誰も見ていない深夜番組
「それでは次のクイズです!」司会者が陽気にそう告げる。コミカルなBGMが流れてミラーボールが回転する。ひな壇に座るタレントたちがにこやかに笑いながら、リズムにあわせて体を揺らす。
「第七問!一日は何秒でしょう?」
うーん……。首をひねって唸りだす出演者一同。
「えーわかんなーい!」お馬鹿タレントの女性がおどけたようにはしゃいでいる。
「さあ!考えて考えて!」
「ヒントちょうだーい!」
「おまえ、自分で計算せえや!」司会者がそうツッコミをいれるとスタジオにどっかんどっかんと笑いが起こる。多くのタレントは指を折って数えている。
突如、ピンポーンと音が鳴り響く。「二宮くん!」司会者が美形の男性アイドルを指名する。
「216000秒!」カメラに向かって爽やかなキメ顔でそう答える。
「不正解!」男性アイドルは頭を抱えて落胆し、スタジオ中に軽い笑いが起こる。
「てか、おまえ60を3乗したんちゃうか?!」司会者が的確なツッコミをいれると、またもやスタジオ中にどっかんどっかんと笑いが起こる……。
もう深夜三時だろうか、ずっと眠れずにテレビ番組を眺めている。椅子に体育座りして、疲れた目を無理に開けながら、ただただぼーっとテレビの画面を眺めている。机の上の睡眠薬とアルコール飲料にはなぜだか手が届かない。もう既に飲んで摂取できているのだろうか。体がだるい。今日は何曜日なのだろうか。明日は仕事だったような気がする。友人とももう随分と連絡をとっておらず、毎日会社と家を往復して、晩酌にアルコール飲料を飲みながら面白くもないテレビ番組を眺めるだけの生活をずっと一人で過ごしている。永遠に続いていく気がする。牢獄に閉じ込められて、もうずっとそこから出ることが叶わないような感覚だ。ずっと。ずっと。ずっと。ずっと。とにかく何も変わることがなく、何かがいつまでも続いていく。今が続いていく。なにもかもが続いていく。ここで眠ることも叶わずに、ずっとテレビを眺め続ける……。
「おまえ、さっきから嘘ばっかやな!」またもや繰り出される司会者の的確なツッコミでスタジオにどっかんどっかんと笑いが起こる。腹が痛え……と、太った男性のお笑い芸人が笑顔を綻ばせながらそう呻く。お馬鹿タレントの女性が、たのしー!と言ってはしゃいでいる。若手芸人が一発芸を披露し、女優によって新作テレビドラマの番宣が行われ、おなじみの出演者による毎度おなじみの掛け合いが繰り返され、絶品グルメが食べ比べられる。スタジオは賑やかな雰囲気のなか、数秒ごとにどっかんどっかんと笑いが起こる。
出演者の一人の半生を再現したVTRが再生される。成功を収め裕福な暮らしを送るその身なりからは到底想像できない壮絶な過去が明かされ、スタジオ中が涙する。若手芸人も男性アイドルも、新作テレビドラマの番宣のためにきた女優も一様に涙を流している。
「ほんま、ええ話やなあ」司会者は微笑みながらまるで独り言のようにしみじみとコメントをする。スタジオ中の全員が同じタイミングで頷く。
「さあ!それでは次のクイズにいくでえ!」司会者の陽気な掛け声とともに、スタジオの空気はがらりと切り替わる。
「今度のクイズはアトラクションや!」スタジオ中央に立てかけられた巨大なディスプレイに、ゲームのような映像が映る。ダンジョン仕立ての薄暗い背景を進みながら、次々現れるモンスターたちが繰り出してくるクイズに答えてポイントを稼いでいく。スタジオ中央に据え付けられたトロッコの形をしたアトラクション用の装置に出演者たちが乗せられて、ゲームの展開にあわせて振動したり煙を吐いたりしている。
「うわっ、たのしー!」
「よっしゃー!正解やーー!」
「いえーい!」ハイタッチをする出演者たち。
「もういっちょいくでー!」司会者の掛け声とともに、出演者一同で一致団結してクイズに取り組んでいく……。
ザザザザザザザザザザ……。目の裏に走るノイズ。上下左右に入り乱れた格子模様となって線を残す。架空のテレビ番組がずっと頭の中で鳴り響いている。司会者がどっかんどっかん笑いを起こし続けてずっと眠ることができない。笑い声が一向に絶えない。もうずっと目を閉じて横になっているのだけれど、一向に眠くなることがない。椅子に腰かけてテレビを眺め続けている感覚が持続しながら、頭の中で、架空のテレビ番組が鳴り止まない。司会者はなにを言っても大爆笑をとっている。どっかんどっかんとスタジオは大盛り上がりをみせる。ずっとクライマックスだ。まるで奈落へと突き進むトロッコに乗っているように。
世界はなんて味気ないのだろうか。コマーシャル、バラエティー番組、テレビタレント、ドッキリ、アイドル、ポップミュージック、スポーツ中継、プロレスラー、エンタメ作家、24時間テレビ、昼ドラ、ワイドショー、旧作映画、大物芸能人、格付け番付、ファッションモデル、視聴率、モノマネ、一発芸、ニュースキャスター、受信料、オーディション、子役タレント、ブランド品、――すべて虚しい。それらが頭の中でザザザザザ……とノイズを走らせて交錯する。痛いくらいにコマーシャルが反響する。「ご覧のスポンサーの提供でお送りします!」とアナウンスが流れ、脳内テレビの画面をみると、画面にはなにもない。そりゃあ自分の人生だからなーと妙に納得させられる。
こんなにも、こんなにも……世界は醜くて生き辛い。冷たいコピーの増殖するプラスチックな海の景色には、テトラポッドにすら人のぬくもりを感じてしまうね。ここに閉じ込められた者同士、寄り添い合って触れ合いたい。空はアスファルトの鏡写しでしかなくなって、海はその大部分を化学物質に置換されて、いやに鼻につく腐臭を漂わせながらけばけばしいコバルトの青に輝いている。
そう、ここに閉じ込められている。酸素も薄くてここは寒いよ。たき火が欲しい……あったかい毛布に包まれて、ぽかぽかと湯気の立ち上るお風呂に入ってみたされたい。
自分自身にそうするように、他の物をあたためなければならないのだと思う。人を癒して、受容して、世界を照らしてあたためる、一筋の光となって拡がりたい。醜さを遠ざける、灯火をつけて回りたい。頭の中で鳴り止まないテレビのスイッチを切るための灯火を。冷たいコマーシャルの増殖を遠ざける、海の本来のうつくしさを、テトラポッドのあたたかさを、僕は言葉にして残していかなければならないだろう。詩を書かなければならないのだ。そうだ、詩を書かなければならないのだ!なんで忘れていたのだろう?もうずっと詩を書き続けて生きてきたというのに。一人で薄暗い部屋にこもって、物言わぬコンピューターと向かい合って。もうずっと一人で詩を書き続けてきたではないか。なぜ書き続けることをやめてしまったのだろう。
頭の中でテレビなんか見ている場合じゃない……。僕は布団から起き上がって、コンピューターの電源をつける。熱を帯び、モーターは回転し始めて、ディスプレイは起動プロセスの実行中であることを表示している。冷たく静かで無機質な時間が流れる。
ぱっと、切り替わったディスプレイには、一人詩を書く自分の姿が涙ぐましいBGMとともに映っている。
ううううう……。スタジオ中が大号泣をしている。小太りの若手芸人も、整った顔立ちの男性アイドルも、新作テレビドラマの番宣のためにきた女優も一様に涙を流している。
「ほんまええ話やなあ」司会者もうっすらと涙を流して穏やかに微笑んでいる。涙ぐましいBGMが流れている。
「おまえ、ほんま今までがんばってきたんやなあ」スタジオ中が、うんうん、と、頭を振るように大げさに頷く。「なんでそんなに頑張れたんや。書くのやめようとか何度も思ったんやろ」司会者は僕の顔を覗きこんでそう尋ねた。なにが起きているのか。状況がよく呑み込めず曖昧にしか頷けない。
「うんうん。そうかそうか」司会者は満足げに一人で何度も頷いている。「でもな、俺はこの世界がつまらないとか醜いとか、そんな風には思わへんで」瞳の鋭さが一瞬増す。スタジオ中の出演者たちがみな一斉に力強く頷く。「それに世の中面白くするために俺ら芸人がおるんやんか。テレビやって結構おもろいで」また、スタジオ中の出演者たちがみな一斉に力強く頷く。ははは……と力なく笑うことしかできない。
「みんなおるんやからさー。すこしは頼りなさいや。お父さんええ人だったやん」再度、スタジオ中の出演者たちがみな一斉に力強く頷く。あれはVTR用に編集と脚色を施されたその場限りの人間関係のようなものであって、実際に僕に友達らしき友達はいないし、父親とも撮影時に一回会ったとき以外にここ数年全く連絡をとっていない。
「がんばって詩書いて、ぎょーさん稼いで、たくさん親孝行するんやで」スタジオ中の出演者たちがみな一斉に力強く頷く。
「まあ、詩ーだけじゃ食ってけへんと思うから、そんときはまたテレビにぎょーさん出ればぎょーさん稼げるで」司会者はそう言って僕の肩をぽんぽんと叩いた。「まあ言っても、おまえあんましゃべらへんからな。そこはちゃんと直してこなあかんで」
「そうや!詩書いとるからってテレビ出られへんで!オタク直さなテレビには出られへんのや!」振り向くと見るからに小柄で根暗そうな眼鏡をかけた男芸人がイキリたってそう叫んでいた。
「なにゆーてんねん、オタクはおまえやろが!」司会者はすかさずそうツッコみ、どっかんどっかんスタジオは笑いに包まれた。
「さて、気を取り直してクイズのコーナーや!」スタジオ中に一斉に拍手の音が沸き起こり、陽気なBGMとともにミラーボールが回転する。ひな壇に座る出演者たちがにこやかに笑いながら、リズムにあわせて体を揺らす。
「第一問!テレビの放送局はどうやって収益を得ているのでしょうか!?」さあ、応えてください!そう言われて辺りを見渡すと、どうやら回答者は僕一人のようで、七色のスポットライトは僕だけに向けられていて眩しい。
「え、えっと……」だめだ。「えーーーー……」だめなんだ。「んーーーーー……」だめなんだよ。スタジオ中の視線が僕に注がれている。初めはあたたかく見守られているかのようだった視線も、次第に不安の色を帯び始めてくる。
「きみ、いくらなんでも緊張しすぎやろー!」司会者のそのツッコミでスタジオ中が安堵したかのように、どっかんどっかん笑いが起こった。
「ちょっと考えます……」そう言うのが精一杯だった。「あ、あ」うまく喋れない。「え、え、と」言葉がうまく出てこない。クイズなんか何を出されても、詩の言葉じゃ答えようがないじゃないか。
熟考した結果、「生きることはたのしいですか」と、そう逆に聞いていた。一瞬、スタジオ中が凍り付き、不穏な雰囲気が流れ始めた。
「なにゆーてんねん、たのしくなかったらテレビでてへんやろ!」司会者はそうツッコんだ。ちょっと無理して繕ったような笑い声が、スタジオ中にどっかんどっかんと沸き起こった。そこでCMに切り替わった。緊張の糸がゆるみ、安堵のため息がスタジオ中に溢れかえった。
「きみ、こまるよー」と司会者は僕に話しかけに来た。「なにゆーてんねん」阿呆ちゃうか、といった表情だ。「きみはただ座ってにこにこしてればいいんやから、そない緊張すなや」司会者はそう言って笑いながら僕の肩を小突いた。
CMが明け、再び放送が始まる。なんとか頑張ってクイズに答えていったけど、なかなかうまく答えられずしどろもどろになってしまう。だが司会者は僕がヘマをするたびに、それをうまく笑いに変えてどっかんどっかんスタジオを沸かす。視聴率もどんどんどんどんうなぎ上りになっていく。
「これ今日は帰られへんな」と司会者はそうぼそっと呟いた。視聴率がゼロにならないと番組を終えられないそうだ。よく見ればスタジオにいる誰もがすこし疲れているようにもみえた。だが出演者たちは誰一人それを表に出さないように極めて慎重に振舞っていた。
「次のクイズはアトラクションやー!」スタジオ中央のディスプレイにゲームのような画面が映り、出演者たちはみなトロッコの形をしたアトラクション用の装置に乗り込む。洞窟の中をゆくような背景を進み、クイズを出題するモンスターを次々と倒していく。
「うわっ!たのしーなこれ!」
「はやく答えて答えて!」
「よっしゃ正解やー!」出演者はハイタッチをする。
「次もいっちょやってやるでー!」番組は大盛り上がりで、スタジオも常にどっかんどっかん大爆笑が止まらない。視聴率もどんどんどんどんうなぎ上りになっていく。もはや司会者が何を言っても笑いが起こる状態だ。視聴率は止まらない。番組も終わらない。僕も家に帰ることができない。トロッコの形をしたアトラクションに揺られて、ぐるぐるぐるぐる同じ場所を回っている。
「いっくでー!」
「がんばります!」
「よっしゃ正解やー!」
「あ、これわかんないかもー!」
「おちつけおちつけー!こんなん楽勝やー!」
「いえーい!」
「おっしゃー!」
「……」
……。
目が覚めると、朝の七時だった。ずきずきと頭痛がする……昨日は飲み過ぎたのだろうか。シャワーを軽く浴び身支度を整えて、家を出て会社に向かう。電車に乗っていると、時間が永遠に感じられる。このままどこにも辿り着くこともなく延々と山手線を回り続けるような感覚。うつらうつらとうたた寝をしていると、昨日のテレビ番組の光景を思い出す。たしか、クイズの番組だった。司会者が実力のある中堅で、何かツッコミをいれるたびにスタジオ中がどっかんどっかん大爆笑となっていた。ガタンゴトンと電車が揺れる音や、隣に座る若者のイヤホンからシャカシャカと漏れてくる音楽、主婦の雑談、カチカチと携帯端末を操作する音、それらの騒音の複合が、あのスタジオに沸き起こっていた爆笑の渦のように聞こえる。現実とクイズ番組と、まだどこかイメージが重なっているんだ。上司に呼ばれて小言を言われる。たしか特にミスらしいミスはしていなかった気もするのだが……。デスクからデスクへとめまぐるしく連絡を回し、かと思いきやコンピューターを操作して延々と電子的な単純作業に勤しんだり、電車を乗り継いで得意先を駆け回っていると、いったい自分の職業はなんであったのかよく思い出せなくなってくる。総合職とはいったい何を意味するのか。睡眠薬とアルコール飲料を飲んで、テレビを見ながらぼーっとしているとなにもかもがどうでもよくなってくる。司会者がツッコミをいれてどっかーんどっかーんとスタジオ中が大笑いで、アトラクションじみたクイズゲームで歓声が上がり、クイズ不正解でトロッコが暗闇へと落ちていく。こら、聞いてるのかね、と上司に怒鳴られたことを思い出した。なぜだか今日あったことのはずなのに、遠い昔のことのように懐かしい。もう今日は早退しろと、しまいには呆れられてしまったようだ。はい分かりましたと僕は答えて、歯を磨いて布団に入る。何枚もの書類をずっと書いている。間違いは一つも許されず、制限時間も大幅に限られている。一枚書き上げてはボタンを押して、司会者の指名を受けてクイズに答える。一つ正解するごとに10ポイント獲得し、チームメンバーとのハイタッチを済ませるとまた黙々と書類を書き進める。ガヤガヤとしたオフィスの喧騒を縫うようにして、番組出演者たちの歓声が聞こえてくる。よっしゃ正解やー!と司会者は吠え、上司とハイタッチをかわしている。あちこちで社員が書類とにらみ合い、記入事項を満たし、判子を押したらすぐさまボタンを押し、クイズに答えて盛り上がっている。ふと、窓の外に目をやると、透明な陽射しがきらきらとひかっていて、夏風にゆれている花や雑草を鮮やかに彩っている。穏やかにゆれる電車の中には、静かな時間が流れている。うとうとと微睡み、虚ろに眠り込んでいくと、一日は何秒でしょう?と、あのクイズの問題のことを思い出す。一日はいったい何秒だっけ。時計の針をみながら仕事をしているんだ。チクタクチクタク、止まらない時間が、進んだり戻ったりする感覚。クイズに答えて、仕事をして、アトラクションに乗り込んで、得意先を回っていく。ハイタッチをしてジョークを言って、司会者のツッコミでスタジオ中がどっかんどっかん大笑い。僕は部屋で一人でテレビをみながらお酒を飲んでいるような気分で、布団にくるまって眠れない日々を過ごしている。もしくはもうずっと家に帰ることもなくオフィスで働き続けている。いずれにしてもテレビを切ってしまうことはできないし、僕と上司はすっかり番組のレギュラー出演者だ。ギャラもたんまりもらっていて、貯金もすっかり潤ってきた。そろそろどこか静かな海の見える町に引っ越して、穏やかに生きていきたいと思うけれど、視聴率がゼロにならないから今の生活をやめられない。ガヤガヤガヤガヤと騒音が響き渡り……ザザザザザザザザザザザ……上下左右に入り乱れた格子状のノイズが頭の中から鳴り止まない。いったい一日は何秒なのだろうか、あとどれくらいで一日は終わるのだろうか。視聴率は、あとどれくらいでゼロになるのだろうか。ガコン、と電車が急に揺れ、目が覚めるとそこは遠いどこかの路線の終着駅のようだった。仕方がないのでコンビニで軽食を食べて、どこか適当なネットカフェに入って朝まで寝てから会社に行こうと思う。狭い個室に収まって、薄暗い照明のなかでやけに明るく目に刺さるような光を放つディスプレイをぼーっと眺めている。昨夜のクイズ番組の録画がそこに映っている。テレビタレントの歓声が響き、いつものおとぼけが飛び交い、司会者のツッコミでスタジオ中が大笑い。どっかんどっかん大笑い。世界は今日も楽しそうだ。時間が無情に過ぎていく、ようでいて決定的に止まってしまっている。朝になったらここから出ていけるけれど、朝にならなければどこにもいけない。もう、どないなっとんねん!と司会者がツッコむ、スタジオ中がどっかんどっかん大笑いして、視聴率はどんどんどんどん上がっていく……。
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誰もいない夜の海を歩いている。風が吹き付けて時が止まってしまったように波の音だけがただ漂っている。ねえ、聞こえていますか?「聞こえとるで!」と司会者は明るく答えて、スタジオのタレントたちがいえーい!と歓声をあげる。こっちは元気にやっています。静かな町で、穏やかに暮らしています。あの頃書いていた詩も、今ではまた書き続けることがようやくできるようになってきました。「そうか、そりゃあ本当によかったで!」司会者はうんうんと力強く頷く。世界の眠りにつく静寂の中に、夥しいノイズが上下左右に鳴り響いている。ザザザザザザザザザザザザザザザザザザ……もう、なにも聞こえないような気がするんだけどね。それでも、時間はきっと進んでいる。止まってしまったかのように見えても、逆方向に戻っていってしまっているかのように感じても、きっと時間は進んでいる。僕たちもまた、会えますか?「会えるに決まっとるやないか!」司会者はそう言って大きく手を振る。「またな!物書き!元気でな!」僕は目を閉じて世界を断つ。
誰も見ていない深夜番組