砂漠の旅 24

彼は夢を見た。

彼は変わらず汗をぽたぽたたらして小型のリアカーを傾けて引いていた。何も変わらない砂漠の景色の中だった。ひたすら歩を進める事だけに集中することは苦ではなかった。

遠くに町が見えた。まだ町までは遠いはずだった。彼は(蜃気楼だ)と思った。

日が傾いてきた。彼はひたすらに歩いた。
砂漠は礫がさらに多い、ごつごつした感じの場所になった。知らぬ間に道の片側に斜面が迫っていた。ガラガラと小型リアカーを引いたが進みにくかった。彼は立ち止まり、大きな車輪のタイヤの空気を少し抜いた。その方が歩きやすいと思った。それから少し休憩した。(風が冷たい)と思った。斜面側からゆるゆる霧が下りてきた。粒子になった水分がとても心地よかった。
(そういえば、死って空間のなかで黒がちぎれ、よどんで流砂が起きるみたいだけど、霧は白、だな。)彼はなんとなく思った。
彼は夢の中にいる。

(いいや。もう少し歩こう。)彼は思った。

夕闇がせまるなか、霧の中をだいぶ歩いた。汗で風が肌寒くなってきた。

いつ歩くのをやめようか、と思案していた。霧は変わらず流れ、疲労はあるものの脂質は今までと変わらず体をめぐっていた。
道を進んでいるうちに家がぽつぽつと見え、やがて町にについた。あまりに唐突で、彼は驚いた。地図に載っていない町だった。不思議なこともあるんだな、と思った。霧が変わらずに覆い、周りをはっきりとは見れなかったが、灰色の土で作ったのっぺりとした壁ののっぽな家がちらほらとみえ、小さな真四角の窓からは明かりが見えた。彼は安心した。地図にあろうがなかろうが町は町だ。久しぶりにやわらかな場所で眠れるかもしれない、と思った。荷物を端に置き、彼は泊まれる家を探した。少ないお金しかもっていなかったが、そもそもお金を使う機会がそこまでなかったので、宿泊費についてこだわらなかった。疲労した中人としゃべることは多くの気力を要した。多くの人たちは夕暮れの唐突な得体のしれない旅人であるにも関わらず穏やかに彼に接してくれた。何件か周り、なんとか彼は宿を確保できた。

その宿は小さくのっぽな四角柱のような形の家で3階建てになっていた。この町の多くの家がそのような形だった。彼の泊まることになった家を、宿主は普段利用していないらしかった。しかし管理は行き届き、綺麗な家だった。天井が比較的低く、階ごとに小さな窓がついてあった。一階には裏に直接行ける開き心地の軽い扉があり、奥の小さな庭につながっていた。庭には炊事のための火を焚く窯があった。隣には小さな井戸があった。庭で何か動物も飼っていたようで、小さな長細い小屋が奥に見えた。
一階はごつっとした大きめの石を積んで作られた暖炉が据えられていた。暖炉の横には小さな随分使い込まれた腰掛けがあった。中央には質素だが作りのしっかりした、堅い木材で作られたテーブルと、背もたれの長い細身の椅子が二つ用意されていた。窓際に小さな調理の出来る場所があり、てんでばらばらの形や色の入れ物に入れられた調味料らしきものが棚に並べられていた。その棚の横には細長い、ガラスの扉の付いた明るい茶色の木製の戸棚があり、朴訥な様々な原色の、しっかりした厚い陶器の茶碗やらが沢山あった。二階は寝室になっており、暗さの中で穏やかに発酵を重ねて行きついた美しい重さをまとったような、不思議ないい香りがした。ベッド一式は深い青色で統一されていた。

外に出て、家の裏庭の壁沿いの影に荷物を置いた。非常に疲れていたがとりあえず井戸のそばで体を洗った。外の空気が寒いくらいだったので彼は手早く着替えた。最低限必要なものを大量の荷物から取り出し、腰袋に入れて手で持ちながら扉から家に入り、2階に上がり、ベットのそばの床に袋をことり、と置き、そのまま疲れた体を脱力させてベットに横たえた。ふっかふかだった。ふわふわの掛布団に包まった。
(ああ、しあわせだあ)彼はつくづく思った。
深く掛布団に包まり、ほどなく彼は寝息を立てた。、霧は晴れていた。昇りだしてほどなくした月の光が窓に切り取られ壁を照らし、彼の布団に包まった横顔がぼんやりと見えた。彼は休んだ。

砂漠の旅 24

砂漠の旅 24

  • 小説
  • 掌編
  • ホラー
  • 青年向け
更新日
登録日
2017-06-23

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