一度だけ

彼女は探しものをしていました。
自分でも何を探しているのか、全くわかりません。でも、どうしてか探さないといけない気がするのです。
探しものをしている内に、普段は行ってはいけないと言われている深い深い森に、彼女は迷い込んでしまいました。あたりを見回しても、何処から入ったのか、どうやって帰ったらいいのか、さっぱり分かりません。
彼女は泣きそうになりました。
森は深く、明かりがなく、薄暗くて、恐怖を覚えます。それに、動物も見かけていませんし、植物は枯れています。
怖くて怖くて、彼女はしゃがみこんでしまいました。
その時です。
「どうしたの?」
優しい声が聞こえました。顔をあげれば、奇妙なお面を被った少年が、こちらに手を差し伸べています。森が怖かったせいか、少年を見ると酷く安心しました。
(妙なお面を被っているのはみない事にして。)
「探しものしてるの。」
彼の手を取ると、ぎゅっと冷たい手で握り返されました。
「探しもの?どんなものかな?」
探しものの特徴を聞いている事はすぐに分かりました。けれど、彼女には答えようがありません。
どんな形で、装飾で、大きさか、全く分からないのです。
彼女は困り果て、俯きます。
すると、少年は、優しい声で、励ましてくれました。
「大丈夫、見つかるよ。でも、今日はもう日が暮れるから明日にしない?」
「でも、………。」
何故だか分からないけれど、大切なものな気がします。そして、今日見つけなければ、いけない気がするのです。
「わかった。僕が探してあげるから、今日は帰ろう?ね?」
優しい声で諭されて、小さく頷き返します。その返事に満足したのか、少年は迷う事なく、道を歩いていきます。
途中でたわいもない話を挟んで、こちらの気を紛らわせてくれている様で、嬉しくて、思わず顔がほころんでしまいました。
少年も嬉しそうに話を続けてくれます。
気づけば、森の入り口で、少年との楽しい時間はあっという間に終わってしまいました。少し名残惜しいのに、彼はするりと手を離してしまいます。
「案内はここまで。気をつけて帰るんだよ?」
「あ、ありがとう、」
やっとの思いで、感謝を言葉にすれば、少年は更に優しく微笑んで、手のひらに、私の探しものを乗せてくれました。
それは、小さな小さなペンダントで。
「今日は楽しかったな、ありがとう。」
「…………もう、行っちゃうの?」
静かに言うと、彼は、泣きそうな顔をして、
「僕も探しものがあるんだ。」
と彼女の頭を撫でて、森の奥へと消えていきました。
彼女は暫く、森を見つめていましたが、ゆっくりとペンダントへ目を移します。
そして、困った様に微笑むと、ペンダントへキスをして、言いました。
「また、来年も来るね。ずっとずっと待ってる。」


この深い森には、小さなお伽話がありました。
その昔、美しい少女が魔女に魔法をかけられました。しかし、それは少女を愛する少年に止められてしまいます。
怒った魔女は、彼の顔を剥ぎ取って、深い暗い森へと閉じ込めてしまいました。その時、彼女が大切にしていたペンダントも一緒に閉じ込めてしまいます。
それから、彼女は一年一回、彼がいる深い森へとペンダントを探しにいきます。彼もまた彼女にペンダントを渡しに行きます。
こうして、一年に一回の愛の逢瀬が、お伽話として紡がれていきました。

一度だけ

今日は「七夕」だったので、七夕をモチーフに書いてみました。
年に一度。これって、ロマンチックだけれど、少しだけ切なさが混ざります。切ないけれど、また会いに来る。
永遠の愛があるかどうかは分からないですが、ずっと想いあうことは素晴らしいですね。
実はこれ、友達に面白い話をしてと言われて、早急に書いて朗読したものです。朗読って恥ずかしいですね。
結構、ギリギリの投稿になりました。
みなさま、良い夢を

一度だけ

何を探しているのか分からない。でも、どうしても今日、見つけなきゃいけないの。

  • 小説
  • 掌編
  • 恋愛
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2017-07-07

Copyrighted
著作権法内での利用のみを許可します。

Copyrighted