歪んだ百五十
コンテストで優勝した作品を日本語に訳しました。ちょっぴり怖いかもしれません・・・
ふと、目を開けると僅かな頭痛と体に違和感を覚えた。蛍光灯の光がぼんやりと部屋を照らしている。どこからか僅かに薬品の匂いがする。そして何故か口内に苦味を覚えた。まだ視界がぼんやりとしている。状況を確認する為に立ち上がろうとしたが身動きが取れない、どうやら椅子に縛られているようだ。
「な、なんだこれ?!」
「・・・なんだと思う?」
自分とは違うもう一つの声に気づき、顔を上げた。すると、そこには見るに耐え難い歪んだ顔の少女が机の上に座っていた。震えが止まらない。何故だろう?彼女は足を組んでこう言った。
「貴方、なんでこんな事になってるのかわからないの?」
彼女の目的がわからない。人間のような顔では無い故にどのような表情なのかを読み取る事が出来無いのだ。
なんでだろうか、何か思い出してしまいそうな気がする。
「ああ、わからない!お前がやったのか?俺が何をしたっていうんだ!」
すると少女は仕方なさそうにため息をついて,ポケットの中から紙切れを取り出した。
「これを見ても何も思い出せ無い?」
恐る恐る紙切れを見るとそこには’’150’’の数字だけが書かれてあった。150・・・身に覚えがある数字だ。だが、やはり何も思い出せ無い。
「わからない。この数字がなんだっていうんだ!」
彼女は紙切れを机に置き、黙り込んでしまった。長い沈黙が流れた。長すぎるものだった。気を落ち着かせようにもそれは不可能で、反対に体の震えは増すばかりだった。恐怖が次から次へと湧いてくる。恐怖に飲み込まれてしまいそうだった。見るに耐え難い少女の顔に加え長すぎる沈黙、気が狂いそうなのを必死にこらえ何を血迷ったのか少女にこんな質問をしてしまったのだ。
「お前はどうしてそんな顔なんだ?整形に失敗でもしたのか?」
「いいえ、私は普通の顔だよ?何を言っているの?」
状況が掴めないまま動揺していると、
少女は机から降り、机の下の大きな引き出しから2つ薬を出した。
「この薬を使ってゲームをしましょ、ゲームに勝ったらここから出してあげるわ。」
「ほ、本当なんだな?嘘じゃ無いんだな?」
「ええ、ただし試すのは貴方次第よ。」
俺は心底悩んだ。もし、これが嘘で彼女が俺を殺そうとしているのなら・・・
しかし、こんな所にいるくらいならいっそ死んだほうがマシだろう。
俺は死ぬ覚悟で決心をした。
「わかった。薬を見せてくれ。」
俺が何をしたと言うのだろうか。なぜ縛られているのだろうか、何故此処に閉じ込められているのだろうか、
でも、とにかくこの薬で顔が歪んだ少女に勝てば・・・・
’’150’’
薬の瓶の裏にこの数字が書かれてあった。またこの数字だ。たかが150という名前の薬だろう、
まあ何はともあれ、この150という薬で歪んだ顔の少女に・・・・?
・・・・・・150?・・・歪んだ・・・・?・・・・・・・・直さなきゃ・・・・・・・・?
歪んだ・・・?歪んだ・・・・・
「歪んだ150体の肢体」
自分でも少女でも無い男の声に気づき顔を上げると少女が立っていたはずの場所に白衣を着た男が立っていた。男は口を開きこう言った。
「これで何回めだと思う?」
「え・・・?」
「もういい加減気づいたらどうなんだ。」
状況が飲み込めず、俺はただその男を凝視していた。
「はあ、今回も失敗だな。」
男はそう言い残すと部屋から出て行った。
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かつて俺には彼女がいた。お互いに深く愛し合っていた。しかし、突然彼女が別れたいと言い出したのだ。
結婚の事まで二人は考えていたのだ。彼女が別れを告げた理由、それは浮気だった。他にもっと自分を愛してくれる人がいたのだと言う。
それでも彼女を必死に止めようとしたが彼女は振り返ろうともしなかった。
何度も彼女の名前を呼ぶ内、彼女はやっと振り返ってくれたのだ。が、それは彼女では無かった。いや寧ろ、人間の姿ですら無かった。歪みきった見るに耐え難い化け物に変わってしまっていたのだ。思わず悲鳴を上げてしまった。その日からだった、俺が彼女の様な化け物を見る様になったのは。
次の日、親友が事情を聞き、俺の家に駆けつけてきてくれた。しかし、それは親友ではなく親友の声をした化け物だった。化け物が帰ったあと、もしかすると自分もあの様な姿になっているのではと不安になり、恐る恐る鏡の前に立った。幸いな事に、俺は俺の姿をしていた。しかしあの化け物の姿をを思い出すと、恐ろしくてたまらなくなりその日から家から出なくなった。あんなに信頼していた親友まで化け物になっているのだ。二度と外へは出ない。そう決心した。暗い部屋に一人身を震わせ、毎晩悪夢を見た。地獄の様な日々だった。そんなある日、父が亡くなったという電報が兄から届いた。葬儀があるので必ず来いとの事だった。こればかりは行かない訳にはいかない。精神安定剤をあるだけ鞄に詰め、いざ外に出た。外に出たと共に驚いた。誰一人あの化け物に変わってはいなかったのだ。きっとこの前の事は悪い夢だったのだ。そう思う事にした。しかし、問題は葬儀の途中で起こった。父の棺桶の中を見た瞬間思わず跳ね上がってしまった。なぜならそこには父ではなくあの化け物が入っていたからだ。恐ろしくてたまらなかった。しかし、周りを見渡すと父以外に化け物は見当たらない。その時、ふとこんな考えが脳裏をよぎった。
「歪んでしまったなら元に戻してあげたらいいんだ。そうすれば怖い思いもしなくてすむ。」
葬儀が終わったあと、自分で遺体を埋葬したいと告げ、家に持ち帰り、ハサミと裁縫道具で化け物から父の姿に戻したのだ。
俺は化け物を元の姿に戻せる能力があるのだと確信した。
その日から俺は化け物を見つけては元の形に戻していった。教授、親友、街中の赤ん坊、兄、彼女、お隣さん・・・
しかし、一つだけ問題があった。折角直しても直した後にびくりとも動かなくなってしまうのだ。
外に放り出すのもかわいそうなので父の残した財産で大きな家を買い、その家の中で世話をしてあげた。
幸い誰一人食べ物を口にしないので生活には然程影響しなかった。そんなある日、誰かが家をのチャイムを鳴らした。客なんて珍しいとわくわくしながらドアを開けるとそこには警察が何人も立っていた。彼らは「家の中を調べる」とだけ言い、勝手に家の中に入っていった。意味がわからなかった。そして彼らは一通り家の中を調べた後、俺の顔を見て「午後7:30 連続殺人犯を逮捕する。」そう言った後に俺に手錠を掛けた。
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昨年起きた連続殺人事件の犯人が捕まりました。犯人は「歪んだ体を直してやった。元に戻してやった」と供述しており、容疑を否認している模様です。犯人はおよそ150体の肢体を家に隠し持ち、先日逮捕並びに精神病院へと搬送されました。被害者達の遺族によると、被害者達の体は正常そのもので奇形ではなかったという模様です。次のニュースです・・・・
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’’XX囚人患者は未だ治療中。病名はパラノイド、150人を殺害、原因は幻覚症状。治療薬を飲用させると、囚人は「歪んだ顔の少女」、「ここは何処だ」等と発言する。この発言などから推測するに記憶を失う模様。しかし、’’150’’という数字を複数回も見せると記憶を取り戻し、元に戻る。この実験は今回で150回目に及んだ。’’ 医者はレコーダーを止めた。
歪んだ百五十
この世の中、どんな人が周りにいるかわかりませんね。