さよならせねばならぬなら 第1章~14才
14才。周りの全てが敵だった。
何に苛立ち、何に怯えているのかも分からなかった。
人を好きになったり、好きになられたりなんてよく分からなかった。
だけど、こんな気持ちになるなんて知らなかった・・・。
優しくなりたい。初めてそう思ったのに。
もうずっとずっと前の事、正に「ハンパな青春」真っ最中だったオレの胸に鋭く突き刺さり、今でも繰り返し繰り返し、思い出す出来事がある。
それはいつも遠くに見えるが目を凝らしても見えず、すぐそばにあるようで、手を伸ばしても、もう二度と届かない。
14才。中学2年生だったオレはいつも周りの目と戦っていた。
正確に言うならば、周りの目に戦いを挑んでいた。
自分を大きく、強く見せる為に嘘を付き、またその嘘を隠す為に嘘をついた。
背伸びして歪んだ「格好良さ」を繕っていた。
そうして積み上げてきたものに「いつボロがでるのかな?」と期待している周囲の目と戦っていたのだ。
今にして思えばなんとも情けない話ではあるが、本当に文字通り、戦っていたのだ。
だが、しかし、本当はとっくにオレは疲れていた。
もうダメだと思う事は何度もあった。
だけどなんとか堪えながら、その場しのぎを続けていた。
仲間外れが恐いから、一人ぼっちは嫌だったから、ずっと演技をしていた。
仲間はいた。いつもつるんでいる仲間はいた。
友情と言う言葉を理解しないままテレビやマンガから影響されたものに酔っている。
それが格好良くて当たり前な時代が確かにあったのだ。
少なくともオレは、そんな日々を経験してきた。
不良の真似事をしていい気になって。他の誰よりも目立とうとして。
月が決して地球に背中を見せないように、オレは弱さを隠すために必死だった。
しかし、必死で演ずる時の汗を誰にも見せなかった。
いや、見られてはいないと勘違いをしていた。
当時、周りがオレに付けたあだ名が「瞬間湯沸かし器」。
これはオレが極端に短気であることが由縁だった。
笑っていたかと思えば、たった一言、気に入らない事を言われた瞬間も殴りかかったりする気性を正確に模写した、正に打ってつけなあだ名だ。
全くうまいあだ名を付けたものだ。未だ発祥は誰であるかはわからない。
嘘で作り上げた今の自分の地位を奪われるのが恐かった。
だから必死で戦った。
結果、オレはいつも孤独と背中合わせだった。
いっそのこと、もう一人でいいや、とも思った。
だけど、「格好良く」もなくましてや「強く」もないオレには無理な話だった。
周りはみんなそんな事初めから知っていただろうと思う。
逆に言えば、オレは周りは全く見えていなかった。
だが、冬のある日の放課後、友情ごっこな仲間達と珍しく同級生の女子達と学校から程近い公園でたむろしていた。
あんなに雪が積もった日はオレが住んでいたいた横浜の町ではなかったと記憶している。
だからこそ、鮮明に、今も憶えている。
何気ないおしゃべりをしている内に、積もった雪を手で丸めて投げつける「雪合戦」に突入した。
なんだかんだ言ってもまだ14才のオレ達は夢中になって雪合戦を楽しんでいた。
等身大の14才をオレは放棄していたのかも知れない。
もっとオレは大人なんだと見られたかったのかも知れない。
大人になれば、誰でも気付くのだ。
戻らない青春の儚さに、愛しさに。
「あの頃の気持ちってどこ行っちゃったんだろう?」なんてもしも感じたならばきっと気付かされるだろう。
「あの頃の気持ちも」、「あの日々」も、あの時のまま、ずっと変わらずに「過去」という名でずっとこっちを見ている。
目を逸らしているのは、他でもない大人になってしまった自分自身なのだ。
オレは夢中で雪を握っては投げ付けて、そして笑った。
その直後、たった一握りの小さな雪の塊がオレの背中に直撃した。
思えば、これがオレの本当の意味での初恋の合図だった。
さよならせねばならぬなら 第1章~14才
大人になった「今」、14才の頃の思いが恥ずかしくもあり
懐かしくもある。純粋とは単純に素直であることではないんだろうと
今なら分かる。初恋が良くも悪くもオレを変えた。