黒猫

薄明かりに照らされる浮月の河川をこうして怯えることなく自然と眺め見下ろすことが出来たのは幼少時代の仲間内の間で彼が最後の3番目だった。
 臆することなくひと時の間見下ろしていた1番目の友は、その数日後、猛スピードで走る暴れ牛のような黒のワゴン車に引かれ、横たわりながら口を開いたその友はそのままピクリとも動かず道路の中央で見るものを引きつける格好の的。 カラスの餌。 それ以上に友であるにも関わらず__なんとも下劣な屍骸だ
という印象が悲観的思想より遥かに凌駕した。
 同情や悲哀というより、どちらかというとまるで、そう、汚いもの、腐敗物、吐瀉物を視る目だ、まさしく先程私自身が友をそのような冷たい目で視ていたように周りの人々はいつか彼のような屍骸となる私を同等の目で見下すに違いない。
 いや、しかしもしかしたら必ずしもそうとは限らないのではないのか、もしかしたらあの友よりももっと汚いものとして視られるのではないだろうか、あれよりも酷く、冷たく、惨たらしく、そんな虐罰があるのだろうか
それは例えば、自分の死が誰の目にも止まらず、知られず、気にもされず、記憶にも記録媒体にも残されず、死の真相さえ理解されぬまま、ロウソクの煙のように瞬く間に消えゆくのだろうか。
 まるで透明になったかのようだ、誰にも存在を許されない生き死にの様など、そんなもの為に命を吹き込む意味、生きる価値が果たしてあるのだろうか?
私は何に対しこうも深く考え、なにに恐れているのだ。
 それが友が死んだ結果として彼が生死に対し疑問と恐怖を抱いた初めての瞬間だった。
 2番目の友を彼は正直どうなったか詳細も所在もわからない、彼自身掴めていないのだ。
 最後にその友をみたのは知らない顔をした茶色く痩けた人間に全身がすっぽり入りそうな布を無理矢理被せられ、トラックの荷台の鉄網に、同じ膨らみと布をした一山に友が積み重なった姿が、少し離れたビルの片隅から彼が見た最後の瞬間だった。
 あの浮月を境に彼らの人生、いや、一生が変わったのならば、次に命を摘まれるの間違いなく私の番なのであろう。
 彼は連れ去られる友を乗せ走り去ったトラックを悔し目で追いながらそう直感した。
 彼は把握できない死期が刻一刻と迫っていると思う半面、内心一部の望みでこの先なにも起こることなく自分だけ助かるのではないかという確率の無い淡い希望を心の末端に潜ませていた。
河水面に彼の顔が映るまで近づいた状態で、不動のまま彼自身の記憶媒体を読み返していた直後、体の下にコオロギが居るのに気づいた。
 反射的に勢い余ってそれを右手で潰してしまった際、そのコオロギから夜にも関わらず透明な液体が出て来たのを肉眼で観察できた
その状態で水に映る顔と目が合った瞬間、彼は想像していた最低の予想画を的中した。
 __そう、きっとこれだ、この顔だ、この目だ
映し出された顔は偏屈に歪んだ無表情に混ざる怠惰な顔、そしてその目はまさに彼が過去思い忘れていた、死んだ友を、屍骸を視る目だった。
 「こんな顔をして私は彼らを見届けていたのか」
 同時に彼は自分の首に死神の鎌がないことを確認した。
 「そんな訳ない」
 彼は鼻で笑いそれまで考えていた過去に蓋をした。

黒猫

フラグメント ー断片ー での、ボツにした、序盤の文章です。去年書いたもので、実質これが初めての作文です。

誤字が多いのですが、目を瞑ってください。