『一文字の否定』より
昨日、ユイ子と約束をした。
“渡したいものがあるんだけど、明日学校来れる?”
わたしが行けると答えると、ユイ子から“じゃあ待ってる~”と可愛い絵文字つきで返信が来た。わたしはそんな友だちとの
やり取りに両手で持ったケータイを唇に近づけた。(略)嬉しいときのポーズ、わたしの癖だ。
(略)だけど、わたしは今日、学校に行けなかった。
「また今日も学校行かなかったね。行かないんなら最初から約束しなければいいのに」
母はユイ子が可哀想と言った。
「わたしだって好きで学校に行かなかったんじゃない! 昨日は絶対に行くって決めてたもん!」
わたしが怒り出すと、母はこの場から逃れるように口を閉じた。
「わたしだってユイ子に対して申し訳ないと思ってる。明日学校で会う約束をしても次の日学校に行けないことがよくあるし…」
「じゃあどうしてそんなに怒るの? 本当はユイ子ちゃんに悪いと思ってないから怒ったんじゃないの」
わたしは言葉をなくした。
それは母の言葉が図星だからなんかじゃなく、こんなやり取りを今まで何度も繰り返してきたというのに、
わたしたちは未だに同じことを繰り返しているという現実に気づいてしまったからだった。
(略)「これ、ユイ子ちゃんから渡してって頼まれてたもの。遊園地のお土産だって」
先生から渡されたのは可愛いキャラクターの描かれたクッキー缶だった。
ユイ子がメールで渡したいって言ってたやつだ。わたしが約束を破った日のーー……
わたしはそれをカバンに入れながら、頭の中でメールのことを考えた。
『一文字の否定』より