濡れた月
溺れるプロローグ
溺れる 溺れる
今日は雨
霧雨 泡 泡沫
ふと息を止める
あなたを思う
傘を手放すと
風に奪われた
息を止めたまま
あなたを呼んだ
何度も 何度も
あなたは来ない
わたしを見ない
わかっている
溺れる 溺れる
今日は雨
境界線
涙と雨の境界線
あいまい
どこまでが雨で
どこからが私か
わからない
だったら私は雨になる
あなたの肩を濡らしたい
あなたは不愉快そうに上着を脱ぐ
床に叩きつけられる
あなたはわたしを知らないの
わたしが私であっても
この雨と
何が違うというのだろう
濡れた月
月は溺れていなくなった
あなたへの思いは滲んでしまった
綺麗に描けたのに
雨が邪魔をする
あなたを待つことも出来ないから
軒下は私を追い出した
私はどこにもいられなかった
犬に吠えられて
猫にひっかかれ
小さな子にまでいじわるされた
それでもあなたの腕に帰れない
頭の先からつま先まで
海に落ちたようにずぶ濡れで
一切の抱擁を拒否して
あなたの背中に縋りたい
こんなに惨めで
こんなに寂しくて
こんなに傷付いて
それを終わらせてくれるのが
この世にあなたしかいない
どんな愛の言葉もあなたの欠伸にかなわない
どんな安らぎもあなたのため息にかなわない
どんな優しさもあなたの正直さにはかなわない
こんなわたしを誰かが嗤った
足元にずぶ濡れで嗤う月がいた
月に向かってわたしの涙が落下する
月は揺れた
わたしの涙が月を揺らす
何度も 何度も
それでも月は嗤っていた
濡れた月が嗤っていた
濡れた月