八百万のツクモガミ

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第一話

 横腹に鋭い蹴りが入る。それを認識した時にはもうすでに彼の視点が二転三転とした。
 とっさに地面を殴り、その反動で態勢を立て直したが、相手はさらに追撃を加えてくる。それを彼は持ち前の反射神経で対応するも、一撃一撃微かに掠る。
 回避能力だけには自信があった彼だが、どうやら相手はそれだけ強いということだと、今更ながらに理解し、距離を取ろうと跳躍し一瞬の浮遊を生み出した。
 そしてそれを見逃すほど相手は優しくはない。
 彼の心臓部に掌底が突き刺さる。

「げっっごっ!?」

 息が詰まり、その勢いで地面を転がる彼。そこへ追撃として蹴りが入った。更に加速した彼の体は付近にあった家屋へと突っ込んだ。

 突っ込んだ彼は頭を振って無理やり混濁する意識をなんとかつなぐ。熱を帯びた太ももには大きな木の破片が突き刺さっている。その太ももに突き刺さっている木の破片を抜きさりその痛みで意識をはっきりとさせた。

 そして、何故こんな状況になっているのか。彼は思い出し始めた。



 彼、喪々寿 敬太は教室の一角にてふと目を覚ます。寝てしまったと敬太は目をこする。
 寝惚け眼で教室の時計を見上げるともう終礼の時刻を過ぎている。
 彼はそれに慌てた様子を見せた。

「やばい、ジム!」

 彼は日課であるボクシングジムでの運動をこんな事で途切れさせたくはなかったのだ。

 この赤山学園からそのジムまでは大橋を渡らなくてはならない。そしてそこまでの道のりもまた遠い。

 その道のりを思うと憂鬱な気分になりながら敬太は鞄を背負い校舎をあとにした。その途中でぶつくさと文句を口にする。

「なんで起こしてくれないんだよ。そうすればもっとやりようがあったのによ」
『煩い。何度も起こしたのに起きなかった方が悪い』

 独り言にも聞こえる敬太のそれに、答えるものがあった。
 しかし彼の周りには誰もいない。
 その声の主は、拗ねたようにいじけた声を出す。

『だいたい授業中に居眠りする事自体がダメなんだよ。いいか?そもそも授業とはな……』
「煩いぞツクモ黙ってろ」
『むきーっ!人が親切に教えてやろうとしたのになんだその態度!』
「そもそもお前人じゃねえだろ」
『おう、なんだその態度、呪うぞ』
「神さまに言われるとシャレにならないからやめてくれ」

 げんなりとする敬太。彼は確かに神さまと言った。
 種明かしをしてしまうと彼が御守り代わりに持つ手袋、それに憑いている付喪神、それがその声の正体だった。

 自転車に跨り、坂を下っている敬太にはその付喪神のツクモの声が聞こえる。
 物心ついたときにはもう既に聞こえており、それで周りには気味悪がられたのは彼の中ではもういい思い出だ。

『まぁ、呪えるほど力なんてないんだけど』
「じゃあなんで言ったし」
『その場のノリ』
「神さまのくせに俗物っぽい言い方だなオイ」
『だってぇ、僕は神と言っても末端だしぃ〜ケイと同じで友達いないしぃ〜』
「自分を下卑するのはいいが、人の悪口を言うのはやめようか。それに幼馴染はいるが?」
『そこは優しく慰めるところでしょ?』
「人を貶す奴に慰めなんていらんだろ、それにそんな真似が俺に出来るとでも?」
『あー。確かに無理っぽい』
「否定しろよ」
『する要素がないからね』

 軽口を叩き合っていると、大橋が見えてきた。勢いをつけてその大橋の坂を登り始める。

『ほれほれ、頑張れ頑張れ』
「うっさい!耳元で叫ぶな!」

 敬太は息を切らす事なく、全力で疾走する自転車。ぐんぐんと失速する事なく登り切る。あとは下りだけだ。そこまで行ったところで唐突にツクモが宣言した。

『あ、そうだ。暫く僕は君から離れるけどいいかい?』
「む、いきなりだな。何があった?」
『何、少し野暮用さ。別に心配されるほどのものじゃない。だから今日は神社参りはしなくていいよ』
「わかったわかった。早く行けったら」
『じゃ、また後で』

 その言葉を皮切りに会話が途切れる。
 おそらく行ったのだろうと敬太は先ほどの流れから考えた。

『行ったと思った?』
「はよ行けや!」
『はーい』

 ケラケラと笑った後でツクモの気配が完全に消える。
 漸く行ったかと敬太はため息をついた。
 しかしツクモの言葉に彼はどうも違和感を覚えていた。

「あいつがあんなに茶化すなんて、何か嫌な事があるのか?」

 長い付き合いだからか、敬太とツクモはなんとなく相手の思っている事がわかってしまうのだ。だから彼は無理に取り繕うツクモを心配した。

「……神社……か」

 それでツクモが露骨に近づけたくなかった事柄に敬太は自ら近づいていく事にする。
 つまりは近場にあった神社に立ち寄る事にした。





「で、今に至ると……なんで戦ってんだ俺?」

 わからないなぁ。と首を振る敬太。
 顔を相手に向ける。その者は赤く燃える炎のような色の、まさしく炎髪をたなびかせて素人目からしても見事な名刀を持ち直した。

「負けを認め、神器を差し出すのならば楽に殺してやる」
「見逃してすらくれねぇのかよ。つか神器ってなんだよ……全く」
「あくまでしらばっくれる……か。成る程、確かに術師らしいな」
「術師……?」

 新たな単語に反応する敬太。
 その反応が少し気に障ったのか真っ赤に染まった目で彼を睨みつける。

「ああ、もう喋らなくてもいいぞ。どうせ殺す」
「素直に殺されてやるわけにゃいかないんでね。精々抵抗させてもらいますよ」

 直後、相手の姿が掻き消えた。

(首っ!)

 直感で狙ってくる場所を当てた敬太はなんとか薄皮一枚切られるだけで回避した。
 そして、相手が動揺したところでジャブを放つ。
 しかし。

「なっ!」

 伸ばした腕をぶった斬られた。だが、痛みを押し殺し、咄嗟に斬り落とされた左腕を右腕で掴み取り、それを相手に叩きつける。

「うらぁっ!」
「!?」

 流石にこれには相手も面食らってしまったのか一瞬動きを止める。
 その隙を逃さず残った腕で殴りつけた。しかし片腕を失った事でバランスが取りにくくなり、まともな一撃は入らなかった。
 思ったダメージを与えられず、距離を取ろうとバックステップをする。と同時に相手が前方から消え失せた。

(背後!)

 突然現れた後方の殺気に反応して振り返る。敬太は斬撃が放たれる直前に携帯を取り出し、側面にあるボタンを押してフラッシュを焚く。そして、そのまま斬撃の軌道に置くように携帯を手放す。
 予想通り、携帯は真っ二つに斬られる。
 目眩ましされた相手はその感触にぎょっとして、隙を晒した。
 敬太はそれを見逃す事なく、相手の懐へと入り込み、巴投げの要領で投げ飛ばす。
 飛ばされた相手はその家の家財道具に激突して煙をたてる。相手の姿が見えなくなったところで敬太は逃げ出した。あんなのを相手にしていたら必ず死ぬと理解していたからだ。
 しかし足が縺れ無様に地面へと倒れこむ。その原因は……

(さっきの怪我か!)

 この家屋に突っ込んだときに突き刺さった木片が生み出した怪我。それが足を限界に追い込んだ原因だった。
 立ち上がろうとしても、うまく体が動かない。血を流しすぎたのだ。

 だが、彼は諦めなかった。地面を這い、たとえ無様だろうと生きようとした。

 そんな彼に家財道具の残骸の中から抜け出ていた相手が彼の首を刎ねんと彼の横へと跳んでいた。


 刹那の間に彼の首は斬り落とされ……

「させない!」
「「っ!?」」

 ようとする寸前で介入してきた第三者によって弾かれた。期せずして生き残った敬太は相手と自身の間に立ちはだかる少女の姿を見上げる。
 その少女はゆっくりとこちらを向いて泣きそうな顔で呟いた。

「ああ、よかった。生きていてくれて……ありがとうっ」

 敬太は前に見た時よりも成長しているが確かに見覚えのある少女の名を呆然と口にした。

「|日向(ひなた)……なのか?」

 それは疎遠になっていたはずの幼馴染の名であった。

八百万のツクモガミ

導入としては、どうだったでしょうか?

八百万のツクモガミ

『俺は愛がわからない』そんな青年と八百万の神々にその眷属、そして妖が織りなす物語。

  • 小説
  • 掌編
  • ファンタジー
  • 青春
  • アクション
  • 青年向け
更新日
登録日
2017-05-27

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