沙漠の旅 31

沙漠の旅 31

父が出て行った。「試練」が終わった。彼の心はとても穏やかになった。そして(頑張って生きよう)と思った。(強くならなくちゃ)と思った。

急に彼の脂質の動きが硬くなった。彼は違和感を感じた。
彼は非常にだるくなった。椅子に座ったままテーブルに突っ伏して寝た。彼の意識が遠のいた頃、はかいしゃが音もなくやってきた。
もやしのようなものが彼の肌から、次々に生えた。それは、固化した「何か」だった。何か、の成分名は「セルム」だった。はかいしゃはもやしを逐一手ではらい、彼から切り離した。表情は髪に隠れていた。
沢山彼の体からもやしは生えて外に出た。彼の中に脂質はなくなっていた。しかしプラスチックの泥はなくならなかった。彼はそれを大切にすべきだと感じていた。
代わりに「違う何か」が彼から生成された。それはプラスチックの泥を包み、混ざった。違う何かの成分名は「セルー」だった。そしてプルンプルンのゼリーが生成された。彼の体は脂質の代わりに美味しいゼリーが巡るようになった。梅ゼリーだった。お中元にちょうどいい梅ゼリー詰め合わせ24個入り分の美味しい梅ゼリーが彼の体を巡った。

彼は死ぬ方向から生きる方向に向かうことだけでなく、ただ生きている状態からどう生きてゆくかということを考えるようになった。

彼は意識を取り戻した。しかしまだ夢の中である。朝方のうすら寒い空気だった。暖炉の火は消えていた。裏庭で、はかいしゃが火を焚いて、窯で調理をしていた。

挨拶をかわし、彼は寒かったので窯の火に手をかざして座った。
「ここ君の夢の世界なんだよ。」とはかいしゃは細かく彼に説明した。
「夢から覚めたらいなくなるのですか?」彼ははかいしゃに尋ねた。
「まあ、ね。どうだろうね。」はかいしゃは言った。

彼はしばし、ぼおっと火を見ていた。
彼からすぅぅと気化した梅ゼリーが空気に流れた。彼は我を忘れていた。

彼はようやく目を覚ました。夢の世界から、目を覚ました。彼はオアシスにいた。真昼だった。彼は別段ふつうの青年の容姿だった。下らないほど同じように欠伸をし、伸びをした。同じように何かにもたれようと体重を後ろに傾けた。が、何も後ろには無かったのでこてん、と彼は仰向けに転がった。青空が木々の隙間から見えて、しばらくそうしていた。(覚めちゃった。朝飯、食ってから覚めてほしかったなあ)彼は思った。

沙漠の旅 31

次から嘘の町に向かいます。

沙漠の旅 31

  • 小説
  • 掌編
  • 青年向け
更新日
登録日
2017-06-25

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