白い少女と、白い世界

・・・さぁノッてまいりました、本日最後の曲は・・・


プツン。

私はその最期を聞きたくなくて、私自身がつけたラジオを消した。



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私は倉田(くらた) (あかり)
・・・暗いのに明るい。どうしてこんな名前をつけたのかと思う。

私は『暗いところでしか生きられない』のに。


―――先天性色素欠乏症(アルビノ)


それが私が明るいところに行けない理由(病気)
実際私の部屋はいつも暗い。日光を浴びるわけにはいかないから。
最も、今は夜中だから、カーテンまで締め切ってる理由は今の時間に限ってはないんだけどね。


「・・・散歩にでも行こうかな」


一人で出歩くなんてこんな身体で大丈夫かと言われることは多い。

確かに昼間ならただの自殺行為でしかない。

それに加えて弱視なのも事実だし、健常者と同じとはいかないけど。
でも、弱視の人が夜中に散歩していないなんてこともないでしょう?(珍しくはあるだろうけど)

そして私は、家人が寝ているのを良い事に、こっそりと抜け出す。
いつものことで、手慣れているのはいいのか悪いのか。


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私の家があるのは田舎の住宅街。適度に民家があり、適度に自然がある。ちなみにコンビニは近隣にはない・・・
そんな環境だから。近所を散歩をするなら、貧弱な女一人でもまぁ、危険度小ぐらいだと思う。
コンビニがないから、買い食いとかできないけど、その代わり余所者も来ないという感じかな?
防犯ブザーは持ってるし、GPS機能付きのスマホも持ってるから、もし何かあっても大丈夫・・・だとは思う。


「ん・・・?霧が出てきたかな?」


視界が狭くなっているのがわかる。圧迫感があるわけではないけれども
最初は薄っすらと、そして徐々に濃く、乳白色に世界が染まっていく。

夏と冬の境界線のこの時期。霧が出るぐらいなら不思議じゃない。
すぐ近くには木々が生い茂る森があるぐらいだしね。
視界が悪くても、歩くだけなら目を瞑ってでも歩けるぐらい慣れた場所だし。
まぁ、通行人とかと衝突しなければだけどね。


「・・・急に寒くなってきた・・・」


薄手のショールはかけているが、そこまで厚着とは言えない程度の私の服装。
家を出たときは確かに暖かかったのだけれども・・・!?!?


「雪・・・!?まだそんな季節じゃないよ・・・?」


薄っすらと、霧によって染まった乳白色の世界に降り注ぐ、より白きモノ()
まぁなんでも、マッケンなんとか現象とやらで、地球の気候が安定しない時期(年単位で)らしいから。
ないわけじゃないか。と思いつつ。寒いし、霧も出てるし、そこそこ歩いたし、帰ろうかなと踵を返したその時。



「お待ちしておりました、姫様」



・・・振り返った先、はっきりと見えたその目の前のモノが、私には咄嗟には信じられなかった。
これが現実なのか、それさえも私には理解できなくなるほどには衝撃的。


だって、私は小柄だけど、それでも。

『人間と同じぐらいの背丈で二本足歩行している猫のようなもの』

を見て、驚かない訳がない。

熊じゃないのは特徴的な耳ですぐわかったし。


咄嗟に防犯ブザーを鳴らそうと引き抜こうとして気づく。

雪で引き抜くところが詰まって引っかかってて咄嗟には抜けない!


「驚かせてしまい、誠に申し訳ありません」


その猫(?)さんは、とても紳士的な仕草で、申し訳ないと言葉のままに頭を下げる。

私は不思議と、防犯ブザーを鳴らすのは今すぐでなくてもいいという程度には、落ち着いた。
何かされそうになったら即座に鳴らせるようにしておけばいい、と。



「・・・何か私に用事ですか?」

「はい、姫様をお迎えに上がりました。姫様には、一度来ていただかないといけないと思いまして」

「姫様って、私?」

「左様でございます。それさえも、忘れてしまっているようで」


・・・私は間違いなく人間のはず。普通に人間の母の胎内から生まれ落ち、先天的な病気でまともな生活は送れてないけど
家族から辛く当たられたりしてるわけじゃなく、そういう人なりの普通に生活してる、人間、のはず。



「・・・ふざけているのでしたら。貴方が何者かは知りませんが、私に危害を加えてくるようではないですし、これで失礼します」

「いえ、大真面目でございます。・・・これを見ても、そう言えるのかと、姫様を試す真似をしてしまいますが、申し訳ありません」



そしてその猫さんが指を器用に鳴らす。肉球ある猫の手なのに。そんなことを考えられる程度には、何故か冷静だった。

―――けど。



唐突に霧が晴れて。

目の前には西洋風の城。

周囲は自然広がる草原と森。

夜だからだろうか、暗いけど、地平線も見えそう。



「これで少しは信じて頂けましたでしょうか?」


気づいた時には、手元の防犯ブザーは猫さんが持っていて。
まるで私の私物だからと、大事そうに懐にしまってしまう。


・・・私は咄嗟にスマホを取り出す!

・・・やっぱり、予想通りといえば予想通りなんだけどね。


【圏外】


そして、ついでと言わんばかりに、時刻表記が

【--:--】

タップすると、現在時刻を取得できませんでした。と出る。


数人(?)の紳士的なこの猫さんと同じような猫さんが駆け寄ってくる。


「ひめさ”ま”ああ”ああっ!」

「良かった・・・無事で本当に良かった」

「お身体の方はご無事ですか!?」


口々に私を見て号泣し、安堵し、気遣う猫さん達。


「その端末もここでは機能しないでしょうし、まずは寒いでしょう。一緒にお城へ行きましょう」


そう言って物語に出てきそうな外観の城を指差す、紳士的な猫さん。



・・・もうだめ。頭の処理能力(キャパシティ)を超えちゃったよ・・・

そして私の意識はブラックアウト。意識を完全に失う直前まで、気遣う声、慌てる声、指示を出す声が聞こえていた。



・・・
・・・・・・
・・・・・・・・・



「・・・ん、ここは・・・」

変な夢を見ていた気がする。

そして、あまりはっきり見えない私の眼で周りを見渡して。

―――これが現実なのか、或いは夢の続きか、と認識した。


白い大理石のようなものでできている様子の壁・床。そして窓はない。

寝ていたのは童話のお姫様が寝ているようなベッドで。

天井にはシャンデリア。

そしてテーブルの上には、取っ手が不思議な形をしている、そして綺麗に磨かれているのであろう、曇り一つないベル。

私の洋服は・・・とりあえずそのままみたい。


とりあえず、無用に外に出て日光を浴びたら大事な私は、迂闊には部屋から出られない。

窓のない部屋だしね。

ここまで来たらなるようになれと、ベルを鳴らす。


「チリリン、チリリン♪」


とても澄んだ鈴の音を響かせるベル。きっと良い物なんだろうね。


そして、ベルを置く間も無くすぐにドアが開く。そこには。


「お目覚めになられましたか、姫様」


そこには『お迎えに来た』猫さんが。

ああ、やっぱりまだ夢の続きなのか。それとも私は非現実の世界へ行ってしまったのか、と。



しかし、その後に紡がれた言葉は、予想もできないものだった。



『姫様に来ていただけたお陰で、この世界の【白】を取り戻すことができました。感謝致します』



・・・私は寝ている最中に何かしていたのか、もう訳がわからない。



「貴女が【ここ】に来ただけで、私達は助かったのです」

「この世界は【白】が失われていた世界。この部屋も元々はこんなに白い部屋ではないのですよ」

「このままでは【黒】に世界が覆われてしまうところでした」


『白のみでも、黒のみでも、世界は壊れてしまう』


・・・私には、要するに【黒】がないから。
先天性色素欠乏症(アルビノ)だから。

だからなの?と、真っ先に思った。

そして、まるで私の考えを見透かしているかのように


「貴女の【白】に【黒】を与えることができない私どもをお許し下さい」


・・・私が役にたったのなら何よりね、と、素直に思った。
だって、私はこれまで助けられてばかりで。
誰かを助けられたのなら、それは嬉しい。


そして、視界が朧気になっていく・・・


「姫様。これは夢で、夢ではないのです。この世界を助けてくださったこと、感謝致します」



・・・・・・・・・
・・・・・・
・・・



私は筆を置いてラジオを付け直す。
こんな出来では人様には到底見せられない、と【今まで書いていた文章】をゴミ箱に捨てようと思って、ふと。


「・・・今日は騒がしいわね」

お昼になって、この【都会のど真ん中】の【アパートの一室】の中からでも聞こえるほどの【騒音】


―――この【白い少女】には、到底出歩けない時間よね。

ゴミ箱に捨てようとしたこの【物語】を、思い直して、そっと本棚の隅に置く。



「私のココロはどこまでも白くて」
「私のココロはどこまでも黒くて」


「それが貴方だから」
「それが貴女だから」


私の心はチェス盤のようなもの。
一歩歩けば白から黒へ。

そして私はさっきまで、間違いなく黒かったのであろう。
ラジオの最後を『最期』と認識する程度には。


・・・そういう意味では。
私も【白い少女】に救われたのかもね。

白い少女と、白い世界

これを【物語】として良いのかわからないけれども。
これは紛れもなく【物語】だって言いたい。

だって、自分が書いているものに自分が救われるなんて。
創作活動していれば、案外よくあるけど、創作活動したことがない人にはわからないだろうしね。


こんな稚拙な物語で、お目汚し失礼致しました。
少しでも何か感じるところがあれば、幸いに思います。

白い少女と、白い世界

これを【物語】として良いのかわからないけれども。 これは紛れもなく【物語】だって言いたい。 そんな作品です。

  • 小説
  • 短編
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2017-07-04

Copyrighted
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