カクテル(仮)
明るい日差しで目が覚めた。
軽く伸びをして体を起こし、ふと目線を隣に移す。
彼が寝ていたはずの隣は、空っぽだった。
そっとシーツを撫で、再び身体を沈めると、彼のタバコの匂いと独特なあの匂いが混在し、
確実に昨夜彼と過ごした事を証明していた。
ゆっくりと、目を閉じる。
__今までだって、そうだったじゃないか。
そう、ただ、彼のいない生活へと戻るだけなのだ。
彼との出会いは、数ヶ月前。
自分が働くBARに、彼は姿を現した。
「いらっしゃいませ」
ドアに吊るされたベルがカランコロンと音を立て、僕は反射的に其方を振り返る。
彼を視界に捉えた時、僕は息を飲んだ。
スーツ姿がよく似合う、いかにも仕事ができそうなサラリーマンだった。
目がくりっとしていて、目鼻立ちがはっきりしている、綺麗な顔をしたその人は、一瞬にして僕の心を掴んでいったのだ。
『…ッカ、』
「…え、?」
彼の声で、現実に引き戻される。見惚れていたせいで、聞き逃してしまった。
キョトンとしていたのだろうか。
彼は自分の顔を見てため息をつくと、
『ウォッカください。ストレートで』
と言った。
すみません、すぐにお作りします、と返して、グラスを手にすれば、手を滑らせ、床に落としてしまった。
パリンと割れた音が店内に響き、客が此方を心配そうに見つめる。
「申し訳ございません。失礼いたしました。」
泣き出しそうにになるのを抑えながら、すぐにカケラを拾い集め、彼のウォッカを入れる。
お待たせいたしました。と言って彼の目の前に差し出すと、
『ね、大丈夫?』
くすくすと笑みを浮かべながら、彼が問いかけてきた。
「あ、はい。すみません」
まさか貴方に見惚れていたせいです、とは言えるわけもなく、頭を下げる。
『謝らなくてもいいよ。怪我は?』
軽く首を横に振れば、彼はホッとしたように頰を緩ませ、ウォッカを飲み干した。
***
『ぃ、ぁっ』
ギシギシ、とベットのスプリングの軋む音が部屋に響く。
僕は今、彼に身体を抱かれている。
優しく、でも、自分の抱えているものが溢れ出したかのように荒々しい。
あの後、部屋に来ないかと誘われ、俺はまんまと付いて言った
カクテル(仮)