普通の家族
家族パズル
父さんは努力家だ。父さんが嫌いな僕でも、それは認めざるを得ない。
毎日遅くまで働いてくるのに、休日になるとどこかへ連れて行ってくれたり、ある日なんかは仕事に行ったり、忙しそうだ。
…普通の家族だ。
溜息をつきながら珈琲を飲む姉に、
「うちって普通じゃないの?」
と聞いたことがある。あれは小学1年生ぐらいだっただろうか。
自分の家のことなど、なにも知らなかった。ただ、普通じゃないような気がしたんだ。
友達の家に遊びに行くと、大人の女の人がいて、出迎えてくれた。
その人がお菓子を作ってくれたり、友達が悪さをすると叱ったり、こぼしたジュースを苦笑いしながら拭いてくれたりするのだ。
「あの人、誰?」
と友達に聞くと、決まってこう返される。
「何言ってんの。母さんだよ」
そのたびに僕は小さく何度も頷くのだった。
おかあさんってなにか、知らないから。 おかあさんってなんなのか、知らないから。
親っていうのは、男だけだと思ってた。
世の親はみんな、男なんだと思ってた。
毎日夜遅く帰って来て、それから夕飯を作って、…それまでは僕も姉も夕飯が食べられないから、宿題をしたり、ゲームをしたり、遊びに行ったりして過ごすのが、 当たり前だと思ってた。
だけどそれは普通なんかじゃなくて、僕たちの家が違うんだということに気が付いたのは、小学2年生の夏だった。
それでも。
父さんが母さんと別れてしまったこと、憎んでも。
父さんが嫌いだって思っても。
家族、なんだってわかったのは、高校生になってからだった。
かあさんっていうひとがいなくても、父さんしかいなくても、パズルのピースが欠けてるわけじゃない。
もともとこうだったんだ。
だから僕はもう、聞くことはない。
「うちは普通じゃないの?」などと。
うちは普通だ。
どんな形であれ、もとの絵が雑であれ、ぴったりパズルのピースは揃っている。
あとは僕たちが───
いつかあさんが帰って来てもいいように、「家族」であることだけだ。
普通の家族