霧の都

疲れた足取りで丘を登る。丘の上に達し眼下に広がる光景を見て驚く、広大な平地に濃く霧が広がっている。本当に存在したのか、伝説の霧の都、幻と言われ過去二百年、あるとも無いとも言われてきた。伝説によれば、かつて栄えた王都が存在したが、突如、濃霧に覆われてそれから二百年霧が晴れることがない、定期的に鐘の音がするので人が存在するともしないとも言われ、幾人かの名をはせた冒険家、国の派遣隊が送られたがすべて帰ってこなかった。人々は不思議がり霧の都とよんだ。
俺は羊水筒を口に含み水を一口飲むとその場にしゃがんだ。帰ってこれないかもしれない、しかし、どうでもいい、悩むことにはもう飽きた。俺が戻らなくても、もう俺のことをあんじてくれる人はいないのだから悩むことは何もない
生きる、希望すら失った俺には、ちょうどいい死に場所かもしれない、いや、この伝説を解き明かせれば希望が開けるかもしれない、だがそれは微かな希望
そして立ち上がり濃霧の中へと身を預けていった。
白い世界だ。霧の中は視界がきかず。やがては方向感覚が無くなってきた。幾ばくかの時が流れたのかふと鐘が鳴る。その方向に行けば何かあるはずだ。
迷わず鐘の鳴る方へと歩き始めた。歩いても、歩いても視界は開けず白い世界が行く手を遮る。都はあるのかそれだけでも知りたい
行けども行けども何も現れない、挫けそうになる。濃霧のその白い世界に恐怖すら感じる。何もないということは、これほどまでに恐ろしいことなのか
俺は思い出した。なぜ伝説を探求する旅にへと出たことを俺は貴族の跡取りだった。出征が終わり国元に帰った。父が他界していた。叔父どもは俺がいないことを幸いに勝手に父の直轄領を分割し八郡あった領土を一郡だけ俺に残し遺産相続してしまった。要は裏切られたのだ。それだけにとどまらず最愛の俺の許嫁である人の縁談は破棄され、会いに出向いたが彼女は会ってくれなかった。俺は人生に絶望した。人々は悲観した俺に対し救いを差し伸べるどころか憐憫の情すら掛けてくれなかった。人は俺のもとから去って行った。人が信じられなり自暴自棄に陥った。生活は荒れ、生きる気力も無くなった。
ある時、場末の酒場で、飲み崩れた。俺の耳元に人の噂が聞こえてくる。
西の果ての荒野に霧の都と呼ばれる伝説があることを真偽はともかく行ってみたくなった。
「もういいかな、ここで終わってもいいよな、いい加減疲れたよ」
俺はその場にうつ伏した。地面はひんやりとして心地いい、このままでいたい
ここでなら朽ちてもいいかもしれない、ゆっくりと瞳を閉じてゆく体から力が抜けていく、気のせいか人の気配がした。しかし、幻覚だろうと思い直す。だが気になった。やはり、人の気配がするのだ。微かだが、俺はふらつきながらも立ち上がりその方向へと歩き始めた。
人がいるかもしれない、そう思うと足取りも少しは軽くなっていく気がする。
何故だろう。人に裏切られ、軽視され、人を信じられなくなっていたのに
今は、人と関わりたい、人に会いたい、共に語らいたい、末期だからなのか最後に自分の思いのたけを述べたいからなのか、もうどうでもいい、今は人に会いたい
いた、人のシルエットが初老の男、傭兵のようだ。霧の都には人がいた。俺は立ち止った。
「捕われ人か」
初老の男が枯れた声で言う。
「あんたは誰だ。」
「若者よ、人に名を問うときは、まずは自分から名乗る者だよ」
「失礼した。俺の名前はレイガフェルトといいます。」
「そうか、まずは座るがよいレイガフェルト、聞きたいことがあるのだろう。」
初老の男は胡坐を組んでいた。俺も彼に同様に胡坐を組んだ。
「霧の都、ここには本当に王都があるのでしょうか」
唐突に俺は問いかける。
「あるよ」
初老の男はぶっきらぼうに言う。
「俺は、かなり歩いたのだけれど王都には着けなかった。なぜですか」
「それは、霧に捕わられてしまったからだよ」
「霧に・・・・」
「そうだ、霧に捕われられた。この霧はただの霧ではない、魔性の霧だからな」
「魔性の霧・・・・」
「そうだ、魔性の霧だ。人を迷わせる。」
「この霧から脱け出すことはできないのでしょうか」
「残念だが一度捕われられたら脱け出すことは叶わぬ」
「そうですか・・・・・・」
「だが、可能性がないことはないが、かなり難しい」
「方法とはあるのですね、教えてください」
「うむ、かなりの難題だよ」
「難題・・・・・・」
「そう、難題だ。」
「教えてください」
「分かった。教えよう。まずは都に行くことだ。」
「都にしかし、この迷わしの霧が邪魔をして都に行けないのでは」
「方法はある。レイガフェルト殿、都に行こうとしたとき、何を指針とした。」
「何をってあの鐘の音ですが。」
「そうだ、皆、鐘の音を頼りに歩む、それが間違いであり、まやかしなのだ。」
「まやかし・・・・」
「そうだ。まやかしなのさ、捕われ人は鐘の鳴る方向に行っては駄目なのさ、反対方向に行く、さすれば都に着く、これが答えだよ」
「つまり鐘の鳴る方向と逆に向かう。そうすれば都に着くと・・・」
「そうさ、都に着く」
俺は唖然とした。霧に捕われていたとは、霧は魔性のもで、まさか鐘の音がまやかしだったとはつゆにも思わなかった。
「都に着いてからが大変だ。悪魔と戦わなければならない、悪魔を倒したらこの霧は晴れる。」
「悪魔・・・・・」
「そうだ。悪魔さ、正確には悪魔に憑依された者を倒さなければならない、これは難しい事だ。だから難題だと言った。」
「悪魔退治などしたことがない、神父が悪魔祓いをするということは聞いていたが俺は神父ではない」
「確かにおまえさんは神父ではない、でもやらなければ、死ぬまでこの霧に捕われたままだよ、どうする若いのやるのか、それとも死するまでこの霧に捕われるか」
正直言って怖かった。悪魔と戦って勝てる気がしない、いっそうのこと、この霧の中で捕われたまま死を甘んじる方がましかもしれないと考えた。でも、俺には夢も希望もない死も怖くない悪魔と戦い果てるのも一興かもしれない、俺は腹を決めた。
「どうせ死を待つなら一度、悪魔でも見てみるのも悪くわないかもしれない」
「やるのか」
「あがいてみるよ」、
「そうか、そうか」
初老の男は満足げに頷く
「まず最初に村に着くはずだ。村人に城のある場所を聞き出すことだ。その城に悪魔がいる」
「村人・・・人がいるのか」
「ああいるよ、二百年間、この霧に縛られた人々が」
「まさか悪魔の呪いでか」
「いいや、人の呪いでさ悪魔はそれに助力したに過ぎない」
「人の呪い・・・・」
「行ってみればわかるよ」
「分かった」
俺は立ち上がるとロングソードに手を伸ばし、しっかり固定されているか確かめる。こんなもので悪魔退治できるかどうか分からないが俺のただ一つの武器
「それじゃあ、さよならだ。色々とありがとう」
「期待をしているよ、騎士レイガフェルトに神の祝福があらんことを」
俺は初老の男に背を向けて軽く手を振り、鐘が鳴っている逆方向へと歩き出した。

暫く歩き始めると濃霧が少しづつだが晴れてくる。今まで荒れ野を歩いてきたが土が成らされた道に行きわたる。その慣らされた道を歩き始めると朽ち果てた塀が道に平行に対峙し始める。人の居る痕跡を一つ見つけた。更に歩き続けると家が見えた。俺はロングソードを抜き、家に近づいて行く
かなり年季のある家だ。そおっとドアに近づき、中の様子を伺う。飛び込むかどうか悩むところだ。霧に縛られた人が正常ならばいいのだがゾンビのようにいきなり襲ってくる可能性もある。思案のしどころだ。
「うちで何をしておる。」
突然、背後から声をかけられて驚くとともにとっさにその声の方にロングソードを向ける。老人がいた。俺は警戒はしているが、老人には敵意は感じなかった。
「誰だ。」
「ただの村人じゃよ、見たところ、稀人のようじゃが外から来なさったのか」
「そうだが、あんたは悪魔か」
「ホッホッホ、ワシが、悪魔に見えるのかね」
「いいや、そうは見えない」
「じゃあ、そういうことじゃよ、ただの人間じゃ、ただし二百年以上生きているがね、立ち話もなんじゃからワシの家におあがりなさい」
俺は老人の後に続き家の中に入っていった。かび臭い部屋だった。まるで何十年も人が居住してなかっていたかのように、老人はテーブル席に座るように
促す。俺は遠慮なく席に着いた。
「大したもてなしは出来んぞ」
「そんなことは、期待していない、それよりも聞きたいことがある。」
「まあ、あわてるな、時間はたっぷりとある。」
そう言いながら老人は、パン、チーズ、サラミ、水をテーブルに並べる。
「毒ははいっておらんぞ、ゆっくりと食べるがよい」
そういえば、暫く食べ物を口にしていなかった。俺は遠慮なくそれらを食し始めた。少し干からびてはいたが食えなくはなかった。俺はそれらを平らげ一息ついた。
「ご老人、食事感謝する。ところで二百年生きているといったが本当に人間なのか」
「人間で合って人間ではないものかもしれない、ワシにもわからんよ、あの時以来年も取らずに生きているのじゃからのう。しかしながらお前さんの言うところの悪魔でも魔物でもないよ」
「この地で何があったですか」
老人はパイプを加え火を灯す。紫煙が立ち上る。
「かれこれ二百年ほど前になるかのう。この地が呪われたのは、この都は貿易の中継地として栄えていたよ。王は利口ではなかったが、愚鈍でもなかった。王には一人の王女がいたよ。王女が年頃になると王は縁談を進めるようになった。ハッキリ言ってしまえば政略結婚じゃったが、王女はその話を拒んだ。
何故なら王女には恋い焦がれた騎士がいたからのう。二人は、両想いじゃった。それゆえに王女は縁談を断り続けたのじゃ、怒り狂った。王は騎士を拷問にかけ殺してしまった。その時じゃよ、いきなり、この地が濃霧に覆われて呪われし地になったのじゃ、それから二百年という歳月が流れたのじゃよ」
「誰が呪ったのですか、騎士が呪ったのでしょうか」
「いやわからぬ、誰が呪いをかけたのか、ただ一つわかっていることは呪った人物は城の中にいるということじゃ」
「それでは、城に行かなければいけないということか」
「そうじゃが、城は危険じゃよ、お前さんの言う。魔物や死霊がウロウロしておる危険地帯、おまえさんは行くのかい」
「行かなければ、この霧の都からは出られないと聞いた。悪魔を倒さなければならないと」
「そうか、そこまで言うのならば止めわせぬ」
「城は、どこにあるんですか」
「外を出て、一段と高い尖塔が見える。それが城じゃよ」
「ご老人、色々とありがとう。」
「うむ、ご武運を祈る。」
俺は外に出て周りを見渡した。尖塔はどこにある。ところどころの霧の晴れ間から尖塔らしきものが見えた。俺はそれに向かって歩き始めた。
村の田園風景から、商家の立ち並ぶ区域へと歩む、時折、人が徘徊するのをみかけたが、まるで幽鬼のように見えた。
商業地区らしき区域を抜けると眼前に尖塔が佇んでいた。尖塔からは禍々しいばかりの嫌な雰囲気を感じ取る。魔物の巣か足がすくんだが行くしかあるまい
もう後には引けぬ、俺は勇気を振り絞って尖塔へと歩み始める。
尖塔の入り口はいくつかあるようだが正門へと向かう。
尖塔の正門の扉は開かれていた。俺はロングソードを抜き歩み始めた。瞬間、影が走った。素早い動きだ。その影が俺の行く手を遮る。それは道化師だった
おそらく城に雇われた者であろう。
「いやいや、人の子よ、どこに参られる。招待状はお持ちかな」
嘲笑気味に言う。俺はロングソードを上段にかまえる。
「お前は魔物か・・・・・」
「おいらが、くっくっく、魔物ならばどうする。」
「斬って捨てるまで」
俺は道化師に向かい踏み込んだ。そして上段からロングソードを振り下ろす。
しかし、道化師は身軽で横転してそれをかわす。
「まてまて、人の子よ、礼儀知らずにも程があるぞ、剣を収めるがよい」
俺は道化師の仕草に翻弄された。敵なのか味方なのか
「お前は何者だ。」
「おいらか、おいらはこの城に使える道化師さ」
「俺の行方を遮っているようだが敵なのか」
「それは、お前様の出方次第だよ、くっくっく」
武器は持っていないようだが、魔術を使うかもしれない、剣を収めるかどうか俺は躊躇したが思案の末に剣を鞘に収める。
「愚か者ではないようだな、おいらが王のもとまで案内してやるよ、ついてきな」
謀り事かもしれない、この道化師について行ってよいものか、既に道化師は俺にかまうことなく城の中にへ歩み始めている。俺に背後を向けているということは敵ではないという道化師のあかしなのかもしれない
「おいらについてこないのかい、置いていくぞ」
道化師にせかされた。ええいままよと俺は覚悟を決めて道化師の後に続く
城の中は薄暗く雑然としていた。兵士の白骨化した遺骸がところどころに放置されている。薄気味悪いカタコンベに迷い込んだようだ。
そのまま、道化師とともに回廊を進む
「おいらの名前はトニーというんだ。あんた名前はなんていうんだい」
「レイガフェルトだ。」
「レイガフェルトはどこから来たのかい」
「ここより、東の地」
「東の地はどんなところなんだ。」
「戦乱が続いている。」
「戦乱か、ここは平和の地だよ、こここに二百年戦争は起きていないから」
「でも、霧に縛られているのだろう。」
「でも、平和だよ」
「でも悪魔が呪いをかけた地だと聞いたぞ」
「悪魔はいい奴だよ、戦争しない」
「・・・・・・・・・・」
俺は黙り込んだ。トニーと喋っていても不毛な感じがするからだ。
「何か言えよ、レイガフェルト、故郷には、恋人とかいるのか、親は元気にしているのかい」
「・・・・・・・・・・」
「ちぇっ無視かよ、つまんない奴」
トニーは俺に飽きたのか、今度は、すっとんきょうな歌を歌い始めた。
「おいらはトニー、都一番の人気者、おいらが歩けばおなごが振り向く、おいらが歌えば、鳥が舞う・・・・・・・・・・」
歌い続けながらも薄気味悪い回廊を歩き続ける。俺はそれに付き従う。
やがて開けた場所へと出た。
「ここが大広間、王様がいるよ、謁見するかい」
「ああ、会えるなら合っておきたい、頼めるか」
「王様、王様、客人だよ、謁見したいとさ」
そう言いながらトニーに大広間の玉座へと小走りで走って行った。俺も遅れまいとそれに続く、玉座に人が座っている。その人物こそ王なのだろう
その人物は、王らしく身なりはきちんとしていたが表情は虚ろで、口から涎を垂らしていた。
「王様、客人だよ、久しぶりの客人だよ」
俺は王の前で膝をつき首を垂れる。
「私は、騎士、レイガフェルト、東の国からまかり越しました。」
「ワシが悪いんじゃないんだ。」
王がしゃがれた声で呟く
「娘を奪おうとした。奴が悪いんだ。」
王は訳の分からない事を口走り始めている。俺は不穏に感じた。
「ワシは悪くない、奴が悪いのだ。もう一度奴を処刑するのだ。」
「王よ、わが問いに答えて下さいませんか」
「おまえも娘を盗みに来たのか、娘はワシのものだ。」
トニーが玉座の裏でクスクスと笑っている。
「トニーこれはどういう事だ」
「王は正気を失っているのさ、妄執に取りつかれている。語り掛けても無駄だよ」
「たばかったのか」
「レイガフェルトが王に会いたいというから連れてきてやったのにその態度は無いだろう。」
「しかし・・・・」
俺は困惑した。確かにトニーは王に合わせてくれた。でも王は正気を失っている。合っても無駄なことだった。今、トニーには有力な協力者だ。この状況下ではまだ、彼の協力が必要だ。怒らせずに協力させることこそ有益なのだ。
王はまだ、ぶつぶつと訳の分からないことを口ずさんでいた。
「なあ、トニー王はいつからこのような状態なのか教えてくれないか」
「くっくっく、この地が呪われて暫くは正気を保っていたよ、呪いの原因を調べさせていた。でも、呪いの元凶が分からなくて、次第に発狂して正気を失ったのさ」
「なら、トニーはなぜ、王のようにならなかったのか」
「楽しいからさこの状況が、おいらは道化だぜ、いつでもどこでも愉快、愉快」
「トニーお願いだ。俺に協力してくれ、この呪いの元凶を解きたい」
「いいよ、楽しいのは大好きさ、何でも用を言ってくれ」
トニーはあっけらかんと答えた。
「誰が、この地を呪ったのかわかるか」
「それは、おいらにも分からない」
「この王ではないのだな」
「そうさね、どちらかといえば王は被害者だよ」
「では、王女と恋仲だった騎士か」
「いいところをついたね、レイガフェルト、一番怪しい人物だね」
「騎士の行方は」
「地下の拷問部屋、そこで拷問を受けて、処刑されて死んだと聞いているよ。」
「拷問部屋まで案内してくれないか」
「やなこった。おいら、そろそろおねむの時間さ」
「ふざけないで案内してくれないか」
「おいらは、いかないよ、地下は魔物の巣窟だから、危険、危険、そんな場所に行くなんて狂気の沙汰だね」
「分かった。一人で行く」
「うひょーかっちょいいね、勇者様のお出ました。」
俺は、トニーの軽口に不快感を覚えたが気にせずに進み始めた。まずは地下に至る階段を発見せねば、また薄気味の悪い回廊を歩み始めた。
城は広大だが直ぐに地下続く階段を発見した。地下からびゅうびゅうと風が吹きあがってくる。
地下は、暗かった。しかし、暫くすると目が慣れてくる。トニーは魔物がいるといっていたが、今のところは出くわしていない
ゆっくりと前進して行く、すると突然、死者の躯が起きだした。白骨化した城の兵士のようだ。剣を上げて襲い掛かってくる。ロングソードでその一撃を受け止める。その斬撃は軽かった。押し返すとともに脇腹を薙いだ。乾いた音をならしてバラバラと躯は崩れる。白骨兵はスピードはあるが筋力がないため斬撃が軽い、また防御も弱い、複数に囲まれなければいけるかもしれないと脳裏に浮かぶ、さて拷問室はどこにあるのだろうかトニーが付いてきてくれればよかったと思ったが拒絶された以上、仕方があるまい
それから、何体かの白骨兵に襲われたが余裕をもって倒すことができた。
組織立っていない一対一ならば負ける気がしない、これでも戦場で修羅場をくぐり抜けてきた男だ。剣技には自信がある。
突然、獣ような咆哮が響き渡る。何かよからぬものがいる勘がそう告げる。
前方から唸りを上げて何者かが近づいてくる。ロングソードを構える。手が小刻みに震える。こちらも自然と呼吸が荒くなる。
そして身の丈二メートルはあるだろう肢体は筋力隆々で頭は牛という獣人が現れた。手にしている獲物は大きなバトルアックス、俺を見つけると咆哮を上げて襲い掛かってくる。バトルアックスが迫ってくる。俺は後方に飛びその一撃をかわす。地面にたたきつけられたバトルアックスはズシンと音を立てて地面を割る。獣人の強さは白骨兵とは比べ物にならないような強さを誇っている。まともに組み合っていたら負ける。どうする。次の一撃が来る。バトルアックスを高々と振り上げて、俺に向かい振り下ろしてくる。そのとき俺は瞬間的に動いた通路の横壁を走り獣人をかわして後ろに抜けるとともに方向転換、獣人の真後ろにつくとともにロングソードで急所を貫いた。獣人が末期の咆哮を上げて崩れる。ふっと息を吐きロングソードを抜き取る。強敵だった。今度この様な獣人に襲われたら勝てるかどうかわからない、狭い空間で巨大なバトルアックスを振り回すのは不利だったろう。特に狭い通路では横方向に薙ぐのは辛い、地の利が幸運して勝ったようなものだ。運が良かっただけだ。
暫く俺は放心していたが気を取り直して通路を歩き続ける。
先ほどの獣人がこの地下の主ならばきっと守るべきものがあるはずだ。
慎重に歩み始めた。暫くすると堅牢な鉄でできた扉を発見する。
ここが拷問室か悪魔と化した騎士がいる。覚悟を決めて扉を開く
まず、最初に感じたのが部屋の中に漂う血の匂い、何人もの人が命をおとしたのだろうか、視界に入ったのは整然と並べられた拷問道具、拷問者を捕縛するために設けられた壁に埋め込まれた。鎖、間違えなく拷問部屋だが、騎士の遺骸などはなく、禍々しさなどは一切感じられなかった。ここではないのか、ではどこに悪魔に憑依された騎士がいるのか
「うっ・・・これは何だ。」
部屋の片隅から波動を感じる。それも神神しいばかりの波動、この魔城からは似つかわしくない、波動、俺は、そおっと近づいた。そこにあったのは一本の剣、金色に輝く美しき剣、俺はそれを手にした。暖かい、まずそう感じた。
これはただの剣ではない、さぞかし名のある由緒正しき剣だろうと思った。
これならば、悪魔にも対抗できるかもしれない、一類の望みが出てきた。
何故こんなところに放置されていたのかは分からないが良い拾い物をした。
俺は今まで持っていた。ロングソードを放ると拾い物の黄金色の剣を身に帯びた。
これからどうする。これ以上探しても騎士に関わる物はないと思う。一度、広間に戻りトニーに聞くか、というよりも聞きたいことが山ほどもある。
俺は階上の広間へと戻って行った。
大広間へと戻る。トニーが目ざとく俺を見つけると勢いよく近づいてくる。
「レイガフェルトが帰ってきた。レイガフェルトが帰ってきた。」
トニーは叫び、小躍りしながら俺の周りを回り始める。
「レイガフェルト無事、おいら嬉しい」
「トニー聞きたいことがある。この剣はどういった代物だか分かるか」
俺は黄金の剣をトニーに見せる。
「それは・・・・それは、オルテギウスの剣・・・まさか、レイガフェルト、牛男を倒したのか」
「牛男とはあの獣人のことか確かに倒したよ」
「レイガフェルト凄い、レイガフェルトは英雄だ。おいら尊敬する。」
「それよりも、このオルテギウスの剣とはいったい何だ。」
トニーは俺の問いかけに答えようとせずに玉座へと向かう。
「王様、王様、オルテギウスの剣だよ、レイガフェルトが持ってきた。」
「オ・・・オルテギウスだと・・・・・奴め生きていたのか、どこまで、ワシを愚弄する気だ。」
その時、王の青白い顔色が豹変して赤みを帯び始め、怒気に満ちる。
「オルテギウス、オルテギウス、余はお前を許さんぞ、殺す、殺してやる」
俺は、王の豹変ぶりにたじろいだ。
「余の兵よ、命ずる。オルテギウスを殺すのだ。」
大広間に放置されていた。兵士の死骸がむくむくとあちらこちらで立ち上がり始めた。白骨兵だ。ざっと三十体ほどいるだろうか、俺は白骨兵に囲まれないようにするために部屋の隅へと移動する。一対一では負ける気がしないが白骨兵とはいえ囲まれ組織立った攻撃にさらされれば危険だ。部屋の隅の狭い空間ならば一対一で相対することができると判断したからだ。
恐れの知らぬ白骨兵が俺に襲い掛かってくる。だが、余裕で白骨兵を砕いていく、それはオルテギウスの剣のおかげだ。見かけによらず軽くそして強力だ。触れることなく剣圧だけで白骨兵を砕く。普通の長さの剣だが長槍に相当する間合いで攻撃ができる。次々と白骨兵を砕く、バラバラと砕かれた骨が乾いた音を立てて四辺へと四散する。最後の一体を倒した。
「おのれ、オルテギウス許さんぞ」
「まて、王よ、俺はオルテギウスではない」
「オルテギウス、余自らが、成敗してくれる。」
王が玉座から立ち上がる。筋肉が隆起し始めて王の体躯が二倍、三倍にへと膨張していくとともに肌の色もモスグリーンに変色していく、曲がりくねった角が生え、目は朱色に染まり、口は獣のような牙に生え変わっていた。
今俺の前に存在するのは人間ではない異端のもの即ち悪魔そのものだ。
王が悪魔だったのか、俺は確信に至る。
「オルテギウス許さんぞ」
地の底から響き渡らんばかりの度量で唸る。王が、もう悪魔と言った方がよいのか、悪魔が俺に向かってゆっくりと歩んでくる。俺はこんな状況下にありながら落ち着いていた。しっかりとオルテギウスの剣を構えて相対する。突如悪魔は口から炎を放物線を描きながら噴き出してくる。俺はそれを避ける。反応が遅れたせいで右肩にやけどを負う。また悪魔が炎を噴き出す。今度こそしっかりとよけるが、この攻撃に対して対処が取れないのがもどかしかった。悪魔はそのあとも何度も火炎攻撃を行う。俺はかわすのが精いっぱいで剣の間合いに入ることが出来ないでいた。このままでは、いずれは、焼かれると肩で息をしながら考える。どうすればいいこの火炎による遠隔攻撃は剣では対抗できない、ふっと鉄でできた盾が目に入る。俺はそれを攻撃を避けながら何とか拾いあげる。そして左手で構える。付けば焼きだが無いよりはましだろう。逃げ回っているうちに火炎の発射タイミングがだんだんと分かってきた。悪魔は五秒間火炎を放射した後三秒ほど息継ぎをする。その三秒間の間で間合いを詰めれば何とかなるかもしれない、俺は、火炎攻撃が止むともに悪魔に向かい盾を体の正面に立てて、悪魔に向かいダッシュする。時間が長く感じる。息継ぎの三秒間でどれほど間合いを詰めることが出来るのか、火炎が俺に降り注ぐ三秒では間合いを詰めることが出来なかった。でも構いなく悪魔に突っ込んでいく盾で全面を防いでいるとはいえ火力は強い、盾で防ぎきれなかった炎が俺の体を焼く、それでも突っ込んで行く、相打ち覚悟だ。遂に間合いまで詰め寄る悪魔に向かい思いっきり剣で突きを入れる。
「ぐおぉぉぉ・・・・」
悪魔は咆哮を上げる。火炎攻撃が止む、俺はこの機会を逃すまじと、剣を悪魔に向かい狂ったように何度も剣を振り下ろす。ついに悪魔が力なく崩れる。
悪魔を倒したぞ、これで霧が晴れ帰ることが出来るはずだ。俺はその場にへたり込んだ。
「王様死んだ。王様かわいそう」
戦いの中どこに隠れていたのか知らないがトニーが現れた。
「トニー、オルテギウスって誰なんだ。」
「王女様の恋人、拷問にあって処刑された。」
「悪魔は倒したぞ、これでこの地の呪いは解けるんだな」
「・・・・・・・・・・・・・」
「どうしたんだ、トニー」
「まだ終わっていない・・・・レイガフェルト」
「何を言っているんだ。トニー、悪魔は倒したはすだ。」
「王様は確かに魔物でも呪いをかけたのは王様違う。」
俺は愕然とした。死ぬ思いで魔物を倒したというのに王でなければいったい誰が呪ったのだ。やはり処刑された騎士なのか
「処刑された騎士はどこにいるのかわかるか」
「この城には、居ないことは確かだよ」
「ならば誰が呪いをかけたのか分かるか教えてくれ」
「王女様だよ」
「王女が・・・なんでまた。」
「王様にオルテギウスが処刑された時のことだよ、王女様は悲観に暮れて絶望し、ついには悪魔に乞い、この地を呪うように願った。」
「王女はどこにいる。」
「この城の最上階、おいら案内するよ」
城の最上階の部屋に着が誰もいない
「トニー誰もいないぞ」
「ちょっと、待ってくれ、今おいらが王女様呼ぶから」
そう言ってトニーはテクテクと部屋の真ん中まで歩いて行く
「王女様、王女様、トニーです。出てきてください」
トニーの問いに誰も答えることはなく静寂に支配された。空間のみが存在する。
「王女様、お願いだ。出てください」
誰も現れず。答えることも無かった。俺も部屋の真ん中まで歩いて行く
「あなたは、誰見たことないわ」
冷徹な女性の声が部屋の中に響き渡が姿は見えない
「私はレイガフェルト、王女ですか出てきてください」
「出る必要はないわ、あなたも呪いで朽ちるから」
「お願いがあります。呪いを解いてください」
「呪いを解く、おかしな事をあなたに私の絶望感が分かりますか、愛するものを奪われた私の気持ちが・・・・・」
「確かに分かりません、しかし、あなたの掛けた呪いで苦しんでいる人達が沢山います。オルテギウスもきっとこんなことを望まない」
「知れ者が、オルテギウス様の名を出すなぞ、いいでしょう。特別にあなたは私が葬る。」
辺りに霧が発生するとともに霧が渦を巻き始めて、やがて人型へと変貌する。
影があるか美しい女性だった。しかし薄っすらと透けていて人では無いことが分かる。まるで幽鬼のようだ。
「王女様ですか」
「そうです。フッフッフ、どうやって苦しめてあげようかしら」
王女が手を上げて俺に向ける。瞬間、凄まじい衝撃波が俺の肢体に当たり吹っ飛ばされ地面に叩きっけられる。
「待ってください、俺は話し合いに・・・・うっ」
また衝撃波が俺を襲う。話が通じる相手ではないと、ようやく理解した。俺はオルテギウスの剣を構える。また衝撃波が襲う。しかし今度は負けじと足で踏ん張り耐えて見せる。
「ほう、下賤の分際でよく耐えますね。ではこれではどうですか」
体が硬直し始めた。何か大きな力で締上げられているようだ。体中に痛みが走り耐えかねる。
「もう少しかしら。もう少しで潰れてしまうわ、でも、もう少し楽しませてね」
体の硬直が取れる。俺は剣を杖にして何とか踏ん張る。遊ばれているな、悔しいが勝てる気がしない
その時、突然、手にした。オルテギウスの剣が煌びやかに光りだした。王女がその光を浴びて毒気を当てられたように苦しみだした。
「おのれ、何をした。」
オルテギウスの剣がまるで生き物のように脈打つのを俺は感じた。そして力が剣から流れ込んでくるような感じがして体力が回復する。俺は王女に向かい駆け出した。そして王女がもがき苦しんでいる今を機会逃さまいとと王女の腹部へと剣を突き刺した。しかし王女は腹部に刺さった剣を痛がるどころか、剣を愛でて言う。
「これは・・・オルテギウス様、お会いし等ございました。あーあ、オルテギウス様、お会いできて私は幸せです。」
そう言いながら王女の輪郭は蒸発するかのように靄を上げて消えていく、そして何も無くなった。
「レイガフェルトよくやったね」
また、どこに隠れていたのかトニーが現れ語りかけてきた。
「終わったのか」
「終わったよ、しかし本当には終わっていないんだ。」
「どういう事だ。」
「本当の悪魔を倒さなければ呪いは解けないよ、けれど、悪魔に憑依されていた王女が正気に戻った今、呪いは一時的に解けて今は霧は晴れているよ、逃げるなら今だよ、早く行くんだ。レイガフェルト」
「トニーは来ないのかい、一緒に脱け出そう。」
「おいらは駄目なんだ。もう呪いの呪縛から逃れられない、そういう体になっているんだ。あの霧の中でしか生きられない、それよりも早く逃げるんだ。また霧が直ぐにここを覆う。」
「わかったよ、トニー色々と世話をかけたね、ありがとう。」
「いいってこっさ」
俺は走り始めた。城を出て外に出るともう霧は晴れ、さんさんと日差しが降り注いでいた。気持ちいい、太陽の下がこれほど気持ちいいなんて、暫く眩しげに太陽を見ていたが、やがて走り出した。町を抜け農村へとたどり着いた。あの老人がいた。
「おめでとう。若いの」
「ありがとう。爺さん、でも爺さんも脱け出せないだよな」
「そうじゃ、それよりも早く行くがよい、また霧が覆う。脱け出せなくなるぞ」
「わかった。爺さん達者でな」
「おまえさんもな」
俺は名残惜しかったがまた走り始めた。人気のない荒れた荒野に出ると、行にであった。初老の男が待っていた。
「やり遂げたようだね」
「なんとかね、死にそうになったけれど」
「お願いがある。その剣を譲ってくれないか」
「まさか、オルテギウスの剣をか、この金色輝く名刀、いくら金を積まれても売る気はないよ」
「フッフ・・・そんな、錆びた、歯がボロボロに欠けた剣をか」
俺はオルテギウスの剣を抜いて見せる。金色どころか鉄錆の浮いた剣にかわっていた。
「なんてことだ。」
この戦いというか冒険で唯一の収穫だった。剣が俺は愕然とした。
「なあに、ただとは言わないよ、代わりにこの剣と交換してくれ」
取り出した剣はそれは立派で神神しいオーラに包まれた本物の名刀だった。
「本当にいいのか」
「貴殿がよければ、というより是非とも交換してほしい、お願いだ。」
まるで狐に掴まれたような話だったが、俺は快諾して剣を交換した。
「レイガフェルトありがとう。名残惜しいが霧がそろそろ覆い始める。早くここから立ち去った方がいい」
そういえば、薄らと霧が覆い始めてきている。
「それではさらばだ。レイガフェルト」
「さよなら・・・・」
俺はそういうと全速で駆け出した。やがて丘に登る。背後を振り返ると都が濃霧で包まれていた。遠くから鐘の音が聞こえる。結局の所、俺は何もしてやれなかった。この悲しき呪いはいつ解けるのだろうか、暫く俺は霧の都を眺めて佇んでいた。

町に向けて荒野を歩き続け、三日ほど経ったころだろう。天からリーンリーンと鈴の音らしきものが聞こえる。だんだんとこちらに音が近づいてくる。
不思議に思い立ち止まり、空を仰いでいた。鳥みたいなものがこちらに向かい降りてくる。ゆっくりとゆっくりと、しかし鳥では無かった。天使だ。
天使は静かに俺の真ん前に降り立つ、天使は美しき声で言う。
「それ探していたものなのです。ずっと前から」
俺が初老の男と交換した剣を指さす。
「私に譲ってもらえませんか」
俺は黙って剣を天使に差し出した。
「わあ、やはり、ミカエル様の剣です。ようやく見つけました。」
ミカエル様、大天使ミカエル様のことか、なぜ、あの初老の男がそんなたいそうな物を持っていたのだろうか、俺は不思議に思った。
「代わりと言っては何ですが、これを差し上げます。あなたに危険が迫った時に役立ってくれるでしょう」
天使は自分の翼から五枚の羽を抜き取り俺に渡す。俺は黙ってそれを受け取る。
羽は軽かったが、何か神秘の力が秘められているのを俺は感じ取った。
「それでは、貴殿に幸あらんことを」
そう言って天使は空へと羽ばたいていった。俺はその姿を追い続けていた。姿がやがて点になり消えて無くなるまで、天使に悪魔、俺は信じがたいものを見そして経験した。人に話しても誰も信じてはくれないだろう。でも実際にあった事、忘れられない思い出、悲しい思い出、霧の都は存在した。でも他者にこの事を語ることはないだろう。

俺は故郷に帰っていた。そして毎日、農民のように田を耕していた。汗だくになり力の限り土を掘り起こしていた。朝から晩まで、何か胸につかえるものがあり、それを払拭したかったからかもしれない、領民はそんな俺の姿を見て、あざけ笑っていたが、彼らに俺の話をしても理解はしてくれないだろう。彼らには罪はない、黙って、雨の日も風の日も耕していた。
ある時、噂が流れてくる。悪魔に魂を売り渡した魔術師が竜を操り各地を荒らしまわっているとそれに対処するため諸国連合による討伐隊が組まれることとなった。俺もそれに志願することにした。
戦場に着く、町は焼かれ瓦礫が散乱している、その中を魔術師は巨大な竜の背に乗り竜を操っていた。討伐隊はまず、アレン公国の名だたる重騎兵隊が竜に向かい進むしかし竜の吐く火炎で散り散らされる。次にローラシア連邦の強弓隊のロングボウが放たれるが竜の鉄よりも固い皮膚に跳ね返される。竜は勢いづいて討伐隊を蹂躙し始める。炎に焼かれる者、踏みつぶされる兵士、こうなると軍勢は総崩れとなり、逃げ惑うばかりとなり辺りは騒然とする。
俺はその中で慄然とした態度で立っていた。胸にお守りとして忍ばせていた。天使の羽が熱くなってくるのを感じる。羽の一枚に手を伸ばし取り出す。羽は光輝いていた。そして天に掲げた。すると羽は花火のように火花を散らしてバーンと散る。その時、天から祝福のラッパの音が響き渡った。曇った空の一郡が晴れ、日差しが差し込む、するとその雲海の隙間から軍勢が降りてきた。黄金の甲冑を身にまとったエンジェルナイトが降りてくる。手には金色の弓を持ち次々と俺の背後へと羽ばたきながら集結する。いつの間にか俺の鉄製の甲冑も光り輝かんばかりの銀製の物へと変貌している。俺は高々と上げた剣を振り下ろし突撃の命を下す。エンジェルナイト達は竜に対して弓を放ちつつける。矢は竜の肌に深々と食い込むハリネズミのように矢が刺さり竜は苦しむ、俺は竜に向かって駆け出した。その背後にエンジェルナイト達が続く、甲冑が軽い銀製だと思っていたが、幻のミスリル製だった。瞬間手に持っていた剣も黄金色に染まる。俺は魔術師に向かう。エンジェルナイト達は弓をしまい、剣に持ち変える。
魔術師は、突如出現した。天使の軍勢に恐れをなして竜を捨てて逃げようとするが、俺は見逃さず。その背後から剣を魔術師の胸に深々と突き刺し絶命させた。恐れを知らぬエンジェルナイト達は竜に向かい次々と剣を振り下ろす。竜の皮膚が次々と裂ける。幾度かのエンジェルナイトの攻撃に晒されて竜はついに咆哮を上げて倒れ込んだ。それを見届けたエンジェルナイト達は次々に羽ばたき天へと帰って行った。戦場に人々の歓喜の声が響き渡る。俺は称賛の目で見られた。
「おぬし何者だ。」
恰幅の良い、将軍らしき男が語り掛けてくる。
「アリシア国の騎士、レイガフェルトと申します。」
「レイガフェルト殿か、わしはローラシア連邦の将軍ロランと申す。おぬしの持つ力尋常ではないわ、何故ゆえに天の御加護を得ることを出来たのか」
俺は、天使の羽を見せると共にこれまでの経緯をすべて将軍に話した。
「霧の都か噂は聞いたことがあったが、まさか本当のことだとは、とりあえずは、最高司祭様に引き合わせたい、そして、おぬしの力を正義のもと使うように計らいたい」
「ロラン将軍様、もうしわけございませんが、戦うのはこりごりです。故郷の田舎にて隠遁したいと考えております。」
「それは、勿体ない、おぬしは若いし、それだけの力があれば、中央で地位も名誉も好きなだけあげられる。」
「私は地位も名誉も興味ございません、この話はなかったことに」
「そうか残念だ。それだけの力があるのに、しかし最高司祭様にはこの話は報告させてもらう。」
「ご自由に、ロラン将軍様、私はこれにて失礼仕る。」
「うむ、今回の戦働きご苦労であった。」

この戦いで俺の名は大陸全土に広まることとなった。

国に帰ると国民に大いに称えられた。アリシア国王自ら俺を出迎える。そして、将軍に取り立てると申しられた。しかし、俺は丁重に固辞した。叔父たちに取られた領地も全て変換されるとも言ったが、それも遠慮した。
また、おかしなことに縁談を一方的に破棄した。元婚約者からも復縁しないかの話が出てくる。もちろん断った。
領民たちの俺を見る目も変わる。有能な統治者だと噂が広がる。
俺はまた旅にでようかと思う。しばらくたてば皆、俺のことなど忘れるだろうと考えたすえのことだった。天使の羽も封印しようかと考えたが、災いから人々を守るために必要な物、天から授かりしものなのだから思いとどまった。

天使の羽は、間違えなく俺の人生を変える代物だろう。困惑する反面なにかしらの希望も感じる。出来れば、人々を救済するために使いたい、地位も名誉もいらない、ただ、魔物に対する使命として使いたい、この地の守護者として

霧の都

霧の都

  • 小説
  • 短編
  • ファンタジー
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2017-07-06

Copyrighted
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