恋を知らない君へ

恋を知らない君へ

ふうり

プロローグ

「あの手紙、届いたかな」
っと、俺は不安げにつぶやいた。
「届いたでしょ」
「届いてなかったら、泣くんじゃない?」
っと、後ろにいた茶色い髪の青年と赤い髪の青年が適当にまぜっ返す。
「そんな、どっかの誰かさんじゃないんだから」
と、無理矢理笑った。
「あー、そうね、どっかの誰かさんみたいに簡単に泣くやつじゃないよね」
「まって、俺のこと?」
っと、茶髪の少年が不思議そうに聞いてきた。
思わずお前以外に誰がいるっと二人で突っ込むと、酷くない?っと困り顔で言ってきた。
「酷くはない」
と、赤い髪の少年にきっぱりと言われてしまい、しょぼくれている。
そんな二人を微笑ましく思いながら空を見上げた。
ちゃんと見ててよ、成亮、絶対幸せになるから。
そう、心の中の彼に呼びかけると、それに応えるように風が吹いた。

1

「手越、この点数はなんだ」
っと、社会科のゴツイ先生に睨まれた。
「はぁ、なんだと言われましても……」
っとしどろもどろに答えると、先生は溜息をついた。
「全く、サッカー一筋はいいけど、現代社会も勉強しなさい。そもそもだな……」
と、クソ長いお説教が始まった。冷房の効いた涼しい部屋ーー職員室だからいいものの、サバンナの様に暑い教室だったらブチ切れているところだった。しかも、この教師見た目が暑苦しいから余計暑く感じただろう。
内心イライラしながらも一応、ちゃんと聞いてますよ感を演出した。
「ってなわけで、再試験受かるまで、部活禁止だ」
「はい、ってえぇ!」
っと目を丸くして驚く俺にまた溜息をついた。
「当然だろ、サッカー部のエースとは言え学生なんだから勉強できゃ意味がないだろ」
と正論を言われてしまった。
「まぁ、そうですけど、明日大会が……」
「あぁ、それなら、顧問に伝えておくよ、安心したまえ」
内心、畜生と思いながらも、了解の意を示した。
「受かればいいんだからな?話は以上だ、帰っていいぞ」
「失礼しました……」
っと沈んだ気分で職員室をでた。
校庭をみると野球部や陸上部が練習をしていた。
「はぁ、いいなぁ……」
「お前が点数悪いからだろ」
っと後ろから低めで温かみがある声がして振り返った。
すると、そこには、髪を赤く染めた、俺より少し背の高い少年がいた。
「まっすー……」
「ま、せいぜい頑張れよ、俺は現社教えらんないから」
と、彼ーー増田貴久は可愛らしい笑顔を浮かべた。
「ってか、そもそもまっすー勉強嫌いじゃん」
「そ、そんなことないし、手越より出来るし」
と、反論された。しかも、正論なので全く反論できなかった。
少しむくれていると
「あれ?手越にまっすーじゃん」
と、背後から声がし、振り返った。
すると、茶髪で長身の少年がこちらに向かって歩いてきた。
「慶ちゃん」
「慶ちゃんじゃなくて小山先輩な?」
「別にいいじゃん」
「そーだよ」
と、反論すると、よくはないけど……と茶髪の少年ーー小山慶一郎はぼやいた。
「そう言えば、なんで二人して、ここにいるの?また、頭髪?」
「「なんでだよ」」
「あら、違うの?」
「違うわボケェ」
「なんでこいつと…」
と、ぼやくと、仲良いねぇ、苦笑いされた。
「んじゃ、あれか、二人してテストの点悪かったとか?」
「だから、こいつとセットするな!」
と、まっすーが若干ピントのずれたツッコミをした。
「ってことは、手越か」
と、まっすーのツッコミをスルーした。まっすーは不満気だがいつもの事なので気にしなかった。
「そーだよ、現社なんかわかるか!」
「じゃあ、放課後図書室おいで?教えてあげるから」
と、笑いながら言った。
「わかった」
と、素直に頷いた。慶ちゃんは頭がよかったし、何より部活に行きたかったからだ。
予鈴が鳴ったーー
俺達はそれぞれの教室に戻ることにした。
ーー向日葵の匂いと共に運ばれ過ぎ去ることとなる幸せに気づかずにーー

2

放課後ーー
俺は鞄に荷物を詰めて涼しい教室をでて目的地に向かった。ただひたすら蒸し暑い廊下を歩き、階段を降った。一番下の階に着くとさらに蒸し暑く正直、溶けそうだった。誰そうなのを我慢して、廊下を歩くこと数分。
目的地の部屋のドアの前に着いた。ドアを開けて中に入ると涼しい風が吹いていた。あたりを見回すと一面に並んだ本が目に入った。
そう、ここは図書室だった。
本棚を通り過ぎ、奥へ向かうと、テーブルと椅子が置いてあった。
どこに座ろうかと考えていると、肩を叩かれ、振り返った。すると、そこには、慶ちゃん、もとい、小山先輩がいた。
「早かったね」
「まぁね、ね、早く教えてよーー」
と、せがむと、慶ちゃんは微笑みながら近くの椅子に座るよう言った。俺は素直に座り筆箱と教科書、ノートを鞄から取り出した。
「じゃあ、始めるよ?」
そう言いながら彼は席に着いた。
「お願いします、小山先輩」
そう言って、俺の再試験対策勉強を開始したが、十数分後ーー
「あー、わかんね!」
と、理解不能なあまり、机に突っ伏した。
「始めてそんな経ってないよ?」
「わかんないもんはわかんない!」
と、駄々をこねると慶ちゃんは困ったような顔をした。
「ま、小山の説明はわかりにくいからね」
と、少ししゃがれた声がして、顔を上げると、一瞬、時が止まったような気がした。
雪のように白い肌、ぱっちりとした二重、そして、何より目を引くのが艶やかな黒髪ーー
あぁ、これが一目惚れって奴なのかと思った。
「しげちゃん、酷い」
「酷くないよ、本当のことじゃん」
と、しげちゃんと呼ばれた男が反論した。
「あと、後半の前でしげちゃんはやめろ」
「わかったよ、とりあえず自己紹介とすわったら?」
と、促され、黒髪の少年は慶ちゃんの隣に座った。
「初めまして、加藤成亮です」
と、面倒くさそうに言いった。
「は、初めまして、手越祐也です」
「そんな、緊張すんなよ」
と、黒髪の少年ーー加藤成亮先輩は笑った。「え、あ、はい」
「ってか、現社、教えてあげる」
「いいんですか?」
っと聞くと、成亮先輩は頷いた。
「じゃあ、お願いします!」
「おっけ、じゃあ、小山さん帰っていいよ」
「待って、俺邪魔?」
と、言いながら席を立った。不意に、成亮先輩に何か耳打ちしたが、成亮先輩は大丈夫だよ、と笑いかけていた。慶ちゃんがわかったよと言うように頷きその場をさった。
「さて、どこがわからないのか教えて?」
と、成亮先輩が優しく声をかけてきた。俺はドキドキしながら「全部」と言った。
先輩は驚いたような表情を浮かべた。
「おう、じゃあ、最初からやるか」
っと言って根気よく教えてくれた。

ただ、時間が足りなくて、毎日先輩の所に通って、合格したご褒美に向日葵畑に行く約束をしたのは二人だけの秘密。

3

8月の上旬。空は憎いくらいに真っ青に晴れていた。ジメジメと暑いバス停に俺と成亮先輩はいた。ここは木陰がなく暑いのに隣に好きな人がいるから余計に暑く感じた。
「あつくないんですか?その格好」
と、突っ込んだ。Tシャツにジーンズの俺と違い、成亮先輩はTシャツの上に青い長袖の上着のようなものを羽織っていた。いや、似合ってるし、かっこいいのだ。かっこいいのだが暑苦しく感じた。
「ん、あんまり暑くないよ?」
と、答える先輩の額には汗が一筋もなかった。
すごいなぁと感心しながら、バスにのり目的地近くのバス停で降りた。
暑さのせいか成亮先輩は黙って黙々と目的地まで歩いて行った。
なんか話さなきゃと思い口を開こうとした時だった。
「今から行く向日葵畑綺麗なんだよね」
と、成亮先輩は微笑んだ。
「そうなんですか?」
「そう、結構オススメでね」
なるほど、とか言いながら歩いて行くと、目的地に着いた。
「わぁ……」
と、小さい子供のような声を上げた。
「な?綺麗だろ?」
「はい、めっちゃ綺麗です」
と、満面の笑みを見せると成亮先輩は満足そうに頷き向日葵を見つめていた。
その横顔があまりにも美しくて、向日葵の色が褪せてしまっていた。
先輩の横顔を見つめていると、先輩が口を開いた。
「男同士で気持ち悪いかも知れないけど本気で祐也のことが好きだ」
「ふぇ?」
いきなりの事でびっくりして変な声が出た。それを見て彼は慌てたように、
「わ、忘れてくれ」
「嫌です、俺も好き、だから」
と、俯きながら言うと成亮先輩の匂いに包まれた。
「じゃあ、俺の恋人に、なってくれますか」
「はい」
と、答えながら顔を上げると、成亮の顔が近づき、お互いに目を閉じると、唇に柔らかくて暖かい感触がした。顔が離れると、顔が凄く熱い。ふと、成亮の顔を見ると真っ赤だった。
「なんか、はずい……」
「だね……」
と、二人で照れあった。

いつまでも僕らの未来は続いてくと思ってた。この時まではーー

4

「しげが入院?」
そのニュースは教室の蒸し暑さをも吹き飛ばした。
「らしいよ?」
と、まっすーが言った。
「嘘だろ……いつからだよ……」
「昨日、家で倒れて救急車に運ばれたらしいよ、俺をも今日聞いたからびっくりしてるけど」
と、寂しげに顔を伏せた。
「え、無事なの?」
「さぁ……、だから、今日、小山とお見舞い行こうって話朝しててさ、手越も行く?」
「あたり前!」
と、机を叩きながら立ち上がると、クラス中の視線が俺に集まり恥ずかしくなって座った。
「と、とりあえず、放課後、ついてく」
「お、おう」
と、若干気まずい空気の中授業を受け、放課後になった。
俺は顧問に休むと言って、まっすーと慶ちゃんと合流した。
学校の前のバス停からバスに乗った。その間、いつもはうるさい俺らが一切喋らなかった。
目的地近くのバス停で降り、大きい建物の中に入った。独特の消毒くさい臭いに耐えながら、 真っ白な廊下を歩いた。
しばらく歩くと、目的の部屋の前に着いた。
ドアをノックすると、ながらから了解の意が聞こえ、ドアを開けた。
「よっ、しげ」
と、慶ちゃんがこの部屋の主ーー成亮に声をかけた。
「よっ、わざわざ悪いな」
と、ベットから体を起こした。
俺はたまらなくなり成亮に勢いよく抱きついた。
「おいおい……、しげが死んじゃうぞ……」
と、まっすーが明らか引いてるトーンで言った。
「あーー、一応大丈夫……」
と、まっすーに返すと俺を抱きしめた。
「しげの馬鹿!心配したじゃんか」
と、涙目で怒ると、成亮は笑いながらごめんと言った。
「許さない」
「どうやったら許してくれる?」
「キスしてくんなきゃ許さない」
「わかったよ」
と、成亮がいい、唇が触れそうな所で咳払いが聞こえた。
「君たちね、俺らがいるのをお忘れなく」
「「あ……」」
と、完全に二人の存在を忘れていちゃいちゃ未遂をしでかし、この後、散々弄られた。

そして、この日から成亮の病室に毎日部活終わりに通った。
そう、あの日の前日も、くだらないことを喋りまくった。
「あ、こんな時間かよ……じゃ、明日ね!」
「おー、気おつけて帰ろよ」
うん、と頷きいつも通りに家に帰った。

まさか、この時成亮の灯火が消えかかっているとは知る由もなかったーー

5

「やっべ!忘れ物した!」
っと忘れ物を取りに教室へ向かい扉を開けようとすると中から荒らそう2人の声が聞こえた。
『やめろよ!自殺なんて!』
『放せよ!俺は、俺はシゲに全てを、手越を奪われるくらいなら死んだ方がましなんだよ!』
この声は慶ちゃんとまっすーか?でも、なんで、まっすーが自殺するの?加藤先輩に全てを奪われる?どう言う事だ?
『どうせ、あいつは、全部持ってった!』
『よせ!』
『は、俺が死んでも無駄か…』
『やめろ!それ以上は言うな!』
と、慶ちゃんらしき声が焦っていた。だが、まっすーらしき声は止めようとしない。
『どうせ、あいつはもうすぐ死ぬんだから』
その言葉に頭が真っ白になった。
は?加藤先輩がもうすぐ死ぬ?
わけがわからない。なんかの冗談か?っと思ったが、それは、慶ちゃんらしき声によって壊された。
『まっすー!それを言うな!』
冗談じゃない、のか。俺、なんも知らない。
昨日お見舞い行った時、普通に笑ってたのに。いつも道理大丈夫だよって笑ってくれたのに。
しかし、争う声はさらに続いた。
『だって本当なのことじゃないか!』
『まっすー!』
ドサっと音がした。どうやら鞄を落としたらしい。その音に気付いたのか慶ちゃんが教室のドアを開けた。
「手越……」
「嘘だ、絶対に嘘だ!加藤先輩が、シゲがもうすぐ死んじゃうなんて嘘だ!」
「ちょ、落ち着け」
「シゲは絶対死なないもん!」
「いや、あいつは死ぬよ」
っと後ろから虚ろな声が聞こえた。
「あいつはもうすぐ死んじゃうよ、だから、俺のところに来てよ。俺に振り向いてよ」
「まっすー?」
「ねぇ、俺のものになってよ」
そう言って力強く肩を掴んだ。
「痛っ……!」
「ずっと近くにいたのは俺だよね?」
「まっすー……?」
「手越祐也好きなものも可愛い寝顔もなんでも知ってるのにねぇ、なんであいつなの?ねぇなんで?」
「っ……」
怖くなり慶ちゃんに目で助けを求めるが、まっすーの狂気ぶりに固まっていた。
「ねぇどうして?」
「いや…、離せ!」
まっすーの狂気ぶりに耐えられなくなり突き飛ばした。彼は、ふらりと後ろによろめき、いつもの優しい色を失った瞳で俺を見つめた。
「まっすー変だよ……」
「……」
「手越、まっすーのことは任せて帰りな」
っと、慶ちゃんは優しく俺に言った。
慶ちゃんに頷き教室を出ようとした。
「手越、ごめん」
っと、声がして足を止めかけたが走って教室から飛び出した。
バス停に止まっていたバスに乗り目的地近くのバス停で下りた。急いで建物内に入り走ってシゲのいる病室に向かった。注意する声すら俺には届かなかった。
「シゲ!」
と、勢いよくドアを開け部屋の主に抱きついた。
「ゴフッ!殺す気か!あと、ドアは静かに開けること!」
と、シゲにも注意されたが、そんなことはどうでもよかった。
「シゲ……」
「なんだよ、そんな真面目な顔して」
「シゲは死なないよね」
っと言うと、彼は俺から目を背けた。やっぱり、そうなんだ。信じたくはなかった、生きて欲しかった。そんな、子供ぽっい希望は今、打ち砕かれたのだった。
「なんで、言ってくれなかったの……」
「ごめん」
シゲは複雑な表情を浮かべ俯いた俺を抱きしめた。抱きしめる力はとても強かった。
「いや、ごめんじゃなくてさ」
「ごめん……」
そう告げる声は震えていた。
「なんも、教えてくれないんだね」
っと体を話しながら彼に言い放った。彼は俯きながらベットのシーツを黙って握りしめた。
「どうして?どうして、慶ちゃんやまっすーには言って俺には言ってくれなかったの?」
「っ、それは……」
「俺、そんなに頼りない?」
「そう言うわけじゃ!」
「じゃあ、どういうわけだよ!」
「それは……」
っと彼は困ったような表情で黙り込んでしまった。
「なんも話してくれないんだね……」
「ごめん……」
「もう、いい、なんも話してくれないなら、シゲなんて知らない!」
シゲが俺の名前を呼んだような気がしたが聞こえないふりをして病室をでた。
子供っぽい行動だとはわかっていた。けれど、悔しかったのだ。恋人である俺には話さずあの二人に話したと言う事実が。
そんな、やり場のない悔しさを抱え病院を出ようとたその時聞き慣れた声がした。
「手越!」
「慶ちゃん……」
慶ちゃんは深刻そうな表情を浮かべながら、「ついてきて」っと言った。
「どうして?」
「いいから」
そう言って俺の腕を引っ張った。俺は黙って慶ちゃんについていくことにした。白い無機質な通路を歩いていくと、少しオシャレな会議室のような場所についた。
慶ちゃんは適当な場所に座ったので、俺は向かい側に座った。消毒の臭いに混じってコーヒーの香りがした。
どうやらここは病院内のカフェテリアらしい。
慶ちゃんは深刻そうな表情を浮かべながら、口を開いた。
「手越、シゲとなんかあったでしょ」
「え、いや、別に…」
と、口ごもると、慶ちゃんは何かを察したように頷いた。
「手越、シゲのことを信じてあげて?」
「え?」
「シゲが何も話してくれないかもしれないけど、それはシゲが決めたことなんだ」
だからね、っと慶ちゃんは優しい声で続けた。
「彼を責めないであげて?」
「っ……分かった」
それならよしっと彼は表情を緩めた。
「じゃあ、シゲに謝りに行けるね?」
「うん」
「今すぐ行ってきな?」
「分かった、ありがとう、慶ちゃん、また明日」
そう言って、俺は立ち上がった。
「おう、また明日な」
っと言う声を背に、俺はシゲの病室の前に行った。真っ白な無機質な扉をノックすると中から了解の声がしたので扉を開け中に入った。
部屋の主は少し戸惑うように俺を見つめた。
「手越……」
「さっきはごめん……」
「あぁ、そのことか、大丈夫だから気にすんな」
「ん……」
重たい沈黙が流れた。だが、意外にもその沈黙を破ったのはシゲだった。
「手越、一つだけ約束して?」
「なに?」
「もう、俺には会いに来ないで」
彼は目を伏せ悲しげにそう言った。それはまるで、大切なものを破壊しなければならない人のようだった。
「分かった」
っと俺は彼に告げた。会いに来るなっと言うのが嘘なのはわかっていたが、シゲが俺の為を思って言ったのだろうと思ったからだった。
「ごめんな、ありがとう」
と、彼は今にも消えてしまいそうな声で言った。けれど、そんな彼にどう返すのが正解なのかわからなかった。
「ん……」
「さよなら、手越」
「さよなら、シゲ」
そう言って俺は病室を出た。
背後からすすり泣く声がしたが俺は振り返らなかった。看護師が注意する声も聞かず夢中で走った。
ただひたすらに走り外に出ると、そこには気まずそうな、赤い髪の少年がいた。
「まっすー……」
「さっきは、ごめん……、俺、悔しくて……」
っとしどろもどろに呟いた。
「だい、じょぶ……」
「本当にごめん……」
と、俯き何かを堪えるように唇を噛んでいた。
ふわりと優しい香りがしたかと思うと、力強く抱きしめられていた。
「ま、っすー……?」
「少しだけ、少しだけでいいから」
「うん……」
彼の背中に腕を回すと、さらに力を込めて抱きしめられた。
綺麗な茜色が滲み溢れ落ちた。
「っあぁ…あ」
「ごめん、ごめんなさいっ」
と、まっすーの懺悔が響いた。
気づけば二人で抱き合いながら産まれたての赤子のように泣いていた。
そして、その次日から、俺は成亮の病室には行かなくなり、周囲には明るく振る舞うことにした。そうしなければみんなに心配されると思ったからだ。

そして、向日葵の花が枯れる頃、成亮はこの世を旅立った

6

爽やかな風が吹く中葬儀は行われた。
俺は親と一緒に葬儀に参列したが何故か涙は出てこなかった。
ただ、心の中が空っぽになっただけだった。
ふと、まっすーと目があったが何を話せばいいのかわからず、目をそらすと、悲しげな表情を浮かべた。
葬儀が終わり、誰かに話しかけられる前に話し込んでいる親と合流して帰ろうとしたところ、シゲの母親に呼び止められた。
「あなたが祐也くんでいいのよね?」
「っ、はい」
彼女は泣きながら俺に一通の封筒を渡した。
「これは一体……」
封筒を受け取りながら呟いた。
「これはね、あの子が書いた手紙なの。自分が死んだら祐也くんに渡してくれって」
「そう、でしたか」
彼女はハンカチで口元を押さえながら頷いた。
「ありがとうございます」
「大切に読んでね」
「はい」
それじゃ、と言ってシゲの母親はその場から立ち去った。
俺は一緒に来ていた親となんとか合流し、車に乗り込んだ。家に着くと着替えもせずに自分の部屋に閉じこもった。
ふと、あの手紙のことを思い出し、上着から封筒を取り出して封を開けた。
すると、中から何枚かの紙が入っていた。俺は紙を取り出し、広げた。
そこには、シゲの綺麗な文字が並んでいた。

『手越へ

この手紙を手越が読んでるってことは、俺は死んじゃったんだよね。
ごめんな、何にも言わなくて。本当は凄く悩んだ。手越に伝えるかどうか。
脳に腫瘍があって、それが手術できない場所に出来てしまったこと。そして、余命、一ヶ月だったこと。
でも、1人じゃ答えが出なくてあの二人に相談したんだ。まさか、まっすーが喋っちゃうとは思わなかったんだけどね。
まあ、とにかく相談して、手越には内緒にして、心配かけないようにしようってことにしたんだ。本当にごめん。
あんなことになるなら話せばよかったって後悔してる。こんな俺を許してほしい。
それと、恋を教えてくれてありがとう。
最初で最後の最高の恋だった。
素敵な時間をありがとう。
大好きだよ、祐也。
それじゃ、また会える日まで

P.S

幸せになれよ、ならないと、祟るから(笑)

加藤成亮より』

何故か読み終わる頃には目から雫が溢れ手紙を濡らしていた。
「っ…シゲの馬鹿……」
本当に大馬鹿者だ。逆に心配かけているじゃないか。嗚咽を堪えながら手紙を握りしめた。
ぐしゃぐしゃになった顔を袖で拭い、紙とペンを手に取った。
もちろん、彼からもらった手紙の返信を書くためであった。
感情のままに文字を書いた。そのせいで内容はぐちゃぐちゃになったが別に気にしなかった。
紙を三つ折りにし封筒に入れ、封をした。
封筒に差出人の名前と宛名を書くのを忘れたことを思い出した。
差出人は手越祐也、宛先は、恋を知らない君へーー

エピローグ

エピローグ

あれから、時が過ぎ、俺たちは大人になった。そして、俺は、成亮と訪れた向日葵畑に来ていた。
「久しぶりだね、しげ……」
と、つぶやくがもちろん返事はない。ないが、それでよかった。
確かに成亮はあの日死んだ、が、今でも俺の心の中で生きてるからだ。正直、死んだときいた時は辛かった。こんなにも痛いのなら友達のままでよかったのにとすら思った。
が、あの手紙によって、それは違うとわかった。
そして、一生後悔すると思っていた、成亮と最後にあったあの日すら今じゃ懐かしい思い出となっていた。
「手越ーー」
と呼ばれ、振り返ると、慶ちゃんとまっすーがいた。
「久しぶりだな、ここに来るの」
と、まっすーがぼそりと呟いた。
あの当時、狂っていたまっすーや天然ボケの慶ちゃんも今じゃ既婚者だったりする。
でも、結婚しても成亮の命日にはみんなで集まって思い出話しに花を咲かせていた。
ふと、成亮の棺に入れ手紙を思い出した。
ねぇ、成亮ーー
「あの手紙、届いたかな」

恋を知らない君へ

あとがき

さてさて、「恋を知らない君へ」いかがだったでしょうか。短時間で仕上げたからかなり駄作ですが……汗
いや〜テゴシゲにして正解でしたわ。コヤシゲにしようかと思ったのですがコヤだと弱さの表現が……。
まあ、かなり謎なまま終わってしまったので、このサイトにて、「恋を知らない君へanotherstory」を後日公開したいと思います!いぇい!
まあ、簡単に言いますと、本編の保管編ですね。本編は手越さんサイドでしたが、anotherstoryではそれぞれの視点からを描きたいと思っております。

最後になりましたが「恋を知らない君へ」を読んでいただきありがとうございました!
それでは、anotherstoryにて、お会いしましょう!

恋を知らない君へ

NEWSでBL第一弾 テゴシゲです。苦手な方は華麗に回れ右。

  • 小説
  • 短編
  • 青春
  • 恋愛
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2017-06-20

Derivative work
二次創作物であり、原作に関わる一切の権利は原作権利者が所有します。

Derivative work
  1. プロローグ
  2. 1
  3. 2
  4. 3
  5. 4
  6. 5
  7. 6
  8. エピローグ