言ノ音

言ノ音

子供の成長
自分の老い
失うものは多く
子供もその一つ

フクジュソウ

寒い、寒い冬
「そろそろかな?」
夫の夕樹(ゆうき)がニットに包まれながら私の大きなお腹を撫でた。
「もうすぐだよーきっと」
夕樹に微笑む
「俺に似るかな?紅音に似てほしいなー」
「一重さんだもんねー、でも私に似たら負けず嫌いだね」
「それは俺も一緒」
あははっと笑う、こんな幸せがいつまでも続くんだ
子供も生まれて、夕樹もいて
幸せだな。
「あ、今蹴った!」
「お!また蹴った、元気だなー」
幸せも、楽しいもきっと、もっと増えるんだ
「じゃあ、俺そろそろ行くな」
マフラーを巻きながら夕樹は言う
「玄関まで送るよ」
「いいよ、妊婦さんは休んでてください」
「えーじゃあ、エレベーターまで!!」
「仕方ないなー」
夕樹が笑いながら言う
私もやった!なんてはしゃぎながら
新婚さんみたいに手を繋いでエレベーターまで歩く。
病院の中は静かで、誰にもすれ違わなかった
「明日も来るから」
「うん、待ってる」
「無理するなよ?」
「うん」
「好きだよ」
「大好き!」
バイバイて手を振れば夕樹も笑って手を振る
お腹の中の夕樹と私の子もバイバイってお腹を蹴った

病室にゆっくり戻る
初めてのデートで一緒に買ったオルゴールのねじを回す
童謡が優し気に流れる
「貴方のパパはね、とってもかっこいいんだよ」
お腹をさすりながら問いかける
大体、妊娠6か月を過ぎた辺りから赤ちゃんは音が聞こえるらしい
「早く明日にってほしいねー、ママ、パパに会いたいよ」

「遅くなってごめん」
息を切らして戸を開けたのは夕樹だった
いつも4時に来てくれるのに今日は6時
「来ないかと思った」
涙で滲む風景
「ごめんごめん」
まるで小さな子をあやすように抱き締めて、頭を撫でる。
とてつもない安心感で涙があふれる。

ああ、今日は白ニットのVネックなのに汚しちゃうじゃん
そんなことを頭のどこかで考えて
でも泣き止むことはできなくて
夕樹はただただ、泣きじゃくる私をよしよしって撫でてくれて。
やっぱり優しいなって
心がぽかぽかして、でも涙は止まらなくて
「もー顔ぐちゃぐちゃ」
夕樹の大きな手が私の顔を包んで、顔を上げさせられる
「だって、だって夕樹のせいだし」
えぐえぐ言いながら途絶え途絶えに、夕樹に訴える。
「もー何それ」笑いながら抱き締めてくれた

「可愛い顔が台無しじゃん」
高校時代から何回も聞いたこのセリフは私を恥ずかしくさせる
「泣き止んだ」また笑う夕樹
むーって拗ねてみたりしてみる。
大人げないかな?
夫婦の間には関係ないか
なんて思ってみる
幸せな今日この頃

ロウバイ

「パパまだかなー?」
ベットの上に座り大きなお腹をさする
現在時刻4:21
ちょっと遅めである
今日はちょっとだけ大事なお知らせをしようと思う
この子の性別の話
「パパ遅いねー」
拗ねたのかお腹を蹴られる
結構いたいのです

コンコン2回ノックの音
「ごめんなー渋滞にはまって」
走ってきたのかちょっと息が上がってる
「渋滞?珍しいね」
冷蔵庫を開けながら答える
「車が事故っちゃったみたいでさ」
「あらら、ほい」
お茶の入ったペットボトルを投げた
「ありがと」
難なくキャッチした
ゴクゴク音を鳴らしながら半分ぐらい飲んだ

少し落ち着いたところで例のお知らせ
「夕樹さん!」
「はい」
「お知らせです!」
ピシッと姿勢を正す
「な、なんでしょう」
夕樹も姿勢を正す
「なんと!」
「なんと?」
「女の子です!!!」
「おぉおおおお!!!!!!」
思わずハイタッチ
このあと看護婦さんに注意されたのは言うまでもない

言ノ音

言ノ音

『草ノ音』に登場する母のお話 結婚とは 子供とは 自分とは…

  • 小説
  • 掌編
  • 青春
  • 恋愛
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2017-05-28

Derivative work
二次創作物であり、原作に関わる一切の権利は原作権利者が所有します。

Derivative work
  1. フクジュソウ
  2. ロウバイ