砂漠の旅 3
彼はどうしたらいいのかさっぱり分からなかった。とりあえず彼女は、今日はオアシスにとどまっていくようだったのでそれは彼を安心させた。(去ってしまうのは大変困ることだ)と彼は思った。
しかし女性に不愉快に思われて、彼は少し傷ついたようだ。不機嫌に最低限の洗濯をした。魚をとる元気もなく、めんどくさげに荷物を枕にして難しそうでへんてこりんな小さな本を逆さまに読んでいる。彼は眠くなったようで再び眠った。
太陽が夕方に向かう少し前あたりに彼は起きた。下らないほど同じように伸びをし、欠伸をし、あぐらをかいて木にもたれた。
少し驚いた顔をした。いつも使っていた車輪の大きな、小型のリアカーがなくなっていた。彼女が持って行ったのだろうか。
(まあいいや)とさらしだけ持って立ち上がりぷらぷら水汲み場まで歩き顔を洗い、だいぶ古く汚くなってきた、砂嵐の時に顔に巻くそのさらしで顔を拭いた。彼女は見当たらなかったが、その爬虫類と彼女の荷物が小さな池を挟んだ対岸に見えた。
自分のいるオアシスと少し歩けばある、何もない砂漠を思った。
雨はそんなこと気にせず無秩序に降るのだろう。彼は勝手に雲の気分になっていた。
「あ ああ」
急に彼が呻いた。崩れ溶けそうになっていた。視界がぼやける。急いで荷物のところに戻り、狂ったように手探りで腰袋を見つけ、厚い布にくるまれた茶碗を乱暴に摑み、堅く、両手で茶碗を胸に押し付け、膝をたたんだまま地面に突っ伏した。ドキドキと心臓が鳴った
(迂闊だった。茶碗を持ってなかった。たいしたことはない。すぐ元に戻る)彼は思った。思った通り、少しの時間で元に戻った。
ふと顔を上げると彼女の肩にいたあの爬虫類が、かなりそばにちょこんと座っている。真っ黒な目だった。その目が、穴がただ彼を覗くように微動だもせず彼を見ていた。そいつはくちゃり、と口を開いた。口の中は赤かった。
彼にはそいつが笑っているように見えた。
砂漠の旅 3