Link!

依頼

「行くしかないか…なぁ、相棒」
隣に立つ人物に話掛けられる。
「だから相棒はやめろ、俺の名前はアズマだ…って何回俺がお前に言ったと思う?」
相棒は指を数える仕草をして笑った。
「数えきれないくらい。かな?」
そんなに言った憶えはない…はず。考えていると、ハルが真面目な顔でこっちを向いた。

「死ぬなよ。俺たちは生きて帰る、ギルドにな」

「そんなの百も承知だ。…お前もな、死ぬな」

拳を合わせ、二人は戦場へ赴いた。


「ここは…研究施設だな」
ここが研究施設だという事は多分間違いない。依頼の内容からしてそうだろう。しかし、内部がほとんど破壊されていて、目も当てられないような状況だ。いたるところに設置されている警報装置が鳴り響き、赤いランプはちらちらと妖しい光を投げかけている。
「ひどい有り様だ」
「ああ…奴は居ないようだ、先へ行こう」
奴とは、高性能AI ゛H71W 死始゛の事だ。
「まったく、酷い依頼を引き受けちまったもんだ」
「……この依頼お前が引き受けたんだよな」
そもそも事の始まりは、アズマが怪しい依頼を請けたことからだった。


「なあハル、良い依頼があったぜ」
ギルド内の掲示板前に呼び寄せる。
「ほら、討伐依頼だ!受けよう!な!」
討伐依頼 機械系 戦闘経験ありの人のみ ランク 超危険

「いくらなんでも最高ランクはなあ…」
どうやらハルはあまりやりたくないらしい。
「やるだけやってみようぜ」
「まあ依頼内容聞くだけなら」

しかし二人は気づいていなかった。 

※ノーリターン 依頼内容を聞いたら引き返せません。

クエスト掲示板で危険な依頼を見つけてか三十分後、二人は依頼主の屋敷前に立っていた。屋敷というよりか、豪邸と表した方がピッタリくる。それほど依頼主の家はでかかった。
外見はなかなかだ。どうやら相当な金持ちだろう。
「行こうか」
そう呟いて門をくぐる。門から玄関まで100m程近くあった。
どんな金持ちだよ、と二人でこそこそ話していると、玄関の扉が開き、中から使用人らしき男性が出てきた。
「どなたさまでごザざいマすか」
妙ななまりのある使用人だなといぶかしげに思ったが、失礼だと思い、聞かずに留める。「ギルドに依頼が来ていた。依頼主に会いたい」
「わかりマシた。わたしニついテきてクださい」
やっぱり何か聞き取りづらいよな…
横を向くとハルと目があった。
どうやらハルも同じことを考えていたようだ。
「…おっと」
考えこんでいると、二人で急に止まった使用人にぶつかりそうになった。
使用人がこっちを向く。何かが変だ、妙に無表情。
「………」
「どうしましたか?」
使用人は口を開かない。
「…………」
「あのー」
カパッ! 謎の機械音とともに、使用人の口が開いた。まさか、口が開いた音ではないはずだ。今のはもっと別の…
「なぁ、使用人の口ん中光ってないか?」
ハルにそう指摘されアズマもよく見てみる。やはり口の中が光っている。
これって…まさか…
「伏せろ!」
叫びながら自分も伏せる。しかしその間も目はしっかり開けたままだった。
使用人の口から蒼白い光線が発射された。光線は見事に二人がさっきまでいた場所を貫通している。後一瞬遅れていたら―
「ふぅ…ハルも無事だな」
「ああ…」
一息入れようかと思った時、
また使用人の口が光始めた―何故か。
答えは一つだ!
「おい!あいつどうするっ!」
ハルが声を張り上げる。
「ニ度目があると思うな!」
アズマが走り出した。
「まて…それなら俺が、」
しかしアズマは聞いてはいなかった。
使用人の顔を問答無用で殴りつける。が、使用人は吹っ飛ぶどころか顔の向きさえ変えない。しかも殴った反動で体勢を崩した。
「こいつ…ハル!金属だ!」
と、使用人もどきがゆっくりとアズマの方を向く。―やばい。奴はまだレーザーを撃つ体勢だ。今こっちに撃たれたら体勢崩した俺はレーザー避けられない…
もはや終わりかと思ったその時、
とてつもない爆発音と共に、使用人が木っ端微塵になる。一瞬の出来事だった。
そしてその爆風に巻き込まれて吹っ飛ぶ。
「くっ…いって…」
どうやら死だけは免れたようだ。
「アズマ!大丈夫か!」
大丈夫もなにも、
「ハル!お前のせいで俺は死ぬかと思ったぞ!」
恐らくあの爆発はハルが起こしたものだろう。周りは爆風で吹き飛んだ壁やら天井やら。すごいことになっている。
「ああ、ごめんごめん」
「普通あんな至近距離でしかも回りに仲間がいるのにミサイル撃つか!?」
爆発に巻き込まれなくても爆風で吹っ飛ばされて死にかねない。
「だって拳銃とか撃ったってあいつレーザー撃つのやめるかどうかが解らないだろ、もしも撃つのをやめなかったらお前はレーザーに撃ち抜かれて死んでいた。だからミサイル並の破壊力あるもん撃つしかないんだ」
二人で争っていると、
「争っている時間はなさそうだ…使用人たちのお出ましだ」
散乱した瓦礫の向こうに10人ほどの使用人が立っている。
その口は――蒼白い。
「コイツらはロボだ。遠慮はいらない」
そう口にするアズマの手に稲妻が閃く。
「邪魔するな。雑魚が」


「ふぅ…」
使用人ロボは、一体残らずに消えた。
文字通り、パーツの1つすら残っていない。アズマなど、さっきの恨みとばかりに、魔法を使って雷を撃ちまくっていた。
「さあ行こう」
更に散乱した瓦礫を掻き分け、前へ前へと進んでいると、
「何だこりゃ?」
瓦礫の中に、一ヶ所だけ床がすっぽぬけている。
どうやら地下へと続く階段だ。
「行く?」
ハルが窺う。
「行くに決まってるだろ」
アズマがニヤリと笑う。
ギルドでも一位二位を争う冒険好きだ。
聞くまでも無かったな。ハルが笑った。


地下への階段は意外と長く、中が暗いのでハルの出した炎を頼りに進む。
「下に何があると思う」
「定石なら地下牢があって中には死体がゴッソリ…なんて」
そんなことを言って笑っていれたのは地下室に着くまでだった。
扉を見つけて開く。中を早くみようと先にアズマが、その後ろにハルが続く。
と、急にアズマが立ち止まり、ハルが背中に激突した。
「ちょっと…急に止まんないでくれるかな?」
そう言いつつ中を覗いたハルが固まる。
薄暗い地下室には、牢屋、そして死体。
「はは……マジか」
「これは…まさかさっきの使用人に始末された人たちか?」
「かもな」
牢屋の中には死体がかなりの数ある。
「どうするよ、これ」
「俺たちは警察じゃない」
「と、いうと?」
「見なかったふりで良いだろ、ばらして依頼人が捕まったら依頼が無くなる」
と言ってろくに中を見ずに踵を返す。
まあ依頼を達成して報酬もらったら通報でもしてやるか。
誰に聞かせるわけでもなく呟いたアズマに、ハルが、
「まだ請けるとはいってない。聞くだけだ」
そしてまた階段を登り始めた。

「ここか…?」
たどり着いた部屋のドアを開けると、中には依頼主らしき人物が座っている。
「どうやら…」
ハルが続ける。
「やっと着いたみたいだね」
「おや…ここにこれたということは…H21試作機を倒してきたのか」
H21試作機…
「さっきの使用人もどきのことか」
使用人もどきと言う言葉に依頼主が硬くなる。
「あれは、使用人もどきなどではない。ヒューマノイド、人型のAIの試作機だ」
これで使用人のおかしななまりの謎が解けた。
「私は…ニコだ。それにしても、さっきの爆発はお前らだろう、良くあんな瞬時あれに対応出来たな」
「誉め言葉として受け取っておく」
あの武器は、ハルが魔法でとりだしたんだろう。
さて…
「何であんなものを…」
一番疑問に思っていた事を聞いてみた。
「家に置いておくかって?普段もあんな物を作動させておくと思うか?あれは歓迎用だ」「歓迎って…あんたまさか、」
「君たちが門をくぐったのに気づいて起動した。あれくらい破壊できないなら私の作った 〝B71W 死始″を破壊することは出来ない。」
「は?」
「今回の依頼は、」
俺たちまだ依頼は受けるとはいっていない。
「私が作ったAI、B71W 死始を破壊するというものだ。」
「だから…」
「ノーリターン…一度依頼内容を聞いたら後戻りは出来ない。依頼内容に書いてあったはずだ」
…見落としてた。ハルの方を向くと、案の定
『依頼聞くだけだよなぁ…アズマ』
あーあ、やっちまった。GAMEOVER だ。
「B71W 死始は、何故か誤差動を起こした。我が研究私設で暴れている。それを破壊してほしい。報酬は…50000Jでどうだろう」
50000J…アズマとハル二人で分けてもかなりの額だ。報酬だけみるとかなりいい依頼だろう。その分危険も隣り合わせだろうが。第一二人はノーリターンだ。戻ることは出来ない。
「場所は、」
「北の森の真ん中あたりだ」
北の森は入ったら出られないと有名な樹海だ。名前こそ森だが、規模が違う。
「わかった。それじゃあ」
さっさと踵を返す。
「ちっ、何がノーリターンだ…」



二人で話し合った結果、依頼に行くのは明日になった。そのまま二人で寮に帰る。
ギルド加入者はほとんど寮生活である。その方が家賃節約になるし、すぐギルドに行くことができる。ちなみに寮の部屋は二人部屋で、アズマとハルも同じ部屋にぶちこまれている。
自分達の部屋に入って一段落すると、依頼の話になった。
「まず依頼にどれぐらいの時間がかかるか分かんないから明日の朝から出発した方がいいだろうな…」
「何持ってく?」
「相手は戦争用の機械だ。並みの破壊力じゃ壊せない。対戦車ミサイル位じゃ消えないかもな」
対戦車ミサイル撃って破壊されない機械というのもどうかとおもうが、今日の使用人AIを見た後ではそんな考えにならざるを得ない。
まあ機械に効くものだな…何がある?レーザー、電磁パルス、雷、炎…
「まあ相手はAIとはいえだだの機械だ。なんとかなるだろう」
しかし、実際にはなんとかならなかったのである。


次の日、アズマとハルはギルドの前に立っていた。これから空間輸送魔法で研究施設まで移動するのである。空間移動魔法はかなり上位の魔法だが、二人ともいまでは難なく使いこなせる。

ここで二人の魔法を説明しておこう。

アズマ雷の魔法に、Linkと呼ばれる特殊能力、さらに魔力を操る能力を使える。
ちなみにLinkとは
: 物体吸収魔法 物体を一時的に体内に取り込むことで物体に応じた特殊能力が使用可能になる魔法

ハルは炎の魔法と風の魔法、後異空間に物体を保存しておける魔法の三種類が使える。

「よし、行こうか」
二人で研究施設にワープした。

一瞬のうちに二人は研究施設の前に着いた。

そして今に至る。

「奴は居ないようだ。先へ行こう。」
死始は何処に居るのか…気づいたら後ろにいたなんてオチは絶対に避けたい。死にかねない。いや、死ぬ。
中はかなり暗い。窓はあるけれど、回りが森ということで、極端に光が少ない。そのせいか、かなり不気味だ。
一つ二つと扉を潜る毎に、暗くなっていくのが分かる。どうやら最深部に近づいてきたようだ。
死始は何処に…
時間がたち、少し焦り始めた頃に、二人は一際大きな扉を見つけた。
「入ってみようか…」
扉を開けると、軋む音がする。
中はドームのようになっている。上に天井が無いせいか比較的明るい。
そして
「あれは…」
奥にある暗闇の中に赤い光が蠢いている。それはまるでルビーのように煌めき、毒々しい光を放つ。
「………奴だ」
B71W 死始が姿を現した。本物の獅子とは似てもつかない金属質の体。吸い込まれてしまいそうな漆黒の色彩。人間の二倍位の背丈がある。更には両脇に機関銃、開いた口にはレーザー銃だ。
「グオォォォォッッ!!」
死始が雄叫びを上げる。
「来るぞ!!」
恐ろしい跳躍力で、強烈なタックルをかまして来た。
それをヒラリと回避し、至近距離で雷を放つ。
しっかりヒットしたはずだが、死始にダメージがあるようには見えない。
「金属だからか…?」
また激しいタックルをかわすと、後に出来た隙にハルが炎を放つ。
これは避けられた。
やはり死始の機動力が高い。人間とは比べ物にならない程。
「それならあれだ、地雷埋めよう」
ハルが物騒な物を数個、空間魔法で取り出してセットした。
これなら効果があるだろう、なにしろ対戦車地雷だからな。
しかし、ダメージとか依然の問題だった。
死始が地雷に足を載せた瞬間、地雷が爆発した。
だが。
死始には当たっていなかった。
爆発した直後、バックステップでかわされていた。
戦争用AIだと言っていたが―
まさか地雷を避けられるなんて。
反則だろ…ハルが呟く声が聞こえた。
確かにあのスピードは反則級だ。
「せっかくの地雷を無駄に出来るかッ!一個何円すると思ってんだ!!」
ハルが強風を巻き起こし、セットしてあった地雷全てが死始に向かって襲いかかった。
いけるか―死始は避けない。
「いける!」
地雷が空中で爆発した。
死始の後部ハッチが開き、ミサイルが発射されていた。そのミサイルに撃ち落とされたのだ。
「…マジで反則」
「これは一筋縄では行かないな」
ハルがもう一度と火を放つが直前でまたもかわさる。
そのとき タタタタタッと、軽い発砲音と共に、両脇に装備されている機関銃の掃射が開始された。
「くっ……」
ハルが風を起こし、銃弾を弾き飛ばす。
あの機関銃をどうにかしないとな…
「ハル!お前あの機関銃溶かすぐらい出来るよな!?」
「出来るけど炎が当たらない!」
「それは俺がどうにかする」
「分かった!」
どうするか分からないが、今はアズマを信じるしかない。
「行くぞ!」
アズマはポケットから得意気に磁石を取り出した。
「Link」
磁石が手の平に吸い込まれてゆく。
「今 我に操られし物よ 万有の力 解き放て 」
アズマの下に魔方陣が現れた。
これで磁力を操れる、と呟いて、呪文を詠唱する。
「惹き付け合う力よ 今その力解放せん! 」
今度は死始の下に紫色の魔方陣が出来る。
死始が磁力で動かなくなった。
「ハル!行け!」
「アシストありがとよ!」
早くやって来れこっちはそろそろ限界だ…これ以上奴を押さえておけない。
「燃えろっ!!」
ハルが放った炎は―当たった。
両脇の機関銃が燃えて…溶け始めた。
――いけるか、このまま死始を溶かせるか。
「無理か」
やはり一筋縄では行かない相手だ。
しかも、同時に磁力が効かなくなってきた。「ガァァァッッッ!!!!」
その雄叫びは悲鳴であり怒りの咆哮だった。死始の口が大きく開いた。
「チャージ開始」
口が蒼白く光る。しかし、使用人の時とは明確な違いが合った。
魔方陣がある。魔方陣は普通魔力を持っている者しか作り出せないはずだ。
それなのに何故……
考えている暇は無かった。
「チャージ完了…」
死始の口から蒼白い弾が打ち出された。それは明らかにアズマを狙っている。
ダメだ、速い。どうする…こうする。
「……魔力解放」
「アズマ!やめろ…」
出来ればこれは使いたくなかった。体中の魔力が手に集まって来るのを感じながら、しっかりと死始を見据える。
死んでたまるかッ!
「魔力放出!!!」
集まった魔力は、紅い球体となって死始に向かう。
その途中、蒼白い弾を打ち消し、開いていた死始の口に入った。
爆発、
そして沈黙。
「終わった…な」
回りには、そこらじゅうに死始のパーツが散らばっている。
「あぁ…もう一歩も動けない…」
アズマはと言えば魔力を使いきって無気力状態である。
「破壊した証拠っと」
ハルが一番大きなパーツを拾い上げ、空間魔法で異次元にしまいこんだ。
「さぁ、帰ろう」
「もう歩けん…」
「おい…だから使うなって言ったのにな」
アズマが渋々の体で歩き始めた。
二人は大きな扉をくぐり抜け、闇の中に入っていった。
そして。
「…………しまった迷った」


それからたっぷり一時間、二人は歩き続け、やっとのことで外に出た。
そして依頼人の屋敷へ。
ニコは、前と同じ部屋にいた。
「死始は倒せたか」
「ああ」
ハルが大きなパーツを取り出した。
「これは死始のAIパーツだ」
アズマは
「へえ…」
と言って、『こいつのせいで苦戦したんだな』とボソッとこぼした。
「ほら、報酬だ」
50000Jを無造作に放り投げられ、手の上でお手玉をし、やっとのことでシッカリ金を掴むと、
「金を受け取ったら早く帰れ!」
いきなり怒鳴られ、
何だよ依頼頼んだのあんただろ報酬貰いに来んの当たり前だろ
とか呟きながら、二人はギルドに戻った。



「まさか倒されるとは……」

新しい仲間…達!?

ギルドに帰るといつも通りてんやわんやの大騒ぎだったが、二人が戻ってきたのを一人が見つけると、その後は皆に囲まれた。
皆から、依頼どうだったと迫られハルが答える。
「やっぱ最高ランクは大変だった、少しは疲れた。以上」
「てか依頼こなすだけでも凄いのに依頼終わらせるのも速いよな」
「それはお前達が弱すぎるんだ」
アズマが話に加わる。
「うわっそれは皮肉か!あんた達が強すぎるんだ!」
こんな風にバカな掛け合いをしていると、奥から女性が出てきた。
ギルドの最高権力者であり、自称 「無類の酒好き」であるダリアだ。
「おぉ、マスター!コイツらに何か言ってやってくれよ!」
「そうだ!この二人最高ランクの依頼をバカスカ終わらせてるんだ!」
ダリアは皆の文句を鷹揚に手を振って制す。「まぁまぁ、この二人は我がギルドの二番目として頑張ってるんだからね、だいたい、あんた達が弱すぎるわ」
「えー…マスタぁー………酷い…」
アズマとハルもあらかさまに二位扱いされ複雑な気持になっていると、それが顔に出たらしい。
「なーにあんた達も変な顔しちゃってぇ、ギルドで一番は私に決まってるでしょ」
満面の笑顔で言われ、多少傾いだ。
しかし反論の余地は無く、実際ダリアの方が二人より強い。
一対一なら圧倒的、アズマとハル二人掛かりでもやっと勝負になる位で。ダリアはそれほどの実力者なのだ。
と、言うわけで二人に反論の余地は無いのである。
「そういえばこんな話してる場合じゃないんだった…今日は新人さんが来ているのよ」
あまりない意外なイベントで、皆が盛り上がる。
「で、その新人さんとやらは何処に」
「だから今から連れて来るのよ、せっかちなんだからアズマは」
そういってダリアは奥の部屋に入ってしまった。後には様々な囁き声が残る。大概は、『女なら良いな』とかだ。
そのせいか、ギルドのメンバーは男七割程で女性メンバーが三割程度しかいない。
「はぁ、こんな奴らが仲間なんて情けない」
「そう言うな。やるときはやってくれる仲間だ――この考えには同調できないが」
助け合える、気の許せる最上の仲間だ。こういう考えも、「男だから仕方ない」と許しておく。
しかし、どうやらこんな風に許しておく奴だけじゃないようで、
周りの女性陣の目が氷の様に冷たいという事に気づいた時にはもう遅く、ギルド最強(マスターを除く)の二人に助けを求めるも、
そんなこと知ったこっちゃない反省するんだな。と見放され、失言してしまった集団はがくりと肩を落とした。
「ん、そうだ」
やらなきゃいけないことを思いだし、ある人物に会いに行く。
喧騒の中でその人物を見つけて近寄る。
「なぁクランク、」
「やあアズマ、もう帰ってきたのか」
この男はクランク。ギルド一の物知りで、情報屋。
「ニコという男について調べて欲しい」
「…そんなの調べるまでもない、ニコ・アルベルト 47歳 男 大富豪だ。ちなみに器械を開発する会社の社長だ、表向きは便利な道具を作り出す夢の会社、というキャッチコピーで売っているが裏では対人兵器や武器を作って売っているそうだ。それで金をかなり儲けているらしい。特にAI兵器の開発に力を入れている」
なんでそんなことが頭に入っているのかということは置いておいて、
「後半は知っているな」
「何故だ?」
最初は首を傾げていたが、少しすると、成る程 という顔になる。
「今日の依頼はニコが関係していたのか」
「ああ、そのAIとも戦って来た。ニコにも会ったんだが…」
地下室にあった死体の話をする。
「通報したほうがいいか」
返ってきた答えはノーだった。
「なんで…と聞かれてもこれしか言いようがない…奴は危険だ。政府は愚か、警察にまで奴の部下が忍び込んでいる、通報した所で揉み消される」
「わかった通報は止めよう」
「それよりアズマ、AIのパーツは持ってないか」
急な質問に答えは少し戸惑った。
「ある…けど」
「いいツテがあるんだ。便利な物作ってやるよ」
こう言われたら断る理由も無い。ハルからパーツを受け取りクランクに渡す。
「何日かしたら出来るだろう。渡しに行く」
再度了承し、再びギャラリーの方を向くとマスターが戻ってきた所だった。

「さあさあ連れてきたわよー」
マスターが連れてきたのは、20代位の女だった。
おぉっ。男どもがざわめく。おまえら……
しかし確かにかわいい。背が小さく、目がくりんと大きい。肩まで流れる様な黒いロングヘアー。今は大人っぽい服を着ているが、服を選べば10代に見えるかもしれない。
「しっしっ!見るな!減るから」
ダリアがギャラリーの熱い視線を追っ払う。「わ、私はレナです。あの…ギルドの皆さんに迷惑が架からないように頑張ります…」
ニ度目のざわめきが起こる。………情けなくなってきたぞ、俺は。
「あんたら、死にたくなかったら黙りなさい」
一気に周りが押し黙る。
「あ、ついでに言っとくけどしばらくはアズマ達のチームに入って貰うわ」
突然放って寄越された爆弾は見事に爆発した。アズマも、ハルでさえ唖然としている。
「あの…マスター?」
ハルは言外に、何故俺達のチームに、と聞いている。しかしレナは疎いのか何なのか、?という顔をしている。
「えー、駄目?レナちゃんはまだ入りたてだから最強チームでギルドの生活を学ぶとしたもんでしょ」
あと二人に預ければ安心だしね。
これは言わずとも分かるだろうが、周りのギャラリーとかがいるから、安心出来ないのだろう。
「俺たちは良いですよ」
取りあえずハルが了承した。
「じゃあ色々教えて上げてちょーだい。後……あの子に何かあったら」
責任は俺たち二人行きか。
プレッシャーやら責任やら沢山背負わされ重い。
「じゃあ解さーん」
この一言で集まっていたメンバーが散らばる。マスターはカウンター席につき、酒を飲み始めた、昼間だっての。
「えー、それじゃあ今からギルドの説明して行くぞ」
「はい」
「まず此処がクエスト掲示板。貼ってある紙に書いてあるのがクエスト名、内容、ランク、危険度、報酬。ランクってのはABCEFがあって、その上に最高ランクのDがある」
「D……ですか?Sじゃなくて」
「うん。Deathランクの略」
Deathランクは 常に死と隣り合わせ、これは誰が言った言葉だったか。
「で、あのマスターが酒を飲んでいる所がカウンター。まあ料理とか飲み物とか頼んだり。カウンターの右にあるドアからはマスターの部屋に入れる…入ったら殺されるかもしれないがな」
アズマの物騒な発言にレナが青ざめる。まあレナに限って殺されたりしないだろうが。
「もう寮の説明は受けた?」
「あ…はい」
「じゃあ一通り質問が終わったな…そういえばどんな魔法を使うの?」
「それは俺も気になるな」
レナは、
「私は大抵、大鎌を使います。魔力吸収の力が付加されています」
お・お・か・ま?
疑問に思っていると、レナの手に身の丈よりデカイ鎌が握られている。
「えーと…これを振り回せるの?」
「はい」
すげえな、ハルと二人で顔を見合わせる。
「後は、天空魔法と防御系の魔法を」
聞いた事の無い魔法がある。
「天空魔法って…空飛んだり出来るのか?」「ええ。魔力の消費が激しいので少しの時間だけなんですけど…」
またまたビックリ。
「わかった、あとこれを渡しておく。」
渡したのは不死鳥の紋章が入っている金色の輪だ。
「これはギルド特性の念話様ブレスレットで、これを着けていると同じ物を着けている人と念話ができる。念話って言うのは要するにテレパシーだな」
アズマとハルの手首にもこのブレスレットが輝いている。

肌身離さず着けておけよ

そう言うと少し嬉しそうに笑った。



「さて、俺たちは今日Dランククエストやって来て疲れてるからまあ請けてもBランク位までだな。どうする」
この質問にレナはかなり驚いたらしい。
さすがです。セットでマスターと渡り合えるというのは本当なんですね!と、誉められ…
「ちょっとまったそれ誰から」
「マスターから聞きました」
くそっ……いつかマスターを越えてやる。
そんな間にもハルが手軽な依頼を持ってきた「これなんかどう?」
依頼 獣系 討伐 Bランク 危険度 B

「じゃあこれにするか」


依頼主は初老の男性だった。
農家をやっているが最近農場がモンスターに荒らされているらしい。
農場に案内してもらうと、そこには三体のモンスターがいた。
猿のような感じだが、口からゴツいキバが生えている。
「モーキーか、楽勝だな…行くぞ!」
それぞれ一匹に向かって走る。相手は三体、こっちも三人だ。
アズマが一番でかいモーキーに近づくと。
ピシャッ 稲妻が落ち、アズマが手掛けたモーキーはピクリともしなくなった。
後の二人の方を振り向く。
ハルはもうモーキーを倒していた。真っ赤に燃えている、猿の丸焼きか。
レナの方は大丈夫か、
そんな心配は無用だった。
モーキーの攻撃を有り得ないジャンプ力でヒラリヒラリとかわしている。一見レナが押されているように見えるが、レナは紙一重で攻撃を避けている。断然レナの方が優勢だ。
レナが大鎌を出した。一振りでモーキーが真っ二つになった。
「どうでしたか!?」
レナが聞いてくる。
「言うことなしだ」
そこへハルが来る。ハルもレナの戦いを見ていたらしい。
「良くあんなに避けられるねぇ」
「それも天空魔法の力だと思います…」
いくら天空魔法でジャンプ力が上がったとしても並みの人間じゃああの避け方は出来ない。元々の身体能力が高いのだろう。
「じゃあ戻るか」
依頼人から報酬を貰う、依頼人は間近で三人の戦いを見たためか少しおまけを貰った。そして三人はギルドへ戻った。
「今日はもう寮に帰ろう」
この言葉でお開きになり、寮に戻った。


at dormitory -寮にて-


「なあ、あの子どう思う?」
あの子…レナの事か。
「優れてるな、特に身体能力が」
モンスターの攻撃をああもヒョイヒョイかわせるのは、彼女の身体能力の賜だろう。
「天空魔法ってやつも気になるな」
ハルの使う風の魔法とはまた違う物だろう。ハルは魔法で空は飛べない。
「アズマのLinkと同じ一品物って事は?」
世界で1つの魔法か。アズマも、今までLinkを自分以外に使う者を見たことがない。
「その可能性が高いな」
「しかもあの鎌、魔力吸収の力があるらしいね」
「俺の魔力を操る魔法と似てるな」
アズマは魔法で魔力を放出したり相手から魔力を奪ったり出来る。
「そういえば何処から来たんだろ」
まだレナの事は殆ど聞いていない気がする。
それはまた今度聞いてみるか…そう考えアズマは眠りに着いた。


《アズマさん…アズマさん!!》
何かに頭の中で話し掛けられる。
「ん…誰だ…」
《起きて下さいっ!!》
「おわっ…!分かった!起きてる!」
一人で叫んでしまい、そのせいでハルまでが起きてしまった。
「何叫んでるのアズマ」
「ああ…ちょっと…」
そう答えて、腕にブレスレットがあることを確認する。
《レナ…か?》
声の主はレナだったらしい。
《大変大変!今ギルドが大変なことに…》
《分かった落ち着け。今どういう状況だ》
《それが………とにかく来てください!》


「おいハル!ギルド行くぞ!」
「急にどうした、事情説明しろ!」
「いいから行くぞ!」
「分かった落ち着け」
「同じことを言うな!」
「は!?」
またいつものバカな掛け合いが始まり、二人で小言を言いながら、取り敢えずギルドへ向かう。
ギルドの近くまで来るともう中の騒ぎが聞こえる。いったい何があったんだ。
扉を開ける。中はいつも以上の異常な騒がしさだった。
その騒ぎの中心にいるのは……誰だアイツ。
「あっ…アズマさん!」
「おぉ、レナ!アイツ何だ」
「ギルドに新しく入ったメンバーだそうです」
レナの答えも答になっていない。
「いや…だから何であんなことやってるんだ」
普通ギルドの新メンバーは机に乗って仲間を投げ飛ばしたり蹴ったり殴ったりしないだろう。
「それは」
レナの話を聞いて代々の事が分かってきた。朝早くに新メンバーであるキリとかいうやつが来て、何やら〝俺がギルドで一番になる〟とか言ってギルドに居たメンバーに殴りかかったらしい。
「マスターは!?」
この後返ってきた答えは最悪の物だった。
「二日酔いです……」
「ハァ!?」
アズマが遠慮解釈なくあきれた顔になる。
「こんなときに何やってんだ」
「アズマ!そんなこと言ってる場合じゃない!エルフまで倒された!」
ハルの報告にぎょっとする。エルフは、我がギルドの三番手だ。
「なに!不死鳥の名が廃るぞ!」
これで一番手のチームである三人がやられたら、れこそマスターを引っ張り出さないといけない事態になる。
「俺一人で十分だ。ギルド一番手舐めんなよ」
そう残して走り出す。どうやら敵認定されたようだ。水球を作って飛ばしてきた。水魔法の使い手か、その水球を避けようとしたとき―急に、フワリと脚が軽くなった。自分でも驚くほど速く駆けれる。
「援護します!」
アズマの足元には蒼い魔方陣がある。レナがかけた魔法か。天空魔法はこんなことも出来るのか、浮かんだ疑問は頭の片隅に追いやっておく。
アズマがキリに接近し、回し蹴りを入れようとすると、目の前に水の壁出来た。しかし一瞬で脚に稲妻を宿らせる。
脚から流れた電流は水壁を伝わり、水で濡れていたキリは思いっきり感電した。
「ぎゃあああああ!!!」
キリが悲鳴を上げる。手加減したつもりだった、自分では。
こんな奴にギルド三番手が負けたなんてな……考えれば笑いが込み上げてくる。
「くそっ」
ひざまずいていたキリが立ち上がった。
人差し指をこちらに向けている。その指から勢い良く水が吹き出た。
「危ねぇ!」
水流を間一髪で避ける。水流は散らばっていたテーブルをいとも簡単に二つに分けた。
キリがまた指をこっちに向ける。
水流が連続で飛び出る。
「危ねぇって言ってんだろ!」
水流を避けながらキリに近づき、今度こそ回し蹴りを叩き込む。腹に脚がめり込む感覚を感じ、キリが吹っ飛んだ。
「どうだ!!!」
「……………………」
キリは答えない。
ハルが近づいてきた。
「アズマ君、やり過ぎじゃない?」
キリの方を振り返る。壁に激突して伸びていた。
「やり過ぎたか…」
「取りあえずマスター呼んできた」
ハルの後ろからよろよろとマスターがついてきた。
「マスターこいつ何だ」
「キリ君よ…」
「何でギルドにこんな奴が居るんですか」
「私が拾ってきたの……」
「拾ってきたぁ!?」
アズマが唖然とする。
「捨て人ですか?」
レナが真面目に質問した。
「捨て猫みたいにいうなっ!」
と、いうか…
アズマが続ける。
「素性も分からない奴を次々ギルドに入れるっていうのもどうかと…」



「え、言ってなかったっけ、レナちゃんも私が拾ってきたんだよ」


アズマとハルはレナを見つめる。その目は、〝そうだったの?〟と聞いている。
レナが俯いた、そして

「――それは言わないって約束じゃあないですか……」
マスターは見ただけで、「そうだったっけ」と考えているのがバレバレだ。そして出した解決策は、
「ちょっと気分が悪くなってきたから病室行ってるね。じゃあ!!」

―――逃げた。
さしものダリアもこの空気には勝てなかったらしい。
場に完全な沈黙がやって来た。


「ふぅ…………」
その時、レナが諦めた様に話始めた。
「私には、もう両親も友達と呼べる人も居ないんです。」

私が物心ついてすぐに、母親は病気で亡くなっていました。


その時の事はあまり良く覚えていない。
ただ、静かに涙を溢す父を見て笑いながら、「何で泣いているの?お母さんはまだ寝てるだけだよ」と無邪気に父を励ましたりしていた。
まだ幼かったから、死ということを良く理解していなかったんだと思う。

父の方は、私と同じ天空魔法の使い手で、ギルド一の魔導師だった。
そのおかげでお金には困らなかった。

でも、その生活も長くは続かなかった。
ある日、父はギルドで何者かに殺人を犯したと濡れ衣を着せられ、私達は警察に追われる事になった。
サイレンの音を何度も聞き、その度に各地を転々と逃げ回った。

だから友達と呼べる人は一人もいない。

母が生きていた頃に出来た友達は、ギルドを追われてから一度も会っていないし、ギルドを追われた後は友達なんか出来るわけ無い。
そんな生活で、町に買い物に行くのは私の役目になった、父は顔を出せなかったから。
私が買い物に行って帰って来ると、いつもは父が迎えてくれた。
でもあの日は違った。
私が買い物から帰ると、父は居なかった。
何時間、何日間待っても父は帰ってこなかった。
そして私は悟り、同時に諦めた。
父は帰ってこないと。

「分かった。レナ、もういい」

しかしレナは喋るのを止めなかった。

それから町をさまよっていたら、ダリアが私を見つけてギルドに連れていってくれました。

――――だから、

レナがニッコリ笑う。

「嬉しかったです。あのブレスレットを貰った時。久しぶりの友達…仲間が出来て…」
アズマが押し黙った。
「これからもヨロシクお願いします」


マスターが逃げた案件は以外と穏やかに終わった。

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-あらすじ- 科学と魔法の発達した世界。 魔導士ギルドが存在する世界。 そんな世界のとある魔導士ギルドに所属する最強タッグ アズマとハル(男)には毎回高難易度のちょっと危険な依頼が舞い込んでくる。 そんな二人の元にやってきた、(超)危険な依頼。 その依頼とは戦争用AIが誤作動したので倒してほしいというものだった。 ランクとしては最高ランク。 危険度MAX。 最強タッグはこの依頼を達成できるのか!?

  • 小説
  • 短編
  • ファンタジー
  • アクション
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2012-08-10

Copyrighted
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  1. 依頼
  2. 新しい仲間…達!?