堕天使とドタバタ異世界ライフ
第1話 序章
僕の名前は田中マサル。都内に住む普通の高校生だ。
成績は一般並み。友人も数人いる。これだけ見れば、普通だが恵まれている方かと思う。
趣味は読書。本読むのが好きだ。ラノベから始まり、ラノベで終わる。僕の休日の日課だ。
そして今日は、僕の好きなラノベである神源東洋伝しんげんとうようでんの発売日だ。
ここの路地を曲がると行きつけの本屋がある。
早く最新刊が見たいぜ。勇者が魔王に倒されたところで終わってたからな。
僕はウキウキ気分で路地に曲がる。すると路地近くにいたローブぽい服装を着た女性の方が話しかけて来た。
「あなた、異世界に興味ない?魔王討伐とか」
今日発売される神源東洋伝の話かな?それともこの書店の発売イベントか?もしかして関係者なのかな?
僕は数々の疑問を抱いたが、同士や関係者に会えたドキドキ感から、そのローブの女性に話しかけていた。
「はい。興味ありありです。勇者が倒されたところで終わったんですよね。」
ローブの女性が驚いた様子でこっちを見て来た。
「え、あなたなんで現状を知ってるの?」
そんな事言われても神源東洋伝ラノベ読んでるし。ファンなら当然だろう。
「全部知ってますよ。勇者が魔剣を手に入れるところとか、あ、そうそうこの間のは勇者が敵幹部と戦う激戦は感動しちゃった。」
あ、イベントの関係者だと思ってめちゃくちゃ語ってしまった。けど、好きなラノベを語るのは非常に気持ちいいものがあるね。
そんな事を思っていると、ローブの女性が震えている。
「なんでそこまで……。わかりました。あなたは熱意は伝わりました。もう一度聞きます。異世界に興味はありますか?行ってみたいと思ったことはありますか?」
何を行っているんだ?僕は神源東洋伝ラノベファンとして、すでに答えは決まっていた。
「行ってみたいに決まってるよ。そうじゃなきゃ興味は持たないし、今後の展開が気になるところだね。僕なら今以上にハラハラドキドキする展開が心待ちだね。」
「わかりました。あなたと熱意と同意はいただきました。」
ローブの女性が一言言うと、何かを唱え始めた。
すると僕の足元が光りだした。
「あなたのような救世主を待っておりました。今後のあなたはあの様な世界で苦労すると思われますが頑張ってください。ぜひ魔王討伐を目標にこの世界を生きてください。
討伐したあかつきには、なにかあなたが望むものを差し上げましょう。それでは冒険者田中マサルさん。頑張ってください。」
「え?冒険者?なんで……。」
僕はその瞬間、気を失ってしまった。
第2話 宮殿
どれぐらいの時が経ったのだろうか。僕は気がついた時にはどこかの宮殿の床に横たわっていた。周辺は光が漂い眩しい。ここは……。
「ようやくお目覚めですね。田中マサル様。」
そこには髪が金髪の優しそうな女性がいた。椅子に座り足を組んで僕に言ってきた。
「私の名前はアンジュ。この世界の女神をやっている者です。」
え、女神様?本物?てかもしかしてさっきのローブの人?
「そうです。私があなたをこの世界に呼びました。あなたの熱意と希望を感じ取り、連れてきた次第です。」
「ちょっと待て。僕はいつ異世界に行くって言った?」
正直なところ、何がなんだか混乱している。なぜラノベ本を買いに行っただけなのに異世界に連れてこられないと行けないのか。
「?。あなた先ほど以前居た世界で言いましたよね。行きたいって。」
『「行ってみたいに決まってるよ。そうじゃなきゃ興味は持たないし、今後の展開が気になるところだね。僕なら今以上にハラハラドキドキする展開が心待ちだね。」』
あ、言ってた。普通に口走ってたわ。予想以上に。
「待ってくれ。これは誤解だ。元いた場所に返してくれ。」
僕は女神様アンジュに頼んでみる。しかし、アンジュは苦い顔をしている。
「それは出来ません。あなたの肉体は異世界にすでにあります。それにこれは私の目的の為でもありますので。」
「目的?なんだよ。それは、」
僕の言葉を華麗にスルーして、アンジュは話を続けた。
「とにかく、田中マサル様には魔王討伐をしていただきます。しかしこのままでは心許ないので、この異世界に現実世界のものを1つだけ持っていける権利をあなたに与えましょう。」
金髪の長い髪が揺れる中、僕に手を差し伸べながら言ってきた。そしてアンジュの話は続く。
「それは物なのか、才能なのか、性別なのか、力なのか、能力なのか、名誉、金か、全てにおいてこの世に得られるものを選択できます。」
アンジュが指をパチンとすると杖が出てきた。それを手に取り僕に向けてきた。
「さぁ冒険者田中マサル。あなたはこの異世界に何を持っていきますか?」
そう言った瞬間は、アンジュに光が集まり窓の外からは鳩が舞っていた。
何これ凄い。本当に僕は冒険者になったみたいだ。異世界ってかっこいい。
けど僕はその問いに対しての答えはもうすでに決まっていた。
「……。それじゃ1つ欲しいものがある。神源東洋伝の最新刊と最後までの本が欲しい。」
僕はそう口走っていた。後悔はない。それが僕の答えだった。
第3話 神殿2。
女神様アンジュが唖然としていた。そして、
「えーーーーーーーーー。スキルや能力とかじゃなくて、え、本?あれだけかっこよく演出したのに。」
杖を持ちながら、もう少し考えなさいよと言わんばかりのポーズをとっている。
えってなんだよ。とジトーとした目で僕はアンジュを見る。
「だって購入する前にここに連れてこられたからだろ。めっちゃ気になってたんだよ。早く読ませろよ。」
アンジュは考えながら少し沈黙があったのち答えを出してきた。
「ごほん、とにかくその本は読めません。それはあなたがこれから神源東洋伝の主人公になるからです。」
ん?今なんて?主人公だって?
なにか女神様アンジュが意味不明な事を言い出した。混乱している自分を他所に、アンジュは追い打ちをかける。
「前回、前に居た主人公が魔王に殺されてから続きが書けないんです。だから次の主人公はあなた。
そのラノベの続きをあなたが描いて欲しいんです。私がその続きを書いて本にしますので。」
アンジュは話を続ける。
「今まではあなたが居た現実世界の人が勇者となっていました。それを記録し本として私は女神としての役目を果たしていました。
しかし、現実世界でも私が書いた本が発売されてたとは思いませんでした。」
まさかの作者かよ。ってことは神源東洋伝はフィクションじゃなくてノンフィクションかよ。
確かにリアリティーは凄くあった。それか好評で周りからも評判は良かった。だからかーーーー。
僕は深いため息をして、女神に聞いた。
「それじゃ僕が描く話は前の主人公が殺された後の話になるんだな?」
アンジュは頭を縦に振る。
「そうです。その可能性は非常に高いです。」
僕は心の中でガッツポーズをとった。胸熱じゃねーか。まさか僕の好きな本に出られるなんてよ。しかも主人公で。
しかし、別の問題が出てきた。
この異世界に持っていけるものだ。スキルにしても僕は普通の高校生、一般人(村人)と変わらないだろう。お金や物に関してもお察しだ。どうする?
悩んでいるうちに考え込む僕を見て、アンジュはとある提案を持ちかけてきた。
4話:天使?堕天使の間違いだろ。
「仲間ってのはどうです?こればっかりは異世界の住人に限りますが……。」
アンジュが両手を組み僕を見てくる。
んー。仲間か。確かにどんなに強スキルを持っていたとしても異世界。知らない世界だ。通用しないかもしれない。異世界の仲間がいれば状況や実情も知ってるだろうし、確かに何かしら便利かもしれないな。
「それじゃ仲間くれよ。1人じゃ不安だよ。」
それを聞くや否は、アンジュは持っていた杖を振り、バーチャルキーボードを出して何かを打ち込んでいる。
「うーん。今該当する人材はいませんね。」
少し考え込みながら、人材を探してくれている際にアンジュが閃いた様な顔をし、僕に言った。
「そうです。妹のミキエルを貸してあげます。それが良いわ。」
アンジュは手と手と合わせて、にこやかな顔で僕を見てきた。
「ミキエルってどんな感じの人なんだ?」
まずはどんな人材なのか。気になるところ。
「天使ですよ。私の妹なので、女神の血筋は引いてます。」
良いなそれ。天使ってだけでもレアなのに、女神の血筋を持った天使が仲間に加わるとかなかなか無いよな。もうそれ一択だろ。
「それじゃその子で頼むよ。女神の血筋なら期待できる。」
僕の期待は上昇中だ。しかし、この時僕はこんな良い話が都合よく転がっていること自体に疑問を抱くべきだった……。
アンジュが指をパチンと鳴らすと、天井から光が差し込んできた。
う……。眩しい。僕は手を目に当て直視出来ない。
目が痛い。目が開かない。けど微かには見える。
背中に天使特有の羽が見える。頭には輪っかがあり、肌白の綺麗な肌。アンジュと同じ金色のロングヘアーで見た感じスタイルも良く、見てくれもアンジュと同じ美人だ。胸は無いが服装はジャージ姿で、手にはポテトチップスを持って……、え、ジャージ??ポテチ??
光が消え鮮明に見えるようになり、現れた天使は僕のイメージとはかけ離れている事に気付いた。
「なんだよ。姉さん、いきなり呼び出して。今ネトゲで忙しいんだよ。」
アンジュは今までの優しい表情を変え、厳しい姉の表情になった。
「ミキエル。あなたはいつもいつもネットゲームばかりして。」
その言葉を聞いて妹天使も反論する。
「ネトゲは遊びじゃないよ。アンヴァル国王緊急救出クエストの途中で王国の危機だよ。早く行かないと3日費やしたのにクリア出来なくなるよ。戻してよー。」
アンジュはため息を吐き、腰に手を当ててミキエルの目を見て言う。
「あなたは今までダラけすぎなのです。この者と異世界に行って精神的に鍛えてきなさい!!」
「えーーーーー。やだよ。動きたくない。」
駄々をこねているミキエルを見て、アンジュは続ける。
「あなたは回復魔法のヒールぐらいなら使えるでしょ。少しは天界の役に立ちなさい。」
「いーーーーーやーーーーーだ。」
僕は夢でも見ているのだろうか。性格的にどう見ても女神様アンジュとは似ても似つかない。
羽根と輪っかがあるから天使っぽいけど……。
「ところで、この人誰よ。姉ちゃん。」
僕に指をさしながら聞いている。
「彼は田中マサル。私が厳選してこの異世界に送り出そうとする勇者です。ミキエルと一緒に魔王を倒す者です。」
「だからーーー。行かないよ。」
床に寝そべって、駄々を捏ね始めているミキエルに嫌気をさしているアンジュ。
もう天使のイメージがないな。ジャージ着た天使って初めて見たし。この様子だともうすでに堕天しているんじゃないか……。
ごほんと咳き込み、気持ちを落ち着かせてアンジュはマサルに言った。
「それではマサルさん、異世界での魔王退治頑張ってください!!それじゃミキエルも頑張って!!」
詠唱が終わったのか、半端強制的に異世界の門が天井に開かれる。
「「え、ちょっと」」
僕とジャージ姿の天使ミキエルは天井の光に吸い込まれる。
「「ああああああああーーーーーー。」」
「それでは勇者田中マサル様。大変な旅になると思いますが、ミキエルをお願いいたします。魔王を倒したあかつきには、あなたが望む願いを1つ叶えます。ぜひ魔王を倒していただけるように神の変わって女神、アンジュがあなた様を祈ります。頑張ってください。」
そう女神様アンジュの声が聞こえると、僕は目の前が真っ白になり、気を失った。
堕天使とドタバタ異世界ライフ