現代あやかし物語~座敷わらしが願うのは~
この話の主人公は一人なのか二人なのか…微妙です。
とりあえず美栞(みかん)の力は発揮されません。
主に美織の語りが軸です。
おもしろくないかもですがよろしくです。
北橋美栞は双子である。
双子の姉は美織という。
綺麗な姉妹には不思議な力を持っていた。
あやかしが見えるのである。
二人はあやかしが見えるのをひた隠しにして生きてきた。なぜかと言えば見えると言うと何かと面倒だと兄に言い含められていたからである。
兄の言い付けを守り兄妹三人仲良く育った。
美栞はあやかしが見えるだからその日も神社におかっぱ頭に着物の古風な泣いている子供が見えてもさほど驚かなかった。美栞は子供に声をかけた。
「君はどうしてないてるの?」
小さな子供は何もいわずじっと美栞を見つめていた。
「お名前は」
「……………」
「年は?」
「…………」
「どこに行きたいの?」
「……………」
出会ったばかりのあやかしが一口も口を利かないのは珍しいことではない。
美栞は一つ息を吐くと最後に一つだけ聞いた。
「またここにきていいかな?」
今度はこくんとうなづいた。
なんだ話は通じてたんだ。
ほっとした美栞は小さな飴玉を一粒あげた。
「また明日」
美栞は家に向かい駆けていった。
唐突だけど私はみかんなんて名前だが別にみかんが好きなわけではない。
私はみかんよりも梨の方が好きだ。
名前の由来は兄の芳滓から来ている。
双子の美織もよしおりの当て字…美(よし)織(おり)だし私だって当て字…美(よし)栞(しおり)だ。
両親がそこまでよし兄に…正確にはよし兄の名に執着する理由は簡単。
よし兄は幼くして死んだから。
死んでからもよし兄はそばに居てくれる。
それを両親は知らない。
次の日、私はぼんやりと授業を受けた。
高校生は楽しくて少しだけ面倒なのだ。
国語の便覧に十二単のページが表れた。
その鮮やかな色の中に
一つ
気になる色があった。
綺麗な紫色。
神社の子供の着物のに似ていた。
そのときから私はあの子をむらさきと呼ぶことに決めた。
学校帰りに神社によるとむらさきはもう美栞を待っていた。
可愛らしく小首を傾げてニコニコしている。
私はむらさきに聞いてみた。
「あなたをむらさきと呼んでいい?」
むらさきはうんと元気に言った。
「あたし昨日みたいな飴玉が欲しいの。お姉さん持ってない?」
むらさきは両手を差し出して、つぶらな瞳で見つめてきた。
「いいよ。」
小さな手のひらに飴玉を置くと早速むぐむぐ食べ始めた。
「むらさきは何のあやかしなの?」
問うてみるとむらさきは小さく答えた。
「座敷わらし」
「何で泣いてたの?」
だって…ぐずるようにむらさきは言った。
「さみしかったの。ひとりぼっちは」
「それじゃあなんで神社に住み着いているの?お家を見つければいいのに
…」
座敷わらしがいれば家は栄える。むらさきを歓迎する家は沢山あるだろう。
だけど…
むらさきは口をむぐむぐしながら頭をふるふるふった。
「あたしがいたら不幸になるの」
むらさきは小さな声で語りだした。
その昔、座敷わらしのむらさきは武家屋敷の座敷わらしだった。
むらさきはそのお屋敷では他の名で呼ばれていた。(むらさきはその名を教えたがらなかった)
武家屋敷にはむらさきぐらいの女の子がいた。
名をお菊 といい彼女はむらさきと大層仲が良かった。
むらさきはそのくだりだけは楽しそうに語った。
「お菊ちゃんはね、手鞠が上手でね、童歌も沢山教えてくれたの」
さていくら仲が良くてもあやかしと人では時の流れが違う。
次第にお菊はむらさきと遊ばなくなった。
いつ頃からかむらさきはひとりぼっちで童歌を歌うようになった。
そんなある時、武家屋敷にあるお女中がやって来た。
おさとというまだ十ぐらいの少女だった。
むらさきは喜んだ。
お菊ちゃんではないけれどまた楽しく遊ぶことができる。
むらさきはおさとの前にひょっこり現れた。
むらさきはニコニコと声をかけた。
「あたしと手鞠して遊ぼうてよ」
「あら、あなたはどこの子?」
「あたしはここの家の子だよ」
おさとは怪しんだけどむらさきはその手を引いて庭まで連れていった。
その日の夜のことだった。
おさとは旦那に呼ばれてお叱りを受けた。
おさとは泣きながら事の次第を語った。
そこでようやくお菊はむらさきを思い出したという。
結局おさとはおとがめなしで済んだがむらさきと遊んでくれることは二度となかった。
お菊も縁談がまとまりほどなく嫁に行った。
むらさきはまたひとりぼっちになった。
そしてむらさきは武家屋敷をでて行った。
その後、その屋敷から火が出た。
様子を見に帰ってきたむらさきの前で燃え尽きた。
屋敷から出た火のせいでおさとを始めお菊以外の人々は揃って亡くなった。
やがてお菊にも娘が産まれた。
むらさきはこっそり見に行った。
縁側にふと目をやったお菊と目があった。
むらさきは当然また昔のように手招きしてお菓子をあがんなさいとか習字を教えてあげましょうとか言ってくれると思った。
だがお菊は…
「あんたがいると不幸になる。とんだ座敷わらしだわ。どっかに行ってしまいなさい」恐怖に目を見開きそう怒鳴りつけた。
その後むらさきはその後の数百年たった一人神社に住み着くようになった。
むらさきは悲しげに話し終えるとすうっと溶けて消えていった。
美栞は家に帰ってきた。
頭の中でむらさきの話がぐるぐるとまわっていた。
「美栞。どうしたの?」
部屋の扉の所から美織が顔を覗かせていた。
「さっきからずっと悲しんでるでしょう」
美織と美栞は双子だからかお互いの気持ちが伝わる事がある。
今日も美栞の気持ちが美織に伝わってしまったらしい。
「美織聞いてくれる?」
美栞はむらさきから聞いた話を美織にすっかり話した。
「むらさきは優しい子だね。座敷わらしがいなくなったらその家が不幸になるから、それが怖くてひとりぼっちなんだね。泣くぐらい一人は嫌いなのに」
いつも思う。なんで美織はこんなに優しいんだろう。
「むらさきをどうすればいいと思う?」
あら、簡単よと美織はにっこり笑った。
「私に考えがあるの 」
翌日の学校帰りに神社によるとむらさきは賽銭箱の近くにうずくまっていた。
可愛いいね、美織は小さく囁いた。
こっちに気がついたむらさきは目を真ん丸く見開いた。
「お姉ちゃん二人もいる」
美栞は美織と目を見合せクスッと笑った。
美栞と美織は鏡で映したようにそっくりだった。
「「私たち双子なの」」
むらさきはほてほて歩みよると二人を交互に眺めた。
美織は鞄から手鞠を取り出した。
「むらさきちゃんこれあげる」
むらさきの手が美織に触れた。
美栞は急に悲しくなった。
これは美織の感情だ。
美織は悲しげに言った。
「あなたは本当は小菊ちゃんっていうのね」
むらさきは驚いて飛び上がった。
「どうしてお姉ちゃん知ってるの?」
「私は触ると歴史が見えるの」
むらさきは首を傾げていた。
「でも私はもう小菊じゃないの。 名前はないの。」
だから、むらさきっていうの」
私は意味がわかんなかった。
でも美織はうんとうなづいて、むらさきの頭を撫でて、むらさきに手を差し出した。
「むらさきちゃん私と一緒に帰りましょう」
むらさきは頭を左右にふって後ずさった。
「あたしいかない。ここにいる」
社の柱にしがみついて嫌々と頭を振る。
「大丈夫私達は不幸になんかならない。約束するわ」
何度も何度も繰り返し美織はむらさきに言い聞かせた。
ようやくむらさきが美織の手を握った時には空は茜色になった。
不安そうなむらさきに美織は一人笑みを浮かべた。 は
むらさきを連れて帰ると美織はこっそり美栞を呼んだ。
「むらさきちゃんのこと、わかったわ」
すうっと息を吸い込むと語りだした。
これはむらさきちゃんが死ぬ前の話し。
むらさきちゃんはお菊と同じ「菊」という名だったの。
お父さんはお侍、お母さんは貧しくて売られた人だった。
お母さんの立場は妾だった。
むらさきちゃんは覚えていないけど二つの時にお母さんから引き離された。
子供のいないお父さんと正妻の養子になったの。
だけどむらさきちゃんが可愛がられることはなかった。
毎日虐待されて、酷いときには犬に噛まれたり、服を剥がれて真冬の池に突き落とされたりして、とうとう病にかかって…それでもいじめられて衰弱して死んだの。
その頃ね。正妻にお菊ちゃんができたのは。
お父さんは娘がなぶり殺されたことなんて気付いてなかったから、産まれた娘にまた「菊」って名付けた。死んだお菊のぶんも生きられますようにって。
むらさきちゃんは心配だったの。自分をいじめたお母さんが妹を同じめに遭わせるんじゃないかって。
むらさきちゃんは座敷わらしなんかじゃない。
ただ妹を思う優しくて幼いお姉ちゃん幽霊だったの。
きっと妹が自分に気付いてくれて嬉しかったのね。
だって本当は嫌なことばかりのお屋敷で、一緒に遊んだんだもの。
妹に忘れられて一人で過ごすことになっても、けして妹のそばを離れなかった。
でもおさとのことで話はお母さんにわかってしまった。
むらさきちゃんはお母さんが恐ろしかったけどお母さんも同じくらい恐れていたから。
お菊が復讐にきた。おさとをたぶらかして私の娘にも何かするかも知れない。と思って。
お母さんはだんだん気にやんでしまったの。
お母さんは娘を遠くにやってしまおうと思ってお菊ちゃんをお嫁にだして、おさとちゃんを始末しようとしたの。
むらさきちゃんは耐えられなかった。
おさとちゃんを襲ったお母さんを祟り殺してしまったの。
お母さんの持っていた火が燃え広がって、お屋敷は全焼。
おさとちゃんだけは、むらさきちゃんが助け出したけどおさとちゃんはすべての記憶をなくしたの。
むらさきちゃんは妹に会いにいった。
誉めてほしかったのよ。
『守ってくれてありがとう』って。
でもお菊ちゃんはわかってなかった。
逆に追い払われた。
寂しくて祟ったお母さんがいじめにくるんじゃないか恐くてすべてを忘れることにしたの。
お菊ちゃんが妹だってことも、おさとちゃんを守って火事になったことも、自分が誰なのかも、全部ね。
美栞、むらさきちゃんが不幸にしたわけじゃなくて大人たちがむらさきちゃんを不幸にしたの。
むらさきちゃんは子供のままで一歩も成長していない。
一人ぼっち死んでからもずっとずっとね。
美栞は一人ベランダで月を眺めていた。
頭の中ではむらさきと美織の話がぐるぐると回っていた。
むらさきの幸せはなんだろう?
むらさきの未練はなんだろう?
むらさきの願いはなんだろう?
幼い子供が何を望み何を叶えたいのか、美栞にはわからなかった。
「美栞悩みごとか?」
ふわりと横に降りてきたのは芳滓だった。
「むらさきのことでちょっとね」
とたんによし兄はにっこりわらって言った。
「あの子寝かすのには一苦労だった。まるで小さい時の美栞みたいだ」
「私だけ?」
「美織は体が弱くてあんまり騒がなかったけど美栞は寝るまで遊んでたじゃないか」
そうだった。人の心も読める美織はしょっちゅう体調を崩していた。
「でもあの子嬉しそうだよな」
「むらさきが嬉しそう?」
「見てればわかる。寝付かないのも全部夢でしたってなるのが怖いからだろうね。もうひとりは嫌なんだ。」
よし兄はときどき良いことを言う。
外見こそむらさきと変わらないがよし兄はずっと私たちの『兄ちゃん』をやっているからか面倒見もよくて人の心にも敏感だ。
「ねぇ、むらさきの幸せってなんだろう?」
「そんなの本人しかわかんないよ」
直接聞けば?とだけいいのこしてまたふわふわ飛んでいってしまった。
むらさきはどう答えるかな?明日聞いてみよう。
わたしはそっと眠りについた。
久しぶりのお布団は昔よりもずっとふかふかで眠りやすかった。
ひとりぼっちで丸くなって寝るのとは大違い。
こういうときのなんだかほっとするような気持ちはなんていうんだろう?
賑やかなのが楽しくて寝れないのはなんていうんだろう。
優しいみおり姉ちゃんに明日聞いてみよう。
それからあたしを見つけてくれたみかん姉ちゃんにありがとうを言わなきゃ。
こんな風な日々がずぅっと続けばいいのにな。あたしは今日が一番幸せ。
この優しい平穏な日々が奪われることなく続きますように。
それがあたしの一番のお願い。
現代あやかし物語~座敷わらしが願うのは~