メロンソーダー満タン

遠方での運転は気を付けて

 赤い星のマークと三本線が入った靴を履いている友人を思い返した。何んとなしである。その友人は最近、悪徳商法をキッパリと辞めたと話していて、その次に「〇×△コンビニの隣にあるガソリンスタンドに、メロンソーダーが給油できる様になったらしいよ」と言っていた。それで私は朝早く起床し、黄色い軽自動車に乗り込んでそのガソリンスタンドへと向かった。ガソリンスタンドに飲料水が設置され給油が行われる妄想は、幼い子供時代に或る程度したが、遂に実装されるとは思わなかった。アクセルを軽く踏む事約ニ十分。手書きで書かれた看板が目に付く。〇と×と△のコンビニである。ハンドルをゆっくりときり、隣に構えるガソリンスタンドに到着した。私が想像していた通り、ガソリンスタンドには人が居らず。まさに給油し放題である。そうして私は車を動かして黒いゴムホースの並ぶ箱の横に停車した。
 早速、車から降りてメロンソーダーが給油出来るのか確かめた。レギュラー、ハイオク、軽油と来てメロンンソーダー。そんなモノはなかった。レギュラー、ハイオク、軽油。以上。三種類が鋼の丸い唇から身体に悪そうな蒸気を微かに噴き出しているだけである。私はため息を吐いた。まぁ、騙されたわけだ。しかし、せっかく来たからにはレギュラーでも給油しようかと思い、割引になるチケットを取るため車内へと戻る。すると私の目にガソリン満タンを現すゲージを認識した。そのゲージは遥か彼方。そう。マックスを示していた。要するにガソリンが十分に、この軽自動車のタンクに注がれた状態であるのだ。私は結局、給油を諦めて帰る事にした。とほほ、と思いながらエンジンを始動させた時である。見た事のない乗用車が私の後ろに停車した。白い円盤だった。ふむ。私が世間を良く観察しないで生活をしていた為であろう。有名な自動車生産業が近代的なエコカーを私が知りえないうちに発表したと私は思った。で、家に帰宅しようと考え、そのままアクセルを踏んだのである。
「スイマせぇん!」
 突然。私の目の前にアロハシャツを着けた人影が飛び込んできた。私は思わず、ブレーキをした。と意識をしたが、まさかの唐突である、この状況は脳内がパニックを起こした。その所為により、ブレーキの衝動は、アクセルに伝達されて思いっきり踏み込んだ。困った事に真のブレーキを踏んだのはその後であった。
「だばばばっ!」
 乱れる肉声とゴムまりの感触は黄色い軽自動車を物理的に連動して私のハンドルに鼓動をした。勿論。人間らしきモノを轢いた事は血の気が消え失せたが、私は意外にも冷静であった。それで車から降りて、轢いた物体を確認しようと深呼吸して車の下を覗いた。
 何もいない。
 確かに何かを轢いた筈。と困惑して首を傾げると。
「ちょっと! 痛いじゃないですか!」
 私の後ろから怒りの声が発せられた。
「うわああ!」と私は驚いて大声を出す。
「ああああ!」と額から血を流すアロハシャツの奴も驚いて大声を出した。
「ああああ!」
「うるさい!」
 私はそう叫ぶと声を張り上げるアロハシャツにゲンコツをかました。
「だばっ!」
 アロハシャツの奴は頭を抱えて土間の上を転がった。そのオーバーリアクションを見て私はイラっときた。「お前、なんか、ムカつくな」
「ムカつくとは? 一体何でしょうか?」
 アロハシャツを着けた奴はむくりと身体を起こして埃をはたきながら言った。
「車で轢きたくなる感じだ」私は答えた。
「ああ! 今ですよ、今! ワタシの事を轢いたでしょ! 酷い奴!」
 アロハシャツの奴は思い出したように文句を言い、私に指を向けて睨んで言う。
「お前がいきなり飛び出すからだ。お前は何を考えてんだ?」と私は腕を組んで言う。
「質問。質問がしたかったの」そうアロハシャツの奴は言い、私の腕を掴んで歩き出し、白い円盤で近代的な造形物の前で停止した。
「近代的なエコカーが何か? 自慢?」
 スベスベとした大理石と似て非になる材質と色。それと空中に浮いている。
「今のエコカーは車輪がないのか」
「違う! 車じゃない! 見てわからないの? これはUFOよ! UFO! エコの為にタイヤをケチるメーカーなんてあるわけないじゃない!」
「馬鹿か、アロハシャツ野郎。このご時世にUFOを信じる奴が居ると思うか? 居るわけないだろ? 私はもう帰る」と言いくるりと背を向けた。
 だがアロハシャツの奴は私の腕を再び掴み。「燃料がきれたの! 此処のスタンドで給油出来ると聞いて来たのにないじゃないの!」
 私は振り向き、黒ゴムのホースに指さして「あそこにあるだろ、ハイオクが。最新のエコカーを買う奴にはハイオクがいいんじゃないの?」と言った。
「ハイオクって何? ワタシのUFOはメロンソーダーが燃料なの! メロンソーダーを入れないと動かないの!」
「それなのにメロンソーダーがこのガソリンスタンドに設置されていないの! 此処のガソリンスタンドにはあるって聞いたのに」
 私は驚いた。まさかメロンンソーダを燃料として訪ねてくる奴が私の他にも居た事と、それに加えて友人が言っていた事があながち間違っていない情報だと思ったからだ。つまり、私は目の前でメロンソーダーと言葉を発するアロハシャツの奴がUFOだと述べている事を信じる事にした。確かに。宙に浮いているのはUFOっぽい。
「わかった。お前の乗るエコカーがUFOだと言う事を信じよう」
「ほんとに?」アロハシャツの奴は笑って答えた。
「しかしだ。何故お前はUFOでこの街に来たんだ?」とごく普通的で地球人だと誰もが思いつく質問をした。
「そうですね。簡単に説明すると、ワタシの住む星はただいま夏休みでして、その休暇を利用してこの地球に遊びに来たのです。所謂、旅行ですね。で、ついでに言うとワタシは彼氏と遊びに来たんですが。どうもこの彼氏。UFOを運転するのが非常に下手でしてレンタルUFOを派手にぶつけてしまい。そうそう、バックする時にです。ちゃんと目の前のデスプレイに背後の風景が映っていると言うのに、ぶつけたんです」と言うとアロハシャツの奴はUFOの背後らしき所に歩いていき指を向けた。私は近づいてみたが確かに曲線の物体がぐにゃりと変形していた。
「へぇ。宇宙人もカップルで旅行するのか」
「勿論ですとも。最近は海王星も人気なんですが、地球は初心者に優しく。料金も安いですからね。大学生には人気が高いんです」とアロハシャツの奴は言った。
「それでお前の彼氏は何処に行ったんだ? 見えないぞ?」
「それがですね。ワタシの彼氏、風邪をひいてしまってホテルで寝てるんですよ。それで何か体調が回復するサプリメントでも買おうと、このUFOに乗って来たんですが、燃料が無くなりそうで補給に来たんです。しかし、どうも燃料となるメロンソーダーがない。おかしな話です。ガイドブックには此処のガソリンスタンドにはメロンソーダーが置いてあると書かれているんですが」
 そう、アロハシャツの奴が言い終えた時であった。黒いバンが急ブレーキで私の前に停止した。唖然として見ているとバンの中から複数人の鮭と鯖のお面を被った男たちが降りてきた。この男たちはアロハシャツの奴に黒くて大きな袋をスッポリと包んで持ち上げた。
 アロハシャツの奴は悲鳴をあげて「助けて! 助けて! なんなの? 怖いよ!」と叫んでいた。だが、お面を被った奴らは慣れた様子で黙々としていた。ヒモでグルグルと締め付けた後に黒いバンに放り込んだ。タイヤを凄く回転させて黒いバンは猛スピードで走り去っていった。
 私は、その鮭のお面をハメていた男の一人に赤い星のマークと三本線が入った靴を履いていたのを見たが、私は深く考えるのを辞めて隣あるUFOを見た。UFOには給油する口が四角の形で開いている。
 直感的である。私は黒いゴムホースが伸びる箱を見た。箱には映像を映すためのスクリーンがあり、そこの項目にレギュラー、ハイオク、軽油と書かれていた。すると、軽油の文字の横に緑色のカラフルな文字で『メロンソーダー』とあった。

メロンソーダー満タン

メロンソーダー満タン

  • 小説
  • 掌編
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2017-05-14

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