男は狼、男の子も狼
星をみるひとの二次創作。少しだけ早熟なしばが精通前のみなみとショタショタエロエロするお話です。
拠点へ戻った若きサイキック一行はおのおのに傷を癒やす。みなみは癒やしを得意とするサイキックと親しげに会話し、みさは新たに手にした金色のIDカードを真剣なまなざしで見つめている。しばはみんなから少し離れて座っていたのだが、それを見つけたあいねが疲れを見せぬ顔、悪く言えば他人に内心を悟らせぬすまし顔でしばに近づく。しばは面白みのないヤツだなぁと思った。
「面白みがない、なんてずいぶんね。気を遣ってるつもりなんだけど」
「読んだ心と勝手に会話するな、作り笑いはにおいで分かるんだよ」
しばの目の前に立つ小柄な少女、あいねはテレパシを使うことが出来る。相手の心を読む能力であり、彼女の前に立てば何を考えているか、何をするのか、何をしてきたのかが全て知れてしまう。テレパシの力はそれだけにとどまらず、意志の弱い相手であれば心中を操ることも出来る強力な能力だ。
ただし万能というわけではない。強力な能力故に存在が知られており、様々な対策が取られている。またロボットには無力であり、テレパシ能力者狩りも兼ねて戦闘用ロボットはかなりの数が導入されている。
「ため息を吐く間にずいぶんいろんな事を考えるのね、しば」
しばが目を上げると、あいねはもう表情を作っていなかった。疲れたような、諦めた笑み。しばは自分と同類のにおいをかいだ気がした。
「おまえこそ考え事が多そうな顔をしてるじゃないか」
「テレパシ持ちは頭が忙しいの、想像くらいできるでしょ?」
あいねは短く刈った茶色い後ろ髪を抑えながらしばの隣に座った。
「ま、お互い友達が臆病だったら、こんなに考えなくて済んだんだろうけどさ」
「それは同感だ」
しばとあいねはそろって明かりのほうへ目を向ける。そこではみなみとみさがカードと地図を挟んでにらみ合い、熱心に話し合っていた。
「あの二人、身の危険なんてちっとも考えちゃいない。今日まではなんとか生き延びたが、明日はどうなるか」
「そうね」
しばはあきれつつ、緑色の髪を縛るバンダナを結い直す。
「そうねじゃないだろ、止めないのか? みさを助けるのは仕方なかったとしても、今のオレたちはやりすぎだ。周りを見ろ、大人のサイキックが隠れ住んでるのにオレたちみたいな子供がしゃしゃり出て軍隊と戦うなんて、おかしいと思わないか?」
あいねはしばに向き直る。
「思うよ、でもみさは言っても聞かないから。しばがみなみを止められたら、私もみさを何とかするよ」
痛いところを突かれたとしばは思った。こういうとき、あいねという少女はポーカーフェイスの下で今も相手の心を読んでいる。みなみを止めることはできない、あいつは困った人間を放っておけない。例え一人でも、出て行ってしまうだろう。しばがそう考えていることを、隠すことは出来ない。取り繕うことも出来ない。
「ずいぶんな言われようね。私だって、気持ちが抑えられないことくらいあるよ。しばが取り繕うなら、騙されたフリくらいしてあげる」
「なっ」
しばはあいねが苦手だった、油断すると心を読まれ、本心へ直接回答されてしまうからだ。心理的に風上を取ろうとする人間は、摩擦を嫌うしばにとって扱いにくい人種だ。
「何言ってるの、みさちゃんも苦手なくせに。みさちゃん、正義感強いからしばみたいなアウトローとはちょっと合わないかもね」
あいねは微笑み、みなみとみさの元へ歩いて行った。残されたしばは夕食のお呼びが掛かるまで、渋い顔のままうずくまっていた。
◆◆◆
眠るとき、しばはみなみと相部屋にされる。みさやあいねと同室にできないのだから当然なのだが、しばにとってはみなみと一緒というのも落ち着かない。
みなみは戦いになると平気で命をかけるくせに、寝顔は無邪気な子供そのもの。年齢を考えればなにも不自然はないが、その無邪気さがしばにある後ろめたさを負わせる。
「う、う……」
しばはこっそり寝室を抜け出し、外へ出る。星が綺麗った。彼は人気の無い木陰を探し、そこでうずくまり、ズボンとパンツを下ろす。
「う、く」
胸がどきどきしていた。自身のちんちんを触ると、大きくなってくるのが分かった。手のひらをこすりつけると、なんだかよく分からない、じんわりとした暖かさというか、おしっこが出そうというか、とにかくそんな感覚に襲われる。そして、しばにはそれが止められない。
「あ、あ、はあ……」
しばらく続けると、熱くてじんわりした感じが強くなってきて、それがとても心地よく、耐えがたく、求めて止まなくなり……。
「うあ、はぁ!」
少年は声を殺しきれず絶頂し、ぐったりと木にもたれかかる。
しばは自身のペニスから出る精液を手のひらで押さえた。そうすることで、射精後の余韻を少しでも長く感じようとしていた。ただ、手と股間が汚れるので、こうした後は寝床へ戻る前に洗わなければならない。
後始末をしなければ。そんなことを考えながら、しばはみなみの無邪気な顔を思い出していた。同じ年頃だというのに、みなみは大人しく床に就いている。対して、自分は夜な夜な人目を避け、理由の分からない快楽をむさぼっている。これを初めて、もう一ヶ月以上になるだろうか。
「オレ、最低だよな。こんなのみなみに見られたら、なんて思われるか」
超能力を駆使し、自身の身の丈を超える怪物や武装した軍隊を相手にするサイキックである彼は、まともな幼年期とは無縁のまま二次成長期の入り口へ来てしまった。オナニーやマスターベーションという言葉すら知らないのに、わき上がる性欲をどう受け止めればいいのかなど分かるはずもない。
◆◆◆
「今日は待機?」
朝一番、少年少女たちを集めたマムス村を守る大人のサイキックたちが一行の出発を止めた。ガードフォースが大規模なサイキック狩りを行っており、今日行動を起こすのは危険だと言うのだ。
「だったら、なおさらみんなを助けにいかなきゃ」
「そうよ、みんなを守らないと」
みなみとみさは反論するが、大人たちはその意見を一蹴する。自分たちもサイキックを保護する活動をしていること、ガードフォースの目的が彼ら四人のあぶり出しである可能性が高いこと、今回は自分たちが出向くから代わりに村を守って欲しいことなどを根拠に大人らしい正論を交えた反論を許さない口調で二人を黙らせた。しばとあいねは、初めから異論などなかった。
「村を守るって、どうすればいいのかな。パトロール?」
意気込むみなみを、みさが制止した。
「ブレイクのあなたが見回っても目立つだけよ、そっちはシールドのわたしとあいねがやるからみなみとしばはいつでも戦えるようにしておいて」
みなみがしばの顔を見つめる、みさの言葉の意味が理解できないらしい。察したのかテレパシで聞いていたのか、あいねが割って入ってきた。
「二人は休んでてってことよ。敵が来た時、頼りは男のあなたたち。いつでも全力を出せるように、体力を温存しておいて」
納得したらしく、みなみは休憩する方法をあれこれ考えているのか寝室と食堂を行ったり来たりしている。一方しばは空いた時間に武器の手間を済ませてしまおうと考え、砥石を濡らすための水を河原へ汲みに外へ出た。
「ふぅん、全員の武器を手入れしようなんて。気が利くじゃない」
これから屈もうというとき、しばの背後からあいねが声をかけた。
「この女……必要ないときはテレパシは使わない約束じゃなかったのか」
周囲に人影が無いためか、しばの語気はいつもより荒い。しかし、あいねが気にする様子はない。
「必要だよ、今はしばと二人で話したいから。みなみが何してるのか、知りたかった」
言葉の意味を測りかねているしばに、あいねは紙袋に入った一冊の本を手渡した。と言っても、手渡されたしばにはそれが何なのか、まだ分からない。
「なんだこれ」
「本よ、これから大人になる男の子のためのハウツーが書いてあるの。しばには悪いことしちゃったからね」
「悪い事ってなんだよ」
あいねは顔を赤くし、しばに背を向ける。
「それを見れば分かる。その、見ちゃったのよ、夜、ちょっとだけ。誰にも言わないから心配しないで」
言うが早いかあいねは走り出し、河原を大きく迂回して村の外周へと消えた。しばは顔を伏せ、身もだえる。
「見られたのか、よりによって、あいねに!」
あれこれと考えたが、あいねはテレパシ使いである。仮に秘密を暴露したとしても、無闇に人の秘密を覗いて触れ回れば、それは彼女自身の首を絞める行為だ。あいねの言葉通り、誰かに漏れる心配はないとしばは考え、少し楽になった。そして、あいねが自分にそのことを伝えてきた意図を探る余裕が生まれた。
「本、とか言ってたな」
しばが紙袋を開くと、自分より少し年上に見える二人の少年少女の写真が載った表紙が見えたので、すぐに服の下へ隠した。
写真の二人は裸であった。
「な、なんだよこれ……エロ本?」
◆◆◆
「しば、休憩?」
河原から戻り、寝室へ入ろうとするしばはみなみと入れ違いになった。
「あ、ああ。やっぱ休んでおこうかと思ってな。お前はどうしたんだ」
「休むって言われて横になってみたんだけど落ち着かなくて。しばは何してるのかなと思って見に行こうと思ったんだ」
しばは内心ホッとしながら、みなみに悟られぬよう平静を装って声を落とす。
「そういうことか……武器を手入れしておこうかと思ったんだが、銃はバラすといざってとき使えないからな。砥石は用意したが、休憩が先だと思って」
「そっか。じゃあ武器研ぎはボクがやっておくよ。しばは休んでて」
「ああ、ありがとう」
みなみを見送ってから、寝室の扉を閉めるしば。足音が聞こえなくなることを確認し、あいねから受け取った本を取り出し、改めて眺めてみる。図書館から拝借してきたらしく、タイトルは検閲済みの判が押してあってほとんど読めない。辛うじて判を逃れ確認できるのは……説書第一巻・男性向けの文字。写真は男のモデルがカラー、女のモデルはモノクロになっていることから女性向けの巻も存在し、二冊で一組の本なのだろうと予測出来る。
しばは下品な内容を予想したが、ページを開くと絵より文章のほうが多い。そこにはペニス、オナニー、アナルなど、彼が初めて目にする用語が並んでいる。図解付きであり、しばはすぐ用語が何を指すのか把握する。そして自身が密かに行っていた行為がオナニーと呼ばれるものであることを知る。
そのほかにも、この行為が子供を作るための準備が出来たことを知らせる兆候であること。安易な性交渉で子供を作った場合、女性が若すぎると出産時に死ぬ危険性があること。その他男性、女性との性交渉時の注意など、文面こそ過激だが文章は事務的なほどあっさりかつ無難な文言ばかりだ。
読み進めると性交渉への欲求を抑える心得と題して、オナニーにはいくつものやり方があること。おしりの穴、もといアナルを用いたオナニー法があること、アナルは排便を済ませ洗ってあるという条件下であればイメージに反し清潔であること。快楽を得るには一人より複数のほうが大きなものが得られるが、それには相手の同意を得ることが重要であること。性接触により感染する病気があり、強い快楽を得たいからと無闇に性交渉するのは愚策であることなど、性欲がコントロールできない場合の対処法とその具体例がいくつも載っていた。
しばはあいねが謝罪した意味を理解する。彼女は黙っていることも出来たが、正しい性知識を与えたいがためにしばのプライバシーへ踏み込んだ。無粋な行為そのものへの負い目もあるが、この本は性欲のコントロールにも触れている。本に依れば、性欲が高まったときの見境の無さは女性より男性のほうが遙かに高いという。それを知らせることで、あいね自身やみさが性欲の標的にならぬよう予防線を張ったのだろう。つまり、しばが彼女らを襲う可能性を考えたことになる。しばをそんな人間だと思っている、そう思わせたことがあいねにとって一番謝りたいことだった。
「子供が子供を作れるなんて思わないが、試せば危険か。あいねちゃんは友達思いだね、まったく」
あいねの忠告を含んだ謝罪は、その目的を半分果たした。危険を嫌うしばは、妊娠によりみさやあいねの命が危険にさらされることなど望まない。ただ、あいねの思惑と違うことが二つあった。しばはまだみさやあいねに欲情するほどに発達しておらず、二人への苦手意識もある。忠告せずとも、みさは安全であったという点。
もうひとつは、同性であるみなみが性交渉の相手となり得ることを知ってしまった点。本には男性同士の性交渉についても細かく触れられていて、その利点と欠点も細かく解説されている。しばがみなみのことを気に入っていたこともあり、しばはみなみを意識しはじめる。
なんでオレがみなみなんかを、男だというのにと考えたが、頭の回転が速いしばはすぐ自分の感情の正体に気付く。みなみは自分の危機を救ってくれたことがあり、自分同様に幼さを残す少年。また男性としての特徴がハッキリと現れていない年齢故に、体つきは同行しているあいね、みさと大きな差がない。違いが無いのだ。彼らにはまだ、男女としてのハッキリした身体的な差が。加えて同性であるということから、同じ悩みを持てば同情を買えるかもしれないという期待もあった。
そして何より、サイキックである自分が常識的な考え方に捕らわれることの無意味さ、虚しさが自分を揺らすのだとしばは感じた。
「サイキックが性別、か」
しばはページをめくり、あいねからもらった本を読み直す。
「男性同士の性交渉の場合でも、相手を気遣うことが重要である。最低限のマナーとして入浴をし、始める前は衣服の上からペニスを撫で、相手の準備が整うのを待ってから服を脱がせ手コキを行うなど……」
しばはズボンの上から自分のペニスを押さえてみた。いつも無意識にやっている行為のはずなのに、とてもドキドキする。そして考える。もし、この手がみなみの手だったら、と。あいつの手は硬いだろうか、柔らかいだろうか。
「な、なんでこんなにドキドキする。まさか、本当にみなみを」
ほんのわずかな行為にもかかわらず、しばの気分はこれ以上無いほど高まっている。このままではパンツが汚れてしまう、そう思ったとき、寝室の扉が開いた。
「しば、いる?」
「ひっ!」
全身から汗を拭きだし、真っ赤になるしば。それを見て、心配そうな顔でみなみが見つめる。
「あれ、風邪引いたの?」
まさか本当のことは言えない。しばは読んでいた本を自分の布団の下へ隠し、平静を装う。
「い、いや……なんか火照っちゃってな。そうだ、オレ洗濯してくる」
「あ、しば」
みなみの制止を振り切り、しばは河原の近くにある洗濯場兼浴室へと向かった。
◆◆◆
汗に濡れた衣服を洗濯機に放り込み、外から見えぬよう仕切られた浴室で汗を流しながらしばは荒い呼吸を整えていた。
本を読んだ直後だったとはいえ、みなみにあんなところを見られてしまうなんて。それに、みなみであんな妄想をしてしまうなんて。幸いにして、この時間に湯を使う決まりは無く浴槽の中は冷水のままだ。火照った体と、ついでに頭も冷えるだろうと、しばはその中に入る。
「ふぅ、冷たいな」
「しばー」
これから頭を冷やそうというしばの前に、一糸まとわぬ姿のみなみが現れた。湯気がないため、動いても揺れない小さなペニスもハッキリと見て取れる。しばの心臓は高鳴った。
「おまっ、なんでここに」
「武器の手入れが終わったから寝室の掃除をしてたんだ。そしたら変わった本を見つけてさ、面白いこと書いてあったからしばと試そうかなと思って」
しばは何も答えない、頭の処理が追いつかなくなっていた。本をそのままにした不覚を呪いもしたし、みなみがあの本を読んで試そうと提案している真意も測りかねる。そもそも、みなみはどこまで知っているのか。あいねから何か聞いているのか。考えれば考えるほど、分からなくなる。しばは歳の割に頭が回るが、その頭脳も発情した男の子の本能には勝てず、思考は停止したまま進まない。
「しば、のぼせてるの?」
不思議そうな顔をしたみなみがお湯だと思って浴槽へ足を踏み入れるが、冷水であったため瞬時に飛び込み、しばを引き上げた。しばの様子がおかしいのは、体が冷えすぎているためだと誤解したのだ。
「しば、しば、大丈夫?」
みなみに引き上げられながらも、しばの中では葛藤が続いていた。どうやらみなみが誤解したらしい、程度のことは分かるが、うまいフォローを思いつかない。
「体が冷えてる、よし」
みなみはしばの体を温めようと、横たわっているしばの体の上にのしかかった。みなみに一切の下心は無いが、みなみの幼い顔と青い髪が目の前に来て、しばは状況を分析している場合では無いことに気がついた。
「どう、あったかい?」
しかし、動けない。この状態はしばにとって心地よすぎた。お互いの柔らかい体が吸い付き合い、体温を交換している。みなみは少しでも体積を増やそうと顔を横にしてほっぺたを押しつけるが、しばは柔らかい全身と押しつけられるペニスの感覚に鼓動が高鳴り、体温の上昇と共にペニスが大きくなっていく。しばのそれもみなみと同様、小さいものだが体を密着させているみなみに違和感を覚えさせるには十分だった。
「あ、起ってきた。しば、元気出た?」
元から不調ではないしばは立ち上がり、みなみの手を引いて浴槽の中へと戻る。
「ちょっと、また体が冷えるよ」
「冷やしてたんだよ」
自分のほうを見ようとしないしばに何かを感じ、みなみは心配になる。
「ねえ、何かあったの?」
「どきどきした」
「え」
言葉の意味を理解しようとするも、みなみには分からない。だが元より困った人を放っておけない性分のみなみは様子のおかしい親友の異変を少しでも感じ取ろうと努力する。
「胸が苦しいってこと?」
「そうとも言う。なあみなみ、さっき言ってた本に載ってた面白いことってなんだ」
今の状況と本を無関係だと思っていたみなみはしばへの注意に使っていた神経を過去へと回し、自分が何を言ったのかを懸命に思い出す。つい先ほどのことを忘れてしまうほど、みなみはしばを助けることに必死だった。
「えっと、難しい言葉で書いてあったんだけど、仲のいい人同士でちんちん触ったりするとエッチな悪いことをしようって気が起きなくなるらしいんだ。気持ちいいとも書いてあった。あと、本当か分からないんだけど、お風呂で洗った後はおちんちんやおしりの穴は口に入れても大丈夫なくらい清潔で、やってみるとすごく気持ちいいって書いてあって、でも本当か分からないからしばにしばに相談しようと思ったんだ」
しばは優しい声で笑った。
「お前なぁ、ちんちんとかおしりの穴とか言ってて恥ずかしくないのか」
みなみは少し恥ずかしいらしく、荒っぽい口調になる。
「い、いいじゃんしばに言うくらい。あいねやみさには言えないだろ」
「確かに、女二人に聞かれたら何言われるか分からないな」
しばはようやくみなみのほうへ向き直った。
「じゃ、やってみるか」
「え、いいの?」
「お前、悪いこと嫌いだろ。お前がやるって言うなら、それは悪いことじゃないってことだ」
◆◆◆
二人は体を洗い、寝室へ戻っていた。ただし服は着ず、パンツを一枚履いているだけだ。
「この本の通りにしてみよう」
しばは左手に本を持ち、みなみは向かい合って座った。
「まず、服の上からチンコを撫でる」
しばが手を伸ばし、布越しにみなみのペニスに触れる。みなみは目をつぶるが、声は出さない。
「どうだみなみ、何か感じるか」
「わからない、少し変な感じはするけど」
「もう少し続けてみるか」
しばは触り方を工夫し、上からなで下ろしたり、左右からペニスの形をなぞるようにしたり、下から睾丸を揉むようにゆっくり上へ手を伸ばしたりと、ゆっくり優しく触れていた。
その間、しばは手先に全神経を集中していた。みなみは目をつぶり、しばに全てを任せている。その表情が、しばにみなみの存在を感じさせる。手から伝わる柔らかさ、暖かさが、しばの鼓動を早くする。しばの手の動きに合わせて南の口から漏れる息が、手のひらでのオナニーしか知らないしばに新しい胸の高鳴りを教える。
「少しは変わったか?」
「うん、気持ちいい、気がする。ねえしば、今度はボクがやるよ」
今度はみなみが本を片手に、しばのペニスをパンツの上から手でなぞる。本の用例を参考にしているとはいえ、しばに比べると手つきが幼い。触ったり揉んだりしているが、オナニーの経験がないためか摩擦を与えると心地よいという実感がないため、どうしても見落としする。
だが、しばは自分の股間と本を交互に見つめ、必死な顔で自分のペニスに触れるみなみに興奮していた。与えられる快楽の有無より、普段目にするみなみ、閉じ込められロングジャンプでの脱出も出来ないときに助けてくれた勇敢なみなみ。そんなみなみを思い出し、今目の前でオナニーすら知らないのに必死に相手のペニスに手を伸ばすみなみと思い出を並べ、交互に思い出すことで、目の前の無知な少年は皆が頼りにする勇敢な少年と同一人物であると再確認し、それを独占する背徳感に浸った。もっとも、しばにはそういった思考をしているという自覚はなかったが。
「しば、気持ちいい?」
「まあまあ、かな」
手がやわらかい、真剣なまなざしが自分だけに注がれている。双方同意の下でお互いのペニスを触り合っている。芽生えかけの性欲も、ここまで条件が揃えば自覚になる。しばはこのとき、みなみのことが好きだと気づいた。以前から彼を気に入ってはいたが、いま抱いているのは情欲、みなみを独占したいという欲求。しばはみなみの全てが欲しいと思った。しかし世慣れている、世慣れざるを得なかったしばはここで抱いた感情をストレートに爆発させたりはしない。内側に押さえ込み、みなみが受け入れてくれるときだけ解き放とうという自制心が働く。
だが、今はその自制心を解き放ってもいい時、そう思える。そんな油断が、しばの射精を許す。
「わっ、しば、おしっこ?」
思わず解き放ってしまった本能を必死に押さえ、しばは必死に弁解する。
「いや、これは射精ってヤツだ。先のページに書いてあるだろ、チンコを刺激してると精液っていうおしっことは違う白い液体が出てくるって」
本をめくり、該当する項目を見つけたみなみは安心した様子だった。それを見たしばも安心する。
「でも、こりゃもう脱ぐしか無いな。次へ行くか」
二人はパンツを脱ぎ、汚れたしばのパンツは分からぬようみなみのパンツでくるんだ。そうしてから、改めて二人で向かい合う。今度は二人とも全裸、先ほどとさして変わらぬ状況なのに、お互い照れくさくなり正面から顔を見ることが出来ず、もじもじしている。
本の手順では、服の上から温めた後は手で直接こする手コキがマナーであると書いてある。先ほどと同じように、まずしばがお手本をみせようとする。しかし、本の通りに出来ない。みなみのペニスが勃起していないため、握ることが出来ないのだ。
「どうしよう、しば」
少し考え、しばは自分がやっていたオナニーの方法をみなみに試そうと考えた。
「本には載ってないが、こうすればこすれるんじゃないか」
小さなペニスを手のひらで押さえつけ、上から下へ押さえつけるようにこする。ペニスの皮がこすれ、時折剥けたりするため刺激は先ほどの比ではない。
「うああ……しば、これ強いね」
「本に書いてある、慣らしていって少しずつ強くすると。さっき十分触ったんだからこれくらいでいいだろう」
未知の感覚に、明らかに見て取れるみなみの狼狽。しばはその表情、荒くなる呼吸、手から直接伝わるペニスの触感に脳がとろけそうだった。かわいい、しばはそう思った。大人たちから見ればしばもかわいい年頃だが、しばが感じるかわいいはそういったものでは無い。異性に感じるかわいらしさ、愛おしさに似た感情だった。それが性欲と結びついていることにしばは後ろめたさを感じるが、その背徳感が自覚になるほどしばの性知識は成熟していない。みなみがしばの手のひらを受け入れ、なすがままにされてくれる。それを嬉しいと感じるにとどまっていた。
手のひらがだんだん湿り気を帯びてきた、汗ではない、みなみの射精が近いサインだ。にも関わらず、まだ完全に勃起しないあたりみなみは性的に未熟であった。他人の力、しばの手を借りて初めて絶頂することができる程度の、そんな小さな性的感覚。
不完全とは言えみなみのペニスが勃起したと知ると、しばはこすると言うより包むように手のひらを当て、上から下へと刺激を加えるよう手の動かし方を変えた。出すときに押さえれば気持ちよさが長く続くと知っているからだ。
「出そうなのか」
「しばが出したのと同じやつ?」
「ああ」
みなみは息を荒げながら自分のペニスを見つめ、尿意に似た、しかし異なる熱の集中を感じ体を震わせる。「うん、そうかも」
ふと、しばは本に注約として書いてあった文章を思い出した。手で触れるよりもっと先、ペニスを舌で、口で愛撫する方法について書いてある箇所の脇にあったものだ。
「精液は苦く粘つくため口に含むと吐き出してしまいがちだが、体に害は無い。飲み込むことで相手に優越感や精神的快楽を与えることが出来るため、より濃厚な性交渉を望むなら一つの手段と言えるだろう。だったな」
そして、口に出さないもうひとつの文言。初めての射精を精通と言い、女性で言う初潮に相当する。通常は夢精や自慰で無意識に行い、誰かの手を借りて行うのは希である。
これは滅多に無い機会、しかも相手はみなみ。しばは思わず喉を鳴らした。
「しば?」
しばは手を引き、みなみのペニスに顔を埋めた。
「わああ、しばぁ!」
突然のことにみなみは驚くが、しばは止めない。みなみのペニスを口に含み、歯を当てないよう気を遣い、口で包み、舌で優しく刺激する。温かく柔らかいものに包まれたことで、みなみの未知の快楽は一気に臨界点まで引き上げられた。
「しば、やめ、なんかこれ……わあああ!」
みなみの生まれて初めての射精、精通。刺激が強すぎたためその勢いは強く、尿道が痛むほどだった。あふれ出る白い液体を、しばは無我夢中で飲み込む。みなみの初めて、オレだけの……そう思うと、一滴たりと零したくなかった。
しばが精液を飲み込んでいる間、みなみは初めての射精感に振るえていた。例える言葉が見つからない、未知の感覚。気持ちいいとも感じるし、痛いようにも感じる。ただみなみにも理解できたことはある。これは、また味わいたい中毒性があるということ。そして、しばはもう一度この感覚を感じたいを願っていること。みなみが頭の中で明確にそれを言語化した訳ではない、そういうものだと感性で感じ取っていた。
息を荒げながら野生の本能と快楽を目覚めさせけだるさに身を崩すみなみに対し、しばの表情には陰りが見えていた。
しばは先ほど飲み込んだ精液の味がまだ口の中に残っている。みなみのそれは精通した直後であり薄く、味もにおいも成人男性のものより遙かに控えめである。が、美味ではない。みなみのものであるという事実から飲み込んだことへの嫌悪はないが、しばはそれが特別なものでは無くただの分泌物である、という現実に打ちのめされていた。
性的興奮状態の男性ということを考慮すればしばの年齢より五、いや十は上の人間でも好意を抱く対象の生殖器から出たものという事実のほうが勝り酔ってしまうものであるが、しばは年齢に対して賢すぎた。彼は今、性的欲求に振り回されていた自分を嫌悪していた。みなみのペニスから口を離し、一糸まとわぬ自分の体を見下ろす。
「こんなことのために、みなみを、利用して……」
手が震え、そそり立っていたペニスがしなびる。みなみが目を開けると、しばが涙を流していた。
「どうしたの?」
恍惚状態の余韻も忘れ、みなみはしばを心配そうに見つめる。
「お前、オレが嫌いにならないのか」
しばの声は震えている。
「嫌いって、なんで嫌いになるのさ。チンチンぱくってしたから? 本に書いてあったからやったんでしょ、別に嫌じゃなかったよ」
二人でこれだけのことをしたのに、みなみはまだ理解していなかった。自分たちがやっていることの後ろめたさと、しばがそのことをずっと思い悩んでいることを。
「だって、だってさ」
しばはみなみに向かって口を開く。
「オレ、本当は本のこと知ってたのに、みなみに黙って二人で勉強するようなフリしてさ。ふ、二人で、気持ちよくなるのが好きなエッチな友達になろうなんて思ったんだぜ」
エッチという単語を聞いて、察しの悪いみなみがようやく気付く。これはエッチなことで、それはつまり、悪いこと。軽く見ても、本当は大人がすることなのだと。
みなみの表情から、彼が察したことをしばは理解し、そのまま言葉を続ける。
「これは大人の遊びなのさ、子供のオレたちがやっていいことじゃない。でもオレ、我慢できなくて……ごめん、ごめんねみなみ」
こらえきれず、しばは声を出して泣き始めた。みなみは黙ってそれを見つめる、見つめ続ける、泣き止むまで。
◆◆◆
ようやく落ち着いてしばが目を開けると、みなみが例の本を熱心に読んでいることに気がついた。
「もう、無理して読まなくていいんだぞ」
みなみは本を閉じ、しばに向き直る。
「無理じゃ無い、それにもう全部読んだ。今のは、確認しただけだ」
「確認って、何を」
みなみはしばの乳首を人差し指で押す。
「こういうの、女の人にすれば嫌がられるよね。でもしばは嫌がらない、本に書いてある通り」
しばにはみなみの意図がわからない。
「通りって、どういうことだ?」
「この本はエッチな本じゃない。エッチなことをしないように、エッチな気分を沈める方法が書いてある本だった。ボクとしばがやったのは、全部そういう方法」
それは気持ちよくなることを肯定するための方便にすぎない。しばはそう思ったが、みなみは文字通りに受け取ったらしい。それは誤解なんだと言おうとしたが、しばは更に深読みした。もしかしたら、誤解しているのは自分かもしれないと。自分たちサイキックはまともな育ち方なんてしていない、そんな人間の常識なんて、アテにできるのだろうか。頭が良すぎるために、しばは自分の知識や経験も疑う。みなみは続けた。
「そのついでで気持ちよくなるのは悪いことじゃない、悪いのはエッチなことをしたいからって人を思い通りにしようとすることなんだ。みんながクルーⅢにされてるみたいに」
この言葉は決定的だった。しばにとってもみなみにとっても、強制されることこそ苦痛。強制することこそ罪。それを避ける行為なら、多少見栄えが悪くたっていいじゃないか。しばはそう考えた。よりみなみの同意は必須になったが、それは続くみなみの言葉が解決してくれた。
「だからしば、気なんか使わないで相談してよ。あいねとみさには秘密にする、ボクに出来ることなら何でもするからさ」
しばは身を固くし、小さな声でささやく。
「オレ、気持ちよく、なりたい」
しばの吐息が熱くなる。四つん這いになり、腰を持ち上げるという姿勢に加え衣服を全く身につけていないこの状況は、野生動物を彷彿とさせる。しば本人も姿勢の維持に手一杯で、何をされても抵抗することが出来ないという無防備さもあって、後ろに控えるみなみにばかり気が行き、思わず目をつぶってしまう。
「あっ、はぁっ」
みなみはしばの肛門に口を付けている。丁寧に、やさしく、ほぐすように。おしりの肉が軟らかく分厚いため、肛門に口を付けるにはその肉を両手で押し広げなければならない。その手間を軽くするため、しばは両足を大きく広げている。みなみの舌が動くたびに、まだ声変わり前のしばの甲高い声が甘い歓声を漏らす。
「しば、気持ちいい?」
「恥ずかしいから聞かないでくれ」
みなみは本を床に置き、覗き込みながら行為を少しずつエスカレートさせていく。初めは指を入れるだけだったが、舌で周囲を舐め、次に肛門に直接当て、しばの声が荒くなってから穴の中へ舌を突き入れ、動かす。
「ああ、ひゃああ! ま、また出る!」
しばの何度目かの射精。だが、みなみはまだペニスに直接触れない。焦らしているわけではない、本の用例を順番にこなしているため、ペニスをしごく、というページにまだ届いていないのだ。
「出すと気持ちいい?」
はぁはぁと荒い息を整えながら、しばは必死に首を縦に振る。それを見て、みなみは行為を続ける。
しばの表情から後ろめたさが消え、年相応の少年らしさが現れていた。普段は斜にかまえている彼だが、今は素直に心地よさとみなみへの好意を顔に出している。みなみがページを進め、しばのペニスを握ったときなど、彼はみなみの名前を叫びながら射精したほどだった。そしていざ本番となり、みなみもやや緊張した表情になる。対するしばは延々続く責めに酔い、顔がすっかりとろけている。
「うわっ! これはすごいね、しば……」
「み、みなみぃ」
勃起したみなみのペニスがしばのアナルにあてがわれ、押し込まれる。みなみは締め付ける肛門括約筋に、しばはこすられる肛門管と直腸に加え押し上げられる前立腺への刺激に、悲鳴に似た声にならない声を上げる。みなみは本を見ることを止め、本能の赴くままに腰を動かす。しばもそれに合わせ、おしりに力を入れる。二人は外へ聞こえるのではという心配を忘れ大声で叫びあい、射精してもなお腰を動かし続ける。二人が共に力尽き、それはようやく収まった。しばのおなかはふくれていた。
◆◆◆
後始末をし、もう一度浴室で体を清めてから村の入り口へ向かうみなみとしば。もう夕方になっていた。しばの顔は赤く腫れ、みなみの顔にも疲れが見えている。
先に二人を見つけたのはみさだった。ピンク色の髪は夕焼けによく映える、サイキックでなければ幸せな人生を送っただろうにとしばは思った。
「まだ大人たちは戻ってないわ……どうしたの二人とも、休憩してたって感じじゃないけど」
「武器の手入れをしようと思ったんだけど、火薬が舞っちゃって」
言いながら、みなみはしばの顔を見た。二人で示し合わせた言い訳だった。
「大変だったわね、こっちは以上なしよ。あとは大人たちの報告待ちだけど……サイキック狩り、うまく邪魔できてればいいんだけど」
集まる三人を見つけ、あいねが駆け寄ってくる。
「なんだ、もうみんな来てたの」
「そういうこと。何にもなくて良かったね、あいね」
みさは全員の顔を見てからあいねに微笑む。あいねはそれに笑顔を返し、泣きはらしたしばの服の裾をつかむ。
「ちょっと、腫れてるじゃないの。薬の場所知ってるから来なさいよ」
しばを連れて行こうとするあいねを見てみさが引き留めるが、あいねは微笑んで返した。
「こんな顔、大人に見せたら何かあったって心配させるでしょ? 帰ってくる前に治しておいたほうがいいの」
あいねはしばを引っ張り、二人が見えなくなるまで離れてから服の裾を手放す。
「悪かったわねしば、みなみまで巻き込んじゃって」
「読んだのか」
しばはテレパシで自分たちの記憶を読まれたのだと思った。
「しないって、そんなこと。読まなくても、パンダみたいな顔してみなみと仲良く手なんか繋いでればだいたい分かるよ」
しばの背筋が震え、肩が飛び上がる。
「えっ、オレ手なんか繋いでたのか」
あきれたと言うことをことさら強調するために、あいねはため息をついて首を振って見せた。
「無意識だったの? 繋いでたじゃない、ガッチリと。ロングジャンプでもするのかと思ったよ」
「そうか」
深刻な顔をするしばに、あいねは優しく、少し寂しそうにつぶやいた。
「あんたがみなみをどうこうしたなんて思ってないわ、成り行きだったんでしょ。心配しないで、私にも責任があるから。もしみさちゃんにばれたら、一緒に言い訳してあげる」
「なんでオレをかばってくれるんだ?」
アイネは寂しそうな顔のまま微笑む。
「心が読めるとね、信用できる人間とそうでない人間の区別が付くようになるの。あんたは信用できる人間、そう思ってる。だから仲良くしておきたいの、それだけ」
あいねとしばは薬の保管場所を目指した。
男は狼、男の子も狼