世界一美味しい海鮮丼
王がいた。
王が治る国は、小さな、海に面していない国だった。だが、王は、何よりも海鮮丼が大好きであった。
毎日、王の食事は、優れたシェフたちによって作られた。食材は、隣国から取り寄せた最高級のものを使った。しかし、王は、満足することはなかった。
ある日、王は、シェフ長を呼び寄せてこう言った。
「わしが海鮮丼が好きなのは知っておるだろ、私は世界一美味しい海鮮丼を食べたいのじゃ」
「私たちが、今作っている海鮮丼では満足いかないのでしょうか?」
普段は、シェフ長は王に口答えをすることはなかった。しかし、シェフは王の海鮮丼には、多くの技巧を凝らしていたのだ。
「そんなことはないのだ、しかし、私は死ぬまでに、世界一の海鮮丼を食べてから死にたいのだ。
そして、普段食べている、海鮮丼と食べ比べをしたいのだ」
「左様でございますか、かしこまりました」
「そうか、ではさっそく調理に取り掛かってくれ、時間はどれだけかかっても構わぬ」
「王、世界一美味しい海鮮丼を食べるために、王の、食事制限をしてもよろしいでしょうか」
確かに、王の体型は、日々の暴食で樽のように大きかった。健康によって舌は肥え、空腹は最高の調味料である。そうしなければ、世界一美味しい海鮮丼は、味わえないと思ったのだ。
「よかろう、その海鮮丼を食べるまでは、海鮮丼も我慢しよう。それもまた一興だ」
王は快く頷いた。
そこから、シェフ長は多くの国に出向き、様々な海産物のルートを手に入れた。時には、海鮮丼のために、対立国にさえ出向くこともあった。新鮮なまま、海産物を国に持って来るのは非常に難しかった。そこで、シェフ長は、国内での食材の養殖を始めた。そうして、全ての食材を集めるのに、3年の月日を有した。
3年の歳月で、王の体は、引き締められ。健康的な生活が、板についていた。しかし、それも全て世界一美味しい海鮮丼のためであった。そして最終段階として、王は、2日間の断食をした。極限までの空腹と、適度な健康こそが、世界一の海鮮丼を食べる、ナイフとフォークになるのだ。
シェフ長は、調理を始めた。厳選された食材に、すべての技術を注いだ。息を吸うのもはばかるような、そんな空気がキッチンにはあった。非常に難しい調理だった、しかし、シェフは完璧に完成させた。3年の時間が、シェフの腕前をあげていた。
王は、玉座で海鮮丼を待った。その姿は、堂々たるものであった。しかし、シェフ長が海鮮丼をもって来ると、王は豹変した。海鮮丼がテーブルに置かれる前に、素早い動きで奪いとった。そしてシェフの説明を聞くことなく、海鮮丼をむさぼり始めた。
「王、お待ちください、それは」
「うまい!うまいぞ!しゃすが世界一だ」
王は、涙をこぼしながら、感謝の言葉を漏らした。
「王、それは、、、それは、今までの海鮮丼です」
シェフ長は、食べ比べをするためにまず、今までの海鮮丼を見てもらうのが先だと思ったのだ。
世界一美味しい海鮮丼