時の足跡 ~second story~21章~24章

Ⅱ 二十一章~終止符~

いつだって傍に居てくれる、いつだって守ってくれる人がいてくれる、だから幸せを感じてた、でもその幸せにうちは、
なにもが終わった気になって、逃げ続けてた過去にいつの間にか、うちは眼を背けてた、でももう終りにしなきゃいけない、
大切な人を悲しませない為にも・・。


二度とこの道は通りたくないって、ずっと避けてきた道を、今うちは歩いてる、足が震えだしてた、手の平に汗が滲んでた、
お母さんの店の前まで来た時、うちは全身が震えだしてた・・、

その時、店の扉が開いて、店の中から建兄ちゃんが出てきた、
「お兄ちゃん~?おはよう~?久しぶりだね?あの、お母さんは?・・」

って聞いたらお兄ちゃんは、驚いた顔して、
「お前、何しに来たんだよ~?帰れよ!もうお前が来るとこじゃないだろう~?」って言ってたらお母さんが店から出てきた、
うちの心の何処かで逃げだしたいって叫んでる声が聞こえてくる、足がすくんだ、でも、それでもうちは・・、
「おはようございますお母さん?今日はお話ししたくて来ました、聞いて貰えますか?・・」

って言うとお母さんは、
「今さら何の話だよ、まあいい、中入んなさい・・」そう言われて、うちは中に入れてもらった、

何年ぶりかに入ったこの店に以前の面影はもうなかった、それでも幾つ時を逃げて、見ないでいたんだろうって思う・・、
ただ、唯一変わっていなかった、居間の雰囲気だけは、お父さんがいたあの頃のまま、なにも変わってないように思えた、でも
それは、うちがそう見えているだけなのかもしれないって思う、うちは居間に腰を下ろした、

そしてお母さんは黙って今も変わらないいつも坐ってた場所に腰を下ろして、ただため息を漏らしてた、
「あの、すみませんでした、ご迷惑お掛けしました、色々お世話になってきたお礼も出来ずに、本当にすみませんでした・・」
ってうちは頭を下げた、

するとお母さんは、
「今さら何を言いに来たかと思えば、旦那にでも説得されたのかい?あたしはね~カナ、お前に裏切られたんだよ~?本当の
娘のように思ってたんだよ、それをお前は~、訳も解らず勝手に飛び出して居なくなって、どんだけ探したと思ってるんだい、
やっと見つけたと思えばそこからも逃げ出して~、それで今さら何を許してって言うんだい、亭主も死んじまって、あたしゃ
もう一人にされちまったんだよ、それでよくもまあ~今さら言いに来れたもんだよ、まったく、ふざけるのも対外におしよ!」
って声を荒げて握り締めた拳をテーブルに打ちつけた・・・、


「あの、確かにあたしは逃げました、でもお母さんにあの旅館で何度も話しをって訳を聞いてほしくて話しました・・、
でもお母さん聞くみみもってくれなかったでしょ~?あたしだって本当のお母さんができたようで嬉しかったんです、でも
お父さんは、お母さんがいなくなると、あたしに・・、夜中にだって・・、それでもお母さん悲しませたくなかったから、お母さんが
帰るまで何時だって逃げてお母さんの帰るの待ってました、でもお母さんが留守が増えた時、お父さんが言ったんです、
お前は俺の為に此処に貰われてきたって、そしてお母さんには、男が居るから、いつも留守にしてるって、お母さんがあたしを
此処に連れて来たのはお父さんの為だってそう言いました、そこまで言われたら、あたしの居る意味は~、だからあたしは
お父さんのする事に耐えられる自信がなくなったんです、すみません、今さらこんなこと・・、でも短い間でしたけどお母さんと
一緒にご飯作ったり家の事していた時は本当に幸せでした、だからほんとは壊したくなかったです・・、でも短い間でしたけど
お母さんって呼ばせて貰ってあたし、嬉しかったです・・、本当にありがとうございました、そして今まですみませんでした・・」

って言い終えたら涙が溢れた、ずっと言いたくても言えなかった、あの日々の苦痛も想いも、分かり合えなかった悲しさも、
うちは今まで逃げる事で自分を癒してきた、
でもそれは間違ってたってやっと気づいた、だからもう終わらせなきゃいけない・・、だからもう逃げない・・、
零れおちる涙を、うちは拭えないまま顔に当てた両手は涙で濡れた・・、
それでもお母さんに思いが少しでも届いてくれるなら、うちは頭をさげ続ける・・、それがうちに出来る全てだから・・・、

お母さんが、
「そう、あの人がそんなこと言ったの・・、わかった、旦那、待たせてるんだろ?もういい、帰んな?いい旦那貰ったねカナ?もう
此処には来るんじゃないよ?あたしももう忘れる事にするよ、だからお前も好きにしたらいい、分かったなら帰んなさい
ほら~何してんだい、さっさと帰んなよ~?」そう言って追い返された、

その勢いに押されるまま、うちは店の外へと出てきた、するとお兄ちゃんが追いかけてきて、
「カナ~好かったな~?元気でな~?俺は楽しくやってるから心配しなくていいぞ?だからカナ~?幸せになれよ?な?」
って言うとうちの肩を叩いて、笑顔を見せた・・、

「お兄ちゃん~?また、会いたい、ちゃんと会って話がしたいの、駄目なの~?」

って聞いたら、お兄ちゃんは
「ああ~そうだな~?まっそのうちな?その時はちゃんと知らせるよ、な?元気でやれよ」そう言うと店の中に入って行った。

うちはお兄ちゃんが此処へ来た本当の訳は知らない、でも今見せてくれたお兄ちゃんの笑顔に何も言ってはくれなかったけど、
それでも信じようってそう思った・・。

そしてうちは店にお別れの会釈をして、ヒデさんとアンちゃんの待つ旅館へと歩き出した、
きっとヒデさん怒ってるかもしれない、心配してるだろうなって思う、もしかしたら此処に来ちゃうかもしれないなって
何となくそう思った、でもそんな事・・、そう思いながら、ふと顔をあげて前をみたら、うちの前をその二人の歩いて来るのが見えた、
うそ・・本当に来た・・、本当に・・、ってそう思ったら足がとまった、そしたらもう涙が溢れだしてた、

するとヒデさんはうちの前まで駆けだして来て、
「亜紀~?まったく~しょうがないな~?でも好かった、さあ~帰ろう~な?」って言った、

でもなにも言葉に出来なくてただ嬉しくて、余計に涙が溢れた、
するとヒデさんが、
「亜紀~?笑顔、見せてくれるんだろう?どんな事になったって俺は気にしない、だからさ、亜紀の笑顔見せてくれよ、な亜紀?
俺、守るからさ、だからもう泣くなよ・・・」って言って笑って見せた、

その笑顔と優しさに、うちは必死に涙を拭いた、泣いてちゃいけないってそう思えたから・・、
「ヒデさん、アンちゃん?ありがと~?あたし、ちゃんと話して来たよ?分かってくれたのかは分からないけど、でもね?もう
忘れるって言ってくれたの、だから・・」

って言いかけたら、ヒデさんがいきなりうちを抱きしめて、
「そっか~分かってくれたのか~好かった、好かったな~亜紀?亜紀の想いが通じたんだな?ほんと好かったな・・」
ってうちの髪をを撫でた、

するとアンちゃんが、
「亜紀ちゃん、好かったね?ほんと好かった、やっぱり亜紀ちゃんだよな・・」って独り納得してた・・、

そしたらヒデさん、
「そうだな?さあ~帰ろう、な亜紀?」って言うとうちの肩に腕をまわして一緒に歩き出した・・。

歩きだして、しばらく行くと、通ってた学校が見えてきて、懐かしさについ足を止めてしまったら、アンちゃんに、
「亜紀ちゃん?ちょっとだけ覗いて行こっか?」って聞いた、

するとヒデさんが、
「そうだな~?亜紀?ちょっと覗いて行こう~な?」って言うと、ふたりがうちの両脇に並んで手を繋ぎると、ふたりが、
「よし、行こう~?」そう言って走り出した、

ふたりに連れられるまま、うちは学校に辿りつたら、その時見えた、あの一本だけそびえ立つ大木、なんだか嬉しくて、
思わず駆けよって見惚れてたら、いつの間にうちの隣に来て覗き込んでたアンちゃんが、
「まだ健在だったな~あの大木、懐かしいな~」って嬉しそうに眺めてた、

「ほんと懐かしい、アンちゃんと初めて会ったのこの大木だったよね?あの時のアンちゃん今思い出しても楽しくなっちゃう」
って思い出したら、何だか可笑しくてつい笑ってしまった・・、

するとアンちゃんが、
「そんなに笑う事かよ~?もう昔の話だよ、亜紀ちゃん~笑いすぎだぞ~?」って言いながら苦笑いしてた、

「あ~ごめんね?つい思い出したら、なんかアンちゃんの顔が~」ってまた思い出しちゃって笑ってしまった、
そしたらヒデさんも、アンちゃんも何時の間にか吊られたのか一緒になって笑い出してた・・。


そして帰って来た、三人が暮らす街へ・・・、
でも辿りついた街は、いつの間にか今にも降り出して来そうな曇り空で、空見上げたヒデさんが、
「おお~い、なんか降り出してきそうだよな~?まずいな~早く帰ろう~なあ?そうしよう~?」って言うと慌てはじめてた、

するとアンちゃんが、
「相変わらず雨には弱いんだな~?しょうがない、急いで帰りますか~ねえ~ヒデさん?」って言いいながら笑ってた、

するとヒデさん、
「ああ~帰ろう~、亜紀?急ごう~な?」って言うとうちの手を握り締めて、早足になって歩き出した・・。

やっと店に辿りついたら、ヒデさんは
「あ~好かった~間にあった~」って言いながら椅子に坐り込んで笑みを漏らしてた、

そんなヒデさんにアンちゃんと顔を見合せたらなんだか可笑しくて笑い出したら、ヒデさんまでが一緒になって笑ってた。


それから一周間が過ぎた頃に、うちはヒデさんとお兄ちゃんが入院してる病院へと向かった・・・、

そして病室の前まで来た時、病室から声が聞こえて、ヒデさんと顔を見合せながら扉をノックしてみた、すると
「はい~どうぞ~?」って声が聞こえてきて中へと入った、

「こんにちわ~?」って言うと幸恵さんは驚いた顔で、
「あら~?カナさんにヒデさん、よく来てくれたわね~?慎一さん?カナさん達が、来てださったわよ?」
ってお兄ちゃんの手を握り締めた、

お兄ちゃんは少し身体を起こしたまま横になってた、でもその横顔は仮退院してきた時に比べたら何処かやつれたように思う、
「お兄ちゃん~?」って声をかけたけど、でもそれから先の言葉に詰まってしまった、

するとヒデさんが、
「お兄さんどうですか具合の方は?すみません遅くなってしまって・・」って言ったら、

お兄ちゃんは、少し身体を起こすと顔を覗かせて・・、
「ああ~ヒデ、カナ?よく来てくれたな~?会えて嬉しいよ、驚いたろう~?カナのお父さんに説得されてね?移って来たんだ、
何かと親身になってくれて感謝してるよ、幸恵も此処の近くに住む事になってね~、距離があるからと言ってくれて住める処も
用意してくれたんだよ、至れり尽くせりで、ほんと言い尽くせないくらい感謝してるよ・・、カナありがと?これからは幸恵も・・、
まあ仲良くしてやってくれ、なあカナ、ヒデ?頼むな・・」って言うと、

幸恵さんが、
「慎さん?そんな言い方辞めてください、それを言うならみなさんでじゃないですの~?弱気になられては困りますわ?・・」
って寂しげな顔を見せた、

するとお兄ちゃんは、
「ああ、そうだな、すまない?そんな顔するなよ、幸?」って困った顔になったお兄ちゃんに、

幸恵さんは、
「しょうがないですわね~?カナさん達に免じて許してあげますわ?」って笑って見せた・・、

「幸恵姉さん?住むところ落ち着いたら遊びに行ってもいいですか~?」って聞いてみた、

すると幸恵さんは、
「ええ~もちろんよ~ほんと是非いらして~?嬉しいわ~楽しみにしてるわね~?・・」って言うとうちの手を握り締めた・・。

でもうちは、お兄ちゃんにどんな言葉をかけたらいいのか分からなくて何も言えないまま黙りこんでしまった・・、
そしたらお兄ちゃんに
「どうしたんだ~カナ?黙り込んで、なにか心配ごとか~?」って聞かれてしまって、少し焦った・・、

「えっあ~そんなんじゃないよ?あっそだ、お兄ちゃん?あたし建兄ちゃんに会ったの、あ~ごめんなさい、お兄ちゃんには、
気にするなって言われてたのに、でも、あたしお母さんとちゃんと話しがしたくて会って来たの、ちょっと怖かったけど、でも
お母さん納得してくれたのかは分からないけど、でも分かったって、もう忘れるからって言ってくれたのよ?その後、
帰る時に建兄ちゃんと少しだけ話しが出来たの、そしたら建兄ちゃんがね?いつか会いに来てくれるって言ってくれたの、
何時とは言ってくれなかったけど、でもそれでもあたしは嬉しかった・・、
ねえお兄ちゃん?またみんなで会おう?お兄ちゃんと建兄ちゃんとお姉さんとヒデさんと、みんなで、ねえ~?」
って言ってたら涙が溢れた・・、
そしたらもう言葉が続かなかった、本当にそんな日が来てくれたらって思う、でも思いが詰まり出したらまた泣いてた、

するとお兄ちゃんが
「カナ?何も謝ることはないさ、分かって貰えて好かったな?お前が素直だからその気もちが、通じたんだ、お前だからだカナ、
建は元気でいたんだな?そうか好かった・・」そう言うとお兄ちゃんは、何処か遠くを見るように窓に眼を向けた。

何時の間にか誰もが口を閉ざした、そんな静けさがうちには何処か重くて何か話さなきゃって思った、その時ふいに思い出した、
幸恵さんにって作ったお守り、まだ手渡してなかったから・・、

「幸恵姉さん?あの~これ、お守りなんですけど貰ってくれますか~?」って差し出した、

すると幸恵さんは、驚いたような顔をして、
「え~なに~?えっお守りって、わたしに?あら~ほんとに作ってくださったのね~?嬉しいわ?ありがとうカナさん?・・」
って喜んでくれた、
想いは、一緒でも、幸恵さんにとって、お兄ちゃんは、きっとうち以上だって思う、だから、守ってほしい、そう願いを込めた・・、

お兄ちゃんは、幸恵さんの顔を覗きこんで、
「幸恵、好かったじゃないか?あ~そうだ、今日は幸恵の誕生日なんだよ、形でも出来ればと思っては居たんだ、ありがとカナ」
って言われて少し照れくさい気もした・・、

「幸恵姉さん?お誕生日おめでとうございます、それでお姉さん幾つになったんですか~?」

ってうちは、聞いちゃいけない事を聞いてしまったようで、ヒデさんが急に慌てだして・・、
「カナ~?それを聞いちゃ駄目だよ!」って言うと幸恵さんに「すみません・・」って謝ってた、訳が分からなくて、
「えっ?駄目なの?どうして?」って聞いたら、お兄ちゃんが、クスクス笑い出した、

うちは余計、訳が分からなくて、
「お兄ちゃん?どうして笑うの~?あたし、可笑しな事聞いたの~ねえ?・・」って言ったら、

幸恵さんがしびれを切らしたように、
「慎さん?笑いすぎですよ~?わたしの方が傷つくじゃありませんか~カナさん?細かい事は抜きにしましょ~ね?」
って言われて、うちは訳が分からないまま、幸恵さんの言葉に頷くしかなくて頷いて見せたら、

お兄ちゃんが、
「カナ?まあ~気にするな?お前がもう少し大人になったら分かるよ、今日は幸に免じて聞かなかった事にしてくれよ・・」
って言ってニコニコしてた・・、

すると幸恵さんが、
「慎さん!もう~わたし凄く傷つきましたわ~、もう知りません!」って本気ですねてしまった、

するとお兄ちゃんは、
「ああっ幸恵~?そう怒るなよ、な~悪かった?なあ~ヒデ~助けてくれ?どうしたらいいかな?・・」

って振られてしまったヒデさんは、
「えっ、ああ、あの~幸恵さん?すみません?でもいい季節に生まれたんですね~改めて、おめでとうございます・・」
って言ったら、

少し機嫌を良くしたのか幸恵さんは笑顔を見せて、
「あっありがとうヒデさん?そうね~考えた事も無かったけれど、言われてみればそうかもしれないわ、ごめんなさいね?
お恥ずかしい処をおみせしてしまったわね、あの、カナさん?お守り、大事にするわね?ほんとありがとう?」
って笑顔を見せた。

その後幸恵さんの話で盛り上がって、帰る頃にお兄ちゃんが、
「今日は楽しかったよ、ありがと?ヒデ、悪かったな?おかげで助かった・・」って少し小声になって話してた・・、

するとヒデさんは
「それは、お互い様ってことで、気にしないでください?俺も楽しませて貰いましたからね・・」

って言うとお兄ちゃんが、
「なんだよヒデ~?それは意地が悪いだろ?まあ~いいさ、お前もカナが、相手だしな?お互い仲良くやるか~なヒデ?」
ってふたり頷き合ってた・・、
うちには聞こえてた・・、でもお兄ちゃんの生き生きした顔を見てたら、嬉しくて聞かなかった事にしようって思った・・。

「それじゃ~お兄ちゃん、また来るね~?幸恵姉さん、此処に落ち着いたら、呼んでください?楽しみにしてますから・・」

って言うと幸恵さんは、
「ええ~もちろんよ?わたしも楽しみにしてるわね?今日はありがとうございました?」
って笑顔を見せた、うちはヒデさんと「それじゃまた・・」言って、病室を出た・・。


病院を出てからの帰り道、空を仰いだら、ちぎれ雲が幾つも連なって陽の光を遮ってた、こんなに近くに見えても届かない
雲は、お兄ちゃんを思わせて不安ばかりが増える、せめて晴れてくれてたら少しは気持ちも、癒されたかもって思う・・、
このままじゃお兄ちゃん、そう思うだけで苦しくて、遣り切れなくて、うちは、何時の間にか、ヒデさんの腕を握り締めてた、

するとヒデさんが、うちの手を握り返して、
「亜紀~?何考えてるんだ~?お兄さんの事か~?俺が言う事は亜紀にとって気休めにしかならないだろうけどさ~あんなに
必死になってお兄さんの為につくしてるお父さんが居てくれるんだ?亜紀?信じていよう、な?きっと幸恵さんはもっと
辛いんじゃないかな?だから俺たちが信じてやらなきゃいけないって俺は思うんだ、ほんと気休めなんだろうけどな?
けど幸恵さん見てるとさ~?こっちの方が元気貰ってて、それじゃ~なんかあまりにも情けないよなってさ?なあ~亜紀?
そうは思わないか~?」って言った、

辛いのはうちだけじゃない、その為にお守りに願いを込めたのに・・、
「ヒデさんの言うとうりね~幸恵姉さんの方があたしなんかよりずっと辛いはずなのに、あんなに笑顔見せて、それなのに
あたし情けないよね、ありがとヒデさん?気休めだなんて思わない、ほんとにそうなんだから、気づかせて貰えて好かった、
ありがと?・・」
って言うとヒデさんは「そっか・・好かったよ・・」そう言って笑顔を見せた・・。

Ⅱ 二十二章~再来~

お兄ちゃんの見舞いに行ってから今日で三日、何故か今朝は朝からあいにくの雨で、店の中は雨音だけが響いて客足も遠退いてた・・。

そんな昼下り、店に思わぬ人が顔を見せた・・、
「こんちわ~」って入って来たのは建兄ちゃん、いつ会ってくれるのか分からなかった建兄ちゃんが自分から顔を見せてくれた、
うちは嬉しくて思わず「お兄ちゃん~?」って抱きついたら、

建兄ちゃんは、
「おっ、おいカナ~?気持ちは嬉しいけどさ~?俺は逃げたりしないって?ほ、ら~カナ?」って言ってうちを引き離した・・、

すると建兄ちゃんは、
「こんにちわ、あっヒデさん、でしたっけ?ああご無沙汰してます、あのちょっとお聞きしたくて伺ったんですけど、いいですか?」
ってヒデさんに、頭を下げた、

するとヒデさんは、
「ああ~どうも~、お元気そうで、さっどうぞ中へ、雨、酷くなる一方で此処まで大変だったでしょう?」って居間の方へと通した、

建兄ちゃんは、
「あ~どうもすみません・・」って会釈をしながら、ヒデさんの手招きで居間に腰を下ろしてた、
何だか取り残されたようで少し寂しい気もしたけど、それでも会えた喜びの方が数倍大きくて、だから寂しさはすぐに吹きとんだ、
それから居間へとうちも腰を下ろした、

しばらく会ってなかった建兄ちゃんは、随分大人びた気がして、昔のお兄ちゃんと雰囲気が変わって見えた、あの日少しだけ話した
だけだから気づかなかっただけかもしれない、でも何処か別人にお思えた建兄ちゃん・・。

建兄ちゃんは、少し戸惑いながら、
「すみません突然押し掛けて、あっあの~実は兄さん、えっと慎一兄さんの事なんですけど、病院を変わったって聞いたもので、あの、
もしかして、ご存じないかと、お聞きしたくて来たんですけど・・、カナ?お前、何か聞いてるか~?俺、いつもの病院に行ったらさ~?
移りましたって言われたんだ、だからお前の処に来れば何か分かるかと思ったんだけど、あの~ヒデさん?ご存じないですか?」
って聞いた・・。

この話し方、この口調、いつもの建兄ちゃんだ、そう思った、うちの想い過ごしだって気づいたら、なんだか嬉しくてつい笑みが零れた、
すると建兄ちゃんが、
「なんだよ~?急にニコニコし出して、気持ち悪いだろ~?」って言うと、少しむっとなってた・・、

「あ~ごめんね?でもお兄ちゃん昔のままだったなって思ったらなんだか嬉しくて、そしたらね?なんか可笑しくなちゃったの・・」
ってお兄ちゃんの顔を見てたら、また可笑しくなって笑い出してしまった、

すると建兄ちゃんが、
「おい、笑うなっつ~の?俺が恥ずかしいだろが~、まったく~、そんな笑う事かよ~?あ~すみません・・」
って、ヒデさんに謝ってた、うちは少し悪い気がして、お兄ちゃんに謝ろうかなって思ってたら、

でもヒデさんが、笑いを堪えながら、
「いいんですよ?気にしないでください、それより建さん?今あの家に居られるって聞いたんですけど、どうしてまた・・」
って聞いた、

すると建兄ちゃんは、
「あ~そのこと?今までのお返しです、兄さんの事でも色々在りましたから、それにカナの事も、だから自分から入ったんです、
兄さんは何も教えてくれなかったから全てを知った時には家も無くして兄さん・・、あっまあ~色々です、あの、聞き流してください
カナの所為で余計な事喋っちゃったよまったく、あの~この事は兄さんには言わないでくださいね?俺が勝手にしてる事なんで、
お願いします?それで、あの~兄さんの居場所なんですけど・・」って言った・・、

うそ、家を失ったって、どういうこと、どうして建兄ちゃんそこまで・・、
「お兄ちゃん?あの家は売ったんじゃないの~?それに慎兄ちゃんの病気は・・」うちは言葉が続かなかった、

すると建兄ちゃんが、
「バカだな~売れる訳無いだろ~、親父の借金の形に取られてんだからな~、その所為で兄さん、あっバカ、また余計な事・・・、
俺はそんな話しをしに来たんじゃないんだよ~、な~カナ?兄さんの居るとこ知ってるなら教えてくれよ、頼むよ~?」
って手を合わせた・・、

「お兄ちゃん?もう一つだけ教えてほしいの、お兄ちゃんは、あの人、お母さんの息子になったの?それとも・・」って聞いたら、

「ああ~?旦那だ、籍も入れて貰った、けどどうしてそんなこと聞くんだよ、もうお前はやっと縁が切れたんだ、俺がどうしようと
お前が気に病む事なんてないだろ~、お前はお前の幸せ考えてればいいんだよ?俺の好きにやってる事だ、お前にはもう
関係ない人だよ?だからお前はもう忘れろ、いいな?カナ・・」って言うとお兄ちゃんは、うつむいてた・・、

何も言えなかった、返す言葉もない、何も知らずに来たうちはただ、自分の事に必死になって何も見えてなかった、どれだけうちは、
守って貰ってたんだろ、そう思えたら・・、

「お兄ちゃんありがと?今までいっぱい苦労掛けてきたのにあたし何もできなくて、ずっと言いたかったのに言えなくて、ごめんね?」

って言ったら建兄ちゃんが
「ば~か、なに気にしてんだよお前は~あのさ~?俺はお前と血は繋がってないけどな?けど一緒に育った仲だよ?どうひっくり
返ったって、お前は俺の妹だろう~?まったく、だからその改まった言い方は辞めろ~?それに謝るな、泣くな、俺が困るよ、まったく、
分かったな?」
って言われたら、ヒデさんと離れた場所で聞いてたアンちゃんが、クスクスと笑いだした・・。

建兄ちゃんは、ヒデさんの笑うのを見て、慌てたように、
「お前の所為だぞ、バカ野郎~、笑われたじゃないかよ~?・・」ってうちに耳打ちしてきた、

そしたらヒデさんが、
「カナ~?いいお兄さんばかりで好かったな?俺、羨ましいよ、ああ建さん?慎一さんの病院の事ですけど、実はカナのお父さんが
医者なもんで、二三週間前にお父さんの病院へ移って来られて今、そちらに入院されてるんですよ、ああ、場所分かんないでしょうから、
病院の地図有りますから、好かったら持ってってくださいよ?」
って言うとヒデさんは引き出しから折りたたまれた紙を出して来て建兄ちゃんに手渡してた、

すると建兄ちゃんは、
「ああ、どうもありがとうございます、好かった、あっそれじゃ俺はこれで・・、どうも突然お邪魔してすみませんでした、あっヒデさん?
カナの事宜しくお願いします、また機会があったら、ああっまっいいか、すみません、どうも、それじゃカナ?元気でな・・」
って言うとさっさと帰ってしまった、でもうちは何も言えないまま、ただ見送るしかできなかった・・、(お兄ちゃんのばか・・)

その後、急にヒデさんが、
「なんかこの分じゃ、この雨は止みそうにもないよな~?お客も来そうにも無いしさ、な~靖~店閉めようか~?」って言い出した、

するとアンちゃんは、
「そうだね~けどま~それは俺が決められる事じゃないし、ヒデさんの判断でいいんじゃないのかな~?」って言うとヒデさんは、
「まあ~そうなんだけどさ~」って言いながら考えてた、

そんな時、店にまた来客が入って来た、すると
「こんにちわ~ああ、カナちゃん?久しぶりね~」って、アンちゃんのお母さんが顔を見せた・・、
「ああ、おばちゃん~?久しぶりです、アンちゃん~お母さんが・・」って言うとおばちゃんは「カナちゃん、いいよ?ありがと・・」
って言うと、すぐ傍にあった椅子に腰を降ろした、

そのすぐ後、アンちゃんが、おばちゃんの前に来ると、おばちゃんはアンちゃんの顔を覗き込んで、
「靖~どう仕事は楽しい?頑張ってね?ああ母さんもね?仕事始めたんだよ、だから、お酒も辞めたよ、今まですまなかったね?
父さんの事はもう終わりにしたから・・、だからこれからは母さんも頑張ってみようと思ってるの、お前の為にもね?今日はそれだけ
言いたくて来たのよ、仕事中に悪いわね?ああカナちゃん、ごめんね~?おばちゃんこれで帰るけど、今度またゆっくり会おうね?
靖、頑張ってね?それじゃ~・・」って言うと帰ってしまった、

でもアンちゃんは、お母さんの帰った後もその場に立ち尽くしてた、「アンちゃん~?どうしたの?困った事でも出来たの?」
って聞いてみた、でもアンちゃんは、なにも応えてもくれなくて、ただぼーっと、立ち尽くしてた、

そんな時ヒデさんが、
「靖~?そろそろ店閉めるぞ~!」って声をかけたら、アンちゃんは、いきなりうちに向き直ると何か言いたげに睨んでた・・、
どうしたの・・、
「アンちゃん?もしかしてあたし、なにかいけないことした?そうならあたし謝るから・・、だから・・」って言ってたら

ヒデさんが来て、
「どうした~?靖~どうしたんだ~?お母さんとなんか有ったのか~?・・」って聞いた、

そしたらやっとアンちゃんが口を開いて・・、
「ああいや、そんなんじゃ、それに亜紀が謝る事じゃ無いんだごめん?母さんがさ?俺の為に働きだしたって言ったんださ、
それで俺にありがとう、だって・・、なんか俺、夢でも見てるのかなって・・、でも分かったよ亜紀ちゃん?これって・・、
亜紀ちゃんのお陰だよな、ほんとありがと?」って頭を下げた、

驚いた、唐突に何言ってるのアンちゃん、お礼だなんて、
「アンちゃん、辞めてよ~?あたし何もしてないよ、アンちゃんの気持ちが通じたからなんだよ~?あたしじゃないよ・・」
って言ったらアンちゃんは、首を振ってた、

そしたらヒデさんが、
「そっか~、靖?好かったじゃないか?今日はこんな天気だけど、いい日だ、な~亜紀~?」って言うと、空を見上げてた、

(うちに振られても・・)って思ったけど、でも考えてみたら、そうなのかもって思えてきて、
「そうね!これって雨のお陰かもしれないよね、嫌な事は全部流してくれたのかも、だとしたら雨に感謝しなきゃ、ね~アンちゃん?
そう思わない?」って言ったら

アンちゃんが、急に笑い出して、
「亜紀ちゃんらしい発想だね?でもそうなのかな、ま~亜紀ちゃんがそう言うならそれでいいよ・・」って笑顔になった・・、
そしたら、止みそうにない雨を、いつの間にかみんなで眺めて、その内それぞれの顔に笑みが零れてた・・・。



それからひと月・・、今朝もまた、うちは何気に早くから眼が覚めて、いつものように窓を開けて伸びをしながら街を眺めた・・、

そんな時、店の前を歩いてくサチの姿が眼に映った、うそ、こんな朝早くに・・、

でも見間違えなのかもしれなくて、しばらく見てたら、まだ人どうりも少ない路地で、男の人に声を掛けられてた・・、
でも何処か嫌がってるようにも見えて、なんだか、いてもたっても居られなくなってうちは部屋を飛び出した、

その時ヒデさんを起してしまったようで、「亜紀~どうした~?・・」って聞いてたけど、でもうちは構わず階段を駆け下りて
外へと飛び出した、
サチかもしれない、助けなきゃ、そう思いながら行ってみた、でもサチじゃなくて、それに男の人も一人じゃなかった、どうしよう・・、
うちは少し戸惑った、でも今にも泣きそうな顔をしてる彼女の顔を見たら、もう身体が前に乗り出してた・・、

「あっ、あの~?あたしの友達に何かご用ですか~?・・」って聞いてみた、

すると男の一人が、
「なんだ、連れが居たのか~、どう?君も一緒にさ~?丁度いいんじゃん、こっちも二人だしさ・・」って言うとうちの顔に手が触れた、
その瞬間、怖さが先にたったらもう何も考えられずに、「駄目~・・」って大声で叫んでた・・、

そしたら男の人達は、おろおろし出して、すると男の一人がいきなり、うちの顔を思いっきり引っ叩いて「この、バカが~?・・」
って言うと、諦めてくれたのか何処かへ駆けだして行った・・、

何とかやっと去ってくれたって思ったら、急に体中が震え出して、うちは地べたに坐り込んでた、
その時、うちの傍でずっと立ち尽くしたままだった彼女が、
「あの?大丈夫ですか~?お陰で助かりました、あの、ほんとありがとうございました~・・」って言うと深々と頭を下げてた・・、
そんな彼女に、なんかほっとして、ふいに立ち上がろうとしたら、急に息苦しくなって立ち上がれなくなった・・、

すると彼女が、
「あの、大丈夫ですか~?あたしの所為ですみません、お医者さんの処に・・」って言い出してうちは焦って首を振った・・、

そんな時ヒデさんが来て、そしたら・・、
「おい~亜紀?どうしたんだ~こんな処で?なにやってるんだよ~亜紀~大丈夫か~?」って聞いた、

すると彼女が、
「あの?すみません、わたしの所為なんです、早く病院へ?・・」って悲痛な声を上げた、

するとヒデさんは、
「ああ~とりあえず、俺の店に行きましょ~?此処からすぐなんで、ね?」って言うと、うちの顔を覗いて、
「亜紀、立てるか~?さあ帰ろう~、な?」って言われて、なんとか店へと帰ってきた、

店の中へと入るとヒデさんは、彼女に椅子を出して「あ~好かったら坐って?」って手招いた、

すると彼女は
「あ~どうもすみません?でもあの?病院、行かなくて大丈夫なんですか~?わたし・・」って言いながら、うちの方を見てた、

「ああ、ごめんね?あたしの事なら心配いらないの、大丈夫だから気にしないで?ありがと?あたし亜紀って言うの、たまたま窓から
貴方が見えたもんだから、ああでも好かったね~?あたしもう、ドキドキだったけど、ほんと好かった~?」って笑ったら、

彼女が吊られたように笑みを浮かべて、
「ほんと好かったです、あたし朋子です、でも亜紀さん勇気ありますね~?あたし怖くて、どうしていいかも分からなくて・・、
でもほんと助かりました~ありがとうございました・・」って、頭をさげてた、

「嫌だ、そんな事いいのよ?ほんと言うとあたしも怖くて逃げ出したかったんだけど、でもあの時は無我夢中だったから、でももう
覚えてないけどね?実を言うとね~?あたし貴方の事、見間違えちゃったって言うのが本音なの、ああ~でもほんと好かったよね~?」
って言ってたらほんとに疲れが一遍に来たようで、ついため息が漏れた、

すると朋子さんがクスクス笑って、
「亜紀さんて楽しいですね?それに根が正直ですよね?ほんと好かった~優しい人で、ありがとうございました」って笑顔になった、

するとヒデさんが、
「えっと~朋子ちゃんは、家は近く~?」って聞いた、

そしたら彼女は、
「あっはい?あたし十日前にこの近くに越して来たんです、でも道がよく分からなくて今日から仕事始める予定だったんですけど・・」
って言いながら、なんか言いずらいのか苦笑いしてた、

その時、何時降りて来てたのかアンちゃんが、乗り出してきて、
「もし何なら俺、送ってってやるよ?職場の名前さえ分かれば、ここら辺なら知ってるからさ、もし好かったらだけど送ってくよ?」
って言った、

すると彼女は、
「えっ?助かりますけど、でもいいんですか~?こんな見ず知らずのあたしなんかの為に、助けて貰ったうえにそこまで、あの~」
って戸惑ってた、

するとアンちゃんは、
「せっかく助けたんだから余計だろ?それに亜紀ちゃんはそうしてほしいって顔してるしね?俺は構わないよ?・・」って言った

なんだかうちは酷い言われ方されたようで・、
「アンちゃん?それないでしょ~?もう!でも朋子さん?何かの縁だし送って貰いなさいよ?口は悪いけど根は優しいから、ね?」

って言うとアンちゃんは、
「誰が口が悪いんだよ~、俺は普通なの?さて、行きますか~?え~っと朋子さんでしたっけ・・」

って言うと彼女は
「あ~はい、それじゃ~宜しくお願いします、あ~亜紀さん~?好かったら友達になってもらえますか~?」って言われて・・、

「それはもちろん!喜んで、また今度ゆっくり会いたいね?好かったらまた来て~?」
って言うと彼女は、大きく頷いて笑顔で帰って行った・・。

その後ヒデさんに、
「亜紀~?彼女の事誰と見間違えたんだ~?」って聞かれた・・、「ええっ?あ~あの・・」ちょっと言いづらくて戸惑ってたら、

ヒデさんが、
「もしかして、さっちゃんなのか~?確かに何処か似てるかもな、けど、あまり無茶はしないでくれよな~?」
って言われてしまって、
「ごめんなさい、でもよく似てるのよね~彼女・・」って言いながら、うちはまた、ため息が漏れた・・。


それから半日が過ぎた頃、アンちゃんが帰って来た、するとアンちゃん、
「あ~疲れた~、おれ死んじゃうよ~」って、帰って来たそうそうから悲鳴を上げてた、

するとヒデさんが、
「なんだよ~帰ったそうそうから~?どうした送って来たんだろう~?けど随分時間がかかったよな~?」って言うと

アンちゃんは、
「いや~それがさ~あの子、朋子さん、道知らないって言う前に方向音痴なんだよ~自分の家すら帰れなくてさ~?お陰で、
探し歩いちゃったよ~、あ~疲れた~もう動きたくない・・」って言うと椅子にそっくりかえってた・・、

「アンちゃん?お疲れ様!大変だったね?それで彼女の家には辿りつけたの?」って聞いたら、

アンちゃんは、
「ああ~どうにかね?ああそだ、何でも彼女、友達の家に居させて貰ってるんだってさ?あっそれでさ~、彼女の仕事先?俺、聞いて
ちょっと驚いちゃったんだけど、彼女何でも、看護婦さんらしいんだよ、それが聞いて驚くなよ?今日から行く職場って言うのが
なんと、亜紀ちゃん?どうも亜紀のお父さんの居る病院なんだよ?いずれは病院の寮かなんかに入るとか言ってたけどな~」
って言うと、ため息ついてた・・。

何処かで繋がっていたような不思議な気持ちになった、助けに入ったのも偶然じゃないのかもしれない、そう思えてきたら不意に
サチを思い出した、きっとまだ繋がってる、また昔のように笑って出会える日がきっと来る、そんな気がした、だとしたら、彼女に
出会えたのも偶然じゃないのかもって、そう思えた。



移り変わる時の流れはいつしか何ごとも無かったかのように、うちの穏やかな日々もひと月が過ぎてた・・、
そんな中、幸恵さんからうち宛てに手紙が届いた、ヒデさんは、
「亜紀宛に届いた手紙だから亜紀が読むといいよ、俺はそれからでいいからさ・・」そう言って手渡された、

何も言えないままうちは手紙を開いた、

 カナさん・・
 お変わりありませんか、先日は素敵な贈り物ありがとうございました・・。
 あれから少し体調を崩して慎一さんは此処しばらく寝た切りになってしまいました、
 それでも貴方のお父様には、何かとよくしていただいて、お陰さまで私も住まいが決まりました、
 宜しければ是非足を運んでもらえると嬉しいのですが、カナさんも何かとお忙しいでしょう、
 もし此方へご用のおありな時に都合がよろしければ是非遊びにいらしてください、
 ヒデさんにも宜しくお伝えください、でわまたお会い出来る日を楽しみにしております・・。

便せん一枚に込めた幸恵さんの想いは、分かってるのにあの日以来うちはまだお兄ちゃんに会いにも行けずにいる、忘れてた
訳じゃない、ただ会うのが辛かっただけ、辛いのはうちだけじゃないの分かっているのに、また何処かで逃げてたのかもしれない
って思う、そんな自分の臆病さに何処か遣り切れなくて、幸恵さんに会いたいって想ったら、手紙をヒデさんに手渡した、

そしてヒデさんが読み終えた時・・、
「ヒデさん?あたし幸恵さんに会いに行って来たいんだけど、いい?」って聞いてみた、

ヒデさんは、
「ああ~いいんじゃないか?幸恵さんも亜紀に会いたがってると思うしさ?俺に遠慮することは無いさ、行ってきなよ?」
って笑って見せた、
「ありがとう・・」って言うとヒデさんは「俺に気を使うこと無いんだ、気にしなくていいよ」って言ってくれた。



それから二日後、うちは独り幸恵さんのアパートへと向かった・・・、
辿りついた先は、丁度病院の裏になるアパート、部屋を訪ねると幸恵さんはうちを見ると驚いてた、

「カナさん?本当に来てくださったのね~さあ~どうぞ~?よく来てくれたわね~?」そう言ってうちの手を握り締めてた、

少し戸惑いもあったけど、でも幸恵さんの顔を見たら、少し気持ちも解れて「お姉さん?突然、お邪魔してすみません?あの~・・」

って言いかけたら、幸恵さんが、
「あんなお手紙さし上げてしまった所為ですわね?それでカナさん、心配で来てくださったのでしょう?ごめんなさいね~?
でも嬉しいわ~ほんとに来てくださるなんて?ありがとうカナさん?・・・、
ねえカナさん?慎さんの事、貴方のお父様には此処へ移る前にお話しした事だけれど・・、カナさんはもうお聞きになったのかしら、
前の病院の先生はね~?慎さんはもう半年も持たないかもしれないっておっしゃってらしたの、多分先生はもう諦めてらしたの
だと思うわ~そうでなければ仮退院なんてありえませんものね~、でもね~?貴方のお父様には、私、救われた思いがしてますの、
此処までして頂いてほんと感謝してますわ~、ですからね?私にできる精一杯の事を慎さんにして差し上げるつもりでいますの・・、
カナさんには心配させてしまいましたけれど、でも私は大丈夫、お気になさらないで、ね~カナさん?」
って笑顔を見せた・・、

でもどうしてそんなに強気でいられるんだろうって思った、何処で自分の辛さを見せるんだろうって・・、
「お姉さん?あたしは全然大丈夫じゃありません、苦しいです、お兄ちゃんの顔を見るのが凄く辛いです、だから会いたいって
思ってても会うのが・・、でもあたし以上にお姉さんの方が辛いのにって、あっごめんなさい、あたしなに言ってるのか、すみません・・」

想いが溢れたら涙が零れた、そしたら幸恵さんは、
「カナさんは、ほんとお優しいのね~?それにお兄さん思いだわ~、私だって辛いわ、でもね?私以上に慎さんは苦しんでいるの、
なのに私が苦しいだなんて思うのは理不尽じゃありませんこと?ですからね?せめて私は考えないようにしているだけですの、
それだけですもの私に出来る事なんて・・」

凄いなって思った、でもそんなふうにうちには・・、
「でもやっぱり辛いんじゃないんですか~?あたしはそんな強くなれそうにないです、だから想いも辛さも分けあえたら気持ちも
少しは楽になれるかなって、あっごめんなさいあたしなに勝手な事言って・・、こんなつもりじゃ・・、あの、あたしこれで帰ります、
ほんとすみませんでした・・」

自分でも何が言いたいのか分からなくなって部屋を出てしまった、うちとは違う、お姉さんにあたしは必要ない・・
でも、どうしてこんなに苦しいのか分からない、でもそれは、ただうちが楽になりたかっただけで・・・、そう思えたら余計に自分が
遣り切れなくて、無意識に走り出してしまった、そしたら息苦しさに足を止めて、仕方なく近くに有った木の幹に寄りかかって
治まってくれるのを待った・・、

そんな時、幸恵さんが追いかけてうちの顔を覗き込んできた、少し驚いたけど、でも声をかける余裕も無くて伏せてしまったら、
幸恵さんが、
「カナさん?何処かお悪いの?顔が真っ青よ~?戻りましょう~、ね?少し休んだ方がいいわ~ねえそうしましょ?・・」

そう言ってうちの手を持ち上げて抱え込んだ、うちは返す言葉もないまま、また幸恵さんの部屋へ戻って来た、

すると幸恵さんが、
「カナさん、どう?少しは楽になれたかしら?ねえカナさん?身体、何処かお悪いのじゃなくて?前にもこんな事あったわよね~?
今思い出したわ?もしかして前からそうなの?ねえ~カナさん?ほんとの事教えて?慎さんには言わないわ、だから・・」
そう言ってうちの手を握ってた・・、

「すみませんでした、迷惑掛けて、こんなつもりじゃなかったのに、ほんとすみません・・」

って言うと幸恵さんは、
「カナさん?ありがと?カナさん、私の事心配してくれてたのでしよう?私も貴方と想いは一緒なのよ?ただ私は自分に言い聞かせて
いるだけなのよ、私も強くなんてないの、ねえカナさん?私も辛い時は辛いって話すわ?これからはほんとの姉妹になりましょ?
だから、ねえカナさん?私にもカナさんの辛さ分けて貰えないかしら?もう私じゃ駄目かしら?」って聞かれた、

「駄目だなんてそんな~あたし嬉しいです、勝手な事言ってすみませんでした、あたしの独りよがりで、ほんとにごめんなさい、
身体の事は、前からちょっと、でもすぐ治まるから大丈夫です、お父さんは一度診てもらいなさいって言ってくれますけど、でも、
お兄ちゃんには知られたくなくて、だからあたしの事はいいんです、今はお兄ちゃんの事だけだから、すみません・・」

って言ったら幸恵さんは、
「そう~でもヒデさんはこの事はもう知ってらっしゃるの?」って聞かれて「知ってます、本当は知られたくなかったんですけど・・」
って言うと、幸恵さんは
「そう~分かったわ?それじゃ~何かあった時は私にも教えてくださるかしら?」って言われて「それはお姉さんも一緒ですよ?」
って言ったら幸恵さんは「それもそうですわね~?」って顔を見合せたらふたりで笑ってた・・。


その後、幸恵さんは、色んな話しを聞かせてくれた、うちの知らない幸恵さんとお兄ちゃんとの出会いも、そして幸恵さんの思いも・・、
だからうちも思いの全てを内明けた、

そんな時唐突に幸恵さんが、
「カナさん?私、これから慎さんの処へ行くのだけれど、ねえ好かったらカナさんもご一緒しません?ね?いいでしょう~?」

って急な誘いに少し戸惑ったけど、でも・・、
「そうですね?それじゃ~ご一緒させてもらいます、宜しくねお姉さん?」って言ったら「こちらこそ、宜しくねカナさん?」だって・・。


そして幸恵さんと一緒にうちはお兄ちゃんの病室へと向かうことになった・・・。

Ⅱ 二十三章~想いの先に~

やっと繋いでくれた暖かいその手は、もう離したくない、もうずっと、想いは一緒だって、教えてくれたから、見えない望みでも
諦めないでいてほしい・・、大切な人の為に、ずっと傍に居るから、きっと大丈夫、きっと良くなるってそう信じてる・・。

お兄ちゃんに会いに幸恵さんと病室の前まで来た時、お父さんの姿が見えてうちは「お父さん~」って声をかけた、
するとお父さんは、
「お~カナ、お見舞いに来てくれたんだね~?あ~幸恵さん、好かった、どうですか、少しお時間貰えませんか?」
って聞かれて幸恵さんは「ええ~」そう言いながらうちの顔を見た、
うちが頷くとお父さんは、「すまないね・・」そう言って、お父さんの部屋へと通された・・。

部屋へと入って腰を下ろしたらお父さんは、
「すまないね呼びとめて、カナ~?少し顔色がよくないようだが大丈夫か?」っていきなり聞かれて、どう言っていいのか返答に
困って思わず「大丈夫、心配しないで・・」って声を荒げてしまった、

するとお父さんは少し驚いた顔で、
「そうか?それならいいんだがね、無理はしないでくれ、お前の事は気にはなっているんだ、すまないね」そう言ってうつむいてた、

「あ~あのお父さん、ごめんなさい?あたしは大丈夫よ?だからお父さんが謝る事じゃないの、心配かけてごめんなさい・・」

って言うと、お父さんは、
「あ~分かったよカナ?あ~すまないね幸恵さん?話しがまだだったね?どうかな新しい新居は、まあ、あまりいいとは言えんが
中々いい処が無くてね~?不自由をかけるとは思うんだが・・、ほんと申し訳ない・・」って謝った、

すると幸恵さんは、
「いえそんな事は、何から何までお世話して頂いてほんとに感謝しておりますの、本当にありがとうございます」って頭を下げた、

お父さんは、
「そうですか?そう言って貰えると私も嬉しいですよ、実は、ご主人の事なんですがね、私は手術を希望したいと思ってるんです、
とは言ってもこれは今すぐ返事をという訳にもいかないでしょうからね~・・、それで、ご主人にもお話しをしてみようとは思って
いるんですが、ただその前に貴方のお気持ちだけでもお聞かせ貰えたらと思いましてね」
って言って両手を握り締めた・・、

すると幸恵さんは、
「あの人が、少しでも長く生きていられるのでしたら私は、先生に託したいと思います、けれどはたしてそれで今のような苦しみ
から少しでも解放されるのでしょうか?今のあの人を見ているのは、正直耐えがたいものがあります、先生?長らえる事よりも
私は少しでもあの人の痛みを和らげて頂けたらと、そう思っているんです・・」

幸恵さんは自分の想いを真っ直ぐに伝えた、本当に愛しい人への想いを・・、するとお父さんは、顔を上げて、
「少なくとも今よりは、楽になると思っている、今のままでは、苦しいだけで終わってしまう、だからその為にも私は・・」
そう言ってお父さんは言葉を詰まらせた・・、

すると幸恵さんは、
「分かりました、先生に託したいと思います、どうかあの人を、宜しくお願いします・・」そう言って頭を下げた、
そんな幸恵さんの目から涙が零れた、その時、うちははじめて幸恵さんの涙を見たように思う・・・。

でも幸恵さんに声を掛ける事が出来なかった、どんな言葉を並べても幸恵さんの想いに伝えられる言葉が見つからなくて、
うちは幸恵さんの手を握り締めた、

するとお父さんは
「ありがとう~?全力を尽くします、託された思いは必ず果たしますよ、ありがとう・・」そう言ってお父さんも頭を下げた・・。

その後、お父さんと別れて、幸恵さんとお兄ちゃんの病室へと向かった、

その途中、幸恵さんがうちの顔を見て急に
「カナさん?心強かったわありがと?カナさんの思いはちゃんと受け止めたわ?一人じゃ無いのよね、ありがと?」
って言われた・・、

でも何のことなのか分からなくて・・、
「ええっそんな~あたしはお礼を言われる様なことは何にも・・、でも嬉しいです、すみませんでした生意気言って・・」

って言ったら幸恵さんが、
「全然生意気じゃないわ?私は嬉しいのよ?本当に妹が出来た気がして、だからこれからも宜しくね?」
って笑顔を見せた、

うちには何よりその笑顔が嬉しくて、
「こちらこそ宜しくです・・」って言ってから、自分でも可笑しいのに気づいて慌てて口元を押さえたら、そしたら思いっきり
幸恵さんに見られて、眼が合ってしまったらふたり笑ってしまった・・。


それから病室に着いて扉を開けて入ると、お兄ちゃんは横になったまま窓の外を眺めてた・・、
「お兄ちゃん~?こんにちわ~具合はどう~?」って言うと、

お兄ちゃんは、
「あれカナ一人なのか?ヒデはどうしたんだ~?」って聞いた、

うちより、ヒデさんを気にするお兄ちゃんには、ちょっと・・、
「お兄ちゃんは、あたしよりヒデさんに来てほしかったの~?せっかくお兄ちゃんの顔見に来たのに・・」って言ったら

幸恵さんが、
「カナさん?慎さんは照れてるの、本当は嬉しいのよ?ね?それより作った物一緒に食べましょうよ?」
って言われて、「そうですね?せっかく作ったんだから、食べてもらわなきゃね?」


お兄ちゃんに食べさせたくて幸恵さんと一緒に作ったお弁当をテーブルに広げたら、お兄ちゃんは、驚いた顔して、
「今日は、随分とふたり仲がいいじゃないか?いつの間にそんなに仲良くなったんだ~?それにこれは凄いな~?」
って言って見惚れてた

すると幸恵さんが、
「もちろんですわ?カナさんと二人で作ったんですもの、ねえ~カナさん?」って言った、うちが「ねえ~お姉さん?」

って言うとお兄ちゃんは、
「まいったな~、でもこうしてるとほんと姉妹だな?そんなふたり見てるとやっぱりヒデが来てくれると、まあ~いいさ、
さあて、せっかくだから御ちそうになろうか、な?」って言いながら苦笑いしてた・・、

お兄ちゃん、寂しいんだ、やっぱり男同士がいいもんねってそう想ってたら建兄ちゃんの事思い出した・・、
「そうだお兄ちゃん?この間、建兄ちゃんが店に尋ねてきてお兄ちゃんの病院聞かれたの、だから教えたんだけど、来た~?」

って聞いたら、お兄ちゃんは、
「あ~来たよ、それよりせっかくなんだ一緒に食べようじゃないか?な~幸恵~?」

ってお兄ちゃんは建兄ちゃんの話には触れようとしなかった、なんとなく気にはなったけど、でもそんな時、幸恵さんに、
「カナさん?頂きましょう、ねえ~?さあ~此処へいらして?」って言われてうちは考えるのは辞めた・・。

でもそんなお兄ちゃんは、うちが傍に来る前にはもう食べ初めてた・・。
傍で見るお兄ちゃんは、幸恵さんの手紙に書かれてたように少しやつれたように思えて、つい考えてしまったら手が止まってた、

すると幸恵さんが、
「カナさん?どうしたの?気分でも悪いのかしら?」って言うと

お兄ちゃんが
「カナ、そうなのか?それはよくない、先生を呼びなさい幸?」って慌てだしてた、

うちは焦って、
「お兄ちゃん?そんなんじゃないのごめん、ちょっと考え事しちゃっててごめんなさい、さあ、食べましょ?・・」って言うと

お兄ちゃんは、少し苦笑いしながら
「ああ~そうだな、幸恵?カナ?ありがと?ほんと美味しいよ!丁度食べたいと思ってたところだったからな、ありがと・・」
ってほんと、美味しそうに食べてくれた、

幸恵さんは、
「そうですか~?これはカナさんと私の愛情がたくさん詰まってますから、喜んで貰えて嬉しいわ~?ねえ~カナさん?・・」
そう言って幸恵さんは笑顔を作った・・。

うちは何も言えなかったけど、お兄ちゃんは笑みを浮かべて、
「カナ~?ありがと?ほんと美味しかった、また頼もうかな?そうだ、今度はヒデの手料理も合わせてくれるかな?・・」
って言いながら笑ってた、

なんだかもう、そこまでヒデさんにこだわるお兄ちゃん、呆れるしかなくて、
「はいはい、分かりましたよ?ヒデさんに伝えておきます、それじゃ~あたしはそろそろ帰りますね?お姉さん、お兄ちゃん、
今度来る時はヒデさんと来ますから?お姉さん?今日は色々ありがとう?・・」って言ったら

幸恵さんは、
「それは私の方よ?ありがとうカナさん?またいらしてくださいね?」って微笑んでた

その時、お兄ちゃんが、
「ほんと随分と仲良くなったもんだな~まあ~その方が俺も嬉しいんだが、カナ?今度を楽しみにしてるよ、ありがと・・」
「うん、それじゃ!」って言って病室を出た、


病院から外へと出た時には、もう空は陽も沈みかけてた、ふと見上げて見た、お兄ちゃんの病室、会いに行くと何時だって
笑顔で迎えてくれるそんなお兄ちゃんは、やっぱり見てて辛い、でも幸恵さんの思いに、少しでも触れる事が出来た
それだけでも、気持ちが和らいだように思う、本当はうちの方が幸恵さんに癒されてたのかもしれない、そう思うとちょっと
自分がなさけなくて遣りきれなくなるけど、でも思いは、一緒だって思えたから、だから今はそれだけでもいいって、
自分に言い聞かせた、

ちょっと長いしてしまってたようで、人通りの少ないこの道は、何処かうちを不安にさせる、
この道はお父さんに声を掛けられて一緒に歩いたのが最初だった、いつもだったらヒデさんと歩く道を今日は独りで歩いてる、
陽が沈むとこの道は、真っ暗で街灯もまばらにしか点かない、そんなこの道を一人歩くのは、何処か不安にさせる、
だから怖くなるのが嫌でうちは、空を眺めながら急ぎ足になった、

そんな時、前から歩いて来る人の姿が見えてきてちょっと怖い気もして通り過ぎるまで、うちは下を向いて早足で通り過ぎよう
としたら、いきなりすれ違う途中で「亜紀~?」って声を掛けられた、

あまりにも突然で、うちは呼ばれた事より怖さだけしかなくてしゃがみこんだ、すると「亜紀~?俺だよ?驚かせたか~?」
って言ってうちの肩を叩いた・・、

思いがけないヒデさんの声に気づいたらちょっと嬉しさも驚きも入り混じって、ちょっと涙が零れた、

「ええ?ヒデさん?でもどうして此処に?」って聞いたら、

ヒデさんは、
「驚かせちゃったな~悪い、いや~亜紀の帰りが遅いからちょっと心配でさ、この道は人気も少ないし夜道には此処は薄暗い
からさ?それでちょっと気になって迎えに来たんんだ?でも好かったよ~会えて~・・」って、そう言って笑った・・、

「ありがと?正直怖かったから嬉しい~、ごめんね?遅くなちゃって、ちょっと長居し過ぎたみたいで・・」って言うと、

ヒデさんは、
「そっか~?いいんじゃないか~?喜んでくれたんだろ~?気にするなよ・・」って言ってくれた、「ありがと~」って言うと

ヒデさんは、うちに肩を寄せて腕を回して歩き出すとうちの顔を覗き込んで
「やっぱり亜紀が居ないとな・・」って言った、「あたしもやっぱりヒデさんがいなきゃ~?」って言ったら、

ヒデさんが笑って、
「よし、それじゃ~今度は二人で行こう~な?」って言われてうちが頷くと、うちに頬を寄せて笑ってた・・。


それから二周間が過ぎて陽も沈みかけた夕暮れに、朋子さんが顔を見せた・・、
「こんばんわ~、亜紀さん?この間はどうも?身体の方はもう大丈夫ですか~?あの時はほんとありがとうございました・・」
って言って頭を下げた、

「あ~いらっしゃい?あたしはもう大丈夫よありがと~?ごめんね?心配させちゃったみたいで・・」

って言ってたらアンちゃんが、
「ああ~いらっしゃい?もう此処はなれた~?もう迷ったりしてない?」

って聞かれた彼女は、少し恥ずかしそうに、
「あの~もう大丈夫です、いつまでも迷ったりしてませんから、あの時はすみませんでした」

って言いながらも少し拗ねてるようにも見えた

でもアンちゃんはなんか楽しげに、
「はは・・そっか~それならいいけどね・・」そう言って、何時の間にか二人楽しそうに話しはじめてた・・、

そんなふたりを眺めて見てたら、ヒデさんが、
「なんかあの二人、気が合いそうだよな~?このまま上手くいってくれるといいんだけどな~?」って笑ってた、

うちもそう思う、何時だってアンちゃんはうちの事ばかりだったから・・、
「そうよね~?あたしもそう思うな~」って話してたら、いつのまに朋子さんが、うちの傍に来て、

「亜紀さん~?あたし近いうちに独り暮らし始めるんです、だからその時は是非遊びに来てくださいね?楽しみにしてます、
それじゃ~わたしはこれで、お邪魔しました~?・・」って言うとあっさり帰ってしまった・・。

伝える事がすんだら、うちの返事も待たずに帰って行った彼女に、少し気がぬけたけど、それでも愛らしさが可愛く思えて
彼女の後ろ姿を見ながら、アンちゃんにはいい相手になる気がして、そうなったらいいのにって本気に想いはじめてた・・、

そんな時、アンちゃんが、
「亜紀ちゃん?今何考えてた~?もしかして俺が彼女と上手くいけばいいとか考えてたんじゃないのか~?けど残念ながら、
俺はその気はないからな?だから俺の事気にしてくれなくているなら、無駄だからね?・・」って笑って見せた・・。

もしかしてアンちゃんには、うちとヒデさんとの話し、聞こえてたのかな・・、
「ええ~どうして~?アンちゃん、ずっと独りでいるの~?おじいちゃんになっても~?」って聞いたら、

ヒデさんが笑い出して、アンちゃんは噴き出しながら、
「亜紀ちゃんそれ本気で聞いてる?いくらなんでもそこまでは想ってないよ、俺だって、もう何言い出すんだよ亜紀ちゃんは~」
って何だか怒ってるようにも見えた、

「だってこのままいったらアンちゃん、彼女に縁がなさそうに見えたのよ~、ごめん、あたしが勝手にそう思っちゃっただけで、
ほんとごめんない」

って言うとアンちゃんは
「別にいいんだけどさ~?なんか今の俺にはそんな感情持てないんだ?けどおじいちゃんまでじゃないからね?亜紀ちゃん!」
って念を押されてしまった・・。



そして二日後・・、朝の空気が吸いたくなってうちは店の外へ出た、まだ何処の店も開かない朝、
時々息苦しさを感じるようになってたのが気になり始めて、早くに目が覚めてた、何も起きてほしくないってそう思う、
だから、朝の空気を吸えば、いい日にしてくれそうな気がしたから・・。

空を仰いだら、雲が遠くに川を想わせるように流れてて、心地いい風が吹き抜けた、うちは思いっきり深呼吸して願った・・、
叶えてくれるなら叶えて欲しいって、今のうちにも持たせてほしいな、希望・、そう思った。

そんな時うちの隣にヒデさんが来て
「おはよう亜紀?早いんだな~亜紀は、あまり調子好くないのか?俺は何もできないけどさ、独りで抱え込まないでくれよな?
頼むな~?今日もいい天気になってくれるかな~」そう言ってヒデさんは店の中に入った・・。

ヒデさんには分かってた、気づかれてないつもりでいたのに、そう思うと心が痛い、せめてお兄ちゃんが元気になってくれたら
って、そう思うのはうちの身勝手なのかな・・・。

その夜、客足も減って来た頃に、四人の男女が、店に入って来た・・、
「こんばんわ~、ヒデ~?お久~?来ちゃいましたよ~?」そう言って入って来たのは、ヒデさんの同期生って言ってた人、

するとヒデさんは
「お~久しぶり~?よく来たな~今日は仕事帰りか~?」って聞いたら、
「そう~、近くまで来たからね?せっかく来たんだし寄って行こうかなって思ってさ・・}って笑った・・、

「そっか~そりゃ嬉しいね~今仕事は忙しいのか~?」って聞くと
「まあ~そんなとこ、そう言えばお母さんはどうしたの?今日はお出かけかなんか??」って聞いた・・、

「あ~お袋は~死んじまったよ、もうかれこれ三四年は経つかな~・・」って言うと、
「え~そうなの~?ごめん悪い事聞いちゃったわね?あっそだ、あたしの仲間紹介するね?勇次君に卓也君それと、あたしの
大の仲良しの典子、みんな職場で知り合ったの、宜しくね?しばらくはこの街に居るからちょくちょく寄らせて貰うわね?」
って言ったら、一緒に来た人達が一斉に「宜しく~!」って声を張り上げた、

するとヒデさんは、
「いや~こちらこそ~俺は、ヒデ、宜しくな!賑やかでいいな~なにしばらくって何時までいられるの?」って聞いたら、

「え~っとね~ひと月くらいかな?久しぶりに帰って来たけどこの街はあまり変わってないよね~?ねえ~今度一緒に飲みに
でも行かない?それにしてもこの街のみんな、もう居なくなっちゃったのかな~?ちょっと寂しい気もするね~、ねえ~ヒデ~?
久しぶりにさ~デートでもしない~?ね?」って言い出した、

そしたらヒデさん、
「あ~悪い、俺、もう結婚したんだよ~だからそう言う訳にはいかないんだ?悪いな~?でもお前、仲間が居るだろう~?」
って言うと、

「え~うそ?ええそれじゃ~、あっこちら、奥さん?」って言ってうちの顔を見た、

うちは、言葉が出て来なくて、頭を下げたら、ヒデさんは、
「あ~そうだよ?亜紀だ、それと俺の友達の靖、宜しくな?」って言ったら、アンちゃんも頭を下げるだけだった・・、

彼女は少し呆気にとられたようで、黙り込んでしまった、すると仲間の一人が、
「ヒデさんの奥さん可愛い人ですね~?紹介してくださいよ?是非お友達になりたいな~」って言い出してきて、

そしたら彼女が、
「何言いだすのよ~まだ酔ってんじゃないの~?人の奥さんにちょっかいかけるんじゃないの、まったく、あっごめんね、
気を悪くしないでね?あれで人はいい奴なんだ?ただちょっと酒にのまれやすくてさ?えっと亜紀さん?ごめんなさいね?」
って言って会釈をしてた、

うちはちょっと困惑したけど彼女の困った顔を見たら、
「あ~いえ、気にしなくても大丈夫ですから・・」って言うと彼女は、

「ありがと?でもヒデが結婚してたなんて驚いたな~?そっか~それじゃ~しょうがないか・・」ってなんだかがっかりしてた、

でも彼女の友達は賑やかに盛り上がって、その中にうちは、何時の間にか引き込まれて質問攻めに合った・・、
それでもみんな気さくで楽しませてくれて、そんな店の中は何時の間にか彼女達の貸し切りになって店を閉める時間まで続いた、

帰る頃に彼女は、
「ヒデ~?今日はありがと?お陰で楽しかったわ!亜紀さん?靖さん?長々とお邪魔しちゃってすみませんでしたね?たまに、
また寄らせて貰いますけど、宜しくね?それじゃ~そろそろ帰るね~?じゃ~ねヒデ・・」

って言うと、ヒデさんは、
「あ~何時でも来てくれよ、こっちもお陰で楽しませて貰ったよ?ありがとな・・」って言うと、

仲間のみんなが一斉に「どうもごちそうさま~」って言うと、その中の一人が「亜紀さん?また寄らせて貰いますからね?」
って言ってうちの手を握った、ちょっと驚いたけど・・でも、「ああ~はい、ありがとうございます」って言ったら、

もう一人が、同じように手を握って来て、
「俺も~宜しく~又来ますからね~」って言われて、「ああ・・はい・・どうも~」って言うと、彼女が、
「こら~いつまで握ってるの?ほら、行くよ~、ごめんね?それじゃ・・」って言って帰って行った・・、

帰ってしまった後、店の静けさは何処か台風が去ったような静けさで、アンちゃんと二人椅子に腰かけたまま話す事も忘れさせた。

その後、店のかたずけをすませて居間に腰を下ろしたら、ヒデさんが、
「お疲れさん!俺も少し疲れたな、亜紀、大丈夫か?」って聞かれて
「あ~、あたしは大丈夫よ、あたしよりも二人の方が疲れたでしょう~?」って言ったら、

アンちゃんは、
「あ~多少はね?でも楽しかったよ、それにしても彼女、かなりヒデさんにご中心だったね~?大丈夫~?」
って少し悪戯っぽい顔をしてヒデさんを見てた、

するとヒデさんは、
「そっか~?それはお前の考えすぎだよ?あいつは、誰にでもあんな感じだからな?でもほんと久しぶりだな~」
って懐かしんでた・・。

今日のこの数時間の出来事は、うちに今まで知らずにいたヒデさんの一面を見させて貰ったような気がして驚きも楽しさも、
何処か絡み合って、彼女との出会いはうちにとって大きな出来ごとのようにも思えた・・。



それから数日が経った夕暮に、突然、建兄ちゃんが店に顔を見せて・・、
「よう~カナ、又来ちゃったよ、元気か~?ヒデさん?どうも~・・」って笑って声をかけてた・、

するとヒデさんが「あ~いらっしゃい・・」って言うとお兄ちゃんは笑顔で頭を下げて「どうも・・」って会釈をすると、

うちに向き直って、
「カナ?ちょっとお前に知らせといた方がいいと思ってな、お母さんがさ~?倒れたんだ、本当は俺、言いたくなかったんだけど、
けどお前に会いたいみたいだから、とりあえず俺は、お前の気持ち確かめようと思って来たんだ・・」って言った、

お兄ちゃんの言葉に、うちは耳を疑ってしまった、あのお母さんがどうして、あの気丈な人が、信じられない・・、
「あの、お兄ちゃん?それ、ほんとなの?いつ?どうして~?あたしまだ信じられない、それにお母さんが、あたしの事・・」

って言いかけたら、お兄ちゃんは、
「それは俺だって・・、会いたいなんて言うとは思ってもいなかったよ、ただお前が来てから変わっちまったんだよ?俺には
それが好かったのか、分かんないけどな?とにかくだ、俺はお前の気持ちが聞きたい、お前の返事次第で俺も決めたいからな・・」
って言うと、お兄ちゃんはうつむいてた・・、

「お兄ちゃん?それってどういう意味?あの・・」って言いかけたらお兄ちゃんは、
「ああそれは・・、お前には関係ない話だよ、でどうなんだよ?」ってうちは返事を急かされた、

そんなお兄ちゃんに、どこか不安はあった、でもお母さんが会いたがっている事の方が、うちには大きくて・・、
「あたしは会いたい、お兄ちゃん教えて?お母さんは、今・・」って言ったら、「そっか、分かった・・」

そう言うとお兄ちゃんは、上着のポケットから小さく折りたたんだ紙を出すと、それをうちに差し出して、
「行ってこいよ?それに場所は書いといたからさ、じゃ~な?ヒデさん、どうもすみません?それじゃ~」
って言うと帰って行った。


呆気にとられながら渡された紙を開いてみたら、病院の地図が書かれてた、お兄ちゃんが書いてくれたってすぐに分かった、
でもお兄ちゃんが言ってたお母さんを変えたって・・、でも、まだうちには如何しても理解出来なくて自問してた、

そんな時アンちゃんが、
「亜紀ちゃん?会ってきたら?気になってるんだろ~?」って言われて、「それは~、そのつもりではいるけど・・」

って言ったら、ヒデさんが
「亜紀~?なに気にしてるんだ~?」って言われた、でもうちには応えようがなくてうつむいてしまったら、

ヒデさんに、
「もしかして亜紀は、お母さんに言われた事気にしてるのか~?迷ってるな尚更ら会って確かめたらいいんじゃないのかな?
いつもの亜紀ならそうしてるだろ~?」って笑って見せた・・、

言われてみればそうなのかもしれない、なにを今こんなに迷ってたのかなって、気づいたら気持ちが楽になれた・・、
「ありがと、アンちゃん、ヒデさん?、そうね、考えててもしょうがないよね?あたし、会いに行って見る・・」

って言ったら、
アンちゃんに「あ~そのほうがいいよ・・」って肩を叩いて、ヒデさんは頷いて笑ってた・・。


その夜、部屋の窓から空を眺めていたら、ヒデさんに、
「亜紀~?会いに行くのは独りで大丈夫か~?」って聞かれて、そこまでうちは考えが無くて少し焦った、あの時は想いが、
終わらせたい一心でいたから、でも今のうちはってそう思ったら、不安になった、

するとヒデさんが、
「別に亜紀が大丈夫ならいいんだよ?ただ俺は亜紀が不安なら、一緒にって思っただけだからさ・・」って言った・・、

「あっあの、ヒデさん?あの、あたし、ヒデさんと・・」って言いかけた時、ヒデさんは「分かったよ?!一緒に行こうか?」
って言ってくれてうちが「お願い?・・」って頼んだら、

ヒデさんは、
「ほんと言うとさ?亜紀は独りで行くの大丈夫かなってちょっと気になってさ?だから聞いてみたんだけどな」
って何処か悪戯な顔して笑ってた、でも図星なだけに上手く言えなくて、

「ありがと、でもヒデさん意地悪でしょ?分かってて聞くなんて~・・」って言ったら、

急にヒデさんは笑い出して、
「いや~、なあかさ~亜紀に頼まれてみたくなってな?まっこういうのも悪くないよな~?・・」って、また笑い出してた。

なんだか少しずつ変わって行くように思えたヒデさん、ずっと昔のままじゃ無いようで少し寂しくも思えた・・、
こんなふうに言われた事ないからそう思うのかもしれない、それでも素直に喜べない自分が居てこんなヒデさんにうちは、
何処か戸惑ってる・・。

「ねえ~ヒデさん?いつもあたしにつき合わせてごめんね?ヒデさんだって、自分の好きに友達とか付き合っていたいのに、
いつだってあたしの事ばかりで、ほんとごめんなさい、だからもう、あたしの為に友達との誘いこと割らなくていいからね?
いつもありがと?」

って言うとヒデさんは
「俺、悪い事言っちゃったかな?亜紀~?ごめん、気にするなよ、冗談だからさ・・」って言ってくれた、でも・・、

「そんなんじゃないの、考えて見たらあたしは当たり前のようにヒデさんに甘えてたなって何時だってあたしの為にヒデさん、
友達とも付き合えないなんて、そんなの不公平だってそう思ったの、だから、謝るのはあたしだから、そうしてほしい・・」

って言ったらヒデさん
「そっか、ありがと?けど俺は好きでやってる事だから、亜紀が気にしてくれなくても大丈夫だよ?心配するな・・な?」
って、うちの肩を叩いて笑ってた、そんなヒデさんに、これ以上は何も言えなくて、

「分かった、ありがと・・」って言ったらヒデさんは、笑顔を見せた・・。
うちの想いは、ヒデさんの気持ちに添えなくて、ただどこか空回りしてるように思えたら、いつしかため息が漏れてた・・。



それから二日後、うちはヒデさんとお母さんの入院している病院へと向かった、そこは前にお兄ちゃんが入院してた病院、
病室に行くと扉が開いたままで、うちが入口から声をかけた、
すると奥から返事が聞こえてきて中へ入って見ると、お母さんは横になったまま鼻から管を通されて横になってた、

うちは傍にかけよって、
「お母さん~?カナです、具合はどうですか~?」って聞いてみた、

するとお母さんは、
「カナ~?お前、どうして此処に?まさか建が、まあ~いいさ、あたしはもう顔を見せるなって言ったはずだよ?よく来れたね~?
笑いに来たのかい?あたしはもうすぐあの人の処に行くんだよ?清々するだろうね~・・」って言ってそっぽ向いてしまった・・、

「お母さん?そんな事言わないでください、あたし、あの時お母さんに話した事に嘘はありませんから、お母さんから逃げてた
のもほんとだけど、でも一緒に居た頃はお母さんのこと好きでいたのもほんとのことです・・、
お母さんに嫌われて居るのはわかっててもあたしは会いたいって思ったから来たんです、あんなに逃げてたあたしですけど・・、
嫌われててもはじめてお母さんって思えたから、ごめんなさい?お母さんの言われた事守れなくて、これで帰ります、でもこれ、
貰ってくれませんか?あたしの作ったお守りなんですけど、きっとお母さん、守ってくれると思います、
こんな事くらいしか、あたしにはできませんけど、でも元気になってください?それじゃ~帰ります、お大事に・・」

うちは泣いてる自分を分かってても、涙を拭えなかった、そっぽ向いたままのお母さんに振り向いて貰えない寂しさが、うちには
拭えないでいたから、さようならお母さん・・。

うちは入口に待たせてるヒデさんの元へと歩き出したら、その時お母さんが、
「カナ~?お守り、ありがと?幸せになりなさいよ?あたしの分も、お前はあたしの大事な独り娘だからね?幸せになるんだよ?
いいね?父さんの事、許しておくれ、あの人のとこ行ったら、ちゃんと叱っとくから、ありがとうカナ?・・」
って言ってお母さんは泣いてた・・、

うちは涙が後から後から溢れて、堪えきれなくなってお母さんの傍に駆けだして泣いた、嬉しかった、諦めかけてたお母さんへの
想いが、今やっと繋がった気がして・・、
「お母さんありがと~?ほんとにありがとう~」って言葉に出来たらまた、涙が零れた・・、

するとお母さんが、
「泣き虫は変わってないんだね~カナ?こんなに大きくなっても、小さい頃からそれだけは変わって無かったんだね~お前は・・、
でももうお帰り?旦那?待ってるんだろ~?ありがと~来てくれて嬉しかったよ、さあ~もう帰りなさいカナ?・・」
そう言ってうちの手を掴んで追いやった・、

うちは言われるまま、お母さんに、
「はい、帰ります、でもまた、来ていいですか~?」って聞いたら、お母さんは、涙をこぼして頷いてくれた、うちは
「ありがとう・・」それだけを言って、病室を出た・・、
待っててくれてたヒデさんは、何も言わずうちの肩を抱きしめて、歩き出した・・。

病院を出てからの帰り道にヒデさんが、
「亜紀~?来て好かったな?亜紀の思いが通じたんだ、それは亜紀の優しさがお母さんを変えさせたんだと俺は思う、だからさ?
もう泣くな?な?また顔があげられなくなるぞ?俺は別に気になんないけどな?」って言いながら笑ってた、

そう言われたら、思いっきり気になりだして、慌てて涙を拭ってはみたけど、もう顔があげられずにうつむくしかなかった、
そんなうちをヒデさんはクスクス笑って、何も言わずに肩を寄せてうちの髪を撫でてた・・。

Ⅱ 二十四章~別れ~

長かった幾つもの時を重ねて、ほつれかけてた心の糸は、沢山の想いを繋ぎ合わせて今、結び合えた、
幸せになれと言ってくれた、大事な娘だって言ったあの言葉をうちは忘れない、やっとお母さんの娘になれたのだから・・。


店に帰り着いた時は、陽はもう沈みかけて、街には、ぽつぽつと明かりがともり始めてた・・、
何とか帰り着いた店の前、でも店の戸ぐちを開けかけた時、唐突に店の中から笑い声が聞こえてきて思わずヒデさんと顔を
見合せたら、ヒデさんは「誰か来てるのかな~?」って言いながら店の扉を開けた、

するとアンちゃんが顔を見せて、
「あ~お帰り~?お疲れ~、今朋子さん来てるんだ・・」って言いながら出迎えてくれた・・、

するうと奥から朋子さんが顔を見せて、
「お邪魔してます?亜紀さんに会いに来たらお留守で靖さんに待てばって言われてお邪魔してましたすみません留守中に」
って頭を下げた、

うちは慌てて、
「ああ、そんなこと気にしなくていいのよ、せっかく来てくれたんだからゆっくりしてって~ね?」

って言うと朋子さんは、
「あ~はい、ありがとうございます、あ、あの~亜紀さん?あたし独り暮らし始めたんですよ?それで亜紀さんに知らせようと
思って来たんです」って笑顔を見せた、

するとアンちゃんが、
「それがさ~その住まいって言うのが、どうも亜紀のお姉さんの住んでる同じアパートらしいんだ?」
って苦笑いしてた・・、

「えっほんと~?あっそう~?それじゃ~病院へ行った時は寄らせて貰おうかな~?朋子さんの家に?」

って言うと朋子さんは、
「はい、是非寄ってください、うわ~楽しみが出来ちゃった、靖さんが引き留めてくれたお陰ですね、靖さんありがとう?そうだ、
靖さんも是非遊びに来てくださいね?その時は、あたしなりのおもてなしぐらいはしますから?・・」
ってアンちゃんに笑顔を見せてた、

するとヒデさんが、
「お~い俺は誘ってくれないのかな~?寂しいな~」って言うと、ため息ついてた、

すると朋子さんが慌てて、
「あ~すみません?是非ヒデさんにも来て貰えたらって思ってますから、みんなで来てください?・・」って苦笑いになった、

それを見てアンちゃんが、
「ヒデさん~?そんな事言ったら強制してるようなもんだよ~?朋子さん困ってるよ~?ね~亜紀ちゃん?」
ってうちを見た、

(どうしてうちに振るのよ~まったく・・)そう思いながら、
「朋子さん?気にしないで?ヒデさん仲間に入れてほしいだけなの、朋子さんが良ければヒデさんと寄らせて貰うけどいい?」

って言うと朋子さんは、
「ええ~もちろんです、あたし言葉が足りなくて~、すみませんヒデさん!」って謝った、

するとヒデさんは、
「ああいや~?こっちこそ悪いな、気にさせちゃってさ?・・」って謝った、

するとアンちゃんが
「さすが亜紀ちゃん!しっかりヒデさんのフォロしてるもんね?好かったねヒデさん?」って、笑ってた、
なんだかからかわれてるようでうちは言葉に詰まってたらヒデさんは、「あ~そうだな?・・」って何故か素直に納得してた、
(なに?のってるの?・・)・・。
何時の間にか、三人だけだった店に、もう一人の仲間が増えて、笑いの場も盛り上がりを見せてた・・。


穏やかに過ぎてく日々の中で、季節も色を変えて、いつしか風は冷たい風を運んで吹き抜けた・・、
お兄ちゃんの手術後は順調に回復を見せて、落ち着きだしたら幸恵さんの表情にも笑顔が増えたように思う・・、

お母さんは時々ヒステリになって怒鳴ったりもしたけど、でも見舞いに来ることは喜んでくれた、時々寂しげな顔をするけど、
でもうちが顔を見せると「ありがと・・」って言って笑みを見せてくれる、本当はお母さんは心細いんだってうちは想う、
だから独りにはしないっていつでも心にそう呼びかけてた・・。


こうして二カ月の月日が流れて、少しずつだけどそれぞれの顔に笑顔が増えてきたように思えた、このままみんなの笑顔が、
絶えないようにってうちは願った、
それでも何時もながら忙しない店の一日が、何とか終わりに近づいてきた頃、うちは椅子に腰かけて壁に背中を預けた、
お母さんの病院にお兄ちゃんの病院、そしてお店の掛け持ち、そんなうちは身体が少し重く感じ始めて、
でもまだ大丈夫だって自分に言い聞かせてたのに、今は少し限界なのかなって思えたら、ついため息が漏れた・・。

そんな時、アンちゃんがうちの傍に来て、
「亜紀ちゃん?疲れてるんだろう?今日はもういいから休みなよ?後は俺とヒデさんで大丈夫だからさ、ね?そうしな?」
って言うとうちの顔を覗き込んできた、

するとアンちゃんは、唐突にうちのおでこに手をやって、「ヒデさん~?亜紀ちゃん熱があるよ~?」って言った、
するとヒデさんが掛けてきて、ヒデさんまでもがうちのおでこに手を当てた・・、

するとヒデさん、
「亜紀~?もう休みな?店の事はもういいから、な?」って、二人とも心配そうな顔して、うちの顔を覗き込んできた、
返す言葉もなくうちは頷いて、仕方なく重くなってた身体に言い聞かせるように立ち上がったら、いきなり目の前が真っ白に
なってうちはその場に倒れこんでた・・、

気がついた時は、部屋に寝かされて、隣でヒデさんが坐ってた・・、
「ヒデさんごめんね?あたし大丈夫だって思ってたのに、また心配かけちゃった、ごめんね・・」

って言うとヒデさんは、
「いいんだよ気にするな?亜紀は頑張り過ぎたんだよ、分かってるはずの俺が気づくべきなんだ、だからさ?謝るのは
俺の方だよ、ごめんな亜紀?でももういいだろ?そんなに頑張らなくてもさ?お兄さんの事もお母さんの事も、もう亜紀は十分
やってる、店の事もな?だからさ?今度は自分の事考えよう~な亜紀?て言うかそうしてほしいんだ・・」
って言うとうつむいてた・・、

「ヒデさん、ありがとう?分かった、それじゃ~少し休ませてもらう、でもお母さん寂しい思いさせちゃうかもしれないの?
だから元気になったら、また行かせてもらってもいい?」って聞いてみた、

するとヒデさんは、
「そうだな?それは亜紀~?本当に亜紀がよくなってから考えよう~?今はゆっくり休んでくれ、な?」って言われて
うちの期待は薄れた。
大丈夫だって言えるほど今のうちには自信がもてない、そう思い巡らせている内に、何時の間にかうちは眠りに入った・・、


そんな時、誰かに呼ばれた気がして、不意に目が覚めたら、いつ来たのかうちの傍でお父さんが・・、
「カナ~すまなかったね~?どうだい、気分は?これから私の病院へ行こう~?ね~カナ?」ってうちの手を握り締めてた、

でもそれは・・・、
「お父さん、ごめんなさい、あたしは行けません、それだけは出来ないの、ごめんなさい・・」

って言ったらお父さんは、
「もうこれ以上お前を放ってはおけないんだよ、お兄さんの事なら心配は要らないよ、だからカナ~?」って言った・・、

ふとヒデさんをみるとうつむいたまま部屋の壁に寄りいかかってた、そんなヒデさんをうちは見たくないって思う、でも、
此処に居る事はヒデさんにもアンちゃんにも迷惑になるのかもしれない、そう思えたでも、それでもうちは此処を離れたくない
やぱりふたりの傍に居たい・・、

「お父さん?それでもあたし行けない、我がまま言ってるのは分かってる、でも此処に居たい、だから居させて~?
ヒデさんにもアンちゃんにも迷惑なのは分かってる、でも、それでもあたし此処に居たいの、お願いお父さん、お願い?」

それが自分にとって好くないって分かってても、約束したどんな事あっても一緒だってずっと傍に居るって、だから、
「ごめんなさい、もしヒデさんが嫌だって言うならその時は行きます、でもあたし、決めたの、ごめんなさい」って言ったら、

お父さんはため息を漏らして苦笑いすると、
「そうか?そこまで言うのなら仕方がないね~?カナは、ヒデさんがほんと好きなんだね~?これ以上の無理維持は、カナに
嫌われてしまいそうだから諦めるとしよう、だが、まだ少し熱が高いようだ、後で薬をやろう、それで様子を見るとしようか、
それでいいね~カナ?だがけして無理はしないでくれ頼むよ?これはお父さんのお願いだ、聞いてくれるね?」
って言うと笑みを見せてくれた・・、

「ありがとう?我がまま言ってごめんなさい・・」って言うとお父さん「いいさ、頑固な処は静譲りのようだからね・・」
そう言って笑ってた、最後の言葉は少し気になったけど、それでも嬉しい・・、

「ありがと・・」って言うとお父さんは「それじゃ、私は帰るとしよう、ヒデさん?すまないけど後を宜しく頼みますね?」
そう言うと手を振りながら帰って行った・・、


ヒデさんは、店の入り口まで見送ると部屋へ戻って来てうちの傍に坐った、でもなにも話しかけてくれなくて少し心苦しい・・
「ヒデさん?あたし傍に居て好かったのかな?迷惑だった~?勝手言ってごめんなさい、あたしが・・」って言いかけたら、

ヒデさんは、
「亜紀~?俺は嬉しいんだよ!迷惑だなんて思う訳無いだろ~?ありがとな?・・」そう言って笑みを浮かべてた・・、

そんな時アンちゃんが顔を見せて、
「ヒデさん?亜紀ちゃん、病院はどうなったの?・・」って顔を覗かせた・・、

するとヒデさんが、
「そこに居ないで入れよ?・・」って言うとアンちゃんは「それじゃ・・」そう言って入ると、うちに傍に腰を下ろした、

するとアンちゃんは
「亜紀ちゃん?病院は辞めたの?」って聞かれて、
「うん、でもその所為でアンちゃんにも又迷惑かけちゃうね?ごめんね?早く元気になれるように頑張る、だからごめん・・」

って言ったらアンちゃんは、
「俺は迷惑だなんて想ってないから、そんな頑張んなくていいよ?そりゃ~元気になってほしいけどね?それにさ~?
此処に亜紀ちゃんが居るだけで俺は元気貰えるんだ、それはヒデさんが一番想ってるだろうけどね?」
って言いながらヒデさんの顔を見て笑った、

するとヒデさんが、
「ば、ばかやろう~?それをお前が言うなよ、まったく~」そう言ってなんだかヒデさん照れくさそうに苦笑いしてた・・。


それから一周間が過ぎて、大分熱は引いたように思うけど、でも身体が思うように動けなくてやっぱり寝ているしかなかった、
そんな日が続いた昼下がりに、誰か部屋へ上がって来る足音が聞こえてきて、見るとお父さんがヒデさんと一緒に顔を見せた、

「えっどうしたの?」って聞くと、お父さんは「お~カナ、ちょっと様子を見に来たんだが、どうだい?調子は?」
って聞くとうちのおでこに手を当てた、

するとお父さんは、
「ちゃんと食事は摂れているのかな?ま~多少の熱はひいたようだが、まだ少しあるな、それを思って今日は注射をして
おこうかと用意して来たんだよ、その方が安心だろう、ねえカナ?」って言って笑ってた・・、

でもうちはお腹に赤ちゃんが居た時、血を抜かれた事を思い出してしまった、あの時に初めて注射をしたように思う、
でも怖かった、うちの記憶には恐怖しか残ってない、だからどうやってされてたのかそれさえも、もう覚えていない・・、
どうしよう・・、

「あの、お父さん?それってしなきゃ駄目なのかな?・・」って恐る恐る聞いて見た、

するとお父さんは、
「あ~しておいた方が治りも早いだろうからね~?何、カナは嫌なのか?」って聞いた、

どうしようって思ったけど、でもこれは正直に話して避けられるものなら避けたいって思った・・、
「お父さん?あたし初めてした時の事よく覚えてないけど、それって痛いんでしょう~?正直ちょっと嫌、かなっ・・」
って言ったらお父さんもヒデさんもクスクス笑い出した、

するとヒデさんが、
「何言ってるんだよ~、亜紀は点滴うった事あるだろう?」って言った「でもあれは?あたし寝てる間にされて、でも今は・・」

って言ったら、お父さんに、
「大丈夫だよカナ!痛かったら泣くといい、誰も見てないよ?お父さんは気にしなくても大丈夫だからね?・・」
って笑ってた、

「うそ~お父さん、そんなこと・・・」って言ってたら、お父さんはもう用意してて、うちはほんとに泣きたくなった・・、

お父さんの持つ針を見た瞬間に、顔を背けてしまったら、ヒデさんが、
「亜紀?泣いてもいいんだぞ?・・」って言った、(そんな事言われて、泣ける訳無いでしょ!意地悪・・)そう思ってたら、
何かが刺さって「痛い・・!」って叫んでしまった・・、

そしたらお父さんが、
「よし!終わったぞカナ?よく泣かなかったな~?えらいぞ?・・」って笑ってた、

「お父さん!あたしそんな子供じゃないの~」って、毛布を頭から素っ被りしたら、また二人は笑わいだしてた。

その後、お父さんは、
「カナ~?もうしばらくはおとなしく寝ているんだよ?また来るからね?それじゃ私はこれで帰るとしよう、又ねカナ?」
そう言うと帰り支度をはじめてヒデさんに「それじゃ・・」そう言って会釈をするうと、そのまま帰ってしまった・・。

何時になく忙しないお父さん、でもうちはありがとうも言えなかった、だから今度会う時はちゃんと言おうって思う、
今度はちゃんと・・。


それから十日が過ぎた頃には、すっかり熱も引いて身体も軽くなってた、でも、また来るって言ってたお父さんは、あの日以来
顔を見せなくなって、いつの間にかうちは窓の外を眺める度に、ついお父さんの姿を探したりしてた・・。

もう元気だって言ってもまだ店には出して貰えなくて、あれ以来お兄ちゃんにもお母さんにも会いに行けないまま過ごしてた、

でもそんな中、アンちゃんは朋子さんとよく出かける事が増えて今まで以上に仲良くなりだしてた、その所為なのか此処最近の
アンちゃんはうちの部屋へ来てはよく朋子さんの話しをしてくれる・・。

そんなアンちゃんが、今日もうちの部屋に顔を見せて、
「亜紀ちゃん?朋子さんが見舞いに来てくれたんだ、朋ちゃん?」

って声かけると朋子さんが顔を見せて・・、
「こんにちわ、亜紀さん?具合はどうですか?」って言うと可愛い花の束を差しだして「あの~これ、お見舞いにと思って・・」
そう言って手渡された、

「あっありがとう~?嬉しい~うわ~可愛いお花?ありがと朋子さん?ほんと嬉しい~」って言ったら、

アンちゃんが、
「それ、朋ちゃん自分で作ったらしいよ?じゃ~俺、店あるからさ?朋ちゃんゆうっくりしてってよ、ね?それじゃ・・」
って言うと、店へと降りて行った、

すると朋子さんは、
「あ~作ったと言っても私はちょっと手を加えただけだから恥ずかしいですけど、でも喜んでもらえて嬉しいです、
処で亜紀さん?お姉さん大変ですね?家に帰ってないみたいだし、お兄さん思わしくないんですか?亜紀さん心配でしょう?」
って言った、

その言葉にうちの鼓動が鳴り始めて胸が痛くなった「あっ、ねえ~それってほんとなの?いつから?ねっいつ~?」

って聞いたら朋子さんは、
「えっ亜紀さん、まだ病院には?お姉さんからは?えっだって姉妹なんですよね~?あっあれ?あたし余計な事、ごめんなさい、
私なんか気にさせてしまったようで、でも大丈夫だと思いますよ?何か有れば知らせてきますから、ねえ亜紀さん?」

うちは頭の中が真っ白になって一目散に店に駆け降りて誰にともなく声を張り上げた
「ごめんなさい、あたし出かけてきます・・」って、それだけを言って病院へと走った・・、

お兄ちゃん行けなくてごめんね、何度も心の中、繰り返した、そしたら行く途中から息苦しくなって道端に倒れ込んだ、
それでもお兄ちゃんがってそう思ったら必死に深呼吸を繰り返してうちは歩き出した、

でもやっと病院が見えてきた時は気が遠くなって、何処だかわからない道を歩いてた、此処何処だろうって思いながら、
それでも早くお兄ちゃんのとこ行かなくちゃって早足になった、
そしたら誰かが、必死にうちを呼んで、でもうちはお兄ちゃんの処に行かなきゃって、無視して歩いた、
その時、突然人の姿がうちの目の前に現れて、驚きで顔をあげたら、目の前にヒデさんと朋子さんが、うちの顔を覗き込んでた、

するとヒデさんが、
「好かった、大丈夫か~?さあ帰ろう~なあ亜紀?お兄さんの事はお父さんが診てる、心配ないよ、だから帰ろう~?」
って言った、

そして朋子さんは、
「亜紀さんごめんなさい、あたしが余計な事言った所為で、でも亜紀さん?あたしが確かめてきます、だから帰りましょう?
ねえ?亜紀さん、お願いです」って言った、

でも気持ちは揺れてた、じっと待って居られる自信もなくて・・、
「あたしが行っちゃ駄目なの?お姉さんきっと辛いって思う、独りできっと、ねえ?だから行かせて?お願いよ、ね~?」

って言ったらヒデさんが、
「亜紀~?今こんなんで行って本当に幸恵さんの支えになれるのか~?亜紀の気持ちは分かるよ、だけどな~この状態で・・、
かえって負担掛けると思わないか~?な~亜紀?今は朋子さんにお願いしょう~?それからでもいいだろ~?な?」
って言った、


今のうちは負担になる・・、そうなのかもしれない、いつも助けられて、なにが出来る・・、こんなうちがお姉さんの為だなんて、
何をうちは舞い上がってるの、ただ、うちは独りよがりしてただけ、そう自分に問いただしたら、情けない自分に涙が溢れた・・、

「すみません、それじゃお願いしますね朋子さん?あたし帰ります、すみませんでした・・」
って笑顔を作って、うちは朋子さんに頭を下げて帰り道を歩き始めた、何も考えたくなくて、ただ店までを無心に歩いた、
そしたらまた涙が溢れだして、でも拭い去る事も泣き顔を隠す事も、うちはもう忘れてた、

店に辿りついたら、アンちゃんに
「亜紀ちゃん?」って声をかけられた、「ごめん疲れたの、だからちょっと休むね?ごめんね・・」て言って部屋へと戻った・・、
それから部屋に着いたその場で、疲れて横になったら、自然と瞼が落ちて眠ってた・・。

それから不意に目が覚めて、気づくと何時の間にか、うちには毛布が掛けられてた・・、
窓から行きかう人達を眺めてたらお兄ちゃんの事が頭に浮かんで、何も無ければいい、そう思いながら大丈夫っだって必死に
自分に言い聞かせた・・、

そんな時、店の方から騒がしい声が聞こえてきて、うちは店へと下りてみた、何気なく店の中を覗いてみると、朋子さんが来てて、
三人が何か話ししてた・・、

その時、朋子さんが
「亜紀さん大丈夫ですか~?あたしの所為でほんとにすみません?この事は亜紀さんには?・・」

って言ったら、ヒデさんは
「そう気にしくていいよ、朋ちゃんの所為じゃないさ、亜紀は今寝てるから後で俺から話すよ、ありがとな?好かったら今日は、
泊ってってくれよ、な?もう遅いからさ、そうしてくれ?」って言った、

何の話しなのかよく分からないけど、でも顔を出せずにそのまま部屋へと戻って、想い巡らせながら壁を背に坐り込んだ、
でも時間は進むだけで、うちの想いは中々先に進まない、そんな時、誰かが部屋に入って来たと思ったら部屋の明かりが点いた、

うちが眩しさに顔をそ向けたら、その時「亜紀~?」ってヒデさんが声をかけてきてうちの隣に並んで腰を下ろした、
でもヒデさんは何も話す事も無くて、ただ坐ってた・・・、

そんなヒデさんは、うちを不安にかきたてて、言いたくても言えずに、ただそこに居るように思えて悲しくなった・・、
そしたら涙が零れて、うちは膝に顔を埋めた、

そんなうちにヒデさんは、うちの髪を撫でて・・、
「亜紀~?お兄さん、病状が急変したみたいで治療室に入っているそうだ、幸恵さんも付きっきりで看護にあたってるそうだ、
なあ~亜紀?俺の判断は亜紀を苦しめてるのかな?今俺は亜紀に、何も言葉が見つからないんだ、情けないけど、ごめんな?」
って言った、

「あたし、またヒデさん苦しめてるよね?謝るのはあたしなのに・・、ごめんなさい・・」って言ったら、

ヒデさんはうちを抱きしめて
「いいんだ、いいんだよ亜紀、亜紀が悪いんじゃない・・」・・その言葉にうちはまた泣いてた・・、

するとヒデさんが顔を覗かせて、
「亜紀~?明日、お兄さんに会いに行こう~な?一緒にさ?・・」って言われて、うちが頷くと、またうちを抱きしめた・・。



翌朝、ヒデさんんと病院へと向かった・・、
夕べヒデさんは言ってた、
「亜紀~?こんな事言うのは、今の亜紀には酷かもしれないんだけど、亜紀~?万一の覚悟はしておいてほしいんだ、
でもけして希望を捨たわけでも諦めたから言う訳でもないからな?俺だって・・、けどさ~何時かは受け入れなきゃいけない
のかなってな、だから、頼む、なあ亜紀?」
そう言ってヒデさんはうちの肩に顔を埋めてた、その言葉に、ヒデさんの苦しみが見えたように思えた、だからうちは頷いた。

ヒデさんの気持ちは、分かってる筈だった、ただうちがが受け入れてなかっただけ、でもその所為でこんなにヒデさん苦しめて、
情けないのはうちの方、独りの世界にもがいて、いつだって落ち込んで、周りに迷惑掛けてる、
そんなうちにヒデさんはいつだって教えてくれてる、いつも傍で励ましてくれてる、気づかせてくれる、
だからもう、悲しませたりしないように前向いてなきゃ立ち止まったりしないように、ちゃんと現実受け止めなきゃって、
そう自分の心に言い聞かせた・・。

今うちはヒデさんと一緒にお兄ちゃんの居る病院へと歩きだしてる、今朝は何も言葉にできないまま笑顔で挨拶交わしただけ、
それでもヒデさんの想いはいつもうちの傍にあるってそう思えるから、だからもう大丈夫、そう思える。

そしてお兄ちゃんの病室へ行って見た、でも、まだ治療室に居たお兄ちゃんには酸素マスクが施されてた、
そんな中、幸恵さんの姿が見えなくて、ヒデさんと病室で待つ事にして待ってた、そして一時間が過ぎた頃に、幸恵さんが
やっと病室に顔を見せた・・、

すると幸恵さんは、
「あら、カナさん、ヒデさん、来てくださったんですね?カナさん?ごめんなさいね、慎さんのこと・・・」
そう言って幸恵さんは言葉を詰まらせた、辛い、それが痛いほど伝わってくる、

「お姉さん?あたしのことは気にしなくてもいいんです、ごめんなさい来れなくて、それでお兄ちゃんは、今・・」

って言ったら、幸恵さんは、
「いいのよカナさん?それより身体の具合はもういいのかしら?大事にしてくださいね?慎さんはもう時間の問題かも
しれない・・、でも覚悟はしていたわ、いつかこんな時が来る事、だからね、カナさん?貴方もそのつもりで・・、ね?」
言って幸恵さんは涙を零した・・、

ずっと一緒に居られる、ずっと傍に寄り添っていけるって積み重ねてきた幸恵さんの想いも、やっと繋ぎ合えた手もこのまま
諦めるなんてそんなのうちにはまだ、出来そうにない・・、
いつもお兄ちゃんが眺めてみてた窓・・、その窓から見えた空は真っ青に広がってた、何時になく雲ひとつない空・・、
うちは願った(お願いお兄ちゃんを助けて、お母さん・・)


そんな時、お父さんが顔を見せて・・、
「失礼しますよ~?おおカナ、もう大丈夫なのか?すまないね行けなくて、ヒデさん・・」

って笑みを見せると、幸恵さんに向き直って、
「なんとか今落ち着いてきたんで、今部屋へ戻す準備を終えた処です、幸恵さん?もう移しても構わないかな?」聞いた、

すると幸恵さんは「あ、はい、宜しくお願いします・・」って言うと頭をさげた、
するとその言葉に応えるようにお父さんもまた、軽く会釈をして、ベッドを運び入れはじめた、

その間をうちはヒデさんと待合室で待つ事になって、移り終えた頃にやっと病室へと入った、
でもお兄ちゃんから酸素マスクが外されることは無い・・、そんなに長い間会わなかった訳でもないのに随分と会ってなかった
かのように思えるほどやつれてしまったように思う、そんなお兄ちゃんを見ているだけでうちは胸が苦しくなった、

「お兄ちゃん~?」って駆け寄ったら、その時お兄ちゃんが目を覚ました、
何処か遠くを見ているようなお兄ちゃんの眼は虚ろで、今にも閉じてしまいそうな眼をして・・、

すると幸恵さんが
「慎さん~?」って声をかけてお兄ちゃんの手を握り締めた、するとお兄ちゃんの手が微かに動いた・・、
幸恵さんは、
「慎さん~?分かりますか~?慎さん、カナさんも居ますよ?・・」って声をかけた、

するとお兄ちゃんが「すまない・・幸・・カナ・・」って言うとまた目を閉じてしまった、
幸恵さんは「慎さん~?」そういい手を握り締めて涙を零した・・、

うちには何も言えなかった、繋ぐ手がうちには見つからなくて、繋いでいたいお兄ちゃんの手は幸恵さんのものだって思えた、
だからうちはお兄ちゃんの傍を離れた、そしたらヒデさんがうちの肩を引き寄せて抱きしめてくれた、

ヒデさんの想いを感じた、だからヒデさんに胸に顔を埋めた、そしたら涙が溢れだして、また泣いてるって思った、でももう
止められなかった、そしてどれくらいの時間が流れたんだろう、幸恵さんはお兄ちゃんの手を握り締めたままそこに佇んでた、

そんな時幸恵さんが突然、「慎さん?」って呟いたら・・、お父さんが、言った・・・、

「すまない、幸恵さん・・」そう言って頭を下げた、その一言は、お兄ちゃんの終わりを告げてた・・・。

幸恵さんはお兄ちゃんにしがみつくようにして坐り込んでしまった、
でもうちは、何も言えなかった、ただ幸恵さんの悲しみが痛みが伝わってくる、どんな淡い期待でも生きててほしいって願って、
どれだけの望みも希望も捨てずに耐えて来たんだろ・・、お兄ちゃんの手、ずっと繋いでいたかった・・。
辛くて、悲しくて堪えきれずにうちは幸恵さんを抱きしめた、

すると幸恵さんが、ふいに顔を上げて、
「・・カナさんありがとう?私は大丈夫よ、ねえ?慎さんの顔、見てあげて?寝てるようよ、あの苦しんでいた顔が嘘のように、
ねえ~ほら?今にも起き出してくれるようでしょう~?・・」って言って笑って見せた、

「お姉さん~、あたし・・」って言いかけた時、幸恵さんはうちの手を握り締めて、
「カナさん?一緒に慎さんの手、握ってあげましょう~?慎さんね~?貴方と手を繋いで歩きたいって言ってらしたのよ~?
だから・ね~カナさん?」
そう言ってくれた幸恵さんの目から涙が零れおちて、うちはなにも言葉に出来なくて、ただ幸恵さんの手を握り締めた・・、

それから幸恵さんとお兄ちゃんの手を握り締めて、ふたり眼があったら笑みが零れてた・・、
こんなにもまじかにお兄ちゃんの顔を見る事は無かったような気がした、やっと優しい笑顔見せてくれたのに・・、
お兄ちゃんの手はもう、うちの手を握ってはくれない、これは現実なんだって、嫌で知ってしまったらうちはまた泣いてた・。

そしたら幸恵さんがうちを抱きしめて「お姉さん~?」って言ったら、幸恵さんが「カナさん?泣いていいのよ~?」
って言われてその言葉に想いが溢れだしたら耐えきれなくて幸恵さんに抱きついて泣いてた・・。


その後、お兄ちゃんは幸恵さんのアパートへと移されて、夜も更け出してきた頃には、ヒデさんは店へと独り帰った・・
でもそれは幸恵さんを独りに出来なかったうちの我がままの所為、それはうちがお兄ちゃんの傍を離れる気にはなれないだけ、

部屋の一室にお兄ちゃんの遺体が横たわって、その傍で幸恵さんは、壁に寄りかけたままそこに佇んでた、

そんな時幸恵さんが、
「カナさん~?今日はありがとう?ほんとに貴方に出会えて好かった、慎さんが言ってたわ?カナは不思議な子だって・・、
でもね~?私は言ってる事の意味なんて考えてもいなかったの、でも、貴方と知り合えてその意味がよく分かったわ、
カナさん?慎さんはもう、いなくなってしまったけれど、でもずっとわたしの妹で居てくださる?貴方のお姉さんでいても
いいかしら、ごめんなさい急にこんなこと・・、
私は一人っ子で兄弟なんて知らずに育ってきたの、でも慎さんに出会えて、貴方に引き合わせてもらって、私は凄く幸せなの、
私ね~?このまま実家へ帰ろうと思うの、でも慎さんのお墓は慎さんの故郷に立てるつもりでいるのよ?
慎さんと暮らしてた家は、もう売る事にするわ~、未練が残りますもの・・、でもカナさん?私はこのまま貴方とお別れだなんて
したくないの、こんな事言うのは私の我がままかもしれないわね~、でもずっと姉妹で居てもらえたらって私、貴方の事
大好きなのよ~、駄目かしらね?・・」って言った・・、

少し長すぎる幸恵さんのお話は、嬉しさが少し覚めてしまいそうなそんな気になってしまうのはうちだけなのかなって思って
しまった、それでもうちは嬉しい、お兄ちゃんが引き合わせてくれた、でもそれはうちの為じゃないって分かってる、
けどお兄ちゃんと繋いだ想いが、うちに幸恵さんを繋げてくれたって思うから・・・、

「あたしの方こそ、凄く嬉しいです、こんなあたしでも妹って想ってくれるなんて、そう思うとお兄ちゃんに感謝しなきゃ
いけないですね?お兄ちゃんが、引き合わせてくれたんだもんね、ありがとう~お姉さん?・・」
って言ってたら、何故だろ涙が出てきて、うちは慌てて拭いた・・、

そしたら幸恵さんが、
「カナさん?ありがとう嬉しいわ?貴方は素敵な女性よ?保証するわ、自信持って?ヒデさんが惚れるのも分かるわね~?」
って笑顔になってた・・、

恥ずかしいのに、何処か調子が狂っちゃって、でもうちは頷くしかできなかった、
お兄ちゃんのお通夜の夜なのに、なぜか幸恵さんは笑顔が絶えなくてその所為か幸恵さんの話は、夜通し続いて、気づいたら
お通夜の夜をお兄ちゃんに別れの話しも出来ないまま朝を迎えてた・・、

でもそんな幸恵さんをみている内に、見えてきたように思う幸恵さんの寂しさが、お兄ちゃんを失った寂しさも孤独も全部を
癒したい想いの先が、それは幸恵さんの拭えない心に空いた埋められない想いがそうさせてるのかもしれないって、そう思えた、

幸恵さんは話し尽くしたら疲れたのか、気づかれなのか、それは分からないけど、壁に寄りかかったまま眠ってしまってた、
何故かその体制がかわいそうに思えて、うちが寝やすいように変えてあげたら、幸恵さんはニッコリ笑うとまた寝てしまった、

何故かその笑う寝顔を見ていたら、今夢の中で、どんな夢を似てるのかなってちょっと想像して見た、
もしかするとお兄ちゃんの夢かもしれない、そう思えたら、ついうちまで笑みが零れて、(お姉さん?いい夢見てね?おやすみ)
って小さな声で声をかけた、

その後お兄ちゃんの傍に坐って顔を覗いて見たらほんとにただ眠っているかのように思えて話しかけてみたくなった・・、
(お兄ちゃん~?もう眼を開けてくれないの?もう笑ってくれないの?もっといっぱい話したい事あったのに、お兄ちゃん~)
ってうちはまた泣いてた、もう帰って来ないって思うと涙が止まらなくてお兄ちゃんの手握ってみた、未だほんの少し温もりが
残ってるように思える、そしたらもう堪えきれそうなくて眼を逸らしてうちは、外へ出てた、


店の前のようには、あまり居心地がいいとは言えない気がしたけど、でも見晴らしはそれなりにいいのかなって思う
こうして居ると、ただの悪い夢のように思えて、ほんとに夢だったら、叶うなら夢であってほしいって思う・・、
空を仰いで見たら、雲が細い線を引き連ねて、まるで雲で描いた虹のようにも見えた・・。


親族なんていないからほんとに顔見知りと身内だけ、最後に幸恵さんはお兄ちゃんの遺骨を抱いて、うちの前に来た・・、

「カナさん?色々世話になったわ、ほんとありがとう?私はさよならは言わないわよ?妹ですものね?これからは
カナちゃんって呼ばせて貰うわね~?ほんとありがとうカナちゃん?・・」って言うと幸恵さんは泣いてた・・、

「幸恵姉さん?あたしこそ、いっぱいありがとう~?」

って言ったら幸恵さんは、
「カナちゃん?いっぱいはいらないわよ?だからお愛子にしましょ~、ね?」って笑顔を見せた、うちは嬉しくて、「はい!」
って言ったらみんなが笑ってた・・・。

こんな葬儀ってほんとにいいのかな、複雑に思えてきたらうちは考えるのを辞めた・・・。
(お兄ちゃん~ごめんね~?でもみんなの笑顔、お兄ちゃん、寂しい思いしなくてすむからいいよね?だから許してくれるね?
お兄ちゃん~ずっと、ずっと大好きだよ~!今までありがと~お兄ちゃん~!)・・・。

時の足跡 ~second story~21章~24章

時の足跡 ~second story~21章~24章

  • 小説
  • 中編
  • 青春
  • 恋愛
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2012-08-12

Copyrighted
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  1. Ⅱ 二十一章~終止符~
  2. Ⅱ 二十二章~再来~
  3. Ⅱ 二十三章~想いの先に~
  4. Ⅱ 二十四章~別れ~