夏休み


 寂しくなった頭に、扇風機がぬるい風を運んでくる。
 年寄りはクーラーが苦手だ。
 つけっぱなしのテレビでは、夏休みに入って交通渋滞がどうのというニュースが流れているが、年寄りに夏休みなどない。
 縁側に座って風鈴の音を聞いていても、ときどき気が遠くなりそうなほどに今年は暑い。
 それでも、田んぼと山だけのこんな田舎は、都会よりはましなのだろうか、と考えていたら自分を呼ぶ声に気づく。

「おじいちゃーん!」

 あぜ道を、小さな手をふりながら、小さな麦藁帽子が走ってくる。
 その後ろを、馬鹿息子とその馬鹿と結婚した奇特な嫁が歩いてくるのも見える。

「ねえ、山に虫捕りに行こう!」

 前髪が汗で額に張り付いた、まるで夏そのもののような彼は、縁側にたどり着くなり、私の手をひっぱった。

「こらめった。じいちゃん腰が痛いき、行かれんちゃ」

 年寄りに容赦のない要求をする彼にそう答えたら、後ろで吹き出す声がした。
 振り返れば、ばあさんがスイカを盛った盆をテーブルに置くところだった。
 そして、笑いをかみ殺しながら自分の孫に部屋の隅を指差してみせる。


 真新しい虫カゴと虫捕りアミがそんなにおかしいだろうか?

夏休み

夏休み

  • 小説
  • 掌編
  • 青春
  • コメディ
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2017-07-15

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