素晴らしき出来損ないの物語

Scean1

ナレーション
 「人生の終着点、「死の訪れ」。その先にある「天国」で人は何を思うのか、終わってしまった人生を、人は何を振り返る。楽しかった思い出か、成し遂げた喜びか、否、後悔だろう。人生は終わった、生きてさえいればどうにでもなったことも、死んでしまえば手遅れ、謝ることも、思いを伝えることも、何もできない。
 もし、天国があるとするのなら、そこはきっと、懺悔の場所だ。」

Scean2

天使
 「おめでとうございます。あなた方は下界での試練を終え、人生の行いを評価されて天国へと誘われました。ここでは悲しみことや苦しいことはいっさいありません。人々の願う理想郷、桃源郷、どんな言葉を並べても形容しきれないすばらしい場所なのです。」

おじさん
 「なあ、おい」
 「おいおいおい」
 「おいあんた、今、天国って言ったよな。じゃあ、俺は死んだってことなのか?」

天使
 「ええ、我々の言葉なら、『生』の試練を終えたこと。
下界の言葉なら、あなたの言う通りのことでしょう。」

おじさん
 「嘘だろ、、、医者は抗がん剤飲めば治るって、、、」

○おじさん、主人公の肩をつかむ。


おじさん
 「なあ、あんた、俺は本当に死んじまったのか?」

○主人公、困惑

天使
 「疑う必要はありません。悲しむ必要もありません、むしろ喜ばしいことなのですよ?」

○おじさん、怒声。

おじさん
 「うるせえ!!!あんたに何がわかる!!」
 「あんたらの勝手な考え方で、俺の『死』を、綺麗ごとにするな!!。」

天使
 「あなたがそういうのならば、私もあなたたちの「死」基準で言い換えましょう。」
 「死んでしまったものはしょうがないと。」

主人公
 「、、、、、、、、!」
 「じゃあ、、、僕も、、、死んだってこと?」

○おじさん、泣き崩れる。

おじさん
 「クソっ!!クソっ!!」

○天使、主人公に話かける。

天使
 「あなたは泣いたりしないのですね。ですが、死を受け入れている。という様子でもない。」


○天使、主人公に歩み寄る。
○主人公、声を出そうとするが、衝撃的な現状による精神ダメージにより、声にならない声、『息』が虚しく口から吐き出されていく。

天使
 「自分がどうして死んだのか、わかっていないようですね。」

○少しの間

天使
 「即死です。」
 「あなたはバイクの運転中に大型トラックに衝突し、その衝撃で内臓が破裂、覚悟する猶予もなく、あなた方のおっしゃられる「死」を迎えました。」

主人公
 「嘘だろ、、、、。」

天使
 「心中御察しします。」
 「あなたの人生は苦難の道で、順風満帆とは言いがたいものだった。しかし、喜んでください、あなたの功績は神に認められ、天国にくることができたのです。」
 「辛かった人生は忘れ、天国での時間を存分に謳歌してください。」

主人公
 「そんな、、、、」

天使
 「では、冥福をお祈りします。」

○天使、ニコッと笑い、フェードアウト。


Scean3 屋内、協会みたいな所

おじさん
 「よう、また会ったな。」

主人公
 「あなたは、、、」

おじさん
 「昨日、いや、ここの時間の概念がよくわからねえけど、そん時にわんわん泣いていた、みっともないおっさんだ。」
 
主人公
 「覚えていますよ、忘れられませんから、あんなこと。」

おじさん
 「そうか、わるかったな。あんたも困惑していただろうによ」
 「どうだ、一日ぐらいの時間はたったが、気持ちの整理は終わったか?」

主人公
 「まだ、自分が死んだことの実感がわきません。」
 「僕にとっては、バイクを運転していて気がついたらここにいましたから。」
 「そうおっしゃるあなたは、どうなんです?」

おじさん
 「同じだな、俺も病院のベッドで寝ていたらいつの間にか死んだらしい。」
 「誰かに見取ってもらうこともできなかったみたいだな。」
 「死を受け入れるってことはきっと簡単じゃない。俺もまだここが『天国』だって信じたくはないし、病院のベッドの上で夢を見ているのかも知れないと思ってる。」

主人公
 「ええ、僕も夢なら覚めて欲しいと思ってます。」

おじさん
 「だろ?」
 「でも、どうしようもなく現実味があってさ、極めつけはこれだ。」

○おじさん、ポケットから一枚の写真を出す。

おじさん
 「天国は俺たちの都合のいいようにできているらしい。カミさんの顔が見たいと思ったらよ、寝て目が覚めたとき、これが枕元におかれていた。まったく、子供の頃のクリスマスを思い出したよ。」
 「見てくれ、俺のカミさんだ。」

○おじさん、主人公に写真を見せる。

 おじさん
 「綺麗だろ?、俺の自慢のカミさんだ。」
 「これで少し、救われた気がする。」

主人公
 「救われた、それ以上、夫婦の中で言葉はいらないんですね。」
 
おじさん
 「ああ、そうだな」
 
○少しの間

おじさん
 「なあ、俺の、たわいもない話したが、少しばかり、俺の話を聞いてくれないか?」
 「時間はとらせねえよ。」

主人公
 「いいですよ、丁度退屈でしたから」

おじさん
 「ありがとよ。」
 「そうだな、、、、、俺のカミさんの名前は『紗英』って名前なんだが、まあ、俺にはもったいないぐらいいい女だった。」
 「朝は笑顔で俺を起こし、朝ご飯を用意していてくれた。それから笑顔で俺を見送り、俺が疲れて帰ってくればうまい飯を用意して待っていてくれる。その上、そこらの女とも比べ物にはならないほどにきれいな女だった。」
 
主人公
 「いい奥さんだったんですね。」
 「そんな夫婦生活、憧れますよ。」

おじさん
 「だろ?、でもな、お前さんが思うほど、うちの夫婦生活はいいもんじゃなかった。」
 「カミさんはほんとによくできた嫁だった。でも、俺がだめな奴で、結局こうしてカミさんを悲しませることになっちまった。」

○少しの間 

おじさん
 「俺は筋金入りの仕事人間でな。朝の早くに出勤、ほかの奴の仕事も手伝ったりしていたせいで、家に帰るのはかなり遅くなる日が何日も続く生活だった。帰れば仕事に疲れてカミさんにろくにかまってやれなかったし、夫婦生活らしいことは少なかったと思う。」
 「それでもカミさんは不平不満を全くいわなかった。おかげで仕事に集中できたが、俺はそこに甘えちまっていたらしい。おかげで寂しい思いをさせた。」
 「ようやく昇進して、仕事を部下にまかせられると思ったら俺の癌が見つかった。」
 「カミさんとの時間を増やせると思った矢先のことだった。」
 「おかげでこのざまだ。」

主人公
 「残念、でしたね、、、、、」


おじさん
 「まったく、タイミングというものは、いつも空気を読んでくれない。」
 「おかげで子供の一人も持たせることができなかった。」

○おじさん、「半泣きで続ける」。

おじさん
 「カミさんになんて言えば許してもらえるか、、、、」
 「今となっちゃ、それもかなわないのか、、、、」
 「後悔、なんてもんじゃない。これはきっと、罪と言うのがふさわしい。」

主人公
 「『罪』、ならばここはそれを償うための場所でしょうか、、」
 「地獄みたいだ」
 「天国なんて善人の場所がくる所に『罪』を持った者たちがいるのはそれこそ地獄でしょう」

おじさん
 「善人なんていないのかもな、人は誰しも後悔があってそれは『罪』と言い直せるのなら、地獄で償うことを許されないこの天国は俺にとっちゃきっと地獄よりも辛い地獄みたいなもんだ。」

主人公
 「地獄、、、、そうかも知れませんね。」

おじさん
 「なんだ、お前さんにもあるのか」

主人公
 「今、善人なんていないって言ったじゃないですか」

おじさん
 「それもそうだな」

主人公
 「聞いてくれますか?僕の罪を。」

おじさん
 「いいぜ、こんどはあんたの番だ」



Scean4 回想、雨、カフェにて

幸子
 「ねえ、樹、樹ってば、聞いてる?」

主人公
 「ああ、ごめん、考え事してた」

幸子
 「大切な幼馴染そっちのけでいったい何を考えていたんですかぁ?」
 「女か、女の尻でも思い浮かべていたのかぁ?」

主人公
 「いや、そんな、、、、ただ、雨やまないなって思ってさ」

幸子
 「そうだね、雨宿りでこのお店に入ったけど、なかなか止まないし、弱くなる様子も無いね」

主人公
 「外、連れて行きたかったんだけどな」

幸子
 「おかしいね、今日は雨が降るよほうじゃ無かったのに、、」
 「でも、樹とこうしている時間、嫌いじゃないよ」
 「えへへ」

主人公
 「なら、よかった」

○少しの間、雨音

主人公
 「雨ってさ、音楽に聞こえない?」

幸子
 「そう?」

主人公
 「なんだか、不協和音のはずなのに、リズムがある気がして不思議だ」

幸子
 「樹って、たまにそういうよくわかんない子と言い出すよね。」
 「昔っからそうだったけど」

主人公
 「嫌い?」

幸子
 「ううん、嫌いじゃない」

主人公
 「でも、なんだろう、雨の奏でる音楽ってきっと何かを悲しんだり、弔ったりしているようなきがするな、、、」

幸子
 「じゃあ、こんな突然降り出すなんて、誰かが亡くなったってことなのかな」

主人公
 「わからない、でも、ありそうなお話ではあると思うんだ。」
 「ほら、雨は『涙』なんて表現するよね」

幸子
 「そうだね」
 「ただ雨音を聞いているのも悪くないかも」

○少しの間、雨音が流れる。

幸子
 「ああ、今日か。」

主人公
 「なに?」

幸子
 「命日、今日じゃない?」

主人公
 「ああ、そうか。今日だったっけ。」
 「すっかり忘れていたよ」

幸子
 「だめだよ、家族でしょ?」

主人公
 「血は、つながっていなかったけどね」

幸子
 「でも、親は親なんだから、、、」

主人公
 「勝手に俺を施設から引き取って、無計画に街金に金を借りて、挙げ句の果てに夫婦と妹で首つって自殺。」
 「自分勝手で何も考えない、かわいがってもらえていたのは二人の間に子供が生まれるまで、そいつが生まれてから俺は家族ののけ者だったよ。あんなのが親とは言わないさ」
 
幸子
 「でも、、、、」

主人公
 「はっ、てめえの娘まで巻き添えにしたのに、俺だけ生かしたのは優しさか?」
 「いや、罪悪感だ。人様の子供を無責任に引き取って育てられないから一緒に殺すことはできなかったんだろ」

幸子
 「で、でもそんなこと言っちゃだめだよ!」
 「たとえなにがあったって、そんなこと言っちゃだめだよ!」
 「亡くなった人のことを、そんな風にけなして、き、きっと悲しむ人がいるよ!」

主人公
 「そんな人、いねえよ!」
 「本当の親は俺を捨てて、俺を引き取った親は死んだ。」
 「もう俺に、誰が残っているっていうんだよ!」

幸子
 「そんな、、、、、」

主人公
 「気分悪くなったから帰る。」

○主人公、テーブルにお金ぽい

○主人公、雨のなか、バイクに乗る、轢かれる

 
Scean5

主人公
 「謝りたいんです」
 「きっと、幸子は僕の為を思って言ってくれたんです。けど、僕はそれをあんな風にひどい言葉を言ってしまった。」
 「ただひとこと、ごめんって、謝りたい。」

おじさん
 「そうか、お前さん結構辛い人生を送ってきたんだな」

主人公
 「やめてくだい、同情が欲しいわけじゃありませんよ。」
 「それに、その辛い人生は終わってしまいましたから」

おじさん
 「それもそうだな」

主人公
 「でも、僕を引き取った親が僕を生かした気持ちが、今なら何となくわかるきがします。」
 「彼らこそ、辛いでしょうね、地獄に落ちたでしょうけど、それは僕と会えないってことですから」

おじさん
 「あやまりたい、なんてそんな生温いことを求めてはいないだろうな。」
 「もう一回死ぬこともそれがお前さんに対する償いだってするのならきっとやるだろうぜ。」

主人公
 「そんなの逆に困っちゃいますよ」

 「いったい、この天国で何をすれば幸子に対する償いになるのでしょうか、、、」

おじさん
 「さあな、わからない、俺も知りたいよ」


Scean6 屋外、花畑

おじさん
 「清々しいほどにまぶしくて、真っ青な空、おまけにこの花畑だ」
 「見える景色全部赤やら白やら青やらの花々」

 ○おじさん、嘲笑。

おじさん
 「気に入らないのはこれが全部彼岸花じゃないってところだな」
 「パンジーやらチューリップやらカタカナ並べるのは天国っぽくない気がするぜ」
 「まあ、俺の偏見かもしれないが」

主人公
 「生きていた頃は天国なんて、死後の世界なんてどんなものか考えもしませんでしたよ。」
 「生きるのに必死でしたから」

おじさん
 「そうだな、俺もそうだった」
 「毎日仕事に追われて、仕事にいかなければ俺の社会人と言う社会的地位葉失われてしまう、何よりカミさんに飯を食わしてやれなくなるからな」


主人公
 「そう考えると、ここは気楽でいいですね」
 「ご飯を食べるために、汗べそかいて働かなくていいですし、誰かと争う必要もない」

おじさん
 「後悔はあるけどな、、、、、」

主人公
 「笑っているみたいですよね、この花畑」
 「後悔の渦の中にいる僕らを、笑っている気がします。」


○酔っぱらい、現れる

酔っぱらい
 「うーい、ヒック、 おっ、天国の入り口近くじゃあ見ない顔だな。」
 「おい、あんたら、新入りか、、、ヒック」

おじさん
 「なんだあんた」
 「うわっ、酒くさっ」

酔っぱらい
 「なんだ、酔ってねえよ、、、ヒック」

おじさん
 「出来上がってんじゃねえかよじじい」

酔っぱらい
 「なんだぁ?お前も飲むか?」

おじさん
 「飲まねえよ、酒はすきじゃねえ」
 「それに、、、そんな気分じゃないしな。」

おじさん
 「ああ、、、、、あんたらもか、、、、」

○酔っぱらい、酒を飲む手を止める。

よっぱらい
 「あんたらも『待ってる』のか」
 「誰をまってるんだ?」

主人公
 「『待ってる』とは?」

酔っぱらい
 「そりゃあ、、、会いたい人が『死ぬ』ことだよ」

○少しの間

酔っぱらい
 「言い方が悪かったか、、、会いたい人が、この天国にくるのを待っているってことだな」
 「あんたら、そんな顔をしているよ。まるで死んだような顔だ。」
 「いや、もう死んでるか、、、、ヒック」

主人公
 「もしかして、『あんたらも』ってことはあなたも『待っている』ってことですか?」

酔っぱらい
 「まあ、そうだな」
 「ここには、そういうやつしかいねえよ、、、」
 「天国の入り口付近にいるのはだいたいが『待っている』奴らしかいない」


酔っぱらい
 「人間は誰しも『罪』を持っている。それは閻魔でさえ計りきれない。人はどんなことだって、自分の捉え方次第で『罪』に変えられるからな。」
 「『人生』がそれだ。死んでしまえばやり直せないから、人は後悔する。」
 「人間の根本的な弱さは死んでも変わらないらしい。」


おじさん
 「だから、あんたは『待っている』のか?」

酔っぱらい
 「まあ、そうだな」
 「でもな、同時に人は忘れる生き物だ。現世で生きる大切な人はいつか死人のことなんか忘れる。そう気づいた奴らはこの天国の入り口から離れて楽になっていったよ」

○酔っぱらい、酒を一口飲む

酔っぱらい
 「現世で生きる奴らにとっちゃ、俺らの『死』なんてただの苦労話だ。」
 「あんたらもさっさと忘れてここを離れたほうが楽かも知れないぜ。」

おじさん
 「てめえ!」

○主人公、おじさんを止める

主人公
 「でも、それがわかっていてもどうしてあなたはここにいるんですか?」

酔っぱらい
 「さあな、俺の『罪』は償ったって償いきれないからかもな」

○酔っぱらい、酒を飲む

酔っぱらい
 「酒がまずくなってきた、、、、俺はそろそろいくぜ」

○酔っぱらい、去り際に振り向く


酔っぱらい
 「現世に生きる奴らと同じように、天国にいる俺達もいつか忘れる。」
 「早くここでの過ごし方を見つけた方がいいぜ。」
 
Scean7 酔っぱらいが去った後

主人公
 「現世にいく方法ってないのかな、、、」

おじさん
 「ん?」

主人公
 「いえ、、何でもないです。」
 「ただ、、、、もし、現世にいく方法があるのなら、『幸子』に会えることができるのなら、『幸子』に忘れられることはないのかなって、、」

おじさん
 「現世にいく方法、、、、、、カミさんにあいてえなぁ、、」

主人公
 「ある分けないですよね、そんなこと」

おじさん
 「いや、探してみる価値はあるかもしれない。もしあれば現世にいって、思いを伝えてくればいい。なかったら、それはそれでいいだろ」
 「あきらめがつくかもしれない、後悔に踏ん切りがつくかもしれない」

主人公
 「でも、、、」

おじさん
 「やるだけやってみようぜ、結果はどうあれ、それで俺たちはようやく前に進める気がする」
 「考えるよりも、やってみようぜ」

主人公
 「そうかもしれませんね。」
 「これが愚行だとしても、悔いが残らないように、やってみましょう。」

 
Scean8 前シーンからしばらく後

おじさん
 「おい、じじい、起きろ」

○酔っぱらい、起こされる

酔っぱらい
 「なんだ、またお前らか、悪いが酔いと目が覚めるまで待ってくれ。」

おじさん
 「うるせえ、起きろじじい。」

主人公
 「あの、お聞きしたいことがあるんです。」

酔っぱらい
 「何だ坊主、悪いが手短にたのむぜ」

おじさん
 「わかった、単刀直入に聞く。現世にいく方法を知っていたら教えてくれ。」

○酔っぱらい、大声で笑う

酔っぱらい
 「馬鹿だ」
 「こんな馬鹿見たことない」
 「そんなこと考える奴初めて見たぜ」
おじさん
 「誰もやったことがないなら、探してみる価値あるだろ?」

酔っぱらい
 「おいおい、わかりきっていることだろ。」
 「やめておけよ、後悔するだけだと思うぜ。」

主人公
 「かまいません、たとえそれが無駄なことだったとしても、答えがあるのなら、それを知りたいんです。」

酔っぱらい
 「例えばの話だ、坊主が天国にいることもできなくなる、本当の『死』が代償として訪れるとしても、坊主はそれでも現世で大切な人に会いたいか?」

おじさん
 「おい、それってどういう、、、、、」

○おじさん、主人公に遮られる。

主人公
 「構いません」

○主人公、きっぱり切り捨てる

酔っぱらい
 「はっ」

○酔っぱらい、嘲笑


酔っぱらい
 「たいそうな覚悟だな」
 「そんなに消えてなくなりたいなら、天使の所にいけ、あのくそ女なら教えてくれるだろ」

おじさん
 「それってあんた知ってるってことか?」

酔っぱらい
 「うるせえな、俺はたたき起こされて機嫌が悪いんだ、さっさと行っちまえ。」

主人公
 「行きましょう、十分です。」
 「ありがとうございました」

酔っぱらい
 「はっ、ご冥福をお祈りするぜ」


Scean8

天使
 「アホの子ですか、あなたたちは」
 「ふざけないでください」

おじさん
 「うるせえ、ふざけてねえよ、大まじめだ!」

天使
 「こんなすばらしい場所から抜け出して、現世に戻りたいとおっしゃるのですか?」
 「すなわち、生き返りたいと?」

主人公
 「ただ現世に、会いたい人がいるんだ。」
 「その人に会えれば、それでいい」
  


天使
 「ほんっっっっっとうに馬鹿ですね」

 「おお、神よ、どうしてこんな馬鹿な生き物をお作りになられたにですか」
 「そうか、あなた方には信仰心の欠片もないのですね、神への感謝を忘れた愚かな人間とはこんなにも馬鹿なのですね」

 おじさん
 「あんたらの都合はどうでもいい」
 「俺たちがあんたに求めるのは イエスかノーかの回答と方法だけだ」
 「答えてくれるだけでいい、時間はとらせねえよ」
 
天使
 「馬鹿な人間なりに言葉を並べることはできるようですね」
 「端的に言えば、あると言えばある、無いと言えばない」

主人公
 「どういうことです?」

天使 
 「簡単なことですよ。私が貴方に存在を教えればそれは存在します」
 「知らなければ、存在しないことと同じです」

おじさん
 「じゃあ、どうすれば教えてくれるんだ?」

天使
 「一つの質問に答えてくれるだけでいいです。」
 「たった一つの、シンプルで、かつ重い質問です」

主人公
 「答えによるってことか」

天使
 「そう言うことです」

おじさん
 「いいぜ、覚悟はできてる、言ってくれ」

 天使
 「現世に行く方法が、たとえ己の存在を消すこととなっても、貴方は構いませんか?」
 
主人公
 「その質問、、、、、、、、」
 「うん、構わない」 

○天使、驚く
 
天使
 「あなた、相当の覚悟があるのか、あるいは本当の馬鹿かのどちらです?」

主人公
 「どうでしょうね、よくわかりませんどちらかかと言えば後者に近いかもしれません。」
 「覚悟とか、そんなたいそれたものじゃなくて、『諦め』でしょうか。」
 
天使
 「それを愚かと呼ぶのですよ」
 「かつて、あなたと同じ目的で私の前に訪れたものたちは皆、回答はノーでしたよ」
 「きっとうらやましいでしょうね、そのものたちにとってあなたは、これだけ馬鹿になれると言う愚かさが」

○天使、ため息

天使
 「天国の入り口から西に向かって歩みを進めなさい、貴方がそれの存在を知っていればいつかそれは現れます」
 「それは『天国の穴』と呼ばれています。存在を知るものにしか現れない穴であり、この天国で唯一現世とつながっている穴です。」
 「そこにその身を投げれば貴方の会いたい人と会うこともできるでしょう」
 「しかし、今の貴方達は天国でしか存在できません。現世にいられる時間は多くはありません、時が経てば、『光』として消えてしまいます」
 「すなわち、存在が消え、現世からも、天国からも貴方の存在は無くなると言うことです。」
 「我々天使や神にとっての『死』、貴方たちにとっては『二度目の死』、あるいは『本当の死』とでも言ったところでしょうか」

おじさん
 「天国にもどってくる方法はないのか?」

天使
 「残念ながらありません。」

おじさん
 「そ、、、、、、っそうか」

主人公
 「十分だよ、ありがとう。こころやさしい天使さん。」

天使
 「いえいえ、ご冥福をお祈りしますよ、愚かな死人さん」



Scean9 道中

○おじさん、トボトボ

おじさん
 「なあ、お前さんよ」

主人公
 「なんですか?」

おじさん
 「たいしたことじゃないんだが、、、、、、、」
 「いや、この際おまえさんに正直に言う」
 「悪い、俺は別に自分を犠牲にしてまで現世に行きたいわけじゃあないんだ」
 「ただお前さんみたいな若えもんが目的にむかってまっすぐな姿を見てたら応援したく名会っちまってよ。ここまで来ちまった」

主人公
 「いえ、謝る必要はないですよ。」
 「僕こそ、こんなくだらないことに巻き込んでしまってすみません。」
 「むしろ、僕の後を追って天国の穴に落ちないでくださいと言おうと思ってたところでしたから」
 「紗英さんの為に、天国で待っていてあげてください」

おじさん
 「そうだな、、、ははっ自分より若えもんにこんなこと言われちまうとわな、、」
 「一つ聞かせてくれ、酔っぱらいの時と天使の時どうしてお前さんは、迷いも無くああやって答えられたんだ?」
 
○少しの間

主人公
 「そうですね、、、、、以前、僕に身寄りがいなかったといいましたよね。」
 「家族がいない僕なんですが、それに陰を好む僕の性格があいまって、僕は人生のほとんどを一人で過ごしてきました。それを見かねて僕におせっかいを焼いてくれる『幸子』はぼくにとって唯一の大切な存在なんですよ。」

おじさん
 「惚れてんのか、その幸子に」

主人公
 「ええ、口に出して言うのは少し恥ずかしいですけどね」
 「幸子は僕の存在を唯一知っている人物でなんです。」
 「でも、どれだけ大切な存在であっても、どうこじつけようとしても、幸子は他人でしか無いんです。」
 「きっと、幸子はこれから恋をしていつか家庭を持ちます。それが幸子の幸せであって、僕もそれを願います。」
 「けど、同時に人は忘れる生き物です。幸子の記憶の中でだんだん僕の記憶は薄れていき、いつしか思い出せなくなってしまう。」
 「ぼくはどうしようもなく、自分の存在が消えるよりも、それが怖いいんですよ。」
 
おじさん
 「覚えている人がなくなればたとえ死人でも、いなかったことと同じってことか」

主人公
 「存在が無くなくなっても、誰かの中で生きていたいじゃないですか。」

おじさん
 「そうだな、、、、、」

 「よっしゃ、覚悟は決まった。俺は紗英の為に天国の穴に落ちない臆病ものだが、最後までお前さんについていってやるぜ。」
 「そしてお前さんのことをわすれない為により多くの人にお前さんのことを広めてやるよ」
 「紗英が来るまでどうせ暇だからな」

主人公
 「ありがとう、おじさん」

○おじさん、前を歩く主人公を見ながら立ち止まり 

おじさん
 「おれに息子がいたらお前さんぐらいの歳かもしれねえな、、、」
 「親になったことが無いから親の感覚はわからねえが、この瞬間だけはお前さんの親みたいな大切な存在でいてやるとしよう」

「おーい、お前さんよー待ってくれ」

○おじさん、主人公追いかける

Scean10 天国の穴

主人公
 「これが、天国の穴、、、、」

おじさん
 「穴、とは言い難いな。湖みたいだ。」

主人公
 「まるで現世の景色を水に写しているような、おおきい湖です。」
 「これは、東京でしょうか。ビルの夜景がいくつも並んでいて、、、ほら」

○主人公、指差す、その先には東京タワー

おじさん
 「東京タワーを上から見るなんて生まれて初めてだぜ。」

主人公
 「僕もです。」
 「僕らのいた現世はこんなにも綺麗だったんですね。」

おじさん
 「まあ、排気ガスやらのせいで汚いけどな」
 「でも、綺麗ってことには同意するぜ。俺らのいた現世も、こうして別の所から見ると変わって見えるものなんだな。」

主人公
 「本当に東京って眠らない街なんですね。」

○主人公、穴の前に立つ。

おじさん
 「行くのか」

主人公
 「ええ」
 「お別れですね」
 
おじさん
 「そうだな、、、」
 「悪い、俺は親になったことないからさ、こういう時どんなこと言えばいいかわからねえ」

主人公
 「そんな、別にいいですよ」
 「できれば、、、、そうですね、、、わらって、学校に行く息子を見送る感じでお願いしますよ」

おじさん
 「そうか、そうだな。」
 「辛気くさいのはよくねえな、」

○おじさん、笑う
 
おじさん
 「よし、言ってこい!」


主人公
 「はい、いってきます。」
 「じゃあ、僕はここの言葉らしく」
 「ご冥福を、お祈りします」

○主人公、落ちる

Scean11

○インターホン→幸子、玄関あける→玄関あけたら主人公



○幸子、口を手で押さえてびっくり

主人公
 「なんだろう、、、、、、言葉を準備してなかったな、、、」

○主人公、照れる

主人公
 「夜なのに、突然ごめん」

○幸子、無言で首を振る

○移動、テーブルへ

主人公
 「えっと、なんて言えばいいのかな、、、」

幸子
 「いいよ、何もいわなくて。」
 「樹が会いにきてくれたってことがうれしい。」

主人公
 「そっか」
 
 「えっと、、、あの日はごめん!!」

幸子
 「私こそごめん。」
 「悪いのは私だよ。樹のことわかっていたはずなのに、あんなこと言っちゃって」

主人公
 「そんな、幸子は悪くないよ、僕があの場であんなこと言わなければよかったんだ」

○お互いの顔を見やって、笑う

主人公
 「なんだか、とてもくだらないことに僕は悩んでいたみたいだ。」

幸子
 「私も、あれから、しばらく考えてどうしてあの時すぐに『私がいるよって』言えなかったんだろうって思ってた、、」
 「でも、樹と会えたら、そんなこと言わなくたってわかっているってわかったよ」

主人公
 「?」

幸子
 「だって、こうして樹は私に会いにきてくれたんだもん」

主人公
 「ありがとう、なんだか救われた気がするよ」


幸子
 「えへへ、私は何もしてないけどね」

主人公
 「君のがいるだけで僕は幸せだったよ。」
 「いや、今もね。」

幸子
 「ありがと、そんな風に私のことを大切に思ってくれて。」
 
○主人公、窓際へ
 
主人公
 「今日は、月が綺麗ですね」

幸子
 「、、、、?、、、、、、!」
 「ロマンチックに告白したかったの?」
 「それとも、照れてるだけ?」

主人公
 「どうだろう、、、後者かな」

○幸子、主人公の隣に並ぶ

幸子
 「そうだね、月が綺麗だね」

主人公
 「それって照れてるの?」

幸子
 「どうかなー」

主人公
 「好きだよ、君のそう言う所。」

幸子
 「私も樹のこと好きだよ」

○主人公、光りだす

主人公
 「あっ」
 「もう、時間切れか、、、」

幸子
 「もう行っちゃうの?」

主人公
 「うん、ごめんねもっと一緒にいたかったのに」

幸子
 「ありがと、来てくれて」

主人公
 「僕こそありがとう」

幸子
 「それ何に対して?」

主人公
 「君自身にかな」

幸子
 「なにそれ」
主人公
 「ねえ、幸子」
 「僕のこと、忘れないでいてくれる?」

幸子
 「忘れるわけないよ。私の大切な樹だもん」

主人公
 「よかった、、、、」
 「バイバイ、幸子」


○幸子、主人公を抱きしめようと手をのばす。しかし間に合わず主人公は光になってしまい幸子の手は空を切る。

Scean12 天国の穴、主人公が落ちた後

おじさん
 「タバコはやめていたんだが、『紗英』、今日は許してくれ」

○おじさん、タバコに火をつける。

おじさん
 「親のいない者と、子供のいない者、案外相性はよかったのかもしれねえな。結局ここまでついて来ちまった。」
 「親になったことが無いから子供の面倒の見方はわからなかっが、うまくできていたか俺」

○タバコを吸う、吐く

おじさん
 「きっと、ハッピーエンドにはならないんだろうな。でも、これは悲劇でもない。」
 「喜劇にも悲劇にもなれない物語」
 「名前を付けるなら、、、、、『素晴らしき出来損ないの物語』」
Scean1

ナレーション
 「人生の終着点、「死の訪れ」。その先にある「天国」で人は何を思うのか、終わってしまった人生を、人は何を振り返る。楽しかった思い出か、成し遂げた喜びか、否、後悔だろう。人生は終わった、生きてさえいればどうにでもなったことも、死んでしまえば手遅れ、謝ることも、思いを伝えることも、何もできない。
 もし、天国があるとするのなら、そこはきっと、懺悔の場所だ。」

Scean2

天使
 「おめでとうございます。あなた方は下界での試練を終え、人生の行いを評価されて天国へと誘われました。ここでは悲しみことや苦しいことはいっさいありません。人々の願う理想郷、桃源郷、どんな言葉を並べても形容しきれないすばらしい場所なのです。」

おじさん
 「なあ、おい」
 「おいおいおい」
 「おいあんた、今、天国って言ったよな。じゃあ、俺は死んだってことなのか?」

天使
 「ええ、我々の言葉なら、『生』の試練を終えたこと。
下界の言葉なら、あなたの言う通りのことでしょう。」

おじさん
 「嘘だろ、、、医者は抗がん剤飲めば治るって、、、」

○おじさん、主人公の肩をつかむ。


おじさん
 「なあ、あんた、俺は本当に死んじまったのか?」

○主人公、困惑

天使
 「疑う必要はありません。悲しむ必要もありません、むしろ喜ばしいことなのですよ?」

○おじさん、怒声。

おじさん
 「うるせえ!!!あんたに何がわかる!!」
 「あんたらの勝手な考え方で、俺の『死』を、綺麗ごとにするな!!。」

天使
 「あなたがそういうのならば、私もあなたたちの「死」基準で言い換えましょう。」
 「死んでしまったものはしょうがないと。」

主人公
 「、、、、、、、、!」
 「じゃあ、、、僕も、、、死んだってこと?」

○おじさん、泣き崩れる。

おじさん
 「クソっ!!クソっ!!」

○天使、主人公に話かける。

天使
 「あなたは泣いたりしないのですね。ですが、死を受け入れている。という様子でもない。」


○天使、主人公に歩み寄る。
○主人公、声を出そうとするが、衝撃的な現状による精神ダメージにより、声にならない声、『息』が虚しく口から吐き出されていく。

天使
 「自分がどうして死んだのか、わかっていないようですね。」

○少しの間

天使
 「即死です。」
 「あなたはバイクの運転中に大型トラックに衝突し、その衝撃で内臓が破裂、覚悟する猶予もなく、あなた方のおっしゃられる「死」を迎えました。」

主人公
 「嘘だろ、、、、。」

天使
 「心中御察しします。」
 「あなたの人生は苦難の道で、順風満帆とは言いがたいものだった。しかし、喜んでください、あなたの功績は神に認められ、天国にくることができたのです。」
 「辛かった人生は忘れ、天国での時間を存分に謳歌してください。」

主人公
 「そんな、、、、」

天使
 「では、冥福をお祈りします。」

○天使、ニコッと笑い、フェードアウト。


Scean3 屋内、協会みたいな所

おじさん
 「よう、また会ったな。」

主人公
 「あなたは、、、」

おじさん
 「昨日、いや、ここの時間の概念がよくわからねえけど、そん時にわんわん泣いていた、みっともないおっさんだ。」
 
主人公
 「覚えていますよ、忘れられませんから、あんなこと。」

おじさん
 「そうか、わるかったな。あんたも困惑していただろうによ」
 「どうだ、一日ぐらいの時間はたったが、気持ちの整理は終わったか?」

主人公
 「まだ、自分が死んだことの実感がわきません。」
 「僕にとっては、バイクを運転していて気がついたらここにいましたから。」
 「そうおっしゃるあなたは、どうなんです?」

おじさん
 「同じだな、俺も病院のベッドで寝ていたらいつの間にか死んだらしい。」
 「誰かに見取ってもらうこともできなかったみたいだな。」
 「死を受け入れるってことはきっと簡単じゃない。俺もまだここが『天国』だって信じたくはないし、病院のベッドの上で夢を見ているのかも知れないと思ってる。」

主人公
 「ええ、僕も夢なら覚めて欲しいと思ってます。」

おじさん
 「だろ?」
 「でも、どうしようもなく現実味があってさ、極めつけはこれだ。」

○おじさん、ポケットから一枚の写真を出す。

おじさん
 「天国は俺たちの都合のいいようにできているらしい。カミさんの顔が見たいと思ったらよ、寝て目が覚めたとき、これが枕元におかれていた。まったく、子供の頃のクリスマスを思い出したよ。」
 「見てくれ、俺のカミさんだ。」

○おじさん、主人公に写真を見せる。

 おじさん
 「綺麗だろ?、俺の自慢のカミさんだ。」
 「これで少し、救われた気がする。」

主人公
 「救われた、それ以上、夫婦の中で言葉はいらないんですね。」
 
おじさん
 「ああ、そうだな」
 
○少しの間

おじさん
 「なあ、俺の、たわいもない話したが、少しばかり、俺の話を聞いてくれないか?」
 「時間はとらせねえよ。」

主人公
 「いいですよ、丁度退屈でしたから」

おじさん
 「ありがとよ。」
 「そうだな、、、、、俺のカミさんの名前は『紗英』って名前なんだが、まあ、俺にはもったいないぐらいいい女だった。」
 「朝は笑顔で俺を起こし、朝ご飯を用意していてくれた。それから笑顔で俺を見送り、俺が疲れて帰ってくればうまい飯を用意して待っていてくれる。その上、そこらの女とも比べ物にはならないほどにきれいな女だった。」
 
主人公
 「いい奥さんだったんですね。」
 「そんな夫婦生活、憧れますよ。」

おじさん
 「だろ?、でもな、お前さんが思うほど、うちの夫婦生活はいいもんじゃなかった。」
 「カミさんはほんとによくできた嫁だった。でも、俺がだめな奴で、結局こうしてカミさんを悲しませることになっちまった。」

○少しの間 

おじさん
 「俺は筋金入りの仕事人間でな。朝の早くに出勤、ほかの奴の仕事も手伝ったりしていたせいで、家に帰るのはかなり遅くなる日が何日も続く生活だった。帰れば仕事に疲れてカミさんにろくにかまってやれなかったし、夫婦生活らしいことは少なかったと思う。」
 「それでもカミさんは不平不満を全くいわなかった。おかげで仕事に集中できたが、俺はそこに甘えちまっていたらしい。おかげで寂しい思いをさせた。」
 「ようやく昇進して、仕事を部下にまかせられると思ったら俺の癌が見つかった。」
 「カミさんとの時間を増やせると思った矢先のことだった。」
 「おかげでこのざまだ。」

主人公
 「残念、でしたね、、、、、」


おじさん
 「まったく、タイミングというものは、いつも空気を読んでくれない。」
 「おかげで子供の一人も持たせることができなかった。」

○おじさん、「半泣きで続ける」。

おじさん
 「カミさんになんて言えば許してもらえるか、、、、」
 「今となっちゃ、それもかなわないのか、、、、」
 「後悔、なんてもんじゃない。これはきっと、罪と言うのがふさわしい。」

主人公
 「『罪』、ならばここはそれを償うための場所でしょうか、、」
 「地獄みたいだ」
 「天国なんて善人の場所がくる所に『罪』を持った者たちがいるのはそれこそ地獄でしょう」

おじさん
 「善人なんていないのかもな、人は誰しも後悔があってそれは『罪』と言い直せるのなら、地獄で償うことを許されないこの天国は俺にとっちゃきっと地獄よりも辛い地獄みたいなもんだ。」

主人公
 「地獄、、、、そうかも知れませんね。」

おじさん
 「なんだ、お前さんにもあるのか」

主人公
 「今、善人なんていないって言ったじゃないですか」

おじさん
 「それもそうだな」

主人公
 「聞いてくれますか?僕の罪を。」

おじさん
 「いいぜ、こんどはあんたの番だ」



Scean4 回想、雨、カフェにて

幸子
 「ねえ、樹、樹ってば、聞いてる?」

主人公
 「ああ、ごめん、考え事してた」

幸子
 「大切な幼馴染そっちのけでいったい何を考えていたんですかぁ?」
 「女か、女の尻でも思い浮かべていたのかぁ?」

主人公
 「いや、そんな、、、、ただ、雨やまないなって思ってさ」

幸子
 「そうだね、雨宿りでこのお店に入ったけど、なかなか止まないし、弱くなる様子も無いね」

主人公
 「外、連れて行きたかったんだけどな」

幸子
 「おかしいね、今日は雨が降るよほうじゃ無かったのに、、」
 「でも、樹とこうしている時間、嫌いじゃないよ」
 「えへへ」

主人公
 「なら、よかった」

○少しの間、雨音

主人公
 「雨ってさ、音楽に聞こえない?」

幸子
 「そう?」

主人公
 「なんだか、不協和音のはずなのに、リズムがある気がして不思議だ」

幸子
 「樹って、たまにそういうよくわかんない子と言い出すよね。」
 「昔っからそうだったけど」

主人公
 「嫌い?」

幸子
 「ううん、嫌いじゃない」

主人公
 「でも、なんだろう、雨の奏でる音楽ってきっと何かを悲しんだり、弔ったりしているようなきがするな、、、」

幸子
 「じゃあ、こんな突然降り出すなんて、誰かが亡くなったってことなのかな」

主人公
 「わからない、でも、ありそうなお話ではあると思うんだ。」
 「ほら、雨は『涙』なんて表現するよね」

幸子
 「そうだね」
 「ただ雨音を聞いているのも悪くないかも」

○少しの間、雨音が流れる。

幸子
 「ああ、今日か。」

主人公
 「なに?」

幸子
 「命日、今日じゃない?」

主人公
 「ああ、そうか。今日だったっけ。」
 「すっかり忘れていたよ」

幸子
 「だめだよ、家族でしょ?」

主人公
 「血は、つながっていなかったけどね」

幸子
 「でも、親は親なんだから、、、」

主人公
 「勝手に俺を施設から引き取って、無計画に街金に金を借りて、挙げ句の果てに夫婦と妹で首つって自殺。」
 「自分勝手で何も考えない、かわいがってもらえていたのは二人の間に子供が生まれるまで、そいつが生まれてから俺は家族ののけ者だったよ。あんなのが親とは言わないさ」
 
幸子
 「でも、、、、」

主人公
 「はっ、てめえの娘まで巻き添えにしたのに、俺だけ生かしたのは優しさか?」
 「いや、罪悪感だ。人様の子供を無責任に引き取って育てられないから一緒に殺すことはできなかったんだろ」

幸子
 「で、でもそんなこと言っちゃだめだよ!」
 「たとえなにがあったって、そんなこと言っちゃだめだよ!」
 「亡くなった人のことを、そんな風にけなして、き、きっと悲しむ人がいるよ!」

主人公
 「そんな人、いねえよ!」
 「本当の親は俺を捨てて、俺を引き取った親は死んだ。」
 「もう俺に、誰が残っているっていうんだよ!」

幸子
 「そんな、、、、、」

主人公
 「気分悪くなったから帰る。」

○主人公、テーブルにお金ぽい

○主人公、雨のなか、バイクに乗る、轢かれる

 
Scean5

主人公
 「謝りたいんです」
 「きっと、幸子は僕の為を思って言ってくれたんです。けど、僕はそれをあんな風にひどい言葉を言ってしまった。」
 「ただひとこと、ごめんって、謝りたい。」

おじさん
 「そうか、お前さん結構辛い人生を送ってきたんだな」

主人公
 「やめてくだい、同情が欲しいわけじゃありませんよ。」
 「それに、その辛い人生は終わってしまいましたから」

おじさん
 「それもそうだな」

主人公
 「でも、僕を引き取った親が僕を生かした気持ちが、今なら何となくわかるきがします。」
 「彼らこそ、辛いでしょうね、地獄に落ちたでしょうけど、それは僕と会えないってことですから」

おじさん
 「あやまりたい、なんてそんな生温いことを求めてはいないだろうな。」
 「もう一回死ぬこともそれがお前さんに対する償いだってするのならきっとやるだろうぜ。」

主人公
 「そんなの逆に困っちゃいますよ」

 「いったい、この天国で何をすれば幸子に対する償いになるのでしょうか、、、」

おじさん
 「さあな、わからない、俺も知りたいよ」


Scean6 屋外、花畑

おじさん
 「清々しいほどにまぶしくて、真っ青な空、おまけにこの花畑だ」
 「見える景色全部赤やら白やら青やらの花々」

 ○おじさん、嘲笑。

おじさん
 「気に入らないのはこれが全部彼岸花じゃないってところだな」
 「パンジーやらチューリップやらカタカナ並べるのは天国っぽくない気がするぜ」
 「まあ、俺の偏見かもしれないが」

主人公
 「生きていた頃は天国なんて、死後の世界なんてどんなものか考えもしませんでしたよ。」
 「生きるのに必死でしたから」

おじさん
 「そうだな、俺もそうだった」
 「毎日仕事に追われて、仕事にいかなければ俺の社会人と言う社会的地位葉失われてしまう、何よりカミさんに飯を食わしてやれなくなるからな」


主人公
 「そう考えると、ここは気楽でいいですね」
 「ご飯を食べるために、汗べそかいて働かなくていいですし、誰かと争う必要もない」

おじさん
 「後悔はあるけどな、、、、、」

主人公
 「笑っているみたいですよね、この花畑」
 「後悔の渦の中にいる僕らを、笑っている気がします。」


○酔っぱらい、現れる

酔っぱらい
 「うーい、ヒック、 おっ、天国の入り口近くじゃあ見ない顔だな。」
 「おい、あんたら、新入りか、、、ヒック」

おじさん
 「なんだあんた」
 「うわっ、酒くさっ」

酔っぱらい
 「なんだ、酔ってねえよ、、、ヒック」

おじさん
 「出来上がってんじゃねえかよじじい」

酔っぱらい
 「なんだぁ?お前も飲むか?」

おじさん
 「飲まねえよ、酒はすきじゃねえ」
 「それに、、、そんな気分じゃないしな。」

おじさん
 「ああ、、、、、あんたらもか、、、、」

○酔っぱらい、酒を飲む手を止める。

よっぱらい
 「あんたらも『待ってる』のか」
 「誰をまってるんだ?」

主人公
 「『待ってる』とは?」

酔っぱらい
 「そりゃあ、、、会いたい人が『死ぬ』ことだよ」

○少しの間

酔っぱらい
 「言い方が悪かったか、、、会いたい人が、この天国にくるのを待っているってことだな」
 「あんたら、そんな顔をしているよ。まるで死んだような顔だ。」
 「いや、もう死んでるか、、、、ヒック」

主人公
 「もしかして、『あんたらも』ってことはあなたも『待っている』ってことですか?」

酔っぱらい
 「まあ、そうだな」
 「ここには、そういうやつしかいねえよ、、、」
 「天国の入り口付近にいるのはだいたいが『待っている』奴らしかいない」


酔っぱらい
 「人間は誰しも『罪』を持っている。それは閻魔でさえ計りきれない。人はどんなことだって、自分の捉え方次第で『罪』に変えられるからな。」
 「『人生』がそれだ。死んでしまえばやり直せないから、人は後悔する。」
 「人間の根本的な弱さは死んでも変わらないらしい。」


おじさん
 「だから、あんたは『待っている』のか?」

酔っぱらい
 「まあ、そうだな」
 「でもな、同時に人は忘れる生き物だ。現世で生きる大切な人はいつか死人のことなんか忘れる。そう気づいた奴らはこの天国の入り口から離れて楽になっていったよ」

○酔っぱらい、酒を一口飲む

酔っぱらい
 「現世で生きる奴らにとっちゃ、俺らの『死』なんてただの苦労話だ。」
 「あんたらもさっさと忘れてここを離れたほうが楽かも知れないぜ。」

おじさん
 「てめえ!」

○主人公、おじさんを止める

主人公
 「でも、それがわかっていてもどうしてあなたはここにいるんですか?」

酔っぱらい
 「さあな、俺の『罪』は償ったって償いきれないからかもな」

○酔っぱらい、酒を飲む

酔っぱらい
 「酒がまずくなってきた、、、、俺はそろそろいくぜ」

○酔っぱらい、去り際に振り向く


酔っぱらい
 「現世に生きる奴らと同じように、天国にいる俺達もいつか忘れる。」
 「早くここでの過ごし方を見つけた方がいいぜ。」
 
Scean7 酔っぱらいが去った後

主人公
 「現世にいく方法ってないのかな、、、」

おじさん
 「ん?」

主人公
 「いえ、、何でもないです。」
 「ただ、、、、もし、現世にいく方法があるのなら、『幸子』に会えることができるのなら、『幸子』に忘れられることはないのかなって、、」

おじさん
 「現世にいく方法、、、、、、カミさんにあいてえなぁ、、」

主人公
 「ある分けないですよね、そんなこと」

おじさん
 「いや、探してみる価値はあるかもしれない。もしあれば現世にいって、思いを伝えてくればいい。なかったら、それはそれでいいだろ」
 「あきらめがつくかもしれない、後悔に踏ん切りがつくかもしれない」

主人公
 「でも、、、」

おじさん
 「やるだけやってみようぜ、結果はどうあれ、それで俺たちはようやく前に進める気がする」
 「考えるよりも、やってみようぜ」

主人公
 「そうかもしれませんね。」
 「これが愚行だとしても、悔いが残らないように、やってみましょう。」

 
Scean8 前シーンからしばらく後

おじさん
 「おい、じじい、起きろ」

○酔っぱらい、起こされる

酔っぱらい
 「なんだ、またお前らか、悪いが酔いと目が覚めるまで待ってくれ。」

おじさん
 「うるせえ、起きろじじい。」

主人公
 「あの、お聞きしたいことがあるんです。」

酔っぱらい
 「何だ坊主、悪いが手短にたのむぜ」

おじさん
 「わかった、単刀直入に聞く。現世にいく方法を知っていたら教えてくれ。」

○酔っぱらい、大声で笑う

酔っぱらい
 「馬鹿だ」
 「こんな馬鹿見たことない」
 「そんなこと考える奴初めて見たぜ」
おじさん
 「誰もやったことがないなら、探してみる価値あるだろ?」

酔っぱらい
 「おいおい、わかりきっていることだろ。」
 「やめておけよ、後悔するだけだと思うぜ。」

主人公
 「かまいません、たとえそれが無駄なことだったとしても、答えがあるのなら、それを知りたいんです。」

酔っぱらい
 「例えばの話だ、坊主が天国にいることもできなくなる、本当の『死』が代償として訪れるとしても、坊主はそれでも現世で大切な人に会いたいか?」

おじさん
 「おい、それってどういう、、、、、」

○おじさん、主人公に遮られる。

主人公
 「構いません」

○主人公、きっぱり切り捨てる

酔っぱらい
 「はっ」

○酔っぱらい、嘲笑


酔っぱらい
 「たいそうな覚悟だな」
 「そんなに消えてなくなりたいなら、天使の所にいけ、あのくそ女なら教えてくれるだろ」

おじさん
 「それってあんた知ってるってことか?」

酔っぱらい
 「うるせえな、俺はたたき起こされて機嫌が悪いんだ、さっさと行っちまえ。」

主人公
 「行きましょう、十分です。」
 「ありがとうございました」

酔っぱらい
 「はっ、ご冥福をお祈りするぜ」


Scean8

天使
 「アホの子ですか、あなたたちは」
 「ふざけないでください」

おじさん
 「うるせえ、ふざけてねえよ、大まじめだ!」

天使
 「こんなすばらしい場所から抜け出して、現世に戻りたいとおっしゃるのですか?」
 「すなわち、生き返りたいと?」

主人公
 「ただ現世に、会いたい人がいるんだ。」
 「その人に会えれば、それでいい」
  


天使
 「ほんっっっっっとうに馬鹿ですね」

 「おお、神よ、どうしてこんな馬鹿な生き物をお作りになられたにですか」
 「そうか、あなた方には信仰心の欠片もないのですね、神への感謝を忘れた愚かな人間とはこんなにも馬鹿なのですね」

 おじさん
 「あんたらの都合はどうでもいい」
 「俺たちがあんたに求めるのは イエスかノーかの回答と方法だけだ」
 「答えてくれるだけでいい、時間はとらせねえよ」
 
天使
 「馬鹿な人間なりに言葉を並べることはできるようですね」
 「端的に言えば、あると言えばある、無いと言えばない」

主人公
 「どういうことです?」

天使 
 「簡単なことですよ。私が貴方に存在を教えればそれは存在します」
 「知らなければ、存在しないことと同じです」

おじさん
 「じゃあ、どうすれば教えてくれるんだ?」

天使
 「一つの質問に答えてくれるだけでいいです。」
 「たった一つの、シンプルで、かつ重い質問です」

主人公
 「答えによるってことか」

天使
 「そう言うことです」

おじさん
 「いいぜ、覚悟はできてる、言ってくれ」

 天使
 「現世に行く方法が、たとえ己の存在を消すこととなっても、貴方は構いませんか?」
 
主人公
 「その質問、、、、、、、、」
 「うん、構わない」 

○天使、驚く
 
天使
 「あなた、相当の覚悟があるのか、あるいは本当の馬鹿かのどちらです?」

主人公
 「どうでしょうね、よくわかりませんどちらかかと言えば後者に近いかもしれません。」
 「覚悟とか、そんなたいそれたものじゃなくて、『諦め』でしょうか。」
 
天使
 「それを愚かと呼ぶのですよ」
 「かつて、あなたと同じ目的で私の前に訪れたものたちは皆、回答はノーでしたよ」
 「きっとうらやましいでしょうね、そのものたちにとってあなたは、これだけ馬鹿になれると言う愚かさが」

○天使、ため息

天使
 「天国の入り口から西に向かって歩みを進めなさい、貴方がそれの存在を知っていればいつかそれは現れます」
 「それは『天国の穴』と呼ばれています。存在を知るものにしか現れない穴であり、この天国で唯一現世とつながっている穴です。」
 「そこにその身を投げれば貴方の会いたい人と会うこともできるでしょう」
 「しかし、今の貴方達は天国でしか存在できません。現世にいられる時間は多くはありません、時が経てば、『光』として消えてしまいます」
 「すなわち、存在が消え、現世からも、天国からも貴方の存在は無くなると言うことです。」
 「我々天使や神にとっての『死』、貴方たちにとっては『二度目の死』、あるいは『本当の死』とでも言ったところでしょうか」

おじさん
 「天国にもどってくる方法はないのか?」

天使
 「残念ながらありません。」

おじさん
 「そ、、、、、、っそうか」

主人公
 「十分だよ、ありがとう。こころやさしい天使さん。」

天使
 「いえいえ、ご冥福をお祈りしますよ、愚かな死人さん」



Scean9 道中

○おじさん、トボトボ

おじさん
 「なあ、お前さんよ」

主人公
 「なんですか?」

おじさん
 「たいしたことじゃないんだが、、、、、、、」
 「いや、この際おまえさんに正直に言う」
 「悪い、俺は別に自分を犠牲にしてまで現世に行きたいわけじゃあないんだ」
 「ただお前さんみたいな若えもんが目的にむかってまっすぐな姿を見てたら応援したく名会っちまってよ。ここまで来ちまった」

主人公
 「いえ、謝る必要はないですよ。」
 「僕こそ、こんなくだらないことに巻き込んでしまってすみません。」
 「むしろ、僕の後を追って天国の穴に落ちないでくださいと言おうと思ってたところでしたから」
 「紗英さんの為に、天国で待っていてあげてください」

おじさん
 「そうだな、、、ははっ自分より若えもんにこんなこと言われちまうとわな、、」
 「一つ聞かせてくれ、酔っぱらいの時と天使の時どうしてお前さんは、迷いも無くああやって答えられたんだ?」
 
○少しの間

主人公
 「そうですね、、、、、以前、僕に身寄りがいなかったといいましたよね。」
 「家族がいない僕なんですが、それに陰を好む僕の性格があいまって、僕は人生のほとんどを一人で過ごしてきました。それを見かねて僕におせっかいを焼いてくれる『幸子』はぼくにとって唯一の大切な存在なんですよ。」

おじさん
 「惚れてんのか、その幸子に」

主人公
 「ええ、口に出して言うのは少し恥ずかしいですけどね」
 「幸子は僕の存在を唯一知っている人物でなんです。」
 「でも、どれだけ大切な存在であっても、どうこじつけようとしても、幸子は他人でしか無いんです。」
 「きっと、幸子はこれから恋をしていつか家庭を持ちます。それが幸子の幸せであって、僕もそれを願います。」
 「けど、同時に人は忘れる生き物です。幸子の記憶の中でだんだん僕の記憶は薄れていき、いつしか思い出せなくなってしまう。」
 「ぼくはどうしようもなく、自分の存在が消えるよりも、それが怖いいんですよ。」
 
おじさん
 「覚えている人がなくなればたとえ死人でも、いなかったことと同じってことか」

主人公
 「存在が無くなくなっても、誰かの中で生きていたいじゃないですか。」

おじさん
 「そうだな、、、、、」

 「よっしゃ、覚悟は決まった。俺は紗英の為に天国の穴に落ちない臆病ものだが、最後までお前さんについていってやるぜ。」
 「そしてお前さんのことをわすれない為により多くの人にお前さんのことを広めてやるよ」
 「紗英が来るまでどうせ暇だからな」

主人公
 「ありがとう、おじさん」

○おじさん、前を歩く主人公を見ながら立ち止まり 

おじさん
 「おれに息子がいたらお前さんぐらいの歳かもしれねえな、、、」
 「親になったことが無いから親の感覚はわからねえが、この瞬間だけはお前さんの親みたいな大切な存在でいてやるとしよう」

「おーい、お前さんよー待ってくれ」

○おじさん、主人公追いかける

Scean10 天国の穴

主人公
 「これが、天国の穴、、、、」

おじさん
 「穴、とは言い難いな。湖みたいだ。」

主人公
 「まるで現世の景色を水に写しているような、おおきい湖です。」
 「これは、東京でしょうか。ビルの夜景がいくつも並んでいて、、、ほら」

○主人公、指差す、その先には東京タワー

おじさん
 「東京タワーを上から見るなんて生まれて初めてだぜ。」

主人公
 「僕もです。」
 「僕らのいた現世はこんなにも綺麗だったんですね。」

おじさん
 「まあ、排気ガスやらのせいで汚いけどな」
 「でも、綺麗ってことには同意するぜ。俺らのいた現世も、こうして別の所から見ると変わって見えるものなんだな。」

主人公
 「本当に東京って眠らない街なんですね。」

○主人公、穴の前に立つ。

おじさん
 「行くのか」

主人公
 「ええ」
 「お別れですね」
 
おじさん
 「そうだな、、、」
 「悪い、俺は親になったことないからさ、こういう時どんなこと言えばいいかわからねえ」

主人公
 「そんな、別にいいですよ」
 「できれば、、、、そうですね、、、わらって、学校に行く息子を見送る感じでお願いしますよ」

おじさん
 「そうか、そうだな。」
 「辛気くさいのはよくねえな、」

○おじさん、笑う
 
おじさん
 「よし、言ってこい!」


主人公
 「はい、いってきます。」
 「じゃあ、僕はここの言葉らしく」
 「ご冥福を、お祈りします」

○主人公、落ちる

Scean11

○インターホン→幸子、玄関あける→玄関あけたら主人公



○幸子、口を手で押さえてびっくり

主人公
 「なんだろう、、、、、、言葉を準備してなかったな、、、」

○主人公、照れる

主人公
 「夜なのに、突然ごめん」

○幸子、無言で首を振る

○移動、テーブルへ

主人公
 「えっと、なんて言えばいいのかな、、、」

幸子
 「いいよ、何もいわなくて。」
 「樹が会いにきてくれたってことがうれしい。」

主人公
 「そっか」
 
 「えっと、、、あの日はごめん!!」

幸子
 「私こそごめん。」
 「悪いのは私だよ。樹のことわかっていたはずなのに、あんなこと言っちゃって」

主人公
 「そんな、幸子は悪くないよ、僕があの場であんなこと言わなければよかったんだ」

○お互いの顔を見やって、笑う

主人公
 「なんだか、とてもくだらないことに僕は悩んでいたみたいだ。」

幸子
 「私も、あれから、しばらく考えてどうしてあの時すぐに『私がいるよって』言えなかったんだろうって思ってた、、」
 「でも、樹と会えたら、そんなこと言わなくたってわかっているってわかったよ」

主人公
 「?」

幸子
 「だって、こうして樹は私に会いにきてくれたんだもん」

主人公
 「ありがとう、なんだか救われた気がするよ」


幸子
 「えへへ、私は何もしてないけどね」

主人公
 「君のがいるだけで僕は幸せだったよ。」
 「いや、今もね。」

幸子
 「ありがと、そんな風に私のことを大切に思ってくれて。」
 
○主人公、窓際へ
 
主人公
 「今日は、月が綺麗ですね」

幸子
 「、、、、?、、、、、、!」
 「ロマンチックに告白したかったの?」
 「それとも、照れてるだけ?」

主人公
 「どうだろう、、、後者かな」

○幸子、主人公の隣に並ぶ

幸子
 「そうだね、月が綺麗だね」

主人公
 「それって照れてるの?」

幸子
 「どうかなー」

主人公
 「好きだよ、君のそう言う所。」

幸子
 「私も樹のこと好きだよ」

○主人公、光りだす

主人公
 「あっ」
 「もう、時間切れか、、、」

幸子
 「もう行っちゃうの?」

主人公
 「うん、ごめんねもっと一緒にいたかったのに」

幸子
 「ありがと、来てくれて」

主人公
 「僕こそありがとう」

幸子
 「それ何に対して?」

主人公
 「君自身にかな」

幸子
 「なにそれ」
主人公
 「ねえ、幸子」
 「僕のこと、忘れないでいてくれる?」

幸子
 「忘れるわけないよ。私の大切な樹だもん」

主人公
 「よかった、、、、」
 「バイバイ、幸子」


○幸子、主人公を抱きしめようと手をのばす。しかし間に合わず主人公は光になってしまい幸子の手は空を切る。

Scean12 天国の穴、主人公が落ちた後

おじさん
 「タバコはやめていたんだが、『紗英』、今日は許してくれ」

○おじさん、タバコに火をつける。

おじさん
 「親のいない者と、子供のいない者、案外相性はよかったのかもしれねえな。結局ここまでついて来ちまった。」
 「親になったことが無いから子供の面倒の見方はわからなかっが、うまくできていたか俺」

○タバコを吸う、吐く

おじさん
 「きっと、ハッピーエンドにはならないんだろうな。でも、これは悲劇でもない。」
 「喜劇にも悲劇にもなれない物語」
 「名前を付けるなら、、、、、『素晴らしき出来損ないの物語』」

素晴らしき出来損ないの物語

素晴らしき出来損ないの物語

  • 小説
  • 短編
  • 恋愛
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2017-05-07

Copyrighted
著作権法内での利用のみを許可します。

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