ダンスホールパフェ

-

ㅤいいえ、決してあぶないことはしません。不純な交わりも起こらないように、当番ががんばりますので。はい、由来ですか?ㅤダンスホールはそのままの意味で、パフェは提供するので、はい。大丈夫です。みんな検便もしますから。

ㅤほとんどのクラスが、学園祭で展示をする。その中で下野のクラスは学校中で話題になっている。下野はオセロクラブの後輩で、初対面の時にぼくは、どうしてこんなリア充がオセロに、と思った。
ㅤ昨年はコーヒーカップ、あのくるくる回るヤツ、を作ったクラスや、水中迷路を作ったクラスがあった。今度の変わり種は「ダンスホールパフェ」というらしい。

ㅤA講堂のすみっこでぼくは、一人さみしく、下野が来るのを待っていた。配られるはずのパフェではなく、みかんジュースを片手に、今だけはダンスホールと化した講堂の真ん中で踊る人たちを見ながら。いわゆるパリピという海外の人たちが聞いていそうな音楽がボンボンなっている。
ㅤ派手なミラーボールが、ぼくの目には眩しかった。
「すみません」
ㅤおろしていた視線を少しあげると、そこには迷彩柄のワンピースを着た猫がたっていた。当然のようにタブレットを二本の手でしっかりともち、二本足で立ち。
「私、スズキトーコっていいます。あの、これから少しお話よろしいですか?」
ㅤぼくは話すことは得意ではないけれど、断る方が苦手なので、大丈夫ですよ、と伝えた。
「いくつ側頭窓のなごりをお持ちですか?」
ㅤスズキさんは少し照れくさそうに、丸い手で耳の横らへんを撫でながら言った。
「二つのはずです」
ㅤぼくは奇妙な質問だなぁと思った。それに、ネコにダンスホールで話しかけられるとは、一分たりとも思いもしなかった。たまに公園であって話すことはあっても、こんなに人が多いところで話すことは今まで一度もなかった。
「結婚のことはどのようにお考えですか?」
ㅤ言葉につまったぼくを察したのか、スズキさんはタブレットから顔を上げて優しく言った。
「パスもありですよ」
「すみません……自由がいいと思います」
ㅤぼくはなり続けるダンスミュージックにつま先を揺らしながら、スズキさんがチェックをいれるのをみていた。
「好きな人はいらっしゃいますか?」
「いません」
ㅤなるほどねぇ、といいながらまたスズキさんはチェックをつけていった。
「最後に、一番好きな食べ物を教えてください」
ㅤぼくはダンスホールの遠くを眺めながら、何が一番かと考えた。少なくとも魚ではないのは確かだ。
ㅤ奥の方をぼーっとみていると、パフェを運んでいる下野がみえた。銀の冷たそうなワゴンに沢山カップが並んでいる。
「お知り合いですか?ㅤ私、あの方にもアンケートにいきましたよ」
ㅤスズキさんはぼくと同じほうに視線を向けていった。こちらに向き直ったスズキさんと目が合うと
「あ!ㅤ個人情報ですから何もお教えできませんよ!」
とスズキさんは慌てた。
「ぼく、何も言ってませんけど」
「なにか知りたいことがある時は、素直に聞くのが一番ですから」
ㅤアンケートは終わりです、と言いスズキさんはにんまりと笑った。そして手際よくタブレットを背負って、四本足で駆けていった。そしてぼくの用意した答えは行き場を失った。
ㅤまた、みかんジュースを飲みながら床に映る星や丸の動くを眺めていると、しばらくして下野が現れた。
「すみません、先輩」
ㅤパフェ切れちゃってたみたいで、少し手伝ってきました、と続けて、下野は額をハンカチでおさえた。紺色の、学生が持つのに丁度いいヤツだった。
ㅤパフェの赤いさくらんぼを口に運びながら下野は
「楽しめてますか?」
と言った。全然、と伝えると
「そんな感じします」
と下野は生クリームをスプーンですくいながら真顔でいった。それからあむん、と口に含んだ。ぼくはカッターシャツの襟でハタハタと仰ぎながら、終始それをみていた。
「残りあげます、食べてください。ぼくフレーク苦手なんで」
ㅤそういって下野はぼくに食べかけのパフェを手渡し、人混みの中へ消えていった。カップの中にはフレークなど一欠片もなかった。 スプーンのささった残りの安っぽいバニラアイスに少し困りながらも、透明ピンクのヒラヒラカップごしにアイスの熱を感じていた。

ダンスホールパフェ

ダンスホールパフェ

  • 小説
  • 掌編
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2017-06-22

Copyrighted
著作権法内での利用のみを許可します。

Copyrighted