夏の風鈴と便箋

診断メーカーの 飼う人と喰う人 よりお題お借りしました。
https://shindanmaker.com/562552

「すいかは 夏を喰う人です。桃色の長髪をしており、約束の組紐を所持しています。
色を飼う人に双子の妹がいます。」

熱くて冷たくて、まったく夏というものは癖になる。
…しかし、こんな体になってからというものこれしか食べていないせいかさすがに飽きる。
最初の頃は美味しくて美味しくてしかたなかった。
しばらくしてから味の違いが分かるようになった。
そのときは楽しくて美味しくて仕方なかったのだが。
何年も何年もこれしか食べないとさすがに飽きてくる。
他のものを食べられればいいのだが、生憎これしか食べられないのだ。
他のものを食べようとすると強烈な吐き気が襲ってくる。

そんな夏を齧りながら、妹から届いた手紙を見た。
彼奴らしい、淡い桃色の封筒だった。
内容は、元気にしてるか、それと近況の報告、いつか遊びに来い、というような文章だ。
最近は色を飼い始めたようだ。ここ数年間会っていないからどんなものか見たことはない。
カラー羊のようなものかも知れないし、絵の具に足が生えているのかもしれない。
空想はどこまでも膨らむ。

ちりん、と何処かで風鈴が鳴った。
ふと音がしたほうを見ると、淡い水色の皿に無造作に盛り付けられた夏があった。
疑問に思っていると、もう一度風鈴の音が聞こえた。
なるほど、どうやらこの中で風鈴が鳴ったようだ。
もう何年も夏しか食べていないというのに、構造については全く無知であった。
どうしてこの中から音が鳴るのか。そんなことさえも全く分からなかった。
なぜ鳴るのか。知りたいけれど知りたくない。空想を壊したくなかった。

手紙を置き、ロッキングチェアをきぃ、と軋ませながら背もたれにもたれる。
最近はどうも暇だ。夏の味にも飽きてしまったし、家にある本も読みきってしまった。
夏に手を伸ばそうとして、かさ、と何かに手が触れた。
見てみると、妹からの手紙だった。たしか、いつか遊びに来いとも書かれていた。
久しぶりに、妹に会いに行くか。
外へ出ると雪が降っていた。外に出るのは久しぶりだ。
急に訪ねたら驚くだろうか。ふふ、と笑いがこぼれる。
外に出て、ぽん、と傘を差し、妹や色のことを考えながら歩む。
その道は、普段何気なく歩く道と同じなのに、何故かいつもより楽しく感じた。

夏の風鈴と便箋

夏の風鈴と便箋

空想を壊したくなかった。 診断メーカーの 飼う人と喰う人 よりお題お借りしました。 https://shindanmaker.com/562552

  • 小説
  • 掌編
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2017-05-24

Derivative work
二次創作物であり、原作に関わる一切の権利は原作権利者が所有します。

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