し出された七夏ちゃん達の浴衣姿は、記憶の中にあるのだが、華やかで嬉しくなってしまう。凪咲さんや直弥さんもきっと喜んでくれると思う。お部屋で三人別々に撮影していた浴衣姿の写真の輪郭を大まかに切り取って、三人一緒に並べてみると、より一層華やかさが増した。後で撮影した三人一緒の浴衣姿とはまた違う華やかさだ。

時崎「これは華やかでいいな! そう言えば!」

更に、ひとつのりんご飴を順番に持って撮影した三人も同じように合わせて見る。三人がみんな一緒にりんご飴を買ったような構図となった。ざっくりと切り抜くのはお手軽だけど、切り取った縁が気になるので輪郭の線を少し太くしてみた。

時崎「そんなにおかしくないから、これはこれで保存しておこう!」

「七夏ちゃんへのアルバム」の輪郭の切り取りは、もっと時間を駆けて自然な状態に調整する必要がある。その作業も少しずつ進めてゆく。

コンコン! と扉が素早く鳴った。この音は、七夏ちゃんではないな。

心桜「お兄さん!」
時崎「天美さん。どうぞ!」

扉が開いて、天美さんが姿を見せる。

七夏「柚樹さん☆ お風呂どうぞです☆」

天美さんの後から七夏ちゃんも顔を見せてくれた。二人とも見慣れた風水の浴衣姿だ。

時崎「ありがとう。高月さんは?」
心桜「笹夜先輩?」
七夏「えっと、お部屋で髪を整えていると思います☆」
心桜「お兄さん、笹夜先輩の事が気になるの?」
七夏「え!?」
時崎「え!? あ、いや。いつも三人一緒だから」
七夏「くすっ☆」
時崎「じゃ、お風呂で流してくるよ!」
七夏「はい☆」

このままだと、天美さんの追撃が予想されたので、俺はさっと部屋を片付けて風呂場へと向かう。

七夏「柚樹さん☆」
時崎「え!?」
七夏「えっと、このままお布団、準備しておきますね☆」
時崎「ありがとう。七夏ちゃん!」
心桜「あたし、このままお部屋、ガサ入れしておくね!」
時崎「しなくていいっ!」
心桜「あはは!」
七夏「もう! ここちゃー」
心桜「あたしも手伝うよ!」
七夏「はい☆」

 ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆

お風呂に浸かりながら、今日一日を振り返る。七夏ちゃんと同じ香りに包まれていると、とても心地よい。夜華に舞う「ふたつの虹」は本当に可愛かった。心残りなのは、七夏ちゃんへ「可愛い」と言葉に出来なかった事。七夏ちゃんの「可愛い」に対する反応がよく分からない。このままだと息が詰まりそうになる。何が原因があるはずだ。

手早くお風呂を済ませて居間へ戻る。七夏ちゃんたち三人も、居間でのんびりと過ごしているみたいだ。

七夏「あ、柚樹さん☆」
時崎「七夏ちゃん! お疲れさま」
七夏「くすっ☆ 冷たいお飲み物を用意しますね☆」
時崎「ありがとう!」
心桜「お兄さん、お疲れー!」
時崎「どうも!」
心桜「ほらほら! 探してた笹夜先輩もここに居るよー」
主 &笹夜「え!?」
心桜「さっき、お兄さん『高月さんは?』って話してたよ?」
笹夜「まあ♪ 時崎さん、何かしら?」
時崎「え!? あ、いや。特に深い意味は無かったんだけど」

天美さんのタスクが残っていた。しっかりと強制終了させておくべきだった。

心桜「意味もなく、無意識に笹夜先輩の事が出てくるなんて!」
時崎「意味はある! 三人一緒じゃないのっていう意味が!」
笹夜「心桜さん!」
心桜「あはは!」
七夏「柚樹さん☆ 冷茶、どうぞです☆」
時崎「ありがとう」
笹夜「そう言えば、少し気になる事があります」
心桜「ん? 笹夜先輩? どうされました?」
時崎「高月さん?」

高月さんは携帯端末(スリムフォン)を手に取り、話を続ける。

笹夜「スリムフォンに『KAZAMI』っていうネットワーク名が表示されてて」
時崎「それは今日、七夏ちゃんの家に無線ネットワーク機器を設置したから、ゲストIDでアクセスできると思うよ」
笹夜「まあ♪ いいのかしら?」
七夏「えっと・・・」

七夏ちゃんがこっちを見てきた。

時崎「丁度、テストにもなるから、アクセスしてもらえると助かるよ。パスワードは同じKAZAMIで大丈夫だから!」
笹夜「はい♪」
時崎「どうかな?」
笹夜「あ、無事接続できました♪」
時崎「良かった」
心桜「風水も進化してますなぁー」
七夏「柚樹さんのおかげです☆」
時崎「明日、三人にアルバム作りの事で協力してもらいたいんだけど、いいかな?」
心桜「もちろん!」
笹夜「ええ♪」
七夏「ありがとうです☆」
時崎「じゃ、ちょっとその準備もあるから、これで!」
七夏「はい☆」
心桜「お兄さん、もう部屋に戻っちゃうの?」
笹夜「時崎さん、お忙しいみたいです」
時崎「とても、充実してるよ!」
笹夜「まあ! 良かったです♪」

部屋に戻って、早速アルバム制作作業を行う。元気な天美さん、お淑やかで上品な高月さん、そして、可愛い七夏ちゃんの写真を見て。なんとか七夏ちゃんへ「可愛い」と伝えて心から喜んでもらえる方法はないかを考える。天美さんや、高月さんの協力があれば、その理由もきっと、分かると思う。気にはなるけど、今は集中して「可愛い七夏ちゃん」のアルバム作りを進めるのだった。

第三十四幕 完

----------

次回予告

虹は、太陽があって生まれる光だと思っていた。

次回、翠碧色の虹、第三十五幕

「太陽よりも輝く虹」

ふたつの虹は、そうではなかったと改めて気付かされる事になる。

幕間二十九:夜店よもやま話

幕間二十九:夜店よもやま話

心桜「ふぅー」
七夏「どしたの? ここちゃー?」
心桜「今日は楽しい事が沢山あったね!」
笹夜「ええ♪」
七夏「そういえば、ゆーちゃんは?」
心桜「ん? あたしが『付いてくんな』って言っておいた」
笹夜「まぁ・・・」
心桜「だって、またゲームソフトくじで、おこずかい使い果たされると困るからね!」
七夏「大丈夫だと思います☆」
心桜「そうかなぁ? 笹夜先輩! 美夜っちは?」
笹夜「え!?」
心桜「花火大会、来なかったのですか?」
笹夜「ええ♪ 美夜はお友達とお約束があったみたいです」
心桜「そうなんだ」
笹夜「それに、私の家から花火大会は、隣町になりますから」
心桜「まあ、確かに一駅でも結構距離があるからね」
笹夜「私は定期券があってお手軽ですけど♪」
心桜「なるほどねー。おこずかいの少ない中学生の厳しい現実だねー」
笹夜「美夜は今、おこずかいを節約しているようです。ああ見えて結構しっかりしてる所もありますから♪」
七夏「美夜ちゃんは、しっかりさんです☆」
心桜「それは、笹夜先輩の妹ですからね!」
笹夜「少し、複雑です・・・」
心桜「確かに、夜店でのお買い物って、結構おこずかい持ってかれるからね~」
七夏「はい☆ 気を付けないと後で苦労します」
心桜「でも、なんかあの雰囲気に押されちゃうんだよね~」
笹夜「ええ♪ 分かります♪」
心桜「毎年、夜店の内容ってだいだい同じなんだけどさ」
七夏「くすっ☆」
心桜「メダルゲームなんかは、近所の商店街でも楽しめるんだけど、なんか遊んでしまうよ・・・あ、今回は遊ばなかったけど」
笹夜「同じであっても、その時『楽しい』と思えてる事に意味があると思います♪」
心桜「おお! まさにそのとおり! さすが!」
七夏「今年は、笹夜先輩も一緒で、とっても楽しかったです♪」
笹夜「私もです♪」
心桜「お兄さんも居たからねっ!」
七夏「・・・・・」
心桜「そう言えば、お兄さん、つっちゃーのりんご飴、半分食べてなかった?」
七夏「こ、ここちゃー!」
笹夜「まあ♪」
心桜「あれってさあ、よくよく考えれば・・・」
七夏「うぅ・・・・・」
笹夜「心桜さん・・・」
心桜「よくよく考えれば、もっと小っさいの無かったっけ?」
七夏「・・・・・え!?」
笹夜「小さいの?」
心桜「確か『ひめりんご飴』だったっけ?」
笹夜「あ! ありますね♪」
心桜「あれなら、一人でも食べきれると思ったよ」
七夏「はい☆」
心桜「お兄さん、なんで大きいりんご飴を買ったんだろうね?」
七夏「・・・・・」
時崎「それは、絵になるからだよ!」
心桜「うわぁ! びっくりしたぁ!」
七夏「くすっ☆」
笹夜「~♪」
心桜「二人はなんで驚かないの?」
七夏「柚樹さんが、ここちゃーの後ろにそーっと近づいて来てました」
笹夜「ええ♪」
心桜「えぇ~! なんで教えてくれな・・・そういう事か!」
時崎「そう! そういう事! じゃ、俺はこれで!」
心桜「あれ? お兄さん? 本編だけでなく、幕間もですか!?」
時崎「一撃離脱が俺のやり方だ!」
心桜「どこかで聞いたことがあるような台詞!」
時崎「まあ、天美さんの反撃が来る前に撤退しとくよ!」
心桜「あはは! そんなに身構えなくてもいいのに!」
笹夜「時崎さんと心桜さんの攻防戦も、よく見られますね♪」
七夏「くすっ☆」
心桜「お兄さんって、なかなか、からかいがいがあるからね!」
七夏「もう! ここちゃー!」
心桜「いやいや、つっちゃー。乗っかってきてくれる人って、一緒に居ると楽しいからね。一応、褒めてるんだけど・・・」
七夏「はい☆ 柚樹さん一緒だと楽しいです☆」
笹夜「・・・・・」
心桜「ん? 笹夜先輩? それは?」
七夏「笹夜先輩、それ、とっても綺麗です☆」
笹夜「ムーンストーンのペンダントです♪ 素敵な思い出になります♪」
心桜「あたしのスーパーボールも楽しい思い出になるよ!」
笹夜「ええ♪」
七夏「はい☆」
心桜「今回は、色々と手堅かったよね」
七夏「え!?」
心桜「だって、後になって困る物は買ってないから!」
笹夜「どういう事かしら?」
心桜「まあ、きんぎょとか、風船ヨーヨーとか。生き物は後で困る事があるし、風船ヨーヨーは、そんなに長持ちしないから、思い出の品にはなりにくい」
笹夜「なるほど♪」
心桜「今回、お兄さんがスポンサーだったから、色々買えたと思うんだけど、なんかこう買う前に考えてしまって」
笹夜「それは、時崎さんがお財布を管理されてましたから、あまり派手には使えないという心理が働いたのだと思います♪」
七夏「柚樹さんにお財布をお任せしても安心です☆」
笹夜「ええ♪」
心桜「いや、それは人によるかも?」
七夏「え!?」
心桜「ゆう・・・あたしの弟が居なくて正解だったよ」
笹夜「まあ、その辺りも、時崎さんならきっと大丈夫だと思いますけど」
七夏「はい☆」
心桜「そうかなぁ・・・とにかく、夜店は誘惑が沢山あるからね!」
笹夜「予め、持ってゆくおこずかいの上限を決めておくと良いと思います♪ それ以上は使えませんから♪」
心桜「いや、笹夜先輩! あたし、弟におこずかい持ってかれたんですけど・・・」
笹夜「す、すみません・・・」
心桜「だから、上限は『弟を連れて来ない』だったんだよね!」
笹夜「まぁ!」
七夏「ここちゃー・・・」
心桜「あはは! またみんなで楽しめるといいよね!」
笹夜「ええ♪」
七夏「はい☆」
心桜「って事で、つっちゃーが楽しむ『翠碧色の虹』本編はこちら!」
心桜「http://nanatsuiro.my.coocan.jp/nnt_frma_a.htm」
七夏「くすっ☆」
心桜「そして、あたしと笹夜先輩も楽しむ『ココナッツ』宛てのお便りはこちら!」
心桜「http://nanatsuiro.my.coocan.jp/nnt_suiheki_novel.htm#QUESTIONNAIRE」
七夏「あ! おたより、待ってますね☆」
笹夜「私も、お待ちしております♪」
心桜「よーし、これからも楽しくゆこー!」
七夏「はい☆」
笹夜「ええ♪」

幕間二十九 完

------------

幕間二十九をお読みくださり、ありがとうございました!
本編の方も鋭意制作中ですので、どうぞよろしくお願い申しあげます!

随筆三十一:あてが外れた!?

随筆三十一:あてが外れた!?

笹夜「ごめんください♪」
七夏「笹夜先輩☆ いらっしゃいです☆」
笹夜「こんにちは、七夏ちゃん♪ あら? 心桜さんは?」
七夏「えっと、お買い物です☆」
笹夜「そうなの?」
七夏「はい☆ 私達のお昼も買ってきてくれるって☆」
笹夜「まあ! いいのかしら?」
七夏「任せてって話してました☆」
笹夜「そう言えば、いつも七夏ちゃんや心桜さんにお世話になってますから、私もおみやげを考えておきますね♪」
七夏「そんな、私はいいですよ!」
心桜「あたしは、いただきます!」
七夏「ひゃっ☆」
笹夜「きゃっ!」
心桜「笹夜先輩! いらっしゃいです!」
笹夜「こ、こんにちは。心桜さん」
七夏「ここちゃー☆ お疲れ様です☆」
心桜「買ってきたよー」
七夏「ありがとです☆」
笹夜「まあ! こちらは?」
七夏「えっと・・・」
心桜「あたし、カレーパン! つっちゃーは、シュークリームね!」
七夏「はい☆」
心桜「んで、笹夜先輩は、メロンのタルトです!」
笹夜「まあ♪ メロン♪」
七夏「ここちゃー?」
心桜「ん?」
七夏「どおして、これになったの?」
心桜「笹夜先輩は、メロン優先と思ってね!」
笹夜「私は、みんなと同じでも・・・」
心桜「ありゃ!?」
笹夜「それ以前に、何が『同じ』なのか分からないですね」
心桜「確かに、あたしはカレーパン、つっちゃーはシュークリーム、笹夜先輩はメロンのタルト。別にスイーツで統一されている訳でもないし・・・あっ!」
七夏「どしたの? ここちゃー?」
心桜「あたし達は、何が『同じ』かは、分かってるよね?」
七夏「えっと・・・」
心桜「あたしが買ってきた、カレーパンとシュークリームの共通点!」
笹夜「どちらも中に具・・・かしら♪」
心桜「おぉー! 確かに! メロンのタルトじゃなくて、メロンパンだったら、みんな同じだったかもね!」
笹夜「メロンパンは、中にクリームが入っているのと、入っていないのがあります♪」
心桜「さすが! こだわりが違いますなぁ」
笹夜「す、すみませんっ!」
心桜「いえいえ、あたしも『メロン関係で、これ』があれば、それにしてたかも知れないけどさ!」
七夏「ここちゃー、これは、なかったの?」
心桜「一応、探してみたんだけどね・・・ま、あたしたちは、ともかく、笹夜先輩はこれ、どうなのかなーと思ってさ」
笹夜「私は、構わないです♪」
心桜「そうでありましたか!」
笹夜「ええ♪」
七夏「結局、これって、みんなに伝わってるのかな?」
心桜「たぶん、伝わってない!」
笹夜「このままで、いいのかしら?」
心桜「まあ、カレーパンとシュークリームの狭間を楽しむのも良いかもね!」
七夏「そんな・・・」
心桜「んじゃさ! カレーパンとシュークリームを交互に食べてみるとか!?」
笹夜「あまり、想像したくはないですね」
心桜「なんで? だってさ、カレーパンを食べた後に、シュークリームを食べるって事、普通にあったりしない?」
笹夜「何をもって『普通』なのかしら?」
心桜「辛いものを食べた後に甘いデザートって言えば『普通』かな?」
笹夜「ええ♪ それなら分かります♪」
心桜「んで、普通にない?」
笹夜「確かにありますけど、交互に頂く事とは随分異なるかしら?」
心桜「どーせ胃袋の中でひとつになるんだからさ!」
笹夜「胃袋に味覚はありませんので♪」
心桜「あはは・・・そ、そうだねー、あったらイヤかも!?」
笹夜「心桜さん、それが答えなのではないかしら?」
心桜「うっ!!! ところで、つっちゃー!」
七夏「は、はい!?」
心桜「さっきから、カレーパンとシュークリームを交互に眺めてるけど・・・まさか!?」
七夏「え!?」
心桜「まさか、交互大作戦を視野に入れてたとか!?」
七夏「えっと、カレーパンは可愛くて、シュークリームは素敵だなって♪」
心桜「なるほどねー! 付け加えれば、メロンのタルトはクールだねー!」
七夏「くすっ☆」
笹夜「ますます分かりません・・・」
心桜「あたし達は分かるけどねー♪」
七夏「なんか、『おあずけ』のような気がしてきました」
心桜「あ、ごめん! んでは、早速いっただっきまーす!」
七夏「くすっ☆」

 ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆

笹夜「結局、伝わってないままになってませんか?」
心桜「そうだねー。言葉だけで伝えることの難しさときたらもうっ!」
七夏「いいのかなぁ」
心桜「ま、良くはないね・・・って事で、おーい! 原作者! 何とかしろ!」
七夏「私達だけでなんとかできないのかなぁ?」
心桜「よし! んじゃ、つっちゃー頑張ってみよー」
心桜「って事で、これからもつっちゃーが頑張る『翠碧色の虹』本編はこちら!」
心桜「http://nanatsuiro.my.coocan.jp/nnt_frma_a.htm」
心桜「あたしたち『ココナッツ』宛ての、お手紙はこちら!」
心桜「http://nanatsuiro.my.coocan.jp/nnt_suiheki_novel.htm#QUESTIONNAIRE」
笹夜「結局、伝わっていないのですけど・・・」
心桜「あはは! お手紙でこの件のお問い合わせでも頂いたら、お答えいたしますか!?」
笹夜「え!? そういう運びだったのかしら?」
心桜「っそ! 時に謎は謎のままで引っ張る事も必要なので!」
七夏「と、とにかく、おたより待ってますね☆」
笹夜「なんか、不安です・・・」

随筆三十一 完

------------

随筆三十一をお読みくださり、ありがとうございました!
本編の方も鋭意制作中ですので、どうぞよろしくお願い申しあげます!

随筆三十二:事実は小説よりも奇なり!?

随筆三十二:事実は小説よりも奇なり!?

七夏「♪」
心桜「・・・・・」

 ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆

七夏「♪」
心桜「・・・んー」
七夏「!? どしたの? ここちゃー?」
心桜「待ってんの!」
七夏「え!?」
心桜「つっちゃーがそれ読み終わるのを」
七夏「あ、待たなくてもいいよ☆ ここで栞です☆」
心桜「ま、こんな事は今に始まった訳じゃないけど、よくそんなに集中できるなぁ」
七夏「くすっ☆ 」
笹夜「こんにちは♪」
心桜「こんちはー! 笹夜先輩!」
七夏「笹夜先輩☆ いらっしゃいです☆」
笹夜「あら? 七夏ちゃん、それは『トラトラ』かしら♪」
七夏「はい☆」
心桜「トラトラトラァ!」
笹夜「きゃっ!」
七夏「ひゃっ☆」
心桜「・・・って、これ、前にもあったっけ? 『皇国ノ興廃、コノ一戦ニ在リ』」
七夏「えっと・・・」
笹夜「心桜さんのそれは?」
心桜「海これ、『海軍これくしょん』」
笹夜「トラトラとは異なるみたいですね」
心桜「トラ違い!」
七夏「くすっ☆ あ、笹夜先輩はもう読まれました?」
笹夜「ええ♪」
心桜「トラトラも漫画化されれば、読みやすくなるのにね」
笹夜「小説も少し慣れれば、世界をイメージ出来るようになると思います♪」
心桜「そうかなぁ。あたしもつっちゃーに薦められてトラトラ読んでるけど、絵が出てこない登場人物の顔とか、つっちゃーとは違う認識だったよ」
笹夜「それはそれで良いと思います♪」
心桜「え!?」
笹夜「その人の中で世界が出来ていれば♪」
心桜「そういうもんですか」
七夏「ここちゃーも後で読んでみます?」
心桜「先の展開が事実よりも奇なればね!」
七夏「それ、事実は小説よりも・・・です」
心桜「小説の方が奇なりでしょ!?」
笹夜「どうかしら?」
心桜「トラトラは、見た目も性格も真逆のヒロインが入れ替わる話! こんな事、現実ではあり得ない!」
七夏「え!?」
笹夜「えっと、それは心桜さんが作ったお話しかしら?」
心桜「あ、そうだったっけ?」
七夏「ふたりのヒロインさんは、入れ替わらないです☆」
心桜「先の事は分からないよ。今の所、トラトラは、主人公の女の子とライバルの女の子が、一人の男の子を奪い合う三角関係物なんだけどさ」
七夏「う、奪い合うって・・・」
笹夜「確かに先の事は分かりませんけど、ヒロインが入れ替わる未来だとすると、それまでのお話の流れを大きく変えてしまう事になりそうです」
心桜「ま、トラトラはともかく、他の小説で事実よりも奇なりなお話ってあるでしょ!?」
笹夜「ある程度、奇抜でなければ、面白味が無いのは確かですね」
七夏「私は奇抜でなくてもいいと思います☆」
心桜「事実の方が小説よりも奇なりな場合は---」
笹夜「小説のように、先の展開が読めないほどの結末になった・・・かしら?」
心桜「なるほど、それなら納得かも」
笹夜「トラトラのふたりのヒロインさん、七夏ちゃんはどちらを応援してます?」
七夏「私は、控えめだけど、頑張っている主人公さんです☆」
笹夜「どうしてかしら?」
七夏「積極的なヒロインさんは、応援しなくても大丈夫だと思うから☆」
笹夜「なるほど♪」
心桜「つっちゃーらしい考え方だね!」
七夏「くすっ☆ えっと・・・」
心桜「ん? どした?」
七夏「今日のお話しは・・・」
笹夜「事実は小説より奇なりという言葉」
七夏「はい☆ 私は、小説の方が事実よりも奇だという、ここちゃーの言葉と、笹夜先輩の、先が読めないほどの結末という言葉、どっちも正しいと思います☆」
心桜「それじゃ、纏まんないよ」
笹夜「・・・なるほど♪」
心桜「笹夜先輩?」
笹夜「小説の方が奇ですけど、事実は、まるで小説の世界よりも奇抜な印象を受けるほどの結末だったという事かしら?」
七夏「はい☆」
心桜「なるほどねー、今回は笹夜先輩とあたしを、つっちゃーが繋いだね!」
七夏「くすっ☆ 小説は私と笹夜先輩を繋いでくれました☆」
笹夜「ええ♪ お互いに共通で好きな事があると分かると、親しみを覚えます♪」
心桜「共通の趣味かぁ・・・そう言えば、あたしとつっちゃーって、共通の趣味があったわけじゃないよね?」
七夏「え!?」
心桜「お互いに好きな事を話して、歩み寄った感じ・・・だから、共通の趣味を作った!」
笹夜「セブンリーフかしら?」
心桜「っそ!」
七夏「セブンリーフは私達と笹夜先輩も繋いでくれてます☆」
笹夜「ええ♪」
心桜「んじゃ、これからも色々と繋いでゆけるようにみんなで頑張りますか!」
七夏「はい☆」
心桜「よし! んじゃ、つっちゃー頑張ってみよー」
七夏「え!?」
心桜「って事で、これからもつっちゃーが頑張る『翠碧色の虹』本編はこちら!」
心桜「http://nanatsuiro.my.coocan.jp/nnt_frma_a.htm」
心桜「あたしたち『ココナッツ』宛ての、お手紙はこちら!」
心桜「http://nanatsuiro.my.coocan.jp/nnt_suiheki_novel.htm#QUESTIONNAIRE」
七夏「頑張るってどうすれば・・・」
心桜「民宿風水の知名度を上げる事! つっちゃーは若女将さんなんだから!」
七夏「は、はい!」
笹夜「私達も、頑張りましょう♪」
心桜「あたし、お泊り客として頑張るよ!」
七夏「くすっ☆」
笹夜「心桜さん、それって・・・」

随筆三十二 完

------------

随筆三十二をお読みくださり、ありがとうございました!
本編の方も鋭意制作中ですので、どうぞよろしくお願い申しあげます!

随筆三十三:戦う理由って何?

随筆三十三:戦う理由って何?

七夏「ここちゃー☆」
心桜「ん? あ! お手紙!」
七夏「はい☆」
笹夜「前々回の件かしら?」
七夏「え!?」
心桜「あー、結局あたしたち以外は『謎』のままだね~」
七夏「えっと・・・」
心桜「カレーパンとシュークリームの件!」
笹夜「ええ♪」
心桜「つっちゃー、読んでみなよ!」
七夏「はい☆ えっと、ペンネーム『秋休みが恋しい』さん☆」
心桜「うわぁ~!」
笹夜「心桜さん!? どうしたのかしら?」
心桜「ホントそう! なんで『秋休み』がないのだぁ~」
七夏「なんでって言われても・・・」
笹夜「秋は、読書、運動、お食事、色々な行いがありますからね♪」
心桜「そうそう、ハロウィンもあるよっ! トニック・オア・トリートメント!?」
笹夜「トリック・オア・トリートかしら!」
心桜「あはは・・・って、そうじゃなくて!」
七夏「?」
心桜「春、夏、冬は休みがあるのに、なんで秋だけ休みがないの!? もっと秋は主張すべきだと思わない!?」
七夏「秋は『お休みしなくてもいいよ』って思ってるのかもです☆」
笹夜「まあ♪」
心桜「なんて健気なんだ・・・」
笹夜「七夏ちゃん、続きをお願いします♪」
七夏「はい☆ 『ココナッツさん、こんにちは。私は昔から体を動かす事が億劫で、体育の授業がある日は憂鬱なのです。そして、今、憂鬱の極みとも言える体育大会の練習で、体育の時間が増えるし、参加したくもない競技にも強制させられて辛い日々です。どおして体育大会なんてあるのでしょう?』 えっと・・・」
心桜「つっちゃーさ、そんなに困った顔でこっち見なくても」
笹夜「確かに、少し重たいお話しですね」
心桜「まあ、面倒なのは確かかな? なんで体育大会があるんだろ?」
笹夜「机に座っての授業ばかりでは身体に良くないからかしら?」
七夏「私、お手紙主さんのお気持ち、少し分かります」
心桜「つっちゃーは、どちらかって言うと、キビキビ動ける方じゃないからね」
笹夜「七夏ちゃんは、のんびりと動く方が合ってる気がします♪」
心桜「笹夜先輩、それって褒めてます?」
笹夜「ええ♪ そのつもりです♪」
七夏「特に体調が優れない時の体育は辛いですから」
心桜「ま、元々スポーツは、素早く動いて、相手を撃ちのめすのが主なところがあるよ。まさに戦い! すなわち戦争!」
笹夜「せ、戦争は大袈裟かしら?」
心桜「でも、スポーツの延長線の先に戦争があるからね」
笹夜「心桜さん・・・随分と思い切ったお話しですね」
心桜「んじゃさ、なんで人は争うの?」
笹夜「え!? えっと・・・自分の位置を有利にする為かしら?」
心桜「或いは、自分の力を誇示する為! つまり生き物の遺伝子に組み込まれているんだと思うよ」
七夏「でも、人は協力したり助け合ったりもします」
心桜「そだね! だからバランスが取れてるんだと思うよ」
笹夜「スポーツはチーム同士での協力もありますね♪」
心桜「だけど、敵対するチームには容赦ないからね。人の表裏がよく現れてるよ」
七夏「容赦ないって・・・」
心桜「例えばサッカーなんか敵の選手を押しのけてボール奪ってたりするし」
七夏「ちょっと怖いです」
笹夜「でも、度が過ぎると警告されますから、定められたルールの範囲内のことではないかしら?」
心桜「あたしは、相手も楽しめてるかどうか意識してるけど、それも相手の出方次第かな?」
七夏「出方次第?」
心桜「そう! なんとなく競争になる事ってない?」
笹夜「例えば、何かしら?」
心桜「ふたりで歩いてて、相手に追い越された時、こっちも追い越し返したら、そのまま駆けっこに発展するヤツ!」
七夏「そんな事があるの?」
笹夜「七夏ちゃんは無さそうかしら?」
心桜「笹夜先輩も無さそうですけど?」
笹夜「私は、お先にどうぞ♪ かしら?」
七夏「くすっ☆」
心桜「ま、ちょっと話しが脱線したけど、体育大会がなぜあるのかについて---」
笹夜「・・・・・」
心桜「笹夜先輩!?」
笹夜「すみません。今、調べてましたけど、やはり、学生さんの身体を動かす事が起源みたいです♪」
心桜「だったらさ、授業の合間にストレッチを行えばいいのにね」
笹夜「ええ♪」
心桜「なんで体育大会があるかって話しなんだけどさ、なんかまとまらないね~」
七夏「えっと・・・お手紙主さんは、移動教室も億劫なのかな?」
心桜「ようこそ! 実力主義の移動教室へ!」
七夏「え!?」
心桜「なんでもない」
笹夜「お手紙の内容からは分かりませんけど、体育の授業が億劫という事は、そもそもあまり動かれたくないと思われているのかしら?」
心桜「そう言う人を動かす為に体育大会があるのかもね」
七夏「無理に動かされても、楽しくないと思います」
心桜「そだけどさ、世の中、自分の好きな事だけで生きて行けるわけじゃないからね」
七夏「だけど、体育大会や運動会は、みんなで楽しく過ごしたいです☆」
笹夜「・・・・・」
心桜「? 笹夜先輩!?」
笹夜「・・・・・」
七夏「笹夜先輩?」
笹夜「・・・・・」
心桜「笹夜先輩、NOW LOADING...」
七夏「???」
笹夜「すみません、お手紙の主さんや心桜さんが先程お話しされた『なぜ体育大会があるか』についてですけど」
心桜「おおっ! 何か良い答えでも!?」
笹夜「答えかどうか分かりませんけど、得手不得手・・・かしら?」
心桜「え!? どういう事です?」
笹夜「お手紙の主さんとは逆に、じっとしている事が億劫なお方もいらっしゃるはず。体育大会は『みんなに平等な機会』を与える為にあるのではないかしら♪」
七夏「なるほど☆」
心桜「流石! 困った時の頼れる先輩!」
七夏「勉強が苦手でも体育で活躍できる人もいますから、お手紙の主さんは、そう言う人を応援してあげるといいなって思います☆」
笹夜「七夏ちゃん、素敵な考え方です♪」
心桜「つっちゃーも、時々スマッシュ放つから侮れないなぁ~」
七夏「くすっ☆」
心桜「お手紙の主『秋休みが恋しい』さん! 笹夜先輩とつっちゃーの言葉をご参考に体育大会を楽しんでみよーよ! 好きな人が頑張っている姿を応援してあげると楽しいよ!」
七夏「え!?」
笹夜「好きな人!? そんな事、書かれてたかしら?」
心桜「いや、ペンネームからなんとなく」
七夏「くすっ☆」
笹夜「まあ♪」
心桜「よーし! あたしたちも楽しんでゆこー!」
七夏「はい☆」
笹夜「ええ♪」
心桜「って事で、これからもつっちゃーが楽しむ『翠碧色の虹』本編はこちら!」
心桜「http://nanatsuiro.my.coocan.jp/nnt_frma_a.htm」
心桜「あたしたち『ココナッツ』宛ての、お手紙はこちらです!」
心桜「http://nanatsuiro.my.coocan.jp/nnt_suiheki_novel.htm#QUESTIONNAIRE」
七夏「えっと、楽しむってどうすれば・・・」
心桜「ん~ 深く考えないことかなぁ?」
七夏「はい☆」
笹夜「私達も、楽しみましょう♪」
心桜「あたしは、基本的に楽しく生きてるよ!」
七夏「くすっ☆」
笹夜「心桜さん、素敵です♪」
心桜「では! お手紙、ありがとうございました!」
七夏&笹夜「おたより、ありがとうございます♪」

随筆三十三 完

------------

随筆三十三をお読みくださり、ありがとうございました!
本編の方も鋭意制作中ですので、どうぞよろしくお願い申しあげます!

随筆三十四:ターゲットはひとつ!?

随筆三十四:ターゲットはひとつ!?

七夏「どれがいいかな♪」
心桜「ん? お菓子のキャラクターチャームか・・・どれかって事は候補が複数あるって事!?」
七夏「はい☆ えっと、これとこれと、こっちと、あっ、これもいいな☆」
笹夜「七夏ちゃん楽しそう♪」
七夏「くすっ☆」
心桜「カタログパンフレットを見るのは楽しいからね!」
七夏「はい☆」
心桜「でも、全部揃えるのは結構大変だからね~」
笹夜「ええ♪」
心桜「笹夜先輩はフルコン派ですか?」
笹夜「フルコンって何かしら?」
心桜「フルコンプリート! 全種類集める事!」
笹夜「いえ、ほしいのがひとつあればいいかしら?」
心桜「あたしは全種類集めようとする派かも!?」
笹夜「ほしいのが当たるまで何回か買って、結果的に全て集まった事はあります♪」
心桜「おお! ほしいのが最後に当たるヤツですか!?」
笹夜「ええ♪」
心桜「それ、いいパターンだね!」
笹夜「出来れば、最初にほしいのが当たってほしいですけど・・・」
心桜「もし最初に当たったら、それ以降は買わなかったりします?」
笹夜「そうね♪ でも、ほしかったのと仲良しさんが他にあったら、それが当たるまで続けてしまうかも知れません」
心桜「どういう事です?」
笹夜「仲良しさん同士、チャームでも一緒の方がいいかなと思いまして♪」
心桜「なるほどね~。でも買えば買うほどダブる率も上がるからねぇ・・・」
笹夜「その問題がありますから、なかなか難しいですね」
心桜「福袋とか、元々何が入ってるか分からない物もあるけど、笹夜先輩はそういうの買わなさそうですね」
笹夜「確かに、福袋は買った事がありませんけど・・・」
心桜「けど?」
笹夜「美夜が・・・」
心桜「みやっちかー。なんとなく分かる!」
笹夜「それで、美夜ったら、要らないのを私にくれたりするのですけど・・・」
心桜「けど?」
笹夜「私が気に入ったと思ったら、おこずかいを要求してきたりします」
心桜「あはは! 売りに来るとは! 流石みやっち!」
笹夜「なんと言えばいいのかしら?」
心桜「でも、笹夜先輩の好みの物を、みやっちが見つけてくれたと考えればいいんじゃない?」
笹夜「まあ♪ 心桜さん!」
心桜「わわっ! すみませんっ!」
笹夜「どおして謝るのかしら?」
心桜「いや、みやっちサイドの意見だったから」
笹夜「私は、今の心桜さんの考え方、素敵だと思います♪」
心桜「え!?」
笹夜「確かに、私は福袋を買わないですから、美夜が居ないと福袋の中身を手にする機会も無いですので、素敵な出会いには感謝かしら?」
心桜「そうですね! でも福袋の中身の大半が要らない物だったりして」
笹夜「その辺りが問題なのです」
心桜「ま、選べるだけいいと思います!」
笹夜「ええ♪」
心桜「つっちゃーもそう思うよね!?」
七夏「え!?」
心桜「さっきから黙ってるけど、大丈夫!?」
七夏「はい☆ どれがいいかなぁって☆」
心桜「まだその事で悩んでたの?」
七夏「はい☆」
心桜「だったら、みんなで買ってみる?」
七夏「え!?」
心桜「笹夜先輩もどうですか!?」
笹夜「そうですね♪ せっかくの機会ですから買ってみるのもいいかしら?」
心桜「全10種かぁ。三人でひとつずつ買って、うまくそれぞれのターゲットが当たるといいけど」
七夏「くすっ☆」
心桜「お互いにトレードする事も出来るかもね!」
笹夜「ええ♪」
心桜「では早速! 買いに行きますか!」
笹夜「え!? 今からですか!?」
心桜「善は急げです!」
笹夜「そうですけど・・・」
心桜「笹夜先輩! 大丈夫! 買いに行かなくてもつっちゃーの家にあるから!」
笹夜「え!?」
七夏「これ、商品を仕入れた時の見本です☆」
心桜「つっちゃーの家は駄菓子も取り扱ってるからね! 笹夜先輩、忘れてました?」
笹夜「まあ♪ そうでした♪」
心桜「では改めて、つっちゃー! これくださいな!」
七夏「はい☆ ありがとうございます☆」

 ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆

七夏「あっ☆」
心桜「あら!?」
笹夜「まあ!」
七夏「えっと・・・」
心桜「見事にみんな同じのだねー」
笹夜「ええ♪」
七夏「お、お揃いです!」
心桜「そうなんだけど、あー! もひとつ買おうかなー」
笹夜「心桜さん・・・」
心桜「あたし、これが良かったんだけどなぁー。つっちゃーは?」
七夏「私は今のでいいなと思います☆」
笹夜「私も七夏ちゃんと同じかしら?」
心桜「まぁ、つっちゃーは守備範囲広かったから分かるけど、笹夜先輩は、こっちの方が好みだったりしませんか?」
笹夜「え!?」
七夏「私も、ここちゃーと同じように思いました☆」
笹夜「・・・・・」
心桜「その反応は---」
笹夜「確かに、心桜さん、七夏ちゃんの話す通りですけど、みんなお揃いっていうのは素敵だと思います♪」
心桜「そだねー! んじゃ、今日の所はこれでよしとしますか!」
七夏「くすっ☆」
笹夜「お目当てのチャームが当たるまで、のんびり楽しみましょう♪」
心桜「うんうん! 案外、当たらない時の方が燃えてると言えるし!」
七夏「まだ他にも可愛いのがあります☆」
心桜「よし! これからも少しずつ楽しもう!」
笹夜「ええ♪」
心桜「って事で、これからもつっちゃーが楽しむ『翠碧色の虹』本編はこちら!」
心桜「http://nanatsuiro.my.coocan.jp/nnt_frma_a.htm」
心桜「あたしたち『ココナッツ』宛ての、お手紙はこちらです!」
心桜「http://nanatsuiro.my.coocan.jp/nnt_suiheki_novel.htm#QUESTIONNAIRE」
心桜「でもさ、こういうお菓子って『おまけ』がメインだよね!」
笹夜「そうですね♪」
心桜「なんで『お菓子』として売るんだろ!?」
七夏「えっと、お菓子屋さんには毎日たくさんのお子様がいらしてくださるからって、お母さんが教えてくれました☆」
笹夜「確かにおもちゃ屋さんへは、毎日出掛ける事がないかも知れませんね」
心桜「なるほどねー。上手く販売戦略に乗せられているわけですか!」
七夏「くすっ☆」
心桜「ま、つっちゃー家の売り上げに協力しておくと、いい事あるよ!」
笹夜「ええ♪ たくさんいい事あります♪」
七夏「ありがとうございます☆」
心桜「という事で、つっちゃー!」
七夏「はい!?」
心桜「このチャームのお菓子、もっと仕入れといて~」
七夏「え!? えっと・・・」
笹夜「心桜さん・・・」

随筆三十四 完

------------

随筆三十四をお読みくださり、ありがとうございました!
本編の方も鋭意制作中ですので、どうぞよろしくお願い申しあげます!

随筆三十五:初回限定版か通常版か

随筆三十五:初回限定版か通常版か

心桜「~♪」
七夏「くすっ☆」
笹夜「心桜さん♪ 良い事あったのかしら?」
心桜「これからあるんだよね!」
笹夜「まあ♪」
七夏「えっと『海これ』の続編です☆」
心桜「あー! 木曜が待ち遠しいぃ~!」
笹夜「海これ・・・ゲームかしら?」
心桜「そそっ! 『海軍これくしょん』・・・略して『かいこれ』・・・買いこれ! 買いですよ! これは!」
笹夜「『うみこれ』ではなかったのですね」
心桜「どっちでも良いよ♪」
七夏「そういえば、どおして木曜日に発売なのかな?」
心桜「え!?」
七夏「ここちゃーがゲームを買う日って木曜日が多い気がして・・・」
心桜「そう言われると、なんでだろ?」
笹夜「流通の関係かしら?」
心桜「金曜日の方がありがたいんだけどなー」
七夏「え!? 土曜日じゃなくて?」
心桜「甘い! つっちゃー 金曜日の帰りに買って、オールナイトですよ!」
七夏「おーる・・・」
心桜「週末、00:00時、夜襲を仕掛ける!」
笹夜「心桜さん、夜更かしはほどほどに」
心桜「あはは! でも、今、ちょっと迷ってるんだよね~」
笹夜「迷わず、早めにお休みください♪」
心桜「いえ、そうではなくて、どっちを買おうかなって!」
七夏「どっちって!?」
心桜「初回限定版と通常版のどっちにするかって事で!」
笹夜「その違いは何かしら?」
心桜「限定版はパッケージイラストの違い、限定版特典として、サントラCDと、限定ポーチ、限定DLCです!」
笹夜「それらの特典がほしかったら限定版かしら?」
心桜「それは、そうなのですけど・・・」
七夏「ここちゃー、おこずかい足りないの?」
心桜「それは、大丈夫!」
笹夜「でしたら、どおして悩まれるのかしら?」
心桜「それなんですよ!」
笹夜「え!?」
七夏「ここちゃー、それだと分からないです」
心桜「今回の初回限定版と通常版って、パッケージイラストが異なるんだけど、あたし的には通常版のパッケージイラストの方が好みなんだよね~」
笹夜「なるほど♪」
心桜「だけど、初回限定版の特典もほしい!」
七夏「両方買うのは---」
心桜「そこまでのおこずかいは無い! おこずかいがあったとしても、あたし的にその選択はないっ!」
笹夜「確かに、ふたつ買うのはもったいないかしら?」
心桜「メーカーさんも上手い事考えるよね~」
七夏「そんな風に言わなくても・・・」
心桜「いや、つっちゃー良い意味でだよ!?」
笹夜「どういう事かしら?」
心桜「発売まで、どっちにするか、色々と迷ってるこの時が楽しいからね!」
七夏「なるほど☆」
笹夜「素敵な考え方です♪」
心桜「あ~悩むぅ~!」
七夏「くすっ☆」
笹夜「(七夏ちゃん!)」
七夏「え!?」
笹夜「(心桜さんが喜ぶ何か良い方法ってないかしら?)」
七夏「(えっと・・・ここちゃーは通常版のイラストがいいって話してました)」
笹夜「(そうね・・・という事は・・・)」
心桜「ん!? 何ふたりでコソコソ話してんの?」
七夏「え!? えっと・・・」
笹夜「心桜さん♪」
心桜「はい! 何でしょうか!?」
笹夜「通常版のパッケージイラストがいいのですよね♪」
心桜「はい! そうですけど・・・」
笹夜「お店に置いてあるかも知れません♪」
心桜「え!? どういう事ですか!?」
笹夜「販促用の広告です♪」
心桜「おおっ! その手があったか! 家のパソコンで見てただけだから気付かなかった!」
七夏「ここちゃー、今から見にゆく?」
笹夜「私もお付き合いいたします♪」
心桜「ホント!? わぁーい!」

 ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆

心桜「いや~、まさかパッケージとしても使えるサイズの海これ広告があったなんて!」
七夏「くすっ☆ 良かったね☆ ここちゃー☆」
心桜「うんうん! ついでに初回限定版の予約もしちゃったし、今から楽しみぃ~!」
笹夜「確かに、可愛いイラストですね♪」
心桜「ちゃっかり笹夜先輩も、海これ広告貰ってますけど買われるのですか!?」
笹夜「いえ、美夜のためかしら?」
心桜「あー、みやっちかぁ~分かる!」
七夏「くすっ☆」
笹夜「実は販促広告を、美夜がわりと持って帰ってきますので、この海これの広告は、既に持っているかも知れませけど・・・」
心桜「そうなのですね! この度は、みやっちにも感謝かな!」
笹夜「え!?」
心桜「ありがとうございます! 高月姉妹殿!」
笹夜「まあ♪」
心桜「んで、つっちゃーのそれは・・・」
七夏「えっと、音楽のゲームの続編かな?」
心桜「あー、お兄さんが苦戦してたやつの?」
七夏「はい☆ これ見てたら、柚樹さん頑張ってた時の事、思い出しちゃって、その・・・」
心桜「よーし! またみんなで楽しみたいね! いや、みんなで楽しもう!」
七夏「はい☆」
心桜「笹夜先輩もですよ!」
笹夜「え!? ええ♪」
心桜「って事で、これからもつっちゃーが楽しむ『翠碧色の虹』本編はこちら!」
心桜「http://nanatsuiro.my.coocan.jp/nnt_frma_a.htm」
心桜「あたしたち『ココナッツ』宛ての、お手紙はこちら!」
心桜「http://nanatsuiro.my.coocan.jp/nnt_suiheki_novel.htm#QUESTIONNAIRE」
七夏「楽しい事がたくさんあるといいな♪」
笹夜「ええ♪」

随筆三十五 完

------------

随筆三十五をお読みくださり、ありがとうございました!
本編の方も鋭意制作中ですので、どうぞよろしくお願い申しあげます!

翠碧色の虹(1)

お知らせ。

「翠碧色の虹」をお読みくださり、ありがとうございます!

「翠碧色の虹」の動画を公開しております。お時間がございましたら、どうぞよろしくお願いいたします。

↓「翠碧色の虹」登場人物紹介動画です☆
https://youtu.be/GYsJxMBn36w
↓小説本編紹介動画です♪
https://youtu.be/0WKqkkbhVN4s

「翠碧色の虹」アンケートを実施いたしておりますので、ご協力頂ければ嬉しく思います。
アンケートご協力者様へは「翠碧色の虹」オリジナル壁紙(1920 X 1080 Full-HD)のフルカラー版をプレゼントいたします!壁紙サンプルは下記アンケートページにございます!
http://nanatsuiro.my.coocan.jp/nnt_frma_a.htm
ご協力くだされば嬉しく思います!

翠碧色の虹(1)

虹は七色だと思っていた・・・不思議な少女に出逢うまでは・・・ 今までに無い特徴を持つ少女と、心揺られる恋物語・・・

  • 小説
  • 長編
  • 青春
  • 恋愛
  • コメディ
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2017-07-23

Copyrighted
著作権法内での利用のみを許可します。

Copyrighted
  1. 序幕:不思議な虹を追いかけて
  2. 第一幕:ふたつの虹に魅せられて
  3. 第二幕:ふたつの虹に逢いたくて
  4. 第三幕:ふたつの虹とふたつの心
  5. 第四幕:自然な虹の輝き
  6. 第五幕:虹色ってドンナ色?
  7. 第六幕:太陽があって虹は輝く
  8. 幕間一:魅力点(チャームポイント)
  9. 第七幕:翠碧色の虹
  10. 幕間二:恋するキモチ
  11. 第八幕:閉ざされた虹
  12. 幕間三:なぜ髪を切ったら失恋扱いになるの?
  13. 第九幕:見えていない虹
  14. 幕間四:恋のトライアングル(三角関係)
  15. 第十幕:虹へ未来の贈り物
  16. 幕間五:横着しないで!
  17. 第十一幕:ふたつの虹と太陽と
  18. 幕間六:難しい選択
  19. 第十二幕:お揃いの虹
  20. 幕間七:記念写真撮影で失敗しない方法
  21. 第十三幕:虹はいつまで見えている?
  22. 幕間八:昆虫に例えると
  23. 第十四幕:寄り添う虹と距離を取る心
  24. 幕間九:女性専用車両ってどう?
  25. 第十五幕:ふたつの虹と一緒に
  26. 幕間十:物忘れがヒドイ
  27. 第十六幕:虹を映す少女
  28. 幕間十一:なぜ語尾が特徴的な話し方なの?
  29. 第十七幕:夏の街に弾む虹
  30. 幕間十二:悩ましき消費税
  31. 第十八幕:ふたつの虹へ重なる虹
  32. 幕間十三:お客様は神様デス!?
  33. 第十九幕:夏の海に弾む虹
  34. 幕間十四:「マナー違反!」はマナー違反!?
  35. 第二十幕:ふたつの虹の大切な夢
  36. 幕間十五:将来の夢・・・憧れの職業!
  37. 随筆一:恋のABCって!?
  38. 随筆二:くっつき虫?ひっつき虫?
  39. 随筆三:ニワトリが先か?タマゴが先か?
  40. 随筆四:幸せのハッピートーン♪
  41. 随筆五:オバチャンって何歳から!?
  42. 随筆六:もっとよくばっていいんだよ!?
  43. 随筆七:先に出来た人を待たす訳にはゆきませんから!
  44. 随筆八:ラーメン大好き心桜さん!
  45. 随筆九:鬼は外!福は内!って言うけどさぁ
  46. 随筆十:本当の鬼とはいったい・・・
  47. 随筆十一:バレンタインに想いを込めて!?
  48. 随筆十二:人は何の為に生きてるの?
  49. 随筆十三:人も動物も大切!同じです!
  50. 随筆十四:話に花を咲かせましょう!
  51. 随筆十五:借りたら返しましょう!
  52. 随筆十六:りゅうこうのおしごと!?
  53. 随筆十七:似てる!似てない?
  54. 第二十一幕:ふたつの虹のふたつの夢
  55. 幕間十六:夢の世界で会いましょう!
  56. 第二十二幕:ふたつの虹を宿した少女
  57. 幕間十七:真実はいつもひとつ…も放送されない!?
  58. 第二十三幕:光りなくとも輝く虹
  59. 幕間十八:ホットドッグって熱い犬!?
  60. 第二十四幕:のんびりさんの虹
  61. 幕間十九:どおして複数形にならないの?
  62. 第二十五幕:蒸気と舞う虹
  63. 幕間二十:笹夜先輩とクラシックピアノ
  64. 第二十六幕:虹をつないで
  65. 幕間二十一:小は大を兼ねる!?
  66. 第二十七幕:虹の華をつないで
  67. 幕間二十二:得意な事ってありますか?
  68. 第二十八幕:曇り時々虹!?
  69. 幕間二十三:苦手な事ってありますか?
  70. 第二十九幕:思い込みの虹
  71. 幕間二十四:お誕生日のお祝いで!
  72. 随筆十八:無いっ!をテーマにしてみたら・・・
  73. 随筆十九:どおしてネタバレするの!?
  74. 随筆二十:どっちにする?って訊かれても・・・
  75. 随筆二十一:シングル派?アルバム派?
  76. 随筆二十二:何歳からが良いのでしょう!?
  77. 随筆二十三:一人っ子と一人でないっ子
  78. 随筆二十四:無い物はねだれません!?
  79. 第三十幕:迷う心の虹
  80. 幕間二十五:猫踏んじゃった!
  81. 随筆二十五:君が代(国歌)の調
  82. 随筆二十六:気楽に考えましょう!
  83. 随筆二十七:つい話してしまう事!
  84. 第三十一幕:日常の虹
  85. 幕間二十六:お好みの楽しみ方♪
  86. 随筆二十八:神経質過ぎやしませんか?
  87. 第三十二幕:不思議ふしぎの虹
  88. 幕間二十七:何がネイティブだ!?
  89. 随筆二十九:まじ、やられた!
  90. 第三十三幕:移り変わる虹
  91. 幕間二十八:幕間に間に合わないっ!?
  92. 随筆三十:どおして間違えられるの?
  93. 第三十四幕:夜華に舞う虹
  94. 幕間二十九:夜店よもやま話
  95. 随筆三十一:あてが外れた!?
  96. 随筆三十二:事実は小説よりも奇なり!?
  97. 随筆三十三:戦う理由って何?
  98. 随筆三十四:ターゲットはひとつ!?
  99. 随筆三十五:初回限定版か通常版か