一人旅

鍋島タマ子

出発前の荷造りの時の高揚感とは裏腹に、私は存外自分が冷静であるように感じた。
この二日間、一人で歩き回った結果少なからず穏やかな気持ちを感じていた。その間一人で考え事をすることができたからだ。それか全能感に酔っていただけかも。帰路の深夜バスに乗り込み寝支度を整えながら思った。
結局私は、対人関係において相手が本気になることで自分も本気にさせられることが怖いのだ。さらけだされた相手の心に触れる勇気も、自らをさらけ出す勇気も無いのだ。
そんな私なのに、人並みの寂しさは持ち合わせているから、いつだって偽物にすがってしまうのだ。偽物は綺麗なところだけを見せてくれる。こちらに何かを要求することもない。自分の心をさらさなければ本当に心安らぐことなんてあるはずないのに。
私だってこんな私になりたかったわけじゃない。いつからだ。いつから私はこんな風になってしまった。小さいころはただ褒められたかった。生意気に難しい本を読んで、ものごとを分かったふりをしてちやほやされた。義務教育が終わると、自分は特別じゃないということを身をもって知らされた。自分は何故こんなに何も持っていないんだろうと思い、色々なものを恨んで妬んだ。妬んで妬んで周りを密かに憎んですらいた。そんな自分が大嫌いだった。小学生のころから生まれたことを罵られ、中学生のころは殺せと叫ばれた、高校生になったときはついに包丁に追われたこともあった。悔しかった。悔しくて悔しくて、何も言えずただ泣いているだけの自分が大嫌いだった。毎日死にたいと思いながら眠りについた。そんな自分が大嫌いだった。
 でも今は、私はずっと大人になった。ここに来るまで、こんなに生きるのが大変だなんて思わなかった。
上辺だけで上手くやっていざとなったら少しずつ扉を閉ざす。難く堅く。だから相手の心が本当にはこちらに向かないと分かるとかえって安心する。それと同時に何者かへの苦しい嫉妬と満たされない寂しさに襲われる。
もしかしたら、ずっとこのままかもしれない。でも私はこのままでいいと思っているのかもしれない。どれが本当なんてないのかもしれない。料金の安い深夜高速バスのカーテンは趣味が悪くてぐるぐるしたツタ模様をなんとなく目で追いかけた。後ろの方で楽しそうなひそひそ声が聞こえる。大きなキャリーケースを転がしていた同い年くらいの女の子3人組だろう。まだ消灯時間ではない。車内放送が流れて、海辺の街並みも流れて、それから私は目を閉じた。

一人旅

一人旅

旅行の帰り道に考えたことです。

  • 小説
  • 掌編
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2017-07-19

Copyrighted
著作権法内での利用のみを許可します。

Copyrighted