ポルリ
三題話
お題
「豆」
「ハト」
「銃」
タタタタタタ……
遠くから微かに聞こえていた銃声が爆音と共に近付いてきて、辺りはだんだんと騒がしくなってきた。
もう一年くらい続いているだろうか。領土争いの小さないざこざから始まって、いつしか全面戦争となってしまった争いは終焉を迎えようとしている。国の中枢であるこの地にまで戦禍が及んだということはそういうこと。
この国は負け、そして戦勝国に吸収され統治されるのだ。
私は独りで部屋に籠っている。
パパの言い付け通り明かりを消して、カーテンを閉めて、そして窓から離れて物陰に隠れる。クローゼットの中は狭くて暗いけど、そんな孤独もポルリと一緒なら乗り切れるような気がする。
クルルル。
私に抱かれた鳩のポルリが、心配そうに小さく鳴いた。
羽が黄色みを帯びていて、幸せを呼ぶ金色の鳩としてマスメディアに取り上げられたことがある。その直後はポルリを一目見ようとたくさんの人が訪れたものだ。
ここへ引っ越して来てからは、それに対応する煩わしさはなくなった。その代わり友達もいなくなった。
ポルリだけが私とずっと一緒にいる。
グウ。
そういえば起きてからまだ何も食べていない。お腹が鳴った私と同じように、ポルリもお腹を空かせているだろう。
部屋にポルリのエサはあるけど、私が食べるようなものは……。
外が静かになったところで、ゆっくりとクローゼットの扉を開けて、恐る恐る顔を出す。部屋の中はもちろん元のままで真っ暗だ。
ポルリは私の手からするりと抜けて、エサ入れのところまで羽ばたいていった。私もクローゼットから出て、枕の下に隠してある豆菓子を取って再びクローゼットへ戻る。
外がまたざわついてきた。だけどまだポルリは窓際にいる。
ダダダダダダ……。
すごく近くからの銃声に、私は耳を塞いで体を縮こませた。
響き渡る怒号と悲鳴。
部屋の窓が割れる音は、やけに軽く聞こえた。
そう、まだ、ポルリが窓の近くにいる。
鳴き声が聞こえたような、羽ばたく音が聞こえたような。
私は銃声が止んだところで顔を上げた。
窓の前にある棚の上にはガラスが散らばり、レースのカーテンが風で揺れている。
床にまで散らばったガラスの中に、ポルリの姿があった。
横たわり、綺麗な黄金色の体は赤色で汚れている。
動き出す気配もない。
そして、バタバタと走る足音。
扉が荒々しく開かれて、部屋に飛び込んできた誰かが動かなくなったポルリを蹴飛ばして私の前に立った。
◇
ハトは平和の象徴なのだと、聞いたことがある。
ポルリは黄色みを帯びた羽を持っていたから、幸せを呼ぶ鳥だと言われたことがある。
平和も幸せも、この世界のどこに存在するのだろう……。
ポルリ