王女の食事

王女様はご立腹の様です。

遠い遠い昔のこと、ある変わった王国がありました。
変わった王国の王家の一人であるK姫は険しい顔で食卓に座っていました。
それもその筈、K姫の王国は他国に大きな影響を及ぼす程の強い権力を握っていました。
それを狙う各国の王家が婚約を申し付けるのですが、その申し込みの仕方が風変わりなもので、
なんと王子の右手を切り落とし、その手の味が姫の納得のいくものであれば婚約が成立するという事でした。
そのような条件でも毎日山のような手が姫の元に送られてくるのでした。
しかし、姫の納得した手は未だ送られてきてはいないようで・・・

「もう、うんざりよ!いい?私は姫である前に少女なのよ!
 毎日毎日、手ばっかり食べて気が狂いそうだわ!!」

K姫は真っ赤な顔をして癇癪を起こし城を後にした。

「こんなドレス!」

K姫はドレスを破り捨て、近くに干してあったメイドの服を着た。
K姫が最初に向かったのは小洒落た喫茶店だった。
カランカランと鈴の音が鳴ると同時に香ばしい匂いがK姫の嗅覚を刺激した。

「いらっしゃいお嬢ちゃん、ご注文はあるかい?」

「そ、そうね。なにか美味しいものを頼むわ!」
慣れない注文に戸惑いつつも、席に座りながら店内を見回した。
そして店主が目の前に持ってきたのはコーヒーだった。

「砂糖が入ってるから苦くないよ」
店主はK姫に軽くウィンクをした。
慎重に啜ると口いっぱいに豆の香ばしい味がした。

「美味しいわ!これは世界一のコーヒーね!」

すると店主は恥ずかしそうに
「へへっ、ありがとよ」と言った。

それに付け加え、店主はこんな事を話した。

「でもコーヒーだけだと口寂しいだろう?どうだい、
 店を出て右に進むとケーキ屋があるんだ。うちにはケーキが無いからな。
 そこに行って食べるといい。」

喫茶店の店主に応じ、K姫はケーキ屋へと向かった。

「いらっしゃいお嬢ちゃん!嬢ちゃんに似合いのケーキが沢山あるぞぉ!」

並べられた沢山のケーキを見て、K姫は目を輝かせた。

「このタルトが食べたいわ!一番大きいのを頂戴!」

「はいよ!嬢ちゃんはお目が高いねぇ!」

渡されたタルトを頬張ると、K姫は大きな目を一層大きくしてこう言った。

「美味しいわ!こんなタルト初めてよ!!」

すると店主は恥ずかしそうにこう言った。

「ありがとよ!お嬢ちゃんにそう言ってもらって嬉しいぜ!
 あ、そうだ。この店の隣に俺の弟がやってるステーキ屋があるんだ。
 もうすぐ夕食の時間だし行ってみたらどうでい?」

残りのタルトを口に含み、K姫はステーキ屋へと向かった。

「いらっしゃいお嬢さん、今日はこれがオススメだよ」

「あら素敵!じゃあそれを頂くわ!」

すっかり足取りが軽くなったK姫は夕日が見える小窓のある席に座った。
店主が鉄板を持ってくると、K姫は思わず唾を飲んだ。

(もうずっと調理されてない人間の手しか食べてないもの、
 普通の女の子みたいな食事がしたいわ!)

肉汁溢れる厚いステーキを切り分け口に運んだ。

「あれ・・・?」

コーヒーやタルトを食べた時ほどの衝撃が無い。
むしろ、吐き出したい気分になってしまったのだ。

「・・・違うわ。これじゃない。」

K姫は店を後にすると真っ直ぐに家へと向かった。

「K姫様!申し訳ございませんでした。古い仕来りとは言え、
 やはりお辛いのでございましょう・・・」

「お腹が空いたわ。手を用意して頂戴。」

「え、今なんと・・・?」
執事はポカンと口を開けていた。

「だから、お腹が空いたのよ!早く用意してね。」

K姫が自室に戻ったのを見届けると、執事は眉を顰めながらため息をついた。

「全く、慣れというのは恐ろしいものだ。」





ーK姫の滑稽な食事 END

王女の食事

K姫の好物は・・・

王女の食事

王女様はご立腹。その理由は彼女の滑稽すぎる食事でした・・・

  • 小説
  • 掌編
  • ミステリー
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2017-07-21

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