ナガラ
忙しい、忙しい。
自動制御された自転車に乗りながら、自動筆記装置で企画書を書きながら、上司との電話をしながら、社畜氏は取引先のW社に向かっていた。
今日、社畜氏は、W社の社長と会うことになっていたのだ。W社は、社畜氏の働くB社の、一番の得意先だった。
社畜氏は、W社のビルについた。ビルは真っ白く、雲に届くほど高かった。窓はなく、富士山を逆にしたような形をしていた。
社畜氏が、ビルの中に入ると、眩しい光に包まれた。ビルの内部は空洞になっており、天井は透明な膜で覆われていた。太陽の光は、建物内部に反射し会社全体を照らしていた。
社畜氏を、受付嬢が迎えた。受付嬢は、暖かな光を受け、とても美しかった。
「お待ちしておりました」
そう言うと、社長室へ電話をはじめた。よく見ると、カウンターの下で、自動ケアマシーンを使っていた。マッサージしながら、ネイルをしていたのだ。美しい美貌は、絶え間ないケアによるものなのだ。
受付嬢は、社長と話を取り次ぎ、社畜氏を移動板に乗せた。移動板で、自動的にビルの最上階の社長室に連れてってくれるのだ。
社畜氏は、移動しながら、自動原稿制作機を使い、社長に話す内容を考えながら、滑舌矯正器で、滑舌を良くしながら、ケアマシーンで、身だしなみを整えた。
社畜氏は、社長室に入った。社長は、お風呂に入りながら、自動ハンコ装置で、ハンコを押しながら、食事を、自動ナイフとフォークで食べながら、本を読んでいた。
「やあ、来たか。おやおや、まだB社はそんなことをしているのか」
「お忙しい中、お時間をいただきありがとうございます。本日は、我が社の新商品を、是非とも御社で扱っていただけないのかと思い、伺ったしだいです」
「科学の力によって、人類は少しの時間で、多くのことができるようになった。なぜお前はそんなにも忙しそうに、仕事をしているのだ」
「私は、誰よりも、仕事ができません。しかし、私は科学の力によって、何とか仕事ができております。それもこれも、我が社で開発した商品のおかげでもあります」
「もういい、お前と話しても、らちがあかん」
社長は、社畜氏から商品のサンプルを受け取り、商品観察装置に突っ込んだ。社畜氏は、自動追い出し扉によって、社長室から追い出された。
社畜氏は、落胆した。電話で上司に現状を報告しながら、新商品のプレゼンを制作しながら、自社に自動制御された自転車で戻った。
B社に戻ると、上司に呼び出された。
「社畜、ただでさえお前は、営業の成績が悪い。W社は、我が社の得意先だぞ」
「すいません、次回こそは」
「お前にはこれ以上時間はないんだぞ、分かってるのか、起きてからも、みっちり働いてもらうからな」
ピピピピピ ピピピピ ピピピピ
目覚ましが鳴り、社畜氏は起きた。
今日の寝ながらの仕事は、業績を上げられなかった。今日も起きながらの仕事も頑張らなくては。
社畜氏は、朝ごはんを食べながら、身だしなみを整えながら、会社へ移動した。
ナガラ