喪女が人生やり直したら? 3話

中学生編2 です。

3話

   7

 仮入部期間。
 宮野優希が仮入部するクラブのアピールは(すさ)まじかった。ただ、『事前準備』という単語が宮野の耳に入ると、学校内で問題となった。
 先生たちの事情聴取の結果、宮野優希の仮入部情報が漏洩(ろうえい)していることが判明した。
 職員室に用紙が提出されてからは、考えにくかった。結果、本人の手から職員室までの間ということになる。
 こうして1年5組のホームルームは、犯人探しの場となった。
 宮野グループ、と私は呼んでいる取り巻きたちは、ひどいことするよね~、の一点張り。矛先は男子に移ったが、誰も名乗り出るはずなどなかった。
 場が膠着(こうちゃく)したように見えた時、宮野グループの誰かが言い出した。

 「要は優希の用紙を追ってけば、いいんじゃない?」

 ということで、宮野の事情聴取から始まった。まず家に持って帰ったが、家族には見せずに、自分の部屋で書いた。提出日に家から持ってきて、朝に私が声をかけた時にはカバンの中にまだあった。そしてお昼休みにクラス委員に手渡した。この宮野の言葉を聞いたクラス中の視線が、私と飯田くんに集まる。テンパった飯田くんが、声を上擦(うわず)らせながら、弁明する。

 「み、見るわけないじゃん。そんなこと、してねーよ!」
 「じゃあ、秋野さんは?」

 さっきの宮野グループメンバーAが、名指しで私に聞いてきた。私が何か言わなきゃ、と思っていると

 「秋野さんは用紙回収してねーよ。職員室まで持っていったのも、俺一人だよ!」

 さっきまでテンパっていた飯田くんが、私を(かば)ってくれた。
 胸がキューッと痛くなる。まさか、こんな風になるなんて•••。
 一時間後。
 宮野優希の「もう、いいから終わりにしよっ」という一言で、ホームルームは幕を閉じた。
 チャイムとともに、みんな疲れた表情で立ち上がる。帰る人、部活に行く人。その中で部活を休む、と友達に言って下駄箱に向かう飯田くんの姿を見つけた。

 「飯田くん!」
 「秋野さん?」

 私は階段を駆け下りて、飯田くんに追いつく。息を整えている私を待ってくれる飯田くん。目が合うと何を言ったらいいか、わからなくなった。

 「どうしたの?」
 「ちょっと待って」

 深呼吸。

 「あの、今日は(かば)ってくれて、ありがとう。もともと私が頼んだことなのに、本当にごめんなさい!」

 深々と頭を下げる私に飯田くんは

 「秋野さんは関係ないよ。それに男子全員疑われていたわけだし」

 頭を横に振るだけで、何も言わない私に対して、飯田くんは困った顔をするだけだった。別れを告げて帰る飯田くんの背中を私は見送った。
 後日、担任の口から出た言葉は、さらに私の罪悪感を大きくした。

 「飯田からクラス委員をやめさせて欲しいと言われた。今回の件もあるんで、先生も了承した。で、代わりに誰か立候補いないか?」

 私はショックで頭が真っ白だった。結局、担任は日付から誰かを指名していたが、全く聞こえていなかった。
 後ろを振り向きたかったが、それもできるはずもなくて•••。
 過去。
 私たちは男女別々に用紙を集めた。そして部活に行く飯田くんに頼まれて、男子の分もまとめて職員室に持っていったのは、私一人だった。結果、当時の私も、今の飯田くんと同じように暗黙の犯人認定をされて、クラス委員をおりていた。
 だからこそ今、飯田くんの気持ちが一番わかるのは、間違いなく私だった。
 今回の私の予定では男子の誰か、ということで有耶無耶(うやむや)になるだろう、と思っていた。
 でも結果は、何の力かわからないけど、私が逃げれば、誰かが同じような目にあう、ということがわかった。

 これが二つあった事件の最初『宮野優希仮入部情報漏洩事件』。
 そして、次に起こる事件が、私を人間不信にした•••。
 知らないうちに、(こぶし)をギュッと握っていた。

 でも、もう絶対逃げない!


   8

 次の事態には、一人で対処しなくちゃ。そのためには、今まで目を(そむ)けていた思い出に、真っ向から向き合わなきゃ、絶対無理だ。
 飯田くんの背中を思い出す。気合いを入れて、ノートに書き始める。

 『宮野優希私物盗難事件

 いつ頃  ゴールデンウイーク明け?
 経緯  昼休み、取り巻きの一人が騒ぎ出し、放課後、緊急学級会を開くことになる。
 盗難品  シャープペンシル
 結末  秋野芹香の机から見つかる。』

 書いてみると、29歳の今まで引きずっていたことも、たった数行のことだったと改めて思った。さらに今だけかもしれないけど、縛られていた鎖が解けた感じまでした。
 前回に引き続き、この事件でも再び犯人にされた当時の私の耳には、ストーカーじゃね? そんなに好きなら話しかければいいのに いくら好きでも盗んじゃ犯罪だよ と、これでもかというくらい陰口が入ってきた。
 学校側もこのことを(おおやけ)にはしたくなかったらしく、箝口令(かんこうれい)のようなことまでされた。不思議なことに、この陰口以外、イジメはなかった。ただ、登校するのに気持ち悪くなって、何回か吐いたりしていた。そんな私を心配してくれる両親に対して、申し訳ないという気持ちで一杯だった。もともと勇気もなかったが、両親のことを考えると登校拒否もできなかった。
 そして、ただただ孤立し、誰とも話さなくなり、誰も信じられなくなっていった。

 その原因が、たったの数行のこと。

 「は、ははっ•••」

 知らないうちに泣きながら、笑っていた。
 頭を振り、気持ちを入れ替える。
 問題点としては、日付の特定、解決方法の二つ。来週からはゴールデンウイークに入る。時間がない。でも、なんとかしなくちゃ。
 日付を思い出そうとしても無理だったので、解決方法から考えることにした。飯田くんの件でわかったのは、他の人の机に宮野のシャープペンシルを入れ替えても、その人が不幸になるだけということ。
 不幸になる•••、なるべきは私? 他のクラスメート?
 いや! 犯人だろ!
 ということは、犯人を捕まえるか、犯人に犯行をやめさせるか。
 とにかくターゲットを犯人に決めたことで、思考の袋小路からは脱出できた。
 ここで犯行日に戻った。というのも、日付を思い出すより、自分が犯人だったらどうするか、と『視点を変える』ことを(ひらめ)いたから。というのは嘘で、実は会社の上司に以前、怒られた時に言われていたことを思い出したからだった。
 普通の人からシャープペンシルを盗むことは、そんなに難しいことじゃない。でも、常に他人が群がっている宮野からシャープペンシルを盗むには、みんながいない時でないと無理だ。じゃあ、体育とか教室に誰もいない時になる。さらに犯人は自分の授業を抜け出して、教室に入るとなると•••。
 それに、そのあと放課後、急に学級会を開けるとしたら•••。

 「水曜日。おまけに体育の授業もある」

 もう、日付はこれでいこう。ゴールデンウイーク明けの最初の水曜日。
 次に犯人に対して、どう対処するか? 体育の時間中、後ろの掃除用具ロッカーにでも(ひそ)んで、現行犯逮捕?
 いやいや、無理でしょ。
 そういえば、犯行日付と犯行時間を決めたけど、犯人が同じクラスの場合、私も一緒に授業抜けたら、おかしいよねぇ。体育の授業の前から保健室に行っておくか。体育の授業が始まったら、トイレということで、すぐに教室に戻ろう。
 で、空振りだったら、また翌週繰り返しだな•••。ってマイナス思考にならないように、と。これも上司の受け売り。
 隠れる場所は明日、掃除用具ロッカーを確認しておくとして。犯人が現れたらどうする? 犯行前や後だと犯人がしらばっくれたら終わりだし、犯行直後に掃除ロッカーから私が登場しても、男子だったら怖いし、女子でも口で負けそう•••。
 う~ん•••。
 今度は本当に(ひらめ)いた!
 もう犯行を録画しちゃう? 確かお父さんがキミ用にハンディカム買ってたよな。隠し撮りみたいにすれば•••。これも明日、場所を調べておこう! あと、ハンディカムの使い方もお父さんに聞いておかなくちゃ。
 よしっ! この計画で行くゾッ!


   9

 ゴールデンウイークは家族でお母さんの実家に行った。毎年、ゴールデンウイークか夏休みのどちらかには、家族で帰省していたのを思い出す。
 私が20歳になる前に亡くなったひいおばあちゃんもまだ生きていて、もう一度会えて嬉しかった。ひいおばあちゃんは私にもすごく優しくて。そんなひいおばあちゃんから

 「セリちゃんのお嫁さん姿を見るまで、ひい婆ちゃん、生きていられるかなぁ」

 こんなこと言われこと、あったっけ•••。29歳にもなっても何者でもない自分を(かえり)みてしまう。

 「ありゃあ、セリちゃん、どうした?」

 気がつくと涙が出ていた。慌てて(ぬぐ)いながら

 「大丈夫。ごめんね、ひいおばあちゃん•••」

 無理やり笑って、ひいおばあちゃんの前から立ち上がる。子供の頃は世界には学校しかないような気がしていた。でも、子供の時からお母さんもお父さんも、それにひいおばあちゃんだって、私を見てくれていた。心配かけていたんだ。
 突然、そんな想いが心の中でいっぱいになった。そのままトイレに入り、涙が止まるまで出ていけなかった。

 もうシャープペンシルを誰が盗んだか、なんて小さいことだ。私はやってない。はっきり言ってやる。誰かが私の席に入れたんだって。

 もちろん計画は実行する。でも、それ以上に大事にしなくちゃいけないものがあるような気がした。
 気持ちも吹っ切れて、その後の旅行も楽しめた。帰りの日、空港には来ないひいおばあちゃんと玄関でお別れを言う。

 「ひいおばあちゃん、ありがとうね。私、がんばる。また来年も来るからね」

 ひいおばあちゃんはニコニコしながら手を握ってくれる。来年も中学時代のままでもいい、とこの時は本当に思った。
 そのためには、来週水曜の計画をまず実行する。どう転ぶか、なんて先のことはわからない。でも、やる!

 そしてゴールデンウイーク明けの水曜日。
 体育の前の授業から保健室に入った。保健室から教室に戻るさい、誰かに会っても言い訳できるように台詞(せりふ)も考えた。
 体育の授業開始のチャイムが鳴る。一回だけ深呼吸して、ベッドから起きた。保健の先生は少し外すと言って、今はいない。トイレに行ってきます、とメモ書きを残し、教室へと向かう。
 誰にも会わずに、なんとかたどり着いた。さっそくカバンからお父さんのハンディカムを取り出し、あらかじめ決めておいた場所に設置する。モニタで私の席がギリギリ入るくらいに、できるだけ教室全体が映るように調整もした。ハンディカムはカメラ穴を開けたビニール袋に入っている。
 すでに十分を過ぎていた。掃除用具ロッカーの中身を一部出して、なんとか入る。のぞき穴がなかったので、わずかに扉は開けたままにしていた。
 あと、四十分。緊張しているせいか、無理な体勢にもかかわらず、同じ姿勢を維持し続けられた。
 長い•••。
 楽しい時間は、あっという間。何かを待つ時間は長く感じる。そんなことは誰もが実感したことがるはず。でも、その待つ何かが人によって、良い意味にしろ悪い意味にしろ、重要で重大であればあるほど、長く感じる•••。
 こんな時間を経験したのは、29年間生きてきて初めてだった。
 十分後、誰かが教室に入ってきた。
 緊張で全身の毛が逆立つ。変な耳鳴りがして、みるみるうちに汗が流れてきた。あまりの鼓動の速さに倒れそうになる。
 女子だった。たぶん同じクラス。宮野の取り巻きの一人だ。男子、他のクラスとも思ったが、なぜ私の机に宮野のシャープペンシルを入れたのか? それが最後までわからなかった。でも、だからこそ他のクラスや男子ではない、とも思った。
 名前すら覚えていない。そんな奴がなんで私の机に入れたんだ? わざわざ盗んだものを、なぜ手放したんだ?
 これらの疑問には、結局答えを出せなかった。そんなのは本人しか、わからないんだから。
 その女子は宮野の席から何かを持ち出すと、私の席ではない誰かの席に座った。

 ! ここで事態が変わるの?

 さらに速くなった鼓動に、なんとか耐える。
 何かしたあと、私の席に行き、何かを机に入れた。
 ここで一瞬まわりを気にしてか、その女子はキョロキョロとしたが、すぐに教室から出ていった。
 と同時に、ものすごい脱力感が襲ってきた。一刻も早くこの場所から私も立ち去りたかったが、2分ほどさらに我慢する。
 おそるおそるロッカーから出て、ビニール袋に入れたハンディカムの録画を停止する。自分の席に向かい、机の中を確認すると、かわいらしいシャープペンシルがあった。
 カバンにハンディカムとシャープペンシルを入れて、保健室へと戻る。保健の先生には、ずい分長かったなぁと言われただけで済んだ。ベッドに潜り込んで、ハンディカムの映像を確認する。そこには女子の顔も、宮野の席、誰かの席、そして私の席で何かしているところも、しっかり映っていた。
 日付と時間もしっかり入っている。
 確認し終えるとちょうどチャイムが鳴る。保健の先生に、次の授業から出れそうだ、と伝えて、教室に戻った。
 教室に入ると桜井さんが心配そうに話しかけてきてくれた。私は相槌(あいづち)をうちながら、宮野グループに視線をやると、先ほどの女子と一瞬、目が合う。向こうが慌ててそらすと、予鈴が鳴った。その女子の席は、先ほど私の机にシャープペンシルを入れる前に座った場所だった。
 私たちも自分たちの席に戻る。私は決めた。

 昼休み前に、過去と同じように進んだら、あの女子と話そう。たとえ午後の授業をサボることになっても。

喪女が人生やり直したら? 3話

次回は、中学生編最終章 です。

喪女が人生やり直したら? 3話

恋や仕事に対してあきらめてしまっている女子が、タイムリープしてしまうお話です。

  • 小説
  • 短編
  • 青春
  • 恋愛
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2017-07-13

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