まる、しかく、さんかく、それから

 まるかった。まるかったし、しかくかった。しかくかったし、さんかくかった。さんかくかった、ということばは、意味がわからんちんです、と言われた。クラスでいちばんかわいい子で、雪女のように髪が長かった。学校でいちばんきれいなひとは、鬼のように髪が短かった。クラスでいちばんかわいい子が二等辺三角形なら、学校でいちばんきれいなひとは菱形だった。ぼくはクラスでいちばんかわいい子とも、学校でいちばんきれいなひととも、キスをしたことがあった。クラスでいちばんかわいい子のくちびるは生魚の味がして、学校でいちばんきれいなひとのくちびるは臓物の味がした。
 あたまのなかのことをことばにすると、にんげんはみんな離れていった。ぼくがあたまのなかで考えていることはおかしなことなのだと言ったのは、学校でいちばんスポーツができるひとだった。バスケットボールが得意で、五角形みたいなひとだった。そうか、ぼくはあたまがおかしいのか、と思ったけれど、でも、それはまちがっていると思い直した。世間とずれたことを言うとすぐ、変なひと、おかしなひと、と決めつけられるのって、ぼくのあたまのなかよりそっちの方がよっぽどおかしなことではないか、と思ったからだ。みんながみんなおなじことを考えていたら気持ち悪い、なんてことを言ったひとがいたような気がするし、いなかったような気もする。地球はまるかった。世界はしかくかった。学校はさんかくかった。三角形の先っちょで心臓をつんつんされているような感覚が、いつもあった。こわかった。こわかったから、学校でいちばんきれいなひとの右腕をかんだ。学校でいちばんきれいなひとの、かじりとった右腕の皮膚の下から、水色の小さなお花があふれてきた。学校でいちばんきれいなひとは、水色の小さなお花の集合体だった。クラスでいちばんかわいい子はにせものの宝石の集合体で、学校でいちばんスポーツができるひとはアオスジアゲハの集合体だった。ぼくのまわりのひとの多くは、なにかしらの個体が寄せ集まって形成されたひと、なのだった。ふしぎだね。おもしろいね。きょうもにんげんは、にんげんらしく生きようとがんばっているね。かわいいね。ぼくは、ぼくの家のとなりの家に住んでいるカンガルーに、そう言った。カンガルーは庭を、ぴょんぴょん、ぴょんぴょん、跳ねまわっていた。どうでもいいってかんじで、ぴょんぴょん、ぴょんぴょん、跳ねまわっていた。

まる、しかく、さんかく、それから

まる、しかく、さんかく、それから

  • 小説
  • 掌編
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2017-06-03

CC BY-NC-ND
原著作者の表示・非営利・改変禁止の条件で、作品の利用を許可します。

CC BY-NC-ND