桜にまつわるお話でした。

高校生のお化けものです。お化け物と言いながら、あまり怖くなりそうにありません。けれど、楽しんでいただければと思います。
お化けの話は物語です。

序章

 「僕のこと見えるの?」
かわいい少年は、俺に問いかける。
「見えるよ。」
俺は、うなづきながら答えた。
すると少年は、微笑みながら俺に抱きついた。
そして・・・消えた。
少年に触られた腕には感触が残っている。
とりあえず俺は、遅刻だ。

 宮坂克樹(みやさか かつき)、高校1年。ちょっと変わった男の子とでも言おうか。
俺には、見えない物が見える。見えてはいけない物が見える。
別に神社の息子でも、寺の息子でも、家系的に陰陽師でもない。
でも、俺には見えてしまう。そっち系の類の物が。
今まで幾度となく変なことに巻き込まれそうになってきた。
中学校に入って俺はスルーという技を身に着けた。
何が出てきても驚いた表情は出さない。
俺には何も見えてないを決め込んでここまできた。
しかし、高校に入ってからスルーの技が使えなくなってきた。
何故なら、相手にもわかるくらい霊感というものがレベルアップしているらしいのだ。
 厄介だ・・・。
害のない相手なら良いのだが、ちょっとアレだと厄介だ。
俺には、霊媒師のような力はない。絡まれると逃げるしかない。
そして、もっと厄介なのがこの学校の同じクラスにいるわけだ。
「また遅刻か。」
「うるせぇよ。」
こいつ、神社の息子。斎宮亜貴(さいぐう あき)だっけ多分。
こいつに、相手から逃げてるところを見られてから何かとかまってくるわけだ。
こいつも少しくらいは見えるらしい。どうでもいいが。
今まで人に関わらないように生きてきたのに、こいつのせいで台無しだ。
なんのために髪を金に染めて、ピアスを空けて、人が近寄らない雰囲気を出してると思ってるんだ。
「何か、あったのか?」
こいつは周りから見れば、口数が少ないクールな二枚目らしい。
「なんでもねぇ。」
そして、俺は近寄っちゃならないどこぞの不良だ。
なんでこの組み合わせが成り立つのか誰か教えて欲しい。
とりあえず、こいつは神社の息子だけあって、俺よりも詳しい。
なんだかんだといろいろと助けてもらってるわけだ。気に食わないがな。

 「桜の話を知ってる?」
なんだか騒がしいと思ったら、クラスの連中が怪談をしているらしい。
「4丁目の桜の下を夜中の0時に通るとお化けが出るんだよ。」
えぇ、なにそれ怖い。やだぁ。
 女子の声がうっせぇ。
イライラしながら立ち上がった。みんなが少し振り返る。
睨む。みんなよそを向く。まぁ、いつも通り。
「どこにいく。」
「飯だよ。」
購買でサンドウィッチを買って屋上に向かった。
 げっ。
斎宮が弁当食ってる。
「なんでいるんだ。」
「弁当食ってるだけだ。」
チッ。舌打ちしてから、やつから5mはなれた場所に腰をおろす。
「さっきの話、どう思う。」
「あ?しらねぇよ。」
俺はサンドウィッチをほおばる。入れすぎた。むせた。
斎宮は無言で立ち上がり、無言で茶を差し出してきた。
俺も無言で受け取って、喉のつっかかりを流した。
「俺は、小学校のとき、桜で死んでいた女の子の話を聴いたことがある。それとの関連だと思うが。」
「黙れ。その話、すんな。」
「やっぱり、知ってるんだな。」
こいつの何もかも見通してますって感じが気に食わない。
 何も知らないくせに。
「俺には関係ない。」
俺はもくもくとサンドウィッチを噛みくだして胃に入れた。
斎宮も黙って俺の隣で弁当を食ってる。
離れて食えよ・・・。言う気力もない。

 「美香が見たんだって。桜のおばけ。」
どうせおもしろ半分で見に行った奴だろう。
「そのお化け、美香に『きて』って言ったんだって。あの世に来いってことかな。」
それから、うわさは広まっていったらしく学校中で騒ぎになった。
見に行って見た奴が何人もいるらしい。それは信憑性も増すだろう。
俺は、関係ないを決め込んでいた。
斎宮も何も言ってこない。
 けれど、体調を崩した奴まで現れた。
ここまでくると、うわさには拍車がかかる。
「うっせぇ・・・。」
「ここまでくると、そろそろ様子見に行かないと行けない。」
斎宮がつぶやいた。こいつの親父さんはそっち関連の仕事によく赴いている。
「親父さんは?」
「今、出張中だ。俺がやることになる。」
「あっそ。」
こいつは跡取りだ。当然だ。やるのが当然なのだ。
俺は、心の中で繰り返した。

 

「きて。」
俺は、無言で首を横に振った。
嫌だ、近寄りたくなんかない。
「きて。」
悲しいそうな顔をする彼女を目の前に俺は逆方向に走り出した。
季節じゃないにも関わらず、夜の月明かりに照らされて桜の花が散った。

ガタッッッ!!!
俺は飛び起きた。
周りの視線が一気に俺に注がれる。
 授業中かよ。
俺は、無言で座りなおす。どうやら、居眠りをしたらしい。
 気分悪い夢だ。
ここ最近ずっと毎晩この夢が続いている。
 俺にどうしろというんだ。

「何かの夢でも見ていたのか。」
「あ?しらねぇよ。」
なぜか俺は屋上で斎宮と昼飯を食ってる。なぜだ。
「今日夜、桜を見に行く。」
「だから、しらねぇって。」
「桜の夢だったのか。」
落ち着いた声で斎宮は俺に聞く。
少し黙った俺に斎宮はため息をついた。
「一緒にくるか。」
「なんでだよ。」
「少なくとも、関連はあるんだろう?」
分かったような口を利きやがる。
「怖いか。」
「俺が?何を怖がるって?」
嘲るように笑ってやった。でも斎宮の目を見れない。
「・・・俺が盾じゃ不満か。」
「あ?なにいってるんだ。」
斎宮の箸がとまる。
「つまりは、一緒にこいってことだ。」
「・・・命令かよ。仕方なく行ってやるよ。」
俺は仕方なく桜を見に行くことになった。仕方なくな。
斎宮が一人でなんとかできるとも思わねぇし。
ある意味、俺のせいでこいつが怪我とかするのも面倒だ。
「準備できたら、お前の家に行く。」
「はいはい。」
やる気なさげな俺の返事に斎宮は何も答えず、箸を動かし始めた。

中Ⅱ

 夜中の12時、桜の木の前に座る男子高校生二人。
俺ら、何やってるんだ。とは、考えてはいけない。
「野郎と桜見ても楽しくねぇな。しかも、咲いてねぇし。」
「桜を見に来たわけではない。一応、幽霊は女だろ。」
夜食のおにぎりを頬張りながら、二人でとりあえず暇してる。
なぜなら、幽霊が出てこないからだ。
「暇だろう?お前と、幽霊の女の関連を教えてくれないか。」
「めんどくせぇ。」
「どっちにしろ、狙いはお前だろう?」
「・・・。」
確かに、あの幽霊女が欲しいのは俺だろう。
「何で今更になって、また出てきやがったんだ・・・。」
つぶやいた俺の声に即座に返答がきた。
「お前の霊感が強まったからだろ。時期を見計らっているんじゃないか。」
「なんで、俺なんだよ・・・。」
俺の声がかすれた。別に泣いてるわけではない。ただ、嫌な過去だ。
「お前じゃないと、いけないからだろ。」
たんたんと述べやがった。斎宮、ほんとお前嫌いだ。
「そんなに聞きたいか。あの女との関連。」
「話せるのか。」
「もういい。言わないのも疲れた。」
俺は話しはじめた。

 あれは俺が小学校のころの話だ。
いつも幽霊が見えていた。これは、今と変わらない。
ただ違うのは、友達がいたことだ。
ナナ。そいつが一番仲良かった。
 俺、お化けが見えるんだ。
ナナだけは信じた。俺の言ってることを。
他の奴らは信じないし、気味が悪いと言うやつもいたからな。
だから、俺はナナがとても大事だったよ。
でも、この桜の女が俺の前に現れた。
「きて」って言ってやがった。でも意味が分からない。
この話をナナにしたら、見たいと言い出した。
だから、夜中にナナと見に行ったんだ。
ナナもこの女が見えた。
驚いたナナは車道に飛び出して、轢かれた。ひき逃げされた。
桜の木の下に移動させたのは俺だよ。
救急車も呼んだ。でも間に合わなかった。
ナナがあの女が見えたのは、俺のせいなんだ。
俺と一緒にいたせいで、俺を媒介として見えてしまった。
俺がナナを殺した。ナナの人生を奪った。
俺が、ナナを・・・。

身体が震える。力を入れすぎた手に爪が食い込み血がにじむ。
斎宮が俺の手を掴んだ。無理矢理手を開かせる。
俺は手を振りほどこうとした。だが、思った以上に握られてる手が強くてできない。
唇をかみしめる。そして叫んだ。
「だから、お前と一緒にいるのも嫌なんだっ!!今まで人を避けてきた。なんで、俺にかまうんだよっ。」
何故か汗が滴り落ちる。斎宮は掴んだ手を緩ませない。
「お前が言ったんだろ。一人は寂しいよなって。」
 は?
俺の思考は止まった。なんの話だ。
「俺がお前を初めて見たのは、入学式の日だ。お前が追っかけられてる日じゃない。」
入学式の日、確か、あの日も遅刻した。
公園で男の子が泣いてた。母親とはぐれたと泣いていた。
あの時、こいつに、斎宮に見られていたというわけか。
「意味・・・わかんねぇ。それだけかよ、理由。」
「寂しいって言ったときの表情が、あまりに印象に残ってな。」
「だから、なんなんだよ。」
「お前を知りたくなっただけだ。ただそれだけ。理由なんてつまらないものだろう?」
斎宮は少し微笑んで見せた。とりあえず、こいつ意味わかんねぇ。
掴まれてた手が解放された。
「もう手を強く握る気力も失せただろう?」
俺の気を紛らわすための作戦だったのだろうか。あいかわらず読めない男だ。
そして、やつのハンカチで手当てされているのにも腹が立つ。
 やっぱりコイツ嫌いだ。
でも、コイツの手は嫌いじゃない。

中Ⅲ

 桜の花びらが舞っている。
一向に女が現れない。
「お前がいるから、現れないってことはないか。」
斎宮に言ってみる。こいつは、神社の跡取り息子だ。
警戒されているということはないか。
「離れたら、危ないだろ。」
「俺はそんなにか弱くねぇよ。」
呆れ顔で言う俺に対して、斎宮は少し黙って立ち上がった。
5m離れてみる。
「このくらいか。」
「もっと。あと、20mくらい。」
案外離れた。声を少し張り上げないと聞こえない。
「こんなんで現れるのか。」
「知らん。」
俺は声を少し響かせた。斎宮の耳にも入るように。

 風が強い。桜の花びらが次々と散っていく。
花は儚いから良いのだと、誰かが言っていた。
儚いから、きれいなのだろうか。それとも、きれいだから儚いのだろうか。
花びらが舞う間から、女の姿が見えた。
目の前に女がいた。
「きて。」
お決まりの台詞だ。俺は一歩女に近づく。
女は手を伸ばして俺の首に手を当てた。冷たい。
背筋が凍りそうな冷たさだ。
俺は動かなかった。女をただ見つめた。
「宮坂っっっ。」
俺の名が呼ばれた。と同時に女の手が払われた。
目の前に斎宮が立つ。
「足速いな、おまえ。」
「こういうときのためにな。」
冗談めかして言う斎宮は、女を睨む。
「何が目的ですか。」
斎宮のことばに、女は黙って俺を指差す。
ご指名というわけか。
「斎宮下がってろ。俺じゃないとだめらしい。」
ふいに肩を掴まれた。なんだよ。と、睨む。
「のまれるなよ。」
そのことばに返事を返さずに女にことばを続けた。
「何がしたいんですか。」
女は俺の手を握った。その瞬間ことばが流れ込んできた。
 なんだこれ。こんなこと昔はできなかった。
女の話では、この桜の木は霊木らしい。あってはならないものだ。
そこで女は、見える俺に伝えようとしていたという。
切って・・・。女はそう言いたかったらしい。
 悪いものではなかったわけか。しかも、勘違いかよ。
俺は気を抜いた。おろかにも。
「桜を切ってください。そうすれば、少女も浮かばれる。」
 少女?
女の後ろに女の子が立っている。
ナナだった。当時のままのナナだった。
「この霊木にしばられたままです。」
そんなまさか。だって、ナナはちゃんと。
いや、本当にちゃんと成仏したのかなんて確認してない。
俺は、ナナの幽霊を見ることはなかったから。
「ナナ、ごめん。ずっと、ずっとここに・・・。」
ナナは悲しい表情のまま俺を見つめる。
「ごめん、ごめん・・・。俺は、ナナを殺した。」
ナナは黙って、手を伸ばす。
俺も手を伸ばした。あの日、救えなかった手を握ろうとした。
「宮坂っっっ!」
後ろ手に引っ張られた。目の前にトラックが行過ぎる。
「轢かれて死にたいのかっっ!?」
どなり声に俺は我に返る。今俺、死ぬところだったのか。
「のまれるなと言ったはずだ。」
目の前の女は消えていた。ナナもいない。
斎宮は汗だくな上に、手は傷だらけだった。

終章

 桜の花びらがヒラヒラと散っている。
俺は、斎宮にもたれかかったままの状態だった。
あの時、こいつがひっぱってくれなかったらと思うと少しゾッとする。
斎宮はまだ俺の手を握ったままだった。
その手は何故か傷だらけで、血を流している。
「その手、どうした。お前、何してんだ。」
「それは、こっちの台詞だ。のまれるなというのにのまれやがって。」
斎宮はやっと俺の手を離した。
「血が付いた。悪い。」
「どうでもいい、そんなこと。」
俺は自分のハンカチを取り出す。
斎宮のハンカチは俺の手に巻かれたままだから。
「縛る。手貸せ。」
俺は正直手当てとかは苦手だ。とりあえず、血が止まればいいだろうときつく締める。
「いってぇ・・・。お前、できないならできないと・・・。」
「うるせぇよ。で?何があったわけ。」
俺はきつくきつく縛りながら、何があったのか聞いた。

 俺はお前に「のまれるなよ」と言った後、黙って見てた。
すると、女はお前の手を取った。
その瞬間お前の表情が変わった。驚いていたようだった。
その後だ。お前は女の後ろを見た。
そして、謝りだした。何もないところに。
だから、俺はお前に触れようとした。
でも、駄目だった。何かに阻まれているようだった。
だから、桜の枝を何本か折らせてもらった。
桜の木の安定が崩れたから、お前の手を掴めた。

 何もないところ・・・だと・・・。
俺は、幻影を見せられたというのか。
「お前の一番の弱みだろう。のまれたんだ。」
「・・・ナナになら殺されてもいいと思った。」
斎宮は俺の襟を掴んだ。
俺は、力を入れなかった。
「俺が殺したナナに、殺されても仕方ないだろ。」
「お前が殺したわけじゃない。」
「どんな状況であっても、ナナを殺したのは俺だ。」
 だから、死んだとしてもしょうがないと思った。
次の瞬間頭に激痛が走った。
「いってぇっっ!」
斎宮の野郎、頭突きしやがった。
「お前の大事だった友達は、お前を殺そうとするやつなのか。」
「そんなわけ・・・っ。」
そうか、確かにそうだ。ナナはそんなことしない。
「馬鹿だ・・・俺は。」
「そうだな。」
斎宮は、たんたんと言いやがる。むかつくけど、正しい。
目から滴が落ちそうになるのを手で覆う。
 見られてたまるか。こいつなんかに。
覆っているのに気づいたのか、斎宮が俺の手を掴む。
「でこ、そんなに痛かったか。」
「ちげーよアホ。手離せっっ。」
こいつは肝心なところを分かってない。
 やばい、涙落ちそうだ。
必死に抵抗したが、むなしく駄目だった。
 なんでこいつこんなに力あるんだよ。
「痛いってことにしておけよ。泣く理由になるだろ。」
 こいつ・・・。覚えておけよ・・・。
俺は心の中でつぶやいて立ち上がった。
「泣いてねぇよアホ。帰るぞ。」
俺は早歩きで進んでいく。
斎宮も俺のすぐ後ろを歩いているようだ。
俺の流している涙を知ってか知らずか。

 桜の木は、斎宮の親父に切ってもらったらしい。
これであの噂は自然と消滅するだろう。
俺は屋上でねっころがりながら、晴れた空を見ている。
授業中だが、知らん。今はそんな気分じゃないんだ。
「で。何でおまえまでここにいるんだよ。授業受けてこいよ。」
隣で座っている斎宮に嫌味ったらしく言ってやる。
「授業を受ける気分じゃない。」
「お前、柄にもなく不良かよ。」
「不良なら、お前といても不自然じゃないんだろう?」
 は?なにそれ。そんなこと言ったっけ。
「意味わかんねぇよ。だいたい、お前不良らしくねぇ。」
二枚目クールな不良って、どこのマンガだよ。
ふいに斎宮が、俺の髪に触る。
「なに。」
「この色にすれば、見えるか。」
斎宮が微笑んだように見えたのは、気のせいだ。気のせいにしとけ。
「冗談じゃねぇよ。お前は真っ黒でいろよ。永遠に。」
いろいろな意味をこめて言ってやる。
とりあえず、なんでか一緒にいるわけだが決して仲良くはない。
これは断言しておく。
俺は、友人なんか作らない。
これからも、変わらない。     多分。

桜にまつわるお話でした。

今回は、男子高校生の幽霊がらみのお話というわけで書かせていただきました。幽霊にもかかわらず、なんとも怖くないお話になってしまいました。ホラーというのには、嘆かわしいので青春というジャンルでやらせていただきました。主人公の宮坂君は、とても複雑ですね。書いててさらに、複雑になりました。
 この二人の幽霊物語ですが、もし話が浮かべばまた書いていこうと思います。最後まで読んでくださった方、ありがとうございました。
追伸:途中で、桜の花が咲いていないシーンと咲いているシーンがあるのは怪奇現象の一部としてご理解いただければと思います。分かりにくかったと思うので、ここに記しておきます。

桜にまつわるお話でした。

俺は見えないものが見える。また、厄介事のお話だ。

  • 小説
  • 短編
  • 青春
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2012-08-09

Copyrighted
著作権法内での利用のみを許可します。

Copyrighted
  1. 序章
  2. 中Ⅱ
  3. 中Ⅲ
  4. 終章