【読み切り】POWER&MAGIC-お嬢様と牧師見習い
お嬢様と牧師見習い
ふわふわフリルがついている薄いピンクのワンピース。
その上に羽織っている白いカーディガン。
汚れる道に似つかわしくない白い靴を履いて。
ふわふわと柔らかそうな金色に近い茶色の髪。
とても綺麗な海のような瞳を相手に向けて彼女は柔らかく微笑んだ。
その姿はどこかのお嬢様のようだった。
ただ、似つかわしくない大きなハンマーを軽々と持ち上げていなければ。
「お、お嬢様! お逃げください!」
そのうしろに隠れるかのようにいるのは、彼女よりも幼い少年。
綺麗な栗色の髪をした少年は牧師服を着ていて、エメラルド色の瞳に不安を映し、聖書のような本を大事そうに抱えて彼女の後ろで震えていた。
「リアンは心配性ねぇ。 私は強いのよー?」
「わ、わかってはいるのですが……」
「「……お前は“力”がないから喰ってもまずい。 早く、そこをどけろ」」
「えー? 力ならありますよー?」
「「物理的な力の話じゃない」」
ただの大きい虎のようにも見えるが、それは、両後ろ足で立ち上がり、しゃべらなければの話だ。
声が震えて重なって聞こえるせいで非常に聞こえにくいが、彼女にはちゃんと通じているようだ。
「仕方ないですねー。 えいっ」
ドゴン!!
のんびりとした声と大きな音。彼女がハンマーを振り降ろしたのだ。
「また失敗です……どうして、ちゃんとお話できないのでしょうか……」
「…あ、あの」
後ろで小さく気遣うような声が聞こえ、彼女は慌てて少年に向き直った。
「あ。 リアン、大丈夫でしたか?」
「は、はい。 僕なら平気です。 お嬢様にお怪我は……!?」
「さっき転んでしまいまして……かすり傷くらいですかねー」
「……回復呪文かけますね」
「はーい」
このお嬢様は、歴史に名を残す有名な戦士の家系で生まれた唯一の女性。
そして、色濃く受け継いだ戦士の血の影響で、怪力で魔力はゼロ。
対して、少年は、力は一切ないが、桁違いの魔力を持っていて、今はその力を牧師として役立たせようと修行中。
「お嬢様。 あんまりお転婆が過ぎるとご主人に怒られますよ」
「それは困りましたねー……リアン、弟として何か策はないのでしょうか?」
「弟って……僕は、幼い頃からお嬢様と一緒にいたってだけじゃないですか。 無理です。 いい機会です。 怒られた方が良いですよ」
「……リアン、意地悪言わないで」
「さ、早くお屋敷に戻りましょう。 私も師にお会いしなくては」
「はーい」
彼女と少年は、ここからそう遠くない屋敷に向かって歩き出す。
二人が世界を変えるために旅に出るのはもう少し先のこと……。
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