あとがき(嘘の町)fin

彼はしばらく宿に泊まることにした。その宿は古ぼけた、やけに入り組んだ迷路のような平屋で、沢山の人がいた。喫茶店や、本の部屋や、喫煙室や賭け事で遊ぶ部屋など、彼らが快適に過ごすため必要な部屋が彼らの手で作られ、増設され続けているようだった。入口らしき場所から彼は入った。受付らしき場所には誰もいなかった。しかし話し声や、笑い声は奥から聞こえていた。特に呼び鈴もなく、彼はしばらくリアカーにすわってそこにいた。
ばたばたと女性が受付に入ってきた。「あら、泊りの人?」
「そうです。部屋空いてますか?」
「まあ開いてると言えば空いてるけど。別に決まってないんだ。自分で見つけてくれていいよ。とりあえず入る時にお金だけいただいてます。」
彼女はお金を受け取り、入館証明の板の欠片を彼に渡し、受付の引き出しから何か取り出し、急いだ様子で出て行った。

彼はしばらくリアカーに座ってぼーっとしていた。何となく入る気にならなかった。(死にたい、とぼーっとしてたい、ってよく似てるなあ。でも死はやっぱり怖い)と思った。
彼は嘘の町にいる。

彼は多すぎる荷物を整理することにした。(こんな場所に置いといたら絶対色々盗まれるし、嘘の町で一区切り、ってことで、最低限のものだけ残して、売っちゃおう。)彼は思った。

彼は多くの荷物を売った。リアカーも売った。
(若さっていうのは一つ、武器だなあ)多くの自分のものが市場に去って行くのを見ながら彼は思った。

彼はその若さという「自分のもの」を、どう、何に還元して自分を立たせる道具に育ててゆけばいいのかを何となく考えた。

(男である、っていうのはどうなのかなあ)彼はぼんやりとしながら宿に向かった。袋を腕に、抱えながら歩いた。

彼は宿に着いた。迷路のような宿の、色々なところをさまよい歩いた。
古い扉があった。開いて中を覗いた。
縦長の部屋でランプはついておらず、薄暗かった。天井は高かった。高い天井に小さな3枚羽のくるくる回る扇風機がついており、小さくカラカラとなっていた。灰色と青の混ざったような壁だった。細長いテーブルがあった。中央には質素な花瓶に控えめな花が生けられていた。テーブルに合わせていくらかの丸椅子が置いてあった。奥が長い小さな部屋で、両脇は幅が狭く、椅子に座って後ろの壁にもたれることが出来る程だった。灯りが一番奥に見える縦長の窓から漏れていた。

三人ほどの男性と、一人の女性がいた。各自飲み物やこまごまとしたものをテーブルに放っていた。部屋は沈黙していた。皆、ばらばらな人種で、知り合いという感じではなかった。しかし部屋はやわらかな、安心した空気に包まれていて、一人は眠たそうに小さな弦楽器をぽろぽろ弾き、一人はぼんやり煙草を吸い、一人は小さな碁盤をにらみ何やらじっと考えている様子だった。

一番奥の窓は少し高いところにあり、奥の壁に何かおけるように板が取り付けられていて、外からの光が当たっていた。高く細い足の丸椅子が窓際に二つあった。
女性は、その丸椅子にちょこんと腰掛け、綺麗にバランスを取りながら肘をつき、下を向きながら本を読んでいた。長い美しい金色の髪が薄暗い部屋に際立った。

彼は部屋に入った。

部屋の隅に荷物を置いて、一番端っこに座った。部屋にいる四人に反応はなかった。
彼は(そういう場所なのかな)と思った。互いに誰なのかも知らず、ぼんやりと自分の世界に浸り休む場所だった。
彼もまた部屋に溶け込むようにぼーっと天井のくるくる回るそれを見ていた。(ここでしばらく休憩しよう)彼は思った。

彼は本を取り出し、かしこまった様子で読んだ。


「そこ暗くない?」しばらくたって彼女が言った。
「はい。暗いです。」静かに彼が言って立ち上がった。
「こっちの方が読みやすいよ」
「隣いいですか?」彼が言った。

「いいよ。」にこっとほほえみ彼女が言った。
「すみません」恐縮したように彼が言った。


彼は壁沿いに奥へ進み、椅子に座り、本を読んだ。
「この部屋、いいでしょう?」
「はい。落ち着きます」彼は言った。
「人の心は覗きすぎない方がいい時がよくある。手が届かなくて哀しくなる。」「お遊び程度なら中々楽しいけどね」「たまにここに来るのも悪くないと思うよ。歓迎できるかどうかは状況によるけど。」「この宿は楽しいことが沢山ある。まあ喧嘩もよくあるけどね。心を保つためにここに頼るのもとても大事なことだとおもうよ。」彼女は本から視線を彼に移して言った。

「はい。そうしたいです。」彼は彼女を見て言った。



fin

あとがき(嘘の町)fin

おわりです!めちゃくちゃだ!まとまらなかった。

読んでくれた方、ありがとうございます!

あとがき(嘘の町)fin

  • 小説
  • 掌編
  • ファンタジー
  • 青春
  • 冒険
  • 青年向け
更新日
登録日
2017-07-06

Copyrighted
著作権法内での利用のみを許可します。

Copyrighted