紙を捲る音と

紙を捲る音と

  紙を捲る音と
 
  プロローグ。
紙を捲る音とコップの周りの水滴が、流れ氷の崩れる音の二つの音が、する小さな部屋
 僕と彼女の二人だけの部屋、二人だけの小さな世界。

僕は小さな部屋で本を読んでいた。机の向こう側の一つ上の彼女は、アイス珈琲をストローで少しずつ飲みながら、こちらをずっと見守るように見ているだが、何か用がある訳でもなくただ、本を読んでいる僕が好きらしい。その好きという意味は、どういった物かは、僕には分からないがどんな意味でも僕は、うれしかった。
 でもたまに彼女が、話しかけてくれるのもうれしかったりもする。
「今回の本は、面白い?感想、聞かせて。」
と彼女が、いつものように訊ねてくる。
「今回の本は、まあまあかな。公園で男の子と女の子が出会う話かな。」気になるなら貸そうか?と聞くといつも決まって首を横にふって「わたしは、読んでいる君を、珈琲を飲みながら見て、感想を聞きながら珈琲を飲みながら君から聞いて自分も読んだ気になるのが好きだからいいの。それに君が感じた世界をかんじたまま知れるでしょ。」いつもこの言葉にドキッとさせられる。彼女は、一体どう言う意味で言っているのかいつも気になっていた。

    私。
 私は、いつも珈琲を飲みながら彼が、本を読んでいるのをいつも見ているのが好きだ。彼は、ほとんど毎日、私の家に来ている。この彼の習慣が始まったのは、三か月前から。私の父の部屋に本を読みに来ていたが、沢山あるはずの父の本を一カ月くらいでほとんど読み終えてしまった。何をそんなに真剣に読めるのか気になった私は、そんな彼を観察してやろうと思い珈琲を持って見に行った事があった。初めは、私にまじまじ見られて彼も集中できない様子だったが、次第に慣れていき彼は、自分の世界に入って行ってしまった。その彼の眼は、きらきらとしていて眼が全てを語っていた。こんなにも夢中になれる事が私には、あるだろうか…考えたらすごくむなしくなった。私には、そんなにのめり込める物が無く、昔からそうだった。自慢では、ないが昔から器用に大体出来てしまったから何事にも余り興味が、向かなかった。そんな私が彼に興味が向いたのが理由で毎日、本を読みに来る彼を見に行くようになった。もちろん彼は、驚いていたが三日目になると、少し照れながら挨拶をしてくれたのが、可愛いらしくて良く覚えている。それから数日後に感想を聞いてみたら楽しそうに沢山語ってくれた。私は、あの時肝を抜かれた。ただ感想を聞いただけなのに本の中の世界に飲み込まれてしまっていた。けしてお世辞でも上手と言えないくらい下手だったのに熱意と彼独特の表現に惹かれてしまった。それが楽しみで今にいたる。こんな事、誰かに言ったら恋と呼ぶのだろうな、でも私には、恋の事は分からないけど少し違う気がする。今は、分からなくてもいいと思っていて、彼の世界を見ていれば、おのずと見えてくるはず。特に最近の彼は、恋愛系が多い。好きな子でも出来たのかな。

    僕。
 彼女は、いつも珈琲に拘りがあるみたいだ。
例えば、豆から入れるのは勿論のこと、いろいろな豆をブレンドまで考えているらしい。いつかの日にその珈琲を飲ませて貰った事があったが口に苦みが広がって行き後から珈琲独特の酸味が襲ってきて飲み干す事ができなかった。彼女は、そんな僕を見て少し笑いながら牛乳を珈琲に入れ珈琲牛乳にしてくれたらおいしく飲む事ができた。苦さの中に酸味を包み込むような甘さと彼女の笑った顔を今でも鮮明に覚えていた。今でもこっそり自販機で缶珈琲を飲んでは、惨敗しては彼女に笑われるのだろうと思いながらも何度も飲んでいた。

    私。
 彼はたまに珈琲の薫りを纏いながら家に来る。「珈琲飲んだの?」と私が聞くと少し驚いた顔で「飲んでないよ。」とよそよそしく答える。本当に分かりやすくてかわいい子だ。彼はきっと誤魔化しているつもりだろうが、「バレバレだよ」とどうしても言いたくなるが次も彼の戸惑った顔が見たい気持ちが勝ってしまう。最近自分でも分からないけど、自分で彼に惹かれているのかなと、思う時があるけどこれは「恋」なのかな?まだ答えは、出さなくていいかな。

    僕。
 「恋」とはなんだろう?最近そう考える事が増えた気がする。色んな本を読んで主人公が恋をするシーンは、いくつもあるが自分の中で理解は、出来るがいまいち自分との感覚が合わない。だから僕は、恋愛小説を読みあさっている。僕は別に答えを知りたい訳じゃなかった。ただ彼女がなにかを見つけようと珈琲豆のブレンドを試行錯誤しているのを見て彼女が見つけて言ってくれた時に僕もなにかを伝えられればいいな。ただ、それだけだった。

    私。
 初恋の味は、甘酸っぱいと言うけれど実際のところはどうなのだろうか?と言うバカげた疑問から無性に行動に移したくなった結果がブレンドを始めた。珈琲なら味もきちんと分かるし何よりも彼に合う珈琲を作ってこの味がきっと初恋の味になるような気がした。こう思った自分は、すでに答えが出ている気がしたけど、まだ答えを出すにはもったいないから最後に答えをだそうかな。

    僕。
 今日は、本を学校に持って行くのをわすれてしまったから久しぶりに真っ直ぐ帰るつもりだったけど、習慣とは恐ろしい物で気付いた時には、彼女の家のインターホンを押していた。いつも通り彼女が出て部屋まで連れて行ってくれ、小さなテーブルを挟んで座って本を読みだすのだが、手持ちに学校の用具しか入ってない。しかたなく宿題をやることにした。それを見た彼女は、少し驚いた顔をしていたが、しばらく考えたのちにクスリと笑っていた。やっぱり彼女には敵わないな。
 そんな事を考えながら、宿題をやっていると分からない問題が出てきた。しばらく考え込んでいると、ふわっと甘い香りがして振り向くと、彼女が中腰で覗き込んで分からない問題を丁寧に教えてくれた。なんだかこの小さな部屋で珈琲の匂いを嗅いだのは、初めてかもしれない。

    私。
 彼は本を忘れて来た日以来、たまに宿題を持って来ては、私に分からない問題を聞いてくれるようになった。私は、それがとても嬉しかった。人見知りな彼が自ら話かけてくれ、熱心に私を聞いてくれる顔が、いつも私が本の事を聞いている顔はこんな感じかもしれないな。

    僕。
 本を読み終え本をそっと閉じ鞄の中にしまおうした時にいつもの質問がきた。
¬その本はどうだった?」
 いつもの落ち着いた優しい声だった。
「面白かったよ。恋の人それぞれの考え方、価値観だったりが分かる本だったよ。」
「気になるなら貸そうか?」
僕もまたいつものセリフを言った。そして彼女もいつものセリフ言うと思いきや、顔を少し赤くしながらうなずいた。

    私。
 彼はとても驚いた顔をしていた。それもそのはずだった。私はいつもなら断っていたが自分の考えていた事を言い当てられたみたいで恥ずかしかったが、興味ある事に逆らえずうなずいてしまった。私は、彼に見せた事のなかった表情をみせてしまったなと、少し恥ずかしかったが、この本を借りて少しでも自分なりの答えが出せたらいいな。

    僕。 私。
 本を貸して数日の間、僕らは机挟んで向かい合って本を読んでいた。その光景が不思議な感じだった。
 私は本を読み終わり珈琲を一口飲んだ。
「読み終わったよ。自分なりの答えでたきがする。」
「どんな答えがでたの?」と彼が聞いてきた。いつもこんな顔をして自分も彼の話を聞いているのかな。
「私、あなたが好きなのだと思う。」

 僕はすごくびっくりした。いつもみたいにからかっている表情ではなく、真剣な顔をしていたから、本心なのだろう。
「ありがとう。僕も君が好きだ。」
 僕はこれ以上の言葉が思い付かなかった。心が詰まって何も出て来なかった。

 私は、彼の言葉で固まってしまっていた。ただただ嬉しかった。それ以上の言葉を私は知らなかった。頭が回らなくて少しぼんやりしていると、彼の顔が近くにあり唇に柔らか物が触れていたのに気付いて心臓が止まった。
 僕にしてはかなり大胆な事をしてしまった。
彼女の唇から珈琲の味がした。
 これがきっと僕の初恋の味だ。僕の初恋の味は、レモンのように甘酸っぱくなく、ほろ苦さと珈琲の独特の酸っぱさだった。
 僕は一生この味を忘れないだろう。

        完

紙を捲る音と

お久しぶりです。時が流れるのは、早いもので前作の「紙の公園」から1年経ち、この作品を思いついたのは実はこの頃でして長らく放置していました。それがようやく完成しました。少しでも楽しんでもらえればいいなと思っております。感想など言ってもらえれば幸いです。
29/07/19

紙を捲る音と

  • 小説
  • 掌編
  • 青春
  • 恋愛
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2017-07-19

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